IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日本除蟲菊株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-蚊類防除方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】蚊類防除方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/06 20060101AFI20220207BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20220207BHJP
   A01N 53/06 20060101ALI20220207BHJP
   A01M 7/00 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
A01N25/06
A01P7/04
A01N53/06 110
A01M7/00 S
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019182596
(22)【出願日】2019-10-03
(62)【分割の表示】P 2015033653の分割
【原出願日】2015-02-24
(65)【公開番号】P2020007369
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2019-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2014041858
(32)【優先日】2014-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】納富 彩子
(72)【発明者】
【氏名】吉中 博子
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋子
(72)【発明者】
【氏名】田中 修
(72)【発明者】
【氏名】川尻 由美
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-220301(JP,A)
【文献】特開2010-280633(JP,A)
【文献】特開2009-254281(JP,A)
【文献】特開2014-019674(JP,A)
【文献】特開2011-063576(JP,A)
【文献】特開2002-003302(JP,A)
【文献】特開2013-099336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00- 65/48
A01P 1/00- 23/00
A01M 1/00- 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蚊類防除用エアゾールを用いてエアゾール原液を処理空間に噴射して蚊類をノックダウン又は死滅させる蚊類防除方法であって、
前記蚊類防除用エアゾールは、
害虫防除成分と有機溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器と、
前記定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンと、
を備え、
前記害虫防除成分は、メトフルトリン及び/又はトランスフルトリンであり、
前記エアゾール原液は、前記害虫防除成分を6.2~50重量%含有し、
前記耐圧容器に封入される前記エアゾール原液(a)と前記噴射剤(b)との容量比率(a/b)は、10/90~35/65であり、
前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1~0.4mLとなり、且つ噴射距離20cmにおける噴射力が25℃において0.3~10.0g・fとなるように調整され、
前記エアゾール原液は、前記噴射口から、少なくとも一部が処理空間内における蚊類が止まる露出部に付着する付着性粒子として噴射され、
前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の噴射量が4.5~8畳あたり5.0~30mgに調整され
前記エアゾール原液の処理空間への噴射を24時間毎に1回実行する蚊類防除方法
【請求項2】
前記有機溶剤は、高級脂肪酸エステル、及びアルコール類からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の蚊類防除方法
【請求項3】
前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の効果持続時間は、33m3以下の空間に対して20時間以上である請求項1又は2に記載の蚊類防除方法
【請求項4】
前記噴射口は、0.2~1.0mmの噴口径を有する請求項1~3の何れか一項に記載の蚊類防除方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫防除成分と有機溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器と、定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンと、を備えた蚊類防除用エアゾール、及びこれを用いた蚊類防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飛翔害虫を駆除する方法として、例えば、殺虫成分を含む薬剤を含浸させた担体から薬剤を蒸散させて処理空間に揮散させる方法、飛翔害虫に薬剤を直接噴霧する方法、飛翔害虫が現われ易い場所に予め薬剤を噴霧しておく方法等がある。これらの方法に関し、屋内に侵入する飛翔害虫を駆除する製品として、殺虫成分を含有するエアゾール殺虫剤が開発されている。エアゾール殺虫剤は処理空間に殺虫成分を簡単に噴霧することができるため、使い勝手の良い製品として広く利用されている。
