IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッドの特許一覧

特許7019289インプラントの安全性のための着色シリコーン
<>
  • 特許-インプラントの安全性のための着色シリコーン 図1
  • 特許-インプラントの安全性のための着色シリコーン 図2
  • 特許-インプラントの安全性のための着色シリコーン 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】インプラントの安全性のための着色シリコーン
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/12 20060101AFI20220207BHJP
   A61L 27/14 20060101ALI20220207BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
A61F2/12
A61L27/14
A61L27/52
【請求項の数】 8
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2016247589
(22)【出願日】2016-12-21
(65)【公開番号】P2017113558
(43)【公開日】2017-06-29
【審査請求日】2019-10-16
(31)【優先権主張番号】14/978,577
(32)【優先日】2015-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・トーマス・ビークラー
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-514472(JP,A)
【文献】特開昭61-100257(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0157180(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0162613(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0098576(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0144748(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0187624(US,A1)
【文献】特表2009-504269(JP,A)
【文献】特表2015-515355(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0371767(US,A1)
【文献】特表2006-514557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/12
A61L 27/14
A61L 27/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳房に埋め込み可能な装置であって、
患者の乳房内に埋め込まれるように構成された中空の生体適合性シェルと、
前記埋め込み可能な装置の特定の形状をとるように前記シェルを充填するように構成された充填材料であって、前記埋め込み可能な装置の周囲の前記乳房の組織から視覚的に区別される、充填材料と、を有し、
前記充填材料はカーボンブラックを含み、該カーボンブラックは、使用される添加剤の量に応じて暗灰色または黒に設定するように構成され、
前記充填材料の色が、赤緑青(RGB)の色相スケールに基づいて4°の色相差だけ前記組織と異なる埋め込み可能な装置。
【請求項2】
前記充填材料が、青色及び紫外線(UV)からなるリストから選択される色を有する光で照射されると光るように適合された蛍光トレーサーを含む、請求項1に記載の埋め込み可能な装置。
【請求項3】
前記充填材料が、前記乳房のサイズ及び輪郭を成形するように構成されている、請求項1に記載の埋め込み可能な装置。
【請求項4】
前記充填材料がシリコーンゲルを含む、請求項1に記載の埋め込み可能な装置。
【請求項5】
乳房に埋め込み可能な装置を製造するための方法であって、
患者の乳房内に埋め込まれるように構成された中空の生体適合性シェルを与えることと、
