(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】FraCアクチノポリンに基づくバイオポリマーセンシングおよび配列決定のための生物学的ナノポア
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20220207BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20220207BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220207BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20220207BHJP
C07K 17/02 20060101ALI20220207BHJP
B82Y 15/00 20110101ALI20220207BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220207BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220207BHJP
C07K 14/435 20060101ALN20220207BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
G01N27/00 Z
G01N33/50 P
G01N33/68
C07K17/02 ZNA
B82Y15/00
B82Y40/00
C12N15/12
C07K14/435
(21)【出願番号】P 2019500879
(86)(22)【出願日】2017-05-24
(86)【国際出願番号】 NL2017050331
(87)【国際公開番号】W WO2018012963
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-05-11
(32)【優先日】2016-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514265131
【氏名又は名称】レイクスユニフェルシテイト フローニンゲン
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】マリア,ジョバンニ
(72)【発明者】
【氏名】カーステン,ウォーカ
(72)【発明者】
【氏名】ムッター,ナタリー リサ
(72)【発明者】
【氏名】ソスキン,ミーシャ
(72)【発明者】
【氏名】ファン,グァン
【審査官】西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0055792(US,A1)
【文献】特表2013-540423(JP,A)
【文献】Koji Tanaka,NATURE COMMUNICATIONS,vol.6,2015年,6337
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12Q 1/00-3/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオポリマーセンシングおよび/またはバイオポリマー配列決定のための、
αヘリックスポア形成毒素フラガセアトキシンC(FraC)を含む漏斗状のタンパク質性ナノポアを含むシステムの使用であって、
前記バイオポリマーは、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、折り畳まれていないペプチド、折り畳まれていないオリゴペプチド、又は折り畳まれていないタンパク質である、システム
の使用。
【請求項2】
αヘリックスポア形成毒素フラガセアトキシンC(FraC)を含む漏斗状のタンパク質性ナノポアを含むシステムに電場を印加する工程を含む方法であって、前記αヘリックスポア形成毒素
フラガセアトキシンC(FraC)を含む漏斗状の
タンパク質性ナノポアが第1の伝導性液体媒体と第2の伝導性液体媒体との間に位置し
、前記伝導性液体媒体の少なくとも一方が分析物を含み、
前記分析物は、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、折り畳まれていないペプチド、折り畳まれていないオリゴペプチド及び折り畳まれていないタンパク質から成る群より選択される、方法。
【請求項3】
前記分析物が前記ナノポアと相互作用する際のイオン電流を測定して電流パターンを得る工程を含む方法において前記分析物を検出する工程をさらに含み、前記電流パターンにおける遮断の発生が、前記分析物の存在を示す、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記分析物を同定する工程をさらに含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記分析物を同定するステップが、電流パターンを、同じ条件下で既知の分析物を使用して得られた既知の電流パターンと比較することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記バイオポリマーは、1~40kDaのサイズを有するタンパク質である、請求項1に記載のシステムの使用。
【請求項7】
前記バイオポリマーは、オリゴペプチド(10以下のアミノ酸)、ポリペプチド(10より多いアミノ酸)、又は折り畳まれたタンパク質(50より多いアミノ酸)である、請求項1に記載のシステムの使用。
【請求項8】
前記システムは、前記バイオポリマーが前記ナノポアと相互作用するように前記ナノポアを電場に供することによって、前記バイオポリマーの特性を検出するように作動する、請求項1に記載のシステムの使用。
【請求項9】
前記システムは、前記バイオポリマーが前記ナノポアを通して電気泳動および/または電気浸透によって移行するように前記ナノポアを電場に供することによって、前記バイオポリマーの特性を検出するように作動する、請求項1、6~8のいずれか1項に記載のシステムの使用。
【請求項10】
前記特性が、前記バイオポリマーの電気的、化学的または物理的特性である、請求項9に記載のシステムの使用。
【請求項11】
前記ナノポアが、平面状脂質二重層中に含まれる、請求項1、6~9のいずれか1項に記載のシステムの使用。
【請求項12】
前記脂質二重層が、ホスファチジルコリン(PC)を含む又はホスファチジルコリン(PC)からなる、請求項11に記載のシステムの使用。
【請求項13】
前記システムは、タンパク質親和性タグに融合されたFraCを含む、請求項1、6~12のいずれか1項に記載のシステムの使用。
【請求項14】
前記分析物は、1~40kDaのサイズを有するタンパク質である、請求項2から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記分析物は、オリゴペプチド(10以下のアミノ酸)、ポリペプチド(10より多いアミノ酸)、又は折り畳まれたタンパク質(50より多いアミノ酸)である、請求項2~5、14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記システムは、前記分析物が前記ナノポアと相互作用するように前記ナノポアを電場に供することによって、前記分析物の特性を検出するように作動する、請求項2~5、14~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記システムは、前記分析物が前記ナノポアを通して電気泳動および/または電気浸透によって移行するように前記ナノポアを電場に供することによって、前記分析物の特性を検出するように作動する、請求項2~5、14~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記特性が、前記分析物の電気的、化学的または物理的特性である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ナノポアが、平面状脂質二重層中に含まれる、請求項2~5、14~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記脂質二重層が、ホスファチジルコリン(PC)を含む又はホスファチジルコリン(PC)からなる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記システムは、タンパク質親和性タグに融合されたFraCを含む、請求項2~5、14~20のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、ナノポアの分野、および典型的にはナノポアを通した移行の間に電気的測定を行うことによる、種々の適用、例えば、バイオポリマーおよび高分子の分析におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノポアは、例えば、ポリペプチドもしくはポリヌクレオチドの正体を決定するため、または配列決定のためにポリマー中の個々の構成単位の正体を推定するためにバイオポリマーを分析する、魅力的な方法となる。これは、この方法がラベルなしであり、少数のまたはさらには単一の分子に依存する測定を提供し、高度にスケーラブルな電気シグナルを生成するからである。
【0003】
ナノポアを利用する測定システムでは、システムの一部の特性は、ナノポア中のヌクレオチドに依存し、その特性の電気的測定が行われる。例えば、測定システムは、ナノポアを絶縁膜中に配置し、ポリヌクレオチドのヌクレオチドの存在下でナノポアを通る電圧駆動性イオン流を測定することによって創出される。
【0004】
ナノポアは、化学反応および酵素反応の単一分子モニタリング、タンパク質の検出ならびに核酸の配列決定のための強力なアプローチとして出現した[1]、[2]。Phi29[3]ならびにClyA[4]は、二本鎖DNAの移行を可能にすることが示されている。最近、アエロリジンが、アデニンからなるが長さが異なるホモポリマーを識別するために使用された[5]。今日まで、αHLおよびMspAのみが、核酸を識別することが示されている。両方のナノポアは、それらの膜貫通領域中にβシートを有する。DNAがMspAを通るとき、遮断された電流のレベルは、4つ以上のヌクレオチドによって影響されるが[6]、αHLは、約20核酸塩基を収容するそのバレル型構造中に3つのセンシングゾーンを有する[7]。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、配列決定の精度を改善し、および/または異なるエラープロファイルを提供する、異なる構造および認識部位を有する新規ナノポアを提供する。本明細書で、本発明者らは、スフィンゴミエリンと複合体を形成した、アクチノポリンタンパク質ファミリー由来のメンバーであるαヘリックスポア形成毒素フラガセアトキシン(Fragaceatoxin)C(FraC)の精製および事前オリゴマー化、ならびに1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPhPC)から構成される平面状脂質二重層への再構成を記載する。本発明者らは、ssDNAの捕捉および移行を可能にし、ニュートラアビジン(NA)で固定化したアデニン、チミンおよびシトシンのホモポリマーを識別するFraC変異体(例えば、ReFraC)をさらに操作した。特に、dsDNAは、FraCを通して、最も可能性が高いのは、ナノポアの弾性的に変形したαヘリックス状のくびれを介して、移行し得る。
