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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】ダイシングダイボンドフィルム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20220207BHJP
   C09J 133/04 20060101ALI20220207BHJP
   C09J 133/14 20060101ALI20220207BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
H01L21/78 M
C09J133/04
C09J133/14
H01L21/52 E
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2017145636
(22)【出願日】2017-07-27
(65)【公開番号】P2018182275
(43)【公開日】2018-11-15
【審査請求日】2020-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2017081121
(32)【優先日】2017-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄大
(72)【発明者】
【氏名】高本 尚英
(72)【発明者】
【氏名】大西 謙司
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】福井 章洋
(72)【発明者】
【氏名】大和 道子
(72)【発明者】
【氏名】井上 真一
【審査官】中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/108131(WO,A1)
【文献】特開2010-153774(JP,A)
【文献】特開2002-100587(JP,A)
【文献】特開2005-268434(JP,A)
【文献】特開2017-034117(JP,A)
【文献】特開2002-235055(JP,A)
【文献】特開2014-082498(JP,A)
【文献】特開2015-220305(JP,A)
【文献】特開2015-216284(JP,A)
【文献】特開2014-154704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
C09J 7/20
C09J 133/04
C09J 133/14
H01L 21/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と粘着剤層とを含む積層構造を有するダイシングテープと、
前記ダイシングテープにおける前記粘着剤層に剥離可能に密着している接着剤層とを備え、
前記接着剤層と前記粘着剤層との界面をなすための、前記接着剤層の表面および前記粘着剤層の表面は、3.5~9mJ/m2の表面自由エネルギー差を生じうる、ダイシングダイボンドフィルムであって、
前記粘着剤層の表面自由エネルギーが、硬化後の粘着剤層の表面自由エネルギーであるダイシングダイボンドフィルム
【請求項2】
前記粘着剤層の前記表面は、32mJ/m2以下の表面自由エネルギーを有しうる、請求項1に記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項3】
前記接着剤層の前記表面の表面自由エネルギーは30~45mJ/m2である、請求項1または2に記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項4】
前記接着剤層は、23℃、剥離角度180°および引張速度10mm/分の条件での剥離試験においてSUS平面に対して0.1~20N/10mmの180°剥離粘着力を示す、請求項1から3のいずれか一つに記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項5】
前記接着剤層は、幅4mmおよび厚さ80μmの接着剤層試料片について初期チャック間距離10mm、周波数10Hz、動的ひずみ±0.5μm、および昇温速度5℃/分の条件で測定される23℃での引張貯蔵弾性率が100~4000MPaである、請求項1から4のいずれか一つに記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項6】
前記粘着剤層は放射線硬化型粘着剤層であり、
23℃および剥離速度300mm/分の条件でのT型剥離試験における、放射線硬化後の前記粘着剤層と前記接着剤層との間の剥離力が、0.06~0.25N/20mmである、請求項1から5のいずれか一つに記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項7】
前記粘着剤層は放射線硬化型粘着剤層であり、
23℃および剥離速度300mm/分の条件でのT型剥離試験における、放射線硬化前の前記粘着剤層と前記接着剤層との間の剥離力が、2N/20mm以上である、請求項1から6のいずれか一つに記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項8】
前記粘着剤層の前記表面の算術平均表面粗さと前記接着剤層の前記表面の算術平均表面粗さとの差は100nm以下である、請求項1から7のいずれか一つに記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項9】
前記粘着剤層は、アルキル基の炭素数が10以上のアルキル(メタ)アクリレート由来の第1ユニットおよび2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート由来の第2ユニットを含むアクリル系ポリマーを含有する、請求項1から8のいずれか一つに記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項10】
前記アクリル系ポリマーにおける前記第2ユニットに対する前記第1ユニットのモル比率は1~40である、請求項9に記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項11】
前記アクリル系ポリマーは、不飽和官能基含有イソシアネート化合物の付加物である、請求項9または10に記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項12】
前記アクリル系ポリマーにおける、前記第2ユニットに対する前記不飽和官能基含有イソシアネート化合物のモル比率は、0.1以上である、請求項11に記載のダイシングダイボンドフィルム。
【請求項13】
前記接着剤層の外周端は、フィルム面内方向において前記粘着剤層の外周端から1000μm以内の距離にある、請求項1から12のいずれか一つに記載のダイシングダイボンドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造過程で使用することのできるダイシングダイボンドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造過程においては、ダイボンディング用のチップ相当サイズの接着フィルムを伴う半導体チップ、即ち、ダイボンディング用の接着剤層付き半導体チップを得るうえで、ダイシングダイボンドフィルムが使用される場合がある。ダイシングダイボンドフィルムは、加工対象である半導体ウエハに対応するサイズを有し、例えば、基材および粘着剤層からなるダイシングテープと、その粘着剤層側に剥離可能に密着しているダイボンドフィルム(接着剤層)とを有する。
【0003】
ダイシングダイボンドフィルムを使用して接着剤層付き半導体チップを得る手法の一つとして、ダイシングダイボンドフィルムにおけるダイシングテープをエキスパンドしてダイボンドフィルムを割断する工程を経る手法が知られている。この手法では、まず、ダイシングダイボンドフィルムのダイボンドフィルム上に半導体ウエハが貼り合わせられる。この半導体ウエハは、例えば、後にダイボンドフィルムの割断に共だって割断されて複数の半導体チップへと個片化可能なように、加工されたものである。次に、それぞれが半導体チップに密着している複数の接着フィルム小片(接着剤層)がダイシングテープ上のダイボンドフィルムから生じるように当該ダイボンドフィルムを割断すべく、エキスパンド装置が使用されてダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープがエキスパンドされる(割断用のエキスパンド工程)。このエキスパンド工程では、ダイボンドフィルムにおける割断箇所に相当する箇所でダイボンドフィルム上の半導体ウエハにおいても割断が生じ、ダイシングダイボンドフィルムないしダイシングテープ上にて半導体ウエハが複数の半導体チップに個片化される。次に、ダイシングテープ上の割断後の複数の接着剤層付き半導体チップについて相互間の距離を広げるために、再度のエキスパンド工程が行われる(離間用のエキスパンド工程)。次に、例えば洗浄工程を経た後、ダイシングテープ上の接着剤層付きの各半導体チップが、ピックアップ機構のピン部材によってダイシングテープの下側から突き上げられたうえで、ダイシングテープ上からピックアップされる(ピックアップ工程)。この時、ピックアップ対象の接着剤層付き半導体チップにおける接着剤層がダイシングテープの粘着剤層から適切に剥離する必要がある。以上のようにして、ダイボンドフィルム即ち接着剤層を伴う半導体チップが得られる。この接着剤層付き半導体チップは、その接着剤層を介して、実装基板等の被着体にダイボンディングによって固着されることとなる。例えば以上のように使用されるダイシングダイボンドフィルムに関する技術については、例えば下記の特許文献1~3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-2173号公報
【文献】特開2010-177401号公報
【文献】特開2012-23161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図14は、ダイシングダイボンドフィルムの一例であるダイシングダイボンドフィルムYをその断面模式図で表すものである。ダイシングダイボンドフィルムYは、ダイシングテープ60およびダイボンドフィルム70からなる。ダイシングテープ60は、基材61と、粘着力を発揮する粘着剤層62との積層構造をする。ダイボンドフィルム70は、粘着剤層62の粘着力に依って粘着剤層62に密着している。このようなダイシングダイボンドフィルムYは、半導体装置の製造過程における加工対象すなわちワークである半導体ウエハに対応するサイズの円板形状を有し、上述のエキスパンド工程に使用され得る。例えば図15に示すように、半導体ウエハ81がダイボンドフィルム70に貼り合わせられ、且つ、リングフレーム82が粘着剤層62に貼り付けられた状態で、エキスパンド工程が実施される。リングフレーム82は、ダイシングダイボンドフィルムYに貼り付けられた状態において、エキスパンド装置の備える搬送アームなど搬送機構がワーク搬送時に機械的に当接するフレーム部材である。ダイシングダイボンドフィルムYは、このようなリングフレーム82がダイシングテープ60の粘着剤層62の粘着力に依って当該フィルムに固定され得るように、設計されている。すなわち、ダイシングテープ60の粘着剤層62においてダイボンドフィルム70の周囲にリングフレーム部材貼着用領域が確保されるという従来型の設計を、ダイシングダイボンドフィルムYは有するのである。そのような設計において、粘着剤層62の外周端62eとダイボンドフィルム70の外周端70eとのフィルム面内方向の離隔距離は、10~30mm程度である。
【0006】
一方、ダイシングテープとその粘着剤層上のダイボンドフィルムとを備えるダイシングダイボンドフィルムにおいて、ダイシングテープないしその粘着剤層とダイボンドフィルムとがフィルム面内方向にて同一の設計寸法を有する構成を採用する場合、ダイボンドフィルムは、リングフレーム保持機能を担う必要があるので、リングフレームに対する粘着力が確保される必要がある。ダイボンドフィルムの対リングフレーム粘着力を確保するために、当該ダイボンドフィルムは、上述のダイシングダイボンドフィルムYにおけるダイボンドフィルム70よりも、例えば低弾性化される。しかしながら、この低弾性化は、ダイシングテープの粘着剤層からダイボンドフィルムを剥離するのに要する剥離力の上昇を招きやすい。上述のピックアップ工程において接着剤層付き半導体チップの良好なピックアップを実現するうえでは、ダイシングテープの粘着剤層とダイボンドフィルムとの間の剥離力は小さい方が好ましい。
【0007】
以上のように、ダイシングダイボンドフィルムにおいては、ダイシングテープからの接着剤層付き半導体チップの良好なピックアップを実現するうえで、技術的な困難性を伴う場合がある。本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、ダイシングテープからの接着剤層付き半導体チップの良好なピックアップを実現するのに適したダイシングダイボンドフィルムを提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明により提供されるダイシングダイボンドフィルムは、ダイシングテープおよび接着剤層を備える。ダイシングテープは、基材と粘着剤層とを含む積層構造を有する。接着剤層は、ダイシングテープにおける粘着剤層に剥離可能に密着している。ダイシングテープ粘着剤層とその上の接着剤層との界面をなすための、接着剤層の表面および粘着剤層の表面は、3.5mJ/m2以上の表面自由エネルギー差を生じうる。すなわち、接着剤層と粘着剤層との界面をなす接着剤層表面および粘着剤層表面において、接着剤層表面の表面自由エネルギー(第1の表面自由エネルギー)と粘着剤層表面の表面自由エネルギー(第2の表面自由エネルギー)との差が3.5mJ/m2以上であるか或いは3.5mJ/m2以上に至り得るという構成を、本ダイシングダイボンドフィルムは備えるのである。例えば、ダイシングテープの粘着剤層が放射線硬化型粘着剤層等の硬化型の粘着剤層である場合には、接着剤層における第1の表面自由エネルギーと硬化後の粘着剤層における第2の表面自由エネルギーとの差が3.5mJ/m2以上であるように、本ダイシングダイボンドフィルムは構成される。また、本発明において、上述の表面自由エネルギー差は、好ましくは4mJ/m2以上、より好ましくは5mJ/m2以上である。以上のような構成のダイシングダイボンドフィルムは、半導体装置の製造過程で接着剤層付き半導体チップを得るのに使用することができる。
【0009】
半導体装置の製造過程においては、上述のように、接着剤層付き半導体チップを得るうえで、ダイシングダイボンドフィルムが使用されるエキスパンド工程やピックアップ工程が行われる場合がある。そのピックアップ工程では、接着剤層付き半導体チップにおける接着剤層がダイシングテープの粘着剤層から剥離されて当該半導体チップがダイシングテープからピックアップされ得ることが、必要である。本ダイシングダイボンドフィルムの接着剤層とダイシングテープ粘着剤層の界面における上記第1および第2の表面自由エネルギーの差が3.5mJ/m2以上であり、好ましくは4mJ/m2以上、より好ましくは5mJ/m2以上であるという状態は、ピックアップ工程にて良好なピックアップを実現するのに適するという知見を、本発明者らは得ている。具体的には、後記の実施例および比較例をもって示すとおりである。接着剤層と粘着剤層との界面において、接着剤層表面の表面自由エネルギーと粘着剤層表面の表面自由エネルギーとの差が大きいほど、これら両層間の構成材料の移行は生じにくい。そして、接着剤層と粘着剤層の間の構成材料の移行が生じにくいことは、両層間において小さな剥離力を実現するのに適し、接着剤層の低弾性化が図られる場合には例えば、当該低弾性化によって接着剤層の対フレーム部材粘着力を確保しつつ、当該接着剤層と粘着剤層との間の剥離力の上昇を抑制するのに適する。接着剤層と粘着剤層との界面に係る第1および第2の表面自由エネルギーの差が3.5mJ/m2以上であり、好ましくは4mJ/m2以上、より好ましくは5mJ/m2以上であるという上記構成は、ピックアップ工程にて接着剤層付き半導体チップの良好なピックアップを実現可能な程度に、当該粘着剤層と接着剤層との間において小さな剥離力を確保するのに適するのである。
【0010】
接着剤層の低弾性化を図って当該接着剤層の対フレーム部材粘着力を確保しつつも当該接着剤層とダイシングテープ粘着剤層との間の剥離力の上昇を抑制するのに適する本ダイシングダイボンドフィルムは、その接着剤層にワーク貼着用領域に加えてフレーム部材貼着用領域を含むように、ダイシングテープないしその粘着剤層とその上の接着剤層とをフィルム面内方向において実質的に同一の寸法で設計するのに適する。本ダイシングダイボンドフィルムでは、例えば、フィルム面内方向において、接着剤層の外周端がダイシングテープの基材や粘着剤層の各外周端から1000μm以内の距離にある設計を、採用することが可能である。このような構成のダイシングダイボンドフィルムは、基材と粘着剤層との積層構造を有する一のダイシングテープを形成するための加工と、一の接着剤層を形成するための加工とを、一の打抜き加工等の加工で一括的に実施するのに適する。
【0011】
上述のダイシングダイボンドフィルムYの製造過程においては、所定のサイズおよび形状のダイシングテープ60を形成するための加工工程(第1の加工工程)と、所定のサイズおよび形状のダイボンドフィルム70を形成するための加工工程(第2の加工工程)とが、別個の工程として必要である。第1の加工工程では、例えば、所定のセパレータと、基材61へと形成されることとなる基材層と、これらの間に位置して粘着剤層62へと形成されることとなる粘着剤層との積層構造を有する積層シート体に対し、基材層の側からセパレータに至るまで加工刃を突入させる加工が施される。粘着剤層62へと形成されることとなる粘着剤層は、セパレータ上への粘着剤組成物の塗布とその後の乾燥を経て形成される。第1の加工工程により、セパレータ上の粘着剤層62と基材61との積層構造を有するダイシングテープ60が、セパレータ上に形成される。第2の加工工程では、例えば、所定のセパレータと、ダイボンドフィルム70へと形成されることとなる接着剤層との積層構造を有する積層シート体に対し、接着剤層の側からセパレータに至るまで加工刃を突入させる加工が施される。ダイボンドフィルム70へと形成されることとなる接着剤層は、セパレータ上への接着剤組成物の塗布とその後の乾燥を経て形成される。第2の加工工程により、セパレータ上にダイボンドフィルム70が形成される。このように別個の工程で形成されたダイシングテープ60とダイボンドフィルム70とは、その後、位置合わせされつつ貼り合わせられる。図16に、ダイボンドフィルム70表面および粘着剤層62表面を覆うセパレータ83を伴うダイシングダイボンドフィルムYを示す。
