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特許7019163工作機械の熱変位の補正方法及び補正装置
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  • 特許-工作機械の熱変位の補正方法及び補正装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】工作機械の熱変位の補正方法及び補正装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/18 20060101AFI20220207BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
B23Q15/18
G05B19/404 K
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017125247
(22)【出願日】2017-06-27
(65)【公開番号】P2019005874
(43)【公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000212566
【氏名又は名称】中村留精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】中西 賢一
【審査官】神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/067874(WO,A1)
【文献】特開平11-058179(JP,A)
【文献】特開2006-055919(JP,A)
【文献】特開平05-116053(JP,A)
【文献】国際公開第97/025183(WO,A1)
【文献】特開2017-087405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00-15/28
G05B 19/18-19/416
G05B 19/42-19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の熱変異の補正方法であって、
前記補正方法は、所定の加工時刻に測定されたワークの加工寸法を入力し記録される加工寸法記録工程と、補正に必要な情報が記録される補正情報記録工程とを備え、
前記補正に必要な情報は、機械の各部に取り付けられた温度センサーからの検出値情報と、前記検出値に基づいて下記式(1)にて演算された温度補正量(δ)の情報と、工具の摩耗による摩耗補正量の情報であり、
次回の稼働開始時に、前回稼働時における前記加工寸法記録工程と前記補正情報記録工程記録された前記ワークの加工寸法及び前記補正に必要な情報に基づいて、温度補正及び摩耗補正が無かった場合のワークの加工寸法の推移から温度補正式(1)の新係数を重回帰分析法により演算するものであり、
前記新係数が前回稼動時における前回の係数に対する変化率が10%を越えた場合には警告表示が出され、前記変化率10%未満の場合には前記新係数に基づいてワークの加工が実行されるものであることを特徴とする工作機械の熱変異の補正方法。
【数1】

・・・・・温度センサーによる検出値
α・・・・・係数
β・・・・・・定数
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の機械温度の変化によって生ずるワークの加工誤差を抑えるための熱変位の補正方法及びその補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
旋盤、複合加工機等の工作機械にてワークを連続的に機械加工する際にワークの加工時間や加工数の増大により、工具が摩耗することから一般的にオペレーターは所定の加工時間毎や加工数毎にワークの仕上がり加工寸法をチェックし、必要に応じてNC装置の指令値から工具の摩耗による誤差を補正している。
また、この摩耗補正量はオペレーターが入力する場合の他に加工時間や加工数に比例した自動補正方法も採用されている。
【0003】
また、工作機械の駆動部やワークの加工部等にて熱が発生し、機械温度に変化が生じ、機械の熱変形に起因する加工誤差が生じる。
一般的には工作機械のベッド、主軸台、刃物台等の要所要所に温度センサーを取り付け、そのそれぞれの検出値tκとすると、それに係数ακを乗じ、それと定数βを用いた下記式(1)により温度補正量δを求めている。
この温度補正量δを用いて自動的にNC装置の指令値(例えば旋盤における刃物台の位置指令)が補正されている。
【数1】
本出願人は、この補正精度の向上を目的に補正式に時間遅れに起因する項(特許文献1)や予知できない外乱の影響を抑えるべく、隣接設定値なる項(特許文献2)を加える技術を提案している。
【0004】
本発明者がさらに加工誤差に影響を与える要因を調査した結果、工作機械に使用されているクーラント等の温度の影響もあり、いつも同一の補正式を用いるのではなく、補正式の係数を見直した方が良い場合があることが明らかになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4469681号公報
