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特許7019396工作機械の制御方法、工作機械の制御装置、工作機械の設定支援装置、工作機械の制御システム及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】工作機械の制御方法、工作機械の制御装置、工作機械の設定支援装置、工作機械の制御システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/00 20060101AFI20220207BHJP
   G05B 19/18 20060101ALI20220207BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20220207BHJP
【FI】
B23Q15/00 301H
G05B19/18 S
B23K26/00 M
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017231017
(22)【出願日】2017-11-30
(65)【公開番号】P2019098453
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】315017775
【氏名又は名称】日本電産マシンツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(72)【発明者】
【氏名】呉屋 真之
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】二井谷 春彦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 善仁
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-314285(JP,A)
【文献】特開平6-142954(JP,A)
【文献】国際公開第2016/051549(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/00 - 15/08
G05B 19/18 - 19/416
G05B 19/42 - 19/46
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の制御方法であって、
加工対象物への加工内容を受け付けるステップと、
加工内容ごとにその加工を行うための前記工作機械の動作に関する設定条件の範囲が記憶されている記憶部を参照し、受け付けた前記加工内容に対応する前記設定条件の範囲を特定するステップと、
前記加工対象物への前記加工内容による加工指示を受け付けた場合、特定された前記設定条件の範囲を前提として前記工作機械を動作させる設定を決定するステップと、
前記加工対象物の加工の結果を示す情報を取得するステップと、
前記加工の結果を前記加工内容に基づいて評価するステップと、
前記評価に基づいて前記設定条件の範囲を調整するステップと、
調整された前記設定条件の範囲を前記記憶部に記憶するステップと、
を有する工作機械の制御方法。
【請求項2】
前記加工対象物の加工の結果を示す情報は、前記加工を行った環境または前記加工対象物に対して、センサを用いて計測した計測情報または前記計測情報に基づいて算出した値である、
請求項1に記載の工作機械の制御方法。
【請求項3】
前記加工の結果と前記加工内容とに基づいて前記設定条件の範囲を評価するステップと、
前記評価において、前記設定条件の範囲が適切では無いと判定された場合、前記設定条件の範囲を再設定するステップと、
をさらに有する請求項1又は2に記載の工作機械の制御方法。
【請求項4】
前記設定条件の範囲を評価するステップでは、前記加工内容に含まれる要求とその要求に対する前記加工の結果との一致度を算出し、その一致度が所定の閾値以下であれば前記設定条件の範囲が適切では無いと判定する、
請求項3に記載の工作機械の制御方法。
【請求項5】
前記加工の結果を示す情報を取得するステップでは、さらに前記加工を行った時刻の情報を取得し、
前記設定条件の範囲を再設定するステップでは、取得した前記時刻を基準とする所定の期間内に取得した前記加工の結果を示す情報に基づいて、前記設定条件の範囲を再設定する、
請求項3または請求項4に記載の工作機械の制御方法。
【請求項6】
前記設定条件の範囲外の設定条件で前記工作機械を動作させる指示を受け付けた場合、指示を受けた前記設定条件で前記工作機械を動作させることができない旨を通知するステップ、
をさらに有する請求項1から請求項5の何れか一項に記載の工作機械の制御方法。
【請求項7】
前記加工内容は、前記加工対象物の材質、前記加工対象物に形成される穴の大きさ、及び前記加工対象物の厚さの少なくとも1つを含む、
請求項1から請求項6の何れか一項に記載の工作機械の制御方法。
【請求項8】
前記工作機械は、レーザ加工機である、
請求項1から請求項7の何れか一項に記載の工作機械の制御方法。
【請求項9】
工作機械の制御装置であって、
加工対象物への加工内容を受け付ける受付部、
加工内容ごとにその加工を行うための前記工作機械の動作に関する設定条件の範囲が記憶されている記憶部を参照し、受け付けた前記加工内容に対応する前記設定条件の範囲を特定する特定部、
前記加工対象物への前記加工内容による加工指示を受け付けた場合、特定された前記設定条件の範囲を前提として、その範囲の中からユーザによって選択された前記設定条件に基づいて前記工作機械を動作させることを決定する決定部、
前記加工対象物の加工の結果を示す情報を取得する取得部、
前記加工の結果を前記加工内容に基づいて評価する加工結果評価部、
前記評価に基づいて前記設定条件の範囲を調整し、調整された前記設定条件の範囲を前記記憶部に記憶する範囲設定部、
を有する工作機械の制御装置。
【請求項10】
請求項9に記載の工作機械の制御装置と、
加工対象物への加工内容と工作機械の設定条件の範囲とが対応付けて記憶された記憶部と、前記工作機械による所定の加工内容による前記加工対象物の加工の結果と前記加工内容とに基づいて前記設定条件の範囲を調整する範囲設定部と、を有する工作機械の設定支援装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記設定支援装置が有する記憶部を参照して前記加工内容に対応付けられている前記設定条件の範囲を特定する、
工作機械の制御システム。
【請求項11】
工作機械の制御装置のコンピュータに実行させるプログラムであって、
加工対象物への加工内容を受け付けるステップと、
加工内容ごとにその加工を行うための前記工作機械の動作に関する設定条件の範囲が記憶されている記憶部を参照し、受け付けた前記加工内容に対応する前記設定条件の範囲を特定するステップと、
前記加工対象物への前記加工内容による加工指示を受け付けた場合、特定された前記設定条件の範囲を前提として前記工作機械を動作させる設定を決定するステップと、
