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特許7019590核酸安定化試薬、キット、及びその使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】核酸安定化試薬、キット、及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220207BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20220207BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20220207BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/04
C12Q1/6869 Z
C12N15/10 100Z
【請求項の数】 45
(21)【出願番号】P 2018550743
(86)(22)【出願日】2017-03-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-05-30
(86)【国際出願番号】 US2017025065
(87)【国際公開番号】W WO2017173105
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2020-03-26
(31)【優先権主張番号】62/316,514
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514304762
【氏名又は名称】バークレー ライツ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】マキューエン,ジェイソン エム.
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/011798(WO,A1)
【文献】特表2007-506403(JP,A)
【文献】国際公開第2015/002729(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2015/0166326(US,A1)
【文献】国際公開第2015/061497(WO,A1)
【文献】特開2015-180657(JP,A)
【文献】特表2011-500092(JP,A)
【文献】特表2011-512871(JP,A)
【文献】特表2013-510127(JP,A)
【文献】国際公開第2015/155230(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/122629(WO,A2)
【文献】特表2002-541767(JP,A)
【文献】特表2003-513733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12Q
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体細胞内の核酸集団を安定化させるためのキットであって、
少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤であって、リボソームストーリングを引き起こす薬剤である不可逆タンパク質翻訳阻害剤と、
少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤と、
電子伝達鎖阻害剤又は電子伝達鎖デカップリング剤を含む少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、
を含む、生体細胞キット。
【請求項2】
生体細胞内の核酸集団を安定化させるためのキットであって、
少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤と、
少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤と、
電子伝達鎖阻害剤又は電子伝達鎖デカップリング剤を含む少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、
を含み、
前記少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤が、アミノグリコシド抗生物質、D-ガラクトサミン、又はエメチンである、
生体細胞キット。
【請求項3】
前記キットが第2のタンパク質翻訳阻害剤を更に含む、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】
前記第2のタンパク質翻訳阻害剤が、
(i)可逆タンパク質翻訳阻害剤である、
(ii)前記不可逆タンパク質翻訳阻害剤と比較して速効性である、及び/又は
(iii)細胞膜透過性である、
請求項に記載のキット。
【請求項5】
前記第2のタンパク質翻訳阻害剤が、前記可逆タンパク質翻訳阻害剤であり、前記可逆タンパク質翻訳阻害剤が、リボソーム上でのアクセプター部位からドナー部位へのペプチジルRNAの移動をブロックする薬剤である、請求項4に記載のキット。
【請求項6】
前記第2のタンパク質翻訳阻害剤が、ジアゾオキシド、グルタルイミド抗生物質、シクロヘキシミド、及び/又はトコンアルカロイドである、請求項又はに記載のキット。
【請求項7】
(i)前記少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤が細胞膜透過性である、
(ii)前記少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤が細胞膜透過性である、及び/又は
(iii)前記少なくとも1種の電子伝達鎖剤が細胞膜透過性である、
請求項1からのいずれか1項に記載のキット。
【請求項8】
前記少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤がエメチンである、請求項1からのいずれか1項に記載のキット。
【請求項9】
前記少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤がCDK9阻害剤、オーレスライシン、チオルチン、アマニチン、又はトリプトリドである、請求項1からのいずれか1項に記載のキット。
【請求項10】
前記少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤が不可逆阻害剤である、請求項1からのいずれか1項に記載のキット。
【請求項11】
前記少なくとも1種の電子伝達鎖剤が可逆活性を有する、請求項1から10のいずれか1項に記載のキット。
【請求項12】
前記電子伝達鎖剤が電子伝達鎖阻害剤である、請求項1から11のいずれか1項に記載のキット。
【請求項13】
前記電子伝達鎖剤がアジ化ナトリウムである、請求項1から12のいずれか1項に記載のキット。
【請求項14】
前記少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、前記少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、及び前記少なくとも1種の電子伝達鎖剤の少なくとも1つが溶液中に提供される、請求項1から13のいずれか1項に記載のキット。
【請求項15】
前記キットがRNase阻害剤を含まない、請求項1から14のいずれか1項に記載のキット。
【請求項16】
前記キットがプロテアーゼ阻害剤、及び/又は溶解緩衝液を更に含む、請求項1から15のいずれか1項に記載のキット。
【請求項17】
前記少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、前記少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、及び前記少なくとも1種の電子伝達鎖剤の2つ以上がマスターミックス中に提供される、請求項1から16のいずれか1項に記載のキット。
【請求項18】
生体細胞中の核酸集団を安定化させる方法であって、
前記生体細胞と、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、並びに電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤を含む少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、を接触させるステップ
を含み、
前記接触が、前記核酸集団を安定化させるのに十分な期間にわたり行われ、それにより、前記生体細胞が安定化生体細胞に変換され、
前記不可逆タンパク質翻訳阻害剤が、リボソームストーリングを引き起こす薬剤である、
方法。
【請求項19】
生体細胞中の核酸集団を安定化させる方法であって、
前記生体細胞と、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、並びに電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤を含む少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、を接触させるステップ
を含み、
前記接触が、前記核酸集団を安定化させるのに十分な期間にわたり行われ、それにより、前記生体細胞が安定化生体細胞に変換され、
前記少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤が、アミノグリコシド抗生物質、D-ガラクトサミン、又はエメチンである、
方法。
【請求項20】
前記生体細胞が、前記少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、及び少なくとも1種の電子伝達鎖剤のそれぞれに同時に接触される、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、及び少なくとも1種の電子伝達鎖剤のそれぞれの存在下で前記安定化生体細胞を貯蔵することを更に含む、請求項18から20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記貯蔵ステップが、少なくとも8時間行われ、及び/又は約0℃~約4℃の温度で行われる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記安定化生体細胞と溶解試薬とを接触させることにより前記安定化生体細胞を溶解させることを更に含む、請求項18から22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記溶解された安定化生体細胞から放出された安定化核酸集団の少なくとも一部分を分離することを更に含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記安定化溶解生体細胞から放出された安定化核酸集団の少なくとも一部分からデオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)の少なくとも1つを分析することを更に含む、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
分析することが、前記デオキシリボ核酸(DNA)又は前記リボ核酸(RNA)の少なくとも1つをシーケンスすることを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記デオキシリボ核酸(DNA)又は前記リボ核酸(RNA)の少なくとも1つがリボ核酸である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
エンクロージャを含むマイクロ流体デバイス内の生体細胞中の核酸集団を安定化させる方法であって、
前記マイクロ流体デバイスの前記エンクロージャ内に前記生体細胞を配置することであって、前記エンクロージャが、フロー領域と、前記フロー領域に流体接続された少なくとも1つのチャンバとを含み、前記フロー領域及び少なくとも1つのチャンバが流体培地を閉じ込めるように構成される、配置することと、
前記生体細胞と、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、並びに電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤を含む少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、を接触させること
を含み、
前記接触が、前記生体細胞の前記核酸集団を安定化させるのに十分な期間にわたり行われ、それにより、前記生体細胞が安定化生体細胞に変換される、
方法。
【請求項29】
エンクロージャを含むマイクロ流体デバイス内の生体細胞中の核酸集団を安定化させる方法であって、
前記マイクロ流体デバイスの前記エンクロージャ内に前記生体細胞を配置することであって、前記エンクロージャが、フロー領域と、前記フロー領域に流体接続された少なくとも1つのチャンバとを含み、前記フロー領域及び少なくとも1つのチャンバが流体培地を閉じ込めるように構成される、配置することと、
前記生体細胞と、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、並びに電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤を含む少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、を接触させることと、
を含み、
前記接触が、前記生体細胞の前記核酸集団を安定化させるのに十分な期間にわたり行われ、それにより、前記生体細胞が安定化生体細胞に変換され、
前記少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤が、アミノグリコシド抗生物質、D-ガラクトサミン、又はエメチンである、
方法。
【請求項30】
前記マイクロ流体デバイス内に前記生体細胞を配置することが、前記少なくとも1つのチャンバ内に前記生体細胞を配置することを含む、請求項28又は29に記載の方法。
【請求項31】
前記少なくとも1つのチャンバが、分離領域と前記分離領域を前記フロー領域に流体接続する接続領域とを有する隔離ペンを含み、前記分離領域及び前記接続領域が、前記流体培地の成分が前記フロー領域と前記隔離ペンの前記分離領域との間で実質的に拡散のみにより交換されるように構成される、請求項28から30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記マイクロ流体デバイスの前記エンクロージャ内に前記生体細胞の配置することが、前記隔離ペンの前記分離領域内に前記生体細胞を配置することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記マイクロ流体デバイス内に前記安定化生体細胞を貯蔵することを更に含む、請求項28から32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記貯蔵ステップが、少なくとも8時間行われ、及び/又は約0℃~約4℃の温度で行われる、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記マイクロ流体デバイスから前記安定化生体細胞を搬出することを更に含む、請求項28から34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記安定化生体細胞と溶解試薬とを接触させることにより前記安定化生体細胞を溶解させることを更に含む、請求項28から35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記溶解された安定化生体細胞から放出された安定化核酸集団の少なくとも一部分を分離することを更に含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記溶解された安定化生体細胞から放出された前記安定化核酸集団の前記少なくとも一部分からデオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)の少なくとも1つを分析することを更に含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記生体細胞が哺乳動物細胞である、請求項18から38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記生体細胞が免疫細胞である、請求項18から39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記免疫細胞がT細胞、B細胞、NK細胞、又はマクロファージである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤が、CDK9阻害剤、オーレスライシン、チオルチン、アマニチン、又はトリプトリドである、請求項18から41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記電子伝達鎖剤がアジ化ナトリウムである、請求項18から42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記生体細胞と、第2のタンパク質翻訳阻害剤と、を接触させるステップをさらに含み、
前記第2のタンパク質翻訳阻害剤が、可逆タンパク質翻訳阻害剤であり、前記可逆タンパク質翻訳阻害剤が、リボソーム上でのアクセプター部位からドナー部位へのペプチジルRNAの移動をブロックする薬剤である、
請求項18から43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記生体細胞と、第2のタンパク質翻訳阻害剤と、を接触させるステップをさらに含み、
前記第2のタンパク質翻訳阻害剤が、ジアゾオキシド、グルタルイミド抗生物質、シクロヘキシミド、及び/又はトコンアルカロイドである、
請求項18から43のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、合衆国法典第35巻第119条(e)の規定により2016年3月31日出願の米国仮特許出願第62/316,514号(その開示はその全体が参照により本明細書に援用される)に基づく利益を主張する非仮出願である。
【背景技術】
【0002】
背景
バイオサイエンス及び関連分野では、分析のために生体細胞から核酸集団を分離する前に、数時間から一晩更には数日間に及ぶ期間にわたり生体細胞を貯蔵することが有用なことがある。分析される核酸集団又は少なくともその一部分は、貯蔵前の細胞状態を代表するものであることが望ましい。貯蔵に起因する核酸発現の変化は、最小限に抑えることが好ましい。本開示の幾つかの実施形態は、後で分離すべく生体細胞内の核酸を安定化させるための、有利には、貯蔵の介在が原因で核酸発現が変化する頻度を低減するための、試薬及びプロセスを含む。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
概要
生体細胞内の核酸を安定化させるためのキットが本明細書に記載されており、キットは、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤と、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤と、電子伝達鎖阻害剤及び電子伝達鎖デカップリング剤から選択される少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、を含む。
【0004】
他の態様では、生体細胞と、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、並びに電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤を含む少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、を接触させるステップを含む、生体細胞の核酸を安定化させるための方法が記載されている。ただし、接触は、核酸集団を安定化させるのに十分な期間にわたり行われ、それにより、生体細胞は、安定化生体細胞に変換される。少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、並びに電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤を含む少なくとも1種の電子伝達鎖剤は、本明細書に記載の任意の核酸安定化試薬であり得る核酸安定化試薬の成分であり得る。種々の実施形態では、本方法は、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、及び少なくとも1種の電子伝達鎖剤のそれぞれの存在下で本明細書に記載の任意の期間にわたり安定化生体細胞を貯蔵することを更に含み得る。幾つかの実施形態では、貯蔵ステップは20℃未満の温度で行い得る。種々の実施形態では、貯蔵ステップは0℃~約4℃の温度で行い得る。
【0005】
他の態様では、マイクロ流体デバイスのエンクロージャ内に生体細胞を配置するステップであって、エンクロージャがフロー領域と少なくとも1つのチャンバとを含み、少なくとも1つのチャンバがフロー領域に流体接続され、フロー領域及び少なくとも1つのチャンバが流体培地を閉じ込めるように構成される、ステップと、生体細胞と、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、並びに電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤を含む少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、を接触させるステップであって、接触が、生体細胞の核酸集団を安定化させるのに十分な期間にわたり行われ、それにより、生体細胞が安定化生体細胞に変換される、ステップと、を含む、エンクロージャを有するマイクロ流体デバイス内に位置する生体細胞の核酸を安定化させるための方法が記載されている。少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、並びに電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤を含む少なくとも1種の電子伝達鎖剤は、本明細書に記載の任意の核酸安定化試薬であり得る核酸安定化試薬の成分であり得る。少なくとも1つのチャンバは隔離ペンであり得る。フロー領域はマイクロ流体チャネルであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A】本開示の幾つかの実施形態によるマイクロ流体デバイス及び関連する制御機器で用いられるシステムの例を例示する。
図1B】本開示の幾つかの実施形態によるマイクロ流体デバイスを例示する。
図1C】本開示の幾つかの実施形態によるマイクロ流体デバイスを例示する。
図2A】本開示の幾つかの実施形態による分離ペンを例示する。
図2B】本開示の幾つかの実施形態による分離ペンを例示する。
図2C】本開示の幾つかの実施形態による詳細な隔離ペンを例示する。
図2D】本開示の幾つかの他の実施形態による隔離ペンを例示する。
図2E】本開示の幾つかの他の実施形態による隔離ペンを例示する。
図2F】本開示の幾つかの他の実施形態による隔離ペンを例示する。
図2G】本開示の実施形態によるマイクロ流体デバイスを例示する。
図2H】本開示の実施形態によるマイクロ流体デバイスの被覆表面を例示する。
図3A】本開示の幾つかの実施形態によるマイクロ流体デバイス及び関連する制御機器で用いられるシステムの具体例を例示する。
図3B】本開示の幾つかの実施形態による撮像デバイスを例示する。
図4】実施例1の5つの貯蔵準備方法の各レプリケートから回収されたRNA及びDNAの量のグラフ図である。
図5A】実施例1で溶解対照として処理された細胞(LC)から回収されたcDNAのサイズ分布のグラフ図である。
図5B】実施例1で本開示の安定化試薬の実施形態を用いて処理された細胞(In)から回収されたcDNAのサイズ分布のグラフ図である。
図5C】実施例1で本開示の安定化試薬の実施形態を用いて処理されなかった細胞(NA)から回収されたcDNAのサイズ分布のグラフ図である。
図6】実施例1で溶解対照サンプルの細胞(LC)と比較した安定化試薬を用いて処理された細胞(In)の差次的発現(DE)の表図である。
図7】実施例1で安定化試薬を用いずに4℃で貯蔵された細胞(NA)と比較した-80℃で貯蔵された溶解対照細胞(LC)の差次的発現(DE)の表図である。
図8】-80℃で貯蔵された溶解対照細胞(LC)と比較した実施例1の安定化試薬の後続添加によるPBS洗浄及び4℃貯蔵の細胞(WIn)の差次的発現(DE)の表図である。
図9】実施例1の-80℃で貯蔵された溶解対照サンプルの細胞(LC)と比較した4℃で貯蔵された無添加PBS洗浄の細胞(W)の差次的発現(DE)の表図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
例示的な実施形態の詳細な説明
本明細書には、本開示の例示的な実施形態及び適用が記載されている。しかし、本開示は、これらの例示的な実施形態及び適用にも、例示的な実施形態及び適用を行う方式やそれについての本明細書に記載の方式にも、限定されるものではない。更に、図は、簡略図又は部分図を示し得ると共に、図中の要素の寸法は、誇張されたりさもなければ比例していなかったりし得る。そのほか、「~上」、「~に付着される」、「~に接続される」、「~に結合される」という用語又は類似語が本明細書で使用される場合、一方の要素が直接他方の要素上にあるか、それに付着されるか、それに接続されるか、若しくはそれに結合されるか、又は一方の要素と他方の要素との間に1つ以上の介在要素があるかにかかわらず、一方の要素(例えば、材料、層、基板等)は、他方の要素「上」にあるか、それ「に付着される」か、それ「に接続される」か、又はそれ「に結合される」。そのほか、要素のリスト(例えば、要素a、b、c)が参照された場合、かかる参照は、列挙された要素のいずれか1つだけ、列挙された要素の全てに満たない任意の組合せ、及び/又は列挙された要素の全ての組合せを含むことが意図される。
【0008】
本明細書でのセクション分割は、概説を容易にすることのみを目的としたものであり、考察される要素のいずれの組合せにも限定されるものではない。
【0009】
本明細書で使用される場合、「実質的に」とは、意図された目的で機能するのに十分であることを意味する。そのため、「実質的に」という用語は、当業者により予想されるような、ただし、全体性能にそれほど影響を及ぼさない、絶対的又は完全な状態、寸法、測定、結果等からのわずかな有意でない変動を許容する。数値又は数値として表現可能なパラメータ若しくは特性に対して用いられる場合、「実質的に」とは10パーセント以内を意味する。
【0010】
本明細書で使用される場合、「ones(もの)」という用語は2つ以上を意味する。本明細書で使用される場合、「複数」という用語は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又はそれ以上であり得る。
【0011】
本明細書で使用される場合、「配置される」という用語は、その意味内に「位置決めされる」を包含する。
【0012】
本明細書で使用される場合、「マイクロ流体デバイス」又は「マイクロ流体装置」とは、流体を保持するように構成された1つ以上の離散マイクロ流体回路(各マイクロ流体回路は、限定されるものではないが、領域、流路、チャネル、チャンバ、及び/又はペンをはじめとする相互接続回路要素を含む)と、マイクロ流体デバイスに対して流体(及び任意選択的に流体中に懸濁された微小物体)の流入及び/又は流出を可能にするように構成された少なくとも2つのポートとを含むデバイスのことである。典型的には、マイクロ流体デバイスのマイクロ流体回路は、少なくとも1つのマイクロ流体チャネルと少なくとも1つのチャンバとを含み、約1mL未満、例えば、約750μL未満、約500μL未満、約250μL未満、約200μL未満、約150μL未満、約100μL未満、約75μL未満、約50μL未満、約25μL未満、約20μL未満、約15μL未満、約10μL未満、約9μL未満、約8μL未満、約7μL未満、約6μL未満、約5μL未満、約4μL未満、約3μL未満、又は約2μL未満の体積の流体を保持するであろう。特定の実施形態では、マイクロ流体回路は、約1~2μL、約1~3μL、約1~4μL、約1~5μL、約2~5μL、約2~8μL、約2~10μL、約2~12μL、約2~15μL、約2~20μL、約5~20μL、約5~30μL、約5~40μL、約5~50μL、約10~50μL、約10~75μL、約10~100μL、約20~100μL、約20~150μL、約20~200μL、約50~200μL、約50~250μL、又は約50~300μLを保持する。
【0013】
本明細書で使用される場合、「ナノ流体デバイス」又は「ナノ流体装置」とは、約1μL未満、例えば、約750nL未満、約500nL未満、約250nL未満、約200nL未満、約150nL未満、約100nL未満、約75nL未満、約50nL未満、約25nL未満、約20nL未満、約15nL未満、約10nL未満、約9nL未満、約8nL未満、約7nL未満、約6nL未満、約5nL未満、約4nL未満、約3nL未満、約2nL未満、約1nL以下の体積の流体を保持するように構成された少なくとも1つの回路要素を含有するマイクロ流体回路を有するタイプのマイクロ流体デバイスのことである。典型的には、ナノ流体デバイスは、複数の回路要素(例えば、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、50、75、100、150、200、250、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、6000、7000、8000、9000、10,000個、又はそれ以上)を含むであろう。特定の実施形態では、少なくとも1つの回路要素の1つ以上(例えば、全て)は、約100pL~1nL、約100pL~2nL、約100pL~5nL、約250pL~2nL、約250pL~5nL、約250pL~10nL、約500pL~5nL、約500pL~10nL、約500pL~15nL、約750pL~10nL、約750pL~15nL、約750pL~20nL、約1~10nL、約1~15nL、約1~20nL、約1~25nL、又は約1~50nLの体積の流体を保持するように構成され得る。他の実施形態では、少なくとも1つの回路要素の1つ以上(例えば、全て)は、約100~200nL、約100~300nL、約100~400nL、約100~500nL、約200~300nL、約200~400nL、約200~500nL、約200~600nL、約200~700nL、約250~400nL、約250~500nL、約250~600nL、又は約250~750nLの体積の流体を保持するように構成され得る。
【0014】
マイクロ流体デバイス又はナノ流体デバイスは、本明細書では、「マイクロ流体チップ」若しくは「チップ」又は「ナノ流体チップ」若しくは「チップ」として参照され得る。
【0015】
