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  • 特許-造カン期終点判定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】造カン期終点判定方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 15/06 20060101AFI20220207BHJP
【FI】
C22B15/06
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017106788
(22)【出願日】2017-05-30
(65)【公開番号】P2018172776
(43)【公開日】2018-11-08
【審査請求日】2020-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2017070159
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500483219
【氏名又は名称】パンパシフィック・カッパー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】生田 有一
(72)【発明者】
【氏名】宮永 旭
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆信
(72)【発明者】
【氏名】姫野 剛
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇文
(72)【発明者】
【氏名】永戸 敏博
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-104127(JP,A)
【文献】特開平02-125820(JP,A)
【文献】特開2003-193144(JP,A)
【文献】特表2017-500442(JP,A)
【文献】特開2002-180142(JP,A)
【文献】特開昭61-026736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅製錬の転炉の造カン期操業において、前記転炉に投入されたカワから得られた白カワの銅品位を、前記カワ中のCu、Fe 2+ 、S、Zn、Pbそれぞれの品位、および前記転炉に吹き込まれる酸素量に基づいて算出し、前記銅品位が78mass%以上となった時点を前記造カン期の終了時点とすることを特徴とする造カン期終点判定方法。
【請求項2】
前記造カン期で得られるスラグ中の銅品位は5mass%以下であることを特徴とする請求項1に記載の造カン期終点判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造カン期終点判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬においては、自溶炉などの溶鉱炉において銅精鉱からカワを製造する。カワを転炉において処理することで、カワ中の鉄(Fe)および硫黄(S)を酸化および除去し、粗銅を得る(特許文献1)。転炉においては、カワから白カワを得る造カン期と、白カワから粗銅を得る造銅期の2つの工程が行われる。粗銅を電解精錬することで銅(Cu)含有率のさらに高い純銅を得る。粗銅中の不純物濃度(品位)が高いと、電解成績が悪化する。このため、例えばニッケル(Ni)などの不純物の品位は低い値で安定することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-180142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、Niなど不純物の品位の安定化は困難である。例えば粗銅を分析してNi品位などを測定することはできるが、粗銅の製造後の分析であるため、Ni品位の制御が遅れてしまう。また、Niを含むリサイクル原料の自溶炉への投入量を調整すれば、Ni品位を制御することができる。しかしリサイクル原料の集荷量には大きなばらつきがあり、保管場所も制限されているため、投入量を制御することは困難である。またリサイクル原料の種類(例えば基板、スラッジなど)に応じて、Ni品位は例えば0.1~10mass%程度などばらつく。したがってNiの品位を所望の範囲内に収めることは難しい。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑み、粗銅中の不純物品位を抑制することが可能な造カン期終点判定方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る造カン期終点判定方法は、銅製錬の転炉の造カン期操業において、前記転炉に投入されたカワから得られた白カワの銅品位を、前記カワ中のCu、Fe 2+ 、S、Zn、Pbそれぞれの品位、および前記転炉に吹き込まれる酸素量に基づいて算出し、前記銅品位が78mass%以上となった時点を前記造カン期の終了時点とすることを特徴とする。