前記埋め込み可能な装置の特定の形状をとるように構成され、かつ前記埋め込み可能な装置の周囲の前記乳房の組織から視覚的に区別される充填材料で前記シェルを充填することと、を含み、
前記充填材料はカーボンブラックを含み、該カーボンブラックは、使用される添加剤の量に応じて暗灰色または黒に設定するように構成され、
前記充填材料の色が、赤緑青(RGB)の色相スケールに基づいて4°の色相差だけ前記組織と異なる方法。
【請求項6】
前記充填材料がシリコーンゲルを含む、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記充填材料が、青色及び紫外線(UV)からなるリストから選択される色を有する光で照射されると光るように適合された蛍光トレーサーを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記充填材料が、前記乳房のサイズ及び輪郭を成形するように構成されている、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、乳房インプラントに関し、詳細には安全性が向上した乳房インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
乳房インプラントなどの様々な種類のインプラントが広範な治療及び美容用途で使用されている。従来技術の例を以下に示す。
【0003】
その開示内容を参照によって本明細書に援用するところの国際公開第WO 2005/051444号は、例えば、乳房、オトガイ、唇、鼻、頬、及び内因性組織のような軟部組織を再建するうえで有用な装置であって、軟組織インプラントと、抗瘢痕化剤又は抗瘢痕化剤を含む組成物のいずれかとを含む装置について記載している。
【0004】
その開示内容を参照によって本明細書に援用するところの米国特許第7,736,391号は、ヒト患者の体内に埋め込むためのプロテーゼについて記載している。当該プロテーゼは、外側エンベロープと、少なくとも1種類のインプラント充填材料と、徐放性送達媒体中に封入され、かつ担体媒体中に置かれた少なくとも1種類の生体適合性を有する破裂指示薬とを有する。破裂指示薬は、外側エンベロープが破裂した際に外に漏れ出し、送達媒体から放出される際に患者によって検出可能なシグナルを誘発することで、患者による破裂又は破裂が生じそうな状態の検出を可能とする。
【0005】
本特許出願中に参照により援用される文献は、いずれかの用語がこれらの援用文献において本明細書に明確に又は暗示的になされる定義と矛盾する形で定義されている場合には本明細書中の定義のみが考慮されるべきである点を除いて、本出願の一部とみなされるものとする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に述べられる本発明の一実施形態は、中空の生体適合性シェルと充填材料とを含む埋め込み可能な装置を提供する。シェルは、患者の臓器内に埋め込まれるように構成される。充填材料は、埋め込み可能な装置の特定の形状をとるようにシェルを充填するように構成され、埋め込み可能な装置の周囲の臓器の組織から視覚的に区別される。
【0007】
特定の実施形態では、充填材料の色は、少なくとも所定の色相差だけ前記組織と異なる。他の実施形態では、所定の色相差は、赤緑青(RGB)の色相スケールに基づいて4°である。一実施形態では、組織は第1の主要波長を有する第1の色を有し、充填材料は第1の波長と少なくとも所定の波長差だけ異なる第2の主要波長を有する。例示的な一実施形態では、所定の波長差は50nmである。
【0008】
特定の実施形態では、充填材料は、青色及び紫外線(UV)からなるリストから選択される色を有する光で照射されると光るように適合された蛍光トレーサーを含む。他の実施形態では、充填材料は、臓器のサイズ及び輪郭を成形するように構成されている。更なる他の実施形態では、充填材料はシリコーンゲルを含む。
【0009】
一実施形態では、充填材料は、充填材料の色を黒に設定するように構成されたカーボンブラックを含む。別の実施形態では、充填材料は、充填材料の色を白に設定するように構成された硫酸バリウムを含む。
【0010】
