(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】ケイ酸カルシウムの炭酸塩化による複合材料および結着成分およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/18 20060101AFI20220207BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20220207BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20220207BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20220207BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20220207BHJP
C01B 33/24 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
C04B28/18
C04B40/02
C04B18/14 Z
C04B18/08 Z
C04B22/08 A
C01B33/24
(21)【出願番号】P 2018500273
(86)(22)【出願日】2016-03-18
(86)【国際出願番号】 US2016023193
(87)【国際公開番号】W WO2016154024
(87)【国際公開日】2016-09-29
【審査請求日】2019-03-14
(32)【優先日】2015-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515252684
【氏名又は名称】ソリディア テクノロジーズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SOLIDIA TECHNOLOGIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100167623
【氏名又は名称】塚中 哲雄
(74)【代理人】
【識別番号】100181847
【氏名又は名称】大島 かおり
(72)【発明者】
【氏名】ヴァヒット アタカン
(72)【発明者】
【氏名】サダナンダ サフー
(72)【発明者】
【氏名】ショーン クイン
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス デクリストファロ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンセント メイヤー
(72)【発明者】
【氏名】セドリック コンパレット
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター ワレンタ
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-155561(JP,A)
【文献】特開2001-278679(JP,A)
【文献】特開昭52-123420(JP,A)
【文献】米国特許第03966884(US,A)
【文献】特表2014-507369(JP,A)
【文献】特開平07-284628(JP,A)
【文献】特開2012-126617(JP,A)
【文献】特開2005-154178(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0165400(US,A1)
【文献】国際公開第2010/143506(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102459116(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02,
C04B40/00-40/06,
C04B103/00-111/94
C01B 33/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CO
2を用いて炭酸塩化されたケイ酸カルシウムを含む複合材料であって、
(1)完全にまたは部分的にCaCO
3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれ、ケイ酸カルシウムの炭酸塩化可能相を炭酸塩化することにより形成されたシリカのコアを含む結着成分と、
(2)ケイ酸カルシウムの炭酸塩化可能相を炭酸塩化することにより形成されたシリカおよび部分的に反応したケイ酸カルシウムで構成される複相コアであって、完全にまたは部分的にCaCO
3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれた複相コアを含む結着成分と、
(3)炭酸塩化不可能相および部分的に反応したケイ酸カルシウムで構成される複相コアであって、完全にまたは部分的にCaCO
3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれた複相コアを含む結着成分と
、
から選択された微細構造を有する複数の結着成分を含み、
前記複数の結着成分が、結合強度をもたらすとともに前記複合材料を支持する相互結合した結着マトリックスを構成する、複合材料。
【請求項2】
前記炭酸塩化不可能相が、シリカおよびメリライトから選択される、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記ケイ酸カルシウムが、珪灰石、擬珪灰石、ランキナイト、ビーライトおよび炭酸塩化可能な非晶質ケイ酸カルシウムまたはそれらの複数の組み合わせから選択される、請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項4】
結着成分間の空隙に位置する1つまたは複数のボイドをさらに含み、
任意に、1つまたは複数の結着成分が1つまたは複数のボイドを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項5】
前記高シリカリムが0.01μm~50μmの範囲の厚さをもつ、請求項1~4のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項6】
前記高シリカリムが、50体積%~90体積%の範囲のシリカ含有率および10体積%~50体積%のCaCO
3含有率を有することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項7】
厚さが一定でない前記高シリカリムが1%~99%の被覆率で前記コアを囲む、請求項1~6のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項8】
任意に前記結着マトリックス内で均一に分散する、1つまたは複数のフィラー材料をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項9】
任意に前記結着マトリックス内で均一に分散する、フライアッシュ、スラグおよびシリカフュームから選択された1つまたは複数の補助材料をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の複合材料。
【請求項10】
複数の結着成分を含む結着マトリックスであって、
前記複数の結着成分が、
(1)完全にまたは部分的にCaCO
3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれ、ケイ酸カルシウムの炭酸塩化可能相を炭酸塩化することにより形成されたシリカのコアを含む結着成分と、
(2)ケイ酸カルシウムの炭酸塩化可能相を炭酸塩化することにより形成されたシリカおよび部分的に反応したケイ酸カルシウムで構成される複相コアであって、完全にまたは部分的にCaCO
3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれた複相コアを含む結着成分と、
(3)炭酸塩化不可能相および部分的に反応したケイ酸カルシウムで構成される複相コアであって、完全にまたは部分的にCaCO
3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれた複相コアを含む結着成分と
、
から選択される微細構造を有する、結着マトリックス。
【請求項11】
前記炭酸塩化不可能相が、シリカおよびメリライトから選択される、請求項10に記載の結着マトリックス。
【請求項12】
前記ケイ酸カルシウム相が、珪灰石、擬珪灰石、ランキナイト、ビーライトおよび炭酸塩化可能な非晶質ケイ酸カルシウムまたはそれらの複数の組み合わせから選択される、請求項10または11に記載の結着マトリックス。
【請求項13】
結着成分間の空隙に位置する1つまたは複数のボイドをさらに含み、
任意に、1つまたは複数の結着成分が1つまたは複数のボイドを含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の結着マトリックス。
【請求項14】
前記高シリカリムが0.01μm~50μmの範囲の厚さをもち、
任意に、厚さが一定でない前記高シリカリムが1%~99%の被覆率で前記コアを囲む、請求項10~13のいずれか一項に記載の結着マトリックス。
