(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】継手性能が良好な亜鉛めっき高張力鋼の抵抗スポット溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/11 20060101AFI20220207BHJP
B23K 11/16 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
B23K11/11 540
B23K11/16 311
(21)【出願番号】P 2019522466
(86)(22)【出願日】2017-09-30
(86)【国際出願番号】 CN2017104710
(87)【国際公開番号】W WO2018082425
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2019-06-13
【審判番号】
【審判請求日】2021-05-21
(31)【優先権主張番号】201610963996.5
(32)【優先日】2016-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512171021
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】BAOSHAN IRON & STEEL CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】No.885,Fujin Road,Baoshan District Shanghai,201900,P.R.China
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】レイ,ミン
(72)【発明者】
【氏名】パン,ファ
(72)【発明者】
【氏名】ズゥォ,ドゥングゥイ
(72)【発明者】
【氏名】スー,ヨンチャオ
(72)【発明者】
【氏名】ジィァン,ハオミン
(72)【発明者】
【氏名】シー,レイ
【合議体】
【審判長】見目 省二
【審判官】松原 陽介
【審判官】田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/058675(WO,A1)
【文献】Rouholah Ashiri, Liquid metal embrittlement-free weids of Zn-coated twinning induced plasticity steels,Scripta Materialia,2016年 3月15日,Vol.114,p.41-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K11/00-11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
継手性能が良好な亜鉛めっき高張力鋼の抵抗スポット溶接方法であって、
3つの溶接パルスが1つのスポット溶接計画内で使用され、
第1の溶接パルスおよび第2の溶接パルスが、ナゲットの生成および液体金属ぜい化割れの発生の抑制に使用され、
前記第1の溶接パルスは、直径3.75T
1/2~4.25T
1/2(式中、Tは鋼板の板厚を表す)を有するナゲットを生成し、
前記第2の溶接パルスは、第1の溶接パルスよりも短時間での印加により前記第1の溶接パルスの印加によるナゲットの生成よりも該ナゲットをゆっくり成長させ、
焼戻しパルスである第3の溶接パルスが、溶接スポットの塑性を改善するのに使用さ
れ、
前記第1の溶接パルスの時間t1が設定され、かつ前記第1の溶接パルスの溶接電流I1が試験を行うことにより得られ、前記第1の溶接パルスの前記溶接電流I1は直径3.75T
1/2
~4.25T
1/2
を有する前記ナゲットを生成する際の溶接電流であり、
前記第2の溶接パルスの溶接電流I2および時間t2、ならびに前記第3の溶接パルスの溶接電流I3および時間t3が、前記第1の溶接パルスの前記溶接電流I1および前記時間t1によって算出される、
ことを特徴とする抵抗スポット溶接方法。
