(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】ラックギヤ取付け構造およびラックギヤ
(51)【国際特許分類】
F16H 19/04 20060101AFI20220207BHJP
【FI】
F16H19/04 Z
(21)【出願番号】P 2020528637
(86)(22)【出願日】2018-07-05
(86)【国際出願番号】 JP2018025574
(87)【国際公開番号】W WO2020008604
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2020-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 雄大
(72)【発明者】
【氏名】長井 啓
(72)【発明者】
【氏名】小野 泰史
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-032034(JP,A)
【文献】実開昭63-092860(JP,U)
【文献】特開平07-208571(JP,A)
【文献】特開2007-171350(JP,A)
【文献】登録実用新案第3110937(JP,U)
【文献】特開2017-096489(JP,A)
【文献】特開2017-032078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力を加えて変形が矯正された状態で、ラックギヤが所定のラックギヤ取付け面に
締結ボルトによって取り付けられているラックギヤ取付け構造であって、
前記ラックギヤは、
直線状に延びるラック本体部材と、
前記ラック本体部材の外周側面に、その長さ方向に形成したラック歯列と、
前記ラック本体部材における前記ラック歯列が形成されている部位とは異なる部位を、前記長さ方向に沿って、所定の間隔で分断している複数条の溝と、
前記ラック本体部材において前記長さ方向に沿って所定の間隔で形成した前記締結ボルトの取付け穴と、
を有しており、
前記溝は、前記ラック本体部材において、前記取付け穴の近傍では第1間隔で形成され、前記取付け穴から遠い部分では前記第1間隔とは異なる第2間隔で形成されていることを特徴とするラックギヤ取付け構造。
【請求項2】
外力を加えて変形が矯正された状態で、ラックギヤが所定のラックギヤ取付け面に締結ボルトによって取り付けられているラックギヤ取付け構造であって、
前記ラックギヤは、
直線状に延びるラック本体部材と、
前記ラック本体部材の外周側面に、その長さ方向に形成したラック歯列と、
前記ラック本体部材における前記ラック歯列が形成されている部位とは異なる部位を、前記長さ方向に沿って、所定の間隔で分断している複数条の溝と、
前記ラック本体部材において前記長さ方向に沿って所定の間隔で形成した前記締結ボルトの取付け穴と、
を有しており、
前記溝および前記取付け穴は、それぞれ、前記長さ方向に直交する方向に延びており、
前記溝は、前記長さ方向において隣接する前記取付け穴の間のそれぞれに、複数条形成されており、
前記長さ方向において前記取付け穴の両側に位置する2条の前記溝の間隔は第1間隔であり、
前記長さ方向において隣接する前記取付け穴の間に位置する複数条の前記溝の間隔は、前記第1間隔よりも狭い第2間隔であるラックギヤ取付け構造。
【請求項3】
請求項2において、
前記ラック本体部材は矩形断面の部材であり、
前記ラック本体部材の4つの外周側面を第1~第4側面とすると、前記ラック歯列は前記第1側面に形成されており、
前記溝は、前記第3側面に開口し、前記第3側面における前記長さ方向に直交する幅方向の全幅に亘って形成されており、
前記溝の前記幅方向の両側の溝端は、前記第2側面および前記第4側面に開口しているラックギヤ取付け構造。
【請求項4】
請求項3において、
前記溝は、溝幅よりも溝深さが大きい長方形断面の溝であり、前記第1側面に向かって前記第3側面から垂直に延びているラックギヤ取付け構造。
【請求項5】
請求項2に記載のラックギヤ取付け構造に用いるラックギヤであって、
前記ラックギヤは、
直線状に延びるラック本体部材と、
前記ラック本体部材の外周側面に、その長さ方向に形成したラック歯列と、
前記ラック本体部材における前記ラック歯列が形成されている部位とは異なる部位を、前記長さ方向に沿って、所定の間隔で分断している複数条の溝と、
前記ラック本体部材において前記長さ方向に沿って所定の間隔で形成した前記締結ボルトの取付け穴と、
を有しており、
前記溝および前記取付け穴は、それぞれ、前記長さ方向に直交する方向に延びており、
前記溝は、前記長さ方向において隣接する前記取付け穴の間のそれぞれに、複数条形成されており、
前記長さ方向において前記取付け穴の両側に位置する2条の前記溝の間隔は第1間隔であり、
前記長さ方向において隣接する前記取付け穴の間に位置する複数条の前記溝の間隔は、前記第1間隔よりも狭い第2間隔である
前記ラック本体部材の4つの外周側面を第1~第4側面とすると、前記ラック歯列は前記第1側面に形成されており、
前記溝は、前記第3側面に開口し、前記第3側面における前記長さ方向に直交する幅方向の全幅に亘って形成されており、
前記溝の前記幅方向の両側の溝端は、前記第2側面および前記第4側面に開口しているラックギヤ。
【請求項6】
請求項5において、
