(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】調光フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B05D 5/06 20060101AFI20220207BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20220207BHJP
B05D 7/04 20060101ALI20220207BHJP
G02F 1/1334 20060101ALI20220207BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
B05D5/06 Z
B05D1/26 Z
B05D7/04
G02F1/1334
G02F1/13 505
(21)【出願番号】P 2017123044
(22)【出願日】2017-06-23
【審査請求日】2020-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100186185
【氏名又は名称】高階 勝也
(72)【発明者】
【氏名】武本 博之
(72)【発明者】
【氏名】吉川 仁
(72)【発明者】
【氏名】平井 真理子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 一正
(72)【発明者】
【氏名】麻野井 祥明
【審査官】吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-148744(JP,A)
【文献】特表2012-519579(JP,A)
【文献】特開平07-301786(JP,A)
【文献】山村方人,精密ウェットコーティングの基礎,表面技術,日本,一般社団法人表面技術協会,2009年07月01日,第60巻第7号,第420頁~第425頁,https://doi.org/10.4139/sfi.60.420,ISSN:0915-1869
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 5/06
B05D 1/26
B05D 7/04
G02F 1/1334
G02F 1/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロットダイを用いて、透明導電性フィルムに、エマルション化された液晶化合物とエマルション化された樹脂とを含む塗工液を塗工する塗工工程を含む、調光フィルムの製造方法であって、
該塗工工程におけるライン速度が、2m/分
~50m/分であり、
該スロットダイのリップ先端と該透明導電性フィルムとのギャップが100μm
~550μmであり、
該スロットダイのリップ幅が、5mm以下であり、
該塗工液の粘度が、該スロットダイから吐出する時点において、20mPas~400mPasであり、
該調光フィルムが、透過モードと散乱モードとに切り替え可能であり、
該調光フィルムの散乱モードにおけるヘイズ値が、80%以上である、
調光フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記スロットダイのリップ幅が、2mm以下である、請求項1に記載の調光フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記透明導電性フィルムの厚みが、10μm~200μmである、請求項1または2に記載の調光フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記液晶化合物と前記樹脂との合計量が、前記塗工液100重量部に対して、30重量部~70重量部である、請求項1から3にいずれかに記載の調光フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光フィルム製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリマーと液晶材料との複合体による光散乱効果を利用した調光機能を有する高分子分散液晶素子(PDLC調光フィルム)が知られている(例えば、特許文献1、2)。高分子分散液晶素子においては、ポリマーマトリクス内で液晶材料が相分離または分散した構造をとることから、ポリマーと液晶材料の屈折率をマッチングすること、および、該複合体に電圧を印加して液晶材料の配向を変化させることによって、光を透過させる透過モードと光を散乱させる散乱モードとを制御することができる。このような駆動を実現するため、上記高分子分散液晶素子は、通常、上記複合体を含む調光層を、透明導電性フィルムで挾持して構成される。
【0003】
