(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】正温度係数を有する導電性成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20220207BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20220207BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20220207BHJP
C08L 91/06 20060101ALI20220207BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20220207BHJP
C08L 53/00 20060101ALI20220207BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20220207BHJP
C08L 23/06 20060101ALI20220207BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220207BHJP
H01C 7/02 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/01
C08L91/00
C08L91/06
C08L71/02
C08L53/00
C08L23/12
C08L23/06
C08K3/04
H01C7/02
(21)【出願番号】P 2018567086
(86)(22)【出願日】2017-06-22
(86)【国際出願番号】 EP2017065461
(87)【国際公開番号】W WO2017220747
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-03-12
(31)【優先権主張番号】102016111433.2
(32)【優先日】2016-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】502451568
【氏名又は名称】テューリンギッシェス・インスティトゥート・フューア・テクスティル-ウント・クンストストッフ-フォルシュング・エー・ファウ
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】クラウス、ハイネマン
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ-ウベ、バウアー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス、ベルツェル
(72)【発明者】
【氏名】マリオ、シュレードナー
(72)【発明者】
【氏名】フランク、シューベルト
(72)【発明者】
【氏名】ザビーネ、リーデ
【審査官】長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-208505(JP,A)
【文献】特表2013-513246(JP,A)
【文献】特開2000-159951(JP,A)
【文献】特開平06-045105(JP,A)
【文献】特表2004-512439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/00
C08K 3/00- 13/08
H01C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの有機マトリックスポリマー(化合物材料成分A)、10nm以上1000nm未満の寸法を有する少なくとも1つの導電性添加剤(化合物材料成分B)および-42℃~+150℃の範囲の相変化温度を有する少なくとも1つの相変化材料(化合物材料成分D)を含んでなるポリマー組成物から製造された固有の正温度係数を有する導電性成形物であって、前記ポリマー組成物の溶融範囲が100℃~450℃の範囲内である前記成形物において、前記相変化材料は少なくとも2つの異なるエチレン性不飽和モノマー(化合物材料成分C)をベースとする少なくとも1つの共重合体から製造された有機網状構造物中に含まれ、前記相変化材料の主溶融ピークの温度範囲内の前記ポリマー組成物のPTC
の強度が顕著な上昇を示し、前記PTC
の効果は温度上昇の結果として前記相変化材料の体積増大に起因するように前記相変化材料を選択し、前記PTCが効果を生ずる場合前記導電性成形物は結晶構造の形態変化も溶融もせず
、前記成形物は、それぞれの場合において前記成形物の総重量に対して、
前記有機マトリックスポリマー10~90重量%、前記導電性添加剤0.1~30重量%、-42℃~150℃の範囲の相変化温度を有する相変化材料2~50重量%、安定剤、改質剤および分散剤0~10重量%、加工助剤0~10重量%を含んでなり、前記
成形物の
全成分の重量パーセントの合計が100重量%であり、前記少なくとも2つの異なるエチレン性不飽和モノマー(化合物材料成分C)をベースとする少なくとも1つの共重合体が、少なくとも2つの異なるポリマーブロックを有する
スチレンブロック共重合体であり、
前記相変化材料が、天然もしくは合成パラフィン、天然もしくは合成ワックス、ポリアルキレングリコール、またはその2つ以上の混合物であり、前記相変化材料の融点または溶融範囲が前記有機マトリックスポリマーの融点または溶融範囲より少なくとも10℃低く、前記成形物が、モノフィラメント、マルチフィラメント、繊維または不織布であることを特徴とする、成形物。
【請求項2】
前記有機マトリックスポリマー(化合物材料成分A)が、ポリエチレン
、エチレン共重合体、アタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン
、アイソタクチックポリプロピレン、プロピレン共重合体、ポリアミド
、コポリアミド
、ホモポリエステル、脂肪族コポリエステル、脂環式コポリエステル
、半芳香族コポリエステル
、改質ポリエステル
、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン単位を有する共重合体、架橋性熱可塑性重合体
、架橋性熱可塑性共重合体、また
は前記重合体の2つ以上の混合物もしくは配合物であることを特徴とする
、請求項1に記載の成形物。
【請求項3】
前
記導電性添加剤(化合物材料成分B)が、サブマイクロスケールもしくはナノスケールの粒子、フレーク、ニードル、チューブ、プレートレットおよび/または回転楕円
体;サブマイクロスケールもしくはナノスケール金属フレークまたは
金属粒子;導電性ポリマー、単層もしくは多層
カーボンナノチューブ(CNT)、開口もしくは閉じた
カーボンナノチューブ、
非内包型もしくは内包型カーボンナノチュー
ブ、または金属内包カーボンナノチューブを含んでなることを特徴とする
、請求項1または2に記載の成形物。
【請求項4】
前記少なくとも2つの異なるポリマーブロックを有する
スチレンブロック共重合体が、スチレン・ブタジエン・スチレン(SBS)ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン(SIS)ブロック共重合体、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン(SEPS)ブロック共重合体
またはスチレン・ポリ(イソプレン・ブタジエン)・スチレンブロック共重合
体であり、前記
相変化材料は非晶質ポリマー、例えば、シクロオレフィン共重合体(COC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、非晶質ポリプロピレン、非晶質ポリアミド、非晶質ポリエステルまたはポリカーボネート(PC)を必要に応じて付加的に含んでなることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の成形物。
【請求項5】
前記相変化材料が、その体積の可逆変化と連動する-42℃~+150℃の範囲の相変化を有することを特徴とする、請求項1~
4のいずれか一項に記載の成形物。
【請求項6】
前記ポリマー組成物が、安定剤、改質剤、分散剤および/または加工助剤を含んでなることを特徴とする、請求項1~
5のいずれか一項に記載の成形物。
【請求項7】
単独または加工助剤および/もしくは改質剤との併用での前記マトリックスポリマーの融点または溶融範囲が、100℃~450℃の範囲内であることを特徴とする、請求項1~
6のいずれか一項に記載の成形物。
【請求項8】
相変化材料の融点または溶融範囲が、前記
有機マトリックスポリマーの融点または溶融範囲よ
り少なくとも20℃
、好ましくは少なくとも30℃低いことを特徴とする、請求項1~
7のいずれか一項に記載の成形物。
【請求項9】
24℃の温度における前記成形物の抵抗率が、0.001Ω・m~3.0Ω・mであることを特徴とする、請求項1~
8のいずれか一項に記載の成形物。
【請求項10】
24℃≦T≦90℃の温度範囲において、前記成形物の温度依存性抵抗率がρ(T)であり、比ρ(T)/ρ(24℃)は、温度Tの上昇と共に、1から1.1~30の値に増大することを特徴とする、請求項1~
9のいずれか一項に記載の成形物。
【請求項11】
24℃≦T≦90℃の温度範囲において、前記成形物の温度依存性抵抗率がρ(T)であり、比ρ(T)/ρ(24℃)は、温度Tの上昇と共に、1から1.1~21の値に増大し、増大範囲における増大勾配[ρ(T+ΔT)-ρ(T)]/[ρ(24℃)・ΔT]の平均値が、0.1/℃~3.5/℃であることを特徴とする、請求項1~1
0のいずれか一項に記載の成形物。
【請求項12】
前記成形物が、加熱および/または高エネルギー照射処理により、化学架橋剤を用いて架橋されていることを特徴とする、請求項1~1
1のいずれか一項に記載の成形物。
【請求項13】
相変化材料(化合物材料成分D)を共重合体(化合物材料成分C)で処理してマスターバッチを得て、次いで、前記他の成分と混合することを特徴とする、請求項1~1
2のいずれか一項に記載の成形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固有の正温度係数(PTC)を有し、少なくとも1つの有機マトリックスポリマー、サブマイクロスケールまたはナノスケール導電性粒子および-42℃~+150℃の範囲の相変化温度を有する少なくとも1つの相変化材料を含んでなる、導電性ポリマー組成物から製造された導電性成形物に関する。成形物は、射出成形法により製造され、具体例としては、自動車ヒーティングシステムまたは電気毛布もしくは産業織物において使用することができる導電性モノフィラメント、マルチフィラメント、繊維、不織布、フォームまたはフィルムもしくは箔であり、電流に応じて自動制御される。
【背景技術】
【0002】
