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  • 特許-免震構造物 図1
  • 特許-免震構造物 図2
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  • 特許-免震構造物 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】免震構造物
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20220207BHJP
   F16F 7/10 20060101ALI20220207BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20220207BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20220207BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
E04H9/02 341C
E04H9/02 341Z
F16F7/10
F16F15/02 C
F16F15/023 Z
F16F15/04 P
F16F15/04 B
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018067786
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178532
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 宏一
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-168997(JP,A)
【文献】特開平10-311162(JP,A)
【文献】実開平02-125231(JP,U)
【文献】特開2017-003089(JP,A)
【文献】特開2010-070909(JP,A)
【文献】特公昭52-007852(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 7/10
F16F 15/02-15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震ピットと、前記免震ピットの内部空間に設けられる地下構造部と、前記地下構造部上に設けられる建物本体とを備え、
前記免震ピットの底面と前記地下構造部の下面との間の免震層に介設された免震装置によって前記地下構造部が支持され、
前記地下構造部の上面と前記建物本体の下面との間の免震層に介設された免震装置によって前記建物本体が支持され、
回転慣性質量装置が一端を前記地下構造部、他端を前記免震ピットにそれぞれ接続して設けられるとともに、変位に応じて剛性が変化する硬化型復元力装置が一端を前記地下構造部に、他端を前記免震ピットにそれぞれ接続して設けられ、
且つ、前記地下構造部と前記免震ピットの間に第1油圧ジャッキが設けられ、前記地下構造部と前記建物本体の間に第2油圧ジャッキが設けられ、
前記第1油圧ジャッキと前記第2油圧ジャッキの互いの油室が連結管で連結されて前記地下構造部と地盤の相対変位が所定の値以上になるとともに前記第1油圧ジャッキと前記第2油圧ジャッキが動作開始され、前記第1油圧ジャッキと前記第2油圧ジャッキが前記地下構造部と前記建物本体の動きを逆方向にする作用力を発現するように構成されていることを特徴とする免震構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
地震動などが作用して共振が生じると、構造物に大きな応答が発生する。このため、従来、マンションやオフィスビルなどの建物(構造物)では、建物内に制振ダンパーを設置し、この制振ダンパーで地震時に作用した地震エネルギー(振動エネルギー)を吸収・減衰させ、建物の応答を低減させるようにしている。また、このような制振ダンパーには、鋼材等の降伏耐力やすべり材の摩擦抵抗を利用した履歴系ダンパー、粘性体の粘性抵抗を利用したオイルダンパーなどの粘性系ダンパー、粘弾性体のせん断抵抗を利用した粘弾性系ダンパーが多用されている。
【0003】
また、建物の地震時応答を低減させるための他の手段として、TMD(Tuned Mass Damper)と称する制振装置を建物の頂部側(屋上など)に設置することも提案、実用化されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
