(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】冬用タイヤの判別方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/84 20060101AFI20220207BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20220207BHJP
G01N 21/88 20060101ALI20220207BHJP
G01N 21/95 20060101ALI20220207BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
G01N21/84 Z
B60C19/00 H
G01N21/88 J
G01N21/95 Z
G06T1/00 330B
(21)【出願番号】P 2018025205
(22)【出願日】2018-02-15
【審査請求日】2021-01-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年8月19日高松国際ホテルにおいて開催された西日本高速道路エンジニアリング四国株式会社主催の平成29年度第25回業務改善・改革発表会で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年10月31日都市センターホテルにおいて開催された公益社団法人日本道路協会主催の第32回日本道路会議で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年11月21日東京ビッグサイト(東京国際展示場)東7・8ホールにおいて開催された公益財団法人高速道路調査会主催のハイウェイテクノフェア2017で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】501497264
【氏名又は名称】西日本高速道路エンジニアリング四国株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185694
【氏名又は名称】山下 隆志
(74)【代理人】
【識別番号】100071054
【氏名又は名称】木村 高久
(72)【発明者】
【氏名】松田 靖博
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和明
(72)【発明者】
【氏名】林 詳悟
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-193419(JP,A)
【文献】特開平10-320527(JP,A)
【文献】特開2009-230599(JP,A)
【文献】特開2011-037327(JP,A)
【文献】特開2013-140050(JP,A)
【文献】特開2002-228423(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0268132(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0207340(US,A1)
【文献】特開2003-121111(JP,A)
【文献】本間 光夫ほか,冬用タイヤ自動判別装置の開発と冬用タイヤ規制の運用検討について,ゆきみらい2018研究発表会,日本,2018年02月08日
【文献】冬用タイヤ自動判別技術の検討,土木学会年次学術講演会講演概要集(CD-ROM),公益社団法人土木学会,2016年08月01日
【文献】高速道路の冬季通行時におけるスタッドレスタイヤ識別に関する検討,電気学会電子・情報・システム部門大会講演論文集(CD-ROM),2015年08月26日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84-21/958
B60C 19/00
G01B 11/30
G01B 11/24
G06T 1/00
G06T 7/00
G08G 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定められた走行路を通過する車両のタイヤのトレッド面に対し、タイヤの通過領域外から、光線を斜めに照射する照射ステップと、
照射ステップで光線が照射されたタイヤのトレッド面を、照射ステップの光線とは、タイヤの通過領域を挟んで反対側から高感度撮影装置で撮影し、可視画像を生成する撮影ステップと、
