(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】医療デバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 17/3207 20060101AFI20220207BHJP
【FI】
A61B17/3207
(21)【出願番号】P 2018539188
(86)(22)【出願日】2017-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2017033487
(87)【国際公開番号】W WO2018052121
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】P 2016182404
(32)【優先日】2016-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【氏名又は名称】小松 靖之
(72)【発明者】
【氏名】西尾 広介
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-532211(JP,A)
【文献】特表2014-501552(JP,A)
【文献】特表2010-505542(JP,A)
【文献】特表平02-500568(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143846(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/3207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体管腔内の物体を切削するための医療デバイスであって、
回転可能な駆動シャフトと、
前記駆動シャフトを回転可能に収容する管状の外シースと、
前記駆動シャフトにより回転駆動される回転構造体と、
前記回転構造体と前記外シースとの間に配置されるリングと、を備え、
前記回転構造体は、
前記外シースの内側に配置された収容部と、
前記収容部の先端側に位置し切削部が設けられた露出部と、を備え、
前記収容部の側面と、前記露出部の側面には、前記収容部から前記露出部にわたって延在する溝部が形成されており、
前記リングは、前記回転構造体の前記収容部の周囲で、前記溝部が内側を通るように前記外シースとの間に配置されることにより、前記外シース内での前記回転構造体の径方向位置を位置決めすると共に、前記回転構造体を相対的に回動可能に支持して
おり、
前記露出部の側面には、非切削部が形成されており、
前記非切削部は、前記溝部の先端側に位置する環状の外周面により構成されていることを特徴とする医療デバイス。
【請求項2】
前記回転構造体は、
前記収容部を構成する基端部と、
前記露出部を構成し、前記基端部に接続される先端部と、を備え、
前記基端部は、
前記先端部の内部に挿入される円筒部と、
前記円筒部の周方向の異なる位置から径方向外側に突出する複数の突出部と、を備え、
前記溝部のうち前記収容部の側面に形成されている部分は、前記複数の突出部の相互間に形成される凹部により構成されており、
前記溝部のうち前記露出部の側面に形成されている部分は、前記先端部に形成されている切込み部により構成されており、
前記凹部及び前記切込み部により構成される前記溝部は、前記駆動シャフトの軸方向に直線状に延在している、請求項1に記載の医
療デバイス。
【請求項3】
前記切削部が、前記溝部の縁部により形成されている、請求項1又は2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記溝部が、前記露出部に冷却用液体を送出する液体送出流路を構成している、請求項1~3の何れか一項に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記溝部が、切削した物体を吸引する吸引流路を構成している、請求項1~3の何れか一項に記載の医療デバイス。
【請求項6】
生体管腔内の物体を切削するための医療デバイスであって、
回転可能な駆動シャフトと、
前記駆動シャフトを回転可能に収容する管状の外シースと、
前記駆動シャフトにより回転駆動される回転構造体と、
前記回転構造体と前記外シースとの間に配置されるリングと、を備え、
前記回転構造体は、
前記外シースの内側に配置された収容部と、
前記収容部の先端側に位置し切削部が設けられた露出部と、を備え、
前記収容部の側面と、前記露出部の側面には、前記収容部から前記露出部にわたって延在する溝部が形成されており、
前記リングは、前記回転構造体の前記収容部の周囲で、前記溝部が内側を通るように前記外シースとの間に配置されることにより、前記外シース内での前記回転構造体の径方向位置を位置決めすると共に、前記回転構造体を相対的に回動可能に支持しており、
