(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】動脈血管の内皮機能検査装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20220207BHJP
A61B 5/0225 20060101ALI20220207BHJP
A61B 8/08 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
A61B5/02 A
A61B5/0225 F
A61B8/08
(21)【出願番号】P 2018036794
(22)【出願日】2018-03-01
【審査請求日】2021-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2017096761
(32)【優先日】2017-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304008175
【氏名又は名称】株式会社ユネクス
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(72)【発明者】
【氏名】益田 博之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英範
(72)【発明者】
【氏名】塚原 弘政
(72)【発明者】
【氏名】原田 親男
【審査官】田辺 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-107174(JP,A)
【文献】特開2007-61182(JP,A)
【文献】特開2009-273870(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0119741(US,A1)
【文献】川口智弘 他3名,動脈硬化早期診断のための短時間型FMD検査法の開発,バイオエンジニアリング講演会講演論文集,日本,一般社団法人 日本機械学会,2017年01月19日,2017.29巻,2B23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/02-5/03、8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の一部を圧迫する生体圧迫装置と、前記生体圧迫装置の圧迫圧を検出する圧力センサと、前記圧迫圧を制御する圧迫圧制御手段とを備え、前記生体圧迫装置による圧迫により前記生体の一部を阻血後に前記生体の一部内の動脈血管を解放して阻血後の前記動脈血管に発生する拡張反応に基づいて前記動脈血管の内皮機能を評価する動脈血管の内皮機能検査装置であって、
前記圧迫圧制御手段に制御される前記圧迫圧が前記生体の最高血圧値よりも低い状態で発生する、前記生体の心拍に同期して前記圧迫圧に発生する圧力振動である複数の脈波毎の血流によって前記動脈血管の内皮にずり応力を付与するずり応力付与手段と、
前記ずり応力付与手段により前記ずり応力が付与された後に、前記動脈血管の拡張関連値の計測を開始し、前記拡張関連値に基づいて前記動脈血管の内皮機能を評価する評価値を算出する血管拡張反応評価手段とを、含む
ことを特徴とする動脈血管の内皮機能検査装置。
【請求項2】
前記ずり応力付与手段は、前記動脈血管内の血流開始時点から予め設定された動脈拡張反応開始時間経過前に前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させるものであり、
前記血管拡張反応評価手段は、前記動脈血管内の血流開始時点から予め設定された動脈拡張反応開始時間経過前に前記動脈血管の拡張関連値の計測を開始するものである
ことを特徴とする請求項1に記載の動脈血管の内皮機能検査装置。
【請求項3】
前記ずり応力付与手段は、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を前記生体の最高血圧値よりも高い圧まで昇圧させた後に前記圧迫圧を連続的に降下させる過程で、前記圧迫圧が前記生体の最高血圧値を下回ってから発生する前記複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与時間が経過すると、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させるものである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の動脈血管の内皮機能検査装置。
【請求項4】
前記ずり応力付与手段は、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を前記生体の最高血圧値よりも高い圧まで昇圧させた後に前記圧迫圧を連続的に降下させる過程で、前記圧迫圧が前記生体の最高血圧値を下回ってから発生する前記複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与脈波数の脈波が発生すると、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させるものである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の動脈血管の内皮機能検査装置。
【請求項5】
前記ずり応力付与手段は、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を前記生体の最高血圧値よりも低い予め設定された一定圧に維持させた状態で、前記圧迫圧が前記一定圧とされてから発生する前記複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与時間が経過すると、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させるものである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の動脈血管の内皮機能検査装置。
【請求項6】
前記ずり応力付与手段は、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を前記生体の最高血圧値よりも低い予め設定された一定圧に維持させた状態で、前記圧迫圧が前記一定圧とされてから発生する前記複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与脈波数の脈波が発生すると、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させるものである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の動脈血管の内皮機能検査装置。
【請求項7】
前記予め設定された一定圧は、前記生体の最高血圧値よりも低く且つ平均血圧値よりも高い圧である
ことを特徴とする請求項5または6に記載の動脈血管の内皮機能検査装置。
【請求項8】
前記ずり応力付与手段は、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を前記生体の最低血圧値よりも低い圧から連続的に上昇させる過程で、前記圧迫圧が前記生体の最低血圧値を上回ってから発生する前記複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与時間が経過すると、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させるものである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の動脈血管の内皮機能検査装置。
【請求項9】
前記ずり応力付与手段は、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を前記生体の最低血圧値よりも低い圧から連続的に上昇させる過程で、前記圧迫圧が前記生体の最低血圧値を上回ってから発生する前記複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与脈波数の脈波が発生すると、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させるものである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の動脈血管の内皮機能検査装置。
【請求項10】
前記圧迫圧制御手段は、前記ずり応力付与手段によるずり応力の付与に先立って、予め設定された一定の阻血区間の間、前記圧迫圧を前記生体の最高血圧値よりも高い圧力として、前記生体の一部内の動脈血管を阻血するものである
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか1に記載の動脈血管の内皮機能検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の一部に巻回された圧迫帯の圧力に含まれる容積脈波に基づいて、血管の内皮機能を検査することができる動脈血管の内皮機能検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体の動脈硬化に先立って動脈血管の内皮機能の低下が発現するということが知られており、そのような内皮機能評価に関する装置が種々提案されている。この内皮機能とは、動脈の血管壁を構成する外皮、中皮、および内皮のうちの最内周に位置する内皮に作用する血流のずり応力に基づいてその内皮からNO(一酸化窒素)が産生され、そのNOにより平滑筋が弛緩させられることで発生する血管拡張反応を言う。
【0003】
たとえば、特許文献1、特許文献2、および特許文献3によって、内皮機能検査装置が提案されている。これらの内皮機能検査装置は、被検者の腕を圧迫帯を用いて圧迫することによりたとえば5分程度の一定の阻血期間で動脈を止血した後、その止血を解除したとき、超音波画像を用いて把握される動脈の断面形状の変化たとえば血管内腔径の止血前の動脈内腔径に対する止血後の内腔径の割合である変化率を測定し、その血管内腔径の最大変化率に基づいて動脈血管の内皮機能を評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-061182号公報
【文献】特開2007-195662号公報
【文献】特開2009-273870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の内皮機能検査装置では、血管拡張反応を発生させるために、生体の最高血圧値よりも高い圧力を用いて動脈を一定時間たとえば5分間阻血した後に解放し、阻血後の動脈拡張量を直接或いは間接的に測定することが行われていた。この従来のずり応力付与方式は、圧迫部位の上流側と下流側との血圧差を大きくした上で再開させた血流により動脈血管の内壁を刺激する方法であるが、血圧差を形成するためにある程度の時間が必要であるため、阻血時間を実験的にたとえば5分間と設定されている。
【0006】
しかしながら、上記のように、動脈血管を一定時間たとえば5分間阻血した後に解放することで、動脈の内皮にずり応力を付与する手法は、被測定者に対して与える苦痛が大きく、またその割りには動脈の内皮に対して十分に大きなずり応力を与えることができず、得られる動脈拡張反応が不十分となりがちで、測定精度が得られない場合があった。
【0007】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、十分な大きさのずり応力を短時間で動脈内皮に与えることができる、測定精度高い動脈血管の内皮機能測定装置を提供することにある。
【0008】
本発明者等は、以上の事情を背景として、種々研究を重ねるうち、前記従来のずり応力付与方式では、阻血期間は圧迫部位の上流側と下流形との間の血圧差を拡大するので、血流再開後の血流量を一時的に大きくする点では有意なものであるが、動脈血管の断面積が大きなままの状態で血流が開始され、また、急速に血流が低下するので、動脈血管の内皮(内壁面)にずり応力を付与することに関して、付与効率が低いものであるとともに、ずり応力の付与時間も短いものであった。このような、阻血期間の長さや血流量の割りには動脈の内皮に対して十分に大きなずり応力を与えることができないということは、得られる動脈拡張反応が不十分或いは不安定となりがちで、測定精度が得られないことの一因であることが判明した。そして、このような状況下においてさらに研究を重ねるうち、最高血圧値よりも低い圧力で圧迫されている動脈血管内に血流を通過させると、血流の通過に伴ってわずかに開く動脈血管の狭い断面を血流が通過するとき、血流がわずかであっても動脈血管の内壁面に対してずり応力が血流によって強く作用させられるとともに、壁が大きく移動する動脈血管内を通過するときに生じる血流の渦によってさらに強くずり応力が強く作用させられることを見いだした。本発明は、このような知見に基づいて為されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、第1発明の要旨とするところは、(a)生体の一部を圧迫する生体圧迫装置と、前記生体圧迫装置の圧迫圧を検出する圧力センサと、前記圧迫圧を制御する圧迫圧制御手段とを備え、前記生体圧迫装置による圧迫により前記生体の一部を阻血後に前記生体の一部内の動脈血管を解放して阻血後の前記動脈血管に発生する拡張反応に基づいて前記動脈血管の内皮機能を評価する動脈血管の内皮機能検査装置であって、(b)前記圧迫圧制御手段に制御される前記圧迫圧が前記生体の最高血圧値よりも低い状態で発生する、前記生体の心拍に同期して前記圧迫圧に発生する圧力振動である複数の脈波毎の血流によって前記動脈血管の内皮にずり応力を付与するずり応力付与手段と、(c)前記ずり応力付与手段により前記ずり応力が付与された後に、前記動脈血管の拡張関連値(動脈血管の内腔径)の計測を開始し、前記拡張関連値に基づいて前記動脈血管の内皮機能を評価する評価値(FMD指数)を算出する血管拡張反応評価手段とを、含むことにある。