【請求項2】
前記板厚が0.9~1.2mmについては、前記第1の溶接パルスの前記時間t1は8~12cyc(cycは時間単位を表し、1cyc=0.02秒である)に設定され、前記第1の溶接パルスの前記溶接電流I1は試験を行うことにより得られ、
前記板厚が1.3~1.6mmについては、前記第1の溶接パルスの前記時間t1は10~15cycに設定され、前記第1の溶接パルスの前記溶接電流I1は試験を行うことにより得られ、
前記板厚が1.7~2.0mmについては、前記第1の溶接パルスの前記時間t1は12~18cycに設定され、前記第1の溶接パルスの前記溶接電流I1は試験を行うことにより得られ、
それに応じて、前記板厚が0.9~1.2mmについては、前記第2の溶接パルスの前記時間t2は
【数1】
に設定され、前記第3の溶接パルスの前記時間t3は
【数2】
に設定され、
前記板厚が1.3~1.6mmについては、前記第2の溶接パルスの前記時間t2は
【数3】
に設定され、前記第3の溶接パルスの前記時間t3は
【数4】
に設定され、
前記板厚が1.7~2.0mmについては、前記第2の溶接パルスの前記時間t2は
【数5】
に設定され、前記第3の溶接パルスの前記時間t3は
【数6】
に設定され、
前記板厚に応じて、前記電流I1によって前記電流I2およびI3を算出するのは、
前記第2の溶接パルスの前記電流I2の具体的な設定については、
I2の下限:I2min=(1.3-0.05t2)I1、I2の上限:I2max=(2.2-0.1t2)I1
であり、
前記第3の溶接パルスの前記電流I3の具体的な設定については、
【数7】
I3の上限:I3max=I1
であり、
前記第1の溶接パルスと前記第2の溶接パルスとの間の時間間隔が、第1の冷却時間であるC1であり、
前記第2の溶接パルスと前記第3の溶接パルスとの間の時間間隔が、第2の冷却時間であるC2であり、
保持時間HTが、前記第3の溶接パルス後の時間であり、
厚さの異なる鋼板に対して、C1、C2およびHTの値に関してはそれぞれ、
板厚0.9~1.2mm、C1=1cyc、C2=8cyc、HT=5cyc、
板厚1.3~1.6mm、C1=1cyc、C2=10cyc、HT=5cyc、
板厚1.7~2.0mm、C1=1cyc、C2=12cyc、HT=5cyc、
に設定される、
請求項
1に記載の抵抗スポット溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用鋼板の溶接方法に関し、特に引張強さが590Mpa以上である、亜鉛めっき鋼板の抵抗スポット溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、石油価格の高騰や省エネルギー、環境保護および車両全体の安全性に関する人々の意識が絶えず高まるにつれ、自動車製造業界では車体に関して種々の軽量化技術が広く使用されてきた。これを踏まえて、車体での高張力鋼の利用割合がますます増加している。抵抗スポット溶接は、高い生産効率および自動実装が容易であること等の利点に起因して自動車産業において広く使用されており、引き続き、自動車産業における高張力鋼板の主要な溶接方法であろう。したがって、高張力鋼の抵抗スポット溶接技術に広く焦点が当てられている。
【0003】
高張力鋼亜鉛めっき板の継手は、スポット溶接中に以下の2つ問題を引き起こす傾向がある。
1.継手は、LME割れと呼ばれる液体金属ぜい化割れを生じる。
2.継手は完全な界面破壊を生じる傾向がある。
【0004】
LME割れの問題に関しては、国内で検索したところ、関連特許は出願されていない。この問題は過去2年間において当業界での研究ホットスポットであるので、その影響因子および感受性に関する研究文献が時々公表されてきた。Scripta Materialia(Scripta Materialia 114(2016)41~47)に公表のRouholah Ashiriらによる「liquid metal embrittlement-free welds of Zn-coated twinning induced plasticity steels」と称する文献では、1.2mm溶融亜鉛めっきTWIP鋼に対して2回の溶接パルスを採用しているスポット溶接解決策によって、スポット溶接におけるLME割れの発生を効果的に抑制できる。そのプロセスを
