(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】排水管構造
(51)【国際特許分類】
E03C 1/122 20060101AFI20220207BHJP
【FI】
E03C1/122 Z
(21)【出願番号】P 2017022462
(22)【出願日】2017-02-09
【審査請求日】2020-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000201582
【氏名又は名称】前澤化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】間篠 亘也
(72)【発明者】
【氏名】北澤 卓也
【審査官】広瀬 杏奈
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-302743(JP,A)
【文献】特開2013-204363(JP,A)
【文献】特開平05-156676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/12-1/126
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水を排出する排水管構造であって、
前記排水管構造の管路途中に位置する断面視で略V字状の整流部を備え、
前記整流部は、曲管部
のうち上流側接続口側の端部および下流側接続口側の端部を除いた少なくとも一部の領域に設けられている
ことを特徴とする排水管構造。
【請求項2】
便器からの排水を排出する排水管構造であって、
前記便器に接続する縦管部と、
この縦管部の下流側に接続する第1屈曲部と、
この第1屈曲部の下流側に接続する第2屈曲部とを備え、
前記第1屈曲部は、
上流側の端部に位置する上流側接続口と、
下流側の端部に位置する下流側接続口と、
前記上流側接続口と前記下流側接続口との間に位置する曲管部とを有し、
少なくとも前記縦管部から前記第2屈曲部に至る管路の一部である
前記曲管部
のうち、前記上流側接続口側の端部および前記下流側接続口側の端部を除いた少なくとも一部の領域には、断面視で略V字状の整流部が設けられている
ことを特徴とする排水管構造。
【請求項3】
便器からの排水を排出する排水管構造であって、
前記便器に接続する縦管部と、
この縦管部の下流側に接続し、前記縦管部の下流側の端部から屈曲する第1屈曲部と、
この第1屈曲部の下流側に接続し、前記第1屈曲部の下流側の端部から略水平方向に屈曲する第2屈曲部とを備え、
前記第1屈曲部は、
上流側の端部に位置する上流側接続口と、
下流側の端部に位置する下流側接続口と、
前記上流側接続口と前記下流側接続口との間に位置し、内周面に断面視で略V字状の整流部
が設けられた曲管部とを有し、
前記整流部は、前記曲管部のうち前記上流側接続口側の端部および前記下流側接続口側の端部を除いた少なくとも一部の領域に設けられ、かつ、通過する排水が突き当たる側に位置する円弧状の底面と、この底面の両側に位置するとともに当該底面とは異なる円弧状の側面とを有する
ことを特徴とする排水管構造。
【請求項4】
第1屈曲部は、
側面視で円弧状に屈曲した曲管部の曲率半径が100mm以上140mm以下であ
り、
整流部は、側面視で円弧状に屈曲している
ことを特徴とする請求項2または3記載の排水管構造。
【請求項5】
第1屈曲部と第2屈曲部とは、前記第1屈曲部の下流側軸心と前記第2屈曲部の上流側軸心とが一致する長さが120mm以下であ
り、
前記第1屈曲部の上流側接続口および下流側接続口は、いずれも略円筒状に形成されている
ことを特徴とする請求項2ないし4のいずれか一記載の排水管構造。
【請求項6】
整流部は、曲管部の底側に設けられ
、
前記曲管部のうち上流側の領域は、略円筒状の上流側接続口側に向かって拡径状に形成され、
前記曲管部のうち下流側の領域は、略円筒状の下流側接続口側に向かって拡径状に形成されている
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一記載の排水管構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器からの排水を排出する排水管構造に関する。
【背景技術】
【0002】
水洗式の便器には、様々な排水方式や洗浄水量を備えた製品がある。
【0003】