前記加工対象物の加工の結果を示す情報を取得するステップと、
前記加工の結果を前記加工内容に基づいて評価するステップと、
前記評価に基づいて前記設定条件の範囲を調整するステップと、
調整された前記設定条件の範囲を前記記憶部に記憶するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の制御方法、工作機械の制御装置、工作機械の制御システム、工作機械の設定支援装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複雑かつ高度な加工が可能な工作機械が提供されるようになり、従来は加工できなかった部材でも加工対象として扱われるようになってきている。工作機械で加工を行う場合、加工対象物ごとに適切な加工条件を見つけ出して設定する必要がある。一般に適切な加工条件を見つけるまでには、何度も加工を繰り返してその加工条件が適切かどうかを見極めなければならないが、加工対象の広がりに伴い、加工条件の設定に多大な労力、費用を要している。
【0003】
これに対し、加工条件の設定を支援する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、加工対象物の加工形状ごとに加工条件をメモリに格納しておき、作業者が加工対象物の材質、板厚、加工形状などを入力すると、それらの条件に応じた適切な加工条件を選択して加工を行うレーザ加工装置が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、工作機械の加工条件を入力する際に、ユーザが適切な値を設定できるように、ある加工条件(例えば、切削速度)を選択すると、その加工条件を計算するための計算式と計算に必要なパラメータ(例えば、主軸回転数、工具径)を入力する入力画面を表示する工作機械の制御装置が記載されている。特許文献1、2に記載の技術を用いると、適正な加工条件を効率よく決定できるというメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-142954号公報
【文献】国際公開第2016/051549号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1等に記載の一般的な技術では、加工内容と加工条件が一対一に対応しており、これらの技術で提供される加工条件は、ある外的条件に対して最適化された加工条件であることが多い。その為、外的条件の変化に対する脆弱性を有しており、例えば、それらの加工条件に基づいて加工したとしても、工作機械の設置環境、加工対象の個体差などの外乱に起因して、最適な加工を実行できないおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、上述の課題を解決することのできる工作機械の制御方法、工作機械の制御装置、工作機械の設定支援装置、工作機械の制御システム及びプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの態様によれば、工作機械の制御方法は、加工対象物への加工内容を受け付けるステップと、加工内容ごとにその加工を行うための前記工作機械の動作に関する設定条件の範囲が記憶されている記憶部を参照し、受け付けた前記加工内容に対応する前記設定条件の範囲を特定するステップと、前記加工対象物への前記加工内容による加工指示を受け付けた場合、特定された前記設定条件の範囲を前提として前記工作機械を動作させる設定を決定するステップと、前記加工対象物の加工の結果を示す情報を取得するステップと、前記加工の結果を前記加工内容に基づいて評価するステップと、前記評価に基づいて前記設定条件の範囲を調整するステップと、調整された前記設定条件の範囲を前記記憶部に記憶するステップと、を有する。
【0010】
本発明の一つの態様によれば、前記加工対象物の加工の結果を示す情報は、前記加工を行った環境または前記加工対象物に対して、センサを用いて計測した計測情報または前記計測情報に基づいて算出した値である。
【0011】
本発明の一つの態様によれば、前記加工の結果と前記加工内容とに基づいて前記設定条件の範囲を再評価するステップと、前記再評価するステップにおいて、前記設定条件の範囲が適切では無いと判定された場合、前記設定条件の範囲を再設定するステップと、をさらに有する。
【0012】
本発明の一つの態様によれば、前記設定条件の範囲を再評価するステップでは、前記加工内容に含まれる要求とその要求に対する前記加工の結果との一致度を算出し、その一致度が所定の閾値以下であれば前記設定条件の範囲が適切では無いと判定する。
【0013】
本発明の一つの態様によれば、前記加工の結果を示す情報を取得するステップでは、さらに前記加工を行った時刻の情報を取得し、前記設定条件の範囲を再設定するステップでは、取得した前記時刻を基準とする所定の期間内に取得した前記加工の結果を示す情報に基づいて、前記設定条件の範囲を再設定する。
【0014】
本発明の一つの態様によれば、前記設定条件の範囲外の設定条件で前記工作機械を動作させる指示を受け付けた場合、指示を受けた前記設定条件で前記工作機械を動作させることができない旨を通知するステップ、をさらに有する。
【0015】
本発明の一つの態様によれば、前記加工内容は、前記加工対象物の材質、前記加工対象物に形成される穴の大きさ、及び前記加工対象物の厚さの少なくとも1つを含む。
【0016】
本発明の一つの態様によれば、前記工作機械は、レーザ加工機である。
【0017】
本発明の一つの態様によれば、工作機械の制御装置は、加工対象物への加工内容を受け付ける受付部、加工内容ごとにその加工を行うための前記工作機械の動作に関する設定条件の範囲が記憶されている記憶部を参照し、受け付けた前記加工内容に対応する前記設定条件の範囲を特定する特定部、前記加工対象物への前記加工内容による加工指示を受け付けた場合、特定された前記設定条件の範囲を前提として、その範囲の中からユーザによって選択された前記設定条件に基づいて前記工作機械を動作させることを決定する決定部、前記加工対象物の加工の結果を示す情報を取得する取得部、前記加工の結果を前記加工内容に基づいて評価する加工結果評価部、前記評価に基づいて前記設定条件の範囲を調整し、調整された前記設定条件の範囲を前記記憶部に記憶する範囲設定部、を有する。
【0020】
本発明の一つの態様によれば、工作機械の制御システムは、上述の工作機械の制御装置と、加工対象物への加工内容と工作機械の設定条件の範囲とが対応付けて記憶された記憶部と、前記工作機械による所定の加工内容による前記加工対象物の加工の結果と前記加工内容とに基づいて前記設定条件の範囲を調整する範囲設定部と、を有する工作機械の設定支援装置と、を備え、前記工作機械の制御装置は、前記設定支援装置が有する記憶部を参照して前記加工内容に対応付けられている前記設定条件の範囲を特定する。
【0021】
