(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】プラスチックシンチレータ用シートまたはペレット
(51)【国際特許分類】
C09K 11/06 20060101AFI20220207BHJP
C08L 25/06 20060101ALI20220207BHJP
G01T 1/20 20060101ALI20220207BHJP
G01T 1/203 20060101ALI20220207BHJP
C08L 25/08 20060101ALI20220207BHJP
C08K 5/01 20060101ALI20220207BHJP
C08K 5/353 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
C09K11/06 601
C08L25/06
G01T1/20 B
G01T1/203
C08L25/08
C08K5/01
C08K5/353
(21)【出願番号】P 2017023957
(22)【出願日】2017-02-13
【審査請求日】2020-01-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219912
【氏名又は名称】東京インキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】泉水 征昭
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 憲弘
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-030687(JP,A)
【文献】特開昭49-070678(JP,A)
【文献】特表2003-526766(JP,A)
【文献】特開平10-039099(JP,A)
【文献】特開昭56-070044(JP,A)
【文献】特開昭63-230754(JP,A)
【文献】特開2002-210734(JP,A)
【文献】特表2003-502647(JP,A)
【文献】特開昭48-031843(JP,A)
【文献】特開2002-356659(JP,A)
【文献】特開2004-232150(JP,A)
【文献】特開平11-116933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
G01T 1/00-7/12
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)と、有機シンチレータと、スチレンを含んだエラストマーからなる軟質スチレン樹脂とを含むプラスチックシンチレータ用樹脂組成物からなるプラスチックシンチレータ用シートまたはペレットであって、
当該プラスチックシンチレータ用シートまたは当該ペレットの全量に対して、前記硬質汎用ポリスチレン樹脂を80質量%以上含み、前記軟質スチレン樹脂を5質量%以上10質量%以下含み、
当該軟質スチレン樹脂がSBS(スチレン-ブタジエン-スチレンブロック)共重合体であり、
当該有機シンチレータが第1蛍光体と第2蛍光体の少なくとも2種類を含み、
前記第1蛍光体はp-テルフェニル(P-TP)、2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO)、2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール(Bu-PBD)から選ばれる一つまたは複数の蛍光体であり、
前記第2蛍光体は1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP)、1,4-ビス[2-(4-メチル-5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(DMPOPOP)、1,4-ビス(2-メチルスチリル)ベンゼン(ビス-MSB)から選ばれる一つまたは複数の蛍光体である
プラスチックシンチレータ用シートまたはペレット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は理学、工学、医学をはじめとする幅広い科学の分野で使用される、放射線測定のための放射線検出用プラスチックシンチレータに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にα線、β線等の荷電粒子である放射線は、物質を通過する際にその物質中の原子又は分子を電離、励起又は解離し、エネルギーを失う。物質に伝達されたエネルギーはさらに熱運動エネルギーもしくは電磁波として放出される。この物質が蛍光を発する物質等である場合、そのエネルギーの多くの部分が可視領域の光として放出され、この現象をシンチレーション、放出される光をシンチレーション光という。
【0003】
さらにγ線や中性子線等のような電荷を有しない放射線の場合も、前記放射線が物質と相互作用する際に放出される二次的な荷電粒子により同様の現象が起こるため、このシンチレーション現象を利用して放射線の検出が行われている。
【0004】
シンチレーション光の測定には光電子増倍管が使用される。光電子増倍管は、光電効果を利用して光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電管を基本に、電流増幅(=電子増倍)機能を付加した高感度光検出器である。
【0005】