撮影ステップで得られた可視画像から輝度画像(モノクロ可視画像)を生成し、生成された輝度画像を平滑化して、平滑化画像(輝度分布画像)を生成し、輝度画像から、平滑化画像を差分してムラを除去し、差分輝度画像を生成する画像処理ステップと、
画像処理ステップで得られた差分輝度画像の輝度分布からサイプの密集領域を検出し、サイプの密集が検出された差分輝度画像の撮影元となったタイヤを冬用タイヤとして判定する判定ステップと、
判定ステップによって得られた判定結果を通知する判定結果通知ステップと
、
撮影ステップの撮影領域を通過するタイヤを検出するタイヤ検出ステップと、
を含み、
このタイヤ検出ステップが、
高感度撮影装置の撮影位置と、撮影領域を通過するタイヤの位置を通過する延長領域に、撮影対象のタイヤを装着した車両の側方からタイヤに向けて背面光線を照射し、
タイヤが撮影領域を通過するとき、高感度撮影装置に受光されていた背面光線が、通過するタイヤによって遮られ、高感度撮影装置が、タイヤの影を検出した時期をタイヤが検出された時期とし、
撮影ステップが、タイヤ検出ステップでタイヤが検出された時期に撮影された画像を抽出し、これを可視画像とする
冬用タイヤの判別方法。
【請求項2】
判定結果通知ステップが、
撮影対象となったタイヤが冬用タイヤであることを示す表示と、冬用タイヤでないことを示す通知を表示すると共に、
冬用タイヤであるか否かの判定結果を、作業員に対し、音声によって報知し、冬用タイヤと判定されなかったタイヤを装着する車両の存在を知らせる
請求項
1に記載の冬用タイヤの判別方法。
【請求項3】
車両の走行路を挟んで一方の走行路外に、車両のタイヤのトレッド面に対し、走行する車両の斜め前方から光線を照射する照射手段と、
車両の走行路を挟んで他の一方の走行路外に、照射手段によって照射されたタイヤのトレッド面を、高感度撮影装置を介して撮影し、可視画像を生成する撮影手段と、
生成された可視画像から、輝度画像を生成し、生成された輝度画像を平滑化して、平滑化画像を生成し、輝度画像から平滑化画像を差分してムラを除去し、差分輝度画像を生成する画像処理手段と、
生成された差分輝度画像の輝度分布から、サイプの密集領域を検出し、サイプの密集が検出された差分輝度画像の撮影元となったタイヤを冬用タイヤとして判定する判定手段と、判定結果を通知する判定結果通知手段と
、
撮影領域を通過するタイヤを検出するタイヤ検出手段と、
を具備し、
このタイヤ検出手段が、
高感度撮影装置の撮影位置と、撮影領域を通過するタイヤの位置を通過する延長領域に、撮影対象のタイヤを装着した車両の側方からタイヤに向けて背面光線を照射する背面照明手段を具備し、
高感度撮影装置に受光されていた背面光線が、タイヤが撮影領域を通過するとき、通過するタイヤによって遮られ、高感度撮影装置が、遮られることにより生じるタイヤの影を検出した時期をタイヤが検出された時期とし、
撮影手段が、撮影手段によって得られた画像のなかから、タイヤ検出手段によってタイヤが検出された時期に撮影された画像を抽出し、これを可視画像とする
冬用タイヤの判別システム。
【請求項4】
判定結果通知手段が、
撮影対象となったタイヤが冬用タイヤであることを示す表示と、冬用タイヤでないことを示す通知を表示する画像表示手段と、
冬用タイヤであるか否かの判定結果を、作業員に音声として報知し、冬用タイヤと判別されなかったタイヤを装着する車両の接近を知らせる報知手段と
を具備する請求項
3に記載の冬用タイヤの判別システム。
【請求項5】
判別対象のタイヤを装着した車両を挟んで、一方の側に照射手段が、他の一方の側に高感度撮影装置が配置され、
判別対象のタイヤが、照射手段側のタイヤであって、照射手段は、照射手段近傍のタイヤを照射し、
高感度撮影装置が、高感度撮影装置からみて遠い側のタイヤを撮影する
請求項
3又は4に記載の冬用タイヤの判別システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のタイヤが冬用タイヤであるか否かを判別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、冬季には、積雪や路面凍結の発生に応じ、冬用タイヤ規制が実施される。
この冬用タイヤ規制がなされると、全輪冬用タイヤ装着、または、駆動輪チェーン装着をしていない車両の通行は認められない。
【0003】
例えば、高速道路、有料道路や自動車専用道では、冬用タイヤ規制が実施されると、それらの道路の入口等で、道路管理者側の確認要員が車両を停止させ、一台ずつ目視にてタイヤを確認することもある。
【0004】
この冬用タイヤの判別方法として、本願出願人は、特願2016-173834を提案した。