【0012】
これに対し、ダイシングテープないしその粘着剤層とその上のダイボンドフィルムである接着剤層とがフィルム面内方向において実質的に同一の設計寸法を有する場合の本発明のダイシングダイボンドフィルムは、例えば次のようにして製造することができる。まず、所定のセパレータ上に、接着剤層形成用の組成物の塗工によって接着剤組成物層が形成される。次に、この接着剤組成物層上に、ダイシングテープ粘着剤層形成用の組成物の塗工によって粘着剤組成物層が形成される。次に、これら組成物層の一括的な乾燥を経て、セパレータ上に接着剤層および粘着剤層が形成される。次に、粘着剤層の露出面にダイシングテープ用の基材が貼り合わせられる。次に、セパレータと接着剤層と粘着剤層と基材との積層構造を有する当該積層シート体に対し、基材の側からセパレータに至るまで加工刃を突入させる加工が施される。これにより、セパレータ上の接着剤層と粘着剤層と基材との積層構造を有する所定のサイズおよび形状のダイシングダイボンドフィルムが、セパレータ上に形成される。ダイシングテープないしその粘着剤層とその上の接着剤層とがフィルム面内方向において実質的に同一の設計寸法を有する場合の本発明のダイシングダイボンドフィルムは、基材と粘着剤層との積層構造を有する一のダイシングテープを形成するための加工と、一の接着剤層を形成するための加工とを、一の打抜き加工等の加工で一括的に実施するのに適するのである。このような本ダイシングダイボンドフィルムは、製造工程数の削減や製造コスト抑制などの観点において効率的に製造するのに適する。また、接着剤層形成用組成物およびダイシングテープ粘着剤層形成用組成物の積層形成と両組成物層の一括的な乾燥とを経る上述の製造手法は、ダイシングテープ粘着剤層と接着剤層とが個別に形成された後に貼り合わせられる製造手法よりも、ダイシングテープ粘着剤層と接着剤層との密着界面において両層間の剥離力の上昇を招きやすいものの、接着剤層とダイシングテープ粘着剤層の界面に係る第1および第2の表面自由エネルギーの差が上述のように3.5mJ/m2以上であり、好ましくは4mJ/m2以上、より好ましくは5mJ/m2以上であるという本発明における上記構成は、ピックアップ工程にて接着剤層付き半導体チップの良好なピックアップを実現可能な程度に、当該粘着剤層と接着剤層との間において小さな剥離力を確保するのに適する。
【0013】
以上のように、本発明のダイシングダイボンドフィルムは、ダイシングテープからの接着剤層付き半導体チップの良好なピックアップを実現するのに適するのである。
【0014】
本ダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープ粘着剤層と接着剤層との間において上述の小さな剥離力を確保するという観点からは、ダイシングテープ粘着剤層は、接着剤層との密着界面をなす表面において、好ましくは32mJ/m2以下、より好ましくは30mJ/m2以下、より好ましくは28mJ/m2以下の表面自由エネルギー(第2の表面自由エネルギー)を有しうるように構成されている。ダイシングテープ粘着剤層が放射線硬化型粘着剤層等の硬化型の粘着剤層である場合には、硬化後の粘着剤層における第2の表面自由エネルギーが、好ましくは32mJ/m2以下、より好ましくは30mJ/m2以下、より好ましくは28mJ/m2以下である。また、本ダイシングダイボンドフィルムの搬送中などにダイシングテープ粘着剤層と接着剤層との間で剥離が生じないように当該両層間の適度な粘着力を確保するという観点からは、ダイシングテープ粘着剤層は、接着剤層との密着界面をなす表面において、好ましくは15mJ/m2以上、より好ましくは18mJ/m2以上、より好ましくは20mJ/m2以上の表面自由エネルギー(第2の表面自由エネルギー)を有しうるように構成されている。ダイシングテープ粘着剤層が放射線硬化型粘着剤層等の硬化型の粘着剤層である場合には、硬化後の粘着剤層における第2の表面自由エネルギーが、好ましくは15mJ/m2以上、より好ましくは18mJ/m2以上、より好ましくは20mJ/m2以上である。
【0015】
本ダイシングダイボンドフィルムの接着剤層における上記第1の表面自由エネルギーは、ダイシングダイボンドフィルムにおける接着剤層とダイシングテープ粘着剤層との間に求められる密着力を確保するという観点からは、好ましくは30mJ/m2以上、より好ましくは31mJ/m2以上、より好ましくは32mJ/m2以上である。また、これら接着剤層および粘着剤層の間において上述の小さな剥離力を確保するという観点からは、当該第1の表面自由エネルギーは、好ましくは45mJ/m2以下、より好ましくは43mJ/m2以下、より好ましくは40mJ/m2以下である。
【0016】
本ダイシングダイボンドフィルムの接着剤層は、23℃、剥離角度180°および引張速度10mm/分の条件での剥離試験において、SUS平面に対し、好ましくは0.1N/10mm以上、より好ましくは0.3N/10mm以上、より好ましくは0.5N/10mm以上の180°剥離粘着力を示す。接着剤層の粘着力に関する当該構成は、本ダイシングダイボンドフィルムによるフレーム部材の保持を確保するうえで好適である。また、この接着剤層は、同条件での剥離試験において、SUS平面に対し、好ましくは20N/10mm以下、より好ましくは10N/10mm以下の180°剥離粘着力を示す。接着剤層の粘着力に関する当該構成は、本ダイシングダイボンドフィルムからのフレーム部材の脱着性を確保するうえで好適である。
【0017】
本ダイシングダイボンドフィルムの接着剤層は、幅4mmおよび厚さ80μmの接着剤層試料片について初期チャック間距離10mm、周波数10Hz、動的ひずみ±0.5μm、および昇温速度5℃/分の条件で測定される23℃での引張貯蔵弾性率が好ましくは100MPa以上、より好ましくは500MPa以上、より好ましくは1000MPa以上である。接着剤層の引張貯蔵弾性率に関する当該構成は、接着剤層の対フレーム部材粘着力を確保するうえで好適であり、従って、本ダイシングダイボンドフィルムによるフレーム部材の保持を確保するうえで好適である。また、この接着剤層は、同条件で測定される23℃での引張貯蔵弾性率が好ましくは4000MPa以下、より好ましくは3000MPa以下、より好ましくは2000MPa以下である。接着剤層の引張貯蔵弾性率に関する当該構成は、本ダイシングダイボンドフィルムからのフレーム部材の脱着性を確保するうえで好適である。
【0018】
本ダイシングダイボンドフィルムにおいて、ダイシングテープ粘着剤層は好ましくは放射線硬化型粘着剤層であり、且つ、23℃および剥離速度300mm/分の条件でのT型剥離試験における、放射線硬化後の粘着剤層と接着剤層との間の剥離力は、好ましくは0.06N/20mm以上、より好ましくは0.1N/20mm以上、より好ましくは0.15N/20mm以上である。このような構成は、ダイシングテープの硬化後粘着剤層とその上の接着剤層との間の密着性を確保するのに好適であり、従って、本ダイシングダイボンドフィルムの使用にあたってダイシングテープ粘着剤層の硬化後にエキスパンド工程を行う場合に、当該工程において接着剤層付き半導体チップの粘着剤層からの部分的な剥離すなわち浮きの発生を抑制するうえで好適である。また、23℃および剥離速度300mm/分の条件でのT型剥離試験における、放射線硬化後の粘着剤層と接着剤層との間の剥離力は、好ましくは0.25N/20mm以下、より好ましくは0.23N/20mm以下、より好ましくは0.2N/20mm以下である。このような構成は、ダイシングテープ粘着剤層の硬化後に行われるピックアップ工程において、硬化後粘着剤層からの接着剤層付き半導体チップの良好なピックアップを実現するうえで好適である。
【0019】
本ダイシングダイボンドフィルムにおいて、ダイシングテープ粘着剤層は好ましくは放射線硬化型粘着剤層であり、且つ、23℃および剥離速度300mm/分の条件でのT型剥離試験における、放射線硬化前の粘着剤層と接着剤層との間の剥離力は、好ましくは2N/20mm以上である。このような構成は、ダイシングテープの未硬化粘着剤層とその上の接着剤層との間の密着性を確保するのに好適であり、従って、本ダイシングダイボンドフィルムの使用にあたってダイシングテープの粘着剤層が未硬化の状態でエキスパンド工程を行う場合に、当該工程において接着剤層付き半導体チップの粘着剤層からの部分的な剥離すなわち浮きの発生を抑制するうえで好適である。
【0020】
本ダイシングダイボンドフィルムにおけるダイシングテープ粘着剤層と接着剤層との界面をなすための粘着剤層表面および接着剤層表面について、両表面の算術平均表面粗さ(Ra)の差は好ましくは100nm以下である。このような構成は、ダイシングテープ粘着剤層とその上の接着剤層との間の密着性を確保するのに好適であり、従って、エキスパンド工程において接着剤層付き半導体チップの粘着剤層からの部分的な剥離すなわち浮きの発生を抑制するうえで好適である。
【0021】
本ダイシングダイボンドフィルムにおける粘着剤層は、アルキル基の炭素数が10以上のアルキル(メタ)アクリレート由来の第1ユニットと、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート由来の第2ユニットとを含む、アクリル系ポリマーを含有するのが好ましい。「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」および/または「メタクリレート」を意味するものとする。粘着剤層中のアクリル系ポリマーが、炭素数10以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来するユニットと2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートに由来するユニットとを含むという構成は、ダイシングテープ粘着剤層とその上の接着剤層との間において高いせん断接着力を実現するのに適し、従って、エキスパンド工程において面内方向にエキスパンドされるダイシングテープ上の接着剤層に適切に割断力を作用させて当該接着剤層を割断させるのに適する。
【0022】
本ダイシングダイボンドフィルムにおける粘着剤層中のアクリル系ポリマーにおいて、上記の第2ユニットに対する上記の第1ユニットのモル比率は、好ましくは1以上、より好ましくは3以上、より好ましくは5以上である。このような構成は、ダイシングテープ粘着剤層とその上の接着剤層との間において上述のように高いせん断接着力を確保しつつも両層間の積層方向に働く結合的な相互作用を抑制するうえで好ましく、従って、ピックアップ工程での良好なピックアップの実現に資する。また、当該モル比率は、好ましくは40以下、より好ましくは35以下、より好ましくは30以下である。このような構成は、ダイシングテープ粘着剤層と接着剤層との間の密着性を確保して、エキスパンド工程において接着剤層付き半導体チップの粘着剤層からの部分的な剥離すなわち浮きの発生を抑制するうえで、好適である。
【0023】
本ダイシングダイボンドフィルムにおける粘着剤層中のアクリル系ポリマーは、好ましくは、放射線重合性成分である不飽和官能基含有イソシアネート化合物の付加した付加物である。この場合、アクリル系ポリマーにおける2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート由来の第2ユニットに対する不飽和官能基含有イソシアネート化合物のモル比率は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上である。これら構成は、アクリル系ポリマーと不飽和官能基含有イソシアネート化合物との反応を経て粘着剤層を適度に高弾性化するうえで好適であり、エキスパンド工程での接着剤層の良好な割断に資する。また、硬化後粘着剤層中の低分子量成分の低減という観点からは、アクリル系ポリマーに不飽和官能基含有イソシアネート化合物の付加した付加物を形成するためのアクリル系ポリマーと不飽和官能基含有イソシアネート化合物とを含む反応組成物中においては、アクリル系ポリマーの2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート由来ユニット(第2ユニット)に対する不飽和官能基含有イソシアネート化合物のモル比率は、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、より好ましくは1.3以下である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一の実施形態に係るダイシングダイボンドフィルムの断面模式図である。
図2図1に示すダイシングダイボンドフィルムがセパレータを伴う場合の一例を表す。
図3図1に示すダイシングダイボンドフィルムの製造方法の一例を表す。
図4図1に示すダイシングダイボンドフィルムが使用される半導体装置製造方法における一部の工程を表す。
図5図4に示す工程の後に続く工程を表す。
図6図5に示す工程の後に続く工程を表す。
図7図6に示す工程の後に続く工程を表す。
図8図7に示す工程の後に続く工程を表す。
図9図8に示す工程の後に続く工程を表す。
図10図1に示すダイシングダイボンドフィルムが使用される半導体装置製造方法の変形例における一部の工程を表す。
図11図1に示すダイシングダイボンドフィルムが使用される半導体装置製造方法の変形例における一部の工程を表す。
図12図1に示すダイシングダイボンドフィルムが使用される半導体装置製造方法の変形例における一部の工程を表す。
図13図1に示すダイシングダイボンドフィルムが使用される半導体装置製造方法の変形例における一部の工程を表す。
図14】従来のダイシングダイボンドフィルムの断面模式図である。
図15図14に示すダイシングダイボンドフィルムの使用態様を表す。
図16図14に示すダイシングダイボンドフィルムの一供給形態を表す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の一の実施形態に係るダイシングダイボンドフィルムXの断面模式図である。ダイシングダイボンドフィルムXは、半導体装置の製造において接着剤層付き半導体チップを得る過程での例えば後記のようなエキスパンド工程に使用することのできるものであり、ダイシングテープ10と接着剤層20とを含む積層構造を有する。また、ダイシングダイボンドフィルムXは、半導体装置の製造過程における加工対象の半導体ウエハに対応するサイズの円板形状を有し、その直径は、例えば、345~380mmの範囲内(12インチウエハ対応型)、245~280mmの範囲内(8インチウエハ対応型)、195~230mmの範囲内(6インチウエハ対応型)、または、495~530mmの範囲内(18インチウエハ対応型)にある。
【0026】
ダイシングダイボンドフィルムXにおいて、ダイシングテープ10は、基材11と粘着剤層12とを含む積層構造を有する。粘着剤層12は、接着剤層20側に粘着面12aを有する。接着剤層20は、面20a,20bを有し、ワーク貼着用領域およびフレーム部材貼着用領域を面20a側に含み、且つ、ダイシングテープ10の粘着剤層12ないしその粘着面12aに対して面20b側にて剥離可能に密着している。粘着剤層12の粘着面12aと接着剤層20の面20bとは、両層の界面をなす。また、接着剤層20の面20bの表面自由エネルギー(第1の表面自由エネルギー)と粘着剤層12の粘着面12aの表面自由エネルギー(第2の表面自由エネルギー)との差が3.5mJ/m2以上、好ましくは4mJ/m2以上、より好ましくは5mJ/m2以上であるという構成、または、当該表面自由エネルギー差が3.5mJ/m2以上、好ましくは4mJ/m2以上、より好ましくは5mJ/m2以上に至り得るという構成を、ダイシングダイボンドフィルムXは備える。本発明において、接着剤層表面および粘着剤層表面の各表面自由エネルギーとは、表面自由エネルギーの同定が求められる対象面に20℃および相対湿度65%の条件下で接する水(H2O)およびヨウ化メチレン(CH22)の各液滴について接触角計を使用して測定される接触角θw,θiの値を用いて、Journal of Applied Polymer Science, vol.13, p1741-1747(1969)に記載の方法に従って求められるγsd(表面自由エネルギーの分散力成分)およびγsh(表面自由エネルギーの水素結合力成分)を和して得られる値γs(=γsd+γsh)とする。当該表面自由エネルギーγsの導出方法は、具体的には、実施例に関して後記するとおりである。
【0027】
ダイシングテープ10の基材11は、ダイシングテープ10ないしダイシングダイボンドフィルムXにおいて支持体として機能する要素である。基材11は、例えばプラスチック基材(特にプラスチックフィルム)を好適に用いることができる。当該プラスチック基材の構成材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、全芳香族ポリアミド、ポリフェニルスルフィド、アラミド、フッ素樹脂、セルロース系樹脂、およびシリコーン樹脂が挙げられる。ポリオレフィンとしては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ランダム共重合ポリプロピレン、ブロック共重合ポリプロピレン、ホモポリプロレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アイオノマー樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-ブテン共重合体、およびエチレン-ヘキセン共重合体が挙げられる。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、およびポリブチレンテレフタレート(PBT)が挙げられる。基材11は、一種類の材料からなってもよいし、二種類以上の材料からなってもよい。基材11は、単層構造を有してもよいし、多層構造を有してもよい。また、基材11がプラスチックフィルムよりなる場合、無延伸フィルムであってもよいし、一軸延伸フィルムであってもよいし、二軸延伸フィルムであってもよい。基材11上の粘着剤層12が後述のように紫外線硬化型である場合、基材11は紫外線透過性を有するのが好ましい。
【0028】