【0003】
従来、エアゾール殺虫剤に関して、室内の気中における薬剤の残存率の低下を抑制するものがあった(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、薬剤を放出した後、その薬剤を空気中にとどめて気中濃度の低下を抑制することで、物陰に潜む蚊に対して十分な駆除効果を持続させることができるとしている。
【0004】
また、薬剤を室内に噴霧した場合の粒子径を特許文献1より大きく設定したエアゾール殺虫剤があった(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2は、特許文献1と同様の技術思想に基づくエアゾール殺虫剤であり、薬剤を室内の気中にできるだけ長く残存させ、蚊に対する殺虫効果を高めようとするものである。
【0005】
一方、エアゾール殺虫剤に関し、室内の構造物または備品の表面に付着させることを特徴とする家屋室内における飛翔性害虫の駆除方法があった(例えば、特許文献3を参照)。特許文献3によれば、室内の構造物等に付着させた特定の化合物が蒸散するため、繰り返し噴霧や、電気器具等の継続的な運転を必要とせず、簡便な手段によって家屋内飛翔性害虫を効率的に駆除することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-17055号公報
【文献】特開2013-99336号公報
【文献】特開2001-328913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のエアゾール殺虫剤は、室内に拡散する薬剤の粒子径を調整することによって薬剤が気中に残存する時間を長くし、薬剤の持続時間を長時間にすることが試みられている。しかし、処理開始から12時間以上での薬剤粒子の気中残存率は0.5%以上であり、気中残存率の維持を目的とする特許文献1のエアゾール殺虫剤では、持続時間に限度がある。特許文献2においても、薬剤粒子の気中残存率は特許文献1と同様であり、長期の持続時間を期待できるエアゾール殺虫剤ではない。
【0008】
ここで、防除対象である蚊類(通常の蚊であるアカイエカ、ヒトスジシマカ等のみならず、カ亜目に属するユスリカ類やチョウバエ類等も含むものとする。)のうち、特に、アカイエカやヒトスジシマカは、吸血するだけでなく感染症を媒介する蚊であるため、これらの蚊から身を守ることが必要であり、従来に増して効果的な駆除方法の確立が求められている。蚊類は、昼夜を問わず屋内に侵入する飛翔害虫であるため、一日中、つまり、効果を奏する持続時間が24時間であるような殺虫剤が理想的である。
【0009】
ところが、上記のとおり、特許文献1、及び特許文献2に開示されてあるエアゾール殺虫剤では、12時間程度しか効果が持続しない。また、特許文献1、及び特許文献2は、薬剤の粒子径を調整することにより、気中に積極的に薬剤を残存させるものであるが、薬剤粒子が気中に残存しているということは、処理空間内にいる人やペットが当該薬剤を吸入する環境に長時間置かれるということである。そのため、人体やペットへの影響という点においても、好ましいエアゾール殺虫剤とは言い難い。
【0010】
特許文献3の駆除方法においても、安定した効果を長時間に亘って維持できるかどうか不明である。空気中に噴射された薬剤粒子は、(A)空気中に浮遊し残存する、(B)床や壁に付着する、(C)(B)の後に再び揮散する、もしくは(D)光等により分解し消失する、の何れかの挙動を辿ると考えられる。これらに照らしてみた場合、特許文献3の駆除方法は、(C)のタイプに該当する。しかしながら、室内の構造物等に付着した薬剤が再び空気中に揮散する場合、温度や風量等の影響を受け易いため、特許文献3の駆除方法では、飛翔害虫の駆除に対して安定した効果を得られるとは限らない。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、飛翔害虫の中でも、特に、蚊類に対して優れた防除効果を長時間に亘って発揮することができ、しかも、人体やペットへの影響を低減した蚊類防除用エアゾール、及び当該蚊類防除用エアゾールを用いた蚊類防除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明に係る蚊類防除用エアゾールの特徴構成は、
害虫防除成分と有機溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器と、
前記定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンと、
を備えた蚊類防除用エアゾールであって、
前記噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1~0.4mLとなり、且つ噴射距離20cmにおける噴射力が25℃において0.3~10.0g・fとなるように調整され、
前記エアゾール原液は、前記噴射口から、少なくとも一部が処理空間内の露出部に付着する付着性粒子として噴射されることにある。
【0013】
「発明が解決しようとする課題」にて述べたとおり、従来のエアゾール殺虫剤は、処理空間に積極的に薬剤粒子を拡散させ、気中に残存する時間をできるだけ長期化させる方向で開発が進められていた。しかし、処理空間に浮遊している薬剤粒子の滞留時間が長時間になると、処理空間内に人やペットが立ち入った場合、薬剤粒子を吸入する可能性があるため、健康への影響が懸念される。