【請求項15】
1つまたは複数のフィラー材料をさらに含み、
任意に、フライアッシュ、スラグおよびシリカフュームから選択された1つまたは複数の補助材料をさらに含む、請求項10~14のいずれか一項に記載の結着マトリックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権主張および関連特許出願)
本出願は、いずれも2015年3月20日に出願された米国特許仮出願第62/136,201号および第62/136,208号の優先権の利益を主張し、各仮出願の全内容のすべては、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0002】
本発明は、概してケイ酸カルシウム組成物に関する。より詳しくは、本発明は、特異な微細構造を示す新規の結着成分および化学組成物を含む複合材料、それらの製造方法ならびに、例えば、インフラ、建造物、舗装道路および景観整備業における様々なコンクリート部材などの、それらの用途に関する。
【背景技術】
【0003】
コンクリートは、世界中でもっとも消費されている人工材料である。一般的なコンクリートは、ポルトランドセメント、水、ならびに砂および砕石のような骨材を混合することによって形成される。ポルトランドセメントは、石灰石粉および粘土の混合物、または同様の組成の材料を回転窯内で1450℃の焼結温度で焼成させることによって形成した合成材料である。ポルトランドセメント製造は、単にエネルギー集約型のプロセスであるだけでなく、温室効果ガス(CO2)を大量に放出するプロセスである。セメント産業は、地球全体の人為的CO2放出のほぼ5%を占める。このCO2のうち60%を超える割合は、石灰石の化学分解またはか焼に由来する。
【0004】
セメント産業での総CO2放出量を低減する試みが広がっている。国際エネルギー機関の提案によれば、セメント産業は、CO2放出量を2007年の2.0Gtから2050年までに1.55Gtに減少させる必要があるとしている。このことは困難な課題を提示するものであるが、なぜなら、これと同一期間で、セメント生産は2.6Gtから4.4Gtに増大することが予想されるからである。
【0005】
この大変な難題に対処するため、セメント工場におけるエネルギー必要量およびCO2放出量を大幅に減少させるセメント生産の革新的な手法が最近開発された。この特別なセメントは、炭酸塩化可能なケイ酸カルシウム組成物で構成され、広く入手可能な、低コストの原料からなり、恒久的かつ安全にCO2を隔離する能力をもたらし、同時に、装置および製造の要件に適合可能であり、融通性があるため、従来のセメントの製造業者が新しいプラットフォームに容易に転換することができる。
【0006】
作業コストおよび炭素排出量を低減させるとともに、結合強度および生産効率を改善させるためには、既存のコンクリート材料の物理的特性および性能特性に匹敵するかまたはそれを超える新規の結着用の微細構造および複合材料を開発する努力が要される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特異な微細構造および化学組成を示す新規の複合材料および結着成分、それらの製造方法ならびに、例えば、インフラ、建造物、舗装道路および景観整備業における様々なコンクリート部材などにおける、それらの使用法を提供する。本発明の複合材料および結着成分は、大量生産に適した処理により、広く入手可能な低コスト原料から作られる好適なケイ酸カルシウム材料(例えばクリンカーおよびセメント)の炭素塩化により製造される。本発明の方法は、装置および処理の要件に融通性があり、また従来のポルトランドセメント製造設備に容易に適合可能である。本明細書で開示される新規の複合材料および結着成分は、建造物、舗装道路および景観整備、ならびにインフラのような様々なコンクリート用途に、装置要求を低減し、エネルギー消費量を改善し、より望ましい二酸化炭素排出量で使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様において、本発明は、概して、ケイ酸カルシウムをCO2で炭酸塩化することにより生成される複合材料に関する。複合材料は、1種または複数種(微細構造)の複数の結着成分を含む。これらの種類の結着成分は、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれた、ケイ酸カルシウムの未反応の炭酸塩化可能相のコアを含む結着成分と、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれ、ケイ酸カルシウムの炭酸塩化可能相を炭酸塩化することにより形成されたシリカのコアを含む結着成分と、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、ケイ酸カルシウムの炭酸塩化可能相を炭酸塩化することにより形成されたシリカのコアを含む結着成分と、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、炭酸塩化不可能相のコアを含む結着成分と、ケイ酸カルシウムの炭酸塩化可能相を炭酸塩化することにより形成されたシリカおよび部分的に反応したケイ酸カルシウムで構成される複相コアであって、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれた複相コアを含む結着成分と、炭酸塩化不可能相および部分的に反応したケイ酸カルシウムで構成される複相コアであって、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれた複相コアを含む結着成分と、CaCO3粒子に包接された、明確なコアおよびシリカリムを有さず、部分的に反応したケイ酸カルシウムの粒子を含む結着成分と、CaCO3粒子に包接された、明確なシリカリムを有しない、多孔性粒子を含む結着成分と、を含む。集合的に、これらの複数の結着成分は、結合強度をもたらすとともに複合材料を支持する相互結合結着マトリックスを構成する。
【0009】
別の態様では、本発明は、概して、複数の結着成分を含む結着マトリックスに関する。これらの結着成分は、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれた、ケイ酸カルシウムの未反応の炭酸塩化可能相のコアを含む結着成分と、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれ、ケイ酸カルシウムの炭酸塩化可能相を炭酸塩化することにより形成されたシリカのコアを含む結着成分と、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、ケイ酸カルシウムの炭酸塩化可能相を炭酸塩化することにより形成されたシリカのコアを含む結着成分と、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、炭酸塩化不可能相のコアを含む結着成分と、ケイ酸カルシウムの炭酸塩化可能相を炭酸塩化することにより形成されたシリカおよび部分的に反応したケイ酸カルシウムで構成される複相コアであって、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれた複相コアを含む結着成分と、炭酸塩化不可能相および部分的に反応したケイ酸カルシウムで構成される複相コアであって、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれた複相コアを含む結着成分と、CaCO3粒子に包接された、明確なコアおよびシリカリムを有さず、部分的に反応したケイ酸カルシウムの粒子を含む結着成分と、CaCO3粒子に包接された、明確なシリカリムを有しない、多孔性粒子を含む結着成分と、から選択される。
【0010】
さらに別の態様では、本発明は、概して、本発明の結着成分を含む複合材料の製造方法に関する。
【0011】
本発明の目的および特徴は、以下に説明する図面および特許請求の範囲を参照することにり、よりよく理解できるであろう。図面は、必ずしも縮尺どおりではなく、本発明の原理の説明に関し誇張が加えられる。図面において、同一参照符号は異なる図を通して同一部分を示すのに使用する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1a】本発明の例示的な実施形態による例示的な結着成分の概略図である。
【
図1b】本発明の例示的な実施形態による例示的な結着成分の概略図である。
【
図1c】本発明の例示的な実施形態による例示的な結着成分の概略図である。
【
図1d】本発明の例示的な実施形態による例示的な結着成分の概略図である。
【
図1e】本発明の例示的な実施形態による例示的な結着成分の概略図である。
【
図1f】本発明の例示的な実施形態による例示的な結着成分の概略図である。
【
図2】
図2(a)~
