(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】ラジカル硬化性樹脂組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20220207BHJP
【FI】
C08F290/06
(21)【出願番号】P 2018527464
(86)(22)【出願日】2017-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2017022482
(87)【国際公開番号】W WO2018012205
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2018-07-19
【審判番号】
【審判請求日】2020-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2016136984
(32)【優先日】2016-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503090980
【氏名又は名称】ジャパンコンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 修一
(72)【発明者】
【氏名】梶野 正彦
(72)【発明者】
【氏名】塚本 貴史
【合議体】
【審判長】近野 光知
【審判官】福井 悟
【審判官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-212544(JP,A)
【文献】特開昭51-145590(JP,A)
【文献】特開平08-318593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F290/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性オリゴマー(A)、ラジカル重合性単量体(B)及び液状ゴム(C)(但し、アミノ基及び/又はカルボキシル基を有するものを除く。)を含むラジカル硬化性樹脂組成物であって、
該ラジカル重合性オリゴマー(A)は、臭素含有ビニルエステルを含み、臭素原子含有量が成分(A)、(B)及び(C)の総量100質量%に対して10質量%以上であり、
該臭素含有ビニルエステルは、臭素含有エポキシ化合物と不飽和一塩基酸との反応物、又は、臭素含有エポキシ化合物と臭素化ビスフェノールAとで高分子量化したエポキシ化合物と不飽和一塩基酸との反応物であり、
該臭素含有エポキシ化合物は、臭素化ビスフェノール型エポキシ化合物、又は、臭素化ノボラック型エポキシ化合物であり、
該臭素含有ビニルエステル、ラジカル重合性単量体(B)及び液状ゴム(C)の含有割合は、ラジカル重合性オリゴマー(A)と、ラジカル重合性単量体(B)と、液状ゴム(C)を含む全ての熱可塑性樹脂及びエラストマーとの合計量100質量%に対し、それぞれ30~65質量%、25~50質量%及び10~30質量%であ
ることを特徴とするラジカル硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
ラジカル重合性オリゴマー(A)、ラジカル重合性単量体(B)、並びに、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(E)を含むラジカル硬化性樹脂組成物であって、
該熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(E)は液状ゴム(C)(但し、アミノ基及び/又はカルボキシル基を有するものを除く。)と、該液状ゴム(C)以外の熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(D)とを含み、
該ラジカル重合性オリゴマー(A)は、臭素含有ビニルエステルを含み、臭素原子含有量が成分(A)、(B)、(C)及び(D)の総量100質量%に対して10質量%以上であり、
該臭素含有ビニルエステルは、臭素含有エポキシ化合物と不飽和一塩基酸との反応物、又は、臭素含有エポキシ化合物と臭素化ビスフェノールAとで高分子量化したエポキシ化合物と不飽和一塩基酸との反応物であり、
該臭素含有エポキシ化合物は、臭素化ビスフェノール型エポキシ化合物、又は、臭素化ノボラック型エポキシ化合物であり、
該臭素含有ビニルエステル、ラジカル重合性単量体(B)、並びに、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(E)の含有割合は、ラジカル重合性オリゴマー(A)と、ラジカル重合性単量体(B)と、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(E)との合計量100質量%に対し、それぞれ30~65質量%、25~50質量%及び10~30質量%であ
ることを特徴とするラジカル硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(D)は、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン及び(メタ)アクリレート系重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載のラジカル硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記臭素含有ビニルエステルは、スチレン30質量%含有での樹脂硬化物の下記の条件で測定されるガラス転移温度が130~170℃であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のラジカル硬化性樹脂組成物。
<ガラス転移温度の測定条件>
(1)臭素含有ビニルエステル70質量%とスチレン30質量%とからなる樹脂100部に対して、硬化剤(80%クメンハイドロパーオキサイド(日本油脂社製、パークミルH-80))1.0部を添加、混合後、100℃で60分間加熱した後、更に175℃で30分間加熱して樹脂硬化物を得る。
(2)得られた樹脂硬化物から5mm×5mm×3mmの大きさに切出した試験片について、熱機械分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、EXSTAR TMA SS7100)を用いて、5℃/分の昇温速度で室温より230℃まで昇温させて測定される線膨張係数(α)の変曲点よりガラス転移温度(Tg)を決定する。
【請求項5】
前記液状ゴム(C)は、数平均分子量が6万以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のラジカル硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記ラジカル重合性単量体(B)は、2個以上の重合性基を有する化合物を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のラジカル硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のラジカル硬化性樹脂組成物を硬化してなることを特徴とする硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル硬化性樹脂組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカル硬化性樹脂は、液状で取り扱うことが可能であって作業性が良く、しかも硬化物が耐久性や耐水性、強度等に優れた性能を有するため、種々の用途に好適に使用されている。例えば、ライニング材、接着剤、電気絶縁塗料等の他、建材、ハウジング類、注型材、機械部品、電子・電気部品、車両部品、船舶部品、航空機部品等の様々な分野において、ラジカル硬化性樹脂の施工物や成形体が広く用いられている。そして近年では、高性能化が求められる現状から、低熱膨張化を達成するための検討がなされている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-7783号公報
