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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】保護表面を防汚する装置
(51)【国際特許分類】
   E02B 1/00 20060101AFI20220207BHJP
   B63B 59/04 20060101ALI20220207BHJP
   B08B 17/02 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
E02B1/00 301A
B63B59/04 A
B08B17/02
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019534799
(86)(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-05
(86)【国際出願番号】 EP2017084252
(87)【国際公開番号】W WO2018122126
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-12-18
(31)【優先権主張番号】16206917.3
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】KONINKLIJKE PHILIPS N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】特許業務法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ファン デルデン マーク
【審査官】皆藤 彰吾
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-244861(JP,A)
【文献】特開2001-064932(JP,A)
【文献】特開2005-288415(JP,A)
【文献】米国特許第06209472(US,B1)
【文献】特開昭57-037091(JP,A)
【文献】特開昭59-158813(JP,A)
【文献】特開2001-090038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 1/00
B63B 59/04
B08B 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付着性生物を含む液体と接触するときの、海洋構造物の表面を防汚する装置であって、前記装置は、
前記液体と接触する第1の導体に結合されるべき第1の極、及び、前記液体と接触する第2の導体に結合されるべき第2の極を備える電源と、
前記表面の保護領域を覆って配置されている1つ又は複数の浮遊電極であって、それぞれの浮遊電極が、前記表面から電気的に絶縁される導電層と、前記導電層及び前記液体を分離するための誘電体層とを含む浮遊電極と、を備え、
前記第1及び第2の導体は、前記表面の保護領域の両端間に電位を供給するように、前記海洋構造物に配置されており、
前記電源は、前記誘電体層において前記液体中に充電電流及び放電電流を生成するため、前記電位の変化によって、前記浮遊電極を充電及び放電させるための電圧パルスを生成する、装置。
【請求項2】
前記電源は、防汚に必要とされる、充電又は放電電流を生成するのに必要なボルト/秒の速度での上昇勾配又は下降勾配を有する前記電圧パルスを生成する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記電源は、DC電圧をオン及びオフに切り替えることによって、上昇勾配及び下降勾配を有する前記電圧パルスを生成するか、又は、前記電源は、前記上昇勾配を構成する傾斜を有する前記電圧パルスを生成し、この傾斜が、前記浮遊電極を充電するための前記充電電流の量を制限し、前記電圧パルスは電圧をオフに切り替えることによって前記下降勾配を有する、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記電源は、上昇勾配と下降勾配との間の制限された持続時間を有する前記電圧パルスを生成し、前記持続時間は、前記充電電流が前記浮遊電極を充電することを可能にし、漏れ電流による前記浮遊電極のその後の放電を制限するために、制限される、請求項1から3の何れか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記第1の導体はアノードを構成し、前記第2の導体は、カソードを構成するため前記液体と直接接触する前記海洋構造物の導電性部分を含み、
前記電源はさらに、前記アノードと前記カソードとの間に平均DC成分を生成することによって、前記海洋構造物の印加電流カソード防食が得られる、請求項1、2又は3に記載の装置。
【請求項6】
前記電源は、前記電圧パルスのパルス幅変調によって、前記平均DC成分を生成する、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記電源は、前記電圧パルスに追加された連続DCオフセット電圧を供給することによって、前記平均DC成分を生成する、請求項5又は6に記載の装置。
【請求項8】
前記導電層は、前記海洋構造物の前記表面の被覆物層によって、前記海洋構造物から絶縁され、且つ/又は、
前記導電層は、前記誘電体層を構成する前記被覆物層によって前記液体から絶縁されている、請求項1から7の何れか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記装置は、絶縁材料の箔を備え、前記箔は、互いに隣接して配置された複数の前記導電層を備えるか、又は、