シンチレーション現象を起こす物質を一般にシンチレータと総称し、放射線測定分野においてはNaI(Tl)に代表される無機結晶を含む無機シンチレータ、アントラセンのような有機結晶、ターフェニル等の放射線が入射すると蛍光を発する蛍光体をキシレン等の有機溶媒に溶かした液体シンチレータ、また蛍光体をスチロール系の透明樹脂に溶解分散させたプラスチックシンチレータを含む有機シンチレータが使用されている。
【0006】
特にプラスチックシンチレータはその取り扱いの容易さ、および任意かつ大型の形状に成形することが可能である等の利点により、半世紀に渡り非常に多く利用されてきた。
【0007】
請求項1記載の発明は、
硬質汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)と、有機シンチレータと、スチレンを含んだエラストマーからなる軟質スチレン樹脂とを含むプラスチックシンチレータ用樹脂組成物からなるプラスチックシンチレータ用シートまたはペレットであって、
当該プラスチックシンチレータ用シートまたは当該ペレットの全量に対して、前記硬質汎用ポリスチレン樹脂を80質量%以上含み、前記軟質スチレン樹脂を5質量%以上10質量%以下含み、
当該軟質スチレン樹脂がSBS(スチレン-ブタジエン-スチレンブロック)共重合体であり、
当該有機シンチレータが第1蛍光体と第2蛍光体の少なくとも2種類を含み、
前記第1蛍光体はp-テルフェニル(P-TP)、2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO)、2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール(Bu-PBD)から選ばれる一つまたは複数の蛍光体であり、
前記第2蛍光体は1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP)、1,4-ビス[2-(4-メチル-5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(DMPOPOP)、1,4-ビス(2-メチルスチリル)ベンゼン(ビス-MSB)から選ばれる一つまたは複数の蛍光体であるプラスチックシンチレータ用シートまたはペレットである。
【0008】
技術分野における長年の常識として、プラスチックシンチレータには蛍光体の添加が必要とされている。その主な理由は、放射線の照射により励起されたスチロール系樹脂が放出する電磁波の波長が150~300nmと短いものが報告されていたために、1)測定に使用される光電子増倍管の測定に適した波長範囲、300~400nmに合わない、2)母体樹脂による自己吸収が起こり検出部まで到達する光の量が十分でないことが挙げられる。この点、蛍光体を添加することにより、母体樹脂が出す電磁波のエネルギーを第1蛍光体により~350nm、第2蛍光体により~420nmの光に変換することができ、測定に適し、透過率が高く自己吸収されにくい波長のシンチレーション光を得ることができるとされている。
【0009】
一般にはプラスチックシンチレータのスチロール系母体樹脂にはポリビニルトルエンが使われている。ポリビニルトルエン(PVT)は代表的なスチロール系樹脂であるポリスチレンよりも蛍光の光量が1割から2割大きい。しかし、ポリビニルトルエンは汎用樹脂ではなく特殊な樹脂であるため、ポリスチレンよりコスト面や利便性の面で課題がある。PVTを用いたプラスチックシンチレータにはサンゴバン社製BC-400などが市販されている。
【0010】
一方、スチロール系樹脂の代表格で汎用性樹脂であるポリスチレンに前記有機シンチレータを添加した場合、樹脂の特性上、両者の混錬が難しく硬くて脆い性状となり十分にプラスチックシンチレータとしての使用に耐えられる物性の樹脂製ペレットや樹脂製プレートを作ることができない。このため、様々な先行文献にはポリスチレンはプラスチックシンチレータとして利用可能である旨が記載されているのにも係わらず、実際に量産化し上市する者がいなかった。
【0011】
特許文献1では、有機シンチレータを使わずに母体樹脂のみでプラスチックシンチレータを製造する技術を開示している。しかし、母体樹脂のみでは蛍光の光量は十分でなく、広く普及していない。
【0012】
特許文献2では、ガラス製バイアル内に放射性物質を含む液体と樹脂からなるペレット状の固体シンチレータに入れて密閉し、当該液体をバイアル内で蒸散させて放射線測定する方法を開示している。しかし、当該文献には固体シンチレータの成分などについての細かな記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特許第5205681号公報
【文献】特許第5904511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
汎用性樹脂であるポリスチレン樹脂に有機シンチレータを添加しても硬くて脆い性状とならずプラスチックシンチレータとしての使用に十分耐えられるプラスチックシンチレータの樹脂製プレート及び樹脂ペレットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、汎用性樹脂であるポリスチレン樹脂にスチレンを含んだエラストマーからなる軟質スチレン樹脂を添加することで、ポリスチレン樹脂に有機シンチレータを添加しても硬くて脆い性状とならずプラスチックシンチレータとしての使用に十分耐えられるプラスチックシンチレータの樹脂製プレート及び樹脂ペレットを作製できることを見いだした。
【0016】
請求項1記載の発明は、