【文献】特開平8-318593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のとおりラジカル硬化性樹脂は各種物性に優れるため、種々の分野で広く使用されている。だが近年では、種々の分野で求められる物性が次第に厳しくなっている。例えば、小型化、軽量化及び多機能化が急速に進む電気・電子部品の分野では、従来よりも高度な寸法安定性が要求される他、耐熱性に優れることも求められている。しかし、従来のラジカル硬化性樹脂では、これらの要求に充分に応えることができないのが現状である。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、低熱膨張化を達成し、高度な寸法安定性を有するとともに、耐熱性、難燃性にも優れる硬化物を与えることができるラジカル硬化性樹脂組成物、及び、その硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ラジカル重合性オリゴマーとラジカル重合性単量体とを含む樹脂組成物は取扱い性や作業性が良く、しかも硬化物が各種物性に優れることに着目した。そして鋭意検討を進めるうち、ラジカル重合性オリゴマーとして臭素含有ビニルエステルを必須とし、更にラジカル重合性単量体と液状ゴムとをそれぞれ所定割合で含む樹脂組成物とすると、低熱膨張化を達成でき、高度な寸法安定性を有するとともに、耐熱性に優れる硬化物を与えるものとなることを見いだした。このような硬化物は、更に靱性や難燃性、表面平滑性にも優れるため、低熱膨張化を達成しながら各種物性をバランス良く発揮することができる点で、各種分野で有用なものである。このようにして上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち第1の本発明は、ラジカル重合性オリゴマー(A)、ラジカル重合性単量体(B)及び液状ゴム(C)を含むラジカル硬化性樹脂組成物であって、該ラジカル重合性オリゴマー(A)は、臭素含有ビニルエステルを含み、該臭素含有ビニルエステル、ラジカル重合性単量体(B)及び液状ゴム(C)の含有割合は、ラジカル重合性オリゴマー(A)と、ラジカル重合性単量体(B)と、液状ゴム(C)を含む全ての熱可塑性樹脂及びエラストマーとの合計量100質量%に対し、それぞれ30~65質量%、25~50質量%及び10~30質量%であるラジカル硬化性樹脂組成物である。
【0008】
上記ラジカル硬化性樹脂組成物は、更に、前記液状ゴム(C)以外の熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(D)を含み、該熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(D)は、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン及び(メタ)アクリレート系重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
また第2の本発明は、ラジカル重合性オリゴマー(A)、ラジカル重合性単量体(B)、並びに、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(E)を含むラジカル硬化性樹脂組成物であって、上記ラジカル重合性オリゴマー(A)は、臭素含有ビニルエステルを含み、上記熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(E)は液状ゴム(C)と、上記液状ゴム(C)以外の熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(D)とを含み、上記臭素含有ビニルエステル、ラジカル重合性単量体(B)、並びに、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(E)の含有割合は、ラジカル重合性オリゴマー(A)と、ラジカル重合性単量体(B)と、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(E)との合計量100質量%に対し、それぞれ30~65質量%、25~50質量%及び10~30質量%であるラジカル硬化性樹脂組成物である。
【0010】
上記熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(D)は、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン及び(メタ)アクリレート系重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
上記臭素含有ビニルエステルは、スチレン30質量%含有での樹脂硬化物のガラス転移温度が130~170℃であることが好ましい。
【0012】
上記液状ゴム(C)は、数平均分子量が6万以下であることが好ましい。
【0013】
上記ラジカル重合性単量体(B)は2個以上の重合性基を有する化合物を含むことが好ましい。
【0014】
上記ラジカル重合性オリゴマー(A)は、更に、スチレン30質量%含有での樹脂硬化物のガラス転移温度が130~170℃である臭素非含有ビニルエステル、及び/又は、スチレン30質量%含有での樹脂硬化物のガラス転移温度が130~250℃である不飽和ポリエステルを含むことが好ましい。
【0015】
本発明はまた、上記ラジカル硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物でもある。
以下、本明細書中において、単に「本発明」という場合には第1及び第2の本発明に共通する事項を意味するものとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のラジカル硬化性樹脂組成物は上述のような構成であるので、その硬化物において、低熱膨張化を達成し、高度な寸法安定性とともに、耐熱性、靱性、難燃性及び表面平滑性等の各種物性をバランス良く発揮することができる。また、常温(25℃)で液状であるため、取扱い性や作業性が良好である。それゆえ、例えば、ライニング材、接着剤、電気絶縁塗料等の他、建材、ハウジング類、機械部品、電子・電気部品、車両部品、船舶部品、航空機部品等の様々な分野で多大な貢献をなすものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。
【0018】
〔ラジカル硬化性樹脂組成物〕
本発明のラジカル硬化性樹脂組成物(単に「樹脂組成物」とも称す)は、ラジカル重合性オリゴマー(A)と、ラジカル重合性単量体(B)と、液状ゴム(C)とを含む(以下では「成分(A)」等とも略す。)。必要に応じ、更に他の成分を1種又は2種以上含んでいてもよく、各含有成分はそれぞれ1種又は2種以上を使用することができる。
【0019】
本明細書中、ラジカル重合性オリゴマー(A)とラジカル重合性単量体(B)との混合物を「ラジカル重合性樹脂」又は「ラジカル硬化性樹脂」とも総称する。また、「ラジカル重合性オリゴマー(A)と、ラジカル重合性単量体(B)と、液状ゴム(C)を含む全ての熱可塑性樹脂及びエラストマーとの合計量」とは、ラジカル重合性オリゴマー(A)と、ラジカル重合性単量体(B)と、液状ゴム(C)と、更に後述する成分(D)(液状ゴム(C)以外の熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(D))を含む場合は当該成分(D)と、の合計量を意味する。
【0020】
<(A)ラジカル重合性オリゴマー>
本発明の樹脂組成物において、ラジカル重合性オリゴマー(A)は、臭素含有ビニルエステル(臭素化ビニルエステルとも称す)を必須に含む。臭素含有ビニルエステルの含有量は、成分(A)、(B)及び(C)(但し、後述の成分(D)を更に含む場合は、成分(A)、(B)、(C)及び(D))の合計量100質量%に対し、30~65質量%である。この範囲内であることで、本発明の作用効果を充分に発揮することが可能となる。効果をより一層発現させる観点から、臭素含有ビニルエステルの含有割合の下限は、好ましくは35質量%以上、より好ましくは38質量%以上であり、また上限は、好ましくは63質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0021】
本発明ではまた、成分(A)、(B)及び(C)(但し、後述の成分(D)を更に含む場合は、成分(A)、(B)、(C)及び(D))の総量100質量%に対する臭素原子含有量が、10質量%以上であることも好適である。これにより、低熱膨張化をより達成できるとともに、硬化物の難燃性が更に向上する。より好ましくは12質量%以上、更に好ましくは14質量%以上である。また、ラジカル重合性単量体(B)との相溶性を高める観点から、上限は45質量%以下であることが好ましい。より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
本明細書中、上記臭素含有量は後述する実施例に記載の方法により求めることができる。
【0022】