【0006】
注目すべきことに、FraCナノポアは、タンパク質配列決定および折り畳まれたタンパク質の分析のための理想的な形状を有することが見出された。電気浸透流が、ナノポアの内側へのタンパク質およびポリペプチドの進入を誘導する支配的な力であることが、本明細書で以下に示される。ナノポアのくびれを正確に操作することまたは溶液pHを変化させることのいずれかによってナノポアの内側表面を調整することによって、正に荷電したポリペプチドおよび負に荷電したポリペプチドの両方の移行を観察できた。固定された印加電位において正の残基および負の残基の両方を輸送するのに十分に強い電気浸透流を誘導することが可能であることが示されているので、これは注目すべきことである。異なるサイズ、例えば、1.2~25kDaの範囲の一連の(折り畳まれていない)タンパク質は、個々の遮断に基づいて識別できることが、注目すべきことに見出された。20アミノ酸のモデルポリペプチドを使用して、単一アミノ酸残基における差異でさえもナノポア記録によって観察できることが実証され、これは、FraCナノポアが、移行するポリペプチド中の特定の配列特色の同定を可能にすることを示している。
【0007】
さらに、本発明者らは、スフィンゴミエリンを含まない平面状脂質二重層中で事前オリゴマー化されたFraCナノポアを再構成する方法を発明した。ReFraCナノポアは、電気泳動によるDNA捕捉を可能にするために操作され、ssDNAホモポリマー間の識別を示した。DNAを配列決定するために使用される他のナノポア(例えば、αHLおよびMspA)とは対照的に、FraCは、核酸塩基識別を微調整するのに有利なαヘリックスV字型の膜貫通領域を有する。これは、膜貫通αヘリックス内の異なる位置におけるアミノ酸置換が、くびれのサイズおよび化学組成の両方をモジュレートし得るからである。
【0008】
ReFraCは、低い印加電位でDNA二重鎖のアンジッピングを誘導すること、または高い印加電位でそれらの移行を可能にすることもまた、本明細書で示されている。DNAヘアピンまたはより高次のDNA構造のアンジッピングは、αHLナノポアを使用して調査されてきた[20]、[21]。しかし、ReFraCのシス前庭(5.5nm)は、αHLのシス前庭(2.6nm)[13]またはMspAのシス前庭(4.8nm)[22]よりも広く、これは、FraCが、より大きい高次のdsDNA構造、例えばG-四重鎖、または折り畳まれたRNA構造、例えばtRNAを研究するために有利に使用され得ることを示している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、第1の態様では、本発明は、アクチノポリンタンパク質ファミリー由来のメンバーであるαヘリックスポア形成毒素を含む漏斗状のタンパク質性ナノポアを含むシステムを提供する。より具体的には、αヘリックスポア形成毒素は、フラガセアトキシンC(FraC)、変異体FraC、FraCパラログまたはFraCホモログである。FraCは、好ましくはそのC末端で、HisタグまたはStrepタグなどのタンパク質親和性タグに融合され得る。
【0010】
非常に良好な結果が、変異体FraCを用いて得られ得る。例えば、変異体FraCは、ポアの狭い部分における負に荷電したアミノ酸残基から、中性もしくは正に荷電したアミノ酸残基への少なくとも1つの置換、および/またはポアの狭い部分における中性アミノ酸残基から、正に荷電したアミノ酸残基への少なくとも1つの置換を含む。例えば、変異体は、膜貫通ヘリックス中に少なくとも1つの変異を含む。好ましくは、少なくとも1つの負に荷電したアミノ酸残基が、正に荷電したアミノ酸残基に変化される。好ましい実施形態では、変異体FraCは、10位における変異、好ましくは変異Asp10ArgまたはAsp10Lys(結晶構造PDB ID 4TSYと同様の残基番号付け)を含む。変異体FraCは、FraCの溶血活性を回復させる1つまたは複数の代償性変異をさらに含み得、好ましくは、前記代償性変異は、2位、9位、34位、52位、112位、150位、153位および/もしくは159位、ならびに/または好ましくは159位に存在する。例えば、前記代償性変異は、A2S、I9T、A34V、F52Y、W112L、T150I、G153D、K159E、I171Tおよびそれらの任意の組合せからなる群から選択される。具体的な態様では、変異体FraCは、159位における変異、好ましくはLys159Gluを(さらに)含む。例えば、FraC二重変異体D10R/K159Eが使用される。
【0011】
ナノポアは第1の液体媒体と第2の液体媒体との間に位置し得、少なくとも一方の液体媒体は分析物を含み、システムは分析物の特性を検出するように作動する。
【0012】
一実施形態では、システムは、トンネルを通して分析物を移行させるように作動する。別の実施形態では、このシステムは、分析物の特性を検出するように作動し、分析物がナノポアと相互作用するように、ナノポアを電場に供することを含む。印加電位(電場を作り出す)は、電流を有するために必要である。電流は、アウトプットシグナルである。例えば、このシステムは、分析物の特性を検出するように作動し、分析物がナノポアを通して電気泳動および/もしくは電気浸透によって移行するように、ならびに/またはナノポア中にトラップされるように、ナノポアを電場に供することを含む。特性は、分析物の電気的、化学的または物理的特性であり得る。
【0013】
好ましくは、ナノポアは、(平面状)脂質二重層中に含まれる。具体的な態様では、脂質二重層は、ホスファチジルコリン(PC)、好ましくは1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンを含むまたはそれからなる。
【0014】
第2の態様では、本発明は、本発明に従うシステムを提供するための方法であって、
アクチノポリンタンパク質ファミリー由来の前記αヘリックスポア形成毒素の組換えモノマーを用意するステップ;
前記モノマーをリポソームと接触させて、前記モノマーをオリゴマーへとアセンブルするステップ;
リポソームからオリゴマーを回収するステップ;および
オリゴマーを、スフィンゴミエリンを含有し得る脂質二重層と接触させて、ナノポアの形成を可能にするステップ
を含む方法を提供する。
【0015】
第3の態様では、本発明は、本明細書に開示されるシステムに電場を印加するステップを含む方法であって、αヘリックスポア形成毒素を含む漏斗状のナノポアが、第1の伝導性液体媒体と第2の伝導性液体媒体との間に位置する、方法を提供する。伝導性液体媒体の少なくとも一方は、分析物を含み得る。この方法は、分析物がナノポアと相互作用する際のイオン電流を測定して電流パターンを得るステップを含む方法において分析物を検出するステップをさらに含み得、電流パターンにおける遮断の発生は、分析物の存在を示す。この方法は、例えば、電流パターンを、同じ条件下で既知の分析物を使用して得られた既知の電流パターンと比較することによって、分析物を同定するステップをさらに含み得る。分析物は、ヌクレオチド、核酸、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ポリマー、薬物、イオン、汚染物質、ナノスコピックな物体または生物兵器剤であり得る。
【0016】
一実施形態では、分析物は、ポリマー、例えば、タンパク質、ペプチドまたは核酸である。好ましくは、分析物は、核酸、例えば、ssDNA、dsDNA、RNA、またはそれらの組合せである。別の好ましい態様では、分析物は、例えば、約1~約40kDa、好ましくは約1~約30kDaの範囲のサイズを有する、タンパク質、ポリペプチドまたはオリゴペプチドである。一実施形態では、分析物は、オリゴペプチド(約10以下のアミノ酸)、ポリペプチド(>10のアミノ酸)または折り畳まれたタンパク質(>50のアミノ酸)である。
【0017】
本発明の方法では、FraCナノポアは、好ましくは、変異体FraCナノポアである。変異体FraCナノポアのトンネルを通るコンダクタンスは、典型的には、その対応する野生型FraCナノポアを通るコンダクタンスよりも高い。
【0018】
なおさらなる態様は、ポアの狭い部分における負に荷電したアミノ酸残基から、正に荷電したアミノ酸残基への少なくとも1つの置換、および/またはポアの狭い部分における中性アミノ酸残基から、正に荷電したアミノ酸残基への少なくとも1つの置換を含む第1の変異体FraCモノマーを少なくとも含む、変異体フラガセアトキシンC(FraC)ナノポアに関する。例えば、変異体は、膜貫通ヘリックス中に少なくとも1つの変異を含む。好ましくは、少なくとも1つの負に荷電したアミノ酸残基が、正に荷電したアミノ酸残基に変化される。変異体は、3位もしくは10位、または3位および10位の両方における置換を含み得る。好ましい実施形態では、変異体FraCは、10位における変異、好ましくは変異Asp10ArgまたはAsp10Lys(結晶構造PDB ID 4TSYと同様の残基番号付け)を含む。変異体FraCは、FraCの溶血活性を回復させる1つまたは複数の代償性変異をさらに含み得、好ましくは、前記代償性変異は、2位、9位、34位、52位、112位、150位、153位および/もしくは159位、ならびに/または好ましくは159位に存在する。例えば、前記代償性変異は、A2S、I9T、A34V、F52Y、W112L、T150I、G153D、K159E、I171Tおよびそれらの任意の組合せからなる群から選択される。具体的な態様では、変異体FraCは、159位における変異、好ましくはLys159Gluを(さらに)含む。非常に良好な結果が、FraC二重変異体D10R/K159Eを用いて得られ得る。具体的に好ましい変異体には、以下の本明細書の表3のものが含まれる。
【0019】
変異体FraCナノポアは、野生型FraCモノマー、第2の変異体FraCモノマー、野生型FraCパラログまたはホモログモノマーおよび変異体FraCパラログまたはホモログモノマーからなる群から選択される第2のモノマーを少なくともさらに含み得、第2の変異体FraCモノマーは、第1の変異体FraCモノマーと同じでも異なってもよい。例えば、第2のモノマーは、野生型FraCパラログまたはホモログモノマーである。一実施形態では、変異体FraCナノポアの第1の変異体FraCモノマーは、変異D10Rを含み、好ましくは、変異体は、表3に示されるものから選択される。
【0020】
変異体FraCナノポアは、好ましくは、その対応する野生型FraCナノポアのトンネルを通るコンダクタンスよりも高い、トンネルを通るコンダクタンスを有する。
【0021】
変異体FraCナノポアは、分子モーターをさらに含み得、分子モーターは、分子モーターの非存在下で分析物がナノポア中にまたはナノポアを通して移行する平均移行速度よりも低い平均移行速度で、分析物をナノポア中にまたはナノポアを通して移動させることが可能である。
【0022】
例えば、分子モーターは、酵素、例えば、ポリメラーゼ、エキソヌクレアーゼまたはクレノウ断片である。
【0023】
タンパク質分析のために、荷電したくびれによって誘導される、シス区画からトランス区画への電気浸透流(EOF)を有することが好ましい。くびれと同じ電荷のアミノ酸の移行は、分析物溶液のpHの操作によって得られ得る。低いpH値(<約4.5)で負の電荷を維持する1つまたは複数の非天然アミノ酸を使用することが有利であり、例えば、硫酸(SO4
2-)またはリン酸(PO4