硬質汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)が80質量%以上と、有機シンチレータと、スチレンを含んだエラストマーからなる軟質スチレン樹脂が5質量%以上20質量%以下とが溶融混練されてなるプラスチックシンチレータ用樹脂組成物であって、
当該軟質スチレン樹脂がSBS(スチレン-ブタジエン-スチレンブロック)共重合体であり、
当該有機シンチレータが第1蛍光体と第2蛍光体の少なくとも2種類を含み、
前記第1蛍光体はp-テルフェニル(P-TP)、2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO)、2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール(Bu-PBD)から選ばれる一つまたは複数の蛍光体であり、
前記第2蛍光体は1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP)、1,4-ビス[2-(4-メチル-5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(DMPOPOP)、1,4-ビス(2-メチルスチリル)ベンゼン(ビス-MSB)から選ばれる一つまたは複数の蛍光体であるプラスチックシンチレータ用樹脂組成物である。
【0019】
本発明者は、汎用性樹脂であるポリスチレン樹脂に、有機シンチレータと、スチレンを含んだエラストマーからなる軟質スチレン樹脂を添加することで、ポリスチレン樹脂に有機シンチレータを添加しても硬くて脆い性状とならずプラスチックシンチレータとしての使用に十分耐えられるプラスチックシンチレータの樹脂製プレート及び樹脂ペレットが作製できることを見いだした。
【0020】
プラスチックシンチレータには有機シンチレータ(蛍光体)の添加が必要である。それは放射線の照射により励起されたポリスチレン樹脂が放出する電磁波の波長が150~300nmと短く、測定に使用される光電子増倍管の測定に適した波長範囲の300~400nに変換する必要があるためである。また有機シンチレータ(蛍光体)には第1蛍光体と第2蛍光体の2種類あり、ポリスチレン樹脂が出す電磁波のエネルギーを第1蛍光体により~350nmの光に変換し、さらに第2蛍光体により~420nmの光に変換して、光電子倍増管にて測定される。このため一般的に第1蛍光体と第2蛍光体を組み合わせて使用される。
【0021】
第1蛍光体としては、p-テルフェニル(P-TP)、2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO)、2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール(Bu-PBD)等が挙げられ、第2蛍光体としては、1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP)、1,4-ビス[2-(4-メチル-5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(DMPOPOP)、1,4-ビス(2-メチルスチリル)ベンゼン(ビス-MSB)等が挙げられる。
【0022】
当該発明に利用可能な有機シンチレータは、
p-テルフェニル(P-TP/CAS番号:92-94-4)、2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO/CAS番号:92-71-7)、2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール(Bu-PBD/CAS番号:15082-28-7)、1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP/CAS番号:1806-34-4)、1,4-ビス[2-(4-メチル-5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(DMPOPOP/CAS番号:3073-87-8)、1,4-ビス(2-メチルスチリル)ベンゼン(ビス-MSB/CAS番号:13280-61-0)
から選ばれる1つまたは複数の蛍光体であり、通常はこの群より2種類の蛍光体を選び出し組み合わせて使用される。とりわけ、有機シンチレータの第1蛍光体としてp-テルフェニル(P-TP)または2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO)と、第2蛍光体として1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP)を組み合わせて使用することが好適である。
【0023】
当該軟質スチレン樹脂はベンゼン環を含むエラストマーであり、とりわけポリスチレンとの相溶性がいいものがよい。本発明に利用可能な軟質スチレン樹脂としては、SB(スチレン-ブタジエン)共重合体、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレンブロック)共重合体、MBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン)共重合体、MABS(メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)共重合体、ASA(アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム)共重合体、AES(アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン)共重合体、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)、共重合体、AS(アクリロニトリル-スチレン)共重合体、MAS(メチルメタクリレート-アクリルゴム-スチレン)共重合体、メチルメタクリレート-アクリル-ブタジエンゴム-スチレン共重合体が挙げられ、とりわけ好適なものはSB(スチレン-ブタジエン)共重合体である。