本発明の一つの態様によれば、プログラムは、工作機械の制御装置のコンピュータに実行させるプログラムであって、加工対象物への加工内容を受け付けるステップと、加工内容ごとにその加工を行うための前記工作機械の動作に関する設定条件の範囲が記録されている記憶部を参照し、受け付けた前記加工内容に対応する前記設定条件の範囲を特定するステップと、前記加工対象物への前記加工内容による加工指示を受け付けた場合、特定された前記設定条件の範囲を前提として前記工作機械を動作させる設定を決定するステップと、前記加工対象物の加工の結果を示す情報を取得するステップと、前記加工の結果を前記加工内容に基づいて評価するステップと、前記評価に基づいて前記設定条件の範囲を調整するステップと、調整された前記設定条件の範囲を前記記憶部に記憶するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0022】
外乱を考慮して定められた設定条件の適正範囲を提供することにより、工作機械に対する設定条件の設定をより短時間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る各実施形態における制御システムの一例を示すブロック図である。
図2】本発明に係る第一実施形態における加工内容と設定条件の一例を示す図である。
図3】本発明に係る第一実施形態における設定条件の範囲について説明する第1の図である。
図4】本発明に係る第一実施形態における設定条件の範囲について説明する第2の図である。
図5】本発明に係る第一実施形態における設定条件の範囲を利用した設定条件の設定処理の一例を示すフローチャートである。
図6】本発明に係る第一実施形態における加工結果の計測について説明する図である。
図7】本発明に係る第二実施形態における設定条件の範囲の調整処理の一例を示すフローチャートである。
図8】本発明に係る第二実施形態における設定条件の範囲の調整について説明する図である。
図9】本発明に係る第三実施形態における設定条件の範囲の再設定処理の一例を示す第1のフローチャートである。
図10】本発明に係る第三実施形態における設定条件の範囲の再設定処理の一例を示す第2のフローチャートである。
図11】本発明に係る第三実施形態における設定条件の範囲の再設定について説明する図である。
図12】本発明に係る制御装置および支援装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第一実施形態>
以下、本発明の第一実施形態による工作機械の制御システムについて図1図6を参照して説明する。
図1は、本発明に係る各実施形態における制御システムの一例を示すブロック図である。制御システム1は、工作機械3、3a、3bによる加工に必要な設定条件の設定を支援する機能を提供する。設定条件とは、適切な加工を行うために工作機械3に設定する工作機械3の動作条件(加工条件)である。図1に示すように制御システム1は、設定条件の決定を支援する支援装置10と、工作機械3、3a、3bと、CAD(computer aided design)システム2、2a、2bとを含む。支援装置10と工作機械3、3a、3bとは、ネットワーク(NW)を介して通信可能に接続されている。工作機械3、3a、3bを総称して工作機械3、CADシステム2、2a、2bを総称してCADシステム2と記載する。制御システム1において、支援装置10、工作機械3、CADシステム2の台数は図示した数に限定されない。例えば、支援装置10が2台以上含まれていてもよいし、工作機械3およびCADシステム2は1台でも4台以上含まれていてもよい。また、工作機械3、3a、3bはそれぞれ異なる工場に設置されていてもよいし、1つの工場内に設置されたものであってもよい。支援装置10、CADシステム2は、例えばサーバ等のCPU(Central Processing Unit)を備えたコンピュータである。
【0025】
支援装置10は、工作機械3が行う加工について、その加工内容に適した設定条件の範囲を示す情報を工作機械3へ提供する。また、支援装置10は、工作機械3で行った加工について、その加工内容を示す情報(加工内容情報)と加工結果を示す情報(加工結果情報)を取得し、支援装置10が提供した設定条件の範囲が適切かどうかを判定し、適切ではない場合、設定条件の範囲を調整し、調整後の設定条件の範囲を示す情報(範囲情報)を工作機械3へ提供する。ここで加工内容とは、加工対象物に対する加工の要求、仕様である。次に加工内容と設定条件の範囲について図2を用いて説明する。
【0026】
図2は、本発明に係る第一実施形態における加工内容と設定条件の一例を示す図である。図2(a)に加工内容の一例として、「Si」でできた板厚「400μm」の部材に入口の穴径が「50μm」で出口の穴径が「60μm」のテ-パ穴を形成することを示す加工内容を示す。なお、加工内容には、穴径や穴の深さといった形状に関する項目だけでなく、品質に関する項目も含まれる。品質に関する項目とは、例えば、変質層の断面積、バリの高さ、付着物の大きさ、表面の粗さなどである。
【0027】
図2(b)にこの加工内容を実現するための設定条件の範囲の一例を示す。図2(b)に示すのは、工作機械3がレーザ加工機の場合における設定条件の例である。レーザ加工機の設定条件には、例えば、出力するレーザのパワー、ピアッシング時間、レーザの旋回ヘッド回転数、XY軸送り速度、デフォーカス量、テーパ角、アシストガスのガス圧、ガス種類、レーザの旋回の直径などがある。図示するように本実施形態では設定条件の各項目の値が範囲で与えられる。後述するように各項目の範囲は、工作機械の設置環境、加工対象物の個体差(材質)などの外乱による影響を考慮して定められた範囲である。
【0028】
支援装置10には、様々な加工内容ごとにその加工内容に適した設定条件の範囲情報(図2(b))が記憶されている。支援装置10は、工作機械3から図2(a)に例示する加工内容情報を取得し、その加工内容に応じた設定条件の範囲情報を特定し、特定した範囲情報を工作機械3へ送信する。
【0029】
支援装置10は、データ取得部11、範囲設定部12、加工結果評価部13、範囲評価部14、通信部15、記憶部16を有している。
データ取得部11は、工作機械3から加工内容情報と加工結果情報を取得する。
範囲設定部12は、加工内容情報ごとに設定条件の範囲情報を特定する。また、範囲設定部12は、加工結果評価部13による評価が良好ではない場合、設定条件の範囲を調整し、調整後の設定条件の範囲情報を記憶部16に記憶する。
加工結果評価部13は、データ取得部11が取得した加工内容情報と加工結果情報とに基づいて、工作機械3で行われた加工を評価する。
範囲評価部14は、範囲設定部12が設定した設定条件の範囲が適切か否かを評価する。
通信部15は、工作機械3と通信を行う。例えば、通信部15は、設定条件の範囲情報を工作機械3へ送信する。通信部15は、加工内容情報や加工結果情報を工作機械3から受信する。