【文献】特許第4105598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、工作機械の熱変位の補正に関して、補正係数の選定及び変更方法及びそのための熱変位補正装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る工作機械の熱変位の補正方法は、所定の加工時刻に測定されたワークの加工寸法を入力し記録される加工寸法記録部と、補正に必要な情報が記録される補正情報記録部とを備え、前記補正情報記録部は、機械の各部に取り付けられた温度センサーからの検出値情報と、前記検出値に基づいて演算された温度補正量の情報と、工具の摩耗による摩耗補正量の情報であり、次回の稼働開始時に、前回稼働時における前記加工寸法記録部と前記補正情報記録部とに記録された情報に基づいて、温度補正及び摩耗補正が無かった場合のワークの加工寸法の推移から温度補正式の新係数を演算することを特徴とする。
【0008】
ここで、所定の加工時刻とは、オペレーターが所定時間や所定のワークの加工数毎にワークの所定の加工寸法を測定した、そのワークの加工時刻又は測定時刻等をいい、その際に測定した加工寸法を時刻とともに加工寸法記録部に入力される。
また、オペレーターが補正した工具の摩耗補正量、あるいは自動補正による摩耗補正量は補正情報記録部に記録され、所定の時間毎の検出値情報に基づいて温度補佐が上記式(1)により演算され温度補正量δにより補正され、その内容が補正情報記録部に記録されている。
【0009】
上記加工寸法記録部と補正情報記録部とに記録されている情報を工作機械のスタート時に取得し前回稼動時、例えば前日の温度補正及び摩耗補正が無かった場合の加工寸法の推移を逆演算する。
次に逆演算された情報に基づいて上記式(1)の係数ακを例えば重回帰分析方法を用いて新たに算出する。
本明細書では、この新たな係数を新係数と称する。
本発明では、このように前回の稼動時の情報に基づいて得られた新係数を、次回の稼動時に自動的に採用してもよい。
また、オペレーター等のユーザーの実行指令に基づいて新係数に置き換えてもよい。
【0010】
本発明において、前回稼動時とは所定時間停止した際の前回の稼働をいい、例えば前日の稼働をいう。
また、本発明に係る工作機械の熱変位補正装置は、所定の加工時刻に測定されたワークの加工寸法を入力し記録される加工寸法記録部と、補正に必要な情報が記録される補正情報記録部とを備え、前記補正情報記録部は、機械の各部に取り付けられた温度センサーからの検出値情報と、前記検出値に基づいて演算された温度補正量の情報と、工具の摩耗による摩耗補正量の情報であり、次回の稼働開始指令に基づいて前回稼動時における前記加工寸法記録部と前記補正情報記録部とから温度補正及び摩耗補正が無かった場合のワークの加工寸法の推移データを取得する演算手段と、前記演算手段にて取得したワークの加工寸法の推移データから温度補正式の新係数を演算する新係数演算手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、NC装置の刃物台の位置指令等の指令値を機械の各部の温度検出値に基づいて補正する場合に、最適な補正係数を前回の稼動時の加工寸法と対応した情報に基づいて取得できるので、熱変位の補正精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る熱変位の補正方法のフローチャート例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
工作機械には、図1示すように加工時刻、刃物台及び入力した加工寸法の表示部と、そのデータを記録する加工寸法記録部を有する。
NC装置の制御部には、熱変位の補正に必要な情報が記録されている補正情報記録部を有する。
この記録部には、所定のインターバルにて取得した機械の各部に取り付けた温度センサーの検出値のデータ、式(1)にて補正された温度補正量のデータ、工具の摩耗に起因する摩耗補正量等のデータが記録されている。
摩耗補正量には、オペレーターが入力したデータ、定量補正したデータ等が含まれる。
【0014】
最初にワークの加工を開始する際には、例えば前日の稼働における各加工時刻毎の各センサーの温度情報、温度補正値、摩耗補正量のデータを取得し、温度補正と摩耗補正とが行われなかった場合のワークの加工寸法の推移を逆演算し、そのデータに基づいて式(1)の各係数ακを新係数として算出する。
この場合に重回帰分析により最適な新係数を算出する。
なお、表中「m」は本出願人による特許文献2の隣接設定値に対応する。
【0015】
次に、式(1)における各検出値tκに対応する新係数及び定数βを前日の稼動時の値と比較する。
前回と今回の補正係数との変化率が10%を超えた場合には、予知せぬ大きな外乱による場合もあるので警告表示する。
係数の変化率が10%未満であれば、その補正情報を画面に表示する。
この場合に暗号化してもよい。
この情報は社内サーバーに記録され、必要に応じて暗号化された補正情報を携帯電話等の情報端末を用いて撮影し、本社や外部管理会社等の他の管理部門に送信してもよい。
この際に式(1)を新係数に変換する操作を自動的に実行してもよいが、図1に示すように画面表示された補正情報に基づいてユーザーが新係数への変更を許諾する実行指令に基づいてのみ新係数への変更ができるようにするのが好ましい。
これらの補正情報も暗号化され、記録保存される。
また、必要に応じて他の管理部門に送信される。
図1