2-)部分は、適切なアミノ酸側鎖基である。したがって、負の印加電位(pH4.5以下)下でシス区画からトランス区画への強い電気浸透流を有するように操作されたナノポアもまた提供される。
【0024】
本発明は、バイオポリマーセンシングおよび/またはバイオポリマー配列決定のための、本明細書に開示されるシステムまたは本発明に従う変異体FraCナノポアの使用もまた提供する。例えば、前記バイオポリマーは、タンパク質、ペプチドまたは核酸である。好ましくは、核酸、例えば、ssDNA、dsDNA、RNA、またはタンパク質もしくはポリペプチド、あるいはそれらの組合せのセンシングおよび/あるいは配列決定のための、本明細書に開示されるシステムまたは本発明に従う変異体FraCナノポアの使用が提供される。
【0025】
例えば、FraCナノポアは、タンパク質、ポリペプチドおよびオリゴペプチドバイオマーカーを認識するために有利に使用される。ナノポアの内側に入ると、異なるサイズのタンパク質およびポリペプチドは、イオン電流によって識別され得る。個々のアミノ酸は、移行の間にオンザフライで同定できなかったが、本発明者らは、トリプトファン残基1個だけが異なる2つの小さい(折り畳まれていない)オリゴペプチドであるエンドセリン1およびエンドセリン2(2.5kDa)が、イオン電流記録によって区別できることを示した。したがって、ポリペプチドの移行が、例えば酵素の使用によって制御できる場合、FraCナノポアは、移行するポリペプチド中の特定の配列特色の同定を可能にする。
【0026】
一実施形態では、(変異体)FraCナノポアは、単一分子プロテオミクス分析においてセンサーとして使用される。ナノポアプロテオミクスの最も単純な実行では、タンパク質は、それらがナノポアを通して直線的に移行するとき、アミノ酸毎に認識される。生物中のタンパク質およびオリゴペプチドの配列は、ゲノム分析から公知であるので、タンパク質は、ナノポアを通過する折り畳まれていない移行の間の具体的なタンパク質遮断を、公知のタンパク質遮断のデータベースと単純に比較することによって認識され得る。あるいは、折り畳まれたタンパク質は、ナノポアを移行してまたは移行せずに、ナノポア前庭の内側にそれらが留まるときに認識され得る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】野生型FraC(WtFraC)およびD10R-K159E FraC(ReFraC)ナノポア。(A)クーロン力表面彩色(赤=負の電荷、青=正の電荷)を示すオクタマーWtFraCの断面図。WtFraCのくびれゾーン中に位置するアスパラギン酸残基10が示される。(B)WtFraC(上)およびReFraC(下)の上面図。(C)1M NaCl、15mM Tris.HCl pH7.5中+50mVでのWtFraC(青)およびReFraC(赤)の単一チャネルコンダクタンスヒストグラム。(D)同一の取得設定(2kHzローパスBesselフィルターおよび10kHzサンプリングレート)を用いて得た、3M NaCl、15mM Tris.HCl pH7.5緩衝液中+100mVでのWtFraC(上)およびReFraC(下)の生トレース。
【
図2】ReFraCを用いたDNA識別。(A)ReFraCを使用する、NAと複合体を形成したホモポリマーDNA鎖の代表的遮断。模式図は、電流遮断の説明を示す。(B)ReFraCナノポアを用いてA
20、C
20、T
20ホモポリマー鎖について得られた残留電流の代表的分布。(C)同じReFraCポアへの、ホモポリマーC
20およびA
20ヌクレオチドによって誘導された連続的トレースの電流遮断。示されるトレースは、100Hzカットオフを用いてデジタルでフィルタリングした。(D)C
20およびA
20ホモポリマー鎖の混合物によって課された残留電流の分布。(E)ホモポリマーC
20およびT
20ヌクレオチドの混合物を分解するための実験の連続的トレース。(F)C
20およびT
20ホモポリマー鎖の混合物によって課された残留電流の分布。トレースを、2kHzローパスBesselフィルターおよび10kHzサンプリングレートを使用して、3M NaCl、15mM Tris.HCl、pH7.5中で記録した。トレースCおよびEを、さらなる100Hzガウスデジタルフィルタリングに供した。
【
図3】ReFraCによるdsDNAのアンジッピング/移行。(A)+50mVでの、NA:A(dsDNA)C複合体を捕捉するReFraCの代表的トレース。開放ポア電流は、「1」として示され、比較のために、複合体の捕捉後が示される。2つのレベルをこのブロックにおいて観察できる:まず、ホモポリマーシトシンに対応する可能性が高い、より低いレベル(「2」)であって、これは、中間レベル(アンジッピング、角括弧)を介して、ホモポリマーアデニンに対応する可能性が最も高い、より高いレベル(「3」)へと変換する。電位の逆転の際(「4」)に、このブロックは即座に放出され、これは、二本鎖領域NA:A(dsDNA)C複合体が剥がされたことを示す。(B)+100mVでは、事例の半分よりも多くにおいて(挿入図)、単一のブロック(「2」)が、dsDNA部分が押し通された後に観察され(変形、角括弧)、-30mVの印加の際に、このブロックは、即座には放出され得ない(「3」)。より高い負の電位では、このブロックは放出され得、これは、ロタキサンが形成されたことを示している(さらなる例は
図8中)。トレースを、2kHzローパスBesselフィルターおよび10kHzサンプリングレートを使用して、3M NaCl、15mM Tris.HCl、pH7.5中で記録した。
【
図4】WtFraCおよびReFraCナノポアについて決定した単位チャネルコンダクタンス分布および電圧電流依存性。A:平面状脂質二重層中で再構成したWtFraC(上)およびReFraC(下)の事前オリゴマー化されたポアについて測定した単位チャネルコンダクタンス分布。コンダクタンスは、-50mVの印加電位において測定した。各個々のチャネルの配向を、コンダクタンスにおける非対称に従って検証した。B:WtFraCおよびReFraCナノポアについて測定した電圧電流依存性。実験を3回反復し、エラーバーは、実験値間の標準偏差を示す。記録を、15mM Tris.HCl pH7.5および1M NaCl中で実施した。
【
図5】WtFraC、D10R FraCおよびReFraCの溶血活性。溶血率を、15mM Tris.HCl pH7.5 150mM NaCl中1%のウマ赤血球懸濁物において観察された濁度(650nm波長における光学密度として測定される)における50%の減少までの経過時間の逆数として計算した。タンパク質を200nM濃度で添加し、溶血率はWtFraCの百分率として示される。実験を3回反復し、エラーバーは、実験値間の標準偏差を示す。
【
図6】ReFraCナノポアを用いて記録したA(dsDNA)C DNA基質の移行および固定化。A(dsDNA)C基質(トレースの上に示される)を、オリゴI(5’ビオチン化AAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
GTGCTACGACTCTCTGTGTGCCCCCCCCCCCCCCCCCCCC)およびオリゴII(CACACAGAGAGTCGTAGCAC)のアニーリングによって作製した。A:1μMのA(dsDNA)C単独(左)および0.25μMのニュートラアビジンと複合体を形成したA(dsDNA)C(右)によってReFraCナノポア上で誘発された遮断。基質は、+50mVの印加電位下でシスに添加した。B:1μMのA(dsDNA)C単独(左)および0.25μMのニュートラアビジンと複合体を形成したA(dsDNA)C(右)によってReFraCナノポア上で誘発された遮断。基質は、+70mVでシスに添加した。遊離A(dsDNA)C遮断について検出された2つのレベルの残留電流は、薄紫の破線で示される。遮断されたポアおよび開放ポアに対応する電流レベルは、それぞれ、薄紫および灰色の破線として示される。電圧ステッピングプロトコールは、トレースの下に赤線で示される。記録を、15mM Tris.HCl pH7.5および3M NaCl中で実施し、サンプリング周波数は10kHzであり、データを、取得の際に2kHzローパスBesselフィルターによって平滑化した。
【
図7】ReFraCナノポア上で誘発されたA(dsDNA)C-ニュートラアビジン遮断内の残留電流の段階的増強を示す代表的トレース。1μMのA(dsDNA)Cおよび0.25μMのニュートラアビジンは、+50mVでシスに存在した。遮断内で、残留電流は、8.8±0.7%(初期レベル)から12.5±0.7%(最終レベル)へと切り替わった。電圧ステッピングプロトコールは、下に赤線で示される。記録を、15mM Tris.HCl pH7.5および3M NaCl中で実施し、サンプリング頻度は10kHzであり、データを、取得の際に2kHzローパスBesselフィルターによって平滑化した。
【
図8】+100mVの印加電位でReFraCナノポア中に駆動されたA(dsDNA)C-ニュートラアビジンによるロタキサン形成を示すトレースのさらなる例。1μMのA(dsDNA)Cおよび0.25μMのニュートラアビジンを、シスに添加した。電圧ステッピングプロトコールは、下に赤線で示される。ロタキサンを、印加電位を-40mVに切り替えることによって解体した。記録を、15mM Tris.HCl pH7.5および3M NaCl中で実施し、サンプリング頻度は10kHzであり、データを、取得の際に2kHzローパスBesselフィルターによって平滑化した。
【
図9】ReFraCナノポア内に固定化されたオリゴヌクレオチドI-ニュートラアビジンによる擬ロタキサンおよびロタキサン形成を示す代表的トレース。A:シスに存在する1μMのオリゴIおよび0.25μMのニュートラアビジンによって誘発された擬ロタキサン形成。B:1μMのオリゴヌクレオチドIIがトランスに添加された、シスに存在する1μMのオリゴヌクレオチドIおよび0.25μMのニュートラアビジンによるロタキサン形成。ロタキサンを、印加電位を-40mVに切り替えることによって解体した(トレースの上の赤い矢印は、ロタキサンの解体を示す)。dsDNAのアンジッピングを説明する一過的状態は、角括弧中に示される。電圧ステッピングプロトコールは、下に赤線で示される。記録を、15mM Tris.HCl pH7.5および3M NaCl中で実施し、サンプリング頻度は10kHzであり、データを、取得の際に2kHzローパスBesselフィルターによって平滑化した。
【
図10】2つの異なるpH条件で2つのFraCバリアントを用いたオリゴペプチド(エンドセリン1)およびタンパク質(キモトリプシン)の捕捉。a)野生型FraC(WtFraC、PDB:4TSY)およびD10R-K159E-FraC(ReFraC)の断面。b~c)WtFraC(左)およびReFraC(右)に対する、1μMのエンドセリン1(b)および200nMのキモトリプシン(c)によって誘導された代表的トレース。キモトリプシン(PDB:5CHA)およびヒトエンドセリン1(PDB:1EDN)は、表面提示として示される。エンドセリン1およびキモトリプシンは、負の印加電位下ではWtFraCに進入するが、正の印加電位下ではReFraCに進入する。WtFraCへのキモトリプシン遮断は、pH7.5および4.5で-50mV下でも観察されたが、十分な数の遮断を得るために、印加電位を-100mVまで増加させた。pH7.5では、正の印加バイアス下でのキモトリプシンによるReFraCへの遮断は、負の印加バイアス下でのWtFraCへの遮断よりも、高い電位を必要とした。pH7.5の緩衝液は、1M KCl、15mM Trisを含み、pH4.5の緩衝液は、1M KCl、0.1Mクエン酸、180mM Tris.塩基を含んだ。エンドセリン1およびキモトリプシンを、シス区画に添加した。全てのトレースを、50kHzサンプリングレートおよび10kHzローパスBesselフィルターを使用して記録した。彩色は、それぞれ負の電位および正の電位(範囲-4~+4kbT/ec)に対応する赤および青により、APBS(13)(1M KCl中pH7.5)によって計算された分子表面の静電電位を示す。PyMOLを使用して構造をレンダリングした。
