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特許7019421スライディングノズル用プレート耐火物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】スライディングノズル用プレート耐火物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 41/22 20060101AFI20220207BHJP
   B22D 11/10 20060101ALI20220207BHJP
   C04B 35/101 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
B22D41/22
B22D11/10 340
C04B35/101 500
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017548251
(86)(22)【出願日】2017-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2017032680
(87)【国際公開番号】W WO2018061731
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2016188363
(32)【優先日】2016-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤峰 経一郎
(72)【発明者】
【氏名】牧野 太郎
(72)【発明者】
【氏名】王丸 善太
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-193511(JP,A)
【文献】特開2011-104596(JP,A)
【文献】特開平11-057957(JP,A)
【文献】特開平06-117960(JP,A)
【文献】国際公開第2009/119683(WO,A1)
【文献】特開2015-193512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 41/32
B22D 11/00
B22D 11/10
C04B 35/103
C04B 35/101
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の鋳造に用いるスライディングノズル用プレート耐火物であって,
AlC成分を15質量%以上45質量%以下,フリーの炭素成分を2.0質量%以上4.5質量%以下,SiO成分を0.5質量%以上4.0質量%以下,金属Al成分を1.0質量%以下(ゼロを含む),残部にAl成分を主成分として含有し,
摺動面となる面を含み当該摺動面となる面に対して垂直方向の通気率が5×10 -17 以上40×10-17以下,見掛け気孔率が8.0%以上11.0%以下である,スライディングノズル用プレート耐火物。
【請求項2】
1000℃非酸化雰囲気中での熱膨張率が0.5%以上0.6%以下,室温での曲げ強さが15MPa以上40MPa以下である,請求項1に記載のスライディングノズル用プレート耐火物。
【請求項3】
前記の鋼は,鋳造時の溶鋼中のフリー酸素濃度が30ppm以下である,請求項1又は請求項2に記載のスライディングノズル用プレート耐火物。
【請求項4】
金属Al又はAl含有合金を含み,前記金属Al又はAl含有合金中の金属Al成分の総量が2.0質量%以上10.0質量%以下である坏土を成形し,非酸化雰囲気中で1000℃以上の温度で熱処理をして,耐火物中の金属Al成分の含有量を1.0質量%以下(ゼロを含む)とする工程を含む,請求項1から請求項のいずれかに記載のスライディングノズル用プレート耐火物の製造方法。
【請求項5】
タール,ピッチ又は熱硬化性樹脂を含浸する工程を含まない,請求項に記載のスライディングノズル用プレート耐火物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,製鋼プロセスで取鍋やタンディッシュ等の容器から溶鋼,特に溶鋼中のフリー酸素濃度が低い鋼を排出する際の,開閉及び流量制御に使用されるスライディングノズル用プレート(以下「プレート」ともいう。)耐火物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレートの主要な損耗形態である摺動面の面荒れは,鋳造中に稼動面となる摺動面の組織が脆弱化し,摩耗,溶損,剥離などの現象を生じる現象である。この面荒れは化学的要因や物理的要因などいくつかの要素が複合的に影響を及ぼして生じると考えられている。多くの場合,酸化や脱炭が面荒れの起点となっていると考えられており,酸化は大気中の酸素による気相酸化や溶鋼中の酸素による液相酸化により生じ,脱炭は溶鋼への炭素の溶出によって生じると考えられている。このように酸化や脱炭により脆化した稼動面組織に,溶鋼や溶鋼中の成分,例えば介在物,スラグ等が浸潤,付着ないしは反応し,さらに浸潤,付着層が組織剥離することによって,面荒れが進行すると考えられている。
【0003】
一方,最近では単純な気相酸化や溶鋼中の酸素による液相酸化,溶鋼への炭素の溶出による脱炭とは異なる,酸化,脱炭のメカニズムが報告されている。