例えば1970年代頃は、大便における洗浄水量を12~16Lとした便器が販売されており、時代とともに洗浄水量が減少し、2000年頃からは洗浄水量を6~8Lとした便器(以下、従来型便器という。)が販売されるようになった。
【0004】
現在では、洗浄水量を5L以下にした節水型便器の普及が進んでいる。
【0005】
また、洗浄水を貯めるロータンクを備えていない、いわゆるタンクレス式の節水型便器も、その清掃容易性やコンパクト性により人気を集めており、今後の普及が期待されている。
【0006】
いずれの便器においても、便器の便鉢内に排泄された汚物は、トイレットペーパーとともに洗浄水によって下流側の排水管へ押し出されるように搬送されて、排出される。
【0007】
そして、便器の排水方式や洗浄水量の違いによっては、排水管における汚物等の搬送性能に差が生じることがある。
【0008】
洗浄水量が12L以上である便器が主流であった時代には、便器毎に搬送性能に差が生じたとしても、洗浄水量が多く排水管内で汚物等の詰まりが生じることは殆ど無かったが、洗浄水量の減少にともなって、汚物等の詰まりが懸念されるようになってきた。
【0009】
そこで、一般財団法人ベターリビングにより、2001年に「優良住宅部品性能試験方法書(便器)」が規定された。また、この優良住宅部品性能試験方法書(便器)では、「便器の搬送性能試験」が汚物等の搬送性能の評価基準として規定され、この搬送性能試験による基準(旧BL基準)を満たす便器が、一定水準以上の搬送性能の満たす便器として認知されている。
【0010】
この旧BL基準は2011年に改正され、搬送メディアの負荷が軽減された新たな基準(新BL基準)に変更されている。
【0011】
そして、現在では、搬送物の詰まりの報告が増加しており、その中でも、新BL基準に基づいた排水管構造を有する節水型便器で詰まりが発生することが多い。
【0012】
なお、現実の利用においては、汚物やトイレットペーパー等の搬送物の量は、トイレ使用者によって差があるため、完全に搬送物の詰まりを防止することは不可能であり、そもそも適正な搬送性能の基準をどのように決めるかは非常に難しい問題である。
【0013】
しかしながら、旧BL基準と新BL基準との詰まりの発生状況を比較すると、より負荷の大きい旧BL基準を満たす構成が好ましいのは明らかである。
【0014】
現在では、新築住宅においては節水型便器が採用される場合が多いものの、排水管構造自体は従来のものが採用される。
【0015】
また、リフォームを行なう際においても、便器は従来型便器から節水型便器に交換するものの、床下の排水管構造まで変更することは少ない。
【0016】
ここで、例えば節水型便器等に接続する排水管構造において、搬送性能を向上させたものとしては、例えば特許文献1ないし特許文献3の構成が知られている。
【0017】
特許文献1の排水管構造は、水位が低下した低水時における搬送性能を向上するために、例えば排水管の形状を卵形にすることで、低水時にも水深を確保する構成や、排水管の底部に凹凸を設けることで汚物等の搬送物の付着を防止する構成である。
【0018】
特許文献2の排水管構造は、便器直下の縦管部に整流面を有する突起(突条)を設けることで、排水に生じる乱流を抑える構成である。
【0019】
特許文献3の排水管構造は、便器直下の縦管部の内周面に凹部(凹所)または膨出部を設けることで、縦管部の中心を通過する搬送物や排水に対して、縦管部の内周面に沿って通過する排水が凹部または膨出部を伝うように流動し、排水がまとまって通過しないように排水流動時間を引き延ばす構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】実開平1-152187号公報
【文献】特開2014-88754号公報
【文献】特開2014-145211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、上述の特許文献1の構成では、同じ洗浄水量を流した場合に、通常の円形の排水管における水深よりも深くなるが、洗浄水量を5L以下まで低減した節水型便器では、排水管の形状を卵形にしただけでは、十分な水深を確保できず、十分な搬送性能を奏さない可能性がある。
【0022】
また、特許文献2の構成では、汚物等の搬送物が突起に直撃することで流動する排水に大きな乱流が生じる可能性や、汚物が突起に引っ掛かるように堆積して詰まりが生じる可能性が考えられる。
【0023】