【
図11】WtFraCおよびReFraCの静電分布およびイオン選択性。a)モノマー平均したシミュレートされた静電電位は、それぞれ、WtFraCおよびReFracの負に荷電したくびれおよび正に荷電したくびれを明らかにする。ReFracについて、pHを7.5から4.5に低下させることは、静電電位に対して小さい影響を有しただけであったが、WtFraCについて、くびれの中心部におけるピーク値は、約41%低下した。全てのシミュレーションは、1M KClでAPBS(13)を使用して実施し、各滴定可能な残基の部分的電荷を、PDB2PQRソフトウェアの改変バージョンを用いてそれらの平均プロトン化状態に従って調整した(14)。残基のpKa値を、PROPKAを使用して推定した(33、34)。b)逆転電位の決定は、WtFraCおよびReFraCが、それらのくびれにおける静電電位から予測されるように、それぞれカチオン選択的およびアニオン選択的であることを示している。pHを7.5から4.5に低下させることは、シミュレートされた静電電位の低減された大きさに従って、WtFraCのイオン選択性(P_(K^+)/P_([Cl]^-))を約43%低減させた。対照的に、pH4.5におけるReFraCのイオン選択性における約37%の増加は、シミュレーションによって予測されなかった。全ての逆転電位を、非対称な塩条件(トランスでは467mM KCl、シスでは1960mM KCl)下で測定し、イオン選択性を、Goldman-Hodgkin-Katz方程式を使用して決定した。詳細な実験手順は、サポート情報中で与えられる。全ての電流-電圧曲線の背後の外被は、そのそれぞれの標準偏差を示す。
【
図12】pH4.5でWtFraCを用いたバイオマーカーの特徴付け。a)上から下に:キモトリプシン(25kD、PDB:5CHA)の分子表面および模式図提示(Pymol)を伴った表面提示、-150mVの印加電位下で得られた代表的トレース、-150mVでのIres%に対する滞留時間分布を示すヒートプロット、Ires%の電圧依存性、滞留時間の電圧依存性、および捕捉頻度。b)、c)、d)、e)はそれぞれ、β2-ミクログロブリン(11.6kD、PDB:1LDS)、ヒトEGF(6.2kD、PDB:1JL9)、エンドセリン1(2.5kD、PDB:1EDN)およびアンジオテンシンI(1.3kD)についての同じ情報を示す。アンジオテンシンIは、Pymolを用いて引き出したランダム構造として示される。バイオマーカーの濃度は以下のとおりであった:それぞれ、キモトリプシンについて200nM、β2-ミクログロブリン(microglobin)について200nM、ヒトEGFについて2μM、エンドセリン1について1μM、アンジオテンシンIについて2μM。バイオマーカーの等電点は、文献から、またはオンライン計算ツールPepcalcを用いて得られる。エラーバーは、少なくとも3回の反復および各反復について少なくとも300の事象から得られた標準偏差を示す。データを、B-スプライン関数(Origin 8.1)を使用してフィットさせた。全ての記録を、50kHzサンプリングレートおよび10kHzローパスBesselフィルターを用いて収集した。
【
図13】pH4.5においてWtFraCを用いたエンドセリン1および2の識別。a)静電彩色(PyMOL)を使用したエンドセリン1およびエンドセリン2の分子表面提示。b)上:エンドセリン1および2のアミノ酸配列。青線は、各オリゴペプチド中のジスルフィド架橋を示す。下:pH4.5緩衝液(1M KCl、0.1Mクエン酸、180mM Tris.塩基)中-50mVでのエンドセリン1およびエンドセリン2遮断についてのIres%および滞留時間。c)-50mVの印加電位下での同じFraCナノポアへの代表的エンドセリン1およびエンドセリン2遮断。d)2μMのエンドセリン1によって誘発された残留電流のヒストグラム(左)、およびIres%に対する電流振幅の標準偏差を示す対応するヒートプロット(右)。e)第2の集団を明らかにする同じポアへの8μMのエンドセリン2の添加後ではあるが、(d)と同じ。グラフは、カスタムRスクリプトを用いて創出した。全ての記録を、50kHzサンプリングレートおよび10kHz Besselローパスフィルターを用いて実施した。
【発明を実施するための形態】
【0028】
実験セクション
セクションA
材料および方法
特記しない限り、全ての化学物質は、Sigma-Aldrichから購入した。DNAは、Integrated DNA Technologies(IDT)から購入した。酵素はFermentasから、脂質はAvanti Polar Lipidsから取得した。本研究における全ての誤差は、標準偏差として与えられる。
【0029】
FraCクローニング
クローニングを可能にするために、Nco I制限部位(CCATGG)を、A.fragacea由来の成熟WtFraCに対応するDNA配列の開始部(5’末端)において導入した。リーディングフレームを維持するために、さらに2つの塩基をNco I部位の後ろに挿入し、開始メチオニンの後のさらなるアラニン残基を生じさせた。精製目的のために、FraCのC末端で、His9親和性タグを、可撓性グリシン-セリン-アラニンリンカーを介して結合させ、オープンリーディングフレームを、2つの連続する停止コドンとその後のHind III制限部位(3’末端)によって終結させた。最適化されたコドン組成を有する合成遺伝子(IDT)50ngが、以下のPCR反応のための鋳型として機能した:遺伝子を、300μL体積中6μMのプライマーFrfおよびFrr(表2)を使用して、Phire Hot Start II DNAポリメラーゼ(Finnzymes)によって増幅した。PCRプロトコールは以下のとおりであった:98℃で30秒間の事前インキュベーションステップの後には、30サイクルの98℃で5秒間の変性および72℃で1分間の伸長が続いた。Hi9タグ化WtFraC遺伝子を含む得られたPCR産物を、QIAquick PCR Purification Kit(Qiagen)を用いて精製し、Nco IおよびHind III(FastDigest、Fermentas)を用いて消化した。ゲル精製された挿入物(QIAquick Gel Extraction Kit、Qiagen)を、Nco I(5’)およびHind III(3’)部位を介した粘着末端ライゲーション(T4リガーゼ、Fermentas)を使用してpT7-SC1発現プラスミド中にT7プロモーターの制御下でクローニングした。ライゲーション混合物のうち0.6μLを、50μLのE.cloni(登録商標)10G細胞(Lucigen)中に、エレクトロポレーションによって形質転換した。形質転換された細菌を、アンピシリン(100μg/ml)LB寒天プレート上で37℃で一晩増殖させた。クローンの正体を、配列決定によって確認した。
【0030】
10R FraCの構築
WtFraC遺伝子を含むpT7-SC1プラスミドのうち100ngが、PCR反応のための鋳型として機能した:この遺伝子を、300μL体積中6μMのプライマー10Rf(D10Rをコードする)およびT7ターミネーター(表2)を使用してPhire Hot Start II DNAポリメラーゼ(Finnzymes)によって増幅した。PCR反応サイクリングプロトコールは以下のとおりであった:98℃で30秒間の事前インキュベーションステップの後には、30サイクルの98℃で5秒間の変性および72℃で1分間の伸長が続いた。PCR産物をゲル精製し(QIAquick Gel Extraction Kit、Qiagen)、MEGAWHOP手順[1]によってpT7発現プラスミド(pT7-SC1)中にクローニングした:約500ngの精製されたPCR産物を、WtFraC遺伝子を含むpT7-SC1プラスミド約300ngと混合し、増幅を、50μLの最終体積中でPhire Hot Start II DNAポリメラーゼ(Finnzymes)を用いて実施した(98℃で30秒間の事前インキュベーション、次いで、30サイクルの98℃で5秒間の変性、72℃で1.5分間の伸長)。環状鋳型を、Dpn I(1FDU)との37℃で2時間のインキュベーションによって排除した。得られた混合物のうち0.6μLを、E.cloni(登録商標)10G細胞(Lucigen)中に、エレクトロポレーションによって形質転換した。形質転換された細菌を、アンピシリン(100μg/ml)含有LB寒天プレート上で37℃で一晩増殖させた。クローンの正体を、配列決定によって確認した。
【0031】
エラープローンPCRによる10R FraCライブラリーの構築
T7プロモーターおよびT7ターミネータープライマー(表2)を使用してプラスミドDNAからD10R FraC遺伝子を増幅することによって、ライブラリーを構築した。
【0032】
【表1】
表2. 本研究で使用したオリゴヌクレオチド。「5Biosg」は、C6リンカー(IDT)を介してDNAの5’末端にコンジュゲートされたビオチン基を示す。
【0033】
第1ラウンドの変異誘発において、本発明者らは、10R FraCをコードする合成遺伝子を含むプラスミドを、鋳型として使用した。第2の変異誘発ラウンドにおいて、本発明者らは、第1ラウンドのスクリーニングにおいて同定された最も高い活性を有するクローン由来のDNAプラスミドのプールを使用した。DNA増幅を、エラープローンPCRによって実施した:400μLのPCRミックス(200μlのREDTaq ReadyMix、6μMのT7プロモーターおよびT7ターミネータープライマー、約400ngのプラスミド鋳型)を、0~0.2mMのMnCl2を含む8つの反応体積に分割し、27回サイクリングした(95℃で3分間の事前インキュベーション、次いでサイクリング:95℃で15秒間の変性、55℃で15秒間のアニーリング、72℃で3分間の伸長)。これらの条件は、典型的には、最終ライブラリー中に1遺伝子当たり1~4個の変異を生じた。PCR産物を一緒にプールし、ゲル精製し(QIAquick Gel Extraction Kit、Qiagen)、MEGAWHOP手順によってpT7発現プラスミド(pT7-SC1)中にクローニングした:約500ngの精製されたPCR産物を、10R FraC遺伝子を含むpT7-SC1プラスミド約300ngと混合し、増幅を、50μLの最終体積中でPhire Hot Start II DNAポリメラーゼ(Finnzymes)を用いて実施した(98℃で30秒間の事前インキュベーション、その後30サイクル:98℃で5秒間の変性、72℃で1.5分間の伸長)。環状鋳型を、Dpn I(1FDU)との37℃で2時間のインキュベーションによって排除した。得られた混合物のうち0.6μLを、E.cloni(登録商標)10G細胞(Lucigen)中に、エレクトロポレーションによって形質転換した。形質転換された細菌を、アンピシリン(100μg/ml)LB寒天プレート上で37℃で一晩増殖させると、典型的には>105コロニーが得られ、これを、プラスミドDNAライブラリー調製のために収集した。