例えば,非特許文献1では,極低炭素Alキルド鋼(炭素濃度;20ppm),低炭素Alキルド鋼(炭素濃度;410ppm),極低炭素Siキルド鋼(炭素濃度;20ppm)の3種類の鋼を電気炉に入れ,真空置換を行ったAr雰囲気下,1560℃の温度条件で,アルミナ微粉と炭素から構成される単純系試料と反応させる試験を行い,界面の組織の評価と考察を行っている。その結果,極低炭素Alキルド鋼(炭素濃度;20ppm)との反応試験結果として,試料の稼動面で200μm程度の,脆化層の形成,すなわち炭素とAl粒の消失が確認されており,低炭素Alキルド鋼(炭素濃度;410ppm)でも同様に,炭素とAl粒が消失した100μm程度の脆化層の形成が確認されている。
また,非特許文献2では,Alキルド鋼等の溶鋼中のフリー酸素濃度が低い鋼を受鋼したプレートの摺動面を観察し,炭素とAl粒が消失した脆化層が形成されることを確認している。
【0004】
このようにAlキルド鋼等の溶鋼中のフリー酸素濃度が低い鋼を受鋼する場合は,プレートの摺動面の溶鋼と接触する面又は内孔空間に曝される面(以下「稼働面」ともいう。)に脆化層が形成されることにより面荒れ現象が生じると考えられるが,その詳細なメカニズムやその改善方法等の検討は十分にはなされていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】第1回鉄鋼用耐火物委員会予稿集,2013年11月21日,p.180~p.187
【文献】第3回鉄鋼用耐火物委員会予稿集,2015年11月26日,p.167~p.174
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は,Alキルド鋼等を受鋼する場合において,摺動面に面荒れが生じ難いプレート耐火物及びその製造方法を提供することである。
また特に,溶鋼中のフリー酸素濃度が低い鋼を受鋼する場合に好適なプレート耐火物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが,Alキルド鋼等,特に溶鋼中のフリー酸素濃度が低い鋼を受鋼する場合において摺動面に面荒れが生じるメカニズムについて検討を重ねた結果,前述の炭素とAl粒が消失した脆化層は耐火物中の炭素と酸化物等との酸化還元反応が生じることで形成され,その脆弱層が損傷することで面荒れが進行することがわかった。
【0008】
より具体的に説明すると,耐火物中の炭素が,耐火物中の主たる構成物であるAl成分さらにはSiO成分,ZrO成分等の酸素(O)によって酸化されてCOガスとして気相となり消失し,脱炭する。またAl成分,SiO成分,ZrO成分等は炭素によって還元され,Alガス,AlOガス,SiOガス等の気相種や,ZrC,SiC等の炭化物を生成する。生成した気相種の多くは稼動面へ移動し溶鋼中へ溶出すると考えられる。またSiOガスの一部は耐火物組織中でSiCを生成すると考えられ,ZrCの生成と同様,酸化物から炭化物を生成するとその体積は収縮し,稼動面付近の耐火物組織中に多くの空隙を生じて脆化層を形成すると考えられる。
【0009】
また,溶鋼の鋳造時のプレートの内孔には,開度を小さくする,すなわち絞ることで溶鋼が充満していない領域が発生し,その領域は絞りの程度が大きくなるほど,減圧の程度も大きくなり,一般的には鋳造時間が長くなる。このような減圧の領域に長時間曝される上プレートの摺動面の方が下プレートの摺動面よりも,その摺動面付近の組織は炭素とAl粒等が消失した脆化層が厚く,地金の浸潤も深く,面荒れが大きくなるケースがあることもわかった。
【0010】
これらから,前述の脆化層の形成ないしは面荒れ現象は,溶鋼中の酸素濃度に加え,温度,時間,内孔空間の圧力に影響されることを知見した。そして溶鋼中のフリー酸素濃度は30ppm以下,温度は高温度ほど,時間は長時間であるほど,内孔空間の圧力は負圧の程度が大きいほど,脆化層の形成ないし面荒れの程度が大きくなることを知見した。
【0011】
さらに詳しく説明すると,稼動面付近の耐火物組織内では,Al粒以外にも低熱膨張性原料として添加されたAl-ZrO系原料及びZrO-mulliteなどの骨材粒子も顕著な変質を受けていることが観察され,この変質も長時間,絞り注入される条件では上プレートの方が下プレートと比較して大きい傾向にあることを確認した。さらに,Al-ZrO系原料は原料中のZrO粒子がZrCに変質し,ZrO-mulliteは,粒子のmullite領域のSiO成分が消失し,Alのみが残存し,SiO成分はガス化してZrO-mullite粒子表層に移動しSiCとして存在していることを確認した。また,変質が進行すると,mullite領域のSiO成分だけでなく,Al成分も消失することを確認した。さらに,ZrO粒子については,Al-ZrO系原料中のZrO粒子と同様,ZrO粒子はZrCに変質していることを確認した。
【0012】
これらの現象はいずれも,耐火物組織中の主として炭素の還元作用により生じるものであるが,負圧条件となることでプレート耐火物組織中のSiO,ZrO,Al等の酸化物成分の炭素による還元反応がよりいっそう進行する。
【0013】
これらのメカニズムは,主に次の式1~式5の反応により示すことができる。
SiO(s)+3C(s)=SiC(s)+2CO(g) …式1
3Al・2SiO(s)+12C(s)
=3Al(s)+2SiC(s)+4CO(g)+12C(s) …式2
ZrO(s)+3C(s)=ZrC(s)+2CO(g) …式3
Al(s)+3C(s)=2Al(g)+3CO(g) …式4