ポリマーと液晶材料との複合体の製造方法としては、液晶材料とマトリクスポリマーとの相分離状態を形成する相分離法、エマルション化した液晶材料と樹脂とを含む塗工液を塗工するエマルション法等が挙げられる(例えば、特許文献1、3、4)。
【0004】
エマルション法は、塗工液中にあらかじめ、所定サイズ(例えば、径が1μm~10μm)の液晶の液滴が存在することから、簡便に所望の調光層を形成することができる。また、エマルション法は、ロールトゥロールプロセスに適するという利点もある。一方、液晶材料および樹脂ともにエマルション化された塗工液を用いた場合、高速塗工が困難であり、塗工層の厚みが不均一になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表昭58-501631号公報
【文献】特開昭60-502128号公報
【文献】特開昭60-252687号公報
【文献】特表平11-500757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の発明者らは、エマルション法により調光層を形成した場合、該調光層には、光散乱性が異常となる外観欠点が生じやすい傾向にあり、その原因は厚みムラにあることを見いだした。さらに、光散乱性が異常となる箇所は、塗工液を透明導電性フィルムに塗工する際に、透明導電性フィルムの背面(すなわち、透明導電性フィルムの塗工面とは反対側の面であり、透明導電性フィルムと搬送体(例えば、バックロール)との間)に極微小な異物が存在した箇所に対応することを見いだした。
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、エマルション法により厚みが均一な調光層を形成することを含む、調光フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の調光フィルムの製造方法は、スロットダイを用いて、透明導電性フィルムに、液晶化合物と樹脂とを含む塗工液を塗工する塗工工程を含む、調光フィルムの製造方法であって、該塗工工程におけるライン速度が、2m/分以上であり、該スロットダイのリップ先端と該透明導電性フィルムとのギャップが100μm以上であり、該調光フィルムが、透過モードと散乱モードとに切換可能切り替え可能であり、該調光フィルムの散乱モードにおけるヘイズ値が、80%以上である。
1つの実施形態においては、上記スロットダイのリップ幅が、2mm以下である。
1つの実施形態においては、上記透明導電性フィルムの厚みが、10μm~200μmである。
1つの実施形態においては、上記液晶化合物と前記樹脂との合計量が、前記塗工液100重量部に対して、30重量部~70重量部である。
1つの実施形態においては、上記塗工液の粘度が、前記スロットダイから吐出する時点において、20mPas~400mPasである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スロットダイを用いて塗工液を塗工し、スロットダイと塗工基材(透明導電性フィルム)とのギャップを100μm以上とすることにより、厚みが均一な調光層を形成することができる。本発明によれば、塗工液として、エマルション化した液晶材料と樹脂とを含む塗工液を用いた場合においても、厚みが均一な調光層を形成することができる。本発明により形成された調光層は、光散乱性異常部分の発生を防止することができ、外観に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の1つの実施形態による製造方法により製造される調光フィルムの概略断面図である。
【
図2】本願発明の塗工工程におけるスロットダイのリップ近傍を示す概略断面図である。
【
図3】本発明の1つの実施形態による第1の透明導電性フィルムの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
A.調光フィルムの製造方法の概要
本発明の調光フィルムの製造方法は、スロットダイを用いて、透明導電性フィルムに液晶化合物と樹脂とを含む塗工液を塗工する塗工工程を含む。該塗工工程においては、スロットダイのリップ先端と透明導電性フィルムとのギャップが100μm以上である。また、塗工工程におけるライン速度は、2m/分以上である。上記塗工液においては、液晶化合物および樹脂がともにエマルション化されている。1つの実施形態においては、塗工工程において第1の透明導電性フィルムに塗工液を塗工して調光層を形成した後、該調光層に第2の透明導電性フィルムを貼り合わせて、調光フィルムが得られる。
【0012】