ダイシングダイボンドフィルムXの使用過程においてダイシングテープ10ないし基材11を例えば部分的な加熱によって収縮させる場合には、基材11は熱収縮性を有するのが好ましい。基材11において良好な熱収縮性を確保するという観点からは、基材11は、主成分としてエチレン-酢酸ビニル共重合体を含むのが好ましい。基材11の主成分とは、基材構成成分中で最も大きな質量割合を占める成分とする。また、基材11がプラスチックフィルムよりなる場合、ダイシングテープ10ないし基材11について等方的な熱収縮性を実現するうえでは、基材11は二軸延伸フィルムであるのが好ましい。ダイシングテープ10ないし基材11は、加熱温度100℃および加熱処理時間60秒の条件にて行われる加熱処理試験での熱収縮率が好ましくは2~30%、より好ましくは2~25%、より好ましくは3~20%、より好ましくは5~20%である。当該熱収縮率は、いわゆるMD方向の熱収縮率およびいわゆるTD方向の熱収縮率の少なくとも一方をいうものとする。
【0029】
基材11における粘着剤層12側の表面は、粘着剤層12との密着性を高めるための物理的処理、化学的処理、または下塗り処理が施されていてもよい。物理的処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、サンドマット加工処理、オゾン暴露処理、火炎暴露処理、高圧電撃暴露処理、およびイオン化放射線処理が挙げられる。化学的処理としては例えばクロム酸処理が挙げられる。密着性を高めるための当該処理は、基材11における粘着剤層12側の表面全体に施されているのが好ましい。
【0030】
基材11の厚さは、ダイシングテープ10ないしダイシングダイボンドフィルムXにおける支持体として基材11が機能するための強度を確保するという観点からは、好ましくは40μm以上、好ましくは50μm以上、より好ましくは55μm以上、より好ましくは60μm以上である。また、ダイシングテープ10ないしダイシングダイボンドフィルムXにおいて適度な可撓性を実現するという観点からは、基材11の厚さは、好ましくは200μm以下、より好ましくは180μm以下、より好ましくは150μm以下である。
【0031】
ダイシングテープ10の粘着剤層12は、粘着剤を含有する。粘着剤は、放射線照射や加熱など外部からの作用によって意図的に粘着力を低減させることが可能な粘着剤(粘着力低減型粘着剤)であってもよいし、外部からの作用によっては粘着力がほとんど又は全く低減しない粘着剤(粘着力非低減型粘着剤)であってもよい。粘着剤層12中の粘着剤として粘着力低減型粘着剤を用いるか或いは粘着力非低減型粘着剤を用いるかについては、ダイシングダイボンドフィルムXを使用して個片化される半導体チップの個片化の手法や条件など、ダイシングダイボンドフィルムXの使用態様に応じて、適宜に選択することができる。
【0032】
粘着剤層12中の粘着剤として粘着力低減型粘着剤を用いる場合、ダイシングダイボンドフィルムXの使用過程において、粘着剤層12が相対的に高い粘着力を示す状態と相対的に低い粘着力を示す状態とを、使い分けることが可能である。例えば、ダイシングダイボンドフィルムXが後記のエキスパンド工程に使用される時には、粘着剤層12からの接着剤層20の浮きや剥離を抑制・防止するために粘着剤層12の高粘着力状態を利用する一方で、それより後、ダイシングダイボンドフィルムXのダイシングテープ10から接着剤層付き半導体チップをピックアップするための後記のピックアップ工程では、粘着剤層12から接着剤層付き半導体チップをピックアップしやすくするために粘着剤層12の低粘着力状態を利用することが可能である。
【0033】
このような粘着力低減型粘着剤としては、例えば、放射線硬化型粘着剤(放射線硬化性を有する粘着剤)や加熱発泡型粘着剤などが挙げられる。本実施形態の粘着剤層12においては、一種類の粘着力低減型粘着剤が用いられてもよいし、二種類以上の粘着力低減型粘着剤が用いられてもよい。また、粘着剤層12の全体が粘着力低減型粘着剤から形成されてもよいし、粘着剤層12の一部が粘着力低減型粘着剤から形成されてもよい。例えば、粘着剤層12が単層構造を有する場合、粘着剤層12の全体が粘着力低減型粘着剤から形成されてもよいし、粘着剤層12における所定の部位が粘着力低減型粘着剤から形成され、他の部位が粘着力非低減型粘着剤から形成されてもよい。また、粘着剤層12が積層構造を有する場合、積層構造をなす全ての層が粘着力低減型粘着剤から形成されてもよいし、積層構造中の一部の層が粘着力低減型粘着剤から形成されてもよい。
【0034】
粘着剤層12における放射線硬化型粘着剤としては、例えば、電子線、紫外線、α線、β線、γ線、またはX線の照射により硬化するタイプの粘着剤を用いることができ、紫外線照射によって硬化するタイプの粘着剤(紫外線硬化型粘着剤)を特に好適に用いることができる。
【0035】
粘着剤層12における放射線硬化型粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤たるアクリル系ポリマーなどのベースポリマーと、放射線重合性の炭素-炭素二重結合等の官能基を有する放射線重合性のモノマー成分やオリゴマー成分とを含有する、添加型の放射線硬化型粘着剤が挙げられる。
【0036】
上記のアクリル系ポリマーは、好ましくは、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルに由来するモノマーユニットを質量割合で最も多いモノマーユニットとして含む。「(メタ)アクリル」は、「アクリル」および/または「メタクリル」を意味するものとする。
【0037】
アクリル系ポリマーのモノマーユニットをなすための(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステルなどの炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、s-ブチルエステル、t-ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、2-エチルヘキシルエステル、イソオクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル、イソデシルエステル、ウンデシルエステル、ドデシルエステル(即ちラウリルエステル)、トリデシルエステル、テトラデシルエステル、ヘキサデシルエステル、オクタデシルエステル、およびエイコシルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のシクロペンチルエステルおよびシクロヘキシルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸フェニルおよび(メタ)アクリル酸ベンジルが挙げられる。アクリル系ポリマーのモノマーユニットをなすための(メタ)アクリル酸エステルとしては、一種類の(メタ)アクリル酸エステルを用いてもよいし、二種類以上の(メタ)アクリル酸エステルを用いてもよい。アクリル系ポリマーのモノマーユニットをなすための(メタ)アクリル酸エステルとしては、上記のうち、アルキル基の炭素数が10以上のアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、ラウリル(メタ)アクリレートがより好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステルに依る粘着性等の基本特性を粘着剤層12にて適切に発現させるうえでは、アクリル系ポリマーを形成するための全モノマー成分における(メタ)アクリル酸エステルの割合は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。
【0038】
アクリル系ポリマーは、その凝集力や耐熱性などを改質するために、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他のモノマーに由来するモノマーユニットを含んでいてもよい。そのような他のモノマーとしては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、酸無水物モノマー、ヒドロキシ基含有モノマー、グリシジル基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、アクリルアミド、およびアクリロニトリルなどの官能基含有モノマーが挙げられる。カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、およびクロトン酸が挙げられる。酸無水物モノマーとしては、例えば、無水マレイン酸および無水イタコン酸が挙げられる。ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシデシル、12-ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、および(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレートが挙げられる。グリシジル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルおよび(メタ)アクリル酸メチルグリシジルが挙げられる。スルホン酸基含有モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、および(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸が挙げられる。リン酸基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェートが挙げられる。アクリル系ポリマーのための当該他の共重合性モノマーとしては、一種類のモノマーを用いてもよいし、二種類以上のモノマーを用いてもよい。上記のアクリル系ポリマーが、炭素数10以上のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート由来のユニット(第1ユニット)を含む場合、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート由来のユニット(第2ユニット)を共に含むのが好ましい。そのようなアクリル系ポリマーにおいて、第2ユニットに対する第1ユニットのモル比率は、好ましくは1以上、より好ましくは3以上、より好ましくは5以上である。また、当該モル比率は、好ましくは40以下、より好ましくは35以下、より好ましくは30以下である。
【0039】
アクリル系ポリマーは、そのポリマー骨格中に架橋構造を形成するために、(メタ)アクリル酸エステルなどのモノマー成分と共重合可能な多官能性モノマーに由来するモノマーユニットを含んでいてもよい。そのような多官能性モノマーとして、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート(即ちポリグリシジル(メタ)アクリレート)、ポリエステル(メタ)アクリレート、およびウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。アクリル系ポリマーのための多官能性モノマーとしては、一種類の多官能性モノマーを用いてもよいし、二種類以上の多官能性モノマーを用いてもよい。アクリル系ポリマーを形成するための全モノマー成分における多官能性モノマーの割合は、(メタ)アクリル酸エステルに依る粘着性等の基本特性を粘着剤層12にて適切に発現させるうえでは、好ましくは40質量%以下、好ましくは30質量%以下である。
【0040】
アクリル系ポリマーは、それを形成するための原料モノマーを重合して得ることができる。重合手法としては、例えば、溶液重合、乳化重合、塊状重合、および懸濁重合が挙げられる。ダイシングテープ10ないしダイシングダイボンドフィルムXの使用される半導体装置製造方法における高度の清浄性の観点からは、ダイシングテープ10ないしダイシングダイボンドフィルムXにおける粘着剤層12中の低分子量物質は少ない方が好ましいところ、アクリル系ポリマーの数平均分子量は、好ましくは10万以上、より好ましくは20万~300万である。
【0041】
粘着剤層12ないしそれをなすための粘着剤は、アクリル系ポリマーなどベースポリマーの数平均分子量を高めるために例えば、外部架橋剤を含有してもよい。アクリル系ポリマーなどベースポリマーと反応して架橋構造を形成するための外部架橋剤としては、ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、ポリオール化合物(ポリフェノール系化合物など)、アジリジン化合物、およびメラミン系架橋剤が挙げられる。粘着剤層12ないしそれをなすための粘着剤における外部架橋剤の含有量は、ベースポリマー100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは0.1~5質量部である。
【0042】
放射線硬化型粘着剤をなすための上記の放射線重合性モノマー成分としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、および1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。放射線硬化型粘着剤をなすための上記の放射線重合性オリゴマー成分としては、例えば、ウレタン系、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリブタジエン系など種々のオリゴマーが挙げられ、分子量100~30000程度のものが適当である。放射線硬化型粘着剤中の放射線重合性のモノマー成分やオリゴマー成分の総含有量は、形成される粘着剤層12の粘着力を適切に低下させ得る範囲で決定され、アクリル系ポリマーなどのベースポリマー100質量部に対して、例えば5~500質量部であり、好ましくは40~150質量部である。また、添加型の放射線硬化型粘着剤としては、例えば特開昭60-196956号公報に開示のものを用いてもよい。
【0043】
粘着剤層12における放射線硬化型粘着剤としては、例えば、放射線重合性の炭素-炭素二重結合等の官能基をポリマー側鎖や、ポリマー主鎖中、ポリマー主鎖末端に有するベースポリマーを含有する内在型の放射線硬化型粘着剤も挙げられる。このような内在型の放射線硬化型粘着剤は、形成される粘着剤層12内での低分子量成分の移動に起因する粘着特性の意図しない経時的変化を抑制するうえで好適である。
【0044】
内在型の放射線硬化型粘着剤に含有されるベースポリマーとしては、アクリル系ポリマーを基本骨格とするものが好ましい。そのような基本骨格をなすアクリル系ポリマーとしては、上述のアクリル系ポリマーを採用することができる。アクリル系ポリマーへの放射線重合性の炭素-炭素二重結合の導入手法としては、例えば、所定の官能基(第1の官能基)を有するモノマーを含む原料モノマーを共重合させてアクリル系ポリマーを得た後、第1の官能基との間で反応を生じて結合しうる所定の官能基(第2の官能基)と放射線重合性炭素-炭素二重結合とを有する化合物を、炭素-炭素二重結合の放射線重合性を維持したままアクリル系ポリマーに対して縮合反応または付加反応させる方法が、挙げられる。
【0045】
第1の官能基と第2の官能基の組み合わせとしては、例えば、カルボキシ基とエポキシ基、エポキシ基とカルボキシ基、カルボキシ基とアジリジル基、アジリジル基とカルボキシ基、ヒドロキシ基とイソシアネート基、イソシアネート基とヒドロキシ基が挙げられる。これら組み合わせのうち、反応追跡の容易さの観点からは、ヒドロキシ基とイソシアネート基の組み合わせや、イソシアネート基とヒドロキシ基の組み合わせが、好適である。また、反応性の高いイソシアネート基を有するポリマーを作製するのは技術的難易度が高いところ、アクリル系ポリマーの作製または入手のしやすさの観点からは、アクリル系ポリマー側の上記第1の官能基がヒドロキシ基であり且つ上記第2の官能基がイソシアネート基である場合が、より好適である。この場合、放射線重合性炭素-炭素二重結合と第2の官能基たるイソシアネート基とを併有するイソシアネート化合物、即ち、放射線重合性の不飽和官能基含有イソシアネート化合物としては、例えば、メタクリロイルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)、およびm-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネートが挙げられる。上記のアクリル系ポリマーに不飽和官能基含有イソシアネート化合物が導入ないし付加されている場合、当該アクリル系ポリマーにおける2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート由来のユニット(第2ユニット)に対する不飽和官能基含有イソシアネート化合物のモル比率は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上である。また、アクリル系ポリマーに不飽和官能基含有イソシアネート化合物の付加した付加物を形成するためのアクリル系ポリマーと不飽和官能基含有イソシアネート化合物とを含む反応組成物中においては、アクリル系ポリマーの2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート由来ユニット(第2ユニット)に対する不飽和官能基含有イソシアネート化合物のモル比率は、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、より好ましくは1.3以下である。
【0046】
粘着剤層12における放射線硬化型粘着剤は、好ましくは光重合開始剤を含有する。光重合開始剤としては、例えば、α-ケトール系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ケタール系化合物、芳香族スルホニルクロリド系化合物、光活性オキシム系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、カンファーキノン、ハロゲン化ケトン、アシルホスフィノキシド、およびアシルホスフォナートが挙げられる。α-ケトール系化合物としては、例えば、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、α-ヒドロキシ-α,α'-ジメチルアセトフェノン、2-メチル-2-ヒドロキシプロピオフェノン、および1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが挙げられる。アセトフェノン系化合物としては、例えば、メトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、および2-メチル-1-[4-(メチルチオ)-フェニル]-2-モルホリノプロパン-1が挙げられる。ベンゾインエーテル系化合物としては、例えば、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、およびアニソインメチルエーテルが挙げられる。ケタール系化合物としては、例えばベンジルジメチルケタールが挙げられる。芳香族スルホニルクロリド系化合物としては、例えば2-ナフタレンスルホニルクロリドが挙げられる。光活性オキシム系化合物としては、例えば、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-エトキシカルボニル)オキシムが挙げられる。ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、および3,3'-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノンが挙げられる。チオキサントン系化合物としては、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、および2,4-ジイソプロピルチオキサントンが挙げられる。粘着剤層12における放射線硬化型粘着剤中の光重合開始剤の含有量は、アクリル系ポリマーなどのベースポリマー100質量部に対して例えば0.05~20質量部である。