PTC抵抗またはPTCサーミスタは、電気抵抗率の正温度係数(PTC)を有し、高温より低温においてより良好な電気伝導度を有する導電性材料である。比較的狭い温度範囲内で、電気抵抗率は温度の上昇と共に顕著に上昇する。この種の材料は、発熱素子、電流制限スイッチまたはセンサーに使用することができる。既知のPTCポリマー組成物は、室温、すなわち、約24℃において低抵抗を有し、したがって、電流が流れるのを可能とする。温度が融点の近くまで大幅に上昇する場合、抵抗は室温(24℃)における値の104~105倍の値まで上昇する。
【0003】
ポリマーのPTC組成物は、有機ポリマーと導電性添加剤との混合物、特に、結晶性および半結晶性ポリマーと導電性添加剤との混合物からなる。従来技術におけるPTC効果は、大部分、温度上昇中に結晶性ポリマードメインが構造的に変化して非晶質または結晶性の低いドメインを得ることに基づいている。特定のポリマー混合物は、熱可塑性ポリマーだけでなく、熱弾性ポリマー、樹脂および他のエラストマーも含んでなる。この例は、国際公開第2006/115569号に記載されている。
【0004】
上記種類のポリマー組成物は、PTC効果が主成分として使用されるポリマーの構造的変化に基づいたスイッチング挙動に制限されるという短所を有する。PTC強度、すなわち、抵抗の変化は、さらに、使用されるポリマーまたはポリマー配合物に非常に高度に依存する。
【0005】
従来技術は、コーティングまたはラッカーシステム用に提供されるPTC効果を有する液体ポリマー分散液も開示している。これらの液体ポリマー分散液におけるPTC効果は、添加剤、例えば、パラフィンまたはポリエチレングリコール(PEG)に基づいている(例えば、国際公開第2006/006771号参照)。
【0006】
特開2012-181956号公報は、アクリレートポリマー、結晶性熱硬化性樹脂、パラフィン、導電性材料としてカーボンブラックおよびグラファイト、ならびに架橋剤を含んでなる水性塗料分散液を開示している。熱硬化性樹脂は、好ましくは、ポリエチレングリコールであり、架橋剤は、好ましくは、ポリイソシアネートである。塗料を面に塗布し、30~60分間、130~200℃の温度まで加熱する。このように、PTC効果を有し、面状発熱素子としての役割を果たすことができるコーティングを製造する。
【0007】
多かれ少なかれ、コーティング中に見られる窪みおよび膨れの形成と共に塗布中に蒸発による制御されない溶媒の減少は、しばしば起こるので、上記種類の含浸組成物およびコーティング組成物は問題である。塗布される基材の前処理が不充分である場合、過度に低いまたは過度に高い表面エネルギー、または不適切な表面構造のために、コーティングの接着はしばしば不完全である。これは、機能層の剥離およびフレーキングをもたらし、これに関連して、電気伝導度およびPTC効果を相当に損なう。含浸組成物もしくはコーティング組成物の不完全な塗布、不純分な乾燥および/もしくは架橋、過度な高乾燥温度もしくは硬化温度、過度な長時間乾燥もしくは長時間硬化、または架橋放射線照射の過度な線量は、コーティングの耐久性および機能性に対して直接的に有害な影響を及ぼす。このことは、特に、以下に限定されるものではないが、織物のコーティングにおいて正しい。比較的僅かに、あるいは大きな領域にわたって、しばしば見られる別の現象は、短い使用時間後にこの不良の原因となる、前記含浸システムおよびコーティングからのパラフィンの「ブリーディング」である。
【0008】
M.Bischoffらの論文Technische Textilien 2/2016, pp. 50-52中の「Herstellung eines Black-Compounds aus PE/Leitruss zur Anwendung fuer aufheizbare Fasern」[加熱可能な繊維用途の黒色化合物材料体PE/導電性カーボンブラック]は、90%のポリエチレンおよび10%の導電性カーボンブラックから製造された化合物材料の電気伝導度、および該化合物材料による発熱に関する。
【0009】
米国特許第6,607,679(B2)号は、低分子量有機化合物、導電性金属粒子、および少なくとも2つのポリマーから製造されたマトリックスを含んでなる有機PTCサーミスタであって、各導電性粒子の表面が10~500個の円錐状突起物を有する、該有機PTCサーミスタについて記載している。約10~1000個の前記粒子は網目状に結合して二次粒子を得ることができる。個々の粒子は、好ましくは、ニッケルからなる。これらの平均径は、約3~7μmである。マトリックス中の2つのポリマーのうち少なくとも1つは、熱可塑性エラストマーでなければならない。熱可塑性エラストマーは、たとえ低分子量有機化合物が溶融する場合でも、PTC複合材の電気特性、特に室温における低電気抵抗および高温における大きな抵抗変化の再現性を保証する。低分子量有機化合物は、好ましくは、40~200℃の融点を有するパラフィンワックスである。マトリックスは、例えば、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、タングステンカーバイド、窒化チタン、炭化チタンもしくはホウ化チタン、窒化ジルコニウムまたはケイ化モリブデンから製造された他の導電性粒子を含んでなることができる。PTCサーミスタを、高温(例えば、150℃)において加圧またはトルエンなどの溶媒を付加的に含んでなる混合物を担体、例えば、ニッケル箔に塗布し、次いで、得られたコーティングを加熱して架橋することにより製造することができる。
【0010】
国際公開第2006/006771(A1)号は、正温度係数(PTC)を有する水性導電性ポリマー組成物について記載している。これは、水可溶性ポリマー、パラフィン、および導電性カーボンブラックを含んでなる。水可溶性ポリマーは、好ましくはポリエチレングリコールである。該水性組成物を使用して、平面状発熱素子として使用することができるコーティングを製造することができる。
【0011】
正温度係数(PTC)を有する導電性ポリマー成形物の製造に関する従来技術で開示された材料は、水性分散液系であり、溶融、例えば、押出、溶融紡糸および射出成形に適していない。本発明の目的のためのPTCを有する導電性ポリマー成形物用組成物は、実質的成分としてマトリックスポリマー、導電性添加剤および相変化材料を含んでなる。溶融を含む過程の処理温度は、通常、100℃~400℃超の範囲、特に、105℃~450℃の範囲である。これらの温度において、相変化材料は液体であり、低粘度である。対照的に、可塑化されたマトリックスポリマーの粘度は実質的により高く、数桁違ってより高いことがある。マトリックスポリマーおよび相変化材料、例えば、ポリエチレンおよびパラフィンの良好な混和性がある場合でさえ、相変化材料はマトリックスポリマー中にインターカレートした相の形態をとる。押出機のダイまたは射出成形ノズルにおける高機械負荷もしくは高せん断応力、または圧が、相変化材料の溶融範囲を充分に超える温度と組み合わされる場合、結果として、インターカレートした低粘度相変化材料はマトリックスポリマーから強制的に外に出され、ある程度、環境中に失う。この効果は、さらに、特に温度-せん断応力/圧範囲において、変形誘起相分離または偏析により増幅され得る。相変化材料の損失は、押し出された成形物、例えば、繊維または箔の寸法が少なくとも1つの空間方向において小さい;1000μm未満。本発明の目的のため、用語「ブリードアウト」は、相変化材料の損失のためにも使用される。
【0012】
PCT成形物の意図された使用中、相変化材料は、引き続いて、時々かなりの機械負荷に曝されながら加熱され液化される。したがって、相変化材料の「ブリーディング」は、PTC成形物の使用中に起こる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】国際公開第2006/115569号
【文献】国際公開第2006/006771号
【文献】特開2012-181956号公報
【文献】米国特許第6,607,679(B2)号
【文献】国際公開第2006/006771(A1)
【非特許文献】
【0014】
【文献】M.Bischoffらの論文Technische Textilien 2/2016, pp. 50-52中の「Herstellung eines Black-Compounds aus PE/Leitruss zur Anwendung fuer aufheizbare Fasern」
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の成形物は、特に、電気発熱シート材、例えば、箔、紡織繊維および/または不織布を対象とする。電流が流れる抵抗Rを有する導体中で生じる熱出力Pは、P=U・I=U2/R(式中、Uは電圧であり、Iは電流である)の関係から算出されるオームの法則から算出された電力出力と本質的に同等である。数ワットから約2000Wまでの熱出力Pは、用途および成形物または本発明の電気発熱シート材の大きさに応じて達成可能である。熱出力は、成形物の利用可能な電圧Uおよび抵抗Rにより課される上向きの制限に付されている。固定用途または携帯用途、例えば、家庭用途、病院用途、または自動車用途用に利用可能な電圧は、1.5~240Vの範囲である。所与の電圧Uおよび所望の熱出力Pに対して、抵抗Rは、R=U2/Pの関係から算出される。例として、電圧U=240VでP=300Wの熱出力に対して、抵抗Rは、(240V)2/300W=192Ωである。同様に、電圧U=1Vで熱出力P=1Wに対して、必要な抵抗Rは、(1V)2/1W=1Ωである。したがって、成形物の電気抵抗Rは、1~200Ωの範囲内であることが目的となる。
【0016】
電流が流れる物体の抵抗Rは、電流が移動する距離または経路の長さLおよびR=ρ・L/A(式中、ρはΩ・mm2/mまたはしばしばΩ・mもしくはΩ・cmの単位で物体の電気抵抗率である)の関係に従って電流の経路に対して垂直な面内の物体の断面積Aに依存する。抵抗率は、物体の形状寸法に関係なく、所与の材料に対して一定である。これは、厚さT=200μm、電流が移動する距離L=1000mm、および幅W=800mmの箔を考えることにより例証され得る。電流が移動する距離Lにわたる箔の抵抗Rは、R=100Ωであろう。箔材料の抵抗率ρについて得られた値は、
ρ=R・A/L=R・T・W/L=100Ω・200μm・800mm/1000mm=16000Ω・μm=0.016Ω・m
である。
【0017】
導電性成形物の抵抗率ρは、導電性添加剤の含有率および電気伝導度により決められる。上記ヒーティングの応用に必要な抵抗率は、原則として、導電性添加剤の対応した高含有率により達成することができる。しかしながら、これに関連した費用、および/または成形物の機械特性を損なうことは多くの応用にとって考慮すべき障害となる。
【0018】
所定の電気伝導度または本発明のポリマー成形物に対する電気抵抗率を提供するために、ポリマーマトリックス中の導電性添加剤は、適切な形態を有する導電性ネットワークを展開しなければならない。同時に、成形物の機械特性、例えば、破断伸びを過度に損なうのを避けるために、導電性添加剤の割合を特定の値を超えないようにする。