記憶部16は、加工内容ごとの設定条件の範囲情報、加工結果情報を記憶する。なお、記憶部16は、工作機械3、3a、3bなど複数の異なる工作機械から受信した加工結果情報を記憶している。なお、記憶部16が、支援装置10内に配置されることを前提に説明するが、記憶部16は、支援装置10からネットワーク(NW)を介して接続可能な場所に配置されてもよいことは勿論である。
【0030】
工作機械3は、例えば、レーザ光を照射して加工を施すレーザ加工機である。工作機械3は、制御装置30と、加工装置38と、センサ39とを含む。
制御装置30は、例えばマイコン等のMPU(Micro Processing Unit)を備えたコンピュータである。制御装置30は、加工内容情報に基づいて加工装置38の動作を制御し、加工対象物を加工する。
加工装置38は、レーザの発振器、ヘッドの駆動機構、アシストガスの噴射機構、加工対象物の設置機構、ユーザの操作盤などを含む工作機械の本体である。
センサ39は、カメラ、X線CT(computed tomography)、振動センサ、変位センサ、温度計、スキャナなど、加工結果や加工環境を計測するセンサ類である。センサ39は、加工装置38が備えるものであってもよいし、加工装置38とは独立した単独のセンサであってもよい。センサ39は、加工対象物の形状や加工環境(加工中の温度、振動、位置)などを計測する。
【0031】
工作機械3では、制御装置30が、支援装置10から設定条件の範囲情報を取得し、取得した範囲内の設定条件のみを許容して加工装置38の動作を制御する。制御装置30は、入出力部31と、CAM(computer aided manufacturing)システム32と、センサデータ処理部33と、加工装置制御部34と、設定条件判定部35と、通信部36と、記憶部37とを有する。
入出力部31は、ユーザが操作盤から入力した操作情報や設定条件の入力を受け付けたり、CADシステム2からの加工対象物の形状を示すCADデータの入力を受け付けたりする。CADデータには、加工内容情報が含まれている。また、入出力部31は、操作盤に設けられたディスプレイに支援装置10から取得した設定条件の範囲を出力する。
【0032】
CAMシステム32は、入出力部31が取得したCADデータから加工用のNC(numerical control)データを生成する。
センサデータ処理部33は、センサ39が加工対象物について計測して得た計測情報(計測値や画像)を取得し、必要に応じて加工に関する他の情報を算出する等して、加工結果情報を生成する。例えば、センサデータ処理部33は、加工対象物を撮影した画像から画像解析により穴径(加工穴の径)を算出したり、算出した穴径などを用いてテーパ角度を算出したりする。
加工装置制御部34は、CAMシステム32が生成したNCデータに基づいて、加工装置38の動作を制御し、加工を行う。
【0033】
設定条件判定部35は、ユーザによって入力された設定条件が、支援装置10から取得した設定条件の範囲に含まれるかどうかを判定する。
通信部36は、支援装置10と通信を行う。例えば、通信部36は、加工内容情報を支援装置10へ送信し、送信した加工内容情報に応じた設定条件の範囲情報を支援装置10から受信する。
記憶部37は、支援装置10から取得した設定条件の範囲情報、入出力部31が取得したCADデータなどの情報を記憶する。
【0034】
制御装置30は、支援装置10から取得した設定条件の範囲(図2(b))をユーザに提示し、ユーザは、この範囲の中から適切と思われる値を選択して制御装置30に入力する。加工装置制御部34は、この値(設定条件)に従って加工装置38を動作させることを決定し、加工を行う。ユーザは、加工内容が示す加工仕様を満たした加工が可能となるまで設定条件の範囲の中から値を選択し、加工装置38がその設定条件に従って加工を行うという作業を繰り返す。つまり、制御装置30は、特定された設定条件の範囲を前提として工作機械3を動作させる。
これにより、ある加工内容に対する適切な設定条件が定められ、その加工対象物の量産が可能となる。次に図3図4を用いて本実施形態の特徴である外乱を考慮した設定条件の範囲について説明する。
【0035】
図3は、本発明に係る第一実施形態における設定条件の範囲について説明する第1の図である。
図3のグラフは、レーザ加工機(工作機械3)によって銅板に所定の径の穴をあけたときのレーザの出力であるパワー(設定条件)と板厚(加工内容)の関係を示すグラフである。図3のグラフの縦軸は板の厚さ(mm)、横軸はレーザのパワー(w)を示している。グラフ内のP1~P16の印は、その印が位置する横軸の座標が示すパワーでレーザを出力し、縦軸の座標が示す板厚の銅板に穴を形成する加工を行ったときの加工結果である。印の○と×は、それぞれ加工が成功したか失敗したかを表している。具体的には、○印は加工内容を満たす結果(成功)であり、×印は加工内容を満たさない結果(失敗)であることを示している。例えば印P1は、板厚2.5(mm)の銅板にα(W)のレーザを出力して穴あけ加工を行ったところ所定の加工内容を満たす穴、例えば穴径や品質が良好な穴があけられたことを示している。これらの加工結果から、加工が成功した場合と失敗した場合を切り分ける境界線を所定の手法(統計解析、機械学習など)を用いて算出すると、例えば、境界線L1、L2が得られる。境界線L1とL2に挟まれた領域は、所望の加工を実現するために設定条件「パワー」に設定できる適切な値の範囲であると考えられる。例えば、板厚5mmの銅板について加工する場合は、縦軸5mmにおいて境界線L1、L2によって挟まれた範囲R1がレーザのパワーの適切な範囲であると考えられる。
【0036】
支援装置10の記憶部16は、図3で例示するような加工結果情報を記憶しており、範囲設定部12は、境界線L1、L2の算出処理、加工内容情報(例えば、板厚5mm)に応じた設定条件の範囲(R1)の特定処理を行って、加工内容に適した設定条件の範囲を特定する。範囲設定部12は、特定した設定条件の範囲情報を記憶部16に記憶する。
【0037】
印P1~P16に関する加工は、様々な条件下で行われたものであってもよい。例えば、銅板の範疇に含まれる部材であっても銅の純度、銅以外の成分の種類や含有量、銅板の製造方法などにより様々な種類が存在する。あるいは、工作機械3が加工を行う環境も様々である。範囲設定部12は、均一ではない様々な条件下における加工結果に基づいて、設定条件の範囲を特定する。これにより、工作機械の設置環境、加工対象物の個体差など加工結果に影響を与える外乱を考慮した設定条件の範囲を特定することができる。
【0038】
例えば、印P1~P16で示される加工結果には、加工内容情報(板厚など)と設定条件情報(パワーなど)に加え、加工時刻、加工場所、加工対象物の材質、加工環境(温度、湿度、振動など)、工作機械3の種類・型番、工作機械3を導入してからの総運転時間(加工時間)などの情報が対応付けられていてもよい。そして、範囲設定部12は、工作機械3から取得した加工内容情報に含まれる加工対象物の材質の詳細情報に基づいて、印P1~P16の中から同じ材質の加工結果のみを抽出して、設定条件の範囲を特定してもよい。あるいは、範囲設定部12は、工作機械3から取得した加工結果情報に含まれる加工環境に関する情報に基づいて、類似する加工環境で行われたときの加工結果のみを抽出して、設定条件の範囲を特定してもよい。これにより、実際の加工条件に合わせてより限定した設定条件の範囲を提供することができ、工作機械3のユーザは、設定条件の設定をより短時間で行うことができる。