この従来技術は、異なる偏光方向成分の、反射光情報を取得する撮影装置、即ち、変更カメラを用いて偏光度画像を生成し、得られた偏光度画像中に含まれる反射情報からヒストグラムを生成し、ヒストグラムの分散度に応じて冬用タイヤであるか否かを判別するものである。
【0005】
この従来技術では、偏光カメラを用いることにより、冬用タイヤの判別を効率的に実施できる。
一方で、偏光カメラは高価であるため、従来技術を採用したシステムは、導入コストが嵩むという問題があった。
【0006】
また、偏光カメラは低感度であるため、判別すべきタイヤを装着した車両等の速度が速いと、取得された画像に被写体ブレが生じやすく、適正な判別を妨げる一因になるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、冬用タイヤを、低コストな機材を用い、昼夜関係なく、確実に判別できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明にかかる冬用タイヤの判別方法は、
予め定められた走行路を通過する車両のタイヤのトレッド面に対し、タイヤの通過領域外から、光線を斜めに照射する照射ステップと、
照射ステップで光線が照射されたタイヤのトレッド面を、照射ステップの光線とは、タイヤの通過領域を挟んで反対側から高感度撮影装置で撮影し、可視画像を生成する撮影ステップと、
撮影ステップで得られた可視画像から輝度画像(モノクロ可視画像)を生成し、生成された輝度画像を平滑化して、平滑化画像(輝度分布画像)を生成し、輝度画像から、平滑化画像を差分してムラを除去し、差分輝度画像を生成する画像処理ステップと、
画像処理ステップで得られた差分輝度画像の輝度分布からサイプの密集領域を検出し、サイプの密集が検出された差分輝度画像の撮影元となったタイヤを冬用タイヤとして判定する判定ステップと、
判定ステップによって得られた判定結果を通知する判定結果通知ステップと、
撮影ステップの撮影領域を通過するタイヤを検出するタイヤ検出ステップと、を含み、
このタイヤ検出ステップが、
高感度撮影装置の撮影位置と、撮影領域を通過するタイヤの位置を通過する延長領域に、撮影対象のタイヤを装着した車両の側方からタイヤに向けて背面光線を照射し、
タイヤが撮影領域を通過するとき、高感度撮影装置に受光されていた背面光線が、通過するタイヤによって遮られ、高感度撮影装置が、タイヤの影を検出した時期をタイヤが検出された時期とし、
撮影ステップが、タイヤ検出ステップでタイヤが検出された時期に撮影された画像を抽出し、これを可視画像とする
ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる冬用タイヤの判別方法は、前記の方法において、
判定結果通知ステップが、
撮影対象となったタイヤが冬用タイヤであることを示す表示と、冬用タイヤでないことを示す通知を表示すると共に、
冬用タイヤであるか否かの判定結果を、作業員に対し、音声によって報知し、冬用タイヤと判定されなかったタイヤを装着する車両の存在を知らせる
ことを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明にかかる冬用タイヤの判別システムは、
車両の走行路を挟んで一方の走行路外に、車両のタイヤのトレッド面に対し、走行する車両の斜め前方から光線を照射する照射手段と、
車両の走行路を挟んで他の一方の走行路外に、照射手段によって光線が照射されたタイヤのトレッド面を、高感度撮影装置を介して撮影し、可視画像を生成する撮影手段と、
生成された可視画像から、輝度画像を生成し、生成された輝度画像を平滑化して、平滑化画像を生成し、輝度画像から平滑化画像を差分してムラを除去し、差分輝度画像を生成する画像処理手段と、
生成された差分輝度画像の輝度分布から、サイプの密集領域を検出し、サイプの密集が検出された差分輝度画像の撮影元となったタイヤを冬用タイヤとして判定する判定手段と、
判定結果を通知する判定結果通知手段と、
撮影領域を通過するタイヤを検出するタイヤ検出手段と、
を具備し、
このタイヤ検出手段が、
高感度撮影装置の撮影位置と、撮影領域を通過するタイヤの位置を通過する延長領域に、撮影対象のタイヤを装着した車両の側方からタイヤに向けて背面光線を照射する背面照明手段を具備し、
高感度撮影装置に受光されていた背面光線が、タイヤが撮影領域を通過するとき、通過するタイヤによって遮られ、高感度撮影装置が、遮られることにより生じるタイヤの影を検出した時期をタイヤが検出された時期とし、
撮影手段が、撮影手段によって得られた画像のなかから、タイヤ検出手段によってタイヤが検出された時期に撮影された画像を抽出し、これを可視画像とする
ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる冬用タイヤの判別システムは、前記の判別システムにおいて、
判定結果通知手段が、
撮影対象となったタイヤが冬用タイヤであることを示す表示と、冬用タイヤでないことを示す通知を表示する画像表示手段と、
冬用タイヤであるか否かの判定結果を、作業員に音声として報知し、冬用タイヤと判別されなかったタイヤを装着する車両の接近を知らせる報知手段と
を具備することを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる冬用タイヤの判別システムは、前記の判別システムにおいて、
判別対象のタイヤを装着した車両を挟んで、一方の側に照射手段が、他の一方の側に高感度撮影装置が配置され、
判別対象のタイヤが、照射手段側のタイヤであって、照射手段は、照射手段近傍のタイヤを照射し、
高感度撮影装置が、高感度撮影装置からみて遠い側のタイヤを撮影する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
上記の本発明では、高感度撮影装置を介して撮影することにより、昼夜天候等の照度環境や、タイヤのトレッド面の乾燥または湿潤状態に影響を及ぼされることなく、撮影対象のタイヤが冬用タイヤであるか否かを安定して判別できる。
また、本発明では、可視画像を差分輝度画像処理することにより、タイヤのトレッド画像から、サイプの密集領域を抽出することができるようになる。
また、本発明では、システムを安価かつコンパクトに構成することができるため、設置及び撤収が容易であり、また、画像処理も単純なロジックで実行されるため、車両の通行を中断させることなく、リアルタイムで冬用タイヤを判定し、不完全なサイプしか残っていない不良冬用タイヤの装着車両や、冬用タイヤの未装着車両を用意に判別できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明にかかる冬用タイヤの判別方法の流れを示すフロー図である。
【
図2】
図2は、
図1の撮影ステップにおいて生成される可視画像の一例である。
【
図3】
図3は、
図1の画像処理ステップにおいて生成される輝度画像の一例である。
【
図4】
図4は、
図1の画像処理ステップにおいて生成される平滑化画像の一例である。
【
図5】
図5は、
図1の画像処理ステップにおいて生成される差分輝度画像の一例である。
【
図6】
図6は、
図5の判別システムによって得られた可視画像の一例である。
【
図7】
図7は、
図6の可視画像を画像処理することによって得られた差分輝度画像の一例である。
【
図8】
図8は、
図7の差分輝度画像から検出されるサイプの密集領域を示すサイプ抽出画像である。
【
図9】
図9は、
図8の矩形領域を拡大した部分拡大画像である。
【
図11】
図11は、本発明に係る冬用タイヤの判別システムにおける撮影概要を示す説明図である。
【
図12】
図12は、本発明にかかる冬用タイヤの判別システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づき、本発明を具体的に説明する。
まず、
図1から
図10に基づき、本発明にかかる冬用タイヤの判別方法について説明する。
【0021】
図1は、本発明にかかる冬用タイヤの判別方法の流れを示すフロー図、
図2は、
図1の撮影ステップにおいて生成される可視画像の一例、
図3は、
図1の画像処理ステップにおいて生成される輝度画像の一例、
図4は、
図1の画像処理ステップにおいて生成される平滑化画像の一例、
図5は、
図1の画像処理ステップにおいて生成される差分輝度画像の一例、
図6は、
図1の判定ステップにおいて判定の対象となった可視画像の一例、
図7は、
図6の可視画像から生成される差分輝度画像の一例、
図8は、
図7の差分輝度画像から生成されたサイプ抽出画像、
図9は、
図8の矩形領域の部分拡大画像、
図10は、
図1の冬用タイヤの判別方法による試験結果を示す表である。
【0022】
図1中、S01は照射ステップ、S02は撮影ステップ、S03はタイヤ検出ステップ、S04は画像処理ステップ、S05は判定ステップ、S06は判定結果通知ステップである。
【0023】
本発明にかかる冬用タイヤの判別方法では、車両の走行路に近接した位置で判別が実施される。
本発明にかかる判別方法が開始されると、まず、照射ステップS01が実行される。
【0024】