【0024】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のプラスチックシンチレータ用樹脂組成物からなるプラスチックシンチレータ用シートである。
【0025】
請求項3記載の発明は、請求項1記載のプラスチックシンチレータ用樹脂組成物からなるプラスチックシンチレータ用ペレットである。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、汎用性樹脂であるポリスチレン樹脂にスチレンを含んだエラストマーからなる軟質スチレン樹脂を添加することで、ポリスチレン樹脂に有機シンチレータを添加してもプラスチックシンチレータとしての使用に十分耐えられるプラスチックシンチレータの樹脂製プレート及び樹脂ペレットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】ペレット状プラスチックシンチレータを用いた放射線測定方法の手順図である。
【
図2】シート状プラスチックシンチレータを用いた放射線測定方法の手順図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更実施の形態が可能である。
【0029】
本発明は、汎用性樹脂であるポリスチレン樹脂に有機シンチレータを添加しても硬くて脆い性状とならずプラスチックシンチレータとしての使用に十分耐えられるプラスチックシンチレータの樹脂製プレート及び樹脂ペレットを提供することを目的とする。
【0030】
すなわち本発明は 、ポリスチレン樹脂と、有機シンチレータと、スチレンを含んだエラストマーからなる軟質スチレン樹脂とを含むプラスチックシンチレータ用樹脂組成物である。
【0031】
また、前記有機シンチレータが、
p-テルフェニル(P-TP)、2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO)、2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール(Bu-PBD)、1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP)、1,4-ビス[2-(4-メチル-5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(DMPOPOP)、1,4-ビス(2-メチルスチリル)ベンゼン(ビス-MSB)から選ばれる1つまたは複数の蛍光体である。
【0032】
さらに、前記軟質スチレン樹脂が、
SB(スチレン-ブタジエン)共重合体、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレンブロック)共重合体、MBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン)共重合体、MABS(メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)共重合体、ASA(アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム)共重合体、AES(アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン)共重合体、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)、共重合体、AS(アクリロニトリル-スチレン)共重合体、MAS(メチルメタクリレート-アクリルゴム-スチレン)共重合体、メチルメタクリレート-アクリル-ブタジエンゴム-スチレン共重合体から選ばれる少なくとも1つの軟質スチレン樹脂である。
【0033】
本願発明に使用するポリスチレン樹脂について説明する。ポリスチレン樹脂は、原油・ナフサを原料としたスチレンモノマーを重合させて作られるプラスチック樹脂であり、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリ塩化ビニルと並び5大汎用樹脂のひとつに挙げられ広く利用されている。ポリスチレン樹脂は、透明性が高く硬い汎用ポリスチレン(GPPS)と、ゴム成分を加えて衝撃性を改良した乳白色の耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)がある。また、1990年代後半には、メタロセン触媒による重合でシンジオタクチック構造を持つポリスチレンが合成され、工業化された。これによって生成するポリスチレンは結晶性の高分子であり、不透明であるがアタクチックポリスチレンよりも耐熱性に優れている。
【0034】
本発明では透明性の高いGPPSやアタクチックポリスチレンが好適である。本発明においてポリスチレン樹脂を主成分とし、好ましくはポリスチレン樹脂がプラスチックシンチレータ中に80wt%以上、好ましくは90wt%以上、さらに好ましくは95wt%以上含まれる。