【0010】
第2発明の要旨とするところは、(d)前記ずり応力付与手段は、前記動脈血管内の血流開始時点から予め設定された動脈拡張反応開始時間経過前に前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させ、(e)前記血管拡張反応評価手段は、前記動脈血管内の血流開始時点から予め設定された動脈拡張反応開始時間経過前に前記動脈血管の拡張関連値の計測を開始することにある。
【0011】
第3発明の要旨とするところは、(f)前記ずり応力付与手段は、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を前記生体の最高血圧値よりも高い圧まで昇圧させた後に前記圧迫圧を連続的に降下させる過程で、前記圧迫圧が前記生体の最高血圧値を下回ってから発生する前記複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与時間が経過すると、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させることにある。
【0012】
第4発明の要旨とするところは、(g)前記ずり応力付与手段は、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を前記生体の最高血圧値よりも高い圧まで昇圧させた後に前記圧迫圧を連続的に降下させる過程で、前記圧迫圧が前記生体の最高血圧値を下回ってから発生する前記複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与脈波数の脈波が発生すると、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させることにある。
【0013】
第5発明の要旨とするところは、(h)前記ずり応力付与手段は、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を前記生体の最高血圧値よりも低い予め設定された一定圧に維持させた状態で、前記圧迫圧が前記一定圧とされてから発生する前記複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与時間が経過すると、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させることにある。
【0014】
第6発明の要旨とするところは、(i)前記ずり応力付与手段は、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を前記生体の最高血圧値よりも低い予め設定された一定圧に維持させた状態で、前記圧迫圧が前記一定圧とされてから発生する前記複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与脈波数の脈波が発生すると、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させることにある。
【0015】
第7発明の要旨とするところは、(j)前記予め設定された一定圧は、前記生体の最高血圧値よりも低く且つ平均血圧値よりも高い圧である。
【0016】
第8発明の要旨とするところは、(k)前記ずり応力付与手段は、圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を前記生体の最低血圧値よりも低い圧から連続的に上昇させる過程で、前記圧迫圧が前記生体の最低血圧値を上回ってから発生する前記複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与時間が経過すると、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させることにある。
【0017】
第9発明の要旨とするところは、(l)前記ずり応力付与手段は、圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を前記生体の最低血圧値よりも低い圧から連続的に上昇させる過程で、前記圧迫圧が前記生体の最低血圧値を上回ってから発生する前記複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与脈波数の脈波が発生すると、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させることにある。
【0018】
第10発明の要旨とするところは、(m)前記圧迫圧制御手段は、前記ずり応力付与手段によるずり応力の付与に先立って、予め設定された一定の阻血区間の間、前記圧迫圧を前記生体の最高血圧値よりも高い圧力として、前記生体の一部内の動脈血管を阻血するものである。
【発明の効果】
【0019】
第1発明の内皮機能検査装置によれば、生体の一部を圧迫する生体圧迫装置と、前記生体圧迫装置の圧迫圧を検出する圧力センサと、前記圧迫圧を制御する圧迫圧制御手段とを備え、前記生体圧迫装置による圧迫により前記生体の一部を阻血後に前記生体の一部内の動脈血管を解放して阻血後の前記動脈血管に発生する拡張反応に基づいて前記動脈血管の内皮機能を評価する動脈血管の内皮機能検査装置であって、前記圧迫圧制御手段に制御される前記圧迫圧が前記生体の最高血圧値よりも低い状態で発生する、前記生体の心拍に同期して前記圧迫圧に発生する圧力振動である複数の脈波毎の血流によって前記動脈血管の内皮にずり応力を付与するずり応力付与手段と、前記ずり応力付与手段により前記ずり応力が付与された後に、前記動脈血管の拡張関連値(動脈血管の内腔径)の計測を開始し、前記拡張関連値に基づいて前記動脈血管の内皮機能を評価する評価値を算出する血管拡張反応評価手段とが、含まれる。これにより、ずり応力付与手段は、前記圧迫圧が前記生体の最高血圧値を下回ってから複数の脈波を発生させることから、動脈血管の内腔の断面が脈波一拍毎の最高血圧および最低血圧に応じて開状態および閉状態とされることで、動脈血管の内腔が閉じた狭い状態で血液が繰り返し通過させられることおよび血液の通過で乱流が発生させられるので、動脈血管の内腔(内膜)に高いずり応力が短時間で十分に付与される。したがって、血管拡張反応評価手段による動脈血管の拡張関連値の測定精度が向上するとともに、前記動脈血管の内皮機能を精度よく評価することができる。すなわち、信頼性の高い血管の内皮機能検査が可能となる。
【0020】
第2発明の内皮機能検査装置によれば、前記ずり応力付与手段は、前記動脈血管内の血流開始時点から予め設定された動脈拡張反応開始時間経過前に前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させ、前記血管拡張反応評価手段は、前記動脈血管内の血流開始時点から予め設定された動脈拡張反応開始時間経過前に前記動脈血管の拡張関連値の計測を開始する。これにより、前記血管拡張反応評価手段は、動脈拡張反応が開始される前に前記動脈血管の拡張関連値の計測を開始するので、動脈血管の拡張関連値の測定精度が向上するとともに前記動脈血管の内皮機能を精度よく評価することができる。
【0021】
第3発明の内皮機能検査装置によれば、前記ずり応力付与手段は、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を前記生体の最高血圧値よりも高い圧まで昇圧させた後に前記圧迫圧を連続的に降下させる過程で、前記圧迫圧が前記生体の最高血圧値を下回ってから発生する前記複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与時間が経過すると、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させる。これにより、予め設定されたずり応力付与時間内において発生する複数の脈波により、動脈血管の内腔の断面が一拍毎の最高血圧および最低血圧に応じて開状態および閉状態とされることで、動脈血管の内腔が閉じた狭い状態で血液が繰り返し通過させられるので、十分な大きさのずり応力が動脈血管の内腔(内膜)に短時間で付与される。ここで、好適には、上記予め設定されたずり応力付与時間は、ずり応力に対する前記動脈血管の血管拡張反応の大きさが十分に飽和する値に設定される。この場合には、生体の動脈血管に対して血管拡張反応の大きさが十分に飽和するずり応力が付与されるので、血管拡張反応評価手段により得られた評価値の汎用性が高められる。
【0022】
第4発明の内皮機能検査装置によれば、前記ずり応力付与手段は、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を前記生体の最高血圧値よりも高い圧まで昇圧させた後に前記圧迫圧を連続的に降下させる過程で、前記圧迫圧が前記生体の最高血圧値を下回ってから発生する前記複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与脈波数の脈波が発生すると、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させる。これにより、予め設定されたずり応力付与脈波数の複数の脈波により、動脈血管の内腔の断面が一拍毎の最高血圧および最低血圧に応じて開状態および閉状態とされることで、動脈血管の内腔が閉じた狭い状態で血液が繰り返し通過させられるので、十分な大きさのずり応力が動脈血管の内腔(内膜)に短時間で付与される。ここで、好適には、上記予め設定されたずり応力付与脈波数は、ずり応力に対する前記動脈血管の血管拡張反応の大きさが十分に飽和する値に設定される。この場合には、生体の動脈血管に対して血管拡張反応の大きさが十分に飽和するずり応力が付与されるので、血管拡張反応評価手段により得られた評価値の汎用性が高められる。
【0023】
第5発明の内皮機能検査装置によれば、前記ずり応力付与手段は、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を前記生体の最高血圧値よりも低い予め設定された一定圧に維持させた状態で、前記圧迫圧が前記一定圧とされてから発生する前記複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与時間が経過すると、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させる。これにより、予め設定されたずり応力付与時間内において発生する複数の脈波により、動脈血管の内腔の断面が一拍毎の最高血圧および最低血圧に応じて開状態および閉状態とされることで、動脈血管の内腔が閉じた狭い状態で血液が繰り返し通過させられるので、十分な大きさのずり応力が動脈血管の内腔(内膜)に短時間で付与される。ここで、好適には、上記予め設定されたずり応力付与時間は、ずり応力に対する前記動脈血管の血管拡張反応の大きさが十分に飽和する値に設定される。この場合には、生体の動脈血管に対して血管拡張反応の大きさが十分に飽和するずり応力が付与されるので、血管拡張反応評価手段により得られた評価値の汎用性が高められる。
【0024】
第6発明の内皮機能検査装置によれば、前記ずり応力付与手段は、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を前記生体の最高血圧値よりも低い予め設定された一定圧に維持させた状態で、前記圧迫圧が前記一定圧とされてから発生する前記複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与脈波数の脈波が発生すると、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させる。これにより、予め設定されたずり応力付与脈波数の複数の脈波により、動脈血管の内腔の断面が一拍毎の最高血圧および最低血圧に応じて開状態および閉状態とされることで、動脈血管の内腔が閉じた狭い状態で血液が繰り返し通過させられるので、十分な大きさのずり応力が動脈血管の内腔(内膜)に短時間で付与される。ここで、好適には、上記予め設定されたずり応力付与脈波数は、ずり応力に対する前記動脈血管の血管拡張反応の大きさが十分に飽和する値に設定される。この場合には、生体の動脈血管に対して血管拡張反応の大きさが十分に飽和するずり応力が付与されるので、血管拡張反応評価手段により得られた評価値の汎用性が高められる。
【0025】
