IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新電元工業株式会社の特許一覧 ▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

特許7019706電動車両、電動車両制御装置および電動車両制御方法
<>
  • 特許-電動車両、電動車両制御装置および電動車両制御方法 図1
  • 特許-電動車両、電動車両制御装置および電動車両制御方法 図2
  • 特許-電動車両、電動車両制御装置および電動車両制御方法 図3
  • 特許-電動車両、電動車両制御装置および電動車両制御方法 図4
  • 特許-電動車両、電動車両制御装置および電動車両制御方法 図5
  • 特許-電動車両、電動車両制御装置および電動車両制御方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】電動車両、電動車両制御装置および電動車両制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60L 50/60 20190101AFI20220207BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20220207BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20220207BHJP
   B60L 58/12 20190101ALI20220207BHJP
【FI】
B60L50/60
B60L15/20 J
B60L9/18 J
B60L58/12
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019540257
(86)(22)【出願日】2017-09-08
(86)【国際出願番号】 JP2017032575
(87)【国際公開番号】W WO2019049337
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2020-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137523
【弁理士】
【氏名又は名称】出口 智也
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(74)【代理人】
【識別番号】100120385
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 健之
(72)【発明者】
【氏名】目黒 一由希
(72)【発明者】
【氏名】井ノ口 雄大
(72)【発明者】
【氏名】市川 広基
(72)【発明者】
【氏名】山口 敬文
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 涼太
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-120290(JP,A)
【文献】特開2012-200048(JP,A)
【文献】特開2004-236381(JP,A)
【文献】特開2011-63089(JP,A)
【文献】特開2008-168866(JP,A)
【文献】特開2012-31778(JP,A)
【文献】特開2017-50923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00- 3/12, 7/00-13/00
B60L 15/00-15/42,50/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電可能なバッテリと、
前記バッテリから供給された電力によって車輪を駆動するためのトルクを出力するモータと、
前記バッテリの充電状態が閾値より大きい正常領域から前記閾値以下の劣化領域になったか否かの判定または前記充電状態が前記劣化領域から前記正常領域に復帰したか否かの判定を行う劣化復帰判定部と、
ユーザのアクセル操作に応じて前記バッテリから前記モータに供給される電力を制御することで、前記モータから出力されるトルクを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記正常領域においては、前記正常領域における、前記トルク、前記モータの回転速度、およびアクセル操作量の対応関係を示す通常マップにしたがって前記トルクを制御し、
前記劣化領域においては、前記劣化領域における、前記トルク、前記回転速度、および前記アクセル操作量の対応関係を示す抑制マップにしたがって、前記正常領域における前記トルクよりも抑制されるように前記トルクを制御し、
前記劣化領域になったと判定された場合に、前記劣化領域になったと判定された劣化判定時から前記劣化領域になった場合における前記トルクの制御の切り替えに要する時間である劣化時切替時間をかけて、前記通常マップにしたがった前記トルクの制御から、前記抑制マップにしたがった前記トルクの制御への切り替えを行い、
前記劣化時切替時間は、前記劣化判定時の前記回転速度および前記アクセル操作量に対応する前記通常マップ上のトルクである劣化時切替元トルクと、前記劣化判定時の前記回転速度および前記アクセル操作量に対応する前記抑制マップ上のトルクである劣化時切替先トルクとの差分に応じた長さの時間であることを特徴とする電動車両。
【請求項2】
前記制御部は、前記正常領域に復帰したと判定された場合に、前記正常領域に復帰したと判定された復帰判定時から前記正常領域に復帰した場合における前記トルクの制御の切り替えに要する時間である復帰時切替時間をかけて、前記抑制マップにしたがった前記トルクの制御から、前記通常マップにしたがった前記トルクの制御への切り替えを行うことを特徴とする請求項1に記載の電動車両。
【請求項3】
前記復帰時切替時間は、前記劣化時切替時間と異なることを特徴とする請求項2に記載の電動車両。
【請求項4】
前記復帰時切替時間は、前記劣化時切替時間より短いことを特徴とする請求項3に記載の電動車両。
【請求項5】
前記制御部は、
前記劣化領域になったと判定された場合に、前記劣化時切替元トルクと、前記劣化時切替先トルクとの差分を算出し、
前記算出された前記劣化時切替元トルクと前記劣化時切替先トルクとの差分に応じた長さの前記劣化時切替時間を設定し、
前記設定された劣化時切替時間をかけて前記劣化時切替元トルクから前記劣化時切替先トルクに切り替える制御を行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電動車両。
【請求項6】
前記制御部は、
前記劣化時切替元トルクと前記劣化時切替先トルクとの差分を前記劣化時切替時間で除した値を係数とした一次関数にしたがった変化量で前記トルクを変化させる制御を行うことで、前記劣化時切替時間をかけて前記劣化時切替元トルクから前記劣化時切替先トルクに切り替える制御を行うことを特徴とする請求項5に記載の電動車両。
