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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】高強度溶融亜鉛めっき鋼帯
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220207BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20220207BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20220207BHJP
   C22C 18/04 20060101ALN20220207BHJP
   C22C 18/00 20060101ALN20220207BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C22C38/60
C21D9/46 J
C22C18/04
C22C18/00
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018531250
(86)(22)【出願日】2016-12-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-31
(86)【国際出願番号】 EP2016081254
(87)【国際公開番号】W WO2017102982
(87)【国際公開日】2017-06-22
【審査請求日】2019-12-13
(31)【優先権主張番号】15200241.6
(32)【優先日】2015-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】15200828.0
(32)【優先日】2015-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】ヨースト、ビレム、ヘンドリック、ファン、クレフェル
(72)【発明者】
【氏名】コルネリア、イオネスク
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-284776(JP,A)
【文献】特開2010-043360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/60
C21D 9/46
C22C 18/04
C22C 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%において、以下の成分、
0.11~0.19%のC
1.45~2.20%のMn
最大1.50%のSi
0.1~1.50%のAl
0.001~0.04%のP
0.0005~0.005%のB
0.005~0.30%のV
最大0.015%のN
最大0.05%のS
および、所望により、以下から選択される1以上の成分、
最大0.004%のCa
最大0.10%のNb
最大0.50%のCr
最大0.20%のMo
最大0.20%のNi
最大0.20%のCu
最大0.20%のTi
(Al+Siの量は、0.70~1.60質量%である。)
残部のFeおよび不可避不純物からなる組成物、
からなり、
650MPa超の最大抗張力Rm、および/または、調質圧延後に300~700MPaの0.2%耐力Rpを有する、高強度溶融亜鉛めっき鋼帯。
【請求項2】
Al+Siの量が0.70~1.50質量%である、請求項1に記載の鋼帯。
【請求項3】
Cの量が0.120.18質量%である、請求項1または2に記載の鋼帯。
【請求項4】
Siの量が0.05~1.0質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼帯。
【請求項5】
Bの量が0.001~0.005質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の鋼帯。
【請求項6】
Vの量が0.01~0.20質量%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の鋼帯。
【請求項7】
Alの量が0.1~1.0質量%である、請求項1~6のいずれか一項に記載の鋼帯。
【請求項8】
Mnの量が1.45~2.10質量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の鋼帯。
【請求項9】
前記鋼帯は、20~50体積%のフェライト、15~25体積%の残留オーステナイトおよびマルテンサイトからなる微細構造を有し、前記残留オーステナイトの含有量は5~15体積%であり、残部は焼戻しマルテンサイト、ベイナイト、セメンタイトおよび析出物/含有物であり、合計は最大100%である、請求項1~8のいずれか一項に記載の鋼帯。
【請求項10】
前記耐力Rpおよび/または最大抗張力Rmについて、前記鋼帯の中央および端部の差は60MPa未満である、請求項1~9のいずれか一項に記載の鋼帯。
【請求項11】
a)鋳鋼を2.0~4.0mmの厚さへ熱間圧延し、コイル化温度Cでコイル化し、前記コイル化した熱間圧延鋼帯は、40~80体積%のフェライト、20~50体積%のパーライトおよび/またはベイナイト、ならびに10体積%未満のセメンタイト/析出物/含有物からなる微細構造を有し、合計は最大100%である、工程と、
b)前記鋼帯を酸洗する、工程と、
c)前記鋼帯を40%以上の圧下率で冷間圧延する、工程と、
d)前記鋼帯を変態区間焼鈍する、工程と、
e)前記鋼帯を過時効区間において焼鈍後に、所望により、急冷および分配、または急冷および焼戻しする、工程と、
f)前記鋼帯を調質圧延する、工程と、
を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の、高強度溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法。
【請求項12】
前記工程a)において、前記鋳鋼を2.0~4.0mmの厚さへ熱間圧延し、Bs+50℃~Ms温度のコイル化温度Cでコイル化し、40~80体積%のフェライト、20~50体積%のパーライトおよび/またはベイナイト、ならびに10体積%未満のセメンタイト/析出物/含有物からなる微細構造を有し、合計は最大100%である、中間熱間圧延鋼帯を得る、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記冷間圧延材料は、請求項11の工程d)にしたがって変態区間焼鈍され、最大40℃/秒の加熱速度が使用され、および/または、1~100秒の中間酸洗が、Ac1温度に達する前に使用され、TRIP支援二重相鋼中に存在するフェライト画分の90%以上の再結晶化フェライトを有する鋼帯が得られ、0.18以上のn4~6値が得られ、前記n4~6値は4~6%の伸長率の焼入特性値である、TRIP支援二重相鋼の製造のための請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記鋼帯がTRIP支援二重相または複合相鋼帯である、請求項1~10のいずれか一項に記載の鋼帯。
【請求項15】
a)請求項11の工程a)による中間熱間圧延鋼帯を提供する工程と、
b)前記鋼帯を酸洗する工程と、
c)前記鋼帯を次に、40%以上の圧下率で冷間圧延する工程と、
d)前記鋼帯を、変態温度Ac1~Ac3の焼鈍加熱温度に供し、その後温度がAc3未満になるときの冷却速度Vcsで1以上の相を冷却し、その後、前記鋼の微細構造がフェライト、ベイナイト、残留オーステナイト、および所望によりマルテンサイトおよび/またはセメンタイトおよび含有物/析出物からなるように選択された、過時効時間toaの間、過時効温度Toaで、相を過時効処理する工程、
e)所望により鋼帯を、過時効区分において、急冷および分配、または急冷および焼戻しに供する工程、