第7発明の内皮機能検査装置によれば、前記予め設定された一定圧は、前記生体の最高血圧値よりも低く且つ平均血圧値よりも高い圧である。このことから、動脈血管の内腔の断面が一拍毎の最高血圧および最低血圧に応じて開状態および閉状態とされることから、動脈血管の内腔が閉じた狭い状態で血液が繰り返し通過させられるので、一層高いずり応力が付与される。
【0026】
第8発明の内皮機能検査装置によれば、前記ずり応力付与手段は、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を前記生体の最低血圧値よりも低い圧から連続的に上昇させる過程で、前記圧迫圧が前記生体の最低血圧値を上回ってから発生する前記複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与時間が経過すると、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させる。これにより、予め設定されたずり応力付与時間内において発生する複数の脈波により、動脈血管の内腔の断面が一拍毎の最高血圧および最低血圧に応じて開状態および閉状態とされることで、動脈血管の内腔が閉じた狭い状態で血液が繰り返し通過させられるので、十分な大きさのずり応力が動脈血管の内腔(内膜)に短時間で付与される。ここで、好適には、上記予め設定されたずり応力付与時間は、ずり応力に対する前記動脈血管の血管拡張反応の大きさが十分に飽和する値に設定される。この場合には、生体の動脈血管に対して血管拡張反応の大きさが十分に飽和するずり応力が付与されるので、血管拡張反応評価手段により得られた評価値の汎用性が高められる。
【0027】
第9発明の内皮機能検査装置によれば、前記ずり応力付与手段は、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を前記生体の最低血圧値よりも低い圧から連続的に上昇させる過程で、前記圧迫圧が前記生体の最低血圧値を上回ってから発生する前記複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与脈波数の脈波が発生すると、前記圧迫圧制御手段に前記圧迫圧を解放させる。これにより、予め設定されたずり応力付与脈波数の複数の脈波により、動脈血管の内腔の断面が一拍毎の最高血圧および最低血圧に応じて開状態および閉状態とされることで、動脈血管の内腔が閉じた狭い状態で血液が繰り返し通過させられるので、十分な大きさのずり応力が動脈血管の内腔(内膜)に短時間で付与される。ここで、好適には、上記予め設定されたずり応力付与脈波数は、ずり応力に対する前記動脈血管の血管拡張反応の大きさが十分に飽和する値に設定される。この場合には、生体の動脈血管に対して血管拡張反応の大きさが十分に飽和するずり応力が付与されるので、血管拡張反応評価手段により得られた評価値の汎用性が高められる。
【0028】
第10発明の内皮機能検査装置によれば、前記圧迫圧制御手段は、前記ずり応力付与手段によるずり応力の付与に先立って、予め設定された一定の阻血区間の間、前記圧迫圧を前記生体の最高血圧値よりも高い圧力として前記生体の一部内の動脈血管を阻血するものである。これにより、前記生体圧迫装置に押圧される生体の一部内の動脈血管が十分に阻血されるとともに前記生体圧迫装置の上流側と下流側との間の血圧差が大きくされた状態で血流が再開されるので、ずり応力付与手段によりずり応力が付与されるに際して、動脈血管内を通過する血液の流量および流速が一層高められてその動脈血管の内腔(内膜)に高いずり応力が付与される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施例である動脈血管の内皮機能検査装置を説明する斜視図である。
【
図2】
図1の動脈血管の内皮機能検査装置の測定対象である血管に対する超音波プローブの姿勢を概略的に説明する斜視図である。
【
図3】
図1の動脈血管の内皮機能検査装置の測定対象である血管の多層膜構成を概略的に示す拡大図である。
【
図4】
図1の動脈血管の内皮機能検査装置に備え得られた生体圧迫装置の構成を、生体の一部を収容する容器の一部を切り欠いて示すとともに、電子制御装置の機能の要部を機能ブロック線図で説明する図である。
【
図5】
図4のずり応力付与手段の構成例を詳しく説明する機能ブロック線図である。
【
図6】
図4のずり応力付与手段の他の構成例を詳しく説明する機能ブロック線図であって、
図5に対応する図である。
【
図7】
図4のずり応力付与手段の他の構成例を詳しく説明する機能ブロック線図であって、
図5に対応する図である。
【
図8】
図4のずり応力付与手段の他の構成例を詳しく説明する機能ブロック線図であって、
図5に対応する図である。
【
図9】
図4のずり応力付与手段の他の構成例を詳しく説明する機能ブロック線図であって、
図5に対応する図である。
【
図10】
図4のずり応力付与手段の他の構成例を詳しく説明する機能ブロック線図であって、
図5に対応する図である。
【
図11】
図5または
図6に示すずり応力付与手段によりずり応力が付与される場合に、
図4の圧迫圧制御手段により制御される圧迫圧の変化を説明する図である。
【
図12】
図7または
図8に示すずり応力付与手段によりずり応力が付与される場合に、
図4の圧迫圧制御手段により制御される圧迫圧の変化を説明する図である。
【
図13】
図9または
図10に示すずり応力付与手段によりずり応力が付与される場合に、
図4の圧迫圧制御手段により制御される圧迫圧の変化を説明する図である。
【
図14】
図4の血管拡張反応評価手段の構成を詳しく説明する機能ブロック線図である。
【
図15】
図1の動脈血管の動脈血管の内皮機能検査装置において行われる、動脈血管のFMD評価作動における血管内腔径の変化を例示したタイムチャートである。
【
図16】
図4の血管拡張反応評価手段の動脈判定作動を示す動脈判定ルーチン作動を説明するフローチャートである。
【
図17】
図4の血管拡張反応評価手段のFMD測定作動を示すFMD測定ルーチン作動を説明するフローチャートである。
【
図18】
図17のS14のずり応力付与作動を詳しく説明するフローチャートであって、
図5に対応する作動を説明する図である。
【
図19】
図17のS14のずり応力付与作動の他の例を詳しく説明するフローチャートであって、
図6に対応する作動を説明する図である。
【
図20】
図17のS14のずり応力付与作動の他の例を詳しく説明するフローチャートであって、
図7に対応する作動を説明する図である。
【
図21】
図17のS14のずり応力付与作動の他の例を詳しく説明するフローチャートであって、
図8に対応する作動を説明する図である。
【
図22】
図17のS14のずり応力付与作動の他の例を詳しく説明するフローチャートであって、
図9に対応する作動を説明する図である。
【
図23】
図17のS14のずり応力付与作動の他の例を詳しく説明するフローチャートであって、
図10に対応する作動を説明する図である。
【
図24】
図4の血管拡張反応評価手段の動脈硬さ測定作動を示す動脈硬さ測定ルーチン作動を説明するフローチャートである。
【
図25】本発明の他の実施例の動脈血管の内皮機能検査作動を説明するタイムチャートである。
【
図26】本発明の他の実施例の生体圧迫装置を説明する斜視図である。
【
図27】本発明の他の実施例の生体圧迫装置を説明する断面図である。
【
図28】本発明の他の実施例の生体圧迫装置を説明する断面図であって、
図4の要部に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
図1は、動脈血管29aの内皮機能検査装置10を示している。内皮機能検査装置10は、基台12上に固定され、超音波プローブ14を収容する密閉容器16と、密閉容器16に設けられた生体圧迫装置18と、基台12上に固定された表示装置20と、基台12の下に配置された電子制御装置22とを備えている。
【0032】
図4に示されるように、密閉容器16は、側方に開口する開口24を有し、音響インピーダンスが生体と類似していて超音波透過効率の高い材質たとえばシリコン樹脂、ウレタン樹脂等の有機材料から構成されて超音波透過可能な超音波透過板材26により開口24が液密に閉じられている。これにより、音響インピーダンスが生体と類似していて伝搬損失の少ない液体状の超音波媒質たとえばオイル28が密閉容器16の内部に充填されている。
【0033】
生体圧迫装置18は、基台12上に固定され、生体の一部である右上腕29を載置する上腕載台30と、基台12上から水平方向に突設されたブラケット32上に固定され、生体の右手掌を載置する手掌載置台36と、可撓性ベルト38から構成され、密閉容器16の開口24の上側開口縁および下側開口縁に可撓性ベルト38の両端部がそれぞれ取り付けられ圧迫帯40と、圧迫帯40の内側に装着され、膨張することにより圧迫帯40の張力を高める膨張袋42とを備えている。超音波透過板材26は、生体の右上腕29を圧迫するための生体圧迫装置18の一部を構成している。生体圧迫装置18では、生体の右上腕29が圧迫帯40により巻回された状態で膨張袋42が圧縮空気の供給によって膨張させられると、圧迫帯40の張力が高められると同時に、生体の右上腕29が超音波透過板材26に押しつけられ、生体の右上腕29が超音波透過板材26によって圧迫されるようになっている。
【0034】
超音波プローブ14は、生体の右上腕29内の動脈血管29aに関連する生体情報すなわち血管パラメータを検出するためのセンサとして機能するものであって、
図2に示すように、互いに平行な1対の第1短軸用超音波アレイ探触子A及び第2短軸用超音波アレイ探触子Bと、それらの長手方向と直交する方向に長手状を成し、それらの長手方向中央部を連結する長軸用超音波アレイ探触子Cとを、1平面上すなわち平坦な探触面44に有するH型の超音波プローブである。
図4に示されるように、超音波プローブ14は、ベース部材46に固定された多軸位置決め装置48に固定されている。第1短軸用超音波アレイ探触子A、第2短軸用超音波アレイ探触子B、及び長軸用音波アレイ探触子Cは、例えば後述する
図2に示すように、圧電セラミックスから構成された多数個の超音波振動子(超音波発振子)a1~anが直線的に配列されることにより長手状にそれぞれ構成されている。
【0035】
図2は、超音波プローブ14に互いに平行に設けられた第1短軸用超音波アレイ探触子Aおよび第2短軸用超音波アレイ探触子Bと、それら第1短軸用超音波アレイ探触子Aおよび第2短軸用超音波アレイ探触子Bの長手方向の中央部間にそれらと直交して位置するように設けられた長軸用超音波アレイ探触子Cとを示す斜視図である。多軸位置決め装置48は、第1短軸用超音波アレイ探触子Aの長手方向と平行でその第1短軸用超音波アレイ探触子Aの直下に位置し、動脈血管29a又はその付近を通る方向をz軸とし、長軸用超音波アレイ探触子Cの長手方向と平行でz軸と直交する方向をx軸とし、第1短軸用超音波アレイ探触子Aの長手方向と長軸用超音波アレイ探触子Cの長手方向との交点を通り且つx軸方向およびz軸と直交する方向をy軸とするとき、超音波プローブ14は、多軸位置決め装置48によって、z軸方向に並進可能、且つ、x軸およびy軸まわりに回動可能とされている。
【0036】
図3は、内皮機能検査装置10の測定対象である動脈血管29aの多層膜構成を概略的に示す拡大図である。この
図3に示す動脈血管29aは、内膜(内皮)L1、中膜(中皮)L2、及び外膜(外皮)L3の3層構造を備えている。超音波の反射は、一般に音響インピーダンスの異なる部分で発生することから、超音波を用いた動脈血管29aの状態測定において、実際は血管内腔の血液と内膜L1の境界面、及び中膜L2と外膜L3との境界面が白く表示され、組織が白黒の班で表示される。
【0037】
電子制御装置22は、RAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って入力信号を処理するCPUを有する所謂マイクロコンピュータである。電子制御装置22は、超音波駆動制御回路50および位置決めモータ駆動回路52を、備えている。血管評価装置10による血管状態の測定においては、電子制御装置22によって超音波駆動制御回路50から駆動信号が供給されると、超音波プローブ14の第1短軸用超音波アレイ探触子A、第2短軸用超音波アレイ探触子B、及び長軸用超音波アレイ探触子Cからよく知られたビームフォーミング駆動によりビーム状の超音波が順次放射される。そして、第1短軸用超音波アレイ探触子A、第2短軸用超音波アレイ探触子B、及び長軸用超音波アレイ探触子Cにより超音波の反射信号が検知され、電子制御装置22へ入力させる。電子制御装置22へ入力された反射波信号は、検波処理手段82により検波され、超音波信号処理手段84により画像合成可能な情報として処理される。これにより、皮膚下の超音波二次元断面画像が発生させられ、モニタ画面表示装置或いは画像表示装置として機能する表示装置20に表示される。
【0038】
多軸位置決め装置48は、z軸回動モータにより超音波プローブ14のz軸まわりの回動位置を位置決めするz軸回動機構と、z軸並進モータにより超音波プローブ14のz軸方向に位置決めするz軸並進機構と、y軸回動モータにより超音波プローブ14のy軸まわりの回動位置を位置決めするy軸回動機構とを備えている。位置決めモータ駆動回路52は、z軸回動モータ、z軸並進モータ、およびy軸回動モータを、電子制御装置22からの指令にしたがって制御する。
【0039】
