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特許7019611被検者の呼吸情報を決定するための方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】被検者の呼吸情報を決定するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20220207BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20220207BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20220207BHJP
   A61B 5/053 20210101ALI20220207BHJP
   A61B 5/113 20060101ALI20220207BHJP
   A61B 5/1455 20060101ALI20220207BHJP
   A61B 5/346 20210101ALI20220207BHJP
【FI】
A61B5/08
A61B5/02 B
A61B5/02 C
A61B5/0245 A
A61B5/053
A61B5/113
A61B5/1455
A61B5/346
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018566590
(86)(22)【出願日】2017-06-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 EP2017065007
(87)【国際公開番号】W WO2017220526
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-06-18
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】16179941.6
(32)【優先日】2016-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】62/353,102
(32)【優先日】2016-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】KONINKLIJKE PHILIPS N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ババイザデ,サイード
【合議体】
【審判長】福島 浩司
【審判官】伊藤 幸仙
【審判官】樋口 宗彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0007935(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0116520(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0313484(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0051205(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0067433(US,A1)
【文献】米国特許第11123023(US,B2)
【文献】欧州特許出願公開第3474739(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 - 5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の呼吸情報を決定するための制御ユニットを含む装置を作動させる作動方法であって、当該作動方法は、
前記制御ユニットが、前記被検者の少なくとも1つの生理学的特徴を示す1つ又は複数の生理学的信号を獲得するステップと、
前記制御ユニットが、前記被検者と前記1つ又は複数の生理学的信号とのうちの少なくとも1つに関するコンテキスト情報を取得するステップと、
前記制御ユニットが、前記コンテキスト情報に基づいて、前記1つ又は複数の生理学的信号のそれぞれについて、呼吸情報を決定するように適合された少なくとも1つの信号処理アルゴリズムを選択するステップであって、該少なくとも1つの信号処理アルゴリズムを選択するステップは、複数の信号処理アルゴリズムのそれぞれを包含及び/又は除外することによる利点及び/又は不利点に関する1組の規則にさらに基づく、選択するステップと、
前記制御ユニットが、前記1つ又は複数の生理学的信号について選択された前記少なくとも1つの信号処理アルゴリズムを使用して、前記1つ又は複数の生理学的信号に基づいて前記被検者の呼吸情報を決定するステップと、を含む、
作動方法。
【請求項2】
少なくとも1つの信号処理アルゴリズムを選択するための前記1つ又は複数の生理学的信号は、前記1つ又は複数の生理学的信号に関する前記コンテキスト情報に基づいて選択された1つ又は複数の生理学的信号である、請求項1に記載の作動方法。
【請求項3】
2つ以上の信号処理アルゴリズムが少なくとも1つの生理学的信号について選択され、当該作動方法は、
前記制御ユニットが、前記少なくとも1つの生理学的信号について選択された前記2つ以上の信号処理アルゴリズムを合成信号処理アルゴリズムに結合するステップと、
前記制御ユニットが、前記少なくとも1つの生理学的信号についての前記合成信号処理アルゴリズムを使用して、前記少なくとも1つの生理学的信号に基づいて前記被検者の呼吸情報を決定するステップと、をさらに含む、請求項1又は2に記載の作動方法。
【請求項4】
2つ以上の生理学的信号が獲得され、当該作動方法は、
前記制御ユニットが、前記2つ以上の生理学的信号のそれぞれから決定された前記呼吸情報を組み合わせるステップをさらに含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の作動方法。
【請求項5】
前記被検者の呼吸情報を決定する前に、ノイズを除去するために前記1つ又は複数の生理学的信号をフィルタリングするステップをさらに含む、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の作動方法。
【請求項6】
前記呼吸情報は、前記被検者の呼吸速度及び前記被検者の呼吸パターンのうちの少なくとも1つを含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の作動方法。
【請求項7】
前記生理学的信号について選択された前記少なくとも1つの信号処理アルゴリズムは、
前記生理学的信号の周波数ドメイン解析、
前記生理学的信号の時間ドメイン解析、及び
前記生理学的信号の自己回帰解析のうちの1つ又は複数を含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の作動方法。
【請求項8】
前記被検者について決定された前記呼吸情報を出力するステップをさらに含む、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の作動方法。
【請求項9】
前記制御ユニットが、前記被検者について決定された前記呼吸情報に基づいて、前記被検者の呼吸状態を決定するステップをさらに含む、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の作動方法。
【請求項10】
前記制御ユニットが、前記被検者について決定された前記呼吸状態を出力するステップをさらに含む、請求項9に記載の作動方法。
【請求項11】
コンピュータ可読コードを含むコンピュータプログラムであって、前記コンピュータ可読コードは、適切なコンピュータ又はプロセッサによって実行されると、前記コンピュータ又は前記プロセッサによって、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の作動方法が実行されるように構成される、コンピュータプログラム。
【請求項12】
被検者の呼吸情報を決定するための装置であって、当該装置は、
制御ユニットを含み、
該制御ユニットは、
前記被検者の少なくとも1つの生理学的特徴を示す1つ又は複数の生理学的信号を獲得すること
前記被検者と前記1つ又は複数の生理学的信号とのうちの少なくとも1つに関するコンテキスト情報を取得すること