ところで、本発明者らの研究により、蚊を代表とする蚊類(以下、本発明においては、単に「蚊類」と称する。)は飛んでいる時間よりも、壁面等に止まっている時間の方が長いことが判明した。即ち、屋内に侵入してきた蚊類の大半は壁面等に止まり、人を吸血する機会を窺っているということになる。このため、従来のように、処理空間内の薬剤粒子が浮遊する時間を長期化させる手法は、飛翔中の蚊類の防除に対しては一定の効果を奏することができるが、壁面等に止まっている蚊類に対しては薬剤の効果を充分に及ぼすことができず、結果的に、蚊類の防除が不完全となり得る。本発明者らは、上記の研究結果から、壁面等に止まっている蚊類に対する防除の効果を高めることが、人やペットが薬剤を吸入することを抑制しつつ、屋内に侵入してくる蚊類全体の防除の向上に繋がると考えた。
そこで、本発明に係る蚊類防除用エアゾールでは、処理空間に噴射されたエアゾール原液の少なくとも一部が、処理空間内の露出部(例えば、処理空間内に存在する床面や壁面、家具等の構造物の表面等)に付着する付着性粒子として形成されるものとした。このため、露出部に止まっている蚊類、及び処理空間を飛んでいる蚊類の両方の蚊類を効果的にノックダウン又は死滅させることができ、蚊類全体の防除効果を向上させることができる。また、付着性粒子以外の粒子(これを、「浮遊性粒子」と称することとする。)が処理空間全体に満遍なく拡散しても、処理空間中のエアゾール原液の濃度は付着性粒子の分だけ低減される。そのため、処理空間内にいる人やペットがエアゾール原液の粒子を吸入する量は極微量となり、人体やペットにとってより安全な蚊類防除用エアゾールとなる。
また、本発明に係る蚊類防除用エアゾールは、噴射ボタンを1回押下したときの噴射容量が0.1~0.4mLとなり、且つ噴射距離20cmにおける噴射力が25℃において0.3~10.0g・fとなるように調整されている。このように噴射容量、及び噴射力を調整することで、噴射されたエアゾール原液の少なくとも一部を付着性粒子として形成することができ、蚊類に対し優れた防除効果を奏することができる。
【0014】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記付着性粒子は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が20~80μmであることが好ましい。
【0015】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、付着性粒子を上記の最適な範囲に調整することによって、露出部に止まっている蚊類を付着性粒子の害虫防除成分によって確実にノックダウン又は死滅させることができる。
【0016】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記付着性粒子の付着量は、処理空間内の露出部に1m当たり0.01~0.4mgであることが好ましい。
【0017】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、付着性粒子の付着量を上記の最適な範囲に調整することによって、露出部に止まっている蚊類を付着性粒子の害虫防除成分によって確実にノックダウン又は死滅させることができる。
【0018】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記耐圧容器に封入される前記エアゾール原液(a)と前記噴射剤(b)との容量比率(a/b)は、10/90~50/50であることが好ましい。
【0019】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、エアゾール原液(a)と噴射剤(b)との容量比率(a/b)が上記の範囲である場合、噴射されるエアゾール原液より形成される付着性粒子が最適な状態となる。これにより、付着性粒子は確実に処理空間内の露出部に到達することができ、また、浮遊性粒子は人体やペットに影響を与えない程度の量で処理空間を浮遊することができる。
【0020】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記有機溶剤は、高級脂肪酸エステル、及びアルコール類からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0021】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、有機溶剤は、高級脂肪酸エステル、及びアルコール類からなる群から選択される少なくとも1種である。このような有機溶剤を使用することで、各成分の効果を効率良く発揮させることができる。また、エアゾール原液を噴射した場合、付着性粒子をバランスよく形成することができ、蚊類に対する防除効果が安定したものとなる。
【0022】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記害虫防除成分は、30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgであることが好ましい。
【0023】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、害虫防除成分は、30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgである成分を採用している。このような害虫防除成分であれば、エアゾール原液を噴射した場合、付着性粒子を最適な状態で形成することができる。また、害虫防除成分以外の各成分や、上記の有機溶剤、及び噴射剤と調製した場合、効果的な蚊類防除用エアゾールを実現することができる。