本発明では、ラジカル重合性オリゴマー(A)として、臭素含有ビニルエステルとともに、その他のラジカル重合性オリゴマーを併用することも好適である。ここで、ラジカル重合性オリゴマー(A)の総量100質量%中、臭素含有ビニルエステルが50~100質量%を占めることが好ましく、より好ましくは60~100質量%、更に好ましくは60~99質量%、特に好ましくは60~90質量%である。
【0023】
その他のラジカル重合性オリゴマーとしては特に限定されないが、低熱膨張化をより達成できる観点から、臭素非含有ビニルエステルや不飽和ポリエステルが好ましい。中でも、後述するように、スチレン30質量%含有での樹脂硬化物のガラス転移温度が130~170℃である臭素非含有ビニルエステル、スチレン30質量%含有での樹脂硬化物のガラス転移温度が130~250℃である不飽和ポリエステルがより好ましく、これらのうち少なくとも1以上を含む形態は、本発明の好適な形態の1つである。
以下、各ラジカル重合性オリゴマーについて更に説明する。
【0024】
-臭素含有ビニルエステル-
臭素含有ビニルエステルとは、ビニルエステルの主鎖及び/又は側鎖に臭素原子が導入された化合物であり、中でも、ビニルエステルの主鎖中に臭素原子が導入された化合物が好適である。
【0025】
上記臭素含有ビニルエステルは、スチレン30質量%含有での樹脂硬化物のガラス転移温度(Tgとも称す)が130~170℃であることが好ましい。このような臭素含有ビニルエステルを上述した含有割合で含むと、得られる硬化物において、低熱膨張化をより達成できるとともに、耐熱性や表面平滑性が更に向上する。この効果をより発現させる観点から、上記硬化物のTgは、より好ましくは135℃以上、更に好ましくは140℃以上であり、また、より好ましくは165℃以下、更に好ましくは160℃以下である。
本明細書中、スチレン30質量%含有での樹脂硬化物のTgとは、臭素含有ビニルエステル70質量%とスチレン30質量%とからなる樹脂としたときの、その硬化物のTgを意味し、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。
【0026】
上記臭素含有ビニルエステルは、例えば、臭素を含むエポキシ化合物(臭素化エポキシ化合物若しくは臭素含有エポキシ化合物とも称す)と不飽和一塩基酸との反応により得られる化合物、又は、臭素含有エポキシ化合物と臭素化ビスフェノールAとで高分子量化したエポキシ化合物と不飽和一塩基酸との反応により得られる化合物が好適である。この反応で使用される各原料は1種又は2種以上使用してもよい。また、必要に応じて、臭素を含まないエポキシ化合物を併用してもよい。
【0027】
上記エポキシ化合物に不飽和一塩基酸を付加させる反応では、エポキシ化合物のエポキシ基に対する不飽和一塩基酸のカルボキシル基の当量が0.9~1.2となるように各原料の使用量を設定することが好ましい。また、上記反応の反応温度は特に限定されないが、80~130℃とすることが好ましい。上記反応には、空気存在下で必要に応じて反応触媒や重合禁止剤等を適宜使用してもよい。
上記反応は、例えば、特許第4768161号明細書〔0028〕~〔0035〕等に記載されたビニルエステルの合成反応方法とほぼ同様に行うことが好適である。
【0028】
上記エポキシ化合物としては特に限定されないが、分子内に少なくとも2個以上のエポキシ基を有する化合物が好適である。例えば、ビスフェノール型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、脂肪族型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、単環式エポキシ化合物、アミン型エポキシ化合物等が挙げられ、機械的強度、耐蝕性、耐熱性等の観点から、ビスフェノール型エポキシ化合物が好ましい。臭素含有ビニルエステルを与えるには、これらのエポキシ化合物に臭素原子が1個以上導入された臭素化エポキシ化合物を、不飽和一塩基酸との反応に少なくとも使用することが好適である。
【0029】
上記ビスフェノール型エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールAD型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物等が挙げられる。ノボラック型エポキシ化合物としては、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合等が挙げられる。脂肪族型エポキシ化合物としては、水素添加ビスフェノールA型エポキシ化合物、プロピレングリコールポリグリシジルエーテル化合物等が挙げられる。脂環式エポキシ化合物としては、アリサイクリックジエポキシアセタール、ジシクロペンタジエンジオキシド、ビニルヘキセンジオキシド、ビニルヘキセンジオキシド、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。また、ビスフェノールA等のフェノール化合物や、アジピン酸、セバチン酸、ダイマー酸、液状ニトリルゴム等の二塩基酸により変性したエポキシ化合物を使用することもできる。
【0030】
上記臭素化エポキシ化合物としては、例えば、上述したエポキシ化合物に臭素原子が1個以上導入された化合物が好ましいが、中でも、臭素化ビスフェノール型エポキシ化合物や臭素化ノボラック型エポキシ化合物がより好ましい。更に好ましくは、臭素化ビスフェノール型エポキシ化合物であり、特に好ましくは、下記一般式(1):
【0031】
【0032】
(式中、Yは、-C(CH3)2-、-CH2-、-O-、-S-又は-S(O)2-を表す。a、b、c及びdは、臭素原子の数を表し、同一又は異なって、0~4の整数である。但し、a=b=c=d=0にはならない。mは、0~5の数を表す。)で表される化合物である。
【0033】
上記一般式(1)で表される化合物の中でも好ましくは、Yが-C(CH3)2-を表す化合物(すなわち、臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物)であり、より好ましくは、a、b、c及びdがいずれも2である化合物(すなわち、テトラブロムビスフェノールA型エポキシ化合物)である。なお、1分子中に、ビスフェノール骨格と臭素化ビスフェノール骨格とを含むエポキシ化合物も、臭素化ビスフェノール型エポキシ化合物として用いることができる。
【0034】
上記不飽和一塩基酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸等のモノカルボン酸;二塩基酸無水物と分子中に少なくとも一個の不飽和基を有するアルコールとの反応物;等が挙げられる。二塩基酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の脂肪族又は芳香族のジカルボン酸が挙げられる。低熱膨張化をより達成できる観点から、アクリル酸やメタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。
【0035】
上記臭素含有ビニルエステルの中でも特に好ましくは、上記一般式(1)で表される化合物(中でも、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ化合物が好ましい)を含むエポキシ化合物と、アクリル酸との反応により得られる化合物である。このような化合物は、架橋点が多くなるため、硬化物Tgが上述した好ましい範囲を満たすことができる。それゆえ、得られる硬化物において、低熱膨張化をより達成できるとともに、耐熱性や表面平滑性が更に向上する。
【0036】
上記臭素含有ビニルエステルの数平均分子量は特に限定されないが、例えば、300~2000であることが好ましい。これにより、得られる硬化物において、低熱膨張化をより達成することができる。
【0037】
-臭素非含有ビニルエステル-
上記樹脂組成物は、上述のとおり臭素含有ビニルエステルに加えて、臭素非含有ビニルエステルを含むことも好適である。臭素非含有ビニルエステルとは、臭素原子を含まないビニルエステルである。
【0038】
上記臭素非含有ビニルエステルは、スチレン30質量%含有での樹脂硬化物のガラス転移温度(Tg)が130~170℃であることが好ましい。すなわち臭素非含有ビニルエステル70質量%とスチレン30質量%とからなる樹脂としたときに、その硬化物のTgが130~170℃となることが好適である。このような臭素非含有ビニルエステルを用いると、得られる硬化物において、低熱膨張化をより達成できるとともに、耐熱性や表面平滑性が更に向上する。この効果をより発現させる観点から、上記硬化物のTgは、より好ましくは135℃以上、更に好ましくは140℃以上であり、また、より好ましくは165℃以下、更に好ましくは160℃以下である。