前記回転構造体は、
前記収容部を構成する基端部と、
前記露出部を構成し、前記基端部に接続される先端部と、を備え、
前記基端部は、
前記先端部の内部に挿入される円筒部と、
前記円筒部の周方向の異なる位置から径方向外側に突出する複数の突出部と、を備え、
前記溝部のうち前記収容部の側面に形成されている部分は、前記複数の突出部の相互間に形成される凹部により構成されており、
前記溝部のうち前記露出部の側面に形成されている部分は、前記先端部に形成されている切込み部により構成されており、
前記凹部及び前記切込み部により構成される前記溝部は、前記駆動シャフトの軸方向に直線状に延在している、医療デバイス。
【請求項7】
前記切削部が、前記溝部の縁部により形成されている、請求項6に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
動脈硬化症に対する生体管腔内(血管内)の治療法として、血栓、プラークや石灰化病変などによって構成されている狭窄物(物体)を切削するアテレクトミーがある。アテレクトミーは、治療後の動脈開存性を高める上で、非常に重要な治療法である。アテレクトミーの手法としては、現在は主に、回転体を狭窄物に作用させることで、狭窄物を切削、除去する手法が採用されている。このようなアテレクトミー用のデバイスとして、外シース内に回転可能に収容される駆動シャフトと、駆動シャフトに連結された回転構造体とを備え、駆動シャフトを介して回転させた回転構造体に設けられた切削部(刃)により、狭窄物を切削するデバイスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、生体管腔内の狭窄物を短時間で効率的に切削したいという要望がある。しかしながら、回転構造体の回転速度を増大させることにより狭窄物の切削効率を高めようとした場合、回転する回転構造体の切削部と狭窄物との間に生じる摩擦熱によって温度が上昇し、血管等の生体組織にダメージを与える虞があった。
【0005】
かかる点に鑑みてなされた本開示の目的は、生体組織に温度上昇によるダメージを与えるリスクを低減可能な構成を有する医療デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであり、本開示の医療デバイスは、生体管腔内の物体を切削するための医療デバイスであって、
回転可能な駆動シャフトと、
前記駆動シャフトを回転可能に収容する管状の外シースと、
前記外シースの内側に配置された収容部と、
前記収容部の先端側に位置し切削部が設けられた露出部と、を備え、
前記収容部は前記駆動シャフトにより回転可能に設けられ、
前記収容部の側面と、前記露出部の側面には、前記収容部から前記露出部にわたって延在する溝部が形成されていることを特徴とする。
【0007】
本開示の医療デバイスにあっては、前記収容部の側面には、転動体が転動可能に配置された転動体保持空間が、周方向に間隔を空けて複数箇所に形成されており、
前記溝部が、複数の前記転動体保持空間の相互間に配置されていることが好ましい。
【0008】
また、本開示の医療デバイスにあっては、前記切削部が、前記溝部の縁部により形成されていることが好ましい。
【0009】
また、本開示の医療デバイスにあっては、前記溝部が、前記露出部に冷却用液体を送出する液体送出流路を構成していることが好ましい。
【0010】
また、本開示の医療デバイスにあっては、前記溝部が、切削した物体を吸引する吸引流路を構成していることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る医療デバイスによれば、生体組織に温度上昇によるダメージを与えるリスクが低減可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施形態に係る医療デバイスを示す図である。
【
図2】
図1に示す医療デバイスの遠位側を拡大した平面図である。
【
図3】
図2に示す医療デバイスのA-A線に沿った断面図である。
【
図4】
図1に示す医療デバイスの遠位側を拡大した斜視図である。
【
図5】
図1に示す医療デバイスを用いて手技を行う際の血管内の状態を示す概略断面図であり、(A)は押し込んで狭窄部を切削している状態、(B)は牽引して狭窄部を切削している状態を示す。
【
図6】本開示の他の実施形態に係る医療デバイスの遠位側を拡大した斜視図である。
【
図7】変形例に係る回転構造体の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本開示の実施の形態を説明する。図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。また、各図において、共通の部材には同一の符号を付している。また、本明細書では、医療デバイスの血管に挿入する側を「遠位側」、操作する手元側を「近位側」と称することとする。
