(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】アルミニウムまたはその合金の物品を陽極酸化する方法
(51)【国際特許分類】
C25D 11/08 20060101AFI20220207BHJP
C25D 11/04 20060101ALI20220207BHJP
C25D 11/06 20060101ALI20220207BHJP
C25D 11/18 20060101ALI20220207BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20220207BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220207BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20220207BHJP
B05D 3/10 20060101ALI20220207BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20220207BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
C25D11/08
C25D11/04 101H
C25D11/04 301
C25D11/06 B
C25D11/18 306Z
B05D7/14 101C
B05D7/24 301P
B05D3/12 C
B05D3/10 F
B05D1/36 Z
B05D7/00 B
B05D3/10 B
(21)【出願番号】P 2019506336
(86)(22)【出願日】2017-04-18
(86)【国際出願番号】 NL2017050240
(87)【国際公開番号】W WO2017183965
(87)【国際公開日】2017-10-26
【審査請求日】2020-04-07
(32)【優先日】2016-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】502402146
【氏名又は名称】フォッカー エアロストラクチャーズ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デ コーク, ヨハンネス マリヌス マリア
(72)【発明者】
【氏名】ファン デン フーヴェル, フィンセント コルネリス ヨハンネス
【審査官】向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101280449(CN,A)
【文献】国際公開第2015/083845(WO,A1)
【文献】特開2015-089964(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0196907(US,A1)
【文献】特開昭55-028400(JP,A)
【文献】安藤 誠,アルミニウムの接着下地処理,住友軽金属技報,日本,1986年04月,Vol.27 No.2,Page.69-73
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/00
B05D 7/00
B05D 3/00
F16D 11/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着接合層および/または接合プライマ層を塗布する準備として多孔性陽極酸化物被膜を適用するためのアルミニウムまたはアルミニウム合金の物品を陽極酸化する方法であって、
陽極酸化すべき前記物品をタンク内の電解液中に浸漬する浸漬工程であり、前記電解液が硫酸およびリン酸の水溶液
からなり、前記電解液中に陰極として配置されている1つ以上の対向電極に関して陽極として前記物品を配置する浸漬工程と:
陽極として切り替えられた前記物品に正の陽極電圧Vaを印加する陽極酸化工程(ステップ)であり、前記電解液中の硫酸の濃度が5~50g/lの範囲内にあり、前記電解液中のリン酸の濃度が2~50g/lの範囲内にあり、前記電解液のアルミニウム含有量は4.8g/l以下
に維持され、前記電解液の温度が前記陽極酸化工程(ステップ)の間に33~60℃の範囲内にある陽極酸化工程とを含む方法。
【請求項2】
前記陽極酸化工程において陽極酸化
された前記物品をすすぎ剤ですすぐすすぎ工程と、
前記すすぎ工程においてすすがれた陽極酸化