【0024】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、前記害虫防除成分の効果持続時間は、33m3以下の空間に対して20時間以上であることが好ましい。
【0025】
特許文献1、及び特許文献2に開示されているエアゾール殺虫剤による蚊類の駆除方法において、薬剤の持続時間は12時間とされていた。しかし、本発明に係る蚊類防除用エアゾールであれば、エアゾール原液を処理空間にたった1回噴射するだけで、33m3以下の空間に対して20時間以上、即ち、略1日中害虫防除効果を持続させることができる。
【0026】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールにおいて、
前記噴射口は、0.2~1.0mmの噴口径を有することが好ましい。
【0027】
本構成の蚊類防除用エアゾールによれば、上記の最適な範囲に噴口径が設定されているため、エアゾール原液の粒子径、及び噴射力を適切に調整することができ、付着性粒子を最適な状態で形成することができる。その結果、害虫防除成分の効果を奏することができる。
【0028】
上記課題を解決するための本発明に係る蚊類防除方法の特徴構成は、
前記の何れか一つに記載の蚊類防除用エアゾールを用いて前記エアゾール原液を処理空間に噴射して蚊類をノックダウン又は死滅させることにある。
【0029】
本構成の蚊類防除方法は、本発明の蚊類防除用エアゾールを用いて実行されるため、上述した蚊類防除用エアゾールと同様の優れた蚊類防除効果を奏することができる。
【0030】
本発明に係る蚊類防除方法において、
前記エアゾール原液の処理空間への噴射を24時間毎に1回実行することが好ましい。
【0031】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールは、上記のとおり、害虫防除成分の持続時間が20時間以上であり、略1日である。このため、この蚊類防除用エアゾールを用いて、エアゾール原液の処理空間への噴射を24時間毎に1回実行することができる。このような蚊類防除方法を実行すれば、毎日1回決まった時刻に噴射するだけで生活時間帯に亘って害虫防除効果を持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、処理空間にエアゾール原液を噴射したときのエアゾール原液の粒子の挙動を示したモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の蚊類防除用エアゾールは、害虫防除成分と有機溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器と、定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンとを備える。以下、本発明の蚊類防除用エアゾールについて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0034】
<エアゾール原液>
[害虫防除成分]
エアゾール原液の一つの主成分である害虫防除成分は、30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgであるものを使用する。そのような害虫防除成分として、メトフルトリン、トランスフルトリン等が好適に選択される。これらの害虫防除成分は、単独又は混合状態の何れでも使用可能である。なお、メトフルトリンやトランスフルトリンには、不斉炭素に基づく光学異性体や幾何異性体が存在するが、それらも本発明に含まれる。
【0035】
エアゾール原液中の害虫防除成分の含有量は、有機溶剤に溶解させた後、処理空間に噴射されることを考慮して、1.0~50重量%とすることが好ましい。このような範囲であれば、害虫防除成分が有機溶剤に溶解し易く、また、エアゾール原液を噴射した際に、少なくとも一部が付着性粒子として形成され、付着性粒子以外の粒子は浮遊性粒子として形成され易くなる(付着性粒子、及び浮遊性粒子に関しては後に詳述する。)。エアゾール原液中の害虫防除成分の含有量が1.0重量%未満である場合、害虫防除成分を効果的に発揮することができず、蚊類の防除効果が不十分となる。一方、エアゾール原液中の害虫防除成分の含有量が50重量%を超える場合、害虫防除成分の濃度が高くなるため、エアゾール原液を適切に調製し難くなる。
【0036】
上述のとおり、本発明の蚊類防除用エアゾールに含有される害虫防除成分は、30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgであるもの(メトフルトリン、トランスフルトリン等)が好ましいが、これらの成分に加え、プロフルトリン、エムペントリン等のピレスロイド系化合物、フタルスリン、レスメトリン、シフルトリン、フェノトリン、ぺルメトリン、シフェノトリン、シペルメトリン、アレスリン、プラレトリン、フラメトリン、イミプロトリン、エトフェンプロックス等の他のピレスロイド系化合物、シラフルオフェン等のケイ素系化合物、ジクロルボス、フェニトロチオン等の有機リン系化合物、プロポクスル等のカーバメート系化合物等を含有させることも可能である。
【0037】