【0014】
まず、
図1~
図4を参照して、本開示の一実施形態に係る医療デバイス10の構成について説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る医療デバイス10を示す図である。
図2は、
図1に示す医療デバイス10の遠位側を拡大した平面図である。
図3は、
図2に示す医療デバイス10のA-A線に沿った断面図である。
図4は、
図1に示す医療デバイス10の遠位側を拡大した斜視図である。
【0015】
医療デバイス10は、生体管腔内の物体を切削する治療、例えば、血管内においてプラークや石灰化病変、血栓などにより構成される狭窄物S(
図5参照)を切削する治療に用いられる。以後、具体的な例として、血管内の狭窄物Sを切削する場合を例として説明する。
【0016】
医療デバイス10は、
図1に示すように、回転軸Xに沿って回転可能に構成され狭窄物Sを切削可能な回転構造体110と、回転構造体110の回転を駆動する駆動シャフト60と、駆動シャフト60を収容可能な管状の外シース80と、回転構造体110及び駆動シャフト60を操作するための操作部90とを備える。
【0017】
図2に示すように、回転構造体110は、駆動シャフト60と連結されており、駆動シャフト60が回転すると、駆動シャフト60によって駆動されて回転構造体110が回転する。駆動シャフト60の回転は、
図1に示す操作部90によって制御される。回転構造体110の構造の詳細については後述する。
【0018】
駆動シャフト60は、管状に形成されている。駆動シャフト60は、遠位側が回転構造体110に固定され、近位側が、
図1に示すように、操作部90内部の従動歯車61に固定されている。
【0019】
駆動シャフト60は、柔軟で、しかも近位側から作用する回転の動力を遠位側に伝達可能な特性を持つ。駆動シャフト60は、例えば、右左右と巻き方向を交互にしている3層コイルなどの多層コイル状の管体、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、PTFE等のフッ素系ポリマー、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ポリイミド、又はこれらの組み合わせに線材などの補強部材が埋設されたもので構成されている。
【0020】
駆動シャフト60の内径は、適宜選択可能であるが、例えば0.4~1.6mmであり、一例として0.7mmとすることができる。駆動シャフト60の外径は、適宜選択可能であるが、例えば0.6~1.6mmであり、一例として1.0mmとすることができる。
【0021】
駆動シャフト60の内部には、ガイドワイヤ130(
図5参照)を挿入可能なガイドワイヤルーメン125(
図4参照)が設けられている。ガイドワイヤ130は、回転構造体110を血管内で進行させる際に、回転構造体110を導くために用いられる。
【0022】
外シース80は、駆動シャフト60を回転可能に収容する管体であり、駆動シャフト60に対して、回転軸Xに沿う方向(軸方向)へ移動可能かつ回転可能である。外シース80は、近位部を把持して操作可能となっており、遠位側へ移動させることで回転構造体110を内部に収容可能であり、近位側へ移動させることで回転構造体110の一部を外部へ露出させることができる。また、外シース80の内径は、第1テーパ部116の最大径よりも小さい。そのため、外シース80によって、回転構造体110が、血管内壁を押しつける力をより伝えることができ、効果的に切削することができる。
【0023】
外シース80の構成材料は、特に限定されないが、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、PTFE等のフッ素系ポリマー、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ポリイミド、などが好適に使用できる。また、外シース80は、複数の材料によって構成されてもよく、線材などの補強部材が埋設されてもよい。
【0024】
外シース80の内径は、適宜選択可能であるが、例えば1.2~2.5mmであり、一例として1.8mmとすることができる。外シース80の外径は、適宜選択可能であるが、例えば1.3~2.6mmであり、一例として2.0mmとすることができる。
【0025】
操作部90は、