された前記物品を乾かす乾燥工程とをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記硫酸濃度が10~40g/lの範囲内にある、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記リン酸濃度が2~40g/lの範囲内にある、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記電解液の前記温度が40~54℃の範囲内にある、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記陽極電圧が8~34Vの範囲内にある、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記陽極酸化時間が10~45分の範囲内にある、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記電解液が追加の腐食抑制剤を含まない、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記陽極酸化ステップが、前記印加陽極電圧を8~34Vの範囲内の第1の値まで徐々に増大させる第1のサブステップと、前記印加陽極電圧を第1の陽極酸化時間の間、前記第1の値に維持する第2のサブステップと、前記印加陽極電圧を前記第1の値よりも高い8-34Vの第2の値に上昇させる第3のサブステップと、前記第2の陽極酸化時間の間、前記印加陽極電圧を前記第2の値に維持する第4のサブステップとを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の陽極酸化時間が前記第1の陽極酸化時間未満である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
接着剤によって互いに接合されたアルミニウムまたはアルミニウム合金の少なくとも2つの金属物品を含む金属接合製品の製造方法であって、
請求項1~10のいずれか一項に従って陽極酸化された少なくとも2つの金属物品を提供する工程と、
前記金属物品の表面に接合プライマ層を適用する工程と、
前記接合プライマ層の上のそれらの表面の少なくとも1つに接着剤の層を適用する工程と、
前記少なくとも2つの金属物品を、接合プライマの層および任意に接着剤の層が適用されるその表面が向かい合うように積み重ねる工程と、
前記積み重ねられた金属物品を高圧力下で一緒に接合する工程とを含む方法。
【請求項12】
前記金属接合製品が金属接着積層体であるように前記少なくとも2つの金属物品が、アルミニウムまたはアルミニウム合金の金属シートである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記接着剤が繊維強化接着剤または強化繊維に含浸されている接着剤である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記接合プライマがクロム酸塩(クロム(VI))のない接合プライマである、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項11~14のいずれか一項に従って製造された金属接合製品を含む
、航空構造部品の製造方法。
【請求項16】
クロム酸塩(クロム(VI))のない接合プライマを含む、請求項15に記載の航空構造部品の製造方法。
【請求項17】
請求項11~14のいずれか一項に従って製造された金属接合製品であって、ISO9227に従って90日間中性塩スプレー暴露後の接合表面の25mm幅の小片の機械加工された端部で測定したボンドライン腐食が5%未満である、金属接合製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の物品を陽極酸化する方法、その応用、このようにして陽極酸化された物品を用いた製造方法、陽極酸化方法を実施するための装置、および陽極酸化された物品および製品、特に航空構造部品に関する。
【背景技術】
【0002】
陽極酸化は、金属部品の表面上の(天然の)酸化物層の厚さを増大させるために使用される電解不動態化プロセスである。陽極酸化では、直流電流が電解液を通過する。処理される部分は、電気回路の陽極電極(正電極)を形成する。陽極酸化は腐食および磨耗に対する耐性を増大させ、塗料プライマおよび接着剤に対する接着性を裸金属よりも向上させる。当該技術分野で知られている陽極酸化処理としては、クロム酸(「CAA」とも呼ばれる)を含む電解液中での陽極酸化、ならびにリン酸(「PAA」)を含む電解液中での陽極酸化、硫酸(「SAA」)を含む電解液中での陽極酸化、リン酸および硫酸(「PSA」)を含む電解液中での陽極酸化が挙げられる。
【0003】
欧州特許第607579A1号明細書は、アルミニウムおよびその合金またはマンガンおよびその合金から成る航空宇宙技術で使用されるような構造要素の陽極酸化の方法を開示している。
【0004】