前記コンテキスト情報に基づいて、前記1つ又は複数の生理学的信号のそれぞれについて、呼吸情報を決定するように適合された少なくとも1つの信号処理アルゴリズムを選択することであって、該少なくとも1つの信号処理アルゴリズムを選択することは、複数の信号処理アルゴリズムのそれぞれを包含及び/又は除外することによる利点及び/又は不利点に関する1組の規則にさらに基づく、選択すること、及び
前記1つ又は複数の生理学的信号について選択された前記少なくとも1つの信号処理アルゴリズムを使用して、前記1つ又は複数の生理学的信号に基づいて前記被検者の呼吸情報を決定することを行うように構成される、
装置。
【請求項13】
前記制御ユニットは、1つ又は複数の生理学的センサを制御して前記1つ又は複数の生理学的信号を獲得することによって前記1つ又は複数の生理学的信号を獲得するように構成される、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記1つ又は複数の生理学的センサは、心電図センサ、インピーダンスセンサ、加速度センサ、及びフォトプレチスモグラフィセンサのうちの少なくとも1つを含む、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
ウェアラブル装置が、前記1つ又は複数の生理学的センサを含む、請求項13又は14に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の呼吸情報を決定するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸活動の生理学的モニタリングは、救命救急及び新生児ケア、睡眠検査評価及び麻酔を含む多くの臨床現場において重要である。インキュベートされた(incubated)被検者又は呼吸マスクを着用した被検者については満足のいく測定方法が提供されているが、測定の操作性、信頼性、正確性、及び再現性に関する問題等、非侵襲的な呼吸モニタリングには依然として問題が存在する。例えば、被検者の口及び/又は鼻の前の呼吸経路のサーミスタに基づく呼吸センサは、適用が困難であり、且つ大抵の場合被検者によって許容されない。また、機械的肺プレチスモグラフィのための被検者の胸部及び腹部の周りの呼吸ベルトは、多くの注意、被検者及びモニタリング装置上の追加の配線を必要とする。
【0003】
非侵襲的呼吸モニタリングについて、被検者への障害をより少なくするいくつかの方法が存在する。例えば、インピーダンス・ニューモグラフィ(pneumography)は、呼吸を監視するために一般的に使用される技術である。この方法は、通常、2つの心電図(ECG)胸部電極を使用して、呼吸による胸部インピーダンスの変調を測定することによって呼吸を監視する。しかしながら、この弱い呼吸信号は、(身体の位置の関数である)ベースラインドリフトの影響を受け、且つ局所的な電極/皮膚移行インピーダンスからの干渉を受ける。さらに、通常のECG電極の使用とは別に、呼吸の十分なモニタリングは、一般に、被検者に取り付けられた追加の電極及び4導体測定技術を用いる場合にのみ達成することができる。この測定方法の基本的な欠点は、測定可能な呼吸運動が効果的な呼吸の兆候ではないことである。例えば、呼吸経路に障害物があるか、又は胸部及び腹部呼吸が調整されておらず、位相がずれている可能性がある。これは特に、完全に発達していない呼吸器系を有する未熟児における問題である。
【0004】
呼吸は、フォトプレチスモグラフィ(PPG)から測定することもできる。呼吸によって末梢循環の変動が引き起こされるので、皮膚に取り付けられたPPGセンサを使用して呼吸を監視することが可能である。PPG信号における低周波呼吸誘発強度変化には、胸腔内圧の変化によって引き起こされる静脈還流から心臓への寄与が含まれ、さらに呼吸中の皮膚血管の交感神経調節の変化も含まれる。しかしながら、皮膚で記録されたPPG信号は動きに非常に敏感である。さらに、PPG波形における呼吸誘発変動の解析は、通常、(市販の装置によってフィルタリングされることが多い)周波数帯域におけるPPGベースラインの周波数解析を必要とする。
【0005】
通常の電極を使用したECGから呼吸情報(ECG由来呼吸(EDR)情報と呼び得る)を抽出するためのいくつかの信号処理アルゴリズムが開発されている。いくつかの方法は、呼吸によって誘発される拍動間(beat-to-beat)ECG形態(QRS-EDRと呼び得る)の変動に基づく。これらの方法は、Rピーク振幅、RS範囲、又はベクトル心電図(VCG)における拍動間の変化を見る。他の方法は、HRの呼吸変調(HRVと呼び得る)の結果として、心拍数(HR)の呼吸情報を抽出するよう試みる。また、ECGから筋電図(EMG)を抽出して処理するための信号処理アルゴリズムは、呼吸情報(EMG-EDRと呼ばれる)も提供することができる。ECG記録には、呼吸サイクル中の肋間胸筋肉及び横隔膜の電気的活性化による筋振戦「ノイズ」が含まれることが前提である。しかしながら、これらの方法は全て、異なる用途について利点と欠点とがある。
【0006】
例えば、ベッドサイドのマルチパラメータモニタが、患者のモニタリングに広く使用されており、異なるセンサから記録された多くのバイタルサインを使用して呼吸情報を導き出すことができるが、単一の記録は、特定の技術的問題(例えば、信号品質が悪い)又は特定の生理学的制限のため、ロバストで正確な呼吸情報を連続して発生させるのに失敗する可能性が高い。さらに、着用可能な患者モニターは、携帯性及び低電力消費についての設計上のトレードオフのために全てのバイタルサインを記録しないことがある(例えば、インピーダンス記録を利用できないことがある)。
【0007】
単一の身体的記録であっても、基本的な身体的又は生理学的前提のために、異なる信号処理アルゴリズムには利点と欠点とがある。例えば、(高齢者、重病、自律神経障害を引き起こす疾患等)退行性神経系の被検者にHRV-EDR法を用いることは不可能である。しかしながら、HRV-EDR法は、ECGが(例えば、2つのECG電極が非常に近接して配置されるパッチ状のウェアラブル装置上で)短い電気ベクトルで記録される場合に利点がある。一方、EMG-EDR法は、機械的な呼吸活動を測定するため、一般的により良い性能を提供することができる。しかしながら、EMG-EDR法は、ECG記録のための特定のハードウェア要件(例えば、装置のコストと電力使用との両方を増大させる高い周波数帯域幅及びサンプリング速度等)を有する。
【0008】
従って、被検者の呼吸情報を決定するための改良された方法及び装置が必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
上記のように、呼吸情報を決定するための既存技術による制限は、あらゆる状況に適した、又はあらゆる状況において最適な結果を提供する単一の方法がないことである。
【0010】
従って、本発明の第1の態様によれば、被検者の呼吸情報を決定するための方法が提供される。この方法は、被検者の少なくとも1つの生理学的特徴を示す1つ又は複数の生理学的信号を獲得するステップと、被検者及び1つ又は複数の生理学的信号のうちの少なくとも1つに関するコンテキスト情報を取得するステップとを含む。この方法は、コンテキスト情報に基づいて、1つ又は複数の生理学的信号のそれぞれについて、呼吸情報を決定するように適合された少なくとも1つの信号処理アルゴリズムを選択するステップも含む。この方法は、1つ又は複数の生理学的信号について選択された少なくとも1つの信号処理アルゴリズムを使用して、1つ又は複数の生理学的信号に基づいて被検者の呼吸情報を決定するステップも含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの信号処理アルゴリズムを選択するための1つ又は複数の生理学的信号は、1つ又は複数の生理学的信号に関するコンテキスト情報に基づいて選択された1つ又は複数の生理学的信号であり得る。
【0012】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの生理学的信号について2つ以上の信号処理アルゴリズムを選択することができ、この方法は、少なくとも1つの生理学的信号について選択された2つ以上の信号処理アルゴリズムを合成信号処理アルゴリズムに結合するステップと、少なくとも1つの生理学的信号についての合成信号処理アルゴリズムを使用して、少なくとも1つの生理学的信号に基づいて被検者の呼吸情報を決定するステップと、をさらに含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、2つ以上の生理学的信号を取得することができ、この方法は、2つ以上の生理学的信号のそれぞれから決定された呼吸情報を組み合わせるステップをさらに含むことができる。