前記装置は、シート状の絶縁材料のタイルを備え、前記タイルは、1つの前記導電層又は互いに隣接して配置された複数の前記導電層を備える、請求項1から8の何れか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記導電層は、前記誘電体層を構成する前記絶縁材料によって前記液体から絶縁され、及び/又は、前記導電層は、前記絶縁材料によって前記表面の保護領域から絶縁されている、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
記誘電体層を構成するために、1つ又は複数の前記導電層は前記液体に近接する前記絶縁材料内に埋め込まれ、前記絶縁材料はさらに、前記導電層と前記海洋構造物の前記表面との間に分離層を構成し、前記浮遊電極と前記液体との間の静電容量が前記浮遊電極と前記海洋構造物との間の静電容量を上回るように、前記誘電体層の厚さと前記分離層の厚さが選択されている、請求項9又は10に記載の装置。
【請求項12】
付着性生物を含む液体と接触するときに保護されるべき表面をもつ海洋構造物であって、前記海洋構造物は請求項1から11の何れか一項に記載の装置を備え、
前記第1及び第2の導体は、前記表面の保護領域の両端間に電位を供給するように、前記海洋構造物に配置されており
前記電源は、前記第1の導体に結合された前記第1の極、及び、前記第2の導体に結合された前記第2の極を備え、且つ
前記1つ又は複数の浮遊電極は、前記保護領域を覆って前記海洋構造物の前記表面上に取り付けられている、海洋構造物。
【請求項13】
前記複数の浮遊電極は、隣接する浮遊電極からの切れ目で分離された前記浮遊電極をそれぞれ構成する、相補的な形に成形された、導電層のパターンを含み、前記切れ目は、電気的絶縁をもたらし、前記浮遊電極に対して相対的に小さいか、又は、前記複数の浮遊電極は、部分的に重なり合う浮遊電極を含み、前記部分的に重なり合う浮遊電極の導電層は、絶縁材料によって分離され、前記絶縁材料は、前記部分的に重なり合う浮遊電極の重なり合う部分間に電気的絶縁をもたらす、請求項12に記載の海洋構造物。
【請求項14】
請求項1から11の何れか一項に記載の装置を設置する方法であって、前記方法は、
付着性生物を含む液体と接触するときに、表面の保護領域を覆うように、汚損から保護されるべき海洋構造物の前記表面に前記1つ又は複数の浮遊電極を貼り付けるステップと、
前記保護領域の両端間に電位を供給するように、前記海洋構造物に前記第1及び第2の導体を配置するステップと、
前記海洋構造物の中又は上に前記電源を設けるステップと、
前記第1の極を前記第1の導体に、且つ前記第2の極を前記第2の導体に結合するステップと
を有する、方法。
【請求項15】
請求項1から11の何れか一項に記載の装置を動作させる方法であって、
前記1つ又は複数の浮遊電極は、前記表面の前記保護領域を覆うように、汚損から保護されるべき前記海洋構造物の前記表面上に配置されており、前記海洋構造物は、付着性生物を含む前記液体と接触し、
各浮遊電極は、前記表面から電気的に絶縁されている前記導電層、及び、前記導電層と前記液体とを分離するための前記誘電体層を備え、
前記第1及び第2の導体は、前記保護領域の両端間に電位を供給するように、前記海洋構造物に配置されており
前記方法は、
前記誘電体層において前記液体中に充電電流及び放電電流を生成するため、前記保護領域の両端間の前記電位の変化によって、前記浮遊電極を充電及び放電させるための前記電圧パルスを前記第1の導体と前記第2の導体との間に生成するステップ
を有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付着性生物を含む液体と接触するときの海洋構造物の、たとえば海水中の船舶の、表面を防汚する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
存続期間の少なくとも一部の間に水に曝される表面の生物付着は、よく知られた現象であり、多くの分野において相当な問題を引き起こす。たとえば海運業の分野では、船体への生物付着は、船の抗力を著しく増加させ、従って船の燃料消費量を増加させることが知られている。この点に関して、燃料消費量の最大40%の増加は、生物付着に起因する可能性があると推定される。
【0003】
一般に、生物付着は、表面上の微生物、植物、藻類、小動物などの蓄積である。ある推定によると、4,000種類を超える生物からなる1,800を超える種が、生物付着の原因となっている。従って、生物付着は、多種多様な生物によってもたらされ、表面へのフジツボ及び海藻の付着をはるかに超えるものが関係する。生物付着は、バイオフィルム形成及びバクテリア付着を含むミクロの汚損と、より大きな生物の付着を含むマクロの汚損とに分けられる。何が生物の定着を妨げるかを判断する、明瞭な化学及び生物学により、生物はまた、硬質のもの又は軟質のものとして分類される。硬質汚損生物には、フジツボ、付着性コケムシ、軟体動物、多毛類及び他のチューブワーム、並びにゼブラマッセルなどの石灰質生物が含まれる。軟質汚損生物には、海藻、ヒドロ虫、藻類、及びバイオフィルムの「粘液」などの非石灰質生物が含まれる。こうした生物は、一緒になって、汚損する群落を形成する。
【0004】
上記のように、生物付着は相当な問題を生み出す。上記の船の抗力の増加以外に2点だけ悪い結果を述べると、生物付着は、機械の動作を停止させ、水の入口を詰まらせる可能性がある。従って、生物付着防止、すなわち生物付着の除去又は防止手法のトピックはよく知られている。
【0005】
WO2014/188347A1は、表面が液体環境、特に水性又は油性環境に少なくとも部分的に浸されている間の、表面の防汚方法を開示している。この方法は、保護面にごく近接して光学媒体から防汚光を供給するステップを有する。防汚光は、紫外線である。WO2014/188347で知られる方法を適用することにより、保護表面を、少なくとも大幅な程度まで生物付着から清潔に保つように、殺菌光を放出する層で覆うことが可能である。
【0006】