図4に示すように、電子制御装置22は、位置決めモータ駆動制御手段78、超音波駆動制御手段80、検波処理手段82、超音波信号処理手段84、圧迫圧制御手段86、ずり応力付与手段88、血管拡張反応評価手段90、及び表示制御手段92を備えている。これらの制御機能は、電子制御装置22に機能的に備えられたものであるが、それらの制御機能のうち一部乃至全部が電子制御装置22とは別体の電子制御装置の制御手段として構成され、相互に情報の通信を行うことにより以下に詳述する制御を行うものであってもよい。
【0040】
電子制御装置22は、超音波プローブ14から動脈血管29aに対して出力される超音波の反射信号に基づいて、血管29aの超音波断面画像から血管断面画像を抽出し、その血管断面画像からその長手方向に直交する断面を示す超音波短軸画像を生成し、その超音波短軸画像から内径、内膜厚、プラーク等を測定し、さらにはFMD(Flow-Mediated Dilation:血流依存性血管拡張反応)の評価を行う。このFMDの評価に際して、表示装置20は、動脈血管29aにおける内膜の径の変化率すなわち内腔径の拡張率Rを時系列的に表示する。FMDの評価及び動脈血管29aの超音波画像の生成等に際しては、超音波プローブ12は、測定対象である動脈血管29a上の皮膚に対して繰り返し走査される。
【0041】
電子制御装置22による動脈20の血管状態の測定においては、超音波プローブ14は、前記生体における上腕29の皮膚の上からその皮膚直下に位置する動脈血管29aを変形させない程度に且つ静脈圧よりは高い押圧状態で支持される。この状態で、位置決めモータ駆動制御手段78は、第1短軸用超音波アレイ探触子Aにより受信された超音波反射信号から超音波信号処理手段84により生成された動脈血管29aの第1短軸断面画像の位置、第2短軸用超音波アレイ探触子Bにより受信された超音波反射信号から超音波信号処理手段84により生成された動脈血管29aの第2短軸断面画像の位置、長軸用超音波アレイ探触子Cにより受信された超音波反射信号から超音波信号処理手段84により生成された動脈血管29aの長軸断面画像の位置に基づいて、動脈血管29aが第1短軸用超音波アレイ探触子Aおよび第2短軸用超音波アレイ探触子Bの長手方向の中央部下に位置し、且つ長軸用超音波アレイ探触子Cと動脈血管29aとが平行となるように、超音波プローブ14を自動的に位置決めする。
【0042】
超音波信号処理手段84は、動脈血管29aと他の組織との伝播速度差によりそれらの境界から反射される超音波反射信号間の時間差処理等を行って、第1短軸用超音波アレイ探触子A直下の超音波二次元画像である第1短軸断面画像、第2短軸用超音波アレイ探触子B直下の超音波二次元画像である第2短軸断面画像、及び長軸用超音波アレイ探触子C直下の超音波二次元画像である長軸断面画像から成る画像データを所定の周期で繰り返し生成するとともに、その画像データを順次記憶する。
【0043】
膨張することにより圧迫帯40の張力を高める膨張袋42は、
図1に示すように、電子制御装置22に備えられた圧迫圧制御手段86により空気ポンプ58及び圧力制御弁60等が制御されることにより実行される。例えば、電子制御装置22からの指令に従って、空気ポンプ58からの元圧が圧力制御弁60で制御され、上腕29に巻回された圧迫帯40の膨張袋42に供給される。具体的には、超音波画像を得るための比較的低い20乃至40mmHg程度の所定圧に、またずり応力を付与するためのその所定圧よりも高い圧たとえば生体の最高血圧値P
SYSよりも低く且つ最低血圧値P
DIA好適には平均血圧値P
MEANよりも高い圧迫圧PCに、膨張袋42内の圧力(カフ圧)が昇圧させられることで、上腕29内の動脈血管29aが圧迫される。本実施例では、圧迫帯40の一部が超音波透過板材26により構成されており、超音波プローブ14によりその超音波透過板材26を通して上腕29内の動脈血管29aの圧迫部位に対して超音波信号の授受が行われるので、動脈血管29aの被圧迫部位の断面画像が得られるようになっている。
【0044】
ずり応力付与手段88は、圧迫圧制御手段86に制御される圧迫帯40による生体の上腕29に対する圧迫圧PCがその生体の最高血圧値P
SYS(mmHg)よりも低い状態で動脈血管29aを心拍に同期して開閉させることにより得られる、生体の心拍に同期して圧迫圧PCに発生する圧力振動である複数の脈波M毎の血流増加によって、動脈血管29aの内皮にずり応力を付与した後、血管拡張反応評価手段90による動脈血管29aの拡張関連値(たとえば動脈血管の内腔径d1)の計測に先立って圧迫圧制御手段86に上腕29に対する圧迫圧PCを解放させる。ずり応力付与手段88は、たとえば後述の
図15のタイムチャートにおける時点t0から時点t1までのずり応力付与可能期間に、上記ずり応力の付与を実行する。ずり応力付与手段88は、好適には、以下の
図5から
図10に説明する6つのずり応力付与方式のいずれか1つを用いてずり応力の付与を実行する。なお、脈波Mは生体の最高血圧値P
SYS(mmHg)よりも高い状態でも発生するが、それは動脈血管29aが閉じられた状態で発生して血流の増加を伴わず、ずり応力の付与にほとんど寄与しないものであるので、たとえば
図5から
図10の構成例では、生体の最高血圧値P
SYS(mmHg)よりも低い状態で発生してずり応力の付与に寄与する脈波Mが示されている。
【0045】
図5は、圧迫圧制御手段86に
図11に示すように圧迫圧PCを連続的に徐速降圧させることで一定のずり応力を動脈血管29aの内皮に付与するときの、ずり応力付与手段88の構成例を示している。
図5のずり応力付与手段88は、急速昇圧/徐速降圧指令手段88aと血流開始後ずり応力付与時間経過判定手段88bと圧迫圧解放指令手段88cとを、備えている。急速昇圧/徐速降圧指令手段88aは、
図11のt0時点で圧迫帯40の圧迫圧PCを予め測定された生体の最高血圧値P
SYSよりもたとえば50mmHg程度の余裕値だけ高く設定された昇圧目標値P
Tまで急速昇圧させた後、たとえば5mmHg/秒または5mmHg/拍程度に設定された一定の降圧速度で連続的に徐速降圧させるように、圧迫圧制御手段86に指令する。血流開始後ずり応力付与時間経過判定手段88bは、上記圧迫圧PCの徐速降圧状態で、圧迫帯40の圧迫圧PCが生体の最高血圧値P
SYSを下回った最初の脈波の発生時点すなわち圧迫帯40の圧迫圧PCにより止血されている動脈血管29aに最初の血流が発生した時点を、超音波断面画像、最初のコロトコフ音の発生、オシロメトリック血圧判定アルゴリズムにより判定する。次いで、血流開始後ずり応力付与時間経過判定手段88bは、上記最初の血流が発生した時点からの経過時間t
ELが、たとえば6乃至十数秒程度の範囲内に予め設定された血流開始後ずり応力付与時間t
ELT以上経過したことを判定する。圧迫圧解放指令手段88cは、血流開始後ずり応力付与時間経過判定手段88bにより上記最初の血流が発生した時点からの経過時間t
ELが上記予め設定された血流開始後ずり応力付与時間t
ELT以上経過したことが判定されると、圧迫圧制御手段86に圧迫帯40による圧迫圧PCを大気に解放させる指令を出力する。
図11のt1時点はこの状態を示している。
図11のP1は脈圧(最高血圧値P
SYSと最低血圧値P
DIAとの差圧)を示し、T1はずり応力付与可能期間を示している。このずり応力付与可能期間T1は後述の動脈拡張反応開始時間T
ASよりも短く設定される。
【0046】
図6は、圧迫圧制御手段86に
図11に示すように圧迫圧PCを連続的に徐速降圧させることで一定のずり応力を動脈血管29aの内皮に付与するときの、ずり応力付与手段88の他の構成例を示している。
図6のずり応力付与手段88は、急速昇圧/徐速降圧指令手段88aと血流開始後ずり応力付与脈波数到達判定手段88dと圧迫圧解放指令手段88cとを、備えている。この
図6のずり応力付与手段88は、
図5のずり応力付与手段88と比較して、血流開始後ずり応力付与時間経過判定手段88bに替えて血流開始後ずり応力付与脈波数到達判定手段88dが備えられている点で相違する。以下に、その相違点を説明する。血流開始後ずり応力付与脈波数到達判定手段88dは、上記圧迫圧PCの徐速降圧状態で、圧迫帯40の圧迫圧PCが生体の最高血圧値P
SYSを下回った最初の脈波の発生時点すなわち圧迫帯40の圧迫圧PCにより止血されている動脈血管29aに最初の血流が発生した時点を、超音波断面画像、最初のコロトコフ音の発生、オシロメトリック血圧判定アルゴリズムにより判定する。次いで、血流開始後ずり応力付与脈波数到達判定手段88dは、上記最初の血流が発生した時点以後に発生した脈波数N
Mが、たとえば6拍乃至十数拍程度の範囲内に予め設定された血流開始後ずり応力付与脈波数N
MTに到達したか否かを判定する。圧迫圧解放指令手段88cは、血流開始後ずり応力付与脈波数到達判定手段88dにより上記最初の血流が発生した時点からの脈波数N
Mが上記予め設定された血流開始後ずり応力付与脈波数N
MTに到達したことが判定されると、圧迫圧制御手段86に圧迫帯40による圧迫圧PCを大気に解放させる指令を出力する。
図11のt1時点はこの状態を示している。
【0047】
図7は、圧迫圧制御手段86に
図12に示すように圧迫圧PCを一定の維持圧P
Hに維持させることで一定のずり応力を動脈血管29aの内皮に付与するときの、ずり応力付与手段88の構成例を示している。
図7のずり応力付与手段88は、急速昇圧/一定圧迫圧維持指令手段88eと一定圧迫圧下ずり応力付与時間経過判定手段88fと圧迫圧解放指令手段88gとを、備えている。急速昇圧/一定圧迫圧維持指令手段88eは、
図12のt0時点で圧迫帯40の圧迫圧PCを生体の最高血圧値P
SYSと平均血圧P
MEANとの間に設定された維持圧P
Hまで急速昇圧させた後、その維持圧P
Hを維持するように、圧迫圧制御手段86に指令する。一定圧迫圧下ずり応力付与時間経過判定手段88fは、上記一定の圧迫圧P
Hに維持されている状態で、最初の脈波の発生時点すなわち動脈血管29aに最初の血流(脈動)が発生した時点を、超音波断面画像、一定の圧迫圧P
Hで最初のコロトコフ音の発生などに基づいて判定する。次いで、一定圧迫圧下ずり応力付与時間経過判定手段88fは、一定圧迫圧下で最初の脈波(血流)が発生した時点からの経過時間t
ELが、たとえば6乃至十数秒程度の範囲内に予め設定された血流開始後ずり応力付与時間t
ELT以上経過したことを判定する。圧迫圧解放指令手段88gは、一定圧迫圧下ずり応力付与時間経過判定手段88fにより上記最初の血流が発生した時点からの経過時間t
ELが上記予め設定された血流開始後ずり応力付与時間t
ELT以上経過したことが判定されると、圧迫圧制御手段86に圧迫帯40による圧迫圧PCを大気に解放させる指令を出力する。
図12のt1時点はこの状態を示している。
図12のP1は脈圧(最高血圧値P
SYSと最低血圧値P
DIAとの差圧)を示し、T1はずり応力付与可能期間を示している。このずり応力付与可能期間T1は後述の動脈拡張反応開始時間T
ASよりも短く設定される。
【0048】
図8は、圧迫圧制御手段86に
図12に示すように圧迫圧PCを一定の圧迫圧P
Hに維持させることで一定のずり応力を動脈血管29aの内皮に付与するときの、ずり応力付与手段88の他の構成例を示している。
図8のずり応力付与手段88は、急速昇圧/一定圧迫圧維持指令手段88eと一定圧迫圧下ずり応力付与脈波数到達判定手段88hと圧迫圧解放指令手段88gとを、備えている。この
図8のずり応力付与手段88は、
図7のずり応力付与手段88と比較して、一定圧迫圧下ずり応力付与時間経過判定手段88hに替えて一定圧迫圧下ずり応力付与脈波数到達判定手段88fが備えられている点で相違する。以下に、その相違点を説明する。一定圧迫圧下ずり応力付与脈波数到達判定手段88hは、一定の圧迫圧P
Hに維持されている状態で、最初の脈波の発生時点すなわち動脈血管29aに最初の血流(脈動)が発生した時点を、超音波断面画像、一定の圧迫圧P
Hで最初のコロトコフ音の発生などに基づいて判定する。次いで、一定圧迫圧下ずり応力付与脈波数到達判定手段88hは、上記最初の血流が発生した時点以後に発生した脈波数N
Mが、たとえば6拍乃至十数拍程度の範囲内に予め設定された血流開始後ずり応力付与脈波数N
MTに到達したか否かを判定する。圧迫圧解放指令手段88gは、血流開始後ずり応力付与脈波数到達判定手段88dにより上記最初の血流が発生した時点からの脈波数N
Mが上記予め設定された血流開始後ずり応力付与脈波数N
MTに到達したことが判定されると、圧迫圧制御手段86に圧迫帯40による圧迫圧PCを大気に解放させる指令を出力する。
図12のt1時点はこの状態を示している。
【0049】
図9は、圧迫圧制御手段86に
図13に示すように圧迫圧PCを連続的に徐速昇圧させることで一定のずり応力を動脈血管29aの内皮に付与するときの、ずり応力付与手段88の構成例を示している。
図9のずり応力付与手段88は、急速昇圧/徐速昇圧指令手段88iと徐速昇圧開始後ずり応力付与時間経過判定手段88jと圧迫圧解放指令手段88kとを、備えている。急速昇圧/徐速昇圧指令手段88iは、
図13のt0時点で圧迫帯40の圧迫圧PCを予め測定された生体の最低血圧値P
DIA以上好適には平均血圧P