【0034】
FraC過剰発現後の粗製溶解物における溶血活性についてのスクリーニング
600のクローン(上記を参照)由来の一晩スターター培養物を、新しい96深ウェルプレート中で450μLの新鮮な培地中に接種し、培養物を、約0.8のOD600まで37℃で増殖させた。次いで、IPTG(0.5mM)を添加して過剰発現を誘導し、温度を一晩インキュベーションのために25℃に低減させた。次の日に、4℃で3000×gで15分間の遠心分離によって細菌を収集した。上清を廃棄し、ペレットを-80℃で2時間凍結して、細胞破壊を促進した。次いで、細胞ペレットを、0.4mLの溶解緩衝液(15mM Tris.HCl pH7.5、1mM MgCl2、10μg/mlリゾチーム、0.2単位/mL DNAse I)中で再懸濁し、37℃で1300RPMで30分間振盪することによって溶解させた。次いで、粗製溶解物のうち0.5~5μLを、100μLの約1%ウマ赤血球懸濁物に添加した。後者を、ウマ血液(bioMerieux Benelux)を4℃で6000×gで5分間遠心分離し、15mM Tris.HCl pH7.5、150mM NaCl中でペレットを再懸濁することによって調製した。上清が赤色を呈した場合、この溶液を再度遠心分離し、ペレットを同じ緩衝液中で再懸濁した。溶血活性を、経時的な650nmでのODにおける減少によってモニタリングした(Multiskan GO Microplate Spectrophotometer、Thermo Scientific)。
【0035】
FraC中のD10Rアミノ酸置換の有害効果を代償する変異についてのスクリーニング
D10Rアミノ酸置換は、FraCの溶血活性における約5分の1の減少を生じた(
図5)。D10R FraCは、1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPhPC)で作製された平面状二重層中でオリゴマー化および再構成されることがなおも可能であったが、本発明者らは、D10R FraCの溶血活性をWtFraCレベルに戻して回復させる代償性変異について探索した。FraCの溶血活性を維持することは、2つの理由のために重要である:まず、これは、標的化された脂質二重層上でオリゴマーポアへとアセンブルする能力を反映し、したがって、オリゴマーナノポアのより効率的な調製につながり得る。他方で、溶血活性は、任意のアミノ酸配列変化を有するバリアントの機能性をスクリーニングするための簡便な方法を提供し、したがって、FraCナノポアに対する将来的な操作の試みを促進するであろう。代償性変異を同定するために、本発明者らは、D10R FraC遺伝子に基づいてランダム変異誘発ライブラリーを構築し、それをBl21 DE3 E.coli中に形質転換し、参照としてWtFraCを使用して、過剰発現後の粗製溶解物におけるウマ赤血球に対する溶血活性について、個々のバリアントをスクリーニングした。第1ラウンドにおいて、本発明者らは、600のバリアントをスクリーニングし、溶血活性スクリーニングと組み合わせた第2ラウンドのランダム変異誘発のための鋳型として12のクローンを選択した。次いで、最も高いレベルの溶血活性を有する7つのクローンを、さらなる特徴付けのために選択した。対応する遺伝子中に生じた配列変化を表3にまとめる。
【0036】
【表2】
表3.FraC中のD10R変異の有害効果を代償する配列変化
【0037】
精製されたバリアントを、スフィンゴミエリン:DPhPC(1:1)リポソームにおいてオリゴマー化し、0.6%LDAO中に可溶化した。Ni-NTAクロマトグラフィーによって界面活性剤を0.02%DDMに交換した後、オリゴマータンパク質を、DPhPCから構成される平面状脂質二重層中でのポア形成活性について試験した。最初に、本発明者らは、最も有望なポア形成体として、3、4およびReFraCと称するバリアント(表3)を同定した。しかし、バリアント3によって作製されたナノポアは不均一であり(50%未満がオクタマーポアを生じた)、バリアント4のポア形成活性は、4℃で貯蔵した場合には数日内に減衰していた。オリゴマーReFraCは、4℃で貯蔵した場合には数か月間にわたってポア形成活性を維持し、ssDNAを捕捉することができるままで、WtFraCとほぼ同様に均一なナノポアを形成した。したがって、本発明者らは、本研究におけるさらなるDNA分析のためにReFraCを選んだ。さらに、本発明者らは、ReFraC中のアスパラギン酸10をアスパラギンで置き換えてD10N K159Eバリアントを得たが、ssDNA進入は検出できなかった。
【0038】
WtFraC(タンパク質配列)
MASADVAGAVIDGAGLGFDVLKTVLEALGNVKRKIAVGIDNESGKTWTAMNTYFRSGTSDIVLPHKVAHGKALLYNGQKNRGPVATGVVGVIAYSMSDGNTLAVLFSVPYDYNWYSNWWNVRVYKGQKRADQRMYEELYYHRSPFRGDNGWHSRGLGYGLKSRGFMNSSGHAILEIHVTKAGSAHHHHHH**
WtFraC(DNA配列)
ATGGCGAGCGCCGATGTCGCGGGTGCGGTAATCGACGGTGCGGGTCTGGGCTTTGACGTACTGAAAACCGTGCTGGAGGCCCTGGGCAACGTTAAACGCAAAATTGCGGTAGGGATTGATAACGAATCGGGCAAGACCTGGACAGCGATGAATACCTATTTCCGTTCTGGTACGAGTGATATTGTGCTCCCACATAAGGTGGCGCATGGTAAGGCGCTGCTGTATAACGGTCAAAAAAATCGCGGTCCTGTCGCGACCGGCGTAGTGGGTGTGATTGCCTATAGTATGTCTGATGGGAACACACTGGCGGTACTGTTCTCCGTGCCGTACGATTATAATTGGTATAGCAATTGGTGGAACGTGCGTGTCTACAAAGGCCAGAAGCGTGCCGATCAGCGCATGTACGAGGAGCTGTACTATCATCGCTCGCCGTTTCGCGGCGACAACGGTTGGCATTCCCGGGGCTTAGGTTATGGACTCAAAAGTCGCGGCTTTATGAATAGTTCGGGCCACGCAATCCTGGAGATTCACGTTACCAAAGCAGGCTCTGCGCATCATCACCACCATCACTGATAAGCTT
【0039】
FraCの過剰発現および精製
E.cloni(登録商標)EXPRESS BL21(DE3)細胞を、FraC遺伝子を含むpT7-SC1プラスミドで形質転換した。形質転換体を、100mg/Lのアンピシリンを補充したLB寒天プレート上で37℃で一晩増殖させた後に選択した。得られたコロニーを、100mg/Lのアンピシリンを含む2×YT培地(Sigma)中に接種した。培養物を、200rpmで振盪しながら、約0.8のOD600に達するまで、37℃で増殖させた。次いで、FraCの発現を、0.5mM IPTGの添加によって誘導し、増殖を25℃で継続した。次の日に、細菌を、6000×gで25分間の遠心分離によって収集し、ペレットを-80℃で貯蔵した。モノマーFraCを含むペレット(50~100mlの細菌培養物に由来する)を解凍し、40mlの15mM Tris.HCl pH7.5、1mM MgCl2および0.05単位/mLのDNase I(Fermentas)中で再懸濁した。次いで、細胞破壊を開始するために、細菌懸濁物に0.2mg/mlリゾチームおよび2M尿素(デブリの形成を防止するため)を補充し、それを、周囲温度で40分間にわたる精力的な振盪に供した。残存細菌を、プローブ超音波処理によって破壊した。粗製溶解物を、6000×gで20分間の遠心分離によって清澄化し、上清を、洗浄緩衝液(10mMイミダゾール 150mM NaCl、15mM Tris.HCl pH7.5)で事前平衡化した200μL(ビーズ体積)のNi-NTA樹脂(Qiagen)と混合した。周囲温度での1時間の穏やかな混合後、樹脂をカラム(Micro Bio Spin、Bio-Rad)上にロードし、約5mlの洗浄緩衝液で洗浄した。FraCを、300mMイミダゾールを含む洗浄緩衝液およそ約0.5mLで溶出した。タンパク質濃度を、Bradfordアッセイによって決定した。FraCモノマーを、さらなる使用まで4℃で貯蔵した。
【0040】
溶血活性アッセイ
脱線維素ウマ血液(bioMerieux Benelux)を、上清が透明になるまで150mM NaCl、15mM Tris.HCl pH7.5で洗浄した。次いで、赤血球を、同じ緩衝液で約1%の濃度(0.6~0.8のOD 650nm)になるように再懸濁した。次いで、懸濁物を、200nMのFraCと混合した。溶血活性を、Multiskan(商標)GO Microplate spectrophotometer(Thermoscientific)を使用してOD650における減少をモニタリングすることによって測定した。溶血率を、濁度における50%の減少までの経過時間にわたって一体として決定した。
【0041】
スフィンゴミエリン:DPhPCリポソームの調製
20mgのスフィンゴミエリン(脳、ブタ、Avanti Polar lipids)およびDPhPC(1:1)混合物を、0.5%エタノール(スフィンゴミエリンの溶解を補助するため)を補充したペンタン4ml中に溶解し、丸底フラスコ中に配置した。溶媒を、壁上に脂質フィルムを沈着させるために、フラスコを緩徐に回転させながら蒸発させた。脂質フィルムの沈着後に、フラスコを30分間にわたって開けたままにして、溶媒を完全に蒸発させた。次いで、脂質フィルムを、超音波処理槽(周囲温度で5~10分間)を使用して、150mM NaCl、15mM Tris.HCl pH7.5(総脂質の最終濃度は10mg/ml)中に再懸濁した。得られたリポソームを-20℃で貯蔵した。
【0042】
FraCのオリゴマー化
モノマーFraCを、150mM NaCl、15mM Tris.HCl pH7.5緩衝液中でリポソーム(脂質/タンパク質質量比は10:1)と混合した。混合物を、短時間超音波処理し(超音波処理槽)、37℃で30分間インキュベートした。次いで、プロテオリポソームを0.6%LDAOで可溶化し、5分間インキュベートし、混合物を、DDM含有洗浄緩衝液(0.02%DDM 150mM NaCl、15mM Tris.HCl pH7.5)で20倍希釈し、DDM含有洗浄緩衝液で事前平衡化した約100μl(ビーズ体積)のNi-NTAアガロース樹脂(Qiagen)と混合した。1時間穏やかに混合した後、樹脂をカラム(Micro Bio Spin、Bio-Rad)上にロードし、約2mlのDDM洗浄緩衝液で洗浄した。FraCを、50μlの溶出緩衝液(200mM EDTA、0.02%DDM、pH8-あるいは、本発明者らは1Mイミダゾール 0.02%DDMを使用することもあり得たが、EDTAがより効率的であることが証明された)によってカラムから溶出させた。精製されたFraCオリゴマーを4℃で貯蔵した。
【0043】
あるいは、FraCオリゴマーは、FraCモノマーを、スフィンゴミエリン単独によって形成されたリポソームと混合する(37℃で1時間、次いで、4℃で一晩)ことによって形成され得る。次の日に、5mM EDTAおよび1%DDM(最終)をプロテオリポソームに添加し、室温で15分間インキュベートする。次いで、溶液を、5mM EDTA、0.05%DDM 15mM Tris HCl 7.5 150mM NaClを含む1ml体積になるまで希釈する。次いで、溶液を、100kDaカットオフ限外濾過デバイスを用いて約100ulまで濃縮する。