本明細書で使用される「マイクロ流体チャネル」又は「フローチャネル」とは、水平寸法及び垂直寸法の両寸法よりも有意に長い長さを有するマイクロ流体デバイスのフロー領域を指す。例えば、フローチャネルは、水平寸法又は垂直寸法のいずれかの長さの少なくとも5倍、例えば、その長さの少なくとも10倍、その長さの少なくとも25倍、その長さの少なくとも100倍、その長さの少なくとも200倍、その長さの少なくとも500倍、その長さの少なくとも1,000倍、その長さの少なくとも5,000倍、又はそれ以上であり得る。幾つかの実施形態では、フローチャネルの長さは、介在する任意の範囲を含めて約100,000ミクロン~約500,000ミクロンの範囲内である。幾つかの実施形態では、水平寸法は、約100ミクロン~約1000ミクロン(例えば、約150~約500ミクロン)の範囲内であり、且つ垂直寸法は、約25ミクロン~約200ミクロン、例えば、約40~約150ミクロンの範囲内である。フローチャネルは、マイクロ流体デバイス内で多種多様な空間構成を有し得るので、完全に線状の要素に制限されないことに留意されたい。例えば、フローチャネルは、次の構成、すなわち、カーブ、ベンド、スパイラル、傾斜、下降、フォーク(例えば、複数の異なる流路)、及びそれらの任意の組合せを有する1つ以上のセクションであるか、又はそれらを含み得る。そのほか、フローチャネルは、その中に所望の流体フローを提供するように、その通路に沿って異なる断面積、拡幅、及び狭窄を有し得る。
【0016】
本明細書で使用される場合、「障害物」という用語は、一般に、マイクロ流体デバイスの2つの異なる領域間又は回路要素間の標的微小物体の移動を部分的に(完全にではなく)妨げるのに十分な大きさのバンプ又は類似のタイプの構造物を指す。2つの異なる領域/回路要素は、例えば、マイクロ流体隔離ペン及びマイクロ流体チャネル、又はマイクロ流体隔離ペンの接続領域及び分離領域であり得る。
【0017】
本明細書で使用される場合、「狭窄」という用語は、一般に、マイクロ流体デバイスの回路要素(又は2つの回路要素間のインターフェース)の幅の狭小化を指す。狭窄は、例えば、マイクロ流体隔離ペンとマイクロ流体チャネルとの間のインターフェース又はマイクロ流体隔離ペンの分離領域と接続領域との間のインターフェースに位置決めし得る。
【0018】
本明細書で使用される場合、「透明」という用語は、透過の際に光を実質的に変化させることなく可視光を透過させる材料を指す。
【0019】
本明細書で使用される場合、「微小物体」という用語は、一般に、本開示に従って分離及び/又は操作し得る任意の微視的物体を意味する。限定されるものではないが微小物体の例としては、無生物微小物体、例えば、マイクロ粒子、マイクロビーズ(例えば、ポリスチレンビーズ、Luminex(商標)ビーズ等)、磁気ビーズ、マイクロロッド、マイクロワイヤ、量子ドット等、生物学的微小物体、例えば、細胞、生物オルガネラ、ベシクル又は複合体、合成ベシクル、リポソーム(例えば、合成又は膜調製物由来)、脂質ナノラフト等、又は無生物微小物体と生物学的微小物体との組合せ(例えば、細胞付着マイクロビーズ、リポソーム被覆マイクロビーズ、リポソーム被覆磁気ビーズ等)が挙げられる。ビーズは、共有結合又は非共有結合された部分/分子、例えば、蛍光標識、タンパク質、炭水化物、抗原、低分子シグナリング部分、又はアッセイで使用可能な他の化学的/生物学的種を含み得る。脂質ナノラフトは、例えば、Ritchie et al. (2009) “Reconstitution of Membrane Proteins in Phospholipid Bilayer Nanodiscs,” Methods Enzymol., 464:211-231に記載されている。
【0020】
本明細書で使用される場合、「細胞」という用語は、「生体細胞」という用語と同義的に用いられる。限定されるものではないが生体細胞の例としては、真核細胞、植物細胞、動物細胞、例えば、哺乳動物細胞、爬虫動物細胞、トリ細胞、サカナ細胞等、原核細胞、細菌細胞、真菌細胞、原生動物細胞等、組織、例えば、筋肉、軟骨、脂肪、皮膚、肝臓、肺、神経の組織等から解離させた細胞、免疫細胞、例えば、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ等、胚(例えば、接合体)、卵母細胞、卵子、精子細胞、ハイブリドーマ、培養細胞、細胞系細胞、癌細胞、感染細胞、トランスフェクト及び/又はトランスフォーム細胞、レポーター細胞等が挙げられる。哺乳動物細胞は、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、霊長動物等に由来し得る。
【0021】
コロニー中の複製可能な生細胞の全てが単一の親細胞に由来する娘細胞である場合、生体細胞のコロニーは「クローン」である。特定の実施形態では、クローンコロニーの娘細胞は全て、10回以下の分裂により単一の親細胞から派生される。他の実施形態では、クローンコロニーの娘細胞は全て、14回以下の分裂により単一の親細胞から派生される。他の実施形態では、クローンコロニーの娘細胞は全て、17回以下の分裂により単一の親細胞から派生される。他の実施形態では、クローンコロニーの娘細胞は全て、20回以下の分裂により単一の親細胞から派生される。「クローン細胞」という用語は、同一のクローンコロニーの細胞を意味する。
【0022】
本明細書で使用される場合、生体細胞の「コロニー」とは、2細胞以上(例えば、約2~約20、約4~約40、約6~約60、約8~約80、約10~約100、約20~約200、約40~約400、約60~約600、約80~約800、約100~約1000細胞、又は1000細胞超)を意味する。
【0023】
本明細書で使用される場合、「細胞を維持する」という用語は、細胞の生存及び/又は増殖を続けるのに必要な条件を提供する、流体及び気体の両成分と任意選択的に表面とを含む環境を提供することを意味する。
【0024】
本明細書で使用される場合、細胞を参照するときの「増殖させる」という用語は、細胞数が増加することを意味する。
【0025】
流体培地の「成分」は、溶媒分子、イオン、低分子、抗生物質、ヌクレオチド及びヌクレオシド、核酸、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、糖、炭水化物、脂質、脂肪酸、コレステロール、代謝物等をはじめとする培地中に存在する任意の化学分子又は生化学分子である。
【0026】
本明細書で使用される場合、「捕捉部分」とは、微小物体に対する認識部位を提供する化学的若しくは生物学的種、官能基、又はモチーフである。所定のクラスの微小物体は、in situで生成された捕捉部分を認識し得ると共に、in situで生成された捕捉部分に結合し得るか又はそれに対して親和性を有し得る。限定されるものではないが例としては、抗原、抗体、及び細胞表面結合モチーフが挙げられる。
【0027】
本明細書で使用される場合、「流動性ポリマー」とは、流体培地(例えば、プレポリマー溶液)に溶解可能又は分散可能なポリマーモノマー又はマクロマーのことである。流動性ポリマーは、マイクロ流体フロー領域に進入し得ると共に、その中の流体培地の他の成分と共に流動し得る。
【0028】
本明細書で使用される場合、「光開始ポリマー」とは、光に暴露されると、共有結合による架橋、特異的共有結合の形成、剛性化化学モチーフの周りの位置化学の変化、又は物理的状態の変化を引き起こすイオン対の形成が可能であり、それによりポリマーネットワークを形成するポリマー(又はポリマーを生成するために使用可能なモノマー分子)を意味する。幾つかの場合には、光開始ポリマーは、共有結合による架橋、特異的共有結合の形成、剛性化化学モチーフの周りの位置化学の変化、又は物理的状態の変化を引き起こすイオン対の形成が可能な1つ以上の化学部分に結合されたポリマーセグメントを含み得る。幾つかの場合には、光開始ポリマーは、ポリマーネットワークの形成を開始(例えば、ポリマーの重合により)するために光活性ラジカル開始剤を必要とし得る。
【0029】
本明細書で使用される場合、「抗体」とは、免疫グロブリン(Ig)を意味し、これは、霊長動物化(例えば、ヒト化)、ネズミ、マウス-ヒト、マウス-霊長動物、及びキメラのポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体の両方を含み、且つインタクト分子、そのフラグメント(例えば、scFv、Fv、Fd、ファブ、Fab’、及びF(ab)’2フラグメント)、又はインタクト分子及び/若しくはフラグメントのマルチマー若しくはアグリゲートであり得ると共に、天然に存在し得るか、又は免疫化、合成、遺伝子工学等により生成し得る。「抗体フラグメント」とは、本明細書で使用される場合、抗原に結合する、且つ幾つかの実施形態では、ガラクトース残基の導入等により、クリアランス及び取込みを促進する構造特徴部を呈するように誘導体化し得る、抗体に由来する又は関連するフラグメントを意味する。これは、例えば、F(ab)、F(ab)’2、scFv、軽鎖可変領域(VL)、重鎖可変領域(VH)、及びそれらの組合せを含む。
【0030】
流体培地を参照して本明細書で使用される場合、「拡散する」又は「拡散」とは、流体培地の成分が濃度勾配の下方に熱力学的に移動することを指す。
【0031】
「培地のフロー」という語句は、拡散以外の任意の機構に主に起因する流体培地のバルク移動を意味する。例えば、培地のフローは、点間の圧力差に起因する一方の点から他方の点への流体培地の移動を含み得る。かかるフローは、液体の連続フロー、パルスフロー、周期フロー、ランダムフロー、間欠フロー、若しくは往復フロー、又はそれらの任意の組合せを含み得る。一方の流体培地が他方の流体培地に流入する場合、培地の乱流及び混合を生じ得る。
【0032】
「実質的にノーフロー」という語句は、時間平均で流体培地中への又は流体培地中での材料の成分(例えば、対象のアナライト)の拡散速度未満の流体培地の流速を指す。かかる材料の成分の拡散速度は、例えば、温度、成分のサイズ、及び成分と流体培地との間の相互作用の強度に依存し得る。
【0033】
マイクロ流体デバイス内の異なる領域を参照して本明細書で使用される場合、「流体接続される」という語句は、異なる領域が流体培地等の流体で実質的に充填されたときに各領域内の流体が単一体の流体を形成するように接続されることを意味する。このことは、異なる領域内の流体(又は流体培地)が必ずしも同一の組成であることを意味するものではない。より正確には、マイクロ流体デバイスの異なる流体接続領域内の流体は、溶質がそのそれぞれの濃度勾配の下方に移動するときに及び/又は流体がデバイスを貫流するときに流束内で異なる組成(例えば、タンパク質、炭水化物、イオン、他の分子等の溶質の濃度が異なる)を有し得る。
【0034】
本明細書で使用される場合、「流路」とは、培地のフローの軌道を規定する且つその対象となる1つ以上の流体接続回路要素(例えば、チャネル、領域、チャンバ等)を意味する。そのため、流路は、マイクロ流体デバイスの掃引領域の例である。他の回路要素(例えば、非掃引領域)は、流路の培地のフローの対象とならない流路を含む回路要素に流体接続し得る。
【0035】
本明細書で使用される場合、「微小物体を分離する」とは、マイクロ流体デバイス内の規定領域に微小物体を閉じ込めることである。
【0036】
マイクロ流体(又はナノ流体)デバイスは、「掃引」領域と「非掃引」領域とを含み得る。本明細書で使用される場合、「掃引」領域は、流体がマイクロ流体回路を貫流するときに培地のフローにそれぞれ遭遇するマイクロ流体回路の1つ以上の流体相互接続回路要素を含む。掃引領域の回路要素は、例えば、領域、チャネル、及びチャンバの全部又は一部を含み得る。本明細書で使用される場合、「非掃引」領域は、流体がマイクロ流体回路を貫流するときに実質的に流体のノーフラックスにそれぞれ遭遇するマイクロ流体回路の1つ以上の流体相互接続回路要素を含む。拡散を可能とするが掃引領域と非掃引領域との間で培地が実質的にノーフローとなるように流体接続が構造化される限り、非掃引領域は掃引領域に流体接続可能である。そのため、マイクロ流体デバイスは、掃引領域と非掃引領域との間で実質的に拡散流体連通のみを可能にしつつ掃引領域内の培地のフローから非掃引領域を実質的に分離するように構造化可能である。例えば、マイクロ流体デバイスのフローチャネルは掃引領域の例であり、一方、マイクロ流体デバイスの分離領域(以下に更に詳細に記載される)は非掃引領域の例である。
【0037】
特定の生体物質(例えば、抗体等のタンパク質)を産生する生物学的微小物体(例えば、生体細胞)の能力は、かかるマイクロ流体デバイスでアッセイ可能である。アッセイの具体的な実施形態では、対象のアナライトを産生するためにアッセイされる生物学的微小物体(例えば、細胞)を含むサンプル材料は、マイクロ流体デバイスの掃引領域に装填可能である。生物学的微小物体(例えば、ヒト細胞等の哺乳動物細胞)のうち特定の特徴のものを選択して非掃引領域に配置することが可能である。次いで、残留サンプル材料を掃引領域から流出させ、アッセイ材料を掃引領域に流入させることが可能である。選択された生物学的微小物体は非掃引領域内にあるので、選択された生物学的微小物体は、残留サンプル材料の流出やアッセイ材料の流入の影響を実質的に受けない。選択された生物学的微小物体は、対象のアナライトの産生を可能にし得る。この場合、対象のアナライトは、非掃引領域から掃引領域内に拡散可能であり、掃引領域では、対象のアナライトは、アッセイ材料と反応して局在化された検出可能な反応を引き起こすことが可能であり、各反応は、特定の非掃引領域に関連付け可能である。検出された反応に関連付けられる任意の非掃引領域を分析して、非掃引領域内のどの生物学的微小物体(もしあれば)が対象のアナライトの十分なプロデューサーであるかを決定することが可能である。
【0038】
本明細書で参照される場合、「安定化生体細胞」とは、典型的な培養条件又はin-vivo条件とは異なる条件下で維持された生体細胞のことである。ただし、かかる条件(すなわち「維持条件」)は、核酸集団又はトランスクリプトームが典型的な培養条件下又はin-vivo条件下の細胞の核酸集団又はトランスクリプトームと実質的に同一になるように細胞の核酸又はトランスクリプトームを安定化させる。維持条件は、低下温度での貯蔵を含めて安定化生体細胞の貯蔵の助けとなる条件を含み得る。特定の実施形態では、安定化生体細胞の安定化トランスクリプトームは、典型的な培養条件下又はin-vivo条件下で成長する対応する細胞(すなわち、同一のタイプ及び/又は起源のもの)のトランスクリプトームと実質的に同一である。
【0039】
本明細書で使用される場合、「可逆」阻害剤は、バイオ分子に非共有結合で結合してバイオ分子(例えば、タンパク質、核酸、リボザイム、複合体等)の活性を阻害することにより、結合状態でバイオ分子の活性を低減又は排除する。可逆阻害剤は、阻害されるバイオ分子に対して一群の特徴的な速度論的パラメータ(例えば、結合親和性、会合速度又は「オン速度」、及び解離速度又は「オフ速度」)を有する。したがって、特定のバイオ分子の異なる可逆阻害剤は、異なる結合親和性(会合速度及び/又は解離速度)を有し得る。かかる速度論的パラメータの差は、可逆阻害剤と標的バイオ分子との間の化学的相互作用の差、例えば、標的バイオ分子の異なる部分への結合との差を反映する。
【0040】
本明細書で参照される場合、「不可逆」阻害剤は、バイオ分子への共有結合を形成するか、又は任意の適正な実験期間内にわたり阻害剤がバイオ分子から解離しないようにつまり本質的に不可逆的にバイオ分子への高い結合親和性を有するか、のいずれかにより、バイオ分子の活性を阻害する。
【0041】
本明細書で参照される場合、「細胞膜透過性」とは、効果的に細胞内活性にするに十分な量で細胞膜を通って受動拡散する分子の能力を意味する。これは、分子のイオン性(荷電)、極性、及びサイズ(モル質量)の関数である。より小さなより脂溶性の分子は、より大きな荷電分子よりも透過性であり得る。
【0042】
本明細書で参照される場合、「マスターミックス」とは、プレ混合された即使用可能な試薬の組合せのことである。安定化試薬のマスターミックスは、試薬(例えば、タンパク質翻訳阻害剤、核酸転写阻害剤、及び任意選択的プロテアーゼ阻害剤)の全ての成分を有し得る。マスターミックスは、安定化反応内で実際に使用される濃度の約1倍~約1000倍(例えば、2倍、5倍、10倍、20倍、100倍又は1000倍)の任意の濃度の成分を有し得る。幾つかの他の実施形態では、マスターミックスは、完全試薬に必要とされる成分の幾つか(例えば、2、3等)を有し得る。この場合、残りの成分は、使用直前に添加し得る。
【0043】
核酸安定化試薬及びその使用方法。
数時間から数日間に及ぶ期間にわたり細胞を貯蔵した後に生体細胞から核酸集団を分離することが望ましいことがある。貯蔵時、典型的には低下温度での貯蔵時、生体細胞の核酸のサブセットは、細胞が貯蔵条件又は貯蔵用細胞の準備に使用した作用剤との接触に晒された結果として損傷、過少産生(例えば、比率の低減)、又は過剰産生を生じるおそれがある。幾つかの実施形態では、シーケンシング又はハイブリダイゼーションの実験による核酸の検出は、回収された核酸が貯蔵前に細胞に存在していた核酸のタイプ及び集団内頻度を代表する場合にのみ生体細胞の状態に関する有意な情報をもたらし得る。貯蔵用細胞を調製するために現在利用可能な処理は、通常、タンパク質、核酸等を架橋することを含むが、「固定」細胞の架橋された材料塊(例えば、架橋試薬で処理されたもの)内からの所望の核酸の回収が損なわれて材料の量の低減を招く可能性があるので、架橋を用いることなく貯蔵用細胞を安定化できることが改善点である。このことは単一細胞から核酸を回収するときに特に問題となる。
【0044】
本明細書には、生体細胞を貯蔵に付す前に生体細胞に存在する核酸を安定化させるための組成物、方法、及びキットが記載されている。安定化させることは、生体細胞がその規範的条件下で産生していたものと比べて異なる核酸又は変化した量の同一の核酸の産生をもたらす可能性のある細胞プロセスを停止させることを含む。温度変化又は保存剤への暴露は、物理的変化(例えば、水性成分の結晶化)、化学的変化、又は生物学的変化の誘導、例えば、ストレス経路又は細胞死経路の誘導を招くおそれがある。そのため、生体細胞から回収されたこうした外因的誘導核酸を検出しても、貯蔵前の細胞状態の真の理解ができないおそれがある。
【0045】
驚くべきことに、細胞内の核酸の産生及び/又は機能を停止させるように設計された作用剤の混合物を含有する安定化試薬は、その産生のパターン及びレベルを貯蔵条件/安定化試薬への暴露前に観測されたレベルに実質的に類似したレベルに維持することにより、貯蔵時に(及び貯蔵後の分離のために)核酸を安定化させ得ることを、出願人は発見した。
【0046】
幾つかの実施形態では、安定化試薬は、貯蔵及びその後のDNA分離のためにデオキシ核酸を安定化させるべく使用し得る。他の実施形態では、安定化試薬は、貯蔵及びその後の分離のためにリボ核酸(RNA)を安定化させ得る。幾つかの実施形態では、安定化試薬は、貯蔵及びその後の分離のためにメッセンジャーRNA(mRNA)を安定化させ得る。幾つかの実施形態では、安定化試薬は、DNA及びRNA(例えばmRNA)の両方を安定化させ得る。
【0047】
安定化試薬。
幾つかの実施形態では、安定化試薬は、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤と、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤と、少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、を含む。電子伝達鎖剤は、電子伝達鎖阻害剤であり得るか又は電子伝達デカップリング剤であり得るかのいずれかである。幾つかの実施形態では、安定化試薬は、第1の不可逆タンパク質翻訳阻害剤とは異なる第2のタンパク質翻訳阻害剤を含み得る。第2のタンパク質翻訳阻害剤は、可逆阻害剤であり得る及び/又は不可逆タンパク質翻訳阻害剤と比較して速効性であり得る。
【0048】
不可逆タンパク質翻訳阻害剤。少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤は、安定化試薬の成分であり得る。不可逆タンパク質翻訳阻害剤は、新しいタンパク質の合成を実質的に防止し得る。不可逆性は、試薬導入の時点で、及びいずれも暴露に反応してタンパク質合成の変化を引き起こすおそれのいかなる他の貯蔵条件又は試薬への暴露前にも、タンパク質合成を停止させることが望ましい。不可逆阻害剤は、速効性(例えば、約10分~約30分の時間内で効力を示す)又は遅効性(1時間以上経って効力を示す)のいずれかであり得る。不可逆タンパク質翻訳阻害剤は細胞膜透過性であり得る。例えば、より容易に細胞内に拡散してタンパク質翻訳を阻害するのに十分な量で細胞内に進入するように、脂質相への溶解性を有する。不可逆タンパク質翻訳阻害剤は、アミノグリコシド抗生物質(限定されるものではないがアミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ストレプトマイシン、及びトブラマイシンを含む)、D-ガラクトサミン、及び/又はエメチン(CAS No. 483-18-1)から選択し得る。幾つかの実施形態では、不可逆タンパク質翻訳阻害剤はエメチンであり得る。不可逆タンパク質翻訳阻害剤は、リボソームに結合すると共にリボソームストーリングを引き起こしてタンパク質合成を停止させることにより、タンパク質翻訳を阻害し得る。限定されるものではないが一例では、エメチンは、真核生物(限定されるものではないが哺乳動物又はヒトを含む)リボソームの40Sサブユニットに不可逆的に結合してリボソームストーリングを開始させる。不可逆タンパク質翻訳阻害剤は、不可逆タンパク質翻訳阻害剤が約1.0マイクロモル~約100ミリモル、約1.0マイクロモル~約50ミリモル、約1.0マイクロモル~約5ミリモル、約5マイクロモル~約15ミリモル、約5マイクロモル~約10ミリモル、約0.1ミリモル~約5ミリモル、又はこれら範囲間の任意の値の濃度で存在する溶液を添加することにより生体細胞に接触させ得る。
【0049】
第2のタンパク質翻訳阻害剤。
第2のタンパク質翻訳阻害剤は、安定化試薬の成分であり得る。第2のタンパク質翻訳阻害剤は、安定化試薬の第1のタンパク質翻訳阻害剤とは異なる。第2のタンパク質翻訳阻害剤は、不可逆タンパク質翻訳阻害剤又は可逆タンパク質翻訳阻害剤であり得る。第2のタンパク質翻訳阻害剤は細胞膜透過性であり得る。例えば、細胞膜を通ってタンパク質翻訳を阻害するのに十分な量で細胞に進入できるように十分な脂溶性であり得る。第2のタンパク質翻訳阻害剤は、安定化試薬の不可逆タンパク質翻訳阻害剤と同一の機構又は異なる機構により新たなタンパク質合成を停止させるように作用し得る。第2のタンパク質翻訳阻害剤は速効性であり得る。速効性とは、その適用により生体細胞への添加の30分以内に阻害剤がタンパク質合成を実質的に停止させることを意味する(タンパク質合成を実質的に停止させるとは、タンパク質合成の少なくとも90%を停止させることを意味する)。そのため、幾つかの実施形態では、速効性タンパク質翻訳阻害剤は、約1分、2分、3分、5分、又は約10分~約30分の時間内でタンパク質合成を実質的に停止させ得る。幾つかの実施形態では、第2のタンパク質翻訳阻害剤は、ジアゾオキシド、グルタルイミド抗生物質、及び/又はトコンアルカロイドから選択し得る。グルタルイミド抗生物質は、限定されるものではないがシクロヘキシミド、アセトキシシクロヘキシミド、ストレプチミドン、ストレプトビタシン、イナクトン、エピデルスタチン、アセチケタール、及びドリゴシンを含み得る。幾つかの実施形態では、第2のタンパク質翻訳阻害剤はシクロヘキシミド(CAS No. 66-81-9)であり得る。シクロヘキシミドは可逆阻害剤であり、60Sリボソームユニットに結合してリボソーム上でのアクセプター(アミノアシル)部位からドナー(ペプチジル)部位へのペプチジルRNAの移動をブロックすることにより、翻訳伸長を阻害することが可能である。第2のタンパク質翻訳阻害剤は、第2のタンパク質翻訳阻害剤が約1.0マイクロモル~約100ミリモル、約1.0マイクロモル~約50ミリモル、約1.0マイクロモル~約5ミリモル、約5マイクロモル~約15ミリモル、約5マイクロモル~約10ミリモル、約0.1ミリモル~約5ミリモル、又はこれら範囲間の任意の値の濃度で存在する溶液を添加することにより生体細胞に接触させ得る。
【0050】
リボ核酸転写阻害剤。
少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤は、安定化試薬の成分であり得る。リボ核酸転写阻害剤は、不可逆リボ核酸転写阻害剤又は可逆リボ核酸転写阻害剤であり得る。可逆リボ核酸転写阻害剤は、限定されるものではないがCDK9阻害剤(例えば、5,6-ジクロロ-1-β-D-リボフラノシルベンゾイミダゾール(DRB))及びフラボルピリドールを含み得る。不可逆リボ核酸転写阻害剤は、限定されるものではないがオーレオスライシン、チオルチン、アミニチン、又はトリプトリドを含み得る。他の実施形態では、不可逆リボ核酸転写阻害剤はアクチノマイシンであり得る。種々の実施形態では、リボ核酸転写阻害剤はトリプトリド(CAS no. 38748-32-2)であり得る。リボ核酸転写阻害剤は細胞膜透過性であり得ると共に、リボ核酸転写を阻害するのに十分な量で細胞に進入し得る。リボ核酸転写阻害剤は、速効性であり得るか(例えば、約1分、2分、3分、5分、10分~約30分の時間内で効力を示す)又は遅効性であり得るか(1時間以上経って効力を示す)のいずれかである。幾つかの実施形態では、リボ核酸転写阻害剤は速効性であり得る。リボ核酸転写阻害剤は、リボ核酸転写阻害剤が約10ナノモル~約50ミリモル、約0.01マイクロモル~約50ミリモル、約0.1マイクロモル~約500マイクロモル、約0.1マイクロモル~約50マイクロモル、又はこれら範囲間の任意の値の濃度で存在する溶液を添加することにより生体細胞に接触させ得る。
【0051】
電子伝達鎖剤。
少なくとも1種の電子伝達鎖剤は、安定化試薬の成分であり得る。電子伝達鎖剤は、細胞膜透過性であり得ると共に、電子伝達鎖を撹乱するのに十分な量で細胞に進入し得る。電子伝達鎖剤は、速効性であり得るか(例えば、約1分、2分、3分、5分、10分~約30分の時間内で効力を示す)又は遅効性であり得るか(1時間以上経って効力を示す)のいずれかである。幾つかの実施形態では、電子伝達鎖剤は速効性であり得る。電子伝達鎖剤は、電子伝達鎖に対して可逆活性又は不可逆活性を有し得る。電子伝達鎖剤は、電子伝達鎖阻害剤であり得ると共に、その例としては、限定されるものではないがロテノン、アンチマイシンA1、2-テノイルトリフルオロアセトン、カルボキシン、シアニド、アジ化ナトリウム、及びオリゴマイシンが挙げられる。代替的に、電子伝達鎖剤は、電子伝達鎖デカップリング剤であり得ると共に、その例としては、限定されるものではないが2,4ジニトロフェノール、ジクマロール、及びカルボニルシアニド4-(トリフルオロメトキシ)-フェニルヒドラゾンが挙げられる。電子伝達デカップリング剤は、脂質溶解性がその一般的特徴であるので電子伝達鎖剤として選択し得る。幾つかの実施形態では、電子伝達鎖剤はアジ化ナトリウムであり得る。電子伝達鎖剤は、電子伝達鎖剤が約0.1マイクロモル~約100ミリモル、約10マイクロモル~約50ミリモル、約0.3ミリモル~約25ミリモル、約0.3ミリモル~約15ミリモル、約0.5ミリモル~約10ミリモル、約1ミリモル~約5ミリモル、又はこれら範囲間の任意の値の濃度で存在する溶液を添加することにより生体細胞に接触させ得る。
【0052】
安定化試薬は、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤と、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤と、少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、を単一溶液内に提供し得るか、又は少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤と、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤と、少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、の全部に満たない部分を単一溶液内に有し得る。安定化試薬の個別成分は、それぞれ、個別溶液として提供し得る。安定化試薬の個別成分は、生体細胞に逐次的に又は同時に接触させ得る。幾つかの実施形態では、安定化試薬の成分は、生体細胞に同時に接触される。例えば、同一溶液中に存在させて同時に添加される。他の実施形態では、成分は、最初にリボ核酸転写阻害剤、続いて安定化試薬の他方の成分を添加することにより、逐次的に添加し得る。
【0053】
安定化試薬の他の成分。
幾つかの実施形態では、安定化試薬は、RNase阻害剤を含まないものであり得る。タンパク質翻訳阻害剤と、リボ核酸転写阻害剤と、電子伝達鎖剤との組合せは、細胞内プロセスを十分に停止させることにより、RNase阻害剤の添加を必要とすることなく核酸を安定化させ得る。
【0054】
RNase阻害剤。
他の実施形態では、安定化試薬は、1種以上のRNase阻害剤を含み得る。任意の好適なRNase阻害剤を含み得ると共に、限定されるものではないが、リボヌクレアーゼ阻害剤タンパク質(例えば、49kDAロイシン・システインリッチタンパク質、そのオルソログ若しくはホモログ)、又は次の市販の試薬、すなわち、Rnasin(登録商標)リボヌクレアーゼ阻害剤(Promega)、Rnasin(登録商標)Plusリボヌクレアーゼ阻害剤(Promega)、SUPERase(商標)RNase阻害剤(ThermoFisher Scientific)、RNaseOUT(商標)組換えリボヌクレアーゼ阻害剤(ThermoFisher Scientific)、ANTI-RNase(ThermoFisher Scientific)、RNAsecure(商標)試薬(ThermoFisher Scientific)のうちのいずれかの試薬の活性な成分若しくは作用剤を含み得る。
【0055】
プロテアーゼ阻害剤。
種々の実施形態では、生体細胞の核酸を安定化させるための安定化試薬は、プロテアーゼ阻害剤を更に含み得る。プロテアーゼ阻害剤は、セリンプロテアーゼ阻害剤、システインプロテアーゼ阻害剤、アスパラギン酸プロテアーゼ阻害剤、又はメタロプロテアーゼ阻害剤であり得る。他の実施形態では、プロテアーゼ阻害剤は、トレオニンプロテアーゼ阻害剤又はグルタミン酸プロテアーゼ阻害剤であり得る。
【0056】
セリンプロテアーゼ阻害剤。
セリンプロテアーゼ阻害剤は、可逆阻害剤又は不可逆阻害剤であり得る。セリンプロテアーゼ阻害剤は細胞膜透過性であり得る(例えば、細胞膜を通って拡散してセリンプロテアーゼを阻害するのに十分な量で細胞に進入し得る)。セリンプロテアーゼ阻害剤は、限定されるものではないがフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)、3,4,ジクロロイソクマリン、ジイソプロピルフルオロホスフェート、N-p-トシル-L-リシンクロロメチルケトン(TLCK)、及びN-p-トシル-L-フェニルアラニンクロロメチルケトン(TPCK)を含む。
【0057】
システインプロテアーゼ阻害剤。
システインプロテアーゼ阻害剤は、可逆阻害剤又は不可逆阻害剤であり得ると共に更に細胞膜透過性であり得る(例えば、細胞膜を通って拡散してシステインプロテアーゼを阻害するのに十分な量で細胞に進入し得る)。システインプロテアーゼ阻害剤は、カスパーゼプロテアーゼの阻害剤又はカテプシンシステインプロテアーゼ阻害剤であり得る。システインプロテアーゼ阻害剤は、限定されるものではないがE-64(N-(trans-エポキシスクシニル)-L-ロイシン-4-グアニジノブチルアミド、Selleck Chem)、N-ベンゾイルフェニルアラニンフルオロメチルケトン(Z-FA-FMK)、及びN-ベンゾイルバリニルアラニニルアスパラギン酸フルオロメチルケトン(Z-VAD-FMK)のいずれかであり得る。
【0058】
メタロプロテアーゼ阻害剤。