【0039】
図4は、本発明に係る第一実施形態における設定条件の範囲について説明する第2の図である。
図4のグラフは、レーザ加工機によって厚さ5mmの銅板に穴をあけたときのレーザの出力であるパワー(設定条件)と穴径(加工内容)の関係を示すグラフである。図4の縦軸は穴径(mm)、横軸はレーザのパワー(w)を示している。グラフ内のQ1~Q11の印は、その印が位置する横軸の座標が示すパワーでレーザを出力したときの加工結果を示し、縦軸の座標が示す値が加工されてできた穴の穴径を示している。例えばφ60mmの穴をあける場合、レーザのパワーは、範囲R2または範囲R3に含まれる値が適していることを示している。
【0040】
支援装置10の記憶部16は、図4で例示するような加工結果情報を記憶しており、範囲設定部12は、φ60mmの穴を形成するという加工内容に対して、その加工内容に適した設定条件の範囲として、範囲R2、R3を特定する処理を行う。
範囲設定部12は、例えば加工内容として、「厚さ5mmの銅板にφ60mmの穴開け」という情報が入力された場合、記憶部16に記憶された加工結果を参照して、図3図4で例示した設定条件の範囲やパワーに関する他の加工結果に基づいて特定された設定条件の範囲のうち共通する範囲(例えばR3)を選択して、上記の加工内容に対する設定条件「パワー」についての範囲を特定する。範囲設定部12は、同様の要領で他の設定条件についても範囲を特定する。
【0041】
次に支援装置10が提供する設定条件の範囲情報に基づいて、工作機械3側で適切な設定条件を設定する処理について図5を用いて説明する。設定条件の設定は、例えば、ある製品の量産を開始する際にその製品の加工専用の設定条件を特定する場面で行う。
図5は、本発明に係る第一実施形態における設定条件の範囲を利用した設定条件の設定処理の一例を示すフローチャートである。
まず、ユーザの操作により、CADシステム2が、制御装置30へ加工内容情報を含むCADデータを入力する。入出力部31は、加工内容情報の入力を受け付け(ステップS11)、記憶部37に加工内容情報を記憶する。また、通信部36が、加工内容情報と、その加工内容情報に適した設定条件の範囲情報を要求する信号とを支援装置10へ送信する。支援装置10では、図3を用いて説明したように範囲設定部12が記憶部16を参照し、加工内容情報に応じた設定条件の範囲を特定する。通信部15は、設定条件の範囲情報を工作機械3へ送信する。
【0042】
工作機械3では、通信部36が設定条件の範囲情報を受信し(ステップS12)、記憶部37に記憶する。
次にユーザが制御装置30に設定条件情報を入力する。入出力部31は、設定条件情報の入力を受け付け(ステップS13)、設定条件判定部35へ設定条件情報を出力する。設定条件判定部35は、ユーザが入力した設定条件情報と支援装置10から受信した設定条件の範囲情報とを比較し、ユーザが入力した設定条件の各々が、設定条件の範囲内かどうかを判定する(ステップS14)。ユーザが入力した設定条件のうち、1つでも設定条件の範囲内ではない条件があった場合、設定条件判定部35は、その設定条件の変更を促す警告メッセージ(例えば、「ガス圧が範囲外です。X15-X16の範囲内の値を設定してください。」)を生成し、入出力部31に出力する。入出力部31は、制御盤のディスプレイに工作機械を動作させることができない旨を通知するメッセージとともに警告メッセージを表示する(ステップS15)。ユーザは、設定条件の範囲内となる値を制御装置30に入力する。
【0043】
ユーザが入力した設定条件の全てが、支援装置10から受信した設定条件の範囲内にある場合、ユーザは、加工の実行を指示する操作を制御装置30に入力する。すると、CAMシステム32が加工内容情報からNCデータを生成し、加工装置制御部34がNCデータと入力された設定条件情報とに基づいて加工装置38の動作を制御し加工を実行する(ステップS16)。加工が完了すると、センサ39が、加工結果を計測する(ステップS17)。ここで、加工結果の計測について図6を用いて説明する。
【0044】
図6は、本発明に係る第一実施形態における加工結果の計測について説明する図である。
図6に加工対象物にテーパ穴をあける加工を行った結果を撮影した画像を示す。カメラ(センサ39)は、テーパ穴の入口と出口を撮影する。センサデータ処理部33は、撮影した画像に基づいて、画像解析により入口の径と出口の径を算出する。なお、径を算出する際の画像解析手法は、公知の手法が用いられる。また、センサデータ処理部33は、入口径と出口径の差を穴の深さ(板厚)で除算してテーパ角度を算出する。また、センサデータ処理部33は、画像の解析により表面粗さ、加工面への付着物、加工による変質層の面積などを算出してもよい。このようにカメラによって加工対象物を撮影すると、加工結果を取得することができる。なお、加工結果の計測に用いるセンサ39は、カメラに限らない。例えば、工作機械3のユーザが、ゲージや表面粗さ計などの計測機器を用いて穴径や表面粗さを計測し、制御装置30へ入力してもよい。
センサデータ処理部33は、通信部36を介して、加工結果情報を支援装置10へ送信する。また、入出力部31は、加工結果情報を制御盤のディスプレイへ表示する。第二実施形態で説明するように加工結果情報は、加工の評価や設定条件の範囲の調整に用いることができる。
【0045】
従来より、加工内容に対して一意に設定された設定条件を工作機械3のユーザに対して提供する方法は提供されている。しかし、この方法の場合、提供された設定条件を採用して良好な加工結果が得られないと、どのように設定条件を変更していけばよいかが分からない。その為、適切な設定条件を見つけるのに多大な労力や時間が掛かる可能性がある。これに対し、本実施形態によれば、ユーザは、支援装置10から取得した様々な外的要因のばらつきに対応し、且つ、加工内容に応じた設定条件の適正な範囲内で値を選択し、設定条件の各項目に選択した値を設定して加工を行い、加工結果を検証するというプロセスを繰り返す。これにより、適切な設定条件をより短時間で確実に見つけることができる。
【0046】
また、従来の方法では、加工内容に対応する設定条件が登録されていないと、適切とされる設定条件を工作機械3のユーザに提供できないことが多かったが、本実施形態の制御方法によれば、範囲設定部12が、過去の加工結果情報に基づいて、補間計算や外挿などの手法により、加工内容に応じた設定条件の範囲を柔軟に算出するので様々な加工内容に対応することができる。
【0047】
<第二実施形態>