f)前記鋼帯を溶融亜鉛めっきする工程、
g)前記鋼帯を、0.7%未満の伸長率で調質圧延する工程、
を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の、高強度冷間圧延TRIP支援二相鋼帯の製造のための、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
a)請求項11の工程a)による中間熱間圧延鋼帯を提供する工程と、
b)前記鋼帯を酸洗する工程と、
c)前記鋼帯を次に、40%超の圧下率で冷間圧延する工程と、
d)前記鋼帯を、Ac1+50℃超で焼鈍加熱処理し、その後、温度がAc3未満である場合の冷却速度Vcsで1以上の相を冷却し、その後、前記鋼の微細構造がフェライト、ベイナイト、残留オーステナイト、および所望によりマルテンサイトおよび/またはセメンタイトからなるように選択された、過時効時間toaの間、過時効温度Toaで、相を冷却する工程、
e)所望により鋼帯を、過時効区分において、急冷および分配、または急冷および焼戻しに供する工程、
f)前記鋼帯を溶融亜鉛めっきする工程、
g)前記鋼帯を、0.4~2.0%の圧下率で調質圧延する工程、
を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の、高強度冷間圧延TRIP支援二相鋼帯の製造のための、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な表面仕上げおよび向上した機械的強度、特に全体的な強度、延性および可塑性を有する、高強度溶融亜鉛めっき鋼帯に関する。また、本発明は、高強度溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法およびそれらからなる製品にも関する。
【背景技術】
【0002】
過去10年間で、自動車産業において、車両を軽量化し、乗客の安全性および燃費を向上する継続的なニーズが存在している。この新しい挑戦への鉄鋼業界の回答は、より高強度の鋼鉄の急速な開発である。したがって、高強度鋼鉄が提案されてきた。これらの鋼鉄は、従来の鉄鋼グレードと比較して改善された機械的特性により特徴付けられ、以下の、二相(DP)鋼、変態誘起塑性(TRIP)鋼、TRIP支援二重相(TADP)鋼、および複合相(CP)鋼という一般名称の下で知られている。TRIP支援二重相鋼は、残留オーステナイトの存在により更に延性を備える二重相鋼である。残留オーステナイトを含む相は二相より多く存在しているため、正しい名称はTRIP支援多重相鋼とすべきであるが、便宜上、本明細書ではTRIP支援二重相と呼ぶこととする。
【0003】
複合相鋼は、通常は、二重相鋼よりも多くのベイナイトを含む異なる複数の相を備える鋼であり、より高いRp、より低い延性であるが改善された伸びフランジ性をもたらす。TRIP支援鋼は、例えば、Animesh Talapatra,Jayati Datta,N.R.Bandhyopadhyay,Chemical and Materials Engineering 1(1):18-27,2013から知られている。複合相は、例えば、いずれも数年の間に発行された、Fundamentals of Steel Product Physical Metallurgy,2007,著者:B.C.De CoomanおよびJ.G.Speer,AIST International(登録商標)により発行、Association for iron and steel Technology,第7章,Low-Carbon Steel,第7.4.4節、High Strength bainitic,ferrite-bainite adn complex phase steels,410頁、およびVDA 239-100 Sheet Steel for Cold Forming,VDA-material sheetから知られている。
【0004】
TRIP支援鋼の機械的挙動は、化学組成、粒径、応力状態などのパラメータに関連し、これらは通常、組み合わせられ、鋼の微細構造および特性を非常に困難なタスクにしている。TRIP鋼と比較して、TRIP支援鋼は合金化度が低減されており、そのため、溶接性および成形性に対する寸法範囲(dimensional window)の間のバランスが提供される。TRIP支援鋼についての大量の刊行物が存在するものの、依然として成形操作の間に良好に機能する、微細構造を有する鋼組成物を規定することは困難である。
【0005】
TRIP支援鋼の高い合金量は、寸法範囲を制限し、溶接の間に問題を引き起こし、したがって溶接法の範囲を狭める。
【0006】
リーンな合金化は、溶接法の制限を低減し、寸法範囲を最大化するために非常に重要である。リーンな合金化により製造コストを低減し、合金成分の一部は発がん性が疑われているため、より環境に優しい鋼を製造することができる。無駄ない合金化鋼組成物は過去に提案されてきたが、リーンな合金化鋼の強度は不十分であった。
【0007】
リーンな合金化鋼は、コイルの長さおよび幅全体にわたって良好な均一性を有し、異なる変形方向、すなわち、圧延方向に対して縦方向、横方向および斜め方向に一定の変形特性を有することが非常に重要であることに留意すべきである。
【0008】
また、亜鉛めっき鋼は良好な亜鉛めっき表面品質を有することも非常に重要である。
【0009】
したがって、強度と延性の良好なバランスを有するTRIP支援二相合金を提供することへの必要性が存在している。
【0010】
さらに、改善された強度、最大抗張力、全伸び・一様伸び、およびひずみ-硬化指数(n-値)を有する鋼帯を提供することへの必要性が存在している。
【0011】
さらに、鋼の費用を低減するために、合金成分量の低い鋼帯を提供することへの必要性が存在している。
【0012】
さらに、鋼帯の製造のしやすさ、および良好な品質のコーティングへの必要性が存在している。
【0013】
したがって、鋼帯は、高い強度、良好な溶接性を有し、良好な表面品質を示さなければならない。これらの要件は、例えば、自動車部品のために形成される、工業的に製造したTRIP支援二重相鋼型にとって特に重要であり、自動車部品は、ホワイトボディへ点溶接またはレーザ溶接される。あるいは、該部品を、ホワイトボディへ接着剤により接着させるか、または任意の他の公知の方法により接着させることができる。
【0014】
複合相鋼は、等しい引張強度で顕著に高い降伏強度を示す。複合相鋼は、衝撃中の高いエネルギー吸収、エッジ延性および曲げ性により特徴付けられる。これは、成形性を犠牲にしている。
【0015】
また、コイル長さおよび幅全体にわたって、良好な均質性を保持することも重要である。
【0016】
したがって、等しい引張強度での高い降伏強度、衝撃中の高いエネルギー吸収、高い残留変形能、良好な穴広げ性、ならびにエッジ延性および曲げ性を有する複合相鋼帯を提供することへの必要性が存在している。
【0017】
CPおよびTADP鋼グレードへの強度は、さらに析出硬化により得られるが、これは寸法範囲を制限し、多くの場合には、コイル幅および長さ全体にわたって均質性を低下させる。また、異なる方向への伸びの異方性が最小であることが好ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【文献】Animesh Talapatra, Jayati Datta,N.R.Bandhyopadhyay,Chemical and Materials Engineering 1(1):18-27,2013