図1は、本発明の1つの実施形態による製造方法により製造される調光フィルムの概略断面図である。調光フィルム100は、第1の透明導電性フィルム110と、調光層120と、第2の透明導電性フィルム130とをこの順に備える。上記調光層は、液晶化合物を含む。液晶化合物を含む調光層は、樹脂マトリクス中に液晶化合物を分散させて構成される。該調光層においては、電圧印加の有無により、液晶化合物の配向度を変化させて、透過モードと散乱モードとを切り替えることができる。1つの実施形態においては、電圧が印加された状態で透過モードとなり、電圧が印加されていない状態で散乱モードとなる(ノーマルモード)。この実施形態においては、電圧無印加時においては液晶化合物が配向しておらず散乱モードとなり、電圧印加時に液晶化合物が配向して透過モードとなる。別の実施形態においては、電圧が印加された状態で散乱モードとなり、電圧が印加されていない状態で透過モードとなる(リバースモード)。この実施形態においては、電圧無印加時には液晶化合物が配向しており、配向状態の液晶化合物が樹脂マトリクスと略同一の屈折率を示し、透過モードとなる。一方、電圧の印加によって該液晶化合物の配向が乱れて散乱モードとなる。
【0013】
本発明の製造方法により製造される調光フィルムは、散乱モードにおけるヘイズ値が、80%以上であり、好ましくは80%~99%であり、より好ましくは90%~99%である。ヘイズ値は、JIS7136に準じて測定される。
【0014】
上記調光フィルムの透過モードにおけるヘイズ値は、好ましくは50%未満であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。透過モードにおけるヘイズ値の下限は、例えば、1%である。
【0015】
上記のとおり、本発明の製造方法においては、エマルション化された液晶化合物および樹脂を含む塗工液を用いる。当該塗工液においては、液晶化合物が所定サイズ(例えば、径が1μm~10μm)の液滴状態で存在している。このような塗工液を用いれば、簡便に所望の調光層を形成することができ、また、ロールトゥロールプロセスにより調光層を容易に形成することができる。このような利点がある一方で、エマルション化された塗工液を用いると、塗工する際のライン速度を速くし(2m/分以上)、かつ、散乱モードにおけるヘイズ値が高い(80%以上)調光フィルムを得る場合に、外観欠点(光散乱性が異常となる箇所)が生じやすい傾向にあることを、本発明の発明者らは見いだした。発明者らが鋭意検討したところ、部分的に生じる塗布層の厚み変動が外観欠点の要因であることが推測され、当該厚み変動による欠点は調光フィルムのヘイズ値が高いほど目視されやすいことが分かった。塗布層の厚み変動は、塗工基材としての透明導電性フィルムの背面(すなわち、透明導電性フィルムの塗工面とは反対側の面であり、透明導電性フィルムと搬送体(例えば、バックロール)との間)に存在する極微小な異物をきっかけとして生じると考えられる。また、塗布層の厚み変動の一因として、透明導電性フィルムの部分的な厚み変動も挙げられる。
【0016】
外観欠点発生について推測されるメカニズムの詳細は以下のとおりである。スロットダイを用い、エマルション化された塗工液を所定速度以上で透明導電性フィルムに塗工する際、極微小な異物が存在する部分においては、スロットダイ吐出口と透明導電性フィルムとの間の距離が、瞬間的に近くなる。このような瞬間的変動をきっかけに、スロットダイの上流側および/または下流側(特に下流側)のリップ近傍において塗工液のビード(液だまり)が乱れ、所定時間、乱れた状態が継続する。この乱れた状態が収束し再びビードが安定するまでの間、塗布層の厚みが変動すると考えられる。この厚み変動に起因して、異物の大きさよりも格段に大きい外観欠点が生じると考えられる。このような現象は、通常の塗工液(エマルション化していない塗工液、例えば、有機溶剤系の塗工液)を用いる際には生じず、エマルション化された塗工液を用いた際に特有の現象であると考えられる。
【0017】
本発明は、スロットダイのリップ先端と透明導電性フィルムとのギャップを100μm以上とすることにより、上記の新規な課題を解決する発明である。
図2は、本願発明の塗工工程におけるスロットダイのリップ近傍を示す概略断面図である。
図2においては、搬送体(バックロール)300上で搬送される透明導電性フィルム110上に、スロットダイ200を用いて、塗工液が塗布されている。スロットダイ200のリップ210の先端211と透明導電性フィルム110とのギャップは、
図2のギャップLに該当する。なお、スロットダイのリップ先端と透明導電性フィルムとのギャップは、透明導電性フィルムの背面に異物等がない状態で測定されたギャップである。本発明においては、当該ギャップLを100μm以上とすることにより、塗工液のビード(液だまり)の乱れを防止することができ、厚み均一性に優れる塗布層を形成することができる。その結果、外観欠点(光散乱性が異常となる箇所)の発生を防止することができる。スロットダイのリップ先端と透明導電性フィルムとのギャップLは、好ましくは100μm~550μmであり、より好ましくは100μm~350μmである。
【0018】