メタロプロテアーゼ阻害剤は、可逆阻害剤又は不可逆阻害剤であり得る。メタロプロテアーゼ阻害剤は細胞膜透過性であり得る(例えば、細胞膜を通って拡散してメタロプロテアーゼを阻害するのに十分な量で細胞に進入し得る)。好適なメタロプロテアーゼ阻害剤の例は、限定されるものではないがホスホラミドン、ベスタチン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、マリミスタット、バチマスタット、亜鉛メタクリレート、及びMMP阻害剤III(CAS No. 927827-98-3、N’-ヒドロキシ-N-(1-メチルカルバモイル)-3-フェニル-プロピル)-2-(2-メチルプロピル)ブタンジアミドを含み得る。
【0059】
安定化試薬用の緩衝液及び培地。
安定化試薬は、安定化試薬の成分を可溶化するために水性溶媒及び/又は非水性溶媒を含み得る。これらの溶媒は、阻害剤とエネルギー伝達鎖剤との組合せの長期貯蔵を可能にするように選択し得る。有用な溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、水、エチルアルコール等を含み得る。非水性溶媒を使用する場合、緩衝液は必要でないこともある。水性溶液の緩衝化は、安定化試薬の成分の劣化の防止及び安定化反応自体に好適なpH範囲の提供の両方を行うように構成されるであろう。-20℃等の低下温度での貯蔵が望ましい場合、凍結防止添加剤又は溶媒、例えば、限定されるものではないがグリセロール若しくはDMSOが安定化試薬に含まれ得る。
【0060】
核酸を安定化させる方法。
組織サンプル、細針吸引物サンプル、洗浄液サンプル等の生物学的サンプルから細胞を分離する場合、更なる分析のために核酸を抽出するステップを行う前に、便宜上又は他の理由で、サンプルからの細胞を部分的に処理してから細胞を貯蔵することが望ましいことがある。貯蔵前(及び貯蔵時)に生体細胞内の核酸を安定化させる方法が提供される。貯蔵後に生体細胞の核酸又はその集団を細胞から分離し得る。種々の実施形態では、貯蔵後の分離のために安定化される核酸はデオキシ核酸(DNA)であり得る。他の実施形態では、貯蔵後の分離のために安定化される核酸はリボ核酸(RNA)であり得る。幾つかの実施形態では、貯蔵後の分離のために安定化されるRNAはメッセンジャーRNA(mRNA)であり得る。mRNAは、生体細胞のトランスクリプトームを分析するために安定化細胞の安定化核酸から分離し得る。生体細胞のトランスクリプトームの分析は、生体細胞により示差的に発現される遺伝子を同定するために使用し得る。差次的発現は、比較可能な「健常」細胞の発現レベル又は異なる細胞型の発現レベルとの比較によるものであり得る。生体細胞のトランスクリプトームは、好ましくは、安定化及び貯蔵のプロセス時に実質的に撹乱されることはないので、生体細胞内のRNAオペラントの量及び同一性の検査を可能にする。
【0061】
したがって、生体細胞と、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、並びに電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤であり得る少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、を接触させるステップを含む、生体細胞内の核酸集団を安定化させる方法が提供される。ただし、接触は、核酸集団を安定化させるのに十分な期間にわたり行われ、それにより、生体細胞は、安定化生体細胞に変換される。少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、並びに電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤であり得る少なくとも1種の電子伝達鎖剤は、生体細胞の核酸の産生及び分解の細胞内機構の異なる部分を標的とする2種以上の阻害剤又はデカップリング剤を含む核酸安定化試薬として提供される。安定化生体細胞の核酸は、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤と、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤と、電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤であり得る少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、を少なくとも含む安定化試薬で処理することにより安定化される。電子伝達鎖剤は、電子伝達鎖阻害剤であり得る及び/又は電子伝達デカップリング剤であり得る。幾つかの実施形態では、安定化試薬は、第1の不可逆タンパク質翻訳阻害剤とは異なる第2のタンパク質翻訳阻害剤を更に含み得る。第2のタンパク質翻訳阻害剤は可逆阻害剤であり得る。不可逆タンパク質翻訳阻害剤、リボ核酸転写阻害剤、電子伝達鎖剤、及び任意選択的に第2のタンパク質翻訳阻害剤は、本明細書に記載の任意の好適な阻害剤又は電子伝達鎖剤であり得ると共に、独立して任意の組合せで選択し得る。安定化試薬は、独立して及び任意の組合せで選択される本明細書に記載の追加の成分(例えば、プロテアーゼ阻害剤、RNase阻害剤、緩衝液等)のいずれかを含有し得る。幾つかの実施形態では、安定化試薬はRNase阻害剤を含有しない。
【0062】
生体細胞は、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤と、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤と、電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤であり得る少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、を少なくとも含む安定化試薬に接触される。接触は、生体細胞の入った容器(例えば、チューブ、ウェル、チャンバ、インキュベーションチャンバ)に安定化試薬(例えばマスターミックス)の成分の一部又は全部の作製済み溶液を添加することにより行い得る。他の実施形態では、生体細胞との接触は、安定化反応の開始時にそれぞれ全てに満たない成分を含む複数の溶液(例えば、幾つかの成分は、個別にピペッティングされて異なる溶液で存在する)を添加することにより行い得る。したがって、幾つかの実施形態では、生体細胞と安定化試薬の各成分との接触は同時に行い得る。他の実施形態では、生体細胞の接触は、安定化試薬の成分のサブセットを用いて逐次的に行い得る。作製済み溶液の成分の濃度は、安定化反応自体に必要とされる最終濃度の約1倍、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、又は約1000倍であり得る。
【0063】
本明細書に記載の方法のいずれでも、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤は、約1.0マイクロモル~約100ミリモル、約1.0マイクロモル~約50ミリモル、約1.0マイクロモル~約5ミリモル、約5マイクロモル~約15ミリモル、約5マイクロモル~約10ミリモル、約0.1ミリモル~約5ミリモル、又はこれら範囲間の任意の値の濃度で存在し得る。
【0064】
本明細書に記載の方法のいずれでも、リボ核酸転写阻害剤は、約10ナノモル~約50ミリモル、約0.01マイクロモル~約50ミリモル、約0.1マイクロモル~約500マイクロモル、約0.1マイクロモル~約50マイクロモルの範囲、又はこれら範囲間の任意の値の濃度で存在し得る。
【0065】
本明細書に記載の方法のいずれでも、電子伝達鎖剤は、約0.1マイクロモル~約100ミリモル、約10マイクロモル~約50ミリモル、約0.3ミリモル~約25ミリモル、約0.3ミリモル~約15ミリモル、約0.5ミリモル~約10ミリモル、約1ミリモル~約5ミリモルの範囲、又はこれら範囲間の任意の値の濃度で存在し得る。
【0066】
本明細書に記載の方法のいずれでも、第2のタンパク質翻訳阻害剤は、約1.0マイクロモル~約100ミリモル、約1.0マイクロモル~約50ミリモル、約1.0マイクロモル~約5ミリモル、約5マイクロモル~約15ミリモル、約5マイクロモル~約10ミリモル、約0.1ミリモル~約5ミリモルの範囲、又はこれら範囲間の任意の値の濃度で存在し得る。
【0067】
生体細胞と、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、並びに電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤であり得る少なくとも1種の電子伝達鎖剤を少なくとも含む安定化試薬と、を接触させるステップは、約5分、10分、15分、20分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、又はそれ以上の時間にわたり行い得る。幾つかの実施形態では、接触時間は、5分間~約1時間、約5分間~45分間、約5分間~30分間、又は約5分間~約15分間の範囲内であり得る。接触ステップは、約38℃、37℃、35℃、30℃、25℃、20℃、15℃、10℃、5℃、又は約0℃で行い得る。
【0068】
生体細胞と安定化試薬とを接触させた後、この時点で核酸集団は安定化され、生体細胞は安定化生体細胞に変換される。例えば、転写及び翻訳の細胞内プロセスが撹乱され得る。次いで、細胞は、任意の所望の期間にわたり、例えば、数時間から何日間かにわたり又は更により長期間にわたり貯蔵し得る。安定化細胞は、約2時間、5時間、8時間、14時間、20時間、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、2週間、3週間、4週間、何ヵ月間、又はそれらの間の任意の期間にわたり貯蔵し得る。幾つかの実施形態では、安定化細胞は、約2時間超且つ約1週間未満、約8時間超且つ約2週間未満、約8時間超且つ約1週間未満、又は約14時間超且つ約5日間未満にわたり貯蔵し得る。幾つかの実施形態では、安定化細胞は、約1時間~約24時間、約6時間~約18時間、約12時間~約24時間、約18時間~約30時間、約24時間~約36時間、約30時間~約42時間、約36時間~約48時間、約42時間~約54時間、約48~約60時間、又はこれらの範囲のいずれかに含まれる任意の時間にわたり貯蔵し得る。安定化細胞は、典型的な室温例えば20℃よりも低い温度で貯蔵することが望ましいことがある。幾つかの実施形態では、細胞は、約0℃~約10℃(例えば、約0℃~約5℃又は約2℃~約5℃)の範囲内の温度で貯蔵し得る。他の実施形態では、細胞は、約-30℃~約-25℃、約-30℃~約0℃、約-25℃~約0℃、約-25℃~約4℃の範囲内の温度、又はこれらの範囲内で選択された任意の温度で貯蔵し得る。
【0069】
核酸を安定化させる方法は、安定化生体細胞と溶解試薬とを接触させることにより安定化生体細胞を溶解させるステップを更に含み得る。溶解試薬は、DNA集団又はRNA集団を分離するように構成し得る。DNAを分離するための溶解試薬は、全てのDNAを分離したりゲノムDNA(gDNA)又はミトコンドリアDNA(mDNA)を選択的に分離したりするように更に構成し得る。RNAを分離するための溶解試薬は、全てのRNAを分離したり又はメッセンジャーRNA(mRNA)、リボソームRNA(rRNA)、若しくはトランスファーRNA(tRNA)であり得るただ1つのタイプのRNAを優先的には分離したりするように構成し得る。幾つかの実施形態では、安定化生体細胞は、安定化生体細胞を溶解試薬で処理する前に、生体細胞を取り囲む培地中の過剰の安定化試薬及び他の可溶性材料を除去するために培地又は水性洗浄溶液で洗浄し得る。幾つかの実施形態では、安定化生体細胞を溶解させるステップは、溶解生体細胞から所望の核酸を回収すべく溶解生体細胞を調製する追加の操作を更に含み得る。
【0070】
核酸を安定化させる方法は、溶解安定化生体細胞から放出された安定化核酸集団の少なくとも一部分を分離することを更に含み得る。分離は、沈殿、溶媒抽出、オリゴヌクレオチド捕捉リガンドを有するマトリックス若しくはビーズへの特異的捕捉、又は電荷捕捉マトリックスへのアフィニティー捕捉により行い得る。
【0071】
本方法は、溶解安定化生体細胞から分離された核酸集団の少なくとも一部分を分析すること更に含み得る。分離された核酸集団の全てのクラスを分析し得るか、又は核酸の所定のクラスのみを分析し得る。gDNA、mDNA、mRNA、rRNA、及び/又はtRNAのいずれかを分析し得る。分析は、シーケンシング(例えば、電気泳動シーケンシング、合成シーケンシングを含み得る次世代シーケンシング、単分子シーケンシング、イオン半導体シーケンシング、パイロシーケンシング、ナノポアシーケンシング等)、ハイブリダイゼーション実験(限定されるものではないがin-situハイブリダイゼーション、FISH、qPCR、dPCR、TaqMan(登録商標)(ThermoFisher Scientific)、分子ビーコン、及び他の蛍光プローブ分析を含む)、フットプリンティング、アレイ捕捉、及びゲル電気泳動を含み得る。特定の一実施形態では、mRNAは、シーケンシングでトランスクリプトーム分析を行うことにより分析される。トランスクリプトーム分析は、病的細胞状態の同定及び/又は病変に対処する選択肢の探究に有用であり得る生体細胞のグローバル遺伝子発現の変化を調べるのに有用であり得る。
【0072】
幾つかの実施形態では、これらの方法は、マイクロ流体環境内の生体細胞を操作することを含み得る。したがって、マイクロ流体デバイス内の生体細胞の核酸集団を安定化させるための方法が本明細書に提供される。マイクロ流体デバイスは、光学的に作動させ得る本明細書に記載のマイクロ流体デバイスのいずれか(例えば、いずれも以下に記載のDEP構成及び/又はエレクトロウェッティング構成を含み得るデバイス100、200、240、290)のような構成し得る。マイクロ流体デバイスは、エンクロージャ(ただし、エンクロージャは、流体培地を閉じ込めるように構成されたフロー領域を含む)と、流体培地を閉じ込めるように構成された少なくとも1つのチャンバ(ただし、チャンバは、前記フロー領域に流体接続される)と、を有し得る。生体細胞は、マイクロ流体デバイス内に配置し得ると共に、エンクロージャ内の少なくとも1つのチャンバ内に更に配置し得る。生体細胞は、誘電泳動力(DEP)を用いてマイクロ流体デバイスに導入し得る。更に、生体細胞をマイクロ流体デバイスのエンクロージャ内の少なくとも1つのチャンバに導入する場合、チャンバ内に配置するステップは、DEP力を用いて行い得る。細胞は、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤と、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤と、電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤を含む少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、に接触させ得る。ただし、接触は、核酸集団を安定化させるのに十分な期間にわたり行われる。少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤と、電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤を含む少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、を含む安定化試薬は、生体細胞に接触させるステップで使用し得ると共に、本明細書に記載の安定化試薬の任意の実施形態であり得る。本方法は、マイクロ流体デバイス以外で生体細胞を安定化させる方法に関連して以上に記載したステップのいずれかを更に含み得る。
【0073】
幾つかの実施形態では、エンクロージャ内のチャンバは、分離領域と、分離領域とフロー領域(例えばマイクロ流体チャネル)とを流体接続する接続領域と、を有する隔離ペンであり得ると共に、分離領域及び接続領域は、隔離ペンのフロー領域と分離領域との間で実質的に拡散のみにより培地の成分が交換されるように構成される。幾つかの実施形態では、生体細胞は、マイクロ流体デバイスの隔離ペンの分離領域内に配置し得る。安定化試薬は、マイクロ流体デバイスのフロー領域(チャネルであり得る)に流入し得ると共に、続いて、チャンバ内への拡散により(又はチャンバが隔離ペンである場合、隔離ペンの分離領域内への拡散により)生体細胞に接触し得る。
【0074】
生体細胞と、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、並びに電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤であり得る少なくとも1種の電子伝達鎖剤を少なくとも含む安定化試薬と、を接触させるステップは、約5分、10分、15分、20分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、又はそれ以上の時間にわたり行い得る。幾つかの実施形態では、接触時間は、5分間~約1時間、約5分間~45分間、約5分間~30分間、又は約5分間~約15分間の範囲内であり得る。接触ステップは、約38℃、37℃、35℃、30℃、25℃、20℃、15℃、10℃、5℃、又は約0℃で行い得る。
【0075】
本方法は、ある期間にわたり安定化生体細胞を貯蔵することを含み得る。細胞は、マイクロ流体デバイス内に貯蔵し得る。例えば、安定化細胞は、貯蔵時にチャンバ(又は隔離ペンの分離領域)から移動させない。そのため、マイクロ流体デバイス全体を貯蔵し得る。細胞は、約2時間、5時間、8時間、14時間、20時間、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、2週間、3週間、4週間、何ヵ月間、又はそれらの間の任意の期間にわたりマイクロ流体デバイス内に貯蔵し得る。幾つかの実施形態では、安定化細胞は、約1時間~約24時間、約6時間~約18時間、約12時間~約24時間、約18時間~約30時間、約24時間~約36時間、約30時間~約42時間、約36時間~約48時間、約42時間~約54時間、約48~約60時間、又はこれらの範囲のいずれかに含まれる任意の時間にわたり貯蔵し得る。安定化細胞は、典型的な室温例えば20℃よりも低い温度でマイクロ流体デバイスに搭載して貯蔵することが望ましいことがある。幾つかの実施形態では、細胞は、約0℃~約4℃、0℃~約10℃(例えば、約0℃~約5℃又は約2℃~約5℃)の範囲内の温度でマイクロ流体デバイス内に貯蔵し得る。他の実施形態では、細胞は、約-30℃~約-25℃、約-30℃~約0℃、約-25℃~約0℃、約-25℃~約4℃の範囲内の温度、又はこれらの範囲内で選択された任意の温度で貯蔵し得る。
【0076】
マイクロ流体デバイス内の生体細胞の核酸を安定化させる方法は、安定化生体細胞を溶解させることを更に含み得る。例えば、安定化生体細胞は、生体細胞と溶解試薬とを接触させることにより溶解させ得る。安定化生体細胞は、マイクロ流体デバイス内又はマイクロ流体デバイス以外(例えば、マイクロ流体デバイスから安定化生体細胞を搬出した後)で溶解試薬に接触させ得る。DNAを分離するための溶解試薬は、全てのDNAを分離したりゲノムDNA(gDNA)又はミトコンドリアDNA(mDNA)を選択的に分離したりするように更に構成し得る。RNAを分離するための溶解試薬は、全てのRNAを分離したり又はメッセンジャーRNA(mRNA)、リボソームRNA(rRNA)、若しくはトランスファーRNA(tRNA)であり得るただ1つのタイプのRNAを優先的には分離したりするように構成し得る。溶解試薬と安定化生体細胞との接触は、マイクロ流体デバイスのフロー領域(チャネルであり得る)に溶解試薬を流入させることを含み得る。そのため、溶解試薬は、フロー領域からチャンバ内への拡散により(又はチャンバが隔離ペンである場合、隔離ペンの分離領域内への拡散により)生体細胞に接触させ得る。安定化生体細胞は、マイクロ流体デバイスのフロー領域に溶解試薬を流入させる前に、過剰の安定化試薬又はチャンバ(若しくは隔離ペンの分離領域)内の安定化細胞を取り囲む培地の他の成分を除去するために洗浄し得る。洗浄は、マイクロ流体デバイスのフロー領域(チャネル)への洗浄溶液又は緩衝液の流入及び/又は貫流により達成し得ると共に、その際、過剰の安定化試薬及び/又は細胞を取り囲む培地の他の成分は、フロー領域(チャネル)内の培地中への拡散により交換し得るので、安定化細胞を取り囲む環境から除去される。幾つかの実施形態では、安定化生体細胞を溶解させるステップは、溶解生体細胞から所望の安定化核酸集団を回収すべく溶解生体細胞を調製する追加の操作を更に含み得る。代替的に、安定化生体細胞は、マイクロ流体デバイスから洗浄溶液中又は緩衝液中に搬出し得る。安定化生体細胞の搬出は、誘電泳動力を用いて行い得る。誘電泳動力は光学的に作動させ得る。
【0077】
マイクロ流体デバイス内の生体細胞の核酸を安定化させる方法は、溶解生体細胞から放出された安定化核酸集団の少なくとも一部分を分離することを更に含み得る。安定化核酸の分離は、放出された安定化核酸集団を捕捉マトリックス(限定されるものではないがビーズ上の捕捉オリゴヌクレオチド又はマイクロ流体デバイスの表面にプリントされたプライマーであり得る捕捉オリゴヌクレオチドを含む)に捕捉することにより達成し得る。安定化生体細胞がマイクロ流体デバイス内で溶解される実施形態では、放出された安定化核酸は、マイクロ流体デバイス内に捕捉し得る。例えば、マイクロ流体デバイスがDEP構成を含む実施形態では、捕捉マトリックス(例えばビーズ)は、細胞溶解中の安定化生体細胞と同一のチャンバ/隔離ペン内に位置し得るか、又は代替的に、捕捉マトリックスは、安定化生体細胞の溶解後にチャンバ/隔離ペン内に移動させ得る。捕捉マトリックスは、幾つかの実施形態では光学的に作動させ得る誘電泳動力により安定化/溶解生体細胞の入ったチャンバ/隔離ペン内に配置し得る。マイクロ流体デバイスがエレクトロウェッティング構成(例えば、オプトエレクトロウェッティング構成)を含む実施形態では、溶解細胞の核酸の分離は、核酸を包含する水性培地のドロップレットに捕捉マトリックスを導入することにより(例えば、捕捉マトリックスを含有するドロップレットと放出された核酸を包含するドロップレットとを合体させることにより)、放出された核酸を包含する水性培地のドロップレットを捕捉マトリックスが位置するマイクロ流体デバイスの他の領域に移動させることにより、又は更なる処理のためにドロップレットをマイクロ流体デバイスから搬出することにより達成し得る。放出された核酸を包含する水性培地のドロップレットを捕捉のためにマイクロ流体デバイスの他の領域に移動させる場合、放出された核酸は、捕捉ビーズ等の捕捉マトリックスにより捕捉し得るか、又は放出された核酸は、マイクロ流体デバイスの表面に固定(例えばプリント)し得るプライマーであり得る捕捉オリゴヌクレオチドにより捕捉し得る。プリントされたプライマーは、溶解が行われた領域内又はマイクロ流体デバイスの他の領域内に位置し得る)。代替的に、核酸は、放出された核酸を捕捉するビーズを包含する水性培地のドロップレットをマイクロ流体デバイスの他の領域に移動させることにより、又は放出された核酸を捕捉するビーズを含有するドロップレットをマイクロ流体デバイスから搬出することにより分離し得る。
【0078】
本方法は、溶解生体細胞から放出された安定化核酸集団の少なくとも一部分から少なくとも1クラスの核酸を分析することを更に含み得る。分析は、核酸又は記載のように核酸が結合された捕捉マトリックスを搬出することによりオフチップで行い得るか、又はマイクロ流体デバイスの他の領域でオンチップで行い得る。オンチップ分析は、ハイブリダイゼーションアッセイ又は他の蛍光検出法(例えば、in-situハイブリダイゼーション、FISH、qPCR、dPCR、TaqMan、分子ビーコン等)を含み得る。
【0079】
マイクロ流体デバイス以外で行われる分析は、限定されるものではないがシーケンシング、ハイブリダイゼーション実験(限定されるものではないがin-situハイブリダイゼーション、FISH、qPCR、dPCR、TaqMan(登録商標)(ThermoFisher Scientific)、分子ビーコン、及び他の蛍光プローブ分析を含む)、フットプリンティング、アレイ捕捉、及びゲル電気泳動を含み得る。幾つかの実施形態では、mRNAは、シーケンシングでトランスクリプトーム分析を行うことにより分析される。
【0080】
細胞。
生体細胞は、任意の種類の生体細胞、すなわち、原核細胞又は真核細胞であり得る。幾つかの実施形態では、生体細胞は哺乳動物細胞であり得る。哺乳動物の生体細胞は、ヒト、霊長動物、ブタ、ネズミ科動物、ラット、イヌ科動物の細胞等であり得る。生体細胞は、増殖障害、感染障害、自己免疫障害、及び/又は内分泌障害をはじめとする細胞障害を有する被験者に由来し得る。生体細胞は、正常被験者又は遺伝子工学操作被験者に由来し得る。生体細胞は、ハイブリドーマ、培養細胞サンプル、又は細胞系、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系に由来し得る。代替的に、生体細胞は、被験者、特にヒト被験者の血液、尿、涙液、汗、又は糞便に由来し得る。更に他の実施形態では、生体細胞は、被験者から摘出された組織サンプル、例えば、限定されるものではないが切除腫瘍サンプル及び生検サンプル、細針吸引物及びホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織サンプルに由来し得る。生体細胞は、免疫細胞(例えば、白血球、T細胞、B細胞、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞等)、乳房細胞、膵細胞、前立腺細胞、肺細胞、又は腫瘍細胞、例えば、限定されるものではないが黒色腫、乳癌等をはじめとする任意のタイプの循環腫瘍細胞であり得る。
【0081】
組成物。
幾つかの実施形態では、組成物が提供される。組成物は、本明細書に記載されるように生体細胞と安定化試薬とを含み得る。安定化試薬は、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤と、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤と、少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、を含み得る。幾つかの実施形態では、安定化試薬は、第2のタンパク質翻訳阻害剤を更に含み得る。少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、少なくとも1種の電子伝達鎖剤、及び任意選択的に第2のタンパク質翻訳阻害剤は、以上に記載の各クラスの任意の好適な種であり得る。組成物は、安定化試薬の追加記載の成分(例えば、プロテアーゼ阻害剤、RNase阻害剤、緩衝液等のいずれかを更に含み得る。
【0082】
キット。
幾つかの実施形態では、細胞内の核酸集団を安定化させるためのキットが提供され得る。キットは、少なくとも1種のタンパク質翻訳阻害剤と、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤と、電子伝達鎖阻害剤及び電子伝達鎖デカップリング剤から選択される少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、を含む安定化試薬を含み得る。少なくとも第1のタンパク質翻訳阻害剤は不可逆阻害剤であり得る。
【0083】
幾つかの実施形態では、キットは、貯蔵及びその後のDNA分離のためにデオキシ核酸を安定化させるべく安定化試薬を提供し得る。他の実施形態では、キットは、貯蔵及びその後の分離のためにリボ核酸(RNA)を安定化させる安定化試薬を提供し得る。幾つかの実施形態では、キットは、貯蔵及びその後の分離のためにメッセンジャーRNA(mRNA)を安定化させるべく安定化試薬を提供し得る。安定化試薬は、本明細書に記載の任意の安定化試薬であり得る。
【0084】
キットの種々の実施形態では、少なくとも1種のタンパク質翻訳阻害剤(例えば、不可逆なもの)は細胞膜透過性であり得る。不可逆タンパク質翻訳阻害剤は、アミノグリコシド抗生物質、D-ガラクトサミン、及びエメチンから選択し得る。幾つかの実施形態では、不可逆タンパク質翻訳阻害剤はエメチンであり得る。
【0085】
キットの少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤は細胞膜透過性であり得る。リボ核酸転写阻害剤は、CDK9阻害剤、オーレスライシン、チオルチン、アマニチン、及び/又はトリプトリドから選択し得る。種々の実施形態では、リボ核酸転写阻害剤は不可逆阻害剤であり得る。幾つかの実施形態では、リボ核酸転写阻害剤はトリプトリドであり得る。
【0086】
キットの少なくとも1種の電子伝達鎖剤は、電子伝達鎖阻害剤又は電子伝達鎖デカップリング剤であり得る。電子伝達鎖剤は、その標的に対して可逆活性を有し得る。幾つかの他の実施形態では、電子伝達鎖剤は、その標的に対して不可逆活性を有し得る。電子伝達鎖剤は細胞膜可溶性であり得る。電子伝達鎖剤は、以上に記載の電子伝達鎖剤のいずれにも限定されるものではなく、任意の好適な電子伝達鎖剤であり得る。幾つかの実施形態では、電子伝達鎖剤は電子伝達鎖阻害剤であり得る。幾つかの実施形態では、電子伝達鎖剤はアジ化ナトリウムであり得る。幾つかの実施形態では、2種以上の電子伝達鎖剤がキットに含まれ得る。
【0087】
キットは、第2のタンパク質翻訳阻害剤を更に含み得る。第2のタンパク質翻訳阻害剤は、第1のタンパク質翻訳阻害剤とは異なる。幾つかの実施形態では、第2のタンパク質翻訳阻害剤は、任意の好適なタンパク質翻訳阻害剤であり得る。第2のタンパク質翻訳阻害剤は、不可逆阻害剤であり得る。幾つかの実施形態では、第2のタンパク質翻訳阻害剤は、可逆タンパク質翻訳阻害剤であり得る。第2のタンパク質翻訳阻害剤は速効性であり得る。例えば、約1、2、3、5、10分~約30分の時間内で阻害効果が見られる。第2のタンパク質翻訳阻害剤は透過性細胞膜であり得る。第2のタンパク質翻訳阻害剤は、ジアゾオキシド、グルタルイミド抗生物質、及びトコンアルカロイドから選択し得る。種々の実施形態では、第2のタンパク質翻訳阻害剤はシクロヘキシミドであり得る。
【0088】
キットの種々の実施形態では、安定化試薬の少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、及び少なくとも1種の電子伝達鎖剤のうち2つ以上を含む作製済み溶液(例えばマスターミックス)として安定化試薬の成分の一部又は全部が提供され得る。幾つかの実施形態では、マスターミックスは、安定化試薬の少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、及び少なくとも1種の電子伝達鎖剤を含み得る。マスターミックスは、本明細書に記載されるように任意の安定化試薬の任意の他の成分を更に含み得る。マスターミックス中の安定化試薬の成分の濃度は、安定化反応自体に必要とされる最終濃度の約1倍、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、又は約1000倍であり得る。
【0089】
キットの他の成分。
種々の実施形態では、キットは、RNase阻害剤を含まない。キットは、プロテアーゼ阻害剤を更に含み得る。プロテアーゼ阻害剤は、安定化試薬内に組み込み得るか、又はキットのスタンドアロン成分として提供し得る。プロテアーゼ阻害剤は、システインプロテアーゼ阻害剤、セリンプロテアーゼ阻害剤、又はメタロプロテアーゼ阻害剤であり得る。プロテアーゼ阻害剤は、以上に記載のプロテアーゼ阻害剤のいずれにも限定されるものではなく、任意の好適なプロテアーゼ阻害剤であり得る。
【0090】
溶解緩衝液。