Al(s)+2C(s)=AlO(g)+2CO(g) …式5
【0014】
これら式1~式5の反応を,熱力学計算ソフトFact Sageを用いて,1550℃の温度条件で計算した結果,負圧条件下で反応がより進行しやすくなることがわかった。またこれらの反応は(1)>(2)>(3)>(4)≒(5)の順で進行し易くなること,及び前述のプレート耐火物に一般的に用いられる原料は,mullite,ZrO-mullite>Al-ZrO>Alの順で変質し易いことがわかった。さらにこの計算によると,Alの炭素による還元反応(4),(5)は常圧である1atmでは進行しないが,少量のSiO成分を含むと,1atmから,極少量ではあるが反応を生じることがわかった。このことは,SiO成分を含む場合,鋳造時に大気圧又は正圧となる領域の摺動面でも前述の還元反応を生じて脆化層を形成し,面荒れを惹き起こすことを示している。
【0015】
これらの知見から,本発明のスライディングノズル用プレート耐火物は,主に次のような方針に基づく構成とした。
(1)炭素成分量を必要最小限度に留める。
(2)SiO成分量及びZrO成分量を必要最小限度に留める。
(3)金属Al成分量を必要最小限度に留める。
(4)耐火物組織を緻密化する。
なお,前記の「必要最小限度」とは,他の代替手段を採った上で,強度,耐熱衝撃性,耐食性等のバランス上,必要な概ね最少の相対的な量・程度をいう。
【0016】
また,本発明のスライディングノズル用プレート耐火物にはAlC成分の他,Al成分を主成分として含有させる。Al成分,特にコランダムは,スライディングノズル用プレートとして必要な耐食性,耐摩耗性,耐熱性,熱膨張特性等の諸具備特性を最もバランスよく備えている。したがって,本発明のスライディングノズル用プレート耐火物もAl成分としてのコランダムを主要構成物とする。
【0017】
一方,前記(1)の炭素成分量を低減すると,脆化層の形成を抑制することができるが,反面,弾性率や熱膨張率が上昇する,鋳造中の受熱により焼結が進行する等により耐熱衝撃性が低下し,プレートのエッジ欠けや放射状亀裂等が生じて耐用性を低下させる原因ともなる。また,前記(2)のSiO成分量及びZrO成分量を低減すると,脆化層の形成を抑制することができるが,耐熱衝撃性が低下し,プレートのエッジ欠けや放射状亀裂等が生じて耐用性を低下させる要因となる。
【0018】
そこで本発明では,コランダムよりも低熱膨張性であるAlC成分を15~45質量%含有させることで,耐熱衝撃性を高めることとした。AlC成分はアルミニウムオキシカーバイド組成物の主成分であり,熱膨張係数が約4×10-6/K程度と,コランダムの約半分程度であって熱膨張率の低減効果が高い。またAlC成分は次の式6に示すように炭素との共存下で還元される。
2AlC(s)+3C(s)
=2Al(s)+Al(s)+2CO(g) …式6
そしてこの式6の反応は,Fact Sageを用いた1550℃の温度条件での計算によると1atmでも生じることがわかった。
【0019】
一方で,アルミニウムオキシカーバイド組成物を適用した複数のプレートの実使用後品の稼動面付近のミクロ組織を観察した結果,アルミニウムオキシカーバイド粒子表面付近のみに,厚さ数十μm程度のわずかな変質層を形成しているだけで,それより深部の組織は殆ど変質せずに残存していることを確認した。このことから前記の式6で示される反応は,稼動面表層のアルミニウムオキシカーバイド組成物の表層のみで生じていることがわかった。また,前記の変質層は前記の式6からAlとAlから構成されていると考えられ,AlとAlはともに炭素との共存下ではZrOやSiOよりも安定であり,アルミニウムオキシカーバイド組成物の保護層として機能していると考えられる。これらから,アルミニウムオキシカーバイド組成物は,Al-ZrO系,ZrO-mullite,Al-SiO系の組成物よりも,高温での還元雰囲気下での安定性が高く,低熱膨張特性を長時間持続することが可能で,かつ,組成物自体の変質による組織の脆化が進行し難いことがわかる。
【0020】
前記(3)の金属Al成分は,酸化して主として強度を高める効果があるが,強い還元作用もある。主として過度な酸化等の反応を抑制して耐熱衝撃性が低下することを抑制するとともに,酸化物の還元による脆化層の形成を抑制するために,金属Al成分量は,必要最小限度に留める。
【0021】
前述の諸メカニズム(反応)は,耐火物内の気孔を介して進行するので,耐火物組織の緻密性を高めることが,脆化層の形成ないし面荒れの抑制に寄与する。しかし,気孔は耐火物組織の熱的,機械的応力の緩和機能等も担っていることから或る程度は必要であり,製造上も皆無にすることはできない。すなわち,前記(4)の耐火物組織の緻密化は,主として耐熱衝撃性とのバランスにおいて調整することが必要である。
【0022】
なお,タール,ピッチ又は熱硬化性樹脂を含浸して炭素源を補強し,緻密化することが一般に広く行われている。しかし,このようにして耐火物組織内に付加した炭素は活性であり,また過剰な炭素を存在させることにもなるので,脆化層の形成を促進する虞がある。またその緻密化に関しても,他の手段での実現が可能なので,本発明においては,このような含浸する工程を含まないことが好ましい。
【0023】
以上の知見を基にした本発明は,次の1~のスライディングノズル用プレート耐火物及びスライディングノズル用プレート耐火物の製造方法である。
1.鋼の鋳造に用いるスライディングノズル用プレート耐火物であって,