【0047】
粘着剤層12における上記の加熱発泡型粘着剤は、加熱によって発泡や膨張をする成分(発泡剤、熱膨張性微小球など)を含有する粘着剤であるところ、発泡剤としては種々の無機系発泡剤および有機系発泡剤が挙げられ、熱膨張性微小球としては、例えば、加熱によって容易にガス化して膨張する物質が殻内に封入された構成の微小球が挙げられる。無機系発泡剤としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、およびアジド類が挙げられる。有機系発泡剤としては、例えば、トリクロロモノフルオロメタンやジクロロモノフルオロメタンなどの塩フッ化アルカン、アゾビスイソブチロニトリルやアゾジカルボンアミド、バリウムアゾジカルボキシレートなどのアゾ系化合物、パラトルエンスルホニルヒドラジドやジフェニルスルホン-3,3'-ジスルホニルヒドラジド、4,4'-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、アリルビス(スルホニルヒドラジド)などのヒドラジン系化合物、ρ-トルイレンスルホニルセミカルバジドや4,4'-オキシビス(ベンゼンスルホニルセミカルバジド)などのセミカルバジド系化合物、5-モルホリル-1,2,3,4-チアトリアゾールなどのトリアゾール系化合物、並びに、N,N'-ジニトロソペンタメチレンテトラミンやN,N'-ジメチル-N,N'-ジニトロソテレフタルアミドなどのN-ニトロソ系化合物が、挙げられる。上記のような熱膨張性微小球をなすための、加熱によって容易にガス化して膨張する物質としては、例えば、イソブタン、プロパン、およびペンタンが挙げられる。加熱によって容易にガス化して膨張する物質をコアセルベーション法や界面重合法などによって殻形成物質内に封入することによって、熱膨張性微小球を作製することができる。殻形成物質としては、熱溶融性を示す物質や、封入物質の熱膨張の作用によって破裂し得る物質を用いることができる。そのような物質としては、例えば、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、およびポリスルホンが挙げられる。
【0048】
上述の粘着力非低減型粘着剤としては、例えば、粘着力低減型粘着剤に関して上述した放射線硬化型粘着剤を予め放射線照射によって硬化させた形態の粘着剤(放射線照射済放射線硬化型粘着剤)や、感圧型粘着剤などが、挙げられる。放射線照射済放射線硬化型粘着剤は、放射線照射によって粘着力が低減されているとしても、ポリマー成分の含有量によっては当該ポリマー成分に起因する粘着性を示し得て、所定の使用態様において被着体を粘着保持するのに利用可能な粘着力を発揮することが可能である。本実施形態の粘着剤層12においては、一種類の粘着力非低減型粘着剤が用いられてもよいし、二種類以上の粘着力非低減型粘着剤が用いられてもよい。また、粘着剤層12の全体が粘着力非低減型粘着剤から形成されてもよいし、粘着剤層12の一部が粘着力非低減型粘着剤から形成されてもよい。例えば、粘着剤層12が単層構造を有する場合、粘着剤層12の全体が粘着力非低減型粘着剤から形成されてもよいし、粘着剤層12における所定の部位が粘着力非低減型粘着剤から形成され、他の部位が粘着力低減型粘着剤から形成されてもよい。また、粘着剤層12が積層構造を有する場合、積層構造をなす全ての層が粘着力非低減型粘着剤から形成されてもよいし、積層構造中の一部の層が粘着力非低減型粘着剤から形成されてもよい。
【0049】
一方、粘着剤層12における感圧型粘着剤としては、例えば、アクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系粘着剤やゴム系粘着剤を用いることができる。粘着剤層12が感圧型粘着剤としてアクリル系粘着剤を含有する場合、当該アクリル系粘着剤のベースポリマーたるアクリル系ポリマーは、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマーユニットを質量割合で最も多いモノマーユニットとして含む。そのようなアクリル系ポリマーとしては、例えば、放射線硬化型粘着剤に関して上述したアクリル系ポリマーが挙げられる。
【0050】
粘着剤層12ないしそれをなすための粘着剤には、上述の各成分に加えて、架橋促進剤、粘着付与剤、老化防止剤、顔料や染料などの着色剤などを、含有してもよい。着色剤は、放射線照射を受けて着色する化合物であってもよい。そのような化合物としては、例えばロイコ染料が挙げられる。
【0051】
粘着剤層12は、接着剤層20との界面をなす粘着面12aにおいて、好ましくは32mJ/m2以下、より好ましくは30mJ/m2以下、より好ましくは28mJ/m2以下の表面自由エネルギー(第2の表面自由エネルギー)を有するか、或いは、好ましくは32mJ/m2以下、より好ましくは30mJ/m2以下、より好ましくは28mJ/m2以下の表面自由エネルギー(第2の表面自由エネルギー)を有しうる。粘着剤層12が放射線硬化型粘着剤層等の硬化型の粘着剤層である場合には、硬化後の粘着剤層12における第2の表面自由エネルギーが、好ましくは32mJ/m2以下、より好ましくは30mJ/m2以下、より好ましくは28mJ/m2以下である。また、粘着剤層12は、接着剤層20との界面をなす粘着面12aにおいて、好ましくは15mJ/m2以上、より好ましくは18mJ/m2以上、より好ましくは20mJ/m2以上の表面自由エネルギー(第2の表面自由エネルギー)を有するか、或いは、好ましくは15mJ/m2以上、より好ましくは18mJ/m2以上、より好ましくは20mJ/m2以上の表面自由エネルギー(第2の表面自由エネルギー)を有しうる。粘着剤層12が放射線硬化型粘着剤層等の硬化型の粘着剤層である場合には、硬化後の粘着剤層12における第2の表面自由エネルギーが、好ましくは15mJ/m2以上、より好ましくは18mJ/m2以上、より好ましくは20mJ/m2以上である。粘着剤層12の粘着面12aの表面自由エネルギーについては、粘着剤層12中のアクリル系ポリマーなどベースポリマーを形成するための各種モノマーの組成の調整などによって、行うことができる。
【0052】
粘着剤層12の厚さは、好ましくは1~50μm、より好ましくは2~30μm、より好ましくは5~25μmである。このような構成は、例えば、粘着剤層12が放射線硬化型粘着剤を含む場合に当該粘着剤層12の放射線硬化の前後における接着剤層20に対する接着力のバランスをとるうえで、好適である。
【0053】
ダイシングダイボンドフィルムXの接着剤層20は、ダイボンディング用の熱硬化性を示す接着剤としての機能と、半導体ウエハ等のワークとリングフレーム等のフレーム部材とを保持するための粘着機能とを併有する。本実施形態において、接着剤層20をなすための粘接着剤は、熱硬化性樹脂と例えばバインダー成分としての熱可塑性樹脂とを含む組成を有してもよいし、硬化剤と反応して結合を生じ得る熱硬化性官能基を伴う熱可塑性樹脂を含む組成を有してもよい。接着剤層20をなすための粘接着剤が、熱硬化性官能基を伴う熱可塑性樹脂を含む組成を有する場合、当該粘接着剤は熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂など)を更に含む必要はない。このような接着剤層20は、単層構造を有してもよいし、多層構造を有してもよい。
【0054】
接着剤層20が、熱硬化性樹脂を熱可塑性樹脂とともに含む場合、当該熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、および熱硬化性ポリイミド樹脂が挙げられる。接着剤層20をなすうえでは、一種類の熱硬化性樹脂を用いてもよいし、二種類以上の熱硬化性樹脂を用いてもよい。ダイボンディング対象の半導体チップの腐食原因となりうるイオン性不純物等の含有量の少ない傾向にあるという理由から、接着剤層20に含まれる熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂が好ましい。また、エポキシ樹脂の硬化剤としてはフェノール樹脂が好ましい。
【0055】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型、ヒダントイン型、トリスグリシジルイソシアヌレート型、およびグリシジルアミン型のエポキシ樹脂が挙げられる。ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、およびテトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂は、硬化剤としてのフェノール樹脂との反応性に富み且つ耐熱性に優れることから、接着剤層20に含まれるエポキシ樹脂として好ましい。
【0056】
エポキシ樹脂の硬化剤として作用しうるフェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、および、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレンが挙げられる。ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert-ブチルフェノールノボラック樹脂、およびノニルフェノールノボラック樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂の硬化剤として作用しうるフェノール樹脂としては、一種類のフェノール樹脂を用いてもよいし、二種類以上のフェノール樹脂を用いてもよい。フェノールノボラック樹脂やフェノールアラルキル樹脂は、ダイボンディング用接着剤としてのエポキシ樹脂の硬化剤として用いられる場合に当該接着剤の接続信頼性を向上させうる傾向にあるので、接着剤層20に含まれるエポキシ樹脂の硬化剤として好ましい。
【0057】
接着剤層20において、エポキシ樹脂とフェノール樹脂との硬化反応を充分に進行させるという観点からは、フェノール樹脂は、エポキシ樹脂成分中のエポキシ基1当量当たり、当該フェノール樹脂中の水酸基が好ましくは0.5~2.0当量、より好ましくは0.8~1.2当量となる量で、含まれる。
【0058】
接着剤層20に含まれる熱可塑性樹脂としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6-ナイロンや6,6-ナイロン等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、PETやPBT等の飽和ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびフッ素樹脂が挙げられる。接着剤層20をなすうえでは、一種類の熱可塑性樹脂を用いてもよいし、二種類以上の熱可塑性樹脂を用いてもよい。接着剤層20に含まれる熱可塑性樹脂としては、イオン性不純物が少なく且つ耐熱性が高いために接着剤層20による接合信頼性を確保しやすいという理由から、アクリル樹脂が好ましい。また、後記のリングフレームに対する接着剤層20の、室温およびその近傍の温度における貼着性と剥離時残渣の防止との両立の観点からは、接着剤層20は、熱可塑性樹脂の主成分として、ガラス転移温度が-10~10℃のポリマーを含むのが好ましい。熱可塑性樹脂の主成分とは、熱可塑性樹脂成分中で最も大きな質量割合を占める樹脂成分とする。
【0059】
ポリマーのガラス転移温度については、下記のFoxの式に基づき求められるガラス転移温度(理論値)を用いることができる。Foxの式は、ポリマーのガラス転移温度Tgと、当該ポリマーにおける構成モノマーごとの単独重合体のガラス転移温度Tgiとの関係式である。下記のFoxの式において、Tgはポリマーのガラス転移温度(℃)を表し、Wiは当該ポリマーを構成するモノマーiの重量分率を表し、Tgiはモノマーiの単独重合体のガラス転移温度(℃)を示す。単独重合体のガラス転移温度については文献値を用いることができ、例えば「新高分子文庫7 塗料用合成樹脂入門」(北岡協三 著,高分子刊行会,1995年)や「アクリルエステルカタログ(1997年度版)」(三菱レイヨン株式会社)には、各種の単独重合体のガラス転移温度が挙げられている。一方、モノマーの単独重合体のガラス転移温度については、特開2007-51271号公報に具体的に記載されている手法によって求めることも可能である。
【0060】
Foxの式 1/(273+Tg)=Σ[Wi/(273+Tgi)]
【0061】
接着剤層20に熱可塑性樹脂として含まれるアクリル樹脂は、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマーユニットを質量割合で最も多い主たるモノマーユニットとして含む。そのような(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、粘着剤層12形成用の放射線硬化型粘着剤の一成分たるアクリル系ポリマーに関して上記したのと同様の(メタ)アクリル酸エステルを用いることができる。接着剤層20に熱可塑性樹脂として含まれるアクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他のモノマーに由来するモノマーユニットを含んでいてもよい。そのような他のモノマー成分としては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、酸無水物モノマー、ヒドロキシ基含有モノマー、グリシジル基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、アクリルアミド、アクリロニトリルなどの官能基含有モノマーや、各種の多官能性モノマーが挙げられ、具体的には、粘着剤層12形成用の放射線硬化型粘着剤の一成分たるアクリル系ポリマーに関して(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他のモノマーとして上記したのと同様のものを用いることができる。接着剤層20において高い凝集力を実現するという観点からは、接着剤層20に含まれる当該アクリル樹脂は、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステル(特に、アルキル基の炭素数が4以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステル)と、カルボキシ基含有モノマーと、窒素原子含有モノマーと、多官能性モノマー(特にポリグリシジル系多官能モノマー)との共重合体であり、より好ましくは、アクリル酸エチルと、アクリル酸ブチルと、アクリル酸と、アクリロニトリルと、ポリグリシジル(メタ)アクリレートとの共重合体である。
【0062】
接着剤層20における熱硬化性樹脂の含有割合は、接着剤層20において熱硬化型接着剤としての機能を適切に発現させるという観点から、好ましくは5~60質量%、より好ましくは10~50質量%である。
【0063】
接着剤層20が、熱硬化性官能基を伴う熱可塑性樹脂を含む場合、当該熱可塑性樹脂としては、例えば、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂を用いることができる。この熱硬化性官能基含有アクリル樹脂をなすためのアクリル樹脂は、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマーユニットを質量割合で最も多い主たるモノマーユニットとして含む。そのような(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、粘着剤層12形成用の放射線硬化型粘着剤の一成分たるアクリル系ポリマーに関して上記したのと同様の(メタ)アクリル酸エステルを用いることができる。一方、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂をなすための熱硬化性官能基としては、例えば、グリシジル基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、およびイソシアネート基が挙げられる。これらのうち、グリシジル基およびカルボキシ基を好適に用いることができる。すなわち、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂としては、グリシジル基含有アクリル樹脂やカルボキシ基含有アクリル樹脂を好適に用いることができる。また、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂の硬化剤としては、例えば、粘着剤層12形成用の放射線硬化型粘着剤の一成分とされる場合のある外部架橋剤として上記したものを用いることができる。熱硬化性官能基含有アクリル樹脂における熱硬化性官能基がグリシジル基である場合には、硬化剤としてポリフェノール系化合物を好適に用いることができ、例えば上記の各種フェノール樹脂を用いることができる。
【0064】
ダイボンディングのために硬化される前の接着剤層20について、ある程度の架橋度を実現するためには、例えば、接着剤層20に含まれる上述の樹脂の分子鎖末端の官能基等と反応して結合しうる多官能性化合物を架橋剤として接着剤層形成用樹脂組成物に配合しておくのが好ましい。このような構成は、接着剤層20について、高温下での接着特性を向上させるうえで、また、耐熱性の改善を図るうえで好適である。そのような架橋剤としては、例えばポリイソシアネート化合物が挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、および、多価アルコールとジイソシアネートの付加物が挙げられる。接着剤層形成用樹脂組成物における架橋剤の含有量は、当該架橋剤と反応して結合しうる上記官能基を有する樹脂100質量部に対し、形成される接着剤層20の凝集力向上の観点からは好ましくは0.05質量部以上であり、形成される接着剤層20の接着力向上の観点からは好ましくは7質量部以下である。また、接着剤層20における架橋剤としては、エポキシ樹脂等の他の多官能性化合物をポリイソシアネート化合物と併用してもよい。