キットは更に、溶解緩衝液を更に含み得る。溶解緩衝液は、安定化試薬に含まれず、安定化試薬を含む溶液のいずれにも含まれない。溶解緩衝液は、キットの他の成分との別の容器に提供し得る。溶解緩衝液は、ゲノムDNA又はミトコンドリアDNAを分離するように構成し得る。他の実施形態では、溶解緩衝液は、全RNA又はRNAのサブセットを分離するように設計し得る。溶解緩衝液は変性であり得る。溶解緩衝液は、非イオン性又は双性イオン性であり得る界面活性剤を含み得る。幾つかの実施形態では、例えば、DNAを分離する場合、イオン性界面活性剤を使用し得る。好適な溶解緩衝液界面活性剤は、限定されるものではないがナトリウムドデシルスルフェート(SDS)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩(Tris-HCl)、ナトリウムデオキシコレート、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1プロパンスルホネート(CHAPS)、ポリソルベート20、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、PEG(20)ソルビタンモノラウレート(Tween 20)、ノニルフェノキシポリエトキシルエタノール(NP40)、オクチルフェノキシポリエトキシルエタノール(Nonidet P-40)又はポリエチレングリコールtertオクチルフェニルエーテル(Triton(商標)X-100)を含み得る。幾つかの実施形態では、溶解緩衝液界面活性剤はSDSを含み得る。
【0091】
溶解緩衝液は、EDTA等のキレート化剤を更に含み得る。溶解緩衝液は、プロテアーゼ阻害剤を含み得ると共に、プロテアーゼ阻害剤の混合物を更に含み得る。幾つかの実施形態では、溶解緩衝液は、1種以上のホスファターゼ阻害剤を含み得る。
【0092】
RNA単離。
RNAを単離する場合、溶解緩衝液はpH7~8に緩衝化し得る。RNA用溶解緩衝液は、フェノール(RNA分解の防止)とグアニジニウムイソチオシアネート(RNase酵素及びDNase酵素も変性するカオトロープ)とを含み得る。溶解緩衝液は、1種以上のRNase阻害剤を含み得る。
【0093】
キットの幾つかの実施形態では、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、リボ核酸転写阻害剤、及び電子伝達鎖剤は、溶液中に提供し得る。少なくとも第1の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、リボ核酸転写阻害剤、及び電子伝達鎖剤のそれぞれは、個別容器内の個別溶液として提供し得るか、又は任意の組合せでキットの1つ以上の成分の混合物として提供し得るか、のいずれかである。キットは、任意の好適なプロテアーゼ阻害剤(限定されるものではないが本明細書に記載のプロテアーゼ阻害剤を含む)であり得る1種以上のプロテアーゼ阻害剤を更に含み得る。キットは、任意の好適なRNase阻害剤(限定されるものではないが本明細書に記載のRNase阻害剤を含む)であり得る1種以上のRNase阻害剤を更に含み得る。幾つかの実施形態では、安定化試薬の成分は全て、単一溶液としてキットに提供される。安定化試薬の成分のいずれか又は全てを溶液として提供する場合、成分の濃度は、細胞の核酸を安定化させるために使用される最終濃度の1倍、2倍、3倍、5倍、10倍、50倍、100倍、又は1000倍であり得るので、生体細胞への添加前にキットの溶液の希釈が可能である。
【0094】
キットの種々の実施形態では、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤は、約1.0マイクロモル~約2M、約1.0マイクロモル~約0.5M、約1.0マイクロモル~約500ミリモル、約1.0マイクロモル~約250ミリモル、約0.1ミリモル~約150ミリモル、約0.1ミリモル~約50ミリモル、約1ミリモル~約100ミリモル、約1ミリモル~約50ミリモル、約10ミリモル~約1モル、又はこれら範囲間の任意の値の濃度で溶液内に存在し得る。
【0095】
キットの種々の実施形態では、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤は、約10ナノモル~約500ミリモル、約0.01マイクロモル~約500ミリモル、約0.1マイクロモル~約50ミリモル、約0.1マイクロモル~約5ミリモル、約0.1マイクロモル~約500マイクロモル、又はこれら範囲間の任意の値の濃度で溶液内に存在する。
【0096】
キットの種々の実施形態では、少なくとも1種の電子伝達鎖剤は、約0.1マイクロモル~約5M、約0.1マイクロモル~約1M、約0.1マイクロモル~約500ミリモル、約0.3ミリモル~約250ミリモル、約0.3ミリモル~約150ミリモル、約0.5ミリモル~約100ミリモル、約1.0マイクロモル~約500ミリモル、約1.0ミリモル~約100ミリモル、又はこれら範囲間の任意の値の濃度で存在する。
【0097】
キットの種々の実施形態では、第2のタンパク質翻訳阻害剤は、約1.0マイクロモル~約2M、約1.0マイクロモル~約0.5M、約1.0マイクロモル~約500ミリモル、約1.0マイクロモル~約250ミリモル、約0.1ミリモル~約150ミリモル、約0.1ミリモル~約50ミリモル、約1ミリモル~約100ミリモル、約1ミリモル~約50ミリモル、約10ミリモル~約1モル、又はこれら範囲間の任意の値の濃度で溶液内に存在し得る。
【0098】
マイクロ流体デバイス並びにかかるデバイスの操作及び観測のためのシステム。
図1Aは、本開示の実施形態に従って微小物体の保持、増殖、及びアッセイに使用可能なマイクロ流体デバイス100及びシステム150の例を例示する。マイクロ流体デバイス100の斜視図は、マイクロ流体デバイス100に部分図を提供するためにそのカバー110の部分破断図を伴って示されている。マイクロ流体デバイス100は、一般に、流体培地180が貫流可能で任意選択的に1つ以上の微小物体(図示せず)をマイクロ流体回路120に搬入及び/又は搬送する流路106を含むマイクロ流体回路120を含む。図1Aには単一のマイクロ流体回路120が例示されているが、好適なマイクロ流体デバイスは、複数(例えば、2つ又は3つ)のかかるマイクロ流体回路を含み得る。それにもかかわらず、マイクロ流体デバイス100は、ナノ流体デバイスになるように構成可能である。図1Aに例示されるように、マイクロ流体回路120は、複数のマイクロ流体隔離ペン124、126、128、及び130を含み得ると共に、各隔離ペンは、流路106に流体連通した状態で1つ以上の開口を有し得る。図1Aのデバイスの幾つかの実施形態では、隔離ペンは、流路106に流体連通した状態で単一の開口部のみを有し得る。以下で更に考察されるように、マイクロ流体隔離ペンは、培地180が流路106を貫流する場合でさえも、マイクロ流体デバイス100等のマイクロ流体デバイス内に微小物体を保持するように最適化された各種の特徴及び構造を含む。しかし、上記のことに目を向ける前に、マイクロ流体デバイス100及びシステム150の簡単な説明を提供する。
【0099】
図1Aに概して示されるように、マイクロ流体回路120はエンクロージャ102により画定される。エンクロージャ102は異なる構成で物理的に構造化することができるが、図1Aに示される例では、エンクロージャ102は、支持構造体104(例えば、基部)、マイクロ流体回路構造108、及びカバー110を含むものとして示されている。支持構造体104、マイクロ流体回路構造108、及びカバー110は、互いに取り付けることができる。例えば、マイクロ流体回路構造108は、支持構造体104の内面109に配置することができ、カバー110は、マイクロ流体回路構造108を覆って配置することができる。支持構造体104及びカバー110と一緒に、マイクロ流体回路構造108は、マイクロ流体回路120の要素を画定することができる。
【0100】
図1Aに示されるように、支持構造体104は、マイクロ流体回路120の下部にあり得、カバー110はマイクロ流体回路120の上部にあり得る。代替的に、支持構造体104及びカバー110は、他の向きで構成され得る。例えば、支持構造体104は、マイクロ流体回路120の上部にあり得、カバー110はマイクロ流体回路120の下部にあり得る。それに関係なく、それぞれがエンクロージャ102内又は外への通路を含む1つ又は複数のポート107があり得る。通路の例としては、弁、ゲート、貫通孔等が挙げられる。示されるように、ポート107は、マイクロ流体回路構造108のギャップにより作られる貫通孔である。しかし、ポート107は、カバー110等のエンクロージャ102の他の構成要素に配置することができる。1つのみのポート107が図1Aに示されているが、マイクロ流体回路120は2つ以上のポート107を有することができる。例えば、流体がマイクロ流体回路120に入るための流入口として機能する第1のポート107があり得、流体がマイクロ流体回路120を出るための流出口として機能する第2のポート107があり得る。ポート107が流入口として機能するか、それとも流出口として機能するかは、流体が流路106を通って流れる方向に依存し得る。
【0101】
支持構造体104は、1つ又は複数の電極(図示せず)と、基板又は複数の相互接続された基板を含むことができる。例えば、支持構造体104は、1つ又は複数の半導体基板を含むことができ、各半導体基板は電極に電気的に接続される(例えば、半導体基板の全て又はサブセットは、1つの電極に電気的に接続することができる)。支持構造体104は、プリント回路基板組立体(「PCBA」)を更に含むことができる。例えば、半導体基板はPCBA上に搭載することができる。
【0102】
マイクロ流体回路構造108は、マイクロ流体回路120の回路要素を画定することができる。そのような回路要素は、マイクロ流体回路120に流体が充填される場合、流体的に相互接続することができる、フロー領域(1つ又は複数のフローチャネルを含み得る)、チャンバ、ペン、トラップ等の空間又は領域を含むことができる。図1Aに示されるマイクロ流体回路120では、マイクロ流体回路108は、枠114及びマイクロ流体回路材料116を含む。枠114は、マイクロ流体回路材料116を部分的又は完全に囲むことができる。枠114は、例えば、マイクロ流体回路材料116を実質的に囲む比較的剛性の構造であり得る。例えば、枠114は金属材料を含むことができる。
【0103】
マイクロ流体回路材料116には、キャビティ等をパターニングして、マイクロ流体回路120の回路要素及び相互接続を画定することができる。マイクロ流体回路材料116は、ガス透過可能であり得る可撓性ポリマー(例えば、ゴム、プラスチック、エラストマー、シリコーン、ポリジメチルシロキサン(「PDMS」)等)等の可撓性材料を含むことができる。マイクロ流体回路材料116を構成することができる材料の他の例としては、成形ガラス、シリコーン(フォトパターニング可能シリコーン又は「PPS」)等のエッチング可能材料、フォトレジスト(例えば、SU8)等が挙げられる。幾つかの実施形態では、そのような材料 - したがって、マイクロ流体回路材料116 - は、剛性及び/又はガスを実質的に不透過であり得る。それに関係なく、マイクロ流体回路材料116は、支持構造体104上及び枠114内部に配置することができる。
【0104】
カバー110は、枠114及び/又はマイクロ流体回路材料116の一体部分であり得る。代替的に、カバー110は、図1Aに示されるように、構造的に別個の要素であり得る。カバー110は、枠114及び/又はマイクロ流体回路材料116と同じ又は異なる材料を含むことができる。同様に、支持構造体104は、示されるように枠114若しくはマイクロ流体回路材料116とは別個の構造であってもよく、又は枠114若しくはマイクロ流体回路材料116の一体部分であってもよい。同様に、枠114及びマイクロ流体回路材料116は、図1Aに示されるように別個の構造であってもよく、又は同じ構造の一体部分であってもよい。
【0105】
幾つかの実施形態では、カバー110は剛性材料を含むことができる。剛性材料は、ガラス又は同様との特性を有する材料であり得る。幾つかの実施形態では、カバー110は変形可能材料を含むことができる。変形可能材料は、PDMS等のポリマーであり得る。幾つかの実施形態では、カバー110は、剛性材料及び変形可能材料の両方を含むことができる。例えば、カバー110の1つ又は複数の部分(例えば、隔離ペン124、126、128、130上に位置する1つ又は複数の部分)は、カバー110の剛性材料と界面を接する変形可能材料を含むことができる。幾つかの実施形態では、カバー110は1つ又は複数の電極を更に含むことができる。1つ又は複数の電極は、ガラス又は同様の絶縁材料でコーティングし得る、インジウム-錫-酸化物(ITO)等の導電性酸化物を含むことができる。代替的に、1つ又は複数の電極は、ポリマー(例えば、PDMS)等の変形可能ポリマーに埋め込まれた単層ナノチューブ、多層ナノチューブ、ナノワイヤ、導電性ナノ粒子のクラスタ、又はそれらの組合せ等の可撓性電極であり得る。マイクロ流体デバイスで使用することができる可撓性電極は、例えば、米国特許出願公開第2012/0325665号(Chiouら)に記載されており、この内容は参照により本明細書に援用される。幾つかの実施形態では、カバー110は、細胞の接着、生存、及び/又は成長を支持するように変更することができる(例えば、マイクロ流体回路120に向かって内側に面する表面の全て又は部分を調整することにより)。変更は、合成ポリマー又は天然ポリマーのコーティングを含み得る。幾つかの実施形態では、カバー110及び/又は支持構造体104は、光を透過することができる。カバー110は、ガス透過可能な少なくとも1つの材料(例えば、PDMS又はPPS)を含むこともできる。
【0106】
図1Aは、マイクロ流体デバイス100等のマイクロ流体デバイスを動作させ制御するシステム150も示す。システム150は、電源192、撮像デバイス194(撮像モジュール164内に組み込まれ、デバイス194自体は図1Aに示されていない)、及び傾斜デバイス190(傾斜モジュール166の部分であり、デバイス190は図1Aに示されていない)を含む。
【0107】
電源192は、電力をマイクロ流体デバイス100及び/又は傾斜デバイス190に提供し、バイアス電圧又は電流を必要に応じて提供することができる。電源192は、例えば、1つ又は複数の交流(AC)及び/又は直流(DC)電圧源又は電流源を含むことができる。撮像デバイス194(以下で述べられる撮像モジュール164の一部)は、マイクロ流体回路120内部の画像を捕捉する、デジタルカメラ等のデバイスを含むことができる。幾つかの場合、撮像デバイス194は、高速フレームレート及び/又は高感度(例えば、低光用途用)を有する検出器を更に含む。撮像デバイス194は、刺激放射線及び/又は光線をマイクロ流体回路120内に向け、マイクロ流体回路120(又はマイクロ流体回路120内に含まれる微小物体)から反射されるか、又は発せられる放射線及び/又は光線を収集する機構を含むこともできる。発せられる光線は可視スペクトル内であり得、例えば、蛍光放射を含み得る。反射光線は、LED又は水銀灯(例えば、高圧水銀灯)若しくはキセノンアーク灯等の広域スペクトル灯から発せられた反射放射を含み得る。図3Bに関して考察するように、撮像デバイス194は顕微鏡(又は光学縦列)を更に含み得、これは接眼レンズを含んでもよく、又は含まなくてもよい。
【0108】
システム150は、1つ又は複数の回転軸の周りでマイクロ流体デバイス100を回転させるように構成される傾斜デバイス190(以下で述べられる傾斜モジュール166の一部)を更に含む。幾つかの実施形態では、傾斜デバイス190は、マイクロ流体デバイス100(したがって、マイクロ流体回路120)を水平向き(すなわち、x軸及びy軸に相対して0°)、垂直向き(すなわち、x軸及び/又はy軸に相対して90°)、又はそれらの間の任意の向きで保持することができるように、少なくとも1つの軸の周りでマイクロ流体回路120を含むエンクロージャ102を支持及び/又は保持するように構成される。軸に相対するマイクロ流体デバイス100(及びマイクロ流体回路120)の向きは、本明細書では、マイクロ流体デバイス100(及びマイクロ流体回路120)の「傾斜」と呼ばれる。例えば、傾斜デバイス190は、x軸に相対して0.1°、0.2°、0.3°、0.4°、0.5°、0.6°、0.7°、0.8°、0.9°、1°、2°、3°、4°、5°、10°、15°、20°、25°、30°、35°、40°、45°、50°、55°、60°、65°、70°、75°、80°、90°、又はそれらの間の任意の度数でマイクロ流体デバイス100を傾斜させることができる。水平向き(したがって、x軸及びy軸)は、重力により定義される垂直軸に垂直なものとして定義される。傾斜デバイスは、マイクロ流体デバイス100(及びマイクロ流体回路120)をx軸及び/又はy軸に相対して90°よりも大きい任意の角度に傾斜させるか、又はマイクロ流体デバイス100(及びマイクロ流体回路120)をx軸若しくはy軸に相対して180°に傾斜させて、マイクロ流体デバイス100(及びマイクロ流体回路120)を真逆にすることもできる。同様に、幾つかの実施形態では、傾斜デバイス190は、流路106又はマイクロ流体回路120の何らかの他の部分により定義される回転軸の周りでマイクロ流体デバイス100(及びマイクロ流体回路120)を傾斜させる。
【0109】
幾つかの場合、マイクロ流体デバイス100は、流路106が1つ又は複数の隔離ペンの上方又は下方に位置するように、垂直向きに傾斜する。「上方」という用語は、本明細書で使用される場合、流路106が、重力により定義される垂直軸上で1つ又は複数の隔離ペンよりも高く位置する(すなわち、流路106の上方の隔離ペン内の物体が流路内の物体よりも高い重力位置エネルギーを有する)ことを示す。「下方」という用語は、本明細書で使用される場合、流路106が、重力により定義される垂直軸上で1つ又は複数の隔離ペンよりも下に位置する(すなわち、流路106の下方の隔離ペン内の物体が流路内の物体よりも低い重力位置エネルギーを有する)ことを示す。
【0110】
幾つかの場合、傾斜デバイス190は、流路106と平行な軸の周りでマイクロ流体デバイス100を傾斜させる。更に、マイクロ流体デバイス100は、流路106が、隔離ペンの真上又は真下に配置されずに、1つ又は複数の隔離ペンの上方又は下方に配置されるように、90°未満の角度に傾斜することができる。他の場合、傾斜デバイス190は、流路106に直交する軸の周りでマイクロ流体デバイス100を傾斜させる。更に他の場合、傾斜デバイス190は、流路106に平行でもなく直交もしない軸の周りでマイクロ流体デバイス100を傾斜させる。
【0111】
システム150は培地源178を更に含むことができる。培地源178(例えば、容器、リザーバ等)は、それぞれが異なる流体培地180を保持する複数のセクション又は容器を含むことができる。したがって、培地源178は、図1Aに示されるように、マイクロ流体デバイス100の外部にある、マイクロ流体デバイス100とは別個のデバイスであり得る。代替的に、培地源178は、全体的又は部分的に、マイクロ流体デバイス100のエンクロージャ102内部に配置することができる。例えば、培地源178は、マイクロ流体デバイス100の部分であるリザーバを含むことができる。
【0112】
図1Aは、システム150の一部を構成し、マイクロ流体デバイス100と併せて利用することができる制御及び監視機器152の例の簡易ブロック図表現も示す。示されるように、そのような制御及び監視機器152の例は、培地源178を制御する培地モジュール160と、マイクロ流体回路120での微小物体(図示せず)及び/又は培地(例えば、培地の液滴)の移動及び/又は選択を制御する原動モジュール162と、画像(例えば、デジタル画像)を捕捉する撮像デバイス194(例えば、カメラ、顕微鏡、光源、又はそれらの任意の組合せ)を制御する撮像モジュール164と、傾斜デバイス190を制御する傾斜モジュール166とを含むマスタコントローラ154を含む。制御機器152は、マイクロ流体デバイス100に関する他の機能を制御、監視、又は実行する他のモジュール168を含むこともできる。示されるように、機器152は、表示デバイス170及び入/出力デバイス172を更に含むことができる。
【0113】
マスタコントローラ154は、制御モジュール156及びデジタルメモリ158を含むことができる。制御モジュール156は、例えば、メモリ158内に非一時的データ又は信号として記憶される機械実行可能命令(例えば、ソフトウェア、ファームウェア、ソースコード等)に従って動作するように構成されるデジタルプロセッサを含むことができる。代替的に又は追加として、制御モジュール156は、ハードワイヤードデジタル回路及び/又はアナログ回路を含むことができる。培地モジュール160、原動モジュール162、撮像モジュール164、傾斜モジュール166、及び/又は他のモジュール168は、同様に構成され得る。したがって、マイクロ流体デバイス100又は任意の他のマイクロ流体装置に関して実行されるものとして本明細書で考察される機能、プロセス、行動、動作、又はプロセスのステップは、上述したように構成されるマスタコントローラ154、培地モジュール160、原動モジュール162、撮像モジュール164、傾斜モジュール166、及び/又は他のモジュール168の任意の1つ又は複数により実行され得る。同様に、マスタコントローラ154、培地モジュール160、原動モジュール162、撮像モジュール164、傾斜モジュール166、及び/又は他のモジュール168は、通信可能に結合されて、本明細書において考察される任意の機能、プロセス、行動、動作、又はステップで使用されるデータを送受信し得る。
【0114】
培地モジュール160は培地源178を制御する。例えば、培地モジュール160は、培地源178を制御して、選択された流体培地180をエンクロージャ102に入れる(例えば、流入口107を介して)ことができる。培地モジュール160は、エンクロージャ102からの培地の取り出し(例えば、流出口(図示せず)を通して)を制御することもできる。したがって、1つ又は複数の培地を選択的にマイクロ流体回路120に入れ、マイクロ流体回路120から搬出することができる。培地モジュール160は、マイクロ流体回路120内部の流路106での流体培地180のフローを制御することもできる。例えば、幾つかの実施形態では、培地モジュール160は、傾斜モジュール166が傾斜デバイス190に所望の傾斜角までマイクロ流体デバイス100を傾斜させる前に、流路106内及びエンクロージャ102を通る培地180のフローを停止させる。
【0115】
原動モジュール162は、マイクロ流体回路120での微小物体(図示せず)の選択、捕捉、及び移動を制御するように構成され得る。図1B及び図1Cに関して後述するように、エンクロージャ102は、誘電泳動(DEP)構成、光電子ピンセット(OET)構成、及び/又は光電子ウェッティング(OEW)構成(図1Aに示されず)を含むことができ、原動モジュール162は、電極及び/又はトランジスタ(例えば、フォトトランジスタ)のアクティブ化を制御して、流路106及び/又は隔離ペン124、126、128、130で微小物体(図示せず)及び/又は培地の液滴(図示せず)を選択し移動させることができる。
【0116】
撮像モジュール164は撮像デバイス194を制御することができる。例えば、撮像モジュール164は、撮像デバイス194から画像データを受信し、処理することができる。撮像デバイス194からの画像データは、撮像デバイス194により捕捉された任意のタイプの情報を含むことができる(例えば、微小物体、培地の液滴、蛍光標識等の標識の蓄積の有無等)。撮像デバイス194により捕捉された情報を使用して、撮像モジュール164は、物体(例えば、微小物体、培地の液滴)の位置及び/又はマイクロ流体デバイス100内のそのような物体の移動速度を更に計算することができる。
【0117】
傾斜モジュール166は、傾斜デバイス190の傾斜移動を制御することができる。代替的に又は追加として、傾斜モジュール166は、重力を介して1つ又は複数の隔離ペンへの微小物体の移送を最適化するように、傾斜率及びタイミングを制御することができる。傾斜モジュール166は、撮像モジュール164と通信可能に結合されて、マイクロ流体回路120での微小物体及び/又は培地の液滴の移動を記述するデータを受信する。このデータを使用して、傾斜モジュール166は、マイクロ流体回路120の傾斜を調整して、マイクロ流体回路120内で微小物体及び/又は培地の液滴が移動する率を調整し得る。傾斜モジュール166は、このデータを使用して、マイクロ流体回路120内での微小物体及び/又は培地の液滴の位置を繰り返し調整することもできる。
【0118】
図1Aに示される例では、マイクロ流体回路120は、マイクロ流体チャネル122及び隔離ペン124、126、128、130を含むものとして示されている。各ペンは、チャネル122への開口部を含むが、ペンがペン内部の微小物体を流体培地180及び/又はチャネル122の流路106又は他のペン内の微小物体から実質的に分離することができるように、その他では閉じられている。隔離ペンの壁は、ベースの内面109からカバー110の内面まで延び、エンクロージャを提供する。マイクロ流体チャネル122へのペンの開口部は、フロー106がペン内に向けられないように、フロー106に対して傾斜して向けられる。フローは、ペンの開口部の平面に対して接線方向にあり得るか又は直交し得る。幾つかの場合、ペン124、126、128、130は、1つ又は複数の微小物体をマイクロ流体回路120内に物理的に囲い入れるように構成される。本開示による隔離ペンは、以下に詳細に考察し示すように、DEP、OET、OEW、流体フロー、及び/又は重力との併用に最適化された様々な形状、表面、及び特徴を含むことができる。
【0119】
マイクロ流体回路120は、任意の数のマイクロ流体隔離ペンを含み得る。5つの隔離ペンが示されているが、マイクロ流体回路120は、より少ない又はより多くの隔離ペンを有し得る。示されるように、マイクロ流体回路120のマイクロ流体隔離ペン124、126、128、及び130は、それぞれ、生物学的微小物体の保持、分離、アッセイ、又は培養に役立つ1つ以上の利益を提供し得る様々な特徴及び形状を含む。幾つかの実施形態では、マイクロ流体回路120は、複数の同一のマイクロ流体隔離ペンを含む。
【0120】
図1Aに示される実施形態では、1つのチャネル122及び流路106が示される。しかし、他の実施形態は、それぞれが流路106を含むように構成される複数のチャネル122を含み得る。マイクロ流体回路120は、流路106及び流体培地180と流体連通する流入弁又はポート107を更に含み、それにより、流体培地180は、流入口107を介してチャネル122にアクセスすることができる。幾つかの場合、流路106は1つの経路を含む。幾つかの場合、1つの経路はジグザグパターンで配置され、それにより、流路106は、交互になった方向で2回以上にわたってマイクロ流体デバイス100にわたり移動する。
【0121】
幾つかの場合、マイクロ流体回路120は、複数の平行チャネル122及び流路106を含み、各流路106内の流体培地180は同じ方向に流れる。幾つかの場合、各流路106内の流体培地は、順方向又は逆方向の少なくとも一方で流れる。幾つかの場合、複数の隔離ペンは、隔離ペンが標的微小物体と並列に配置されることができるように構成される(例えば、チャネル122に相対して)。
【0122】
幾つかの実施形態では、マイクロ流体回路120は、1つ又は複数の微小物体トラップ132を更に含む。トラップ132は、一般に、チャネル122の境界を形成する壁に形成され、マイクロ流体隔離ペン124、126、128、130の1つ又は複数の開口部の逆に位置し得る。幾つかの実施形態では、トラップ132は、流路106から1つの微小物体を受け取り、又は捕捉するように構成される。幾つかの実施形態では、トラップ132は、流路106から複数の微小物体を受け取り、又は捕捉するように構成される。幾つかの場合、トラップ132は、1つの標的微小物体の容積に概ね等しい容積を含む。
【0123】
トラップ132は、標的微小物体のトラップ132へのフローを支援するように構成される開口部を更に含み得る。幾つかの場合、トラップ132は、1つの標的微小物体の寸法に概ね等しい高さ及び幅を有する開口部を含み、それにより、より大きい微小物体が微小物体トラップに入らないようにされる。トラップ132は、トラップ132内への標的微小物体の保持を支援するように構成される他の特徴を更に含み得る。幾つかの場合、トラップ132は、微小流体隔離ペンの開口部と位置合わせされ、微小流体隔離ペンの開口部に関してチャネル122の逆側に配置され、それにより、マイクロ流体チャネル122に平行な軸の周りでマイクロ流体デバイス100を傾斜されると、捕捉された微小物体は、微小物体を隔離ペンの開口部に落とす軌道でトラップ132を出る。幾つかの場合、トラップ132は、標的微小物体よりも小さく、トラップ132を通るフローを促進し、それによりトラップ132内への微小物体の捕捉確率を増大させるサイド通路134を含む。
【0124】
幾つかの実施形態では、誘電泳動(DEP)力は、1つ又は複数の電極(図示せず)を介して流体培地180にわたり適用されて(例えば、流路及び/又は隔離ペンにおいて)、内部に配置された微小物体の操作、輸送、分離、及びソートを行う。例えば、幾つかの実施形態では、DEP力は、マイクロ流体回路120の1つ又は複数の部分に適用されて、1つの微小物体を流路106から所望のマイクロ流体隔離ペンに輸送する。幾つかの実施形態では、DEP力を使用して、隔離ペン(例えば、隔離ペン124、126、128、又は130)内の微小物体が隔離ペンから変位しないようにする。更に、幾つかの実施形態では、DEP力を使用して、本開示の形態により前に収集された微小物体を隔離ペンから選択的に取り出す。幾つかの実施形態では、DEP力は、光電子ピンセット(OET)力を含む。
【0125】
他の実施形態では、光電子ウェッティング(OEW)力が、1つ又は複数の電極(図示せず)を介してマイクロ流体デバイス100の支持構造体104(及び/又はカバー110)での1つ又は複数の位置(例えば、流路及び/又は隔離ペンの画定に役立つ位置)に適用されて、マイクロ流体回路120に配置された液滴の操作、輸送、分離、及びソートを行う。例えば、幾つかの実施形態では、OEW力は支持構造体104(及び/又はカバー110)の1つ又は複数の位置に適用されて、1つの液滴を流路106から所望のマイクロ流体隔離ペンに輸送する。幾つかの実施形態では、OEW力を使用して、隔離ペン(例えば、隔離ペン124、126、128、又は130)内の液滴が隔離ペンから変位しないようにする。更に、幾つかの実施形態では、OEW力を使用して、本開示の形態により前に収集された液滴を隔離ペンから選択的に取り出す。
【0126】
幾つかの実施形態では、DEP力及び/又はOEW力は、フロー及び/又は重力等の他の力と組み合わせられて、マイクロ流体回路120内の微小物体及び/又は液滴の操作、輸送、分離、及びソートを行う。例えば、エンクロージャ102は傾斜して(例えば、傾斜デバイス190により)、流路106及び流路106内に配置された微小物体をマイクロ流体隔離ペンの上に位置決めすることができ、重力は、微小物体及び/又は液滴をペン内に輸送することができる。幾つかの実施形態では、DEP力及び/又はOEW力は、他の力の前に適用することができる。他の実施形態では、DEP力及び/又はOEW力は、他の力の後に適用することができる。更に他の場合、DEP力及び/又はOEW力は、他の力と同時に又は他の力と交互に適用することができる。
【0127】