【0014】
いくつかの実施形態では、この方法は、被検者の呼吸情報を決定する前に、ノイズを除去するために1つ又は複数の生理学的信号をフィルタリングするステップをさらに含むことができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、呼吸情報は、被検者の呼吸速度及び被検者の呼吸パターンのうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、生理学的信号について選択された少なくとも1つの信号処理アルゴリズムは、生理学的信号の周波数ドメイン解析、生理学的信号の時間ドメイン解析、及び生理学的信号の自己回帰解析のうちの1つ又は複数を含むことができる。
【0017】
いくつかの実施形態では、この方法は、被検者について決定された呼吸情報を出力するステップをさらに含むことができる。
【0018】
いくつかの実施形態では、この方法は、被検者について決定された呼吸情報に基づいて被検者の呼吸状態を決定するステップをさらに含むことができる。
【0019】
いくつかの実施形態では、この方法は、被検者について決定された呼吸状態を出力するステップをさらに含むことができる。
【0020】
本発明の第2の態様によれば、コンピュータ可読媒体を含むコンピュータプログラム製品が提供され、コンピュータ可読媒体は、その内部に具体化されたコンピュータ可読コードを有し、コンピュータ可読コードは、適切なコンピュータ又はプロセッサによって実行されると、コンピュータ又はプロセッサによって、上述した方法(複数可)が実行されるように構成される。
【0021】
本発明の第3の態様によれば、被検者の呼吸情報を決定するための装置が提供される。この装置は、制御ユニットを含み、この制御ユニットは、被検者の少なくとも1つの生理学的特徴を示す1つ又は複数の生理学的信号を獲得し、被検者及び1つ又は複数の生理学的信号の少なくとも1つに関するコンテキスト情報を取得するように構成される。制御ユニットはまた、コンテキスト情報に基づいて、1つ又は複数の生理学的信号のそれぞれについて、呼吸情報を決定するように適合された少なくとも1つの信号処理アルゴリズムを選択するように構成される。制御ユニットはまた、1つ又は複数の生理学的信号について選択された少なくとも1つの信号処理アルゴリズムを使用して、1つ又は複数の生理学的信号に基づいて被検者の呼吸情報を決定するように構成される。
【0022】
いくつかの実施形態では、制御ユニットは、1つ又は複数の生理学的センサを制御して1つ又は複数の生理学的信号を獲得することによって、1つ又は複数の生理学的信号を獲得するように構成され得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数の生理学的センサは、心電図センサ、インピーダンスセンサ、加速度センサ、及びフォトプレチスモグラフィセンサのうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0024】
いくつかの実施形態では、ウェアラブル装置は、1つ又は複数の生理学的センサを含むことができる。
【0025】
このようにして、既存の技術の制限に対処する。上記の態様及び実施形態によれば、全体的な性能を改善し、呼吸活動を監視するための異なる臨床条件に対処することができるような方法で、1つ又は複数の生理学的信号から呼吸情報を導き出すための異なる信号処理アルゴリズムを自動的に選択する方法が提供される。
【0026】
こうして、既存の問題を克服する、被検者の呼吸情報を決定するための改良された方法及び装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】一実施形態による装置のブロック図である。
図2】一実施形態による方法を示すフローチャートである。
図3】呼吸情報を決定するための例示的な実施形態を示すグラフである。
図4】信号処理アルゴリズムを結合するための例示的な実施形態による方法を示すフローチャートである。
図5】信号処理アルゴリズムを結合するための別の例示的な実施形態による方法を示すフローチャートである。
図6】一実施形態による信号処理アルゴリズムの出力を示すグラフである。
図7】呼吸情報を組み合わせるための例示的な実施形態を示すフローチャートである。
図8】一実施形態による信号処理アルゴリズムの出力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明をよりよく理解し、本発明がどのように実施されるかをより明確に示すために、ここでは単なる例として添付図面を参照する。
【0029】
上記のように、本発明は、既存の問題を克服する、被検者の呼吸情報を決定するための改良された方法及び装置を提供する。
【0030】
図1は、本発明の実施形態による被検者の呼吸情報を決定するために使用することができる装置100のブロック図を示す。被検者は、患者又は他の被検者又は装置100のユーザであってもよい。
【0031】
装置100は、装置100の動作を制御し、本明細書に記載の方法を実施することができる制御ユニット102を含む。制御ユニット102は、本明細書に記載の方法で装置100を制御するように構成又はプログラムされた1つ又は複数のプロセッサ、処理ユニット、マルチコアプロセッサ又はモジュールを含んでもよい。特定の実施態様では、制御ユニット102は、複数のソフトウェア及び/又はハードウェアモジュールを含むことができ、各モジュールは、本発明の実施形態による方法の個々のステップ又は複数のステップを実行するか、又は実行するように構成される。
【0032】
簡潔には、制御ユニット102は、被検者の少なくとも1つの生理学的特徴を示す1つ又は複数の生理学的信号を獲得し、被検者及び1つ又は複数の生理学的信号のうちの少なくとも1つに関するコンテキスト(contextual)情報を取得するように構成される。制御ユニット102は、コンテキスト情報に基づいて、1つ又は複数の生理学的信号のそれぞれについて、呼吸情報を決定するように適合された少なくとも1つの信号処理アルゴリズムを選択するようにさらに構成される。制御ユニット102はまた、1つ又は複数の生理学的信号について選択された少なくとも1つの信号処理アルゴリズムを使用して、1つ又は複数の生理学的信号に基づいて被検者の呼吸情報を決定するように構成される。
【0033】
いくつかの実施形態では、制御ユニット102は、1つ又は複数の生理学的センサ104を制御して1つ又は複数の生理学的信号を獲得することによって、1つ又は複数の生理学的信号(すなわち、バイタルサイン信号)を獲得するように構成される。図1に示される実施形態では、装置は、1つ又は複数の生理学的センサ104を含む。しかしながら、1つ又は複数の生理学的センサは、代替的又は追加的に、装置100の外部(すなわち、装置100とは分離している又は離れている)にあってもよいことが理解されよう。いくつかの実施形態では、ウェアラブル装置が、1つ又は複数の生理学的センサを含むことができる。いくつかの実施形態では、制御ユニット102及び1つ又は複数の生理学的センサ104を含む装置100は、ウェアラブル装置であってもよい。ウェアラブル装置は、時計、ネックレス、パッチ、身体の一部のためのバンド、又は被検者が着用するように設計された他の装置の形態であってもよい。
【0034】
1つ又は複数の生理学的センサは、心電図(ECG)センサ、インピーダンスセンサ、加速度センサ(加速度計等)、フォトプレチスモグラフィ(PPG)センサ(パルスオキシメータ等)、任意の他の生理学的センサ、又は被検者の少なくとも1つの生理学的特徴を示す生理学的信号を獲得するのに適した生理学的センサの組合せを含んでもよい。
【0035】
ECGセンサから獲得された被検者の少なくとも1つの生理学的特徴を示す生理学的信号は、心電図信号である。ECGセンサは、1つ又は複数の電極を含んでもよい。PPGセンサ(例えば、パルスオキシメータ)から獲得された被検者の少なくとも1つの生理学的特徴を示す生理学的信号は、フォトプレチスモグラフィ信号である。PPGセンサは、特定の周波数で動作する1つ又は複数の光源(例えば、発光ダイオード(LED))と、PPGセンサが被検者の皮膚に接触しているときに反射又は透過される光に反応する1つ又は複数の光検出器(例えば、フォトダイオード)とを含むことができる。インピーダンスセンサから獲得された被検者の少なくとも1つの生理学的特徴を示す生理学的信号は、インピーダンス信号である。インピーダンスセンサは、被検者の生体組織の電流又は電圧に対する抵抗を測定するように動作可能な生体インピーダンスセンサであってもよい。例えば、少なくとも1つの電極が被検者の生体組織内に電気エネルギーを運び、少なくとも1つの電極が電圧の変化を検出することができる。あるいはまた、少なくとも1つの電極が被検者の生体組織に電圧を印加し、少なくとも1つの電極が対応する電流の変化を検出してもよい。加速度センサ(加速度計等)から獲得した被検者の少なくとも1つの生理学的特徴を示す生理学的信号は、加速度信号である。
