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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】押込み試験装置及び押込み試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/40 20060101AFI20220207BHJP
【FI】
G01N3/40 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018013281
(22)【出願日】2018-01-30
(65)【公開番号】P2019132630
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】390041346
【氏名又は名称】新光電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100918
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 公治
(72)【発明者】
【氏名】岡本 光平
(72)【発明者】
【氏名】安原 一良
【審査官】瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/164426(WO,A2)
【文献】実開昭60-154839(JP,U)
【文献】国際公開第2010/082356(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0174036(US,A1)
【文献】特開2017-203668(JP,A)
【文献】特開2014-038089(JP,A)
【文献】特開2001-046344(JP,A)
【文献】特開2007-020987(JP,A)
【文献】特開2009-153727(JP,A)
【文献】特開2005-201803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/40- 3/54
A61B 5/00- 5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に押し込まれる圧子と、前記圧子が、少なくとも一部が端部から突出する状態で配置される筐体と、前記圧子を前記被検体に押し込むように前記筐体が操作されたとき、前記圧子に後れて前記被検体に当接する、前記端部に設けられた複数の接触検知センサと、を有し、前記操作に伴い、前記複数の接触検知センサが前記被検体に当接した時点の前記圧子に作用する力が力センサで検出され、前記力センサの検出結果に基づいて前記被検体の柔らかさが算出される押込み試験装置であって、
前記複数の接触検知センサは、前記圧子を中心とする円周を略等距離に分周する位置に配置され、
前記複数の接触検知センサの各々が前記被検体との接触を検知するごとに、その検知時点の前記力センサの検出値を用いて前記被検体の柔らかさの値が算出され、前記複数の接触検知センサの全てが前記被検体との接触を検知した後、得られた複数の前記値が平均化される押込み試験装置。
【請求項2】
被検体に押し込まれる圧子と、前記圧子が、少なくとも一部が端部から突出する状態で配置される筐体と、前記圧子を前記被検体に押し込むように前記筐体が操作されたとき、前記圧子に後れて前記被検体に当接する複数の接触検知センサと、を有する押込み試験装置により前記被検体の柔らかさを測定する押込み試験方法であって、
前記複数の接触検知センサの各々が前記被検体との接触を検知するごとに、前記圧子に作用する押込荷重を検出し、該押込荷重を用いて前記被検体のヤング率を算出する個別ヤング率算出ステップと、
前記複数の接触検知センサの全てが前記被検体との接触を検知した後、前記個別ヤング率算出ステップで得られた複数のヤング率の値を平均化する平均化ステップと、
を備える押込み試験方法。
【請求項3】
被検体に押し込まれる圧子と、前記圧子が、少なくとも一部が端部から突出する状態で配置される筐体と、前記圧子を前記被検体に押し込むように前記筐体が操作されたとき、前記圧子に後れて前記被検体に当接する複数の接触検知センサと、を有する押込み試験装置により前記被検体の柔らかさを測定する押込み試験方法であって、
