(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】表面硬化された切刃を有する超音波外科工具用のチップ及び該チップを製造する方法
(51)【国際特許分類】
A61B 17/32 20060101AFI20220207BHJP
【FI】
A61B17/32 510
(21)【出願番号】P 2019514810
(86)(22)【出願日】2017-09-15
(86)【国際出願番号】 US2017051709
(87)【国際公開番号】W WO2018053223
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-09-09
(32)【優先日】2016-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514318275
【氏名又は名称】ストライカー・ユーロピアン・ホールディングス・I,リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】プレトリアス,ニールズ
(72)【発明者】
【氏名】マンリー,ケヴィン
(72)【発明者】
【氏名】ヌナン,ジェラード
(72)【発明者】
【氏名】モンソン,ロレーナ
【審査官】小河 了一
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-095955(JP,A)
【文献】特表2007-521880(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0177184(US,A1)
【文献】特開平06-114069(JP,A)
【文献】国際公開第2015/072326(WO,A1)
【文献】特表2014-506287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのドライバ(54)を備える超音波ハンドピース(50)と共に用いられるチップ(70)を形成する方法であって、前記ドライバ(54)は、作動された時、前記ハンドピースに取り付けられた前記チップに振動を誘発する、方法において、
チップ(70)のシャフト(71)の少なくとも一部と、前記シャフトの遠位端のヘッド(86)と、前記ヘッドから外方に突出する少なくとも1つの歯(88)とを形成するように、前記チップを少なくとも部分的に形状加工するステップと、
前記チップの特性波長を決定するステップと、
硬化剤を前記チップの遠位部分内に拡散させるステップであって、前記硬化剤は、少なくとも前記少なくとも1つの歯(88)が表面硬化された外層(94)を有するように、少なくとも前記少なくとも1つの歯(88)内に拡散され、硬化剤を前記チップ内に拡散させる前記ステップにおいて、前記硬化剤は、前記チップの前記少なくとも1つの歯から近位側に延びるある長さに沿って拡散され、前記長さは、最大で前記チップの前記特性波長の長さの1/8の距離である、ステップと、
を含む方法。
【請求項2】
硬化剤を前記チップの前記遠位部分内に拡散させる前記ステップは、
前記チップを少なくとも部分的に
形状加工する前記ステップの後、前記チップをチャンバ(110)内に配置することと、
前記チャンバ(110)内に前記硬化剤(112)のガス状態が形成されるように、前記チャンバの環境を設定することと、
前記硬化剤が拡散されるべき前記チップの前記遠位部分の外面を、前記硬化剤が前記チップ内に拡散する温度に選択的に加熱することと、
によって行われる、請求項1に記載のチップ(70)を形成する方法。
【請求項3】
硬化剤を前記チップの前記遠位部分内に拡散させる前記ステップは、
前記チップ(70)を少なくとも部分的に
形状加工する前記ステップの後に、マスク(122)を前記硬化剤が拡散されない前記チップ(70)の部分を覆って形成することと、
前記チップをチャンバ(124)内に配置することと、
前記チャンバ内に前記硬化剤(112)のガス状態が形成されるように、前記チャンバ(124)の環境を設定することと、
前記チップの外面の温度が前記硬化剤が前記マスクによって被覆され
ていない前記チップの部分内に拡散するレベルまで上昇するように、前記チャンバの内部を加熱することと、
によって行われる、請求項1に記載のチップ(70)を形成する方法。
【請求項4】
前記チップの前記少なくとも一部の
歯を形成するように、前記チップを少なくとも部分的に形状加工する前記ステップは、
前記チップに標的エネルギー(134)を導き、前記少なくとも1つの歯が溶融状態にされるべき箇所において前記チップの表面を加熱することと、
前記チップの前記表面に標的エネルギーを導く前記ステップと同時に、ガス状態にある前記硬化剤を含む補助ガス(140)を
前記溶融状態に加熱された前記チップの区域に導き、これによって、前記補助ガスが前記溶融状態の材料を前記チップから吹き飛ばし、前記溶融状態の材料が吹き飛ばされた後に残る前記
チップの一部に前記ガス状態にある硬化剤の一部が拡散し、その結果、前記チップの前記少なくとも1つの歯を
形成するように前記チップを少なくとも部分的に形状加工する前記ステップ及び前記硬化剤を前記少なくとも1つの歯に拡散させる前記ステップが、同時に行われることと、
によって行われる、請求項1に記載のチップ(70)を形成する方法。
【請求項5】
硬化剤を前記チップの前記遠位部分内に拡散させる前記ステップにおいて、前記硬化剤は、前記少なくとも1つの歯(88)のみに表面硬化された外面(94)が形成されるように、前記少なくとも1つの歯内にのみ拡散される、請求項1~4のいずれか1つに記載のチップ(70)を形成する方法。
【請求項6】
前記チップを少なくとも部分的に形状加工する前記ステップにおいて、前記チップは、複数の歯(88)を有するように形状加工され、
硬化剤を前記チップの前記遠位部分内に拡散させる前記ステップにおいて、前記硬化剤は、少なくとも前記複数の歯内に拡散される、
請求項1~5のいずれか1つに記載のチップ(70)を形成する方法。
【請求項7】
前記チップの前記特性波長を決定する前記ステップは、
前記チップの特性共振周波数を決定することと、
前記チップの前記特性波長を前記チップの前記特性共振周波数の関数として決定することと、
によって行われる、請求項1~6のいずれか1つに記載のチップ(70)を形成する方法。
【請求項8】
前記チップの特性共振周波数を決定する前記ステップは、前記硬化剤を前記チップの前記遠位部分内に拡散させる前記ステップの対象となる特徴部を有するチップの前記特性共振周波数を決定することによって行われ、