さらに、特許文献3の構成では、排水流動時間を引き延ばすだけであるため、搬送性能の根本的な改良とはならず、節水型便器等では十分な搬送性能を得ることができないと考えられる。
【0024】
したがって、例えば節水型便器等に適用した場合であっても、旧BL基準を満たすように搬送性能が良好な排水管構造が求められていた。
【0025】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、搬送性能を向上できる排水管構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
請求項1に記載された排水管構造は、排水を排出する排水管構造であって、前記排水管構造の管路途中に位置する断面視で略V字状の整流部を備え、前記整流部は、曲管部に設けられているものである。
【0027】
請求項2に記載された排水管構造は、便器からの排水を排出する排水管構造であって、前記便器に接続する縦管部と、この縦管部の下流側に接続する第1屈曲部と、この第1屈曲部の下流側に接続する第2屈曲部とを備え、少なくとも前記縦管部から前記第2屈曲部に至る管路の一部である曲管部には、断面視で略V字状の整流部が設けられているものである。
【0028】
請求項3に記載された排水管構造は、便器からの排水を排出する排水管構造であって、前記便器に接続する縦管部と、この縦管部の下流側に接続し、前記縦管部の下流側の端部から屈曲する第1屈曲部と、この第1屈曲部の下流側に接続し、前記第1屈曲部の下流側の端部から略水平方向に屈曲する第2屈曲部とを備え、前記第1屈曲部は、曲管部の内周面に断面視で略V字状の整流部を有するものである。
【0029】
請求項4に記載された排水管構造は、請求項2または3記載の排水管構造において、第1屈曲部は、屈曲における曲率半径が100mm以上140mm以下であるものである。
【0030】
請求項5に記載された排水管構造は、請求項2ないし4のいずれか一記載の排水管構造において、第1屈曲部と第2屈曲部とは、前記第1屈曲部の下流側軸心と前記第2屈曲部の上流側軸心とが一致する長さが120mm以下であるものである。
【0031】
請求項6に記載された排水管構造は、請求項1ないし5のいずれか一記載の排水管構造において、整流部は、曲管部の底側に設けられているものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、搬送性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る排水管構造の構成を示す斜視図である。
【
図2】同上排水管構造の第1屈曲部の断面を模式的に示す断面図である。
【
図3】同上排水管構造の第1屈曲部を示す側面図である。
【
図5】(a)は本実施例における第1エルボでの排水の跳ね上がりを示す写真であり、(b)は比較例における90度大曲がりエルボでの排水の跳ね上がりを示す写真である。
【
図6】(a)は本実施例において第3エルボから下流側7mの位置を通過するトイレットペーパーの状態を示す写真であり、(b)は比較例において第3エルボから下流側7mの位置を通過するトイレットペーパーの状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一実施の形態の構成について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0035】
図1において、1は排水管構造で、この排水管構造1は、例えば節水型便器等の図示しない水洗式の便器に接続し、便器からの洗浄水等の排水とともに、汚物等の搬送物を搬送して排出する。
【0036】
排水管構造1は、便器に接続する呼び径75mmの縦管部2と、この縦管部2の下流側に接続する呼び径75mmの第1屈曲部としての第1エルボ3と、この第1エルボ3の下流側に接続する第2屈曲部としての第2エルボ4と、この第2エルボ4の下流側に接続する水平管部5とを備えている。
【0037】
なお、呼び径とは、JIS規格における配管の外径寸法を示す。
【0038】
そして、便器からの汚物等の搬送物は、縦管部2から第1エルボ3および第2エルボ4を介して水平管部5を通過する排水の流動によって搬送されて、屋外の排水主管へ排出される。
【0039】
ここで、一般的に便器からの排水の流動による搬送物の搬送には、次のような現象が生じている。
【0040】
便器からの排水および搬送物に対して、便器からの排出の勢いと、縦管部2の落差による位置エネルギーとが排出初期の搬送エネルギーとなる。