MEANまで急速昇圧させた後、予め設定されたたとえば5mmHg/秒または5mmHg/拍程度に設定された一定の昇圧速度で連続的に徐速昇圧させるように、圧迫圧制御手段86に指令する。徐速昇圧開始後ずり応力付与時間経過判定手段88jは、上記圧迫圧PCの徐速昇圧状態で、圧迫帯40の圧迫圧PCが徐速昇圧開始以後の生体の最初の脈波の発生時点すなわち徐速昇圧開始以後の最初の血流(脈動)が発生した時点を、超音波断面画像、最初のコロトコフ音の発生などに基づいて判定する。次いで、徐速昇圧開始後ずり応力付与時間経過判定手段88jは、上記最初の血流が発生した時点からの経過時間t
ELが、たとえば6乃至十数秒程度の範囲内に予め設定された血流開始後ずり応力付与時間t
ELT以上経過したことを判定する。圧迫圧解放指令手段88kは、徐速昇圧開始後ずり応力付与時間経過判定手段88jにより上記最初の血流が発生した時点からの経過時間t
ELが上記予め設定された血流開始後ずり応力付与時間t
ELT以上経過したことが判定されると、圧迫圧制御手段86に圧迫帯40による圧迫圧PCを大気に解放させる指令を出力する。
図13のt1時点はこの状態を示している。
図13のP1は脈圧(最高血圧値P
SYSと最低血圧値P
DIAとの差圧)を示し、T1はずり応力付与可能期間を示している。このずり応力付与可能期間T1は後述の動脈拡張反応開始時間T
ASよりも短く設定される。
【0050】
図10は、圧迫圧制御手段86に
図13に示すように圧迫圧PCを連続的に徐速昇圧させることで一定のずり応力を動脈血管29aの内皮に付与するときの、ずり応力付与手段88の他の構成例を示している。
図10のずり応力付与手段88は、急速昇圧/徐速昇圧指令手段88iと徐速昇圧開始後ずり応力付与脈波数到達判定手段88lと圧迫圧解放指令手段88kとを、備えている。この
図10のずり応力付与手段88は、
図9のずり応力付与手段88と比較して、徐速昇圧開始後ずり応力付与時間経過判定手段88lに替えて徐速昇圧開始後ずり応力付与脈波数到達判定手段88lが備えられている点で相違する。以下に、その相違点を説明する。徐速昇圧開始後ずり応力付与脈波数到達判定手段88lは、上記圧迫圧PCの徐速昇圧状態で、圧迫帯40の圧迫圧PCが生体の最低血圧値P
DIA好適には平均血圧P
MEANを上回った最初の脈波の発生時点すなわち徐速昇圧状態で動脈血管29aに最初の血流(脈動)が発生した時点を、超音波断面画像、最初のコロトコフ音の発生、オシロメトリック血圧判定アルゴリズム等に基づいて判定する。次いで、徐速昇圧開始後ずり応力付与脈波数到達判定手段88lは、上記最初の血流が発生した時点以後に発生した脈波数N
Mが、たとえば6拍乃至十数拍程度の範囲内に予め設定された血流開始後ずり応力付与脈波数N
MTに到達したか否かを判定する。圧迫圧解放指令手段88kは、徐速昇圧開始後ずり応力付与脈波数到達判定手段88lにより上記最初の血流が発生した時点からの脈波数N
Mが上記予め設定された血流開始後ずり応力付与脈波数N
MTに到達したことが判定されると、圧迫圧制御手段86に圧迫帯40による圧迫圧PCを解放させる指令を出力する。
図13のt1時点はこの状態を示している。
【0051】
図14は、
図4の血管拡張反応評価手段90の構成例を詳しく説明する図であり、
図15はその作動を説明するタイムチャートである。血管拡張反応評価手段90は、ずり応力付与手段88により圧迫圧制御手段86により圧迫圧PCが解放された後に、動脈血管29aの拡張関連値(たとえば動脈血管の内腔径d1)の計測を開始し、拡張関連値に基づいて動脈血管29の内皮機能を評価する評価値たとえば拡張率を算出し、表示器20に表示させる。
【0052】
血管拡張反応評価手段90は、
図14に示すように、動脈血管判定手段100、血管拡張率測定制御手段102、血管硬さ測定制御手段104を、備えている。血管形状算出手段100は、前記のように超音波信号処理手段84により生成された動脈血管29aの断面画像から、その動脈血管29aの外径、壁圧、或いは内皮L1の直径である内皮径(内腔径)d1等を算出する。
【0053】
動脈血管判定手段100は、圧迫圧制御手段86により静脈圧よりも高く且つ最低血圧値PDIAよりも低い圧で上腕29を圧迫させたとき、超音波断面画像中に存在する複数個の管状臓器を示す画像のうちで潰れない管状臓器を、動脈血管29aとして判定し、超音波断面画像中で特定する処理を行う。これにより特定された動脈血管29aについて、後述のように、動脈血管29aの径、動脈血管29aの内皮L1の直径である内皮径(内腔径)d1、虚血反応性充血後のFMD(血流依存性血管拡張反応)を表す動脈血管29aの血管内腔径の拡張率(変化率)R(%)、生体の最高血圧値PSYSおよび最低血圧値PDIA、動脈血管29aの硬さを表すスティフネスパラメータβ等の測定が行われる。
【0054】
血管拡張率測定制御手段102は、上腕29に巻回された圧迫帯40により動脈血管29aの内皮L1に対して血流を利用したずり応力の付与がずり応力付与手段88により実行された後に、血流依存性血管拡張反応により一時的に拡大する内皮径(内腔径)d1等を逐次算出し、ずり応力付与後のFMD(血流依存性血管拡張反応)を表す血管内腔径の拡張率(変化率)R(%)[=100×(dMAX-da)/da]を算出する。この式における「da」は、安静時の血管内腔径(ベース径、安静径)を示している。血管拡張反応評価部90は、ずり応力付与後のFMD(血流依存性血管拡張反応)を表す血管内腔径の拡張率(変化率)Rの測定装置としても機能している。
【0055】
血管拡張率測定制御手段102による動脈血管29aの拡張率(変化率)R(%)の測定では、生体14における測定部位例えば上腕29が生体圧迫装置18の圧迫帯40によりにより圧迫されて動脈血管29aの内皮L1に対して血流を利用したずり応力の付与がずり応力付与手段88により行われることで、血管壁の内皮L1へのずり応力増加に伴う内皮からの一酸化窒素(NO)の産生が起こり、その一酸化窒素に依存する平滑筋の弛緩状況が内皮径(内腔径)d1を調べることで動脈血管29aの内皮機能の判定が行われる。
【0056】
図15は、血管拡張率測定制御手段102による動脈血管29aのFMD評価における、阻血(阻血)開放後の血管内腔径d1の変化を例示したタイムチャートである。この
図9においては、時点t0までが安静期間、時点t0から時点t1までがずり応力付与可能期間、時点t1以降がずり応力付与後の血流依存性血管拡張反応の測定期間を表しており、時点t2から血管内腔径d1が拡張し始め、時点t3で血管内腔径d1がその最大値d
MAXに達していることが示されている。従って、電子制御装置22が算出する血管内腔径d1の拡張率Rは、時点t3で最大になる。
【0057】
ここで、上記のような動脈血管29aのFMD評価に際しては、従来では、血管拡張反応を発生させるために、動脈血管29aの超音波断面画像を計測する部位よりも上流側位置がカフ等を用いて所定時間たとえば5分間阻血された後に解放することで血流を再開させてずり応力の付与が行われていた。しかし、本実施例の血管拡張率測定制御手段102は、動脈血管29aの断面画像において、1脈波周期内の所定タイミングたとえば最低血圧値P
DIAのタイミングで動脈血管29aの圧平(平坦に閉じられた)が生じるように膨張袋42による動脈血管29aへの圧迫圧PCが制御されることで、ずり応力の付与が最大十数秒以下の短期間すなわち所定時間T1以内で行うようになっている。この圧迫圧PCは、圧平状態或いはそれに近い略閉状態(狭い状態)の動脈血管29aに血流を通過させることによるずり応力の付与と、圧平を伴う拍動による壁の大きな移動による血流の乱流の発生によるずり応力の付与とが脈波周期毎に繰り返されることによって効率的にずり応力を内皮L1に付与できるずり応力付与圧と称されるべきものである。また、圧迫圧PCは、たとえば数拍乃至数十拍或いは数秒乃至数十秒の所定時間T1以内で、1脈波周期内で動脈血管29aが圧平された(平坦に閉じられた)状態或いはそれに近い略閉状態(狭い状態)となる区間を有する拍動となるように所定の圧力範囲P1内に制御されればよい。上記圧迫圧PCは、たとえば
図11から
図13に例示されているが、それら以外のパターンで圧迫圧PCが制御されてもよい。
【0058】
動脈血管20aの内皮L1に対するずり応力による刺激時点から動脈血管20aの血管拡張反応が開始されるまでには、18秒から20秒程度の動脈拡張反応開始時間(遅れ時間)TASがあるので、血流依存性血管拡張反応を計測するための血管拡張反応評価手段90即ち血管拡張率測定制御手段102による内皮径(内腔径)d1の測定は、その動脈拡張反応開始時間TASが経過する前に開始されることが望まれる。本実施例では、ずり応力付与手段88は、動脈血管20a内の血流開始時点(最初の脈波発生によるずり応力付与開始時点)から予め設定された動脈拡張反応開始時間TASが経過する前に圧迫圧制御手段86に圧迫圧PCを解放させるように、血流開始後ずり応力付与時間tELTや血流開始後ずり応力付与脈波数NMTが設定されている。これにより、血管拡張反応評価手段90は、動脈血管20a内の血流開始時点(最初の脈波発生によるずり応力付与開始時点)から予め設定された動脈拡張反応開始時間TASが経過する前に前記動脈血管の拡張関連値の計測を開始するようになっているので、測定精度が高められている。
【0059】
また、動脈血管20aの内皮L1に対するずり応力による刺激量に対して血管拡張反応の大きさが飽和する現象があるので、不要な大きさのずり応力の付与は刺激時間或いは刺激脈波数の無駄となる。前記血流開始後ずり応力付与時間tEL或いは前記血流開始後ずり応力付与脈波数NMTは、予め設定された動脈拡張反応開始時間TASを超えない範囲で、前記予め実験的に求められた刺激の飽和時間TH或いは刺激の飽和脈波数NHを十分に超える値すなわち十分に飽和する値に設定される。これにより、十分な大きさのずり応力が短時間で且つ予め設定された動脈拡張反応開始時間TASを超えない範囲で付与される。
【0060】
図14に戻って、血管硬さ測定制御手段104は、まず、超音波信号処理部84により生成された超音波断面画像内に示される生体の動脈血管29aの形状と、圧迫圧制御手段86による圧迫圧PCとから生体の最高血圧値P
SYSおよび最低血圧値P
DIAを決定する。すなわち、血管硬さ測定制御手段104は、生体の最高血圧値P
SYSより高く設定された昇圧値まで圧迫圧PCを上昇させた後、所定の減圧速度たとえば3~6mmHg/secで圧迫圧PCを減少させる過程で、超音波断面画像内に示される生体の動脈血管29aの断面が1脈波周期内で開かれた脈波の発生時点の圧迫圧PCを最高血圧値P
SYSとして決定するとともに、動脈血管29aの断面が1脈波周期内で閉じられなくなった時点の圧迫圧PCを最低血圧値P
DIAとして決定し、最高血圧値P
SYSの決定時点の動脈血管29aの血管径Dsおよび最低血圧値P
DIA決定時点の動脈血管29aの血管径Ddを、最高血圧値P
SYSおよび最低血圧値P
DIAと共に記憶する。
【0061】
次いで、血管硬さ測定制御手段104は、動脈血管29aの硬さを表すスティフネスパラメータβを求める予め記憶された次式(スティフネスパラメータ算出式)から、最高血圧値PSYSの決定時点の動脈血管29aの血管径Ds、最低血圧値PDIA決定時点の動脈血管29aの血管径Dd、最高血圧値PSYS、および最低血圧値PDIAに基づいて、スティフネスパラメータβを算出する。
β=(lnPSYS-lnPDIA)/((Ds-Dd)/D0)
【0062】
上式スティフネスパラメータ算出式のD0は、本来は無印加時の血管径であるべきであるが臨床的には計測ができないため、臨床指標として使われる場合には、血管壁厚を含む血管径(=Dd+2IMT)が用いられる。このIMTは、たとえば内膜および中膜の複合体の厚みである。
【0063】
一般に、血管径Dを表す軸と血圧Pを表す軸との二次元座標では血圧Pの増加に対して血管径Dの増加が飽和する非線形の関係であるが、その二次元座標において血圧Pを表す軸を血圧の対数値lnPを表す軸に置換した片対数グラフにて表すと、線形な関係で表すことができる。この線形な関係において、血管径Dの変化率ΔDと血圧Pの変化量ΔPで成り立つ弾性率Epの式(Ep=ΔP/2(ΔD/D))において、ΔPの代わりに(lnPSYS-lnPDIA)を用いた関係において、弾性率Epに替わる指標としたのが、スティフネスパラメータβである。前記スティフネスパラメータ算出式は、上記の関係から導かれたものである。
【0064】
表示制御手段92は、血管拡張反応評価部90において算出された動脈血管29aの径、内皮70の直径である内皮径(内腔径)d1、虚血反応性充血後のFMD(血流依存性血管拡張反応)を表す動脈血管29aの血管内腔径の拡張率(変化率)R(%)、生体の最高血圧値PSYSおよび最低血圧値PDIA、動脈血管29aの硬さを表すスティフネスパラメータβ等を、画像表示装置20に表示させる。
【0065】
図16、
図17および
図24は、電子制御装置22の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、
図16は血管拡張反応評価部90に対応する動脈判定ルーチン、
図17は血管拡張反応評価部90に対応するFMD測定ルーチン、
図24は血管拡張反応評価部90に対応する動脈硬さ測定ルーチンを、それぞれ示している。上記動脈判定ルーチン、FMD測定ルーチン、動脈硬さ測定ルーチンは、内皮機能検査装置10の起動操作に連動して実行されてもよいが、個別の起動操作に応答して実行されてもよい。
【0066】
動脈血管判定部100に対応する