上記のことから、WO2014/188347は、発光装置を使用することによって防汚の問題に対処しているということになる。しかし、この発光装置は製造、取付、及び作動するのが比較的複雑で高価である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、より便利なやり方で表面の防汚性を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、付着性生物を含む液体と接触するときの、海洋構造物の表面を防汚する装置が提供され、この装置は、
- 液体と接触する第1の導体に結合されるべき第1の極、及び液体と接触する第2の導体に結合されるべき第2の極を備える電源であって、第1及び第2の導体は、表面の保護領域の両端間に電位を供給するように、海洋構造物にわたってふり分けられている電源と、
- 保護領域を覆って配置されている1つ又は複数の浮遊電極であって、それぞれの浮遊電極が、表面から電気的に絶縁されている導電層と、導電層及び液体を分離するための誘電体層とを含む浮遊電極と
を備え、電源は、誘電体層において、液体中に充電電流及び放電電流を生成するため、電位の変化によって、浮遊電極を充電及び放電させるための電圧パルスを生成するよう構成されている。
【0009】
本発明のさらなる一態様によれば、付着性生物を含む液体と接触するときに保護されるべき表面をもつ海洋構造物が提供され、海洋構造物は上記で定義された装置を備え、
- 第1及び第2の導体は、表面の保護領域の両端間に電位を供給するように、海洋構造物にわたってふり分けられ、
- 電源は、第1の導体に結合された第1の極、及び第2の導体に結合された第2の極を備え、且つ
- 1つ又は複数の浮遊電極は、保護領域を覆って海洋構造物の表面上に取り付けられている。
【0010】
本発明のさらなる一態様によれば、上記で定義された装置を設置する方法が提供され、この方法は、
- 付着性生物を含む液体と接触するときに、表面の保護領域を覆うように、汚損から保護されるべき海洋構造物の表面に1つ又は複数の浮遊電極を貼り付けるステップと、
- 保護領域の両端間に電位を供給するように、海洋構造物にわたって第1及び第2の導体をふり分けるステップと、
- 海洋構造物の中又は上に電源を設けるステップと、
- 第1の極を第1の導体に、且つ第2の極を第2の導体に結合するステップと
を有する。
【0011】
本発明のさらなる一態様によれば、上記で定義された装置を動作させる方法が提供され、
1つ又は複数の浮遊電極は、表面の保護領域を覆うように、汚損から保護されるべき海洋構造物の表面上に配置されており、海洋構造物は、付着性生物を含む液体と接触し、
各浮遊電極は、表面から電気的に絶縁されている導電層、及び導電層と液体とを分離するための誘電体層を備え、
第1及び第2の導体は、保護領域の両端間に電位を供給するように、海洋構造物にわたってふり分けられ、
この方法は、
- 誘電体層において、液体中に充電電流及び放電電流を生成するため、保護領域の両端間の電位の変化によって、浮遊電極を充電及び放電させるための電圧パルスを第1の導体と第2の導体との間に生成するステップ
を有する。
【0012】
上記の特徴は、本発明を実施すると、保護表面の生物付着を防ぐのに有効な防汚装置が提供されるという効果を有する。
【0013】
表面の保護領域は、たとえば船体の一部であり得るが、この装置は、あらゆる種類の汚損した液体と接触する、あらゆる種類の構造物、たとえば海水又は湖の中に配置された油田掘削装置又は風力タービン、或いは他の任意の液体環境の中の装置の、他の表面にも同様に適用可能である。現在の文書では、かかる様々な構造物は、海洋構造物と呼ばれる。
【0014】
表面上に、1つ又は複数の浮遊電極が、保護領域を覆って配置される。各浮遊電極は、表面から電気的に絶縁された導電層を備える。浮遊電極はまた、導電層と液体とを分離する誘電体層を備える。たとえば、表面からの絶縁は、海洋構造物上及び/又は浮遊電極の裏側の1つ又は複数の被覆物層によって実施され得る。誘電体層は、導電層上の被覆物層又はカバー層によって、たとえば導電層を絶縁材料内に埋め込むことによって、容易に形成される。
【0015】
以下に説明するように、電源は、誘電体層で、液体中に充電及び放電電流を生じさせる。浮遊電極によって覆われている保護表面全体にわたって生じる、かかる電流のために、付着性生物は殺されるか、追い払われるか、又は少なくとも保護表面に付着するのを防止されているように見える。浮遊電極は、表面上に設けるのが比較的安価であるので、有利である。さらに、誘電体層は、導電層を液体から物理的に保護するカバー層として機能する。
【0016】
電源は、誘電体層で、液体中に充電電流及び放電電流を生成する電位の変化を作り出すための、電圧パルスを生成する。液体の局所電位が増減すると、導電層と誘電体層とによって形成されるコンデンサが、充電及び放電されることになる。1平方メートル当たりの電流量は、1平方メートル当たりの実効静電容量、電位の変化速度、並びにコンデンサと、液体と、第1及び第2の導体と、電源とによって構成される充電回路における実効抵抗値によって変わる。
【0017】
電源は、液体と接触している第1の導体に結合された第1の極と、液体と接触している第2の導体に結合された第2の極とを備える。第1及び第2の導体は、保護領域の外側に配置されている。たとえば、第1の導体は、カソード防食に使用されるアノードと同様に、たとえば絶縁材料上に取り付けられ、液体と直接接触する、1つ又は複数の電極によって形成される。第2の導体は、舵、ねじ、推進システムの他の要素など、液体と直接接触する海洋構造物の導電性部分によって構成される。1つ又は複数の第1の導体は、表面の保護領域の両端間に電位を供給するように、保護領域に対して第2の導体の位置と実質的に反対の位置に取り付けられるべきである。電源は、電源の極に結合された前記第1及び第2の導体を介して給電されるべき、海洋構造物上に設置された実際上すべての静電容量に向けた充電電流を供給するよう構成される。