【0019】
本発明は、これまでにある問題を克服し、固有PTC効果を有する導電性成形物を製造可能である組成物を提供する目的に基づく。無水組成物は、溶融、例えば、押出、溶融紡糸または射出成形を含む従来の加工により成形物を得るための加工を可能にすることを目的としている。
【0020】
マスターバッチを得るための共重合体のポリマー網状構造物中に有利に組み込まれた相変化材料と一緒に、かつ、他の化合物材料成分とも一緒にサブマイクロスケールまたはナノスケール導電性粒子が、熱可塑性化可能な混合物を形成する場合、溶融を含む方法で、かかる成形物を製造可能であることが分かった。
【0021】
したがって、目的は、固有の正温度係数を有し、少なくとも1つの有機マトリックスポリマー(化合物材料成分A)、サブマイクロスケールもしくはナノスケール導電性粒子(化合物材料成分B)および-42℃~+150℃の範囲の相変化温度を有する少なくとも1つの相変化材料(化合物材料成分D)、ならびに必要に応じて安定剤、改質剤、分散剤および加工助剤を含んでなる導電性組成物からなる成形物であって、該ポリマー組成物の溶融範囲が100~450℃の範囲内である、該成形物において、相変化材料が少なくとも2つの異なるエチレン性モノマー(化合物材料成分C)をベースとする少なくとも1つの共重合体から製造された有機網状構造物中に入っていることを特徴とし、かつ、PTC効果が発現するための温度範囲が該相変化材料の性質および相変化温度によって設定され、該PTC効果は温度上昇の結果として相変化材料の体積増大に起因し、該PTCが効果を生ずる場合に該導電性成形物は結晶構造の形態変化をせず、溶融しないことも特徴とする、該成形物により達成される。導電性成形物の使用特性は損なわれない。ここで60℃の温度上昇は、PTC強度において50%以上の増大をもたらす。下記実施例においても示されているように、前記温度上昇がPTC強度において少なくとも75%、特に少なくとも100%の増大をもたらすことが好ましい。温度変化を、成形物の結晶領域の結果として生じる形態変化なく、要望通り頻繁に繰り返すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
相変化材料は、導電性組成物の製造中に他の成分と混合される場合、希釈していない形態またはマスターバッチの形態であり得る。
【0023】
好ましい実施形態では、組成物は、該組成物の総重量に対してマトリックスポリマー10~90重量%、導電性粒子0.1~30重量%、-42℃~150℃の範囲の相変化温度を有する相変化材料2~50重量%、加工助剤0~10重量%、ならびに安定剤、改質剤および分散剤からなり、該組成物の全成分の重量比率の合計が100重量%であり、該組成物の溶融範囲が100℃~450℃の範囲内である。
【0024】
好ましい実施形態では、
組成物は架橋可能であり、
マトリックスポリマーの溶融範囲は、100℃~450℃の範囲内であり、
助剤および/または安定剤、改質剤および分散剤と合わせたマトリックスポリマーの溶融範囲は100℃~450℃の範囲内であり、
相変化材料の溶融範囲は、マトリックスポリマーの溶融範囲より少なくとも10℃、好ましくは少なくとも20℃、特に好ましくは少なくとも30℃低く、
マトリックスポリマーは、エチレンホモ重合体、エチレン共重合体、プロピレンホモ重合体、プロピレン共重合体、ホモポリアミドおよびコポリアミド、ホモポリエステルおよびコポリエステル、アクリレートホモ重合体および共重合体、スチレンホモ重合体および共重合体、ポリフッ化ビニリデンならびにその混合物から選択される1つ以上のポリマーからなり、
マトリックスポリマーは、結晶性、半結晶性および/または非晶質ポリマーならびにポリエチレン(PE)、例えば、LDPE、LLDPE、HDPEおよび/またはそれぞれの共重合体の群から;アタクチック、シンジオタクチックおよび/またはアイソタクチックポリプロピレン(PP)および/またはそれぞれの共重合体の群から;ポリアミド(PA)、これらの中で特にPA11、PA12、PA6.66共重合体、PA6.10共重合体、PA6.12共重合体、PA6またはPA6.6の群から;脂肪族成分、脂環式と組み合わせた脂肪族成分および/または芳香族成分と組み合わせた脂肪族成分を有するポリエステル(PES)、これらの中でも特に、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)およびポリエチレンテレフタレート(PET)、および化学的改質ポリエステル、これらの中でも特に、グリコール改質ポリエチレンテレフタレート(PETG)の群から;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)およびそれぞれの共重合体の群から;架橋可能な共重合体の群から;ならびに前記ポリマーおよび/または共重合体の混合物または配合物の群から少なくとも1つのポリマーを含んでなり、
導電性材料は、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛、グラフェン、金属または金属合金;導電性ポリマー;単層もしくは多層、開口もしくは閉じた、非内包型もしくは内包型カーボンナノチューブ(CNT);金属内包カーボンナノチューブまたは上記材料の混合物から製造されたマイクロスケールまたはナノスケールの粒子、フレーク、ニードル、チューブ、プレートレット、回転楕円体または繊維からなり;
導電性材料は、担体ポリマーならびに、この中に分散された、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛、グラフェン、金属または金属合金;導電性ポリマー;単層もしくは多層、開口もしくは閉じた、非内包型もしくは内包型カーボンナノチューブ(CNT);金属内包カーボンナノチューブまたは上記材料の混合物から製造されたマイクロスケールまたはナノスケールの粒子、フレーク、ニードル、チューブ、プレートレット、回転楕円体または繊維からなり、
導電性材料は、導電性担体ポリマーならびに、この中に分散された、カーボンブラック、グラフェン、金属、金属合金および/またはカーボンナノチューブ(CNT)から製造されたマイクロスケールまたはナノスケール粒子、凝集粒子または繊維からなり、
導電性材料は、マイクロスケールもしくはナノスケール粒子、マイクロスケールもしくはナノスケール繊維、マイクロスケールもしくはナノスケールニードル、マイクロスケールもしくはナノスケールチューブ、マイクロスケールもしくはナノスケールプレートレット、マイクロスケールもしくはナノスケール回転楕円体またはその混合物を含んでなり、
導電性材料は、カーボンブラック、導電性カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛、単層または多層カーボンナノチューブ(CNT)、開口または閉じたカーボンナノチューブ、非内包型または内包型カーボンナノチューブ、グラフェン、炭素繊維、金属粒子、特に金属Ni、Ag、W、Mo、Au、Pt、Fe、Al、Cu、Ta、Zn、Co、Cr、Ti、Snまたはその合金を含んでなり、
導電性材料は、銀複合カーボンナノチューブ(CNT)を含んでなり、
カーボンブラックから製造された導電性材料のヨウ素吸着は、ASTM D1510-16に従って決定された400~1800mg/gであり、
カーボンブラックから製造された導電性材料の吸油量(フタル酸ジブチル吸収)は、ASTM D2414-16に従って決定された200~500cm
3/100gであり、
導電性材料はカーボンブラックからなり、165MPaの圧により4回圧縮した後のこの吸油量(フタル酸ジブチル吸収)はASTM D3493-16に従って決定された160~240cm
3/100gであり、
導電性材料はカーボンブラックからなり、この空隙容量は50MPaの幾何平均圧P
GMに対してASTM D6086-09aに従って決定された100~250cm
3/100gであり、P
GMは円筒形カーボンブラックサンプルの上面側に印加された圧P
0および円筒形カーボンブラックサンプルの下面側で測定された圧P
1から下記関係式:
【数1】
により算出され、
導電性材料はカーボンブラックからなり、ASTM D3849-14aに従って決定された一次カーボンブラック粒子の平均相当径は8~40nm、8~30nm、8~20nmまたは8~16nmであり、
導電性材料はカーボンブラックからなり、カーボンブラックは100~1000nm、100~300nmまたは100~200nmのASTM D3849-14aに従って決定された平均相当径を有する凝集体を含んでなり、
相変化材料の相変化温度は、-42℃~150℃、-42℃~96℃、20~80℃、20~60℃、20~50℃、30~80℃、30~60℃または30~50℃の範囲であり、
相変化材料は、好ましくは、分子鎖に10~25個の炭素原子を有する低分子量炭化水素である1つ以上の物質;低分子量、天然または合成、直鎖もしくは分岐鎖ポリマー;イオン性液体;天然もしくは合成パラフィン;天然もしくは合成ワックス;天然もしくは合成ワックスアルコール;または2つ以上の前記材料の混合物からなり、
相変化材料は、天然もしくは合成パラフィン、ポリアルキレングリコール(=ポリアルキレンオキシド)、好ましくはポリエチレングリコール(=ポリエチレンオキシド)、ポリエステルアルコール、高結晶性ポリエチレンワックスまたはその混合物であり、
相変化材料は、1つ以上のイオン性液体からなり、
相変化材料は、1つ以上のイオン性液体と、天然および合成パラフィン、ポリアルキレングリコール(=ポリアルキレンオキシド)、好ましくはポリエチレングリコール(=ポリエチレンオキシド)、ポリエステルアルコール、高結晶性ポリエチレンワックスを含んでなる群から選択される1つ以上の物質との混合物からなり、
相変化材料は、官能化ポリマー、官能化マイクロスケールまたはナノスケールシリカ、層構造を有する官能化マイクロスケールまたはナノスケール鉱物、n-オクタデシルアミン官能化カーボンナノチューブおよびその混合物から選択される1つ以上の安定剤を含んでなり、
相変化材料は、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン・ポリ(エチレン・プロピレン)、ポリ(エチレン・ブテン)、ポリ(無水マレイン酸アミド-コ-α-オレフィン)およびその混合物から選択される1つ以上の分散剤を含んでなり、
相変化材料は、以下から選択される安定剤および/または分散剤、
三元ブロックポリマー、例えば、スチレン・ブタジエン・スチレン(SBS)およびスチレン・イソプレン・スチレン(SIS)、
四元ブロックポリマー、例えば、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン(SEPS)、スチレン・ポリ(イソプレン・ブタジエン)・スチレン(SIBS)、
アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、
三元ブロックポリマー、特に、エチレン・プロピレン・ジエン(EPDM)、