AlC成分を15質量%以上45質量%以下,フリーの炭素成分を2.0質量%以上4.5質量%以下,SiO成分を0.5質量%以上4.0質量%以下,金属Al成分を1.0質量%以下(ゼロを含む),残部にAl成分を主成分として含有し,
摺動面となる面を含み当該摺動面となる面に対して垂直方向の通気率が5×10 -17 以上40×10-17以下,見掛け気孔率が8.0%以上11.0%以下である,スライディングノズル用プレート耐火物。
.1000℃非酸化雰囲気中での熱膨張率が0.5%以上0.6%以下,室温での曲げ強さが15MPa以上40MPa以下である,前記1に記載のスライディングノズル用プレート耐火物。
.前記の鋼は,鋳造時の溶鋼中のフリー酸素濃度が30ppm以下である,前記1又は前記2に記載のスライディングノズル用プレート耐火物。
.金属Al又はAl含有合金を含み,前記金属Al又はAl含有合金中の金属Al成分の総量が2.0質量%以上10.0質量%以下である坏土を成形し,非酸化雰囲気中で1000℃以上の温度で熱処理をして,耐火物中の金属Al成分の含有量を1.0質量%以下(ゼロを含む)とする工程を含む,前記1から前記のいずれかに記載のスライディングノズル用プレート耐火物の製造方法。
.タール,ピッチ又は熱硬化性樹脂を含浸する工程を含まない,前記に記載のスライディングノズル用プレート耐火物の製造方法。
【0024】
なお,本発明において「溶鋼中のフリー酸素」とは溶鋼中の溶存酸素をいい,酸化物の形態で存在する溶鋼中の介在物に含まれる酸素は含まない。また,本発明において「フリーの炭素成分」とは,他の元素との化合物の形態で存在する炭素成分を除く,単独で存在する炭素成分をいい,結晶性や形状等の形態を問わない。
【発明の効果】
【0025】
本発明により,Alキルド鋼等の鋼の鋳造において,特に開度が小さく絞り程度が大きい場合や長時間に亘り鋳造される場合にも,スライディングノズル用プレートの摺動面の面荒れを顕著に減少させることができ,安定した高耐用性を得ることができる。
特に,従来は損傷が大きくなる傾向が観られた,溶鋼中のフリー酸素濃度が30ppm以下の鋼の鋳造において,スライディングノズル用プレートの摺動面の面荒れを顕著に減少させることができ,安定した高耐用性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のプレート耐火物はAlC成分を15質量%以上45質量%以下含有する。AlC成分の含有量が15質量%未満の場合,熱膨張率の低減効果が小さく,耐熱衝撃性が不十分である。AlCの含有量が45質量%を超える場合は,プレート耐火物の熱膨張量が,当該プレート耐火物の外周に焼き嵌めされるメタル製のバンドの熱膨張量に対して相対的に小さくなって,プレート耐火物の拘束力が低下することから,亀裂発生ないし拡大を惹き起こし易くなる。またメタル製のバンドにずれを生じて,特にプレートを再使用する場合に,プレートの取り外し等の取り扱い時の作業性や安全性が低下する等の問題を生じ易くなる。
【0027】
本発明のプレート耐火物はフリーの炭素成分を2.0質量%以上4.5質量%以下含有する。フリーの炭素成分の含有量が2.0質量%未満の場合は,スラグ等の酸化物等と濡れ易くなることから,溶鋼中の酸化物系介在物やスラグが稼動面に付着,浸潤し,面荒れを促進し易くなる。また,酸化物同士の焼結を抑制して弾性率を低下させる又は上昇を抑制する効果が小さくなり,耐熱衝撃性が低下して亀裂発生ないし拡大を惹き起こし易くなる。フリーの炭素成分の含有量が4.5質量%を超える場合は,外気に曝される部分での酸化による炭素の消失による組織の脆化が大きくなり,さらには,前記の式1~5により,耐火物組織中の炭素と共に耐火物を構成する酸化物等も消失することから,組織の脆化がより一層進行しやすくなり,面荒れが促進され易くなる。
【0028】
本発明のプレート耐火物はSiO成分を0.5質量%以上4.0質量%以下含有する。SiO成分は,その出発原料ないしは存在形態によっては,耐火物の強度向上や組織の緻密化等にも寄与する。また金属Al成分は,耐食性や耐酸化性の向上や組織の緻密化等に寄与するが,特に鋳造時の受熱によりAlを生成し,このAlが水和して組織を崩壊させることがある。このAlの水和抑制のためにSiO成分が有効である。そしてAlの水和抑制のためにはSiO成分は0.5質量%以上含有することが必要である,0.5質量%未満では十分な水和抑制効果を得ることができない。一方でSiO成分は,前記の式1及び式2に示されるように,高温条件下,一部は炭素と反応してSiCとして析出するとともにSiO(g)として消失するが,SiC化は体積減少を伴う変質であることから,組織を劣化させる一つの要因でもある。また前述のとおり,Alの炭素による前記の式4及び式5に示す還元反応は,Fact Sageを用いた計算によると,常圧である1atmでは進行しないが少量のSiO成分を含むと,極少量ではあるが1atmから反応を生じる。このAlの還元反応は,耐火物組織の脆化を促進させる一つの要因となる。このようなSiO成分及びAl成分の還元反応ないしは消失による組織劣化を抑制するためにはSiO成分の含有量は4.0質量%以下とする必要がある。
【0029】