【文献】Fundamentals of Steel Product Physical Metallurgy, 2007,著者:B.C.De CoomanおよびJ.G.Speer,発行元:AIST International(登録商標)、Association for iron and steel Technology,第7章,Low-Carbon Steel,第7.4.4節、High Strength bainitic,ferrite-bainite adn complex phase steels,410頁
【文献】VDA 239-100 Sheet Steel for Cold Forming,VDA-material sheet
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明の目的は、鋼帯の成形性および加工性の間のバランスを取る、高強度溶融亜鉛めっき鋼帯組成物を提供することである。
【0020】
本発明のさらなる目的は、溶融亜鉛めっきの中の良好な被覆性を有する高強度亜鉛めっき鋼帯を提供することである。
【0021】
本発明のさらに別の目的は、良好な溶接性と、顕著な引張荷重下における異なる変形モードでの改善された変形性とを組み合わせた高強度亜鉛めっき鋼帯を提供することである。
【0022】
本発明の目的は、圧延方向に対して0°、45°および90°の三方向での形状変形について、軟質相形態の最適化を可能にしながら、硬質相形態が強度およびTRIP効果を付与する、TRIP支援鋼を提供することである。
【0023】
本発明の別の目的は、良好な表面品質を有する高強度溶融亜鉛めっき鋼帯を提供することである。
【0024】
本発明のさらに別の目的は、合金成分量が低く、その結果として可能な限り低コストである、高強度溶融亜鉛めっき鋼帯を提供することである。
【0025】
本発明のさらなる目的は、より大きな寸法範囲を有する高強度溶融亜鉛めっき鋼帯を提供することである。より大きな寸法範囲とは、より高い幅および厚み範囲を指す。
【0026】
本発明のさらなる目的は、高強度溶融亜鉛めっき鋼帯の機械特性がコイル幅および長さ全体にわたって可能な限り低い、鋼強度溶融亜鉛めっき鋼帯を提供することである。
【0027】
本発明のさらなる目的は、鋼帯が、TRIP支援二重相鋼帯であるか、または上記の改善された特性を有する複合相鋼帯である、高強度溶融亜鉛めっき鋼帯を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
これらの目的の一つ以上は、質量%において、以下の成分、
0.10~0.21%のC
1.45~2.20%のMn
最大1.50%のSi
0.1~1.50%のAl
0.001~0.04%のP
0.0005~0.005%のB
0.005~0.30%のV
最大0.015%のN
最大0.05%のS
および、所望により、以下から選択される1以上の成分、
最大0.004%のCa
最大0.10%のNb
最大0.50%のCr
最大0.20%のMo
最大0.20%のNi
最大0.20%のCu
最大0.20%のTi、
ならびに、残部のFeおよび不可避不純物からなる組成物、
を含む、高強度溶融亜鉛めっき鋼帯を提供することにより、本発明により達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】コイルの長手方向に沿った頭部、胴部および尾部での組成物L1の降伏応力、引張強度引っ張り試験値である。
図2】上:バナジウムを含まない(T0)およびバナジウムを含む(T1)、一連の連続的に焼鈍した合金についての、焼入性係数(n-値)対引張強度(Rm)である。材料は、焼鈍後に調質圧延しなかった。
図3】下:バナジウムを含まない(T0)およびバナジウムを含む(T1)、一連の連続的に焼鈍した合金についての、引張強度(Rm)対延性(全伸び(A80)かける引張強度(Rm))である。材料は、焼鈍後に調質圧延しなかった。
図4】四分の一の厚さでの、TRIP支援二重相および複合相冷間圧延最終生成物の微細構造の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
好ましい実施形態において、高強度溶融亜鉛めっき鋼帯は、質量%において、上記の成分からなる。
【0031】
好ましい実施形態において、高強度溶融亜鉛めっき鋼帯は、TRIP支援二重相鋼帯または複合相鋼帯である。
【0032】
溶融亜鉛めっきとは、溶融亜鉛合金浴により実施される亜鉛合金層を用いた鋼帯のコーティング方法を意味する。前記方法により得られたコーティングした鋼帯は、溶融亜鉛めっき鋼帯である。
【0033】
発明者らは、鋼の主構成成分の量を慎重に選択することにより、すなわち、所望の特性、特に必要とされる、成形性、均質性、低異方性、加工性、強度および伸長性、ならびに同時に必要とされる溶接性、被覆性および表面品質などの所望の特性を有する高強度溶融亜鉛めっき鋼帯を製造することができることを見出した。
【0034】
発明者らは、特に、ホウ素およびバナジウムを鋼組成物へ加えることが有利であることを見出した。
【0035】
本発明は、良好な溶接性と組み合わせて良好な成形性を有する鋼組成物を提供する。これは、組成物がホウ素を利用することにより、粒界偏析を通して溶接性能を改善するためである。
【0036】
ホウ素を加えることにより、熱間圧延中間鋼生成物を、さらなる処理のために適した微細構造を提供するコイル化温度Cを得るのに十分な速さで冷却することができる。さらに、発明者らは、ホウ素を加えることにより、最終生成物の特性は、高い程度の均質性を有し、高強度鋼帯を製造することができることを見出した。三次元的な機械特性を維持しながら、または改善すらしながら、より大きな寸法範囲、すなわち、現在製造されているものと比較して、拡張された厚さ囲および/または拡張された幅を有する高強度鋼帯を製造することへの継続的な、産業界、特に自動車産業界からの要求が存在する。
【0037】
ホウ素は、オーステナイト冷却の間のフェライト形成を抑制することが知られている。これは、鋼帯中の局所的炭素濃縮を最小化する。したがって、TRIP支援鋼が製造される場合には、ホウ素の使用は通常避けられる。しかしながら、発明者らは、驚くべきことに、フェライト核生成が必要とされないように、変態区間領域中で冷間圧延鋼帯を連続的に焼鈍することにより、本発明によるホウ素含有鋼組成物は、非常に良好なTRIP支援鋼グレードをもたらすことを見出した。
【0038】
さらに、ホウ素を加えることにより、鋼の焼入性が改善され、ほとんど合金成分を使用する必要がなくなる。これは、鋼帯の改善された寸法範囲をもたらし、鋼帯の幅全体にわたる鋼の機械特性を所望の範囲内に維持しながら、拡張された幅および厚さ範囲へ、より設計の自由度を高めることができる。
【0039】
さらに、ホウ素は、粒界を分離し、粒界でリンと置換し、溶接性を改善するか、または鋼が良好な溶接性を達成しながら、鋼中でより高いリン量を有することを可能にする。
【0040】
発明者らは、さらに、鋼組成物へバナジウムを加えることは有益であり、バナジウムは本発明による鋼強度鋼帯の製造のために必要不可欠な成分であることを見出した。バナジウムは析出強化を付与し、これにより微粒化および合金強化がもたらされる。バナジウム析出形成は、最終的な焼鈍の間に生じるが、熱間圧延および冷間圧延の間には生じない。これは、所望の寸法範囲をもたらす。
【0041】
所望により、合金成分のみではなく、Nb、Cu、Tiなどの不純物も追加のまたは混合析出物を形成することにより、析出強化に貢献することができる。小さな析出物は、さらなる強度を付与する。しかし、析出サイズが大きい場合、バナジウム析出物の潜在的な硬化は十分に利用されず、最も具体的には、高強度冷間圧延鋼帯を製造することを予定している場合、および焼鈍鋼帯を製造することを予定している場合である。後者の場合、発明者らは、その後の焼鈍工程の間に生じる微細析出硬化をより完全に利用することができるように、熱間圧延工程でのバナジウム析出を限定する必要があることを実証した。発明者らは、驚くべきことに、本発明によると、熱間圧延生成物において、析出物は全く存在しないかほとんど存在しないことを見出した。これは、低い溶解度を有する窒素含有析出物を、より高い溶解度を有するよりカーバイドリッチな析出物に有利になるように、避けることができる。さらに、中間熱間圧延生成物中のバナジウム析出を制限することにより、改善された寸法範囲を有する高強度生成物を得ることができる。