この公知の方法によれば、構造要素は、硫酸もリン酸も含む水性電解液と接触する。好ましい条件としては、約100g/lの濃度の硫酸およびリン酸化合物、約27℃の温度、15~20Vの印加電圧、いわゆる約3分のランプアップ時間に続く定電圧での約15分の滞留時間が挙げられる。この陽極酸化処理は承認され、認定され、標準PSAプロセスとしてその分野で知られている。
【0005】
アルミニウムまたはその合金の陽極酸化された物品は、構造接着金属接合に適用される。現代の航空構造では、上記陽極酸化された後のアルミニウムまたはその合金のパネル、シートまたは押出形材は、接着剤を用いて一緒に接合される。さらなる周知の用途は、いわゆる繊維金属積層体(FML)をもたらす接着接合を用いて1つ以上の(ガラス)繊維強化層がアルミニウムパネルまたはシートの間に挟まれたサンドイッチ構造を含む。この公知の方法は、クロム酸塩(クロム(VI))を含有する変性エポキシプライマである腐食抑制接合プライマBR127と組み合わせて、AA2024-T3アルミニウム合せ板および熱硬化(hot curing)(熱硬化(thermosetting))エポキシ接着剤との耐久性接着に関して有益な性能結果を提供している。
【0006】
クロム酸およびクロム酸塩中に存在するクロム(VI)は毒性および発癌性があるため、金属接合製品およびその製造プロセス中のすべてのクロム酸塩を除去する必要がある。代替のクロム(VI)のない接合プライマが開発されている。しかし、これまで世界的な努力は、クロム酸塩BR127に基づく接合システムの接合性能に匹敵する接合性能をもたらさなかった。
【0007】
したがって、クロム(VI)化合物の法的許容用途を減らす傾向があり、全面禁止が期待されているため、金属接合製品からクロム(VI)化合物を除去する必要性が存在し続け、ますます緊急になっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、クロム(VI)化合物が、耐食性および/または接合性能のようなその好ましい特性を達成するための金属接合製品の種々の製造工程において必須ではない構造接着金属接合方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くべきことに、陽極酸化プロセスを調整することによって、非クロム酸塩接合プライマを用いた接合性能は、クロム酸塩(クロム(VI))を含む接合プライマBR127に基づく性能と同様かまたはなお良いレベルに改良することができることがわかった。
【0010】
したがって、第1の態様では、本発明は、接着接合層および/または接合プライマ層のその後の塗布の準備において多孔性陽極酸化物被膜を適用するためのアルミニウムまたはアルミニウム合金の物品を陽極酸化する方法であって、
陽極酸化すべき物品をタンク内の電解液中に浸漬する浸漬工程であり、前記電解液が硫酸およびリン酸の水溶液を含み、電解液中に陰極として配置されている1つ以上の対向電極に関して陽極として物品を配置する浸漬工程と、
物品に正の陽極電圧Vaを印加する陽極酸化工程であり、電解液中の硫酸の濃度が5~50g/lの範囲内にあり、電解液中のリン酸の濃度が2~50g/lの範囲内にあり、電解液の温度が陽極酸化工程中33~60℃の範囲内にある陽極酸化工程とを含む方法に関する。
【0011】
本発明による陽極酸化プロセスでは、物品は、実質的に異なる条件下であるが、EP607579A1号明細書から公知の方法のように処理される。
【0012】
電解液は、陽極酸化の間に電解液の温度が33~60℃の範囲内に保持されている間に、5~50g/lの範囲内の硫酸および2~50g/lの範囲内のリン酸を含む。驚くべきことに、水性電解液中の無機酸の濃度がはるかに低い公知の標準PSAプロセスと比較して、はるかに幅広いがより高い温度ウインドウでは、アルミニウムまたはアルミウム合金の物品の表面に陽極酸化物層が形成されるか、陽極酸化後のすすぎが産業界で遭遇するように数分間延期される場合でも酸化物層は好ましい構造を提供する。構造は、接合プライマおよび/または塗料プライマ、特にクロム酸塩のないプライマの後の適用に有益であることが判明した。本発明による方法はまた、電解液の温度のより厳しくない制御を可能にする。硫酸およびリン酸を含む使用済み電解液の量が減少する。驚くべきことに、このように処理された物品は、少なくとも2つの陽極酸化されたアルミニウムまたはその合金のシートまたはパネルを含む層状航空構造などの接合製品に製造することができ、このシートは、非クロム酸塩接合プライマおよび適切な接着剤、典型的には、エポキシなどの熱硬化性プラスチックを含み、その航空構造が、上記BR127接合プライマに基づく構造のレベルと同等のレベルで接合性能および耐食性を示す非クロム酸塩接着接合システムによって一緒に接合される。
【0013】