B.塗工工程
上記塗工工程は、調光フィルムを構成する一対の透明導電性フィルムのうちの一方に、エマルション化された液晶化合物および樹脂を含む塗工液を塗工(塗布・乾燥)する工程である。当該塗工工程を経て、樹脂マトリクス中に液晶化合物が分散して存在して構成された調光層を得ることができる。
【0019】
(塗工液)
上記塗工液は、任意の適切な方法により調製され得る。例えば、液晶化合物と水に溶解させた水溶性高分子(水性相)もしくは樹脂エマルション(ラテックス)とを混合して攪拌することにより得られる。エマルション化された液晶化合物および樹脂を含む塗工液の調製方法の詳細は、例えば、特表58-501631号公報、特開昭60-252687号公報、特表11-500757号公報等に記載されている。当該公報は、その全体の記載が本明細書に参考として援用される。
【0020】
塗工液に含まれる液晶化合物としては、任意の適切な液晶化合物が用いられ得る。例えば、ネマティック型、スメクティック型、コレステリック型液晶化合物が挙げられる。透過モードにおいて優れた透明性を実現できることから、ネマティック型液晶化合物を用いることが好ましい。上記ネマティック型液晶化合物としては、ビフェニル系化合物、フェニルベンゾエート系化合物、シクロヘキシルベンゼン系化合物、アゾキシベンゼン系化合物、アゾベンゼン系化合物、アゾメチン系化合物、ターフェニル系化合物、ビフェニルベンゾエート系化合物、シクロヘキシルビフェニル系化合物、フェニルピリジン系化合物、シクロヘキシルピリミジン系化合物、コレステロール系化合物等が挙げられる。
【0021】
塗工液に含まれる樹脂としては、任意の適切な樹脂が用いられ得る。例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂等が挙げられる。また、メタクリレート/アクリロニトリル共重合体、ウレタン/アクリレート共重合体、アクリレート/アクリロニトリル共重合体等の共重合体を用いてもよい。
【0022】
上記液晶化合物と樹脂との合計量は、塗工液100重量部に対して、好ましくは30重量部~70重量部であり、より好ましくは40重量部~60重量部である。このような範囲であれば、安定したエマルション塗工液を得ることができる。
【0023】
上記液晶化合物と樹脂との重量比(樹脂/液晶化合物)は、好ましくは10/90~90/10であり、より好ましくは30/70~70/30である。液晶化合物の割合が大きすぎる場合、液晶のエマルションが安定せず、経時で液滴サイズが容易に粗大化してしまうおそれがある。一方、液晶化合物の割合が小さすぎる場合、調光フィルムの調光機能が十分に発現しないおそれがある。
【0024】
上記塗工液は、架橋剤をさらに含んでいてもよい。架橋剤を含む塗工液を用いれば、架橋構造を有する樹脂マトリクスから構成された調光層を形成することができる。架橋剤としては、任意の適切な架橋剤が用いられ得る。例えば、アジリジン系架橋剤、イソシアネート系架橋剤等が挙げられる。架橋剤の含有割合は、塗工液100重量部に対して、好ましくは0.5重量部~10重量部であり、より好ましくは0.8重量部~5重量部である。
【0025】
塗工液の粘度は、スロットダイから吐出する時点において、好ましくは20mPas~400mPasであり、より好ましくは30mPas~300mPasであり、さらに好ましくは40mPas~200mPasである。本発明においては、このような範囲の粘度を有する塗工液を用いる場合において、特に優れた効果を得ることができる。粘度が20mPas未満の場合、溶媒(水)を乾燥させる際に溶媒の対流が顕著となり、調光層の厚みが不安定となるおそれがある。また、粘度が400mPasを超える場合、塗工液のビードが安定しないおそれがある。塗工液の粘度は、アントンパール社製レオメーターMCR302により測定することができる。ここでの粘度は、20℃、せん断速度1000(1/s)の条件でのせん断粘度の値を用いている。
【0026】
(塗工液の塗布)
塗工液の塗布は、スロットダイを用いて行われる。より詳細には、塗工液の塗布は、搬送体上で透明導電性フィルムを搬送しながら、スロットダイから塗工液を吐出し、該透明導電性フィルムに塗布層を形成するようにして行われ得る。透明導電性フィルムを搬送する搬送体としては、任意の適切な搬送体が用いられ得る。好ましくは、透明導電性フィルムをロール搬送しながら、塗工液の塗布が行われる。スロットダイのリップ先端と透明導電性フィルムとのギャップLは、上記のとおり、100μm以上である。
【0027】
ギャップLと塗布層の厚み(ウエット厚みであり、
図2における厚みT)Tとの比(L/T)は、好ましくは1.5~20であり、より好ましくは1.7~15であり、さらに好ましくは2~13である。このような範囲であれば、本発明の効果は顕著となる。
【0028】
スロットダイのリップ幅(