【0065】
接着剤層20における以上のような高分子量成分の含有割合は、好ましくは50~100質量%、より好ましくは50~80質量%である。高分子量成分とは、重量平均分子量10000以上の成分とする。このような構成は、後記のリングフレームに対する接着剤層20の、室温およびその近傍の温度における貼着性と剥離時残渣の防止との両立を図るうえで好ましい。また、接着剤層20は、23℃で液状である液状樹脂を含んでもよい。接着剤層20がそのような液状樹脂を含む場合、接着剤層20における当該液状樹脂の含有割合は、好ましくは1~10質量%、より好ましくは1~5質量%である。このような構成は、後記のリングフレームに対する接着剤層20の、室温およびその近傍の温度における貼着性と剥離時残渣の防止との両立を図るうえで好ましい。
【0066】
接着剤層20は、フィラーを含有していてもよい。接着剤層20へのフィラーの配合により、接着剤層20の引張貯蔵弾性率などの弾性率や、導電性、熱伝導性などの物性を調整することができる。フィラーとしては、無機フィラーおよび有機フィラーが挙げられるところ、特に無機フィラーが好ましい。無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミニウムウィスカ、窒化ホウ素、結晶質シリカ、非晶質シリカの他、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル等の金属単体や、合金、アモルファスカーボンブラック、グラファイトが挙げられる。フィラーは、球状、針状、フレーク状等の各種形状を有していてもよい。接着剤層20におけるフィラーとしては、一種類のフィラーを用いてもよいし、二種類以上のフィラーを用いてもよい。後記のクールエキスパンド工程においてリングフレームに対する接着剤層20の貼着性を確保するうえでは、接着剤層20におけるフィラー含有割合は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
【0067】
接着剤層20がフィラーを含有する場合における当該フィラーの平均粒径は、好ましくは0.005~10μm、より好ましくは0.005~1μmである。当該フィラーの平均粒径が0.005μm以上であるという構成は、接着剤層20において、半導体ウエハ等の被着体に対する高い濡れ性や接着性を実現するうえで好適である。当該フィラーの平均粒径が10μm以下であるという構成は、接着剤層20において充分なフィラー添加効果を享受するとともに耐熱性を確保するうえで好適である。フィラーの平均粒径は、例えば、光度式の粒度分布計(商品名「LA-910」,株式会社堀場製作所製)を使用して求めることができる。
【0068】
接着剤層20は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。当該他の成分としては、例えば、難燃剤、シランカップリング剤、およびイオントラップ剤が挙げられる。難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、および臭素化エポキシ樹脂が挙げられる。シランカップリング剤としては、例えば、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、およびγ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランが挙げられる。イオントラップ剤としては、例えば、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス、含水酸化アンチモン(例えば東亜合成株式会社製の「IXE-300」)、特定構造のリン酸ジルコニウム(例えば東亜合成株式会社製の「IXE-100」)、ケイ酸マグネシウム(例えば協和化学工業株式会社製の「キョーワード600」)、およびケイ酸アルミニウム(例えば協和化学工業株式会社製の「キョーワード700」)を挙げることができる。金属イオンとの間で錯体を形成し得る化合物もイオントラップ剤として使用することができる。そのような化合物としては、例えば、トリアゾール系化合物、テトラゾール系化合物、およびビピリジル系化合物が挙げられる。これらのうち、金属イオンとの間で形成される錯体の安定性の観点からはトリアゾール系化合物が好ましい。そのようなトリアゾール系化合物としては、例えば、1,2,3-ベンゾトリアゾール、1-{N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル}ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、6-(2-ベンゾトリアゾリル)-4-t-オクチル-6'-t-ブチル-4'-メチル-2,2'-メチレンビスフェノール、1-(2,3-ジヒドロキシプロピル)ベンゾトリアゾール、1-(1,2-ジカルボキシジエチル)ベンゾトリアゾール、1-(2-エチルヘキシルアミノメチル)ベンゾトリアゾール、2,4-ジ-t-ペンチル-6-{(H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル}フェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、オクチル-3-[3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェニル]プロピオネート、2-エチルヘキシル-3-[3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェニル]プロピオネート、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-t-ブチルフェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロ-ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ジ(1,1-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2,2'-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール]、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、および、メチル-3-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネートが挙げられる。また、キノール化合物や、ヒドロキシアントラキノン化合物、ポリフェノール化合物などの所定の水酸基含有化合物も、イオントラップ剤として使用することができる。そのような水酸基含有化合物としては、具体的には、1,2-ベンゼンジオール、アリザリン、アントラルフィン、タンニン、没食子酸、没食子酸メチル、ピロガロールなどが挙げられる。以上のような他の成分としては、一種類の成分を用いてもよいし、二種類以上の成分を用いてもよい。
【0069】
接着剤層20の厚さは、例えば1~200μmの範囲にある。当該厚さの上限は、好ましくは100μm、より好ましくは80μmである。当該厚さの下限は、好ましくは3μm、より好ましくは5μmである。
【0070】
接着剤層20における粘着剤層12との界面をなす面20bの表面自由エネルギー(第2の表面自由エネルギー)は、好ましくは30mJ/m2以上、より好ましくは31mJ/m2以上、より好ましくは32mJ/m2以上である。また、当該第2の表面自由エネルギーは、好ましくは45mJ/m2以下、より好ましくは43mJ/m2以下、より好ましくは40mJ/m2以下である。
【0071】
接着剤層20は、23℃、剥離角度180°および引張速度10mm/分の条件での剥離試験において、SUS平面に対し、0.1N/10mm以上、より好ましくは0.3N/10mm以上、より好ましくは0.5N/10mm以上の180°剥離粘着力を示す。また、この接着剤層20は、同条件での剥離試験において、SUS平面に対し、好ましくは20N/10mm以下、より好ましくは10N/10mm以下の180°剥離粘着力を示す。このような180°剥離粘着力については、引張試験機(商品名「オートグラフAGS-J」,株式会社島津製作所製)を使用して測定することができる。その測定に供される試料片は次のようにして作成される。まず、ダイシングダイボンドフィルムXから、幅10mm×長さ100mmのサイズの、基材11と粘着剤層12と接着剤層20との積層構造を有する積層体を、切り出す。粘着剤層12が紫外線硬化型である場合には、ダイシングダイボンドフィルムXにおいて基材11の側から粘着剤層12に対して350mJ/cm2の紫外線を照射して粘着剤層12を硬化させた後に、当該積層体の切り出しを行う。次に、シリコンウエハに対して、積層体の接着剤層20側を、60℃において2kgのローラーを1往復させる圧着作業によって貼り合わせ、その後、この貼り合わせ体を60℃で2分間放置する。次に、シリコンウエハ上の接着剤層20から粘着剤層12および基材11を剥離する。次に、シリコンウエハ上に残された接着剤層20に裏打ちテープ(商品名「BT-315」,日東電工株式会社製)を貼り合わせ、シリコンウエハから接着剤層20を剥離して、シリコンウエハから当該裏打ちテープへと接着剤層20を転写させる。このようにして、裏打ちテープを伴う接着剤層試料片(幅10mm×長さ100mm)が作成される。当該試料片の被着体たるSUS板への張り合わせは、2kgのローラーを1往復させる圧着作業によって行われる。
【0072】
接着剤層20は、幅4mmおよび厚さ80μmの接着剤層20試料片について初期チャック間距離10mm、周波数10Hz、動的ひずみ±0.5μm、および昇温速度5℃/分の条件で測定される23℃での引張貯蔵弾性率が好ましくは100MPa以上、より好ましくは500MPa以上、より好ましくは1000MPa以上である。また、接着剤層20は、同条件で測定される23℃での引張貯蔵弾性率が好ましくは4000MPa以下、より好ましくは3000MPa以下、より好ましくは2000MPa以下である。引張貯蔵弾性率については、動的粘弾性測定装置(商品名「Rheogel-E4000」,UBM社製)を使用して行う動的粘弾性測定に基づき求めることができる。その測定においては、測定対象物たる試料片のサイズを幅4mm×長さ20mm×厚さ80μmとし、試料片保持用チャックの初期チャック間距離を10mmとし、測定モードを引張りモードとし、測定温度範囲を-30℃~100℃とし、周波数を10Hzとし、動的ひずみを±0.5μmとし、昇温速度を5℃/分とする。
【0073】
本実施形態では、ダイシングダイボンドフィルムXの面内方向Dにおいて、ダイシングテープ10における基材11の外周端11eおよび粘着剤層12の外周端12eから、接着剤層20の外周端20eが、1000μm以内、好ましくは500μm以内の、距離にある。すなわち、接着剤層20の外周端20eは、全周にわたり、フィルム面内方向Dにおいて、基材11の外周端11eに対して内側1000μmから外側1000μmまでの間、好ましくは内側500μmから外側500μmまでの間にあり、且つ、粘着剤層12の外周端12eに対して内側1000μmから外側1000μmまでの間、好ましくは内側500μmから外側500μmまでの間にある。ダイシングテープ10ないしその粘着剤層12とその上の接着剤層20とが面内方向Dにおいて実質的に同一の寸法を有する当該構成では、接着剤層20は、上述のように、ワーク貼着用領域に加えてフレーム部材貼着用領域を面20a側に含むこととなる。
【0074】
ダイシングダイボンドフィルムXにおいて、ダイシングテープ10の粘着剤層12が放射線硬化型粘着剤層である場合、23℃および剥離速度300mm/分の条件でのT型剥離試験における、放射線硬化後の粘着剤層12と接着剤層20との間の剥離力は、好ましくは0.06N/20mm以上、より好ましくは0.1N/20mm以上、より好ましくは0.15N/20mm以上である。23℃および剥離速度300mm/分の条件でのT型剥離試験における、放射線硬化後の粘着剤層12と接着剤層20との間の剥離力は、好ましくは0.25N/20mm以下、より好ましくは0.23N/20mm以下、より好ましくは0.2N/20mm以下である。23℃および剥離速度300mm/分の条件でのT型剥離試験における、放射線硬化前の粘着剤層12と接着剤層20との間の剥離力は、好ましくは2N/20mm以上である。このようなT型剥離試験については、引張試験機(商品名「オートグラフAGS-J」,株式会社島津製作所製)を使用して行うことができる。その試験に供される試料片は、次のようにして作製される。まず、ダイシングダイボンドフィルムXにおいて基材11の側から粘着剤層12に対して350mJ/cm2の紫外線を照射して粘着剤層12を硬化させる。次に、ダイシングダイボンドフィルムXの接着剤層20側に裏打ちテープ(商品名「BT-315」,日東電工株式会社製)を貼り合わせた後、幅50mm×長さ120mmのサイズの試料片を切り出す。
【0075】
ダイシングダイボンドフィルムXにおける粘着剤層12と接着剤層20との界面をなすための粘着剤層12表面および接着剤層20表面について、両表面の算術平均表面粗さ(Ra)の差は好ましくは100nm以下である。
【0076】
ダイシングダイボンドフィルムXは、図2に示すようにセパレータSを伴ってもよい。具体的には、ダイシングダイボンドフィルムXごとに、セパレータSを伴うシート状の形態をとってもよいし、セパレータSが長尺状であってその上に複数のダイシングダイボンドフィルムXが配され且つ当該セパレータSが巻き回されてロールの形態とされてもよい。セパレータSは、ダイシングダイボンドフィルムXの接着剤層20の表面を被覆して保護するための要素であり、ダイシングダイボンドフィルムXを使用する際には当該フィルムから剥がされる。セパレータSとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、フッ素系剥離剤や長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤により表面コートされたプラスチックフィルムや紙類などが、挙げられる。セパレータSの厚さは、例えば5~200μmである。
【0077】
以上のような構成を有するダイシングダイボンドフィルムXは、例えば以下のようにして製造することができる。
【0078】
まず、図3(a)に示すように、長尺状のセパレータSの上に接着剤組成物層C1を形成する。接着剤組成物層C1は、接着剤層20形成用に調製された接着剤組成物をセパレータS上に塗工することによって形成することができる。接着剤組成物の塗工手法としては、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、およびグラビア塗工が挙げられる。
【0079】
次に、図3(b)に示すように、接着剤組成物層C1の上に粘着剤組成物層C2を形成する。粘着剤組成物層C2は、粘着剤層12形成用に調製された粘着剤組成物を接着剤組成物C1上に塗工することによって形成することができる。粘着剤組成物の塗工手法としては、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、およびグラビア塗工が挙げられる。
【0080】
次に、セパレータS上において、接着剤組成物層C1および粘着剤組成物層C2の一括的な加熱処理を経て接着剤層20'および粘着剤層12'を形成する。この加熱処理では、両層を必要に応じて乾燥させ、また、両層において必要に応じて架橋反応を生じさせる。加熱温度は例えば60~175℃であり、加熱時間は例えば0.5~5分間である。接着剤層20'は、上述の接着剤層20へと加工形成されることとなるものである。粘着剤層12'は、上述の粘着剤層12へと加工形成されることとなるものである。
【0081】
次に、図3(c)に示すように、粘着剤層12'上に基材11'を圧着して貼り合わせる。基材11'は、上述の基材11へと加工形成されるものである。樹脂製の基材11'は、カレンダー製膜法、有機溶媒中でのキャスティング法、密閉系でのインフレーション押出法、Tダイ押出法、共押出し法、ドライラミネート法などの製膜手法により作製することができる。製膜後のフィルムないし基材11'には、必要に応じて所定の表面処理が施される。本工程において、貼り合わせ温度は、例えば30~50℃であり、好ましくは35~45℃である。貼り合わせ圧力(線圧)は、例えば0.1~20kgf/cmであり、好ましくは1~10kgf/cmである。本工程により、セパレータSと、接着剤層20'と、粘着剤層12'と、基材11'との積層構造を有する長尺状の積層シート体が得られる。
【0082】
次に、図3(d)に示すように、上記の積層シート体に対し、基材11'の側からセパレータSに至るまで加工刃を突入させる加工を施す(図3(d)では切断箇所を模式的に太線で表す)。例えば、積層シート体を一方向Fに一定速度で流しつつ、その方向Fに直交する軸心まわりに回転可能に配され且つ打抜き加工用の加工刃をロール表面に伴う加工刃付き回転ロール(図示略)の加工刃付き表面を、積層シート体の基材11'側に所定の押圧力を伴って当接させる。これにより、ダイシングテープ10(基材11,粘着剤層12)と接着剤層20とが一括的に加工形成され、ダイシングダイボンドフィルムXがセパレータS上に形成される。この後、図3(e)に示すように、ダイシングダイボンドフィルムXの周囲の材料積層部をセパレータS上から取り除く。
【0083】
以上のようにして、ダイシングダイボンドフィルムXを製造することができる。
【0084】