本発明に従って陽極酸化され得る物品は、アルミニウムまたはその合金製である。適切な合金例としては、AA1xxx(純アルミニウム)、AA2xxx(アルミニウム-銅およびアルミニウム-銅-リチウム合金)、AA5xxx(アルミニウム-マグネシウム合金)、AA6xxx(アルミニウム-マグネシウム-ケイ素合金)、AA7xxx(アルミニウム-亜鉛合金)およびAA8xxx(アルミニウム-リチウム)シリーズ、そのうえAA2xxxアルミニウム合せ板およびAA7xxxアルミニウム合せ板が挙げられる。典型的な例としては、AA1050、AA2024、AA2060、AA2196、AA2198、AA2524、AA5052、AA6013、AA6061、AA7010、AA7050、AA7075、AA7175、AA7475およびAA8090、例えばAA2024-T3アンクラッド、AA2024-T3アルミニウム合せ板およびAA7075-T6アルミニウム合せ板が挙げられる。
【0014】
本発明による陽極酸化処理は、アルミニウムまたはその合金の任意の物品、特に適当なプライマによって処理され、次いで、金属-金属積層体または繊維強化金属積層体(いわゆるFML)に塗装または製造すべきヒンジ、補強材、ならびにシートおよびパネルのような航空構造部品に適用することができる。
【0015】
硫酸濃度は、5~50g/l、好ましくは10~40g/lの範囲内にある。リン酸濃度は2~50g/l、好ましくは2~40g/l、最も好ましくは4~16g/lの範囲内にある。好ましい範囲は、改良された接合性能および耐食性を提供する。
【0016】
好都合には、電解液のアルミニウム含有量は5g/l以下、好ましくは4.8g/l以下である。本発明による陽極酸化の間に、硫酸が消費され、処理される物品からアルミニウムが溶解する。5g/lを超えるアルミニウム濃度では、ボンドライン腐食が増大すると思われた。
【0017】
上記のように、本発明による方法の陽極酸化工程が接合性能および耐食性の点で適用可能な温度ウインドウは、従来技術と比較して広く、33~60℃の範囲内にある。すなわち、本発明によるプロセスは、温度依存性が少なく、したがって温度に対してより重要ではない。最適な接合および腐食の特性の点で、好ましい範囲は40~54℃、より好ましくは40~50℃、特に42~48℃である。
【0018】
印加電圧もより重要ではない。適切な陽極電圧Vaは8~34Vの範囲内にある。同じことが、ランプアップ時間(陽極酸化電圧まで徐々に昇圧する陽極酸化工程中の時間)を含む総陽極酸化時間にあてはまる。この総陽極酸化時間は、特に、電解液中の成分濃度、形成された陽極酸化層の印加された(陽極酸化)電圧および所望の厚さに依存する。総陽極酸化時間は、典型的には、10~45分、例えば15~35分に及ぶ。15分未満の陽極酸化時間では、ボンドライン腐食試験によって測定される耐久性は、より長い陽極酸化時間よりも小さい。
【0019】
本発明による陽極酸化処理は、物品の航空宇宙用途に必要なレベルで耐食性を提供する。したがって、本発明の好都合な実施形態では、電解液は任意のクロム(VI)化合物を含まず、より好ましくは他の追加の腐食抑制剤も含まない。
【0020】
本発明による陽極酸化方法のさらなる好ましい実施形態では、陽極酸化ステップは、
印加された陽極電圧を8~34Vの範囲内の第1の値(Va1)まで徐々に増大させる第1のサブステップと、印加された陽極電圧を第1の陽極酸化時間の間、前記第1の値(Va1)に維持する第2のサブステップと、印加された陽極電圧を第1の値よりも高い第2の値(Va2)8~34Vに上昇させる第3のサブステップと、第2の陽極酸化時間の間、前記第2の値(Va2)に前記印加された陽極電圧を維持する第4のサブステップとを含む。
【0021】
この好ましい実施形態では、陽極酸化ステップはいくつかのサブステップに分割される。第1のサブステップ(ランプアップ時間)では、印加電圧を、15~20Vなどの設定された陽極酸化電圧(=第1の値=Va1)まで徐々に上昇させる。勾配は重要ではなく、典型的には1~10V/分である。次いで、物品を10~15分間などの第1の陽極酸化時間t1、陽極酸化し、続いて、第3のサブステップでは、印加電圧を25-30Vなど第2の陽極電圧Va2にさらに上昇させる。やはり勾配は重要ではない。第4のサブステップでは、この第2の陽極電圧が第2の陽極酸化時間t2の間、印加される。典型的には、第2の時間t2は、2~5分など第1の陽極酸化時間t1未満である。陽極酸化プロセスの終わりに、印加電圧を数分間、高い値に増大させるような実施形態は、なお良い腐食挙動をもたらす。
【0022】