図2(f)は、本発明の例示的な実施形態による複合材料の側面図および断面図の模式図であり、(a)低密度結着マトリックス(結着成分が接触しない)における1次元配向繊維形結着成分、(b)低密度結着マトリックス(結着成分が接触しない)における2次元配向小平板形結着成分、(c)低密度結着マトリックス(結着成分が接触しない)における3次元配向小平板形結着成分、および(d)複合材料が、結着マトリックスおよびポリマー、金属、無機粒子、凝集体、その他などのフィラー成分を含む、低密度結着マトリックス(結着成分が接触しない)におけるランダム配向小平板形結着成分、ならびに(e)マトリックスが3次元配向される、結着成分の(パーコレーションネットワークの構築に十分な容積分率をもつ)高密度結着マトリックス、および(f)ポリマー、金属、無機粒子、凝集体その他などのフィラー成分が含まれ得る、ランダム配向した結着成分の(パーコレーションネットワークの構築に十分な容積分率をもつ)高密度結着マトリックスを示す。
【
図3】本発明の原理に従って加湿を行うCO
2複合材料養生チャンバの概略図である。
【
図4】複数の湿度制御方法ならびに一定のフローまたは圧力の調節を用いてCO
2を制御および補充する能力を用いた、本発明原理に従って温度を制御可能な養生チャンバの概略図である。
【
図5】反応したセメント粒子の後方散乱電子(BSE:BackScattered Electron)画像である。この画像は、CaCO
3に包接され、厚さが一定でないシリカリムを有する、高明度の反応性相コア粒子を示す(1)。CaCO
3に完全に包接された不活性相粒子も見られる(2)。シリカリムおよび粒子CaCO
3を有し、高明度の反応性相および中明度の非晶相で構成される複相コアも見られる(3)。
【
図6】実験用セメント1の様々な粒子を図示する着色合成顕微鏡写真である。単相および多くの組成の複相の粒子が見られる。
【
図7】実験用セメント1の様々な粒子を図示する着色合成顕微鏡写真である。単相および多くの組成の複相の粒子が見られる。
【
図8】実験用セメント1の様々な粒子を図示する着色合成顕微鏡写真である。単相および多くの組成の複相の粒子が見られる。
【
図9】反応したセメント粒子の後方散乱電子(BSE)画像である。この画像は、CaCO
3に包接された低明度の高SiO
2コア粒子を示す(1)。別の粒子は、低コントラストのSiO
2リムに囲まれ、CaCO
3に完全に包接された、高明度の反応性相コアを示す(2)。別の粒子は、高コントラストの反応性相と中コントラストの非晶相が混成して構成される複相コアを示す。コア粒子は、一部の表面が低コントラストのSiO
2リムに囲まれ、CaCO
3に部分的に包接されている(3)。
【
図10】反応したセメント粒子の後方散乱電子(BSE)画像である。この画像は、厚さが一定でないシリカリムに囲まれた、高明度の反応性粒子を示す(1)。この粒子はCaCO
3に包接され、シリカリムが見られる。いくつかの高明度の粒子は、反応の度合いが高いことが明らかな厚いシリカリムを示す(2)。粒子は、完全に反応した場合、CaCO
3に包接された不活性コアとして出現する(3)。高明度の反応性相および低明度のSiO
2相で構成される複相粒子が示される(4)。粒子の反応性の部分はシリカリムを有し、コア粒子はCaCO
3に部分的に包接される。
【
図11】高密度の反応したセメントペーストの後方散乱電子(BSE)画像である。この画像は、複相セメント粒子の反応により生成された多くの例示的なコアシェル構造を示す。
【
図12】高密度の反応したセメントペーストの後方散乱電子(BSE)画像である。この画像は、反応性相-ボイド粒子の存在を示唆する、高シリカ領域を有する大きな複相粒子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、特異な微細構造、化学組成および結合強度を示す新規の複合材料および結着成分、それらの製造方法ならびに、例えば、インフラ、建造物、舗装道路および景観整備業における様々なコンクリート製品およびコンクリート部材などにおける、それらの使用法を提供する。本発明の複合材料および結着成分は、大量生産に適した処理により、広く入手可能な低コスト原料からなる好適なケイ酸カルシウム材料(例えば、ケイ酸カルシウムを主成分としたクリンカーおよびセメント)の炭素塩化により製造される。本発明の方法は、装置および処理要件に融通性があり、また従来のポルトランドセメント製造設備に容易に適合可能である。
【0014】
これらの複合材料は、エネルギー必要量およびCO2放出量を大幅に低減して製造することができ、様々なコンクリート用途に利用することができる。原料として、結着成分を構成する粒子状ケイ酸カルシウム(例えば、珪灰石粉)などの粒子状前駆体材料が挙げられる。液体水および/または水蒸気を含む流体成分もまた反応媒体として用いられる。二酸化炭素(CO2)は、炭酸塩化処理において反応種として消費され、最終的にCO2が隔離される。様々な添加剤を用いて、得られた複合材料の物理的外観および機械的特性を微調整することができる。
【0015】
(結着成分および複合材料)
一態様において、本発明は、概して、ケイ酸カルシウムをCO2で炭酸塩化することにより生成される複合材料に関する。複合材料は、1種または複数種の微細構造の複数の結着成分を含み、結着成分は、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれた、ケイ酸カルシウムの未反応の炭酸塩化可能相のコアを含む結着成分と、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれ、ケイ酸カルシウムの炭酸塩化可能相を炭酸塩化することにより形成されたシリカのコアを含む結着成分と、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、ケイ酸カルシウムの炭酸塩化可能相を炭酸塩化することにより形成されたシリカのコアを含む結着成分と、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、炭酸塩化不可能相のコアを含む結着成分と、ケイ酸カルシウムの炭酸塩化可能相を炭酸塩化することにより形成されたシリカおよび部分的に反応したケイ酸カルシウムで構成される複相コアであって、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれた複相コアを含む結着成分と、炭酸塩化不可能相および部分的に反応したケイ酸カルシウムで構成される複相コアであって、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれた複相コアを含む結着成分と、CaCO3粒子に包接された、明確なコアおよびシリカリムを有さず、部分的に反応したケイ酸カルシウムの粒子を含む結着成分と、CaCO3粒子に包接された、明確なシリカリムを有しない、多孔性粒子を含む結着成分と、から選択される。集合的に、これらの複数の結着成分は、結合強度をもたらすとともに複合材料を支持する相互結合結着マトリックスを構成する。
【0016】
別の態様において、本発明は、概して、複数の結着成分を含む結着マトリックスに関する。これらの結着成分は、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれた、ケイ酸カルシウムの未反応の炭酸塩化可能相のコアを含む結着成分と、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれ、ケイ酸カルシウムの炭酸塩化可能相を炭酸塩化することにより形成されたシリカのコアを含む結着成分と、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、ケイ酸カルシウムの炭酸塩化可能相を炭酸塩化することにより形成されたシリカのコアを含む結着成分と、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、炭酸塩化不可能相のコアを含む結着成分と、ケイ酸カルシウムの炭酸塩化可能相を炭酸塩化することにより形成されたシリカおよび部分的に反応したケイ酸カルシウムで構成される複相コアであって、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれた複相コアを含む結着成分と、炭酸塩化不可能相および部分的に反応したケイ酸カルシウムで構成される複相コアであって、完全にまたは部分的にCaCO3粒子に包接された、厚さが一定でない高シリカリムにより完全にまたは部分的に囲まれた複相コアを含む結着成分と、CaCO3粒子に包接された、明確なコアおよびシリカリムを有さず、部分的に反応したケイ酸カルシウムの粒子を含む結着成分と、CaCO3粒子に包接された、明確なシリカリムを有しない、多孔性粒子を含む結着成分と、から選択される。
【0017】
高シリカリムは、一般的に、結着成分内および結着成分と結着成分の間で、典型的には約0.01μm~約50μmの範囲で変化する厚さを示す。特定の好適な実施形態では、高シリカリムは約1μm~約25μmの範囲の厚さをもつ。本明細書で用いるとき、「高シリカ」は、概して、材料の成分のうち突出するシリカ含有率を意味し、例えば、シリカは約50体積%を超える。高シリカリムの残りの大部分はCaCO3、例えば10体積%~約50体積%のCaCO3で構成される。高シリカリムはまた、不活性または未反応の粒子、例えば10体積%~約50体積%のメリライトを含み得る。高シリカリムは概して、シリカを主とする状態からCaCO3を主とする状態への遷移を示す。シリカおよびCaCO3は、混成域または離散域として存在し得る。