前記チップの前記特性波長を決定する前記ステップは、前記硬化剤を前記チップ
の前記遠位部分内に拡散させる前記ステップの対象となる前記特徴部を有する前記チップの
前記特性共振周波数に基づいて
なされる、
請求項7に記載のチップ(70)を形成する方法。
【請求項9】
前記チップの前記特性共振周波数を決定する前記ステップは、前記チップの有限要素解析を行うことによって
少なくとも部分的に行われる、請求項7又は8に記載のチップ(70)を形成する方法。
【請求項10】
前記チップの前記特性共振周波数を決定する
前記ステップは、前記チップの前記特性共振周波数を決定するために多数の異なる周波数で前記チップを振動させることによって
少なくとも部分的に行われる、請求項7,8、又は9のいずれか1つに記載のチップ(70)を形成する方法。
【請求項11】
前記チップに吸引孔(92)が形成されるように、前記チップを形成するステップを更に含む、請求項1~10のいずれか1つに記載のチップ(70)を形成する方法。
【請求項12】
特徴部(78)を有する前記チップを形成するステップを更に含み、前記特徴部は、前記チップが前記少なくとも1つのドライバ(54)によって振動される時、前記少なくとも1つの歯(88)に複数の異なる振動を生じさせるようになっている、請求項1~11のいずれか1つに記載のチップ(70)を形成する方法。
【請求項13】
前記チップは、単一片ユニットから形状加工される、請求項1~12のいずれか1つに記載のチップを形成する方法。
【請求項14】
前記チップの前記シャフト(71)が直線形状を有するように、前記チップを形状加工するステップを更に含む、請求項1~13のいずれか1つに記載のチップ(70)を形成する方法。
【請求項15】
前記チップを少なくとも部分的に形状加工する前記ステップにおいて、前記チップは、チタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、又は鉄合金から形状加工される、請求項1~14のいずれか1つに記載のチップを形成する方法。
【請求項16】
前記硬化剤を前記チップの前記遠位部分内に拡散させる前記ステップにおいて、前記硬化剤の成分は、ボロン、炭素、及び窒素からなる群から選択される、請求項1~15のいずれか1つに記載のチップ(70)を形成する方法。
【請求項17】
超音波ハンドピース(50)と共に用いられるチップ(70)であって、請求項1~16のいずれか1つに記載の方法によって製造される、チップ(70)において、
互いに向き合った近位端及び遠位端を有するシャフト(71)と、
前記シャフトを超音波ハンドピース(50)に離脱可能に連結するための前記シャフトの近位端における特徴部(72)であって、これによって、前記チップが前記ハンドピースの作動時に前記ハンドピースによって振動される、特徴部(72)と、
前記シャフト(71)の前記遠位端から延在するヘッド(86)であって、少なくとも1つの歯(88)を有するように形成されたヘッド(86)と、
を備えるチップ(70)において、
前記少なくとも1つの歯が、表面硬化された外層(94)を有することを特徴とする、チップ(70)。
【請求項18】
前記少なくとも1つの歯には、前記ヘッド(86)から延在する複数の前記歯(88)が
含まれる、請求項17に記載のチップ(70)。
【請求項19】
前記シャフト(71)は、吸引孔(92)を備える、請求項17又は18に記載のチップ(70)。
【請求項20】
前記シャフトは、前記チップが振動する時に少なくとも1つの歯(88)に複数の異なる振動を生じさせる特徴部(78)を有する、請求項17~19のいずれか1つに記載のチップ(70)。
【請求項21】
前記チップは、単一片ユニットから形状加工されている、請求項17~20のいずれか1つに記載のチップ(70)。
【請求項22】
前記シャフト(71)は、直線形状を有する、請求項17~21のいずれか1つに記載のチップ(70)。
【請求項23】
前記シャフト(71)、前記ヘッド(86)、及び少なくとも1つの歯(88)は、チタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、又は鉄合金から形状加工されている、請求項17~22のいずれかに記載のチップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、一般的に超音波外科工具のチップに関する。更に詳細には、本明細書は、耐摩耗性を有する硬化された歯を有するチップ及び該チップを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動力式外科工具の効用によって、外科処置を行う能力が改良されてきており、これまで実施することが(不可能ではないにしても)困難であったいくつかの処置を実施することができるようになってきている。
【0003】
このような動力式外科工具の1つは、超音波ハンドピース工具である。この種の工具は、3つの基本的な構成要素を備えている。1つは、ハンドピース自体である。このハンドピース内に、1つ又は複数のドライバが配置されている。ドライバは、AC駆動信号の印加時に、比較的高い周波数、典型的には、少なくとも10kHz以上の周波数で周期的に拡張及び収縮する。第2の構成要素であるコンソールが、AC駆動信号を供給する。チップが、工具の第3の構成要素である。チップは、ドライバに機械的に連結され、該ドライバから前方に延在している。チップは、遠位端にヘッドを有している。ヘッドに歯が形成されている。ドライバの振動によって、ヘッド、従って、歯の同様の振動が生じる。振動する歯が骨のような硬質組織に押し当てられると、歯の前後運動によって、組織がせん断され、除去される。超音波工具が作動されると、歯は、典型的には、比較的狭い運動範囲内、多くの場合、5mm以下の運動範囲内の運動を生じる。これによって、超音波外科工具は、わずかな量の硬質組織を正確に除去するための極めて有用な工具として機能する。このように、超音波工具は、椎弓切除術のような処置において骨の小さい区域を任意の瞬間に除去するための極めて実用的な工具であることが実証されてきている。
【0004】
超音波工具が用いられる外科処置の繊細な特性に起因して、これらの工具のチップの大きさが比較的小さいことを理解されたい。チップのヘッドが20mm以下の長さ及び5mm以下の直径を有することも珍しいことではない。ヘッドは、3つ以上の歯を有することが多い。各歯は、3mm未満のピーク高さを有する基部及び5mm以下の横断幅を有することが多い。