三元ポリマー、特に、エチレン・酢酸ビニル・ビニルアルコール(EVAVOH)、
エチレン・無水マレイン酸(EMSA)、エチレン・アクリレート・無水マレイン酸(EAMSA)、アクリル酸メチル・無水マレイン酸、アクリル酸エチル・無水マレイン酸、アクリル酸プロピル・無水マレイン酸、アクリル酸ブチル・無水マレイン酸、
エチレン・メタクリル酸グリシジル(EGMA)、メタクリル酸メチルグリシジル、メタクリル酸エチルグリシジル、メタクリル酸プロピルグリシジル、メタクリル酸ブチルグリシジル、
エチレン・アクリレート・メタクリル酸グリシジル(EAGMA)、アクリル酸メチル・メタクリル酸グリシジル、アクリル酸エチル・メタクリル酸グリシジル、アクリル酸プロピル・メタクリル酸グリシジル、アクリル酸ブチル・メタクリル酸グリシジル、
エチレン・酢酸ビニル(EVA)、エチレン・ビニルアルコール(EVOH)、エチレン・アクリレート(EA)、エチレン・アクリル酸メチル(EMA)、エチレン・アクリル酸エチル(EEA)、エチレン・アクリル酸プロピル(EPA)、エチレン・アクリル酸ブチル(EBA)、
ポリエチレン(PE)、特に、LDPE、LLDPE、HDPEのホモ重合体および共重合体ならびにグラフト共重合体、
ポリプロピレン(PP)、特に、アタクチック、シンジオタクチックおよびアイソタクチックポリプロピレンのホモ重合体および共重合体ならびにグラフト共重合体、
非晶質ポリマー、例えば、シクロオレフィン共重合体(COC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、非晶質ポリプロピレン、非晶質ポリアミド、非晶質ポリエステルおよびポリカーボネート(PC)、
を含んでなり、
マトリックスポリマーの重量比率は、組成物の総重量に対して、10~30重量%、20~40重量%、30~50重量%、40~60重量%、50~70重量%、60~80重量%、または70~90重量%の範囲であり、組成物の個々の全成分の重量比率の合計は100重量%であり、
導電性材料の重量比率は、組成物の総重量に対して、0.1~4重量%、2~6重量%、4~8重量%、6~10重量%、8~12重量%、10~14重量%、12~16重量%、14~18重量%、16~20重量%、18~22重量%、20~24重量%、22~26重量%、24~28重量%、または26~30重量%の範囲であり、組成物の個々の全成分の重量パーセントの合計は100重量%であり、
導電性材料はカーボンブラックからなり、導電性添加剤の重量比率は、組成物の総重量に対して、18~30重量%、20~24重量%、24~28重量%、または26~30重量%の範囲であり、組成物の個々の全成分の重量パーセントの合計は100重量%であり、
導電性材料はカーボンナノチューブ(CNT)からなり、導電性添加剤の重量比率は、組成物の総重量に対して、0.1~4重量%の範囲であり、組成物の個々の全成分の重量パーセントの合計は100重量%であり、
導電性材料はカーボンブラックおよびカーボンナノチューブ(CNT)からなり、導電性添加剤の重量比率は、組成物の総重量に対して、0.1~4重量%の範囲であり、組成物の個々の全成分の重量パーセントの合計は100重量%であり、
相変化材料の重量比率は、組成物の総重量に対して、2~6重量%、4~8重量%、6~10重量%、8~16重量%、12~20重量%、16~24重量%、20~28重量%、24~32重量%、28~36重量%、32~40重量%、36~44重量%、40~48重量%、または42~50重量%の範囲であり、組成物の個々の全成分の重量パーセントの合計は100重量%であり、ならびに
組成物は必要に応じて、潤滑剤、エポキシ化ダイズ油、熱安定剤、高分子量ポリマー、可塑剤、粘着防止剤、染料、着色顔料、殺菌剤、UV安定剤、難燃剤および香料から選択される1つ以上の加工助剤および/または分散剤および/または安定剤および/または改質剤を含んでなる。
【0025】
本発明の成形物は、好ましくは、モノフィラメント、マルチフィラメント、繊維、不織布、フォーム、箔またはフィルムである。モノフィラメントの平均径は、好ましくは、8~400μmまたは80~300μm、特に100~300μmである。マルチフィラメントは、有利には8~48の個々のフィラメントからなり、個々のフィラメントの平均径は好ましくは8~40μmである。
【0026】
本発明の箔の厚さは、概して、30~2000μm、30~1000μm、30~800μm、30~600μm、30~400μm、30~200μmまたは50~200μmである。箔の幅は、概して、0.1~6mであり、その長さは、概して、0.1~10000mである。
【0027】
本発明の他の好ましい実施形態は、成形物が以下であることを特徴とする。
カーボンブラックを含んでなり、組成物の溶液に対するASTM D3849-14aに従って決定された一次カーボンブラック粒子の平均相当径は、8~40nm、8~30m、8~20nmまたは8~16nmであり、
カーボンブラックを含んでなり、カーボンブラックは、100~1000m、100~300nmまたは100~200nmである、成形組成物の溶液に対するASTM D3849-14aに従って決定された平均相当径を有する凝集体を含んでなり、
24℃の温度において、0.001~3.0Ω・m、好ましくは0.01~0.1Ω・m、特に好ましくは0.01~0.09Ω・m、特に0.02~0.08Ω・m、または0.03~0.08Ω・mの電気抵抗率ρを有し、
24℃の温度において、0.04~0.08Ω・m、0.06~0.1Ω・m、0.08~0.12Ω・m、0.1~0.3Ω・m、0.2~0.4Ω・m、0.3~0.5Ω・m、0.4~0.6Ω・m、0.3~0.5Ω・m、0.4~0.6Ω・m、0.5~0.7Ω・m、0.6~0.8Ω・m、0.7~0.9Ω・m、0.8~1.0Ω・m、1.0~2.0Ω・m、または2.0~3.0Ω・mの電気抵抗率ρを有し、
24℃≦T≦90℃の温度範囲において、ρ(T)の温度依存性抵抗率を有し、比ρ(T)/ρ(24℃)は、温度Tの上昇と共に、1から1.1~30の値に、好ましくは1.1~5の値に、特に好ましくは1.1~4の値に、特に1.1~3の値に増大し、
24℃≦T≦90℃の温度範囲において、ρ(T)の温度依存性抵抗率を有し、比ρ(T)/ρ(24℃)は、温度Tの上昇と共に、1から10~21の値に、好ましくは1から15~21の値に増大し、
24℃≦T≦90℃の温度範囲において、ρ(T)の温度依存性抵抗率を有し、比ρ(T)/ρ(24℃)は、温度Tの上昇と共に、1から1.1~21の値に増大し、上昇範囲における上昇勾配[ρ(T+ΔT)-ρ(T)]/[ρ(24℃)・ΔT]の平均値が0.1/℃~3.5/℃であり、
24℃≦T≦90℃の温度範囲において、ρ(T)の温度依存性抵抗率を有し、比ρ(T)/ρ(24℃)は、温度Tの上昇と共に、1から1.1~21の値に増大し、上昇範囲における上昇勾配[ρ(T+ΔT)-ρ(T)]/[ρ(24℃)・ΔT]の平均値が0.1/℃~1.5/℃であり;
24℃≦T≦90℃の温度範囲において、ρ(T)の温度依存性抵抗率を有し、比ρ(T)/ρ(24℃)は、温度Tの上昇と共に、1から1.1~21の値に増大し、上昇範囲における上昇勾配[ρ(T+ΔT)-ρ(T)]/[ρ(24℃)・ΔT]の平均値が0.8/℃~1.2/℃であり、
24℃の温度において、11N/mm2~1100N/mm2の最大引張力に耐え、
24℃の温度において、5~60%、5~30%、5~20%または10~30%の破断伸びを有し、
24℃の温度において、少なくとも110N/mm2の弾性係数を有するが、好ましくは1800~3200N/mm2の弾性係数を有し、および/または
箔として構成され、24℃の温度において、40~60kJ/m2の衝撃引張耐性を有する。
【0028】
有利な実施形態では、相変化材料の相変化温度より高い温度(T)における本発明の成形物の電気抵抗率ρ(T)は、相変化温度未満の温度における電気抵抗率の1.1~30倍、好ましくは1.5~21倍、特に好ましくは3~10倍である。
【0029】
本発明の別の目的は、電気発熱織物を提供することにある。この目的は、上記組成物から製造されたモノフィラメント、マルチフィラメント、繊維、不織布、フォームおよび/または箔を含んでなる織物により達成される。
【0030】
本発明の目的のため、用語「相変化材料」は、2つ以上の物質から製造された個々の物質あるいは組成物を示し、個々の物質または組成物の少なくとも1つの物質の相変化温度は-42℃~+150℃の範囲である。相変化は、好ましくは、固体から液体への転移である、すなわち、相変化材料は、好ましくは、-42℃~+150℃の範囲の主溶融ピークを有する。相変化材料は、例として、パラフィンまたはポリマーがパラフィンと結合して安定化する1つ以上のポリマーと一緒にパラフィンを含んでなる組成物からなる。
【0031】
用語「サブマイクロスケール」および「ナノスケール」は、少なくとも1つの空間方向において1000nm未満、または100nm以下の寸法を有する粒子および物体を示す。用語「マイクロスケール」は、1つの空間方向において、例として、300~800nmの寸法を有する粒子またはプレートレットに使用される。用語「ナノスケール」は、例として、1つの空間方向において、10~50nmの寸法を有する粒子または繊維に使用される。
【0032】
組成物は、少なくとも1つの熱可塑性有機ポリマーまたは架橋可能な共重合体、1つの導電性フィラー、および相変化材料、および他の不活性または機能性材料を含んでなる。材料の組合せは、特に所望の用途のために選択される。様々な転移温度におけるPTCスイッチング挙動は、適切な相変化材料の選択により成立する。マトリックスポリマーまたはマトリックスポリマー配合物の使用前に、これらの材料自体は、好ましくは、ポリマー性網状構造物中に導入されるおよび/または添加剤によるこれらのレオロジーにおいて影響を受けることができる。このように改質されたこれらの相変化材料を、導電性添加剤および相変化材料が実質的に均一に分布するように、マトリックスポリマーまたはマトリックスポリマー配合物において導電性添加剤と密接に混合する。その後、ポリマー組成物は、PTC効果を示す。他の不活性または機能性添加物は、例えば、熱安定剤および/もしくはUV安定剤、酸化防止剤、定着剤、染料および含量、架橋剤、加工助剤および/または分散剤である本発明の組成物に付加的に添加することができる。同様に、他の材料および充填剤、特に、炭化ケイ素、窒化ホウ素および/または窒化アルミニウムを添加して、熱伝導度を増大させることも可能である。
【0033】