本発明のプレート耐火物において金属Al成分の含有量は1.0質量%以下(ゼロを含む)とする。金属Al成分の含有量が1.0質量%以下であれば,使用時の受熱により耐火物組織を大きく変化することなく,耐火物組織中のフリーの炭素成分やAlC成分の酸化を抑制する効果や,耐食性の向上や耐火物組織の緻密化等に寄与する。しかし,金属Al成分の含有量が1.0質量%を超えると,鋳造時間や,鋼種,使用回数などの使用条件によっては耐火物組織の安定性を確保することが困難となり,むしろ耐用性を低下させることにもなる。
【0030】
本発明のプレート耐火物において前述の各成分以外の残部は,コランダムとしてのAl成分を主体とする。これは,コランダムとしてのAlの融点が2060℃と耐熱性に優れ,FeO等の外来成分に対して耐食性が優れているからである。また残部にはAl成分のほか,酸化防止を目的として,少量のSiC,BC,Al等の炭化物成分やSi,BN,AlN等の窒化物成分,金属Si,Al合金中のMg等の金属成分等を含有することができる。これらも酸化や変質等で耐火物組織の緻密性や耐食性等を劣化させることもあるので,総量で7.0質量%以下程度であることが好ましい。
【0031】
本発明のプレート耐火物では,前述のように成分を特定することとともに,組織の緻密性が重要な要素である。特に,高温度側であって外来成分の影響を受け易く,また還元反応等の変質の程度が大きい摺動面側,特に稼働面となる部分の組織が緻密であることが重要である。この緻密性は,摺動面となる面を含み当該摺動面となる面に対して垂直方向の通気率と見掛け気孔率で評価ないしは特定することができる。すなわち本発明のプレート耐火物は,摺動面となる面を含み当該摺動面となる面に対して垂直方向の通気率が40×10-17以下,見掛け気孔率が11.0%以下であることが必要である。この通気率が40×10-17を超える場合,又は見掛け気孔率が11.0%を超える場合は,耐火物内部からの分解ガスが移動し易くなり,さらに外来成分の浸潤も進行し易くなり,耐火物組織の劣化や摺動面の損傷(面荒れ)が大きくなる。ただし,耐火物組織が過度に緻密化すると,弾性率の上昇を招き,耐熱衝撃性が低下する虞があるので,通気率の下限値は5×10-17,見掛け気孔率の下限値は8.0%であることが好ましい。
【0032】
また本発明のプレート耐火物は,1000℃非酸化雰囲気中での熱膨張率が0.5%以上0.6%以下であることが好ましい。プレート耐火物では内孔を高温の溶鋼が通過することから耐熱衝撃性が要求される。特にスライディングノズル装置内にセットされ,抑え金物などによる拘束条件下で使用される場合には,鋳造時に発生する熱応力を低減するために,プレート耐火物の熱膨張率を低減することが重要である。一般にプレートの形状が大きくなるほど,熱応力による破壊傾向が強くなるが,これまでのほぼ最大形状のプレートでの経験から,1000℃での熱膨張率が0.6%程度以下であれば,顕著な破壊は免れる。一方で,鋳造中のプレート耐火物の熱膨張量が小さすぎると,プレートの周囲方向のメタル製バンドによる拘束力が低下し,メタル製バンドの熱膨張量よりも小さい場合は拘束力が無くなる。するとプレート耐火物に亀裂が発生し易くなる,亀裂が拡大し易くなる,鋳造後のプレートを取り外す際にメタル製バンドが大きくずれ解体作業が困難になる等の問題を生じ易くなる。このようなことから1000℃での熱膨張率は0.5%程度以上であることが好ましい。
【0033】
また本発明のプレート耐火物は,室温での曲げ強さが15MPa以上40MPa以下であることが好ましい。プレートはスライディングノズル装置内にセットされ,厚さ方向には面圧による拘束を,周囲からは抑え金物などによる拘束を受ける。このように拘束されるプレート耐火物の機械的強度が低い場合は,拘束力によって破壊を生じてしまう。プレート耐火物の室温での曲げ強さが15MPa未満の場合は,スライディングノズル装置内へのセットないし固定時又は面圧負荷時に亀裂を生じやすいことを,本発明者らは経験上知見している。したがって室温での曲げ強さは15MPa以上であることが好ましい。一方で,常温の曲げ強さが高くなると弾性率も高くなり,耐熱衝撃性を低下させる要因となる。室温での曲げ強さが45MPaを超えると弾性率が過度に高くなり易く,熱衝撃による亀裂を生じ易くなることを,本発明者らは経験上知見している。よって,室温での曲げ強さは15MPa以上45MPa以下であることが好ましい。
【0034】
次に,本発明のプレート耐火物の製造方法について説明する。
【0035】
一般的にプレート耐火物は,次の工程を含む製造方法により製造することができる。
(a)プレート耐火物の各成分源となる原料を所定量配合し混和して原料配合物を得る。
(b)この原料配合物に,熱処理後に炭素結合を生じ,かつ成形時の坏土の湿潤状態の調整剤としても使用可能な樹脂,さらには必要に応じて溶剤等を添加し混練して坏土を得る。
(c)この坏土を任意の方法,圧力で加圧し成形して成形体を得る。
(d)この成形体を乾燥し非酸化雰囲気中で熱処理(焼成)する。
(e)必要に応じて,研磨,メタルバンドを巻く等の加工を行う。
【0036】
このような一般的なプレート耐火物の製造方法において本発明のプレート耐火物の製造方法は,坏土中の金属Al成分の含有量が2.0質量%以上10.0質量%以下となるように調整し,この坏土を成形し,非酸化雰囲気中で1000℃以上の温度で熱処理をして,耐火物中の金属Al成分の含有量が1.0質量%以下(ゼロを含む)となるようにすることを特徴とする。
【0037】