【0005】
一般的に、超音波工具は、これらの工具が設計対象とする目的に対して極めて順調に機能する。しかし、場合によっては、歯を硬質組織に押し当てることによって、歯のかなりの摩耗が生じることがある。この摩耗は、当然、歯が除去しようとする組織をせん断し、除去する歯の能力を劣化させる。椎弓切除術のようないくつかの処置において、チップは、処置の全体にわたって著しい量の組織を除去する必要がある。時間経過と共に、歯が摩耗する結果として、意図された組織除去を行うチップの能力のかなりの劣化が生じる。これによって、外科医は、摩耗した歯を有するチップを摩耗していない歯を有する新しいチップと取り替えるために、処置を中断する必要がある。チップを取り替えるための処置の中断によって、該処置を行う時間が長くなる。外科処置を行うための時間が長くなると、最近の外科診療の容認された最良の技術手法の1つに反することになる。処置は、患者が麻酔に晒されている時間を最小限に抑えるために、可能な限り迅速に行われるべきである。処置を可能な限り迅速に行う第2の理由は、患者の通常隠されている内側組織が周囲環境及びこの環境に本質的に存在する感染症を引き起こす媒体に晒される時間を最小限に抑えることにある。
【0006】
理論的に、超音波チップのヘッド及び歯をダイヤモンド状カーボンのような材料の層によって被覆することが可能である。これは、歯の硬度を高めることになる。更には、これによって、被覆されていない歯と比較して、歯の摩耗率が低減する。チップにこの種の被膜を施す1つの欠点は、被膜の存在によって、チップの共振周波数がチップが取り付けられた(ハンドピース内の)ドライバの共振周波数からずれることにある。共振周波数は、駆動信号が所定の電圧又は電流である時、この周波数の駆動信号が印加されると、オフ共振の周波数の同一の電圧又は電流の印加と比べて、比較的大きい振幅の振動をチップに誘発する周波数である。理想的には、チップは、ドライバの共振周波数に可能な限り緊密に適合する共振周波数を有するべきである。チップの共振周波数がドライバの共振周波数からずれると、ドライバの機械的エネルギーを歯に伝達させるチップの能力が低減する。これによって、チップによる組織の除去効率が低下する。
超音波チップのヘッドに被膜を施すことがチップの歯の硬度を増大させる最適な手段ではない別の理由がある。チップの振動の結果として、チップ及び被膜が互いに異なる周波数で振動する。その結果、被膜を形成する材料がチップから剥離する。チップのこれらの剥離片は、重力によって、処置が行われている開いた外科部位内に落下する。明らかに、外科プロセスの望ましくない結果が、患者の体内への望ましくない材料の落下をもたらすことになる。
関連すると考えられる背景技術の参考文献として、特許文献1(出願日:2005年8月11日)、特許文献2(出願日:2010年3月4日)、特許文献3(出願日:2012年6月14日)、特許文献4(出願日:2015年1月1日)、特許文献5(出願日:2000年10月10日)、及び特許文献6(出願日:2009年6月4日)が挙げられる。特許文献1は、縦-捩じれ共振器を備える捩じれ切除チップ及び使用の方法を記載している。この共振器は、遠位チップの捩じれ変位又は縦変位に最適化されたピッチの切断歯を有する遠位端に切断面を有している。特許文献2は、外面と、少なくとも1つの切刃と、遠位端とを有する本体を備える超音波外科ブレードを記載している。特許文献3は、金属ブレードと、ブレードと一体の弾性を有する生体適合性ポリマーコーティングとを備える超音波作動可能な外科用ブレードを記載している。特許文献4は、直線状の近位端部及び直線状の遠位端部を備えるプローブシャフトを有する超音波工具又は器具を記載している。直線状の近位端部及び直線状の遠位端部は、互いに傾斜して配置され、シャフトの曲げ部において互いに接合されている。特許文献5は、超音波変換器が内蔵されたハンドピースと、ハンドピースから前方に延在する細長のプローブとを備える超音波治療装置を記載している。細長のプローブは、超音波振動を伝搬させるために超音波変換器に接続されている。特許文献6は、近位端、遠位端、及び外面を有する本体を備える超音波外科用ブレードを記載している。潤滑被膜が、外面の少なくとも一部に固着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2005/177184A1号明細書
【文献】米国特許出願公開第2010/057118A1号明細書
【文献】国際特許出願公開第2012/079025A1号パンフレット
【文献】米国特許出願公開第2015/005795A1号明細書
【文献】米国特許第6,129,735A号明細書
【文献】米国特許出願公開第2009/143806A1号明細書
【発明の概要】
【0008】
本明細書は、少なくとも1つの切刃を有する外科用超音波切断アクセサリの構造に関する。さらに詳細には、本明細書の切断アクセサリは、少なくとも1つの切刃を形成するように交差するアクセサリの表面が表面硬化されるように、形成されている。この表面硬化は、アクセサリの超音波特性及び音響特性に悪影響を及ぼすことなく、切断アクセサリの少なくとも1つの切刃を形成する表面の摩耗を低減させる。本明細書のこのような1つの切断アクセサリは、表面硬化された歯を有する外科用超音波チップである。この表面硬化層は、歯の摩耗を低減させる。本明細書は、この種の超音波切断アクセサリを製造する方法にも関する。
【0009】
本切断アクセサリのチップは、細長のステム及び該ステムの遠位端に位置するヘッドを備えている。歯がステムから外方に突出している。歯は、歯が振動した時に押し当てられる組織をせん断して除去するように、形作られている。本明細書の更なる特徴は、チップを硬化させる材料が歯の外層内に拡散されることにある。アクセサリのいくつかの態様では、材料は、チップのネックの遠位部分及びチップヘッド内に拡散される。歯がチップヘッドの一部なので、硬化材料が歯内に拡散されることを理解されたい。硬化材料は、ヘッド内のみに拡散されてもよい。硬化材料は、歯内にのみ拡散されてもよい。得られた硬化層は、表面硬化層と呼ばれることもある。
【0010】
チップは、チタン合金から製造されるとよい。歯の外層内に拡散される材料は、窒素であるとよい。
【0011】