【0039】
上記臭素非含有ビニルエステルは、例えば、臭素化エポキシ化合物を用いないこと以外は上述の臭素含有ビニルエステルと同様に、エポキシ化合物と不飽和一塩基酸との反応により得ることができる。反応の好ましい条件や、使用されるエポキシ化合物の好ましい例等は上述したとおりである。
【0040】
上記臭素非含有ビニルエステルの数平均分子量は特に限定されないが、例えば、200~2000であることが好ましい。より好ましくは300~1000である。
【0041】
-不飽和ポリエステル-
上記樹脂組成物は、上述のとおり臭素含有ビニルエステルに加えて、不飽和ポリエステルを含むことも好適である。
【0042】
上記不飽和ポリエステルは、スチレン30質量%含有での樹脂硬化物のガラス転移温度(Tg)が130℃~250℃であることが好ましい。このような不飽和ポリエステルを用いると、得られる硬化物において、低熱膨張化をより達成できるとともに、耐熱性や表面平滑性が更に向上する。この効果をより発現させる観点から、上記硬化物のTgは、より好ましくは140℃以上である。
【0043】
上記不飽和ポリエステルは、例えば、多塩基酸と、多価アルコールとを縮合反応して得られる化合物である。この反応で使用される各原料は、それぞれ1種又は2種以上使用してもよい。また、ジシクロペンタジエン(DCPD)により変性されていてもよい。
【0044】
上記多塩基酸と多価アルコールとの反応では、これらの使用量比(多塩基酸/多価アルコール及びエポキシ化合物の合計量)を、10/8~10/12(モル%)とすることが好適である。また、上記反応は特に限定されず、通常の合成手段で行えばよい。一般には、不活性ガス雰囲気下、加熱下で実施され、副生する水を除去しながら反応を進める。また、不活性ガス雰囲気下、トルエンやキシレン等の水共沸用溶剤、シュウ酸スズ等のエステル化触媒の存在下又は非存在下に、120~250℃の温度範囲に加熱し、所望の酸価又は粘度(分子量)となるまで脱水縮合してもよい。温度範囲としてより好ましくは、150~220℃である。
【0045】
上記多塩基酸は、α,β-不飽和二塩基酸を含むものが好ましい。α,β-不飽和二塩基酸としては、例えば、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。中でも、無水マレイン酸、マレイン酸及び/又はフマル酸が好ましい。また、飽和多塩基酸を含むものであってもよく、飽和多塩基酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、無水フタル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘット酸等が挙げられる。
【0046】
上記多価アルコールとしては、グリコール(ジオールとも称す)や、エポキシ化合物が挙げられる。
グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等のアルキル置換アルキレングリコール類;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール等のアルキレングリコール類の縮合物;ビスフェノールA、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等のビスフェノール類等;トリメチロールプロパンモノアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル等のアリル基含有アルコール類;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の3価以上のアルコール類;等が挙げられる。
エポキシ化合物としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ) アクリレート、ビスフェノールAのグリシジルエーテル類が挙げられる。
【0047】
上記不飽和ポリエステルの数平均分子量は特に限定されないが、例えば、600~1万であることが好ましい。より好ましくは1000~5000である。
【0048】
上記不飽和ポリエステルは、エステル酸価が1~50mgKOH/gであることが好ましい。より好ましくは5~30mgKOH/gである。
本明細書中、エステル酸価は、例えば、JIS K6901:2008に記載の方法に準拠して求めることができる。
【0049】
<(B)ラジカル重合性単量体>
本発明の樹脂組成物において、ラジカル重合性単量体(B)の含有割合は、成分(A)、(B)及び(C)(但し、後述の成分(D)を更に含む場合は、成分(A)、(B)、(C)及び(D))の合計量100質量%に対し、25~50質量%である。この範囲内にあることで、低熱膨張率化を達成し、高度な寸法安定性を有するとともに、耐熱性や靱性、難燃性、表面平滑性にも優れる硬化物を与えることができ、しかも樹脂組成物を用いる際の取扱い性や作業性が向上する。更に、残留単量体量が低減され、成形品からの放散を抑制することも可能になる。
【0050】
上記ラジカル重合性単量体としては特に限定されず、1分子中に1個の重合性基を有する化合物(単官能化合物とも称す)や、2個以上の重合性基を有する化合物(多官能化合物とも称す)のいずれも好適に使用できる。中でも、硬化物の靱性や耐熱性をより向上し、かつ低熱膨張率化をより図る観点から、多官能化合物を少なくとも用いることが好適である。このように上記ラジカル重合性単量体が、2個以上の重合性基を有する化合物を含む形態は、本発明の好適な形態の1つである。また、後述のとおりスチレンを含むことも好ましく、スチレンと多官能化合物とを併用することが最も好適である。
以下、これらラジカル重合性単量体について更に説明する。
【0051】
-単官能化合物-
単官能化合物としては特に限定されないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ビニルトルエン等の芳香族系単量体;(メタ)アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸;酢酸ビニル、アジピン酸ビニル等のビニルエステル;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレート;等が挙げられる。中でも、重合反応性や相溶性に優れる観点から、芳香環を含む単量体が好ましい。より好ましくは、スチレン、ビニルトルエン及び/又はベンジル(メタ)アクリレートであり、更に好ましくはスチレンである。これにより、耐熱性、靱性及び難燃性等により一層優れる硬化物が得られる。
【0052】
-多官能化合物-
多官能化合物としては特に限定されないが、例えば、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、ジアリルベンゼンホスホネート等の芳香族系単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート等の炭素数2~12を有するアルカンポリオールのジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の炭素数3~12を有するアルカンポリオールの、3価以上のポリ(メタ)アクリレート;ジアリルフタレート、ジアリルフタレートプレポリマー;トリアリルシアヌレート;等が挙げられる。中でも、低熱膨張化や、耐熱性及び靱性向上の観点から、2価以上の(メタ)アクリレートが好ましく、より好ましくは3価以上のポリ(メタ)アクリレートである。
【0053】
<(C)液状ゴム>
第1の本発明の樹脂組成物において、液状ゴム(C)の含有割合は、成分(A)、(B)及び(C)(但し、後述の成分(D)を更に含む場合は、成分(A)、(B)、(C)及び(D))の合計量100質量%に対し、10~30質量%である。この範囲内にあることで、低熱膨張率化を達成し、高度な寸法安定性を有するとともに、耐熱性や靱性、難燃性、表面平滑性にも優れる硬化物を与えることができ、しかも樹脂組成物を用いる際の取扱い性や作業性が向上する。これらの効果をより一層発現させる観点から、成分(C)の含有割合の下限は、好ましくは11質量%以上であり、また、上限は、好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0054】
上記液状ゴム(C)は、数平均分子量が6万以下であることが好ましい。これにより、他の含有成分との相溶性に優れ、硬化物の靱性や表面平滑性がより向上される他、上記樹脂組成物が保存安定性や取扱い性により優れたものとなる。より好ましくは5万以下である。また、数平均分子量の下限は特に限定されないが、例えば、50以上であることが好ましい。中でも、硬化物の靱性向上の観点から、500以上であることが好ましく、より好ましくは1500以上である。