【0035】
次に、本願発明に使用する有機シンチレータについて説明する。シンチレータとは放射線のエネルギーを吸収して励起あるいは電離が起こる蛍光体を指す。この中でも有機シンチレータは、1947年にKallmanがナフタレン結晶のシンチレータとしての有用性を見いだして以来、アントラセン、スチルベンなどの結晶シンチレータが次々と発見された。現在では多くの物質が有機シンチレータとして知られている。本発明に利用可能なシンチレータは、p-テルフェニル(P-TP)、2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO)、2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール(Bu-PBD)、1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP)、1,4-ビス[2-(4-メチル-5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(DMPOPOP)、1,4-ビス(2-メチルスチリル)ベンゼン(ビス-MSB)などであり、本発明にはこれらの物質を適宜1種類または複数種類組み合わせて用いることができる。
【0036】
プラスチックシンチレータは蛍光体(有機シンチレータ)の添加が必要とされている。その主な理由は、放射線の照射により励起された母体樹脂が放出する電磁波の波長が150~300nmと短いものが報告されていたために、1)測定に使用される光電子増倍管の測定に適した波長範囲、300~400nmに合わない、2)母体樹脂による自己吸収が起こり検出部まで到達する光の量が十分でないことが挙げられる。この点、蛍光体を添加することにより、母体樹脂が出す電磁波のエネルギーを第1蛍光体により~350nm、第2蛍光体により~420nmの光に変換することができ、測定に適し、透過率が高く自己吸収されにくい波長のシンチレーション光を得ることができるとされている。
【0037】
プラスチックシンチレータは、前記有機シンチレータをポリスチレン(PS)またはポリビニルトルエン(PVT)等のスチロール系の母体樹脂に添加したものである。母体樹脂に添加する有機シンチレータには前記記載の第1蛍光体と第2蛍光体とがあり、通常は第1蛍光体と第2蛍光体を組み合わせて使用される。
第1蛍光体は、p-テルフェニル(P-TP)、2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO)、2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール(Bu-PBD)等が挙げられ、
第2蛍光体は、1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP)、
1,4-ビス[2-(4-メチル-5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(DMPOPOP)、1,4-ビス(2-メチルスチリル)ベンゼン(ビス-MSB)等が挙げられる。
この中でも特に好適なのは、
第1蛍光体としてのp-テルフェニル(P-TP)または2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO)と、
第2蛍光体としての1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP)との組み合わせである。
【0038】
次に本願発明に使用する軟質スチレン系樹脂について説明する。本発明でいう軟質スチレン系樹脂としては、スチレンを含んだエラストマーを用いることが好ましく、中でも熱可塑性のエラストマーを用いることが好ましい。
【0039】
より具体的には、SB(スチレン-ブタジエン)共重合体、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレンブロック)共重合体、MBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン)共重合体、MABS(メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)共重合体、ASA(アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム)共重合体、AES(アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン)共重合体、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)、共重合体、AS(アクリロニトリル-スチレン)共重合体、MAS(メチルメタクリレート-アクリルゴム-スチレン)共重合体、メチルメタクリレート-アクリル-ブタジエンゴム-スチレン共重合体等を用いることができる。
【0040】
これらの軟質スチレン系樹脂の中でも、透明性の面からSB(スチレン-ブタジエン)共重合体が選択されることが好ましい。そしてSB(スチレン-ブタジエン)共重合体はスチレン含有量が50質量%以上であることが好ましく、中でもSB(スチレン-ブタジエン)共重合体のスチレン/ブタジエンの質量比は90/10~60/40であることが好ましく、90/10~70/30であることがより好ましい。