【0018】
「炭酸塩化可能」は、本明細書で用いるとき、本明細書に開示する条件における炭酸塩化反応によってCO2と反応する材料を指す。ある材料が本明細書に開示する条件における炭酸塩化反応によってCO2と反応しない場合、その材料は「炭酸塩化不可能」である。「反応性相」および「炭酸塩化可能相」という用語は、同じ意味で使用され、本明細書で定義されるように炭酸塩化可能な材料相を指す。「不活性相」および「炭酸塩化不可能相」という用語は、同じ意味で使用され、本明細書で定義されるように炭酸塩化不可能な材料相を指す。例示的な炭酸塩化可能相または反応性相は、CS(珪灰石または擬珪灰石、CaSiO3またはCaO・SiO2の式で表される場合もある)、C3S2(ランキナイト、Ca3Si2O7または3CaO・2SiO2の式で表される場合もある)、C2S(ビーライト、β-Ca2SiO4またはラーナイト、Ca7Mg(SiO4)4またはブレディガイト、α-Ca2SiO4またはγ-Ca2SiO4、Ca2SiO4または2CaO・SiO2の式で表される場合もある)を含む。非晶相は、組成によっては炭酸塩化可能になる場合もある。例示的な炭酸塩化不可能相または不活性相は、メリライト((Ca,Na,K)2[(Mg,Fe2+,Fe3+,Al,Si)3O7])および結晶性シリカ(SiO2)を含む。
【0019】
高シリカリムはまた、結着成分と結着成分の間で、典型的には約50体積%~約90体積%(例えば約60体積%~約80体積%)の範囲で変化するシリカ含有率を特徴とする。特定の実施形態では、高シリカリムが、概して、約50体積%~約90体積%の範囲のシリカ含有率および約10体積%~約50体積%のCaCO3含有率を有することを特徴とする。特定の実施形態では、高シリカリムが、約70体積%~約90体積%の範囲のシリカ含有率および約10体積%~約30体積%のCaCO3含有率を有することを特徴とする。特定の実施形態では、高シリカリムが、約50体積%~約70体積%の範囲のシリカ含有率および約30体積%~約50体積%のCaCO3含有率を有することを特徴とする。
【0020】
高シリカリムは、約1%~約99%(例えば約10%~約90%)のいずれかの様々な被覆レベルでコアを囲み得る。特定の実施形態では、高シリカリムは約10%未満の被覆レベルでコアを囲む。特定の実施形態では、厚さが一定でない高シリカリムが、約90%を超える被覆レベルでコアを囲む。
【0021】
複数の結着成分は、複合生成物の所望の特性および性能特性に応じて任意の適切な平均粒径および粒径分布を有し得る。特定の実施形態では、例えば、複数の結着成分は約1μm~約100μm(例えば、約1μm~約80μm、約1μm~約60μm、約1μm~約50μm、約1μm~約40μm、約1μm~約30μm、約1μm~約20μm、約1μm~約10μm、約5μm~約90μm、約5μm~約80μm、約5μm~約70μm、約5μm~約60μm、約5μm~約50μm、約5μm~約40μm、約10μm~約80μm、約10μm~約70μm、約10μm~約60μm、約10μm~約50μm、約10μm~約40μm、約10μm~約30μm、約10μm~約20μm)の範囲内の平均粒径を有する。
【0022】
特定の微細構造のセメント粒子は、本明細書で開示する結着マトリックスを生成するのにより適している場合がある。一般的に、セメント粒子は、単相粒子および複相粒子の2つに分類することができる。
【0023】
単相粒子は、(i)反応性の(炭酸塩化可能な)珪灰石(CaSiO3)、ランキナイト(Ca3Si2O7)およびC2S(Ca2SiO4)、(ii)部分的に反応性の可変組成の非晶相、ならびに(iii)メリライト((Ca,Na,K)2[(Mg,Fe2+,Fe3+,Al,Si)3O7])および結晶性シリカ(SiO2)などの不活性な(炭酸塩化不可能な)相のような様々な形態で存在し得る。
【0024】
複相粒子は、(i)「反応性-反応性」、すなわち、2つ以上の反応性相の組合せ(例えば、CaSiO3、Ca3Si2O7、Ca2SiO3)、(ii)「反応性-不活性」すなわち、少なくとも1つの反応性相(例えば、CaSiO3、Ca3Si2O7、Ca2SiO3)と少なくとも1つの不活性相(例えば、(Ca,Na,K)2[(Mg,Fe2+,Fe3+,Al,Si)3O7],SiO2)の組合せ、(iii)「不活性-不活性」、すなわち、2つ以上の不活性な相の組み合わせ(例えば、(Ca,Na,K)2[(Mg,Fe2+,Fe3+,Al,Si)3O7],SiO2);(iv)「反応性-部分反応性」、すなわち、少なくとも1つの反応性相(例えば、CaSiO3、Ca3Si2O7、Ca2SiO3)と部分的に反応性の非晶相の組合せ、(v)「不活性-部分反応性」、すなわち、少なくとも1つの不活性相(例えば、(Ca,Na,K)2[(Mg,Fe2+,Fe3+,Al,Si)3O7],SiO2)と部分的に反応性の非晶相の組合せ、(vi)「反応性-わずかに反応性-不活性」、すなわち、少なくとも1つの反応性相(例えば、CaSiO3、Ca3Si2O7、Ca2SiO3)と、少なくとも1つの不活性相(例えば、(Ca,Na,K)2[(Mg,Fe2+,Fe3+,Al,Si)3O7],SiO2)と、部分的に反応性の非晶相との組合せ、ならびに(vii)上記分類のいずれかの粒子が、十分に密度が高くなく、内部または表面で連結するボイドを有する、ボイド含有粒子のような様々な形態で存在し得る。
【0025】
図1(a)~
図1(f)は、本発明の例示的な実施形態による例示的な結着成分の概略図である。
図1(a)は、単相反応性粒子(1)およびそれから得ることができる様々な例示的結着成分を図示する。(5)では、例えば、包接するCaCO
3が、ケイ酸カルシウムの反応により形成されたシリカリムの近傍にのみ存在する微細構造が図示される。
図1(b)は、単相不活性粒子(1)およびそれから得ることができる様々な例示的結着成分を図示する。
図1(c)は、二相反応性粒子(1)およびそれから得ることができる様々な例示的結着成分を図示する。
図1(d)は、二相不活性粒子(1)およびそれから得ることができる様々な例示的結着成分を図示する。
図1(e)は、複相反応性粒子(1)(a)、(1)(b)、(1)(c)などおよび複相反応性粒子(2)から得ることができる様々な例示的結着成分を図示する。
図1(f)は、ボイドを含む単相反応性粒子および得ることができる例示的結着成分を図示する。なお、これらの結着成分は、説明のために例示および描画されたものであり、実際のまたは相関的な形状または寸法を表すものではない。
【0026】
結着成分は、所期の用途を考慮して、原料選択および製造工程に何らかの意味で有利となり得る、任意のサイズおよび任意の規則的または非規則的な、中実または中空の形態を示し得る。例示的な形態としては、立方体、直方体、角柱、円盤、錐体、多面体または多面粒子、円柱、球、円錐、環、管、三日月形、針状、繊維状、単繊維状、薄片、球状、副球状、ビーズ状、葡萄状、粒状、楕円状、棒状、波紋状などが挙げられる。
【0027】
特定の実施形態では、結着成分または結着マトリックスは、1つまたは複数のボイドを有する。ボイドは、単相もしくは複相のコア中または明確なコアを有しない結着成分中に存在し得る。ボイドは、反応性相中または不活性相中に存在し得る。ボイドは、包接するCaCO3中にも存在し得る。このように、ボイドは結着成分内部に存在するか、または結着成分間の空隙に位置し得る。ボイドは、内部または表面で、隔離または相互に連結したボイドであってもよい。
【0028】
結着マトリックス内において、結着成分は互いに対し、多くの配向のいずれか1つの配向で配置され得る。
図2(a)~
図2(f)は、異なる配向の繊維形状または小平板形状の結着成分を含み、結着成分間の間隙で示されたフィラー材料を導入することにより低密度化することが可能な、例示的な結着マトリックスを模式的に図示する。
図2(a)は例えば、1方向(「1次元」)配向で整列された(例えばx方向に整列された)繊維形状の結着成分を含む結着マトリックスを示す。
図2(b)は、2方向(「2次元」)配向で整列された(例えばxおよびy方向に整列された)小平板形状の結着成分を含む結着マトリックスを示す。
図2(c)は、3方向(「3次元」)配向で整列された(例えばx、yおよびz方向に整列された)小平板形状の結着成分を含む結着マトリックスを示す。
図2(d)は、結着成分がいずれの特定の方向にも整列されない、ランダム配向の小平板形状の結着成分を含む結着マトリックスを示す。
図2(e)は、相対的に高い濃度の、3次元配向で整列された小平板形状結着成分を含む結着マトリックスを示す。
図2(f)は、相対的に低い濃度の、ランダム配向で設けられた小平板形状結着成分を含む結着マトリックス(パーコレーションネットワーク)を示す。
図2(f)の複合材料はパーコレーションしきい値を達成するが、これは、結着成分の大部分が互いに接触して、材料の端から端まで連続する接触ネットワークが形成されるためである。パーコレーションしきい値は臨界濃度であり、これより高い場合、結着成分が、結着成分の、例えば
図2(e)の整列配向、または例えば