陽極酸化の間、電解液はエージングを経、電解液の酸性成分が消費され、したがって、典型的には定期的に、特に硫酸で補充される。優勢なpHで本質的に非解離状態にあるリン酸と比較して、リン酸は酸化アルミニウムとの反応において電解液からの主な反応物である。陽極酸化の間に、陽極酸化される物品からのいくらかのアルミニウム(および他の合金元素)も電解液に溶解する。接合特性および腐食特性の点で、電解液中のアルミニウム濃度を5g/l未満、例えば4.8g/l以下に維持することが有益であると思われた。典型的には、このようにして得られた陽極被膜を有する物品をすすぎ、乾かす。この物品は、半製品であり、好都合には、さらに処理される。
【0023】
1つの用途では、陽極酸化された物品は、適切な塗料プライマで下塗りされ、次いで、好都合には、高固形溶剤系および/または水系のプライマおよびペイントシステムを用いて塗装される。したがって、本発明は、本発明による上記の陽極酸化方法によって陽極酸化された物品を提供する工程と、陽極酸化物品の塗装される表面に塗料プライマを塗布する工程と、および物品の下塗りされた表面を塗装する工程とを含む、塗装された陽極酸化物品を製造する方法に関する。任意に、陽極酸化された物品と塗料プライマとの間に接合プライマを適用することができる。
【0024】
別の用途では、陽極酸化された物品は、補強材、金属金属積層体または繊維強化金属金属積層体と一緒に接合された航空機スキンパネルなどの接合製品に製造される。シートまたはパネルまたは補強材などの本発明に従って陽極酸化された金属物品の接合すべき表面は、適切な接合プライマで下塗りされ、次いで、接合プライマが適用された少なくとも1つの表面は、適切な接着剤が提供される。金属物品は、接合プライマおよび/または接着剤が向かい合って塗布された表面を有するように積み重ねられ、次いで、典型的には、プレス機またはオートクレーブ内で高圧かつ高温で、または標準脱オートクレーブ技術を用いて一緒に接合される。このようにして、金属積層体のような多層接合製品を製造することができる。接合プライマは、好ましくは、溶剤系および/または水系の非クロム酸塩処理プライマである。任意に、繊維強化金属積層体を製造するために接着剤を予め含浸させた繊維層(「プリプレグ」)などの繊維強化接着剤を用いて、本発明に従って陽極酸化された金属シートから金属接合積層体を製造することができる。
【0025】
上記用途の使用に適した接合プライマの例としては、Cytec Engineering MaterialsからのBR127などのエポキシ/フェノール系クロム酸塩処理腐食抑制溶剤系接着プライマ;3MおよびHenkelから入手可能なエポキシ系非クロム酸塩処理腐食抑制水系接着プライマ;Cytec Engineering MaterialsのBR252など、エポキシ/フェノール系非クロム酸塩処理腐食抑制水系接着プライマ;HexcelおよびCytec Engineering Materialsおよび3Mから入手可能なRedux 112およびRedux 119など、エポキシ系非クロム酸塩処理非腐食抑制溶剤系接着プライマ;HexcelからのRedux101などのフェノールホルムアルデヒド非クロム酸塩処理非腐食抑制溶剤系接着プライマが挙げられる。
【0026】
塗布することができる接着剤の例としては、低温硬化性接着糊;3M、Cytec Engineering Materials、HenkelおよびHexcelから入手可能などの120℃硬化性接着性エポキシフィルム;150℃硬化性ビニルフェノール系接着剤;および177℃硬化性接着性エポキシフィルムが挙げられる。繊維強化接着剤としては、特に、Cytec Engineering Materialsから入手可能な120℃硬化性エポキシ系プリプレグFM94S2およびCytec Engineering Materialsからの180℃硬化性エポキシ系プリプレグFM906S2が挙げられる。
【0027】
陽極酸化された表面または上記接合プライマの上面に適用される塗料プライマとしては、エポキシ系クロム酸塩処理腐食抑制溶剤系プライマなどの従来の塗料プライマ;変性エポキシ系クロム酸塩処理腐食抑制溶剤系プライマ、エポキシ系水系腐食抑制プライマ;イソシアネート系変性エポキシ系(非クロム酸塩処理)プライマ;およびマグネシウムリッチプライマが挙げられる。さらに適切な塗料プライマとしては、エポキシ系非クロム酸塩処理腐食抑制水系塗料プライマのような最新技術の塗料プライマ、および高固形非クロム酸塩処理腐食抑制塗料プライマが挙げられる。
【0028】
本発明に従って陽極酸化されるアルミニウムまたはアルミニウム合金の物品は、金属接合構造航空構造部品(例えば、金属接合補強材を備えた金属製航空機スキン、または接合アルミニウムシートから成る金属積層スキン)または、アルミニウムまたはアルミニウム合金のシートの間に配置されている接着剤中に埋め込まれた強化繊維層と一緒に接合される積み重ねられたアルミニウムシートから成る繊維金属積層体などの金属接合製品を製造するために、一緒に接合することができ、および/または同じアルミニウムまたはその合金、またはアルミニウムまたはその合金以外の金属または合金から成る陽極酸化された部品と接合することができる。