【0044】
平面状脂質二重層における電気的記録
印加電位とは、トランス電極の電位を指す。FraCナノポアを、接地電極に接続したシス区画から、脂質二重層中に挿入した。2つの区画を、直径約100μmのオリフィスを含む25μm厚のポリテトラフルオロエチレンフィルム(Goodfellow Cambridge Limited)によって分離した。開口部を、ペンタン中10%のヘキサデカン約5μlで事前処理し、二重層を、両方の電気生理学チャンバーへのペンタン中の1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPhPC)(10mg/mL)約10μLの添加によって形成した。典型的には、シス区画(0.5mL)への0.01~10ngのオリゴマーFraCの添加が、単一のチャネルを得るために十分であった。WtFraCナノポアは、負の印加電位よりも正の印加電位において、より高い開放ポア電流を示し、ポアの配向を決定するための有用なツールを提供した。電気的記録を、1M(FraCナノポアの初期特徴付け)および3MのNaCl(振幅を増幅するためのポリヌクレオチド分析のため)、15mM Tris.HCl pH7.5中で実施した。
【0045】
データの記録および分析
平面状二重層記録からの電気的シグナルを、Axopatch 200Bパッチクランプ増幅器(Axon Instruments)を使用して増幅し、Digidata 1440 A/D変換器(Axon Instruments)を用いてデジタル化した。データを、Clampex 10.4ソフトウェア(Molecular Devices)を使用することによって記録し、引き続く分析を、Clampfitソフトウェア(Molecular Devices)を用いて実施した。電気的記録を、2kHzローパスBesselフィルターおよび10kHzサンプリングレートを適用することによって取得した。レベル0からレベル1への電流遷移を、Clampfit中の「単一チャネルサーチ」機能を用いて分析した。残留電流値(I
res)を、遮断されたポア電流値(I
B)および開放ポア電流値(I
O)から、I
res=100
*I
B/I
Oとして計算した。I
BおよびI
Oを、事象の振幅ヒストグラムへのガウシアンフィッティングから決定した。段階的電流増強を示す事象の場合、残留電流レベルを、ホールポイント電流ヒストグラムへのガウシアンフィッティングから計算した。事象寿命を決定するために、事象滞留時間(t
off)を、累積分布として一緒にビニングし、単一指数関数にフィットさせた。段階的電流増強(
図3A)およびロタキサン形成性遮断を示す事象の頻度を、手動で計算した。グラフは、Origin(OriginLab Corporation)またはClampfitソフトウェア(Molecular Devices)を用いて作成した。
【0046】
FraCナノポアのグラフィック提示
分子グラフィックスを、Chimera(http://www.cgl.ucsf.edu/chimera)を用いて実施した。
【実施例1】
【0047】
平面状脂質二重層中での野生型FraCポアの再構成
C末端でHi9タグに遺伝学的に融合させた組換え野生型FraC(WtFraC、
図1A;1B、上)タンパク質モノマーを、BL21(DE3)E.coli株において発現させた。以前の研究は、アクチノポリンのポアアセンブリが、脂質二重層中のSMの存在によって誘発されることを確立している[9]、[10]、[11]、[8]。一致して、Ni-NTAクロマトグラフィーによって精製されたWtFraCの水溶性モノマーは、DPhPC平面状脂質二重層中ではポアを形成しなかった。したがって、本発明者らは、モノマーをDPhPC:SM(1:1)リポソームを用いて事前オリゴマー化した。0.6%N,N-ジメチルドデシルアミンN-オキシド(LDAO)中でのリポソームの可溶化後、オリゴマーの解離を防止するために[12]、LDAOを、第2ラウンドのNi-NTAクロマトグラフィー(SI)によって0.02%β-ドデシルマルトシド(DDM)に交換した。DPhPC平面状脂質二重層のシス側への、0.02%DDM中のオリゴマーWtFraCの精製されたマイクログラムに満たない量の添加は、容易にポアを生じた。1M NaCl、15mM Tris.HCl pH7.5緩衝液におけるWtFraCポアについての単位チャネルコンダクタンスの分布は、最近決定された結晶構造において観察されたオクタマーにおそらくは対応する、単一のコンダクタンス型(
図1C;4A、上)を主に明らかにした[8]。他の生物学的ナノポアと同様に、WtFraCチャネルは、ポアの配向の決定を可能にする、非対称な電流-電圧(I-V)関係(
図4B)を示した。3M NaCl、15mM Tris.HCl pH7.5緩衝液中で得られた例示的トレースは、
図1D、上に示される。
【実施例2】
【0048】
核酸分析のためのWtFraCの操作
オクタマーWtFraCの結晶構造は、このナノポアが、ssDNAの貫通を可能にするのに十分に大きい(くびれ直径1.2nm)ことを示唆している[8]。しかし、本発明者らの最初の実験では、本発明者らは、ssDNA遮断を観察できず、これは、WtFraCポアの負に荷電したくびれ領域がDNA移行を防止したことに起因する可能性が最も高い[13]、[14]。FraCを通したssDNAの貫通を誘導するために、本発明者らは、アスパラギン酸10をアルギニンで置換して、正に荷電したくびれを有するナノポアを産生した(
図1B、下)。D10R FraCは低いポア形成活性を示したので(
図5)、本発明者らは、D10R FraC遺伝子の背景に対してランダム変異誘発を実施し、得られたバリアントの溶血活性をスクリーニングした(SI)。結果として、本発明者らは、広い前庭の外側縁に位置するリジン159からグルタミン酸への代償性変異(K159E)を同定した(
図1A)。FraCの二重変異体D10R,K159E(ReFraC)は、WtFraCと比較して変更されたI-V関係を有するにもかかわらず(
図4Bおよび
図1D、下)、ほぼ野生型レベルの溶血活性を示し(
図5)、均一なポアを生じた(
図1C)。1M NaCl、15mM Tris.HCl pH7.5中で±50mVでのReFraCポアのより低いコンダクタンスは、アルギニンがアスパラギン酸よりも嵩高い側鎖を有するので、より狭いくびれに帰せられ得る(
図1B)。
【実施例3】
【0049】
ReFraCを用いたポリヌクレオチド識別
本発明者らは、DNAをニュートラアビジン(NA)で固定化するために、αHL[7]、[15]、[16]、[17]およびMspA[14]、[18]を用いる確立されたアプローチに従った。本発明者らは、5’末端ビオチン化A20/C20/T20 ssDNAホモポリマーをテトラマーNAと複合体を形成して、DNA鎖を移行および識別するReFraCの能力を評価した。本発明者らは、事前混合したDNA(1μM)およびNA(0.25μM)を、平面状脂質二重層設定のシス区画に添加し、3M NaCl、15mM Tris.HCl、pH7.5緩衝液および+70mVの印加電位(トランス電極を指す)においてDNA識別実験を実施した。本発明者らは、擬ロタキサンによって誘発される永続的電流遮断を観察したが、このとき、ssDNAは、印加電位が逆転されるまで、ポアを通して安定に貫通される(
図2A、
図9A)。遮断されたポア電流および開放ポア電流の振幅の百分率に100を乗算した残留電流Ires((IB/IO)×100)は以下のとおりであった:NA:A20について13.1±0.4%(N=5、n=364、ここで、Nは、独立した単一のポア実験の数であり、nは分析した遮断である)、NA:C20について10.8±0.3%(N=4、n=920)、NA:T20について14.0±0.3%(N=5、n=780)(
図2B)。ポア毎の変動の影響を排除するために、本発明者らは、ホモポリマーの混合物もまた分解した(
図2C~
図F)。比較的低い残留電流は、貫通したssDNA周囲でのポアの緊密な閉鎖を示唆する。
【実施例4】
【0050】
ReFraCナノポアによるDNAアンジッピングおよび二本鎖DNA移行
ReFraCのくびれ(1.2nm)は、B形態の二本鎖DNA(dsDNA、約2nm)よりも小さい。したがって、DNA分析のためのストッパーとしてのdsDNAを評価するために、本発明者らは、2つのオリゴヌクレオチドを設計した:配列ビオチン-5’-A20-GTGCTACGACTCTCTGTGTG-C20-3’を有する、5’末端にビオチン基が結合したオリゴI、およびオリゴIの下線部と逆相補的な配列を有する短いオリゴII。アニーリングにより、A(dsDNA)C基質:A20およびC20 ssDNAセグメントが隣接するdsDNAの20塩基対長の中心セグメントが得られた。+50mVにおけるシス区画への1μMのA(dsDNA)Cの添加は、ReFraCポアへの一過的遮断を引き起こした(遮断寿命 2±5秒、Ires=10.0±0.2%、N=3、n=290、
図6A、左)。印加電位を+70mVに増加させると、遮断寿命は2.9±0.4msまで短縮した(残留電流は以下の2つの電流レベルを示したことに留意のこと:12.8±0.6%および3.5±0.5% N=3 n=2700
図6B、左)。電位による遮断寿命の減少は、ReFraCを通したA(dsDNA)Cの移行を示唆する。DNA移行を証明するために、本発明者らは、NAをシスチャンバーに添加した。NA:A(dsDNA)C遮断は、+50mV(
図6A、右)および+70mV(
図6B、右)の両方において永続的になり、したがって、これは、NAの非存在下での一過的遮断が、シス区画へのA(dsDNA)Cの後退によって誘発できなかったことを示唆している。奇妙なことに、+50mVでは、31±4%のNA:A(dsDNA)C遮断(N=3、n=468)は、一過的レベル(
図3A、状態「2」、Ires=8.8±0.7%)から安定なレベル(
図3A、状態「3」、Ires=12.5±0.7%、N=4、n=46;さらなる例は
図7中)への、残留電流の段階的増強を示した。状態「2」の電流レベルは、NA:C20の電流レベルよりもわずかに低かった(+50mVでIres=10.5±0.7;N=3、n=206)。状態「3」の電流レベルは、NA:A20の電流レベルと一致した。上記電流増強についてのもっともらしい説明は、+50mVでは、NA:A(dsDNA)CのC20セグメントがナノポアのくびれ中で滞留しており(
図3A、状態「2」)、二重鎖セグメントがさらなる移行を防止することである。しかし、二重鎖のアンジッピング後、A20は、ReFraCのくびれを占拠し、NAが移行を停止させる(
図3A、状態「3」)。一致して、+50mVでは、NA:A(dsDNA)C遮断は、電位を-30mVに逆転させたときに即座に解放され、これは、+50mVでは、A(dsDNA)Cの移行がアンジッピングによって媒介されることを示している(
図3A、角括弧)。
【0051】
対照的に、+70mVでは、かなりの割合の遮断は、-30mVでは即座には放出されず(
図3B、挿入図)、これは、インターロックされた状態の形成を示している(
図3B、状態「2」および「3」)。さらに、これらのインターロックされた状態は、電位を増加させることでより頻繁に生成された(例えば、+70mVにおける全ての遮断の7±4%から、+100mVにおける54±14%まで、N=3、n=739;
図3B、挿入図)。NAと複合体を形成したオリゴI単独の遮断が、-30mVにおいて即座に解放されたこと(