図1に示すように、駆動シャフト60に回転力を付与する駆動機構部93を備えている。駆動機構部93は、従動歯車61に噛み合う駆動歯車94と、駆動歯車94が固定される回転軸95を備える駆動源であるモータ96と、モータ96へ電力を供給する電池などのバッテリー97と、モータ96の駆動を制御するスイッチ98とを備える。スイッチ98を入れてモータ96の回転軸95を回転させることで、駆動歯車94と噛み合う従動歯車61が回転し、駆動シャフト60が回転する。駆動シャフト60が回転すると、駆動シャフト60の遠位側に固定されている回転構造体110が回転する。操作部90の機構はこれに限定されず、駆動シャフト60の回転を制御可能であれば種々の操作機構を採用可能である。
【0026】
続いて、回転構造体110の構造について説明する。以後の説明において、「先端側」とは回転構造体110における遠位側のことを意味し、「基端側」とは回転構造体110における近位側のことを意味するものとする。
【0027】
図2に示すように、回転構造体110は、生体管腔内の狭窄物S等の物体を切削する際に外シース80の内側に配置される基端側の収容部128と、収容部128の先端側に位置し第1切削部123が設けられた露出部129とを有する。回転構造体110の側面には、収容部128から露出部129にわたって延在する溝部としての第1切り込み部122が形成されている。本実施形態では回転構造体110の基端側に収容部128を設けているが、これに限られず、収容部128を駆動シャフト60の先端側に設けることも可能である。
【0028】
本実施形態において、第1切り込み部122は周方向の一部に形成され、軸直交断面においてV字状となるように切り込まれた形状としている(
図3参照)。本実施形態において第1切り込み部122は、周方向に2つ設けられているが、1つのみであっても、3つ以上設けられてもよい。また、第1切り込み部122の縁部により、刃である第1切削部123が形成されているが、溝部と切削部を周方向の別の位置に設けてもよい。但し、本実施形態のように、第1切り込み部122の縁部により第1切削部123を形成すれば、構成を簡素化できるので好ましい。本実施形態の第1切り込み部122は、軸方向に平行に延在しているが、これに限られず、全体として軸方向に延在していれば、軸方向に対して傾斜していてもよい。また、第1切り込み部122は螺旋状に延在していていもよい。
【0029】
図3及び
図4に示すように、回転構造体110の収容部128の側面には、転動体140が転動可能に配置された転動体保持空間141が、周方向に間隔を空けて複数箇所に形成されている。本実施形態では、転動体保持空間141が周方向に間隔を空けて2箇所に均等配置されており、周方向に隣接する転動体保持空間141の相互間に第1切り込み部122がそれぞれ配置されている。転動体140は、一部が収容部128の外周面よりも突出しており、外シース80の内周面に接触する。これにより、外シース80に対して回転構造体110の収容部128が回転する際の摩擦抵抗を低減し、滑らかに回転構造体110が回転することができる。すなわち、転動体140は、回転構造体110と外シース80との間で軸受として機能して、外シース80に対する回転構造体110の相対的な回転動作中の摩擦抵抗を低減する。これにより、摩擦熱の発生を低減することができる。
【0030】
ここで、第1切り込み部122は、露出部129に冷却用液体を送出するための液体送出流路として用いることができる。この場合、外シース80の近位側から、生理食塩液や造影剤等の冷却用液体を外シース80内に導入し、外シース80内の空間を介して、露出部129に送出させる。外シース80内に液体送出用のカテーテルを挿入し、当該カテーテルを介して第1切り込み部122に液体を送出する構成としてもよい。また、外シース80内に生理食塩液を導入するための手段としては、シリンジやポンプ等とすることができるが、これに限定されず、種々の液体送出機構を採用可能である。
【0031】
また、第1切り込み部122は、切削した物体等を吸引するための吸引流路を構成し得る。この場合、例えば、外シース80の近位側に接続したシリンジによって吸引力を作用させ、露出部129に形成された第1切り込み部122の開口から切削した物体等を、外シース80内の空間を介して吸引する。外シース80内に吸引用のカテーテルを挿入し、第1切り込み部122に連通させた当該吸引用カテーテル内の空間を介して切削した物体等を吸引する構成としてもよい。また、外シース80または吸引用カテーテルの基端側から吸引力を作用させる手段としては、シリンジやポンプ等とすることができるが、これに限定されず、種々の吸引機構を採用可能である。
【0032】
回転構造体110は、収容部128に設けられた第1環状部112と、露出部129に設けられた第2環状部111とを備える。また、回転構造体110の露出部129には、第1環状部112と第2環状部111との間にくびれ部126が形成されている。本実施形態の回転構造体110では、第1環状部112とくびれ部126との間に、先端側において段差状に径が大きくなる段差部115が設けられている。第1環状部112は、第1テーパ部116の基端でもよい。第2環状部111は、第2テーパ部114の先端でもよい。