害虫防除成分は、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した場合、2時間経過後の気中(処理空間中)残存率が0.05~5%となるように調整される。気中残存率は、噴射直後に処理空間に存在する粒子の数(P)に対する所定時間経過後の処理空間に存在する粒子の数(Q)の割合、すなわち、Q/P × 100(%)で表されるが、簡易的には後述の実施例で説明するように、理論上の害虫防除成分の気中濃度、及び所定時間経過後における害虫防除成分の気中濃度から求めることができる。このときの害虫防除成分の噴射量は、4.5~8畳(約18.5~33.0m)あたり5.0~30mgに調整される。このような範囲であれば、エアゾール原液によって付着性粒子が最適な状態で形成され、害虫防除効果を発揮することができる。また、上記のように比較的低い残存率であっても、蚊類に対しては効果的にノックダウン又は死滅させることができる。さらに、処理空間内にいる人やペットが吸入しても人体やペットに影響を及ぼす虞がなく、安全に使用することもできる。
【0038】
[有機溶剤]
エアゾール原液のもう一つの主成分である有機溶剤は、上記の害虫防除成分を溶解してエアゾール原液を調製することができ、また、調製したエアゾール原液を処理空間に噴射したとき、最適な粒子を形成し得るものが使用される。有機溶剤としては、高級脂肪酸エステル、及びアルコール類が好ましい。高級脂肪酸エステルとしては、炭素数の総数が16~20のものが好ましく、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、パルミチン酸イソプロピル等が挙げられる。これらのうち、ミリスチン酸イソプロピルが特に好適である。アルコール類としては、炭素数が2~3の低級アルコールが好ましい。有機溶媒には、例えば、n-パラフィン、及びイソパラフィン等の炭化水素系溶剤や、炭素数3~6のグリコールエーテル類、及びケトン系溶剤等を混合することもできる。
【0039】
[その他の成分]
本発明の蚊類防除用エアゾールは、上記成分に加え、殺ダニ剤、カビ類や菌類等を対象とした防カビ剤、抗菌剤、殺菌剤、芳香剤、消臭剤、安定化剤、帯電防止剤、消泡剤、賦形剤等を適宜配合することもできる。殺ダニ剤としては、5-クロロ-2-トリフルオロメタンスルホンアミド安息香酸メチル、サリチル酸フェニル、3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメート等が挙げられる。防カビ剤、抗菌剤、及び殺菌剤としては、ヒノキチオール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-(4-チアゾリル)ベンツイミダゾール、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、トリホリン、3-メチル-4-イソプロピルフェノール、オルト-フェニルフェノール等が挙げられる。芳香剤としては、オレンジ油、レモン油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、シトロネラ油、ライム油、ユズ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油、リモネン、α-ピネン、リナロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、クミンアルデヒド、ベンジルアセテート等の芳香成分、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド配合の香料成分等が挙げられる。
【0040】
<噴射剤>
本発明の蚊類防除用エアゾールで用いる噴射剤としては、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル(DME)、窒素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素、圧縮空気等が挙げられる。上記の噴射剤は、単独又は混合状態で使用することができるが、LPGを主成分としたものが使い易い。
【0041】
本発明の蚊類防除用エアゾールは、エアゾール原液(a)と噴射剤(b)との容量比率(a/b)が、10/90~50/50となるように調整される。このような範囲に調整すれば、エアゾール原液の少なくとも一部を付着性粒子として形成することができる。これにより、付着性粒子は確実に処理空間内の露出部に到達することができ、また、浮遊性粒子は人体やペットに影響を与えない程度の量で処理空間を浮遊することができる。このように、付着性粒子が最適な状態で存在し、害虫防除効果を最大限発揮することができる。容量比率(a/b)が10/90に対して、噴射剤(b)の割合を大きくする、つまり、耐圧容器内に封入する噴射剤を多量にすると、噴射されるエアゾール原液が必要以上に微細化されるため、付着性粒子が減少する。これにより、処理空間内の露出部に付着する付着性粒子が不足するため、露出部に止まっている蚊類を確実に防除することができない場合がある。一方、容量比率(a/b)が50/50に対して、噴射剤(b)の割合を小さくする、つまり、耐圧容器内に封入する噴射剤を少量にすると、噴射されるエアゾール原液を上記した最適な範囲の粒子径を有する付着性粒子として形成することが困難となるため、エアゾール原液は噴射されるとすぐに沈降する。そのため、処理空間内の露出部に付着する付着性粒子が量的に不十分となり、蚊類を早期にノックダウン又は死滅させることが困難になる。
【0042】
<蚊類防除用エアゾール>
上記のように、害虫防除成分、有機溶剤、噴射剤、その他必要に応じて配合される成分を選択し、これらを耐圧容器に封入することで、エアゾール製品が完成する。このエアゾール製品は、本発明の蚊類防除用エアゾールであり、処理空間にエアゾール原液を噴射するものである。エアゾール原液は、主に、害虫防除成分と有機溶剤とから構成されるものであり、厳密には噴射剤とは別のものであるが、エアゾール原液は噴射剤と同時に耐圧容器の外部に放出されるため、以降の説明では、エアゾール原液及び噴射剤を含むエアゾール内容物を「エアゾール原液」として取り扱う場合がある。ここで、本発明に係る蚊類防除用エアゾールが備える噴射バルブについて説明する。本発明に係る蚊類防除用エアゾールは、主に、耐圧容器(エアゾール容器)、定量噴射バルブ、及び噴射ボタンから構成されている。定量噴射バルブには、エアゾール原液を噴射するための作動部である噴射ボタンが接続されてあり、噴射ボタンには、エアゾール原液がエアゾール容器から外部(処理空間)へ噴出する噴射口が設けられてある。