本発明の一実施形態によれば、埋め込み可能な装置を製造するための方法であって、患者の臓器内に埋め込まれるように構成された中空の生体適合性シェルを与えることを含む方法が更に提供される。シェルは、埋め込み可能な装置の特定の形状をとるように構成され、かつ埋め込み可能な装置の周囲の臓器の組織から視覚的に区別される充填材料で充填される。
【0011】
本発明の一実施形態によれば、破裂した埋め込み可能な装置の残留物を除去するための方法が更に提供される。本方法は、患者の臓器内で埋め込み可能な装置の破裂を特定することを含む。装置は、中空の生体適合性シェルと、埋め込み可能な装置の特定の形状をとるようにシェルを充填するように構成された充填材料であって、埋め込み可能な装置の周囲の臓器の組織から視覚的に区別される、充填材料と、を有する。臓器は撮像されて組織から視覚的に区別される充填材料の残留物が検出され、残留物が臓器から除去される。
【0012】
以下の本開示の実施形態の詳細な説明を図面と併せ読むことで本開示のより完全な理解が得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に基づく、乳房インプラントの概略的描図である。
図2】本発明の一実施形態に基づく、乳房インプラントの概略的描図である。
図3】本発明の一実施形態に基づく、ヒトの乳房からシリコーンゲルの残留物を可視化して除去するための手技の概略的描図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
概要
乳房インプラントなどの医療用インプラントは、ヒト乳房の切除後の再建、又は美容用途における乳房のサイズ及び輪郭の成形の目的で一般的に使用されている。乳房インプラントは、一般的に、乳房の天然組織(例えば、脂肪又は筋肉組織)の感触と同じである、シリコーンゲルなどの充填材料(埋め込み可能な材料としても知られる)を含んでいる。インプラントは更に、埋め込み可能な材料を封入してヒト乳房内に埋め込まれるように適合された生体適合性シェルを有する。シェルは、通常、周囲の組織と物理的にも化学的にも相互作用しない柔軟な可撓性の材料を含む。シェルは組織の感触と同じになるように設計されており、穿孔に対する耐久性が限定されているために望ましくない。
【0015】
穿孔が生じた場合、破裂した乳房インプラントは、インプラントから周囲の組織へのシリコーンゲルの漏れを防ぐために外科手術によって乳房から摘出しなければならない。破裂したインプラントの多くのケースで、シリコーンゲルの少なくとも一部が破裂したシェルから外に漏れ出て穿孔の周囲の組織中に拡散する。組織とシリコーンゲルとの接触により医学的合併症が引き起こされる。
【0016】
従来の乳房インプラントでは、破裂したインプラントから外に漏れ出たシリコーンゲルの色及び感触は、一般的に周囲組織の色及び感触と似ている。このため、穿孔したインプラントを摘出するために乳房の手術を行う外科医にとって人体組織とゲルとを区別することが困難になることから、外科医がすべての残留ゲルを除去できないか又は乳房の周囲組織に瘢痕を残す恐れがある。
【0017】
本明細書に述べられる本発明の各実施形態は、インプラントシェル内に周囲組織から視覚的に区別可能な充填材料を組み込むことによって乳房インプラントを安全に摘出するための技術を提供するものである。開示される技術は、充填材料と周囲組織との視覚的コントラストを高めることによって、破裂したインプラントの摘出の間又は摘出後の充填材料残留物の完全な除去を可能とするものである。
【0018】
一実施形態では、充填材料の色はそれ自体で周囲組織から区別可能である。別の実施形態では、1種類又は2種類以上の添加着色材料をシリコーンゲルと混合することによって、周囲組織の色と異なる色の充填材料を形成する。例えば、カーボンブラック添加剤はシリコーンゲルの色を黒に変えるものであり、カーボンがゲルの色を透明から周囲の天然の脂肪と異なる色に変える。更に別の実施形態では、ゲルを蛍光トレーサーと混合してもよく、これにより混合物が青色光又は紫外光(UV)の存在下で光る。
【0019】
特定の実施形態では、インプラントの摘出に加えて、漏れ出した充填材料残留物を除去するために低侵襲性の腹腔鏡手術を行うことができる。手術の間に、外科医は、カメラ及び吸引ヘッドを有するカテーテルを乳房内に挿入することができる。カメラは、可視光(例えば、着色添加剤を使用する場合)又は紫外線若しくは青色照明下(例えば、ゲルが蛍光トレーサーと混合されている場合)で作動することにより、充填材料の残留物を検出して吸引ヘッドを用いてこれらの残留物を除去することができる。