この照射ステップS01では、予め定められた走行路を通過する車両のタイヤのトレッド面に対し、タイヤの通過領域外から、光線を斜めに照射し得るよう、タイヤの通過領域に光線を照射し、タイヤの通過に備える。
そして、予め定められた範囲内をタイヤが通過したときに、タイヤのトレッド面に対し、斜めから光線を照射する。
なお、ここでいうトレッド面とは、タイヤ溝が刻まれているタイヤの外周面を示す。
【0025】
次に、照射ステップS01で光線が照射されるタイヤのトレッド面を、照射ステップS01の光線とは、タイヤの通過領域を挟んで反対側から撮影し得るよう、配置された高感度撮影装置を用い、光線が照射されたタイヤのトレッド面を撮影し、後述のタイヤ検出時期の情報に基づき、可視画像を生成する撮影ステップS02が実行される。
【0026】
この撮影ステップS02と共に、例えば、レーザ距離計を用いて、撮影ステップS02の撮影領域を通過するタイヤを検出し、タイヤ検出時期の情報を出力するタイヤ検出ステップS03が実行される。
【0027】
撮影ステップS02は、高感度撮影装置によって得られた画像の中から、タイヤ検出ステップS03で出力されたタイヤ検出時期情報に基づき、タイヤ検出時期に撮影された画像を、
図2に示されるような可視画像として抽出する。
【0028】
なお、上記の照射ステップS01、撮影ステップS02及びタイヤ検出ステップS03は、タイヤが撮影領域を横切るときに実行状態にあればよいので、各ステップの開始順序は、上記の順序に限定されず、全てが同時に開始されても、例えば撮影ステップの実行が最初に開始されてもよい。
【0029】
次に、撮影ステップS02で得られた可視画像から差分輝度画像を生成する画像処理ステップが実行される。
この画像処理ステップS04では、まず、撮影ステップS02で得られた可視画像から、
図3に示されるような輝度画像、すなわち、モノクロ可視画像を生成する。
この輝度画像では、照明が反射として写り込み、照明の当たり具合で輝度が異なり、ムラが生じることが確認できる。
【0030】
次に、生成された輝度画像を平滑化し、
図4に示されるような平滑化画像、すなわち、輝度分布画像を生成する。
なお、この輝度画像の平滑化とは、画像のフィルタ処理の一種であり、特定のピクセルを囲む複数のピクセルの輝度の平均をとって画像情報を平均化させる従来公知の技術であり、本明細書では詳細な説明は省略する。
【0031】
次に、輝度画像から、平滑化画像を差分してムラを除去し、輝度分布ムラが除去された
図5に示されるような差分輝度画像を生成する。
図3の輝度画像では、湿潤状態のトレッド面には、前記したとおり、光線の反射が写り込み、サイプの有無が明確ではない。
【0032】
一方、
図5の差分輝度画像では、差分処理により、反射の要素をノイズとして除去する、または、低減させることが確認でき、タイヤトレッドに含まれるサイプを明瞭に確認でき、判別精度を高まる。
【0033】
そこで、画像処理ステップS04で得られた差分輝度画像の輝度分布から、サイプの密集領域を検出し、サイプの密集が検出された差分輝度画像の撮影元となったタイヤを冬用タイヤとして判定する判定ステップS05が実行される。
【0034】
ここで、この判定ステップS05におけるサイプの密集領域の検出の過程で得られる画像について説明する。
この判定ステップS05では、撮影ステップS02で得られた
図6に示した可視画像から、画像処理ステップS04で得られた
図7に示した差分輝度画像に基づき、判定処理を実行する。
【0035】
具体的には、
図7の差分輝度画像に、サイプ部の輝度を強調させる画像処理を実行する。
この画像処理により、
図8に示したサイプ抽出画像が生成される。
そして、
図8のサイプ抽出画像中、タイヤのトレッド面が含まれる矩形で囲まれた領域を抽出、拡大し、
図9に示した部分拡大画像を生成する。
【0036】
この部分拡大画像中、グレー領域の内部に黒線として、サイプの密集領域を確認することができ、このサイプの密集領域を抽出、評価する。
【0037】
この評価において、サイプの密集領域が抽出されたときには、評価対象となった取得画像の撮影元となったタイヤは、冬用タイヤとして判定する。
この結果、サイプの密集領域が抽出されなかったときには、評価対象となった取得画像の撮影元となったタイヤは、冬用タイヤではない、と判定される。
【0038】
判定ステップS05により、冬用タイヤであるか否かの判定がなされた後、判定結果放置ステップS06が実行される。
この判定結果ステップS06では、作業員に対し、例えばサインボードや表示灯により、撮影対象となったタイヤが冬用タイヤであることを示すことを示す表示と、冬用タイヤでないことを示す表示をし、判定結果を直観的に目視で確認できるようにし、判定対象となったタイヤを装着した車両を特定できるようにする。