前記押込み試験装置の前記被検体への押込み速度と、前記複数の接触検知センサが前記被検体との接触を検知した時刻の時間差とを用いて、前記被検体に対する前記押込み試験装置の押込み方向の傾きを算出する傾き算出ステップと、
前記傾きを用いて、最初の前記接触検知センサが前記被検体に接触したときの前記圧子の押込み量を算出する押込み量算出ステップと、
前記最初の接触検知センサが前記被検体に接触したときに前記圧子に作用する押込荷重と、前記押込み量算出ステップで算出した前記押込み量とを用いて前記被検体のヤング率を算出するヤング率算出ステップと、
を備える押込み試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒲鉾・ハム等の食品やヒトの柔軟な組織などに圧子を押込み、それらの柔らかさを計測する押込み試験装置と、その押込み試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、柔軟な食品や人体組織などを被検体として、その柔らかさを計測する押込み試験装置が開示されている。
この装置は、図11に示すように、被検体に押込まれる圧子10と、圧子10を被検体に押込んだ時に圧子10に作用する力を検出する力センサ30と、被検体の柔らかさを評価するヤング率を、圧子10に作用する力に基づいて算出する演算部40と、それらが内部に配置される筐体20とを備えている。
圧子10は、先端の半球部分の一定量が筐体20の端部21から突出するように筐体内に配置されている。
【0003】
この装置を操作する操作者は、筐体20部分を把持して、筐体20の端部21が被検体に当接するまで圧子10を被検体に押込む。
このとき、筐体20の端部21が被検体に当接したときに力センサ30で検出された力(押込荷重)をF、筐体20の端部21から突出する圧子10の突出量(即ち、被検体に押込まれる圧子10の押込量)をδ、圧子10の半球面の直径をφ、被検体のヤング率をE、被検体に固有のポアソン比をνとすると、これらの間には(数1)で表される関係が存在する。
【数1】
この(数1)を用いて、力センサ30で検出された押込荷重Fから被検体のヤング率Eを求めることができる。
【0004】
この押込み試験装置は、被検体の柔らかさを、被検体が本来あるべき場所で測定すること(いわゆる“その場測定”)が可能であり、幅広い方面での利用が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2017/164426
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この押込み試験装置では、圧子10を被検体に押込む際に、その初期段階では、被検体に接触するのが筐体20から突出する圧子10のみであるため、筐体20を被検体の面に対して垂直な方向に押し進めることが難しい。
圧子10を被検体に押込むときの筐体20の進行方向が被検体面の垂直方向から傾いている場合、次のような事態が発生する。
【0007】
図12(a)は、圧子10が被検体の面に対して傾いていない状態を示し、図12(b)は、圧子10が被検体の面に対してθだけ傾いている状態を示している。
図12(a)の場合に力センサ30で検出される荷重をFとすると、図12(b)の場合に力センサ30で検出されるFの分力F’は、
(数2) F’=Fcosθ
となる。θの絶対値が5°以下であれば、FとF’との誤差は0.4%以下であり、実際上、問題にならない。
【0008】
しかし、この押込み試験装置では、圧子10が被検体の面に対して傾いていると、FとF’との誤差だけでなく、筐体20の端部21が被検体に当接したときの圧子10の押込量が違ってくる。
図12(c)に示すように、圧子10が被検体の面に対して傾いていないとき、筐体20の端部21が被検体に当接するまでに押込まれる圧子10の押込量をδとする。なお、rは、円環状の端部21の外径における半径である。
圧子10が被検体の面に対しθだけ傾いている場合、図12(d)に示すように、筐体20の端部21が被検体に当接したときの圧子10の押込量δ’は、
(数3) δ’=δ‐rsinθ
となる。
そのため、(数1)において、F及びδがF’及びδ’に代わるため、ヤング率Eの誤差が大きくなる。
なお、図12(d)のyは、筐体20の端部21の一部が被検体に接触したときの、その接触位置と対称の端部位置における被検体との距離を示している。