【0042】
上記に基づき、発明者らは、本発明は熱間圧延およびその後の冷間圧延のためのより大きな寸法範囲を可能にすることを見出した。連続的な焼鈍の間に、析出物が形成され、これらは析出強化を加える。強度を加えることによって、最終生成物中の残留オーステナイトの更なる形成を可能にし、それによって、強度は必要とされる650MPa超を維持しながら、延性および硬化の増加をもたらす。
【0043】
主構成要素の量の理由は、以下の通りである。
【0044】
C:0.10~0.21質量%。炭素は、従来の焼鈍/亜鉛めっきラインに用いられる冷却速度で、マルテンサイトおよびベイナイトの焼入性と形成が保証されるために十分に高い量で存在しなければならない。マルテンサイトは、十分な強度を与えるために必要とされる。遊離炭素はまた、得られる強度レベルについての、改善された加工硬化能および良好な成形性を与える、オーステナイトの安定性も可能にする。10質量%という下限値は、これらの理由のために必要である。0.21質量%という上限値は、良好な溶接性を保証するために必要不可欠である。好ましくは、炭素の量は0.10~0.20質量%であり、より好ましくは0.11~0.19質量%であり、最も好ましくは0.12~0.18質量%である。この範囲において、ホウ素の存在によっても、鋼の溶接性を促進しながら、鋼の焼入性は最適化される。
【0045】
Mn:1.45~2.20質量%。従来の連続的な焼鈍/亜鉛めっきラインの冷却速度内で、焼入性を向上し、したがって、マルテンサイトまたはベイナイトなどの硬化相の形成を容易にするために、マンガンを加える。マンガンはまた、引張強度を向上させ、フェライト相を強化し、さらに残留オーステナイトを安定化させる、固溶強化にも貢献する。マンガンは、TRIP支援二重相鋼の変態温度範囲を下げ、したがって必要とされる焼鈍温度を、従来の連続的焼鈍/亜鉛めっきラインにおいて容易に実現できるレベルへ下げる。1.45質量%という下限値は、上記の理由により必要である。この下限値は、ホウ素などの他の元素を考慮して可能である。2.20質量%という上限値は、中間熱間圧延生成物を、柔軟な変態生成物(フェライトおよびパーライト)への十分な変態を確保することで熱間圧延機内の許容可能な圧延荷重を保証し、冷間圧延機内の許容可能な圧延加重を保証するために課される。この上限値レベルは、鋳造中のより強い偏析、およびより高い値でのマルテンサイト帯域の形成を考慮して与えられる。好ましくは、マンガンの量は、1.45~2.10質量%であり、より好ましくは1.50~2.10質量%である。
【0046】
Si:最大1.50質量%。ケイ素は、固溶強化を提供し、したがって、高強度の達成、フェライトマトリックスの強化によるオーステナイトの安定性を提供する。ケイ素は、過時効の間の炭化物の形成を非常に効果的に遅らせ、したがってオーステナイトの安定化のために炭素を溶液に維持する。上限値1.50質量%は、高レベルのケイ素は粘着性の低減に起因する許容不可能なコーティング品質につながるため、鋼帯の被覆性の観点から定められる。好ましくは、ケイ素の量は0.05~1.0質量%であり、より好ましくは、0.20~0.80質量%であり、最も好ましくは、0.30~0.70質量%である。
【0047】
Al:0.1~1.50質量%。アルミニウムは、脱酸素目的のために溶鋼へ加えられる。適切な量で、ベイナイト変態を加速し、したがって、従来の連続的な焼鈍/亜鉛めっきラインの焼鈍区間により定められる時間制限内でベイナイトの形成を可能にする。アルミニウムはまた、炭化物の形成を遅らせ、したがって炭素を溶液に維持し、過時効の間のオーステナイトへの分配を生じさせ、オーステナイトの安定化を促進する。さらに、Alは、高温で窒素と析出を形成することができ、したがって、好ましくは、バナジウムをより高い溶解度を有する炭化バナジウムへ形成することを可能にする。これは、熱間圧延中間生成物においてバナジウムが析出しない、広範なコイル化温度の選択を可能にする。AIN析出物/含有物はまた、スラブ再加熱の間、または連続的なスラブ鋳造の後における、オーステナイト粒径分布を制御する。高いアルミニウム含有量は、鋳造モールドスラグの毒性につながり、結果としてモールドスラグの粘性を増加させ、鋳造中の不適切な熱伝達や潤滑につながるために、上限値1.50質量%が課される。好ましくは、アルミニウムの量は、0.10~1.0質量%であり、より好ましくは0.2~0.9質量%であり、最も好ましくは0.2~0.80質量%である。アルミニウムの下限値を上げることは、ケイ素の含有量を高くするのと同じ効果を有するが、ほとんど鋼強度を向上させず、良好な可鍛性を保証する。アルミニウムの上限値を下げると、鋼の可鍛性は向上する。
【0048】
P:0.001~0.04質量%。リンは、粒界を分割するが残留オーステナイトの安定性を助けることが知られている元素である。その含有量は、溶接部部品へ行われた引張せん断試験の間に、十分な熱間延性を維持し、剥がれによる不具合を避けるように、0.04質量%に限定されなければならない。好ましくは、リンの量は、0.002~0.030質量%であり、より好ましくは0.004~0.020質量%である。
【0049】
V:0.005~0.30質量%、およびN:最大0.015質量%。バナジウムおよび窒素は、本発明により画定された量で存在する。バナジウムの含有量が0.005質量%未満である場合、バナジウム析出強度は不十分である。バナジウム含有量が0.30質量%超である場合、または窒素含有量が0.015質量%超である場合、析出は熱間圧延の間の早い段階で、または熱間圧延後に微細析出物の形態で生じ、これによって、寸法範囲が狭まるか、または連続焼鈍の間の粗雑化がもたらされ、析出強度が低減される。バナジウム量は、0.005~0.30質量%であり、好ましくは0.01~0.20質量%であり、より好ましくは0.03~0.30質量%であり、最も好ましくは0.04~0.15質量%である。連続鋳造プラントに典型的であるように、窒素含有量は最大0.015質量%に限定される。窒素量は、好ましくは0.001~0.01質量%であり、より好ましくは0.001~0.008質量%であり、最も好ましくは0.001~0.005質量%である。
【0050】
B:0.0005~0.005質量%。ホウ素の添加により鋼の焼入性は改善され、他の合金成分をほとんど使用する可能性がなくなる。ホウ素の量は、0.0005~0.005質量%であり、好ましくは0.001~0.005質量%であり、より好ましくは0.001~0.004質量%である。
【0051】
S:最大0.05質量%。硫黄は、好ましくは避けられるが、鋼製造工程中に不可避的に存在する。量が少ないほど成形性は良好である。硫黄の量が0.05質量%超である場合、マンガンおよび/またはカルシウム硫黄化物の形態で過剰に析出し、成形性を大幅に低減する。好ましくは硫黄の量は0.0001~0.003質量%であり、より好ましくは0.0002~0.002質量%である。
【0052】
所望により、Ti、Cr、Mo、Nb、Ni、Cu、Caから選択される一つ以上の元素を、鋼組成物に添加してもよく、または不純物として存在していてもよい。
【0053】
Ca:最大0.004質量%。所望によりカルシウムを加えても良い。カルシウムを添加することにより、硫化マンガン含有物の形態を修飾する。カルシウムを添加すると、含有物は、伸長された形態ではなくむしろ球状となる。ストリンガーとも呼ばれる伸長された硫黄含有物はまた、ラメラテアや剥離破壊が生じ得る脆弱性を伴う平面として機能し得る。硫黄含有量が非常に低い場合には、カルシウムを全く加えないことも可能である。Caの量は好ましくは0~0.003質量%であり、より好ましくは0~0.002質量%である。