図2における幅W1)は、好ましくは5mm以下であり、より好ましくは2mm以下である。このような範囲であれば、塗工液のビードの乱れを防止することができ、また、ビードの乱れが生じたとしても、乱れた状態が短時間で解消されるため、厚み均一性に優れる塗布層を形成することができる。なお、スロットダイのリップの端面211は、吐出方向Dに対して略垂直であることが好ましい。また、スロットダイは、上流側リップの端面と下流側の端面とが、同一平面にあるように構成されていてもよく、上流側リップと下流側リップとが段差を有するように構成されていてもよい。好ましくは、
図2に示すように、上流側リップの端面と下流側の端面とが、同一平面にあるように構成される。また、上流側リップと下流側リップとが段差を有するように構成されている場合、上記ギャップLは、透明導電性フィルムに最も近いリップ先端と、透明導電性フィルムとの距離を意味する。
【0029】
スロットダイの開口幅(
図2における幅W2)は、好ましくは0.1mm~5mmであり、より好ましくは0.1mm~2mmである。
【0030】
スロットダイは、任意の適切な材料から構成される。スロットダイを構成する材料としては、例えば、鉄、ステンレス、ニッケルコート鉄等が挙げられる。
【0031】
上記スロットダイは、吐出方向Dが塗工面に対して所定の角度を有するように配置されていてもよい。スロットダイの吐出方向Dと塗工面とのなす角度は、好ましくは70°~110°であり、より好ましくは80°~100°である。なお、透明導電性フィルムがロール搬送される場合、上記塗工面は、搬送ロールの半径方向と吐出方向とが一致する場合に吐出方向に対して垂直となる面(接平面)とする。
【0032】
塗工液の吐出量は、所望とする塗布層厚み、塗布層の幅、ライン速度等に応じて、任意の適切な吐出量に設定され得る。
【0033】
塗工液を塗工する際のライン速度は、2m/分以上であり、好ましくは2m/分~50m/分である。このようなライン速度は、塗工液のビードの乱れが生じやすいライン速度であるが、本願発明によれば、上記範囲のライン速度で塗工液を塗工しても、塗工液のビードの乱れを防止することができ、厚み均一性に優れる塗布層を形成することができる。また、上記範囲のライン速度であれば、効率よく調光層を形成することができる。
【0034】
塗工液の塗布は、減圧しながら行ってもよい。好ましくは、ライン方向上流側から減圧する。減圧度は、大気圧に対して、好ましくは0.05kPa~5kPaであり、より好ましくは0.1kPa~2kPaである。減圧しながら塗工液を塗布することにより、ビードが安定し、厚み均一性に優れる塗布層を形成することができる。
【0035】
塗布層の厚みTは、好ましくは10μm~100μmであり、より好ましくは20μm~100μmである。このような範囲であれば、散乱モードにおいて高いヘイズ値を示し、かつ、厚みの均一性に優れる調光層を得ることができる。
【0036】
(塗布層の乾燥)
塗工液を塗布した後、任意の適切な方法により、塗布層を乾燥させて、調光層を形成する。乾燥方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、加熱乾燥、熱風乾燥等が挙げられる。1つの実施形態においては、塗工液が架橋剤を含む場合、乾燥工程において、樹脂マトリクスの架橋構造が形成される。乾燥温度は、好ましくは30℃~80℃であり、より好ましくは35℃~60℃である。乾燥時間は、好ましくは1分~15分であり、より好ましくは2分~10分である。乾燥温度および乾燥時間を適切に設定することにより、厚み精度に優れる調光層を得ることができる。
【0037】
B.調光フィルム
上記のとおり、1つの実施形態においては、本発明の製造方法により得られる調光フィルムは、第1の透明導電性フィルムと、調光層と、第2の透明導電性フィルムとをこの順に備える。
【0038】
調光フィルムの厚みは、好ましくは110μm~440μmであり、より好ましくは150μm~400μmである。
【0039】
(透明導電性フィルム)
図3は、本発明の1つの実施形態による第1の透明導電性フィルムの概略断面図である。第1の透明導電性フィルム110は、透明基材10と、該透明基材10の両側または片側(図示例では片側)に配置された透明導電層20とを含む。第2の透明導電性フィルムも、第1の透明導電性フィルムと同様、透明基材と該透明基材の両側または片側に配置された透明導電層とを含み得る。第1の透明導電性フィルムと第2の透明導電性フィルムとは同じ構成であってもよく、異なる構成であってもよい。第1の透明導電性フィルムと第2の透明導電性フィルムとは、それぞれの透明導電層が対向するようにして配置されることが好ましい。以下、第1の透明導電性および第2の透明導電性フィルムを、総称して、透明導電性フィルムと言うこともある。
【0040】