【0018】
任意選択で、電源は、防汚に必要とされる、充電又は放電電流を生成するのに必要なボルト/秒の速度での上昇勾配又は下降勾配を有する、電圧パルスを生成するよう構成される。上記充電回路は、実際上、静電容量と実効抵抗値とによる時定数を有し、最大強度の充電電流又は放電パルスを生成するために、必要な速度が、この時定数による充電電流の電流勾配を超えることが好ましい。
【0019】
この装置の一実施形態では、電源は、DC電圧をオン及びオフに切り替えることによって、上昇勾配及び下降勾配を有する電圧パルスを生成するように構成される。実際にはDC電源は、スイッチング回路、たとえば第1又は第2の導体にDC電力を接続及び切断するためのパワーFET又は他のスイッチを、容易に備えることができる。このスイッチング回路により、いかなるスイッチング動作によっても急勾配を有するパルスを生じることになるので、有利である。任意選択で、電源は、上昇勾配を構成する傾斜を有する電圧パルスを生成し、この傾斜が、浮遊電極を充電するための充電電流の量を制限し、電圧パルスは電圧をオフに切り替えることによって下降勾配を有するよう構成される。コンデンサの充電電流は、電圧の傾斜の変化速度に依存するので、電圧パルスの開始時に傾斜を設けることによって、充電電流量が制限されることが有利である。
【0020】
この装置の一実施形態では、電源は、上昇勾配と下降勾配との間の制限された持続時間を有する電圧パルスを生成するように構成され、持続時間は、充電電流が浮遊電極を充電することを可能にし、漏れ電流による浮遊電極のその後の放電を制限するために、制限される。制限された持続時間は、コンデンサが実質的に完全に充電されることを可能にするように、充電回路の上記時定数に基づいて選択されるべきである。また、たとえば船体に漏れ電流が発生すると、浮遊コンデンサがゆっくりと放電し、電圧パルスが下降勾配で終了するとき、どんな放電電流をも減少させる。制限された持続時間は、漏れ電流による放電電流の劣化を制限するために、できるだけ短くなるよう選択されると、有利である。
【0021】
この装置の一実施形態では、第1の導体はアノードを構成するように配置され、第2の導体は、カソードを構成するため液体と直接接触する海洋構造物の導電性部分を含み、電源はさらに、アノードとカソードとの間に平均DC成分を生成することによって、海洋構造物の印加電流カソード防食(ICCP:impressed current cathodic protection)が得られるよう構成される。この装置は、ここでは浮遊コンデンサの(放電)充電をベースに、ICCPと防汚保護とを組み合わせているので、有利である。任意選択で、電源は、電圧パルスのパルス幅変調によって、平均DC成分を生成するよう構成される。代替的又は追加的に、電源は、電圧パルスに追加された連続DCオフセット電圧を供給することによって、平均DC成分を生成するよう構成される。
【0022】
装置の一実施形態では、導電層は、海洋構造物の表面の被覆物層によって、海洋構造物から絶縁されている。代替的又は追加的に、導電層は、誘電体層を構成する被覆物層によって液体から絶縁されている。被覆物層及び導電層のうちの少なくとも一方は、スプレー又は塗装することによって設けられるので、有利である。たとえば、絶縁層が船に塗布され、続いてスプレー中にマスクを使用し、スプレー後にマスクを除去して、最後に誘電体層を構成するカバー層をスプレーして、金属層がパターン化される。
【0023】
装置の一実施形態では、装置は、絶縁材料の箔を備え、箔は、互いに隣接して配置された多数の導電層を備える。任意選択で、導電層は、誘電体層を構成する絶縁材料によって液体から絶縁され、且つ/又は導電層は、絶縁材料によって保護面から絶縁されている。代替的又は追加的に、1つ又は複数の導電層は、制限された厚さを有する誘電体層を構成するために、液体に近接する絶縁材料内に埋め込まれ、絶縁材料はさらに、導電層と海洋構造物の表面との間に分離層を構成し、分離層は、制限された厚さをはるかに上回る厚さを有する。かかる箔内で、導電層は、液体と接触するための、箔の前面の比較的近くに埋め込まれる。箔の裏側は、海洋構造物の表面に接着される。箔内で、導電層は、たとえば、絶縁材料の小道(小さなトラック)で分離された1つの層の複数の部分であり、互いに隣接して配置される。
【0024】
また、導電性材料の別々のパッチは、箔内の2つの別々の層に配置され、2つの層は中間層によって互いに絶縁されている。相異なる層内のパッチは、電気的に絶縁されるべき2つの相異なる層にあるとき、箔の表面から観察すると、直接隣接して、又はわずかに重なり合ってでも配置されている。
【0025】
任意選択で、装置は、シート状の絶縁材料のタイルを備え、タイルは、互いに隣接して配置された1つの導電層又は複数の導電層を備え、複数の導電層は、上記箔内の配置と同様に配置される。
【0026】
かかる箔又はタイルは、保護されるべき表面の領域に、たとえば接着することによって、容易に貼り付けることができるので有利である。かかる取付中に、浮遊電極が存在せず、且つ防汚効果の低下が起こる可能性がある保護領域の切れ目を回避するため、箔又はタイルの複数の部分が重なり合う。
【0027】
また、箔又はタイルは、以前に保護されたが損傷を受け、導電層と液体及び/又は海洋構造物の表面との間に短絡を引き起こす領域に貼り付けられる。そのため、損傷した領域の修復は比較的簡単であり、たとえば、引っ掻き傷はステッカでつぎ当てされる。ステッカは、たとえば2枚の絶縁箔間に挟まれた金属箔、又は最後に被覆若しくは塗装された絶縁体上の金属層を含む。
【0028】
装置が設置された海洋構造物の一実施形態では、複数の浮遊電極は、隣接する浮遊電極からの切れ目で分離された浮遊電極をそれぞれ構成する、相補的な形に成形された、導電層のパターンを含む。切れ目は、電気的絶縁をもたらし、浮遊電極に対して相対的に小さい。代替的に又は追加的に、複数の浮遊電極は、部分的に重なり合う浮遊電極を含み、重なり合う浮遊電極の導電層は、絶縁材料によって分離され、絶縁材料は、部分的に重なり合う浮遊電極の重なり合う部分間に電気的絶縁をもたらす。