【0041】
そして、この搬送初期の搬送エネルギーは、搬送物や排水の配管内での摩擦等により徐々に低下する。
【0042】
しかし、略水平な水平管部5は、実際には空気調和・衛生工学会規格(SHASE-S206)における排水横管の所定の勾配(例えば配管勾配1/100)で設置しているため、その勾配による位置エネルギーが最終的な搬送エネルギーとなって搬送が続く。
【0043】
この水平管部5での搬送の際には、流動する排水の先端および後端では、搬送時間の経過とともに重力により広がっていくため、次第に排水の水深が浅くなる。
【0044】
従来型便器のように例えば12L以上の十分な洗浄水量であれば、この水深が浅くなりすぎる前に搬送物が屋外の排水主管に到達するため、配管途中で詰まり等が発生しない。しかしながら、節水型便器のように従来型便器に比べて洗浄水量が少ない場合には、排水主管に達する前に排水の水深が浅くなりすぎて、搬送物が搬送されず、詰まりの発生を引き起こすことがある。
【0045】
本発明では、節水型便器からの搬送物の搬送に関しても、詰まりが発生せずに確実に搬送するために、搬送中の搬送物、例えばトイレットペーパーの搬送状態が重要である点に着目している。
【0046】
節水型便器のように洗浄水量が少ない便器では、従来型便器と異なりトイレットペーパーが排水に浮かぶようにして搬送されない。
【0047】
つまり、搬送物であるトイレットペーパーは、便器の洗浄水量が少ないため、十分に排水に浮かばずに水平管部5の管底部(下部周縁)に接触しながら搬送される。
【0048】
そして、水平管部5内でトイレットペーパーが堰のような状態となった場合には、排水がトイレットペーパーより下流側に越流しにくくなるため、トイレットペーパーの上流側の排水(以下、後方水という。)の水深の低下を遅らせることができる。そのため、節水型便器のように洗浄水量が少ない便器に適用しても、後方水による推進力を利用して搬送性能を向上できる。
【0049】
一方、水平管部5内でトイレットペーパーが堰のような状態になりきれなかった場合には、後方水が徐々にトイレットペーパーの下流側へ越流して、その分後方水の水深が低下するため、後方水による推進力が低下する。その結果、搬送性能が低下して、搬送物の搬送が水平管部5内で停止してしまう。
【0050】
したがって、トイレットペーパー等の搬送物を配管内で幅方向に広がるようにコントロールして堰のような状態にして搬送できれば、搬送性能を向上できる。
【0051】
このような観点から、排水管構造1では、便器直下の縦管部2の下流側の端部から、第1エルボ3が略水平方向へ向けて略90度屈曲する。また、この第1エルボ3の下流側の端部から、第2エルボ4が略水平方向に略90度屈曲する。さらに、この第2エルボ4の下流側の端部から、水平管部5が略水平に延びている。
【0052】
なお、第1エルボ3、第2エルボ4および水平管部5の略水平方向とは、通常の排水管において必要な勾配を含み、例えば水平から2/100勾配までを含む。また、第1エルボ3および第2エルボ4の略90度とは、通常の排水管で使用されるいわゆる90度エルボ(JIS K 6739におけるDV継手、またはこの規格に準じる塩化ビニル管・継手協会規格(AS38:2010)におけるVU継手)の湾曲角度を含み、例えば90度から91度40分までを含む。
【0053】
縦管部2は、直管状の配管部材であり、便器直下に接続して略鉛直に配置する。
【0054】
第1エルボ3は、縦管部2を水密に接続可能な上流側受口11と、この上流側受口11とは反対側の端部である下流側の端部に位置し直管状の配管部材である連結管14を水密に接続可能な下流側受口12と、これら上流側受口11と下流側受口12との間に位置し側面視で円弧状に屈曲した曲管部13とを有している。
【0055】
この第1エルボ3は、上流側受口11の軸心である上流側軸心と、下流側受口12の軸心である下流側軸心とが略90度の位置関係になり、下流側受口12が水平方向へ向くように、曲管部13が屈曲している。
【0056】
また、
図2および
図3に示すように、第1エルボ3の曲管部13の内周面側は、断面視で略V字状の整流部15を有している。
【0057】
整流部15は、曲管部13の底側(下側)のみに配置している。すなわち、曲管部13において整流部15が設けられた箇所では、円弧状の上面の下側に整流部15を一体に設けている。
【0058】