図16の動脈判定ルーチンにおいて、ステップS1(以下、ステップを省略する)では、圧迫圧制御手段86により静脈圧よりも高く且つ最低血圧値P
DIAよりも低い圧で上腕29が圧迫される。次いで、S2では、超音波断面画像中に存在する複数個の管状臓器を示す画像のうちで潰れる管状臓器があるか否かが判断される。S2の判断が肯定される場合は、S3において、つぶれのある管状臓器を除き、つぶれのない管状臓器を動脈血管29aとして判定し、超音波断面画像中で特定する処理を行う。また、S2の判断が否定される場合は、S4において、つぶれのない管状臓器を動脈血管29aとして判定し、超音波断面画像中で特定する処理を行う。これにより特定された動脈血管29aについて、動脈血管29aの径、動脈血管29aの内皮L1の直径である内皮径(内腔径)d1、虚血反応性充血後のFMD(血流依存性血管拡張反応)を表す動脈血管29aの血管内腔径の拡張率(変化率)R(%)、生体の最高血圧値P
SYSおよび最低血圧値P
DIA、動脈血管29aの硬さを表すスティフネスパラメータβ等の測定が行われる。
【0067】
血管拡張反応評価部90に対応する
図17のFMD測定ルーチンにおいて、S11では、超音波信号処理部84により得られた超音波断面画像中の動脈として特定された画像から、たとえばテンプレートなどを用いて動脈血管29aの断面画像が抽出される。
【0068】
S12では、上記S11で抽出された動脈血管29aの横断面画像から、動脈29の径たとえば内皮L1の内径である内皮径(内腔径)d1が測定される。そして、S13では、S12で測定された内皮径(内腔径)d1が安静時の内腔径daとして記憶される。
図15の時点t0はこの状態を示している。
【0069】
次いで、ずり応力付与手段88に対応するS14では、閉状態の動脈血管29aを通過する血流によって、および動脈血管29aの開閉の繰り返しに伴う血液の乱流の発生によって、効率的にずり応力を内皮L1に付与できるずり応力付与圧となるように、生体圧迫装置18による圧迫により上腕29が圧迫されて、上腕29内の動脈血管29aに対して血流に基づくずり応力の付与が実行開始される。
図6の時点t0はこの状態を示している。このずり応力の付与は、たとえば数拍乃至数十拍或いは数秒乃至数十秒の所定時間T1で、1脈波周期内で動脈血管29aが圧平された(平坦に閉じられた)区間を有する拍動となるように、生体圧迫装置18による圧迫圧PCが、所定の圧力範囲P1内に制御される。たとえば前述のように、
図12に示されるようにその所定の圧力範囲P1内に設定された一定値に上記所定時間T1内の圧迫圧P
Hに維持された状態で、
図7或いは
図8に示す機能を用いて十分な大きさのずり応力が短時間で且つ予め設定された動脈拡張反応開始時間T
ASを超えない範囲でずり応力が付与されてもよいが、たとえば
図11或いは
図13に示されるように、たとえば5~6mmHg/sec程度での上昇過程或いは減少過程でその所定の圧力範囲P1を上記所定時間T1内で通過させるように圧迫圧PCが制御される過程で、
図5或いは
図6、
図9或いは
図10に示されるずり応力付与機能を用いて十分な大きさのずり応力が短時間で且つ予め設定された動脈拡張反応開始時間T
ASを超えない範囲でずり応力が付与されてもよい。
【0070】
【0071】
図18において、急速昇圧/徐速降圧指令手段88aに対応するS14-1では、
図11のt0時点で圧迫帯40の圧迫圧PCを予め測定された生体の最高血圧値P
SYSよりもたとえば50mmHg程度に高く設定された昇圧目標値P
Tまで急速昇圧させた後、たとえば5mmHg/秒または5mmHg/拍程度に設定された一定の降圧速度で連続的に徐速降圧させる圧迫圧制御手段86に
図11に示すように圧迫圧PCを連続的に徐速降圧させるように、圧迫圧制御手段86に指令が出される。血流開始後ずり応力付与時間経過判定手段88bに対応するS14-2では、上記圧迫圧PCの徐速降圧状態で、圧迫帯40の動脈血管29aに対する圧迫圧PCが生体の最高血圧値P
SYSを下回った最初の脈波の発生時点すなわち圧迫帯40の圧迫圧PCにより止血されている動脈血管29aに最初の血流が発生した時点が判定され、次いで、上記最初の血流が発生した時点からの経過時間t
ELが、たとえば6乃至十数秒程度の範囲内に予め設定された血流開始後ずり応力付与時間t
ELT以上経過したか否かが判定される。このS14-2の判定が否定される場合は、そのS14-2の判定が繰り替えされる。しかし、S14-2の判定が肯定された場合は、圧迫圧解放指令手段88cに対応するS14-3において、圧迫圧制御手段86に圧迫帯40による圧迫圧PCを大気に解放させる指令が出力され、少なくとも上記徐速降圧よりも早い速度で上腕29aに対する圧迫圧PCが急速解放される。
図11のt1時点はこの状態を示している。
【0072】
図19では、
図18と比較して、血流開始後ずり応力付与時間経過判定手段88bに対応するS14-2に替えて血流開始後ずり応力付与脈波数到達判定手段88dに対応するS14-4が備えられている点で相違する。以下に、その相違点を説明する。血流開始後ずり応力付与脈波数到達判定手段88dに対応するS14-4では、上記圧迫圧PCの徐速降圧状態で、圧迫帯40の圧迫圧PCが生体の最高血圧値P
SYSを下回った最初の脈波の発生時点すなわち圧迫帯40の圧迫圧PCにより止血されている動脈血管29aに最初の血流が発生した時点が判定され、その最初の血流が発生した時点以後に発生した脈波数N
Mが、たとえば6拍乃至16拍程度の範囲内に予め設定された血流開始後ずり応力付与脈波数N
MTに到達したか否かが判定される。このS14-4の判定が否定されるうちはそのS14-4の判定が繰り返される。しかし、S14-4の判定が肯定されると、圧迫圧解放指令手段88cに対応するS14-3において、圧迫圧制御手段86に圧迫帯40による圧迫圧PCを大気に解放させる指令が出力され、上腕29aに対する圧迫圧PCが急速解放される。
図11のt1時点はこの状態を示している。
【0073】
図20において、急速昇圧/一定圧迫圧維持指令手段88eに対応するS14-5では、
図12のt0時点で圧迫帯40の圧迫圧PCを生体の最高血圧値P
SYSと平均血圧P
MEANとの間に設定された維持圧P
Hまで急速昇圧させた後、その維持圧P
Hを維持するように、圧迫圧制御手段86に指令が出される。一定圧迫圧下ずり応力付与時間経過判定手段88fに対応するS14-6では、動脈血管29aに対する圧迫圧PCが一定の圧迫圧P
Hに維持されている状態で、最初の脈波の発生時点すなわち動脈血管29aに最初の血流(脈動)が発生した時点が判定され、次いで、その一定圧迫圧下で最初の脈波(血流)が発生した時点からの経過時間t
ELが、たとえば6乃至十数秒程度の範囲内に予め設定された血流開始後ずり応力付与時間t
ELT以上経過したか否かが判定される。このS14-6の判定が否定される場合は、そのS14-6の判定が繰り替えされる。しかし、S14-6の判定が肯定された場合は、圧迫圧解放指令手段88gに対応するS14-7において、圧迫圧制御手段86に圧迫帯40による圧迫圧PCを大気に解放させる指令が出力され、S14-3と同様に、上腕29aに対する圧迫圧PCが急速解放される。
図12のt1時点はこの状態を示している。
【0074】
図21では、
図20と比較して、一定圧迫圧下ずり応力付与時間経過判定手段88fに対応するS14-6に替えて一定圧迫圧下ずり応力付与脈波数到達判定手段88hに対応するS14-8が備えられている点で相違する。以下に、その相違点を説明する。一定圧迫圧下ずり応力付与脈波数到達判定手段88hに対応するS14-8では、上記圧迫圧PCを一定圧P
Hに維持されている態で、圧迫帯40の圧迫圧PCが生体の最高血圧値P
SYSを下回った最初の脈波の発生時点すなわち圧迫帯40の圧迫圧PCにより止血されている動脈血管29aに最初の血流が発生した時点が判定され、その最初の血流が発生した時点以後に発生した脈波数N
Mが、たとえば6拍乃至16拍程度の範囲内に予め設定された血流開始後ずり応力付与脈波数N
MTに到達したか否かが判定される。このS14-8の判定が否定されるうちはそのS14-8の判定が繰り返される。しかし、S14-8の判定が肯定されると、圧迫圧解放指令手段88cに対応するS14-7において、圧迫圧制御手段86に圧迫帯40による圧迫圧PCを大気に解放させる指令が出力され、S14-3と同様に、上腕29aに対する圧迫圧PCが急速解放される。
図12のt1時点はこの状態を示している。
【0075】
図22では、急速昇圧/徐速昇圧指令手段88iに対応するS14-9では、
図13のt0時点で圧迫帯40による動脈血管29aに対する圧迫圧PCを予め測定された生体の最低血圧値P
DIA好適には平均血圧P
MEANまで急速昇圧させた後、予め設定されたたとえば5mmHg/秒または5mmHg/拍程度に設定された一定の昇圧速度で連続的に徐速昇圧させるように、圧迫圧制御手段86に指令が出される。徐速昇圧開始後ずり応力付与時間経過判定手段88jに対応するS14-10では、動脈血管29aに対する圧迫圧PCの徐速昇圧状態で、圧迫帯40の圧迫圧PCが徐速昇圧開始以後の生体の最初の脈波の発生時点すなわち徐速昇圧開始以後の最初の血流(脈動)が発生した時点を、超音波断面画像、最初のコロトコフ音の発生などに基づいて判定し、次いで、上記最初の血流が発生した時点からの経過時間t
ELが、たとえば6乃至十数秒程度の範囲内に予め設定された血流開始後ずり応力付与時間t
ELT以上経過したか否かを判定する。このS14-10の判定が否定される場合は、そのS14-10の判定が繰り替えされる。しかし、S14-10の判定が肯定された場合は、圧迫圧解放指令手段88kに対応するS14-11において、圧迫圧制御手段86に圧迫帯40による圧迫圧PCを大気に解放させる指令が出力され、S14-3と同様に、少なくとも上記徐速昇圧よりも早い降圧速度で上腕29aに対する圧迫圧PCが急速解放される。
図13のt1時点はこの状態を示している。
【0076】
図23では、
図22と比較して、徐速昇圧開始後ずり応力付与時間経過判定手段88jに対応するS14-10に替えて徐速昇圧開始後ずり応力付与脈波数到達判定手段88lに対応するS14-12が備えられている点で相違する。以下に、その相違点を説明する。徐速昇圧開始後ずり応力付与脈波数到達判定手段88lに対応するS14-12では、上記動脈血管29aに対する圧迫圧PCの徐速昇圧状態で、圧迫帯40の圧迫圧PCが生体の最低血圧値P
DIA好適には平均血圧P
MEANを上回った最初の脈波の発生時点すなわち徐速昇圧状態で動脈血管29aに最初の血流(脈動)が発生した時点が、判定され、次いで、上記最初の血流が発生した時点以後に発生した脈波数N
Mが、たとえば6拍乃至十数拍程度の範囲内に予め設定された血流開始後ずり応力付与脈波数N
MTに到達したか否かが、判定される。このS14-12の判定が否定されるうちはそのS14-12の判定が繰り返される。しかし、S14-12の判定が肯定されると、圧迫圧解放指令手段88kに対応するS14-11において、圧迫圧制御手段86に圧迫帯40による圧迫圧PCを大気に解放させる指令が出力され、S14-3と同様に、上腕29aに対する圧迫圧PCが急速解放される。
図13のt1時点はこの状態を示している。
【0077】
図17に戻って、S14に続くS15では、上記ずり応力の付与開始から所定時間T1が経過したか否かが判断される。このS15の判断が否定されるうちはS14以下が繰り返し実行されるが、S15の判断が肯定されると、S16において、S11と同様の動脈血管断面検出制御ルーチンが実行される。上記のように、繰り返し開閉される動脈血管29a内の血流に繰り返し乱流が発生して測定部位の血管29aの内皮L1に繰り返しずり応力が付与される。これにより、動脈血管29aの内皮L1からの一酸化窒素(NO)の産生が起こり、その一酸化窒素に依存する平滑筋の弛緩によって動脈血管29aの内皮径の一時的増加現象が発生する。
【0078】
この状態において、S16では、S11と同様の動脈血管断面検出制御ルーチンが、所定の周期で繰り返される超音波プローブ12の走査毎に実行される。そして、S17では、S12と同様に、S16で生成された動脈血管29aの横断面画像から、動脈血管29aの径たとえば内皮L1の直径である内皮径(内腔径)d1が、上記走査毎に測定され、順次測定された内皮径(内腔径)d1が止血解放後の内腔径d1として逐次記憶される。
図6の時点t1以降はこの状態を示している。この止血解放後の内腔径d1の測定は、S18において止血解放後の動脈血管29aの内腔径dが、
図6の時点t3に示すように最大値d
MAXに到達すると判断されるまで、S16以下が繰り返し測定される。
【0079】
しかし、S18において、ずり応力付与後の動脈血管29aの内腔径dが最大値dMAXに到達したと判断されると、S19において、S18において判定された最大値dMAXとS13において求められた安静時の動脈血管29aの内皮L1の直径である内腔径daとに基づいて、動脈血管29aの内皮機能を評価するための虚血反応性充血後のFMD(血流依存性血管拡張反応)を表す血管内腔径の拡張率(変化率)R(%)[=100×(dMAX-da)/da]が算出され、表示制御手段92によって、表示装置20に表示される。
【0080】
血管硬さ測定制御手段104に対応する