【0055】
上記液状ゴム(C)はまた、80℃粘度が15Pa・s以下であることが好適である。より好ましくは13Pa・s以下、更に好ましくは10Pa・s以下である。
なお、化合物の80℃粘度は、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。
【0056】
上記液状ゴム(C)として具体的には、常温(25℃)で液状となるものが好ましく、例えば、液状ポリイソプレン、液状ポリイソブチレン、液状ポリブタジエン、液状ブタジエンゴム、液状ブチルゴム、液状スチレンブタジエンゴム、液状ニトリルブタジエンゴム、液状アクリルニトリルゴム、液状クロロプレンゴム、液状ポリサルファイド、液状フェノール樹脂、液状エポキシ樹脂、液状キシレン樹脂等が挙げられる。中でも、液状ポリイソプレン、液状ポリブタジエン、液状アクリルリトリルゴム、液状キシレン樹脂が好ましい。液状ポリブタジエンの中でも、両末端に水酸基及び/又はカルボン酸基を有する化合物が好適である。
また、液状ゴム(C)としては、上記液状ゴムを酸変性したもの、上記液状ゴムに酸成分を重合させた化合物も好ましい。例えば、カルボキシル基末端ブタジエンアクリルニトリルゴム、マレイン酸変性イソプレン、アクリルニトリル・ブタジエン・メタクリル酸共重合物などが挙げられる。
【0057】
<(D)熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー>
本発明の樹脂組成物はまた、液状ゴム(C)以外の、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(D)(成分(D)とも称す)を1種又は2種以上含んでいてもよい。なお、エラストマーとは、ゴム及び熱可塑性エラストマーを包含する。また、液状ゴム(C)と熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(D)とを含む組成物を、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(E)とも称する。
【0058】
本発明の樹脂組成物が成分(D)を含む場合、その含有割合は、成分(C)と(D)との合計量100質量%のうち、50質量%以下であることが好ましい。すなわち言い替えれば、成分(C)と(D)との合計量100質量%のうち、成分(C)が50質量%以上であることが好ましい。より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。
【0059】
本発明の樹脂組成物は、液状ゴム(C)と熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(D)とを含むものであることが好ましい。本発明の樹脂組成物が液状ゴム(C)と、更に熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(D)とを含むことにより、ラジカル重合性オリゴマー(A)及びラジカル重合性単量体(B)との相溶性が向上し、これらの混合物の経時変化による分離をより充分に抑制することができる。また、樹脂組成物の硬化時に液状ゴム(C)が分離して割れることをより充分に抑制するために、液状ゴム(C)の添加量を減量することがある。この場合にも、樹脂組成物が相溶性の良い熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(D)を含むことにより、線膨張係数をより充分に低下させることができ、寸法安定性をより向上させることができる。
すなわち、第2の本発明は、ラジカル重合性オリゴマー(A)、ラジカル重合性単量体(B)、並びに、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(E)を含むラジカル硬化性樹脂組成物であって、上記ラジカル重合性オリゴマー(A)は、臭素含有ビニルエステルを含み、上記熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(E)は液状ゴム(C)と、上記液状ゴム(C)以外の熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(D)とを含み、上記臭素含有ビニルエステル、ラジカル重合性単量体(B)、並びに、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(E)の含有割合は、ラジカル重合性オリゴマー(A)と、ラジカル重合性単量体(B)と、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(E)との合計量100質量%に対し、それぞれ30~65質量%、25~50質量%及び10~30質量%であるラジカル硬化性樹脂組成物である。
【0060】
第2の本発明における熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(E)の含有割合は、ラジカル重合性オリゴマー(A)と、ラジカル重合性単量体(B)と、熱可塑性樹脂及び/又はエラストマー(E)との合計量100質量%に対して、好ましくは10~25質量%であり、より好ましくは10~20質量%である。
【0061】
上記熱可塑性樹脂及び/又はエラストマーとしては特に限定されないが、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、架橋ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル-ポリスチレンブロックコポリマー、アクリル/スチレン等の多相構造ポリマー、架橋/非架橋等の多相構造ポリマー、キシレン樹脂、ゴム化合物、ポリエステル等が挙げられ、本発明の作用効果をより充分に発揮する観点から、上述したラジカル重合性オリゴマー(A)と相溶性に優れる化合物を用いることが好ましい。具体的には、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン及び(メタ)アクリレート系重合体からなる群より選択される少なくとも1種の化合物が好適である。ポリスチレンは、スチレンの重合体であればよい。以下に、ポリ酢酸ビニル及び(メタ)アクリレート系重合体について更に説明する。
【0062】
-ポリ酢酸ビニル-
ポリ酢酸ビニルとしては特に限定されず、例えば、酢酸ビニルホモポリマーの他、エチレン-酢酸ビニル系共重合体、エチレン-酢酸ビニル-アクリル酸エステル系共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸エステル系共重合体等の共重合体が挙げられる。また、変性処理をした変性ポリ酢酸ビニルであってもよい。中でも、酢酸ビニルホモポリマーや、酸変性されたポリ酢酸ビニル(酸変性ポリ酢酸ビニルとも称す)が好ましい。また、スチレンに溶解して作業性を改良したポリ酢酸ビニルも好適に使用される。
【0063】
-(メタ)アクリレート系重合体-
(メタ)アクリレート系重合体としては、例えば、アクリル樹脂、メタクリル酸メチルブタジエンスチレン共重合体、スチレンメタクリル酸メチル無水マレイン酸共重合体、エチレンアクリレート共重合体等が挙げられる。
【0064】
上記アクリル樹脂としては、特に制限はなく、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。このうち合成する場合には、以下に例示されるモノマーを重合又は共重合して得られるものを用いることができる。