【0039】
上記の表示は、作業員に加え、判定対象の車両の運転手も視認できるよう、車両の走行路の脇に信号灯やサインボードを設置し、冬用タイヤを装着していないと判定された車両の運転手に対し、「赤信号」や「とまれ」のサインを点灯させるようにすることが推奨される。
【0040】
また、上記表示と共に、冬用タイヤではないと判定されたタイヤを装着した車両が通過するときに、作業員に対し、音声、例えば、警告音によって報知し、冬用タイヤと判定されなかったタイヤを装着する車両の存在を知らせ、対象車両に対応できるようにする。
【0041】
上記の冬タイヤの判別方法を用いた試験を実施し、その試験結果を結果を
図10に示す。
この試験では、湿潤、乾燥状態を織り交ぜ、60の試験対象に対し、判定を行った。
その結果、判別精度は、98.3%=(35+24)/60であった。
【0042】
この試験中、誤判定は、スタッドレスタイヤをノーマルタイヤと判定した1件のみであり、安全側の判定となった。
以上の結果から、上記差分輝度画像を用いた冬用タイヤの判別は、極めて有効な判別手段になることが検証できた。
【0043】
なお、上記の説明では、タイヤ検出ステップでは、レーザ距離計を用いたが、撮影領域を通過するタイヤの時期を特定できれば、レーザ距離計以外の方法を用いてもよい。
例えば、まず、高感度撮影装置の撮影位置と、撮影領域を通過するタイヤの位置を通過する延長領域に、撮影対象のタイヤを装着した車両の側方からタイヤに向けて背面光線を照射する。
次に、タイヤが撮影領域を通過するとき、高感度撮影装置に受光されていた背面光線が、通過するタイヤによって遮られ、高感度撮影装置が、タイヤの影を検出した時期をタイヤが検出された時期として特定する。
そして、撮影ステップが、タイヤ検出ステップでタイヤが検出された時期に撮影された画像を抽出し、これを可視画像とする具体例が挙げられる。
この背面光線を用いたタイヤ検出の場合、タイヤの位置の検出を、高感度撮影装置を用いて実行できるので、レーザ距離計を用いたときに発生する信号処理の遅延を考慮する必要がない、という利点がある。
【0044】
次に、
図11に基づき、本発明にかかる冬用タイヤの判別システムの設置の概要について説明する。
図11は、本発明に係る冬用タイヤの判別システムにおける撮影概要を示す説明図である。
【0045】
図中、1はタイヤ、20は照射手段、21は撮影手段、22はタイヤ検出手段、Aは進行方向、Bは照射方向、Cは撮影方向、である。
タイヤ1は、車両に装着されたタイヤのうちの1輪であり、進行方向Aに沿って進行する。
【0046】
照射手段20は、例えば、複数のメタルハライドランプからなるメタハラ照明である。
この照射手段20は、タイヤを装着した車両の走行路を挟んで一方の側の走行路外に、タイヤ1のトレッド面に対し、図示しない車両の斜め前方から、路面に近接する照射方向Bに沿って光線を照射し得るよう設けられる。
なお、この照射手段20は、車両の運転席から光源が目視できないよう、図示しない眩光防止手段を備える。
【0047】
撮影手段21は、高感度撮影装置を介して可視画像を生成するものである。
この撮影手段21の高感度撮影装置は、タイヤを装着した車両の走行路を挟んで、照射手段20が設けられる側とは反対側の走行路外に、照射手段20によって照射されたタイヤ1のトレッド面を、撮影方向Cを撮影軸として、撮影し得るよう設けられる。
【0048】
タイヤ検出手段22は、撮影手段21に近接して設けられるレーザ距離計である。
このタイヤ検出手段22のレーザ距離計は、計測方向Dを計測軸として、タイヤ1との距離を計測することにより、撮影手段21の撮影領域をタイヤ1が通過する時期を特定し、その通過時期の情報を出力する。
【0049】
次に、
図12に基づき、
図11に示した発明にかかる冬用タイヤの判別システムの構成について説明する。
図12は、本発明にかかる冬用タイヤの判別システムの構成を示すブロック図である。
【0050】
図中、20は照射手段、21は撮影手段、22はタイヤ検出手段、30は中央制御装置、31は画像処理装置、32は判定手段、33は判定結果通知手段、330は画像表示手段、331は報知手段である。
【0051】
なお、この図中、照射手段20、撮影手段21、タイヤ検出手段22は、
図11で説明したものと同一であるため、以下では重複する説明は省略する。
【0052】
図12は、冬用タイヤ判別システムの位置実施例の構成を示す。