マトリックスポリマーまたはマトリックスポリマー配合物-以後化合物材料成分Aと呼ぶ-は、LDPE、LLDPE、HDPEなどのポリエチレン(PE)および/またはそれぞれの共重合体の群から;アタクチック、シンジオタクチックおよび/またはアイソタクチックポリプロピレン(PP)および/またはそれぞれの共重合体の群から;ポリアミド(PA)、これらの中で特にPA11、PA12、PA6.66共重合体、PA6.10共重合体、PA6.12共重合体、PA6またはPA6.6の群から;脂肪族成分、脂環式と組み合わせた脂肪族成分および/または芳香族成分と組み合わせた脂肪族成分を有するポリエステル(PES)、これらの中でも特に、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)およびポリエチレンテレフタレート(PET)、および化学的改質ポリエステル、これらの中でも特に、グリコール改質ポリエチレンテレフタレート(PETG)の群から;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)およびそれぞれの共重合体の群から;架橋可能な共重合体の群から;ならびに前記ポリマーおよび/または共重合体の混合物または配合物の群から1つ以上の結晶性、半結晶性および/または非晶質ポリマーを含んでなる。
【0034】
組成物中に存在する導電性添加剤(化合物材料成分B)は、マイクロスケールもしくはナノスケールドメイン、マイクロスケールもしくはナノスケール粒子、マイクロスケールもしくはナノスケール繊維、マイクロスケールもしくはナノスケールニードル、マイクロスケールもしくはナノスケールチューブおよび/またはマイクロスケールもしくはナノスケールプレートレットの形態をとり、1つ以上の導電性ポリマー、カーボンブラック、導電性カーボンブラック、グラファイト、膨張化黒鉛、単層および/もしくは多層カーボンナノチューブ(CNT)、開口もしくは閉じたカーボンナノチューブ、内包していないおよび/もしくは金属内包、例えば、銀内包、銅内包もしくは金内包カーボンナノチューブ、グラフェン、炭素繊維(CF)、金属、例えば、Ni、Ag、W、Mo、Au、Pt、Fe、Al、Cu、Ta、Zn、Co、Cr、Ti、Snもしくは2つ以上の金属の合金から製造されたフレークおよび/または粒子からなる。さらに、導電性添加剤または化合物材料成分Bは、必要に応じて、化合物材料成分Bを成形物の製造においてマスターバッチとして使用することができるように導電性粒子が分散されているポリマーを含んでなる。
【0035】
本発明の好ましい実施形態では、化合物材料成分Cから製造されたポリマー性網状構造物中に入っている相変化材料(化合物材料成分D)がある。化合物材料成分Cは、スチレン・ブタジエン・スチレン(SBS)もしくはスチレン・イソプレン・スチレン(SIS)からなる三元ブロックポリマー、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン(SEPS)もしくはスチレン・ポリ(イソプレン・ブタジエン)・スチレン(SIBS)からなる四元ブロックポリマー、エチレン・プロピレン・ジエン(EPDM)からなる三元ブロックポリマー、エチレン、酢酸ビニルおよびビニルアルコール(EVAVOH)、エチレン、アクリル酸メチルおよび/もしくはアクリル酸エチルおよび/もしくはアクリル酸プロピルおよび/もしくはアクリル酸ブチルならびに無水マレイン酸(EAEMSA)、エチレン、アクリル酸メチルおよび/もしくはアクリル酸エチルおよび/もしくはアクリル酸プロピルおよび/もしくはアクリル酸ブチルならびにメタクリル酸グリシジル(EAEGMA)またはアクリロニトリル、ブタジエンおよびスチレン(ABS)からなる三元ポリマー、エチレンおよび無水マレイン酸(EMSA)、エチレンおよびメタクリル酸グリシジル(EGMA)、エチレンおよび酢酸ビニル(EVA)、エチレンおよびビニルアルコール(EVOH)、エチレンおよびアクリル酸エステル(EA)、例えば、アクリル酸メチル(EMA)および/もしくはアクリル酸エチル(EEA)および/もしくはアクリル酸プロピル(EPA)および/もしくはアクリル酸ブチル(EBA)からなる共重合体の群から;ならびに/またはポリプロピレングラフト共重合体を含めて、アタクチック、シンジオタクチックおよび/もしくはアイソタクチックポリプロピレン(PP)ならびに/もしくはそれぞれの共重合体の群からのポリエチレンのグラフト共重合体を含めて、様々なタイプのポリエチレン(PE)、例えば、LDPE、LLDPE、HDPEならびに/またはそれぞれの共重合体の群から1つ以上のポリマーを含んでなる。本明細書において用語「共重合体」は、三元ポリマーおよび4つ以上の異なるモノマーから製造される単位を有するポリマーも含む。
【0036】
本発明の好ましい実施形態では、化合物材料成分C中に分散された、導電性添加剤(化合物材料成分B)および相変化材料(化合物材料成分D)を含んでなるマスターバッチを使用する。
【0037】
熱可塑性特性および加工性を改良するポリマー性改質剤を組成物に添加することは有利である。ポリマー性改質剤は、好ましくは、非晶質ポリマー、例えば、シクロオレフィン共重合体(COC)、非晶質ポリプロピレン、非晶質ポリアミド、非晶質ポリエステルおよびポリカーボネート(PC)を含んでなる群から選択される。
【0038】
本発明の別の実施形態では、マイクロスケールまたはナノスケール安定剤を相変化材料または化合物材料成分Cに添加する。
【0039】
本発明において、用語「ナノスケール材料」は、粉末、分散液またはポリマー複合材の形態をとり、特に厚さまたは径が100ナノメートルより小さい少なくとも1つの寸法を有する粒子を含んでなる。したがって、ナノスケール安定剤として使用することができる材料は、好ましくは、層構造を有する疎水化ミネラル、例えば、親油性層状珪酸塩であり、これらの中でも、本発明の組成物の処理中の樹脂加工および混合過程においてこれらが剥離する場合、親油性ベントナイトである。これらの剥離された粒子の長さおよび幅は、概して、約200nm~1000nmであり、これらの厚さは、概して、約1nm~4nmである。厚さに対する長さおよび幅の比(アスペクト比)は、好ましくは、約150~1000、好ましくは200~500である。好ましく使用される他の疎水性増粘材料は、疎水化ナノスケールヒュームドシリカである。これらのナノスケールヒュームドシリカは、概して、好ましくは30nm~100nmの平均径を有する粒子からなる。
【0040】
本発明の別の有利な実施形態では、溶融粘度の適切な調節のために潤滑剤を使用する。潤滑剤を、相変化材料または化合物材料成分Cに添加することができる。
【0041】
本発明の組成物は、本明細書において化合物材料成分Dとも呼ぶ相変化材料(PCM)を含んでなる。その体積およびその密度が可逆変化する相変化材料(化合物材料成分D)の相変化温度は、-42℃~+150℃、特に-30℃~+96℃の範囲である。相変化材料または化合物材料成分Dは、天然および合成パラフィン、ポリアルキレングリコール(=ポリアルキレンオキシド)、好ましくはポリエチレングリコール(=ポリエチレンオキシド)、ポリエステルアルコール、高結晶性ポリエチレンワックスならびにその混合物を含んでなる群から選択され、ならびに/または相変化材料は、イオン性液体およびその混合物を含んでなる群から選択され、ならびに/または相変化材料は、天然および合成パラフィン、ポリアルキレングリコール(=ポリアルキレンオキシド)、好ましくはポリエチレングリコール(=ポリエチレンオキシド)、ポリエステルアルコールもしくは高結晶性ポリエチレンワックスを第一に含んでなり、かつ、イオン性液体を第二に含んでなる混合物を含んでなる群から選択される。
【0042】
本発明の目的のため、相変化材料は、-42℃~+150℃、特に-30℃~+96℃の範囲でその体積およびその密度が可逆変化する相変化温度を有する前節で言及された群から選択される材料のいずれかである。これらの相変化材料を、ポリマー性網状構造物中に入っている材料の形態、またはこれらの2つの形態の混合物の形態で、単独(さらに処理しないで)で使用することができる。さらなる処理なしで相変化材料として適切な材料の例は、ポリエステルアルコール、ポリエーテルアルコールおよびポリアルキレンオキシドである。好ましい実施形態では、相変化材料を、ポリマー性網状構造物中へ封じた後に使用する。このポリマー性網状構造物を、少なくとも2つの異なるエチレン性不飽和モノマー(化合物材料成分C)をベースとした少なくとも1つの共重合体から生成する。熱可塑性特性および加工性を改良するポリマー性改質剤を組成物に添加することは有利である。ポリマー性改質剤は、好ましくは、非晶質ポリマー、例えば、シクロオレフィン共重合体(COC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、非晶質ポリプロピレン、非晶質ポリアミド、非晶質ポリエステルおよびポリカーボネート(PC)を含んでなる群から選択される。
【0043】
組成物は、熱伝導度を増大させるために、難燃性物質および/または熱安定剤および/またはUV可視光安定剤および/または酸化防止剤および/またはオゾン防止剤および/または染料および/または色顔料および/または他の顔料および/または発泡剤および/または定着剤および/または加工助剤および/または架橋剤および/または分散剤および/または他の材料および充填剤、特に、炭化ケイ素、窒化ホウ素および/または窒化アルミニウムの群から選択される1つ以上の添加剤(以後化合物材料成分Eと呼ばれる)を必要に応じて含んでなる。
【0044】
組成物は、その総重量に対して、10~98重量%のマトリックスポリマーまたはマトリックスポリマー配合物、ならびに合計2~90重量%の導電性添加剤および相変化材料、ならびに必要に応じて他の添加剤を有利に含んでなる。組成物は、好ましくは、15~89重量%のマトリックスポリマーまたはマトリックスポリマー配合物、ならびに合計11~85重量%の導電性添加剤および相変化材料、ならびに必要に応じて他の添加剤を含んでなる。組成物は、特に好ましくは、17~50重量%のマトリックスポリマーまたはマトリックスポリマー配合物、ならびに合計50~83重量%の導電性添加剤および相変化材料、ならびに必要に応じて他の添加剤を含んでなる。
【0045】
組成物から製造された成形物のPTC効果の温度範囲および強度を、これらの成分およびそれぞれの質量分率の選択により、用途の要件に応じて調整することができる。
【0046】
組成物を使用して、様々な成形物、例えば、モノフィラメント、マルチフィラメント、ステープルファイバー、独立気泡フォームもしくは開放気泡フォームまたは混合気泡フォーム、インテグラルフォーム、小表面積層および大表面積層、パッチ、薄膜または箔を製造することができる。本発明の好ましい実施形態では、電気特性および耐熱性を得るために、持続的安定性組成物から製造された成形物を、架橋剤を用いて、ならびに/または熱および/もしくは高エネルギー照射に暴露することにより架橋する。
【0047】
熱可塑性処理方法の使用により成形物、例えば、モノフィラメント、マルチフィラメント、ステープルファイバー、スパンボンド式不織布、独立気泡フォームもしくは開放気泡フォームまたは混合気泡フォーム、インテグラルフォーム、小表面積層および大表面積層、パッチ、薄膜、箔または電気抵抗の正温度係数、もしくはPTC効果を有する射出成形物を製造することができる。本発明の成形物を用いて、0.1V~240Vの範囲で所定の電圧Uの印加に対するその電気抵抗が、設定温度範囲内の温度の上昇と共に著しく増大し、その結果、製品内で消費される電流の低下および電力の制限をもたらす該製品を製造することが可能である。