透明導電性フィルムの厚みは、好ましくは10μm~200μmであり、より好ましくは20μm~200μmである。このような範囲であれば、座屈し難く、座屈による欠点が少ない調光フィルムを得ることができる。厚みの厚いフィルムに塗工液を塗工する場合、噛みこんだ異物の影響が出やすい傾向にあるが、本発明の製造方法によれば、比較的厚みの厚い透明導電性フィルムに塗工液を塗工しても、異物の影響なく、外観決定の少ない調光フィルムを得ることができる。一方、厚みが200μmを超える透明導電性フィルムは、ロール搬送しがたい点で不利である。
【0041】
上記透明導電性フィルムの表面抵抗値は、好ましくは0.1Ω/□~1000Ω/□であり、より好ましくは0.5Ω/□~300Ω/□であり、特に好ましくは1Ω/□~200Ω/□である。
【0042】
上記透明導電性フィルムのヘイズ値は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは0.1%~5%である。
【0043】
上記透明導電性フィルムの全光線透過率は、好ましくは30%以上であり、より好ましくは60%以上であり、特に好ましくは80%以上である。
【0044】
透明導電層は、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO2)等の金属酸化物を用いて形成され得る。あるいは、透明導電層は、銀ナノワイヤ(AgNW)等の金属ナノワイヤ、カーボンナノチューブ(CNT)、有機導電膜、金属層またはこれらの積層体によって形成され得る。透明導電層は、目的に応じて、所望の形状にパターニングされ得る。
【0045】
上記透明基材を構成する材料は、任意の適切な材料が用いられ得る。具体的には、例えば、フィルムやプラスチック基材などの高分子基材が好ましく用いられる。平滑性および透明導電層形成用組成物に対する濡れ性に優れ、また、ロールによる連続生産により生産性を大幅に向上させ得るからである。
【0046】
上記透明基材を構成する材料は、代表的には熱可塑性樹脂を主成分とする高分子フィルムである。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂;ポリノルボルネン等のシクロオレフィン系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;セルロース系樹脂等が挙げられる。なかでも好ましくは、ポリエステル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂またはアクリル系樹脂である。これらの樹脂は、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性などに優れる。上記熱可塑性樹脂は、単独で、または2種以上組み合わせて用いてもよい。また、偏光板に用いられるような光学フィルム、例えば、低位相差基材、高位相差基材、位相差板、輝度向上フィルム等を基材として用いることも可能である。
【0047】
上記透明基材の厚みは、好ましくは50μm~200μmであり、より好ましくは60μm~150μmである。
【0048】
上記透明基材の全光線透過率は、好ましくは30%以上であり、より好ましくは35%以上であり、さらに好ましくは40%以上である。
【0049】
(調光層)
1つの実施形態において、上記調光層は、液晶化合物を含む。液晶化合物を含む調光層は、樹脂マトリクス中に液晶化合物を分散させて構成される。調光層は上記A項で説明した方法により形成され得る。
【0050】
上記のような調光層としては、高分子分散型液晶を含む調光層を含む調光層等が挙げられる。高分子分散型液晶は、高分子内において液晶化合物が液滴状態で存在して構成される。
【0051】
調光層中の液晶化合物の液滴は、径が1μm~10μmであることが好ましく、2μm~7μmであることがより好ましい。
【0052】
上記液晶化合物としては、特に限定されず、A項で説明した液晶化合物が用いられ得る。
【0053】
調光層中における液晶化合物の含有量は、調光層100重量部に対して、好ましくは10重量部~90重量部であり、より好ましくは30重量部~70重量部である。
【0054】
調光層を構成する樹脂マトリクスを形成する樹脂としては、特に限定されず、例えば、A項で説明した樹脂により、樹脂マトリクスが形成される。
【0055】
調光層中における樹脂マトリクスの含有量は、調光層100重量部に対して、好ましくは10重量部~90重量部であり、より好ましくは30重量部~70重量部である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。実施例における評価方法は以下のとおりである。
【0057】
[製造例1]
(塗工液の調製)