図1に示す。第1のパルスは基本サイズのナゲットを生成するのに使用され、第2のパルスはナゲットをゆっくり成長させるのに使用されて、残留応力を減少させる。
【0005】
高張力鋼の溶接スポットのぜい性を考慮して、溶接プロセス中の焼戻しパルスを用いる解決策は、溶接スポットの塑性を改善し、かつ破壊試験中の溶接スポットの破壊様式を改善するために当業界で一般的に使用されている。焼戻しパルスの具体的な設定様式は、オルトゴナル法による物理的試験を通して一般に得られる。関連する特許検索の結果は以下の通りである。「A method for improving mechanical property of a joint in welding spot of advanced high-strength steel」(中国公開特許第102489859A号)、すなわち、接種合金ペーストによる方法を使用することによってナゲット金属粒子が洗練され、その結果、継手の組織が改善されて、先進高張力鋼の溶接スポットにおける継手の機械的特性が改善される。「A resistance-laser hybrid spot welding method for High-strength steel」(CN102500936A)、すなわち、高張力鋼の継手の性能は、レーザ溶接とスポット溶接のコンポジット接続様式によって改善される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、継手性能が良好な亜鉛めっき高張力鋼の抵抗スポット溶接方法であって、継手の塑性を改善でき、かつ高張力鋼亜鉛めっき板のスポット溶接中の液体金属ぜい化(LME)割れの発生を抑制しながら、破壊検出時の溶接スポットのボタン引き抜き破壊の確率を高めることができる、方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の技術的目的を達成するために、本発明は以下の技術的解決策を採用する。
継手性能が良好な亜鉛めっき高張力鋼の抵抗スポット溶接方法であって、3つの溶接パルスが1つのスポット溶接計画内で使用され、第1の溶接パルスおよび第2の溶接パルスは、ナゲットの生成および液体金属ぜい化(LME)割れの発生の抑制に使用され、第1の溶接パルスは、直径3.75T1/2~4.25T1/2を有するナゲットを生成し、Tは鋼板の板厚を表し、第2の溶接パルスは、第1の溶接パルスよりも短時間での印加により前記第1の溶接パルスの印加によるナゲットの生成よりも該ナゲットをゆっくり成長させ、第3の溶接パルスが焼戻しパルスであり、これは溶接スポットの塑性を改善するのに使用される。
【0008】
第1の溶接パルスの時間t1が設定され、第1の溶接パルスの溶接電流I1が試験を行うことにより得られ、第1の溶接パルスの溶接電流I1は直径3.75T1/2~4.25T1/2を有するナゲットを生成する際の溶接電流であり、第2の溶接パルスの溶接電流I2および時間t2、ならびに第3の溶接パルスの溶接電流I3および時間t3が、第1の溶接パルスの溶接電流I1および時間t1によって算出される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の継手性能が良好な亜鉛めっき高張力鋼の抵抗スポット溶接方法によって、高張力鋼亜鉛めっき板のスポット溶接中のLME割れを効果的に抑制することができ、かつ溶接スポットの塑性も改善することができる。本発明の抵抗スポット溶接方法によれば、3つの溶接パルスが1つのスポット溶接計画内で使用され、第1の溶接パルスおよび第2の溶接パルスは、ナゲットを生成するのに、およびLME割れの発生を抑制するのに使用され、第3の溶接パルスは焼戻しパルスであり、これは溶接スポットの塑性を改善するのに使用され、その結果、破断試験中の溶接スポットの破壊様式が改善される。
また、直径3.75T
1/2
~4.25T
1/2