図9A)を考慮して、本発明者らは、かかるインターロックされた状態がロタキサンに起因し、ここで、NAおよびA(dsDNA)Cの二重鎖DNAセグメントは、それぞれ、シスストッパーおよびトランスストッパーとして機能すると考えた(
図3B、右)。期待されるように、かかるロタキサンは、オリゴIIをトランスに添加することによって、NA:オリゴIシス遮断からも形成できた(
図9B)。電位を-40mVに切り替えることで、トランスでのdsDNAストッパーのアンジッピングをおそらくは介して、ロタキサンは迅速に解体された(
図8および
図9B)。シスで存在するNA:A(dsDNA)Cからのロタキサンの形成は、A(dsDNA)C基質の二重鎖セグメントの移行を可能にするために、ReFraCポアの変形を必要とする(
図3B、角括弧)。
【0052】
この構造的可撓性は、αヘリックスポアの一般的な特色であり得る。以前に、本発明者らは、I型ClyA-CSナノポア(くびれ直径約3.3nm)へのヒトトロンビン(直径約4.2nm)の遮断の後に、開放ポア電流における一過的な増加が生じることを観察した[19]。この現象は、ClyAの変形したくびれを通したタンパク質の移行として解釈された。
【0053】
セクションAの参考文献
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【0054】
セクションB
上記本明細書のセクションAは、アクチノポリンタンパク質ファミリー由来のαヘリックスポア形成毒素であるフラガセアトキシンC(FraC)が、ポリヌクレオチド分析のために有利に使用されることを示している。
【0055】
セクションBは、FraCナノポアが、オリゴペプチド(約10以下のアミノ酸)、ポリペプチド(>10のアミノ酸)および折り畳まれたタンパク質(>50のアミノ酸)の形態の、タンパク質、例えば、バイオマーカーを認識するのにも適切であることを実証している。
【0056】
材料
キモトリプシン(ウシ膵臓由来、≧85%、C4129)、β2-ミクログロブリン(ヒト尿由来、≧98%、M4890)、エンドセリン1(≧97%、E7764)、エンドセリン2(≧97%、E9012)、アンジオテンシンI(≧90%、A9650)、ペンタン(≧99%、236705)およびヘキサデカン(99%、H6703)、Trizma(登録商標)塩酸塩(ロット番号SLBG8541V)およびTrizma(登録商標)塩基(ロット番号SLBK4455V)、N,N-ジメチルドデシルアミンN-オキシド(LADO、≧99%、40234)ならびにn-ドデシルβ-D-マルトシド(DDM、≧98%、D4641)は、Sigma-Aldrichから得た。ヒトEGF(≧98%、CYT-217)はPROSPECから得た。1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPhPC、850356P)およびスフィンゴミエリン(脳、ブタ、860062)は、Avanti Polar lipidsから購入した。塩化カリウム(≧99%、ロット番号BCBL9989V)は、Flukaから購入した。クエン酸(≧99%、ロット番号A0365028)は、ACROSから得た。全てのポリペプチドバイオマーカーおよび化学物質を、さらなる精製なしに直接使用した。
【0057】
注意:以下で使用した15mM Tris、pH7.5緩衝液は、Trizma(登録商標)プロトコールからの処方を用いて調製した:1.902gのTrizma(登録商標)HClおよび0.354gのTrizma(登録商標)塩基を、1リットルのH2O中に溶解して、15mM Tris、pH7.5にした。
【0058】
方法
FraCモノマーの発現および精製
C末端His6タグを有するFraCをコードする遺伝子を、NcoIおよびHindIII制限消化部位を使用して、pT7-SC1発現プラスミド1中にクローニングした。発現のために、プラスミドを、E.cloni(登録商標)EXPRESS BL21(DE3)コンピテント細胞中に、エレクトロポレーションによって導入した。形質転換体を、37℃での一晩インキュベーション後に100mg/lのアンピシリンを含むLB寒天プレートから収集し、100mg/lのアンピシリンを含む200mlの新鮮な液体2-YT培地中に接種した。細胞培養物を、200rpmで振盪しながら、0.8の600nmにおける光学密度になるまで、37℃で増殖させ、次いで、0.5mM IPTGを細胞培養物に添加した。温度を25℃に低下させて、12時間にわたってFraCタンパク質の発現を誘導した。細胞を、4℃で4,000RPMで30分間の遠心分離によって回収し、細胞ペレットを-80℃で維持した。50~100mlの細胞培養物ペレットを室温で解凍し、30mlの溶解緩衝液(15mM Tris pH7.5、1mM MgCl2、4M尿素、0.2mg/mlリゾチームおよび0.05単位/ml DNase)で再懸濁し、ボルテックス(vertex)振盪機で1時間、精力的に混合した。細胞を完全に破壊するために、懸濁物を2分間超音波処理した(デューティサイクル10%、Branson Sonifier 450のアウトプットコントロール3)。次いで、粗製溶解物を、4℃で6,500RPMで20分間遠心分離した。上清(FraCモノマーを含む)を、3mlの洗浄緩衝液(10mMイミダゾール、150mM NaCl、15mM Tris、pH7.5)で事前洗浄した100μlのNi-NTA樹脂(Qiagen、4℃で貯蔵、懸濁した後、100μlをピペッティングして取った)を含む50mlファルコンチューブに移し、穏やかに混合しながら室温で1時間インキュベートした。樹脂を、4℃で4,000RPMで5分間スピンダウンした。上清の大部分を廃棄し、約5mlの緩衝液内のNi-NTA樹脂を含むペレットを、RTでMicro Bio Spinカラム(Bio-Rad)に移した。Ni-NTAビーズを10mlの洗浄緩衝液で洗浄し、タンパク質を、500μlの300mMイミダゾールで溶出した。タンパク質濃度を、NanoDrop 2000(Thermo Scientific)を用いて決定した。モノマーを4℃で貯蔵した。
【0059】
スフィンゴミエリン-DPhPCリポソームの調製
20mgのスフィンゴミエリン(脳、ブタ、Avanti Polar lipids)を、20mgの1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPhPC、Avanti Polar lipids)と混合し、0.5%v/vエタノールを含むペンタン(Sigma)4ml中に溶解した。この脂質混合物を、丸底フラスコに移し、ヘアドライヤーの近くで緩徐に回転させ、壁の至る所に脂質を十分に分散させて、溶媒を蒸発させた。フラスコをもう30分間室温で開けたままにして、溶媒を完全に蒸発させた。次いで、4mlの緩衝液(150mM NaCl、15mM Tris、pH7.5)を、乾燥脂質に添加し、フラスコを、超音波処理槽に加えて5分間置いた。リポソーム溶液を-20℃で維持した。
【0060】
FraCのオリゴマー化
凍結リポソームを、解凍後に超音波処理し、質量比1:1でモノマーFraCと混合した。FraCおよびリポソーム混合物を、水槽中で約30秒間超音波処理し、次いで、37℃で30分間維持した。プロテオリポソームを0.6%LADO(N,N-ジメチルドデシルアミンN-オキシド、水中5%w/vのストック溶液)で可溶化し、次いで、50mlファルコンチューブに移し、緩衝液(150mM NaCl、15mM Tris、pH7.5、0.02%DDM)で20倍希釈した。100μlの事前洗浄したNi-NTA樹脂(Qiagen)を、希釈されたタンパク質/リポソーム混合物に添加した。1時間穏やかに振盪しながらのインキュベーション後、ビーズをカラム(Micro Bio Spin、Bio-Rad)にロードし、10mlの緩衝液(150mM NaCl、15mM Tris、pH7.5)で洗浄した。FraCオリゴマーを、300μlの溶出緩衝液(200mM EDTA、75mM NaCl、7.5mM Tris、pH8、0.02%DDM)で溶出した。オリゴマーは、4℃で数週間安定であり得る。
【0061】
平面状脂質二重層における電気的記録
電気的記録を、以前に記載されたように
2実施した。簡潔に述べると、2つのチャンバーを、およそ100μmの直径を有する開口部を含む25μmポリテトラフルオロエチレンフィルム(Goodfellow Cambridge Limited)によって分離した。2つの銀/塩化銀電極を、0.5mlの緩衝液を満たした電気生理学チャンバーの各区画中に浸した。接地電極をシス区画に接続し、作用電極をトランス側に接続した。脂質二重層を形成するために、約5μlのヘキサデカン溶液(ペンタン中10%v/vのヘキサデカン)を、ポリテトラフルオロエチレンフィルムに添加した。約2分間後、ペンタン中の1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPhPC)10mg/ml溶液10μlを、両方の区画中の緩衝液に直接添加した。次いで、脂質二重層は、Teflonフィルム中の開口部の上および下の緩衝液を低下させることによって、自発的に形成した。FraCオリゴマーをシス側に添加した。印加電位下では、FraCのイオン電流は非対称であり、これは、脂質二重層中のFraCナノポアの配向を評価する助けになる。FraCナノポアは、より高いコンダクタンスを負の印加電位で測定したときには、
図10に示されるような配向を示した。次いで、分析物をシスチャンバーに添加した。2種の緩衝溶液を、pHに依存して、本研究における電気生理学記録のために使用した。pH7.5では、1M KClおよび15mM Trisを使用して記録を実施した。pHを7.5から4.5に変動させた場合、使用した緩衝液は、1M KCl、0.1Mクエン酸および180mM Tris.塩基を含んだ。FraCおよびReFraCオリゴマーは、pH4.5~7.5で脂質二重層中に挿入できた。
【0062】
データの記録および分析
平面状二重層記録を、パッチクランプ増幅器(Axopatch 200B、Axon Instruments)を使用して収集し、データを、Digidata 1440 A/D変換器(Axon Instruments)を用いてデジタル化した。データを、Clampex 10.4ソフトウェア(Molecular Devices)を使用することによって取得し、引き続く分析を、Clampfitソフトウェア(Molecular Devices)を用いて実施した。事象持続時間(滞留時間)、2つの事象間の時間(事象間時間)、遮断された電流レベルおよび開放ポアレベルを、「単一チャネルサーチ」機能によって検出した。遮断の電流レベルをIBと呼び、開放ポア電流をIoと呼んだ。(IB/IO)*100として定義されるIres%を使用して、異なるバイオマーカーによって引き起こされる遮断の程度を記述した。平均事象間時間を、事象間時間をビニングし、単一指数関数フィットを累積分布に適用することによって計算した。
【0063】
イオン選択性測定