【0009】
図13は、θに相当する角度を横軸に、また、ヤング率Eの誤差を縦軸に取り、圧子10の傾きとヤング率Eの誤差との関係を示している。ヤング率Eの誤差を1%以下とするためには、圧子10の傾きを0.2°以内に維持する必要があることが分かる。
また、図14のグラフは、A、B、C、Dの4名が従来の押込み試験装置を用いて同一の被検体の柔らかさを測定した結果を示している。横軸は測定時の筐体の傾き(θに相当する角度)を示し、縦軸は算出されたヤング率を示している。図14から明らかなように、押込み試験装置を操作する操作者により測定結果がバラついている。
【0010】
本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、誰でも精確に被検体の柔らかさが測定できる押込み試験装置及び押込み試験方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、被検体に押し込まれる圧子と、前記圧子が、少なくとも一部が端部から突出する状態で配置される筐体と、前記圧子を被検体に押し込むように前記筐体が操作されたとき、前記圧子に後れて被検体に当接する当接部と、を有し、前記操作に伴い、前記当接部が被検体に当接した時点の前記圧子に作用する力が力センサで検出され、力センサの検出結果に基づいて被検体の柔らかさが算出される押込み試験装置であって、圧子の被検体への押込み方向が被検体の面に対して垂直方向となるように支援する押込み支援手段を備えている。
この装置は、誰が操作する場合も、押込み方向が被検体の面に対して垂直になるため、被検体の柔らかさが精確に測定できる。
【0012】
また、本発明の押込み試験装置では、前記押込み支援手段として、被検体の面に垂直な方向に前記筐体の動きを誘導するガイド孔が形成された外筒部と、前記外筒部の一端に設けられた、前記外筒部の外径よりも大きい外径の大径部と、を備えるガイド部材を有し、前記ガイド部材の一端の前記大径部が被検体の測定面上に配置され、前記ガイド部材の他端に開口するガイド孔から、圧子側を被検体に向けた前記筐体が挿入される。
この装置では、大径部を有するガイド部材が被検体の面に垂直に配置され、このガイド部材に誘導されて、筐体が被検体の面に垂直に進行する。
【0013】
また、本発明の押込み試験装置では、前記ガイド部材が、前記筐体の動きを滑らかにするスライドブッシュを備えることが好ましい。
スライドブッシュの存在により、直線移動する筐体のがたつきを除くことができ、精確な測定が可能になる。
【0014】
また、本発明の押込み試験装置は、前記押込み支援手段として、前記当接部を形成する複数の接触検知センサを有し、複数の接触検知センサは、前記圧子を中心とする円周を略等距離に分周する位置に配置されており、複数の接触検知センサの全てが被検体との接触を検知しなければ被検体の柔らかさが算出されない。
複数の接触検知センサの全てが被検体との接触を検知すれば、圧子の周囲が均等に被検体に当接していることになる。
【0015】
また、本発明の押込み試験装置では、複数の接触検知センサの各々が被検体との接触を検知するごとに、その検知時点の力センサの検出値を用いて被検体の柔らかさの値を算出し、複数の接触検知センサの全てが被検体との接触を検知した後、得られた複数の前記値を平均化するようにしても良い。
圧子の押込み方向が被検体の面の垂直方向から多少ずれていても、平均値を取ることで、被検体の柔らかさが高精度に算出できる。
【0016】
また、本発明の押込み試験装置では、複数の接触検知センサを、被検体との接触時に振動状態が変化する振動体で構成しても良い。
【0017】
また、本発明は、被検体に押し込まれる圧子と、前記圧子が、少なくとも一部が端部から突出する状態で配置される筐体と、前記圧子を被検体に押し込むように前記筐体が操作されたとき、前記圧子に後れて被検体に当接する複数の接触検知センサと、を有する押込み試験装置により被検体の柔らかさを測定する押込み試験方法であって、複数の接触検知センサの各々が被検体との接触を検知するごとに、前記圧子に作用する押込荷重を検出し、該押込荷重を用いて被検体のヤング率を算出する個別ヤング率算出ステップと、複数の接触検知センサの全てが被検体との接触を検知した後、個別ヤング率算出ステップで得られた複数のヤング率の値を平均化する平均化ステップと、を備える。