【0054】
Ti:最大0.20質量%。所望によりチタンを強化鋼へ加えることができ、窒素と結合させることができる。上限値0.20質量%は、鋼のコストを抑えるために定められる。Tiを全く加えないことも可能である。好ましくは、Tiの量は0.0001~0.1質量%であり、より好ましくは0.001~0.01質量%であり、最も好ましくは0.001~0.005質量%の間である。
【0055】
Cr:最大0.50質量%、Mo:最大0.20質量%。所望により、ベイナイト変態を遅らせ、固溶硬化を促進する、クロムおよびモリブデンなどの元素を、それぞれ0.50質量%および0.20質量%を超えない量で加えても良い。クロムは、フェライトの形成を促進し、焼入性を向上するために加えられる。上限値0.50質量%は、残留マルテンサイトを犠牲にしてマルテンサイトが多く形成し過ぎないようにするために定められる。クロムを全く加えないこともできる。好ましくは、Crの量は0.001~0.50質量%であり、より好ましくは0.001~0.35質量%であり、最も好ましくは0.001~0.30質量%である。Moの量は、鋼のコストを抑え、可能な限り大きく寸法範囲を維持するように、好ましくは0.001~0.35質量%であり、より好ましくは0.005~0.10質量%である。Moは、亜鉛コーティングを強化し質を改善するために加えることができる。Moはまた、析出形成により鋼強化を助ける。
【0056】
Nb:最大0.10質量%。所望により、ニオブを、好ましくは、0.001~0.10質量%、より好ましくは、0.001~0.08質量%、最も好ましくは、0.001~0.03質量%の量で加えることができる。Nbを加えると、補完的な炭窒化物析出により強度は向上するが、熱間圧延力を加えることにより寸法範囲は狭まる。
【0057】
Ni:最大0.20質量%。所望により、ニッケルを、好ましくは、0.005~0.10質量%、より好ましくは0.005~0.050質量%、最も好ましくは0.005~0.020質量%の量で加えることができる。Niを全く加えないこともできる。Niは不純物として存在し得る。
【0058】
Cu:最大0.20質量%。所望により、銅を、0.005~0.10質量%、好ましくは0.005~0.050質量%、より好ましくは、0.005~0.020質量%の量で加えることができる。Cuは、残留オーステナイトの安定性を改善し、析出強化を付与することができる。Cuを全く加えないこともできる。Cuは不純物として存在し得る。
【0059】
上記の理由に加え、炭素、マンガン、ケイ素、アルミニウム、ホウ素、バナジウム、および窒素の範囲を、可能な限り均質な変態が与えられ、コイル冷却中に鋼ストリップが冷間圧延できるような正しいバランスが見つけられるように選択する。出発構造体が得られ、焼鈍ラインに迅速に炭素を溶解させることができ、本発明による焼入性および適切なフェライト/ベイナイト変態挙動を促進することができる。さらに、アルミニウムはベイナイト変態を加速し、ホウ素はベイナイト変態を減速するため、制限された過時効区画を有する従来の溶融亜鉛めっきラインにより許容される時間スケール内で、適切な品質のベイナイトを製造するために、アルミニウムとホウ素の間の適切なバランスは存在しなければならない。
【0060】
上記の元素の絶対容量に加え、特定の元素の相対量が重要である。
【0061】
好ましい実施形態によると、AlおよびSiの量は、Al+Siの量が0.70~1.60質量%となるように選択される。
【0062】
最終生成物中の炭化物を抑制し、正しい組成で、十分な量のオーステナイトの安定性を保証し、所望の成形性の伸長を提供するために、アルミニウムおよびケイ素はともに、0.70~1.60質量%の間で維持しなければならない。Al+Siの量は、好ましくは0.70~1.50質量%であり、より好ましくは0.80~1.40質量%であり、最も好ましくは0.80~1.20質量%である。
【0063】
好ましくは、溶融亜鉛めっき鋼帯は、650MPa超、好ましくは650~1160MPa、より好ましくは700~1150MPa、最も好ましくは730~1130MPaの最大抗張力、および/または、調質圧延後に300~700MPaの0.2%耐力Rp、好ましくは鋼帯の中央部と端部との間の差が、Rpおよび/またはRmについて60MPa未満であり、より好ましくは差が40MPa未満であり、最も好ましくは30MPa未満である。これらの強度レベルは、本発明による組成および処理により達成することができる。
【0064】
コイル幅とコイル長さの全体にわたる強度の高い程度に加え、低い異方性を有することが重要である。低い異方性は、例えば、圧延方向に対して縦方向、横方向および斜め方向の引張方向などの変形特性の変化が40MPa未満、好ましくは20MPa未満、最も好ましくは10MPa未満であることを意味する。したがって、本発明の一部は、低い異方性を実現する微細構造および質感の設計に関する。
【0065】
本発明の目的は、上記組成の鋼帯であり、その微細構造は、フェライト、ベイナイト、残留オーステナイト、および所望によりマルテンサイト、および/または析出物で強化したセメンタイトからなる。以下においては、残留オーステナイトという用語はまた、残渣オーステナイトの代わりに使用される。本発明の目的のために、残渣オーステナイトおよび残留オーステナイトという用語は、同じ意味を有する。
【0066】
本発明によると、以下の工程:
a)鋳鋼を2.0~4.0mmの厚さへ熱間圧延し、コイル化温度Cで、コイル化熱間圧延鋼帯へコイル化する、工程と、
b)前記鋼帯を酸洗する、工程と、
c)前記鋼帯を40%超の圧下率で冷間圧延する、工程と、
d)前記鋼帯を変態区間焼鈍する、工程と、
e)前記鋼帯を過時効区間における焼鈍後に、過時効区間において、所望により、急冷および分割、または急冷および焼戻しする、工程と、
f)前記鋼帯を調質圧延する、工程と、
を含む、高強度亜鉛めっき鋼帯の製造方法が提供される。
【0067】
溶融亜鉛めっきは、連続法により行うことができる。所望により、鋼帯はガルバニール仕上げしてもよい。
【0068】
TRIP支援二相鋼の好ましい方法によると、該方法において、冷間圧延された材料は、上記工程d)にしたがって、Ac1温度に達するまで、40℃/秒未満の加熱速度、および/または1~100秒の中間酸洗期間を使用し、TRIP支援二相鋼中に存在するフェライト区画の90%以上の再結晶化フェライトを有する鋼帯が得られ、n4-6の値は0.18以上である。
【0069】
好ましい実施形態によると、鋼帯は、亜鉛合金コーティング層で溶融亜鉛めっき法によりコーティングされ、該コーティングは、溶融亜鉛合金浴により実施され、該亜鉛合金は、0.3~2.3質量%、好ましくは1.6~2.3質量%のマグネシウム、0.6~2.3質量%、好ましくは1.6~2.3質量%のアルミニウム、0.0010質量%未満のケイ素、所望により、0.2質量%未満の1以上の追加の元素、不可避不純物、残部の亜鉛からなる。
【0070】
高強度熱間圧延鋼帯を公知の方法により酸洗し、冷間圧延に適する表面仕上げを得る。冷間圧延を、例えば、2.0~4.0mmの熱間圧延鋼帯の厚さから0.7~2.0mmへ圧下することによるなど、標準条件下で行う。
【0071】
好ましい実施形態によると、高強度溶融亜鉛めっき鋼帯は、複合相鋼帯である。
【0072】
好ましい実施形態によると、溶融亜鉛めっき鋼帯はTRIP支援二相鋼帯である。
【0073】
本発明によると、熱間圧延鋼帯の製造方法が提供され、該方法において、鋳造鋼を2.0~4.0mmの厚さまで熱間圧延し、Bs+50℃~Ms、好ましくはBs~Ms、最も好ましくはBs-20℃~Ms+60℃の間のコイル化温度Cでコイル化する。