【0020】
この開示される技術は、破裂したインプラントの摘出後に、健康を損なう可能性のある材料の残留物を体内から除去することにより、患者の安全性を向上させるものである。更に、これらの技術は、以前のインプラントの位置の周囲の組織に対する余分な内部瘢痕を低減することで、皮膚の外側の瘢痕が小さくなる。更に、開示される技術はインプラント摘出手術に伴う外傷の程度を低減し、患者に生じる痛みを軽減する。最後に、シリコーンゲル残留物の単離を短時間で行うことができるため、手術時間、手術室にいる時間、並びに消費される還流液及び治療薬液の量などの手術室(OR)のリソースの節約につながり、その結果こうした手術のコストが低減される。
【0021】
インプラントの説明
図1は、本発明の一実施形態に基づく、女性の乳房22内に埋め込まれた乳房インプラント20の概略的描図である。
【0022】
乳房22は、乳房22のサイズ及び輪郭を成形するために使用されるプロテーゼであるインプラント20の周囲の天然組織28を含む。インプラント20は、組織28の感触に似せた軟質材料で形成された充填材料であるゲル26を封入したシェル24を有している。ゲルは乳房22のサイズ及び輪郭を成形するように構成されている。ゲル26は、シリコーンゲル、又は乳房22を成形するのに適した他の任意の充填材料を含むことができる。
【0023】
特定の実施形態では、充填材料の色はそれ自体で周囲の乳房組織の色から区別可能である。他の実施形態では、添加着色材料(図に示されていない)をゲル26と混合することによってゲル26の色を乳房組織の色とは区別可能な色に変化させる。一実施形態では、着色材料をカーボンブラックを含むものとすることにより、ゲル26の色を黒(又は使用される添加剤の量に応じて暗灰色)に変化させることができる。別の実施形態では、着色剤は、ゲル26の色を乳白色に変える硫酸バリウムを含むものとすることができる。
【0024】
「区別可能な色」又は「視覚的に区別される」なる用語は、例えば、赤緑青(RGB)の色相スケールを用いて定量化することができる。色相とは、例えば、本明細書に参照によって援用するところのMark Fairchildによる「Color Appearance Models:CIECAM02 and Beyond」、IS&T/SID 12th Color Imaging Conference(2004年バージニア州スプリングフィールドにて開催)によって技術的に定義される一群の色の見え方のパラメータである。
【0025】
色相は、可視光の色範囲全体にわたる極スケールでの角度値として定義することができる。一実施形態では、2つの色相角の間の所定の差を2つの色の差の尺度として用いることができる。ヒトの目は最大で数百の色相を区別することができるが、ヒトの目の感度はスペクトルにわたって変化しうる。例えば、緑の色相に対する感度は一般的に黄色に対する感度よりも高い。色相スケール(360°)を100個の色相で割ることにより、3.6°の確実に区別可能な値が得られる。
【0026】
したがって、一実施形態では、ゲル26の色相角と周囲組織の色相角との差が4°以上の場合には、「視覚的に区別される」とみなされる。別の実施形態では、より控え目な10°以上の色相差を「視覚的に区別される」とみなす。更に別の方法として、他の適当な色相差を用いることもできる。
【0027】
あるいは、通常のヒトの目に見えるスペクトルのスケール(例えば、390~700nmの範囲の波長)を用いて色の差を測定することもできる。例えば、「視覚的に区別される」ためには、充填材料の色の主要波長(例えば、分光計によって測定される)を、周囲組織の色の主要波長と少なくとも50nmの差があるように指定することができる。別の実施形態では、主要波長の他の適当な差を用いることができる。
【0028】
更なる他の実施形態では、ゲル26を、デキストラン、蛍光性ナノ粒子などの生体適合性の蛍光トレーサー(図に示されていない)と混合することができる。ゲル26と蛍光トレーサーとの混合物は、青色又は紫外線(UV)の照明の存在下で光るように構成されている。
【0029】
インプラントの安全性のための着色シリコーンの使用