図1B図1C及び図2A図2Hは、本開示の形態に使用することができるマイクロ流体デバイスの様々な実施形態を示す。図1Bは、マイクロ流体デバイス200が光学作動動電学的デバイスとして構成される実施形態を示す。光電子ピンセット(OET)構成を有するデバイス及び光電子ウェッティング(OEW)構成を有するデバイスを含め、様々な光学作動動電学的デバイスが当技術分野で既知である。適するOET構成の例は、以下の米国特許文献に示されており、各文献は全体的に参照により本明細書に援用される:米国特許第RE44,711号(Wuら)(元々は米国特許第7,612,355号として発行された);及び米国特許第7,956,339号(Ohtaら)。OEW構成の例は、米国特許第6,958,132号(Chiouら)及び米国特許出願公開第2012/0024708号(Chiouら)に示されており、これらは両方とも全体的に参照により本明細書に援用される。光学作動動電的デバイスの更に別の例は、OET/OEW結合構成を含み、その例は、米国特許出願公開第20150306598号(Khandrosら)及び同第20150306599号(Khandrosら)並びにそれらの対応するPCT公報である国際公開第2015/164846号及び国際公開第2015/164847号に示されており、これらは全て全体的に参照により本明細書に援用される。
【0128】
生物学的微小物体を配置し、培養し、及び/又は監視することができる隔離ペンを有するマイクロ流体デバイスの例は、例えば、米国特許出願公開第2014/0116881号(出願番号14/060,117、2013年10月22日出願)、米国特許出願公開第2015/0151298号(出願番号14/520,568、2014年10月22日出願)、及び米国特許出願公開第2015/0165436号(出願番号14/521,447、2014年10月22日出願)に記載されており、これらはそれぞれ全体的に参照により援用される。米国特許出願公開第14/520,568号及び同第14/521,447号は、マイクロ流体デバイスで培養された細胞の分泌物を分析する例示的な方法についても記載している。上記の各出願は、光電子ツイーザ(OET)等の誘電泳動(DEP)力を生成するように構成されるか、又は光電子ウェッティング(OEW)を提供するように構成されるマイクロ流体デバイスを更に記載している。例えば、米国特許出願公開第2014/0116881号の図2に示される光電子ツイーザデバイスは、本開示の実施形態で利用して、個々の生物学的微小物体又は生物学的微小物体のグループを選択し移動させることができるデバイスの例である。
【0129】
原動マイクロ流体デバイス構成。
上述したように、システムの制御及び監視機器は、マイクロ流体デバイスのマイクロ流体回路において微小物体又は液滴等の物体を選択し移動させる原動モジュールを含むことができる。マイクロ流体デバイスは、移動される物体のタイプ及び他の考慮事項に応じて様々な原動構成を有することができる。例えば、誘電泳動(DEP)構成を利用して、マイクロ流体回路において微小物体を選択し移動させることができる。したがって、マイクロ流体デバイス100の支持構造体104及び/又はカバー110は、マイクロ流体回路120内の流体培地180内の微小物体に対してDEP力を選択的に誘導し、それにより個々の微小物体又は微小物体群の選択、捕捉、及び/又は移動を行うDEP構成を含むことができる。代替的に、マイクロ流体デバイス100の支持構造体104及び/又はカバー110は、マイクロ流体回路120内の流体培地180内の液滴に対して電子ウェッティング(EW)力を選択的に誘導し、それにより個々の液滴又は液滴群の選択、捕捉、及び/又は移動を行う電子ウェッティング(EW)構成を含むことができる。
【0130】
DEP構成を含むマイクロ流体デバイス200の一例を図21B及び図1Cに示す。簡潔にするために、図1B及び図1Cは、領域/チャンバ202を有するマイクロ流体デバイス200のエンクロージャ102の部分の側面断面図及び上面断面図をそれぞれ示すが、領域/チャンバ202が、成長チャンバ、隔離ペン、フロー領域、又はフローチャネル等のより詳細な構造を有する流体回路要素の部分であり得ることを理解されたい。更に、マイクロ流体デバイス200は他の流体回路要素を含み得る。例えば、マイクロ流体デバイス200は、マイクロ流体デバイス100に関して本明細書に記載される等の複数の成長チャンバ、或いは隔離ペン及び/又は1つ若しくは複数のフロー領域又はフローチャネルを含むことができる。DEP構成は、マイクロ流体デバイス200の任意のそのような流体回路要素に組み込み得るか、又はその部分を選択し得る。上記又は下記の任意のマイクロ流体デバイス構成要素及びシステム構成要素がマイクロ流体デバイス200内に組みこまれ得、及び/又はマイクロ流体デバイス200と組み合わせて使用し得ることを更に理解されたい。例えば、培地モジュール160、原動モジュール162、撮像モジュール164、傾斜モジュール166、及び他のモジュール168の1つ又は複数を含む上述した制御及び監視機器152を含むシステム150は、マイクロ流体デバイス200と併用し得る。
【0131】
図1Bにおいて見られるように、マイクロ流体デバイス200は、下部電極204及び下部電極204に重なる電極活性化基板206を有する支持構造体104と、上部電極210を有するカバー110とを含み、上部電極210は下部電極204から離間される。上部電極210及び電極活性化基板206は、領域/チャンバ202の両面を画定する。したがって、領域/チャンバ202に含まれる培地180は、上部電極210と電極活性化基板206との間に抵抗接続を提供する。下部電極204と上部電極210との間に接続され、領域/チャンバ202でのDEP力の生成のために必要に応じて電極間にバイアス電圧を生成するように構成される電源212も示されている。電源212は、例えば、交流(AC)電源であり得る。
【0132】
特定の実施形態では、図1B及び図1Cに示されるマイクロ流体デバイス200は、光学作動DEP構成を有することができる。したがって、原動モジュール162により制御し得る光源216からの光218の変更パターンは、電極活性化基板206の内面208の領域214においてDEP電極の変更パターンを選択的に活性化又は非活性化することができる。(以下ではDEP構成を有するマイクロ流体デバイスの領域214を「DEP電極領域」と呼ぶ)。図1Cに示されるように、電極活性化基板206の内面208に向けられる光パターン218は、正方形等のパターンで、選択されたDEP電極領域214a(白色で示される)を照明することができる。照明されないDEP電極領域214(斜線が付される)を以下では「暗」DEP電極領域214と呼ぶ。DEP電極活性化基板206を通る相対電気インピーダンス(すなわち、下部電極204から、フロー領域106において培地180と界面を接する電極活性化基板206の内面208まで)は、各暗DEP電極領域214での領域/チャンバ202において培地180を通る(すなわち、電極活性化基板206の内面208からカバー110の上部電極210まで)相対電気インピーダンスよりも大きい。しかし、照明DEP電極領域214aは、各照明DEP電極領域214aでの領域/チャンバ202での培地180を通る相対インピーダンス未満である電極活性化基板206を通る相対インピーダンスの低減を示す。
【0133】
電源212が活性化されている場合、上記のDEP構成は、照明DEP電極領域214aと隣接する暗DEP電極領域214との間に流体培地180内で電場勾配を生じさせ、次に、電場勾配は、流体培地180内の付近の微小物体(図示せず)を引き寄せるか、又は排斥する局所DEP力を生成する。したがって、流体培地180内の微小物体を引き寄せるか、又は排斥するDEP電極は、光源216からマイクロ流体デバイス200に投射される光パターン218を変更することにより、領域/チャンバ202の内面208での多くの異なるそのようなDEP電極領域214において選択的に活性化及び非活性化することができる。DEP力が付近の微小物体を引き寄せるか、それとも排斥するかは、電源212の周波数並びに培地180及び/又は微小物体(図示せず)の誘電特性等のパラメータに依存し得る。
【0134】
図1Cに示される照明DEP電極領域214aの正方形パターン220は単なる例である。マイクロ流体デバイス200に投射される光パターン218により、任意のパターンのDEP電極領域214を照明する(それにより活性化する)ことができ、照明/活性化されるDEP電極領域214のパターンは、光パターン218を変更又は移動させることにより繰り返し変更することができる。
【0135】
幾つかの実施形態では、電極活性化基板206は、光伝導性材料を含むか、又は光導電性材料からなることができる。そのような実施形態では、電極活性化基板206の内面208は、特徴を有さないことができる。例えば、電極活性化基板206は、水素化非晶質シリコン(a-Si:H)の層を含むか、又はa-Si:Hの層からなることができる。a-Si:Hは、例えば、約8%~40%の水素を含むことができる(水素原子の数/水素及びケイ素原子の総数に100を掛けたものとして計算)。a-Si:Hの層は厚さ約500nm~約2.0μmを有することができる。そのような実施形態では、DEP電極領域214は、光パターン218により、電極活性化基板206の内面208上の任意の場所に任意のパターンで作成することができる。したがって、DEP電極領域214の数及びパターンは、固定される必要がなく、光パターン218に対応することができる。上述したような光伝導層を含むDEP構成を有するマイクロ流体デバイスの例は、例えば、米国特許第RE44,711号(Wuら)(元々は米国特許第7,612,355号として発行された)に記載されており、その内容全体は参照により本明細書に援用される。
【0136】
他の実施形態では、電極活性化基板206は、半導体分野で既知等の半導体集積回路を形成する複数のドープ層、絶縁層(又は領域)、及び導電層を含む基板を含むことができる。例えば、電極活性化基板206は、例えば、横型バイポーラフォトトランジスタを含む複数のフォトトランジスタを含むことができ、各フォトトランジスタはDEP電極領域214に対応する。代替的に、電極活性化基板206は、フォトトランジスタスイッチにより制御される電極(例えば、導電性金属電極)を含むことができ、そのような各電極はDEP電極領域214に対応する。電極活性化基板206は、パターンになったそのようなフォトトランジスタ又はフォトトランジスタ制御される電極を含むことができる。パターンは、例えば、図2Bに示される等、行列に配置された実質的に正方形のフォトトランジスタ又はフォトトランジスタ制御される電極のアレイであり得る。代替的に、パターンは、六角形格子を形成する実質的に六角形のフォトトランジスタ又はフォトトランジスタ制御される電極のアレイであり得る。パターンに関係なく、電気回路素子は、電極活性化基板206の内面208におけるDEP電極領域214と下部電極210との間に電気接続を形成することができ、それらの電気接続(すなわち、フォトトランジスタ又は電極)は、光パターン218により選択的に活性化又は非活性化することができる。活性化されない場合、各電気接続は、電極活性化基板206を通る(すなわち、下部電極204から、領域/チャンバ202内の培地180と界面を接する電極活性化電極206の内面208まで)相対インピーダンスが、対応するDEP電極領域214における培地180を通る(すなわち、電極活性化基板206の内面208からカバー110の上部電極210まで)相対インピーダンスよりも大きいような高いインピーダンスを有することができる。しかし、光パターン218内の光により活性化される場合、電極活性化基板206を通る相対インピーダンスは、各照明DEP電極領域214での培地180を通る相対インピーダンス未満であり、それにより、上述したように、対応するDEP電極領域214でのDEP電極を活性化する。したがって、培地180内の微小物体(図示せず)を引き寄せるか、又は排斥するDEP電極は、光パターン218により決まるように、領域/チャンバ202での電極活性化基板206の内面208での多くの異なるDEP電極領域214において選択的に活性化及び非活性化することができる。
【0137】
フォトトランジスタを含む電極活性化基板を有するマイクロ流体デバイスの例は、例えば、米国特許第7,956,339号(Ohtaら)に記載されており(例えば、図21及び図22に示されるデバイス300並びにその説明を参照されたい)、この内容全体は参照により本明細書に援用される。フォトトランジスタスイッチにより制御される電極を含む電極活性化基板を有するマイクロ流体デバイスの例は、例えば、米国特許出願公開第2014/0124370号(Shortら)に記載されており(例えば、図面全体を通して示されるデバイス200、400、500、600、及び900並びにその説明を参照されたい)、これらの内容全体は参照により本明細書に援用される。
【0138】
DEP構成のマイクロ流体デバイスの幾つかの実施形態では、上部電極210はエンクロージャ102の第1の壁(又はカバー110)の一部であり、電極活性化基板206及び下部電極204は、エンクロージャ102の第2の壁(又は支持構造体104)の一部である。領域/チャンバ202は、第1の壁と第2の壁との間にあり得る。他の実施形態では、電極210は第2の壁(又は支持構造体104)の一部であり、電極活性化基板206及び/又は電極210の一方又は両方は、第1の壁(又はカバー110)の一部である。更に、光源216は代替的に、下からエンクロージャ102を照明するのに使用することができる。
【0139】
DEP構成を有する図1B及び図1Cのマイクロ流体デバイス200を用いて、原動モジュール162は、光パターン218をマイクロ流体デバイス200に投射して、微小物体を囲み捕捉するパターン(例えば、正方形パターン220)で電極活性化基板206の内面208のDEP電極領域214aでの第1の組の1つ又は複数のDEP電極を活性化することにより、領域/チャンバ202での培地180内の微小物体(図示せず)を選択することができる。次に、原動モジュール162は、光パターン218をマイクロ流体デバイス200に相対して移動させて、DEP電極領域214での第2の組の1つ又は複数のDEP電極を活性化することにより、インサイチューで生成され捕捉された微小物体を移動させることができる。代替的に、マイクロ流体デバイス200を光パターン218に相対して移動させることができる。
【0140】
他の実施形態では、マイクロ流体デバイス200は、電極活性化基板206の内面208でのDEP電極の光活性化に依存しないDEP構成を有することができる。例えば、電極活性化基板206は、少なくとも1つの電極を含む表面(例えば、カバー110)とは逆に位置する、選択的にアドレス指定可能且つエネルギー付与可能な電極を含むことができる。スイッチ(例えば、半導体基板のトランジスタスイッチ)を選択的に開閉して、DEP電極領域214でのDEP電極を活性化又は非活性化し得、それにより、活性化されたDEP電極の近傍での領域/チャンバ202内の微小物体(図示せず)に対する正味DEP力を生成する。電源212の周波数及び培地(図示せず)及び/又は領域/チャンバ202内の微小物体の誘電特性等の特徴に応じて、DEP力は、付近の微小物体を引き寄せるか、又は排斥することができる。DEP電極の組(例えば、正方形パターン220を形成するDEP電極領域214の組における)を選択的に活性化又は非活性化することにより、領域/チャンバ202における1つ又は複数の微小物体を捕捉し、領域/チャンバ202内で移動させることができる。図1Aの原動モジュール162は、そのようなスイッチを制御し、したがって、DEP電極の個々の電極を活性化及び非活性化して、領域/チャンバ202の周囲の特定の微小物体(図示せず)を選択、捕捉、及び移動させることができる。選択的にアドレス指定可能且つエネルギー付与可能な電極を含むDEP構成を有するマイクロ流体デバイスは、当技術分野で既知であり、例えば、米国特許第6,294,063号(Beckerら)及び同第6,942,776号(Medoro)に記載されており、これらの内容全体は参照により本明細書に援用される。
【0141】
更なる別例として、マイクロ流体デバイス200は電子ウェッティング(EW)構成を有することができ、EW構成は、DEP構成の代わりであってもよく、又はDEP構成を有する部分とは別個のマイクロ流体デバイス200の部分に配置されてもよい。EW構成は、光電子ウェッティング構成(OEW)又は誘電体上の電子ウェッティング(EWOD)構成であり得、これらは両方とも当技術分野で既知である。幾つかのEW構成では、支持構造体104は、以下に記載するように、誘電層(図示せず)と下部電極204との間に挟まれた電極活性化基板206を有する。誘電層は、疎水性材料を含むことができ、及び/又は疎水性材料でコーティングすることができる。EW構成を有するマイクロ流体デバイス200の場合、支持構造体104の内面208は、誘電層の内面又はその疎水性コーティングである。
【0142】
誘電層(図示せず)は、1つ又は複数の酸化物層を含むことができ、厚さ約50nm~約250nm(例えば、約125nm~約175nm)を有することができる。特定の実施形態では、誘電層は、金属酸化物(例えば、酸化アルミニウム又は酸化ハフニウム)等の酸化物の層を含むことができる。特定の実施形態では、誘電層は、酸化ケイ素又は窒化物等の金属酸化物以外の誘電材料を含むことができる。厳密な組成及び厚さに関係なく、誘電層は約10kオーム~約50kオームのインピーダンスを有することができる。
【0143】
幾つかの実施形態では、領域/チャンバ202に向かって内側に面した誘電層の表面は、疎水性材料でコーティングされる。疎水性材料は、例えば、フッ素化炭素分子を含むことができる。フッ素化炭素分子の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(例えば、TEFLON(登録商標)又はポリ(2,3-ジフルオロメチレニル-ペルフルオロテトラヒドロフラン)(例えば、CYTOP(商標))などのパーフルオロポリマーが挙げられる。疎水性材料を構成する分子は、誘電層の表面に共有結合され得る。例えば、疎水性材料の分子は、シロキサン基、ホスホン酸基、又はチオール基等のリンカーにより、誘電層の表面に共有結合され得る。したがって、幾つかの実施形態では、疎水性材料は、アルキル末端シロキサン、アルキル末端ホスホン酸、又はアルキル末端チオールを含むことができる。アルキル基は長鎖炭化水素(例えば、少なくとも10個の炭素又は少なくとも16個、18個、20個、22個、若しくはそれを超える個数の炭素の鎖を有する)であり得る。代替的に、フッ素化(又はパーフルオロ化)炭素鎖をアルキル基の代わりに使用することができる。したがって、例えば、疎水性材料は、フルオロアルキル末端シロキサン、フルオロアルキル末端ホスホン酸、又はフルオロアルキル末端チオールを含むことができる。幾つかの実施形態では、疎水性コーティングは約10nm~約50nmの厚さを有する。他の実施形態では、疎水性コーティングは厚さ10nm未満(例えば、5nm未満又は約1.5~3.0nm)を有する。
【0144】
幾つかの実施形態では、電子ウェッティング構成を有するマイクロ流体デバイス200のカバー110も同様に疎水性材料(図示せず)でコーティングされる。疎水性材料は、支持構造体104の誘電層のコーティングに使用されるものと同じ疎水性材料であり得、疎水性コーティングは、支持構造体104の誘電層の疎水性コーティングの厚さと略同じである厚さを有することができる。更に、カバー110は、支持構造体104の様式で、誘電層と上部電極210との間に挟まれた電極活性化基板206を含むことができる。電極活性化基板206及びカバー110の誘電層は、電極活性化基板206及び支持構造体104の誘電層と同じ組成及び/又は寸法を有することができる。したがって、マイクロ流体デバイス200は2つの電子ウェッティング表面を有することができる。
【0145】
幾つかの実施形態では、電子活性化基板206は、上述した光伝導性材料等の光伝導性材料を含むことができる。したがって、特定の実施形態では、電極活性化基板206は、水素化非晶質シリコン(a-Si:H)の層を含むか、又はa-Si:Hの層からなることができる。a-Si:Hは、例えば、約8%~40%の水素を含むことができる(水素原子の総数及びケイ素原子の総数/水素原子の総数に100を掛けたものとして計算)。a-Si:Hの層は厚さ約500nm~約2.0μmを有することができる。代替的に、電子活性化基板206は、上述したように、フォトトランジスタスイッチにより制御される電極(例えば、導電性金属電極)を含むことができる。光電子ウェッティング構成を有するマイクロ流体デバイスは当技術分野で既知であり、及び/又は当技術分野で既知の電極活性化基板を用いて構築することができる。例えば、内容全体が参照により本明細書に援用される米国特許第6,958,132号(Chiouら)には、a-Si:H等の光伝導性材料を有する光電子ウェッティング構成が開示されており、一方、上記で引用した米国特許出願公開第2014/0124370号(Shortら)には、フォトトランジスタスイッチにより制御される電極を有する電極活性化基板が開示されている。
【0146】
したがって、マイクロ流体デバイス200は光電子ウェッティング構成を有することができ、光パターン218を使用して、電極活性化基板206での光応答性EW領域又は光応答性EW電極を活性化することができる。電極活性化基板206のそのような活性化されたEW領域又はEW電極は、支持構造体104の内面208(すなわち、重なった誘電層の内面又はその疎水性コーティング)において電子ウェッティング力を生成することができる。電子活性化基板206に入射する光パターン218を変更する(又は光源216に相対してマイクロ流体デバイス200を移動させる)ことにより、支持構造体104の内面208に接触する液滴(例えば、水性培地、水溶液又は水性溶媒を含む)は、領域/チャンバ202内に存在する不混和流体(例えば、油媒体)を通って移動することができる。
【0147】
他の実施形態では、マイクロ流体デバイス200は、EWOD構成を有することができ、電極活性化基板206は、活性化のために光に依存しない、選択的にアドレス指定可能且つエネルギー付与可能な電極を含むことができる。したがって、電極活性化基板206は、パターンになったそのような電子ウェッティング(EW)電極を含むことができる。パターンは、例えば、図2Bに示される等の行列に配置された略正方形のEW電極のアレイであり得る。代替的に、パターンは、六角形格子を形成する略六角形のEW電極のアレイであり得る。パターンに関係なく、EW電極は、電気スイッチ(例えば、半導体基板のトランジスタスイッチ)により選択的に活性化(又は非活性化)することができる。電極活性化基板206でのEW電極を選択的に活性化及び非活性化することにより、重なった誘電層の内面208又はその疎水性コーティングに接触する液滴(図示せず)は、領域/チャンバ202内で移動することができる。図1Aの原動モジュール162は、そのようなスイッチを制御することができ、したがって、個々のEW電極を活性化及び非活性化して、領域/チャンバ202の周囲で特定の液滴を選択し移動させることができる。選択的にアドレス指定可能且つエネルギー付与可能な電極を有するEWOD構成を有するマイクロ流体デバイスは、当技術分野で既知であり、例えば、米国特許第8,685,344号(Sundarsanら)に記載されており、この内容全体は参照により本明細書に援用される。
【0148】
マイクロ流体デバイス200の構成に関係なく、電源212を使用して、マイクロ流体デバイス200の電気回路に給電する電位(例えば、AC電源電位)を提供することができる。電源212は、図1で参照される電源192と同じ又は電源192の構成要素であり得る。電源212は、上部電極210及び下部電極204にAC電圧及び/又は電流を提供するように構成され得る。AC電圧の場合、電源212は、上述したように、領域/チャンバ202内の個々の微小物体(図示せず)を捕捉して移動させ、及び/又はこれらも上述したように、領域/チャンバ202内の支持構造体104の内面208(すなわち、誘電層及び/又は誘電層上の疎水性コーティング)のウェッティング特性を変更するのに十分に強い正味DEP力(又は電子ウェッティング力)を生成するのに十分な周波数範囲及び平均又はピーク電力(例えば、電圧又は電流)を提供することができる。そのような周波数範囲及び平均又はピーク電力範囲は、当技術分野で既知である。例えば、米国特許第6,958,132号(Chiouら)、米国特許第RE44,711号(Wuら)(元々は米国特許第7,612,355号として発行された)、並びに米国特許出願公開第2014/0124370号(Shortら)、同第2015/0306598号(Khandrosら)、及び同第2015/0306599号(Khandrosら)を参照されたい。
【0149】
隔離ペン。
一般的な隔離ペン224、226、及び228の非限定的な例は、図2A図2Cに示されるマイクロ流体デバイス230内に示されている。各隔離ペン224、226、及び228は、分離領域240と、分離領域240をチャネル122に流体接続する接続領域236とを画定する分離構造体232を含むことができる。接続領域236は、マイクロ流体チャネル122への基端開口部234及び分離領域240への先端開口部238を含むことができる。接続領域236は、マイクロ流体チャネル122から隔離ペン224、226、228内に流れる流体培地(図示せず)のフローの最大侵入深さが分離領域240内に及ばないように構成され得る。したがって、接続領域236に起因して、隔離ペン224、226、228の分離領域240内に配置された微小物体(図示せず)又は他の材料(図示せず)は、チャネル122内の培地180のフローから分離され、マイクロ流体チャネル122内の培地180のフローにより実質的に影響されないことができる。
【0150】
図2A図2Cの隔離ペン224、226、及び228は、マイクロ流体チャネル122に対して直接開く単一の開口部をそれぞれ有する。隔離ペンの開口部は、マイクロ流体チャネル122から横に開く。電極活性化基板206がマイクロ流体チャネル122及び隔離ペン224、226、及び228の両方の下にある。隔離ペンのフロアを形成する、隔離ペンのエンクロージャ内の電極活性化基板206の上面は、マイクロ流体デバイスのフローチャネル(又はそれぞれフロー領域)のフロアを形成する、マイクロ流体チャネル122(又はチャネルが存在しない場合、フロー領域)内の電極活性化基板206の上面と同じ高さ又は略同じ高さに配置される。電極活性化基板206は、特徴を有さなくてもよく、又は約3μm未満、約2.5μm未満、約2μm未満、約1.5μm未満、約1μm未満、約0.9μm未満、約0.5μm未満、約0.4μm未満、約0.2μm未満、約0.1μm未満、又はそれを下回って最高隆起部から最低陥没部まで変化する不規則又はパターン化表面を有してもよい。マイクロ流体チャネル122(又はフロー領域)及び隔離ペンの両方にわたる基板の上面の隆起の変動は、隔離ペンの壁の高さ又はマイクロ流体デバイスの壁の高さの約3%未満、約2%未満、約1%未満、約0.9%未満、約0.8%未満、約0.5%未満、約0.3%未満、又は約0.1%未満であり得る。マイクロ流体デバイス200について詳細に説明したが、これは、本明細書に記載される任意のマイクロ流体デバイス100、230、250、280、290、320、400、450、500、700にも当てはまる。
【0151】
したがって、マイクロ流体チャネル122は掃引領域の例であり得、隔離ペン224、226、228の分離領域240は非掃引領域の例であり得る。述べたように、マイクロ流体チャネル122及び隔離ペン224、226、228は、1つ又は複数の流体培地180を含むように構成され得る。図2A図2Bに示される例では、ポート222はマイクロ流体チャネル122に接続され、流体培地180がマイクロ流体デバイス230内に導入又は外に取り出せるようにすることができる。流体培地180を導入する前に、マイクロ流体デバイスは、二酸化炭素ガス等のガスでプライミングし得る。マイクロ流体デバイス230が流体培地180を含むと、マイクロ流体チャネル122内の流体培地180のフロー242は選択的に生成及び停止させることができる。例えば、示されるように、ポート222はマイクロ流体チャネル122の異なる位置(例えば、両端部)に配置することができ、流入口として機能するあるポート222から流出口として機能する別のポート222への培地のフロー242を生成することができる。
【0152】
図2Cは、本開示による隔離ペン224の例の詳細図を示す。微小物体246の例も示されている。
【0153】
既知のように、隔離ペン224の基端開口部234を越えたマイクロ流体チャネル122内の流体培地180のフロー242は、隔離ペン224内及び/又は外への培地180の2次フロー244を生じさせることができる。隔離ペン224の分離領域240内の微小物体246を2次フロー244から分離するために、隔離ペン224の接続領域236の長さLcon(すなわち、基端開口部234から先端開口部238まで)は、接続領域236への2次フロー244の侵入深さDよりも大きい値であるはずである。2次フロー244の侵入深さDは、マイクロ流体チャネル122内を流れる流体培地180の速度並びにマイクロ流体チャネル122及びマイクロ流体チャネル122への接続領域236の基端開口部234の構成に関連する様々なパラメータに依存する。所与のマイクロ流体デバイスでは、マイクロ流体チャネル122及び開口部234の構成は固定され、一方、マイクロ流体チャネル122内の流体培地180のフロー242の速度は可変である。したがって、隔離ペン224毎に、2次フロー244の侵入深さDが接続領域236の長さLconを超えないことを保証するチャネル122内の流体培地180のフロー242の最高速度Vmaxを識別することができる。マイクロ流体チャネル122内の流体培地180のフロー242の流量が最大速度Vmaxを超えない限り、結果として生成される、マイクロ流体チャネル122及び接続領域236への2次フロー244を制限することができ、分離領域240に入らないようにすることができる。したがって、マイクロ流体チャネル122内の培地180のフロー242は、微小物体246を分離領域240外に引き込まない。むしろ、分離領域240内に配置された微小物体246は、マイクロ流体チャネル122内の流体培地180のフロー242に関係なく、分離領域240内に留まる。
【0154】
更に、マイクロ流体チャネル122内の培地180のフロー242の流量がVmaxを超えない限り、マイクロ流体チャネル122内の流体培地180のフロー242は、様々な粒子(例えば、微粒子及び/又はナノ粒子)をマイクロ流体チャネル122から隔離ペン224の分離領域240内に移動させない。したがって、接続領域236の長さLconを2次フロー244の最大侵入深さDよりも大きくすることで、ある隔離ペン224の、マイクロ流体チャネル122又は別の隔離ペン(例えば、図2Dの隔離ペン226、228)からの様々な粒子による汚染を回避することができる。
【0155】
マイクロ流体チャネル122及び隔離ペン224、226、228の接続領域236は、マイクロ流体チャネル122内の培地180のフロー242により影響を及ぼすことができるため、マイクロ流体チャネル122及び接続領域236は、マイクロ流体デバイス230の掃引(又はフロー)領域と見なすことができる。他方、隔離ペン224、226、228の分離領域240は、非掃引(又は非フロー)領域と見なすことができる。例えば、マイクロ流体チャネル122内の第1の流体培地180中の成分(図示せず)は、実質的に、マイクロ流体チャネル122から接続領域236を通り分離領域240内の第2の流体培地248への第1の培地180の成分の拡散によってのみ、分離領域240内の第2の流体培地248と混合することができる。同様に、分離領域240内の第2の培地248の成分(図示せず)は、実質的に、分離領域240から接続領域236を通り、マイクロ流体チャネル122内の第1の培地180への第2の培地248の成分の拡散によってのみ、マイクロ流体チャネル122内の第1の培地180と混合することができる。幾つかの実施形態では、拡散による隔離ペンの分離領域とフロー領域との間での流体媒体交換の程度は、流体交換の約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、又は約99%よりも高い割合である。第1の培地180は、第2の培地248と同じ培地であってもよく、又は異なる培地であってもよい。更に、第1の培地180及び第2の培地248は、同じ培地として開始され、異なるようになることができる(例えば、分離領域240内の1つ又は複数の細胞により又はマイクロ流体チャネル122を通って流れる培地180を変更することにより、第2の培地248を調整することを通して)。