半導体装置の製造過程においては、上述のように、接着剤層付き半導体チップを得るうえで、ダイシングダイボンドフィルムが使用されるエキスパンド工程やピックアップ工程が行われる場合があるところ、そのピックアップ工程では、接着剤層付き半導体チップにおける接着剤層が粘着剤層から剥離されて当該半導体チップがダイシングテープからピックアップされ得ることが、必要である。本発明のダイシングダイボンドフィルムXの粘着剤層12と接着剤層20との界面における上記第1および第2の表面自由エネルギーの差が3.5mJ/m2以上であり、好ましくは4mJ/m2以上、より好ましくは5mJ/m2以上であるという状態は、ピックアップ工程にて良好なピックアップを実現するのに適するという知見を、本発明者らは得ている。具体的には、後記の実施例および比較例をもって示すとおりである。粘着剤層12と接着剤層20との界面において、粘着剤層12の粘着面12aの表面自由エネルギーと接着剤層20の面20bの表面自由エネルギーとの差が大きいほど、これら両層間の構成材料の移行は生じにくい。そして、粘着剤層12と接着剤層20との間の構成材料の移行が生じにくいことは、両層間において小さな剥離力を実現するのに適する。粘着剤層12と接着剤層20との界面に係る第1および第2の表面自由エネルギーの差が3.5mJ/m2以上であり、好ましくは4mJ/m2以上、より好ましくは5mJ/m2以上であるという上記構成は、ピックアップ工程にて接着剤層付き半導体チップの良好なピックアップを実現可能な程度に、当該粘着剤層12と接着剤層20との間において小さな剥離力を確保するのに適するのである。
【0085】
粘着剤層12と接着剤層20との間の剥離力の上昇を抑制するのに適するダイシングダイボンドフィルムXは、接着剤層20について低弾性化を図って対フレーム部材粘着力を確保することによって接着剤層20がワーク貼着用領域に加えてフレーム部材貼着用領域を含むように、ダイシングテープ10ないしその粘着剤層12とその上の接着剤層20とをフィルム面内方向において実質的に同一の寸法で設計することが可能である。具体的には、上述のように、ダイシングダイボンドフィルムXの面内方向において、接着剤層20の外周端20eがダイシングテープ10の基材11の外周端11eや粘着剤層12の外周端12eから1000μm以内の距離、好ましくは500μm以内の距離にある設計を、採用することが可能である。このようなダイシングダイボンドフィルムXは、基材11と粘着剤層12との積層構造を有する一のダイシングテープ10を形成するための加工と、一の接着剤層20を形成するための加工とを、一の打抜き加工等の加工で一括的に実施するのに適する。このようなダイシングダイボンドフィルムXは、製造工程数の削減や製造コスト抑制などの観点において効率的に製造するのに適する。また、接着剤層形成用組成物および粘着剤層形成用組成物の積層形成と両組成物層の一括的な乾燥とを経る上述の製造手法は、粘着剤層と接着剤層とが個別に形成された後に貼り合わせられる製造手法よりも、粘着剤層と接着剤層との密着界面において両層間の剥離力の上昇を招きやすいものの、粘着剤層12と接着剤層20との界面に係る第1および第2の表面自由エネルギーの差が上述のように3.5mJ/m2以上であり、好ましくは4mJ/m2以上、より好ましくは5mJ/m2以上であるという上記構成は、ピックアップ工程にて接着剤層付き半導体チップの良好なピックアップを実現可能な程度に、当該粘着剤層12と接着剤層20との間において小さな剥離力を確保するのに適する。
【0086】
以上のように、ダイシングダイボンドフィルムXは、ダイシングテープ10からの接着剤層付き半導体チップの良好なピックアップを実現するのに適するのである。
【0087】
ダイシングダイボンドフィルムXにおける粘着剤層12は、上述のように、接着剤層20との界面をなす粘着面12aにおいて、好ましくは32mJ/m2以下、より好ましくは30mJ/m2以下、より好ましくは28mJ/m2以下の表面自由エネルギー(第2の表面自由エネルギー)を有しうるように構成されている。当該構成は、ダイシングダイボンドフィルムXの粘着剤層12と接着剤層20との間において上述の小さな剥離力を確保するうえで好適である。また、粘着剤層12は、上述のように、接着剤層20との界面をなす粘着面12aにおいて、好ましくは15mJ/m2以上、より好ましくは18mJ/m2以上、より好ましくは20mJ/m2以上の表面自由エネルギー(第2の表面自由エネルギー)を有しうるように構成されている。当該構成は、例えば、ダイシングダイボンドフィルムXの搬送中などに粘着剤層12と接着剤層20との間で剥離が生じないように当該両層間の適度な粘着力を確保するという観点から好適である。
【0088】
ダイシングダイボンドフィルムXの接着剤層20における上記第2の表面自由エネルギーは、上述のように、好ましくは30mJ/m2以上、より好ましくは31mJ/m2以上、より好ましくは32mJ/m2以上である。当該構成は、接着剤層20と粘着剤層12との間に求められる密着力を確保するうえで好適である。また、当該第2の表面自由エネルギーは、好ましくは45mJ/m2以下、より好ましくは43mJ/m2以下、より好ましくは40mJ/m2以下である。当該構成は、接着剤層20および粘着剤層12の間において上述の小さな剥離力を確保するうえで好適である。
【0089】
接着剤層20は、上述のように、23℃、剥離角度180°および引張速度10mm/分の条件での剥離試験において、SUS平面に対し、0.1N/10mm以上、より好ましくは0.3N/10mm以上、より好ましくは0.5N/10mm以上の180°剥離粘着力を示す。当該構成は、ダイシングダイボンドフィルムXによるフレーム部材の保持を確保するうえで好適である。また、この接着剤層20は、上述のように、同条件での剥離試験において、SUS平面に対し、好ましくは20N/10mm以下、より好ましくは10N/10mm以下の180°剥離粘着力を示す。当該構成は、ダイシングダイボンドフィルムXからのフレーム部材の脱着性を確保するうえで好適である。
【0090】
接着剤層20は、上述のように、幅4mmおよび厚さ80μmの接着剤層20試料片について初期チャック間距離10mm、周波数10Hz、動的ひずみ±0.5μm、および昇温速度5℃/分の条件で測定される23℃での引張貯蔵弾性率が好ましくは100MPa以上、より好ましくは500MPa以上、より好ましくは1000MPa以上である。当該構成は、接着剤層20の対フレーム部材粘着力を確保するうえで好適であり、従って、ダイシングダイボンドフィルムXによるフレーム部材の保持を確保するうえで好適である。また、この接着剤層20は、上述のように、同条件で測定される23℃での引張貯蔵弾性率が好ましくは4000MPa以下、より好ましくは3000MPa以下、より好ましくは2000MPa以下である。当該構成は、ダイシングダイボンドフィルムXからのフレーム部材の脱着性を確保するうえで好適である。
【0091】
ダイシングダイボンドフィルムXにおいて、ダイシングテープ10の粘着剤層12が放射線硬化型の粘着剤層12である場合、23℃および剥離速度300mm/分の条件でのT型剥離試験における、放射線硬化後の粘着剤層12と接着剤層20との間の剥離力は、上述のように、好ましくは0.06N/20mm以上、より好ましくは0.1N/20mm以上、より好ましくは0.15N/20mm以上である。当該構成は、ダイシングテープ10の硬化後の粘着剤層12とその上の接着剤層20との間の密着性を確保するのに好適であり、従って、ダイシングダイボンドフィルムXの使用にあたって粘着剤層12の硬化後にエキスパンド工程を行う場合に、当該工程において接着剤層付き半導体チップの粘着剤層12からの部分的な剥離すなわち浮きの発生を抑制するうえで好適である。23℃および剥離速度300mm/分の条件でのT型剥離試験における、放射線硬化後の粘着剤層12と接着剤層20との間の剥離力は、上述のように、好ましくは0.25N/20mm以下、より好ましくは0.23N/20mm以下、より好ましくは0.2N/20mm以下である。当該構成は、粘着剤層12の硬化後に行われるピックアップ工程において、硬化後の粘着剤層12からの接着剤層付き半導体チップの良好なピックアップを実現するうえで好適である。また、23℃および剥離速度300mm/分の条件でのT型剥離試験における、放射線硬化前の粘着剤層12と接着剤層20との間の剥離力は、上述のように、好ましくは2N/20mm以上である。当該構成は、ダイシングテープ10において未硬化状態にある粘着剤層12とその上の接着剤層20との間の密着性を確保するのに好適であり、従って、ダイシングダイボンドフィルムXの使用にあたって粘着剤層12が未硬化の状態でエキスパンド工程を行う場合に、当該工程において接着剤層付き半導体チップの粘着剤層12からの部分的な剥離すなわち浮きの発生を抑制するうえで好適である。
【0092】
ダイシングダイボンドフィルムXにおける粘着剤層12と接着剤層20との界面をなすための粘着剤層12の粘着面12aおよび接着剤層20の面20bについて、両表面の算術平均表面粗さ(Ra)の差は、上述のように100nm以下であるのが好ましい。当該構成は、粘着剤層12とその上の接着剤層20との間の密着性を確保するのに好適であり、従って、エキスパンド工程において接着剤層付き半導体チップの粘着剤層12からの部分的な剥離すなわち浮きの発生を抑制するうえで好適である。
【0093】
ダイシングダイボンドフィルムXにおける粘着剤層12は、上述のように、アルキル基の炭素数が10以上のアルキル(メタ)アクリレート由来の第1ユニットと、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート由来の第2ユニットとを含む、アクリル系ポリマーを含有するのが好ましい。当該構成は、粘着剤層12とその上の接着剤層20との間において高いせん断接着力を実現するのに適し、従って、エキスパンド工程において面内方向にエキスパンドされるダイシングテープ10上の接着剤層20に適切に割断力を作用させて当該接着剤層20を割断させるのに適する。
【0094】
粘着剤層12中のアクリル系ポリマーにおいて、上記第2ユニットに対する上記第1ユニットのモル比率は、上述のように、好ましくは1以上、より好ましくは3以上、より好ましくは5以上である。当該構成は、粘着剤層12とその上の接着剤層20との間において上述のように高いせん断接着力を確保しつつも両層間の積層方向に働く結合的な相互作用を抑制するうえで好ましく、従って、ピックアップ工程での良好なピックアップの実現に資する。また、当該モル比率は、上述のように、好ましくは40以下、より好ましくは35以下、より好ましくは30以下である。当該構成は、粘着剤層12と接着剤層20との間の密着性を確保して、エキスパンド工程において接着剤層付き半導体チップの粘着剤層12からの部分的な剥離すなわち浮きの発生を抑制するうえで、好適である。
【0095】
粘着剤層12中のアクリル系ポリマーは、上述のように、放射線重合性成分である不飽和官能基含有イソシアネート化合物の付加した付加物であるのが好ましい。粘着剤層12中のアクリル系ポリマーがそのような不飽和官能基含有イソシアネート化合物付加物である場合、当該アクリル系ポリマーにおける2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート由来の第2ユニットに対する不飽和官能基含有イソシアネート化合物のモル比率は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上である。これら構成は、アクリル系ポリマーと不飽和官能基含有イソシアネート化合物との反応を経て粘着剤層12を適度に高弾性化するうえで好適であり、エキスパンド工程での接着剤層20の良好な割断に資する。また、硬化後の粘着剤層12中の低分子量成分の低減という観点からは、アクリル系ポリマーに不飽和官能基含有イソシアネート化合物の付加した付加物を形成するためのアクリル系ポリマーと不飽和官能基含有イソシアネート化合物とを含む反応組成物中においては、アクリル系ポリマーの2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート由来ユニット(第2ユニット)に対する不飽和官能基含有イソシアネート化合物のモル比率は、上述のように、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、より好ましくは1.3以下である。
【0096】
図4から図9は、本発明の一の実施形態に係る半導体装置製造方法を表す。
【0097】
本半導体装置製造方法においては、まず、図4(a)および図4(b)に示すように、半導体ウエハWに分割溝30aが形成される(分割溝形成工程)。半導体ウエハWは、第1面Waおよび第2面Wbを有する。半導体ウエハWにおける第1面Waの側には各種の半導体素子(図示略)が既に作り込まれ、且つ、当該半導体素子に必要な配線構造等(図示略)が第1面Wa上に既に形成されている。本工程では、粘着面T1aを有するウエハ加工用テープT1が半導体ウエハWの第2面Wb側に貼り合わされた後、ウエハ加工用テープT1に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWの第1面Wa側に所定深さの分割溝30aがダイシング装置等の回転ブレードを使用して形成される。分割溝30aは、半導体ウエハWを半導体チップ単位に分離させるための空隙である(図4から図6では分割溝30aを模式的に太線で表す)。
【0098】
次に、図4(c)に示すように、粘着面T2aを有するウエハ加工用テープT2の、半導体ウエハWの第1面Wa側への貼り合わせと、半導体ウエハWからのウエハ加工用テープT1の剥離とが、行われる。
【0099】
次に、図4(d)に示すように、ウエハ加工用テープT2に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化される(ウエハ薄化工程)。研削加工は、研削砥石を備える研削加工装置を使用して行うことができる。このウエハ薄化工程によって、本実施形態では、複数の半導体チップ31に個片化可能な半導体ウエハ30Aが形成される。半導体ウエハ30Aは、具体的には、当該ウエハにおいて複数の半導体チップ31へと個片化されることとなる部位を第2面Wb側で連結する部位(連結部)を有する。半導体ウエハ30Aにおける連結部の厚さ、即ち、半導体ウエハ30Aの第2面Wbと分割溝30aの第2面Wb側先端との間の距離は、例えば1~30μmであり、好ましくは3~20μmである。
【0100】
次に、図5(a)に示すように、ウエハ加工用テープT2に保持された半導体ウエハ30AがダイシングダイボンドフィルムXの接着剤層20に対して貼り合わせられる。この後、図5(b)に示すように、半導体ウエハ30Aからウエハ加工用テープT2が剥がされる。ダイシングダイボンドフィルムXにおける粘着剤層12が放射線硬化型粘着剤層である場合には、ダイシングダイボンドフィルムXの製造過程での上述の放射線照射に代えて、半導体ウエハ30Aの接着剤層20への貼り合わせの後に、基材11の側から粘着剤層12に対して紫外線等の放射線を照射してもよい。照射量は、例えば50~500mJ/cm2であり、好ましくは100~300mJ/cm2である。ダイシングダイボンドフィルムXにおいて粘着剤層12の粘着力低減措置としての照射が行われる領域(図1に示す照射領域R)は、例えば、粘着剤層12における接着剤層20貼り合わせ領域内のその周縁部を除く領域である。
【0101】
次に、ダイシングダイボンドフィルムXにおける接着剤層20上にリングフレーム41が貼り付けられた後、図6(a)に示すように、半導体ウエハ30Aを伴う当該ダイシングダイボンドフィルムXがエキスパンド装置の保持具42に固定される。
【0102】
次に、相対的に低温の条件下での第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)が、図6(b)に示すように行われ、半導体ウエハ30Aが複数の半導体チップ31へと個片化されるとともに、ダイシングダイボンドフィルムXの接着剤層20が小片の接着剤層21に割断されて、接着剤層付き半導体チップ31が得られる。本工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43が、ダイシングダイボンドフィルムXの図中下側においてダイシングテープ10に当接して上昇され、半導体ウエハ30Aの貼り合わされたダイシングダイボンドフィルムXのダイシングテープ10が、半導体ウエハ30Aの径方向および周方向を含む二次元方向に引き伸ばされるようにエキスパンドされる。このエキスパンドは、ダイシングテープ10において15~32MPa、好ましくは20~32MPaの範囲内の引張応力が生ずる条件で行われる。クールエキスパンド工程における温度条件は、例えば0℃以下であり、好ましくは-20~-5℃、より好ましくは-15~-5℃、より好ましくは-15℃である。クールエキスパンド工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43が上昇する速度)は、好ましくは0.1~100mm/秒である。また、クールエキスパンド工程におけるエキスパンド量は、好ましくは3~16mmである。
【0103】
本工程では、半導体ウエハ30Aにおいて薄肉で割れやすい部位に割断が生じて半導体チップ31への個片化が生じる。これとともに、本工程では、エキスパンドされるダイシングテープ10の粘着剤層12に密着している接着剤層20において各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、半導体チップ31間の分割溝に対向する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ10に生ずる引張応力が作用する。その結果、接着剤層20において半導体チップ31間の分割溝に対向する箇所が割断されることとなる。本工程の後、図6(c)に示すように、突き上げ部材43が下降されて、ダイシングテープ10におけるエキスパンド状態が解除される。
【0104】
次に、相対的に高温の条件下での第2エキスパンド工程が、図7(a)に示すように行われ、接着剤層付き半導体チップ31間の距離(離間距離)が広げられる。本工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43が再び上昇され、ダイシングダイボンドフィルムXのダイシングテープ10がエキスパンドされる。第2エキスパンド工程における温度条件は、例えば10℃以上であり、好ましくは15~30℃である。第2エキスパンド工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43が上昇する速度)は、例えば0.1~10mm/秒であり、好ましくは0.3~1mm/秒である。また、第2エキスパンド工程におけるエキスパンド量は、例えば3~16mmである。後記のピックアップ工程にてダイシングテープ10から接着剤層付き半導体チップ31を適切にピックアップ可能な程度に、本工程では接着剤層付き半導体チップ31の離間距離が広げられる。本工程の後、図7(b)に示すように、突き上げ部材43が下降されて、ダイシングテープ10におけるエキスパンド状態が解除される。エキスパンド状態解除後にダイシングテープ10上の接着剤層付き半導体チップ31の離間距離が狭まることを抑制するうえでは、エキスパンド状態を解除するより前に、ダイシングテープ10における半導体チップ31保持領域より外側の部分を加熱して収縮させるのが好ましい。