乳房インプラントなどの成形インプラントは、生体適合性を有しかつ安全であるように設計されている。シェル24は一般的に、周囲組織と相互作用せず、周囲組織を刺激しない材料を含む。シェル24は、ゲル26と組織28との直接的な接触を防止するためにゲル26を封入するように構成されている。シェル24は、埋め込みの後、日常の人間活動において、また、時間の経過とともに、劣化する又は、例えば、尖った物体、強い衝撃、又は他の任意の理由によって乳房22に生じる損傷によって破損する場合がある。
【0030】
その結果、シェル24は破裂する場合があり、シリコーンゲル26がインプラント20から周囲組織28に漏れ出す可能性がある。ゲル26が漏れて組織28と接触すると、患者の健康に危険な状況が生じうる。したがって、破損したインプラント及びシリコーンゲル26のすべての残留物を乳房22から速やかに除去する必要がある。
【0031】
開示される実施形態では、インプラントの充填材料は周囲組織から視覚的に区別可能であるため、ゲル残留物を完全に除去することが可能である。ゲル材料と乳房22の組織28との長期にわたる接触によって医学的合併症が引き起こされる恐れがあるため、ゲル残留物の完全な除去は不可欠である。
【0032】
図2は、本発明の一実施形態に基づく、女性の乳房22内の破裂した乳房インプラント20の概略的描図である。インプラント20は右下の領域で破裂しており、インプラントの外にゲルが漏れ出している。差し込み図29を参照すると、シェル24の破裂30によりゲル26Aがインプラント20から組織28内に漏れ出している。ゲル26Aの組成はゲル26と実質的に同じものであり、インプラントから組織28内に漏れ出したゲル26の部分を示すために26Aとして示されている。
【0033】
漏れ出したゲル26Aは組織28と直接接触しており、特定の実施形態では、ゲルは図1で述べたような添加着色材料を含んでいる。図2に示されるように(及び差し込み図29により詳細に示されるように)、ゲル26Aの色は組織28の色と異なっている。一実施形態では、着色ゲルは、乳房22を切開して対応する領域が可視光に曝された後で手術中に識別することができる。別の実施形態では、低侵襲型カメラを挿入することにより、外科医44が可視光内で着色ゲルを識別することができる。例えば、天然組織28の色は薄灰色に見え、カーボンブラックと混合されたゲル26Aの色は黒又は暗灰色に見える。
【0034】
他の実施形態では、ゲル26Aは蛍光トレーサーを含むことができる。外科医44は、ゲル26Aと組織28とを区別するために青色光又は紫外光(UV)を照射することができ、一実施形態では、蛍光トレーサーと混合されたゲルが青色光又は紫外光(UV)の存在下で光る。
【0035】
別の実施形態では、ゲルは乳房22を切開し、対応する領域を外部から青色光又は紫外光(UV)に曝した後に光る。代替的な一実施形態では、外科医は、青色光又は紫外光(UV)照明を備えた低侵襲型カメラを使用することができ、これにより、ゲル26Aは暗色のままの組織28(又は乳房22内の他のあらゆる組織)と対照をなして光る。
【0036】
図3は、本発明の一実施形態に基づく、ヒトの乳房22からシリコーンゲル26Aの残留物を可視化して除去するための手技の概略的描図である。穿孔したインプラント20が検出されたことに応じて、外科医44は、当該技術分野で周知の任意の適当な除去手技を用いて破裂したインプラントを除去し、乳房22内のゲル26Aの残留物を確認する。
【0037】
図3の例では、外科医44は、腹腔鏡カテーテル32を患者50の乳房22内に挿入する。差し込み図33を参照すると、一実施形態では、カテーテル32は、吸引ヘッド46に取り付けられた低侵襲型カメラ34を備えることができる。別の実施形態では、第1のカテーテルが撮像用であり、第2のカテーテルが吸引又は他の任意の手術動作を行うためのものである2個の別々のカテーテルを使用することができる。カメラ34は、問題とされる領域を照射して、組織28及びゲル26Aの残留物を映すことができるビデオ画像を取得するように構成されている。
【0038】