第一実施形態では、支援装置10が提供する設定条件の範囲内で適切な設定条件を見つけることができることを前提としていた。しかし、過去に実績の無い新しい材質について加工を行う場合など、設定条件の範囲が提供されていても適切な設定条件を見つけるのが難しい場合がある。例えば、銅合金の加工結果情報が数多く記憶されていて、支援装置10が提供する設定条件の範囲が銅合金により適した条件の範囲となっているときに、純銅の銅板を用いた加工を開始する場合、支援装置10が提供する設定条件の範囲は、純銅の銅板に適した設定条件の範囲からずれている可能性がある。このような状況に対処するため、第二実施形態では、加工結果をフィードバックして、設定条件の範囲を調整する機能を提供する。第二実施形態の範囲設定部12は、特定した設定条件の範囲を調整する機能を有している。次に範囲設定部12による設定条件の範囲を調整処理について図7図8を用いて説明する。
【0048】
図7は、本発明に係る第二実施形態における設定条件の範囲の調整処理の一例を示すフローチャートである。
工作機械3は、加工内容情報と入力された設定条件に従って加工を行い、センサ39が加工結果の計測を行う。一例として、純銅の板厚5mmの銅板に対して穴を形成する加工内容であるとする。また、図3図4で説明した方法により特定された設定情報の範囲が工作機械3へ提供され、工作機械3はその範囲内の動作を行って加工を行っている。通信部36は、加工内容情報とセンサデータ処理部33から取得した加工結果情報とを支援装置10へ送信する。支援装置10では、通信部15が、加工結果情報と加工内容情報とを取得し(ステップS21)、加工結果評価部13へそれらの情報を出力する。
【0049】
加工結果評価部13は、加工結果情報と加工内容情報とを比較して、加工結果を評価する(ステップS22)。例えば、加工内容に定められたテーパ角度と加工結果情報に含まれるテーパ角度とを比較し、その差が所定の許容範囲内(例えば、公差)であれば、テーパ角度については、成功であると評価し、許容範囲外であれば失敗と評価する。加工結果評価部13は、加工内容に含まれる他の項目についても加工結果に対する評価を行う。
次に範囲評価部14は、設定条件の範囲の調整が必要かどうかを判定する(ステップS23)。例えば、範囲評価部14は、加工結果評価部13によって加工が失敗であると評価された設定条件について、設定条件の範囲が適切では無いと評価する。あるいは、範囲評価部14は、所定の加工回数のうち一定の回数以上、失敗であると評価された設定条件について、設定条件の範囲が適切では無いと評価してもよい。
設定条件の範囲が適切であると評価された場合(ステップS23;No)、設定条件の範囲の調整は不要であるため、本フローチャートの処理を終了する。
【0050】
設定条件の範囲が適切ではないと評価された場合(ステップS23;Yes)、範囲設定部12は、設定条件の範囲を調整する(ステップS24)。ここで、図8を用いてステップS24の処理について例を挙げて説明する。図8は、本発明に係る第二実施形態における設定条件の範囲の調整について説明する図である。図8のグラフは、図3に示すグラフに、新たな加工結果情報が追加されたグラフである。また、印P1~P16のうち、印P9、P11は純銅の銅板に対する加工結果、他は銅合金の銅板に対する加工結果であるとする。また、印P17~P19は、その後追加された純銅の銅板に対する加工結果である。また、今回行う加工についての加工内容の「材質」には、純銅が指定されている。また、ユーザが、範囲R1´(範囲R1´は支援装置10から提供された範囲R1の範囲内)のある値を設定条件「パワー」に設定して加工指示を行ったところ、その加工に対する加工結果評価部13による評価結果は失敗であるとする。すると、範囲設定部12は、記憶部16に記憶された加工結果情報(図8)を参照して、今回の加工内容に含まれる「純銅の銅板」との情報に基づき、純銅を用いた加工結果を抽出する。これにより、印P9、P11、P17~P19の加工結果が抽出される。範囲設定部12は、印P9、P11、P17~P19を対象に調整後の境界線L3、L4を算出する。そして、加工内容に含まれる「板厚5mm」の情報に基づき、調整後の設定条件の範囲(R1a)を特定する。範囲設定部12は、調整後の設定条件の範囲情報を記憶部16に記憶する。範囲設定部12は、設定条件「パワー」に対して他の加工内容(例えば「穴径」)との関係を示した加工結果についても同様の調整処理を行って範囲を調整し、最終的にそれら全ての共通範囲を最終的な設定条件の範囲を算出する。
範囲設定部12は、このようにして算出した調整後の設定条件の範囲情報を記憶部16に記憶する。
【0051】
範囲設定部12は、設定条件の範囲情報を、通信部15を介して工作機械3へ送信する(ステップS25)。工作機械3では、通信部36が、調整後の設定条件の範囲情報を取得し記憶部37に記憶する。また、入出力部31が、調整後の設定条件の範囲情報をディスプレイに表示する。ユーザは、新たに設定された調整後の設定条件の範囲情報を参照して、より純銅の銅板の加工に適した設定条件を入力する。工作機械3は、入力された設定条件に従って加工を行う(ステップS26)。設定条件の範囲が適切に調整されるまで、ステップS21からの処理を繰り返す。
【0052】
本実施形態の制御方法によれば、過去の加工結果に基づいて特定した設定条件の範囲が適切なものであるかどうかを実際の加工によって確認することができる。また、実際の加工対象物に対する加工結果を含めて設定条件の範囲を特定することで、設定条件の範囲をより実態に合わせたものに調整することができる。また、加工結果のフィードバックを繰り返し行うことで、外乱の影響を考慮した設定条件の範囲の絞り込みを持続的に行うことができる。なお、図8では、加工対象物の材質に基づいて、設定条件の範囲を絞り込む例を挙げたが、同様に加工結果情報と共に記憶された加工環境の情報に基づいて、類似する加工環境で行われた加工結果情報に基づいて設定条件の範囲を絞り込み(調整)を行ってもよい。あるいは、加工結果情報と共に記憶された総運転時間が、自機と同程度の工作機械3による加工結果情報を抽出して設定条件の範囲の調整を行ってもよい。
【0053】
<第三実施形態>
第二実施形態では、新たなに開始する加工について最初に設定する設定条件の範囲を調整する機能について説明した。このように設定された設定条件の範囲で加工を行ってもしばらくすると、工作機械3に生じる経年変化(ガスノズルの変形、レンズの劣化、パイプのつまりなど)や装置の不具合の影響で、当初は適切であった設定条件の範囲が徐々に合わなくなることがある。第三実施形態では、ある加工内容について量産体制となった後も、継続的に加工結果をフィードバックすることで、加工品質が一定の基準を保っているかどうかを監視し、経年変化などによりこれまでの設定条件の範囲で加工を行うと品質が保てない状況になると、現状に適した設定条件の範囲を再設定する機能を提供する。次に本実施形態における範囲設定部12による設定条件の範囲の再設定処理について図9図11を用いて説明する。
【0054】