前記溝は、溝幅よりも溝深さが大きい長方形断面の溝であり、前記第1側面に向かって前記第3側面から垂直に延びているラックギヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラック・ピニオン機構に関し、更に詳しくは、ラックギヤの取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ラック・ピニオン機構の構成部品であるラックギヤは、その製造工程中に、反り・曲がり等の変形が生じる。例えば、焼入れ、焼き戻し等の熱処理工程等において、ラックギヤに変形が生じやすい。変形が生じると、その後のラックギヤの製造工程における加工精度が低下する。精度の低下を防止するために、外力を加えて、変形を矯正した状態で、ラックギヤを所定のラックギヤ取付け面に取り付け、この状態で、歯切り工程、研磨工程、検査工程などを行っている。また、ラックギヤに大きな力を加えて塑性変形させることで、ラックギヤの変形を除去して、実機に搭載している。
【0003】
特許文献1には、ステアリング装置に用いられるラック歯列が形成されたラックシャフトを塑性変形させて歪を除去する方法が提案されている。この方法では、ラックシャフトの両端部に比べて中央部分の断面積を小さくし、ラックシャフトの中央部分のラック歯列の部分に塑性変形用の力を加えて、ラックシャフトの反りを除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ラックギヤは一般に剛性が高いので、外力を加えても変形を確実に矯正できない場合がある。この場合には、変形あるいは歪が部分的に残ったまま、ラックギヤに歯切り加工、研磨加工などが施されてしまう。また、変形あるいは歪が残ったまま、ラックギヤが実機に搭載され、ピニオンギヤとのかみ合いを適切な状態に維持できないなどの弊害が生じることがある。
【0006】
本発明の課題は、ラックギヤの製造工程あるいは使用時(実機搭載時)に、変形が確実に矯正された状態で、ラックギヤを所定のラックギヤ取付け面に取り付け可能なラックギヤ取付け構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、外力を加えて変形が矯正された状態で、ラックギヤを所定のラックギヤ取付け面に取り付けるためのラックギヤ取付け構造であって、
前記ラックギヤは、
直線状に延びるラック本体部材と、
前記ラック本体部材の外周側面に、その長さ方向に形成したラック歯列と、
前記ラック本体部材における前記ラック歯列が形成されている部位とは異なる部位を、当該ラック本体部材の長さ方向に沿って、所定の間隔で分断している複数条の溝と、
を有していることを特徴としている。
【0008】
ラックギヤの加工時、実機に搭載する時には、ボルト等の締結具を用いて、ラックギヤが、基準となるラックギヤ取付け面に締結固定される。複数条の溝を設けて剛性を低下させたラックギヤは、締結具による外力が加わると、比較的容易に変形する。よって、変形が確実に矯正された状態で、ラックギヤをラックギヤ取付け面に締結固定できる。この状態で、歯切り加工、研磨加工等を行うことで、精度良くラックギヤを製造できる。
【0009】
また、ラックギヤは、加工後に、ラックギヤ取付け面から取り外して外力が解除されると、変形した状態に戻る。しかし、次の工程において、外力を加えてラックギヤ取付け面に締結固定すると、前工程と同様に、変形が矯正された状態になる。よって、加工精度が維持される。
【0010】
さらに、実機への搭載時においても、外力を加えて変形を確実に矯正した状態で、実機の側のラックギヤ取付け面に取り付けることができる。よって、ラックギヤを精度良く組み付けることができ、ピニオンギヤとのかみ合い状態も適切な状態に維持できる。また、大きな外力を加えて塑性変形させて変形を除去する工程を必要とせずに、ピニオンギヤを精度良く実機に搭載することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明を適用した送り機構の例を示す説明図である。
【
図2】
図1のラックギヤを示す説明図およびラックギヤの変形状態の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したラックギヤ取付け構造の実施の形態を説明する。
【0013】
図1はラック・ピニオン機構を備えた送り機構の一例を示す説明図である。送り機構においては、本発明を適用したラックギヤ取付け構造が用いられている。送り機構1は、回転アクチュエータ2と、ラック・ピニオン機構3とを備えている。回転アクチュエータ2は、モータ4と、モータ4の回転を減速して出力する減速機5とを備えている。ラック・ピニオン機構3は、回転アクチュエータ2の出力軸に同軸に取り付けたピニオンギヤ6と、ピニオンギヤ6とかみ合っているラックギヤ7と、ラックギヤ取付け面8が形成された機構フレーム9とを備えている。ラックギヤ7は、ラックギヤ取付け面8に、例えば締結ボルト10によって締結固定されている。送り機構1にはラックギヤ取付け構造が備わっており、これにより、機構フレーム9のラック取付け面8に、締結ボルト10の締結力によって、変形が矯正された状態でラックギヤ7が締結固定された状態が形成される。
【0014】