すなわち、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等);2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシ含有モノマー;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマー;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸又はその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等のカルボキシ基又はその塩を有するモノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジアルキルアクリルアミド、N,N-ジアルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)、N-アルコキシアクリルアミド、N-アルコキシメタクリルアミド、N,N-ジアルコキシアクリルアミド、N,N-ジアルコキシメタクリルアミド(アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基等)、アクリロイルモルホリン、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-フェニルアクリルアミド、N-フェニルメタクリルアミド等のアミド基を有するモノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物のモノマー;2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-メチル-2-オキサゾリン等のオキサゾリン基含有モノマー;メトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルトリアルコキシシラン、アルキルマレイン酸モノエステル、アルキルフマール酸モノエステル、アルキルイタコン酸モノエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ブタジエン等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、市販品としては、例えば、ダイヤナールBR-77(T)、ダイヤナールBR-106、ダイヤナールMB-7601、ダイヤナールMB-7602、ダイヤナールMB-7603(いずれも三菱レイヨン社製)等を用いることができる。
【0065】
本発明の樹脂組成物は、成分(A)、(B)及び(C)のみからなる組成物(但し、更に成分(D)を含む場合は、成分(A)、(B)、(C)及び(D)のみからなる組成物)の25℃粘度が50~3000mPa・sであることが好適である。これにより、作業性や取扱い性がより向上され、各種用途により有用なものとなる。25℃粘度の下限は、より好ましくは50mPa・s以上、更に好ましくは100mPa・s以上であり、また、上限は、より好ましくは6000mPa・s以下、更に好ましくは1000mPa・s以下である。上記組成物の25℃粘度は、例えば、ブルックフィールド型粘度計により求めることができる。
【0066】
本発明の樹脂組成物は、成形材料の樹脂成分として用い硬化させて使用されることが好ましく、例えば、該樹脂組成物を実質的にそのまま成形材料として使用したり、塗膜形成成分等として使用したりすることができる。特に成形材料として使用する場合は、無機充填剤及び/又は繊維強化材を配合して使用することが好ましく、これらを含む成形材料は成形性に優れるとともに、物性や難燃性などに優れた成形品を与える点で、本発明の好ましい実施態様の一つである。
【0067】
無機充填剤としては特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、金属粉末、カオリン、タルク、ミルドファイバー、珪砂、珪藻土、結晶性シリカ、溶融シリカ、ガラス粉、クレー等が挙げられ、使用用途に応じて適時選択すればよい。中でも、水酸化アルミニウムは、成形性に優れ、かつ難燃性向上効果も有している点で好適である。
【0068】
無機充填剤は、ラジカル重合性樹脂100質量部に対し、30~400質量部の範囲で配合することが好ましい。
【0069】
繊維強化材の素材も特に限定されず、例えば、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維;ポリビニルアルコール系、ポリエステル系、ポリアミド系(全芳香族系も含む)、フッ素樹脂系、フェノール系の各種有機繊維;を適宜選択して使用できる。繊維強化材の形状も、クロス;チョップドストランドマット、プリフォーマブルマット、コンティニュアンスストランドマット、サーフェーシングマット等のマット状;チョップ状;ロービング状;不織布状;ペーパー状;等、いかなる形状であっても差し支えない。
【0070】
繊維強化材は、目的とする成形品の形状に応じて予めその形状を決めておき、硬化前のラジカル硬化性樹脂組成物に含浸させて使用する方法や、ラジカル硬化性樹脂組成物中にチョップ状の強化繊維を混合して成形材料とし、これを所望形状に成形する等の方法で使用することができる。
【0071】
繊維強化材は、ラジカル重合性樹脂100質量部に対し、20~300質量部の範囲で使用することが好ましい。20質量部未満では、成形品が強度不足になることがあり、300質量部を超えると、成形品の耐水性や耐薬品性等が低下することがあるからである。より好ましい繊維強化材の配合量は、30~250質量部である。
【0072】
本発明の樹脂組成物を実際に硬化させて使用する際には、熱重合開始剤や光重合開始剤、光増感剤等を配合して加熱するか、又は、紫外線、電子線、放射線等の活性エネルギー線を照射すればよい。
【0073】
熱重合開始剤としては公知のものを使用でき、具体的には、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-へキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシネオジケネート、ラウリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサノン、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジエチルバレロニトリル等のアゾ系化合物が挙げられる。
【0074】
また熱重合時に硬化促進剤を混合することも有効である。硬化促進剤としては、例えば、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト等の金属石鹸;三級アミン;等が代表例として挙げられる。これらは使用する熱重合開始剤との組み合わせにより適時選択すればよい。熱重合開始剤の使用量は、ラジカル重合性樹脂100質量部に対し、0.1~5.0質量部とすることが好ましい。
【0075】
光重合開始剤としては公知のものが特に限定されず使用できる。光重合開始剤の使用量は、ラジカル重合性樹脂100質量部に対し、0.1~5.0質量部とすることが好ましい。また、公知の光増感剤を併用することも勿論有効である。
【0076】
光重合開始剤を配合したラジカル硬化性樹脂組成物や成形材料を硬化させるには、紫外線、電子線、放射線等の活性エネルギー線を公知の装置を用いて成形材料に照射すればよい。紫外線照射装置としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ等を備えたものが使用可能である。また、電子線照射装置としては、例えば、走査型エレクトロカーテン型、カーテン型、ラミナー型、エリアビーム型、ブロードビーム型、パルスビーム型等が挙げられる。
【0077】
本発明の樹脂組成物を成形材料として使用するにあたっては、上述した無機充填材や繊維強化材の他、含リン化合物、含窒素化合物、赤燐、酸化アンチモン、ホウ素化合物等を難燃剤や難燃助剤として配合することも可能である。更には、必要に応じて顔料、着色剤、耐炎剤、消泡剤、湿潤剤、分散剤、防錆剤、静電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等を配合することができる。
【0078】
〔硬化物〕
本発明のラジカル硬化性樹脂組成物は、低熱膨張率化を達成し、高度な寸法安定性を有するとともに、耐熱性や靱性、難燃性、表面平滑性にも優れる硬化物を与えることができる。それゆえ、接着剤や電気絶縁塗料等の様々な分野で有効に利用でき、また該樹脂組成物をそのまま又は上述した無機充填材や繊維強化材等と複合することにより、例えば、建材、ハウジング類、注型材、更には機械部品、電子・電気部品、車両、船舶、航空機等の各部材等に幅広く使用できる。このような上記ラジカル硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物(上記樹脂組成物の硬化物とも称す)もまた、本発明に包含される。
【0079】
上記樹脂組成物の硬化方法としては特に限定されず、例えば、施工直前(又は成形直前)に、硬化剤を樹脂組成物に混合し硬化させることが好適である。また、硬化促進剤と硬化剤の組み合わせにより常温(室温)でも硬化可能である。硬化促進剤と硬化剤の組み合わせとしては、例えば、オクテン酸コバルトとクメンハイドロパーオキサイドである。また、加熱硬化で行うのが好ましく、硬化温度は、好ましくは50~190℃、より好ましくは80~180℃である。硬化時間は1~180分とすることが好ましく、より好ましくは10~100分である。このような条件で硬化させることにより硬化が完結し、未反応のラジカル重合性単量体(B)が消費される。