アクセサリのチップを作る1つの方法では、チップが歯を備えるヘッドを形成するように機械加工される。機械加工されたチップは、周囲ガスのかなりの割合がガス状態の硬化剤であるチャンバ内に配置される。硬化されるべきチップの部分のみに標的加熱プロセスが施される。この加熱は、硬化剤が拡散されるべきチップの区域を(ガス状態の硬化剤が硬化されるべきチップの区域の外層内に拡散する)温度まで上昇させることによって、行われる。この方法のこれらの態様のいくつかでは、レーザが歯に照射されるとよい。レーザビームの光子エネルギー(光)が、歯を硬化剤が歯の外層内に拡散する温度まで加熱する。
【0012】
この方法の代替的態様では、チップが機械加工された後、マスクが、硬化されるべきではないチップの区域を覆って配置される。チップがこのようにマスクによって被覆されたなら、該チップは、周囲ガスのかなりの割合がガス状態の硬化剤であるチャンバ内に配置される。次いで、チップの温度が硬化剤がチップの外層内に拡散する温度まで上昇するように、チャンバが加熱される。更に具体的には、チップのこの加熱の結果として、硬化剤は、チップのマスクされていない部分内に拡散する。チップのこれらのマスクされていない区域は、硬化剤が存在することが意図されたチップの区域である。
【0013】
本発明の第3の製造方法では、チップがレーザ切断プロセスによって形成される。この種のプロセスでは、光の集束ビーム、すなわち、レーザビームが、チップが形成されることになる加工対象品に照射される。少なくともレーザビームを用いて、歯を形状加工するようになっている。レーザビームの照射と同時に、補助ガスが加工対象品に導かれる。補助ガスは、レーザビームの進路と重ならなくても近接する進路に沿って加工対象品に供給される。この補助ガスは、レーザビームによって溶融状態になった金属を加工対象品から吹き飛ばす。補助ガスのかなりの部分は、ガス状態にある硬化剤である。
【0014】
従って、この例示的な製造方法では、加工対象品への補助ガスの供給は、2つの機能を果たすことになる。このガスは、溶融状態の金属を加工対象品から切り離し、これによって、チップへの加工対象品の形状加工を容易にする。このプロセス中、加工対象品がチップに形状加工される時に、補助ガスが加工対象品の加熱された表面の全体にわたって流れる。チップのこの区域が加熱されていることを考慮すれば、補助ガス流れ内の硬化剤の一部がチップ内に拡散するだろう。従って、補助ガスは、チップに硬化剤を供給する媒体として機能し、チップ内への硬化剤の拡散を促進させることになる。
【0015】
本発明は、請求項において詳細に指摘される。本発明の上記の及び更なる特徴及び利得は、以下の図面と併せて以下の詳細な説明を読むことによって理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本
明細書のチップを含む超音波外科工具システムの基本的な構成要素を示す図である。
【
図2】
図1のシステムのチップを備えるハンドピースの構成要素を示す略図である。
【
図6】チップのヘッド及びチップのステムの隣接する遠位部分の
図5の線6-6に沿った断面図である。
【
図7】本
明細書のチップを製造する第1の方法を示す図である。
【
図8】本
明細書のチップを製造する第2の方法を示す図である。
【
図9】本
明細書のチップを製造する第3の方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1及び
図2は、本
明細書の超音波チップ70を備える動力式外科工具システム30を示している。システム30は、超音波外科工具又は超音波アスピレーター
又は超音波ハンドピースとも呼ばれることがあるハンドピース50を備えている。ハンドピース50は、ハンドピースの近位端を形成する本体又はシェル52を備えている。「(近位(proximal)」という用語は、ハンドピースが適用される部位からハンドピースを保持する施術者に向かう側を意味することを理解されたい。「遠位(distal)」という用語は、施術者からハンドピースが適用される部位に向かう側を意味すると理解されたい。本体52は、医療施術者によって実際に保持されるハンドピース50の部分である。チップ70が、ハンドピース50の遠位側前方に延在している。
【0018】
1つ又は複数(図では、4つ)の振動用圧電ドライバ54が、シェル52の内側に配置されている。
図2では、ハンドピースシェル52は、ハンドピース50の内部構成要素を露出させるために示されていない。各ドライバ54は、AC電圧がドライバに印加された時に瞬間的な拡張又は収縮を行う材料から形成されている。これらの拡張/収縮は、ドライバ54の近位面と遠位面との間に延在する長軸に沿って行われる。1対のリード線58が各ドライバ54から離れる方に延在している(図では、2つのリード線しか示されていない)。1対のリード線58は、ドライバ54の互いに向き合った近位面及び遠位面に取り付けられている。全てのハンドピースで50ではないとしても、多くのハンドピース50は、ディスク状の圧電ドライバ54を備えている。これらのドライバ54は、端末同士が繋がれることによって積層体をなすように配置されている。リード線58は、駆動信号の形態にある電圧がドライバ54に供給される時に該電圧が加えられるシステム
30の構成要素である。
図2では、互いに離間したドライバ54が示されている。これは、これらの構成要素の例示を容易にするためである。実際には、ドライバ54は、互いに緊密に当接している。
【0019】
ドライバ54は、該ドライバに印加される電気エネルギーを機械的動力に変換するものとして理解されたい。加えて、ドライバ54は、協働して、システム30の(機械的)動力生成器として機能する。
【0020】
ポスト60が、これらのドライバ54を長手方向に貫通している。ポスト60は、これらのドライバ54を同一の長軸に沿って貫通している。図示されないが、これらのドライバ54にそれぞれの貫通孔が形成されており、ポスト60は、これらの貫通孔を貫通するようになっている。ポスト60は、最近位側のドライバ54の外方及び最遠位側のドライバ54の外方に突出している。
【0021】
近位端質量部51が、最近位側のドライバ54の近位面に隣接して配置されている。ポスト60の露出した近位端区域が、質量部51に固定して取り付けられている。もしポスト60がネジ山を有しているなら、質量部51は、ナットであるとよい。
【0022】
ホーン62が、最遠位側のドライバ54の遠位面から前方に延在している。図示されないが、絶縁ディスクが遠位側ドライバ54とホーン62との間に配置されているとよい。ホーン62は、ドライバ54の直径と略等しい直径を有する近位端基部を有している。ドライバ54の遠位側前方に向かって、ホーン62の直径が減少している。ポスト60の露出した遠位端区域が、ホーン62に固着されている。もしポスト60がネジ山を有しているなら、ホーン基部は、ポストを受け入れるための(部番が付されない)ネジ孔を有しているとよい。ハンドピース50は、ドライバ54の積層体が近位端質量部51とホーン62との間で圧縮されるように、構成されている。