【0074】
非常に高いCは表面酸化につながることもあり、これによって、亜鉛めっき端部コーティングの質が低下し、均質性が低下する。
【0075】
画定された範囲内のCは、冷間圧延し、連続的に焼鈍した最終生成物に十分な強度を達成するために合金元素をほとんど必要としない。
【0076】
材料は非常に硬くなり、このことにより均質性が低下するため、非常に低いCは寸法範囲を狭める。さらに、非常に低いCでは、マルテンサイトが形成され、これは実際的な鋼形状を付与しない。
【0077】
したがって、発明者らは、中間熱間圧延生成物の良好な均質性および良好な鋼帯形状を保証する、最適なC範囲を見出した。
【0078】
Bs+50℃~Ms、好ましくはBs~Ms、最も好ましくはBs-20℃~Ms+60℃のCでコイル化することにより、正しい圧下を伴う冷間圧延、適切な温度での焼鈍、およびその後の亜鉛めっきを可能にし、本発明による所望の強度および特性を有する亜鉛めっき鋼帯を得られる、明確に画定された微細構造が達成される。
【0079】
熱間圧延鋼帯は、40~80体積%のフェライト、好ましくは50~70体積%のフェライト、20~50体積%のパーライトおよび/またはベイナイト、好ましくは30~50体積%のパーライトおよび/またはベイナイト、および10体積%未満のセメンタイトおよび析出物/含有物から成る。合計は、最大100%である。
【0080】
そのような微細構造熱間圧延鋼帯は、更なる処理、特に、冷間圧延後の焼鈍工程などのために、適切な特性を有する。微細構造の質感は、低い異方性を保証するものである。
【0081】
本発明の目的は、高強度冷間圧延TRIP支援二重相鋼帯の製造方法を提供することであり、該方法において、熱間圧延鋼帯を、40%超の圧下率、好ましくは45~75%の圧下率で冷間圧延し、Ac1~Ac3温度、好ましくはAc1+50℃~Ac3-30°の温度で連続的に焼鈍し、Bs温度以下、好ましくはBs-50°以下の温度で過時効させて、炭素中に部分的に残留オーステナイトを濃縮しながら、ベイナイトおよび/または焼戻しマルテンサイトを形成する。所望により、鋼帯を過時効区分において、急冷し、分割し、または急冷し、焼戻しする。
【0082】
その後、鋼帯を、溶融亜鉛めっき、熱スプレーおよび電着を含む、公知の亜鉛めっき方法により、コーティング、好ましくは亜鉛コーティングする。溶融亜鉛めっきは、バッチ法または連続法により行うことができる。所望により、鋼帯を亜鉛めっきすることができる。鋼帯を、次に、0.7%未満、好ましくは0.5%未満の伸長率で調質圧延する。好ましくは、鋼帯を溶融亜鉛めっきする。
【0083】
本発明の別の目的は、高強度冷間圧延TRIP支援二重相鋼帯の製造方法であって、該方法は、以下の工程、
a)本発明により製造した熱間圧延鋼帯を供給する工程、
(コイル化した前記熱間圧延鋼帯は、40~80体積%のフェライト、好ましくは50~70体積%のフェライトと、20~50体積%のパーライトおよび/またはベイナイト、好ましくは30~50体積%のパーライトおよび/またはベイナイトと、10体積%未満のセメンタイト/析出物/含有物とからなる(但し、これらの合計は最大100%である。)微細構造を有する。当該微細構造は、最終生成物の低い異方性を保証するような質感である。)
b)前記鋼帯を酸洗する工程、
c)前記鋼帯を40%超の圧下率、好ましくは45~75%の圧下率で冷間圧延する工程、
d)前記鋼帯を、変態温度Ac1~Ac3、好ましくはAc1+50℃~Ac3-30℃の焼鈍加熱温度に供し、その後温度がAc3未満になるときの冷却速度Vcsで1以上の相を冷却し、その後、前記鋼の微細構造がフェライト、ベイナイト、残留オーステナイト、および所望によりマルテンサイトおよび/またはセメンタイトおよび含有物/析出物からなるように選択された、過時効時間toaの間、過時効温度Toaで、相を過時効処理する工程、
e)所望により鋼帯を、過時効区分において、急冷および分割、または急冷および焼戻しに供する工程、
f)前記鋼帯を溶融亜鉛めっきする工程、
g)前記鋼帯を、0.7%未満、好ましくは0.5%未満の伸長率で調質圧延する工程、
を含む。
【0084】
所望により、工程f)において、鋼帯をガルバニール処理することができる。
【0085】
高強度熱間圧延鋼帯を、公知の方法により酸洗し、冷間圧延に適する表面仕上げを得る。冷間圧延を、標準的な条件、例えば、熱間圧延鋼帯の厚さを2.0~4.0mmから0.7~2.0mmへ圧下することにより実施する。
【0086】
好ましい実施形態によると、TRIP支援二重相鋼を製造するための上記方法は、冷間圧延材料を変態区間焼鈍するように行われ、前記方法において、Ac1温度、好ましくは350℃~Ac1温度の温度範囲に達する前に、最大40℃/秒の加熱速度、好ましくは最大20℃/秒の加熱速度が使用され、および/または、1~100秒の中間酸洗、好ましくは1~60秒の中間酸洗が使用され、TRIP支援二重相鋼に存在するフェライト画分の90%以上の再結晶化フェライトを有する鋼帯がもたらされ、また、0.18以上のn4_6値がもたらされる。中間酸洗は、ここでは、言及した時間での、遅い加熱、または遅い冷却、またはその両方を意味する。
【0087】
別の好ましい実施形態によると、焼鈍加熱処理は、冷間圧延TRIPS支援二重相鋼帯が20~50体積%のフェライト、好ましくは25~45体積%のフェライト、15~25体積%の残留オーステナイトおよびマルテンサイト、ならびに5~15体積%の残渣オーステナイト含有量、好ましくは5~13体積%の残留オーステナイトから構成され、残部は焼戻しマルテンサイト、ベイナイト、セメンタイトおよび含有物/析出物である。総合計は、最大100%である。微細構造は、低い異方性、具体的には、縦、横、斜め方向における引張特性の変化が低くなるようにする。残留オーステナイト島状物/針状物の平均寸法は、20ミクロンを超えず、好ましくは10ミクロンを超えず、最も好ましくは5ミクロンを超えない。
【0088】
微細構造は、50nm未満、好ましくは30nm未満、最も好ましくは20nm未満のサイズを有する(炭窒化バナジウム)析出物により硬化される。
【0089】
本発明の別の目的は、本発明による冷間圧延TRIP支援二重相鋼帯の製造方法を提供することであり、該方法において、冷間圧延鋼は、10℃/秒以上の加熱速度Vhsで相を加熱する工程、Ac1~Ac3、好ましくはAc1+50℃~Ac3-30℃の温度で、0~450秒、好ましくは0~400秒の時間焼鈍する工程、その後、5℃/秒超、好ましくは10℃/秒超の冷却速度VCsで相を冷却する工程、温度がAc3未満に達した後、Bs未満、好ましくはBs-50度未満の過時効温度Toaまで、20秒~500秒、好ましくは30秒~450秒の時間toaをかけて冷却する工程を含む、焼鈍加熱工程へ供される。所望により、過時効処理は、冷却および分割、または冷却および調質圧延を含む。所望により、鋼帯を、コーティングし、好ましくは上記のとおり亜鉛コーティングし、所望により焼鈍後に、0.7%未満、好ましくは0.5%未満の伸長率で調質圧延する。所望により、鋼帯をガルバニール処理する。好ましくは、鋼帯を溶融亜鉛めっきする。
【0090】
本発明の更なる態様によると、本発明の第一の態様による高強度溶融亜鉛めっき複合相鋼帯を製造する方法を提供し、該方法において鋳造鋼は、2.0~4.0mmの厚さへ熱間圧延され、Bs~Ms温度、好ましくはBs-20℃温度~Ms+60℃温度であるコイル化温度Cでコイル化される。熱間圧延におけるコイル化温度は、冷間圧延後の焼鈍の間の析出のための固溶に利用可能であるより多くのバナジウムを維持するために、Bs温度未満、好ましくはBs-20℃未満が選択される。
【0091】
Bs~Ms、好ましくはBs~Ms、好ましくはBs-20℃~Ms+60℃のCでコイル化するため、明確に定義された微細構造が達成され、適切な圧下率で冷間圧延され、焼鈍および亜鉛めっきされて、本発明による所望の強度および特性を有する亜鉛めっきされた鋼帯を得ることができる。