【0036】
1つ又は複数の生理学的センサについての例が提供されているが、当業者は、他のタイプの生理学的センサ及び生理学的センサの組合せを認識するであろう。
【0037】
図1に戻ると、いくつかの実施形態では、装置100は、少なくとも1つのユーザインターフェイス要素106も含むことができる。代替的に又は付加的に、ユーザインターフェイス要素106は、装置100の外部(すなわち、装置100とは分離している又は離れている)にあってもよい。例えば、ユーザインターフェイス要素106は、別の装置の一部であってもよい。
【0038】
ユーザインターフェイス要素106は、本発明による方法から得られる情報を装置100の被検者又は他のユーザ(例えば、医療提供者、医療従事者、介護者、又は他の人)に提供する際に使用することができる。制御ユニット102は、1つ又は複数のユーザインターフェイス要素106を制御して、本発明による方法から得られる情報を提供するように構成することができる。例えば、制御ユニット102は、1つ又は複数のユーザインターフェイス要素106を制御して、被検者について決定された呼吸情報又は本明細書に記載の方法によって決定される他の情報をレンダリングするように構成することができる。代替的に又は追加的に、ユーザインターフェイス要素106は、ユーザ入力を受け取るように構成してもよい。換言すれば、ユーザインターフェイス要素106によって、装置100の被検者又は別のユーザがデータ、命令、又は情報を手動で入力するのを可能にする。制御ユニット102は、1つ又は複数のユーザインターフェイス要素106からユーザ入力を獲得するように構成してもよい。
【0039】
ユーザインターフェイス要素106は、情報、データ、又は信号を、装置100の被検者又は別のユーザにレンダリング又は出力するのを可能にする任意の構成要素であってもよく、又はその構成要素を含んでもよい。代替的に又は追加的に、ユーザインターフェイス要素106は、装置100の被検者又は別のユーザが、ユーザ入力を提供し、装置100と対話及び/又は装置100を制御するのを可能にする任意の構成要素であってもよく、又はその構成要素を含んでもよい。例えば、ユーザインターフェイス要素106は、1つ又は複数のスイッチ、1つ又は複数のボタン、キーパッド、キーボード、(例えば、タブレット又はスマートフォン上の)タッチスクリーン又はアプリケーション、表示画面又は他の視覚的インジケータ、1つ又は複数のスピーカ、1つ又は複数のマイク、任意の他の音声対話コンポーネント、1つ又は複数のライト、触覚フィードバック(例えば、振動機能)を提供する構成要素、又は任意の他のユーザ入力要素、又はユーザインターフェイス要素の組合せを含むことができる。
【0040】
いくつかの実施形態では、装置100は、この装置100が装置100の内部又は外部にある任意のコンポーネント、ユニット、センサ、及び装置と通信するのを可能にする通信インターフェイス要素108も含むことができる。通信インターフェイス要素108は、任意のコンポーネント、ユニット、センサ、及び装置と無線又は有線接続を介して通信することができる。例えば、ユーザインターフェイス要素106が装置100の外部にある実施形態では、通信インターフェイス要素108は、外部ユーザインターフェイス要素と無線又は有線接続を介して通信することができる。
【0041】
いくつかの実施形態では、装置100は、本明細書に記載の方法を実施するように制御ユニット102によって実行され得るプログラムコードを記憶するように構成されたメモリユニット110も含むことができる。メモリユニット110を使用して、装置100の制御ユニット102によって、又は装置100の外部にあるコンポーネント、ユニット、センサ、及び装置によって作成又は獲得された情報、データ、信号、及び測定値を記憶することもできる。
【0042】
図1は、本発明のこの態様を説明するために必要な構成要素のみを示しており、実際の実施態様では、装置100は、示される構成要素に追加の構成要素を含み得ることが理解されよう。例えば、装置100は、装置100に電力を供給するためのバッテリ又は他の電源、又は装置100を主電源に接続するための手段を含むことができる。
【0043】
図2は、実施形態による被検者の呼吸情報を決定するための方法200を示す。図示の方法200は、一般に、装置100の制御ユニット102の制御によって、又はその制御下で実行され得る。
【0044】
図2を参照すると、ブロック202において、被検者の少なくとも1つの生理学的特徴を示す1つ又は複数の生理学的信号が獲得される。先に説明したように、制御ユニット102は、装置の1つ又は複数の生理学的センサ104を制御することにより1つ又は複数の生理学的信号を獲得する、或いは代替的に又は追加的に、装置100の外部(すなわち、装置100とは分離している又は離れている)の1つ又は複数の生理学的センサを制御して、1つ又は複数の生理学的信号を獲得するように構成してもよい。
【0045】
ブロック204において、被検者及び1つ又は複数の生理学的信号のうちの少なくとも1つに関するコンテキスト情報が取得される。換言すれば、被検者、1つ又は複数の生理学的信号、或いは被検者と1つ又は複数の生理学的信号との両方に関するコンテキスト情報を取得することができる。
【0046】
被検者に関するコンテキスト情報は、ユーザインターフェイス要素106(例えば、コンテキスト情報は、ユーザインターフェイス要素106において受け取られたユーザ入力の形態であってもよい)、メモリユニット110(例えば、コンテキスト情報は、記憶されたコンテキスト情報であってもよい)、通信インターフェイス要素108(例えば、コンテキスト情報は、装置100の外部のコンポーネント又はユニットから受信することができる)のうちのいずれか1つ又はこれらの任意の組合せから制御ユニット102によって取得することができる。
【0047】
被検者に関するコンテキスト情報の例には、被検者の病歴、被検者の現在の医療処置、被検者の臨床報告、又は被検者に関する他のコンテキスト情報、又は被検者に関するコンテキスト情報の組合せが含まれる。いくつかの例では、被検者の病歴は、被検者が現在有している又は過去に有していたあらゆる疾患又は健康状態の指標を含むことができる。例えば、これは、潜在的に1つ又は複数の医学的合併症(退行性神経系等)につながる可能性のある疾患又は健康状態であり得る。いくつかの例では、被検者の現在の医療処置は、潜在的に1つ又は複数の医学的合併症(神経系を退行させる可能性のある治療等)をもたらす可能性のある医療処置であり得る。いくつかの例では、被検者の臨床報告は、ECG報告(例えば、被検者がペースメーカー、異常心臓リズム、頻繁な異所性拍動等を有するかどうかの指標を含み得る)、血液検査報告、医用画像報告、又は任意の他の臨床報告、又は臨床報告の組合せであり得る。
【0048】
1つ又は複数の生理学的信号に関するコンテキスト情報の例には、1つ又は複数の生理学的信号の品質の指標(例えば、品質指数、品質数、信号対雑音比、或いはメリット又は品質インジケータの他の数字)、1つ又は複数の生理学的信号のサンプルレート、1つ又は複数の生理学的信号を獲得したセンサに関する情報(センサの利用可能性、センサの構成情報、又はセンサに関する他の情報等)、或いは1つ又は複数の生理学的信号に関する任意の他のコンテキスト情報、或いは1つ又は複数の生理学的信号に関するコンテキスト情報の組合せが含まれる。
【0049】
被検者に関するコンテキスト情報及び1つ又は複数の生理学的信号に関するコンテキスト情報についての例が提供されているが、コンテキスト情報は、被検者、或いは1つ又は複数の生理学的信号に関する他のコンテキスト情報、又はコンテキスト情報の任意の組合せを含むことができる。
【0050】