液晶化合物(チッソ社製、商品名「JM1000XX」)50重量部に、水性脂肪族ポリウレタンラテックス(ゼネカ社製、商品名「Neorez R-967」、ラテックス粒子35重量%を含む)50重量部を添加した後、攪拌部を40℃に保持しつつ、エクセルオートホモジナイザー(日本精機製)を用いて撹拌して、塗工液(エマルション塗工液)を得た。得られた塗工液の粘度は、65mPasであった。
【0058】
[実施例1]
図2に示すようなスロットダイ(リップの厚み(幅)3mm)を用いて、製造例1で得られた塗工液を、第1の透明導電性フィルム上に塗工(塗布、乾燥)して、厚みが20μmの塗工層(調光層)を形成した。その後、塗工層(調光層)上に第2の透明導電性フィルムを積層して、調光層フィルムを得た。
なお、第1の透明導電性フィルムおよび第2の透明導電性フィルムとしては、PET基材上にITO層からなる透明導電層が配置して構成されており、厚みが188μmの透明導電性フィルム(表面抵抗値:100Ω/□)を用いた。
塗工液の塗布条件は、ライン速度:6m/
分、スロットダイのリップ先端と透明導電性フィルムとのギャップL:150μm、上流からのバキューム圧:0.4kPaとした。当該条件の塗布により、ウエット厚み40μmの塗布層が形成された。塗布層の乾燥条件は、40℃、5分とした。
【0059】
[実施例2]
塗工液の塗布条件において、ギャップLを250μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、調光フィルムを得た。塗布層のウエット厚みは45μmであり、調光層の厚みは22μmであった。
【0060】
[実施例3]
リップの厚みが1mmであるスロットダイを用い、ギャップLを150μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、調光フィルムを得た。塗布層のウエット厚みは49μmであり、調光層の厚みは25μmであった。
【0061】
[実施例4]
塗工液の塗布条件において、ギャップLを250μmとしたこと以外は、実施例3と同様にして、調光フィルムを得た。塗布層のウエット厚みは50μmであり、調光層の厚みは25μmであった。
【0062】
[実施例5]
塗工液の塗布条件において、ギャップLを350μmとしたこと以外は、実施例3と同様にして、調光フィルムを得た。塗布層のウエット厚みは44μmであり、調光層の厚みは22μmであった。
【0063】
[実施例6]
塗工液の塗布条件において、ギャップLを400μmとしたこと以外は、実施例3と同様にして、調光フィルムを得た。塗布層のウエット厚みは39μmであり、調光層の厚みは19μmであった。
【0064】
[比較例1]
塗工液の塗布条件において、ギャップLを50μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、調光フィルムを得た。塗布層のウエット厚みは43μmであり、調光層の厚みは21μmであった。
【0065】
[比較例2]
塗工液の塗布条件において、ギャップLを50μmとしたこと以外は、実施例3と同様にして、調光フィルムを得た。塗布層のウエット厚みは45μmであり、調光層の厚みは22μmであった。
【0066】
[参考例1]
塗工液の塗布条件において、ライン速度を0.5m/分とし、ギャップLを50μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、調光フィルムを得た。塗布層のウエット厚みは40μmであり、調光層の厚みは20μmであった。
【0067】
<評価>
実施例、比較例および参考例で得られた調光フィルムを以下の評価に供した。結果を表1に示す。
【0068】
(1)ヘイズ値
得られた調光フィルム(ノーマルモード、電圧無印加時)のヘイズ値をJIS7136に準じて、測定した。
【0069】
(2)外観1(光散乱異常)
暗室にて、光源に蛍光灯を用いて、調光フィルムに光を透過させ、透過した光を目視にて観察した。膜厚ムラにより部分的に円状の濃淡が観察された部分を光散乱異常とし、その数を測定した。
【0070】
(3)外観1(塗工スジ)
暗室にて、光源に蛍光灯を用いて、調光フィルムに光を透過させ、透過した光を目視にて観察した。MD方向に連続的に濃淡が観察された部分を塗工スジとし、その数を測定した。
【0071】
【0072】
表1から明らかなように、本発明によれば、ギャップLを100μm以上とすることにより、ライン速度が高速であっても、エマルション塗工液による調光層を外観よく形成することができる。外観向上効果は、スロットダイのリップ厚みを小さくすること、また、ギャップLを350μm以下とすることにより、さらに顕著となる。
【符号の説明】
【0073】
10 透明基材
20 透明導電層
100 調光フィルム
110 第1の透明導電性フィルム
120 調光層
130 第2の透明導電性フィルム