【0048】
本発明を、図を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1a】
図1aは、PTCフィラメント糸を含んでなる発熱布における時間の関数としての電流を示す。
【
図2】
図2は、PTCモノフィラメントおよびマルチフィラメントの標準化された電気抵抗R(T)/R(24℃)を示す。
【0050】
PTC効果の温度範囲および強度を、化合物材料成分A、B、C、Dおよび必要に応じてEを変えることにより調整することができる。この挙動は、
図1aおよび
図1bにより立証されている。「自動制御」発熱布に関して、いずれの場合も時間の関数として、
図1aは電流Iを示し、
図1bは温度Tを示している。「自動制御」発熱布を、ポリエステルマルチフィラメントから製造された担体布において、緯糸として300μm径の本発明のPTCモノフィラメントを使用して製造した。24ボルトの電圧を印加する場合、メートル四方当たり248ワット以下の熱出力を、発熱布により発生することができる。
【0051】
図1aは、24Vまたは30Vのいずれかの電圧Uを印加する本発明のPTCフィラメント糸を含んでなる発熱布における時間の関数としての電流を示す。オームの法則により、発熱布またはその中に存在するPTCフィラメント糸において発生した電力出力をP
Ω=U/R
2の関係から算出する。時間ΔTの間に発熱布において消費される電気エネルギー、または得られた電気的仕事量W(W=P
Ω)。Δtは、ほとんど完全に熱に変換され、発熱布の温度を上昇させる。発熱布において発生される熱の一部は、放射熱および対流により環境に散逸される。発熱布に残る熱は、特に、PTCフィラメントにおいて、継続的に温度を上昇させる。発熱布の温度がPTCフィラメント糸に存在する相変化材料の相変化温度に接近するや否や、相変化材料の一部は溶融し始める。これに関連して、相変化材料の密度が低下し、これに対応してその体積は増大する。この進行する体積増加は、PTCフィラメント糸の電気抵抗の増大、および熱出力の低下をもたらす、P
Ω=U/R
2。単位時間当たりの発熱布に導入される電気エネルギーが発熱布により発生される熱と均衡する場合、特定の温度、およびそれに対応する抵抗において、熱平衡が成立する。熱平衡では、特定の電圧が印加されると、
図1aに図示された得られる電流および電気抵抗、ならびに結果として発熱布の温度は一定である。
図1aから分かるように、約4~5分の比較的短時間の後に、電流だけでなく、発熱布の電気抵抗も一定となり、熱平衡において後者により推定される値は、電圧に応じて、R=24V/0.13A=185ΩまたはR=30V/0.1A=300Ωとなる。対応する電気熱出力は、それぞれ、P
Ω=(24V)
2/185Ω=3.1W、およびP
Ω=(30V)
2/300Ω=3.0Wとなる。上記電力から、この布は、熱平衡において、一定量の単位時間当たりの熱を発生する。したがって、この状態では、発熱布の温度も一定である。
【0052】
図1bは、時間の関数としてこの特定の発熱布の温度を示す。それぞれ、24Vおよび30Vの印加電圧で、熱平衡における温度は、それぞれ、63℃および59℃と推定される。
【0053】
図2は、温度の関数として、本発明において製造されたPTCモノフィラメントおよびマルチフィラメントの標準化された電気抵抗R(T)/R(24℃)を示す。相変化の領域での標準化された電気抵抗R(T)/R(24℃)の最大値および勾配は、「PTC強度」の項目で技術文献中に含まれている。それぞれの測定曲線は、
図2中、数表示1a、1bおよび2~7で示され、数表示は、本発明の実施例においてフィラメントに対する略名である。
1a=「PTCモノフィラメント_01a」
1b=「PTCモノフィラメント_01b」
2=「PTCモノフィラメント_02」
3=「PTCモノフィラメント_03」
4=「PTCモノフィラメント_04」
5=「PTCモノフィラメント_05」
6=「PTCモノフィラメント_06」
7=「PTCモノフィラメント_07」
【0054】
図2から分かるように、適切な相変化材料および対応する導電性添加剤の選択により、フィラメントの抵抗増大する温度を、例えば、約20℃~90℃の範囲で変更することができる。本発明者らは、各フォラメントに存在する相変化材料、対応する導電性添加剤、ならびにこれらの、および使用して「PTC強度」に影響を及ぼすことができるポリマー組成物の他の成分の相対質量分率、ならびに各フィラメントの線密度も以下に記載している。
【0055】
組成物の成分の濃度を変えることにより、異なるPTC特性または抵抗-温度プロファイルを有するモノフィラメントおよびマルチフィラメントを製造することが可能である。
【0056】
「PTCモノフィラメント_01a」および「PTCモノフィラメント_01b」と示されたモノフィラメントは、45℃~63℃の溶融範囲を有し、かつ、52℃の温度における主溶融ピークを有する相変化材料(PCM)を含んでなる。相変化材料の割合は5.25重量%であった。2つの曲線(a)および(b)は、製造方法の良好な再現性の証拠を提供している。「PTCモノフィラメント_01a」および「PTCモノフィラメント_01b」は異なるフィラメントホイールに由来するが、曲線(a)および(b)間の差は無視できる。「PTCモノフィラメント_02」および「PTCモノフィラメント_03」と示されたモノフィラメントは、それぞれ、35℃および28℃の温度における主溶融ピークを有する相変化材料を使用した。したがって、両方のモノフィラメントにおけるPTC効果は、対応して、「PTCモノフィラメント_01」より低温度において観察可能である。「PTCモノフィラメント_05」、「PTCモノフィラメント_04」および「PTCモノフィラメント_07」と示されたモノフィラメントは、5.25重量%の重量割合でいずれの場合も、「PTCモノフィラメント_01」と同じ相変化材料を使用し、したがって、相変化材料は、温度T=52℃において主溶融ピークを示した。しかしながら、いずれの場合も、導電性成分Bの性質、組成および割合が異なるので、モノフィラメント「PTCモノフィラメント_05」、「PTCモノフィラメント_04」および「PTCモノフィラメント_07」は、その電気伝導度が異なる。これは、24℃においてフィラメントの電気抵抗の開始レベルに対して有意な効果を有する。モノフィラメント「PTCモノフィラメント_07」の抵抗はたったのR=0.6MΩ/mであったが、「PTCモノフィラメント_04」の抵抗は17.9MΩ/m、「PTCモノフィラメント_05」の抵抗はR=22.0MΩ/m、そして「PTCモノフィラメント_01」の抵抗はR=26.1MΩ/mである。「PTCモノフィラメント_06」と示された試料は線密度307dtex(デシテックス)(36フィラメント)を有するマルチフィラメントである。これは、導電性成分Bの性質および割合によって、比較的良好な電気伝導度を与え、同時に、マルチフィラメントの製造を可能とする材料から製造された。24℃におけるマルチフィラメント糸「PTCモノフィラメント_06」の電気抵抗は13.1MΩ/mであり、したがって、これは線密度760dtexおよび300μm径を有するモノフィラメントより低かった。マルチフィラメント糸のPTC強度は、基本的に、モノフィラメントに関して観察された挙動に対応付けられた。
【0057】
0.1ボルト~42ボルトの低電圧または240ボルト以下の比較的高い電圧のいずれかで、直流電圧または交流電圧でも、1メガヘルツ以下の周波数で使用することができるので、PTCを有する本発明の成形物の多くの異なる潜在的用途および応用があり、これらは長期安定性を示す電気特性および耐熱性を有する。
【0058】
導電性添加剤としてカーボンブラックを使用することは好ましい。カーボンブラックは様々な方法により製造される。得られたカーボンブラックに対して使用される用語は、これらは製造方法または出発物質に依存するが、「ファーネスブラック」、「アセチレンブラック」、「プラズマブラック」および「活性炭」である。カーボンブラックは、15~300nmの範囲の平均径を有する一次カーボンブラック粒子として知られるものからなる。製造方法の結果として、多数の一次カーボンブラック粒子が、いずれの場合も、非常に高い機械的安定性を有する焼結架橋が隣接する一次カーボンブラック粒子と互いに連結するカーボンブラック凝集体(aggregate)として知られるものを形成する。静電引力は、カーボンブラック凝集体の凝集を引き起こし、様々なレベルの結合を示す凝集魂(agglomerate)を得る。カーボンブラック供給者は、カーボンブラック凝集体およびカーボンブラック凝集魂の必要に応じて追加される造粒またはペレット化に関して異なる。
【0059】
溶融を含む方法、例えば、押出、溶融紡糸および射出成形において添加剤としてカーボンブラックを含んでなるポリマー組成物の加工の間、カーボンブラック凝集体およびカーボンブラック凝集魂はせん断力に曝される。ポリマー溶融物中で作用する最大せん断力は、使用される押出機の形状大きさおよび運転パラメーターまたはゲル集合体に対して、およびポリマー組成物の流動学的性質およびその温度に対しても複雑に依存する。プロセス中に作用する最大せん断力は、静電結合力を超えることができ、分割されたカーボンブラックは、溶融物中に分散されるカーボンブラック凝集体に凝集する。他方、カーボンブラック凝集体の高移動性および低せん断力がある低粘度ポリマー溶融物または溶液中において、アグロメレーションまたはフロキュレーションを促進することができる。
【0060】
カーボンブラックを含んでなるポリマー成形物の導電性は、カーボンブラック凝集魂およびカーボンブラック凝集体の割合、分布および形態により決定的に影響を受ける。上記のように、溶融を含む方法により製造されたポリマー成形物中のカーボンブラックの分布および形態は、カーボンブラック添加剤の性質、ポリマー組成物の流動学的性質およびプロセスパラメーターに依存する。カーボンブラック添加剤およびポリマー組成物の他の成分の割合および性質によって必要とされる通りに適切な方法で、成形物に所定の導電性を提供するようにプロセスパラメーターを調整することが必要である。カーボンブラック添加剤の物性によってもたらされる影響および物性間の相互作用、ポリマー組成物の他の成分およびプロセスパラメーターは、今までに充分に理解されてこなかった極めて複雑な問題である。
【0061】
技術文献には、ポリマー溶融物中の高せん断力によるカーボンブラック凝集魂の分裂およびカーボンブラックvの均一な分散が、カーボンブラック凝集魂の網状形成を抑え、導電性を桁違いに低下させることを示すものが含まれる。
【0062】