図2に戻ると、ブロック206において、1つ又は複数の生理学的信号のそれぞれについての少なくとも1つの信号処理アルゴリズムが、コンテキスト情報に基づいて選択される。少なくとも1つの信号処理アルゴリズムの選択は自動的である。選択された少なくとも1つの信号処理アルゴリズムは、呼吸情報を決定するように適合されたアルゴリズムである。生理学的信号について選択された少なくとも1つの信号処理アルゴリズムは、生理学的信号の周波数ドメイン解析、生理学的信号の時間ドメイン解析、生理学的信号の自己回帰解析、又は呼吸情報を決定するのに適している生理学的信号の任意の他の解析を含むことができる。
【0051】
信号処理アルゴリズムの例には、インピーダンス信号処理アルゴリズム(インピーダンス信号から呼吸情報を決定するのに適した任意のアルゴリズムであり得る)、加速度計信号処理アルゴリズム(加速度計信号から呼吸情報を決定するのに適した任意のアルゴリズムであり得る)、PPG信号処理アルゴリズム(PPG信号から呼吸情報を決定するのに適した任意のアルゴリズムであり得る)、及びECG信号処理アルゴリズム(ECG信号から呼吸情報を決定するのに適した任意のアルゴリズムであり得る)が含まれる。ECG信号処理アルゴリズムを使用して決定された呼吸情報は、ECG由来呼吸(EDR)情報と呼ぶことができる。
【0052】
ECG信号処理アルゴリズムは、QRS群の検出(QRS-EDR信号処理アルゴリズムと呼び得る)、QRS群及びECG信号におけるRピークの検出(RピークQRS-EDR信号処理アルゴリズムと呼び得る)、QRS群の検出及びECG信号におけるRS範囲(range)の決定(RS範囲QRS-EDR信号処理アルゴリズムと呼び得る)、QRS群の検出及びベクトル心電図VCG解析(VCG QRS-EDR信号処理アルゴリズムと呼び得る)、心拍変動HRVの決定(HRV-EDR信号処理アルゴリズムと呼び得る)、筋電図EMG解析(EMG-EDR信号処理アルゴリズムと呼び得る)、又は任意の信号処理アルゴリズム、或いはECG信号から呼吸情報を決定するのに適した信号処理アルゴリズムの組合せを含むことができる。ここで、RS範囲とは、R波とS波との振幅差である。
【0053】
信号処理アルゴリズムの選択は、各信号処理アルゴリズムの利点と欠点に関する1組の規則に基づくことができる。1組の規則は、装置100のメモリユニット110に、又は(通信インターフェイス要素108等を介して)制御ユニット102によってアクセス可能な外部メモリユニットに記憶することができる。1組の規則は、信号処理アルゴリズムを選択から除外するために使用され、同様に、選択のための信号処理アルゴリズムを含めるために使用され得る。信号処理アルゴリズムの除外は、コンテキスト情報によって示される特定の状況、用途、又はイベントに特有のものであってもよい。
【0054】
特定の状況で特定の信号処理アルゴリズムを除外するための1組の規則の例を、以下の表に示す。
【表1】
コンテキスト情報に基づいて、1つ又は複数の生理学的信号について、除外されない(すなわち、含まれる)信号処理アルゴリズムを選択することができる。
【0055】
特定の状況に対して特定の信号処理アルゴリズムを除外するための一組の規則の例が提供されているが、特定の状況において信号処理アルゴリズムを除外する(又は、含める)他の信号処理アルゴリズム、他の状況、及び規則も使用してもよいことが理解されよう。
【0056】
いくつかの実施形態によれば、少なくとも1つの信号処理アルゴリズムを選択するための1つ又は複数の生理学的信号は、1つ又は複数の生理学的信号に関するコンテキスト情報に基づいて選択される1つ又は複数の生理学的信号である。例えば、ブロック206において、1つ又は複数の生理学的信号のそれぞれについて少なくとも1つの信号処理アルゴリズムを選択する前に、この方法は、コンテキスト情報に基づいて、獲得した生理学的信号のうちの1つ又は複数を選択するステップを含むことができ、次にブロック206において、少なくとも1つの信号処理アルゴリズムが、コンテキスト情報に基づいて選択された各生理学的信号について選択される。換言すると、いくつかの実施形態では、獲得した生理学的信号のうちの1つ又は複数は、廃棄されるか、又は後続の処理から除外され得る。例えば、獲得した生理学的信号は、獲得した生理学的信号の品質が信号品質の所定の閾値を下回っているという指標をコンテキスト情報が含む場合に、廃棄されるか、又は後続の処理から除外され得る。このようにして、後続の処理に使用すべき最適な生理学的信号を選択することが可能である。
【0057】
図2に戻って、ブロック208において、被検者の呼吸情報は、1つ又は複数の生理学的信号について選択された少なくとも1つの信号処理アルゴリズムを使用して、1つ又は複数の生理学的信号に基づいて決定される。いくつかの実施形態では、被検者の呼吸情報を決定する前に、1つ又は複数の生理学的信号をフィルタリングしてノイズを除去してもよい。これらの実施形態では、後続の処理は、フィルタリングされた1つ又は複数の生理学的信号を使用して実行される。
【0058】
被検者について決定された呼吸情報は、呼吸波形、被検者の呼吸速度、及び被検者の呼吸パターンのうちの少なくとも1つを含むことができる。例えば、呼吸情報は、被検者の呼吸波形、被検者の呼吸速度、又は被検者の呼吸パターン、或いはこの呼吸情報の任意の組合せを含むことができる。被検者について決定され得る呼吸情報の例が提供されているが、他の呼吸情報及び呼吸情報の他の組合せも可能であることが理解されよう。
【0059】
いくつかの実施形態では、被検者について決定された呼吸情報が出力される。オプションで、被検者の呼吸状態(すなわち、呼吸障害)を、被検者について決定された呼吸情報に基づいて決定することができる。呼吸状態の例には、睡眠呼吸障害(上部気道抵抗症候群及び睡眠時無呼吸等)、喘息、気管支炎、及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)、又は他の呼吸状態が含まれる。いくつかの実施形態では、被検者について決定された呼吸状態は、呼吸情報の出力に加えて、又はその代わりに出力される。被検者について決定された呼吸情報、代替的に又は追加的に被検者について決定された呼吸状態は、(前述したように装置100の一部であっても装置100の外部にあってもよい)少なくとも1つのユーザインターフェイス要素106を介して出力される(又はこの要素106によってレンダリングされる)。一実施形態では、ユーザインターフェイス要素106はスクリーンであり、出力はスクリーン上の出力メッセージとしてレンダリングされる。被検者の継続的なモニタリング中又は既往の診断報告中に出力を与えることができる。
【0060】
異なるタイプの生理学的信号を獲得することができるので、これらの異なるタイプの生理学的信号に基づいて呼吸情報(及び、オプションで呼吸状態)を決定するために、異なる信号処理アルゴリズムが必要とされ得る。いくつかの実施形態では、ECG信号処理アルゴリズムを使用してECG信号の特徴を検出する。特徴は、例えば、QRS群、検出された心拍、Rピークの位置、又はECG信号における任意の他の特徴を含むことができる。ECG信号は、セグメント(20秒のセグメント、25秒のセグメント、30秒のセグメント、35秒のセグメント、40秒のセグメント、又は任意の又は他のサイズのセグメント等)で処理してもよい。例えば、ECG信号の各セグメントについて、そのセグメントにおいて検出された干渉のない(又は、アーチファクトのない)心拍がその閾値未満である場合に、又は異常である心拍(例えば、異所性心拍)がその閾値を超える場合に、そのセグメントを廃棄してもよい。
【0061】
ECG信号で検出される各心拍について、少なくとも1つの拍動形態測定値を決定することができる。例えば、拍動形態測定は、R波の振幅の測定、S波の振幅の測定、RS範囲の測定、又は任意の他の拍動形態測定、又は拍動形態測定の組合せを含むことができる。この例示的な実施形態では、呼吸情報を決定するために使用される異なる信号処理アルゴリズムに応じて、異なる呼吸情報を決定することができる。例えば、呼吸情報は、前述したRピークQRS-EDR信号処理アルゴリズム、RS範囲QRS-EDR信号処理アルゴリズム、VCG QRS-EDR信号処理アルゴリズム、HRV-EDR信号処理アルゴリズム、又はEMG-EDR信号処理アルゴリズム、或いは他の任意の信号処理アルゴリズム、又はECG信号からの呼吸情報を決定するのに適した信号処理アルゴリズムの組合せに基づいて決定してもよい。RピークQRS-EDR信号処理アルゴリズム、RS範囲QRS-EDR信号処理アルゴリズム、HRV-EDR信号処理アルゴリズム、及びEMG-EDR信号処理アルゴリズムを含む実施形態では、ECG信号は、1つ又は複数のシングル・チャネルECGセンサを含む。VCG QRS-EDR信号処理アルゴリズムを含む実施形態では、ECG信号は、1つ又は複数のマルチ・チャネルECGセンサから獲得することができる。
