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▶ 瀬川 勝規の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】耐熱性塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20220207BHJP
   C09D 1/02 20060101ALI20220207BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220207BHJP
   C21D 1/68 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D1/02
C09D7/61
C21D1/68
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017254766
(22)【出願日】2017-12-28
(65)【公開番号】P2019119785
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2020-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】516119003
【氏名又は名称】瀬川 勝規
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 勝規
【審査官】宮地 慧
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-342404(JP,A)
【文献】特開平11-350027(JP,A)
【文献】特開昭52-133812(JP,A)
【文献】特開平03-162516(JP,A)
【文献】特開2002-115041(JP,A)
【文献】特開平09-182910(JP,A)
【文献】特開2012-122056(JP,A)
【文献】特開昭60-260660(JP,A)
【文献】特表2016-536457(JP,A)
【文献】特公昭48-037800(JP,B1)
【文献】特開平11-093296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
C21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材の表面を保護するための耐熱性塗料であって、
ケイ酸イオン、アルカリ金属の水酸化物を含有し、
前記アルカリ金属の水酸化物は、水酸化ナトリウムであり、
耐熱性塗料中の溶質の量は、5質量%以上50質量%であり、
熱処理炉中で使用される、耐熱性塗料。
【請求項2】
さらに、ホウ酸又はその誘導体を含有する、請求項に記載の耐熱性塗料。
【請求項3】
水溶液である、請求項1又は2に記載の耐熱性塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属材は、処理目的によって、高温に加熱されることがある。金属材を加熱する目的は種々挙げられるが、表面硬化、表面強化、表面滑化、表面改質等の目的で行われ、例えば、熱処理炉中で、金属材を500~1300℃程度に加熱される。
【0003】
例えば、表面硬化熱処理には、化学的表面硬化法(浸炭、窒化等)と、物理的表面硬化法(高周波焼入れ、火炎焼入れ、レーザー焼入れ、電子ビーム焼入れ等)とが挙げられる。
【0004】
しかしながら、これらの表面硬化熱処理を加工性を損なうことから、被処理材によっては、浸炭処理後に加工の必要がある場合等においては、部分的に硬化を抑制する必要性がある場合もある。この場合、硬化不要領域に、耐熱性塗料を塗布して保護層を形成することが一般的である。また、熱処理による金属材の酸化を防止することを目的としても、耐熱性塗料を塗布して保護層を形成することがある。ところが、従来の耐熱性塗料は、耐熱性と言いながらも熱処理の最中に剥離してしまうものが多く、有効な塗料は見出されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決しようとするものであり、熱処理を行う際の剥離を抑制した耐熱性塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)を含有させることにより、熱処理を行う際の剥離を抑制することができることを見出した。この知見に基づいて更に研究を重ね本発明を完成した。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
項1.金属材の表面を保護するための耐熱性塗料であって、
ケイ酸イオンを含有する、浸炭防止塗料。
項2.さらに、アルカリ金属の水酸化物を含有する、項1に記載の耐熱性塗料。
項3.さらに、ホウ酸又はその誘導体を含有する、項1又は2に記載の耐熱性塗料。
項4.水溶液である、項1~3のいずれかに記載の耐熱性塗料。
項5.熱処理炉中で使用される、項1~4のいずれかに記載の耐熱性塗料。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱処理を行う際の剥離を抑制した耐熱性塗料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の耐熱性塗料は、金属材(鋼等)の表面を保護するための耐熱性塗料であって、ケイ酸イオンを含有する。
【0009】
本発明の耐熱性塗料は、処理しようとする金属材の表面に直接塗布することができ、金属材の熱処理の過程において、ケイ酸イオンが金属材の表面にブロッキング膜を形成し、金属材を保護することができる。また、この本発明の耐熱性塗料は、ケイ酸イオンを含んでいるために高温でも剥離しにくい塗料であり、従来のように、剥離により保護機能を損なうこともない。つまり、所望の箇所に本発明の耐熱性塗料を塗布することにより、効果的に金属材を保護することができる。
【0010】
本発明の耐熱性塗料中にケイ酸イオンを添加するためには、通常、ケイ酸塩(特に水溶性ケイ酸塩)が使用される。このようなケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)、ケイ酸カリウム等のケイ酸アルカリ金属塩;ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム等のケイ酸アルカリ土類金属塩;ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。これらのケイ酸塩は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0011】