この方法により、圧子の押込み方向が被検体の面の垂直方向から多少ずれている場合でも、被検体の柔らかさが高精度に算出できる。
【0018】
また、本発明の押込み試験方法では、押込み試験装置の被検体への押込み速度と、複数の接触検知センサが被検体との接触を検知した時刻の時間差とを用いて、被検体に対する押込み試験装置の押込み方向の傾きを算出する傾き算出ステップと、前記傾きを用いて、最初の接触検知センサが被検体に接触したときの圧子の押込み量を算出する押込み量算出ステップと、最初の接触検知センサが被検体に接触したときに圧子に作用する押込荷重と、押込み量算出ステップで算出した押込み量とを用いて被検体のヤング率を算出するヤング率算出ステップと、を備えるようにしても良い。
この方法により、圧子の押込み方向が被検体の面の垂直方向から傾いている場合のヤング率算出誤差が補正できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の押込み試験装置及び押込み試験方法により、被検体の柔らかさを高精度に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施形態に係る押込み試験装置を示す図
図2図1のガイド部材の分解斜視図
図3】スライドブッシュの説明図
図4図1の押込み試験装置を用いたときの測定結果を示す図
図5】ガイド部材の変形例を示す図
図6図5のガイド部材の分解斜視図
図7】本発明の第2の実施形態に係る押込み試験装置の接触検知センサを示す図
図8】ピンタイプの接触検知センサを示す図
図9】(a)押込み試験装置を一定速度で被検体に押し込んだときのヤング率の変化を示す図、(b)第2の実施形態の方式でヤング率を算出するときの傾きと誤差の関係を示す図
図10】第2の実施形態の方式でヤング率を算出するときの手順を示すフロー図
図11】従来の押込み試験装置を示す図
図12】圧子の傾きがヤング率算出に及ぼす影響を説明する図
図13】従来の押込み試験装置を用いてヤング率を算出するときの傾きと誤差の関係を示す図
図14】従来の押込み試験装置を用いたときの測定結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の押込み試験装置は、押込み試験装置の筐体部分の移動方向をガイドするガイド部材とともに使用する。
図1には、ガイド部材60と、これを使うことで被検体の面に対して垂直に押込むことが可能になる押込み試験装置50とを示している。
押込み試験装置50は、当接部を兼ねる端部21から所定量突出する圧子10が内部に配置されている筐体20と、筐体20の一部に装着された把持部51とを有している。
ガイド部材60は、図2の分解斜視図に示すように、被検体と接するように配置されるベース61と、ベース61の螺孔に一端が螺合されてベース61に固定される円筒ケース62と、円筒ケース62内に一対のワッシャ63、65に挟まれて配置されるコイルバネ64と、円筒ケース62内に下端が位置決めされて配置されるスライドブッシュ66と、押込み試験装置50の筐体20と結合されてスライドブッシュ66内を移動する円筒状のスライダ67とを備えている。
【0022】
ベース61の外径は、被検体と安定的に接することができるように、円筒ケース62の外径よりも大きく設定されている。ベース61は、特許請求の範囲で言う「大径部」を構成している。
スライドブッシュ66は、図3に示すように、貫通孔の内側に軸方向に巡回移動するボールを有しており、このボールの転がりにより貫通孔に挿通されたスライダ67の高精度な直線運動が可能になる。
ベース61の方向に直線運動するスライダ67の下端は、ワッシャ65に当接して(図1)、コイルバネ64を圧縮する。
押込み試験装置50の筐体20は、スライダ67の孔に挿通され、先端がスライダ67の孔から所定量突出する状態でスライダ67に固定される。筐体20のスライダ67からの突出量は、押込み試験装置50を被検体に向けて押込んだとき、端部21がベース61の開口の下端から突き出るように設定される。
コイルバネ64は、筐体20の端部21が被検体に接近したとき、スライダ67を介して筐体20に反発力を作用し、操作者に慎重な操作を促す働きをしている。
【0023】