また、免震装置を設置し、建物などの構造物の1次固有周期を長周期側にずらすことによって応答を低減する手法も多用されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
さらに、回転慣性質量装置や、変位に応じて剛性が変化する硬化型復元力装置(可変剛性装置)を備え、周期的な振動エネルギーの入力による共振現象を効果的に回避することを可能にしたものもある(例えば、特許文献4、特許文献5参照)。
【0006】
一方、特許文献4や特許文献5では、硬化型復元力装置と回転慣性質量装置に複雑な非線形性を想定しているが、より簡単な検討を行った例として公開論文がある(非特許文献1参照)。
【0007】
ここで、一般的な地震波形の特徴として、最初の主要動では短周期成分を多く含む大きな加速度が、その後には加速度自体は小さいものの長周期成分を多く含む波形となっていることが多い。
【0008】
例えば、図1は、2011年東北地方太平洋沖地震の東京千代田区大手町での観測記録である。最初に加速度が大きな主要動(R1)が到達し、その後に長周期成分を多く含む波が到達しているため変位成分で見ると長時間の後揺れ(R2)が確認できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2000-18323号公報
【文献】特開2011-220511号公報
【文献】特開2010-070909号公報
【文献】特開2017-3089号公報
【文献】特開2017-3090号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】渡辺宏一、「硬化型復元力特性を用いた振動制御に関する解析的研究(http://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/101951/TLA_0227.pdf)」、千葉大学学位論文、2016年1月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の特許文献4、特許文献5、非特許文献1などにおいては、a)回転慣性質量装置の付加質量効果により免震構造物をさらに長周期化して主要動の短周期成分の入力エネルギーが建物に伝わらないようにし、b)硬化型復元力装置によって後揺れ時の共振を防ぎ、c)さらに硬化型復元力装置によって変位増大を抑制して擁壁への建物の衝突を防ぐという効果が期待できる。
【0012】
しかしながら、変位が増大するまで硬化型復元力装置があまり有効とならないため、建物と地面との相対変位をある程度を見込んだエキスパンション・ジョイントが必要になってしまう。言い換えれば、硬化型復元力装置が有効になるまでの建物と地面との相対変位に対応できるようにエキスパンション・ジョイントを構成しなくてはいけないという不都合があった。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑み、より効果的且つ確実に、a)回転慣性質量装置の付加質量効果により免震構造物をさらに長周期化して主要動の短周期成分の入力エネルギーが建物に伝わらないようにし、b)硬化型復元力装置によって後揺れ時の共振を防ぎ、c)さらに硬化型復元力装置によって変位増大を抑制して擁壁への建物の衝突を防ぐことを可能にした免震構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0015】
本発明の免震構造物は、免震ピットと、前記免震ピットの内部空間に設けられる地下構造部と、前記地下構造部上に設けられる建物本体とを備え、前記免震ピットの底面と前記地下構造部の下面との間の免震層に介設された免震装置によって前記地下構造部が支持され、前記地下構造部の上面と前記建物本体の下面との間の免震層に介設された免震装置によって前記建物本体が支持され、回転慣性質量装置が一端を前記地下構造部、他端を前記免震ピットにそれぞれ接続して設けられるとともに、変位に応じて剛性が変化する硬化型復元力装置が一端を前記地下構造部に、他端を前記免震ピットにそれぞれ接続して設けられ、且つ、前記地下構造部と前記免震ピットの間に第1油圧ジャッキが設けられ、前記地下構造部と前記建物本体の間に第2油圧ジャッキが設けられ、前記第1油圧ジャッキと前記第2油圧ジャッキの互いの油室が連結管で連結されて前記地下構造部と地盤の相対変位が所定の値以上になるとともに前記第1油圧ジャッキと前記第2油圧ジャッキが動作開始され、前記第1油圧ジャッキと前記第2油圧ジャッキが前記地下構造部と前記建物本体の動きを逆方向にする作用力を発現するように構成されていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】2011