図9は、本発明に係る第三実施形態における設定条件の範囲の再設定処理の一例を示す第1のフローチャートである。
図7で説明した処理と同様に工作機械3は、加工内容情報と入力された設定条件に従って加工を行い、加工結果情報と加工内容情報とを支援装置10へ送信する。支援装置10では、通信部15が、加工結果情報と加工内容情報とを取得し(ステップS31)、加工結果評価部13へそれらの情報を出力する。
【0055】
加工結果評価部13は、加工結果情報と加工内容情報とを比較して、加工結果と加工内容の一致度を評価する(ステップS32)。例えば、加工内容に定められたテーパ角度と加工結果情報に含まれるテーパ角度との差を算出し、その差が所定の閾値以下であれば、テーパ角度についての一致度は基準を満たす(品質が保たれている)と評価し、差が閾値より大きければ、一致度は基準を満たさないと評価する。
次に範囲評価部14は、設定条件の範囲の調整が必要かどうかを判定する(ステップS33)。例えば、範囲評価部14は、加工結果評価部13によって一致度が基準を満たさないと評価された設定条件について、設定条件の範囲が適切では無いと評価する。あるいは、範囲評価部14は、所定の加工回数のうち一定の回数以上、一致度が基準を満たさないと評価された設定条件について、設定条件の範囲が適切では無いと評価してもよい。
設定条件の範囲が適切であると評価された場合(ステップS33;No)、設定条件の範囲の調整は不要であるため、本フローチャートの処理を終了する。
【0056】
設定条件の範囲が適切ではないと評価された場合(ステップS33;Yes)、範囲設定部12は、設定条件の範囲を調整する(ステップS34)。ここで、図11を用いてステップS34の処理について例を挙げて説明する。図11は、本発明に係る第三実施形態における設定条件の範囲の再設定について説明する図である。図11のグラフは、図3に示すグラフに、新たな加工結果情報(印P20、P21など)が追加されたグラフである。印P20、P21は、当該工作機械3による加工結果である。例えば、加工装置38に物をぶつけた衝撃により機構を変形させてしまったとき等、これまでと同じ設定条件で加工を行っても突然これまでの品質が得られなくなる場合がある。印P20、P21が示す加工結果は、当初は適切であることが確認された設定条件に従って加工したものであるにもかかわらず、品質が良好ではなかったことを示している。このような場合、範囲評価部14は、設定条件の範囲が適切ではなくなったと評価する。すると、範囲設定部12は、記憶部16に記憶された加工結果(図11)を参照して、例えば、失敗した印P20、P21を除く範囲R1bを、現在の工作機械3の状態に応じた設定条件の範囲として特定する。範囲設定部12は、特定した設定条件の範囲情報を記憶部16に記憶する。範囲設定部12は、設定条件「パワー」に対して他の加工内容(例えば「穴径」)との関係を示した加工結果についても同様の再特定処理を行って、最終的にそれら全ての共通範囲を算出し、最終的な設定条件の範囲を特定する。範囲設定部12は、再特定後の設定条件の範囲情報を記憶部16に記憶して、設定条件の範囲を更新(再設定)する(ステップS35)。
【0057】
支援装置10は、再設定した設定条件の範囲情報を工作機械3へ送信する。工作機械3は、新たな設定条件の範囲情報を取得すると、「設定条件の範囲が更新されました」等のメッセージをディスプレイに表示して、ユーザに設定条件の再入力を促す。以降は、第一、第二実施形態で説明したようにユーザは必要に応じて設定条件の範囲の調整を行って、新たな設定条件を探し出す。そして、加工結果のフィードバックを行いつつ、加工を継続する。
【0058】
本実施形態によれば、加工中に生じる工作機械3の不具合や加工環境の変化に対応する設定条件の範囲を特定することができる。その為、工作機械3の不具合などが生じて、設定条件をやり直さなければならないときでも、短時間で適切な設定条件を見つけることができ、省力化を図ることができる。また、短時間で設定条件の再設定を可能とすることで、量産加工への影響を最小限にとどめることができる。
また、加工結果のフィードバックを繰り返し行うことで、外乱の影響を考慮した設定条件の範囲の絞り込みを持続的に行うことができる。また、加工結果の変化と工作機械3に生じる異常個所との関係が予め分かっていれば、図11のように、ある加工内容(板厚)について継続的に記憶された設定条件(パワー)と加工結果の変化を監視することで、工作機械3の故障予測や、工作機械3が故障したかどうかを判断することができる。
【0059】
次に設定条件範囲の再設定処理の他の例について説明する。
図10は、本発明に係る第三実施形態における設定条件の範囲の再設定処理の一例を示す第2のフローチャートである。
なお、図10の説明においては、工作機械3と工作機械3a、3bを区別して考え、設定条件の範囲を調整する対象は工作機械3であるとする。また、工作機械3と工作機械3a、3bとは同機種で、3台の総加工時間(運転時間)、加工環境等は比較的近く、工作機械3、3a、3bには同様の経年変化を推定できることを前提とする。
図9で説明した処理と同様に工作機械3が加工を行い、支援装置10の通信部15は加工結果情報と加工内容情報とを取得する(ステップS41)。また、通信部15は、当該加工に係る加工時刻を取得する(ステップS42)。通信部15は、加工結果情報および加工内容情報と加工時刻とを対応付けて記憶部16に記憶する。次に加工結果評価部13は、加工結果と加工内容の一致度を評価する(ステップS43)。次に範囲評価部14は、設定条件の範囲の調整が必要かどうかを判定する(ステップS44)。設定条件の範囲が適切な場合(ステップS44;No)、本フローチャートの処理を終了する。
【0060】
設定条件の範囲が適切ではない場合(ステップS44;Yes)、範囲設定部12は、設定条件の範囲を調整する(ステップS45)。ここで、図11を用いて工作機械3の経年変化を考慮した設定条件の範囲の再設定処理について説明する。図11のグラフにおいて、印P22~P27は、最近になって工作機械3a、3bから受信した加工結果情報である。印P22~P27の印(二重丸) は、これらの加工が成功したことを示しており、各加工結果には、加工時刻が対応付けて記憶されている。一方、印P30は、工作機械3から受信した最新の加工結果情報であり、印P30の× 印が今回の加工が失敗したことを示している。