整流部15は、断面視で略V字状、すなわち、断面視で真円よりも細い放物線状で、楕円的な弧状である。
【0059】
整流部15は、通過する排水が突き当たる側に位置する円弧状の底面15aと、この底面15aの両側に位置する円弧状の側面15b,15cとを有している。
【0060】
底面15aは、整流部15における円弧状の上面から円形状に延長した場合の想像上の円20a(
図2において二点鎖線で示し、例えばφ83mmである。)に正接する円弧としており、側面15b,15cは、円20aの内側に位置している。
【0061】
そして、円20aの外側で円20aの中心点から所定距離に位置する点を基準点20dとし、この基準点20dから底面15aと側面15bとの正接点に接する直線である基準線20bと、基準点20dから底面15aと側面15cとの正接点に接する直線である基準線20cとの角度を、整流部15のV字角度aとする。
【0062】
なお、円20aの中心点から基準点20dまでの距離は、例えばV字角度aが90度、100度および110度の場合には、それぞれ50.2mm、48.0mmおよび46.2mmとする。また、円弧状の側面15bの中心点27aおよび円弧状の側面15cの中心点27bと、円20aの中心点および基準点20dを結ぶ直線に直交する直線との距離は、39.6mmとする。
【0063】
整流部15は、V字角度aが90度未満の場合、および、110度を超える場合には、適切な整流作用を奏さず、落下する排水に跳ね上げ等により乱流による位置エネルギー低下を十分に抑制できないため、搬送性能を十分に向上できない。したがって、整流部15のV字角度aは、90度以上110度以下とする。
【0064】
すなわち、整流部15は、円20aと底面15aとが正接し、かつ、基準点20dから底面15aと側面15bとの正接点を通る基準線20bと、基準点20dから底面15aと側面15cとの正接点を通る基準線20cとの角度であるV字角度aが90度以上110度以下となるように成形する。
【0065】
第1エルボ3は、曲管部13の屈曲における曲率半径rが100mm未満の場合、および、140mmを超える場合には、搬送性能を向上できない可能性がある。したがって、第1エルボ3の曲管部13の曲率半径rは、100mm以上140mm以下が好ましい。
【0066】
また、
図3に示すように、曲管部13においては整流部15を一部の領域のみに設ける。すなわち、曲管部13における整流部15を設けた範囲は、上流側受口11側の端部および下流側受口12側の端部それぞれから15度の範囲である。
【0067】
第2エルボ4は、略90度屈曲した略円筒状の一般的なエルボ体である。
【0068】
このような第2エルボ4は、連結管14を水密に接続可能な上流側受口16と、この上流側受口16とは反対側の下流側の端部に位置し水平管部5を水密に接続可能な下流側受口17と、これら上流側受口16と下流側受口17との間に位置し側面視で円弧状に屈曲した曲管部18とを有している。
【0069】
第2エルボ4は、下流側受口17の軸心である下流側軸心が、上流側受口16の軸心である上流側軸心に対して略90度になり、下流側受口17が水平方向へ向くように曲管部18が屈曲している。
【0070】
第1エルボ3と第2エルボ4とは、第1エルボ3の下流側受口12と第2エルボ4の上流側受口16とを連結管14を介して接続している。そして、これら第1エルボ3の下流側受口12と第2エルボ4の上流側受口16と連結管14とで接続部19を構成している。
【0071】
接続部19では、第1エルボ3の下流側軸心と、第2エルボ4の上流側軸心とが一致している。この第1エルボ3の下流側軸心と第2エルボ4の上流側軸心とが一致する長さを第1エルボ3と第2エルボ4との接続長さcとし、連結管14の長さが接続長さcとなる。
【0072】
また、第1エルボ3と第2エルボ4との接続部19では、第1エルボ3の下流側軸心と第2エルボ4の上流側軸心とが一致する長さ(接続長さ)cが、120mmを超える場合に、搬送性能を向上できない可能性がある。したがって、第1エルボ3と第2エルボ4との接続長さcは、120mm以下が好ましい。
【0073】
水平管部5は、第2エルボ4の下流側受口17に接続した直管状の配管部材である横管21と、この横管21に接続した第3屈曲部としての第3エルボ22と、この第3エルボ22に接続した横管23とを有している。
【0074】