【0033】
くびれ部126は、第1環状部112の先端側で、先端側に向かって縮径する第1テーパ部116と、第2環状部111の基端側で、基端側に向かって縮径する第2テーパ部114とを備える。本実施形態の第1テーパ部116は、段差部115から先端側に向かって縮径している。また、本実施形態の第2テーパ部114は、第2環状部111から基端側に向かって縮径している。本実施形態の回転構造体110は、上述した段差部115を有し、第1テーパ部116が段差部115から先端側に向かって縮径する構成であるが、段差部115を有さず、第1テーパ部116が第1環状部112から先端側に向かって縮径する構成の回転構造体としてもよい。また、本開示において第2テーパ部114、第2環状部111、及び後述する第3テーパ部113は必須の構成ではなく、露出部129が第1テーパ部116のみであってもよい。
【0034】
くびれ部126は、第1テーパ部116と第2テーパ部114をつなげる底部127を備える。底部127の径は、第1環状部112の径、及び第2環状部111の径よりも小さい。ここで、「径」とは、回転構造体110の回転軸Xを中心とする径のことを意味する。以後の説明においても同様である。くびれ部126の形状は、最大径が同じである第1テーパ部116と第2テーパ部114によって構成されてもよい。また、くびれ部126の形状は、第1テーパ部116と、最大径が第1テーパ部116より大きい第2テーパ部114とによって構成されてもよい。また、くびれ部126の形状は、最大径が第2テーパ部114より大きい第1テーパ部116と、第2テーパ部114とによって構成されてもよい。くびれ部126の軸方向の長さは、軸方向の長さが等しい第1テーパ部116と第2テーパ部114によって構成されてもよい。くびれ部126の軸方向の長さは、軸方向の長さが第2テーパ部114より長い第1テーパ部116と、第2テーパ部114とによって構成されてもよい。くびれ部126の軸方向の長さは、第1テーパ部116と、軸方向の長さが第1テーパ部116より長い第2テーパ部114によって構成されてもよい。
【0035】
また、回転構造体110は、第2環状部111から先端側に向かって縮径する第3テーパ部113を備える。
【0036】
本実施形態において、第1切り込み部122は、第1テーパ部116に形成されている。第1切り込み部122の先端側は底部127の手前で終端しているが、これに限らず、第1切り込み部122を、後述する第2切り込み部120に連続させてもよい。第1切り込み部122は、非対称でもよいし、対称でもよい。第1の切り込み部122は、回転構造体110の回転方向と反対の第1の切り込み部122の面の角度の方が、回転方向の第1の切り込み部122の面より大きい。また、第1テーパ部116に砥粒や砥石等が電着されていてもよい。その場合、第1テーパ部116が第4切削部となる。第1テーパ部116は、第1切り込み部122の第1切削部123と砥粒や砥石が電着された第4切削部を有する場合、第1切り込み部122の第1切削部123と砥粒や砥石が電着された第4切削部によって、効率的に狭窄物を切削することができる。砥粒は、例えば、ダイアモンド砥粒等がある。
【0037】
第2テーパ部114は、周方向の一部に、軸直交断面においてV字状となるように切り込まれた第2切り込み部120を有し、第2切り込み部120の縁部により刃である第2切削部121が形成されている。第2切り込み部120は、周方向に1つのみ設けられても、2つ以上設けられてもよい。第2切り込み部120は、非対称でもよいし、対称でもよい。第2切り込み部120は、回転構造体110の回転方向と反対の第2切り込み部120の面の角度の方が、回転方向の第2切り込み部120の面より大きい。また、第2テーパ部114に砥粒や砥石等が電着されている場合、第2切り込み部120の第2切削部121と砥粒や砥石が電着された切削部によって、効率的に狭窄物を切削することができる。また、第2テーパ部114は、第2切り込み部120がなくてもよく、砥粒や砥石が電着された切削部だけでもよい。
【0038】
第3テーパ部113は、周方向の一部に、軸直交断面においてV字状となるように切り込まれた第3切り込み部117を有し、第3切り込み部117の縁部により刃である第3切削部118が形成されている。第3切り込み部117は、周方向に1つのみ設けられても、2つ以上設けられてもよい。第3切り込み部117は、非対称でもよいし、対称でもよい。第3切り込み部117は、回転構造体110の回転方向と反対の第3切り込み部117の面の角度の方が、回転方向の第3切り込み部117の面より大きい。また、第3テーパ部113に砥粒や砥石等が電着されている場合、第3切り込み部117の第3切削部118と砥粒や砥石が電着された切削部によって、効率的に狭窄物を切削することができる。また、第3テーパ部113は、第3切り込み部117がなくてもよく、砥粒や砥石が電着された切削部だけでもよい。