【0029】
本発明は、様々な状況において適用可能である。たとえば、本発明による装置は、船舶に関連して適用される。従って、任意選択で、海洋構造物は、上記の装置を具備する外表面をもち、ここで浮遊電極は、付着性生物を含む汚損した液体に浸漬されるときに、表面の防汚のために表面に取り付けられる。また、上記装置を設置する方法では、この方法は、付着性生物を含む汚損した液体に浸漬されるときに、浮遊電極を海洋構造物の表面に、表面の防汚のために取り付けるステップを有する。また、浮遊電極が海洋構造物の表面に設置されているときの、上記装置の動作上の使用法を予め考える。そのとき電源は、電圧パルスを生成している。
【0030】
本発明のこうした態様及び他の態様は、以下の説明において、また以下の添付図面を参照して、例によって説明される実施形態から明らかになり、またこれらの実施形態を参照しながらさらに説明することとする。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】海洋構造物の表面を防汚する装置を示す図である。
図2】防汚する装置を備える、海洋構造物の一例を示す図である。
図3】充放電電流の一例を示す図である。
図4】箔内の浮遊電極の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図は、純粋に概略的であり、原寸に比例して描かれていない。図において、既に説明された要素に対応する要素は、同じ参照番号を有する。
【0033】
以下において、本発明を、それが使用される適用例の概要を参照して説明することにする。
【0034】
図1は、海洋構造物の表面を防汚する装置を示す。海洋構造物50は、部分的に断面図で示される。使用中、海洋構造物は、付着性生物を含む液体、たとえば海水と接触している。液体、たとえば海水、湖水、又は他のどんな水の環境も、導電性であるとされている。この装置は、電源130と、表面上に配置された複数の浮遊電極110とを備える。矢印で示す、覆われている表面の一部は、保護領域40と呼ばれる。
【0035】
電源は、たとえば液体の中に延出する金属電極である、液体と接触している第1の導体121に結合された、第1の極131を備える。電源はまた、液体と接触している第2の導体122に結合された、第2の極132を備える。図では、海洋構造物は、被覆物層又は塗料層60によって覆われていることを示している。第2の導体は、海洋構造物のむき出しの領域、たとえば船の舵で形成される。たとえば、完全に塗装された船では、プロペラは通常塗装されておらず、内側の船体へ電気的に接続されている。船体は、アース又はマイナス電位で電源の一方の極に結合されており、従ってプロペラもまたその電位にある。海洋構造物の既存の部分を使用する代わりに、又はそれに加えて、第2の導体はまた、液体の中に延出する1つ又は複数の金属電極を備える。使用中、第1の導体と第2の導体とは、海洋構造物にわたって、ふり分けて配置される。電源は、保護領域40の両端間に電位を供給するよう、導体間に電圧差を発生させる。電位について、図2を参照してさらに説明する。
【0036】
浮遊電極110は、保護領域を覆って配置されている。各浮遊電極は、表面から電気的に絶縁されている導電層を含み、図はかかる電極のうち4つを示している。実際には、多数の電極が、保護されるべき表面上に配置されるようになる。例示的な実施形態では、海洋構造物からの絶縁は、塗料層60及び絶縁材料111中に埋め込まれている導電層によって形成される。絶縁材料はまた、導電層と液体とを分離する誘電体層112を形成する。
【0037】
任意選択で、導電層は、以下のように金属層として表面に塗布される。金属層を塗布する前に、表面は、海洋構造物の表面上の被覆物層又は塗料層によって絶縁される。次いで、導電形状の、たとえば絶縁された表面に接着された金属箔が、被覆物又は塗料上に設けられる。任意選択で、導電形のパターンは、導電形間に切れ目をもたらすマスクを使用しながら、導電性塗料をスプレーすることによって形成される。また、最初に金属層を設け、続いて局所的に切れ目を入れて、孤立したパッチを形成する。最後に、導電層は、誘電体層を構成する絶縁材料の、別の被覆物層又は塗料層によって、液体から絶縁される。
【0038】
次に説明するように、電源は、誘電体層で、液体中に充電電流及び放電電流を生成する電位の変化によって、浮遊電極を充電及び放電させるための、電圧パルスを生成するよう構成される。
【0039】
図2は、防汚する装置を備える、海洋構造物の一例を示す。この例では、海洋構造物50は、上面図で概略的に示す船体である。船体は、絶縁層260、たとえば1つ又は複数の塗料層で覆われている。船体には電極が配置されており、船の前端部に2個のいわゆるアノード221が、船の後端部に2個のカソード222が、配置されている。カソードは、船の非絶縁部分である船のねじ、複数のねじ、及び/又は舵で形成される。第1の電極と第2の電極との間に電源(図示せず)を接続して、浮遊コンデンサを充電及び放電させるのに必要な電圧パルスを生成する。
【0040】
この図は、液体を介して第1の導体から第2の導体へ流れる電流を示す灰色の矢印230によって、保護領域の両端間の電位を示している。また、この図は、等電位線とも呼ばれる、同じ電位を有する線231を示す。この例では、アノードの電位を30ボルトとして示し、カソードの電位を0ボルトとして示している。導体間では、浮遊電極210(ほんの数個だけ示す)の近傍に、15ボルトの電位が示されている。電極は、たとえば、別の塗料層又は被覆物が金属層上にスプレーされた、絶縁層211で覆われた金属層によって形成され、それによって絶縁層は、金属層を導電性の液体から分離する誘電体層を形成する。従って、浮遊電極は、誘電体層及び液体と組み合わさって、コンデンサを形成する。
【0041】