すなわち、水平管部5は、第2エルボ4の下流側受口17に横管21の一端部を接続し、横管21の他端部に第3屈曲部としての第3エルボ22の上流側受口24を接続する。また、第3エルボ22の下流側受口25に横管23を接続する。この横管23は、接続ソケット26を介して直管状の配管部材同士を接続する。
【0075】
次に、上記一実施の形態の作用および効果を説明する。
【0076】
上記排水管構造1によれば、縦管部2を通って落下するように流動する排水は、第1エルボ3において断面視で略V字状の整流部15に沿って流動することで、その整流作用によって排水の落下時の跳ね上がりを抑制し、流動する排水の散乱や乱流が発生することを抑制できる。そのため、縦管部2の落差に基づく位置エネルギーが損失されにくく、排水を円滑に行なって、位置エネルギーをより確実に搬送エネルギーとして搬送物に作用させることができる。
【0077】
また、第1エルボ3の下流側受口12に対して第2エルボ4が略水平方向へ略90度屈曲していることにより、搬送物が、第1エルボ3および第2エルボ4を通過するときに回転方向に力が加わることで幅方向に拡がりやすくなるため、流動する排水に対して堰のように作用しやすく、搬送中に搬送物の後方水の推進力をより確実に利用できる。そのため、整流部15により流動中の損失が抑制された排水の位置エネルギーを、搬送物への推進力として作用させやすい。
【0078】
したがって、排水管構造1によれは、タンクレス式の節水型便器のように洗浄水量が少なく、搬送性能に不利な条件である便器であっても、上述のように乱流の発生を抑止し位置エネルギーの低下を抑制するとともに、配管内で搬送物が幅方向に広がるため、搬送物の後方の後方水の推進力を十分に利用して、搬送性能を向上できる。また、便器からの排水に関する配管構造を構築する段階において、排水管構造1を設置しておけば、その時点で節水式便器を設置せず、将来的に節水式便器を設置することになった場合であっても、排水管構造1をそのまま利用でき、リフォーム等における将来的な変更工事が容易になる。
【0079】
また、整流部15は、V字角度aが90度以上110度以下であることにより、整流部15による整流作用で排水の跳ね上げや散乱を抑制でき、搬送性能を向上できる。
【0080】
第1エルボ3は、屈曲部分における曲率半径rが100mm以上140mm以下であることにより、縦管部2での位置エネルギーを利用して排水が円滑に流動でき、搬送性能を向上できる。
【0081】
第1エルボ3と第2エルボ4との接続部19における接続長さcが120mm以下であることにより、搬送エネルギーが高い状態のうちに第1エルボ3から第2エルボ4へ排水が流動することで効果的に回転方向に力が作用し、搬送性能を向上できる。
【0082】
なお、上記一実施の形態のように、第1エルボ3の曲率半径rが100mm以上140mm以下である構成が好ましいが、このような構成には限定されず、第1エルボ3の曲率半径rは適宜決定できる。
【0083】
また、第1エルボ3と第2エルボ4との接続部19における接続長さcが120mm以下である構成が好ましいが、このような構成には限定されず、第1エルボ3と第2エルボ4との接続部の構成は適宜決定できる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明に係る実施例および比較例について説明する。
【0085】
節水型便器への適用を考慮すると、新BL基準より旧BL基準で搬送性能を評価した方が詰まりの発生をより確実に防止できるため、旧BL基準に基づいて排水試験を行なって搬送性能を確認した。
【0086】
まず、搬送メディアとして、JIS P 4501を満たすトイレットペーパー1mを6枚重ねて8つ折りにしたものを用いた。
【0087】
なお、参考までに、新BL基準では、JIS P 4501を満たすトイレットペーパー90cmを8つ折りにして、4枚重ねたものを用いることになっている。
【0088】
排水方法は、搬送メディアを内径が40mmの筒の中に丸めた状態で挿入し、この筒の先端を15秒間便鉢の水に完全に浸した後、筒を取り除いて直ちに大排水(大便用の排水)を行なった。
【0089】
配管内での搬送距離は、便器直下の継手から停止した状態の搬送メディアの最後尾までの距離とした。
【0090】
ここで、旧BL基準では、5回の排水試験を行なった各搬送距離のうち、最大値および最小値を除外して3回の平均の搬送距離で評価し、この搬送距離が10m以上となった場合に搬送性能が満たされているものと判断している。
【0091】