【0156】
マイクロ流体チャネル122内の流体培地180のフロー242により生じる2次フロー244の最大侵入深さDは、上述したように、幾つかのパラメータに依存し得る。そのようなパラメータの例としては、マイクロ流体チャネル122の形状(例えば、チャネルは、培地を接続領域236に向けることができ、接続領域236から培地を逸らすことができ、又はマイクロ流体チャネル122への接続領域236の基端開口部234に実質的に直交する方向に培地を向けることができる)、基端開口部234でのマイクロ流体チャネル122の幅Wch(又は断面積)及び基端開口部234での接続領域236の幅Wcon(又は断面積)、マイクロ流体チャネル122内の流体培地180のフロー242の速度V、第1の培地180及び/又は第2の培地248の粘度等が挙げられる。
【0157】
幾つかの実施形態では、マイクロ流体チャネル122及び隔離ペン224、226、228の寸法は、マイクロ流体チャネル122内の流体培地180のフロー242のベクトルに対して以下のように向けることができる:マイクロ流体チャネル幅Wch(又はマイクロ流体チャネル122の断面積)は、培地180のフロー242に略直交することができ、開口部234での接続領域236の幅Wcon(又は断面積)は、マイクロ流体チャネル122内の培地180のフロー242に略平行であり得、及び/又は接続領域の長さLconは、マイクロ流体チャネル122内の培地180のフロー242に略直交することができる。上記は単なる例であり、マイクロ流体チャネル122及び隔離ペン224、226、228の相対位置は、互いに対して他の向きであり得る。
【0158】
図2Cに示されるように、接続領域236の幅Wconは、基端開口部234から先端開口部238まで均一であり得る。したがって、先端開口部238での接続領域236の幅Wconは、基端開口部234での接続領域236の幅Wconについて本明細書において識別された任意の範囲内にあり得る。代替的に、先端開口部238での接続領域236の幅Wconは、基端開口部234での接続領域236の幅Wconよりも大きい値であり得る。
【0159】
図2Cに示されるように、先端開口部238での分離領域240の幅は、基端開口部234での基端領域236の幅Wconと略同じであり得る。したがって、先端開口部238での分離領域240の幅は、基端開口部234での接続領域236の幅Wconについて本明細書において識別された任意の範囲内であり得る。代替的に、先端開口部238での分離領域240の幅は、基端開口部234での接続領域236の幅Wconよりも大きくてもよく、又は小さくてもよい。更に、先端開口部238は基端開口部234よりも小さくてよく、接続領域236の幅Wconは、基端開口部234と先端開口部238との間で狭め得る。例えば、接続領域236は、様々な異なるジオメトリ(例えば、接続領域を面取りする、接続領域に勾配を付ける)を使用して基端開口部と先端開口部との間で狭め得る。更に、接続領域236の任意の部分又はサブ部分を狭め得る(例えば、基端開口部234に隣接する接続領域の部分)。
【0160】
図2D図2Fは、図1Aの各マイクロ流体デバイス100、回路132、及びチャネル134の変形形態であるマイクロ流体回路262及びフローチャネル264を含むマイクロ流体デバイス250の別の例示的な実施形態を示す。マイクロ流体デバイス250は、上述した隔離ペン124、126、128、130、224、226、又は228の追加の変形形態である複数の隔離ペン266も有する。特に、図2D図2Fに示されるデバイス250の隔離ペン266をデバイス100、200、230、280、290、300での上述した隔離ペン124、126、128、130、224、226、又は228のいずれかで置換可能なことを理解されたい。同様に、マイクロ流体デバイス250は、マイクロ流体デバイス100の別の変形形態であり、上述したマイクロ流体デバイス100、200、230、280、290、300と同じ又は異なるDEP構成及び本明細書に記載される任意の他のマイクロ流体システム構成要素を有することもできる。
【0161】
図2D図2Fのマイクロ流体デバイス250は、支持構造体(図2D図2Fでは見えないが、図1Aに示されるデバイス100の支持構造体104と同じ又は概して同様であり得る)、マイクロ流体回路構造256、及びカバー(図2F図2Fでは見えないが、図1Aに示されるデバイス100のカバー122と同じ又は概して同様であり得る)を含む。マイクロ流体回路構造256は枠252及びマイクロ流体回路材料260を含み、これらは図1Aに示されるデバイス100の枠114及びマイクロ流体回路材料116と同じ又は概して同様であり得る。図2Dに示されるように、マイクロ流体回路材料260により画定されるマイクロ流体回路262は複数のチャネル264(2つが示されるが、より多くのチャネルがあり得る)を含むことができ、チャネル264に複数の隔離ペン266が流体接続される。
【0162】
各隔離ペン266は、分離構造272、分離構造272内の分離領域270、及び接続領域268を含むことができる。マイクロ流体チャネル264の基端開口部274から分離構造272での先端開口部276まで、接続領域268はマイクロ流体チャネル264を分離領域270に流体接続する。一般に、図2B及び図2Cの上記考察によれば、チャネル264内の第1の流体培地254のフロー278は、マイクロ流体チャネル264から隔離ペン266の各接続領域268内及び/又は外への第1の培地254の2次フロー282をもたらすことができる。
【0163】
図2Eに示されるように、各隔離ペン266の接続領域268は、一般に、チャネル264の基端開口部274と分離構造272の先端開口部276との間に延びるエリアを含む。接続領域268の長さLconは、2次フロー282の最大侵入深さDよりも大きい値であり得、その場合、2次フロー282は、分離領域270に向かってリダイレクトされずに接続領域268内に延びる(図2Dに示されるように)。代替的に、図2Fに示されるように、接続領域268は、最大侵入深さDよりも小さい長さLconを有することができ、その場合、2次フロー282は、接続領域268を通って延び、分離領域270に向かってリダイレクトされる。この後者の状況では、接続領域268の長さLc1及びLc2との和は最大侵入深さDよりも大きく、したがって、2次フロー282は分離領域270内に延びない。接続領域268の長さLconが侵入深さDよりも大きいか否か又は接続領域268の長さLc1及びLc2の和が侵入深さDよりも大きいか否かに関係なく、最大速度Vmaxを超えないチャネル264内の第1の培地254のフロー278は、侵入深さDを有する2次フローをもたらし、隔離ペン266の分離領域270内の微小物体(示されていないが、図2Cに示される微小物体246と同じ又は概して同様であり得る)は、チャネル264内の第1の培地254のフロー278により分離領域270外に引き出されない。チャネル264内のフロー278は、様々な材料(図示せず)もチャネル264から隔離ペン266の分離領域270内に引き込まない。したがって、マイクロ流体チャネル264内の第1の培地254内の成分をマイクロ流体チャネル264から隔離ペン266の分離領域270内の第2の培地258内に移動させることができる唯一の機構は、拡散である。同様に、隔離ペン266の分離領域270内の第2の培地258内の成分を分離領域270からマイクロ流体チャネル264内の第1の培地254内に移動させることができる唯一の機構も拡散である。第1の培地254は、第2の培地258と同じ培地であり得、又は第1の培地254は、第2の培地258と異なる培地であり得る。代替的に、第1の培地254及び第2の培地258は、同じ培地から始まり、例えば、分離領域270内の1つ又は複数の細胞により又はマイクロ流体チャネル264を通って流れる培地を変更することにより、第2の培地を調整することを通して異なるようになることができる。
【0164】
図2Eに示されるように、マイクロ流体チャネル264内のマイクロ流体チャネル264の幅Wch(すなわち、図2Dにおいて矢印278で示されるマイクロ流体チャネルを通る流体培地フローの方向を横断してとられる)は、基端開口部274の幅Wcon1に略直交することができ、したがって、先端開口部276の幅Wcon2に略平行であり得る。しかし、基端開口部274の幅con1及び先端開口部276の幅Wcon2は、互いに略直交する必要はない。例えば、基端開口部274の幅Wcon1が向けられる軸(図示せず)と、先端開口部276の幅Wcon2が向けられる別の軸との間の角度は、直交以外であり得、したがって、90°以外であり得る。代替的に向けられる角度の例としては、以下の任意の範囲内の角度を含む:約30°~約90°、約45°~約90°、約60°~約90°等。
【0165】
隔離ペンの様々な実施形態(例えば、124、126、128、130、224、226、228、又は266)では、分離領域(例えば、240又は270)は、複数の微小物体を含むように構成される。他の実施形態では、分離領域は、1つのみ、2つ、3つ、4つ、5つ、又は同様の相対的に少数の微小物体を含むように構成され得る。したがって、分離領域の容積は、例えば、少なくとも1×10立方μm、少なくとも2×10立方μm、少なくとも4×10立方μm、少なくとも6×10立方μm、又はこれを超える大きさであり得る。
【0166】
隔離ペンの様々な実施形態では、基端開口部(例えば、234)でのマイクロ流体チャネル(例えば、122)の幅Wchは、以下の任意の範囲内であり得る:約50~1000μm、約50~500μm、約50~400μm、約50~300μm、約50~250μm、約50~200μm、約50~150μm、約50~100μm、約70~500μm、約70~400μm、約70~300μm、約70~250μm、約70~200μm、約70~150μm、約90~400μm、90~300μm、約90~250μm、約90~200μm、約90~150μm、約100~300μm、約100~250μm、約100~200μm、約100~150μm、及び約100~120μm。幾つかの他の実施形態では、基端開口部(例えば、234)におけるマイクロ流体チャネル(例えば、122)の幅Wchは、約200~800μm、約200~700μm、又は約200~600μmであり得る。上記は単なる例であり、マイクロ流体チャネル122の幅Wchは、他の範囲(例えば、上記列挙された任意の端点により定義される範囲)であってもよい。更に、マイクロ流体チャネル122の幅Wchは、隔離ペンの基端開口部以外のマイクロ流体チャネルの領域において、これらの任意の範囲であるように選択することができる。
【0167】
幾つかの実施形態では、隔離ペンは、約30~約200μm又は約50~約150μmの高さを有する。幾つかの実施形態では、隔離ペンは、約1×10~約3×10平方μm、約2×10~約2×10平方μm、約4×10~約1×10平方μm、約2×10~約5×10平方μm、約2×10~約1×10平方μm、又は約2×10~約2×10平方μmの断面積を有する。
【0168】
隔離ペンの様々な実施形態において、基端開口部(例えば、234)におけるマイクロ流体チャネル(例えば、122)の高さHchは、以下の任意の範囲内であり得る:20~100μm、20~90μm、20~80μm、20~70μm、20~60μm、20~50μm、30~100μm、30~90μm、30~80μm、30~70μm、30~60μm、30~50μm、40~100μm、40~90μm、40~80μm、40~70μm、40~60μm、又は40~50μm。上記は単なる例であり、マイクロ流体チャネル(例えば、122)の高さHchは、他の範囲(例えば、上記列挙された任意の端点により定義される範囲)であってもよい。マイクロ流体チャネル122の高さHchは、隔離ペンの基端開口部以外のマイクロ流体チャネルの領域において、これらの任意の範囲であるように選択することができる。
【0169】
隔離ペンの様々な実施形態において、基端開口部(例えば、234)におけるマイクロ流体チャネル(例えば、122)の断面積は、以下の任意の範囲内であり得る:500~50,000平方μm、500~40,000平方μm、500~30,000平方μm、500~25,000平方μm、500~20,000平方μm、500~15,000平方μm、500~10,000平方μm、500~7,500平方μm、500~5,000平方μm、1,000~25,000平方μm、1,000~20,000平方μm、1,000~15,000平方μm、1,000~10,000平方μm、1,000~7,500平方μm、1,000~5,000平方μm、2,000~20,000平方μm、2,000~15,000平方μm、2,000~10,000平方μm、2,000~7,500平方μm、2,000~6,000平方μm、3,000~20,000平方μm、3,000~15,000平方μm、3,000~10,000平方μm、3,000~7,500平方μm、又は3,000~6,000平方μm。上記は単なる例であり、基端開口部(例えば、234)におけるマイクロ流体チャネル(例えば、122)の断面積は、他の範囲(例えば、上記列挙された任意の端点により定義される範囲)であってもよい。
【0170】
隔離ペンの様々な実施形態では、接続領域(例えば、236)の長さLconは、以下の任意の範囲内であり得る:約1~600μm、5~550μm、10~500μm、15~400μm、20~300μm、20~500μm、40~400μm、60~300μm、80~200μm、又は約100~150μm。上記は単なる例であり、接続領域(例えば、236)の長さLconは、上記例と異なる範囲(例えば、上記列挙される任意の終点により定義される範囲)内であることもできる。
【0171】
隔離ペンの様々な実施形態では、基端開口部(例えば、234)での接続領域(例えば、236)の幅Wconは、以下の任意の範囲内であり得る:20~500μm、20~400μm、20~300μm、20~200μm、20~150μm、20~100μm、20~80μm、20~60μm、30~400μm、30~300μm、30~200μm、30~150μm、30~100μm、30~80μm、30~60μm、40~300μm、40~200μm、40~150μm、40~100μm、40~80μm、40~60μm、50~250μm、50~200μm、50~150μm、50~100μm、50~80μm、60~200μm、60~150μm、60~100μm、60~80μm、70~150μm、70~100μm、及び80~100μm。上記は単なる例であり、基端開口部(例えば、234)の接続領域(例えば、236)の幅Wconは、上記例と異なることができる(例えば、上記列挙される任意の終点により定義される範囲)。
【0172】
隔離ペンの様々な実施形態において、基端開口部(例えば、234)における接続領域(例えば、236)の幅Wconは、隔離ペンが意図される微小物体(例えば、T細胞、B細胞、又は卵子であり得る生体細胞)の最大寸法と少なくとも同じ大きさであり得る。上記は単なる例であり、基端開口部(例えば、234)における接続領域(例えば、236)の幅Wconは、上記例と異なってもよい(例えば、上記列挙される任意の端点により定義される範囲)。
【0173】
隔離ペンの様々な実施形態において、接続領域の基端開口部の幅Wprは、隔離ペンが意図される微小物体(例えば、細胞等の生物学的微小物体)の最大寸法と少なくとも同じ大きさであり得る。例えば、幅Wprは、約50μm、約60μm、約100μm、約200μm、約300μm、又は約50~300μm、約50~200μm、約50~100μm、約75~150μm、約75~100μm、又は約200~300μmであり得る。
【0174】
隔離ペンの様々な実施形態において、接続領域(例えば、236)の長さLconと基端開口部234における接続領域(例えば、236)の幅Wconとの比率は、以下の任意の比率以上であり得る:0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0、又はこれを超える比率。上記は単なる例であり、接続領域236の長さLconと基端開口部234における接続領域236の幅Wconとの比率は、上記例と異なってもよい。
【0175】
マイクロ流体デバイスの様々な実施形態100、200、23、250、280、290、300において、Vmaxは、約0.2マイクロリッター/秒、約0.5マイクロリッター/秒、約0.7マイクロリッター/秒、約1.0マイクロリッター/秒、約1.3マイクロリッター/秒、約1.5マイクロリッター/秒、約2.0マイクロリッター/秒、約2.5マイクロリッター/秒、約3.0マイクロリッター/秒、約3.5マイクロリッター/秒、約4.0マイクロリッター/秒、約4.5マイクロリッター/秒、約5.0マイクロリッター/秒、約5.5マイクロリッター/秒、約6.0マイクロリッター/秒、約6.7マイクロリッター/秒、約7.0マイクロリッター/秒、約7.5マイクロリッター/秒、約8.0マイクロリッター/秒、約8.5マイクロリッター/秒、約9.0マイクロリッター/秒、約10マイクロリッター/秒、約11マイクロリッター/秒、約12マイクロリッター/秒、約13マイクロリッター/秒、約14マイクロリッター/秒、又は約15マイクロリッター/秒に設定することができる。
【0176】
隔離ペンを有するマイクロ流体デバイスの様々な実施形態において、隔離ペンの分離領域(例えば、240)の容積は、例えば、少なくとも5×10立方μm、少なくとも8×10立方μm、少なくとも1×10立方μm、少なくとも2×10立方μm、少なくとも4×10立方μm、少なくとも6×10立方μm、少なくとも8×10立方μm、少なくとも1×10立方μm、少なくとも5×10立方μm、少なくとも1×10立方μm、少なくとも5×10立方μm、少なくとも8×10立方μm、又はそれを超える容積であり得る。隔離ペンを有するマイクロ流体デバイスの様々な実施形態において、隔離ペンの容積は、約5×10立方μm、約6×10立方μm、約8×10立方μm、約1×10立方μm、約2×10立方μm、約4×10立方μm、約8×10立方μm、約1×10立方μm、約3×10立方μm、約5×10立方μm、又は約8×10立方μm、又はそれを超える容積であり得る。幾つかの他の実施形態では、隔離ペンの容積は、約1ナノリットル~約50ナノリットル、2ナノリットル~約25ナノリットル、2ナノリットル~約20ナノリットル、約2ナノリットル~約15ナノリットル、又は約2ナノリットル~約10ナノリットルであり得る。
【0177】
様々な実施形態において、マイクロ流体デバイスは、本明細書に記載される任意の実施形態でのように構成された隔離ペンを有し、その場合、マイクロ流体デバイスは、約5~約10個の隔離ペン、約10~約50個の隔離ペン、約100~約500個の隔離ペン、約200~約1000個の隔離ペン、約500~約1500個の隔離ペン、約1000~約2000個の隔離ペン、約1000~約3500個の隔離ペン、約2500~約5000個の隔離ペン、約3000~約7000個の隔離ペン、約5000~約10,000個の隔離ペン、又は約8000~約12,000個の隔離ペンを有する。隔離ペンは、全て同じサイズである必要はなく、様々な構成(例えば、異なる幅、隔離ペン内の異なる特徴)を含み得る。
【0178】
図2Gは、一実施形態によるマイクロ流体デバイス280を示す。図2Gに示されたマイクロ流体デバイス280は、マイクロ流体デバイス100の定型化された図である。実際には、マイクロ流体デバイス280及びその構成回路要素(例えば、チャネル122及び隔離ペン128)は本明細書で考察された寸法を有する。図2Gに示されるマイクロ流体回路120は、2つのポート107、4つの別個のチャネル122、及び4つの別個の流路106を有する。マイクロ流体デバイス280は、各チャネル122に通じる複数の隔離ペンを更に含む。図2Gに示されるマイクロ流体デバイスでは、隔離ペンは、図2Cに示されるペンと同様のジオメトリを有し、したがって、接続領域及び分離領域の両方を有する。したがって、マイクロ流体回路120は、掃引領域(例えば、チャネル122及び2次フロー244の最大侵入深さD内の接続領域236の部分)及び非掃引領域(例えば、分離領域240及び2次フロー244の最大侵入深さD内にない接続領域236の部分)の両方を含む。
【0179】
図3A図3Bは、本開示によるマイクロ流体デバイス(例えば、100、200、230、250、280、290、300)を動作させるため及び観測のために使用することができるシステム150の様々な実施形態を示す。図3Aに示されるように、システム150は、マイクロ流体デバイス100(図示せず)又は本明細書に記載される任意の他のマイクロ流体デバイスを保持するように構成された構造体(「ネスト」)300を含むことができる。ネスト300は、マイクロ流体デバイス320(例えば、光学的に作動される動電学的デバイス100)と界面を接することができ、電源192からマイクロ流体デバイス320への電気接続を提供することができるソケット302を含むことができる。ネスト300は、一体型電気信号生成サブシステム304を更に含むことができる。電気信号生成サブシステム304は、マイクロ流体デバイス320がソケット302により保持されているとき、バイアス電圧がマイクロ流体デバイス320内の電極の対にわたり印加されるように、バイアス電圧をソケット302に供給するように構成され得る。したがって、電気信号生成サブシステム304は電源192の部分であり得る。バイアス電圧をマイクロ流体デバイス320に印加する能力は、マイクロ流体デバイス320がソケット302により保持されている場合には常にバイアス電圧が印加されることを意味しない。むしろ、大半の場合、バイアス電圧は、断続的に、例えば、マイクロ流体デバイス320内での電気泳動又は電子ウェッティング等の動電力の生成を促進するために必要な場合にのみ印加される。
【0180】
図3Aに示されるように、ネスト300は、プリント回路基板組立体(PCBA)322を含むことができる。電気信号生成サブシステム304は、PCBA322に搭載され、PCBA322に電気的に集積することができる。例示的な支持体は、同様にPCBA322に搭載されるソケット302も含む。
【0181】
通常、電気信号生成サブシステム304は波形生成器(図示せず)を含む。電気信号生成サブシステム304は、波形生成器から受信される波形を増幅するように構成されたオシロスコープ(図示せず)及び/又は波形増幅回路(図示せず)を更に含むことができる。オシロスコープは、存在する場合、ソケット302により保持されるマイクロ流体デバイス320に供給される波形を測定するように構成され得る。特定の実施形態では、オシロスコープは、マイクロ流体デバイス320の基端位置(及び波形生成器の先端位置)において波形を測定し、それにより、デバイスに実際に印加されている波形を測定するに当たりより大きい精度を保証する。オシロスコープ測定から得られるデータは、例えば、フィードバックとして波形生成器に提供され得、波形生成器は、そのようなフィードバックに基づいて出力を調整するように構成され得る。適する結合された波形生成器及びオシロスコープの例は、Red Pitaya(商標)である。
【0182】
特定の実施形態では、ネスト300は、電気信号生成サブシステム304の検知及び/又は制御に使用される、マイクロプロセッサ等のコントローラ308を更に含む。適するマイクロプロセッサの例としては、Arduino Nano(商標)等のArduino(商標)マイクロ
プロセッサが挙げられる。コントローラ308を使用して機能及び分析を実行し、又は外部マスタコントローラ154(図1Aに示される)と通信して機能及び分析を実行し得る。図3Aに示される実施形態では、コントローラ308は、インタフェース310(例えば、プラグ又はコネクタ)を通してマスタコントローラ154と通信する。
【0183】
幾つかの実施形態では、ネスト300は、Red Pitaya(商標)波形生成器/オシロスコープユニット(「Red Pitayaユニット」)を含む電気信号生成サブシステム304と、Red Pitayaユニットにより生成された波形を増幅し、増幅電圧をマイクロ流体デバイス100に渡す波形増幅回路とを含むことができる。幾つかの実施形態では、Red Pitayaユニットは、マイクロ流体デバイス320での増幅電圧を測定し、次に、マイクロ流体デバイス320での測定電圧が所望の値であるように、必要に応じてそれ自体の出力電圧を調整するように構成される。幾つかの実施形態では、波形増幅回路は、PCBA322に搭載されるDC-DCコンバータの対により生成される+6.5V~-6.5V電源を有することができ、その結果、マイクロ流体デバイス100において13Vppまでの信号が生成される。
【0184】
図3Aに示されるように、支持構造体300(例えば、ネスト)は、熱制御サブシステム306を更に含むことができる。熱制御サブシステム306は、支持構造体300により保持されるマイクロ流体デバイス320の温度を調整するように構成され得る。例えば、熱制御サブシステム306は、ペルチェ熱電デバイス(図示せず)及び冷却ユニット(図示せず)を含むことができる。ペルチェ熱電デバイスは、マイクロ流体デバイス320の少なくとも1つの表面と界面を接するように構成された第1の表面を有することができる。冷却ユニットは、例えば、液冷アルミニウムブロック等の冷却ブロック(図示せず)であり得る。ペルチェ熱電デバイスの第2の表面(例えば、第1の表面とは逆の表面)は、そのような冷却ブロックの表面と界面を接するように構成され得る。冷却ブロックは、冷却ブロックを通して冷却流体を循環させるように構成された流体路314に接続することができる。図3Aに示される実施形態では、支持構造体300は、流入口316及び流出口318を含む、外部リザーバ(図示せず)から冷却された流体を受け取り、冷却された流体を流体路314に導入し、冷却ブロックを通し、次に、冷却された流体を外部リザーバに戻す。幾つかの実施形態では、ペルチェ熱電デバイス、冷却ユニット、及び/又は流体路314は、支持構造体300のケース312に搭載することができる。幾つかの実施形態では、熱制御サブシステム306は、ペルチェ熱電デバイスの温度を調整して、マイクロ流体デバイス320の標的温度を達成するように構成される。ペルチェ熱電デバイスの温度調整は、例えば、Pololu(商標)熱電電源(Pololu Robotics and Electronics Corp.)等の熱電電源により達成することができる。熱制御サブシステム306は、アナログ回路により提供される温度値等のフィードバック回路を含むことができる。代替的に、フィードバック回路はデジタル回路により提供され得る。
【0185】
幾つかの実施形態では、ネスト300は、抵抗(例えば、抵抗1kオーム+/-0.1%、温度係数+/-0.02ppm/C0)及びNTCサーミスタ(例えば、公称抵抗1kオーム+/-0.01%を有する)を含むアナログ分圧回路(図示せず)であるフィードバック回路を有する熱制御サブシステム306を含むことができる。幾つかの場合、熱制御サブシステム306は、フィードバック回路からの電圧を測定し、次に、計算された温度値をオンボードPID制御ループアルゴリズムへの入力として使用する。PID制御ループアルゴリズムからの出力は、例えば、Pololu(商標)モーター駆動デバイス(図示せず)上の方向信号及びパルス幅変調信号ピンの両方を駆動して熱電電源を作動させることができ、それにより、ペルチェ熱電デバイスを制御する。
【0186】
ネスト300はシリアルポート350を含むことができ、シリアルポート324により、コントローラ308のマイクロプロセッサは、インタフェース310(図示せず)を介して外部マスタコントローラ154と通信することができる。加えて、コントローラ308のマイクロプロセッサは、電気信号生成サブシステム304及び熱制御サブシステム306と通信することができる(例えば、Plinkツール(図示せず)を介して)。したがって、コントローラ308、インタフェース310、及びシリアルポート324の組合せを介して、電気信号生成サブシステム304及び熱制御サブシステム306は、外部マスタコントローラ154と通信することができる。このようにして、マスタコントローラ154は、特に、出力電圧調整のためにスケーリング計算を実行することにより電気信号生成サブシステム304を支援することができる。外部マスタコントローラ154に結合された表示デバイス170を介して提供されるグラフィカルユーザインタフェース(GUI)(図示せず)は、熱制御サブシステム306及び電気信号生成サブシステム304からそれぞれ得られる温度データ及び波形データをプロットするように構成され得る。代替的に又は追加として、GUIは、コントローラ308、熱制御サブシステム306、及び電気信号生成サブシステム304への更新を可能にすることができる。
【0187】
上述したように、システム150は撮像デバイス194を含むことができる。幾つかの実施形態では、撮像デバイス194は光変調サブシステム330(図3B参照)を含む。光変調サブシステム330は、デジタルミラーデバイス(DMD)又はマイクロシャッタアレイシステム(MSA)を含むことができ、これらのいずれかは、光源332から光を受け取り、受け取った光のサブセットを顕微鏡350の光学縦列に送るように構成され得る。代替的に、光変調サブシステム330は、有機発行ダイオードディスプレイ(OLED)、液晶オンシリコン(LCOS)デバイス、強誘電性液晶オンシリコンデバイス(FLCOS)、又は透過型液晶ディスプレイ(LCD)等のそれ自体の光を生成する(したがって、光源332の必要性をなくす)デバイスを含むことができる。光変調サブシステム330は、例えば、プロジェクタであり得る。したがって、光変調サブシステム330は、構造化光及び非構造化光の両方を発することが可能であり得る。特定の実施形態では、システム150の撮像モジュール164及び/又は原動モジュール162は、光変調サブシステム330を制御することができる。
【0188】
特定の実施形態では、撮像デバイス194は顕微鏡350を更に含む。そのような実施形態では、ネスト300及び光変調サブシステム330は、顕微鏡350に搭載されるように個々に構成され得る。顕微鏡350は、例えば、標準の研究等級の光学顕微鏡又は蛍光顕微鏡であるように構成され得る。したがって、ネスト300は、顕微鏡350のステージ344に搭載するように構成され得、及び/又は光変調サブシステム330は、顕微鏡350のポートに搭載されるように構成され得る。他の実施形態では、本明細書に記載されるネスト300及び光変調サブシステム330は、顕微鏡350の一体構成要素であり得る。
【0189】
特定の実施形態では、顕微鏡350は1つ又は複数の検出器348を更に含むことができる。幾つかの実施形態では、検出器348は撮像モジュール164により制御される。検出器348は、接眼レンズ、電荷結合素子(CCD)、カメラ(例えば、デジタルカメラ)、又はそれらの任意の組合せを含むことができる。少なくとも2つの検出器348が存在する場合、1つの検出器は、例えば、高速フレームレートカメラであり得、一方、他の検出器は高感度カメラであり得る。更に、顕微鏡350は、マイクロ流体デバイス320から反射された光及び/又は発せられた光を受け取り、反射光及び/又は放射光の少なくとも部分を1つ又は複数の検出器348に結像するように構成された光学縦列を含むことができる。顕微鏡の光学縦列は、各検出器での最終倍率が異なることができるように、異なる検出器で異なるチューブレンズ(図示せず)を含むこともできる。