このような場合、範囲評価部14は、設定条件の範囲が適切ではないと評価する。すると、範囲設定部12は、記憶部16に記憶された加工結果情報(図11)を参照して、各加工結果と対応付けて記憶された加工時刻と、ステップS42で取得した加工時刻とを比較し、今回の加工時刻を基準に所定の期間内に行われた加工結果だけを抽出する。これにより、印P22~P27の加工結果が抽出される。範囲設定部12は、印P22~ P27を対象に調整後の境界線L5、L6を算出する。そして、加工内容に含まれる「板厚5mm」の情報に基づき、設定条件の範囲を特定する。範囲設定部12は、特定した設定条件の範囲情報を記憶部16に記憶する。範囲設定部12は、設定条件「パワー」に対して他の加工内容(例えば「穴径」)との関係を示した加工結果についても同様の再特定処理を行って、最終的にそれら全ての共通範囲を算出し、最終的な設定条件の範囲を特定する。範囲設定部12は、再設定後の設定条件の範囲情報を記憶部16に記憶して、設定条件の範囲を更新(再設定)する(ステップS46)。図10で説明した処理によれば、経年変化の状況を考慮した設定条件の範囲を提供することができる。また、工作機械3の運転時間と再設定した設定条件の範囲とを対応付けて記憶しておくことで、例えば、工作機械3 より後に導入された他の工作機械が同様の経年変化を経る時期に、記憶した設定条件の範囲をその工作機械にも適用することができる。
【0061】
上記の実施形態では、工作機械3がレーザ加工機である場合を例に説明を行った。しかし、第一~第三実施形態における設定条件の範囲の提供や設定条件の範囲の調整・再設定などの処理は、工作機械3が他の加工機であってもよい。例えば、工作機械3は、マシニングセンタ、NC旋盤など切削加工を行う機械であってもよい。この場合の加工内容とは、例えば、材質の種類・引っ張り強さ・硬さ、穴径、板厚などである。また、設定条件とは、例えば、切削工具の種類、主軸回転数、直線移動軸の送り速度、切削水・切削油(クーラント)の有無・種類・吐出圧力などである。本実施形態の制御システム1を切削加工機械に適用すると、支援装置10は、上記の各設定条件に設定すべき値の適切な範囲を工作機械3側へ提供する。ユーザは、設定条件の設定を短時間で行うことができる。
【0062】
また、上記実施形態では支援装置10から設定条件の範囲を受信することとしたが、ユーザが自社で保有する工作機械3について、入出力部31を介して、適切な設定条件の範囲を任意に登録できるようにしてもよい。ユーザが任意に登録した設定条件の範囲情報は、記憶部37に記憶してもよいし、記憶部16においてユーザ別、工作機械別に記憶するようにしてもよい。また、ユーザが任意に登録した設定条件の範囲情報は、支援装置10から受信した設定条件の範囲情報の一部であってもよいし、支援装置10から受信した設定条件の範囲情報とは異なる範囲を含むものであってもよい。
【0063】
(ハードウェア構成)
支援装置10、制御装置30は、一般的なコンピュータ500を用いて実現することができる。図12にコンピュータ500の構成の一例を示す。
図12は、本発明に係る制御装置および支援装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ500は、CPU(Central Processing Unit)501、RAM(Random Access Memory)502、ROM(Read Only Memory)503、ストレージ装置504、外部I/F(Interface)505、入力装置506、出力装置507、通信I/F508等を有する。これらの装置はバスBを介して相互に信号の送受信を行う。
【0064】
CPU501は、ROM503やストレージ装置504等に格納されたプログラムやデータをRAM502上に読み出し、処理を実行することで、コンピュータ500の各機能を実現する演算装置である。例えば、上記の各機能部は、CPU501が、ROM503等が記憶するプログラムを読み込んで実行することにより、コンピュータ500に備わる機能である。RAM502は、CPU501のワークエリア等として用いられる揮発性のメモリである。ROM503は、電源を切ってもプログラムやデータを保持する不揮発性のメモリである。ストレージ装置504は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等により実現され、OS(Operation System)、アプリケーションプログラム、及び各種データ等を記憶する。外部I/F505は、外部装置とのインタフェースである。外部装置には、例えば、記憶媒体509等がある。コンピュータ500は、外部I/F505を介して、記憶媒体509の読取り、書き込みを行うことができる。記憶媒体509には、例えば、光学ディスク、磁気ディスク、メモリカード、USB(Universal Serial Bus)メモリ等が含まれる。
【0065】
入力装置506は、例えば、マウス、及びキーボード等で構成され、操作者の指示を受けてコンピュータ500に各種操作等を入力する。出力装置507は、例えば、液晶ディスプレイにより実現され、CPU501による処理結果を表示する。通信I/F508は、有線通信又は無線通信により、コンピュータ500をインターネット等のネットワークに接続するインタフェースである。バスBは、上記各構成装置に接続され、構成装置間で各種信号等を送受信する。
【0066】
なお、上述した支援装置10、制御装置30における各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶されており、このプログラムを、各装置(支援装置10、制御装置30)を実装したコンピュータ500が読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0067】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記憶されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
また、支援装置10、制御装置30は、1台のコンピュータで構成されていても良いし、通信可能に接続された複数のコンピュータで構成されていてもよい。また、制御装置30に支援装置10の機能部(範囲設定部12、加工結果評価部13、範囲評価部14、記憶部16)を実装してもよい。
【0068】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。また、この発明の技術範囲は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。支援装置10は、工作機械の設定支援装置の一例である。制御装置30は、工作機械の制御装置の一例である。入出力部31は、受付部の一例である。設定条件判定部35は、特定部の一例である。加工装置制御部34は、決定部の一例である。
【符号の説明】
【0069】
1・・・制御システム
2、2a、2b・・・CADシステム
3、3a、3b・・・工作機械
10・・・支援装置
11・・・データ取得部
12・・・範囲設定部
13・・・加工結果評価部
14・・・範囲評価部
15・・・通信部
16・・・記憶部
30・・・制御装置
31・・・入出力部
32・・・CAMシステム
33・・・センサデータ処理部
34・・・加工装置制御部
35・・・設定条件判定部
36・・・通信部
37・・・記憶部
38・・・加工装置
39・・・センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12