たとえばDC電圧をアノードに接続するスイッチによる、電圧パルスの開始後、浮遊電極は充電される。電極の電位は、xボルトとして示される。船体は、カソードに結合され、破線の矢印で示すように0ボルトのままである。船体と浮遊電極との間に、実際上低い静電容量が形成されると、電極はほぼ15ボルトに充電されることになる。実際には、xの値は、液体に対する静電容量と船体に対する電極の静電容量の比によって変わる。両方の誘電体層が等しい有効厚さを有する場合、液体中の15ボルトの電位は、コンデンサを7.5ボルトに充電することになる。船体上に比較的薄い上部カバー層及び比較的厚い塗料層を設けることによって、両方の静電容量の比に比例して、電位はより高くなろう。
【0042】
電源は、コンデンサを充電するのに必要な電流を供給することができると仮定する。しかし実際には、電源からの電流は制限され、また液体はいくらかの抵抗値を有する。そのため、コンデンサは、電圧パルスによって充電され、図3に示すように時定数に応じた勾配を有する。
【0043】
たとえばDC電源をオフに切り替えることによる、又は電源によって決定されるパルス持続時間に応じた、電圧パルスの終了後、海洋構造物の両端間の電位はゼロになり、浮遊電極は放電することになる。充電電流及び放電電流は、液体並びに第1及び第2の導体を介して流れることになる。具体的には、充電電流及び放電電流はまた、誘電体層、すなわち誘電体層が液体と接触する絶縁材料の表面にも流れることになる。絶縁材料の表面で起こる充電電流及び/又は放電電流によって、その表面における生物付着は防止されるか、又は少なくとも低減される。
【0044】
鋼製船体の自然腐食に対抗するため、大部分の船は被覆又は塗装され、さらに保護用の被覆又は塗装が局所的に破損しても船体が自然腐食から保護されたままであるように、受動又は能動カソード防食システムを備えていることが多い。受動システムは、時間の経過とともに電気化学的に溶解する、亜鉛、アルミニウム、又は鉄の犠牲アノードを使用する。塗装されていないプロペラ及び船体の塗装されていない部分を腐食から保護するために、こうした部分には印加電流と呼ばれる電流(DC)が送られる。海水はこうした部分のすべてを濡らすので、こうした部分のすべてに到達するよう、正電位で海水に濡れたアノードが使用される。かかる能動システムは、MMO-Ti(混合金属酸化物)被覆チタン又はPt/Ti(白金被覆チタン)でできたアノードを使用して、DC電流を印加する。海水中にDC電流を印加する能動システム(ICCP)では、大きすぎる電流が船体を局所的に高速で溶解するため、慎重な監視が必要である。明らかに、防汚の解決策は、カソード防食システムを、失敗とすべきではない。従って、船体は一方の端子として機能し、海水は他方の導体端子への電気回路を閉じる高導電性媒体として機能する。
【0045】
実際には、コンデンサが充電されると、消費電流はゼロになる。同じアノード及びカソードを介して電流を供給するICCPシステムもまた、たとえばパルスを生成するスイッチを使用することによって、浮遊コンデンサを充電するために使用され得る。条件を変更するための調整は、たとえば、パルス幅変調又はデューティサイクル適応を使用して平均化し、必要なDC成分を供給し、コンデンサを十分に充電してpHの変化をもたらすことにより行われる。スイッチを使用してアノードをオフに切り替え、アノードがオープンのとき、コンデンサはむき出しのプロペラに向かって放電することになる。今コンデンサから流れ出る電流は、表面でpHを変化させて生物付着を減らす。ICCPもまた提供するシステムでは、放電電流の方向は、ICCP電流の方向と等しいことに留意されたい。従って、ICCPの防食は反対ではない。
【0046】
図3は、充放電電流の一例を示す。図において、Vと記された上段の曲線は、浮遊電極、誘電体層、及び液体によって構成されるコンデンサの両端間の電圧を表している。電圧は、上昇勾配331及び下降勾配332を有する電圧パルスを示す。電圧パルスは、上記の電源によって生成される。Icと記された下段の曲線は、特に充電電流341及び放電電流342を示す、コンデンサへの誘電体層での電流を表す。この例における上昇及び下降勾配、並びに充電電流及び放電電流は、相補的な形状を有することに留意されたい。実際には、充電中及び放電中の電源及び/又は切替回路のインピーダンスが異なるため、電流及び勾配は異なる。電源は、防汚に必要とされる、充電又は放電電流を生成するのに必要なボルト/秒の速度での上昇又は下降勾配を有する、電圧パルスを生成するよう構成される。
【0047】
一実施形態では、電源は、DC電圧をオン及びオフに切り替えることによって、上昇勾配及び下降勾配を有する電圧パルスを生成するように構成される。電源スイッチ、たとえばパワーFET又は電気機械式スイッチは、電源の極と液体と接触する導体との間に直列に接続される。実際には、浮遊電極上に電位を形成する速度は、全有効負荷電流、海洋構造物上のすべての浮遊電極の全表面、及び液体を介する経路の実効抵抗値によって変わる。海水の抵抗値は、たとえば数十分の1オームと低く、海水の塩分レベル及び温度によって変わる。電源は、コンデンサを急速に充電できるように、すなわち海水の抵抗値によってのみ速度が制限されるように、大電流を供給するように設計される。電源は、短い充電期間中に大きな電流を供給するため、出力に、大きい電解コンデンサ又はスーパーコンデンサを備える。
【0048】
たとえば、抵抗値が1オームであり、大型船舶上の浮遊電極の総表面積が15,000mであり、1m当たりの静電容量が1~10mFであると仮定すると、充電は0.15~1.5秒かかる。放電は、ほぼ同じ期間、大型船では約0.6~6秒かかる。小さい構造体では、総静電容量がはるかに低いので、はるかに高い周波数、たとえば15mの場合100Hz~1kHzが適用される。
【0049】