中央制御装置30は、このシステムの動作を制御するものであり、メモリ、記憶媒体、入力手段等、このシステムの操作および動作に必要な図示しない構成要素が接続されている。
【0053】
これらの図示しない構成要素の操作や動作については、周知であるので、特段の必要がない限り、以下の説明では省略する。
また、このシステムの動作は、
図1に基づいた説明と同一であるため、
図1の説明と重複する説明については、以下では概要のみを説明する。
【0054】
中央制御装置30は、システムの各構成要素に直接または間接的に接続され、各構成要素の動作を制御することにより、冬用タイヤの判別を実行する。
この中央制御装置30は、図示しない入力手段、例えば、キーボードや操作パネル、タッチパネル等を介して、作業員やオペレータによってなされる入力操作に応じ、各種動作の制御を行う。
【0055】
照射手段20は、中央制御装置30に接続され、このシステムによる判別の実行開始の操作がなされることによって、中央制御装置30からの開始信号に従い、光線の照射を開始する。
【0056】
撮影手段21は、中央制御装置30に接続され、このシステムによる判別の実行開始の操作がなされることによって、中央制御装置30からの開始信号に従い、撮影を開始する。
この撮影手段21によって得られた画像は、撮影時期を示す情報と共に、図示しない記憶媒体に格納される。
【0057】
タイヤ検出手段22は、中央制御装置30に接続され、タイヤが検出された時期を示す情報を中央制御装置30に発信する。
撮影手段21は、中央制御装置30に接続され、図示しない記憶媒体に格納された画像から、タイヤが検出された時期を示す情報と同一、または、もっとも近接した時間の画像を抽出することにより可視画像を生成し、この可視画像は、図示しない記憶媒体に格納される。
【0058】
なお、この可視画像の生成は、ここでは撮影手段21が直接実行するが、格納された可視画像に基づき、中央制御装置30が、予め定められたプログラムに従って実行してもよい。
【0059】
画像処理手段31は、中央制御装置30に接続され、撮影手段21によって生成された可視画像から、まず、輝度画像を生成する。
次に、この画像処理装置31は、生成された輝度画像を平滑化して、平滑化画像を生成する。
次に、この画像処理装置31は、輝度画像から平滑化画像を差分してムラを除去し、差分輝度画像を生成し、生成された差分輝度画像は、図示しない記憶媒体に格納される。
【0060】
判定手段32は、中央制御装置30に接続され、生成された差分輝度画像の輝度分布から、サイプの密集領域を検出し、サイプの密集が検出された差分輝度画像の撮影元となったタイヤを冬用タイヤとして判定し、その判定結果を出力する。
【0061】
一方、サイプの密集領域が検出されたなかった場合、判定手段32は、撮影元となったタイヤを冬用タイヤでないとして判定し、その判定結果を出力する。
なお、冬用タイヤでないとする判定結果の出力は、必須ではなく、省略してもよい。
【0062】
判定結果通知手段33は、中央制御装置30に接続され、画像表示手段330と、報知手段331を具備する。
画像表示手段330は、例えば、ディスプレイ装置、表示パネル、信号機、モバイル端末であり、作業者、オペレーター、必要に応じ、車両の運転者等から確認可能に設けられる。
【0063】
報知手段331は、例えば、スピーカ、イヤホン、ヘッドセット等であり、少なくとも、判別対象の車両に近づくことが可能な作業者が聞き取ることが可能な音声や警告音を発生するよう設けられる。
【0064】
この判定結果通知手段33は、判定手段32から、冬用タイヤでないと判定されたタイヤを装着した車両が、車両の走行路近傍に予め定められた作業員の待機場所に待機する作業員に近づく旨を、画像表示手段330に表示すると共に、報知手段331から警告音等を報知することにより、作業員に通知する。
【0065】
このとき、信号機で赤信号を点灯することにより、冬用タイヤでないと判定されたタイヤを装着した車両の運転者に、車両の停止を促すようにしてもよい。
これらの通知および報知を受けた作業員は、対応する車両を停止させ、タイヤの確認を行い、必要な指導や措置をとることができる。
【0066】
反対に、冬用タイヤであると判定されたタイヤを装着した車両が作業員の待機場所に近づくときには、少なくとも作業員に対し、問題ない旨の表示、および、必要に応じて音声報知を実行し、作業員に対し、対応する車両の停止を促す通知は実行しない。
【0067】
上記の実施例では、画像処理手段31の画像処理により、雪や水しぶきの影響を排除でき、照度環境に影響されず(昼夜を問わず)タイヤトレッドとサイプの有無を確認できる。
【0068】
また、