【0080】
上記硬化物は、無機充填材を含む硬化物とした場合の線膨張係数が40×10-6/K以下であることが好適である。より好ましくは39×10-6/K以下、更に好ましくは38×10-6/K以下、特に好ましくは37×10-6/K以下である。本発明の樹脂組成物を用いることで、このように低膨張率化を図ることができるため、寸法安定性や平滑性等の各種物性に優れ、高外観を呈する硬化物を与えることができる。
本明細書中、硬化物の線膨張係数は、例えば、後述する実施例に記載の測定方法に従って求めることができる。
【0081】
上記硬化物の形状として、例えば、塗膜形状、成形品(成型品とも称す)形状等が挙げられる。以下では、これらを得る方法について更に説明する。
【0082】
-塗膜-
上記硬化物が塗膜である場合、該塗膜を形成する方法としては特に限定されず、例えば、上記樹脂組成物に硬化剤を混合し、基材に塗布した後硬化させることにより被膜を成形する方法;マット状の繊維強化材を用いる場合には、上記樹脂組成物に硬化剤を混合し、ハンドレイアップ等により繊維強化材を含浸させて被覆材とし、硬化させることにより被膜を形成する方法;等が挙げられる。
【0083】
上記基材としては特に限定されず、例えば、ガラス、スレート、コンクリート、モルタル、セラミック、石材等の無機質基材;アルミニウム、鉄、亜鉛、錫、銅、チタン、ステンレス、ブリキ、トタン等からなる金属板、表面に亜鉛、銅、クロム等をメッキした金属、表面をクロム酸、リン酸等で処理した金属等の金属基材;ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)、FRP(織維強化プラスチック)、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリオレフィン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ナイロン樹脂等のプラスチック基材;合成皮革;ヒノキ、スギ、マツ、合板等の木材;繊維、紙等の有機素材;等が挙げられる。これらの基材は、上記樹脂組成物が塗装される前に、通常用いられるプライマーや、下塗り、中塗り、メタリックベース等の上塗り等塗装用塗料が塗装されていてもよい。
【0084】
上記樹脂組成物を基材に塗布する方法としては、用途等により適宜設定すればよいが、塗装方法としては、例えば、浸漬塗り、刷毛塗り、ロール刷毛塗り、スプレーコート、ロールコート、スピンコート、ディップコート、スピンコート、バーコート、フローコート、静電塗装、ダイコート、フイルムラミネート、ゲルコート等が挙げられる。
【0085】
-成形品-
上記硬化物が成形品である場合、該成形品を得る方法としては特に限定されず、例えば、通常の注型法、圧縮成形法、遠心成形法、射出成形法、トランスファー成形法、インジェクション成形法、押出成形法等を採用することができる。
【実施例】
【0086】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「部」は「質量部(重量部)」を、「%」は「質量%」を、それぞれ意味するものとする。
なお、下記実施例等で採用した各種物性の測定・評価方法を下記する。
【0087】
<物性評価>
1.成分(A)の樹脂硬化物のガラス転移温度(Tg)(スチレン30質量%含有樹脂硬化物のTg)
ラジカル重合性オリゴマー(A)を合成後、ラジカル重合性単量体であるスチレンを加えて、スチレンを30%含有するラジカル重合性樹脂を調製した。このラジカル重合性樹脂100部に対して、硬化剤(80%クメンハイドロパーオキサイド(日本油脂社製、パークミルH-80))1.0部を添加、混合後、厚さ3mmのシリコンゴム製スペーサーをガラス板(70mm×150mm)2枚で挟んだ容器に注型した。熱風乾燥器中で、100℃×60分加熱した後、更に175℃×30分加熱することよりラジカル重合性樹脂を硬化させて、65mm×140mm(厚さ3mm)の樹脂硬化物を得た。樹脂硬化物より5mm×5mm×3mmの試験片を切削加工し、熱機械分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、EXSTAR TMA SS7100)にてTgを測定した。5℃/分の昇温速度で室温より230℃まで昇温し、測定される線膨張係数(α)の変曲点よりガラス転移点(Tg)を決定した。
【0088】
2.臭素含有量
原料である臭素化エポキシ化合物(合成例1~4で使用したテトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂)及びテトラブロモビスフェノールA(合成例4で使用)の臭素含有率は、各製品の試験表値より、それぞれ48.0%、58.8%であった。
この臭素含有量と合成時の各原料使用量とから、ラジカル重合性オリゴマー(A)(臭素含有ビニルエステル)とスチレン30%とからなるラジカル重合性樹脂中の臭素含有率(各合成例中に記載)、並びに、成分(A)~(D)の総量100質量%に対する臭素含有率(表1又は2中に記載)をそれぞれ求めた。
【0089】
3.化合物の分子量
測定対象の化合物(又は混合物)をTHF(テトラヒドロフラン)溶剤に溶解し、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)にて分子量を求めた。その際、市販の単分散標準ポリスチレンを用いて検量線を作成し、下記換算法に基づいて求めた。
装置:HLC-8320GPC(東ソー社製)、検出器:示差屈折率計
カラム:TSKgelSuperH2000、TSKgelSuperH2500、TSKgelSuperH3000(東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料濃度:固形分量で1重量%
移動相:THF
分子量換算:ポリスチレン換算(汎用較正法)
【0090】
4.成分(C)の80℃における粘度
蓋付き200mlガラス瓶に試料を200mlとり、80℃に温度調整した熱風乾燥器中に90分放置したのち、試料を撹拌後、DV-11+Pro(ブルックフイールド社製)を使用して、成分(C)の80℃での粘度を測定した。
【0091】
5.コンパウンド硬化物の線膨張係数、難燃性、耐水性及び表面平滑性評価
(1)線膨張係数(α)
樹脂組成物100部に、水酸化アルミニウム(昭和電工社製、ハイジライトH-320)150部と、80%クメンハイドロパーオキサイド(日本油脂社、パークミルH-80)1.0部を加えて混合後、減圧脱泡を行い、コンパウンドを調製した。
コンパウンドを、上記1.と同様の方法により硬化させ、厚さ3mmのコンパウンド硬化物を得た。硬化物より切削加工して得られた試験片を用い、熱機械分析装置により、ガラス転移点(Tg)を測定した。
【0092】
(2)難燃性
上記「(1)線膨張係数(α)」で得たコンパウンド硬化物について、UL規格(Underwriters Laboratories Inc.)のUL94規格(プラスチック材料燃焼性試験)に準拠して燃焼試験を行った。V-0基準を満たしたものを「○」、満たさなかったものを「×」とした。
【0093】
(3)耐水性
上記「(1)線膨張係数(α)」で得たコンパウンド硬化物より長さ75mm、幅25mmの試験片を切り出し、JIS K6919(2009年)に規定された煮沸吸水率測定法に準拠して、沸騰蒸留水中に60分浸漬後、試験片の外観変化を目視観察した。外観変化認められない場合を「○」とし、吸水による白化、膨れ等の外観変化が認められた場合を「×」とした。
【0094】
(4)表面平滑性
上記「(1)線膨張係数(α)」で得たコンパウンド硬化物について、目視及び指触により表面平滑性を評価した。目視及び指触のいずれによっても凹凸が認められない場合を「○」、目視または指触で凹凸が認められた場合を「×」とした。
【0095】
6.耐熱性評価(樹脂組成硬化物)
樹脂組成物100部に、硬化剤として80%クメンハイドロパーオキサイドを1重量部添加し、混合した。上記1.と同様の方法により、注型し65mm×140mm(厚さ3mm)の樹脂組成硬化物を得た。硬化物より切削加工して得られた試験片を用い、熱機械分析装置によりガラス転移点(Tg)を測定した。このTgを耐熱性の指標とした。
【0096】
合成例1:臭素化ビニルエステル樹脂(1)の合成
撹拌機、還流冷却器、ガス導入管、温度計を備えた反応容器(フラスコ)に、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂(新日鐵住金化学社製「エポトート(R)YDB-400、エポキシ当量400)1200部、メタクリル酸260部、トリエチルアミン2.9部、ハイドロキノン0.3部を仕込み、空気を導入しながら110℃で8時間反応させることにより、酸価2.0mgKOH/gの臭素化ビニルエステルを得た。