【0029】
したがって、本発明はさらに、塗料および/または接合システムを用いて上記の製造方法に従って製造された塗装された陽極酸化された物品を含む、翼、水平尾翼、垂直尾翼または胴体のスキンパネルのような航空構造部品に関する。好都合には、航空構造部品は、クロム酸塩(クロム(VI))のない接合プライマを含む。
【0030】
さらに別の態様では、本発明は、上記の金属接合製造方法に従って製造された金属接合製品であって、ISO9227に従って90日間の中性塩スプレーへの暴露の後、接合面の25mm幅の小片の機械加工された端部で測定して5%以下のボンドライン腐食を有する製品に関する。
【0031】
接着接合層および/またはプライマ層のその後の塗布の準備において多孔性陽極酸化物被膜を塗布するためのアルミニウムまたはアルミニウム合金の物品を陽極酸化する方法は、液体電解質を含むための浸漬槽と、直流電源と、1つ以上の対向電極と、陽極酸化される物品に接続するための陽極コネクタと、電解液の温度を制御するための手段とを備える装置で実施することができ、電解液は、5~50g/lの濃度範囲の硫酸と2~50g/lの濃度範囲のリン酸とを含む。上記の好ましい実施形態は、同様に装置に適用可能である。
【0032】
本発明は、添付の図面によってさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明による方法を実施するための装置のある実施形態の概略図である。
【
図2】本発明による陽極酸化方法のある実施形態における時間の関数としての陽極電圧の経過を示す図である。
【
図3】120g/lのリン酸および80g/lの硫酸を用いて28℃で陽極酸化し、続いてフェノールホルムアルデヒド接合プライマRedux101を与えて125℃硬化性エポキシ系接着剤AF163-2Kで接合したAA2024-T3アンクラッドのベル剥離強度対すすぎ遅延時間を示す図である。
【
図4】75g/lのリン酸および50g/lの硫酸を用いて28℃で陽極酸化し、続いてフェノールホルムアルデヒド接合プライマRedux101を与えて125℃硬化性エポキシ系接着剤AF163-2Kで接合したAA2024-T3アンクラッドのベル剥離強度対すすぎ遅延時間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1に、本発明によるアルミニウムまたはアルミニウム合金の物品を陽極酸化するための装置のある実施形態を図示する。装置全体を参照番号10で示す。陽極酸化装置10は、直立した壁14および底16を有する浸漬タンク12を備える。壁14の1つ以上、特に、陰極として直流電源20に電気的に接続されている一対の対向する壁に沿って、対向電極18が配置されている。支持体22は、陽極酸化される物品24を担持する。物品24は、陽極コネクタ26によって陽極として直流電源20に電気的に接続されている。制御ユニット30によって制御される熱交換器28は、所望の温度値でタンク12に含まれる液体電解質32の陽極酸化温度を維持することを可能にする温度調整器として設けられる。電解液32は、それぞれ5~50g/lおよび2~50g/lの濃度の硫酸およびリン酸の水溶液である。動作中、液体電解質は、典型的には、定期的に部分的に補充される。アルミニウム含有量は5g/l未満のレベルに維持される。物品24を上からタンク12に入れて電解液32に浸漬させることができ、陽極酸化後に電解液32およびタンク12から上方へ持ち上げることができるように、タンク12は上面が開放されている。
【0035】
図2は、本発明による陽極酸化方法の好ましい実施形態を、時間(分)の関数としての陽極電圧Va(V)のプロットとして示し、最初に陽極電圧は第1のサブステップAで1-10V/分で17Vなどの第1の陽極電圧Va1に上昇する。第2のサブステップBの間、陽極電圧Va1は、10~20分などの第1の期間t1の間維持される。この第1の期間の終了時に、陽極電圧は、第3のサブステップCで第2の陽極電圧Va2に増大し、典型的には5分までの範囲内のさらなる期間t2の間に第4のサブステップDでこの電圧Va2に保持される。Va1、Va2、t1およびt2を変化させるためのこの実施形態についての実験の詳細およびデータを以下の表5に示す。
【実施例】
【0036】
標準のPSAプロセスの広範かつ慎重な調査は、この標準のPSAプロセスに関連する狭い温度許容度が、接合するために達成すべき多孔性酸化物構造によって規定され、課されることを示した。29±2℃(Tmax29.5℃)および30±1℃(Tmax31.7℃)(120g/lリン酸+80g/l硫酸;Va=18V)などの温度が増大すると、SEM画像によって証明されたように、多孔性酸化物構造に影響を及ぼす著しい酸化物の溶解が生じる。