図2(f)のランダム配向のいずれかによる長距離連結を示すものである。連結パターンの例は、例えば、Newnhamらによる“Connectivity and piezoelectric-pyroelectric composites”, Mat. Res. Bull. vol. 13, pp. 525-536, 1978に見ることができる。
【0029】
結着マトリックスは、任意の適切な材料、任意の粒径および粒径分布の、粗いかまたは細かい複数のフィラー粒子を含み得る。特定の好適な実施形態では、例えば、フィラー粒子は石灰岩などの炭酸カルシウムを多く含む材料(例えば石灰岩粉)から作られる。特定の材料では、フィラー粒子は、石英、雲母、花崗岩、および長石などのSiO2を主成分とするかまたはケイ酸塩を主成分とする材料(例えば石英粉末、雲母粉末、花崗岩粉末、長石粉末)の1つまたは複数から作られる。
【0030】
特定の実施形態では、フィラー粒子は、ガラス、再生ガラス、石炭スラグ、フライアッシュ、炭酸カルシウムを多く含む材料および炭酸マグネシウムを多く含む材料などの、天然、合成および再生の材料を含み得る。
【0031】
特定の実施形態では、複数のフィラー粒子は、約5μm~約7mm(例えば、約5μm~約5mm、約5μm~約4mm、約5μm~約3mm、約5μm~約2mm、約5μm~約1mm、約5μm~約500μm、約5μm~約300μm、約20μm~約5mm、約20μm~約4mm、約20μm~約3mm、約20μm~約2mm、約20μm~約1mm、約20μm~約500μm、約20μm~約300μm、約100μm~約5mm、約100μm~約4mm、約100μm~約3mm、約100μm~約2mm、約100μm~約1mm)の範囲内の平均粒径を有してもよい。
【0032】
フィラー粒子に対する結着成分の重量比は、複合材料生成物の所期の用途に応じて適切な比とすることができる。例えば、結着成分:フィラー粒子の重量比は、約(50~99):約(1~50)、例えば、約(60~99):約(1~40)、約(80~99):約(1~20)、約(90~99):約(1~10)、約(50~90):約(10~50)、約(50~70):約(30~50)の範囲内とすることができる。特定の実施形態では、用途に応じて、結着成分:フィラー粒子の重量比を、約(10~50):約(50~90)、例えば、約(30~50):約(50~70)、約(40~50):約(50~60)の範囲内とすることができる。
【0033】
複合材料の製造に用いる材料および条件によっては、複合材料の結着マトリックス内で、1つまたは複数の種類の結着成分が、他の種類よりも大きな割合を占め得る。例えば、クリンカーまたはセメントの製造工程およびそれに用いられる原料は、炭酸塩化および得られる複合材料に影響を及ぼすクリンカーまたはセメントの微細構造を生成し得る。さらに、クリンカーの粉砕もまた、粒度および粒度分布ならびにセメントの微細形態全体にも影響を及ぼし得、ひいては、炭酸塩化に際し、複合材料中の結着成分の微細構造にも影響を及ぼす可能性がある。
【0034】
結着マトリックスの形成に影響を及ぼすさらなる要素は、炭酸塩化するセメントの反応プロファイルである。例えば、セメントは、全体の表面積の少なくとも10%が炭酸塩化可能相で被覆されることを特徴とし得る。特定の実施形態では、セメントは、全体の表面積の少なくとも20%が炭酸塩化可能相で被覆されることを特徴とし得る。特定の実施形態では、セメントは、全体の表面積の少なくとも30%が炭酸塩化可能相で被覆されることを特徴とし得る。特定の実施形態では、セメントは、全体の表面積の少なくとも40%が炭酸塩化可能相で被覆されることを特徴とし得る。特定の実施形態では、セメントは、全体の表面積の少なくとも50%が炭酸塩化可能相で被覆されることを特徴とし得る。特定の実施形態では、セメントは、全体の表面積の少なくとも60%が炭酸塩化可能相で被覆されることを特徴とし得る。特定の実施形態では、セメントは、全体の表面積の少なくとも70%が炭酸塩化可能相で被覆されることを特徴とし得る。特定の実施形態では、例えば、セメントは、全体の表面積の少なくとも80%が炭酸塩化可能相で被覆されることを特徴とし得る。特定の実施形態では、セメントは、全体の表面積の少なくとも90%が炭酸塩化可能相で被覆されることを特徴とし得る。特定の実施形態では、セメントは、全体の表面積の少なくとも95%が炭酸塩化可能相で被覆されることを特徴とし得る。特定の実施形態では、粉末状材料は、表面積がほぼ完全に炭酸塩化可能相で被覆されることを特徴とする。
【0035】
本明細書で使用する「ケイ酸カルシウム」または「ケイ酸カルシウム組成物」は、概して、CS(珪灰石または擬珪灰石、CaSi3OまたはCaO・SiO2の式で表される場合もある)、C3S2(ランキナイト、Ca3Si2O7または3CaO・2SiO2の式で表される場合もある)、C2S(ビーライト、β-Ca2SiO4すなわちラーナイト、Ca7Mg(SiO4)4すなわちブリジガイト、α-Ca2SiO4またはγ-Ca2SiO4、Ca2SiO4または2CaO・SiO2の式で表される場合もある)、ケイ酸カルシウムを主成分とした非晶相を含むケイ酸カルシウム相の1つまたは複数のグループから構成される天然由来の鉱物または合成物質を指し、これらの物質はそれぞれ、1つもしくは複数の他の金属イオンおよび酸化物(例えば、アルミニウム、マグネシウム、鉄もしくは酸化マンガン)もしくはそれらの混合物を含む、または微量(1重量%)~約50重量%以上の範囲の量で天然起源もしくは合成の形態のケイ酸マグネシウムを含み得る。
【0036】
(炭酸塩化および養生プロセス制御)
本発明はさらに、主にCO2消費反応により養生される新規の複合材料を製造する方法を提供する。CO2に加え、別のプロセス成分としては水がある。本発明の好適な実施形態において、CO2は、製造される複合材料において、CO2の隔離および結着成分の生成をもたらす反応種として使用される。炭酸塩化は、例えば、CO2および水を用いて、制御された熱水液相焼結(HLPS:Hydrothermal Liquid Phase Sintering)プロセスによって実施し、複合材料の種々の成分を一緒に保持する結合力を生じさせることができる。HLPSの様々な特徴の論考は、米国特許第8,114,367号、米国特許出願公開第2009/0143211号(米国特許出願第12/271,566号)、米国特許出願公開第2011/0104469号(米国特許出願第12/984,299号)、米国特許出願公開第2009/0142578号(米国特許出願第12/271,513号)、米国特許出願公開第2013/0122267号(米国特許出願第13/411,218号)、米国特許出願公開第2012/0312194号(米国特許出願第13/491,098号)、国際公開第2009/102360号(PCT/US2008/083606号)、国際公開第2011/053598号(PCT/US2010/054146号)、国際公開第2011/090967号(PCT/US2011/021623号)、2012年10月1日出願の米国仮出願第61/708,423、2013年10月3日出願の米国出願第14/045,758号、同第14/045,519号、同第14/045,766号、同第14/045,540号、2014年3月12日出願の米国特許出願第14/207,413号、同第14/207,421号、2014年3月13日出願の米国特許出願第14/207,920号、同第14/209,238号、2014年6月4日出願の米国特許出願第14/295,601号、同第14/295,402号に見ることができ、これら文献のそれぞれは、あらゆる目的のために参照することにより、表現されたとおりに全体が本明細書に組み込まれるものとする。
【0037】
本明細書で開示するケイ酸カルシウムの炭酸塩化中に、以下の反応が起こると考えられる。
CaSiO3(s)+CO2(g)→CaCO3(s)+SiO2(s) (1)
Ca3Si2O7(s)+3CO2(g)→3CaCO3(s)+2SiO2(s) (2)
Ca2SiO4(s)+2CO2(g)→2CaCO3(s)+SiO2(s) (3)
【0038】
一般的に、CO2は、水などの浸透流体に溶解する気相として導入される。CO2の溶解により、溶液のpHを下げる酸性の炭素種(炭酸、H2CO3など)が生成される。弱酸性溶液は調和せずに、ケイ酸カルシウム相からのカルシウム種を溶解する。同様の機序により、カルシウムはカルシウムを含む非晶相から浸出する。カルシウム陽イオンの放出および炭酸種の解離により、不溶性の炭酸塩が沈殿する。シリカを多く含む層は、カルシウム欠乏層として鉱物粒子に残ると考えられる。
【0039】
これらのまたは本明細書で開示する他のCO2炭酸塩化反応により生成されるCaCO3は、いくつかのCaCO3多形体(例えば方解石、アラゴナイト、およびヴァテライト)の1つまたは複数のとして存在し得る。CaCO3粒子は、方解石の形態であることが好ましいが、アラゴナイトもしくはヴァテライトまたは2種もしくは3種の多形体の組み合わせ(例えば、方解石/アラゴナイト、方解石/ヴァテライト、アラゴナイト/ヴァテライトまたは方解石/アラゴナイト/ヴァテライト)として存在してもよい。
【0040】
