(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】凍結工法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20220207BHJP
E02D 3/115 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
E21D9/06 301R
E21D9/06 301E
E02D3/115
(21)【出願番号】P 2017188794
(22)【出願日】2017-09-28
【審査請求日】2020-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸司
(72)【発明者】
【氏名】青山 哲也
【審査官】山崎 仁之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-133164(JP,A)
【文献】特開2004-137673(JP,A)
【文献】特開平07-216865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/06
E02D 3/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂質土層と粘性土層が存在する凍土範囲の地盤を凍結させる凍結工法において、
粘性土層を凍結させないようにする
とともに、
前記粘性土層が前記砂質土層より防護すべき側にある場合に、前記砂質土層の少なくとも一部を凍結することを特徴とする凍結工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤の安定化、防水層の形成などを図る防護工として、耐力壁や止水壁を凍土壁によって形成する凍結工法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、耐力壁を凍結工法で構築する場合には、構造計算を行うことにより必要凍土厚を決定する。また、荷重は、通常、土水圧分離型とし、作用土圧の鉛直土圧は全土圧、水平土圧は多少の凍結膨張圧を考慮して静止土圧としている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】地盤工学会:地盤工学・実務シリーズ31「地盤改良の調査・設計と施工―戸建住宅から人工島まで―」,pp.160~170,2013年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、地中拡幅工事等で地山防護のために凍結工法を用いる場合には、掘削範囲の外側に凍土を造成し凍結防護を行う。このとき、凍結対象とする地盤に粘性土が存在する場合には、凍結により周辺地盤から吸水するため、過大な凍結膨張圧が発生し、周囲の構造物に悪影響を与えるおそれがあり、構造物の補強等の対策を別途講じる必要があった。
【0007】
このため、凍結膨張圧を精度よく捉え、周囲の構造物の補強等の対策を不要あるいは軽減させることを可能にする手法の開発が強く望まれていた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、凍結膨張圧を精度よく捉え、周囲の構造物の補強等の対策を不要あるいは軽減させることを可能にした凍結工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0010】
本発明の凍結工法は、砂質土層と粘性土層が存在する凍土範囲の地盤を凍結させる凍結工法において、粘性土層を凍結させないようにするとともに、前記粘性土層が前記砂質土層より防護すべき側にある場合に、前記砂質土層の少なくとも一部を凍結することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の凍結工法においては、構造物補強の低減、必要凍土厚の低減が可能になり、合理的な凍結工法を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】凍結工法を用いて構築するトンネルの施工方法の一例を示す図である。
【
図2】凍結工法を用いて構築するトンネルの施工方法の一例を示す図である。
【
図3】凍結工法を用いて構築するトンネルの一例を示す図である。
【
図4】凍結工法を用いて構築する分岐・合流部のトンネルの一例を示す図である。
【
図5】凍結工法を用いて構築するトンネルの施工方法の一例を示す図である。
【
図6】従来手法と本発明の凍土範囲、必要凍土厚の違いを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図1から
図6を参照し、本発明の一実施形態に係る凍結工法について説明する。
【0015】
ここで、本実施形態では、例えば、道路トンネルの分岐・合流部や鉄道トンネルの渡り線部などの大断面トンネルを構築する際の発進・到達時やセグメント切り開き時(シールドトンネルの地中拡幅時)などに対し凍結工法を用いるものとして説明を行う。
但し、本発明の凍結工法の凍結膨張圧算出方法は、土木建築分野において凍結工法を用いるあらゆるケースに適用可能である。
【0016】
はじめに、
図1から
図4に示すように、道路トンネルの分岐・合流部などの大断面トンネルを構築する際には、例えば、本線シールド1、ランプシールド2(2本の導坑)を横方向に間隔をあけて先行構築するとともに、ランプシールド2を通じ、凍結工法で凍土壁6を形成して地盤の安定化を図りつつ地中立坑3を構築し、この地中立坑3から発進する2本の円周シールドによる発進基地4を構築する。この発進基地4から本線シールド1、ランプシールド2を囲繞するように小径のトンネル掘進機で複数の外殻シールド5を構築する。
【0017】
さらに、
図2、
図5に示すように、凍結工法を用いて凍土壁8を形成しつつ隣り合う外殻シールド5を切り開いて連通させ(凍結管9、切り開き部10)、本線シールド1、ランプシールド2を囲繞する本設覆工7を構築する。そして、本線シールド1から本設覆工6で囲まれた地盤を掘削して連通させ、分岐・合流部となる大断面トンネルを構築する。
【0018】
ここで、従来の凍結工法では、凍結対象とする地盤に粘性土が存在すると、凍結により周辺地盤から吸水するため、過大な凍結膨張圧が発生することになり、周囲の構造物に悪影響を与えないように別途補強などの対策を講じる必要があった。
【0019】
これに対し、本実施形態の凍結工法では、凍結対象領域の地盤に粘性土層と砂質土層が存在する場合に、粘性土層の凍結を行わないようにする(凍土範囲S1/従来の凍土範囲S2)。すなわち、粘性土層を避けて凍土を造成するようにした。これにより、過大な凍結膨張圧が発生することを回避することが可能になる。
【0020】
地中拡幅工事の地中立坑に凍結工法を適用した場合の実施例について説明する。
【0021】
地中立坑下部で発生する凍結膨張圧が、従来の手法で770kN/m2であるのに対し、本実施形態の凍結工法を適用した場合には280kN/m2となり、約1/3に低減できることが確認された。
【0022】
これにより、必要凍土厚が従来手法で7.5mであるのに対し、本実施形態の凍結工法を適用することによって4.3mに低減できることが確認された。
【0023】
よって、作用荷重が低減することで周囲の構造物の鋼殻構造を簡素化したり、周囲の構造物の補強対策の低減を図ることが可能になる。
【0024】
したがって、本実施形態の凍結工法によれば、構造物補強の低減、必要凍土厚の低減が可能になり、合理的な凍結工法を実現することが可能になる。
【0025】
以上、本発明による凍結工法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 本線シールド
2 ランプシールド
3 地中立坑
4 発進基地
5 外殻シールド
6 凍土壁
7 本設覆工
8 凍土壁
9 凍結管
10 切り開き部