【0043】
蚊類防除用エアゾールの噴射ボタンを1回押下げた場合、噴射剤の圧力によって定量噴射バルブが作動し、耐圧容器内のエアゾール原液が噴射口に上昇し、処理空間に噴射される。このときのエアゾール原液の噴射容量は、0.1~0.4mLに調整され、より好ましくは0.2~0.4mLに調整される。このような範囲であれば、エアゾール原液の少なくとも一部が付着性粒子として形成される。噴射容量が0.1mL未満であれば、噴射容量が少なすぎるため、付着性粒子が処理空間内の露出部に十分に付着せず、露出部に止まっている蚊類をノックダウン又は死滅させることが困難となる。また、浮遊性粒子も少なくなるため、処理空間を飛んでいる蚊類に対してもノックダウン又は死滅させるこが困難となる。一方、0.4mLを超えると、処理空間に必要以上にエアゾール原液が放出されるため、人やペットが処理空間に立ち入ることが困難となり、また、エアゾール原液の使用量も過大となるため、経済的にも不利である。
【0044】
蚊類防除用エアゾールは、噴射口からの距離が20cmの箇所において噴射力が25℃において、0.3~10.0g・fとなるように調整されている。このような範囲であれば、1回の噴射によって、エアゾール原液から形成される付着性粒子を処理空間内の露出部にスムーズに到達させることができ、害虫防除成分の効果を発揮させることができる。さらに、噴射口の噴口径は0.2~1.0mmに設定することが好ましい。この範囲であれば、上記の粒子径、及び噴射力に適切に調整することができ、処理空間に噴射されたエアゾール原液の少なくとも一部が付着性粒子として最適に形成され、害虫防除効果を発揮することができ、処理空間内の蚊類を確実にノックダウン又は死滅させるこができる。
【0045】
図1は、処理空間にエアゾール原液を噴射したときのエアゾール原液の粒子の挙動を示したモデル図である。図1(a)は、従来製品に係る蚊類防除用エアゾールを処理空間に噴射した場合のモデル図であり、図1(b)は、本発明に係る蚊類防除用エアゾールを処理空間に噴射した場合のモデル図である。
図1(a)に示されるように、従来の蚊類防除用エアゾール製品(単に「従来品」とする)は、エアゾール原液が処理空間に噴射されると、粒子径20μm未満の粒子Mとなって処理空間中に拡散する。噴射して暫く経過すると、粒子Mは処理空間全体にさらに拡散し、害虫防除成分を揮散する。これにより、処理空間を飛んでいる蚊類をノックダウン又は死滅させることができる。しかし、上記のとおり、蚊類は飛んでいる時間よりも処理空間内の露出部に止まっている時間の方が長いため、従来品ではこのような処理空間内の露出部に止まっている蚊類まで確実にノックダウン又は死滅させることができない。また、処理空間の窓を開ける等して風が吹き込んできた場合、処理空間中に浮遊している粒子Mの一部は風に流されてしまい、害虫防除成分の効果が大幅に減少する。さらに、粒子Mが処理空間に浮遊している時間が長時間になると、処理空間内にいる人やペットが粒子Mを吸入する量が増えるため、人体やペットに悪影響を及ぼす虞もある。
そこで、本発明者らは、鋭意研究の末、これらの問題を解決する蚊類防除用エアゾール製品を開発した。以下、本発明に係る蚊類防除用エアゾール製品の特徴構成である付着性粒子、及び浮遊性粒子について説明する。
【0046】
[付着性粒子]
図1(b)に示されるように、エアゾール原液を処理空間に1回噴射すると、付着性粒子X、及び浮遊性粒子Yが形成される。図1(b)において、白丸で示されているものが付着性粒子Xであり、黒丸で示されているものが浮遊性粒子Yである。両者の粒子径は異なっており、付着性粒子Xの方が浮遊性粒子Yより大きな粒子径として形成される。付着性粒子Xの好ましい粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が20~80μmである。この範囲であれば、エアゾール原液が処理空間に噴射された際、速やかに処理空間内の露出部に移動し、付着することができる。そのため、露出部に止まっている蚊類を付着性粒子Xの害虫防除成分によってノックダウン又は死滅させることができる。また、処理空間内に侵入し、露出部に止まろうとしている蚊類に対しても害虫防除効果を奏するため、処理空間外へ追い出すことも可能となる。粒子径が20μm未満であると、粒子径が小さすぎるため、露出部まで到達することが困難となり、その結果、露出部に止まっている、あるいは、止まろうとしている蚊類を防除することが困難となる。一方、粒子径が80μmを超えると、粒子径が大きすぎるため、付着性粒子の挙動をコントロールし難くなり、露出部に適切に付着させることが困難となる。付着性粒子Xのより好ましい粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径25~70μmである。
【0047】
また、付着性粒子Xの好ましい付着量は、処理空間内の露出部に1m当たり0.01~0.4mgであり、好ましくは、1m当たり0.05~0.2mgである。このような範囲であれば、露出部に止まっている蚊類を効果的にノックダウン又は死滅することができる。付着量が1m当たり0.01mg未満であると、露出部に止まっている蚊類に対し充分な防除効果を奏することができず、蚊類をノックダウン又は死滅させることが困難となる。一方、付着量が1m当たり0.4mgを超えても、害虫防除効果は大きく向上することはなく、また、エアゾール原液の使用量も過大となるため、経済的にも不利である。