図7の差分輝度画像に、サイプ部の輝度を強調させる画像処理を実行し、サイプ抽出画像を生成することができ、その画像中から、タイヤトレッド面が含まれる領域を自動検出できるようになるため、走行によって移動するタイヤの撮影位置のズレを自動補正し、冬用タイヤであるか否かの判別ができる。
【0069】
本発明にかかる冬用タイヤの判別システムは、例えば、冬用タイヤ規制区域内の1レーン30m程度の範囲に収まる省スペースによる運用が可能である。
本発明にかかる冬用タイヤの判別システムを導入することにより、冬用タイヤ規制区域内への進入を防止するための判別を省力化することができる。
【0070】
また、作業員や交通整理員は、判定結果をリアルタイムで確認することができるので、冬用タイヤを装着していない車両を速やかに誘導することができるようになり、例えば、滞留車両による本線渋滞の緩和を図ることができ、安全性の向上が期待できる。
【0071】
また、本システムでは、高感度撮影装置、例えば、産業用のハイビジョンカメラを用いることにより、判別対象の車両の速度を極端に遅くさせることなく、判別ができるため、円滑な交通を妨げることがない。
【0072】
また、本システムでは、サイプの密集領域の検出によって、冬用タイヤであるか否かを判定し、冬用タイヤ規制区域への進入が許されない車両を判別するので、タイヤの磨耗等により、サイプ部が消滅した車両を判別することもできるようになる。
【0073】
なお、上記の実施例では、取得された画像、各種処理された画像は、その一部が記憶媒体に記録されるが、記録される画像情報は、上記の実施例に限定されず、例えば、全てを記録するようにしても、また、記録せず、撮影手段、画像処理手段等の内部で生成等の処理を実行し、判定結果を通知するようにしてもよい。
【0074】
また、判定結果の通知は、作業員には、信号機による表示と音声の報知で行い、処理によって生成された画像や、文字情報による判定結果は、作業員とは別のオペレーター用に設けられたディスプレイ装置等に表示するようにしてもよい。
【0075】
また、本実施例は、中央制御装置、画像処理手段、判定手段、判定結果通知手段を、市販のパーソナルコンピュータやモバイル端末等の機器に含まれる機能で代用し、この機器に、照射手段、撮影手段、タイヤ検出手段、作業員用の画像表示手段、および、報知手段を外付けして構成してもよい。
【0076】
また、撮影手段によって生成される可視画像は、レーザ距離計以外のタイヤの通過を検知するセンサがタイヤを検出したタイミングで、ピンポイントで取得したり、そのタイミングに応じ、タイヤの存在が推定される一定時間のみ取得し、可視画像を生成してもよい。
【0077】
例えば、高感度撮影装置の撮影位置と、撮影領域を通過するタイヤの位置を通過する延長領域に、撮影対象のタイヤを装着した車両の側方からタイヤに向けて背面光線を照射する背面照明手段を具備し、高感度撮影装置に受光されていた背面光線が、タイヤが撮影領域を通過するとき、通過するタイヤによって遮られ、高感度撮影装置が、遮られることにより生じるタイヤの影を検出した時期をタイヤが検出された時期とし、撮影手段が、撮影手段によって得られた画像のなかから、タイヤ検出手段によってタイヤが検出された時期に撮影された画像を抽出し、これを可視画像とするようにしてもよい。
【0078】
また、上記の実施例では、照明手段から遠い側のタイヤを判別対象のタイヤとし、高感度撮影装置に近い側のタイヤを判別対象のタイヤとして撮影しているが、判別対象のタイヤを、照射手段側のタイヤとし、照射手段は、照射手段近傍のタイヤを照射し、高感度撮影装置が、高感度撮影装置からみて遠い側のタイヤを撮影するようにしてもよい。
【0079】
この場合、判別対象のタイヤが、照明手段に近接することになり、判別対象のタイヤをより明るく照らすことができ、明確な可視画像を生成できるようになる。
また、この場合、撮影位置を、判別対象のタイヤから離すことが容易になり、焦点距離を長くすることにより、撮影位置近傍の物体をピンボケにさせ、可視画像に写りにくくすることでき、降雨や降雪時の悪影響を低減させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、冬用タイヤを装着した車両としない車両の判別を、昼夜天候等の照度環境や、タイヤのトレッド面の乾燥または湿潤状態に影響を及ぼされることなく、低コストでコンパクトなシステム構成、かつ、少ない要員で円滑に、簡単かつ確実に実行でき、冬用タイヤ規制区間への不適正な車両の進入を効率的に阻止することができるようになり、道路の維持管理、保守、事故防止に非常に有用である。