上記SBSの具体的な例として、例えば、旭化成ケミカルズ社製:アサフレックスシリーズ、電気化学工業社製:クリアレンシリーズ、シェブロンフィリップス社製:Kレジン、BASF社製:スタイロラックス、アトフィナ社製:フィナクリアなどが市販品として挙げられる。
【0041】
軟質スチレン系樹脂の含有量は、プラスチックシンチレータ全量に対して5~20重量%であることが好ましい。含有量が5重量%未満である場合には、成形性が低下する。一方、20重量%を超える場合には、ポリスチレン樹脂との相溶性が低下し、成形性が悪化したり、得られる成形体は透明性に劣るものとなる。また、軟質スチレン系樹脂を上記の所定量を含有させることによって、得られるポリスチレン樹脂の引張伸度などの引張特性を向上させることができる。
【0042】
本願発明のプラスチックシンチレータ用樹脂組成物は、全量に対してポリスチレン樹脂は90重量%以上、有機シンチレータは1重量%以下、軟質スチレン系樹脂は10重量%以下の組成が好適である。
【0043】
本発明のプラスチックシンチレータ用樹脂組成物は、各成分を高速ミキサー或いはタンブラー等でプレミキシングされた後、溶融混練されて製造される。溶融混練工程は、単軸スクリュ押出機や2軸スクリュ押出機等で行われる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1には、ポリスチレンと、軟質スチレン系樹脂としてSB(スチレン-ブタジエン)共重合体、有機シンチレータとして2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO/第1蛍光体)と1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP/第2蛍光体)を用いた例を示した。
実施例2,3には、ポリスチレンと、軟質スチレン系樹脂としてSB(スチレン-ブタジエン)共重合体、有機シンチレータとしてp-テルフェニル(P-TP/第1蛍光体)と1,4-ビス(5-フェニル-2-オキサゾリル)ベンゼン(POPOP/第2蛍光体)を用いた例を示した。
比較例1には、ポリスチレンと有機シンチレータとして2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO/第1蛍光体)と1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP/第2蛍光体)を用い、軟質スチレン系樹脂を添加しなかった例を示した。
【0045】
ポリスチレン樹脂は、東洋ポリスチレン株式会社製のトーヨースチロールGPを使用した。表1には使用したポリスチレン樹脂のグレード及び物性(カタログ値)を示した。
【表1】
【0046】
軟質スチレン系樹脂としてのSB(スチレン-ブタジエン)共重合体は、デンカ株式会社製のクリアレンを使用した。表2には使用したSB(スチレン-ブタジエン)共重合体のグレード及び物性(カタログ値)を示した。
【表2】
【0047】
本実施例・比較例では有機シンチレータのうち、第1蛍光体として2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO)とp-テルフェニル(P-TP)、第2蛍光体として1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP)を使用した。
2,5-ジフェニルオキサゾール (2,5-Diphenyloxazole/DPO)は、常温では白色結晶性粉末で、分子量221.3、融点は71~74℃である(CAS番号:92-71-7)。
p-テルフェニル (p―Terphenyl、または1,4-Diphenylbenzene/P-TP) は、常温では白色~淡黄色結晶性粉末で、分子量230.3、融点は211℃である(CAS番号:92-94-4)。
1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン (1,4-Bis[2-(5-phenyloxazolyl)]benzene、または1,4-Di(5-phenyl-2-oxazolyl)benzene)/POPOP) は、常温では淡黄色~淡黄緑色針状結晶で、分子量364.4、融点は245℃である(CAS番号:1806-34-4)。
上記有機シンチレータは、いずれも東京化成工業(株)より購入した。
【0048】
表3には実施例、比較例及び参考例のプラスチックシンチレータ用樹脂組成物の組成を示した。なお参考例1は株式会社ジーテック製のポリビニルトルエン樹脂からなるペレット状プラスチックシンチレータ(製品名:EJ-200)を使用した。参考例2はサンゴバン社製のポリビニルトルエン樹脂からなるプレート状プラスチックシンチレータ(製品名:BC-400、0.5mm厚)を使用した。
【表3】
【0049】
表3に示した実施例及び比較例の組成のプラスチックシンチレータ用樹脂組成物は、以下のような工程を経て作製された。各表に記した組成の混合物をヘンシェルミキサー(三井鉱山株式会社製三井FMミキサー)で混合し、混合物を作製した。前記混合物を2軸スクリュ押出機(30mmΦ、株式会社池貝製PCM―30、最高温度設定部の設定温度は各表に示した)を用いて溶融混練を行い、ストランドを形成後、コールドカットにて樹脂ペレットを作製した。
【0050】
得られた樹脂ペレットは、以下のように評価した。
1)ペレット化
2軸スクリュ押出機によるマスターバッチ化の過程を目視にて判定した。
○ :ストランドが正常に形成され途中で切れるなどの不具合がない