【0105】
次に、接着剤層付き半導体チップ31を伴うダイシングテープ10における半導体チップ31側を水などの洗浄液を使用して洗浄するクリーニング工程を必要に応じて経た後、図8に示すように、接着剤層付き半導体チップ31をダイシングテープ10からピックアップする(ピックアップ工程)。例えば、ピックアップ対象の接着剤層付き半導体チップ31について、ダイシングテープ10の図中下側においてピックアップ機構のピン部材44を上昇させてダイシングテープ10を介して突き上げた後、吸着治具45によって吸着保持する。ピックアップ工程において、ピン部材44の突き上げ速度は例えば1~100mm/秒であり、ピン部材44の突き上げ量は例えば50~3000μmである。
【0106】
次に、図9(a)に示すように、ピックアップされた接着剤層付き半導体チップ31が、所定の被着体51に対して接着剤層21を介して仮固着される。被着体51としては、例えば、リードフレーム、TAB(Tape Automated Bonding)フィルム、配線基板、および、別途作製した半導体チップが挙げられる。接着剤層21の仮固着時における25℃での剪断接着力は、被着体51に対して好ましくは0.2MPa以上、より好ましくは0.2~10MPaである。接着剤層21の当該剪断接着力が0.2MPa以上であるという構成は、後記のワイヤーボンディング工程において、超音波振動や加熱によって接着剤層21と半導体チップ31または被着体51との接着面でずり変形が生じるのを抑制して適切にワイヤーボンディングを行うのに好適である。また、接着剤層21の仮固着時における175℃での剪断接着力は、被着体51に対して好ましくは0.01MPa以上、より好ましくは0.01~5MPaである。
【0107】
次に、図9(b)に示すように、半導体チップ31の電極パッド(図示略)と被着体51の有する端子部(図示略)とをボンディングワイヤー52を介して電気的に接続する(ワイヤーボンディング工程)。半導体チップ31の電極パッドや被着体51の端子部とボンディングワイヤー52との結線は、加熱を伴う超音波溶接によって実現され、接着剤層21を熱硬化させないように行われる。ボンディングワイヤー52としては、例えば金線、アルミニウム線、または銅線を用いることができる。ワイヤーボンディングにおけるワイヤー加熱温度は、例えば80~250℃であり、好ましくは80~220℃である。また、その加熱時間は数秒~数分間である。
【0108】
次に、図9(c)に示すように、被着体51上の半導体チップ31やボンディングワイヤー52を保護するための封止樹脂53によって半導体チップ31を封止する(封止工程)。本工程では、接着剤層21の熱硬化が進む。本工程では、例えば、金型を使用して行うトランスファーモールド技術によって封止樹脂53が形成される。封止樹脂53の構成材料としては、例えばエポキシ系樹脂を用いることができる。本工程において、封止樹脂53を形成するための加熱温度は例えば165~185℃であり、加熱時間は例えば60秒~数分間である。本工程(封止工程)で封止樹脂53の硬化が充分には進行しない場合には、本工程の後に封止樹脂53を完全に硬化させるための後硬化工程が行われる。封止工程において接着剤層21が完全に熱硬化しない場合であっても、後硬化工程において封止樹脂53と共に接着剤層21の完全な熱硬化が可能となる。後硬化工程において、加熱温度は例えば165~185℃であり、加熱時間は例えば0.5~8時間である。
【0109】
以上のようにして、半導体装置を製造することができる。
【0110】
本実施形態では、上述のように、接着剤層付き半導体チップ31が被着体51に仮固着された後、接着剤層21が完全な熱硬化に至ることなくワイヤーボンディング工程が行われる。このような構成に代えて、本発明では、接着剤層付き半導体チップ31が被着体51に仮固着された後、接着剤層21が熱硬化されてからワイヤーボンディング工程が行われてもよい。
【0111】
本発明に係る半導体装置製造方法おいては、図4(d)を参照して上述したウエハ薄化工程に代えて、図10に示すウエハ薄化工程を行ってもよい。図4(c)を参照して上述した過程を経た後、図10に示すウエハ薄化工程では、ウエハ加工用テープT2に半導体ウエハWが保持された状態で、当該ウエハが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化されて、複数の半導体チップ31を含んでウエハ加工用テープT2に保持された半導体ウエハ分割体30Bが形成される。本工程では、分割溝30aそれ自体が第2面Wb側に露出するまでウエハを研削する手法(第1の手法)を採用してもよいし、第2面Wb側から分割溝30aに至るより前までウエハを研削し、その後、回転砥石からウエハへの押圧力の作用により分割溝30aと第2面Wbとの間にクラックを生じさせて半導体ウエハ分割体30Bを形成する手法(第2の手法)を採用してもよい。採用される手法に応じて、図4(a)および図4(b)を参照して上述したように形成される分割溝30aの、第1面Waからの深さは、適宜に決定される。図10では、第1の手法を経た分割溝30a、または、第2の手法を経た分割溝30aおよびこれに連なるクラックについて、模式的に太線で表す。本発明では、このようにして作製される半導体ウエハ分割体30Bが半導体ウエハ30Aの代わりにダイシングダイボンドフィルムXに貼り合わされたうえで、図5から図9を参照して上述した各工程が行われてもよい。
【0112】
図11(a)および図11(b)は、半導体ウエハ分割体30BがダイシングダイボンドフィルムXに貼り合わされた後に行われる第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)を表す。本工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43が、ダイシングダイボンドフィルムXの図中下側においてダイシングテープ10に当接して上昇され、半導体ウエハ分割体30Bの貼り合わされたダイシングダイボンドフィルムXのダイシングテープ10が、半導体ウエハ分割体30Bの径方向および周方向を含む二次元方向に引き伸ばされるようにエキスパンドされる。このエキスパンドは、ダイシングテープ10において、例えば1~100MPa、好ましくは5~40MPaの範囲内の引張応力が生ずる条件で行われる。本工程における温度条件は、例えば0℃以下であり、好ましくは-20~-5℃、より好ましくは-15~-5℃、より好ましくは-15℃である。本工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43が上昇する速度)は、好ましくは1~500mm/秒である。また、本工程におけるエキスパンド量は、好ましくは50~200mmである。このようなクールエキスパンド工程により、ダイシングダイボンドフィルムXの接着剤層20が小片の接着剤層21に割断されて接着剤層付き半導体チップ31が得られる。具体的に、本工程では、エキスパンドされるダイシングテープ10の粘着剤層12に密着している接着剤層20において、半導体ウエハ分割体30Bの各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、半導体チップ31間の分割溝30aに対向する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ10に生ずる引張応力が作用する。その結果、接着剤層20において半導体チップ31間の分割溝30aに対向する箇所が割断されることとなる。
【0113】
本発明に係る半導体装置製造方法おいては、半導体ウエハ30Aまたは半導体ウエハ分割体30BがダイシングダイボンドフィルムXに貼り合わされるという上述の構成に代えて、以下のようにして作製される半導体ウエハ30CがダイシングダイボンドフィルムXに貼り合わされてもよい。
【0114】
図12(a)および図12(b)に示すように、まず、半導体ウエハWに改質領域30bが形成される。半導体ウエハWは、第1面Waおよび第2面Wbを有する。半導体ウエハWにおける第1面Waの側には各種の半導体素子(図示略)が既に作り込まれ、且つ、当該半導体素子に必要な配線構造等(図示略)が第1面Wa上に既に形成されている。本工程では、粘着面T3aを有するウエハ加工用テープT3が半導体ウエハWの第1面Wa側に貼り合わされた後、ウエハ加工用テープT3に半導体ウエハWが保持された状態で、ウエハ内部に集光点の合わせられたレーザー光がウエハ加工用テープT3とは反対の側から半導体ウエハWに対してその分割予定ラインに沿って照射され、多光子吸収によるアブレーションに因って半導体ウエハW内に改質領域30bが形成される。改質領域30bは、半導体ウエハWを半導体チップ単位に分離させるための脆弱化領域である。半導体ウエハにおいてレーザー光照射によって分割予定ライン上に改質領域30bを形成する方法については、例えば特開2002-192370号公報に詳述されているところ、本実施形態におけるレーザー光照射条件は、例えば以下の条件の範囲内で適宜に調整される。
<レーザー光照射条件>
(A)レーザー光
レーザー光源 半導体レーザー励起Nd:YAGレーザー
波長 1064nm
レーザー光スポット断面積 3.14×10-8cm2
発振形態 Qスイッチパルス
繰り返し周波数 100kHz以下
パルス幅 1μs以下
出力 1mJ以下
レーザー光品質 TEM00
偏光特性 直線偏光
(B)集光用レンズ
倍率 100倍以下
NA 0.55
レーザー光波長に対する透過率 100%以下
(C)半導体基板が載置される裁置台の移動速度 280mm/秒以下
【0115】
次に、図12(c)に示すように、ウエハ加工用テープT3に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化され、これによって複数の半導体チップ31に個片化可能な半導体ウエハ30Cが形成される(ウエハ薄化工程)。本発明では、以上のようにして作製される半導体ウエハ30Cが半導体ウエハ30Aの代わりにダイシングダイボンドフィルムXに貼り合わされたうえで、図5から図9を参照して上述した各工程が行われてもよい。
【0116】
図13(a)および図13(b)は、半導体ウエハ30CがダイシングダイボンドフィルムXに貼り合わされた後に行われる第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)を表す。本工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43が、ダイシングダイボンドフィルムXの図中下側においてダイシングテープ10に当接して上昇され、半導体ウエハ30Cの貼り合わされたダイシングダイボンドフィルムXのダイシングテープ10が、半導体ウエハ30Cの径方向および周方向を含む二次元方向に引き伸ばされるようにエキスパンドされる。このエキスパンドは、ダイシングテープ10において、例えば1~100MPa、好ましくは5~40MPaの範囲内の引張応力が生ずる条件で行われる。本工程における温度条件は、例えば0℃以下であり、好ましくは-20~-5℃、より好ましくは-15~-5℃、より好ましくは-15℃である。本工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43が上昇する速度)は、好ましくは1~500mm/秒である。また、本工程におけるエキスパンド量は、好ましくは50~200mmである。このようなクールエキスパンド工程により、ダイシングダイボンドフィルムXの接着剤層20が小片の接着剤層21に割断されて接着剤層付き半導体チップ31が得られる。具体的に、本工程では、半導体ウエハ30Cにおいて脆弱な改質領域30bにクラックが形成されて半導体チップ31への個片化が生じる。これとともに、本工程では、エキスパンドされるダイシングテープ10の粘着剤層12に密着している接着剤層20において、半導体ウエハ30Cの各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、ウエハのクラック形成箇所に対向する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ10に生ずる引張応力が作用する。その結果、接着剤層20において半導体チップ31間のクラック形成箇所に対向する箇所が割断されることとなる。
【0117】
また、本発明において、ダイシングダイボンドフィルムXは、上述のように接着剤層付き半導体チップを得るうえで使用することができるところ、複数の半導体チップを積層して3次元実装をする場合における接着剤層付き半導体チップを得るうえでも使用することができる。そのような3次元実装における半導体チップ31間には、接着剤層21と共にスペーサが介在していてもよいし、スペーサが介在していなくてもよい。
【実施例
【0118】
〔実施例1〕
〈接着剤層〉
アクリル系ポリマーA1(アクリル酸エチルとアクリル酸ブチルとアクリロニトリルとグリシジルメタクリレートとの共重合体,重量平均分子量は120万,ガラス転移温度は0℃,エポキシ価は0.4eq/kg)54質量部と、固形フェノール樹脂(商品名「MEHC-7851SS」,23℃で固形,明和化成株式会社製)3質量部と、液状フェノール樹脂(商品名「MEH-8000H」,23℃で液状,明和化成株式会社製)3質量部と、シリカフィラー(商品名「SO-C2」,平均粒径は0.5μm,株式会社アドマテックス製)40質量部とを、メチルエチルケトンに加えて混合し、室温での粘度が700mPa・sになるように濃度を調整し、接着剤組成物C1を得た。次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ38μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して接着剤組成物C1を塗布して塗膜を形成し、この塗膜について130℃で2分間の加熱乾燥を行った。以上のようにして、実施例1における厚さ10μmの接着剤層をPETセパレータ上に形成した。実施例1における接着剤層の組成を表1に掲げる(表1において、組成物の組成を表す各数値の単位は、後記のMOIに関する数値を除き、当該組成物内での相対的な“質量部”である)。
【0119】
〈粘着剤層〉
冷却管と、窒素導入管と、温度計と、撹拌装置とを備える反応容器内で、ラウリルアクリレート(LA)100モル部と、2-ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)20モル部と、これらモノマー成分100質量部に対して0.2質量部の重合開始剤としての過酸化ベンゾイルと、重合溶媒としてのトルエンとを含む混合物を、60℃で10時間、窒素雰囲気下で撹拌した(重合反応)。これにより、アクリル系ポリマーP1を含有するポリマー溶液を得た。当該ポリマー溶液中のアクリル系ポリマーP1について、重量平均分子量(Mw)は46万であり、ガラス転移温度は9.5℃であり、2HEA由来ユニットに対するLA由来ユニットのモル比率は5である。次に、このアクリル系ポリマーP1を含有するポリマー溶液と、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)と、付加反応触媒としてのジブチル錫ジラウリレートとを含む混合物を、室温で48時間、空気雰囲気下で撹拌した(付加反応)。当該反応溶液において、MOIの配合量は、上記ラウリルアクリレート100モル部に対して20モル部であり、アクリル系ポリマーP1における2HEA由来ユニットないしその水酸基の総量に対する当該MOI配合量のモル比率は1である。また、当該反応溶液において、ジブチル錫ジラウリレートの配合量は、アクリル系ポリマーP1100質量部に対して0.01質量部である。この付加反応により、側鎖にメタクリレート基を有するアクリル系ポリマーP2(不飽和官能基含有イソシアネート化合物の付加したアクリル系ポリマー)を含有するポリマー溶液を得た。次に、当該ポリマー溶液に、アクリル系ポリマーP2100質量部に対して1質量部のポリイソシアネート化合物(商品名「コロネートL」,東ソー株式会社製)と、2質量部の光重合開始剤(商品名「イルガキュア127」,BASF社製)とを加えて混合し、且つ、当該混合物の室温での粘度が500mPa・sになるように当該混合物についてトルエンを加えて希釈し、粘着剤組成物C2を得た。次に、PETセパレータ上に形成された上述の接着剤層の上にアプリケーターを使用して粘着剤組成物C2を塗布して塗膜を形成し、この塗膜について130℃で2分間の加熱乾燥を行い、接着剤層上に厚さ10μmの粘着剤層を形成した。次に、ラミネーターを使用して、この粘着剤層の露出面にエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)製の基材(商品名「RB-0104」,厚さ130μm,倉敷紡績株式会社製)を室温で貼り合わせた。次に、EVA基材の側からセパレータに至るまで加工刃を突入させる打抜き加工を行った。これにより、EVA基材/粘着剤層/接着剤層の積層構造を有する直径370mmの円板形状のダイシングダイボンドフィルムがセパレータ上に形成された。以上のようにして、ダイシングテープ(EVA基材/粘着剤層)と接着剤層とを含む積層構造を有する実施例1のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0120】
〔実施例2~4〕
粘着剤層の形成においてMOIの配合量を20モル部に代えて16モル部(実施例2)、12モル部(実施例3)、または8モル部(実施例4)としたこと以外は実施例1のダイシングダイボンドフィルムと同様にして、実施例2~4の各ダイシングダイボンドフィルムを作製した。なお、実施例4のダイシングダイボンドフィルムは参考例として記載する。
【0121】
〔実施例5〕
〈接着剤層〉
アクリル系ポリマーA2(商品名「テイサンレジン SG-70L」,ニトリル基を有するアクリル共重合体,重量平均分子量は90万,ガラス転移温度は-13℃,カルボン酸価は5mgKOH/g,ナガセケムテックス株式会社製)18質量部と、固形エポキシ樹脂(商品名「KI-3000」,23℃で固形,新日鉄住金化学株式会社製)6質量部と、液状エポキシ樹脂(商品名「YL-980」,23℃で液状,三菱化学株式会社製)5質量部と、シリカフィラー(商品名「SO-C2」,平均粒径は0.5μm,株式会社アドマテックス製)40質量部とを、メチルエチルケトンに加えて混合し、室温での粘度が700mPa・sになるように濃度を調整し、接着剤組成物C3を得た。次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ38μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して接着剤組成物C3を塗布して塗膜を形成し、この塗膜について130℃で2分間の加熱乾燥を行った。以上のようにして、実施例5おける厚さ10μmの接着剤層をPETセパレータ上に形成した。