所望の炭酸塩化の結果に応じて、任意の適切なグレードのCO2を用いることができる。例えば、Praxair, Inc.、Linde AG、Air Liquideその他などの多様な各種工業ガス会社から市販されている、純度約99%の、工業グレードのCO2を用いることができる。CO2源は、大型の加圧貯蔵タンクで、所望の蒸気圧、例えばおよそ300PSIGを維持するよう温度が制御された液体二酸化炭素の形で保管される。その後、このガスはCO2養生(炭酸塩化)格納器またはチャンバにパイプで送られる。最も単純なシステムでは、CO2は格納器中の周囲空気を置換するのに十分に制御された流量で格納器に流入する。一般に、パージ時間は格納器のサイズおよびCO2ガスが供給される速度に依存する。多くのシステムにおいて、格納器の空気をパージするこのプロセスは、分単位で計測される時間で行い、後に養生を行えるようCO2濃度を適度なレベルにすることができる。単純なシステムでは、その後、養生反応を生じるのに十分なCO2濃度を維持するよう、所定の流量でCO2ガスをシステムに供給する。
【0041】
二酸化炭素濃度は、継続的に制御し、継続して維持してもよい。CO2濃度は、システム内で、例えばNDIRによって直接計測または監視してもよく、PLCなどの制御器を用いてCO2濃度を例えば電子/自動制御弁で設定値に制御してもよい。NDIR測定法では、低流量ポンプによってガスサンプル流をシステムから抽出する。NDIRによって採取する前に、ガス流から水分をチラーを用いて除去する。システムガス流の湿度の測定は、乾球湿球湿度計測技術を用いて、乾球湿球湿度測定装置を用いて、または別の種類の湿度センサを用いて行うことができる。正確なCO2濃度は、コンピュータ制御システムまたはPLCを用いて計算することができる。正確なCO2濃度を把握した後、CO2が消費され、その時点で所望される設定値未満に下がったら、比例制御弁を作動させて乾燥したCO2をシステム内に加える。様々な実施形態では、必要に応じて、ある特定の組成物を養生させる際の経験、複合材料試料の形およびサイズに基づいて、設定値は時間とともに変化させることができる。
【0042】
図3は、加湿を施す例示的な養生チャンバの概略図である。
図3では、水源が設けられ、養生チャンバ内を循環する空気に水蒸気が添加される。水は、任意の都合のよい飲用水源とすることができる。ある実施形態においては、普通の水道水が用いられる。ある実施形態では、水をミストノズルもしくは噴霧スプレーノズル、電気蒸気発生器、ガス燃焼蒸気発生器を通して流すか、またはチャンバ内のガス温度を超える温度に加熱して液体水源から蒸発させることによって、蒸気に変換することができ、その例として投込電熱器を備えた円筒型反応器がある。さらに別の実施形態では、流入するガス流の相対湿度を高めるために加熱された水源を通してバブリングさせた後、CO
2源をシステムに流入させることができ、その例として「フロースルー」または「開ループ」プロセス用に構成された円筒型反応器がある。
【0043】
相対湿度は、従来のコンクリート養生とCO2による複合材料の養生の両方において、もう1つの重要なパラメータである。従来の養生チャンバには、大部分が窒素、酸素、および水蒸気で構成される湿り空気雰囲気が存在する。これらのシステムでは、相対湿度は、最も多くの場合、標準的な容量センサ技術によって測定される。しかしながら、CO2養生チャンバは、これらのセンサのいくつかの種類と相性の悪い、主に二酸化炭素で構成されるガス雰囲気をもつ。本明細書に記載のCO2複合材料養生システムでは、二酸化炭素および水蒸気の乾湿比または双極子分極水蒸気測定装置または冷却鏡湿度計または容量湿度センサを用いる乾球湿球技術などのセンシング技術を用いることができる。
【0044】
養生する生成物の種類および外形、チャンバの設計、生成物のチャンバへの充填効率に応じて、湿度を低下させるかまたは上昇させ、所定の設定値に制御する必要がある場合がある。設定値は1%~99%の相対湿度の範囲内のいずれかとすることができる。合わせて単一のシステムとすることができるCO
2複合材料養生工程には湿度調整のための3つの異なる方法が存在する可能性がある。CO
2養生システムの一実施形態における加湿の1つの方法が
図3に示されている。別の方法では、システムから水分を除去して、CO
2を用いて複合材料生成物を養生させることができる。相対湿度を低下させる単純な方法は、システム内の湿りガスを二酸化炭素などの乾性ガスで置換することによるものである。また別の実施形態では、相対湿度を低下させ、それにより非パージ法により水蒸気をガスから除去することができ、非パージ法は、1つの好適な実施形態において、水抽出を行う冷却式熱交換器である。
【0045】
図4は、複数の湿度制御方法ならびに一定のフローまたは圧力の調整を用いてCO
2を制御および補充する能力を用いた、本発明原理に従って温度を制御可能な、例示的な養生チャンバの概略図である。このシステムは、閉ループ制御またはフィードバックを使用した制御を行うシステムの一例であり、プロセスサイクルの特定時点で望ましいCO
2濃度、湿度、および温度のような動作パラメータの設定値を設け、また制御するパラメータの実際値が所望値であるか否かを確認するために測定を行う。所望値からの偏差を測定する場合、パラメータの値を所望値に一致させるよう修正処置を行う。このような制御システムは高価で複雑である可能性があり、高額製品または非常に精密なプロセス条件を要する製品に関して有用である場合がある。
【0046】
別の制御パラメータは、システム内でCO2で養生される材料全体にわたるガスの流速およびフロー制御である。ガス流速は、チャンバ設計、阻流板設計、ファンサイズ、ファン速度/ファン動力、ファン数、システム内の温度勾配、システム内のラック設計、およびシステム内のサンプル外形を含むがこれらに限定されないプロセス用機器変数に依存し得る。チャンバ内のガス流速を制御する最も単純な方法は、一般的には可変周波数駆動を利用することによってブロワ速度(RPMでの)を調節してブロワモーター速度の制御を可能とすることによるものである。ブロワを用いて、養生チャンバ内でガスを所望の速度で循環させることができる。システム中のガス流速は、システム内で、ピトー管測定およびレーザドップラー検出システムを含むが、これらに限定されない多様な種々の技術によって測定される。ガス速度の測定信号は、コンピュータシステムまたはプログラム可能な論理制御器に返送し、養生プロファイル中の制御パラメータとして利用することができる。
【0047】
温度制御は、本発明の所望の結着成分および複合材料を形成するためのケイ酸カルシウムの炭酸塩化において、さらに別の重要なパラメータである。温度は、熱電対またはRTDなどのセンサを用いて測定してもよい。測定信号は、熱交換器へのエネルギーを制御することができる制御器またはコンピュータに返送し、それによりシステム全体の温度を経時的に調整し得る。ブロワは、生成物およびサンプルの制御された水分の重要な部分であるチャンバ自体に送られるガスへの熱エネルギーの伝達を促進することができ、加熱システムの重要な構成要素である。加熱方法は電気式またはガス燃焼式とすることができる。ジャケットヒーターを利用して、加熱ジャケットに接触するチャンバを通って流れるCO2の温度を制御することができ、任意の都合のよい熱源を用いることができる。外部加熱手段は、電気加熱、温水加熱、または温油加熱を含み得るが、これらに限定されない。CO2養生チャンバには、これまで間接ガス燃焼システムが利用されており、直接燃焼ガスバーナーは、空気および燃焼生成物をシステム内に引き込むことによりCO2を希釈し、CO2濃度の制御を困難にしてしまうため、避けられてきた。円筒型反応器などのやや小型のシステムのいくつかは、チャンバ内の発熱体ではなく、チャンバの全表面を加熱するために電気ジャケットヒーターを利用する。
【0048】
本発明の複合材料および結着成分を調製するプロセスは、炭酸塩化された生成物に求められる特定の性能パラメータを達成するように構成することができる。一般的に、このようなプロセスでは、粉末組成物(セメント)と液体組成物を混合してスラリー混合物を生成し;スラリーを型に流し込むか、金型でスラリーを加圧成形するか、スラリーを振動金型で加圧成形するか、スラリーを押し出し成形するか、スラリーをスリップ成形するか、またはコンクリート製造で一般的な任意の他の成形方法を用いてスラリー混合物を所望の形状に成形し;成形されたスラリー混合物を、約20℃~約150℃の範囲内の温度で約1時間~約80時間、水およびCO2を含み、圧力が約周囲大気圧~周囲大気圧より約50psi高い範囲内であり、CO2濃度が約10%~約90%の範囲内の蒸気下で養生することにより複合材料を製造する。このように、成形されたスラリー混合物の養生は、約20℃~約150℃の範囲内の温度で大胆に行うことができる。養生は約1時間~約80時間行うことができる。養生が起こる圧力は、約周囲大気圧~約50psi周囲大気圧よりも高いものとしてもよい。CO2濃度は約10%~約90%の範囲で上下し得る。
【0049】
複合材料目的物の養生に必要とされる時間は、水蒸気およびCO2ガスが目的物中を拡散する能力により決まる。一般に、厚い目的物は、薄い目的物よりも養生に時間がかかる。同様に、高密度の(開放空孔空間が少ない)目的物は、低密度の(開放空孔空間が多い)目的物よりも養生に時間がかかる。以下の表は、養生時間が、3次元の最小厚さ(または壁厚または断面厚さ)および製造される目的物のバルク密度によっていかに変化し得るかの例を示す。
【0050】