(T=鋼板の板厚)を有するナゲットは、第1の溶接パルスによって生成される。次いで、短時間での第2の溶接パルスを印加してナゲットをゆっくり成長させ、したがって、未溶融母材の厚さT’が低下する速度を遅くして、LME割れの感受性領域の応力レベルを低下させ、LME割れの出現を回避することができる。
【0010】
加えて、本発明により提供されるスポット溶接方法によって、3つの溶接パルスにおける溶接電流Iおよび時間tの設定方法ならびにそれらの間の数学的関係が明確になる。第2の溶接パルスの溶接電流I2および時間t2ならびに第3の溶接パルスの溶接電流I3および時間t3は、いくつかの試験を行うことにより得られる第1の溶接パルスの溶接電流I1および時間t1によって便宜的に算出することができ、その結果、高張力鋼亜鉛めっき板のスポット溶接中のLME割れを抑制することができるとともに、溶接スポットの塑性も改善することができるスポット溶接プロセスが実現する。
【0011】
本発明の亜鉛めっき高張力鋼の抵抗スポット溶接方法によって、高張力鋼亜鉛めっき板のスポット溶接中の液体金属ぜい化(LME)割れを効果的に抑制することができ、その一方で、溶接スポットの塑性が改善され、破断試験中の溶接スポットのボタン引き抜き破壊の確率が高まる。したがって、より信頼性のある品質およびより優れた性能を有する高張力鋼亜鉛めっき板のスポット溶接による継手が得られ、高張力鋼亜鉛めっき板の溶接製造に関して有用な指針を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】研究文献におけるTWIP鋼亜鉛めっき板のスポット溶接中のLME割れを抑制するためのプロセスパラメータの概略図である。
【
図2】本発明による継手性能が良好な亜鉛めっき高張力鋼の抵抗スポット溶接方法の概略図である。
【
図3】亜鉛めっき高張力鋼の抵抗スポット溶接の断面の概略図である。
【
図5】一実施形態におけるプロセスNo.1(従来のスポット溶接プロセス)による典型的なスポット溶接断面のメタログラフである。
【
図6】一実施形態におけるプロセスNo.3(本発明によるスポット溶接方法)による典型的なスポット溶接断面のメタログラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を、添付の図面および特定の実施形態と併せて以下においてさらに説明する。
【0014】
本発明は、引張強さが590MPa以上である亜鉛めっき鋼板の抵抗スポット溶接方法を開示する。この方法により、溶接スポットの塑性を改善することができ、かつ高張力鋼亜鉛めっき板のスポット溶接中の液体金属ぜい化(LME)割れの発生を抑制しながら、破断試験中の溶接スポットのボタン引き抜き破壊の確率を高めることができる。
【0015】
図2に示すように、継手性能が良好な亜鉛めっき高張力鋼の抵抗スポット溶接方法では、3つの溶接パルスが1つのスポット溶接計画内で使用される。第1の溶接パルスおよび第2の溶接パルスが、ナゲットを生成するのに、およびLME割れの発生を抑制するのに使用され、第1の溶接パルスは、直径3.75T
1/2~4.25T
1/2(式中、Tは鋼板の板厚を表す)を有するナゲットを生成し、第2の溶接パルスはナゲットをゆっくり成長させ、第3の溶接パルスは焼戻しパルスであり、これは溶接スポットの塑性を改善するのに使用される。
【0016】
第1の溶接パルスの時間t1が設定され、かつ第1の溶接パルスの溶接電流I1が試験を行うことにより得られ、第1の溶接パルスの溶接電流I1は、直径3.75T1/2~4.25T1/2(T=鋼板の板厚)を有するナゲットを生成する際の溶接電流である。第2の溶接パルスの溶接電流I2および時間t2ならびに第3の溶接パルスの溶接電流I3および時間t3は、第1の溶接パルスの溶接電流I1および時間t1によって算出される。
【0017】
本発明では、第2の溶接パルスの溶接電流I2および時間t2ならびに第3の溶接パルスの溶接電流I3および時間t3は、いくつかの試験を行うことにより得られる第1の溶接パルスの溶接電流I1および時間t1によって便宜的に算出することができ、その結果、高張力鋼亜鉛めっき板のスポット溶接中のLME割れを抑制することができるとともに、溶接スポットの塑性も改善することができるスポット溶接プロセスが実現する。