比較的遅い充電サイクルは、電力を接続及び切断するスイッチを備えるDC電源を使用して行われる。スイッチは、機械式スイッチ又はリレー、或いは電子式スイッチ、たとえばパワーFETである。また、低周波ACパルスが使用される。充電電流用の導体として使用される海洋構造物のむき出しの部分での、水素の発生を回避するために、浮遊コンデンサはわずか数ボルト、たとえば4ボルトに充電されることになる。そのとき、対応する勾配は、約4V/0.2秒=20V/秒である。
【0050】
一実施形態では、電源は、上昇勾配を構成する傾斜を有し、この傾斜は、浮遊電極を充電するための充電電流の量を制限する電圧パルスと、電圧をオフに切り替えることによる下降勾配を有する電圧パルスとを生成するよう構成される。この実施形態では、充電電流は、放電電流より小さい。たとえば、電源は、総充電電流を制限するように、出力に電流リミッタを備える。実際上、そのように制限された電圧パルスは、上昇勾配としての傾斜を有することになる。電力をゼロボルトに切り替えることによって、又は第2の導体を第1の導体に、たとえばアノードを船体に直接接続することによって、放電電流は、液体のインピーダンスによってのみ制限されることになる。実際上、総充電電流は制限されており、一方放電電流は、より大きい。
【0051】
一実施形態では、電源は、上昇勾配と下降勾配との間に制限された持続時間を有する、電圧パルスを生成するよう構成される。より長いパルスは、図2の電流矢印230によって示す、第1の導体から第2の導体へ流れる電流による追加の電力のみを必要とするので、実際上、パルスは、浮遊電極を充電するのに十分な長さであればよい。漏れ電流による浮遊電極のその後の放電を制限するために、持続時間もまた制限される。たとえば、塗料層260が若干の導電性粒子を含む場合、充電された浮遊電極と船体との間に漏れ電流が発生する。
【0052】
防汚装置の一実施形態では、第1の導体はアノードを構成するように構成され、第2の導体はカソードを構成するように液体と直接接触する海洋構造物の導電性部分を含み、電源はさらに、アノードとカソードとの間に平均DC成分を生成することによって、海洋構造物の印加電流カソード防食が得られるよう構成される。たとえば、適切な長さの電圧パルス及びそれに続くパルス間の合間を生成することによって、必要な平均DC成分が発生する。実際上、防汚及びICCPは、単一の電源、並びにアノード及びカソードと同じ導体を使用し、パルス幅及びパルスの電圧を制御することによって組み合わされる。従って、電源は、電圧パルスのパルス幅変調によって、ICCPの平均DC成分を生成するよう構成される。代替的又は追加的に、電源は、電圧パルスに追加された連続DCオフセット電圧を供給することによって、平均DC成分を生成するよう構成される。
【0053】
この装置の一実施形態では、浮遊電極は、絶縁材料の箔に埋め込まれている。箔は、互いに隣接して配置された多数の導電層を備える。箔は、保護されるべき表面に接着され、その表面には最初に絶縁層、たとえば塗料層又は別の箔が設けられる。任意選択で、この装置は、シート形態の絶縁材料のタイルを備える。タイルは、タイルの端部で絶縁された1つの導電層を備える。また、タイルは、互いに隣接して配置された多数の導電層を有してもよい。保護されるべき表面に、複数のタイルが接着される。任意選択で、かかる箔又はタイルは、取付中に重なり合う。導電層が重なり合う場所に、前面のコンデンサで充電及び放電電流が依然として発生しながらも、実際上直列のいくつかの静電容量が形成される。箔及び/又はタイル内で、導電層は、誘電体層を構成する絶縁材料によって液体から絶縁されている。また、導電層は、絶縁材料によって保護面から絶縁される。導電層は、制限された厚さを有する誘電体層を形成するために、液体に近接する絶縁材料内に埋め込まれる。絶縁材料はさらに、導電層と海洋構造物の表面との間に、分離層を構成する。分離層は、制限された厚さをはるかに上回る厚さを有する。浮遊電極と液体との間の静電容量は、この場合、浮遊電極と海洋構造物との間の静電容量をはるかに上回ることになる。
【0054】
海洋構造物は、付着性生物を含む液体と接触するときに、保護されるべき表面をもつ。海洋構造物は、生物付着から保護されるように、上記の装置を備える。第1及び第2の導体は、使用中に給電されたとき、表面の保護領域の両端間に電位を供給するよう、海洋構造物にわたってふり分けられる。電源は、第1の導体に結合された第1の極、及び第2の導体に結合された第2の極を備える。浮遊電極は、保護領域を覆って海洋構造物の表面に取り付けられる。
【0055】
図4は、箔内の浮遊電極の一例を示す。海洋構造物の一実施形態では、多数の浮遊電極は、相補的な形に成形された、導電層のパターンによってもたらされる。図は、上面図に破線で示す、箔400を示している。箔は、絶縁材料411に埋め込まれた浮遊電極410を備える。箔は、図の水平方向に連続し、相補的な形の浮遊電極の連続パターンを備える。或いは、海上構造物上に取り付けるのに実用的なサイズ、たとえば1メートル×1メートルのタイルが設けられる。かかるタイルは、かかる相補的な形のパターンを有する。かかるパターンの個々の電極は、0.1m~0.5mの辺を有する。1平方センチメートル当たりの充電及び放電電流は、形状又は辺のサイズに依存しないことに留意されたい。従って、絶縁材料への損傷、たとえば引っ掻き傷は、そのとき液体と直接接触しているそれぞれの小さな電極を取り除くことになるだけであるため、形状がより小さいほど実用的である。
【0056】
浮遊電極は、各浮遊電極間に切れ目405を備える、金属層又は他の任意の導電層によって形成される。導電層では、六角形が相補的な形の一例として示されている。隣り合う形の隣接する部分が、電極間に小さな切れ目405があるように成形される場合、それぞれの分離された浮遊電極の形は、相補的と呼ばれる。他の例では、正方形若しくは長方形、又は三角形である。各浮遊電極は、隣接する浮遊電極からの切れ目によって分離されている。切れ目405は、電気的絶縁をもたらし、浮遊電極に対して相対的に小さい。切れ目上は、局所的に電流が生成されないため、保護があまり効果的ではない。そのため、切れ目はできるだけ小さくするべきである。また側部は、絶縁材料の切れ目の直線を回避するために、相補的な態様の波状又は鋸歯状である。