坏土中の金属Al成分の含有量が2.0質量%未満の場合は,熱処理後に緻密化した組織を得ることができない。言い換えれば,金属Al成分を2.0質量%以上含有する坏土の成形体を,非酸化雰囲気中で1000℃以上の温度で熱処理すると,成形体内の金属Al成分が他の諸成分と反応してAlN,Al,AlOC,AlC,Al等の生成物を生成し,この反応物生成に伴う体積膨張により組織が緻密化する。金属Al成分源(原料)としての金属Alの形状は,アトマイズ状の粒子やフレーク状の粒子,ファイバー等とすることができる。また,金属Al単体の他に,Al-Si,Al-Mg等の合金として使用することも可能である。
【0038】
一方,坏土中の金属Al成分の含有量が10.0質量%を超える場合は,熱処理後の耐火物(製品としてのプレート耐火物)中の金属Al成分量が1.0質量%を超える可能性が高くなる。なお,坏土中の金属Al成分の含有量が2.0質量%以上10.0質量%以下であっても,熱処理条件や,金属Al成分源(原料)としての金属Al又はAl合金の形態等によっては,熱処理後の耐火物中には金属Al成分が残存しないこともある。そのような場合を含め,本発明では熱処理後の耐火物中の金属Al成分の含有量が1.0質量%以下(ゼロを含む)となるようにする。
【0039】
また,金属Alの融点は660℃であるが,例えば金属Alの形態が粒子表層を酸化皮膜で覆われたアトマイズ粒子や形状が比較的大きいファイバー形状の場合は,熱処理温度が金属Alの融点以上の温度であっても,1000℃未満の場合は金属Al成分が多く残存することがある。よって,1000℃以上の高温で焼成し,金属Al成分を他の諸成分と十分に反応させることが,組織を緻密化するためには必要である。
【0040】
また,熱処理は非酸化雰囲気中で行う必要があるが,非酸化雰囲気中の熱処理としては,窒素雰囲気やアルゴン雰囲気,コークスに埋め込んで熱処理するCO雰囲気の他,SiC製の容器やSUS等の金属製の容器内部に成形体を配置して,容器外部からバーナーなどで加熱する,簡易的なCO雰囲気で熱処理することも可能である。これに対して,大気雰囲気等,酸化雰囲気中で熱処理をすると,成形体の炭素が酸化されてしまうだけでなく,AlN,Al,AlOC,AlC等が生成されず,組織を緻密化することができない。
【0041】
本発明において,稼動面となる面を含み当該摺動面となる面に対して垂直方向の通気率を40×10-17以下にするためには,前述のように諸原料等の構成,特に,金属Alの形態,量,さらには熱処理条件等を調整すればよい。熱処理条件においては,非酸化雰囲気中で1000℃以上の温度(例えば酸素濃度が100ppm以下の窒素雰囲気下で1200℃以上の温度)で焼成するが,その際の温度領域ごとの酸素濃度,窒素やCOの分圧等を微調整する等の方法も有効である。
さらに,例えばAlC含有原料については,好ましくはアーク溶融法で製造されたAlC含有原料を使用する等,各原料はできる限り緻密なものを選定し,オイルプレス又はフリクションプレスで,100MPa以上の圧力で成形する等の方法を採ることができる。
また,坏土の,特に微粉域の粒度構成を密な充填傾向になるように,例えば微粉域を小径化する,大・中・小各粒度域の構成割合を調整する,成形時に加える圧力を高める,絞め回数を増やす,加圧時の速度等を調整する等の方法によっても,前述の通気率に合致させることができる。
見掛け気孔率の調整もこれら手法と同様である。
なお,見掛け気孔率だけでは組織の緻密性を正確に把握・表現できない側面もあるので,通気率との総合的な評価によって緻密性を判断する必要がある。
【0042】
なお,金属Al成分の含有量が2.0質量%以上10.0質量%以下となるように調整した成形体を,熱処理後に耐火物中の金属Al成分の含有量を1.0質量%以下(ゼロを含む)となるようにするための具体的な方法としては.前述のそれぞれの方法ごとに,例えば,温度,酸素分圧等のガス成分,ガスの供給速度等を最適に調整する等が挙げられる。
【0043】
前述のとおりプレート耐火物の製造においては,組織の緻密化等を目的に,タール,ピッチ又は熱硬化性樹脂を含浸することが一般的に行われているが,本発明のプレート耐火物の製造方法においては,タール,ピッチ又は熱硬化性樹脂を含浸する工程を必ずしも必要としない。
【0044】
タール,ピッチ,熱硬化性樹脂はいずれも最終的には炭素を残留する。このうち熱硬化性樹脂は,リジッドな非晶質で連続的な炭素の組織を形成し,強度向上効果はあるものの,耐熱衝撃性の低下を惹き起こし易い。一方,タールとピッチは室温では固形で数十℃~百数十℃の熱間で軟化して液体となり,高温で熱処理した場合の炭化率が高く,熱処理後は結晶質の炭素となる。よって,タール又はピッチを所定の温度条件下でプレート耐火物に含浸すると,通気率や見掛け気孔率を大きく低下させる緻密化効果があり,炭化後も緻密性を維持し,結晶質のソフトカーボンとなることから弾性率の上昇を抑え,耐熱衝撃性を低下させる弊害が少ない。しかしながら,タール,ピッチ又は熱硬化性樹脂を含浸すると,いずれも耐火物組織中の空隙を埋めるように炭素が存在することとなるから,耐火物中のフリーの炭素成分量が高くなってAl粒等の酸化物原料の周囲に炭素が多く存在することとなり,長時間の鋳造条件ではでAl粒やZrO,mulliteなどの酸化物原料をいわば高い効率で還元することとなる。よって,稼動面近傍でこれらの酸化物原料等の消失又は変質による脆化層をよりいっそう形成し易くなり,摺動面の損傷をより促進する要因となり易い。したがって,本発明のプレート耐火物の製造方法では,タール,ピッチ又は熱硬化性樹脂などを含浸しないことが好ましい。