本発明の耐熱性塗料中のケイ酸イオンの含有量は、本発明の耐熱性塗料総量を100質量%として、ケイ酸塩に換算して3~50質量%が好ましく、5~40質量%がより好ましい。この範囲とすることにより、熱処理中に耐熱性塗料が剥離することをより抑制することができる。
【0012】
次に、本発明の浸炭防止塗料には、アルカリ金属の水酸化物を含有させることにより、本発明の耐熱性塗料による保護性能をさらに向上させ、熱処理中における剥離をさらに抑制することができる。このため、使用する溶質の量を少なくすることも可能である。使用できるアルカリ金属の水酸化物としては、特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。これらのアルカリ金属の水酸化物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。アルカリ金属の水酸化物を使用する場合、その含有量は特に制限されないが、浸炭処理中における剥離をさらに抑制しやすい観点から、本発明の耐熱性塗料総量を100質量%として、1~20質量%が好ましく、2~10質量%がより好ましい。
【0013】
また、本発明の耐熱性塗料には、ホウ酸又はその誘導体を含有させることにより、金属材(鋼等)の酸化をより効果的に抑制することもできる。使用できるホウ酸又はその誘導体としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂、酸化ホウ素(無水ホウ酸)等が挙げられる。これらのホウ酸又はその誘導体は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。ホウ酸又はその誘導体を使用する場合、その含有量は特に制限されず、適宜設定することができる。
【0014】
本発明の耐熱性塗料は、上記各成分を含んでいれば特に制限はないが、塗工しやすさ、熱処理中の剥離しにくさ等の観点から、水で希釈することが好ましい。希釈濃度は特に制限されず、適宜設定することが好ましい。なお、本発明の耐熱性塗料中にアルカリ金属の水酸化物を含まない場合は溶質の量が15質量%以上となるように希釈する(2~7倍に希釈する)ことが好ましく、本発明の耐熱性塗料中にアルカリ金属の水酸化物を含む場合は溶質の量が5質量%以上となるように希釈する(2~20倍に希釈する)ことが好ましい。
【0015】
本発明の耐熱性塗料を使用して熱処理を行う場合、その温度は、500~1300℃とすることができる。この操作は、熱処理炉中で行うことができる。つまり、本発明の耐熱性塗料は熱処理炉中で行うことが好ましく、このような条件下においても、熱処理中に塗料が剥離することを抑制することができる。この場合、例えば、常温環境で金属材(鋼等)に本発明の耐熱性塗料を塗布した後に、熱処理炉中に投入し、上記温度まで加熱して使用することができる。なお、本発明の耐熱性塗料を浸炭防止塗料として使用する場合には、金属材(鋼等)に本発明の耐熱性塗料を塗布した後に700~1000℃で加熱して1~2時間保温した後に金属材を冷却(炉冷、空冷又は水冷)させ、必要に応じて、その後、700~1000℃で焼き入れを行うことができる。
【実施例
【0016】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されないことは言うまでもない。
【0017】
試験例
900℃の熱処理炉内に、後述の塗料を試験片(50mm×50mm×10mm;材質SMC20)に塗布し、1時間放置することで、試験片から塗料が剥離しているか否かを目視で確認した。
【0018】
比較例1:メチルフェニル・シリコンワニス(溶媒キシレン)
市販のメチルフェニル・シリコンワニスをキシレンで希釈し、上記試験例の試験を行った。この結果、いずれの希釈濃度であっても、試験片から塗料が剥離していたことから、浸炭による硬化を効果的に抑制できないことが理解できる。
溶質量10質量%:剥離あり
溶質量20質量%:剥離あり
溶質量30質量%:剥離あり
溶質量40質量%:剥離あり
溶質量50質量%:剥離あり。
【0019】
比較例2:テトラn-ブチルチタネート(溶媒ミネラルスピリット)
テトラn-ブチルチタネートをミネラルスピリット(米山薬品工業(株)製)で希釈し、上記試験例の試験を行った。この結果、いずれの希釈濃度であっても、試験片から塗料が剥離していたことから、浸炭による硬化を効果的に抑制できないことが理解できる。
溶質量10質量%:剥離あり
溶質量20質量%:剥離あり
溶質量30質量%:剥離あり
溶質量40質量%:剥離あり
溶質量50質量%:剥離あり。
【0020】
比較例3:エチルシリケート40(溶媒水)
エチルシリケート40(コルコート(株)製)を水で希釈し、上記試験例の試験を行った。この結果、いずれの希釈濃度であっても、試験片から塗料が剥離していたことから、浸炭による硬化を効果的に抑制できないことが理解できる。
溶質量10質量%:剥離あり
溶質量20質量%:剥離あり
溶質量30質量%:剥離あり
溶質量40質量%:剥離あり
溶質量50質量%:剥離あり。
【0021】
実施例1:ケイ酸ナトリウム(溶媒水)
ケイ酸ナトリウムを水で希釈し、上記試験例の試験を行った。この結果、溶質量が10質量%の場合は一部に剥離が確認できたものの、その他の濃度の試料では剥離は確認できなかったことから、浸炭による硬化を効果的に抑制できることが理解できる。
溶質量10質量%:一部剥離あり
溶質量20質量%:剥離なし
溶質量30質量%:剥離なし
溶質量40質量%:剥離なし
溶質量50質量%:剥離なし。
【0022】
実施例2:ケイ酸ナトリウム+水酸化ナトリウム(溶媒水)
ケイ酸ナトリウムと水酸化ナトリウムを10: 1(質量比)で混合したうえで水で希釈し、上記試験例の試験を行った。この結果、いずれの希釈濃度であっても、剥離は確認できなかったことから、浸炭による硬化を実施例1よりもさらに効果的に抑制できることが理解できる。
溶質量10質量%:剥離なし
溶質量20質量%:剥離なし
溶質量30質量%:剥離なし
溶質量40質量%:剥離なし
溶質量50質量%:剥離なし。
【0023】
以上から、本発明の耐熱性塗料によれば、熱処理炉中で高温(例えば900℃)に加熱した場合であっても、その剥離を抑制することができており、高温での熱処理を必要とする各種用途(例えば、金属材の浸炭防止、窒化防止、酸化防止等)に有用であることが理解できる。