【0062】
RピークQRS-EDR信号処理アルゴリズム、RS範囲QRS-EDR信号処理アルゴリズム、及びHRV-EDR信号処理アルゴリズムを含む実施形態は、呼吸情報を決定する(すなわち、EDR情報を決定する)ために同様の信号処理アルゴリズムを使用することができる。例えば、RピークQRS-EDR信号処理アルゴリズムを含む実施形態について、セグメント内で検出された干渉のない(又はアーチファクトのない)心拍がその閾値よりも小さい場合に、又は異常である心拍(例えば、異所性心拍)がその閾値よりも大きい場合に、そのセグメントを廃棄してもよい。次に、残っている各セグメントについて、各心拍からR波振幅が抽出される。R波振幅の時系列が不均一にサンプリングされる場合に、Bスプライン補間(又は、他の補間技術)を使用して、均等にサンプリングされたECG信号を生成することができる。ECG信号は、任意の適切なレートでサンプリングすることができる。例えば、ECG信号は、6サンプル/秒、7サンプル/秒、8サンプル/秒、9サンプル/秒、10サンプル/秒、又は任意の他のサンプルレートでサンプリングすることができる。ECG信号は、他の低周波及び高周波ノイズも生じる可能性があるサンプリング・エイリアシング効果を除去するために、フィルタ(帯域通過フィルタ等)を通過させてもよい。フィルタは、8~30bpmの呼吸速度又はこれと同様の呼吸速度に対応し得る。
【0063】
図3は、生理学的信号に基づいて呼吸情報を決定するための例示的な実施形態を示すグラフである。具体的には、この例示的な実施形態によれば、RピークQRS-EDR信号処理アルゴリズムを使用して、獲得したECG信号に基づいて呼吸情報が決定される。
【0064】
図3に示される例示的な実施形態では、時間-周波数ドメイン法を使用して、ECG信号を処理する。この方法では、まず、呼吸速度(respiration rate)を推定するために、時間ドメインのECG信号におけるピーク及びトラフ(trough)が検出される。図3(a)は、ピーク802及びトラフ804が時間ドメインにおいて検出されるECG信号の30秒セグメントを示す。呼吸速度は、各有効なピーク/ピーク(peak-to-peak)間隔及びトラフ/トラフ(trough-to-trough)間隔の平均値の逆数として決定することができる。より詳細には、例示的な実施形態では、30秒セグメントにおいて、ピーク/ピーク間隔及びトラフ/トラフ間隔が検出され、瞬間呼吸速度(IRR)のベクトルが、検出されたピーク/ピーク間隔及びトラフ/トラフ間隔の逆数として決定される。オプションで、IRRが所定の値(例えば、6bpm)を上回り、且つ以前のIRRよりも少なくとも30%多い場合に、代替的に又は追加的に、IRRが以前のIRRに先立つIRRよりも少なくとも40%多い場合に、決定されたIRRは、無効としてマークされ得る。無効とマークされたIRR及びそれらに対応するピーク/ピーク間隔及びトラフ/トラフ間隔が除去され、呼吸速度の最終的な時間ドメイン推定値が残りの(すなわち、有効な)間隔の平均値の逆数として決定される。時間ドメインにおいて、被検者の呼吸速度808は15.4bpmと決定される。
【0065】
図3(b)は、周波数ドメインにおける呼吸速度を示すECG信号のスペクトルを示す。サーチウィンドウ810が、呼吸速度の時間ドメイン推定値に基づいて決定される。次に、被検者の呼吸速度806は、時間ドメイン速度推定に基づいて、サーチウィンドウ810内のスペクトルにおける最大周波数値(すなわち、R波振幅)として決定される。この例示的な実施形態では、サーチウィンドウ810内のスペクトルにおける最大周波数値は15bpmである。換言すれば、呼吸速度は、周波数ドメインにおいて15bpmと決定される。例えば、図3(b)に示されるように、周波数ドメインスペクトルは、15bpmにピークを有し、約18bpmに別のピークを有する。時間ドメインからの15.4bpmの速度推定値は、15bpmにおけるピークを周波数ドメインにおける呼吸速度として決定すべきことを示す。
【0066】
他の実施形態では、R波振幅を用いて呼吸速度を決定する代わりに、RS範囲QRS-EDR信号処理アルゴリズムを含む実施形態は、RS範囲を使用して被検者の呼吸速度を決定し、HRV-EDR信号処理アルゴリズムを含む実施形態は、拍動間の間隔を使用して被検者の呼吸速度を決定する。
【0067】
いくつかの実施形態では、ECG信号における拍動間の不規則性も決定される。拍動間の不規則性は、マルコフスコアを決定するために訓練されたマルコフ・モデルを用いて決定され得る。このモデルの入力は、連続する正常な拍動の瞬時Rピーク/Rピーク(R-peak to R-peak)間隔とすることができる。ECG信号のセグメントについて、最小のマルコフスコアが閾値(例えば、-220の値)未満である場合に、セグメントは拍動間に不規則性を有するとみなされ、こうしてHRV-EDR信号処理アルゴリズムはこのセグメントには使用されない。
【0068】
VCG QRS-EDR信号処理アルゴリズムを使用する実施形態では、マルチ・チャネルECGセンサ(12リードECGセンサ等)及びリード変換アルゴリズム(Frank VCGリード変換アルゴリズム等)を使用して、心臓の電気軸(cardiac electrical axis)を決定することができる。次に、上述したRピークQRS-EDR信号処理アルゴリズムを使用して、被検者の呼吸速度を決定することができる。
【0069】
ECG信号が不均一にサンプリングされる実施形態では、ECG信号を最初に処理して、均一にサンプリングされたECG信号を獲得することができる。例えば、ECG信号を補間し、且つフィルタ(帯域通過フィルタ等)を通過させて、均一にサンプリングされたECG信号を生成することができる。あるいはまた、不均一にサンプリングされたECG信号を直接的に処理してもよい。例えば、不均一にサンプリングされたECG信号上の周波数スペクトルを直接的に決定するために、最小二乗スペクトル解析LSSA(Lomb又はLomb-Scargle法とも呼ばれる)を使用してもよい。次に、周波数スペクトルを使用して、呼吸速度の優勢な(dominant)周波数を特定することができる。
【0070】
EMG-EDR信号処理アルゴリズムを使用する実施形態では、ECG信号は、所定の値まで(例えば、500Hzまで)の帯域幅を有する所定のレート(例えば、1000sps)でサンプリングすることができる。EMGを強調し、低周波数の心臓成分を除去するために、ハイパスフィルタ(例えば、250Hzにおいて)を適用してもよい。RMS波形を得るために、(例えば、52msの)時間窓における信号の二乗平均平方根(RMS)が決定される。時間窓は、一度に1サンプルだけ前方にスライドするスライド式窓であってもよい。(例えば、上述したような)ECG信号処理アルゴリズム及び線形補間を使用して検出されたQRS群に基づいて、望ましくない残留QRSアーチファクトを除去することができる。RMS波形を(例えば、ローパスフィルタ又は移動平均フィルタを使用して)フィルタリングして、RMS波形が平滑化される。次にスペクトル解析を実行して、被検者の呼吸速度を決定する。
【0071】
インピーダンス信号処理アルゴリズムを使用する実施形態又は加速度計信号処理アルゴリズムを使用する実施形態では、フィルタ(0.13Hz~0.50Hzの間の帯域通過フィルタ等)を使用して、獲得したインピーダンス信号からノイズを除去することができる。次にスペクトル解析を実行して、被検者の呼吸速度を決定することができる。
【0072】
PPG信号処理アルゴリズムを使用する実施形態では、PPG信号の呼吸情報は、PPG信号の循環変調として反映される。PPG信号からの呼吸情報の決定は、PPG信号の包絡線が検出されるという点で、ECG信号におけるQRS群の決定と同様である。次に、検出されたPPG信号の包絡線を用いて、被検者の呼吸速度を決定する。具体的には、PPG信号における各拍動のピーク振幅が決定され、次に補間アルゴリズムを用いて、均等にサンプリングされた波形包絡線が生成される。その後、均等にサンプリングされた波形包絡線に対してスペクトル解析を実行して、被検者の呼吸速度を決定することができる。
【0073】
例示的な信号処理アルゴリズムが提供されているが、生理学的信号から呼吸情報を決定するのに適した他の信号処理アルゴリズムも使用できることは理解されよう。
【0074】