△ :ストランドがパリパリとした外観で安定せず、途中で切れる
× :押出機からの吐出が不安定でペレット化できない
【0051】
2)シート化
前記ペレットをシート成型が可能なTダイ押し出し機にて0.5mm厚のシートを作成した。
○ :シート成形可能
△ :シートが硬く脆くてうまく形にならない
× :シートがつくれない
【0052】
3)シート状プラスチックシンチレータの折り曲げ強度の測定
シート化2)で作製したシートについて折り曲げ強度(最大点応力)を測定した。測定方法はJIS K7171によった。試験条件は折り曲げ速度2mm/sec、支点間距離50mmである。
【0053】
4)放射線測定
プラスチックシンチレータの放射線検知性能の測定は、放射線源してのトリチウム(三重水素(3H))及び炭素14(14C)を一定量の含む水溶液を添加した放射線測定用バイアルを作製し、液体シンチレーションカウンタ装置(LSC)(パーキンエルマー社、製品名:Tri-Carb3110TR)を用いて行った。
トリチウム(三重水素(3H))水溶液は、トリチウム水を純水にて希釈し、140kBq/5μLになるように濃度調整した。
炭素14(14C)水溶液は、L-アルギニン(L-Arginine[14C(U)]、米国 Moravek Biochemicals社製)を純水にて溶かし、140Bq/5μLになるように濃度調整した。
なお、バイアルの作製方法は、プラスチックシンチレータの形状がペレット形状とシート形状の場合で異なるので、以下に場合分けして記載した。
【0054】
a)ペレット形状の場合
ペレット状プラスチックシンチレータを用いた放射線測定方法の手順を
図1に示した。手順については
図1を用いて説明する。なお、当該方法は特許文献2記載の方法とほぼ同様の方法である。
バイアル2(低カリウムガラス製、20mL瓶)に、ペレット形状プラスチックシンチレータ3a(ペレット直径3mm)を15.5g(平均15.47g±0.22g)入れ、前記トリチウム水溶液1または前記炭素14水溶液1を5μL滴下した。当該バイアルにキャップ4(ポリエチレン製、Meridian社製uGV2-CAP)で栓をした。栓をして閉鎖系となったバイアルをあらかじめ60℃に加熱しておいた恒温槽5の中に45分間入れ、 バイアルの中の水溶液(トリチウム水溶液または炭素14水溶液)をバイアル内に蒸散させた。水溶液が蒸散したバイアルをLSC6の内に設置し、放射線量cpm(計数率、count per minute)を測定した。
【0055】
b)シート形状の場合
シート状プラスチックシンチレータを用いた放射線測定方法の手順を
図2に示した。手順については
図2を用いて説明する。
シート形状プラスチックシンチレータ3b(幅13mm、長さ50mm、厚さ0.5mmの板状形状)の上に前記トリチウム水溶液1または前記炭素14水溶液1を5μL滴下した。当該シート形状プラスチックシンチレータを4時間放置し、水溶液の水分を蒸発・乾燥させた。蒸発を確認後、当該シート形状プラスチックシンチレータの上からもう1枚のシート形状プラスチックシンチレータ3c(幅13mm、長さ50mm、厚さ0.5mmの板状形状)を載置し、プラスチックシンチレータ/放射線源/プラスチックシンチレータのサンドイッチのような3層構造の試料3dを作製した。当該試料3dをバイアル2(低カリウムガラス製、20mL瓶)に入れ、バイアルキャップ4(ポリエチレン製、Meridian社製uGV2-CAP)で栓をし、当該バイアルをLSC6の内に設置し、放射線量cpm(計数率、count per minute)を測定した。
【0056】
上記操作から得られた毎分計数率cpm(count per minute)から、以下の計算式より計数効率Eff.(%)を算出した。
Eff.(%) = cpm / dpm × 100
すなわち計数効率Eff.(%)は、調整した試料(トリチウム水溶液:140Bq、炭素14水溶液:140Bq)から毎分壊変率dpm(disintegrations per minitus)を算出し、毎分計数率cpmで割り、百分率で示したものである。
【0057】
ペレット形状プラスチックシンチレータの試験結果は表4に示した。実施例より参考例1のポリビニルトルエンを母体樹脂とするプラスチックシンチレータと同程度の計測効率になることが確認できた。
【表4】
【0058】
シート形状プラスチックシンチレータの試験結果は表5に示した。実施例より参考例2のポリビニルトルエン(PVT)を母体樹脂とするプラスチックシンチレータと同程度の計測効率になることが確認できた。
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のポリスチレン樹脂と、有機シンチレータと、スチレンを含んだエラストマーからなる軟質スチレン樹脂とからなる放射線検出用プラスチックシンチレータを利用することで、従来の汎用樹脂を母体樹脂としない高価格のプラスチックシンチレータを使用するより手軽に放射線検出検査を実施することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 放射性物質を含む水溶液
2 バイアル
3a ペレット状プラスチックシンチレータ
3b シート状プラスチックシンチレータ
3c シート状プラスチックシンチレータ(3bの上に載置するもの)
3d プラスチックシンチレータ/放射線源/プラスチックシンチレータの3層試料
4 バイアルのキャップ
5 恒温槽
6 液体シンチレーションカウンタ装置(LSC)