【実施例
【0045】
表1に本発明の実施例及び比較例を示す。表1の各例では,それぞれ所定の原料構成,粒度構成となるように原料を秤量,混和した後に,有機系バインダーを加え混練して得た坏土を,所定の成形条件でプレート形状に一軸成形した。この成形体を所定の温度,雰囲気で熱処理を行ってプレート耐火物を作製し,かさ比重,見掛け気孔率,通気率,曲げ強さ,弾性率及び熱膨張率について評価を行うとともに,化学成分の評価として,AlC成分,Al成分,SiO成分及びフリーの炭素について定量化を行った。また,高周波誘導炉を用いて溶鋼との反応試験及び溶銑との反応試験を行い,脆化層形成の評価を行った。さらに,同じく高周波誘導炉を用いて耐熱衝撃性の評価を行った。これら評価の方法は以下のとおりである。
【0046】
かさ比重及び見掛け気孔率はJIS-R2205に準じて測定した。かさ比重及び見掛け気孔率測定用のサンプルは,プレート耐火物の摺動面となる面を含みかつ当該摺動面となる面に対して垂直の方向に40mm×40mm×40mmの形状に切り出したものを使用した。なお,プレート耐火物の形状が小さい場合は,同様に30mm×30mm×30mmの形状に切り出したサンプルを評価することができる。
【0047】
通気率はJIS-R2115:2008に準じて測定した。通気率測定用のサンプルは,プレート耐火物の摺動面となる面を含むφ50mmの大きさで,その摺動面となる面に対して垂直の方向に20mmの厚さの形状に切り出したものを使用した。このサンプルの,前記摺動面となる面と前記20mmの厚さ側の面とは平行とした。そしてこのサンプルの,前記摺動面となる面に対して垂直方向の通気率を測定した。
【0048】
曲げ強さは20mm×20mm×80mmの形状に切り出したサンプルを用いて,JIS-R2213(1995)に準じて測定した。
【0049】
弾性率は超音波法により測定した。具体的には20mm×20mm×80mmの形状に切り出したサンプルの両端に端子をあて音速を測定し,JIS-R2205に準じて測定したかさ比重との関係式を計算し弾性率を算出した。
【0050】
熱膨張率はJIS-R2207-1に記載された非接触法により,窒素雰囲気下で1000℃まで測定を行った。
【0051】
化学成分のうちAlC成分,Al成分及び金属Al成分については,X線回折を用いてリードベルト法により定量化を行った。標準サンプルがあれば,同じくX線回折法による内部標準法で定量化を行うこともできる。通常の蛍光X線や湿式法による分析では,AlCとAlを分離して定量化することは非常に困難であることから,X線回折法による定量化を行うことが好ましい。同じく,金属Al成分の定量化に関しても,AlC成分を含有する場合は,湿式法により原子吸光やICPなどで分析すると,分離して定量化することは現実的に不可能であり,X線回折法による定量化を行うことが望ましい。
SiO成分については,JIS-R2216による蛍光X線回折法により定量化を行った
フリーの炭素成分(表1では「F.C.」と表記)については,JIS-R2011に規定の方法に準拠して定量化を行った。
【0052】
脆化層形成の評価は,前述のとおり高周波誘導炉を用いた溶鋼との反応試験及び溶銑との反応試験により行った。
具体的にはプレート耐火物の摺動面となる面が高周波誘導炉の炉内面になるように高周波誘導炉に内張りし,溶鋼又は溶銑との反応試験により形成された脆化層を評価した。
溶鋼中の酸素によるプレート摺動面の脆化層(溶鋼に関しては酸化,脱炭が主要因である)の評価方法としては,溶鋼としてSS400を用いて試験中のフリー酸素濃度が30~50ppmの範囲になるようにSi及びカーボンを添加して調整した。
耐火物内部の還元反応を主とする脆化層形成の評価方法としては,鋼中に殆ど酸素を含有しない,炭素含有量が約4質量%の溶銑を用い,評価中の酸素濃度が安定して5ppm以下となることを確認した。
反応試験は,それぞれ1600℃で3時間行った。反応試験後,高周波誘導炉の内張りを解体し,前記プレート耐火物の摺動面となる面(高周波誘導炉の炉内面)に形成された脆化層の厚みを測定した。表1では,実施例1の脆化層の厚みを100とする指数で表記した。この指数が小さいほど脆化層の厚みが小さく,耐面荒れ性に優れているということである。なお,前述の溶銑との反応試験は,前記非特許文献2に記載されているように,Alキルド鋼等の溶鋼中のフリー酸素濃度が低い鋼を受鋼する場合の摺動面の組織を良く再現できる試験である。
【0053】
耐熱衝撃性は,高周波誘導炉内の前記溶銑中にサンプルを浸漬し,冷却後のサンプルの亀裂の程度を評価する所謂,浸漬熱衝撃試験により評価を行った。具体的にはプレート耐火物から40mm×40mm×180mmのサンプルを切り出し,これを1600℃の溶銑に3分間浸漬した後に30分空冷する一連の試験を3回繰り返し,試験後のサンプルの亀裂の程度を観察した。
【0054】
また,一部の実施例及び比較例は実機テスト(実操業)に供した。実機テストでは高酸素含有鋼(溶鋼中のフリー酸素濃度が30ppm超の鋼)と低酸素含有鋼(溶鋼中のフリー酸素濃度が30ppm以下の鋼)の2種類の鋼を受鋼し,プレート耐火物の損傷状態等から総合的に,○(優),△(良),×(不良)の3段階で評価した。
【0055】
【表1】
【0056】