【0023】
スリーブ66が、典型的には、チップ70の近位部分を覆って配置されている。スリーブ66は、典型的には、チップがハンドピース50に取り付けられた位置からチップ70の最遠位ヘッド86の略0.5mm近位側の位置まで延在している。ハンドピース50、スリーブ66、及びチップ70は、協働して、スリーブがチップの外面とスリーブの包囲内面との間に延在する流体流導管を画定するように、構成されている。スリーブ66は、この導管に延在する取付具68をスリーブの近位端に隣接する位置に有している。導管は、スリーブ66の遠位端で開いている。ハンドピース50が使用時にある時、灌注溶液がスリーブ取付具68からスリーブ内を下流に流れ、チップヘッド86に隣接する箇所から放出される。システムのいくつかの形態では、流体は、チップヘッドの機械的振動を組織に伝達する媒体として機能する。この灌注溶液は、チップヘッド86の振動の結果として該チップヘッド86によって生じる熱エネルギーのヒートシンクとしても機能する。
【0024】
ハンドピースポスト60、ホーン62、及びチップ70には、多くの場合、導管が形成されている。図示されないが、ポスト60及びホーン62内に導管が配置されている。これらの導管は、協働して、チップヘッド86からハンドピース50の近位端に向かう流体流路を画定している。ハンドピース50の操作時に、これらの導管を通して吸引が行われる。スリーブ66を通して放出された灌注流体が、吸引によって、チップが押し付けられた部位から離れる方に引き込まれる。この灌注流体にチップ70の作動の結果として生じた破片が混入している。また、吸引によって、組織もチップヘッド86の方に引き込まれる。チップヘッドと組織との間の距離を短縮することによって、チップヘッドから除去されるべき組織への機械的振動の伝達が改良される。
【0025】
吸引を可能とするシステム30のハンドピース50は、アスピレータ又は超音波アスピレータと呼ばれることもある。
【0026】
図1から分かるように、システム30は、
制御コンソール40を備えている。コンソール40内に、ハンドピースドライバ54に印加されるAC駆動信号を出力する構成要素が配置されている。本
明細書のいくつかの態様では、この駆動信号は、10kHzから100kHzの間にある。多くの場合、この駆動信号は、20kHzから50kHzの間にある。コンソール40の構造は、本
明細書に関連するものではない。フットスイッチ42は、コンソールを作動させると共に駆動信号の特性を設定するために外科医によって作動される構成要素を表している。コンソールの構造の更なる理解は、国際特許出願公開第2015/021216A1号
、国際特許出願公開第2016/183084A1号
、及び国際
特許出願公開第2017/210076A2号から得られるだろう。なお、これらの文献は、いずれも参照することによって、明示的にここに含まれるものとする。
【0027】
制御コンソール40は、駆動信号をハンドピース50が接続されたケーブル48を通して供給する。必ずしも必要ではないが、通常、ケーブル48及びハンドピース50は、信号ユニットとして組み合わされている。
【0028】
本
明細書のチップ70は、
図3及び
図4に示されるように、単一片ユニットである。チップ70は、チタン又はチタン合金から形成されている。チップ70を形成することができるチタン合金の一種は、Ti-6Al-4Vである。チタンTi-6Al-4Vは、略6重量%のアルミニウム及び略4重量%のバナジウムを含み、残りが実質的にアルミニウムからなるチタン合金である。チップ70は、多数の異なる区域を有するように形成されている。チップ70は、最近位端に基部74を有している。基部74は、円筒状である
。チップ70の近位端である基部74の近位端は、ホーン62へのチップ70の離脱可能な連結を容易にする特徴部を有している
とよい。
図4には、基部の近位端から遠位側に延びて基部内に部分的に入る閉端孔72が示されている。孔72は、基部74が典型的にはチップ70をホーン62に離脱可能に機械的に緊密連結するために形成された特徴部である。例えば、ホーン62は、ネジ山付きボスを有しているとよい。孔72を画定するチップの内面は、ボスのネジ山と係合するネジ山を有しているとよい。ホーン62へのチップ70の離脱可能な連結を容易にするチップ構成要素は、実際には、本
明細書の一部をなすものではない。
【0029】
チップ70は、基部74から前方に延在する胴体76を有している。胴体76は、円筒状であり、基部74の直径よりも小さい直径を有している。部番が付されないテーパが付いた移行区域が、基部74と胴体76との間に位置している。例示される胴体76に螺旋状の溝78が形成されている。溝78の存在によって、ホーン62がチップ70を長手方向に沿って、すなわち、チップの長軸に沿って遠位-近位方向に振動させた時、溝の遠位側のチップの区域が、捩じれ振動を付随的にもたらすことになる。捩じれ振動は、チップ70の互いに向き合った近位端と遠位端との間に延在する長軸を中心とする振動であることを理解されたい。
【0030】
胴体76の前方に、チップ70は、2つの移行区域80,82を有している。移行区域80は、胴体76のすぐ遠位側の区域である。移行区域82は、移行区域80から前方に延在している。両方の移行区域にテーパが付されている。各区域80,82の直径は、該区域が遠位側前方に進むにつれて減少している。区域82のテーパの勾配は、区域80のテーパの勾配よりも急峻である。チップ70は、移行区域82から前方に延在するステム84を有している。ステム84は、より緩慢なテーパを有している。ステム84のテーパの勾配は、移行区域82のテーパの勾配よりも緩慢である。チップ70は,ステムがチップの全長の略25%から50%の長さを占めるように形成されている。
【0031】
ステム84の遠位端に位置するヘッド86は、チップ70の最遠位区域である。ヘッドの片側は、ステム84の隣接する遠位区域から横方向外方に突出しているとよい。ヘッド86のこの区域に歯88が形成されている。歯88は、ヘッド86から横方向外方に突出している。従って、歯88は、チップ70の長軸から外方に突出している。各歯は、概して、四辺ピラミッドの形態にあるとよい。歯の2辺が交差する縁が、歯の切刃を形成している。歯の起点、すなわち、そこから歯の4辺が外方に延在する点が歯の切断点である。