【0122】
〈粘着剤層〉
MOIの配合量を20モル部に代えて16モル部としたこと以外は実施例1における上述の粘着剤層と同様にして実施例5の粘着剤層を形成して、実施例5のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0123】
〔実施例6〕
冷却管と、窒素導入管と、温度計と、撹拌装置とを備える反応容器内で、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)100モル部と、2-ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)20モル部と、これらモノマー成分100質量部に対して0.2質量部の重合開始剤としての過酸化ベンゾイルと、重合溶媒としてのトルエンとを含む混合物を、60℃で10時間、窒素雰囲気下で撹拌した(重合反応)。これにより、アクリル系ポリマーP3を含有するポリマー溶液を得た。当該ポリマー溶液中のアクリル系ポリマーP3について、重量平均分子量(Mw)は40万であり、ガラス転移温度は60℃であった。次に、このアクリル系ポリマーP3を含有するポリマー溶液と、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)と、付加反応触媒としてのジブチル錫ジラウリレートとを含む混合物を、室温で48時間、空気雰囲気下で撹拌した(付加反応)。当該反応溶液において、MOIの配合量は、上記2-エチルヘキシルアクリレート100モル部に対して16モル部である。また、当該反応溶液において、ジブチル錫ジラウリレートの配合量は、アクリル系ポリマーP3100質量部に対して0.01質量部である。この付加反応により、側鎖にメタクリレート基を有するアクリル系ポリマーP4を含有するポリマー溶液を得た。次に、当該ポリマー溶液に、アクリル系ポリマーP4100質量部に対して1質量部のポリイソシアネート化合物(商品名「コロネートL」,東ソー株式会社製)と、2質量部の光重合開始剤(商品名「イルガキュア127」,BASF社製)とを加えて混合し、且つ、当該混合物の室温での粘度が500mPa・sになるように当該混合物についてトルエンを加えて希釈し、粘着剤組成物C4を得た。接着剤組成物C3から形成される接着剤層上への粘着剤層の形成において粘着剤組成物C4を用いたこと以外は実施例5のダイシングダイボンドフィルムと同様にして、実施例6のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0124】
〔比較例1〕
粘着剤層の形成において上述の粘着剤組成物C2の代わりに上述の粘着剤組成物C4を用いたこと以外は実施例1のダイシングダイボンドフィルムと同様にして、比較例1のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0125】
〔比較例2〕
実施例1に関して上述したのと同様に、上述の接着剤組成物C1から接着剤層(厚さ10μm)をPETセパレータ上に形成した。この接着剤層について、セパレータを伴った状態で直径370mmに打抜き加工した。一方、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータ(厚さ38μm)のシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して上述の粘着剤組成物C4を塗布して塗膜を形成し、この塗膜について130℃で2分間の加熱乾燥を行い、PETセパレータ上に厚さ10μmの粘着剤層を形成した。次に、ラミネーターを使用して、この粘着剤層の露出面にエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)製の基材(商品名「RB-0104」,厚さ130μm,倉敷紡績株式会社製)を室温で貼り合わせた。こうして得られた積層シート体について、セパレータを伴った状態で直径370mmに打抜き加工してダイシングテープを形成した。次に、こうして得られたダイシングテープと接着剤層とを、ダイシングテープの中心と接着剤層の中心とが一致するように位置合わせしつつ貼り合わせた。以上のようにして、ダイシングテープ(EVA基材/粘着剤層)と接着剤層とを含む積層構造を有する比較例2のダイシングダイボンドフィルムを作製した。
【0126】
〈表面自由エネルギー〉
実施例1~6および比較例1,2の各ダイシングダイボンドフィルムについて、接着剤層における粘着剤層側表面の表面自由エネルギー、および、紫外線硬化後の粘着剤層における接着剤層側表面の表面自由エネルギーを求めた。具体的には、まず、ダイシングダイボンドフィルムにおけるダイシングテープ粘着剤層に対してダイシングテープ基材の側から紫外線を照射し、当該粘着剤層を紫外線硬化させた。紫外線照射においては、高圧水銀ランプを使用し、照射積算光量を350mJ/cm2とした。次に、ダイシングテープないしその粘着剤層から接着剤層を剥離して、表面自由エネルギー同定対象面(接着剤層の粘着剤層側表面と粘着剤層の接着剤層側表面)を露出させた。次に、20℃および相対湿度65%の条件下、表面自由エネルギー同定対象面に接する水(HO)およびヨウ化メチレン(CH)の各液滴について接触角計を使用して接触角を測定した。次に、測定された水の接触角θwおよびヨウ化メチレンの接触角θiの値を用い、Journal of Applied Polymer Science, vol.13, p1741-1747(1969)に記載の方法に従って、γsd(表面自由エネルギーの分散力成分)およびγsh(表面自由エネルギーの水素結合力成分)を求めた。そして、γsdとγshを和して得られる値γs(=γsd+γsh)を当該対象面の表面自由エネルギーとした。表面自由エネルギー同定対象面ごとのγsdおよびγshについては、下記の式(1)および式(2)の2元連立方程式の解として得られる。式(1)(2)において、γwは水の表面自由エネルギー、γwdは水の表面自由エネルギーの分散力成分、γwhは水の表面自由エネルギーの水素結合力成分、γiはヨウ化メチルの表面自由エネルギー、γidはヨウ化メチルの表面自由エネルギーの分散力成分、γihはヨウ化メチルの表面自由エネルギーの水素結合力成分であり、既知の文献値であるγw=72.8mJ/m2、γwd=21.8mJ/m2、γwh=51.0mJ/m2、γi=50.8mJ/m2、γid=48.5mJ/m2、γih=2.3mJ/m2を用いた。こうして求められた、接着剤層における粘着剤層側表面の表面自由エネルギーγs1(mJ/m2)、および、紫外線硬化後の粘着剤層における接着剤層側表面の表面自由エネルギーγs2(mJ/m2)を、表1に掲げる。これら表面自由エネルギーの差|γs1-γs2|(mJ/m2)も表1に掲げる。
【0127】
【数1】
【0128】
〈表面粗さ〉
実施例1~6および比較例1,2の各ダイシングダイボンドフィルムについて、接着剤層における粘着剤層側表面の表面粗さ、および、粘着剤層における接着剤層側表面の表面粗さを調べた。具体的には、まず、ダイシングダイボンドフィルムにおけるダイシングテープの粘着剤層に対してダイシングテープ基材の側から紫外線を照射し、当該粘着剤層を紫外線硬化させた。紫外線照射においては、高圧水銀ランプを使用し、照射積算光量を350mJ/cm2とした。次に、ダイシングテープないしその粘着剤層から接着剤層を剥離した。次に、この剥離によって露出した接着剤層表面および粘着剤層表面のそれぞれについて、コンフォーカルレーザー顕微鏡(商品名「OPTELICS H300」,レーザーテック株式会社製)を使用して算術平均表面粗さを求めた。接着剤層における粘着剤層側表面の表面粗さRa1(nm)、粘着剤層における接着剤層側表面の表面粗さRa2(nm)、および、これら表面粗さの差|Ra1-Ra2|(nm)を表1に掲げる。
【0129】
〈接着剤層の180°剥離粘着力〉
実施例1~6および比較例1,2の各ダイシングダイボンドフィルムにおける接着剤層について、次のようにして、23℃での180°剥離粘着力を調べた。まず、ダイシングテープにおける粘着剤層に対して基材の側から紫外線を照射した。紫外線照射においては、高圧水銀ランプを使用し、照射積算光量を350mJ/cm2とした。次に、当該ダイシングダイボンドフィルムから、ダイシングテープ基材と粘着剤層と接着剤層との積層構造を有する積層体(幅10mm×長さ100mm)を切り出した。次に、シリコンウエハに対し、当該積層体の接着剤層側を、60℃において2kgのローラーを1往復させる圧着作業によって貼り合わせ、その後、この貼り合わせ体を60℃で2分間放置した。次に、シリコンウエハ上の接着剤層から粘着剤層と基材を剥離した。次に、シリコンウエハ上に残された接着剤層に裏打ちテープ(商品名「BT-315」,日東電工株式会社製)を貼り合わせ、シリコンウエハから接着剤層を剥離して、シリコンウエハから当該裏打ちテープへと接着剤層を転写させた。このようにして、裏打ちテープを伴う接着剤層試料片(幅10mm×長さ100mm)を作成した。接着剤層試料片を被着体たるSUS板に貼り合わせ、2kgのローラーを1往復させる圧着作業によって接着剤層試料片と被着体とを圧着させた。そして、室温での30分間の放置の後、引張試験機(商品名「オートグラフAGS-J」,株式会社島津製作所製)を使用して、SUS板に対する接着剤層試料片の180°剥離粘着力(N/10nm)を測定した。本測定において、測定温度ないし剥離温度は23℃とし、引張角度ないし剥離角度は180°とし、引張速度は10mm/分とした。その測定結果を表1に掲げる。
【0130】
〔接着剤層の引張貯蔵弾性率〕
実施例1~6および比較例1,2における各接着剤層について、動的粘弾性測定装置(商品名「Rheogel-E4000」,UBM社製)を使用して行う動的粘弾性測定に基づき、23℃での引張貯蔵弾性率(MPa)を求めた。動的粘弾性測定に供される試料片は、各接着剤層を厚さ80μmに積層した積層体を形成した後、当該積層体から幅4mm×長さ20mmのサイズで切り出して用意した。また、本測定においては、試料片保持用チャックの初期チャック間距離を10mmとし、測定モードを引張りモードとし、測定温度範囲を-30℃~100℃とし、周波数を10Hzとし、動的ひずみを±0.5μmとし、昇温速度を5℃/分とした。その測定結果を表1に掲げる。
【0131】
〈T型剥離試験〉
実施例1~6および比較例1,2の各ダイシングダイボンドフィルムについて、次のようにして粘着剤層と接着剤層との間の剥離力を調べた。まず、各ダイシングダイボンドフィルムから、粘着剤層が未硬化状態にある試験片を作製した。具体的には、ダイシングダイボンドフィルムの接着剤層側に裏打ちテープ(商品名「BT-315」,日東電工株式会社製)を貼り合わせ、当該裏打ちテープを伴うダイシングダイボンドフィルムから、幅50mm×長さ120mmのサイズの試験片を切り出した。そして、当該試験片について、引張試験機(商品名「オートグラフAGS-J」,株式会社島津製作所製)を使用してT型剥離試験を行い、剥離力(N/20mm)を測定した。本測定においては、温度条件を23℃とし、剥離速度を300mm/分とした。一方、各ダイシングダイボンドフィルムから、粘着剤層が硬化した状態にある試験片も作製した。具体的には、ダイシングダイボンドフィルムにおいて基材の側から粘着剤層に対して350mJ/cm2の紫外線を照射して粘着剤層を硬化させた後、ダイシングダイボンドフィルムの接着剤層側に裏打ちテープ(商品名「BT-315」,日東電工株式会社製)を貼り合わせ、当該裏打ちテープを伴うダイシングダイボンドフィルムから、幅50mm×長さ120mmのサイズの試験片を切り出した。そして、当該試験片について、引張試験機(商品名「オートグラフAGS-J」,株式会社島津製作所製)を使用してT型剥離試験を行い、剥離力(N/20mm)を測定した。本測定においては、温度条件を23℃とし、剥離速度を300mm/分とした。以上のT型剥離試験における測定結果を表1に掲げる。
【0132】
〈エキスパンド工程とピックアップ工程の実施〉
実施例1~6および比較例1,2の各ダイシングダイボンドフィルムを使用して、以下のような貼り合わせ工程、割断のための第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)、離間のための第2エキスパンド工程(常温エキスパンド工程)、およびピックアップ工程を行った。
【0133】
貼り合わせ工程では、ウエハ加工用テープ(商品名「UB-3083」,日東電工株式会社製)に保持された半導体ウエハ分割体を、ダイシングダイボンドフィルムの接着剤層に対して貼り合わせた後、半導体ウエハ分割体からウエハ加工用テープを剥離した。ダイシングダイボンドフィルムは、ダイシングテープの粘着剤層に対して基材の側から紫外線を照射して当該粘着剤層を予め紫外線硬化させたものである。紫外線照射においては、高圧水銀ランプを使用し、照射積算光量を350mJ/cm2とした。貼合わせにおいては、ラミネーターを使用し、貼合わせ速度を10mm/秒とし、温度条件を60℃とし、圧力条件を0.15MPaとした。また、半導体ウエハ分割体は、次のようにして形成して用意したものである。まず、ウエハ加工用テープ(商品名「V-12S」,日東電工株式会社製)にリングフレームと共に保持された状態にある、両面とも鏡面仕上げ処理されたベアウエハ(直径12インチ,厚さ780μm,東京化工株式会社製)について、その一方の面の側から、ダイシング装置(商品名「DFD6361」,株式会社ディスコ製)を使用して回転ブレード(商品名「NBC-ZH 203O SE HCBB」,株式会社ディスコ製)によって個片化用の分割溝(幅25μm,深さ50μm,一区画10mm×10mmの格子状をなす)を形成した。次に、分割溝形成面にウエハ加工用テープ(商品名「UB-3083」,日東電工株式会社製)を貼り合わせた後、上記のウエハ加工用テープ(商品名「V-12S」)をウエハから剥離した。この後、バックグラインド装置(商品名「DGP8760」,株式会社ディスコ製)を使用して、ウエハの他方の面(分割溝の形成されていない面)の側からの研削加工によって当該ウエハを厚さ25μmに至るまで薄化した。以上のようにして、半導体ウエハ分割体(ウエハ加工用テープに保持された状態にある)を形成した。この半導体ウエハ分割体には、複数の半導体チップ(10mm×10mm)が含まれている。
【0134】
クールエキスパンド工程は、ダイセパレート装置(商品名「ダイセパレータ DDS2300」,株式会社ディスコ製)を使用して、そのクールエキスパンドユニットにて行った。具体的には、まず、半導体ウエハ分割体を伴う上述のダイシングダイボンドフィルムにおける接着剤層のリングフレーム貼着用領域(ワーク貼着用領域の周囲)に、直径12インチのSUS製リングフレーム(株式会社ディスコ製)を室温で貼り付けた。次に、当該ダイシングダイボンドフィルムを装置内にセットし、同装置のクールエキスパンドユニットにて、半導体ウエハ分割体を伴うダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープをエキスパンドした。このクールエキスパンド工程において、温度は-15℃であり、エキスパンド速度は100mm/秒であり、エキスパンド量は7mmである。
【0135】
常温エキスパンド工程は、ダイセパレート装置(商品名「ダイセパレータ DDS2300」,株式会社ディスコ製)を使用して、その常温エキスパンドユニットにて行った。具体的には、上述のクールエキスパンド工程を経た半導体ウエハ分割体を伴うダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープを、同装置の常温エキスパンドユニットにてエキスパンドした。この常温エキスパンド工程において、温度は23℃であり、エキスパンド速度は1mm/秒であり、エキスパンド量は10mmである。この後、常温エキスパンドを経たダイシングダイボンドフィルムについて加熱収縮処理を施した。その処理温度は200℃であり、処理時間は20秒である。
【0136】
ピックアップ工程では、ピックアップ機構を有する装置(商品名「ダイボンダー SPA-300」,株式会社新川製)を使用して、ダイシングテープ上にて個片化された接着剤層付き半導体チップのピックアップを試みた。このピックアップにつき、ピン部材による突き上げ速度は1mm/秒であり、突き上げ量は2000μmであり、ピックアップ評価数は5である。
【0137】
実施例1~6および比較例1,2の各ダイシングダイボンドフィルムを使用して行った以上のような過程において、クールエキスパンド工程に関しては、個片化された接着剤層付き半導体チップのダイシングテープからの浮きが生じなかった場合に割断時の浮きについて優(◎)であると評価し、個片化された接着剤層付き半導体チップの浮き(即ち、個片化された接着剤層付き半導体チップにおける当該接着剤層のダイシングテープ粘着剤層からの部分的剥離)の面積が個片化半導体チップの総面積に対して40%以上である場合に割断時の浮きについて不良(×)であると評価した。ピックアップ工程に関しては、五つの接着剤層付き半導体チップすべてをダイシングテープからピックアップできた場合をピックアップ性が優(◎)であると評価し、ダイシングテープからピックアップできた接着剤層付き半導体チップの個数が1~4である場合をピックアップ性が良(○)であると評価し、ダイシングテープから接着剤層付き半導体チップを一つもピックアップできなかった場合をピックアップ性が不良(×)であると評価した。これら評価結果を表1に掲げる。
【0138】
[評価]
実施例1~6のダイシングダイボンドフィルムによると、クールエキスパンド工程において、ダイシングテープからの接着剤層付き半導体チップの浮きを生じることなく接着剤層の割断を良好に行うことができたうえに、ピックアップ工程において、接着剤層付き半導体チップを適切にピックアップすることができた。
【0139】
【表1】
【符号の説明】
【0140】
X ダイシングダイボンドフィルム
10 ダイシングテープ
11 基材
11e 外周端
12 粘着剤層
12e 外周端
20,21 接着剤層
20e 外周端
W,30A,30C 半導体ウエハ
30B 半導体ウエハ分割体
30a 分割溝
30b 改質領域
31 半導体チップ
図1
図2
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