表1中,実施例1~3は,AlC成分の含有量が15.0~45.0質量%,SiO成分の含有量が2.0質量%,フリーの炭素成分の含有量が3.0質量%,金属Al成分の含有量が1.0質量%以下と,いずれも本発明の範囲内であり,見掛け気孔率,通気率,曲げ強さ,熱膨張率などの特性も本発明の範囲内である。よって,溶鋼,溶銑との反応試験結果も脆化層の形成が軽微であり,耐熱衝撃性の評価も良好であった。この実施例1~3の材質を実機でテストした結果,良好な耐用性を得た。
これに対して比較例1はAlC成分の含有量が13.0質量%と少なく,熱膨張率の低減効果が小さいことから,耐熱衝撃性の評価結果は亀裂が大きく,良好な耐用性を期待できない。また比較例2はAlC成分の含有量が48.0質量%と多いことから,熱膨張率が著しく低くなり,実使用後プレートをスライディングノズル装置から取り外す際に,プレートの外周に焼き嵌めしたバンド(HB)がずれ,解体性が悪く,亀裂も拡大し,再生使用することが困難となり不良であった。
【0057】
実施例4,実施例5はフリーの炭素成分の含有量が,それぞれ2.0質量%,4.5質量%,また,AlC成分の含有量が30.0質量%,SiO成分の含有量が2.0質量%,金属Al成分の含有量が1.0質量%以下と,本発明の範囲内であり,見掛け気孔率,通気率,曲げ強さ,熱膨張率などの特性も本発明の範囲内である。よって,溶鋼,溶銑との反応試験結果も脆化層の形成が軽微であり,耐熱衝撃性の評価も良好であった。
これに対して比較例3はフリーの炭素成分の含有量が1.0質量%と少ないことから,弾性率が高くなり,耐熱衝撃性の評価結果が劣ることから,実機においても良好な耐用性を得ることは期待できない。また比較例4はフリーの炭素成分が5.0質量%と多いことから,溶鋼,溶銑との反応試験結果では脆化層の形成が厚く,実機においても良好な耐用性を得ることは期待できない。
【0058】
実施例6,実施例7は,SiO成分の含有量がそれぞれ0.5質量%,4.0質量%,また,AlC成分の含有量が30.0質量%,フリーの炭素成分の含有量が3.0質量%,金属Al成分の含有量が1.0質量%以下と,本発明の範囲内であり,見掛け気孔率,通気率,曲げ強さ,熱膨張率などの特性も本発明の範囲内である。よって,溶鋼,溶銑との反応試験結果も脆化層の形成が軽微であり,耐熱衝撃性の評価も良好であった。
これに対して比較例5はSiO成分を含有しないことから,実使用後に回収し再生使用するために加工する際及び加工後に消化し,再生することができなかった。また比較例6はSiO成分の含有量が4.5質量%と多いことから,溶銑との反応試験で脆化層の形成が顕著であった。
【0059】
実施例8,実施例9は,AlC成分の含有量が30.0質量%,SiO成分の含有量が2.0質量%,フリーの炭素成分の含有量が3.0質量%,金属Al成分の含有量が1.0質量%以下と,本発明の範囲内であり,見掛け気孔率,通気率,曲げ強さ,熱膨張率などの特性も本発明の範囲内である。ただし,実施例8,実施例9は高圧成形により作製したため,実施例8では見掛け気孔率が7.8%と低く,実施例9では見掛け気孔率が7.0%,通気率が8×10-17と低く,いずれも弾性率が高くなっている。よって,溶鋼,溶銑との反応試験結果では脆化層の形成は極軽微であるが,耐熱衝撃性がやや低下する傾向にあった。また実機テストでも,摺動面の損傷は軽微であったが,ノズル孔からの放射状亀裂がやや大きい傾向にあった。しかし,総合的には比較の従来品よりも良好な結果を得た。
【0060】
実施例10は,熱処理温度が1000℃,AlC成分の含有量が30.0質量%,SiO成分の含有量が2.0質量%,フリーの炭素成分の含有量が2.0質量%,金属Al成分の含有量が1.0質量%以下と,本発明の範囲内であり,見掛け気孔率,通気率,曲げ強さ,熱膨張率などの特性も本発明の範囲内である。よって,溶鋼,溶銑との反応試験結果も脆化層の形成が軽微であり,耐熱衝撃性の評価も良好であった。
これに対して比較例7は,焼成温度が900℃と低いため,高圧成形を行ったにもかかわらず熱処理中の金属Alの反応が少なく緻密化が不十分で,金属Al成分の含有量が1.0質量%超であった。よって,溶鋼,溶銑との反応試験結果も脆化層の形成が顕著であり,実機テストでも顕著な面荒れが生じ良好な耐用性は得られなかった。
【0061】
比較例8は,プレート耐火物の成形時の成形圧力を調整し,かさ密度を低く設定したものである。このため比較例8は,焼成温度が1200℃,AlC成分の含有量が30.0質量%,SiO成分の含有量が2.0質量%,フリーの炭素成分の含有量が2.0質量%,金属Al成分の含有量が1.0質量%以下と,これらは本発明の範囲内であるが,見掛け気孔率が12.1%,通気率が43×10-17と緻密さが不足しており曲げ強さも14MPaと低い。よって,溶鋼,溶銑との反応試験結果も脆化層の形成が顕著であり,実機で良好な耐用性を期待することはできない。また,強度不足のため実機テストでは,通常の熱応力で生じる放射状亀裂等と異なる特異な亀裂を発生し,耐用性が低下した。
【0062】
実施例11はピッチ含浸を行ったもので,本発明の範囲内であるがフリーの炭素成分の含有量が多くなり,しかも耐火物組織中に炭素成分が均一に存在することから,溶銑との反応試験では,耐火物組織中の還元反応が進行し,やや脆化層の形成が厚い傾向にあった。ただし,溶鋼との反応試験では脆化層の形成は軽微であった。実機テストでは,高酸素含有鋼では摺動面の損傷は軽微であったが,低酸素含有鋼を受鋼すると摺動面の損傷がやや大きくなる傾向にあった。しかし,総合的には比較の従来品よりも良好な結果を得た。