【0039】
第1切削部123及び第3切削部118は、先端側へ向かって縮径するテーパ状の部位に形成されているため、回転構造体110を遠位側へ押し込む際に、狭窄物Sを効果的に切削することができる。また、第2切削部121は、基端側へ向かって縮径するテーパ状の部位に形成されているため、回転構造体110を近位側へ牽引する際に、狭窄物Sを効果的に切削することができる。第1切り込み部122、第2切り込み部120、第3切り込み部117は、それぞれ第1テーパ部116、第2テーパ部114、第3テーパ部113の軸方向の長さに比例する。
【0040】
第2環状部111は、外周面を生体組織に対して滑らかに接触可能な形状、材質で構成し、外周面を第1非切削部としてもよい。これにより、狭窄物Sを切削する際に生体組織にダメージを与えるリスクを低減することができる。また、第3テーパ部113は、先端側の端部の外周面に、周方向全域に亘って第3切り込み部117が形成されていない第2非切削部119を設けてもよい。
【0041】
回転構造体110の構成材料は、特に限定されないが、例えば、ステンレス、Ta、Ti、Pt、Au、W、Ni、NiTi合金、超鋼(WC)、ハイス(HSS)、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、PTFE等のフッ素系ポリマー、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ポリイミド、などが好適に使用できる。
【0042】
図5に、本実施形態に係る医療デバイス10を用いて血管内の狭窄物Sを切削する様子を示す。
図5(A)は、回転構造体110を押し込んで狭窄物Sを切削している様子であり、
図5(B)は、回転構造体110を牽引して狭窄物Sを切削している様子である。
【0043】
図5(A)に示すように、回転構造体110を押し込んで狭窄物Sを切削する際は、まず、回転構造体110を血管内に挿入する。次に、駆動シャフト60を回転させると、回転構造体110が回転し、第3切削部118及び第1切削部123によって、生体管腔内の狭窄物Sを切削することができる。この際、くびれ部126の底部127の径が、第1環状部112(
図2参照)の径、及び第2環状部111(
図2参照)の径よりも小さいため、第1切削部123が正常な血管などの生体組織に接触することを抑制することができ、高い安全性を確保することができる。
【0044】
また、
図5(B)に示すように、回転構造体110を牽引して狭窄物Sを切削する際は、駆動シャフト60を回転させると、回転構造体110が回転し、第2切削部121によって、生体管腔内の狭窄物Sを切削することができる。この際、くびれ部126の底部127の径が、第1環状部112の径、及び第2環状部111の径よりも小さいため、第2切削部121が正常な血管などの生体組織に接触することを抑制することができ、高い安全性を確保することができる。回転構造体110を先端方向に押し込むだけでは、様々な要因(狭窄物Sが硬い、回転構造体110の回転のぶれ等)によって狭窄物Sの表面に凹凸が残ることがあるが、回転構造体110を基端方向に移動させてくびれ部126内の第2切削部121によって狭窄物Sを切削することにより、狭窄物Sの凹凸を低減することができる。
【0045】
本実施形態に係る医療デバイス10は、回転構造体110の側面に、収容部128から露出部129にわたって延在する第1切り込み部122が形成されている。この第1切り込み部122を、冷却用液体を送出するための液体送出流路として用いた場合には、液体が第1切り込み部122を通過することにより、また、切削部近傍に冷却用液体が供給されることにより、回転構造体110を冷却する効果を得ることができるため、生体組織に温度上昇によるダメージを与えるリスクを低減することができる。また、温度上昇を抑制することで、より発熱量の多い回転数の高速化が可能となるので、回転構造体110の回転速度を増大させることができる。これにより、生体管腔の内壁面から狭窄物Sを効率的に切削することが可能となる。また、第1切り込み部122を、切削した物体を吸引するための吸引流路として用いた場合においても、切削した物体及び生体管腔内の液体等が第1切り込み部122を通過することにより、回転構造体110を冷却する効果を得ることができるため、生体組織に温度上昇によるダメージを与えるリスクを低減することができる。また、温度上昇を抑制することで、回転構造体110の回転速度を増大させることができるので、生体管腔の内壁面から狭窄物Sを効率的に切削することが可能となる。
【0046】