【0048】
[浮遊性粒子]
浮遊性粒子Yの好ましい粒子径は、25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径が20μm未満である。このような範囲であれば、エアゾール原液が処理空間に噴射された際、速やかに拡散し、処理空間に浮遊することができる。そのため、処理空間を飛んでいる蚊類を浮遊性粒子Yの害虫防除成分によってノックダウン又は死滅させることができる。また、処理空間内に侵入しようとする蚊類に対しても効果を奏するため、処理空間内への侵入を抑制することも可能となる。浮遊性粒子Yの粒子径が20μm以上の場合は、付着性粒子Xとして機能する。このように、エアゾール原液のうち一部の粒子を浮遊性粒子Yとして粒子径を上記のような最適な範囲に調整することにより、付着性粒子Xとは異なった挙動を示すようになり、付着性粒子Xと共に効果的に蚊類をノックダウン又は死滅させることができる。
【0049】
上記のような付着性粒子X、及び浮遊性粒子Yは、図1(b)に示されるように、エアゾール原液を処理空間に1回噴射した直後において、付着性粒子Xは処理空間内の露出部に向かって素早く移動し、浮遊性粒子Yは処理空間全体に拡散し始める。1回噴射してから暫く経過すると、付着性粒子Xは露出部への付着が完了し、付着した状態を維持する。そして、上記のとおり、露出部に止まっている蚊類を害虫防除成分によってノックダウン又は死滅させる。一方、浮遊性粒子Yは、処理空間全体に満遍なく拡散が進行し、害虫防除成分が徐々に揮散してゆき、処理空間を飛んでいる蚊類をノックダウン又は死滅させる。また、処理空間内に侵入しようとする蚊類に対しては、侵入を防ぐことが可能である。万が一、処理空間内に侵入してきた場合であっても、処理空間内の露出部に当該蚊類が止まったり、露出部付近に近づいてきた場合、露出部に付着している付着性粒子Xの害虫防除成分によって、確実にノックダウン又は死滅させることができる。このように、本発明に係る蚊類防除用エアゾールは、噴射されたエアゾール原液から形成される粒子は、挙動の異なる2種類の粒子であるため、夫々の粒子が最適な状態で存在し、夫々の役割を分担して害虫防除効果を最大限発揮することができる。このため、付着性粒子X、及び浮遊性粒子Yによって、処理空間に存在する蚊類、及び処理空間内に侵入しようとする蚊類のどちらにも優れた防除効果を発揮し、ノックダウン又は死滅させることができる。
【0050】
また、処理空間に風が吹き込んできた場合、浮遊性粒子Yの一部が風に流されてしまったとしても、露出部に付着性粒子Xが留まっている。上記のとおり、処理空間にいる蚊類の大半は露出部に止まっている時間の方が長いため、付着性粒子Xが所望の効果を発揮することができれば、浮遊性粒子Yの量が減少しても、蚊類への防除効果が劣る心配はない。さらに、従来品のように、処理空間に噴射されるエアゾール原液により形成される粒子のうち一部が浮遊性粒子Yとして形成される。このため、処理空間に拡散しているエアゾール原液(浮遊性粒子Y)の濃度は、付着性粒子Xの分低減しているため、従来品と比較して処理空間の濃度は低いものとなる。従って、浮遊性粒子Yの吸入による人体やペットへの影響は低減され、安全な製品として提供することができる。
【0051】
上記にて調製したエアゾール原液を処理空間に1回噴射すると、害虫防除成分の効果持続時間は33m3以下の空間に対して20時間以上である。33m3以下の空間には、4.5~8畳の居間(天井高2.5m)が含まれる。従って、本発明に係る蚊類防除用エアゾールであれば、一般住宅等の通常の居住空間において、略1日中害虫防除効果を持続させることができる。蚊類は昼夜を問わず屋内に侵入し、特に、就寝中に吸血されることを防ぐ必要があるが、33m3以下の空間に対して20時間以上に亘り害虫防除成分の効果が持続するため、例えば、夜間の就寝前に1回噴射しておけば、翌日の午後まで効果が持続し、安心して就寝することができる。
【0052】
<蚊類防除方法>
本構成の蚊類防除方法は、上記の蚊類防除用エアゾールを用いて実行される。まず、害虫防除成分と有機溶剤とを含有するエアゾール原液、及び噴射剤を封入してなる定量噴射バルブが設けられた耐圧容器において、定量噴射バルブに接続される噴射口が設けられた噴射ボタンを1回押すと、エアゾール原液が噴射口から処理空間へ噴射される(噴射工程)。このとき、図1(b)に示されるように、エアゾール原液から付着性粒子X、及び浮遊性粒子Yが形成され、処理空間に噴射される。付着性粒子Xは処理空間内の露出部に付着し、浮遊性粒子Yは処理空間に浮遊する。付着性粒子Xは、処理空間内の壁面や床面、構造物等の表面に止まっている蚊類をノックダウン又は死滅させ、あるいは、これらの場所に止まろうとする蚊類に対しても効果を奏し、処理空間外へ追い出す。一方、浮遊性粒子Yは、処理空間を飛んでいる蚊類をノックダウン又は死滅させることができ、また、処理空間内に侵入しようとする蚊類に対しても効果を奏し、処理空間内への侵入を抑制する。上記のような付着性粒子X、及び浮遊性粒子Yの害虫防除効果は、33m3以下の空間に対して20時間以上の長時間に亘って持続する。所定の時間が経過した後は、再度、エアゾール原液を処理空間に噴射して、蚊類をノックダウン又は死滅させることができる。
【0053】
本発明に係る蚊類防除用エアゾールは、上記のとおり、害虫防除成分の持続時間が33m3以下の空間に対して20時間以上であり、略1日である。このため、この蚊類防除用エアゾールを用いて実行される蚊類防除方法であれば、1日1回毎日決まった時刻に噴射する噴射工程を実行するだけで操作を完了させることができる。このように、誰でも簡単にエアゾール原液を処理空間に噴射することができ、且つ、噴射するタイミングを逃すことを防止することができる。