特定の用途に適した優れた特性および性能特性を得ることができる。特定の実施形態では、複合材料は、約20MPa~約175MPa(例えば約20MPa~約150MPa、約20MPa~約120MPa、約20MPa~約100MPa、約20MPa~約80MPa、約20MPa~約65MPa、約30MPa~約120MPa、約30MPa~約100MPa、約30MPa~約65MPa、約60MPa~約120MPa、約90MPa~約130MPa、約100MPa~約175MPa、約120MPa~約175MPa、約140MPa~約175MPa、約150MPa~約175MPa)の圧縮強度を特徴とする。
【0051】
特定の実施形態では、複合材料は、約3MPa~約30MPa(例えば約3MPa~約25MPa、約3MPa~約20MPa、約3MPa~約15MPa、約3MPa~約10MPa、約10MPa~約30MPa、約20MPa~約30MPa、約5MPa~約20MPa)の曲げ強度を特徴とする。
【0052】
特定の実施形態では、複合材料は約10%未満の吸水率を特徴とする。他のある実施形態では、複合材料は約8%未満の吸水率を特徴とする。他のある実施形態では、複合材料は約5%未満の吸水率を特徴とする。他のある実施形態では、複合材料は約4%未満の吸水率を特徴とする。他のある実施形態では、複合材料は約3%未満の吸水率を特徴とする。他のある実施形態では、複合材料は約2%未満の吸水率を特徴とする。他のある実施形態では、複合材料は約1%未満の吸水率を特徴とする。
【0053】
複合材料は、所望の質感、パターン、および物理的特性の1つまたは複数、特に天然石に特徴的な質感、パターン、および物理的特性を示し得る。特定の好適な実施形態では、複合材料は、天然石に似た視覚パターンを示す。他の特徴は、色(例えば、黒、白、青、ピンク、グレー(淡色から濃色まで)、緑、赤、黄、茶、シアン(青みがかった緑)または紫)および質感を含む。
【0054】
(複合材料の製品および用途)
本明細書で開示する複合材料および結着成分は、必要に応じて本明細書に記載されるように微調整することができるその優れた特性により、インフラ、建造物、舗装道路および景観整備業、エネルギー貯蔵、エネルギー生成、農業、自動車用、研削および切削用途など、様々な用途に用いることができる。
【0055】
本明細書に開示する複合材料および結着成分は、ポルトランドセメント、石灰セメントまたは関連するセメント混合材料の多くの用途に適用することができる。本発明の複合材料は、従来の構造用または通常のコンクリートが用いられる用途、例えばダム、橋、水泳プール、家屋、道路、内庭、地下室、欄干、装飾のないセメントタイル、モザイクタイル、舗装ブロック、街灯柱、溝カバー、またはそれらの組み合わせに用いることができる。
【0056】
顔料、着色ガラスおよび/または着色石英の1つまたは複数から選択された添加剤など、様々な添加剤を用いて、得られた複合材料の物理的外観および/または機械特性を変更および微調整することができる。水使用量削減および流動学上の変化に関する添加剤を用いることもできる。
【0057】
特定の実施形態では、複合材料は顔料をさらに含む。顔料は、結着マトリックス内で、所望の複合材料に応じて均一に分散され、または実質的に不均一に分散される。顔料は、任意の適切な顔料、例えば様々な金属酸化物(例えば酸化鉄、酸化コバルト、酸化クロム)とすることができる。顔料は、黒、白、青、グレー、ピンク、緑、赤、黄、および茶から選択した単色または複数の色とすることができる。顔料は、所望の複合材料に応じて、任意の適切な量、例えば約0.0重量%~約10重量%の範囲(例えば約0.0%~約8%、約0.0%~約6%、約0.0%~約5%、約0.0%~約4%、約0.0%~約3%、約0.0%~約2%、約0.0%~約1%、約0.0%~約0.5%、約0.0%~約0.3%、約0.0%~約2%、約0.0%~約0.1%)の量で存在し得る。
【0058】
特定の実施形態では、結着成分/マトリックスを、繊維、砂、骨材、および/または他の添加剤、例えば消泡剤および/または超微細粒子、例えばフュームドシリカおよびCaCO3と混練して、繊維補強複合材および/または超高性能コンクリート(UHPC:Ultra High Performance Concrete)のように機能する繊維補強コンクリート(FRC:Fiber Reinforced Concrete)を作製する。これらの固形体は、従来のFRCおよび/またはUHPCが採用される任意の用途に用いることができる。別の実施形態では、流動性を制御することにより(例えば処理中に水分を調整することにより)、他の設置タイプのコンクリート製品を製造することができる。製品として、吹付けコンクリート、自己充填コンクリート、転圧コンクリート、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0059】
別の実施形態では、結着成分/マトリックスを、アルミニウムなどの金属およびCa(OH)2と混練し、オートクレーブ養生し、あるいは、真空のような様々な補助を用いて空孔率を制御することにより、または空気混入により、オートクレーブ養生気泡コンクリート(AAC:Autoclave Aerated Concrete)を模倣またはそれに類似する材料を製造する。この材料は、従来のAACが採用される任意の用途に用いることができる。
【0060】
特定の実施形態では、結着成分/マトリックスを、砂および/または軽量骨材(例えば密度<2.0g/cm3、例えば膨張バーミキュライトおよび膨張パーライト、軽石、膨張スラグ、膨張シェール、またはこれらの組み合わせ)と混練し、空孔率を制御することにより、これらの複合材を、軽量コンクリートまたはセルラーコンクリート、軽量気泡コンクリート、可変密度コンクリート、気泡コンクリートもしくは超軽量コンクリートまたはこれらの種類のコンクリートに関連する任意の他の材料として用いることができる。別の実施形態では、結着成分/マトリックスを高密度骨材(例えば密度>3.2g/cm3)と混練し、得られた生成物を重量コンクリートとすることができる。
【0061】
本明細書に記載する結着成分/マトリックスを、鋼鉄または他の金属補強材料と組み合わせて用いて(これにより補強して)、補強用の従来のコンクリート構造体が採用される任意の用途に用いることができる補強コンクリート製品を作ることができる。プレストレストコンクリートを模倣し、またはこれに類似するよう、材料に予め応力を加えることができる。特定の実施形態では、結着成分/マトリックスを巨大なブロックに注型して、マスコンクリートを模倣し、またはこれに類似する材料を製造することができる。このようなマスコンクリートタイプの材料の用途として、重力式ダム、大型防波堤、またはこれらの組み合わせが挙げられる。本明細書に開示する結着成分および結着マトリックスに由来するコンクリートは、修飾または機能のために種々の質感で作製することができる。
【0062】
ある実施形態では、本発明の複合材料は、優れた耐食性を示し得るよう、例えば塩化物含有率が高い環境における鉄筋の保護および攻撃的硫酸エステル環境における優れた耐久性をもたらすように作製する。複合材料は、遮音および/または核放射線遮断など、高度に特殊化した用途に用いることができる。一実施形態において、この材料は、望ましい耐火性を有することができ、耐火用途に適している場合がある。この材料はまた、例えば、寒冷条件、砂漠の高温のような極端な気象条件、または極端な気象変動、および/もしくは凍結融解抵抗性に耐えることができる。この材料は、海洋、極低温、および/または耐爆の用途に特化した使用に適している場合がある。ある実施形態では、材料は、耐震構造物および/またはジオシンセティックス型構造物に用いることができる。
【0063】
本発明の結着成分は、CaCO3をはじめとした添加剤、または石膏および砂と混練してモノリシックな固体を形成することができる。本発明の結着成分を砂または他の鉱物と混練してモルタルまたはグラウトを調製することができ、得られた材料は、従来のモルタルおよびグラウトが採用される任意の用途に用いることができる。本発明の結着成分を、金属繊維、有機繊維、またはセラミック繊維と混練して繊維セメントを作ることができる。得られた材料は、従来の繊維セメントが採用される任意の用途に用いることができる。
【0064】
任意の適切な骨材、例えば、酸化カルシウム含有またはシリカ含有の複合材料を使用して、本発明の炭酸塩化可能な組成物から複合材料を形成することができる。代表的な骨材としては、トラップ岩、建設用の砂、玉砂利のような不活性材料がある。特定の好適な実施形態において、パーライトまたはバーミキュライトのような軽量骨材も骨材として使用することができる。産業廃材(例えばフライアッシュ、スラグ、シリカヒューム)のような材料も微細フィラーとして使用することができる。
【0065】
複数種類の骨材は任意の適切な平均粒径および粒径分布を有することができる。特定の実施形態では、複数種類の骨材は、約0.25mm~約25mmの範囲内(例えば約5mm~約20mm、約5mm~約18mm、約5mm~約15mm、約5mm~約12mm、約7mm~約20mm、約10mm~約20mm、約1/8″、約1/4″、約3/8″、約1/2″、約3/4″)の平均粒径を有する。
【0066】