驚くべきことに、本発明者らが行った実験は、様々なマトリックス中において相変化材料を使用するとポリマー成形物中においてカーボンブラック凝集魂およびカーボンブラック凝集体の微細で均一な分散を得ることができ、導電性を向上させるという明白な結論に導く。したがって、カーボンブラックの割合に関して30重量%の所定の上限で、100S/m以下(抵抗率ρ=0.01Ω・mに相当)、特殊な例では1000S/m以下(ρ=0.001Ω・m)の導電性を有するポリマー成形物を製造することが可能である。
【0063】
下記の実施例では、出発物質または成分の全て、すなわち、ポリマー、ポリマー配合物および添加剤の全てを、真空乾燥キャビネット内で注意深く乾燥した後でのみ処理した。既に上記で説明した通り、相変化材料は、1つ以上の物質を含んでなることができる。実施例中の相変化材料は、網状形成剤として機能する化合物材料成分C、および約20℃~約100℃の温度範囲で相変化する物質、特にパラフィンである化合物材料成分Dを含んでなる。別段の指定または文脈から明白でない限り、パーセントは重量パーセントである。
【実施例】
【0064】
実施例1: モノフィラメント
マトリックスポリマー、すなわち化合物材料成分Aは、Moplen(登録商標)462Rポリプロピレン39.8重量%の割合およびLupolen(登録商標)低密度ポリエチレン(LDPE)22.5重量%の割合の混合物からなり、「Super Conductive Furnace N294」導電性カーボンブラック22.5重量%の割合を導電性添加剤または化合物材料成分Bとして使用した。化合物材料成分Cは、スチレンブロック共重合体およびポリメタクリル酸メチルの配合物からなり、各割合は2.25重量%であった。52℃の温度において主溶融ピークを有するRubitherm RT52パラフィン10.5重量%を、化合物材料成分Dすなわち狭義の相変化材料として使用した。Irganox(登録商標)1010を0.06重量%、Irgafos(登録商標)168を0.04重量%およびステアリン酸カルシウム0.10重量%の混合物0.2重量%を、さらなる化合物材料成分Eとして使用した。
【0065】
別の工程において、化合物材料成分D、すなわち、パラフィンを最初に可塑化し、造粒機を装備した混練アセンブリ中でスチレンブロック共重合体およびポリメタクリル酸メチルとホモジナイズし、それから、混合物を造粒する。PCM造粒物の組成は次の通りであった。
70*重量%のPCM(Rubitherm RT52、Rubitherm Technologies GmbH)、
15*重量%のSEEPS(Septon(登録商標)スチレンブロック共重合体、株式会社クラレ)、
15*重量%のPMMA(PMMA 7N 無着色、Evonik AG)。
*重量%の定量データはPCM造粒物の総重量に対するものである。PCM造粒物の平均粒径は4.5mmであった。
【0066】
このPCM造粒物、粒状のマトリックスポリマーポリプロピレン(Moplen(登録商標)462R)および粒状のポリエチレン(Lupolen(登録商標)LDPE)、ならびに化合物材料成分Eも混合し、押出機ホッパーに投入した。導電性カーボンブラック、すなわち化合物材料成分Bを、押出機と連結した計量装置に投入した。計量装置は、導電性カーボンブラックをポリマー溶融物中に均一に導入することを可能とする。押出機は、標準的構成、すなわち、バック搬送エレメントを有しないセグメント化スクリューを有するHaake社から入手したRheomex PTW 16/25同方向回転方式二軸押出機である。ホッパーの内容物、および導電性カーボンブラックを可塑化し、ホモジナイズして押出機により押し出した。全押出処理中に、ホッパー押出機および計量装置を窒素シールした。スクリュー回転速度は180rpmであり、質量スループットは約1kg/時であった。押出機ゾーンの温度は次の通りであった。取入口において220℃、ゾーン1において240℃、ゾーン2において260℃、ゾーン3において240℃およびストランドダイにおいて220℃。ストランドダイの内径は3mmであった。押出して冷却したポリマーを造粒機で造粒した。このように得られたポリマー造粒物の組成は次の通りであった。
化合物材料成分Aの一部として、ポリプロピレン39.8重量%、
化合物材料成分Aの一部として、低密度ポリエチレン(LDPE)22.5重量%、
化合物材料成分Bとして、導電性カーボンブラック22.5重量%、
化合物材料成分Dとして、パラフィン10.5重量%、ならびに化合物材料成分CとしてSEEPSおよびPMMAのそれぞれ2.25重量%を含む、PCM造粒物15.0重量%、
化合物材料成分Eとして添加剤0.2重量%。
【0067】
この造粒物を乾燥し、FET Ltd.(英国リーズ)のフィラメント押出システムでモノフィラメントの製造のための出発物質として供給した。フィラメント押出システムは、25mm径および長さ対直径比L/D=30:1のスクリューを有する一軸押出機を備える。ポリマー溶融物の質量スループットは13.7g/分であった。次の組成物温度状況により実行された。ゾーン1において200℃、ゾーン2において210℃、ゾーン3において220℃、ゾーン4において230℃、ゾーン5において240℃、ゾーン6において250℃およびフィラメントダイにおいて260℃。ダイ穿孔径は1mmであった。押出されたポリマー溶融物を水浴20℃で冷却し、3つの延伸ユニットを用いて処理工程において固化されたモノフィラメントをインラインで延伸した。第一延伸ユニットのゴデットの周速度は58.2m/分であり、第二延伸ユニットのゴデットの周速度は198m/分であった。第一および第二延伸ユニット間の範囲の延伸浴は90℃において水を含有していた。第二延伸ユニット後、加熱オーブンを経て第三延伸ユニットにモノフィラメントを通過させた。第三延伸ユニットのゴデットの周速度は同様に198m/分であった。それから、延伸したモノフィラメントをK160シェル上に巻取った。巻取機を195m/分の速度で運転した。延伸比は1:3.4であった。このように製造されたモノフィラメントの径は300μmである。
【0068】
その物性に関するモノフィラメントの特性決定をして、伸び23%、引張強さ62mN/texおよび初期弾性率1024MPaを得た。
【0069】
モノフィラメントの電気抵抗を、制御温湿度チャンバー内に配置された四点式機器で温度の関数として測定した。
この時、温度を24℃(室温)から30℃、40℃、50℃、60℃、70℃および80℃の値に段階的に上昇させた。8片のモノフィラメントを同時に試験し、いずれの場合も、試験距離または試験長さは75mmであった。室温におけるモノフィラメントの電気抵抗は、R(24℃)=2.6MΩ/mである。モノフィラメントを80℃の温度まで加熱すると、抵抗はR(80℃)=19.0MΩ/mに増大する。モノフィラメントを室温まで冷却後、抵抗は初期値に戻った。80℃の温度において、温度の関数として、したがって、PTC強度の測度として、
図2中に示された抵抗比R(T)/R(24℃)は、R(80℃)/R(24℃)=7.3である。これは、比較的中程度の電気伝導度、すなわち、特定のポリマー組成物を使用して記載されているように製造されたこのモノフィラメントについて2.6MΩ/mの比較的高い室温における電気抵抗の結果である。
【0070】
実施例2: マルチフィラメント
Moplen(登録商標)462Rポリプロピレン34.3重量%の割合およびLupolen(登録商標)低密度ポリエチレン(LDPE)30重量%の割合の配合物を、マトリックスポリマーすなわち化合物材料成分Aとして使用し、「Super Conductive Furnace N294」導電性カーボンブラック28.0重量%の割合を導電性添加剤すなわち化合物材料成分Bとして使用した。化合物材料成分Cは、スチレンブロック共重合体およびポリメタクリル酸メチルの配合物からなり、各割合は1.125重量%であった。55℃の温度において主溶融ピークを有するRubitherm RT55パラフィン5.25重量%を、化合物材料成分Dすなわち狭義の相変化材料として使用した。Irganox(登録商標)1010を0.06重量%、Irgafos(登録商標)168を0.04重量%およびステアリン酸カルシウム0.10重量%の混合物0.2重量%を、さらなる化合物材料成分Eとして使用した。
【0071】
別の工程において、造粒機を装備した混練アセンブリ中で、相変化材料としてパラフィン、およびバインダーまたは安定剤としてスチレンブロック共重合体およびポリメタクリル酸メチルからなるPCM造粒物を第一に製造した。PCM造粒物の組成は次の通りであった。
70*重量%のPCM(Rubitherm RT55、Rubitherm Technologies GmbH)、
15*重量%のSEEPS(Septon(登録商標)スチレンブロック共重合体、株式会社クラレ)、
15*重量%のPMMA(PMMA 7N 無着色、Evonik AG)。
*重量%の定量データはPCM造粒物の総重量に対するものである。PCM造粒物の平均粒径は4.5mmであった。
【0072】
このPCM造粒物、粒状のマトリックスポリマーポリエチレン(Lupolen(登録商標)LDPE)、粒状のマトリックスポリマーポリプロピレン(Moplen(登録商標)462R)、および化合物材料成分Eを一緒に混合し、押出機ホッパーに投入した。導電性カーボンブラックすなわち化合物材料成分Bを、押出機と連結した計量装置に投入した。計量装置は、導電性カーボンブラックをポリマー溶融物中に均一に導入することを可能とする。押出機は、標準的構成、すなわち、バック搬送エレメントを有しないセグメント化スクリューを有するHaake社から入手したRheomex PTW 16/25同方向回転方式二軸押出機である。ホッパーの内容物および導電性カーボンブラックを可塑化し、ホモジナイズして押出機により押し出した。全押出処理中に、ホッパー押出機および計量装置を窒素シールした。スクリュー回転速度は180rpmであり、質量スループットは約1kg/時であった。押出機ゾーンの温度は次の通りであった。取入口において220℃、ゾーン1において240℃、ゾーン2において260℃、ゾーン3において240℃およびストランドダイにおいて220℃。ストランドダイの内径は3mmであった。押出して冷却したポリマーを造粒機で造粒した。このように得られた造粒物の組成は次の通りであった。
化合物材料成分Aの一部として、ポリプロピレン34.3重量%、
化合物材料成分Aの一部として、低密度ポリエチレン(LDPE)30.0重量%、
化合物材料成分Bとして、導電性カーボンブラック28.0重量%、
化合物材料成分Dとして、パラフィン70重量%、ならびに化合物材料成分CとしてSEEPSおよびPMMAそれぞれ15重量%を含むPCM造粒物7.5重量%、
化合物材料成分Eとして添加剤0.2重量%。
【0073】