得られた臭素化ビニルエステルにスチレン626部を加えることにより、スチレン30質量%含有の臭素含有ビニルエステル樹脂(1)(臭素含有量27.6%)を得た。樹脂硬化物のガラス転移温度は、147℃であった。
【0097】
合成例2:臭素化ビニルエステル樹脂(2)
合成例1において、スチレンをビニルトルエンに変更した以外は同一の方法で、ビニルトルエン30質量%含有の臭素含有ビニルエステル樹脂(2)(臭素含有率27.6%)を得た。樹脂硬化物のガラス転移温度は、147℃であった。
【0098】
合成例3:臭素化ビニルエステル樹脂(3)
合成例1において、スチレンをベンジルメタクリレートに変更した以外は同一の方法で、ベンジルメタクリレート30質量%含有の臭素含有ビニルエステル樹脂(3)(臭素含有率27.6%)を得た。樹脂硬化物のガラス転移温度は、140℃であった。
【0099】
合成例4:臭素化ビニルエステル樹脂(4)の合成
合成例1と同様の反応容器(フラスコ)に、ビスフェノールA(BPA;三井化学社製「ビスフェノールA」)285部、テトラブロモビスフェノールA(東ソー社製「フレームカット(R)120G」)408部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三井化学社製「エポミック(R)R-139S」、エポキシ当量185)920部、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂(新日鐵住金化学社製「エポトート(R)YDB-400」、エポキシ当量400)804部、トリエチルアミン5.2部、ハイドロキノン0.52部を仕込み、空気を導入しながら110℃で4時間反応させた。メタクリル酸263部を加え、更に110℃で5時間反応させることにより、酸価4.0mgKOH/gの臭素化ビニルエステルを得た。
この臭素化ビニルエステルにスチレン1149部を加えることにより、スチレン30質量%含有の臭素含有ビニルエステル樹脂(4)(臭素含有率16.3%)を得た。樹脂硬化物のガラス転移温度は、122℃であった。
【0100】
合成例5:臭素非含有ビニルエステル樹脂(1)の合成
合成例1と同様の反応容器(フラスコ)に、エポキシ樹脂(三井化学社製「エポミック(R)R-139S」)793部、メタクリル酸387部、ハイドロキノン1部、トリエチルアミン6部を仕込み、空気を導入しながら110℃で4時間反応させることにより、酸価5.6mgKOH/gのビニルエステルを得た。
得られたビニルエステルにスチレン505部を加えることにより、スチレン30質量%含有の臭素非含有ビニルエステル樹脂(1)(臭素含有率0%)を得た。樹脂硬化物のガラス転移温度は、146℃であった。
【0101】
合成例6:不飽和ポリエステル樹脂(1)の合成
撹拌機、還流冷却器、ガス導入管、温度計を備えた反応容器(フラスコ)に、プロピレングリコール1026部、ジプロピレングリコール503部、無水マレイン酸1470部、ハイドロキノン0.6部を仕込み、容器内を窒素置換し、200℃で9時間脱水縮合反応させることにより、酸価10mgKOH/gの不飽和ポリエステルを得た。
得られた不飽和ポリエステルにスチレン1170部を加えることにより、スチレン30質量%含有の不飽和ポリエステル樹脂(1)を得た。樹脂硬化物のガラス転移温度は、190℃であった。
【0102】
実施例1
臭素化ビニルエステル樹脂(1)55部、不飽和ポリエステル樹脂(1)25部、トリメチロールプロパントリメタクリレート(新中村化学社製)5部、液状ゴム(1)(日本ゼオン社製、アクリロニトリルブタジエンゴム、「Nipol(R)1312」)15部を混合して、樹脂組成物を調製した。
この樹脂組成物を用いて、上記5.に記載の方法にて樹脂組成硬化物を作製し、上記6.に記載の方法にてコンパウンド硬化物を作製し、上述した方法にて各種物性を評価した。結果を表1に示す。
【0103】
実施例2~12、比較例1~7、9、10
表1又は2に示す成分を用いて各樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を用いて、実施例1と同様に樹脂組成硬化物、コンパウンド硬化物を作製し、各種物性を評価した。結果を表1、2に示す。
【0104】
【0105】
【0106】
表1、2中、配合比(質量%)は、成分(A)、(B)及び(C)(但し、成分(D)を含む場合は、成分(A)、(B)、(C)及び(D))の総量を100質量%としたときの、臭素含有ビニルエステル、成分(B)及び成分(C)それぞれの含有割合である。
【0107】
表1、2に記載の原料は以下のとおりである。なお、液状ゴム(C)の分子量及び80℃粘度は、上述した方法にて評価又は測定した。
【0108】
液状ゴム(1):日本ゼオン社製、アクリロニトリルブタジエンゴム、「Nipol(R)1312」、Mn:2500、Mw:6700、80℃粘度:2.5Pa・s
液状ゴム(2):クラレ社製、液状ポリイソプレンゴム、「クラプレン(登録商標)LIR-30」、Mn:40000、Mw:49000、80℃粘度:9.2Pa・s
液状ゴム(3):日本曹達社製、両末端水酸基ポリブタジエン、「NISSO-PB G-1000」、Mn:2100、Mw:5000、80℃粘度:0.5Pa・s
【0109】
ポリ酢酸ビニル:ワッカー社製、酸変性酢酸ビニル、「C-305」、Mn:20000、Mw:50000
ポリスチレン:DIC社製、ポリスチレン、「デイックスチレンGPPS CR-3500」
キシレン樹脂:フドー社製、「ニカノール(登録商標)H」、Mn:60、Mw:720、80℃粘度:0.4Pa・s
【0110】
上述した実施例及び比較例より、以下の事項を確認した。
実施例1~12で得た樹脂組成物はいずれも、臭素含有ビニルエステルと、ラジカル重合性単量体(B)と、液状ゴム(C)とを含み、これらの含有量が本発明で規定した範囲内にある樹脂組成物である。この樹脂組成物を用いて得たコンパウンド硬化物はいずれも、線膨張係数が低く、寸法安定性に優れていた。また、難燃性、耐水性及び表面平滑性も良好であり、樹脂組成硬化物のガラス転移点も高く、良好な耐熱性を示した。
【0111】
これに対し、比較例1~3は液状ゴム(C)を使用しなかった例であるが、この場合、コンパウンド硬化物の線膨張係数が高く、寸法安定性に劣っていた。比較例3では更に、樹脂組成硬化物のガラス転移点が低く、耐熱性も劣っていた。また、比較例4、5は、液状ゴム(C)を使用したものの、その含有量が本発明で規定した範囲外となる例である。このうち比較例4では、コンパウンド硬化物の線膨張係数が高く、寸法安定性に劣っていた。一方、比較例5では、硬化物作製時に成分(C)の分離が著しく発生したため、硬化物は不均一で表面凹凸が激しく、物性を評価することができなかった。
【0112】
比較例6、7は、液状ゴム(C)を含まないものの、液状ゴム(C)の代わりに他の成分を使用した例である。このうちポリ酢酸ビニルを用いた比較例6では、耐水性試験で外観の白化が著しく発生し、耐水性に劣っていた。ポリスチレンを用いた比較例7では、比較例5と同様に、硬化物作製時に成分(C)の分離が著しく発生したため、硬化物は不均一で表面凹凸が激しく、物性を評価することができなかった。
【0113】
比較例9は、ラジカル重合性単量体(B)の含有量が本発明で規定した範囲を上回る例であるが、この場合、比較例5、7と同様に、硬化物作製時に成分(C)の分離が著しく発生したため、硬化物は不均一で表面凹凸が激しく、物性を評価することができなかった。比較例10は、臭素含有ビニルエステルを使用しなかった例であるが、この場合、難燃性が劣り、線膨張係数αも、実施例1~12と比較して高くなった。
【0114】
従って、本発明の構成の樹脂組成物とすることによって初めて、硬化物において、低熱膨張化を達成し、高度な寸法安定性とともに、耐熱性、靱性、難燃性、耐水性及び表面平滑性等の各種物性をバランス良く発揮することができることが分かった。
なお、本発明で規定された組成比(臭素含有ビニルエステル、ラジカル重合性単量体(B)、並びに、液状ゴム(C)の含有割合は、成分(A)、(B)及び(C)(但し、成分(D)を含む場合は、成分(A)、(B)、(C)及び(D))の合計量100質量%に対し、それぞれ30~65質量%、25~50質量%及び10~30質量%である)の範囲外となる組成でワニス硬化物を作製した場合、各成分の相溶性が悪く、熱硬化とともに分離が進み、平滑性が得られなかった。上記範囲内の組成では、各成分が均一に混合され、熱硬化しても分離せず、平滑性がある表面となった。