【0190】
特定の実施形態では、撮像デバイス194は、少なくとも2つの光源を使用するように構成される。例えば、第1の光源332は、構造化光(例えば、光変調サブシステム330を介する)を出力するために使用可能であり、第2の光源334は、非構造化光を提供するために使用可能である。第1の光源332は、光学作動動電性及び/又は蛍光励起のために構造化光を生成可能であり、第2の光源334は、明視野照明を提供するために使用可能である。これらの実施形態では、原動モジュール164は、第1の光源332を制御するために使用可能であり、撮像モジュール164は、第2の光源334を制御するために使用可能である。顕微鏡350の光学縦列は、(1)デバイスがネスト300により保持されたとき、光変調サブシステム330から構造化光を受け取ってマイクロ流体デバイスの少なくとも第1の領域、例えば、光学作動動電デバイスに構造化光を集束させるように、且つ(2)マイクロ流体デバイスから反射光及び/又は発光光を受け取ってかかる反射光及び/又は発光光の少なくとも一部を検出器348集束させるように、構成可能である。光学縦列は、デバイスがネスト300により保持されたとき、第2の光源から非構造化光を受け取って、マイクロ流体デバイスの少なくとも第2の領域に非構造化光を集束させるように、更に構成可能である。特定の実施形態では、マイクロ流体デバイスの第1及び第2の領域はオーバーラップ領域であり得る。例えば、第1の領域は、第2の領域のサブセットであり得る。他の実施形態では、第2の光源334は、追加的又は代替的に、任意の好適な波長の光を有し得るレーザーを含み得る。図3Bに示される光学システムの図は模式図にすぎず、光学システムは、追加のフィルター、ノッチフィルター、レンズ等を含み得る。第2の光源334が明視野及び/又は蛍光励起更にはレーザー照明のための1つ以上の光源を含む場合、光源の物理的構成は、図3Bに示されるものと異なり得ると共に、レーザー照明は、光学システム内の任意の好適な物理的位置に導入し得る。光源432及び光源402/光変調サブシステム404の模式的位置は、同様に交換し得る。
【0191】
図3Bでは、光を光変調サブシステム330に供給している第1の光源332が示されており、光変調サブシステム330は構造化光をシステム355(図示せず)の顕微鏡350の光学縦列に提供する。ビームスプリッタ336を介して非構造化光を光学縦列に提供している第2の光源334が示される。光変調サブシステム330からの構造化光及びに示されるように、第2の光源334からの非構造化光は、ビームスプリッタ336から光学縦列を通って一緒に移動して、第2のビームスプリッタ(又は光変調サブシステム330によって提供される光に応じて、ダイクロイックフィルタ338)に到達し、ここで、光は反射し、対物レンズ336を通して試料面342まで下がる。次に、試料面342からの反射光及び/又は放射光は再び対物レンズ340を通って移動し、ビームスプリッタ及び/又はダイクロイックフィルタ338を通り、ダイクロイックフィルタ346に到達する。ダイクロイックフィルタ346に達する光の一部のみが透過され、検出器348に到達する。
【0192】
幾つかの実施形態では、第2の光源334は青色光を発する。適切なダイクロイックフィルタ346を用いて、試料面342から反射された青色光は、ダイクロイックフィルタ346を透過し、検出器348に到達することが可能である。これとは対照的に、光変調サブシステム330から来る構造化光は、試料面342で反射されるが、ダイクロイックフィルタ346を透過しない。この例では、ダイクロイックフィルタ346は、495nmよりも長い波長を有する可視光を濾波して除外する。光変調サブシステム330からの光のそのような濾波は、光変調サブシステムから発せられる光が495nmよりも短いいかなる波長も含まない場合にのみ完了する(示されるように)。実際には、光変調サブシステム330から来る光が495nmよりも短い波長(例えば、青色波長)を含む場合、光変調サブシステムからの光の幾らかがフィルタ346を透過して検出器348に到達する。そのような実施形態では、フィルタ346は、第1の光源332から検出器348に到達する光の量と第2の光源334から検出器348に到達する光の量とのバランスを変更する役割を果たす。これは、第1の光源332が第2の光源334よりもはるかに強力な場合、有益であり得る。他の実施形態では、第2の光源334は、赤色光を発することができ、ダイクロイックフィルタ346は、赤色光以外の可視光(例えば、650nmよりも短い波長を有する可視光)を濾波して除外することができる。
【0193】
被覆溶液及び被覆剤。
理論による限定を意図せずに、マイクロ流体デバイス(例えば、DEP構成及び/又はEW構成マイクロ流体デバイス)内での生物学的微小物体(例えば、生体細胞)の維持は、マイクロ流体デバイスの少なくとも1つ又は複数の内面が、マイクロ流体デバイスと内部に維持される生物学的微小物体との間の主な界面を提供する有機分子及び/又は親水性分子の層を提示するように調整又は被覆される場合に促進し得る(すなわち、生物学的微小物体は、マイクロ流体デバイス内で生存率の増大、より大きい増殖、及び/又はより大きい可搬性を示す)。幾つかの実施形態では、マイクロ流体デバイスの内面の1つ又は複数(例えば、DEP構成マイクロ流体デバイスの電極活性化基板の内面、マイクロ流体のカバー、及び/又は回路材料の表面)は、有機分子及び/又は親水性分子の所望の層を生成するように、被覆溶液及び/又は被覆剤により処理又は修飾し得る。
【0194】
被覆は、生物学的微小物体を導入する前又は後に塗布してもよく、又は生物学的微小物体と同時に導入してもよい。幾つかの実施形態では、生物学的微小物体は、マイクロ流体デバイスの1つ又は複数の被覆剤を含む流体媒体中に搬入し得る。他の実施形態では、マイクロ流体デバイス(例えば、DEP構成マイクロ流体デバイス)の内面は、生物学的微小物体をマイクロ流体デバイスに導入する前に、被覆剤を含む被覆溶液を用いて処理又は「プライミング」される。
【0195】
幾つかの実施形態では、マイクロ流体デバイスの少なくとも1つの表面は、生物学的微小物体の維持及び/又は増殖に適した有機分子及び/又は親水性分子の層を提供する(例えば、後述するような調整面を提供する)被覆剤を含む。幾つかの実施形態では、マイクロ流体デバイスの略全ての内面は被覆材料を含む。被覆された内面は、フロー領域(例えば、チャネル)の表面、チャンバの表面、隔離ペンの表面、又はそれらの組合わせを含み得る。幾つかの実施形態では、複数の隔離ペンのそれぞれは、被覆材料で被覆された少なくとも1つの内面を有する。他の実施形態では、複数のフロー領域又はチャネルのそれぞれは、被覆材料で被覆された少なくとも1つの内面を有する。幾つかの実施形態では、複数の隔離ペンのそれぞれ及び複数のチャネルのそれぞれの少なくとも1つの内面は、被覆材料で被覆される。
【0196】
被覆剤/溶液。
限定ではなく、血清又は血清因子、ウシ血清アルブミン(BSA)、ポリマー、洗剤、酵素、及びそれらの任意の組合わせを含む任意の従来の被覆剤/被覆溶液を使用することができる。
【0197】
ポリマーベースの被覆材料。
少なくとも1つの内面は、ポリマーを含む被覆材料を含み得る。ポリマーは、少なくとも1つの表面に共有結合又は非共有結合し得る(又は非特異的に付着し得る)。ポリマーは、ブロックポリマー(及びコポリマー)、星型ポリマー(星型コポリマー)、並びにグラフト又は櫛形ポリマー(グラフトコポリマー)に見られる等の多種多様な構造モチーフを有し得、これらは全て本明細書に開示される方法に適し得る。
【0198】
ポリマーは、アルキレンエーテル部分を含むポリマーを含み得る。広範囲のアルキレンエーテル含有ポリマーが、本明細書に記載されるマイクロ流体デバイスでの使用に適し得る。アルキレンエーテル含有ポリマーの非限定的で例示的な一クラスは、ポリマー鎖内で異なる比率及び異なる場所にあるポリエチレンオキシド(PEO)サブユニット及びポリプロピレンオキシド(PPO)サブユニットのブロックを含む両親媒性非イオンブロックコポリマーである。Pluronic(登録商標)ポリマー(BASF)は、このタイプのブロックコポリマーであり、生細胞と接触する場合の使用に適することが当技術分野で既知である。ポリマーは、平均分子質量Mで、約2000Da~約20KDaの範囲であり得る。幾つかの実施形態では、PEO-PPOブロックコポリマーは、約10よりも大きい(例えば、12~18)の親水性親油性バランス(HLB)を有することができる。被覆された表面をもたらすのに有用な特定のPluronic(登録商標)ポリマーは、Pluronic(登録商標)L44、L64、P85、及びF127(F127NFを含む)を含む。別のクラスのアルキレンエーテル含有ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG M<100,000Da)又は代替的にポリエチレンオキシド(PEO、M>100,000)である。幾つかの実施形態では、PEGは約1000Da、5000Da、10,000Da、又は20,000DaのMを有し得る。
【0199】
他の実施形態では、被覆材料は、カルボン酸部分を含むポリマーを含み得る。カルボン酸サブユニットは、アルキル、アルケニル、又は芳香族部分含有サブユニットであり得る。非限定的な一例はポリ乳酸(PLA)である。他の実施形態では、被覆材料は、ポリマー骨格の末端又はポリマー骨格からのペンダントのいずれかにリン酸部分を含むポリマーを含み得る。更に他の実施形態では、被覆材料は、スルホン酸部分を含むポリマーを含み得る。スルホン酸サブユニットは、アルキル、アルケニル、又は芳香族部分含有サブユニットであり得る。非限定的な一例はポリスチレンスルホン酸(PSSA)又はポリアネトールスルホン酸である。更なる実施形態では、被覆材料はアミン部分を含むポリマーを含み得る。ポリアミノポリマーは、天然ポリアミンポリマー又は合成ポリアミンポリマーを含み得る。天然ポリアミンの例としては、スペルミン、スペルミジン、及びプトレッシンが挙げられる。
【0200】
他の実施形態では、被覆材料は、糖類部分を含むポリマーを含み得る。非限定的な例では、キサンタンガム又はデキストラン等のポリサッカリドが、マイクロ流体デバイスにおける細胞の突き刺しを低減又は阻止し得る材料を形成するのに適し得る。例えば、約3kDaのサイズを有するデキストランポリマーを使用して、マイクロ流体デバイス内の表面に被覆材料を提供し得る。
【0201】
他の実施形態では、被覆材料は、リボヌクレオチド部分又はデオキシリボヌクレオチド部分を有し、高分子電解質表面を提供し得る、ヌクレオチド部分、すなわち、核酸を含むポリマーを含み得る。核酸は、天然ヌクレオチド部分のみを含んでもよく、又は限定ではなく、7-デアザアデニン、ペントース、メチルホスホン酸、又はホスホロチオエート部分等の核酸塩基、リボース、リン酸塩部分類似物を含む非天然ヌクレオチド部分を含んでもよい。
【0202】
更に他の実施形態では、被覆材料は、アミノ酸部分を含むポリマーを含み得る。アミノ酸部分を含むポリマーは、天然アミノ酸含有ポリマー又は非天然アミノ酸含有ポリマーを含み得、これらのいずれかはペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質を含み得る。非限定的な一例では、被覆剤として、タンパク質は、ウシ血清アルブミン(BSA)並びに/或いはアルブミン及び/又は1つ又は複数の他の同様のタンパク質を含む血清(又は複数の異なる血清の組合わせ)であり得る。血清は、限定ではなく、ウシ胎仔血清、ヒツジ血清、ヤギ血清、ウマ血清等を含む任意の好都合のソースからのものであり得る。特定の実施形態では、被覆溶液中のBSAは、5mg/mL、10mg/mL、20mg/mL、30mg/mL、40mg/mL、50mg/mL、60mg/mL、70mg/mL、80mg/mL、90mg/mL、又はそれを超えるか、若しくはそれらの間の任意の値を含め、約1mg/mL~約100mg/mLで存在する。特定の実施形態では、被覆溶液中の血清は、25%、30%、35%、40%、45%、又はそれを超えるか、若しくはそれらの間の任意の値を含め、約20%(v/v)~約50%v/vで存在し得る。幾つかの実施形態では、BSAは、5mg/mLで被覆溶液中に被覆剤として存在し得、一方、他の実施形態では、BSAは、70mg/mLで被覆溶液中に被覆剤として存在し得る。特定の実施形態では、血清は、30%で被覆溶液中に被覆剤として存在する。幾つかの実施形態では、フォスター細胞成長への細胞の付着を最適化するために、細胞外基質(ECM)タンパク質を被覆材料内に提供し得る。被覆材料に包含し得る細胞基質タンパク質としては、限定ではなく、コラーゲン、エラスチン、RGD含有ペプチド(例えば、フィブロネクチン)、又はラミニンを挙げることができる。更に他の実施形態では、成長因子、サイトカイン、ホルモン、又は他の細胞シグナリング種をマイクロ流体デバイスの被覆材料内に提供し得る。
【0203】
幾つかの実施形態では、被覆材料は、アルキレンオキシド部分、カルボン酸部分、スルホン酸部分、リン酸塩部分、サッカリド部分、ヌクレオチド部分、又はアミノ酸部分の2つ以上を含むポリマーを含み得る。他の実施形態では、ポリマーの調整された表面は、被覆材料に独立して又は同時に組み込み得る、アルキレンオキシド部分、カルボン酸部分、スルホン酸部分、リン酸塩部分、サッカリド部分、ヌクレオチド部分、及び/又はアミノ酸部分をそれぞれ有する2つ以上のポリマーの混合物を含み得る。
【0204】
共有結合される被覆材料。
幾つかの実施形態では、少なくとも1つの内面は、マイクロ流体デバイス内の生物学的微小物体の維持/増殖に適した有機分子及び/又は親水性分子の層を提供して、そのような細胞に調整面を提供する共有結合分子を含む。
【0205】
共有結合分子は結合基を含み、結合基は、後述するように、マイクロ流体デバイスの1つ又は複数の表面に共有結合する。結合基は、生物学的微小物体の維持/増殖に適した有機分子及び/又は親水性分子の層を提供するように構成される部分にも共有結合する。
【0206】
幾つかの実施形態では、生物学的微小物体の維持/増殖に適した有機分子及び/又は親水性分子の層を提供するように構成される共有結合部分は、アルキル又はフルオロアルキル(ペルフルオロアルキルを含む)部分;モノ又はポリサッカリド(デキストランを含み得るが、これに限定されない);アルコール(プロパルギルアルコールを含むが、これに限定されない);ポリビニルアルコールを含むが、これに限定されないポリアルコール;ポリエチレングリコールを含み得るが、これに限定されないアルキレンエーテル;高分子電解質(ポリアクリル酸又はポリビニルホスホン酸を含むが、これに限定されない);アミノ基(アルキル化アミン、モルホルニル又はピペラジニル等であるが、これらに限定されない非芳香族化された窒素環原子を含むヒドロキシアルキル化されたアミノ基、グアニジニウム基、及びヘテロ環基等であるが、これらに限定されないその誘導体);プロピオル酸(カルボン酸塩アニオン表面を提供し得る)を含むが、これに限定されないカルボン酸;エチニルホスホン酸(ホスホン酸塩アニオン表面を提供し得る)を含むが、これに限定されないホスホン酸;スルホン酸アニオン;カルボキシベタイン;スルホベタイン;スルファミン酸;又はアミノ酸を含み得る。
【0207】
様々な実施形態では、マイクロ流体デバイスにおける生物学的微小物体の維持/増殖に適した有機分子及び/又は親水性分子の層を提供するように構成される共有結合部分は、アルキル部分、フルオロアルキル部分(ペルフルオロアルキル部分を含むが、これに限定されない)等の置換アルキル部分、アミノ酸部分、アルコール部分、アミノ部分、カルボン酸部分、ホスホン酸部分、スルホン酸部分、スルファミン酸部分、又はサッカリド部分等の非ポリマー部分を含み得る。代替的には、共有結合部分は、上述した任意の部分であり得るポリマー部分を含み得る。
【0208】
幾つかの実施形態では、共有結合部分は、線状鎖(例えば、少なくとも10個の炭素又は少なくとも14、16、18、20、22、若しくはそれを超える個数の炭素の線状鎖)を形成する炭素原子を含むことができ、且つ直鎖アルキル部分であり得る。幾つかの実施形態では、アルキル基は置換アルキル基を含み得る(例えば、アルキル基の炭素の幾つかはフッ素化又はパーフルオロ化することができる)。幾つかの実施形態では、アルキル基は、非置換アルキル基を含み得る第2のセグメントに結合される、ペルフルオロアルキル基を含み得る第1のセグメントを含み得る。第1及び第2のセグメントは、直接又は間接的(例えば、エーテル結合により)に結合され得、ここで、アルキル基の第1のセグメントは、結合基の先端部に配置し得、アルキル基の第2のセグメントは、結合基の基端部に配置し得る。
【0209】
他の実施形態では、共有結合部分は、2つ以上の種類のアミノ酸を含み得る少なくとも1つのアミノ酸を含み得る。したがって、共有結合部分は、ペプチド又はタンパク質を含み得る。幾つかの実施形態では、共有結合部分は、双性イオン性表面を提供して、細胞成長、生存、可搬性、又はそれらの任意の組合せを支持し得るアミノ酸を含み得る。
【0210】
他の実施形態では、共有結合部分は、少なくとも1つのアルキレンオキシド部分を含み得、上述した任意のアルキレンオキシドポリマーを含み得る。アルキレンエーテル含有ポリマーの有用な1クラスは、ポリエチレングリコール(PEG M<100,000Da)又は代替的にはポリエチレンオキシド(PEO、M>100,000)である。幾つかの実施形態では、PEGは約1000Da、約5000Da、約10,000Da、又は約20,000DaのMを有し得る。
【0211】
共有結合部分は1つ又は複数のサッカリドを含み得る。共有結合サッカリドはモノ、ジ、又はポリサッカリドであり得る。共有結合サッカリドは、表面に付着するような結合又は加工を可能にする反応ペア部分を導入するように修飾し得る。例示的な反応ペア部分は、アルデヒド、アルキン、又はハロ部分を含み得る。ポリサッカリドは、ランダムに修飾し得、各サッカリドモノマーが修飾されてもよく、又はポリサッカリド内のサッカリドモノマーの一部のみが、表面に直接若しくは間接的に結合され得る反応ペア部分を提供するように修飾される。一例は、直鎖リンカーを介して表面に間接的に結合され得るデキストランポリサッカリドを含み得る。
【0212】
共有結合部分は1つ又は複数のアミノ基を含み得る。アミノ基は、置換アミン部分、グアニジン部分、窒素含有ヘテロ環部分又はヘテロアリール部分であり得る。アミノ含有部分は、マイクロ流体デバイス内及び任意選択的に隔離ペン及び/又はフロー領域(例えば、チャネル)内の環境のpH変更を可能にする構造を有し得る。
【0213】
調整面を提供する被覆材料は、一種のみの共有結合部分を含んでもよく、又は2つ以上の異なる種類の共有結合部分を含んでもよい。例えば、フルオロアルキル調整面(ペルフルオロアルキルを含む)は、全て同じ、例えば、表面への同じ結合基及び共有結合、同じ全体長、及びフルオロアルキル部分を含む同数のフルオロメチレン単位を有する複数の共有結合部分を有し得る。代替的には、被覆材料は、表面に付着する2種類以上の共有結合部分を有し得る。例えば、被覆材料は、指定された数のメチレン又はフルオロメチレン単位を有する共有結合アルキル又はフルオロアルキル部分を有する分子を含み得、被覆面においてより嵩張った部分を提示する能力をお提供し得る、より多数のメチレン又はフルオロメチレン単位を有するアルキル又はフルオロアルキル鎖に共有結合した荷電部分を有する更なる組の分子を更に含み得る。この場合、異なる、立体的に要求が余り厳しくない末端及びより少数の骨格原子を有する第1の組の分子は、基板表面全体を官能化し、それにより基板自体を構成するケイ素/酸化ケイ素、酸化ハフニウム、又はアルミナへの望ましくない付着又は接触を回避するのに役立つことができる。別の例では、共有結合部分は、表面上でランダムに交流電荷を提示する両性イオン表面を提供し得る。
【0214】
調整された表面の性質。
調整された表面の組成以外に、疎水性材料の物理的厚さ等の他の因子は、DEP力に影響を及ぼし得る。基板に調整された表面を形成する方法(例えば、気相堆積、液相堆積、スピンコーティング、フラッディング、静電コーティング)等の各種因子は、調整された表面の物理的厚さを変化させ得る。幾つかの実施形態では、調整された表面は、約1nm~約10nm、約1nm~約7nm、約1nm~約5nmの範囲内又はそれらの間の任意の個別値の厚さを有する。他の実施形態では、共有結合された部分により形成された調整された表面は、約10nm~約50nmの厚さを有し得る。種々の実施形態では、本明細書に記載されるように作製された調整された表面は、10nm未満の厚さを有する。幾つかの実施形態では、調整された表面の共有結合された部分は、マイクロ流体デバイスの表面(例えば、DEP構成の基板表面)に共有結合された場合、単層を形成し得ると共に、10nm未満(例えば、5nm未満又は約1.5~3.0nm)の厚さを有し得る。これらの値は、例えば、典型的には約30nm程度の厚さを有し得るスピンコーティングにより作製された表面のものと対照的である。幾つかの実施形態では、調整された表面は、DEP構成のマイクロ流体デバイス内の操作で好適には機能するために完全に形成された単層を必要とするものではない。
【0215】
様々な実施形態では、マイクロ流体デバイスの調整面を提供する被覆材料は、所望の電気特性を提供し得る。理論による限定を意図せずに、特定の被覆材料が被覆された表面の堅牢性に影響する一因子は、本質的に電荷捕獲である。異なる被覆材料は電子を捕獲し得、これは被覆材料の破壊に繋がる恐れがある。被覆材料の欠陥は、電荷捕獲を増大させ、被覆材料の更なる破壊に繋がる恐れがある。同様に、異なる被覆材料は異なる絶縁耐力(すなわち、絶縁破壊が生じる最小印加電場)を有し、これは電荷捕獲に影響を有し得る。特定の実施形態では、被覆材料は、その電荷捕獲量を低減又は制限する全体構造(例えば、高密度単層構造)を有することができる。
【0216】
調整された表面は、その電気特性に加えて、生体分子との併用に有利な特性を有することもできる。例えば、フッ化(又はパーフルオロ化)炭素鎖を含む調整された表面は、表面ファウリング量を低減するに当たり、アルキル末端鎖と比較して利点を提供し得る。表面ファウリングは、本明細書で使用される場合、タンパク質及びその老廃物、核酸及び各老廃物等のバイオ材料の永久的又は半永久的な堆積を含み得る、マイクロ流体デバイスの表面への無差別材料堆積量を指す。
【0217】
単一又は複数パートの調整面。
共有結合被覆材料は、後述するように、マイクロ流体デバイスにおける生物学的微小物体の維持/増殖に適した有機分子及び/又は親水性分子の層を提供するように構成される部分を既に含む分子の反応により形成し得る。代替的には、共有結合被覆材料は、生物学的微小物体の維持/増殖に適した有機分子及び/又は親水性分子の層を提供するように構成される部分を、それ自体が表面に共有結合した表面修飾リガンドに結合することにより、2部シーケンスで形成し得る。
【0218】
共有結合された被覆材料を準備する方法。
幾つかの実施形態では、マイクロ流体デバイスの表面(例えば、隔離ペン及び/又はフロー領域の少なくとも1つの表面を含む)に共有結合した被覆材料は、式1又は式2の構造を有する。被覆材料は、表面に1ステップで導入される場合、式1の構造を有し、一方、被覆材料は、複数ステッププロセッサで導入される場合、式2の構造を有する。
【化1】

【0219】
被覆材料は、DEP構成又はEW構成基板の表面の酸化物に供給結合し得る。DEP又はEW構成基板は、ケイ素、酸化ケイ素、アルミナ、又は酸化ハフニウムを含み得る。酸化物は、基板の元の化学構造の一部として存在してもよく、又は後述するように導入し得る。
【0220】
被覆材料は、結合基(「LG」)を介して酸化物に結合し得、LGは、シロキサン基又はホスホン酸基と酸化物との反応から形成されるシロキシ又はホスホネートエステル基であり得る。マイクロ流体デバイスにおける生物学的微小物体の維持/増殖に適した有機分子及び/又は親水性分子の層を提供するように構成される部分は、本明細書に記載される任意の部分であり得る。結合基LGは、マイクロ流体デバイスにおける生物学的微小物体の維持/増殖に適した有機分子及び/又は親水性分子の層を提供するように構成される部分に直接又は間接的に接続し得る。結合基LGがその部分に直接接続される場合、任意選択的なリンカーLは存在せず、nは0である。結合基LGが部分に間接的に接続される場合、リンカーLが存在し、nは1である。リンカーLは、線状部の骨格が、当技術分野で既知の化学結合制約を受けるケイ素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、及びリン原子の任意の組合せから選択される1~200個の非水素原子を含み得る線状部を有し得る。それは、エーテル基、アミノ基、カルボニル基、アミド基、又はリン酸基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、又はヘテロ環基から選択される1つ又は複数の部分の任意の組合せで中断され得る。幾つかの実施形態では、リンカーLの骨格は10~20個の炭素を含み得る。他の実施形態では、リンカーLの骨格は約5原子~約200原子、約10原子~約80原子、約10原子~約50原子、又は約10原子~約40原子を含み得る。幾つかの実施形態では、骨格原子は全て炭素原子である。
【0221】
幾つかの実施形態では、生物学的微小物体の維持/増殖に適した有機分子及び/又は親水性分子の層を提供するように構成される部分は、複数ステッププロセスで基板の表面に追加し得、上で示された式2の構造を有する。この部分は、上述した任意の部分であり得る。
【0222】
幾つかの実施形態では、結合基CGは、反応部分Rとペアとなる反応部分Rpx(すなわち、反応部分Rと反応するように構成される部分)との反応の結果生成される基を表す。例えば、典型的な1つの結合基CGはカルボキサミジル(carboxamidyl)基を含み得、これは、アミノ基と、活性化エステル、酸クロリド等のカルボン酸の誘導体との反応の結果である。他のCGは、トリアゾリレン(triazolylene)基、カルボキサミジル(carboxamidyl)、チオアミジル、オキシム、メルカプチル(mercaptyl)、二硫化物、エーテル、又はアルケニル基、又は反応部分とペアとなる各反応部分との反応時に形成し得る任意の他の適する基を含み得、結合基CGは、リンカーLの第2の端部(すなわち、マイクロ流体デバイスにおける生物学的微小物体の維持/増殖に適した有機分子及び/又は親水性分子の層を提供するように構成される部分に近い端部)に配置し得、これは上述した要素の任意の組合せを含み得る。幾つかの他の実施形態では、結合基CGは、リンカーLの骨格を中断し得る。結合基CGは、トリアゾリレン(triazolylene)である場合、クリック結合反応からの結果である産物であり得、更に置換し得る(例えば、ジベンゾシクロオクチル溶融トリアゾリレン(triazolylene)基)。
【0223】
幾つかの実施形態では、被覆材料(又は表面修飾リガンド)は、化学蒸着を使用してマイクロ流体デバイスの内面に堆積する。蒸着プロセスは任意選択的に、例えば、溶媒浴への露出、超音波処理、又はそれらの組合せにより、カバー110、マイクロ流体回路材料116、及び/又は基板(例えば、DEP構成基板の電極活性化基板206の内面208又はEW構成基板の支持構造体104の誘電層)を予めクリーニングすることにより改善することができる。代替又は追加として、そのような事前クリーニングは、カバー110、マイクロ流体回路材料116、及び/又は基板を酸素プラズマクリーナにおいて処理することを含むことができ、酸素プラズマクリーナは、様々な不純物を除去することができ、それと同時に酸化表面(例えば、表面における酸化物、本明細書に記載されるように共有結合的に修飾し得る)を導入することができる。代替的には、塩酸と過酸化水素との混合物又は硫酸と過酸化水素との混合物(例えば、硫酸と過酸化水素との比率が約3:1~約7:1であり得るピラニア溶液)等の液相処理を酸素プラズマクリーナの代わりに使用することもできる。
【0224】
幾つかの実施形態では、マイクロ流体デバイス200が組み立てられて、マイクロ流体回路120を画定するエンクロージャ102を形成した後、蒸着を使用して、マイクロ流体デバイス200の内面を被覆し得る。理論による限定を意図せずに、そのような被覆材料を完全に組み立てられたマイクロ流体回路120に堆積させることは、マイクロ流体回路材料116と電極活性化基板206の誘電層及び/又はカバー110との結合の弱化により生じる剥離を回避するに当たり有利であり得る。2ステッププロセスが利用される実施形態では、表面修飾リガンドは、上述したように蒸着を介して導入し得、続けて、生物学的微小物体の維持/増殖に適した有機分子及び/又は親水性分子の層を提供するように構成される部分が導入される。続く反応は、表面修飾マイクロ流体デバイスを溶液中の適する結合試薬に露出させることにより実行し得る。
【0225】
図2Hは、調整面を提供する例示的な共有結合被覆材料を有するマイクロ流体デバイス290の断面図を示す。示されるように、被覆材料298(概略的に示される)は、DEP基板であり得る基板286の内面294と、マイクロ流体デバイス290のカバー288の内面292と、の両方に共有結合した高密度分子の単層を含むことができる。被覆材料298は、幾つかの実施形態では、上述したように、マイクロ流体デバイス290内の回路要素及び/又は構造の画定に使用されるマイクロ流体回路材料(図示せず)の表面を含む、マイクロ流体デバイス290のエンクロージャ284に近くエンクロージャ284に向かって内側に面する略全ての内面294、292に配置することができる。代替の実施形態では、被覆材料298は、マイクロ流体デバイス290の内面の1つのみ又は幾つかに配置することができる。
【0226】
図2Hに示される実施形態では、被覆材料298は、オルガノシロキサン分子の単層を含むことができ、各分子は、シロキシリンカー296を介してマイクロ流体デバイス290の内面292、294に共有結合する。上記の被覆材料298のいずれかを使用することができ(例えば、アルキル末端、フルオロアルキル末端部分、PEG末端部分、デキストラン末端部分、又はオルガノシロキサン部分に正電荷又は負電荷を含む末端部分)、末端部分は、エンクロージャに面する末端に配置される(すなわち、内面292、294に結合されず、エンクロージャ284に近い被覆材料298の単層の部分)。
【0227】
他の実施形態では、マイクロ流体デバイス290の内面292、294の被覆に使用される被覆材料298はアニオン部分、カチオン部分、両性イオン部分、又はそれらの任意の組合せを含むことができる。理論による限定を意図せずに、カチオン部分、アニオン部分、及び/又は両性イオン部分をマイクロ流体回路120のエンクロージャ284の内面に提示することにより、被覆材料298は、その結果生成される水和の水が、生物学的微小物体を非生物学的分子(例えば、基板のケイ素及び/又は酸化ケイ素)との相互作用から分離する層(又は「シールド」)として機能するような、強力な水との水素結合を形成することができる。加えて、被覆材料298が被覆剤と併用される実施形態では、被覆材料298のアニオン、カチオン、又は両性イオンは、エンクロージャ284内の媒体180(例えば、被覆溶液)中に存在する非共有結合被覆剤(例えば、溶液中のタンパク質)の荷電部分とイオン結合を形成することができる。
【0228】
更に他の実施形態では、被覆材料は、エンクロージャに面した末端において親水性被覆剤を含み得るか、又は提示するように化学的に修飾し得る。幾つかの実施形態では、被覆材料は、PEG等のアルキレンエーテル含有ポリマーを含み得る。幾つかの実施形態では、被覆材料は、デキストラン等のポリサッカリドを含み得る。上述した荷電部分(例えば、アニオン部分、カチオン部分、及び両性イオン部分)のように、親水性被覆剤は、その結果生成される水和の水が、生物学的微小物体を非生物学的分子(例えば、基板のケイ素及び/又は酸化ケイ素)との相互作用から分離する層(又は「シールド」)として機能するような、強力な水との水素結合を形成することができる。