年東北地方太平洋沖地震の東京千代田区大手町での観測記録を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る免震構造物の一例を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る免震構造物の変更例を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る免震構造物の地下構造物と建物本体の変位、油圧ジャッキの作動変位の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1から図4を参照し、本発明の一実施形態に係る免震構造物について説明する。
【0018】
本実施形態の免震構造物Aは、図2に示すように、地盤Gを掘削して形成したコンクリート製の免震ピット1と、免震ピット1の内部空間に設けられる地下構造部2と、地下構造部2上に設けられる建物本体3とを備えている。
【0019】
地下構造部2には、上面から下面側に凹む凹部2aが設けられており、この凹部2aに下端部側を挿入配置するようにして建物本体3が地下構造部2の上に設けられている。また、建物本体3は、側面から横方向に突出し、地下構造部2の凹部2aの外側の部分と上下に重なるとともに上面が免震ピット1の外部の地表面と略面一に配される地上面部(張り出し部)3aを備えて構成されている。
【0020】
地上面部(張り出し部)3aは、免震ピット1の内部空間を覆うように配設されるとともに、突出方向先端部が免震ピット1の側壁部(擁壁)1aとの間に所定の隙間をあけ、側壁部1aと対向するように配設されている。そして、地上面部3aと免震ピット1の側壁部1aは、隙間を覆うように配設されたエキスパンション・ジョイント4によって接続され、このエキスパンション・ジョイント4と地上面部3aとによって免震ピット1の内部空間が閉塞した形となっている。
【0021】
地下構造部2の下面と免震ピット1の底面との間の第1免震層5には積層ゴムなどの免震装置6が複数介設され、地下構造部2がこれら複数の免震装置6によって支持されている。第1免震層5には、回転慣性質量装置7が一端を地下構造部2、他端を免震ピット1にそれぞれ接続して設けられている。なお、回転慣性質量装置7は、従来周知のものを適用することができる。
【0022】
地下構造部2と免震ピット1の側壁部1aの間には、所定の大きさの隙間が設けられている。この地下構造部2と免震ピット1の側壁部1aの間の隙間には、一端を地下構造部2に、他端を免震ピット1の側壁部1aにそれぞれ接続し、軸線方向を水平の横方向に向けて配された硬化型復元力装置(可変剛性装置)8が設けられている。なお、硬化型復元力装置8は、変位に応じて剛性が変化する装置であり、前述の特許文献4の可変剛性装置、非特許文献1の硬化型復元力装置などを適用することができる。
【0023】
さらに、地下構造部2と免震ピット1の一方の側壁部の間の隙間と、地下構造部2と免震ピット1の一方の側壁部1aと対向する他方の側壁部1aの間の隙間とにはそれぞれ、一端を地下構造部2に接続し、軸線方向を水平の横方向に向けて配された第1油圧ジャッキ(油圧シリンダー)9が設けられている。また、これらの第1油圧ジャッキ9は、他端と免震ピット1の側壁部1aとの間に所定の間隔をあけて設けられており、地震時に地下構造部2が周期的に横揺れして所定量以上の変位が生じた際に他端が免震ピット1の側壁部1aに当接し、油圧のジャッキ力が地下構造部2に作用するように設けられている。
【0024】
地下構造部2の凹部2aの底面と建物本体3の下面との間の第2免震層10には積層ゴムなどの免震装置6が複数介設され、建物本体3がこれら複数の免震装置6によって支持されている。さらに、地下構造部2の凹部2a以外の部分の上面と、建物本体3の地上面部3aの下面との間の第3免震層11に積層ゴムなどの免震装置6が複数介設され、これら複数の免震装置6によっても建物本体3が支持されている。
【0025】
地下構造部2の凹部2aの内面と建物本体3の側面との間に隙間が設けられている。地下構造部2の凹部2aの一方の内面と建物本体3の側面との間に隙間と、地下構造部2の凹部2aの一方の内面に対向する他方の内面と建物本体3の側面との間に隙間とにそれぞれ、一端を地下構造部2に、他端を建物本体3にそれぞれ接続し、軸線方向を水平の横方向に配して第2油圧ジャッキ(油圧シリンダー)12が設けられている。
【0026】