【0018】
本発明の継手性能が良好な亜鉛めっき高張力鋼の抵抗スポット溶接方法の作動原理は以下の通りである。
LME割れの発生については、応力および適切な温度範囲(亜鉛めっき高張力鋼の範囲は700℃~950℃である)が2つの条件である。亜鉛めっき高張力鋼は、スポット溶接プロセスにおいて上の2つの条件を有し、したがって、LME割れが発生する。
【0019】
本発明の設計アイデアは、
図3に示すように、スポット溶接LME割れの感受性領域Xの応力レベルを低下させることによって、LME割れの出現を回避することである。具体的な原理は以下の通りである。スポット溶接中の加熱の増加に連れて、ナゲットYの直径Dおよび高さhは連続的に拡大する。高張力鋼、特に超高張力鋼は、母材により多くの合金元素が添加されているので、電気抵抗率が高く、スポット溶接中の発熱速度が速く、高速でナゲットが成長する。ナゲットの高さhが速く成長し過ぎると、その結果、未溶融母材の板厚方向の厚さT’は急激に低下し、未溶融母材の厚さT’のサイズが荷重下で断面積に直接影響する。従って、未溶融母材の厚さT’が小さいほど、応力は大きい。
【0020】
本発明では、直径3.75T1/2~4.25T1/2(T=鋼板の板厚)を有するナゲットは、第1の溶接パルスによって生成される。このとき、ナゲットは比較的小さく、未溶融母材の厚さT’は比較的大きく、スポット溶接のLME割れは発生していない。次いで、短時間t2での第2の溶接パルスを印加してナゲットをゆっくり成長させ、したがって、未溶融母材の厚さT’が低下する速度を遅くして、LME割れの感受性領域の応力レベルを低下させ、LME割れの出現を回避する。
【0021】
溶接スポットの塑性の改善および破断試験中の溶接スポットのボタン引き抜き破壊の確率の増大は、第3の溶接パルスによって達成される。このパルスは焼戻しパルスであり、これは、ナゲットの領域の冷却速度を効果的に低下させ、継手の硬化組織の生成を低下させ、それによって継手の塑性を改善することができる。
【0022】
〔試験実施ステップ〕
1.基本パラメータの設定
1-1 Φ6mm(プレート厚≦1.4mm)またはΦ8mm(プレート厚>1.4mm)のドーム面を有する電極を使用する。
1-2 板厚に従って
図4に示すように、溶接圧力を囲まれた領域内に設定する。溶接圧力の値を設定する具体的方法は、以下の通りである。溶接圧力の下限Fmin=3.182T+0.0364kN(式中、Tは鋼板の板厚を表し、その単位はmmであり、Tの範囲は0.9mm~2.0mmである)、溶接圧力の上限Fmax=4.091T-0.182kN(式中、Tは鋼板の板厚を表し、その単位はmmであり、Tの範囲は0.9mm~2.0mmである)。
1-3 冷却水の流量、2L/分~4L/分。
1-4
図2のC1、C2およびHTの時間(保持時間)を表1に従って設定する。第1の溶接パルスと第2の溶接パルスとの間の時間間隔はC1であり、すなわち、第1の冷却時間C1であり、第2の溶接パルスと第3の溶接パルスとの間の時間間隔はC2であり、すなわち、第2の冷却時間C2であり、保持時間HTは第3の溶接パルス後の時間であり、厚さの異なる鋼板に対するその値をそれぞれ以下の通り設定する。
【0023】
【0024】
2. 第1の溶接パルスの設定
2-1 第1の溶接パルスの時間t1を板厚に従って設定し、具体的な設定方法は以下の通りである。
板厚:0.9~1.2mm、t1:8~12cyc、
板厚:1.3~1.6mm、t1:10~15cyc、
板厚:1.7~2.0mm、t1:12~18cyc。
2-2 第1の溶接パルスの溶接電流I1を設定する。直径3.75T1/2~4.25T1/2(T=鋼板の板厚)を有するナゲットが生成される。第1の溶接パルスの溶接電流I1の設定ステップは以下の通りである。
2-2-1 電極、圧力、冷却水の流量およびHTを「1.の基本パラメータ設定」に従って設定する。C1およびC2を0と設定する。
2-2-2 「2-1」の方法に従ってt1を設定する。
2-2-3 4kAから始めて、第1の溶接パルスの溶接電流I1をステップ長として400Aで順次設定し、各電流の下で2つのスポット溶接試料を溶接する。