また、本実施形態にあっては、第1切り込み部122の縁部により第1切削部123が形成されている。これにより、第1切り込み部122を液体送出流路として使用する場合には、摩擦による熱が発生し易い第1切削部123に直接、冷却用液体を送出することができるため、冷却効果を高めることができる。また、第1切り込み部122を吸引流路として使用する場合には、第1切削部123によって切削した物体を、第1切削部123に近い位置で吸引することができるので、吸引性能を高めることができる。また、吸引性能の向上により冷却効果も向上する。ここで、第1テーパ部116、第2テーパ部114、または第3テーパ部113の表面に、ダイアモンド砥粒を電着させること等により、砥石のような切削部を設けた場合には、切削にともなう発熱現象が特に問題となり易いので、本願発明による冷却効果がより有効に発揮される。
【0047】
また、本実施形態にあっては、回転構造体110の内部に軸受となる転動体140を配置したことにより、回転構造体110の外側に軸受を設ける場合に比べて、回転構造体110の小径化を図ることができる。
【0048】
また、本実施形態にあっては、周方向に隣接する転動体保持空間141の相互間に第1切り込み部122を配置したことにより、転動体保持空間141と第1切り込み部122が径方向に重ならないため収容部128の小径化を図ることができる。
【0049】
また、第1切り込み部122を吸引流路として使用する場合には、基端側から先端側に向かって、第1切り込み部122が回転構造体110の回転方向に傾斜するように螺旋状に延在していることが好ましい。これによれば、回転構造体110を押し込んで、またはけん引により狭窄物Sを切削する際に、第1切削部123で削り取った物体を回転構造体110の回転に合わせてスムーズに第1切り込み部122内に取り込むことができるので、吸引性能を高めることができる。
【0050】
また、本実施形態において、第2環状部111の径は、第1環状部112の径よりも小さい。これにより、第1切り込み部122を液体送出流路として使用する場合には、第2環状部111よりも先端側に冷却用液体を送出し易くなるため、冷却効果を高めることができる。また、第1切り込み部122を吸引流路として使用する場合には、第2環状部111よりも先端側で切削した物体を吸引し易くなるため、吸引性能を高めることができ、同時に、吸引性能の向上により冷却効果も向上する。また、第2環状部111の径が、第1環状部112の径よりも小さいことにより、回転構造体110を押し込む際にスムーズに押し込むことができる。
【0051】
また、本実施形態において、回転構造体110は、第2環状部111より先端側に、先端側に向かって縮径する第3テーパ部113をさらに備え、第3テーパ部113は、第3切削部118を有する。これにより、回転構造体110を押し込む際に、第3切削部118でも狭窄物Sを切削することができ、回転構造体110をスムーズに押し込むことができる。
【0052】
回転構造体110の収容部128と外シース80との間に設けられる軸受としては、先の実施形態における転動体保持空間141に配置された転動体140の構成に限られず、例えば、
図6に示すように環状の軸受部材240を採用することも可能である。
【0053】
図6に示す医療デバイス20は、回転構造体210の収容部228と外シース80との間に、環状の軸受部材240を有している。軸受部材240は、回転構造体210の収容部228に形成された環状の凹部241に配置され、回転構造体210に対する軸受部材240の軸方向の移動を規制されている。
【0054】
軸受部材240は、回転構造体210に固定される構成であってもよい。この場合、軸受部材240が固定されていない外シース80との当接面において摺動可能であり、摩擦抵抗が小さく、スムーズに回転可能となっている。
【0055】
また、軸受部材240は、径方向に2分割され内側環状部材と外側環状部材が相対的に回転可能に構成された構造であってもよい。その場合、内側環状部材と外側環状部材の間に転動体となる球体又は円筒体等を有する転がり軸受構造であってもよいし、内側環状部材と外側環状部材の当接面がスムーズに摺動可能な摺動面となっている構造としてもよい。
【0056】
また、回転構造体210の側面には、溝部としての切り込み部222が形成されており、切り込み部222は軸受部材240の径方向内側を通るように配置されている。切り込み部222は、収容部228から、第1テーパ部116及び第2テーパ部114にわたって連続的に形成されている。露出部129における切り込み部222の縁部により、切削部223が形成されている。
【0057】
(変形例)
図7及び
図8を参照して、本開示の変形例に係る回転構造体の構成について説明する。
図7は、変形例に係る回転構造体310の分解斜視図である。
図8は、変形例に係る回転構造体310の斜視図である。