しかしながら、ばらつきの影響を極力抑え、できるだけ正確に搬送性能を評価するために、
図1に示す排水管構造1(実施例)、および、
図4に示す従来排水管構造31(比較例)について、各試験条件で排水試験を50回行ない、各試験結果(搬送距離)の最大値および最小値を除外せずに、各試験結果の中央値を搬送距離とし、その搬送距離が10m以上となった場合に、搬送性能を満たすと評価した。
【0092】
実施例である排水管構造1では、便器直下で長さ300mmの縦管部2の下部に第1エルボ3の上流側受口11を接続し、その第1エルボ3の下流側受口12に連結管14の一端部を接続した。また、連結管14の他端部に第2エルボ4の上流側受口16を接続した。さらに、第2エルボ4の下流側受口17に、直管状で1mの横管21の一端部を接続した。また、横管21の他端部に第3屈曲部としての第3エルボ22の上流側受口24を接続し、第3エルボ22の下流側受口25に21mの横管23を接続ソケット26を介して接続した。
【0093】
なお、第2エルボ4および第3エルボ22は、塩化ビニル管・継手協会規格(AS38:2010)の90度大曲がりエルボを使用した。また、各配管の呼び径は75mmで、水平管部5の配管勾配は1/100である。
【0094】
比較例である従来排水管構造31は、実施例に対して、第1エルボ3および第2エルボ4に代えてエルボ32を接続した。すなわち、エルボ32の上流側受口33に縦管部2を接続し、エルボ32の下流側受口34に横管21を接続した。なお、エルボ32には、塩化ビニル管・継手協会規格(AS38:2010)の90度大曲がりエルボを使用した。
【0095】
[試験1]
節水型便器のタイプによる搬送性能の違いを確認するために、V字角度aを100度とし、曲率半径rを120mmとし、連結管14の長さ(接続長さc)を40mmとして、AないしCの便器において、排水試験を行なった。
【0096】
なお、便器タイプAは、洗浄方式がトルネード洗浄(サイホン式)で、洗浄水量が3.8リットルである。便器タイプBは、洗浄方式がターントラップ式で、洗浄水量が4.8リットルである。便器タイプCは、洗浄方式がダイレクトバルブ式で、洗浄水量が5.0リットルである。
【0097】
これら排水試験の結果を表1に示す。
【0098】
【0099】
表1に示すように、排水管構造1を用いた実施例では、便器タイプAないしCのいずれも、搬送距離が10m以上であった。一方、従来排水管構造31を用いた比較例では、便器タイプAないしCのいずれも、搬送距離が10m未満であった。
【0100】
他の条件で試験を行なうに際し、試験1の結果から、洗浄水量の観点では最も条件が厳しい便器タイプAにおいて十分な搬送性能が確認できれば、他のタイプの便器であっても搬送性能を十分に確保できると考え、試験2ないし試験6では、実施例である排水管構造1についてAの便器のみを用いて行なった。
【0101】
[試験2]
最適なV字角度aを検討するため、曲率半径rを120mm、連結管14の長さ(接続長さc)を40mmとして、V字角度aの違いによる搬送距離の変化を確認した。
【0102】
試験を行なったV字角度aおよび搬送距離を表2に示す。
【0103】
【0104】
表2に示すように、V字角度aが90~110度の場合に、搬送距離が10m以上となり、特にV字角度aが100度の場合に最も良好な結果だった。
【0105】
[試験3]
整流部15のV字角度aを100度とし、曲率半径rを120mmとし、連結管14の長さ(接続長さc)を40mmとした場合の第1エルボ3における整流作用を、撮影枚数が1000/sのハイスピードカメラでの撮影により分析した。
【0106】
なお、比較のため、比較例である従来排水管構造31でも同様にハイスピードカメラで撮影した。
【0107】
実施例および比較例いずれも、撮影により排水の流動状態が確認しやすいように各配管は透明なものを用いた。
【0108】
これら実施例および比較例について、便器からの排水開始1秒後の写真を
図5に示す。
図5(a)は実施例である排水管構造1の写真で、第1エルボ3における跳ね上がりを示す。また、
図5(b)は比較例である従来排水管構造31の写真で、90度大曲がりエルボであるエルボ32における跳ね上がりを示す。なお、
図5(a)および
図5(b)のいずれも、右側の写真は左側の写真のA部を拡大したものである。
【0109】
図中の小さな矢印は、各点における排水の流動ベクトルを示すが、
図5(b)の従来排水管構造31では、流動ベクトルが配管内全体に散らばっており、跳ね上がりが多いことが確認できる。