この押込み試験装置50を操作する操作者は、ガイド部材60のベース61の下面が被検体の面に接するようにガイド部材60を保持する。そして、把持部51を操作し、筐体20に固定したスライダ67を、筐体20先端の端部21が被検体に当接するまで、スライドブッシュ66を介して、被検体に向けて直線運動させる。
このとき、ベース(大径部)61を有するガイド部材60は、被検体の面に対し、安定した状態で垂直に立てることができる。そして、このガイド部材60にガイドされる押込み試験装置50は、圧子10を被検体の面に対して垂直に押込むことができる。
【0024】
図4のグラフは、A、B、Dの3名がガイド部材60を用いて押込み試験装置50を操作し、同一の被検体の柔らかさを測定したときの結果を示している。横軸及び縦軸は、図14と同様である。
図14及び図4の比較から明らかなように、ガイド部材60の存在が高精度の柔らかさの測定を可能にしている。
【0025】
図5は、ガイド部材の変形例を示している。このガイド部材70は、図6の分解斜視図に示すように、押込み試験装置50の筐体20と結合されるホルダ76と、ホルダ76の下端に螺合されてホルダ76と共に移動するケース75と、ケース75の軸線方向への移動を誘導するスライダ73と、スライダ73とケース75との間を緩衝するように両者の隙間に配置されるドライブッシュ72と、ホルダ76の下端とスライダ73の上端との間に配置されるコイルバネ74と、スライダ73の一端に固定されて大径部を構成するベース71と、を備えている。
押込み試験装置50の筐体20を押込み、ホルダ76及びケース75を下方に移動させると、コイルバネ74が圧縮される。コイルバネ74の反発力に抗して筐体20を押込んだとき、筐体20の先端がベース71の孔から突出するように、筐体20はホルダ76に固定される。
このガイド部材では、スライダ73に対するケース75の直線運動が、ドライブッシュ72の存在により滑らかに行われる。
【0026】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の押込み試験装置は、図7に示すように、筐体20の端部21に複数の接触検知センサ22を備えている。この装置では、複数の接触検知センサ22が当接部を構成している。複数の接触検知センサ22は、圧子を中心とする円周を略等距離に分周する位置に配置されている。
なお、接触検知センサ22は、被検体との接触が検知できるものであれば良く、被検体との接触により電気抵抗値が変化する感圧ゴムや、被検体との接触により振動状態が変化する振動体など、各種のものが使用できる。
【0027】
振動体を接触検知センサとする場合は、複数の圧電体を図7の接触検知センサ22の位置に配置して、各圧電体に共振周波数の交流電圧を印加し、各圧電体に共振振動を行わせる。圧電体が被検体に接触すると、圧電体の振動が止まり、あるいは、振幅が小さくなるので、被検体との接触が検知できる。
また、図8は、被検体との接触により、印加されている電気信号の周波数特性が変化するピンタイプの接触検知センサ221が圧子10を囲んで配置された装置を示している。
【0028】
第2の実施形態の押込み試験装置では、複数の接触検知センサ22が全て被検体に接触したことを検知しなければ、被検体の柔らかさの検出が行われない。そうすることで、圧子の周囲が均等に被検体に接触し、被検体面の垂直方向に圧子の押込み方向が維持された状態での柔らかさの検出が担保できる。
【0029】
図9(a)は、二つのピンタイプの接触検知センサを備える押込み試験装置を用いて、装置の先端を一定速度で被検体に押込みながら被検体のヤング率の推移を測定した結果について示している。図9(a)の横軸は時間であり、縦軸はヤング率である。
図9(a)のA点は、接触検知センサの一方が被検体に接触したときのヤング率の大きさを示し、図9(a)のB点は、接触検知センサの他方が被検体に接触したときのヤング率の大きさを示している。ここでは、被検体の面に対して押込み試験装置が多少傾いているため、二つの接触検知センサが被検体に接触した時点は一致していない。
A点に至るまでの時間帯は、接触検知センサのいずれもが被検体に接触しておらず、圧子のみが被検体に押込まれることでヤング率が増加している。
A点とB点との間の時間帯は、接触検知センサの一方と圧子とが被検体に押込まれることでヤング率が増加している。また、B点からヤング率のピークまでの時間帯は、二つの接触検知センサと圧子とが被検体に押込まれることでヤング率が増加している。