図24の動脈硬さ測定ルーチンにおいて、S20では、生体圧迫装置18により生体の最高血圧よりも高い圧力まで上腕29に対する圧迫圧PCが高められた後、その圧迫圧PCが所定の速度たとえば3~6mmHg/secで圧迫圧PCを減少させる過程で、超音波断面画像内に示される生体の動脈血管29aの断面が1脈波周期内で開かれた最初の脈波の発生時点の圧迫圧PCが最高血圧値P
SYSとして決定されるとともに、動脈血管29aの断面が1脈波周期内で閉じられなくなったときの脈波の発生時点の圧迫圧PCが最低血圧値P
DIAとして決定された後、圧迫圧PCが解放される。次いで、S21では、上記最高血圧値P
SYSが決定された時点の動脈血管29aの血管径Dsおよび最低血圧値P
DIAが決定された時点の動脈血管29aの血管径Ddが、超音波断面画像内に示される生体の動脈血管29aの断面が測定される。次に、S22において、血圧測定が完了したか否かが判断される。このS22の判断が否定されるうちは、S20以下が繰り返し実行されるが、肯定される場合は、S23において、最高血圧値P
SYSが決定された時点の動脈血管29aの血管径Dsおよび最低血圧値P
DIAが決定された時点の動脈血管29aの血管径Ddが、最高血圧値P
SYSおよび最低血圧値P
DIAと共に記憶される。
【0081】
次に、S24では、前述のスティフネスパラメータ算出式から、前述のS23において記憶された、最高血圧値PSYSが決定された時点の動脈血管29aの血管径Dsおよび最低血圧値PDIAが決定された時点の動脈血管29aの血管径Ddと、最高血圧値PSYSおよび最低血圧値PDIAとに基づいて、動脈血管29aの硬さに対応するスティフネスパラメータβが、算出される。そして、S25では、そのスティフネスパラメータβが、表示装置20に表示される。
【0082】
上述のように、本実施例の内皮機能検査装置10によれば、圧迫帯40を用いて上腕29aに対する圧迫圧PCを制御する圧迫圧制御手段86と、圧迫圧制御手段86に制御される圧迫帯40による圧迫圧PCが生体の最高血圧値PSYSよりも低い状態で発生する、生体の心拍に同期して圧迫圧PCに発生する圧力振動である複数の脈波毎の血流によって動脈血管29aの内皮にずり応力を付与した後、圧迫圧制御手段88に圧迫圧力を解放させるずり応力付与手段88と、圧迫圧制御手段86により圧迫圧力が解放された後に、動脈血管29aの拡張関連値(動脈血管の内腔径d1)の計測を開始し、各拡張関連値に基づいて動脈血管29aの内皮機能を評価する評価値を算出する血管拡張反応評価手段90とが、含まれる。これにより、ずり応力付与手段88は、圧迫圧PCが前記生体の最高血圧値PSYSを下回ってから複数の脈波を発生させることから、動脈血管29aの内腔の断面が脈波一拍毎の最高血圧および最低血圧に応じて開状態および閉状態とされることで、動脈血管29aの内腔が閉じた狭い状態で血液が繰り返し通過させられることおよび血液の通過で乱流が発生させられるので、動脈血管29aの内腔(内膜)に高いずり応力が短時間で付与される。したがって、血管拡張反応評価手段90による動脈血管の拡張関連値の測定精度が向上するとともに、動脈血管29aの内皮機能を精度よく評価することができる。すなわち、信頼性の高い血管の内皮機能検査が可能となる。
【0083】
また、本実施例の内皮機能検査装置10によれば、ずり応力付与手段88は、動脈血管29a内の血流開始時点からの経過時間が予め設定された動脈拡張反応開始時間TASを経過する前に圧迫圧制御手段86に圧迫圧PCを解放させ、血管拡張反応評価手段90は、動脈血管29a内の血流開始時点からの経過時間が予め設定された動脈拡張反応開始時間TASを経過する前に動脈血管29aの拡張関連値の計測を開始する。これにより、血管拡張反応評価手段90は、動脈拡張反応が開始される前に前記動脈血管の拡張関連値の計測を開始するので、動脈血管29aの拡張関連値の測定精度が向上するとともに動脈血管29aの内皮機能を精度よく評価することができる。
【0084】
また、本実施例の内皮機能検査装置10によれば、ずり応力付与手段88は、圧迫圧制御手段86に圧迫帯40の圧迫圧PCを生体の最高血圧値PSYSよりも高い圧まで昇圧させた後に上腕29に対する圧迫圧PCを連続的に降下させる過程で、圧迫圧PCが生体の最高血圧値PSYSを下回ってから発生する複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与時間tELTを経過すると、圧迫圧制御手段86に圧迫圧PCを解放させる。これにより、予め設定されたずり応力付与時間tELT内において発生する複数の脈波により、動脈血管29aの内腔の断面が一拍毎の最高血圧および最低血圧に応じて開状態および閉状態とされることで、動脈血管29aの内腔が閉じた狭い状態で血液が繰り返し通過させられるので、十分な大きさのずり応力が動脈血管29aの内腔(内膜)に短時間で付与される。また、上記予め設定されたずり応力付与時間tELTは、ずり応力に対する動脈血管20aの血管拡張反応の大きさが十分に飽和する値に設定されるので、血管拡張反応評価手段90により得られた評価値の汎用性が高められる。
【0085】
また、本実施例の内皮機能検査装置10によれば、ずり応力付与手段88は、圧迫圧制御手段86に圧迫帯40の圧迫圧PCを生体の最高血圧値PSYSよりも高い圧まで昇圧させた後に上腕29に対する圧迫圧PCを連続的に降下させる過程で、圧迫圧PCが生体の最高血圧値PSYSを下回ってから発生する複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与脈波数NMTの脈波が発生すると、圧迫圧制御手段86に圧迫圧PCを解放させる。これにより、予め設定されたずり応力付与脈波数NMTの複数の脈波により、動脈血管の内腔の断面が一拍毎の最高血圧および最低血圧に応じて開状態および閉状態とされることで、動脈血管29aの内腔が閉じた狭い状態で血液が繰り返し通過させられるので、十分な大きさのずり応力が動脈血管29aの内腔(内膜)に短時間で付与される。また、上記予め設定されたずり応力付与脈波数NMTは、ずり応力に対する動脈血管20aの血管拡張反応の大きさが十分に飽和する値に設定されるので、血管拡張反応評価手段90により得られた評価値の汎用性が高められる。
【0086】
また、本実施例の内皮機能検査装置10によれば、ずり応力付与手段88は、圧迫圧制御手段86に上腕29に対する圧迫圧PCを生体の最高血圧値PSYSよりも低い予め設定された一定圧PHに維持させた状態で、圧迫圧PCが一定圧PHとされてから発生する前記複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与時間tELTが経過すると、圧迫圧制御手段86に圧迫圧PCを解放させる。これにより、予め設定されたずり応力付与時間tELT内において発生する複数の脈波により、動脈血管29aの内腔の断面が一拍毎の最高血圧および最低血圧に応じて開状態および閉状態とされることで、動脈血管29aの内腔が閉じた狭い状態で血液が繰り返し通過させられるので、十分な大きさのずり応力が動脈血管29aの内腔(内膜)に短時間で付与される。また、上記予め設定されたずり応力付与時間tELTは、ずり応力に対する動脈血管20aの血管拡張反応の大きさが十分に飽和する値に設定されるので、血管拡張反応評価手段90により得られた評価値の汎用性が高められる。
【0087】
また、本実施例の内皮機能検査装置10によれば、ずり応力付与手段88は、圧迫圧制御手段86に上腕29に対する圧迫圧PCを生体の最高血圧値PSYSよりも低い予め設定された一定圧PHに維持させた状態で、圧迫圧PCが一定圧PHとされてから発生する複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与脈波数NMTの脈波が発生すると、圧迫圧制御手段86に圧迫圧PCを解放させる。これにより、予め設定されたずり応力付与脈波数NMTの複数の脈波により、動脈血管29aの内腔の断面が一拍毎の最高血圧および最低血圧に応じて開状態および閉状態とされることで、動脈血管29aの内腔が閉じた狭い状態で血液が繰り返し通過させられるので、十分な大きさのずり応力が動脈血管29aの内腔(内膜)に短時間で付与される。また、上記予め設定されたずり応力付与脈波数NMTは、ずり応力に対する動脈血管20aの血管拡張反応の大きさが十分に飽和する値に設定されるので、血管拡張反応評価手段90により得られた評価値の汎用性が高められる。
【0088】
また、本実施例の内皮機能検査装置10によれば、予め設定された一定圧PHは、生体の最高血圧値PSYSよりも低く且つ平均血圧値PMEANよりも高い圧である。このことから、動脈血管29aの内腔の断面が一拍毎の最高血圧および最低血圧に応じて開状態および閉状態とされることから、動脈血管29aの内腔が閉じた狭い状態で血液が繰り返し通過させられるので、一層高いずり応力が付与される。
【0089】
また、本実施例の内皮機能検査装置10によれば、ずり応力付与手段88は、圧迫圧制御手段86に圧迫帯40の圧迫圧PCを生体の最低血圧値PDIAよりも低い圧から連続的に上昇させる過程で、圧迫圧PCが生体の最低血圧値PDIAを上回ってから発生する複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与時間tELTが経過すると、圧迫圧制御手段86に圧迫圧PCを解放させる。これにより、予め設定されたずり応力付与時間tELT内において発生する複数の脈波により、動脈血管29aの内腔の断面が一拍毎の最高血圧および最低血圧に応じて開状態および閉状態とされることで、動脈血管29aの内腔が閉じた狭い状態で血液が繰り返し通過させられるので、十分な大きさのずり応力が動脈血管29aの内腔(内膜)に短時間で付与される。また、上記予め設定されたずり応力付与時間tELTは、ずり応力に対する動脈血管20aの血管拡張反応の大きさが十分に飽和する値に設定されるので、血管拡張反応評価手段90により得られた評価値の汎用性が高められる。
【0090】
また、本実施例の内皮機能検査装置10によれば、ずり応力付与手段88は、圧迫圧制御手段86に圧迫帯40の圧迫圧PCを生体の最低血圧値PDIAよりも低い圧から連続的に上昇させる過程で、圧迫圧PCが生体の最低血圧値PDIAを上回ってから発生する複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与脈波数NMTの脈波が発生すると、圧迫圧制御手段86に圧迫圧PCを解放させる。これにより、予め設定されたずり応力付与脈波数NMTの複数の脈波により、動脈血管29aの内腔の断面が一拍毎の最高血圧および最低血圧に応じて開状態および閉状態とされることで、動脈血管29aの内腔が閉じた狭い状態で血液が繰り返し通過させられるので、十分な大きさのずり応力が動脈血管29aの内腔(内膜)に短時間で付与される。また、上記予め設定されたずり応力付与脈波数NMTは、ずり応力に対する動脈血管20aの血管拡張反応の大きさが十分に飽和する値に設定されるので、血管拡張反応評価手段90により得られた評価値の汎用性が高められる。
【0091】
また、本実施例の内皮機能検査装置10は、上腕29の一部に巻回されてその上腕29の一部を締めつけるための環状の圧迫帯18とその圧迫帯40の一部において上腕29の一部に密着可能に設けられた超音波透過板材26とその圧迫帯18の張力を調節して超音波透過板材26の上腕29に対する圧迫圧PCを変化させることが可能な膨張袋(アクチュエータ)42とを有する生体圧迫装置18と、超音波透過板材26によって閉じられた開口24を有し、オイル28が充填された密閉容器16と、密閉容器16内に収容され、超音波透過板材26を通して上腕動脈29aとの間で超音波を授受する超音波プローブ14と、超音波プローブ14に受信された超音波信号に基づいて超音波断面画像を生成する超音波信号処理部84とを、含む超音波断面画像測定装置を備えており、この超超音波断面画像測定装置によれば、生体圧迫装置18により圧迫されている上腕29内の断面画像が正確に得られる。すなわち、環状の圧迫帯18により上腕20の一部が固定されるので体動の影響が回避されるとともに、生体圧迫装置18の超音波透過板材26による上腕29の圧迫部位と超音波プローブ14により超音波透過板材26を通して得られる上腕29内の断面画像の位置とが一致するので、生体圧迫装置18による圧迫圧PCに対する上腕29内の断面画像の形状が、正確に得られる。
【0092】
また、本実施例の内皮機能検査装置10では、電子制御装置22は、超音波断面画像に基づいて生体圧迫装置18による上腕29の一部に対する圧迫圧PCを変化させるものであることから、超音波断面画像中の上腕29内の動脈血管29aを所望の形状とするように圧迫圧PCを変化させることができる。たとえば、電子制御装置22は、動脈血管29aの断面形状に基づいてその動脈血管29aを圧平状態すなわち平坦形状に潰された状態を判定し、1拍の脈拍周期の一部または全部が圧平状態となるように、生体圧迫装置18による上腕29の一部に対する圧迫圧PCを変化させることができる。
【0093】
また、本実施例の内皮機能検査装置10では、電子制御装置22により、上腕20内の動脈血管29aの血管拡張反応の測定に際して、超音波断面画像に基づいて上腕20内の動脈血管29aの1脈波周期の一部において上腕動脈29aが圧平状態とされる脈拍が所定数持続するように、生体圧迫装置18による上腕29に対する圧迫圧PCが制御される。これにより、上腕動脈29a内において乱流が脈拍に同期して繰り返し発生させられるので、上腕動脈29aの内皮L1に対するずり応力の付与が効率よく行われる。たとえば、上腕動脈29aに対して5分間の阻血した後に解放することによってずり応力が付与される従来のFMD(血流依存性血管拡張反応)測定に比較して、短時間でずり応力の付与が行われる。これにより、FMD測定を短時間で行うことが可能となる。