そして、本実施形態の免震構造物Aにおいては、地下構造部2と免震ピット1の間の第1油圧ジャッキ9と、地下構造部2と建物本体3の間の第2油圧ジャッキ12とが互いに油圧を伝え合うように連結管13で連結されている。具体的には、地下構造部2と免震ピット1の間の第1油圧ジャッキ9と、地下構造部2と建物本体3の間の第2油圧ジャッキ12は、地下構造部2と地盤Gの相対変位がある程度以上になるとともに動作が開始され、このとき、各油圧ジャッキ9、12が地下構造部2と建物本体3の動きを逆方向にする作用力を発現するように、第1油圧ジャッキ9と第2油圧ジャッキ12の互いの油室が連結管13で連結されている。
【0027】
ここで、第1免震層5や第2免震層10、第3免震層11に設けられる免震装置6は、積層ゴムの他に滑り支承などであってもよく、特に限定を必要としない。
【0028】
また、図3に示すように、第1油圧ジャッキ9は地下構造部2と免震ピット1の間に設けられていれば、第2油圧ジャッキ12は地下構造部2と建物本体3の間に設けられていれば、それ以上の配置の限定をする必要はない。また、第1油圧ジャッキ9と第2油圧ジャッキ12の数も限定を必要としない。
【0029】
そして、地震が発生した際に、図1に示すような主要動R1では地盤Gが短周期で激しく揺れるが、上記構成からなる本実施形態の免震構造物Aにおいては、積層ゴムなどの免震装置6と回転慣性質量装置7によって長周期化しているため、地下構造部2への入力エネルギーが低減する。
【0030】
なお、回転慣性質量装置7の仮想質量の値を極端に大きくした場合は回転慣性質量装置7のハイパスフィルター(短周期成分をそのまま透過させてしまう)としての効果が顕著になるため、実質量と仮想質量の比は最大でも1程度以下にすることが望ましい。
【0031】
また、回転慣性質量装置7の影響で地下構造部2に入力した一部の短周期成分は、2段目(第2免震層10、第3免震層11)の積層ゴムなどの免震装置6によって遮断されるため、建物本体3にはあまり伝わらない。
【0032】
これにより、本実施形態の免震構造物Aによれば、建物本体3の揺れを好適に抑えることが可能になる。
【0033】
ここで、仮に建物本体3が全く揺れない状況、すなわち、絶対座標系で静止している状況では、地盤Gの揺れの変位成分の最大値がエキスパンション・ジョイント4で考慮すべき変位となる。この考慮すべき変位が本実施形態では例えば最大でも10cm程度であり、通常の免震構造物で想定されている相対変位よりもかなり小さくなることが確認されている。
【0034】
次に、図1に示すように、主要動R1以降では加速度は小さくなるが変位成分が目立ってくる。すなわち、免震構造物Aへの入力エネルギーとなる長周期成分が卓越してくる。建物本体3が絶対座標系上で静止していると仮定すると地盤Gの変位最大値がエキスパンション・ジョイント4で考慮すべき変位となり、主要動R1以降の後揺れR2の変位はそれほど大きくない。
【0035】
このため、エキスパンション・ジョイント4として憂慮すべきは、免震構造物Aの共振による変位増大である。
【0036】
既存の技術では硬化型復元力装置8を配置することにより共振を抑制している。さらに、免震ピット1の側壁部1aにぶつからないように定めた目標上限値付近では硬化型復元力装置8の剛性が急激に増大して変位を抑制している。
【0037】
これに対し、本実施形態の免震構造物Aにおいては、エキスパンション・ジョイント4の性能を勘案して定めた油圧ジャッキ作動変位に達すると、地下構造部2と建物本体3を別方向に動かすように油圧ジャッキ9、12が作動する。これにより、地下構造部2の変位が増大するにつれ、建物本体3の変位を減少させることが可能になる。
【0038】
なお、2つの油圧ジャッキ9、12の径などを変えることによって、地下構造部2の変位が建物本体3の変位に及ぼす影響を調整することも可能になる。
【0039】
したがって、本実施形態の免震構造物Aによれば、より効果的且つ確実に、a)回転慣性質量装置7の付加質量効果により免震構造物Aをさらに長周期化して主要動R1の短周期成分の入力エネルギーが建物に伝わらないようにし、b)硬化型復元力装置8によって後揺れ時の共振を防ぎ、c)さらに硬化型復元力装置8によって変位増大を抑制して擁壁(免震ピット1の側壁部1a)への建物3の衝突を防ぐことが可能になる。
【0040】
以上、本発明に係る免震構造物Aの一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 免震ピット
1a 側壁部(擁壁)
2 地下構造部
2a 凹部
3 建物本体
3a 地上面部(張り出し部)
4 エキスパンション・ジョイント
5 第1免震層
6 免震装置
7 回転慣性質量装置
8 硬化型復元力装置
9 第1油圧ジャッキ
10 第2免震層
11 第3免震層
12 第2油圧ジャッキ
13 連結管
A 免震構造物
図1
図2
図3
図4