【0110】
これに対して、
図5(a)に示す排水管構造1では、流動ベクトルが配管内の下側半分に集まって跳ね上がりが少なく、かつ、その流動ベクトルの向きも概ね揃っていることが確認できる。
【0111】
したがって、排水管構造1は従来排水管構造31と比べて、排水の跳ね上がりや散乱が抑えられ、円滑に排水が行なわれており、整流作用が良好であることが確認できる。
【0112】
また、この排水試験での第3エルボ22から下流側7mの位置におけるトイレットペーパーの状態の写真を
図6に示す。
図6(a)が実施例である排水管構造1において第3エルボ22から下流側7mの位置を通過するトイレットペーパーの写真で、
図6(b)が比較例である従来排水管構造31において第3エルボ22から下流側7mの位置を通過するトイレットペーパーの写真である。
【0113】
図6(b)の従来排水管構造31では、流動方向に対するトイレットペーパーの横方向の長さ、すなわち幅方向の長さが60mmであったのに対し、
図6(a)の排水管構造1では、トイレットペーパーの幅方向の長さが70mmまで広がっていた。
【0114】
したがって、排水管構造1は、従来排水管構造31に対して、配管内で流動中のトイレットペーパーが広がりやすく、後方水の越流を抑制できていることを確認できる。
【0115】
[試験4]
第1エルボ3のV字角度aを100度とし、連結管14の長さ(接続長さc)を40mmとした場合において、第1エルボ3の曲率半径rの違いによる搬送距離の変化を確認した。各曲率半径rにおける搬送距離を表3に示す。
【0116】
【0117】
表3に示すように、曲率半径rが100~140mmの場合に搬送距離が良好であり、特に曲率半径rが120mmの場合に最も搬送距離が長くなった。
【0118】
[試験5]
第1エルボ3のV字角度aを100度とし、曲率半径rを120mmとした場合において、連結管14の長さ(接続長さc)の違いによる搬送距離の変化を確認した。各接続長さcにおける搬送距離を表4に示す。
【0119】
【0120】
表4に示すように、第1エルボ3と第2エルボ4との接続長さcが40mmから長くなるにしたがって搬送距離が短くなり、連結管14の長さが120mm以下の場合に搬送距離が良好であった。
【0121】
これら試験1ないし試験5の結果から、整流部15のV字角度aが100度で、第1エルボ3の曲率半径rが120mmで、連結管14の長さが40mmの場合に最も搬送距離が長くなることを確認できた。
【0122】
[試験6]
上記試験1ないし試験5にて搬送距離が好ましかった条件の組み合わせについて、搬送距離を確認した。すなわち、整流部15のV字角度a(90~110度)、第1エルボ3の曲率半径r(100~140mm)、および、連結管14の長さ(40~120mm)の各条件の各組み合わせで排水試験を行なって搬送距離を確認した。
【0123】
まず、連結管14の長さが40mmの場合において、整流部15のV字角度aが90度、100度および110度のいずれかとし、第1エルボ3の曲率半径rが100mm、120mmおよび140mmのいずれかとして、排水試験を行なった結果を表5に示す。
【0124】
【0125】
また、連結管14の長さが80mmの場合において、整流部15のV字角度aが90度、100度および110度のいずれかとし、第1エルボ3の曲率半径rが100mm、120mmおよび140mmのいずれかとして、排水試験を行なった結果を表6に示す。
【0126】
【0127】
さらに、連結管14の長さが120mmの場合において、整流部15のV字角度aが90度、100度および110度のいずれかとし、第1エルボ3の曲率半径rが100mm、120mmおよび140mmのいずれかとして、排水試験を行なった結果を表7に示す。
【0128】
【0129】
これら表5ないし表7に示すように、整流部15のV字角度aが90度、100度および110度のいずれか、第1エルボ3の曲率半径rが100mm、120mmおよび140mmのいずれか、連結管14の長さが40mm、80mmおよび120mmのいずれかの場合であれば、どの条件の組み合わせでも搬送距離が良好であった。
【符号の説明】
【0130】
1 排水管構造
2 縦管部
3 第1屈曲部としての第1エルボ
4 第2屈曲部としての第2エルボ
15 整流部
a V字角度
r 曲率半径
c 第1屈曲部の下流側軸線と第2屈曲部の上流側軸線とが一致する長さである接続長さ