いくつかの実施形態では、被検者の呼吸情報は、少なくとも1つのそれぞれの信号処理アルゴリズムを使用して、1つ又は複数の生理学的信号のそれぞれを処理することによって決定される。例えば、1つ又は複数の生理学的信号のそれぞれについて、その生理学的信号について選択された1つ又は複数の信号処理アルゴリズムを使用して生理学的信号を処理することによって、被検者の呼吸情報を決定することができる。換言すれば、生理学的信号と、生理学的信号を処理するために使用される信号処理アルゴリズムとの間に1対1対応が存在し得る。しかしながら、他の実施形態では、この1対1対応は存在しない。
【0075】
例えば、他の実施形態では、被検者の呼吸情報は、選択した信号処理アルゴリズムのうちの任意の1つ又は複数を使用して、1つ又は複数の生理学的信号のそれぞれを処理することによって決定される。例えば、被検者の呼吸情報は、選択した信号処理アルゴリズムのうちのいずれか1つを使用する又は選択した信号処理アルゴリズムのうちの複数を使用して、1つ又は複数の生理学的信号のうちの少なくとも1つを処理することによって決定され得る。このようにして、同じ信号処理アルゴリズムを使用して2つ以上の生理学的信号を処理することができ、同様に、2つ以上の信号処理アルゴリズムを使用して同じ生理学的信号を処理することができる。
【0076】
他の実施形態では、被検者の呼吸情報は、各選択した信号処理アルゴリズムを使用して、1つ又は複数の生理学的信号のそれぞれを処理することによって決定される。例えば、被検者の呼吸情報は、選択した全ての信号処理アルゴリズムを使用して全ての生理学的信号を処理することによって決定してもよい。
【0077】
少なくとも1つの生理学的信号に対して2つ以上の信号処理アルゴリズムが選択される実施形態では、(ブロック208において)被検者の呼吸情報を決定する前に、少なくとも1つの生理学的信号について選択された2つ以上の信号処理アルゴリズムは、結合信号処理アルゴリズムに結合される。これらの実施形態によれば、少なくとも1つの生理学的信号についての合成信号処理アルゴリズムを使用して、少なくとも1つの生理学的信号に基づいて被検者の呼吸情報を決定することができる。
【0078】
いくつかの実施形態では、2つ以上の(すなわち、複数の)信号処理アルゴリズムの結合は、異なる信号処理アルゴリズムを結合して、同じ生理学的信号から又は異なる生理学的信号から被検者の呼吸情報を決定することを含むことができる。例えば、これは、異なる信号処理アルゴリズムの出力(例えば、波形)をスペクトル処理して、結合したクロススペクトルを得ることを含むことができる。
【0079】
図4は、異なる信号処理アルゴリズムを組み合わせて、このように異なる生理学的信号から被検者の呼吸情報を決定する例示的な実施形態を示すフローチャートである。具体的には、この例示的実施形態によれば、ブロック318、320、322、324、326、及び328において異なる信号処理アルゴリズムを使用して、ブロック302、304、306、及び308において獲得した異なる生理学的信号から被検者の呼吸情報を決定する。
【0080】
(ブロック302、304、306、及び308において)複数の生理学的信号が獲得される。この例示的な実施形態によれば、ブロック302において加速度計信号が獲得され、ブロック304においてインピーダンス信号が獲得され、ブロック306においてECG信号が獲得され、ブロック308においてPPG信号が獲得される。また、(ブロック310、312、314、及び316において)、被検者及び生理学的信号に関するコンテキスト情報が取得される。この例示的な実施形態によれば、コンテキスト情報は、ブロック310で獲得した被検者情報、ブロック312で獲得した治療情報、ブロック314で獲得したセンサ情報、及びブロック316で獲得した診断情報を含む。
【0081】
ブロック332において、複数の信号処理アルゴリズムが、ブロック310、312、314、及び316で獲得したコンテキスト情報に基づいて、ブロック302、304、306、及び308で獲得した各生理学的信号について選択される。具体的には、この例示的な実施形態によれば、ブロック318においてインピーダンス信号処理アルゴリズムが出力され、ブロック320において加速度計信号処理アルゴリズムが出力され、ブロック322においてEMG-EDR信号処理アルゴリズムが出力され、ブロック324においてHRV-EDR信号処理アルゴリズムが出力され、ブロック326においてQRS-EDR信号処理アルゴリズムが出力され、ブロック328においてPPG信号処理アルゴリズムが出力される。
【0082】
ブロック330において、3つの信号処理アルゴリズムを結合して、結合処理アルゴリズムにする。具体的には、EMG-EDR信号処理アルゴリズム、HRV-EDR信号処理アルゴリズム、及びQRS-EDR信号処理アルゴリズムを結合して、合成信号処理アルゴリズムとする。
【0083】
例えば、これらの3つの信号処理アルゴリズムのそれぞれを使用して、同じサンプルレートで波形(A、B、及びCで表される)を生成することができる。次に、スペクトル解析アルゴリズム(高速フーリエ変換アルゴリズムFFT、窓ベースのピリオドグラム、又は別のスペクトル密度推定アルゴリズム等)を使用して、
【数1】
として表される各波形の個別のパワースペクトルを決定することができる。ここで、nは波形の周波数点の指数であり、
【数2】
は波形の振幅であり、
【数3】
は波形の位相である。複数の信号処理アルゴリズムは、クロススペクトルを
【数4】
として決定することによって結合することができる。クロススペクトルの振幅は、波形の個々の振幅の乗算である。次に、このクロススペクトルの振幅を解析して、被検者の呼吸情報を決定することができる。例えば、被検者の呼吸速度は、クロススペクトルにおける優勢な周波数として決定され得る。
【0084】
ブロック334において、被検者の呼吸情報は、ブロック318でのインピーダンス信号処理アルゴリズムの出力、ブロック320での加速度計信号処理アルゴリズムの出力、ブロック330での結合信号処理アルゴリズムの出力、及びブロック328でのPPG信号処理アルゴリズムの出力を使用して、ブロック302、304、306、及び308で獲得した生理学的信号に基づいて決定される。
【0085】
図5は、異なる信号処理アルゴリズムを結合して、同じ生理学的信号から被検者の呼吸情報を決定する例示的な実施形態を示すフローチャートである。具体的には、この例示的な実施形態によれば、異なる心電図(ECG)信号処理アルゴリズムを使用して、同じ生理学的信号から被検者の呼吸情報を決定し、及び異なる信号処理アルゴリズムを結合して、同じ生理学的信号から被検者の呼吸情報も決定する。
【0086】
心電図(ECG)信号が最初に獲得される。ECG信号は、シングル・チャネルECGセンサ又はマルチ・チャネルECGセンサから獲得することができる。ブロック410において、初期ECG信号処理アルゴリズムを使用して、獲得したECG信号の特徴を検出する。例えば、QRS拍動が検出され、獲得したECG信号におけるRピークが特定される。次に、複数のECG信号処理アルゴリズムを使用して、獲得したECG信号を処理する。ブロック402においてVCG QRS-EDR信号処理アルゴリズムを使用してVCGを計算し、ブロック404においてRピークQRS-EDR信号処理アルゴリズムを使用してRピークの振幅を抽出し、ブロック408においてRS範囲QRS-EDR信号処理アルゴリズムを使用してRS振幅範囲を抽出し、ブロック412においてHRV-EDR信号処理アルゴリズムを使用してRピーク間の間隔(R/R間隔と呼び得る)を抽出し、ブロック416においてEMG-EDR信号処理アルゴリズムを使用して高周波EMGを検出する。また、ブロック402、406、408、412、及び416のECG信号処理アルゴリズムのそれぞれを結合して、結合ECG信号処理アルゴリズム(結合EDRと呼び得る)とする。前述したように、異なるECG信号処理アルゴリズムは、クロススペクトルを使用して結合することができる。
【0087】
ブロック404において、被検者の呼吸情報は、ブロック402でのVCG QRS-EDR信号処理アルゴリズム、ブロック404でのRピークQRS-EDR信号処理アルゴリズム、ブロック408でのRS範囲QRS-EDR信号処理アルゴリズム、ブロック412でのHRV-EDR信号処理アルゴリズム、ブロック416でのEMG-EDR信号処理アルゴリズム、及びブロック414での結合信号処理アルゴリズムのそれぞれの出力から獲得したECGに基づいて決定される。
【0088】