図2(a)は、ラックギヤ7を示す説明図である。ラックギヤ7は、真直に延びる矩形断面のラック本体部材11を備えている。ラック本体部材11の横断面形状は矩形断面に限定されるものではなく、多角形、円形断面であってもよい。ラック本体部材11の外周側面には、その長さ方向11aにラック歯列12が形成されている。ラック本体部材11において、ラック歯列12が形成されている部位とは異なる部位には、当該ラック本体部材11の部位を、ラック本体部材11の長さ方向11aに、所定の間隔で分断している複数条の溝13が形成されている。
【0015】
矩形断面のラック本体部材11における4つの平坦な外周側面を、第1~第4側面21~24と呼ぶものとする。本例では、第1側面21にラック歯列12が形成されている。ラック歯列12においては、長さ方向11aに直交、または所定の角度を有する方向に延びる歯山が、長さ方向11aに、一定のピッチで配列されている。
【0016】
複数条の溝13は、第1側面21とは反対側の第3側面23において、長さ方向11aに沿って等間隔で配列されている。各溝13は、長さ方向11aに直交する幅方向11bに平行、または所定の角度を有して延びている。各溝13は、ラック本体部材11の第3側面23に露出する一定幅の溝開口13aを備え、第3側面23において、幅方向11bの全幅に亘って形成され、その両側の溝端が、第2側面22および第4側面24に開口している。また、溝13は、第3側面23から、ラック歯列12が形成されている第1側面に向かって、第3側面23に垂直に延びる長方形断面をしている。本例の溝13は、第3側面23から第1側面21までの間の距離の略半分の溝深さの溝であり、溝底面部分は湾曲円弧面によって規定されている。
【0017】
ラックギヤ7は例えば次の工程を経て製造される。まず、ラック歯列12および溝13の付いていない矩形断面のラック本体部材11を製造する。このラック本体部材11に溝加工を行って溝13を付ける。また、穴加工を行って締結ボルトの取付け穴14等を付ける。次に、歯切り加工を行って、溝13の付いたラック本体部材11にラック歯列12を付ける。ラック歯列12の付いたラック本体部材11のラック歯列12に研磨工程および熱処理工程(焼入れ、焼きなまし等)を行う。
【0018】
例えば、研磨工程あるいは熱処理工程の前において、ラック歯列12を付けたラック本体部材11には変形が生じている。例えば、
図2(b)に示すように、長さ方向11aにおいて、ラック歯列12が形成された第1側面21の側が僅かに湾曲面となるように、ラック本体部材11に変形が生じる。
【0019】
本例のラックギヤ7には溝13が形成されている。例えば、研磨加工用のラックギヤ取付け面(図示せず)に、締結機構によって、変形状態のラック本体部材11が取り付けられる。締結機構によって外力を加えて変形が矯正された状態で、ラック本体部材11がラックギヤ取付け面に取り付けられる。ラック本体部材11の第3側面23の側の部位は、長さ方向11aに沿って、溝13によって、等間隔に分断されており、剛性が低い。外力を加えることで、変形が確実に矯正された状態でラックギヤ取付け面に取り付けられ、この状態で精度良く加工が行われる。
【0020】
加工後にラックギヤ取付け面からラックギヤ7を取り外すと、外力が除去されるので、再び変形した状態に戻る。しかし、次の加工工程において、外力を加えることで変形が確実に矯正された状態が再現され、ラックギヤ7が精度良く加工される。
【0021】
また、ラックギヤ7の製造においては、外力を加えて塑性変形させて変形を除去する工程を省略することも可能である。この場合、変形が残っている状態のままで、ラックギヤ7が実機に取り付けられる。例えば、
図1に示すように、機構フレーム9のラックギヤ取付け面8に、ラックギヤ7が締結ボルト10等によって締結固定される。ラックギヤ7には溝13が付いているので、締結ボルト10の締結等によってラックギヤ7に加わる外力によって、ラックギヤ7の変形が確実に矯正される。よって、ラックギヤ7は、変形が矯正された状態で精度良くラックギヤ取付け面8に組み付けられ、ピニオンギヤ6に精度良くかみ合った状態を形成できる。
【0022】
なお、本例では、ラックギヤ7に一定幅で一定深さの細長い長方形断面の溝13を形成してある。溝13は長方形以外の断面形状の溝であってもよい。また、溝底面部分は湾曲弧面でなくても良い。例えば、溝開口部から溝底面に向かって先細りの三角形断面の溝でもよい。また、溝13の間隔は等間隔でなくてもよい。例えば、ラックギヤ7の長さ方向11aにおいて、取付け穴14の近傍では溝の間隔を広くし、取付け穴14から遠い部分では溝の間隔を狭くする。これにより、締結ボルトによる締結力が確保され、ラックギヤ7の変形も確実に矯正される。
【0023】
以上説明したように、ラックギヤ7をラックギヤ取付け面8に取り付けるラックギヤ取付け構造において、ラックギヤ7のラック本体部材11には、複数条の溝13が形成されている。溝13は、ラック本体部材11において、ラック歯列12が形成されている部位とは異なる部位を、その長さ方向11aに沿って、所定の間隔で分断している。ラックギヤ7をラックギヤ取付け面8に締結固定すると、ラックギヤ7に加わる締結力によってラックギヤ7の変形が確実に矯正され、この状態で、ラックギヤ取付け面8に取り付けられる。ラックギヤ7に大きな外力を加えて塑性変形させて、ラックギヤの変形を除去する工程等を必要とせずに、ラックギヤ7を精度良く加工でき、また、実機に精度良く組み付けることができる。