イオン透過性比(K+/Cl-)を、変数インプットとして逆転電位(Vr)を使用するGoldman-Hodgkin-Katz方程式(本明細書以下で、方程式(1))を使用して計算した。Vrを、以下の非対称な塩濃度条件を使用したI-V曲線からの外挿から測定した:個々のFraCナノポアを、両方のチャンバーにおいて同じ緩衝液(対称的条件、840mM KCl、15mM Tris、pH7.5、500μl)を使用して再構成して、ナノポアの配向を評価した。3.36M KCl、15mM Tris、pH7.5を含む溶液400μlを、シスチャンバーに緩徐に添加し、KClを含まない緩衝溶液(15mM Tris、pH7.5)400μlをトランス溶液に添加した(トランス:シス、467mM KCl:1960mM KCl)。溶液を混合し、I-V曲線を、1mVきざみで-30mVから30mVまで収集した。pH4.5における実験を、0.1Mクエン酸緩衝溶液を使用するが同じ方法を使用して実施した。最初に、840mM KCl、0.1Mクエン酸、180mM Tris.塩基の緩衝液500μlを両方のチャンバー中に添加し、単一のFraCチャネルを得た。次いで、3.36M KCl、0.1Mクエン酸、180mM Tris.塩基を含むpH4.5溶液400μlを、シスチャンバーに緩徐に添加し、KClを含まない緩衝溶液(0.1Mクエン酸、180mM Tris.塩基、pH4.5)400μlをトランス溶液に添加した(こうして、467mM KCl:1960mM KClのトランス:シス比が得られる)。溶液を混合し、I-V曲線を、1mVきざみで-30mVから30mVまで収集した。イオン選択性の方向性もまた、トランスチャンバー中の高いKCl濃度およびシスチャンバー中の低いKCl濃度を使用することによって試験した。Ag/AgCl電極を、2.5M NaClを含む2.5%アガロース架橋で囲んだ。
【実施例5】
【0064】
FraCナノポアを用いたポリペプチドおよびタンパク質の捕捉
オリゴペプチドバイオマーカーについてのセンサーとしてのFraCナノポアを評価するために、本発明者らは、最初に、21アミノ酸の2.5kDオリゴペプチドであるエンドセリン1および245アミノ酸の25kD球状タンパク質であるα-II-キモトリプシン(以下、キモトリプシン)を選択した(
図10)。分析物を、1M KCl、15mM Tris、pH7.5溶液を使用して野生型FraC(WtFraC)ナノポア(
図10A)のシス側に添加し、外部電位を、トランス区画中に位置する「作用」電極に印加した。WtFraCは、約+50mVよりも上ではゲーティングを示すが、-300mVほどの高さの電位では安定であるので、本発明者らは、それらの限界間の電位を印加した。シス区画への1μMのエンドセリン1の添加は、±50mV(
図10B)で、および-300mVまで、遮断を誘発しなかった。ClyAのくびれは、アスパラギン酸残基で覆われているので(
図10A)、本発明者らは、より酸性の条件におけるこれらの残基のプロトン化が、WtFraCくびれを通したエンドセリン1(-2の正味の電荷を保有する)の移行に対するエネルギー障壁を弱めるはずであると考えた。同時に、あまり負でないエンドセリン1はまた、負の印加電位下でトランス電極に向かってより容易に移動するであろう。エンドセリン1遮断は、pH6.4で発生し始め、それらの捕捉頻度は、pHの減少と共に直線的に増加した(pH6.4での0.6±0.2事象/s
-1/μM
-1からpH4.4での10.8±2.3事象/s
-1/μM
-1まで)。pH4.5(1M KCl、0.1Mクエン酸、180mM Tris.塩基)では、WtFraCへのエンドセリン1遮断は、-50mVで観察されたが(Ires%:9.1±0.1%、滞留時間:5.6±2.0ms、事象間時間:5.8±0.7ms)、+50mVでは観察されなかった(
図10B)。
【0065】
酸性条件下でのより正のくびれの影響に促されて、本発明者らは次に、D10
R,K159
E FraC(
ReFraC)ナノポア、DNA分析の目的のために本明細書の上記セクションAで操作した、くびれにおいてアルギニン残基を有するポアを用いたエンドセリン1の捕捉を調査した。WtFraCとは逆に、ReFraCは、正の印加電位下では安定であるが、約-50mVの電位ではゲーティングを示す。したがって、本発明者らは、-50mV~+200mVの間の電圧だけをReFraCに印加した。シス区画への1μMエンドセリン1の添加は、+50mVではpH7.5で遮断を惹起したが(滞留時間:3.3±2.2ms、事象間時間:1413±223ms)、-50mVでは惹起しなかった(
図10B)。pH4.5(1M KCl、0.1Mクエン酸、180mM Tris.塩基)への減少は、トランス電極に向かう低減された電気泳動移動度にもかかわらず、+50mVでの捕捉頻度における増加をもたらした(
図10B、滞留時間:8.5±1.8ms、事象間時間:402±79ms)。
【0066】
次に、タンパク質キモトリプシン(pI8.75、Sigma)を、比較的大きいタンパク質分析物の一例として試験した。タンパク質遮断が、pH7.5緩衝液(1M KCl、15mM Tris)中-50mVで観察されたが、本発明者らが電位を-100mVに増加させた場合にはこれらは均一になり(45.2±19.1事象/s
-1/μM
-1、滞留時間:12.0±5.7ms)、正の印加電位では捕捉は観察されなかった(
図10C)。エンドセリン1を用いて観察されたものとは対照的に、キモトリプシンの捕捉頻度は、pH7.5と5.5との間で一定のままであり(pH7.5において45.2±19.1事象/s
-1/μM
-1、pH6.4において50.5±22.6事象/s
-1/μM
-1、pH5.5において45.2±20.6事象/s
-1/μM
-1)、pHを4.4に低下させた場合には減少した(pH4.4において20.8±5.3事象/s
-1/μM
-1)。ReFraCをpH7.5で使用して、本発明者らは、高い正の印加電位ではわずかな遮断のみを観察したが(+200mVにおける滞留時間:0.2±0.1ms、事象間時間:174.3±22.9ms)、-50mVでは観察しなかった(
図10C)。pHを4.5に減少させることは、捕捉頻度における増加をもたらした(滞留時間:1.3±0.7ms、112.5±9.5事象/s
-1/μM
-1、
図9B)。注目すべきことに、ReFraCは、
図10C右下に示されるように、酸性条件下で負の印加電位で浅いゲーティング事象をしばしば示した。合わせると、両方のナノポアは、分子量が10倍異なる(2.5kD対25kDa)分析物を捕捉できる。
【実施例6】
【0067】
FraCナノポアのイオン選択性および静電電位
静電環境に対するpHの影響およびFraCナノポアの内側へのポリペプチドの進入に対する電気浸透流の影響に関するよりよい洞察を得るために、本発明者らは、Adaptive Poission-Boltzmann Solver(APBS)(13)およびPDB2PQRソフトウェアの改変バージョン(14)を使用して、1M KCl中pH7.5および4.5におけるWtFraCおよびReFraCの相同モデルの内側の静電電位を推定した。シミュレーションにより、ナノポアの中心部におけるWtFraCおよびReFraCのくびれ領域が、それぞれ、高度に負の電位および正の電位を示したことが示された(
図11A)。興味深いことに、WtFraCについて、pHを7.5から4.5に低下させることは、それぞれ、くびれの中心部における-1.2~-0.7k
BT/e
c(298Kで1k
BT/e
c=25.6mV)の還元電位を引き起こしたが、かかる効果は、ReFraCについては観察されなかった。
【0068】
WtFraCおよびReFraCポアによる分析物の捕捉への電気浸透流の寄与を、ナノポアのいずれかの側での非対称なKCl濃度(1960mMおよび467mM)を使用して、両方のポアのイオン選択性を測定することによって推定した。次いで、逆転電位(V
r)、即ち、電流がゼロである電位(
図11B)を、Goldman-Hodgkin-Katz方程式と一緒に使用して、両方のナノポアのイオン選択性(P
K+/P
Cl-)を計算した:
【0069】
【0070】
式中、[a
x]区画は、シス/トランス区画中のイオンXの活性であり、Rは気体定数であり、Tは温度であり、Fはファラデー定数である。本発明者らは、FraCナノポアのイオン選択性が、くびれにおける電荷によって支配され、WtFracが強くカチオン選択的であり(P
K+/P
Cl-=3.55±0.30、pH7.5)、ReFraCがアニオン選択的である(P
K+/P
Cl-=0.57±0.04、pH7.5)ことを見出した。pHを4.5に低下させることは、WtFraCのカチオン選択性を減少させ(P
K+/P
Cl-=2.02±0.15、pH7.5)、ReFraCのアニオン選択性を増加させた(P
K+/P
Cl-=0.36±0.08、pH4.5、
図11B)。
【実施例7】
【0071】
WtFraCナノポアを用いたバイオマーカー検出
それぞれ、膵嚢胞症(15)および閉塞性細気管支炎(16)についてのタンパク質バイオマーカーであるキモトリプシン(25kD、245アミノ酸)およびエンドセリン1(12.5kD、21アミノ酸)の捕捉を評価した後、WtFraCナノポアを使用して、末梢動脈疾患についての11.6kDa(99アミノ酸)のバイオマーカーであるβ2-ミクログロブリン(17)、慢性腎臓疾患についての6.2kDa(53アミノ酸)のバイオマーカーであるヒトEGF(18)、および高血圧クリーゼについての1.3kD(10アミノ酸)のバイオマーカーであるアンジオテンシンI(19)を含む、より広範なタンパク質バイオマーカーを検出した。
【0072】
全てのバイオマーカーを、負の印加電位下で、およびキモトリプシンを除いてpH4.5で評価した。全てのバイオマーカーの捕捉頻度は、印加電位と共に増加した。試験した全ての他のパラメーターは、非均一な電圧依存性を示した。WtFraCの内側でのバイオマーカーの滞留時間は増加し(キモトリプシン)、減少し(β2-ミクログロブリンおよびアンジオテンシン1)、または印加電位により二相性の挙動を示した(EGFおよびエンドセリン1)。
図12を参照のこと。キモトリプシンの残留電流百分率(Ires%)の電圧依存性は、電位と共に減少し、エンドセリン1のIres%は、電位と共に増加したが、β2-ミクログロブリン、EGFおよびアンジオテンシン1のIres%は一定のままであった。電流遮断の複雑な電圧依存性にもかかわらず、本発明者らの結果は、WtFraCナノポアが、それらの電流遮断単独のIres%のおかげで、異なるサイズのオリゴペプチドおよびタンパク質バイオマーカーを識別することが可能であることを示した(
図12)。
【実施例8】
【0073】
ほぼアイソフォームのオリゴペプチドの識別
本発明者らの実験系に挑戦するために、本発明者らは、高度に類似した分析物を同定しようとした。本発明者らは、21アミノ酸のうち1つだけが異なるほぼ異性体のオリゴペプチドであるエンドセリン1(ET-1)およびエンドセリン2(ET-2)を選択した(
図13Aおよび
図13B)。-50mVでは、本発明者らは、ET-1(Ires%8.9±0.1%、滞留時間 5.6±2.0ms、N=3、n=600)およびET-2(6.1±1.4%、滞留時間 19.0±5.3ms、N=3、n=384)について、独自のIres%および滞留時間を有する識別可能な遮断を観察した(
図12B)。これは、個々の遮断レベルによるそれらの同定をすでに可能にした(
図13C)。
【0074】
驚くべきことに、本発明者らが、同じポアに、最初に2μMのET-1を添加し(
図13D)、その後8μMのET-2を連続して添加した場合(
図13E)、本発明者らは、それらの対応するIres%にわたって事象の振幅の標準偏差をプロットすることによって、2つの別個の集団の両方の混合物を分離することもできた。この観察は、高度に類似する(オリゴ)ペプチドまたは他の分析物が、FraCナノポアを用いて識別できることを示している。