2-2-4 2-2-3においてスポット溶接試料を、剥離法を使用することによって破壊する。
2-2-5 ステップ2-2-4で破壊される各スポット溶接試料の溶接スポットのナゲットの直径を、ノギスを使用することによって測定する。
2-2-6 同じ溶接電流下での2つの溶接スポットのナゲットの直径を平均し、その平均値が3.75T1/2~4.25T1/2(T=鋼板の板厚)に最も近い場合の相応する電流が「第1の溶接パルスの溶接電流I1」である。
【0025】
3.第2の溶接パルスの時間t2および第3の溶接パルスの時間t3の設定
3-1 電極、圧力、冷却水の流量、C1、C2およびHTを「1.の基本パラメータ設定」に従って設定する。
3-2 t2およびt3を、t1を用いて板厚に従って設定し、具体的な方法は以下の通りである。
【0026】
【0027】
4.第2の溶接パルスの溶接電流I2および第3の溶接パルスの溶接電流I3の設定
4-1 第2の溶接パルスの溶接電流I2を、第1の溶接パルスの溶接電流I1に従って設定する。ナゲットの直径をゆっくりと成長させ、溶接スパッタが発生してないことを確実にする。第2の溶接パルスの溶接電流I2の設定方法は以下の通りである。
I2の下限 I2min=(1.3-0.05t2)I1(式中、t2は第2の溶接パルスの時間(単位、cyc)である)、
I2の上限 I2max=(2.2-0.1t2)I1(式中、t2は第2の溶接パルスの時間(単位、cyc)である)。
4-2 第3の溶接パルスの溶接電流I3を、第1の溶接パルスの溶接電流I1に従って設定する。徐冷処理を溶接スポット上で行って、ナゲットの硬化組織の発生を低下させ、かつ溶接スポットの塑性を改善する。
第3の溶接パルスの溶接電流I3の設定方法は以下の通りである。
【0028】
【0029】
I3の上限 I3max=I1。
【0030】
〔実施形態〕
スポット溶接を、3つのスポット溶接計画No.1、No.2、およびNo.3を使用することによって、1.6mm溶融高張力鋼(機械的特性および組成を表2に示す)上で実行する。LME割れの発生および破断試験中の溶接スポットの破壊様式を比較し評価する。3つのスポット溶接計画の特徴および試験結果を表3に示す。
【0031】
【0032】
【0033】
詳細な結果は以下の通りである。
1.スポット溶接プロセスNo.1による結果。
スポット溶接プロセスNo.1は、具体的には表4に示す通りである。
【0034】
【0035】
メタログラフィックにより、溶接領域全体に重度の液体金属ぜい化(LME)割れが見られる。
図5はその典型的なメタログラフである。
【0036】
2.スポット溶接プロセスNo.2による結果。
スポット溶接プロセスNo.2は以下の通りである。
【0037】
【0038】
この溶接方法により、破断試験中、溶接スポットの破壊様式は主に界面破壊である。溶接スポットの引張剪断強さ(TSS)および十字引張強さ(CTS)は要件を満たしているが、TSS試験後の溶接スポットはほとんど全体的に界面破壊を伴い、CTS試験後の界面破壊の割合は50%未満である。
【0039】
3.スポット溶接プロセスNo.3による結果。
スポット溶接プロセスNo.3は以下の通りである。
【0040】
【0041】
本発明の方法によって、液体金属ぜい化(LME)割れはメタログラフィックにより溶接領域全体に見られない。その典型的なメタログラフは
図6に示す通りである。
【0042】
同時に、本発明のプロセスによって、溶接スポットの引張剪断強さ(TSS)および十字引張強さ(CTS)は要件を満たし、CTS試験後に検出された破壊様式は全てボタン引き抜き破壊であり、かつTSS検出後に検出された溶接スポットでのボタン引き抜き破壊の割合も70%超であり、これは徐冷パルスが印加されていない場合の結果よりもはるかに良好である。
【0043】
以上の説明は本発明の好ましい実施形態にすぎず、本発明の保護範囲を限定することを意図するものではない。したがって、本発明の精神および原理の範囲内でなされる任意の変更形態、均等物、改良等も本発明の保護範囲内に包含されるべきである。