【実施例
【0054】
本発明の蚊類防除用エアゾールについて、蚊類防除効果を確認するため、本発明の特徴構成を備えた複数の蚊類防除用エアゾール(実施例1~10)を準備し、蚊類防除効果確認試験を実施した。また、比較のため、本発明の特徴構成を備えていない蚊類防除用エアゾール(比較例1~2)を準備し、同様の蚊類防除効果確認試験を実施した。
【0055】
実施例1~10として表1に示すように、組成及び条件を各実施例に応じて蚊類防除用エアゾールを調製し、下記に示す試験を行った。比較例1~2についても、表1に示す組成及び条件にて蚊類防除用エアゾールを調製し、実施例と同様の試験を行った。試験結果を表2に示す。
(1)25m3の部屋での蚊成虫に対する防除効果
閉めきった25m3の部屋の中央で蚊類防除用エアゾールを斜め上方に向けて1回噴射し、この直後、アカイエカ雌成虫50匹を放ち、2時間暴露させた後、全ての供試蚊を回収した。その間、時間経過に伴い落下仰転したアカイエカ雌成虫を数え、KT50値を求めた。そして、同じ部屋で、蚊類防除用エアゾールを1回噴射してから10時間後、14時間後、及び20時間後について同様の操作を行った。
(2)浮遊性粒子の気中残存率
閉めきった25m3の部屋の中央に向けて蚊類防除用エアゾールを斜め上方に向けて1回噴射した。部屋の中央より50cm後方(壁面から130cm)、床上120cmの位置に空気捕集管(ガラス管にシリカゲルを充填し、両端を脱脂綿で詰めたもの)を設置し、真空ポンプに接続して噴射処理から2時間経過した後に所定量の空気を吸引した。空気捕集管をアセトンで洗浄し、捕集された害虫防除成分量をガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、型式GC1700)により分析した。得られた分析値に基づき、害虫防除成分の気中濃度を算出し、理論上の気中濃度に対する比率を気中残存率として求めた。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
表1、及び表2の結果から、害虫防除成分として、メトフルトリン及び/又はトランスフルトリンを用いた場合(実施例1~7、9、10)、蚊類防除用エアゾールを1回噴射してから20時間後もKT50値は有意な数値に維持されており、優れた防除効果を示すことが分かった。トランスフルトリンに少量のプロフルトリンを添加したもの(実施例8)についても、防除効果は優れていた。また、害虫防除成分と組み合わせる有機溶剤としては、ミリスチン酸イソプロピルのような炭素数の総数が16~20の高級脂肪酸エステル、及びエタノールのような炭素数2~3程度の低級アルコールが効果的であることが分かった。一方、比較例1~2においては、蚊類防除用エアゾールを1回噴射してから10時間後の時点で、KT50値は実施例と比較して劣った数値となり、14時間経過後は、さらに劣った結果を示した。そして、20時間後は、何れの比較例もアカイエカ雌成虫に対する防除効果は略消滅していることが示された。
【0059】
次に、実施例1~10とは異なる蚊を対象として、本発明の蚊類防除用エアゾールについて、蚊類防除効果を確認する試験を行った。この試験を実施例11とする。
実施例11では、害虫防除成分のメトフルトリンを有機溶剤のパルミチン酸イソプロピルに溶解して、メトフルトリン36.0重量%のエアゾール原液を調製した。このエアゾール原液4.0mLと、噴射剤として液化石油ガス16.0mLとを定量噴射バルブ付きエアゾール容器に加圧充填して、本発明の蚊類防除用エアゾールを得た。このエアゾール原液(a)と射剤剤(b)との容量比率(a/b)は、20/80となるように調整した。そして、上記の蚊類防除用エアゾールを略密閉した2.5mの天井高を有する6畳の部屋(約25m3)で、やや斜め上方に向けてエアゾール原液を0.1mL噴射した。このときの蚊類防除用エアゾールの噴射距離20cmにおける噴射力(25℃)は1.4g・fであった。エアゾール原液によって形成された付着性粒子の25℃、噴射距離15cmにおける体積積算分布での90%粒子径は42μmであった。
【0060】
実施例11の蚊類防除用エアゾールを噴射した直後、この部屋の中にユスリカを放虫したところ、ユスリカは直ちにノックダウン又は死滅した。また、害虫防除成分(メトフルトリン)の気中残存率を実施例1~10と同様の手法により求めたところ、0.93%であった。
【0061】
実施例1~11の試験結果から、本発明の蚊類防除用エアゾール、及びこれを用いた蚊類防除方法によれば、少なくとも25m3の空間(約6畳相当)に対して20時間を越える長時間に亘り蚊類に対して優れた防除効果を奏することが明らかとなった。なお、本発明の蚊類防除用エアゾールは、処理対象の空間容積を33m3(約8畳相当)まで拡大しても、20時間以上の蚊類防除効果を奏することが確認された。また、蚊類以外の飛翔害虫について、同様の防除効果確認試験を行ったところ、ハエに対しても33m3以下の空間に対して4時間以上の防除効果を示し、非常に実用性の高いものであることが判明した。更に、ゴキブリ類、アリ類やシバンムシ等の匍匐害虫を寄せ付けないという副次的な効果も確認された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、蚊類に対して高い防除効果を有する蚊類防除用エアゾール、及びこれを用いた蚊類防除方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0063】
X 付着性粒子
Y 浮遊性粒子
図1