【0092】
そのような微細構造を有する熱間圧延鋼帯は、特に冷間圧延後の焼鈍工程のための、適切な特性を有する。
【0093】
好ましい実施形態によると、鋼帯は、40%以上の圧下率、好ましくは45~75%の圧下率で冷間圧延される。
【0094】
焼鈍処理を、次に、加工硬化構造を再結晶化するため、および本発明による特定の微細構造を付与するために実施する。この処理は、好ましくは、相の加熱、相の酸洗および過時効処理を含む連続的焼鈍により行われる。
【0095】
好ましい実施形態によると、焼鈍加熱処理は、冷間圧延複合相鋼帯の微細構造が、20~50体積%のフェライト、好ましくは25~45体積%のフェライト、15~25体積%の残留オーステナイトおよびマルテンサイト、5~15体積%の残渣オーステナイト(残留オーステナイト)、好ましくは5~13体積%の残留オーステナイト、より好ましくは3~13体積%の残留オーステナイト、最も好ましくは3~12体積%の残留オーステナイトから成り、残部は焼戻しマルテンサイト、ベイナイト、セメンタイトおよび析出物/含有物である。合計は最大100%である。
【0096】
発明者らは、相の加熱の間に、加工硬化構造の再結晶化、セメンタイトの溶解、変態温度Ac1超でのオーステナイトの成長、フェライト中での前記バナジウム炭窒化物の析出を観察した。これらの炭窒化物析出物は非常に小さく、この相の加熱後に、典型的には、50nm未満、好ましくは30m未満の直径を有する。
【0097】
本発明の別の目的は、高強度冷間圧延複合相鋼帯の製造方法を提供することであり、該方法は、以下の工程、
a)本発明により製造した熱間圧延鋼帯を供給する工程、
(コイル化した前記熱間圧延鋼帯は、40~80体積%のフェライト、好ましくは50~70体積%のフェライトと、20~50体積%のパーライトおよび/またはベイナイト、好ましくは30~50体積%のパーライトおよび/またはベイナイトと、10体積%未満のセメンタイト/析出物/含有物とからなる(但し、これらの合計は最大100%である。)微細構造を有する。)
b)前記鋼帯を酸洗する工程、
c)前記鋼帯を40%超の圧下率、好ましくは45~75%の圧下率で冷間圧延する工程、
d)前記鋼帯を、Ac1+50℃超で焼鈍加熱処理し、その後、温度がAc3未満である場合の冷却速度Vcsで1以上の相を冷却し、その後、前記鋼の微細構造がフェライト、ベイナイト、残留オーステナイト、および所望によりマルテンサイトおよび/またはセメンタイト、析出物および含有物からなるように選択された、過時効時間toaの間、過時効温度Toaで、相を冷却する工程、
e)所望により鋼帯を、過時効区分において、急冷および分割、または急冷および焼戻しに供する工程、
f)前記鋼帯を亜鉛コーティング、好ましくは溶融亜鉛めっきする工程、
g)前記鋼帯を、0.4~2.0%の圧下率、好ましくは0.4~1.2%の圧下率で調質圧延する工程、
を含む。
【0098】
所望により、工程f)において、鋼帯をガルバニール処理することができる。
【0099】
工程a)における微細構造の質感は、最終生成物の低い異方性を保証するようにする。
【0100】
好ましい実施形態において、冷間圧延複合相鋼帯は、10℃/秒以上の加熱速度Vhsで相を加熱する工程、Ac1+50℃超、好ましくはAc1+80℃超の焼鈍温度で、0~450秒、好ましくは0~400秒間焼鈍する工程、その後5℃/秒超、好ましくは10℃/秒超の冷却速度Vcsで、相を冷却する工程を含み、温度がAc3以下に達した後、Bs-50℃未満、好ましくはBs-100℃未満の過時効温度へ、20秒~500秒、好ましくは30秒~450秒のtoaかけて、相を冷却する工程を含む焼鈍加熱処理へ供される。所望により、鋼帯は、急冷および分割または急冷および焼戻しへ供される。所望により相を過時効処理した後、溶融亜鉛めっき、溶射および電着を含む公知の亜鉛めっき方法により、鋼帯をコーティング、好ましくは亜鉛コーティングする。溶融亜鉛めっきは、バッチ法または連続法により行うことができる。所望により、鋼帯を亜鉛めっきすることができる。好ましくは、鋼帯を溶融亜鉛めっきする。
【0101】
本発明による高強度溶融亜鉛めっき複合相鋼帯を、次に、0.4~2.0%の圧下率、好ましくは0.4~1.2%の圧下率で張力圧延する。張力圧延のこのパーセンテージは、他の特性が複合相材料についての所望の範囲内に維持されながら、適切な収率および引張強度レベルなどの適切な特性を鋼帯へ付与することができる。得られた複合相鋼帯は、選択されたC、所定の焼鈍温度、過時効処理温度、および調質ミル伸長範囲により、製造することができる。
【0102】
本発明による鋼帯種は、好ましくは、自動車産業における構造的部品または強化要素の製造のために用いられる。
【0103】
本発明を以下に明らかにする。以下の結果は、非限定的な例示により、本発明により与えられる有利な特性を示す。
【0104】
-それよりも上の温度で、微細構造はフェライト(α-Fe)およびオーステナイトの混合物から構成され、Ac1温度は、Department of Ductile Ultra-High Strength Hot-rolled Steels,Posco Technical Report,996,50-128中に、S.H.Parkらにより記載された式にしたがって計算した。
【0105】
-それよりも上の温度で、微細構造は完全にオーステナイトから構成される。AC3温度は、KARITA,N.High Carbon Hot-Rolled Steel Sheet and Method for Production Thereofに記載の式に従って計算した。欧州特許出願EP2.103.697.A1,23.09.2009、15頁。
【0106】
およびA中の添え字cおよびrは、それぞれ、加熱および冷却周期の変換を示す。
【0107】
n-値:加工硬化係数またはn-値は、一様伸びに密接に関係している。ほとんどの鋼板形成プロセスにおいて、成形性の限定は、局所的に薄くなること、すなわち「肉やせ」への抵抗により決定される。一軸引張試験において、肉やせは、鋼板の成形性の測定として解釈することができる、引張試験に由来する、一様伸び、n-値、および一様伸びで開始する。鋼帯の成形性を改善することを目的とする場合、n-値および一様伸びは、最も適した最適化パラメータである。
【0108】
4_6値は、4~6%の伸長率の焼入特性値である。
【0109】
Rm(MPa):引張強度-最大強度に相当する応力。
【0110】
Rp(MPa):降伏応力-比例的でない伸長が、伸縮計メーターゲージ長さ(Le)と等しい応力。使用された記号は、Rp0,2などの所定のパーセンテージを付与する接尾辞を伴う。
【0111】
Ag(%):一様伸び-パーセンテージでの比例的でない最大強度での伸び。
【0112】
A80(%):破断までの全伸び。
【0113】
鋼板の伸びフランジ性を評価する指標である、穴広げ性は、多くの場合、円筒形パンチまたは円錐形パンチを用いた穴広げ試験により得られ、M.W.BOYLES、Operating Procedure CP/04/OP/04 Procefure for Hole Expansion Testing,BritishSteel Strip Products (1997)に従って測定した。
【0114】
Bsはベイナイト出発温度であり、Msはマルテンサイト出発温度である。BsおよびMsは、S.M.C.van Bohemenにしたがって計算し、ベイナイトおよびマルテンサイト出発温度は、指数関数的な炭素依存性を用いて計算される。Material Science and technology 28,4(2012)487-495。
【実施例
【0115】
実施例1