化学的混和剤、例えば、可塑剤、流動化剤、遅延剤、促進剤、分散剤、および他のレオロジー変性剤を複合材料に含ませることができる。特定の市販の化学的混和剤としては、例えば、BASF(登録商標)ケミカル社によるGLENIUM(商標)7500およびダウ・ケミカル社によるAcumer(商標)がある。特定の実施形態において、所望の複合材料に応じて、1つまたは複数の顔料を結着マトリックス内で均一に分散または実質的に不均一に分散させることができる。顔料は、任意の適切な顔料、例えば、種々の金属酸化物(例えば黒色酸化鉄、酸化コバルト、および酸化クロム)とすることができる。顔料は、黒、白、青、グレー、ピンク、緑、赤、黄、および茶から選択した単色または複数の色とすることができる。顔料は、所望の複合材料に応じて、任意の適切な量、例えば、約0.0重量%~約10重量%の範囲の量で存在し得る。
【0067】
本明細書で開示するケイ酸カルシウムの組成物、相および方法を採用して、ケイ酸カルシウム相の代わりに、またはそれに付加してケイ酸マグネシウム相を使用することができると理解されたい。本明細書で使用するとき、用語「ケイ酸マグネシウム」は、例えば(「フォルステライト」としても知られる)Mg2SiO4および(「タルク」としても知られる)Mg3Si4O10(OH)2を含むマグネシウム-シリコン含有化合物群のうち1つまたは複数からなる天然に存在する鉱物または合成材料を指す。この材料は、1つまたは複数の他の金属イオンおよび酸化物(例えば、カルシウム、アルミニウム、鉄または酸化マンガン)またはそれらの混合物を含んでもよく、あるいは微量(1重量%)~約50重量%以上の範囲の量の天然起源または合成の形のケイ酸カルシウムを含んでもよい。
【実施例】
【0068】
炭酸塩化可能なケイ酸カルシウムセメントのサンプルをエポキシに埋め込み、研磨し、炭素を塗布し、個々の粒子内の相の分布についての情報を得た。サンプルは、後方散乱電子(BSE)撮像モードの走査電子顕微鏡法(SEM)によって分析した。各相のコントラストは、相の化学量論組成に関係し、高平均原子番号元素を含む、より密度の高い相が、低平金原子番号のより密度が低い相よりも明るく見える。様々な相のコントラストは、各相の平均原子番号
を用いて計算されたBSEコントラスト係数ηの比較に関係し得る。
【0069】
【0070】
各相の平均値原子番号
は、原子の合計数で分割した相に存在する各原子の原子質量の和であり、式中、Nは原子番号Aおよび原子質量Zの各元素の数である(ΣNAは分子量)。
【0071】
【0072】
セメント粒子中に存在する相のηは表1に示される。非晶相は、回折により特定されない不定の化学的性質をもつ。多くのセメントでは、非晶相はメリライト相に類似する組成をもつ。Al-2O3およびMgOの含有率が低いセメントでは、非晶相は、より大きい平均原子番号を有し、そのため、BSE撮像においてより高い明度を示す。相は、個々の相のX線マイクロプローブ測定によって同定される。
【0073】
【0074】
3つの独立したプロセスで製造され、別個の最終的な化学的性質をもつ実験用セメントを製造した。実験用セメント1は、85%が200メッシュを通る細かさまで粉砕された石灰岩および砂で製造した。石灰岩および砂を混練して、シリコンに対するバルクカルシウムの原子比率をおよそ1とした。粉砕し、混練した原料を、回転窯で、およそ1200℃のピーク温度まで30分~60分の滞留時間で処理して粉末を反応させて、炭酸塩化可能なケイ酸カルシウム、メリライト、メリライト様組成をもつ非晶相および未反応シリカで大部分が構成される、焼結された炭酸塩化可能なケイ酸カルシウムセメントクリンカーの団塊を製造した。蛍光X線分析(XRF:X-Ray fluorescence) により特定された、このセメントの酸化物組成が表2に示される。X線回折(XRD:X-Ray diffraction) により特定された、このセメントの相組成が表3に示される。その後、セメントクリンカーを、2室閉路ボールミルを用いて粉砕した。材料供給速度、ボールミル回転速度および空気選鉱機空気流を制御して、平均粒径12μmのセメント粉末を製造した。
図5は、このセメントを用いて、CO
2が95%を超える雰囲気に60℃で18時間曝露することにより製造された、反応した粒子の成形体を示す。
【0075】
実験用セメント1を、X線マイクロプローブ分析と併せてBSEモードのSEMにより詳細に調査した。X線マイクロプローブにより測定した元素組成は、XRDにより識別された相と関連していた。X線マイクロプローブにより特定された相の原子組成が表4に示される。この分析により、2つの別個の部分的に反応しやすい非晶相である、低Al含有非晶相の相1および高Al含有非晶相の相2とともにさらなる相である、ブラウンミラライトすなわちCa
2(Al,Fe)
2O
5が同定された。
図6、
図7、および
図8では、BSE画像に見られる相のコントラストとともに収集された、組成に関するデータを用いて未反応粒子の偽色カラー地図を作成した。様々な分類の複相粒子の多数の例が観察される。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
実験用セメント2では、高純度石灰岩および砂を粉砕および混練して、シリコンに対するバルクカルシウムの原子比率をおよそ1とした。粉砕および混練した原料を、水とともに攪拌することにより粒状可し、耐火容器に投入した。この容器および粒状化した原料を、電気炉内で1500℃まで焼成させて、反応性ケイ酸カルシウム、珪灰石様組成をもつ非晶相および未反応シリカで大部分が構成される、焼結された炭酸塩化可能なケイ酸カルシウムセメントクリンカーを製造した。蛍光X線分析(XRF)により特定された、このセメントの酸化物組成が表5に示される。このセメントの相組成は表6に示される。得られた原料をジェット粉砕により粉砕した。材料供給速度、ミル形状、および空気圧を制御して12μmの平均粒径を得た。CO
2が95%を超える雰囲気に60℃で18時間曝露することにより、粉砕したセメントの成形体を反応させた。
図9および
図10は、反応した単相および複相の粒子を示す。
【0080】
【0081】
【0082】
炭酸塩化可能なケイ酸カルシウムを製造した(実験用セメント3)。このセメントを得るために、石灰岩および砂を85%が200メッシュを通る細かさまで粉砕した。石灰岩および砂を混練して、シリコン原子に対するバルクカルシウムの比率を1とした。粉砕し、混練した原料を、回転窯で、およそ1260℃のピーク温度まで30分~60分の滞留時間で処理して粉末を反応させて、炭酸塩化可能なケイ酸カルシウム、メリライト、メリライト様組成をもつ非晶相および未反応シリカで大部分が構成される、焼結された炭酸塩化可能なケイ酸カルシウムセメントクリンカーの団塊を製造した。XRFにより特定された、このセメントの酸化物組成が表7に示される。XRDにより測定された、このセメントの相組成は表8に示される。その後、セメントクリンカーを、2室閉路ボールミルを用いて粉砕した。材料供給速度、ボールミル回転速度および空気選鉱機空気流を制御して、平均粒径12μmのセメント粉末を製造した。
図11および
図12は、このセメントを用いて、CO
2が95%を超える雰囲気に60℃で18時間曝露することにより製造された、反応した粒子の成形体を示す。
【0083】
【0084】
【0085】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、単数形の「a」、「an」および「the」は、文脈によりそうでないことが明確に定められない限り、複数物への言及を含むものとする。
【0086】
特に定義されない限り、本明細書で使用した技術的および化学的用語はすべて、当該分野において通常の知識を有する者によって通常に理解されるのと同様の意味を有する。本明細書に記載されたものと類似するかまたは同等の方法および材料を本発明の実施または試験において用いることもできるが、好適な方法および材料を上記にて説明する。本明細書で詳述された方法は、開示の具体的な順序に加えて、論理的に可能な任意の順序で実施してもよい。
【0087】
(文献の引用)
本開示では、特許、出願特許、公開特許、定期刊行物、書籍、論文、ウェブコンテンツなどの他の文献を参照および引用してきた。このようなすべての文献は、その全体が、参照によりあらゆる目的で本明細書に組み込まれるものとする。本明細書に組み込まれるとされるが、本明細書に明確に記述された既存の定義、記述又は他の開示内容に抵触する資料又はその一部分は、組み込まれた内容と本開示内容との間で抵触が生じない程度にのみ組み込まれるものとする。抵触する場合には、その抵触は好ましい開示となるよう本開示に有利となるよう解消すべきである。
【0088】
(均等物)
本明細書で開示される代表例は、本発明の説明を助けることを意図し、本発明の範囲を限定することを意図したものではなく、そのようなものとして解釈すべきではない。実際、本明細書に示され記載される変形例および実施例に加え、本発明の様々な変形例および本発明の多くのさらなる実施形態は、本明細書に記載の実施例を含む本文献のすべての内容ならびに本明細書で引用する科学文献および特許文献への参照から当業者に明白となるだろう。これらの実施例は、本発明の実施に適用可能な重要な付加情報、適例および指針を、その様々な実施形態およびその均等物に含む。