【0229】
適切な被覆処理及び修飾の更なる詳細については、2016年4月22日に出願された米国特許出願公開第15/135,707号において見出し得、この特許出願は全体的に参照により本明細書に援用される。
【0230】
マイクロ流体デバイスの隔離ペン内の細胞の生存性を維持する追加のシステム構成要素。
細胞集団の成長及び/又は増殖を促進するために、システムの追加の構成要素により、機能的な細胞の維持を促す環境状況を提供し得る。例えば、そのような追加の構成要素は、栄養素、細胞成長シグナリング種、pH調整、ガス交換、温度制御、及び細胞からの老廃物の除去を提供することができる。
【実施例
【0231】
実験
実施例1.核酸安定化試薬を用いた又は用いない核酸分離プロトコルの比較
【0232】
材料。
エメチン(Sigma、カタログ番号E2375)、シクロヘキシミド(Sigma、カタログ番号C7698)、トリプトリド(Sigma、カタログ番号T3652)、及びアジ化ナトリウム(Sigma、カタログ番号S2002)は全て、市販品であった。溶解試薬は、TCL溶解緩衝液(Qiagen、カタログ番号070498)であった。RNA分離は、Agencourt(登録商標)RNAClean(登録商標)XPビーズ(Beckman Coulter、カタログ番号A63987)を用いて行った。RNAシーケンシングは、Nextera(登録商標)XTキット(Illumina(登録商標)、カタログ番号FC-131-1024)及びNextera(登録商標)XTインデックスキット(Illumina(登録商標)、カタログ番号FC-131-1001)を用いて行った。
【0233】
生体細胞。
OKT3細胞(ネズミ骨髄腫ハイブリドーマ細胞系)は、ATCC(ATCC(登録商標)カタログ番号CRL-8001(商標))から得た。培養下で細胞は懸濁液細胞系の挙動を示す。約2×10~約5×10生存細胞/mLを播種し、5%二酸化炭素ガス環境を用いて20%ウシ胎仔血清(FBS)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンを有する20mlイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)で37℃でインキュベートすることにより、培養を維持した。2~3日ごとに細胞を分割した。マイクロ流体デバイスに細胞を装填するために、OKT3細胞数及び生存能を計測し、細胞密度を5×10/mlに調整した。
【0234】
ストック溶液は、表1に示されるように作製した。
【0235】
【表1】
【0236】
表2に示されるように安定化試薬の100×マスターミックスを作製した。30マイクロリットルアリコートとして-80℃でマスターミックスを貯蔵した。
【0237】
【表2】
【0238】
約0.5×10濃度でOKT3細胞の単一アリコートを得た。5つの試験条件のそれぞれに対して50マイクロリットルの細胞培養物(20%ウシ胎仔血清(FBS)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンを有するイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)中)をトリプリケートでアリコートした。
【0239】
【表3】
【0240】
上下にピペッティングすることにより各レプリケートの各チューブを混合した。氷上にサンプルを15分間配置し、次いで、4℃の実験室冷蔵庫に移した。溶解対照サンプルは4℃ではなく-80℃で貯蔵した。
【0241】
貯蔵サンプルの貯蔵後処理。
3日間貯蔵した後、サンプルを処理した。4℃で貯蔵した各細胞サンプルに対して、3.2mMアジ化ナトリウムを含有するPBSでサンプルを2回洗浄した。簡潔に述べると、0.3gで2分間遠心分離することにより細胞をペレット化し、上清を除去し、そして3.2mMアジ化ナトリウムを含有する500マイクロリットルのPBSに細胞ペレットを再懸濁させた。これを繰り返した。3回目の遠心分離の後、3.2mMアジ化ナトリウムを含有する50マイクロリットルのPBSに各サンプル中の細胞を再懸濁させた。
【0242】
RNA分離及びその後のシーケンシング分析。
全ての貯蔵サンプル(In、NA、WIn、及びWサンプルのそれぞれ)の2マイクロリットルの細胞懸濁液を個別に8マイクロリットルの1.25×TCL溶解緩衝液に添加し、上下にピペッティングした。溶解対照(LC)サンプルのそれぞれに対して、4マイクロリットルの細胞/TCL溶解緩衝液ミックスを6マイクロリットルの1×TCL溶解緩衝液に添加し、上下にピペッティングした。
【0243】
各サンプルに対して、Agencourt(登録商標)RNAClean(登録商標)XPビーズを用いてRNAを精製した。分離されたRNAは、Picelli et al., Nature Methods, 10, 1096-1098 (2013)に記載のSMART-Seq2プロトコルを用いて12サイクルで増幅させた。Nextera(登録商標)XTキット及びバーコード(Nextera XT Indexキット)を用いてRNAseq cDNAシーケンシングライブラリーを作製した。Illumina(登録商標)MiSeqでシーケンシングを行って3~500万の2×75bpリード/サンプルを得た。
【0244】
図4には増幅後に回収されたcDNAの量の比較が示されている。cDNAの定量は、蛍光測定(Qubit(商標)蛍光計、ThermoFisher Scientific)を用いて行った。示された量は、回収されたcDNAの合計ナノグラム数である。Ct1と記された最初の2つカラムは、溶解対照(LC)サンプル1(Ct1)を用いたcDNA増幅反応の技術的デュプリケートを表した。カラムの残りの部分は、左から右にペアワイズに、2つの追加の溶解対照(LC)サンプル(Ct2及びCt3)、安定化試薬で処理した3つの阻害(In)サンプル(In1、In2、In3)、3つの陰性対照(NA)サンプル(NA1、NA2、NA3)、安定化試薬で処理した3つのPBS洗浄サンプル(WIn)(WIn1、WIn2、WIn3)、及び更なる添加なしの3つのPBS洗浄サンプル(W)(W1、W2、W3)を表す。カラムの各ペア(技術的デュプリケート)は、そのレプリケートの各特定条件下で回収されたcDNAの量を表す。細胞を洗浄して安定化試薬の添加有り(WInカラムペア)又は添加無し(Wカラムペア)でPBS緩衝液に導入すると、LC、In、及びNAサンプルでのcDNA回収と比較して、全核酸収率が非常に低くなることが分かる。Ct及びNAサンプルから回収されたcDNA量の収率は類似していたが、安定化試薬で処理したサンプルから分離されたRNAの品質は、以下で考察されるようにライブラリー調製にはより好適であった。
【0245】
1日目に安定化試薬を存在させずに溶解させて-80℃で貯蔵した溶解対照サンプル(LC)(図5A)及び安定化試薬で処理して4℃で72時間貯蔵してから溶解させた阻害サンプル(In)(図5B)から回収されたcDNAのサイズ分布が図5に示されている。曲線は非常に類似しているように見え、阻害サンプル(In)のcDNAのサイズ分布は溶解対照サンプル(LC)のものと比較して有意差を示さない。各サンプルセットのバイオアナライザートレースは、シーケンシングに入るうえで良好な相関及び相対分布を示す。図5Cは、NAサンプルから回収されたcDNAのサイズ分布を示す。図5A及び5Bに示されるトレースと比較して、トレースの主分布ピークのより低分子量側に沿って低分子量材料が追加されることは明らかであった。より低分子量のcDNAがバイオアナライザートレースに示されることから、NAサンプルで回収されたRNAは、LC及びInサンプルと比べて分解の増加の問題を抱えていることが示唆された。そのため、多量のcDNAが観測されたにもかかわらず(図4)、NAサンプルは、シーケンシングに最適化されたcDNAライブラリーを提供しなかった。
【0246】
シーケンシングデータの分析は、Illumina BaseSpaceで利用可能になったTopHatアライメント及びCufflinks DE発現モジュールを用いて行った。参照として溶解対照サンプル(Ct1、Ct2、Ct3)を用いて、安定化試薬で処理した阻害サンプル(In1、In2、In3)の差次的発現(DE)分析が図6に示されている。Inサンプル中の140遺伝子は3.4×~1.2×の範囲内で変化する発現レベルを呈することが、DE分析により示された。38遺伝子は、1.5×カットオフを用いて評価したとき発現が減少した(データは示されていない)。最も大きな減少は、2.09×減少であった。遺伝子オントロジー分析では、発現が減少した遺伝子の特異的経路富化は予測されなかった。18遺伝子は、1.5×カットオフを用いて評価したとき発現が増加した。最も大きな増加は、ヒストンタンパク質で3.4×であった。遺伝子オントロジー分析では、アミン分泌経路が1つの特異的富化として予測された(2遺伝子)。全体として、変化はランダム且つ副次的であるように思われた。したがって、4℃で貯蔵する前に安定化させた細胞(In)のプロファイリング実験では、直接溶解且つ-80℃貯蔵(LC)と比較して影響はほとんど予測されない。
【0247】
参照として溶解対照細胞(Ct1、Ct2、Ct3)を用いて安定化無しで4℃で貯蔵した陰性対照細胞(NA1、NA2、NA3)のDE分析が図7に示されている。303遺伝子は、8.2×~1.2×の範囲内で示差的に発現された。139遺伝子は、1.5×カットオフを用いて評価したとき発現が減少した(データは示されていない)。最も大きな減少は8.2×であり、遺伝子オントロジー分析では、細胞タンパク質修飾(GO:0006464)(28遺伝子)及び代謝プロセス(GO:0008152)(66遺伝子)で経路富化が予測された。18遺伝子は、1.5×カットオフを用いて評価したとき発現が増加した(データは示されていない)。最も大きな増加は5.4×であった。遺伝子オントロジー分析では、いかなる特異的経路富化も予測されなかった。安定化剤で処理したInサンプルでアップレギュレートされた遺伝子は、安定化試薬の添加無しのNA細胞でアップレギュレートされた遺伝子にオーバーラップすることから、安定化法自体は、何ら発現の増加をトリガーしないことが示唆されるが、環境暴露及び/又は取扱いが原因になるように思われた。
【0248】
参照として溶解対照細胞を用いて安定化試薬を後添加し且つ4℃で貯蔵したPBS洗浄WIn細胞(WIn1、WIn2、WIn3)のDE分析が図8に示されている。多数の1160遺伝子は、1.5×カットオフを用いて評価したとき発現が減少した(データは示されていない)。最も大きな減少は8.2×であった。遺伝子オントロジー分析では、10を超える特異的経路の富化が予測された。同様に、多数の1108遺伝子は、1.5×カットオフを用いて評価したとき発現が増加し、最も大きな増加は8.4×であった(データは示されていない)。遺伝子オントロジー分析では、10を超える特異的経路の富化が予測された。特異的な2遺伝子Samd11及びSamd1は、それぞれ、8.4×及び7.9×で最も高度に活性化された。これらの2つの推定転写因子は、観測された多数の遺伝子発現変化を駆動した可能性がある。
【0249】
参照として溶解対照サンプル(Ct1、Ct2、Ct3)を用いてPBSで洗浄し且つ安定化試薬を添加しないW細胞(W1、W2、W3)のDE分析が図9に示される。多数の744遺伝子は、1.5×カットオフを用いて評価したとき発現が減少した(データは示されていない)。最も大きな減少は13×であった。遺伝子オントロジー分析では、10を超える特異的経路の富化が予測された。同様に、多数の774遺伝子は、1.5×カットオフを用いて評価したとき発現が増加し、最も大きな増加は5.1×であった(データは示されていない)。遺伝子オントロジー分析では、10を超える特異的経路の富化が予測された。Samd11は、この場合も、最も高度に活性化された遺伝子の1つであり、4.6×富化を有していた。この転写因子は、特徴付けが不十分であるが、見られた多数の遺伝子発現変化を駆動した可能性がある。
【0250】
4℃の培地で細胞を貯蔵すると、代謝遺伝子発現は有意な減少を示すが、大きな変化のトリガーには影響しないことが、結果から示される。しかし、代謝遺伝子発現の変化は、安定化試薬の使用によりブロックされる(60遺伝子超が影響を受ける)。安定化試薬は、PBS等の培地で洗浄する前に細胞に添加すべきである。
【0251】
実施例2.貯蔵後のマイクロ流体デバイス内での安定化核酸の分離
【0252】
システム及びデバイス:Berkeley Lights, Inc.により製造された、且つ同様にBerkeley Lights, Inc.により製造された光学機器により制御された、ナノ流体デバイスOptoSelect(商標)チップを利用した。この機器は、温度コントローラに結合されたチップ用の取付けステージと、ポンプ・流体培地調整コンポーネントと、カメラとチップ内のフォトトランジスターをアクティブにするのに好適な構造化光源とを含む光学縦列と、を含む。OptoSelectチップは、フォトトランジスター誘起OET力を提供するOptoElectroPositioning(OEP(商標))技術を用いて構成された基板を含む。チップはまた、複数のNanoPen(商標)チャンバ(又は隔離ペン)がそれぞれ流体接続された複数のマイクロ流体チャネルを含んでいた。各隔離ペンの容積は約1×10立方ミクロンである。
【0253】
細胞及び培養培地:以上の実施例1の通り。
【0254】
マイクロ流体デバイスのプライミング。250マイクロリットルの100%二酸化炭素を12マイクロリットル/秒の速度で流動させ、続いて、0.1%Pluronic(登録商標)F27(Life Technologies(登録商標)カタログ番号P6866)を含有する250マイクロリットルのPBSを12マイクロリットル/秒で流動させ、最後に、250マイクロリットルのPBSを12マイクロリットル/秒で流動させた。続いて、培養培地の導入を行う。
【0255】
培地かん流。培地は、以下の2つの方法のいずれかによりマイクロ流体デバイスを介してかん流させる。
1. 0.01マイクロリットル/秒で2時間かん流させ、2マイクロリットル/秒で64秒間かん流させ、そして繰り返す。
2. 0.02マイクロリットル/秒で100秒間かん流させ、フローを500秒間停止し、2マイクロリットル/秒で64秒間かん流させ、そして繰り返す。
【0256】
実施例1に記載の濃度で2つのOptoSelectデバイスに細胞を導入し、個別にNanoPenチャンバに入れ、そして37℃で24時間培養する。
【0257】
OEP技術により生成された光学作動誘電泳動力を用いて培養細胞の半分をデバイス1及び2のそれぞれから搬出する。OKT3細胞のこれらの対照サンプルをTCL溶解緩衝液(2×)に搬出導入し、混合し、そして80℃で凍結させる。
【0258】
50マイクロリットルの安定化試薬(表2の100×マスターミックスから2×に希釈したもの、0.72mMシクロヘキシミド、0.36mMエメチン、6マイクロモルトリプトリド、6.20mMアジ化ナトリウム)を1マイクロリットル/秒の速度でマイクロ流体チャネルに流入させて培養培地を置き換えることにより、OptoSelectデバイス1内に残留する細胞を貯蔵のために安定化させる。5分間にわたり安定化試薬をNanoPenチャンバ内に拡散させ、更に15分間にわたりOKT3細胞を安定化試薬に接触させ、その後、OptoSelectデバイス1を機器から取り出す。安定化細胞(安定化)の入ったOptoSelectデバイス1をシールして蒸発を防止し、そして4℃で一晩貯蔵する。
【0259】
安定化試薬を添加せずに貯蔵すべくOptoSelectデバイス2内に残留する細胞を4℃にする。非安定化細胞(非安定化)の入ったOptoSelectデバイス2をシールして蒸発を防止し、そして4℃で一晩貯蔵する。
【0260】
翌日、OptoSelectデバイス1を機器に戻し、安定化カクテルを含有する培地をデバイスに通してフラッシュし、貯蔵培地を置き換える。次いで、安定化細胞のグループをOptoSelectデバイスからTCL溶解緩衝液(2×)に搬出導入し、以上の実験1に記載されるようにライブラリー生成、核酸シーケンシング、及びシーケンス解析のための処理を行う。OptoSelectデバイス2もOptoSelectデバイス1と同一の一晩の貯蔵期間の後に機器上に再配置し、そして新鮮培地(安定化試薬を含有しない)を用いてデバイスをフラッシュし再調整する。次いで、非安定化細胞(非安定化)のグループをOptoSelectデバイスからTCL溶解緩衝液(2回)に搬出導入し、以上の実験1に記載されるようにライブラリー生成、核酸シーケンシング、及びシーケンス解析のための処理を行う。
【0261】
安定化サンプル及び対照サンプルからのシーケンシング結果は、非安定化細胞と対照細胞との間の遺伝子発現の変動と比較して、安定化細胞と対照細胞との間の遺伝子発現の変動の低減を示すと予想される。
【0262】
実施形態のレシテーション
1.少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤と、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤と、電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤を含む少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、を含む、生体細胞内の核酸集団を安定化させるためのキット。
【0263】
2.キットが第2のタンパク質翻訳阻害剤を更に含む、実施形態1に記載のキット。
【0264】
3.第2のタンパク質翻訳阻害剤は可逆タンパク質翻訳阻害剤である、実施形態2に記載のキット。
【0265】
4.第2のタンパク質翻訳阻害剤が不可逆タンパク質翻訳阻害剤と比較して速効性である、実施形態2~3のいずれか1つに記載のキット。
【0266】
5.第2のタンパク質翻訳阻害剤が細胞膜透過性である、実施形態2~4のいずれか1つに記載のキット。
【0267】
6.第2のタンパク質翻訳阻害剤がジアゾオキシド、グルタルイミド抗生物質、及び/又はトコンアルカロイドである、実施形態2~5のいずれか1つに記載のキット。
【0268】
7.第2のタンパク質翻訳阻害剤がシクロヘキシミドである、実施形態2~6のいずれか1つに記載のキット。
【0269】
8.少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤が細胞膜透過性である、実施形態1~7のいずれか1つに記載のキット。
【0270】
9.少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤がアミノグリコシド抗生物質、D-ガラクトサミン、及び/又はエメチンである、実施形態1~8のいずれか1つに記載のキット。
【0271】
10.少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤がエメチンである、実施形態1~9のいずれか1つに記載のキット。
【0272】
11.少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤が細胞膜透過性である、実施形態1~10のいずれか1つに記載のキット。
【0273】
12.少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤がCDK9阻害剤、オーレスライシン、チオルチン、アマニチン、及び/又はトリプトリドである、実施形態1~11のいずれか1つに記載のキット。
【0274】
13.少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤が不可逆阻害剤である、実施形態1~12のいずれか1つに記載のキット。
【0275】
14.少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤がトリプトリドである、実施形態1~13のいずれか1つに記載のキット。
【0276】
15.少なくとも1種の電子伝達鎖剤が可逆活性を有する、実施形態1~14のいずれか1つに記載のキット。
【0277】
16.少なくとも1種の電子伝達鎖剤が細胞膜透過性である、実施形態1~15のいずれか1つに記載のキット。
【0278】
17.電子伝達鎖剤が電子伝達鎖阻害剤である、実施形態1~16のいずれか1つに記載のキット。
【0279】
18.電子伝達鎖剤がアジ化ナトリウムである、実施形態1~17のいずれか1つに記載のキット。
【0280】
19.少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、及び少なくとも1種の電子伝達鎖剤の少なくとも1つが溶液中に提供される、実施形態1~18のいずれか1つに記載のキット。
【0281】
20.少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤が溶液中に提供される、実施形態19に記載のキット。
【0282】
21.少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤が1.0マイクロモル~2Mの濃度で溶液内に存在する、実施形態20に記載のキット。
【0283】
22.第2のタンパク質翻訳阻害剤が溶液中に提供される、実施形態1~21のいずれか1つに記載のキット。
【0284】
23.第2のタンパク質翻訳阻害剤が1.0マイクロモル~2Mの濃度で溶液内に存在する、実施形態22に記載のキット。
【0285】
24.少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤が溶液中に提供される、実施形態1~23のいずれか1つに記載のキット。
【0286】
25.少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤が10ナノモル~500ミリモルの濃度で溶液内に存在する、実施形態24に記載のキット。
【0287】
26.少なくとも1種の電子伝達鎖剤が溶液中に提供される、実施形態1~25のいずれか1つに記載のキット。
【0288】
27.少なくとも1種の電子伝達鎖剤が0.1マイクロモル~1Mの濃度で存在する、実施形態26に記載のキット。
【0289】
28.キットがRNase阻害剤を含まない、実施形態1~27のいずれか1つに記載のキット。
【0290】
29.キットがプロテアーゼ阻害剤を更に含む、実施形態1~28のいずれか1つに記載のキット。
【0291】
30.プロテアーゼ阻害剤がシステインプロテアーゼ阻害剤又はセリンプロテアーゼ阻害剤である、実施形態29に記載のキット。
【0292】
31.安定化核酸集団がリボ核酸集団を含む、実施形態1~30のいずれか1つに記載のキット。
【0293】
32.少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、及び少なくとも1種の電子伝達鎖剤の2種以上がマスターミックス中に提供される、実施形態1~31のいずれか1つに記載のキット。
【0294】
33.少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、及び少なくとも1種の電子伝達鎖剤の3種全てがマスターミックス中に提供される、実施形態32に記載のキット。
【0295】
34.キットが溶解緩衝液を更に含む、実施形態1~33のいずれか1つに記載のキット。
【0296】
35.キットの1つ以上の成分が個別容器中に提供される、実施形態1~34のいずれか1つに記載のキット。
【0297】
36.生体細胞が哺乳動物細胞である、実施形態1~35のいずれか1つに記載のキット。
【0298】
37.生体細胞がヒト細胞である、実施形態1~36のいずれか1つに記載のキット。
【0299】
38.生体細胞が癌細胞である、実施形態1~37のいずれか1つに記載のキット。
【0300】
39.生体細胞と、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、並びに電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤を含む少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、を接触させるステップを含む、生体細胞中の核酸集団を安定化させる方法であって、接触が、核酸集団を安定化させるのに十分な期間にわたり行われ、それにより、生体細胞が安定化生体細胞に変換される、方法。
【0301】
40.生体細胞が、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、及び少なくとも1種の電子伝達鎖剤のそれぞれに同時に接触される、実施形態39に記載の方法。
【0302】
41.少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、及び少なくとも1種の電子伝達鎖剤のそれぞれの存在下で安定化生体細胞を貯蔵することを更に含む、実施形態39又は40に記載の方法。
【0303】
42.少なくとも8時間貯蔵するステップの、実施形態41に記載の方法。
【0304】
43.貯蔵ステップが0℃~4℃の温度で行われる、実施形態41又は42に記載の方法。
【0305】
44.安定化生体細胞と溶解試薬とを接触させることにより安定化生体細胞を溶解させることを更に含む、実施形態39~43のいずれか1つに記載の方法。
【0306】
45.溶解された安定化生体細胞から放出された安定化核酸集団の少なくとも一部分を分離することを更に含む、実施形態44に記載の方法。
【0307】
46.溶解ステップが、安定化生体細胞と溶解試薬とを接触させる前に安定化生体細胞を洗浄することを更に含む、実施形態44又は45に記載の方法。
【0308】
47.安定化溶解生体細胞から放出された核酸集団の少なくとも一部分から少なくとも1クラスの核酸を分析することを更に含む、実施形態44~46のいずれか1つに記載の方法。
【0309】
48.分析が、少なくとも1クラスの核酸をシーケンスすることを含む、実施形態47に記載の方法。
【0310】
49.少なくとも1クラスの核酸がリボ核酸である、実施形態48に記載の方法。
【0311】
50.マイクロ流体デバイスのエンクロージャ内に生体細胞を配置するステップであって、エンクロージャがフロー領域と少なくとも1つのチャンバとを含み、少なくとも1つのチャンバがフロー領域に流体接続され、フロー領域及び少なくとも1つのチャンバが流体培地を閉じ込めるように構成される、ステップと、生体細胞と、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、並びに電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤を含む少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、を接触させるステップであって、接触が、生体細胞の核酸集団を安定化させるのに十分な期間にわたり行われ、それにより、生体細胞が安定化生体細胞に変換される、ステップと、を含む、エンクロージャを含むマイクロ流体デバイス内の生体細胞中の核酸集団を安定化させる方法。
【0312】
51.マイクロ流体デバイス内に生体細胞を配置することが、少なくとも1つのチャンバ内に生体細胞を配置することを含む、実施形態50に記載の方法。
【0313】
52.少なくとも1つのチャンバが、分離領域と分離領域をフロー領域に流体接続する接続領域とを有する隔離ペンを含み、分離領域及び接続領域が、培地の成分がフロー領域と隔離ペンの分離領域との間で実質的に拡散のみにより交換されるように構成される、実施形態50又は51に記載の方法。
【0314】
53.少なくとも1つのチャンバ内に生体細胞を配置することが、隔離ペンの分離領域内に生体細胞を配置することを含む、実施形態52に記載の方法。
【0315】
54.少なくとも1つのチャンバ内に生体細胞を配置することが、誘電泳動力を用いて生体細胞を移動させることを更に含む、実施形態53に記載の方法。
【0316】
55.誘電泳動力が光学的に作動される、実施形態54に記載の方法。
【0317】
56.ある期間にわたり安定化生体細胞を貯蔵することを更に含む、実施形態50~55のいずれか1つに記載の方法。
【0318】
57.貯蔵ステップが少なくとも8時間行われる、実施形態56に記載の方法。
【0319】
58.貯蔵ステップが0℃~4℃の温度で行われる、実施形態56又は57に記載の方法。
【0320】
59.マイクロ流体デバイスから安定化生体細胞を搬出するステップを更に含む、実施形態50~58のいずれか1つに記載の方法。
【0321】
60.安定化生体細胞を搬出するステップが、誘電泳動力を用いて生体細胞を移動させることを含む、実施形態59に記載の方法。
【0322】
61.誘電泳動力が光学的に作動される、実施形態60に記載の方法。
【0323】
62.安定化生体細胞と溶解試薬とを接触させることにより安定化生体細胞を溶解させることを更に含む、実施形態50~61のいずれか1つに記載の方法。
【0324】
63.溶解された安定化生体細胞から放出された安定化核酸集団の少なくとも一部分を分離することを更に含む、実施形態62に記載の方法。
【0325】
64.溶解ステップが、安定化生体細胞と溶解試薬とを接触させる前に安定化生体細胞を洗浄することを更に含む、実施形態62又は63に記載の方法。
【0326】
65.溶解された安定化生体細胞から放出された安定化核酸集団の少なくとも一部分から少なくとも1クラスの核酸を分析することを更に含む、実施形態63又は64のいずれか1つに記載の方法。
【0327】
66.分析が、少なくとも1クラスの核酸をシーケンスすることを含む、実施形態65に記載の方法。
【0328】
67.少なくとも1クラスの核酸がリボ核酸である、実施形態65又は66に記載の方法。
【0329】
68.生体細胞が哺乳動物細胞である、実施形態39~67のいずれか1つに記載の方法。
【0330】
69.生体細胞がヒト細胞である、実施形態39~68のいずれか1つに記載の方法。
【0331】
70.生体細胞が癌細胞である、実施形態39~69のいずれか1つに記載の方法。
【0332】
71.生体細胞が免疫細胞である、実施形態39~70のいずれか1つに記載の方法。
【0333】
72.免疫細胞がT細胞、B細胞、NK細胞、又はマクロファージである、実施形態71に記載の方法。
【0334】
73.エンクロージャ内に生体細胞を配置するステップが、誘電泳動力を用いて生体細胞を移動させることを含む、実施形態50~72のいずれか1つに記載の方法。
【0335】
74.誘電泳動力が光学的に作動される、実施形態73に記載の方法。
【0336】
75.生体細胞と、少なくとも1種の不可逆タンパク質翻訳阻害剤、少なくとも1種のリボ核酸転写阻害剤、並びに電子伝達鎖阻害剤及び/又は電子伝達鎖デカップリング剤を含む少なくとも1種の電子伝達鎖剤と、を接触させるステップが、生体細胞と、実施形態1~33のいずれか1つに記載のキットの1つ以上の成分と、を接触させることを含む、実施形態39~74のいずれか1つに記載の方法。
【0337】
上記の書面の明細書は、当業者による実施形態の実施を可能とするのに十分であると考えられる。以上の説明及び実施例は、特定の実施形態を詳述し、企図される最良形態を記載するが、例示にすぎない。しかし、以上の内容が本文でいかに詳細に見えても、実施形態は多くの方法で実施し得るので、添付の特許請求の範囲及び任意の均等物に従って解釈すべきであることは分かるであろう。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9