カメラ34は、この画像(例えば、ビデオフレーム)をケーブル36を介してコンピュータシステム42に送信する。一実施形態では、システム42は、未処理のビデオ信号を処理して問題とされる領域のリアルタイム(RT)ビデオ画像をスクリーン40に提示するように構成されたプロセッサ38を有している。別の実施形態では、外科医44は、入力装置48及びプロセッサ38を使用して、ケーブル54を介して照明システム52を制御することができる。特定の実施形態では、外部照明システムは可視光照明を含むことができる。他の実施形態では、システム52は、可視光照明と組み合わせて、又はこれに代えて、青色光又は紫外光(UV)照明を含むことができる。更なる代替的な実施形態では、システム52は、外科医44に手術中の乳房22の完全な画像を提供するカメラ(図に示されていない)を含むことができる。
【0039】
差し込み図31を参照すると、外科医44が乳房22内にカテーテル32を挿入している。差し込み図31に示されるように、インプラントは乳房22から既に摘出されている。一実施形態では、プロセッサ38は、乳房22の拡張画像をスクリーン40に提示するように構成される。拡張画像は、システム52からの完全な画像とカメラ34によって取得された内部ビデオ画像とのオーバーレイから構成されるものである。図3の例では、乳房22はゲル26Aの残留物を含んでいる。
【0040】
図1及び2の各実施形態で述べたように、ゲル26Aの色は組織28の色と区別可能であり、外科医44はゲル残留物を容易に識別してこれを(差し込み図33に示されるように)カテーテル32を使用して除去することができる。特定の実施形態では、システム52は可視光を用いて外科医に乳房22の完全な画像を提供することができる。カメラ34は、紫外光(UV)を用いて、乳房22内部の対応する位置で光るゲル26Aのオーバーレイ画像を提供することができる。
【0041】
他の実施形態では、プロセッサ38は位置追跡システム(図に示されていない)からカテーテル32の位置を受信して、2つの画像を同期させて乳房22内部のゲル26Aの拡張画像を生成することができる。更なる代替的な実施形態では、外科医44は乳房22を切開して、低侵襲性の方法以外の手術法を使用してゲル26Aを除去することができる。かかる手技は、可視光の存在下(カーボンブラック若しくは硫酸バリウムなどの着色剤を使用し)又は青色光若しくは紫外光(UV)の存在下で行うことができる。
【0042】
プロセッサ38は一般的には、本明細書に述べられる機能を実行するようにソフトウェアでプログラムされた汎用プロセッサで構成されている。ソフトウェアは、例えばネットワークを介して電子形式でコンピュータにダウンロードしてもよく、又は、代替的に若しくは追加的に、磁気、光学、若しくは電子メモリなどの持続性有形媒体上で提供及び/又は格納されてもよい。
【0043】
図1~3は、乳房22内部のゲル26Aの残留物を特定し、組織28又は乳房22の他の任意の組織の一部を切除することなくゲル残留物を安全に除去するための手技を示している。本明細書に述べられる各実施形態は、ふくらはぎ、臀部、又は顔面プロテーゼなどの任意の各臓器内にプロテーゼを埋め込むことを伴う他の用途で使用することができる。
【0044】
インプラント材料は、シリコーンゲル、又はシリコーンゴムなどの他の任意の適当な材料を含むことができる。図1~3に述べた添加着色剤及び蛍光トレーサーはあくまで例として示したものである。代替的な実施形態では、ゲル26は、他の任意の適当な材料を含んでもよく、又はゲル26Aと各臓器の周囲組織とを区別する助けとなりうる任意の適当なマーカー/トレーサー材料と混合することができる。例えば、臓器が高い密度の血管を有している場合、各領域は、切除手術中の大量の出血のために元々赤く染まっている可能性がある。このため、ゲル26の選択される着色剤は白色とする(例えば、硫酸バリウムを使用)か、又は赤色(若しくは血液が脱酸素化されている場合には暗赤色)と大幅に異なる他の任意の適当な色を有するものとすることができる。
【0045】
更に、添加着色剤を、非侵襲性撮像技術を含む特定の医療用撮像技術とともに、ゲル26Aと周囲組織とを区別するために使用することができる。例えば、添加着色剤である硫酸バリウムは放射線不透過性であり、X線透視撮影法又はコンピュータ断層撮影(CT)などのX線放射の存在下で周囲組織から区別することができる。更に、本発明の技術は乳房インプラントに限定されるものではなく、患者の任意の適当な臓器における使用を目的としたインプラントに適用することができる。
【0046】