ピーク以降は、押込み力が解除されてヤング率が減少している。
【0030】
この場合、被検体の面に対して押込み試験装置が傾いておらず、二つの接触検知センサが同時に被検体に接触したときのヤング率は、A点のヤング率とB点のヤング率との平均値として算出することができる。
このように、複数の接触検知センサの各々が被検体に接触したときに力センサで検出された押込み荷重を用いてヤング率を算出し、それらのヤング率を平均化して被検体のヤング率とする方式を採る場合は、図12(d)に示すように、圧子の押込み方向が被検体の面に対して多少傾いていても、精度の高いヤング率の算出が可能になる。
【0031】
図9(b)は、この方式で求めた被検体のヤング率の誤差(縦軸)と、図12のθに相当する傾き(横軸)との関係を示している。傾きの大きさが2°以内であれば、ヤング率の誤差は3%以下であり、図13の特性に比べて、極めて高精度の測定結果が得られることが分かる。
【0032】
図10のフロー図は、この方式により被検体のヤング率を算出するときの手順を示している。
複数の接触検知センサの中で被検体との接触を新たに検知した接触検知センサがある場合に(ステップ1でYes)、その検知時点の押込み荷重を用いて(数1)によりヤング率を計算し、記録部に記録する(ステップ2)。この手順を全ての接触検知センサが被検体との接触を検知するまで繰り返し、全ての接触検知センサが被検体との接触を検知すると(ステップ3でYes)、記録部に記録した複数のヤング率を平均化する(ステップ4)。
【0033】
なお、ここでは、複数のヤング率の平均値を算出しているが、複数の接触検知センサの中で被検体との接触を新たに検知した接触検知センサがある毎に、その検知時点の押込み荷重を記録部に記録し、全ての接触検知センサが被検体との接触を検知した後、記録部に記録した複数の押込み荷重の平均値を求め、その平均値を用いてヤング率を算出するようにしても良い。
【0034】
また、複数の接触検知センサを備える押込み試験装置を既知の押込み速度で被検体に押し込む場合は、複数の接触検知センサの接触検知時点のズレから、被検体の面に対する押込み試験装置の傾き(図12(d)のθに相当する角度)を算出することができる。
いま、図12(d)に示すように、筐体端部の円周を二分する位置に二つの接触検知センサが配置された押込み試験装置が、一定の押込み速度Vで被検体に押し込まれ、二つの接触検知センサが被検体との接触を検知した時刻の時間差がtであったとする。
このとき、図12(d)のyに相当する距離は、
(数4) y=Vt
で表され、また、傾きθは、
(数5) θ=sin-1(y/2r)
で表される。
このθを用いて(数3)のδ’の算出が可能である。
そして、(数1)により、初めて接触検知センサが被検体との接触を検知したときに力センサが検出した押込み荷重Fと、押込み量δ’とを用いてヤング率Eを算出すれば、押込み試験装置の押込み方向が被検体の面に対して多少傾いていても、被検体の柔らかさを高精度に算出することができる。
【0035】
なお、当接部を構成する接触検知センサの数は、2以上であれば良い。
また、ここでは半球面を有する圧子を示したが、圧子の形状はこれに限定されない。円柱、円筒、立方体などであっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の押込み試験装置及び押込み試験方法は、被検体の柔らかさを高精度に測定することが可能であり、柔らかさの測定を必要とする食品分野、医療分野、素材を扱う分野など、幅広い分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
10 圧子
20 筐体
21 端部
22 接触検知センサ
30 力センサ
40 演算部
50 押込み試験装置
51 把持部
60 ガイド部材
61 ベース
62 円筒ケース
63 ワッシャ
64 コイルバネ
65 ワッシャ
66 スライドブッシュ
67 スライダ
71 ベース
72 ドライブッシュ
73 スライダ
74 コイルバネ
75 ケース
76 ホルダ
221 ピンタイプの接触検知センサ




図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14