【0032】
図6において、ヘッド86の遠位面から近位側に延在する孔92が示されている。孔92は、ヘッド86及びステム84を通って遠位側に延在している。図示されないが、孔92が孔72の閉端内に開いていることを理解されたい。チップ72の導管であるこの孔92を介して、チップ72の吸引が行われる。
【0033】
チップ70は、金属の単一片から形成されているが、硬化剤が歯88の少なくとも外側部分内に浸透されている。
図6において、コア96は、歯88を備えるヘッド86の(硬化剤が存在しない)部分を示している。硬化剤は、歯の外層である層94内に浸透している。層94は、表面硬化層と呼ばれることもある。歯内に浸透可能な硬化剤の一種は、窒素である
。表面硬化層94は、歯の外面からチップ内に少なくとも1μmの深さを有している
とよい。多くの場合、表面硬化層94は、歯の外面から少なくとも3μmの深さを有している
。殆どの態様において、表面硬化層は、歯の外面からチップ内に50μmを超える深さを有して
いないとよい。
【0034】
超音波ハンドピース50を用いる場合、チップ70と一体のヘッド86が除去されるべき組織の近傍に位置決めされる。駆動信号をコンソール40からドライバ54に供給することによって、ハンドピース50が作動される。これによって生じるドライバ54の拡張/収縮によって、チップ、更に具体的には、チップヘッド86及び歯88の振動が生じる。チップヘッドは、歯88が切除されるべき組織に対して押し当てられるように、位置決めされる。組織に対する歯88の前後運動の結果、組織のせん断、すなわち、除去が生じることになる。
【0035】
歯88の硬化層94の存在は、除去されるべき組織のせん断時に、該歯の摩耗が硬化層を備えない同一チップの歯の摩耗よりも少ないことを意味する。その結果、手術中、従来のチップ、すなわち、硬化層が存在しないチップと比較して、チップ70は、該チップ70の組織を除去する能力の感知し得るほどの劣化をもたらすレベルまで摩耗し難いことになる。これによって、手術中に該手術を適時に行うことを意図して鋭利な歯を有する新しいチップをもたらすために切断プロセスを中断しなければならないほどチップ70の歯88が摩耗する可能性が、同様に低減されることになる。
【0036】
チップ70の更なる特徴は、表面硬化層がチップの全体に及んでいないことにある。チップに設けられる硬化層の範囲の制限を理解するために、該チップが基本振動モードを有することを理解されたい。多くのチップは、長手方向に振動するように設計されている。これは、チップの振動によって、ヘッドがチップの近位―遠位方向長軸と一致する線に沿って延在する近位-遠位経路に沿って振動することを意味している。他のチップとして、捩じれ振動を伴うように設計されたものが挙げられる。チップが捩じれ振動する時、チップのヘッドは、チップの長軸と同心でないにしても同心に近い軸を中心として回転する。更に他のチップとして、曲げ振動をもたらすように設計されたものが挙げられる。チップが曲げ振動を伴う時、ステム84は、チップ70の基部74の長軸の直線状延長部に対して屈曲する。これは、チップヘッド86が、チップ70の基部74の長軸に対して前後に、すなわち、左右に移動することを意味する。チップの中には、振動するように励起された時、2つ以上、又は全部で3つの異なる種類の振動、すなわち、長軸方向の振動、捩じれ振動、及び曲げ振動が組み合わさった振動をもたらすように設計されたものがある。
【0037】
チップ70の設計によって生じることが意図された振動の種類に関わらず、チップ70は、該チップ70に付随する基本振動モードを有している。このモードは、共振周波数によって特徴付けられている。また、各チップは、特性周波数を有している。この波長の長さは、音響速度を基本振動モードの特性共振周波数によって割り算することに得られる値である。この特性共振周波数は、当該振動モードの固有周波数と呼ばれることもある。
【0038】
本明細書の目的から、「特性共振周波数(characteristic resonant frequency)」という用語は、チップが周囲環境において機械的負荷を受けずに振動する時のチップの共振周波数であると理解されたい。この特性共振周波数は、典型的には、チップの以下の特性、すなわち、材料、形状、及び寸法の関数である。これらの変数に基づき、有限要素解析のような数学プロセスを用いてこの周波数を決定することができる。製造後、チップの特性共振周波数と考えられる周波数を中心とする多数の周波数で該チップを振動させることによって、チップの特性共振周波数を決定することができる。チップの振動が最大振幅を呈する周波数が、チップの特性共振周波数であるとみなすことができる。チップ70の特性共鳴周波数を決定するために、歯の有限要素解析及び実証的振動が組み合わされてもよい。
【0039】
表面硬化層94は、全ての歯88にわたって形成されると共に、最近位歯88からある距離にわたって近位側に延びており、この距離は、最大で特性波長の長さの1/8であると考えられる。従って、表面硬化層94は、ヘッド86の全体及びチップステム84の隣接する遠位区域を覆って延在しているとよい。表面硬化層94は、代替的に、チップのヘッド86のみを覆って延在していてもよい。更に代替的に、歯88のみが表面硬化層94を備えていてもよい。
【0040】
チップ70の遠位端ヘッド86は、チップの振動に関して、振動腹(anti-node)であることを理解されれたい。(振動腹に対する点位置を画定する目的から、最近位歯88は、この振動腹が存在するヘッド86上の点と考えられる)。これは、ヘッド86自体は、空間の参照点に対して振動を生じるが、ヘッド及び歯88を形成する原子状材料は、内部の原子状振動(互いに隣接する原子間の振動)を生じないことを意味する。チップヘッド86及び歯88の運動は、ヘッドの近位側に生じる内部の原子状振動に起因する。この運動は、振動節において最大であり、この振動節から遠位側に向かって減少する。この振動節は、振動腹から近位側に特性波長の1/4の距離だけずれた位置にある。従って、特性波長の波は、チップに沿って遠位-近位側に延在するチップの個々の区域が種々の大きさの内部の原子状振動を生じる波であることを理解されたい。
【0041】
チップの硬化層94及びその下層は、当然、種々の程度の剛性を有している。もし両方の層が、同時に拡張/収縮し、且つ捩じれ及び/又は収縮したなら、本質的に、外側の硬化層が、種々の剛性を有するこれらの層に起因し、時間経過と共に下層から分離する傾向にある。