【0007】
また、前記造カン期で得られるスラグ中の銅品位は5mass%以下であるとしてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る造カン期終点判定方法によれば、粗銅中の不純物品位を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】Cuの製錬工程を表す工程図である。
図2】吹錬時間、白カワ中のCu品位および湯温の関係を示すグラフである。
図3】カワ中のCu品位とLS/B Niとの関係を示す図である。
図4】実施例1および比較例1における、カワ中のCu品位とLS/B Niとの関係を示す図である。
図5図5はカワ中のCu品位とスラグ中のCu品位との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1はCuの製錬工程を表す工程図である。図1で例示するように、自溶炉において銅精鉱からカワ(マット)を作る。Cu、FeおよびSを主体とするカワを転炉で酸化し、CuおよびSを主体とする白カワを作り、さらに粗銅を製造する。すなわち、転炉における工程は、カワから白カワを作る造カン期と、白カワから粗銅を得る造銅期とに分けられる。造カン期においては、白カワとともに、除去されたFeを含むスラグが生成される。造カン期はさらに第1造カン期および第2造カン期に分けられる。第1造カン期で製造されたスラグを炉外に排出した後に、第2造カン期の処理を行う。造カン期の終了後、銅精鉱に含まれていた不純物(例えばNiなど)は白カワおよびスラグに含まれることになる。転炉で得られた粗銅を電解精錬することで、粗銅よりも銅含有量の高い純銅を得ることができる。
【0011】
自溶炉に投入されるリサイクル原料中のNi品位は例えば0.1mass%以上であり、1mass%または10mass%程度のこともある。電解成績を向上するためには、精製炉粗銅中のNi品位を低くすることが好ましく、例えば0.18mass%以下とすることが好ましい。精製炉粗銅中のNi品位を所望の範囲とするためには、白カワ中のNi品位およびCu品位の安定化が重要である。しかし、カワ中のCu品位に応じて、白カワ中のCu品位およびNi品位が変化することがある。
【0012】
図2(a)および図2(b)は吹錬時間、白カワ中のCu品位および湯温の関係を示すグラフである。図2(a)は転炉に投入されるカワ中のCu品位が65.9mass%の例、図2(b)は転炉に投入されるカワ中のCu品位が60.9mass%の例である。横軸は転炉における第1造カン期の吹錬時間を示す。左の縦軸および丸はCu品位を示す。右の縦軸および四角は転炉内の溶湯の温度(湯温)を示す。Cu品位は算出されたものであり、湯温は測定したものである。
【0013】
図2(a)の例では、湯温が1300℃付近になると、白カワ中のCu品位は80mass%に到達する。その一方、図2(b)の例では、同程度の湯温でも、Cu品位は73.8mass%である。このように、転炉に投入されるカワ中のCu品位に応じて、得られる白カワ中のCu品位が異なる。このことの原因について説明する。
【0014】
次の反応式(1)で表されるように、造カン期にはカワ中のFeSが酸化される。
2FeS+3O→2FeO+2SO (1)
この酸化反応では酸素1mol当たり74,640calの発熱がある。
【0015】
図2(a)の例ではカワ中のCu品位が65.9mass%であり、カワ中のFeS品位は約17mass%である。図2(b)の例ではカワ中のCu品位が60.9mass%であり、カワ中のFeS品位は約21mass%である。図2(a)では図2(b)に比べてFeS品位が低いため、酸化反応による発熱量も小さい。一方、図2(b)のFeS品位は図2(a)の例に比べて大きいため、酸化反応による発熱量も大きく、湯温が上昇しやすい。したがって、同程度のCu品位において図2(a)と図2(b)とを比較すると、図2(b)の例では湯温が高い。言い換えれば、同程度の湯温においては、図2(b)の例のCu品位は図2(a)よりも小さい。図2(a)の例では、湯温が1300℃付近に達するまでに、白カワ中のCu品位が80mass%程度まで上昇する。一方、図2(b)の例では、湯温が1300℃付近に達するとき、Cu品位は73.8mass%程度にとどまる。