【0037】
さらに、陽極酸化の後、スプレーすすぎまたは浸漬すすぎなどによって電解液を除去する必要がある。ラボスケールでは、サンプルを5秒などの数秒以内にすすぐことができる。市販の設備では、例えば1m×10mの長さがあるシートを取り扱うと、陽極酸化とすすぎとの間の時間は、数分のオーダー、典型的には、2±1分である。陽極酸化と、すすぎによる物品からの電解液の除去との間の遅延の間に、多孔性酸化物被膜のさらなる溶解と、したがって劣化が生じると思われた。特に、裸のアルミニウム合金(例えば、AA2024-T3ベア)物品を処理すると、溶解が最も著しいと思われた。劣化した被膜の最終結果は、表1および
図3に示すように、非クロム酸塩接合プライマ(フェノールホルムアルデヒド接合プライマRedux101、125度℃硬化性エポキシ系接着剤AF163-2Kで接合)を用いたEN1967による試験後の乾燥および湿潤ベル剥離結果(EN2243-2)によって証明されるように、接着接合性能の劇的な低下である。
【0038】
乾燥および湿潤ベル剥離試験についての本発明の文脈において、サンプルが200N/25mm以上の接合強度を有する場合、サンプルは接合要件を満たすと考えられる。
【0039】
表1:120g/lのリン酸および80g/lの硫酸を用いて28℃で陽極酸化され、続いてフェノールホルムアルデヒド接合プライマRedux101を与えて125C°硬化性エポキシ系接着剤AF163-2Kで接合したAA2024-T3アンクラッドのすすぎ遅延時間を変えた0.5mmおよび1.6mmのベル剥離強度値。
【0040】
【0041】
酸化物溶解の問題を解決するためのさらなる試験を、Va=18VおよびT=28℃に関して本質的に同じ条件で、75g/lのリン酸および50g/lの硫酸のより低い酸濃度で実施した。より低い酸濃度を考慮して、陽極酸化時間を30分に延長した(3分のランプアップおよび27分の滞留時間)。これらのさらなる試験は、接着接合およびボンドライン腐食耐性に関する同様の結果が達成され得ることが示したが、遅延されたすすぎは、
図4に示すように、ベル剥離強度によって測定されるように、接着接合性能になお著しいマイナス効果を有した。
図4は、75g/lのリン酸および50g/lの硫酸を含む電解液中28℃で陽極酸化し、続いてフェノールホルムアルデヒド接合プライマRedux101を与えて125℃硬化性エポキシ系接着剤AF163-2Kで接合したAA2024-T3アンクラッドのベル剥離強度対すすぎ遅延時間を示す。
【0042】
本発明は、金属接合製品中の全てのクロム酸塩((クロム(VI))化合物の除去を可能にする全く異なるアプローチによって、酸化物の溶解および結果として生じる剥離強度低下に関連する問題を解決した。
【0043】
陽極酸化実験のために10g/lの硫酸濃度を選択し、以前に試験した50g/lの硫酸濃度と比較した。さらに、リン酸濃度を0、40および80g/lで変化させて、酸の役割を別々に識別した。電流密度が0.8±0.4A/dm2になるように電圧を変化させた。酸化物溶解の問題およびAA7075-T6アルミニウム合せ板のため、この合金は一般にボンドライン腐食に影響されやすいため、試験は最初にAA2024-T3ベアで開始された。
【0044】
ボンドライン腐食の程度は、典型的には、剥離試験片が作られるのと同様にして(例えば、EN2243-2に従って)、25mm幅の小片に機械加工される金属-金属接合シートのサンプルを用いて決定される。これらのサンプルは、ISO9227に従って中性塩スプレーの所望の持続期間に暴露される。塩に暴露すると、機械的負荷なく、機械加工によって切断された小片の保護されていない端部で腐食によって開始される層間剥離が生じる。暴露後、小片を剥離展開して、最初の接合エリアと比較して、腐食によって開始された層間剥離のエリアの相対的部分として定義されるボンドライン腐食の程度を測定する。本発明の文脈において(他に示さない限り)、180日の塩スプレー持続期間後に10%以下のボンドライン腐食を「良好」とみなし、そして90日の塩スプレー持続期間後に5%以下のボンドライン腐食を「良好」とみなす。45日の持続する塩スプレー試験では2%以下が「良好」である。
【0045】
前処理されたアルミニウムシートにフェノールホルムアルデヒド接合プライマRedux101を与えて125℃硬化性エポキシ系接着剤AF163-2Kで接合した。180日の塩スプレー曝露後のAA7075-T6アルミニウム合せ板についてのボンドライン腐食のいくつかの典型的な結果を表2に示す。表3は、AA2024-T3についての湿潤ベル剥離強度データを提供する。これらの表2および表3の両方のアルミニウム合金について、それぞれ表3の#3(20分)を除いて、示された電流密度で30分間一定電圧で陽極酸化を実施した。