鋼組成物L2を鋳造し、約920℃の温度Ac3超の約930℃の最終温度まで熱間圧延して、約100℃/秒の冷却速度で、約510℃のコイル化温度まで冷却した。材料を次に、1℃/分の冷却速度で室温まで冷却した。突き当て定規は3.7mmであった。材料を1.2mmまで冷間圧延して、次に、約840℃の最高温度で連続的に焼鈍して、約400℃まで冷却して、60秒間この温度で維持して、その後、亜鉛めっきのために約470℃まで加熱して、最終的に室温まで冷却した。測定した引張特性は、表3に記載する。
【0116】
実施例2
1.3mmの寸法を有するT1鋼組成物からなるいくつかのコイルを、実施例1と同じ条件下で製造した。さらに、テンパーミル伸長率0.4%を適用した。均質性試験を、前記コイルの亜鉛コートした鋼帯最終生成物に行った。引張特性RpおよびRmを、コイルの開始、中間、および最終で、コイルの中間幅位置、端部位置で測定した。図1に示される実験結果は、コイルの頭部、胴部および尾部での組成物L1の降伏応力、引張強度値であり、これらは最大30MPaで変化する。
【0117】
実施例3
鋼組成物からT1複合相鋼帯を実施例1と同様に熱間圧延し、1.3mmへ冷間圧延して、約80℃で少なくとも40秒間記載にしたがって焼鈍して製造した。溶融亜鉛めっき後、約0.9%の圧下率で鋼帯を調質圧延した。得られた鋼帯は、表3の例と比較して向上したRpを有する複合相鋼である。
【0118】
実施例4
バナジウムを含まない鋼組成物T0およびバナジウムを含むT1を製造した。1.3mmの寸法の冷間圧延鋼組成物T0およびT1を連続的に焼鈍した。770~880℃の範囲の温度で焼鈍均熱処理(anneling soak)を行った。その後、試料を390~470℃で過時効処理し、460℃で数秒間亜鉛コーティングし、室温まで冷却した。引張試験を、各焼鈍条件で行った。
【0119】
本発明による高強度溶融亜鉛めっき鋼帯の作成の間、表1に示されるように、多数の鋼帯コイルが製造された。T0~T4は、ライン試験組成物であって調質圧延されており、L1~L4は、本発明により調質圧延しないで、実験室で鋳造した合金組成物である。
【0120】
【表1】
【0121】
表2は、Al+Siの合計、ベイナイト開始(Bs)温度およびマルテンサイト開始(Ms)温度の計算値、鋳造組成物の相変態温度Ac1およびAc3の計算値を示す。
【0122】
【表2】
【0123】
表3は、コイルの中間での、降伏力(Rp0.2)、引張強度(Rm)、一様伸び(Ag)、全伸び(A80)および加工硬化係数(n)またはn-値を示す。穴広げ率をT0およびT1について測定した。
【0124】
【表3】
【0125】
表3において、全ての鋼帯は、730MPa超の高い強度Rmを示す。T0とT1~T3の比較は、Rmの実質的な差を明確に示し、バナジウムが存在している場合に、約800MPaの高強度鋼帯が得られる。したがって、バナジウムの添加により強度が増すことは明らかである。またこれは、T0とT1の穴広げ率が等しいにもかかわらず、T1の引張強度RmがT0よりも高いことをサポートしている。
【0126】
表3は、さらに、L4のバナジウム量が高いために、1000mPa超の高い引張強度が得られることも示している。L1およびL3において強度Rmは等しいが、より高いバナジウム含有量を有するL3は、より良好なn-値および伸び(A80)を示す。表3からより明らかなように、バナジウムを含む他の合金の量の変化は、改善した伸びおよびn-値を有する高強度鋼帯をもたらす。
【0127】
T1合金は、熱間圧延され、冷間圧延され、本発明による複合相焼鈍周期を用いて連続焼鈍され、その後の0.9%で調質圧延される。結果を表4に示す。表4は、明らかに、複合相鋼特性を有する高強度鋼が得られることを示している。780~920MPaの高いRpおよびRmは、複合相高強度鋼帯に典型的な値である。
【0128】
表4:材料T1についてのコイル中間での引張特性。降伏力を、0.9%調質ミル伸長の後で測定した。引張特性はL5~L14(調質圧延していない)について測定した。
【表4】
【0129】
図2は、引張試験からの引張強度値対n-値のプロットを示し、図3は、算出した延性対引張強度を示す。TRIP支援二重相材料について、高い強度が得られながら、引張成形特性および深絞り成形特性が最適化されるように、加工硬化係数nおよび延性(A80*RM)を最大化し、同時に引張強度Rmを最大化することが重要である。
【0130】
図2および3において、白色ダイヤモンド型符号および破線は、バナジウムを含まない例T0のデータを示す。実線および黒色および灰色四角形の符号は、バナジウムを含む例T1のデータを示す。
【0131】
図2および3は、バナジウムを含む高組成物は、800MPaの強度レベルで加工硬化係数(図2)および延性(図3)の顕著な改善を可能にしながら、800MPaの範囲で、その強度を維持していることを明確に示している。これは、改善された成形性、特に改善された引張成形特性および深絞り成形特性をもたらす。
【0132】
図4は、組成物T1に基づいて、上記の方法に従って製造した複合相鋼帯およびTRIPS支援二重相鋼帯の四分の一の厚さでの微細構造の画像である。
【0133】
光学顕微鏡画像を、ピクラールエッチングおよびSMBエッチングの後に得る。ピクラールエッチングしたもののグラフにおいて、暗色領域はベイナイト、マルテンサイトまたは焼戻しマルテンサイトを示す。ナイタルエッチングしたもののグラフにおいて、オフホワイト領域はフェライトを示す。SMBエッチングにおいて、暗灰色領域は、マルテンサイトの形成を示し、明色領域はフェライトを示す。
【0134】
図4の左側のTRIPS支援二重相微細構造において、10μmの寸法を超え得るオフホワイト領域が存在する。これらの領域は、フェライトの存在を示し、大きな寸法のフェライトは、低い降伏応力が特徴的である材料を付与する。残留オーステナイト含有量を、X線回折により測定したところ、その量は約10%であった。これにより、二重相材料へTRIP支援特性を付与する。
【0135】
左側のTRIP支援二重相鋼帯と右側の複合相鋼帯との差異は、明確に見ることができる。複合相鋼帯の白色領域はより微細であり、(焼戻し)マルテンサイトの形成を指すSMBエッチングにおいて、より多くの茶色領域が存在する。
【0136】
複合相微細構造は、フェライト粒子がより微細であることを示している、より微細な明るいオフホワイト領域により特徴付けられる。SMBエッチングにおいては、より暗い灰色領域が存在し、これは、より低い炭素(焼戻し)マルテンサイトおよび/またはベイナイトの存在について典型的である。これらの現象の組合せは、より高いRpおよび顕著な残留オーステナイト含有量の低下につながる。これは、複合相タイプの鋼に典型的である。
【0137】
表5:圧延方向に対して0°、45°および90°の方向で実施した、引張試験の引張試験パラメータ
【表5】
【0138】
TRIPS支援二重相鋼帯T1の最小異方性を、圧延方向に対して0°、45°および90°の方向で引張試験を実施することにより測定した。表5は、これらの3方向おいて、RpおよびRmおよびAg、n-値およびランクフォード係数またはr-値の最小差が存在することを示している。3方向全体についての引張値の最小さは、材料が圧延方向から独立して均質に変形可能であることを示している。最小異方性は、均質伸長または深絞り変形性にとって遊離である。N4_6値は、0.18またはこの値を超えており、これは、オーステナイト形成前の低加熱速度または酸洗に関連し、90%以上の(析出含有)フェライトをオーステナイトが形成し始める前に再結晶化することを可能にする。この酸洗は、1~100秒間、Ac1温度以下の温度で温度を維持することができる。所望により、酸洗は、加熱または冷却軌道または、酸洗選択肢の人子の組合せからなる。酸洗による加熱に関係なく、加熱鋼帯を1~100秒間、例えば、350°~Ac1温度などの、Ac1温度以下の温度領域に保持するように行う。
図1
図2
図3
図4