【0042】
もしこの分離が患者の開口の上方で生じたなら、硬化層の破損部分が患者の内部組織に落下する可能性がある。組織の感染及び炎症を避けるために、施術者がこのようなチップ破片の落下の回避を望むことは、当然である。
【0043】
しかし、前述したように、最大の内部原子状振動が生じる振動節は、歯の近位側から(ヘッド86の近位側の位置から)チップ70の特性波長の1/4の距離に位置している。硬化層94は、典型的には、ヘッド86の近位側から特性波長の1/8の距離にわたって延在しているにすぎない。これは、硬化層94が、最大の内部原子状振動が生じる箇所から少なくとも特性波長の長さの1/8の距離だけ離間していることを意味する。
【0044】
従って、硬化層94は、分子を形成するチップ70がそれらの最大の内部の分子振動誘発応力を受ける箇所から遠位側に離間している。名目上振動節にのみ及びその近傍に生じる互いに隣接する分子の拡張/収縮、捩じれ又は曲げは、全てではないにしても、硬化層94がチップ内に浸透している箇所において生じる。その結果、チップヘッド86の所望の振動を誘発するのに必要な振動は、硬化層を形成する原子状材料と(硬化層が浸透される)原子状材料との間に応力をもたらさない。それ故、チップ70は、表面硬化層94を形成する材料が振動応力を受ける可能性が実質的に排除されるように、設計されていることになる。この応力が実質的に排除されることによって、表面硬化層94を形成する材料がこの応力によってチップ70の残りから分離する同様の可能性が実質的に排除されることになる。
【0045】
以下、
図7を参照して、
チップ70を製造する1つの手段について説明する。この製造方法では、最初に、チップ70が完全に形状加工される。これは、研磨、機械加工、印圧加工、又は三次元印刷によって、基部74、中間区域76,78、溝78、ステム84、ヘッド86、及び歯88を備えるチップ70の全体が形成されることを意味する。この加工の目的から、基部74、中間区域76,80、及びステム84は、集合的にチップのシャフト71と見なされる。チップ70が完全に形状加工されたなら、該チップは、チャンバ110内に配置される。チャンバ内の環境は、チャンバ内のガスがかなりの量のガス状態の硬化剤を含むように設定される。
ドット112が、ガス状態の硬化剤を表している。もし窒素が硬化剤として用いられるなら、チャンバ110は、N
2ガスによって実質的に満たされる。ガスの純度は、典型的には、99%以上ではないにしても少なくとも97%である。チャンバ内の圧力は、典型的には、少なくとも1気圧であり、4気圧まで高められてもよい。
【0046】
チャンバ110の環境が整えられたなら、レーザ114から光ビーム118がチップ70の(硬化剤が浸透されるべき)部分に照射される。光ビーム118の光子エネルギーがチップの(光ビームが照射された)部分を加熱する。更に具体的には、チップのこれらの部分は、(ガス状態の硬化剤がチップの加熱された区域の外面を横切ってこの表面下の層内に拡散する)温度に加熱される。チップがTi-Al-4Vから形成されている時、チップの表面は、多くの場合、700℃から1700℃の間の温度に加熱される。更に具体的には、硬化剤は、チップを形成する金属の格子内に拡散する。この加熱は、多くの場合、硬化剤が浸透されるべきチップの各部分に対して、30秒~3分間行われる。この短期間の加熱が行われる時、チップを形成する金属は、この加熱によってチップの形状が変形するほど溶融しない。しかし、この加熱によって、歯を形成する原子の振動域が増大する。原子の振動域のこの増大によって、原子は、十分な距離だけ移動し、これによって、硬化剤がチップの表面を通って拡散する。歯内に硬化剤が拡散する結果として、表面硬化層94が生じることになる。
【0047】
チップの区域を加熱する時間の長さを変化させることによって、表面硬化層94を形成するために窒素がチップ内に浸透する深さを制御することができることを理解されたい。チップの区域を加熱する時間が長いほど、硬化剤がチップ内に浸透する深さが大きくなる。
【0048】
図8を参照することによって
、第2の製造方法が理解されるだろう。この製造方法では、第1の製造方法におけるように、硬化層が追加される区域を含むチップが完全に形状加工される。マスク122が、硬化層が形成されないチップの区域を覆って配置される。
図8では、外皮として示されるマスク122は、硬化剤が拡散されるべきはないチップの区域を覆って配置されている。もし窒素が硬化剤として用いられるなら、マスクは、被覆塗料であるとよい。
【0049】
マスク122がチップ70を覆って配置されたなら、該チップは、チャンバ124内に配置される。チャンバ124の環境は、ガス状態にある硬化剤で充満されるように設定される。
図8において、ドット112は、ガス状態にある硬化剤を表している。次いで、チャンバ124が、(硬化剤がチップのマスクされていない部分内に拡散する)温度に加熱される。チャンバ124内のコイル126は、チャンバの内側を加熱する構成要素を表している。
【0050】
チップ70の加熱の結果として、チップを形成する原子が十分な距離にわたって互いに移動し、これによって、硬化剤がチップの外面を横切って拡散することができる。更に具体的には、硬化剤は、チップのマスクされていない区域を横切って拡散する。従って、チップ内に拡散する硬化剤は、表面硬化層94を該硬化層が望まれるチップの区域上に形成することになる。
【0051】
図9は、チップ70を製造する第3の方法を開示している
。最初、チップは、部分的にしか形状加工されない。更に具体的には、硬化層が浸透されるべきではないチップの区域が形状加工される。
【0052】
チップが部分的に形状加工されたなら、レーザ132によって、硬化層が形成されるべきチップの部分が形状加工される。このプロセスでは、実線134によって表される光ビーム(光子エネルギー)が形状加工されるべきチップの区域に照射される。ビームのエネルギーが部分的に形状加工されたチップに吸収され、加熱する。チップの加熱の結果として、チップの表面が溶融状態に達する。
【0053】
チップ70に光が照射されるのと同時に、補助ガスの噴流がチップに供給される。補助ガスは、溶融状態に加熱されたチップの区域を覆って流れるように、ノズル138から供給される。
図9では、2つのノズル138が示されている。点線140は、ノズル138から供給される補助ガスの流れ
、すなわち、流線を表している。
補助ガスは、少なくとも部分的にガス状態の硬化剤から構成されている
とよい。