【0046】
表2:フェノールホルムアルデヒド接合プライマRedux101を与えて陽極酸化パラメータを変化させて125℃硬化性エポキシ系接着剤AF163-2Kで接合した0.8mmおよび1.6mmのAA7075-T6アルミニウム合せ板の180日塩スプレー曝露後のボンドライン腐食値。
【0047】
【0048】
驚くべきことに、リン酸が電解液中に存在しない場合にはより高い陽極酸化温度が必要とされ、35℃~58℃の比較的高い温度で10g/lの最も低い硫酸濃度で最良のボンドライン腐食結果が得られた。表2のボンドライン腐食値は、最適な陽極酸化温度が35℃~50℃の間で変化し、電解液の組成にも依存することを示す。
【0049】
表3:フェノールホルムアルデヒド接合プライマRedux101を与えて陽極酸化パラメータを変化させて125℃硬化性エポキシ系接着剤AF1632Kで接合したAA2024-T3アンクラッドの湿潤ベリ剥離強度。
【0050】
【0051】
上記の表2および3から、所定のセットのプロセス条件では、これらの異なる合金の腐食および接合に関して満足な結果は達成されないと思われる。
【0052】
リン酸は接着性、耐湿性、したがってボンドラインの耐久性を向上させると考えられているため、種々の量のリン酸の添加を伴うさらなる試験を実施した。試験は、主にAA2024-T3ベア、AA7075-T6ベア、およびAA2024-T3アルミニウム合せ板の陽極酸化について実施した。硫酸濃度がそれぞれ10、25、および40g/lの場合、温度は33、40、47、および53℃で変化し、リン酸濃度は2、5、15および40g/lで変化した。さらに、酸化物溶解の問題が解決されたことを確認するために、陽極酸化とすすぎとの間の時間を変化させた。適切な電流密度を得るために、8、15および22Vの陽極酸化電圧が印加された。
【0053】
湿潤ベル剥離試験を、AA2024-T3ベアおよびAA7075-T6ベアに対してEN1967に従って実施して、結果の一部を以下の表4に示す。
【0054】
表4のデータは、5~50g/l、特に10~40g/lの硫酸濃度と、2~40g/lのリン酸濃度と、33~54°Cの温度との組み合わせの全範囲内に良好な湿潤ベル剥離結果を得ることができることを示す。リン酸濃度が2~50g/lの場合、陽極酸化温度は33℃になり得、54~60℃まで増大すると一般に接着性が向上する。すすぎ遅延時間に関して、温度は、40g/lのリン酸で少なくとも54℃まで増大させることができる。さらに、試験データから、すべての組み合わせで3分までの陽極酸化後のすすぎの遅延が湿潤ベル剥離強度の低下にならないと思われる。
【0055】
表4:28分間に15Vの陽極酸化電圧でシートを陽極酸化し、続いてフェノールホルムアルデヒド接合プライマRedux101を塗布して125℃硬化性エポキシ系接着剤AF163-2Kで接合することによる0.5mmおよび1.6mmのAA2024-T3ベアシートならびに0.5mmおよび1.6mmのAA7075-T6ベアシート製の接合サンプルの湿潤ベル剥離強度値。硫酸濃度、リン酸濃度、温度およびすすぎ遅延時間に関する陽極酸化パラメータを変化させた。
【0056】
【0057】
表5:25g/lの硫酸および10g/lのリン酸を含む電解液中で陽極酸化し(さらに陽極酸化パラメータを変化させて)、続いてエポキシ接合プライマRedux112を塗布して陽極酸化パラメータを変化させて125℃硬化性エポキシ系接着剤AF163-2Kで接合することによる0.5mmおよび1.6mmのAA7075-T6アルミニウム合せ板製の接合サンプルの90日の塩スプレー曝露後のボンドライン腐食値。
【0058】
【0059】
表6:14~33g/lの硫酸および10g/lのリン酸を含む電解液中での46℃および15/19V(エージングのため金属濃度が増大するが、補充のために硫酸が添加されることもある)での陽極酸化による、種々の合金の乾燥および湿潤ベル剥離値およびAA2024-T3アルミニウム合せ板のボンドライン腐食値。シートにフェノールホルムアルデヒド接合プライマRedux101を与えて続いて、それぞれ125℃硬化性エポキシ系接着剤AF163-2KまたはFM94で接合した。
【0060】
【0061】
表6は、5g/l未満のアルミニウム濃度(実験番号1-8)では、AF163-2Kで接合したAA2024-T3アルミニウム合せ板の平均ボンドライン腐食が10%未満であることを示し、これは産業上許容可能であると考えられる。より高い濃度(実験番号9~15)では、平均ボンドライン腐食が望ましくないレベルまで増大する。