図6は、異なる信号処理アルゴリズムを使用して同じECG信号を処理することによって出力される異なる例示的な波形出力を示すグラフである。
【0089】
図6Aは、RS範囲QRS-EDR信号処理アルゴリズム及びHRV-EDR信号処理アルゴリズムを使用して、センサから獲得したECG信号を処理することによる、シングル・チャンネルECGセンサからの出力波形の例を示す。図6Aに示される例示的なフロー波形は、(例えば、鼻カニューレを用いて)被検者の呼吸を直接監視することによって獲得された気流信号である。
【0090】
図6Bは、図6Aの30秒間のセグメント窓502のスペクトル解析に基づいた、被検者の呼吸速度の決定の一例を示す。QRS-EDR信号処理アルゴリズムからの出力波形及びHRV-EDR信号処理アルゴリズムからの出力波形の個々のパワースペクトルが(例えば、Blackman-windowベースのピリオドグラムを使用して)決定される。相関したクロスパワースペクトルも決定される。クロスパワースペクトルは、優勢な周波数を推定するためのよりロバストな方法を提供し、こうして個々のパワースペクトルよりも被検者の呼吸速度を特定することが分かる。
【0091】
2つ以上の生理学的信号が獲得される実施形態では、2つ以上の生理学的信号のそれぞれから決定される呼吸情報を組み合わせてもよい。被検者の呼吸情報は、2つ以上の生理学的信号のうちの少なくとも2つ(又は全て)について同じ信号処理アルゴリズムを使用して、又は2つ以上の生理学的信号のうちの少なくとも2つ(又は全て)について異なる信号処理アルゴリズムを使用して、決定することができる。
【0092】
図7は、異なる信号処理アルゴリズムを使用して、異なる生理学的信号から決定された被検者の呼吸情報が組み合わされる例示的な実施形態を示すフローチャートである。具体的には、この例示的な実施形態によれば、ブロック602、608、614、及び618において異なる信号処理アルゴリズムを使用して、異なる生理学的信号から被検者の呼吸情報を決定する。
【0093】
複数の生理学的信号が獲得され、対応する信号処理アルゴリズムが獲得した各生理学的信号について選択され、獲得した生理学的信号は対応する信号処理アルゴリズムを使用して処理される。この例示的な実施形態によれば、ブロック602において、ECG信号が獲得され且つECG信号処理アルゴリズムを使用して処理され、ブロック608において、インピーダンス信号が獲得され且つインピーダンス信号処理アルゴリズムを用いて処理され、ブロック614において、加速度計信号が獲得され且つ加速度計信号アルゴリズムを用いて処理され、ブロック618において、PPG信号が獲得され且つPPG信号処理アルゴリズムを使用して処理される。
【0094】
ブロック604、610、616、及び620において、被検者の呼吸情報は、その生理学的信号について選択された対応する信号処理アルゴリズムからの出力を使用して、各生理学的信号に基づいて決定される。具体的には、この例示的な実施形態によれば、ブロック604において、被検者の呼吸情報は、ECG信号処理アルゴリズムからの出力を使用してECG信号に基づいて決定され、ブロック610において、被検者の呼吸情報は、インピーダンス信号処理アルゴリズムからの出力を使用してインピーダンス信号に基づいて決定され、ブロック616において、被検者の呼吸情報は、加速度計信号処理アルゴリズムからの出力を使用して加速度計信号に基づいて決定され、ブロック620において、被検者の呼吸情報は、PPG信号処理アルゴリズムからの出力を使用してPPG信号に基づいて決定される。
【0095】
ブロック606において、ブロック604、610、616、及び620における異なる信号処理アルゴリズムのそれぞれを使用して獲得した生理学的信号のそれぞれから決定された呼吸情報が組み合わされる。ブロック612において、組み合わされた(複合)呼吸情報が出力される。
【0096】
決定された各呼吸速度は、数値に定量化することができる。複合呼吸情報の出力は、各呼吸速度値の加重和であってもよい。各呼吸速度値に対する重みは、その呼吸速度が決定される生理学的信号の品質に基づいて決定され得る。例えば、各生理学的信号について信号品質レベルを提供することができる。信号品質レベルは、悪い(Poor)(P)、適度(Moderate)(M)、又は良好(Good)(G)としてマークされる。P品質を有する生理学的信号には重み0が割り当てられる。換言すれば、ブロック606において、P品質を有する生理学的信号は、組合せプロセスから除外される。品質レベルGを有する生理学的信号には、品質レベルMを有する生理学的信号の2倍の重みが割り当てられる。品質レベルMを有するn個の生理学的信号及び品質レベルGを有するn個の生理学的信号が存在する場合に、品質レベルMを有する各生理学的信号の重み(w)は、w=1/(n+2*n)であり、品質レベルGを有する各生理学的信号の重みは2*wである。
【0097】
図8は、異なる信号処理アルゴリズムを使用して複数の異なる生理学的信号を処理することによって出力される異なる例示的な波形を示すグラフ図である。
【0098】
この例では、インピーダンス信号とECG信号との両方が利用可能であり、それぞれが被検者の呼吸情報を決定するために使用され得る。インピーダンス信号の品質レベルは適度(M)であり、ECG信号の品質レベルは良好(G)である。ECG信号及びインピーダンス信号から決定された被検者の呼吸速度は、それぞれ19.07bpm及び17.29bpmである。インピーダンス信号から決定された呼吸速度には1/3の重みが割り当てられ、ECG信号から決定された呼吸速度には2/3の重みが割り当てられる。従って、被検者の結合呼吸速度は、(1*19.07+2*17.29)/3=17.88bpmである。
【0099】
異なる信号処理アルゴリズムから決定された呼吸情報を組み合わせるための他の技術も使用することができる。例えば、1つの呼吸情報源が基準信号として使用される適応信号処理モデルを使用することができる。一実施形態では、ECG信号を基準信号として使用し、インピーダンス信号を所望の信号として使用することができる。ECG信号及びインピーダンス信号は、適応フィルタに入力され、各信号の呼吸情報が決定される。次に、ECG信号に基づいて決定された呼吸情報と、インピーダンス信号に基づいて決定された呼吸情報とを組み合わせて、複合呼吸情報を決定する。ここでは、呼吸情報を組み合わせるための例が提供されているが、任意の生理学的信号から決定された呼吸情報をこのように組み合わせることができることは理解されよう。
【0100】
信号処理アルゴリズム、複数の信号処理アルゴリズムを結合する方法、及び決定された呼吸情報を組み合わせる方法についての例が提供されているが、他の信号処理アルゴリズム及び結合技術も使用できることは理解されよう。
【0101】
従って、被検者の呼吸情報を決定するための改良された方法及び装置が提供される。本方法及び装置は、被検者の家庭又は専門の医療施設(病院等)における呼吸活動の信頼性のある正確な非侵襲的モニタリングを提供するのに有用であり得る。この方法及び装置は、ウェアラブル装置、運動装置、歩行装置、ベッドサイド監視装置、遠隔測定装置、生命維持装置、又は被検者の少なくとも1つの生理学的信号を獲得する他の装置に適用することができる。
【0102】
開示された実施形態に対する変形は、図面、明細書の開示及び添付の特許請求の範囲の検討から、特許請求の範囲に記載された発明を実施する際に当業者によって理解され、達成され得る。特許請求の範囲において、「備える、有する、含む(comprising)」という単語は他の要素又はステップを排除するものではなく、不定冠詞「1つの(a, an)」は複数を除外しない。単一のプロセッサ又は他のユニットが、請求項に列挙された、いくつかの項目の機能を果たすことができる。特定の手段が互いに異なる従属請求項に列挙されているという単なる事実は、これらの手段の組合せが有利に使用できないことを示すものではない。コンピュータプログラムは、他のハードウェアと一緒に又は他のハードウェアの一部として供給される光記憶媒体又は固体媒体等の適切な媒体上に記憶/分配され得るが、インターネット或いは他の有線又は無線の通信システム等を介して他の形態でも分配され得る。請求項におけるいかなる参照符号も、その範囲を限定するものとして解釈すべきではない。
図1
図2
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図5
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図7
図8