【0054】
補助ガスの噴流は、チップ70に衝突する時、2つの機能を果たす。第1に、補助ガスの噴流は、溶融状態の材料をチップの残りから吹き飛ばす。マイクロ秒内のこの材料の除去によって、チップ形状の形状加工が促進される。第2の機能は、補助ガスが少なくとも部分的にガス状態にある硬化剤から構成されているという事実によって果たされる。従って、チップの残りの部分が加熱状態にあることを考慮すれば、補助ガスの噴流を形成する硬化剤の部分がチップの表面を横切って拡散することになる。
【0055】
従って、チップを形状加工するためにレーザビームを照射する最中に補助ガスの噴流を供給することによって、チップの形状加工とチップ内への硬化剤の拡散が同時に果たされることになる。
【0056】
本明細書の代替的態様も可能である。例えば、チップを形成する材料及び硬化剤の材料は、いずれも記載されたものと異なっていてもよい。本明細書の代替的態様では、チップは、チタン基材料以外の材料から形成されていてもよい。一般的に、チップは、金属から形成される。チップを形成することが可能な金属の例として、鉄基合金及びアルミニウム基金属が挙げられる。本明細書の代替的態様では、炭素又はボロンが硬化剤として用いられてもよい。
【0057】
チップの表面硬化層を形成するために、記載された方法以外の方法が用いられてもよい。例えば、硬化剤をチップ内に浸透させるプロセス中にチップを加熱するために、誘導コイルが用いられてもよい。
図9において、レーザビーム134及び補助ガスの流れ140がチップに供給される経路は、互いに対して傾斜して示されている。
これらの経路は、同軸であってもよい。
レーザビーム及び補助ガスは、チップに対して同じ方向に供給されて
もよい。
代替的に、レーザビーム及び補助ガスは、チップに対して互いに反対側から供給されてもよい。
【0058】
更に、記載される方法は、超音波チップの歯以外の外科用切断アクセサリの硬化層を形成するために用いられてもよい。記載される方法の硬化層を備えることができる他の外科用切断アクセサリーの例として、鋸ブレード、バー、ドリル、ヤスリ等が挙げられる。本方法は、切刃を有する他の超音波切断アクセサリの特徴部上に表面硬化層を形成するために用いられてもよい。例えば、本方法は、超音波メスの(切刃を形成するために交差する)互いに隣接する面上に表面硬化層を形成するために用いられてもよい。
【0059】
従って、他の超音波切断アクセサリは、種々の形状を有してもよいことを理解されたい。例えば、超音波チップの全てが直線状の長軸を有するシャフトを必ずしも有していなくてもよい。チップは、互いに傾斜する近位区域及び遠位区域を備えるシャフトを有していてもよい。この場合、近位区域は、第1の長軸に沿ってハンドピースから外方に延在している。シャフトの(歯が延びる)遠位端は、第2の長軸に芯出しされている。この第2の長軸は、第1の長軸に対して傾斜している。シャフトは、近位区域と遠位区域との間に中間区域を有している。中間区域は、近位区域及び遠位区域に接続され、湾曲又は屈曲している。従って、中間区域は、湾曲又は屈曲した長軸を有することになる。
【0060】
本明細書に記載される超音波チップの全てが、長手方向の振動を捩じれ振動に変換させる特徴部を必ずしも有する必要がない。記載されるいくつかの超音波チップは、チップヘッドの曲げ振動を容易にする特徴部を有していてもよい。この曲げ振動は、チップヘッドがチップの基部の長軸の延長部である線に向かって及び該線から離れるように円弧状に移動するシャフトの曲げであることを理解されたい。
【0061】
同様に、本明細書によって製造される全ての切断アクセサリが必ずしも単一部品ユニットである必要がないことを理解されたい。例えば、15cm以上の比較的長い超音波チップは、2部品アセンブリであってもよい。基部74及び第1の中間区域76が、第1の部品を形成するとよい。第2の中間区域80及びステム84が、第2の部品を形成するとよい。これらの2つの部品は、個々に製造された後、互いにネジ締結される。従って、遠位側部品、すなわち、表面硬化されるべき切刃を形成する表面を有する部品に対して、表面硬化プロセスが施される。
【0062】
同様に、典型的な例とはいえないが、いくつかのチップに単一の歯が形成されてもよい。
【0063】
同様に、本明細書に記載されるチップを製造する時、典型的には、チップごとに特性共振周波数を決定し、これによって、特性波長を決定する必要がないことを理解されたい。典型的には、いったんチップが設計されたなら、機械的なプロセス及び/又は実証的な解析(周波数掃引プロセス)を用いて、チップの特性共振周波数が決定される。この特性共振周波数は、同一のチップ材料から形成される同一の形状及び寸法を有するチップの特性共振周波数として用いられる。実際には、任意の2つの同一と見なされるチップ間の製造公差によって、チップの特性共振周波数、従って、チップの特性周波数のいくらかのバラツキが生じる。これらのバラツキは、典型的には、硬化剤をチップの長さに沿って浸透させる程度を決定するために用いられるプロセスに悪影響を与えるものではない。
【0064】
本明細書による外科器具を製造するプロセスの変更も可能である。例えば、硬化剤がチップの遠位端に拡散される前にチップを完全に形状加工すると好ましいが、これは、必ずしも必要ではない。最初に、ヘッド86、少なくとも1つの歯88、及びシャフトの小さい隣接部分のみを形成するように製造されてもよい。次いで、硬化剤が硬化層が形成されるべきチップの部分内に拡散される。これらのステップが完了した後、チップのステム84の残りが形成されることになる。
【0065】
また、チップ又はチップを形成する加工対象品の標的加熱は、典型的には、レーザによって行われるが、本明細書によるチップを製造するために行われる標的加熱の方法に必ずしもレーザを用いる必要がない。例えば、誘導コイルを用いて、本明細書によるチップの一部の標的加熱を行ってもよい。従って、1つ又は複数の歯の複数の表面への硬化剤の拡散を容易にするために、短時間の誘導加熱によって、これらの複数の表面を同時に加熱してもよい。
【0066】
同様に、本明細書に記載される方法は、動力式外科工具の切断アクセサリ以外の物品の表面硬化層に用いられてもよいことを理解されたい。従って、本明細書に記載される方法は、木材、プラスチック、金属、又はコンクリートのような対象物を切断する鋸ブレードの歯を硬化させるのに用いられてもよい。
【0067】
従って、添付の請求項の目的は、本明細書の真の精神及び範囲内にあるこのような変更及び修正の全てを含むことにある。