【0058】
回転構造体310は、
図7に示すように、基端側に位置する基端部320と先端側に位置する先端部330とが別体として構成されている点で、
図2~
図6に示す形態と主に相違する。回転構造体310は、基端部320と、先端部330と、リング340とを備える。
【0059】
基端部320は、
図7に示すように、円筒部材321と、円筒部材321を囲う3つの連結部材322とを備える。
【0060】
連結部材322は、孔部323を有する。孔部323には、ボール軸受け用のボールが入ることができ、該ボールとリング340とによってボール軸受けが構成される。
【0061】
基端部320の側面には、溝部としての凹部324が形成されている。凹部324は、周方向に隣接する連結部材322の間に形成される空間であり、リング340の内側を通るように形成されている。本例において凹部324は、周方向に3箇所に形成されている。また、先端部330の側面には、溝部としての切り込み部331が形成されている。切り込み部331は、凹部324に連通するように構成されている。
【0062】
図8は、先端部330を露出部129とし、外シースの遠位側の端面を先端部330の基端側の端面に突き当てるように、外シース(図示省略)を配置する場合を示している。つまり、基端部320及びリング340を外シースで覆うようにした場合、
図8に示すような露出部129と収容部128が形成される。これに限らず、リング340の近位側の端面に外シースの遠位側の端面を突き当ててもよく、この場合、リング340よりも近位側が収容部128となり、リング340の近位側の端面よりも遠位側が露出部129となる。何れの場合にも、収容部128から露出部129にわたって、溝部(凹部324及び切り込み部331)が延在している。つまり、露出部129における溝部(切り込み部331)の開口は、外シースの内側の空間に常に連通した状態となる。
【0063】
図7及び
図8には図示しないが、駆動シャフト60の遠位側の端面は、円筒部材321の近位側の端面と接着する。また、駆動シャフト60の外表面は、3つの連結部材322の内表面とそれぞれ接着する。
【0064】
円筒部材321は、駆動シャフト60の遠位側の部分で置き換えてもよい。つまり、駆動シャフト60の外表面に、3つの連結部材322を接着して基端部320を構成してもよい。この場合、駆動シャフト60の遠位側の端面が、連結部材322の遠位側の端面よりも遠位側に突出していてもよいし、逆に、連結部材322の遠位側の端面が駆動シャフト60の遠位側の端面よりも突出していてもよい。
【0065】
駆動シャフト60が回転すると、連結部材322が回転する。
図7に示す連結部材322の遠位側の部分Aは、先端部330の凹部Bに嵌合しているため、連結部材322が回転すると、先端部330が回転する。
【0066】
このような構成であることにより、回転構造体310は、トルク負荷及び曲げ負荷に対して強い。
【0067】
本開示は、上述した実施形態のみに限定されず、本開示の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、外シース80はベンディング可能な構成とすることができ、例えば、近位側からの手動操作もしくは専用の操作装置により、遠位側の所定の部分を曲げることができ、また、曲げた状態を維持することができる構成としてもよい。また、医療デバイスが挿入される生体管腔は、血管に限定されず、例えば、脈管、尿管、胆管、卵管、肝管等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本開示は、医療デバイスに関する。
【符号の説明】
【0069】
10 医療デバイス
20 医療デバイス
60 駆動シャフト
61 従動歯車
80 外シース
90 操作部
93 駆動機構部
94 駆動歯車
95 回転軸
96 モータ
97 バッテリー
98 スイッチ
110 回転構造体
111 第2環状部(第1非切削部)
112 第1環状部
113 第3テーパ部
114 第2テーパ部
115 段差部
116 第1テーパ部
117 第3切り込み部
118 第3切削部
119 第2非切削部
120 第2切り込み部
121 第2切削部
122 第1切り込み部(溝部)
123 第1切削部
125 ガイドワイヤルーメン
126 くびれ部
127 底部
128 収容部
129 露出部
130 ガイドワイヤ
140 転動体
141 転動体保持空間
210 回転構造体
222 切り込み部(溝部)
223 切削部
228 収容部
240 軸受部材
241 凹部
310 回転構造体
320 基端部
321 円筒部材
322 連結部材
323 孔部
324 凹部(溝部)
330 先端部
331 切り込み部(溝部)
340 リング
S 狭窄物(物体)
X 回転軸