【0094】
また、本実施例の内皮機能検査装置10では、電子制御装置22により最高血圧値PSYS以下の超音波断面画像に基づいて認識されるが、1脈波周期内において上腕動脈29aが圧平された状態で血流を再開させる脈拍が、たとえば所定数或いは所定時間持続するように、生体圧迫装置18による上腕29に対する圧迫圧PCを制御することで上腕動脈29aにずり応力が与えられた後、生体圧迫装置18による圧迫が解放され、超音波断面画像に基づいて上腕動脈29aの拡径割合(内腔径の拡張率R)が算出されることから、FMD(血流依存性血管拡張反応)測定が、短時間で実行される。
【0095】
また、本実施例の内皮機能検査装置10では、電子制御装置22により、超音波断面画像に基づく上腕29内の上腕動脈29aの形状変化と生体圧迫装置18による圧迫圧PCの変化との割合から上腕動脈29aの血管の固さ(スティフネス)を示す指標が算出され、出力されることから、上腕動脈29aの血管の固さに基づいた診断が可能となる。たとえば、上腕動脈29aにずり応力が与えられた後のその動脈の拡径割合(内腔径の拡張率R)と併せることにより、動脈硬化に対する一層正確な診断が可能となる。
【0096】
(実施例2)
図25は、本発明の他の実施例であって、電子制御装置22の内皮機能検査作動を説明するタイムチャートである。本実施例では、たとえば
図15のタイムチャートにおける時点t0から時点t1までのずり応力付与期間に先立って、生体の最高血圧値P
SYSよりも高い圧力P3で動脈血管20a内を十分に阻血する一定の阻血区間Tkbが設けられている。なお、
図25において、t-3からt-2の区間は超音波画像から動脈を認識するものであり、圧迫圧PCが40mmHg程度の圧P1に設定されている。また、t-2からt-1の区間安静計測区間およびt2~t3のずり応力付与後の計測区間は超音波画像を得るために、圧迫圧PCが20mmHg程度の圧P2に設定されている。
【0097】
本実施例の内皮機能検査装置10によれば、圧迫圧制御手段86は、ずり応力付与手段88によるずり応力の付与に先立って、時点t0から時点t1までのずり応力付与期間よりも短く予め設定された一定の阻血区間Tkbの間、上腕29内の動脈血管29aに対する圧迫圧PCを生体の最高血圧値P
SYSよりも高い圧力P3として動脈血管20a内を十分に阻血するようにしている点、および、圧迫圧PCが予め設定された解放圧PLに到達すると圧迫圧PCを大気に解放する点で、実施例1と比較して主に相違している。上記阻血区間Tkbは、
図19の時点t-1から時点t0までの約10秒程度の区間である。また、ずり応力付与期間の開始時点t0から計測開始時点t2までの区間は、約17秒程度に設定されており、動脈血管29a内の血流開始時点からの経過時間が予め設定された動脈拡張反応開始時間T
ASを経過する前に、血管拡張反応評価手段90による動脈血管29aの拡張関連値の計測が開始されるように制御プログラムが設定されている。
【0098】
上記予め設定された一定の阻血区間Tkbは、圧迫帯40による圧迫部位の下流側の血液が毛細血管を通して静脈に流れて低下することで、上記圧迫帯40の上流側と下流側との間の血圧差を大きくして血流再開時の流速を高めることを意図しているものである。好適には、時間効率を考慮して好適には上記血圧差の飽和値時間に対して時定数たとえば66%程度以下に実験的に定められた値である。さらに、好適には、上記予め設定された一定の阻血区間は、前記ずり応力付与期間或いは前記上記予め設定されたずり応力付与脈波数への到達時間よりも短く設定される。
【0099】
本実施例によれば、圧迫帯40に押圧される上腕29内の動脈血管29aがずり応力の付与に先立って十分に阻血されるので、ずり応力付与手段88によりずり応力が付与されるに際して、圧迫帯40の上流側と下流側との血圧差が大きくされるので、動脈血管29a内を通過する血液の流速が一層高められてその動脈血管29aの内腔(内膜)に高いずり応力が付与される。
【0100】
(実施例3)
図26は、本発明の他の実施例の生体圧迫装置を説明する斜視図である。前述の実施例の圧迫帯40は、密閉容器16の開口24を塞ぐ超音波透過板材26と、その密閉容器16の開口24の上側開口縁および下側開口縁に可撓性ベルト38とから構成されていたが、本実施例の圧迫帯110は、互いに平行な一対のロッド112とそれら一対のロッド112の両端部を一体的に連結する連結部材114とから成る矩形の枠部材116と、膨張袋118を内部に備えて枠部材116の一対のロッド112に巻き付けられた状態でそれぞれ両端部が装着された長手袋状の可撓性ベルト120とから構成されている。可撓性ベルト120の一方の端部は、一方のロッド112から折り返されて、図示しないファスナにより可撓性ベルト120の外周面に着脱可能に固定されている。本実施例の圧迫帯110を用いる場合には、超音波プローブ14と同様の、互いに平行に設けられた第1短軸用超音波アレイ探触子Aおよび第2短軸用超音波アレイ探触子Bと、それら第1短軸用超音波アレイ探触子Aおよび第2短軸用超音波アレイ探触子Bの長手方向の中央部間にそれらと直交して位置するように設けられた長軸用超音波アレイ探触子Cとを有するがオペレータの手により支持される型式の超音波プローブ122が、枠部材116により上腕29の圧迫部位に形成された窓口を通して、上腕29の動脈血管29aの直上部位に直接押圧される。
【0101】
本実施例の圧迫帯110および超音波プローブ122によれば、前述の実施例1と同様に、膨張袋118の圧力制御が行なわれるとともに超音波プローブ122の出力信号が処理されることで、前述の実施例1と同様の効果が得られる。
【0102】
(実施例4)
図27は、本発明の他の実施例の生体圧迫装置124を説明する断面図である。
図27において、生体圧迫装置124は、円筒状の圧迫容器126と、圧迫容器126の両端に設けられた可撓性環状膜128aおよび128bと130aおよび130bとを備えている。可撓性環状膜128aおよび128bと130aおよび130bにより、圧迫容器126内に通された上腕29と圧迫容器126との間が封止されるようになっている。圧迫容器126に接続された図示しないポンプにより圧迫容器126内の気圧が高められ、図示しない圧力制御弁によってその気圧が調節されることにより、上腕29および上腕29内の動脈血管29aが圧迫されて血流が阻止されるようになっている。圧迫容器126の上部には、上方へ突き出す円筒状の柱状壁132が設けられており、柱状壁132に収容される状態で、超音波プローブ134が上腕29の皮膚に接触するように装着されている。超音波プローブ134は、多軸駆動装置134eを介して圧迫容器126内に装着された超音波アレイ接触子134fを備えている。超音波プローブ134は、前述の超音波プローブ14、122と同様に機能する。
【0103】
本実施例の生体圧迫装置124および超音波プローブ134によれば、前述の実施例1と同様に、圧迫容器126内の圧力制御が行なわれるとともに超音波プローブ134の出力信号が処理されることで、前述の実施例1と同様の効果が得られる。
【0104】
(実施例5)
図28は、本発明の他の実施例の密閉容器144および生体圧迫装置148を説明する断面図である。本実施例の密閉容器144および生体圧迫装置148は、
図4の実施例に比較して、超音波透過板材26が可撓性超音波透過板材146に替えられている点で相違し、その他は同様に構成されている。本実施例では、
図28の可撓性超音波透過板材146は、たとえばポリエチレンジェルパッドから構成されており、可撓性を有している。本実施例においても、可撓性超音波透過板材146は、生体の右上腕29を圧迫するための生体圧迫装置148の一部を構成している。生体圧迫装置148では、生体の右上腕29が圧迫帯40により巻回された状態で膨張袋42が圧縮空気の供給によって膨張させられると、圧迫帯40の張力が高められると同時に、生体の右上腕29が可撓性超音波透過板材146に押しつけられ、生体の右上腕29が可撓性超音波透過板材146によって圧迫されるようになっている。本実施例によれば、虚像や歪みのない鮮明な超音波画像がえられる。
【0105】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0106】
たとえば、前述の実施例において、拡張関連値として、動脈血管29aの内腔径d1が用いられていたが、動脈血管29aの外径や動脈血管内の血流量等が用いられても差し支えない。要するに、動脈血管29aの拡張に関連して変化するパラメータであればよい。
【0107】
また、前述の実施例では、生体圧迫装置18は上腕29の一部に対して圧迫を加えるものであったが、生体の前腕や、生体の大腿部のような下肢等の生体の一部であれば、いずれの部位であってもよい。
【0108】
また、前述の実施例では、圧迫帯40に圧迫圧PCを発生させるために、圧縮流体である空気が供給されていたが、それに替えて、非圧縮流体たとえば水、油が用いられても差し支えない。
【0109】
また、前述の実施例において、圧迫帯40は、密閉容器16の開口24の上側開口縁および下側開口縁に両端部がそれぞれ取り付けられ、且つ膨張袋42が内側に装着された可撓性ベルト38を有し、超音波透過板材26との間で上腕29に圧迫圧PCを与えるように構成されていたが、上腕29の全周に巻回される形式のものであってもよい。この場合の超音波プローブ14は、圧迫帯40の上流側または下流側において動脈血管29aの直上部位を直接押圧する位置に、設けられる。
【0110】
また、前述の実施例では、超音波断面画像から得られた動脈血管29aの内腔径d1のずり応力付与前後の変化率に基づいて動脈血管29aの拡張反応が評価されていたが、動脈血管29aの内腔径に関係する脈波振幅の変化に基づいて動脈血管29aの拡張反応が評価されてもよい。
【0111】
また、前述の実施例では、動脈血管29a内の血流開始時点から予め設定された動脈拡張反応開始時間TASが経過する前に、ずり応力の付与が終了し且つ動脈血管29aの拡張関連値の計測を開始するように構成されていたが、上記動脈血管29a内の血流開始時点に替えて、徐速降圧の開始時点や圧迫圧PCが生体の最高血圧値PSYSを下回った時点が用いられてもよい。このようにしても、圧迫圧PCが生体の最高血圧値PSYSよりも低い状態で発生する、生体の心拍に同期して圧迫圧PCに発生する圧力振動である複数の脈波毎の血流によって動脈血管20aの内皮にずり応力が付与されるので、一応の効果が得られる。
【0112】
また、前述の実施例では、たとえば最高血圧値PSYSを下回ってから発生する複数の脈波のうちの最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与時間tELTが経過すること、或いは、最初の脈波の発生時点から予め設定されたずり応力付与脈波数NMTの脈波が発生することに基づいて、圧迫圧制御手段86にずり応力の付与を終了させる急速降圧を開始するように構成されていたが、それに替えて、圧迫圧PCが生体の最低血圧PDIAを下回った時点や、最低血圧PDIAよりも低いたとえば40mmHg程度の値を圧迫圧PCが下まわった点で急速降圧を開始するようにしてもよい。このようにしても、圧迫圧PCが生体の最高血圧値PSYSよりも低い状態で発生する、生体の心拍に同期して圧迫圧PCに発生する圧力振動である複数の脈波毎の血流によって動脈血管20aの内皮にずり応力が付与されるので、一応の効果が得られる。
【0113】
また、前述の超音波プローブ14は、互いに平行な2列の第1短軸用超音波アレイ探触子A及び第2短軸用超音波アレイ探触子Bと、それらの長手方向中央部を連結する長軸用超音波アレイ探触子Cとを一平面に有して成るH型のハイブリッド型の超音波プローブであったが、一平面内において長手方向が交差する少なくとも一対の超音波アレイ探触子を有するものであればよい。上記一対の超音波アレイ探触子の交差角は、直角が好ましいが、やや計算が複雑となることが許容される場合には、必ずしも直角でなくてもよい。
【0114】
また、前述の実施例の圧迫帯40には膨張袋42がアクチュエータとして備えられていたが、それに替えて、エヤーシリンダやモータなどのアクチュエータが備えられていてもよい。
【0115】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0116】
10:内皮機能検査装置
12:基台
14、122:超音波プローブ
16、144:密閉容器
18、124、148:生体圧迫装置
20:表示装置
22:電子制御装置(制御装置)
24:開口
26:超音波透過板材(生体圧迫装置)
29:上腕(生体)
29a:動脈血管
38、120:可撓性ベルト
40、110:圧迫帯(生体圧迫装置)
42、118:膨張袋
62:カフ
64:圧力センサ
86:圧迫圧制御手段
88:ずり応力付与手段
90:血管拡張反応評価手段
92:表示制御手段
102:血管拡張率測定手段
128a、128b:可撓性環状膜(生体圧迫装置)
130a、130b:可撓性環状膜(生体圧迫装置)
146:可撓性超音波透過板材(生体圧迫装置)
PC:圧迫圧
Tkb:阻血区間
TAS:動脈拡張反応開始時間