【0057】
任意選択で、浮遊電極は、絶縁材料の中間層によって依然として(断面で)絶縁されている一方で、(上面図で見られるように)切れ目を回避するように部分的に重なり合う。中間層により、重なり合う浮遊電極の導電層は、絶縁材料によって分離される。絶縁材料は、部分的に重なり合う浮遊電極の重なり合う部分間に電気的絶縁をもたらす。任意選択で、中間層は、誘電体層に対して相対的に厚い。
【0058】
上記装置を設置する方法は、付着性生物を含む液体と接触するとき、汚損から保護されるべき海洋構造物に適用される以下のステップを有する。第1のステップでは、保護されるべき海洋構造物の表面は、絶縁層で塗装又は被覆される。次のステップでは、表面の保護領域を覆うように、1つ又は複数の浮遊電極が、海洋構造物の表面に貼り付けられる。また、第1及び第2の導体は、保護領域の両端間に電位を供給するよう、海洋構造物にわたってふり分けられる。さらなるステップでは、電源は、海洋構造物の中又は上に設けられる。最後に、たとえば第1の極を第1の導体に結合し、第2の極を第2の導体に結合することによって、電源を接続することができる。
【0059】
上記装置のいずれかを動作させる方法は、以下のステップを有する。動作の開始前に、装置は、海洋構造物に取り付けられ、浮遊電極は、表面の保護領域を覆うように、汚損から保護されるべき海洋構造物の表面上に配置される。各浮遊電極は、表面から電気的に絶縁された導電層、及び導電層と液体とを分離するための誘電体層を備える。また、第1及び第2の導体は、給電されたとき、保護領域の両端間に電位を供給するよう、海洋構造物にわたってふり分けられる。
【0060】
動作時、海洋構造物は、付着性生物を含む液体と接触している。この方法は、誘電体層で、液体中に充電電流及び放電電流を生成するための、保護領域の両端間の電位の変化によって、浮遊電極を充電及び放電させるための、第1の導体と第2の導体との間の電圧パルスを生成することを有する。
【0061】
本発明の範囲が、上記の例に限定されず、そのいくつかの補正及び修正が可能であることが、当業者には明らかであろう。本発明について、図及び説明で詳細に示し、また述べてきたが、かかる図及び説明は例示的又は代表的でしかなく、限定的ではないと考えられるべきである。本発明は、開示された実施形態に限定されない。図面は模式的であり、ここで本発明を理解する上で必要とされない詳細は省略されており、必ずしも原寸に比例していない。
【0062】
開示された実施形態に対する変形は、特許請求の範囲に記載された発明を実施する上で、図、説明、及び添付の特許請求の範囲の研究から、当分野の技術者によって理解され達成され得る。特許請求の範囲で、単語「comrising」は、他のステップ又は要素を排除するものではなく、また不定冠詞「a」又は「an」は、複数を除外するものではない。本文で使用される用語「comprise」は、用語「consist of」を包含するものとして、当業者によって理解されよう。従って、用語「comprise」は、一実施形態に関しては「からなる(consist of)」を意味するが、別の実施形態では「少なくとも限定された種、及び場合によっては1つ又は複数の他の種を含む(contain)/含む(include)」を意味する。特許請求の範囲内のいかなる参照符号も、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0063】
特に明記しない限り、特定の一実施形態について、又は特定の一実施形態に関して論じられた要素及び態様は、他の実施形態の要素及び態様と好適に組み合わされる。従って、特定の手段が、互いに相異なる従属請求項に列挙されているという単なる事実は、これらの手段の組合せが有利に使用され得ないことを示すものではない。
【0064】
一般的な意味では、保護表面を生物付着のない状態に保つことは、本発明による防汚装置の基本的な機能である。従って本発明は、その存続期間の少なくとも一部の間に、付着性生物を含む汚損した液体中に保護表面を浸漬することが意図された状況である、汚損リスクを伴うすべての状況に適用できる。海水は、かかる汚損した液体のよく知られた例である。海洋構造物は、付着性生物を含む汚損した液体に浸漬されるとき、表面の防汚のために、上記の防汚装置が適用される表面をもつ。同様に、上記の装置を設置する方法は、装置を海洋構造物の表面に取り付けるステップと、それぞれの導体に結合される電源を設けるステップとを有する。
【0065】
最後に、上記装置の使用法、特に付着性生物を含む汚損した液体に浸漬したときの表面の防汚のために、海洋構造物の表面上に設置された装置の使用法を、予め考える。その使用法には、上記電源によって充放電されるべき浮遊電極が必要となる。たとえば、本発明による装置は、船舶の船体に適用される。保護された表面の他の例には、ボックスクーラの外面、海中沖合設備の表面、船舶のバラストタンクのような貯水槽の内壁、及び淡水化プラント内のフィルタシステムのフィルタ表面が含まれる。
【0066】
要約すると、海水のような液体に接触するときの、海洋構造物の表面の防汚のための装置が提供される。この装置は、液体と接触している第1及び第2の導体に結合された、浮遊電極と電源とを備え、これらの導体は、表面の保護領域の両端間に電位を供給するよう、海洋構造物にわたってふり分けられる。浮遊電極は、保護領域を覆って表面上に配置される。各浮遊電極は、表面から電気的に絶縁されている導電層、及び導電層と液体とを分離する誘電体層を備える。電源は、誘電体層で、液体中に充電電流及び放電電流を生成するための電位の変化によって、浮遊電極を充電及び放電させるための、電圧パルスを生成するように構成される。実際上、かかる電流は、生物付着を防ぐか、又は低減する。
図1
図2
図3
図4