【0016】
次に不純物のスラグ・白カワ間の分配について説明する。転炉において不純物X(例えばNiなど)は次の反応式で表される反応を行う。左辺のXは白カワ中のXであり、右辺のXOはスラグに分配される不純物Xの酸化物である。
2X+O→2XO (2)
また、スラグ中の不純物品位と白カワ中の不純物品位との比LS/M と転炉内の酸素分圧とには、次の数1の関係がある。
【数1】
は(2)の反応の平衡定数、PO2は酸素分圧、(γは白カワ中の活量係数、(nは白カワ100g当たりの白カワ構成成分のモル数の総和、(γXOはスラグ中のXOの活量係数、(nはスラグ100g当たりの白カワ構成成分のモル数の総和である。
【0017】
白カワ中のCu品位が高いほど、転炉内の酸素ポテンシャルは高く、酸素分圧PO2も高い。このため、LS/M は大きくなる。すなわちスラグに分配される不純物の量が大きくなり、白カワおよび粗銅中の不純物品位は小さくなる。したがって、粗銅中のNi品位を低い水準で安定させるためには、酸素ポテンシャルおよび白カワ中のCu品位を高く維持することが重要である。
【0018】
しかし、図2(a)および図2(b)において説明したように、白カワ中のCu品位は、転炉に投入するカワ中のCu品位によってばらつきがある。このため、Niなど不純物の分配も不安定になる。図3はカワ中のCu品位とLS/B Niとの関係を示す図である。横軸はカワ中のCu品位、縦軸はスラグ中のNi品位と転炉粗銅中のNi品位との比LS/B Niである。図中に直線で示すように、yをLS/B Niとし、xをCu品位とすると、両者の関係は次式で表される。
y=0.2747x-15.177 (3)
相関係数Rは0.4163である。LS/B Ni<1の場合、Niは転炉粗銅に濃縮し、LS/B Ni>1の場合Xはスラグに濃縮する。図3に示すように、Cu品位が大きいほどLS/B Niも大きくなる。したがって、カワ中のCu品位が低くなると、粗銅中のNi品位が高くなり、精製炉粗銅において所望の値(例えば0.18mass%)よりも高くなる恐れがある。
【0019】
Niをスラグに多く移行させるためには、カワ中のCu品位によらず白カワ中のCu品位を所定の大きさに維持すればよい。そこで、造カン期の終了時点を、白カワ中のCu品位が78mass%以上に到達した時点とする。前述のようにCu品位が高いほど、酸素ポテンシャルは高くなり、数1に示したようにLS/M Niも大きくなる。すなわち、Niがスラグに移行しやすくなり、白カワ中のNi品位が低下する。これにより、白カワから製造される粗銅中のNi品位も低くなり、例えば精製炉粗銅において0.18mass%以下になる。またNi以外の不純物の品位も低くなる。この結果、電解成績が向上し、また転炉工程でのリサイクル原料の処理量が多くなる。なお、白カワ中のCu品位は、カワ中のCu、Fe2+、S、Zn、Pbそれぞれの品位、転炉から得られるスラグおよび転炉内に残留する金垢のCu、Fe2+、Fe3+、S、SiOそれぞれの品位、および転炉に吹き込まれる酸素量などに基づいて、コンピュータを用いて算出することができる。
【0020】
S/B Niを大きくすると、スラグ中のCu品位と転炉粗銅中のCu品位との比LS/B Cuも上昇してしまい、Cuのスラグロスが増大する。カン選鉱工程においてスラグからCuを回収するが、この工程におけるCu回収率は大きく変化せず、一定の水準にある。言い換えれば、スラグ中のCuのうち一定の割合は回収されない。転炉スラグ中のCu品位を低下させることで、カン選鉱工程に投入するCuの量を減少させる。これにより、カン選鉱工程で回収できないCuの量(スラグロス)を減らすことができ、製錬所全体におけるCu採取率向上が可能である。したがって、白カワ中のCu品位は78mass%程度が好ましい。これによりスラグ中のCu品位は5mass%以下とすることができ、カン選鉱工程でスラグから回収率に応じたCuを回収し、また回収できないCuの量を低減することができる。
【0021】
カワ中のCu品位は、カワの蛍光X線分析により測定することができる。カワ中のCu品位に応じて、転炉の操業条件を変更することができる。操業条件とは、例えば転炉に導入する空気中の酸素濃度などである。なお、前述のように、造カン期の終了時点は、カワ中のCu品位によらず、白カワ中のCu品位が78mass%以上となった時点である。
【実施例1】
【0022】