この造粒物を乾燥し、FET Ltd.(英国リーズ)のフィラメント押出システムでマルチフィラメント糸の製造のための出発物質として供給した。FET Ltd.(英国リーズ)のフィラメント押出システムで造粒物を加工した。フィラメント押出システムは、25mm径および長さ対直径比L/D=30:1のスクリューを有する一軸押出機を備える。ポリマー溶融物の質量スループットは20g/分であった。次の組成物温度状況により実行された。ゾーン1において190℃、ゾーン2において190℃、ゾーン3において190℃、ゾーン4において190℃、ゾーン5において190℃、ゾーン6において190℃および紡糸ダイにおいて190℃。紡糸ダイは各200μm径の36個の穿孔を有する。紡糸ダイから出てくるポリマー溶融物を冷却シャフトで25℃の空気温度において冷却し、このように固化されたマルチフィラメントを4つのゴデット対を用いた工程においてインラインで延伸した。この時の周速度は引取ゴデットについては592m/分、第一ゴデット対については594m/分、第二ゴデット対については596m/分、第三ゴデット対については598m/分、第四ゴデット対については600m/分であった。それから、マルチフィラメントをK160シェル上に巻取った。巻取機を590m/分の速度で運転した。得られたマルチフィラメント糸の線密度は307dtex(36フィラメント)であった。
【0074】
下流工程では、マルチフィラメント糸を、三段階延伸ユニットで後延伸に付した。周速度は、第一延伸段階のゴデットについては60m/分、第二および第三延伸段階のゴデットについては、それぞれ192m/分であった。第一および第二延伸段階の間に、90℃の水充填延伸浴にマルチフィラメントを通過させた。第二および第三延伸段階の間に、加熱トンネルにマルチフィラメント糸を通過させた。それから、マルチフィラメント糸をK160シェル上に巻取った。巻取機を190m/分の速度で運転した。線密度96dtex(36フィラメント)でこのように処理されたマルチフィラメント糸の延伸比は、1:3.2であった。
【0075】
その物性に関してこの方法で処理されたマルチフィラメント糸の特性決定により、伸び19%、引張強さ136mN/texおよび初期弾性率1431MPaを得た。マルチフィラメント糸の個々のフィラメントの径は17μmであった。
【0076】
線密度307dtex(36フィラメント)を有する、後延伸に付されていないマルチフィラメント糸に対して測定された特性は、192%、引張強さ38mN/texおよび初期弾性率1190MPaであった。後延伸に付されていないマルチフィラメント糸の個々のフィラメントの径は31μmであった。
【0077】
温延伸されていないマルチフィラメント糸電気抵抗を、制御温湿度チャンバー内に配置された四点式機器によって温度の関数として測定した。この時、温度を24℃(室温)から30℃、40℃、50℃、60℃、70℃および80℃の値に段階的に上昇させた。8片のマルチフィラメント糸を同時に試験し、いずれの場合も、試験距離または試験長さは75mmであった。室温におけるマルチフィラメント糸の電気抵抗は、R(24℃)=13MΩ/mである。マルチフィラメント糸を80℃の温度まで加熱すると、抵抗はR(80℃)=119MΩ/mに増大する。マルチフィラメント糸を室温まで冷却後、抵抗は初期値に戻った。80℃の温度において、温度の関数として、したがって、PTC強度の測度として、
図2中に示された抵抗比R(T)/R(24℃)は、R(80℃)/R(24℃)=9.1である。この値は、90℃の温度において、R(90℃)/R(24℃)=17.8に増加した。
【0078】
導電性成分Bの割合および性質によって、比較的良好な電気伝導度を与えるにもかかわらず、使用して延伸可能であるマルチフィラメントを製造することができるポリマー組成物の使用により、このマルチフィラメント糸を製造した。線密度または断面積に対する、24℃の温度において線密度307dtex(36フィラメント)を有するマルチフィラメント糸の電気抵抗は、線密度760dtexを有するモノフィラメント(300μm径)の4.6分の1と小さい。
図2から分かるように、マルチフィラメント糸のPTC強度は、モノフィラメントのPTC強度と実質的に対応する。
【0079】
実施例3: 箔
Moplen(登録商標)462Rポリプロピレン34.3重量%の割合およびLupolen(登録商標)低密度ポリエチレン(LDPE)30重量%の割合の配合物を、マトリックスポリマーすなわち化合物材料成分Aとして使用し、「Super Conductive Furnace N294」導電性カーボンブラック28.0重量%の割合を導電性添加剤すなわち化合物材料成分Bとして使用した。化合物材料成分Cは、スチレンブロック共重合体およびポリメタクリル酸メチルの配合物からなり、各割合は1.125重量%であった。55℃の温度において主溶融ピークを有するRubitherm RT55パラフィン5.25重量%を、化合物材料成分Dすなわち狭義の相変化材料として使用した。Irganox(登録商標)1010を0.06重量%、Irgafos(登録商標)168を0.04重量%およびステアリン酸カルシウム0.10重量%の混合物0.2重量%を、さらなる化合物材料成分Eとして使用した。
【0080】
別の工程において、造粒機を装備した混練アセンブリ中で、相変化材料としてパラフィン、およびバインダーまたは安定剤としてスチレンブロック共重合体およびポリメタクリル酸メチルからなるPCM造粒物を第一に製造した。PCM造粒物の組成は次の通りであった。
70*重量%のPCM(Rubitherm RT55、Rubitherm Technologies GmbH)、
15*重量%のSEEPS(Septon(登録商標)4055、株式会社クラレ)、
15*重量%のPMMA(PMMA 7N 無着色、Evonik AG)。
*重量%の定量データはPCM造粒物の総重量に対するものである。PCM造粒物の平均粒径は4.5mmであった。
【0081】
このPCM造粒物、粒状のマトリックスポリマーポリエチレン(Lupolen(登録商標)LDPE)、粒状のマトリックスポリマーポリプロピレン(Moplen(登録商標)462R)、および化合物材料成分Eを一緒に混合し、押出機ホッパーに投入した。導電性カーボンブラックすなわち化合物材料成分Bを、押出機と連結した計量装置に投入した。計量装置は、導電性カーボンブラックをポリマー溶融物中に均一に導入することを可能とする。押出機は、標準的構成、すなわち、バック搬送エレメントを有しないセグメント化スクリューを有するHaake社から入手したRheomex PTW 16/25同方向回転方式二軸押出機である。ホッパーの内容物および導電性カーボンブラックを可塑化し、ホモジナイズして押出機により押し出した。全押出処理中に、ホッパー押出機および計量装置を窒素シールした。スクリュー回転速度は180rpmであり、質量スループットは約1kg/時であった。押出機ゾーンの温度は次の通りであった。取入口において220℃、ゾーン1において240℃、ゾーン2において260℃、ゾーン3において240℃およびストランドダイにおいて220℃。ストランドダイの内径は3mmであった。押出して冷却したポリマーを造粒機で造粒した。このように得られた造粒物の組成は次ぎの通りであった。
化合物材料成分Aの一部として、ポリプロピレン34.3重量%、
化合物材料成分Aの一部として、低密度ポリエチレン(LDPE)30.0重量%、
化合物材料成分Bとして、導電性カーボンブラック28.0重量%、
化合物材料成分Dとして、パラフィン70重量%、ならびに化合物材料成分Cとして、SEEPSおよびPMMAそれぞれ15重量%を含むPCM造粒物7.5重量%、
化合物材料成分Eとして添加剤0.2重量%。
【0082】
この造粒物を、窒素シール下、遊星ボールミルで粉末に粉砕し、得られた粉末を真空乾燥キャビネット内で16時間乾燥した。乾燥された粉末は、7つの調節可能な温度ゾーン(押出機ヘッドに3ゾーン、押出機ヘッドとフラットフィルム押出ダイとの間に3ゾーン、フラットフィルム押出ダイに1ゾーン)を備える垂直型「Ranscastle Microtruder」一軸押出機による箔の製造用出発物質として供給した。一軸押出機は、0.5インチ(=1.27cm)径および長さ対直径比L/D=24:1のスクリューを有する。押出機の容量または溶融体積は15cm3であり、最大圧縮比は3.4:1である。
【0083】
窒素シール下、押出機ホッパーに粉末を投入した。7つの押出機ゾーンの温度は、ゾーン1においては190℃、ゾーン2においては200℃、ゾーン3、4、5、6においてはそれぞれ210℃、フラットフィルム押出ダイにおいては220℃であった。フラットフィルム押出ダイのスロット幅は50mmであり、そのギャップサイズは300μmであった。一軸押出機を、8回転毎分のスクリュー回転速度で、かつ、3.5g/分の質量スループットで運転した。フラットフィルム押出ダイから出てくるポリマー溶融物またはポリマーウェブを、0.6m/分の速度で冷却ロールおよび下流のベルト取出装置によって延伸した。冷却ロールの温度は36℃であった。40~50mm幅および160~240μm厚の箔ウェブを、上記処理パラメーターを変化させることにより連続的に製造することができた。このように製造された45mm幅および180μmの箔の伸びは448%であり、その引張強さは34N/mm2であった。
【0084】
温度の関数として、得られた箔の電気抵抗を、DIN EN 60093:1993-12に従って、制御された温湿度条件下チャンバー内で決定した。この時、温度を24℃(室温)から30℃、40℃、50℃、60℃、70℃および80℃の値に10℃ずつ段階的に上昇させた。R(24℃)=18.4mΩおよびR(80℃)=48.0mΩの抵抗値を、24℃および80℃において180μm厚および28.3cm2の面積の箔試料で測定した。80℃から24℃へ箔を冷却した後、抵抗はその初期値に戻った。温度の関数として抵抗比R(T)/R(24℃)は、PTC強度の指標として機能し、R(T)/R(24℃)=2.6であった。
【0085】
次の方法を使用して、本発明の成形物およびその中に存在する導電性添加剤の物性を測定した。
【0086】
【0087】
上表において、本発明の目的のため、用語「相当径」は、検討中の粒子と同じ化学組成および面積部(電子顕微鏡画像)を有する「相当する」球状粒子の径を意味する。実際面では、検討中の各(不規則な形状の)粒子の面積部は、測定されたシグナルに相応する径を有する球状粒子に割り当てられる。
【0088】
本発明の成形物中のカーボンブラック凝集魂およびカーボンブラック凝集体の分布を、ASTM D3849-14aに従って決定する。このため、約1mlの体積の検討中の成形物を適切な溶媒、例えば、ヘキサフルオロイソプロパノール、m-クレゾール、2-クロロフェノール、フェノール、テトラクロロエタン、ジクロロ酢酸、ジクロロメタンまたはブタノン中に先ず溶解する。マトリックスポリマーの性質によって必要とされる場合、溶液を、高温において24時間以下の時間内で製造する。得られたポリマー溶液を約3mlのクロロホルム中に超音波を用いて分散または希釈し、走査透過型電子顕微鏡(STEM)による分析のため、試料グリッドに塗布する。希釈ポリマー溶液からSTEMにより得られた画像を、カーボンブラック凝集魂およびカーボンブラック凝集体の面積または相当径を決定するために、画像解析ソフトウェア、例えば、ImageJにより評価する。