上記に述べた実施形態は実として挙げたものであり、本発明は上記に具体的に示し、説明したものに限定されない点は理解されよう。むしろ本発明の範囲は、上記に述べた様々な特徴の組み合わせ及び下位の組み合わせ、並びに上記の記載を読むことで当業者により想到されるであろう、従来技術において開示されていない変形例及び改変例を含むものである。
【0047】
〔実施の態様〕
(1) 埋め込み可能な装置であって、
患者の臓器内に埋め込まれるように構成された中空の生体適合性シェルと、
前記埋め込み可能な装置の特定の形状をとるように前記シェルを充填するように構成された充填材料であって、前記埋め込み可能な装置の周囲の前記臓器の組織から視覚的に区別される、充填材料と、を有する、埋め込み可能な装置。
(2) 前記充填材料の色が、少なくとも所定の色相差だけ前記組織と異なる、実施態様1に記載の埋め込み可能な装置。
(3) 前記所定の色相差が、赤緑青(RGB)の色相スケールに基づいて4°である、実施態様2に記載の埋め込み可能な装置。
(4) 前記組織が第1の主要波長を有する第1の色を有し、前記充填材料が前記第1の波長と少なくとも所定の波長差だけ異なる第2の主要波長を有する第2の色を有する、実施態様1に記載の埋め込み可能な装置。
(5) 前記所定の波長差が50nmである、実施態様4に記載の埋め込み可能な装置。
【0048】
(6) 前記充填材料が、青色及び紫外線(UV)からなるリストから選択される色を有する光で照射されると光るように適合された蛍光トレーサーを含む、実施態様1に記載の埋め込み可能な装置。
(7) 前記充填材料が、前記臓器のサイズ及び輪郭を成形するように構成されている、実施態様1に記載の埋め込み可能な装置。
(8) 前記充填材料がシリコーンゲルを含む、実施態様1に記載の埋め込み可能な装置。
(9) 前記充填材料が、前記充填材料の色を黒に設定するように構成されたカーボンブラックを含む、実施態様1に記載の埋め込み可能な装置。
(10) 前記充填材料が、前記充填材料の色を白に設定するように構成された硫酸バリウムを含む、実施態様1に記載の埋め込み可能な装置。
【0049】
(11) 埋め込み可能な装置を製造するための方法であって、
患者の臓器内に埋め込まれるように構成された中空の生体適合性シェルを与えることと、
前記埋め込み可能な装置の特定の形状をとるように構成され、かつ前記埋め込み可能な装置の周囲の前記臓器の組織から視覚的に区別される充填材料で前記シェルを充填することと、を含む方法。
(12) 前記充填材料の色が、少なくとも所定の色相差だけ前記組織と異なる、実施態様11に記載の方法。
(13) 前記所定の色相差が、赤緑青(RGB)の色相スケールに基づいて4°である、実施態様12に記載の方法。
(14) 前記組織が第1の主要波長を有する第1の色を有し、前記充填材料が前記第1の波長と少なくとも所定の波長差だけ異なる第2の主要波長を有する第2の色を有する、実施態様11に記載の方法。
(15) 前記所定の波長差が50nmである、実施態様14に記載の方法。
【0050】
(16) 前記充填材料がシリコーンゲルを含む、実施態様11に記載の方法。
(17) 前記充填材料が、青色及び紫外線(UV)からなるリストから選択される色を有する光で照射されると光るように適合された蛍光トレーサーを含む、実施態様11に記載の方法。
(18) 前記充填材料が、前記臓器のサイズ及び輪郭を成形するように構成されている、実施態様11に記載の方法。
(19) 破裂した埋め込み可能な装置の残留物を除去するための方法であって、
患者の臓器内で埋め込み可能な装置の破裂を特定することであって、前記装置が、
中空の生体適合性シェルと、
前記埋め込み可能な装置の特定の形状をとるように前記シェルを充填するように構成された充填材料であって、前記埋め込み可能な装置の周囲の前記臓器の組織から視覚的に区別される、充填材料と、を有する、ことと、
前記臓器を撮像して組織から視覚的に区別される前記充填材料の残留物を検出することと、
前記臓器から前記残留物を除去することと、を含む方法。
(20) 前記臓器を撮像することが、低侵襲性の撮像法を適用することを含む、実施態様19に記載の方法。
【0051】
(21) 前記充填材料が、青色及び紫外線(UV)からなるリストから選択される色を有する光で照射されると光るように適合された蛍光トレーサーを含み、前記臓器を撮像することが前記臓器に前記光を照射することを含む、実施態様19に記載の方法。
図1
図2
図3