実施例1においては、白カワ中のCu品位が78mass%以上となった時点を造カン期の終了時点とした。一方、比較例1では湯温が約1300℃になった時点を造カン期の終了時点とした。実施例1および比較例1それぞれ2バッチの転炉において、Cu品位およびNi品位などを比較した結果を表1に示す。
【表1】
【0023】
表1に示すように、比較例1において転炉に投入されるカワ中のCu品位は60.4mass%および60.3mass%、実施例1においては60.7mass%および61.1mass%であった。造カン期終了後に得られる白カワ中のCu品位は、比較例1において70mass%および74mass%、実施例1においては78mass%であった。LS/B Niは、比較例1において1.0および1.2であり、実施例1においては1.6および1.8であった。またスラグ中のNi品位は、比較例1において、0.21mass%および0.27mass%、実施例1において0.35mass%および0.45mass%であった。このように、実施例1の方が、比較例1と比較して、スラグに分配されるNiが多く、Ni品位が高くなった。
【0024】
さらに、転炉粗銅中のNi品位は、比較例1において0.21mass%および0.23mass%、実施例1において0.22mass%および0.25mass%であった。精製炉粗銅中のNi品位は、比較例1において0.20mass%、実施例1において0.18mass%であった。転炉工程でのNi処理量は、比較例1において0.7t/バッチ、実施例1において0.8t/バッチであった。このように、実施例1の方が、比較例1と比較して、精製炉粗銅中のNi品位が低く、かつNi処理量は多くなった。
【0025】
図4は実施例1および比較例1における、カワ中のCu品位とLS/B Niとの関係を示す図である。横軸はカワ中のCu品位、縦軸はスラグ中のNi品位と転炉粗銅中のNi品位との比LS/B Niである。図4に示すように、比較例1では、LS/B Niが小さく、かつばらついている。例えばCu品位が63mass%以下の範囲において、LS/B Niは1付近に多く分布した。Cu品位が63mass%以上の範囲において、LS/B Niは1~4以上まで大きくばらつき、特に2~3に多く分布していた。図中に破線で示すように、yをLS/B Niとし、xをCu品位とすると、両者の関係は次式で表される。
y=0.2976x-16.689 (4)
相関係数Rは0.5145である。
【0026】
一方、実施例1では比較例1に比べ、LS/B Niが大きくかつ安定した値である。例えばCu品位が63mass%以下の範囲においてLS/B Niは1~2付近に多く分布し、Cu品位が63mass%以上の範囲においてLS/B Niは2~4程度である。Cu品位が65mass%以上になると、LS/B Niは3以上となった。図中に直線で示すように、yをLS/B Niとし、xをCu品位とすると、Cu品位が63mass%以下の範囲において両者の関係は次式で表される。相関係数Rは0.4474である。
y=0.1947x-10.108 (5)
また、Cu品位が63mass%以上の範囲において両者の関係は次式で表される。相関係数Rは0.6061である。
y=0.4146x-23.805 (6)
【0027】
以上の結果によれば、白カワ中のCu品位が78mass%以上になった時点を造カン期の終了時点とすることにより、Niがスラグに移行しやすくなり、粗銅中のNi品位が低下することがわかった。したがって、転炉工程でのリサイクル原料の処理量、および電解成績が向上する。
【実施例2】
【0028】
実施例2では、実施例1とは異なる時期にデータを取得した。図5はカワ中のCu品位とスラグ中のCu品位との関係を示す図である。横軸はカワ中のCu品位、縦軸はスラグ中のCu品位を示す。丸で示す比較例2においては、オペレータが炉から発生するガスの色および白カワのサンプルの色を目視で確認することで、造カン期の終了時点を定めた。四角で示す実施例2では白カワ中のCu品位が78mass%以上となった時点を造カン期の終了時点とした。
【0029】
図5に示すように、実施例2によれば比較例2に比べてスラグ中のCu品位が低く、かつばらつきが小さくなった。比較例2において、カワ中のCu品位とスラグ中のCu品位との相関係数Rは0.0035である。実施例2における相関係数Rは0.2326である。すなわち、実施例2においてはスラグ中のCu品位が比較例2よりも小さな値に集中する。特にカワ中のCu品位が64mass%以下の場合、スラグ中のCu品位が5mass%以下になるデータが多く得られた。すなわち、実施例2によればCuのスラグロスが小さくなった。
【0030】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5