【請求項7】
前記制御部は、
前記正常領域に復帰したと判定された場合に、前記復帰判定時の前記回転速度および前記アクセル操作量に対応する前記抑制マップ上のトルクである復帰時切替元トルクと、前記復帰判定時の前記回転速度および前記アクセル操作量に対応する前記通常マップ上のトルクである復帰時切替先トルクとの差分を算出し、
前記算出された前記復帰時切替元トルクと前記復帰時切替先トルクとの差分に応じた長さの前記復帰時切替時間を設定し、
前記設定された復帰時切替時間をかけて前記復帰時切替元トルクから前記復帰時切替先トルクに切り替える制御を行うことを特徴とする請求項に記載の電動車両。
【請求項8】
前記制御部は、
前記復帰時切替元トルクと前記復帰時切替先トルクとの差分を前記復帰時切替時間で除した値を係数とした一次関数にしたがった変化量で前記トルクを変化させる制御を行うことで、前記復帰時切替時間をかけて前記復帰時切替元トルクから前記復帰時切替先トルクに切り替える制御を行うことを特徴とする請求項7に記載の電動車両。
【請求項9】
前記劣化復帰判定部は、前記バッテリの状態を定期的に監視するバッテリ管理ユニットであることを特徴とする請求項2又は7に記載の電動車両。
【請求項10】
前記バッテリ管理ユニットは、前記劣化領域になったと判定した場合に、前記トルクの抑制を要求する抑制フラグを前記制御部に出力し、前記正常領域に復帰したと判定した場合に、前記トルクの抑制の解除を要求する抑制解除フラグを前記制御部に出力し、
前記制御部は、前記抑制フラグに応じて、前記通常マップにしたがった前記トルクの制御から前記抑制マップにしたがった前記トルクの制御への切り替えを行い、前記抑制解除フラグに応じて、前記抑制マップにしたがった前記トルクの制御から前記通常マップにしたがった前記トルクの制御への切り替えを行うことを特徴とする請求項9に記載の電動車両。
【請求項11】
前記車輪と前記モータとがクラッチを介さずに機械的に接続されていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の電動車両。
【請求項12】
充放電可能なバッテリと、
前記バッテリから供給された電力によって車輪を駆動するためのトルクを出力するモータと、
前記バッテリの充電状態が閾値より大きい正常領域から前記閾値以下の劣化領域になったか否かの判定または前記充電状態が前記劣化領域から前記正常領域に復帰したか否かの判定を行う劣化復帰判定部と、を備える電動車両を制御する電動車両制御装置であって、
ユーザのアクセル操作に応じて前記バッテリから前記モータに供給される電力を制御することで、前記モータから出力されるトルクを制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記正常領域においては、前記正常領域における、前記トルク、前記モータの回転速度、およびアクセル操作量の対応関係を示す通常マップにしたがって前記トルクを制御し、
前記劣化領域においては、前記劣化領域における、前記トルク、前記回転速度、および前記アクセル操作量の対応関係を示す抑制マップにしたがって、前記正常領域における前記トルクよりも抑制されるように前記トルクを制御し、
前記劣化領域になったと判定された場合に、前記劣化領域になったと判定された劣化判定時から前記劣化領域になった場合における前記トルクの制御の切り替えに要する時間である劣化時切替時間をかけて、前記通常マップにしたがった前記トルクの制御から、前記抑制マップにしたがった前記トルクの制御への切り替えを行い、
前記劣化時切替時間は、前記劣化判定時の前記回転速度および前記アクセル操作量に対応する前記通常マップ上のトルクである劣化時切替元トルクと、前記劣化判定時の前記回転速度および前記アクセル操作量に対応する前記抑制マップ上のトルクである劣化時切替先トルクとの差分に応じた長さの時間であることを特徴とする電動車両制御装置。
【請求項13】
充放電可能なバッテリと、
前記バッテリから供給された電力によって車輪を駆動するためのトルクを出力するモータと、
前記バッテリの充電状態が閾値より大きい正常領域から前記閾値以下の劣化領域になったか否かの判定または前記充電状態が前記劣化領域から前記正常領域に復帰したか否かの判定を行う劣化復帰判定部と、を備える電動車両を制御する電動車両制御方法であって、
前記正常領域において、前記正常領域における、前記トルク、前記モータの回転速度、およびアクセル操作量の対応関係を示す通常マップにしたがって前記トルクを制御するステップと、
前記劣化領域において、前記劣化領域における、前記トルク、前記回転速度、および前記アクセル操作量の対応関係を示す抑制マップにしたがって、前記正常領域における前記トルクよりも抑制されるように前記トルクを制御するステップと、
前記劣化領域になったと判定された場合に、前記劣化領域になったと判定された劣化判定時から前記劣化領域になった場合における前記トルクの制御の切り替えに要する時間である劣化時切替時間をかけて、前記通常マップにしたがった前記トルクの制御から、前記抑制マップにしたがった前記トルクの制御への切り替えを行うステップと、を備え
前記劣化時切替時間は、前記劣化判定時の前記回転速度および前記アクセル操作量に対応する前記通常マップ上のトルクである劣化時切替元トルクと、前記劣化判定時の前記回転速度および前記アクセル操作量に対応する前記抑制マップ上のトルクである劣化時切替先トルクとの差分に応じた長さの時間であることを特徴とする電動車両制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両、電動車両制御装置および電動車両制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムバッテリなどのバッテリは、所定の閾値以下の充電状態の領域(以下、劣化領域とも呼ぶ)で使用し続けると、充電しても充電状態が完全には回復しない劣化が促進する可能性がある。
【0003】
このようなバッテリで駆動されるモータを動力とした電動二輪車において、バッテリの劣化を抑制するためには、例えば、バッテリの充電状態が劣化領域になった場合にモータが出力するトルクを抑制し、充電状態が劣化領域から既述した閾値より大きい領域(以下、正常領域とも呼ぶ)に復帰した場合にトルクの抑制を解除することが考えられる。
【0004】
しかしながら、劣化領域になって直ちにトルクを劣化領域に対応する値に抑制すると、車両の加速が急に悪くなったという感覚を運転者に与える虞がある。このため、従来は、バッテリの充電状態が正常領域と劣化領域との間で切替わったときに運転者に違和感を与える虞があるといった問題があった。
【0005】
なお、特開2016‐226116号公報には、モータの回転数とトルクとd軸電流(弱め磁界電流)との関係を規定したTNマップに基づいてトルクを制御する技術が開示されている。しかしながら、特開2016‐226116号公報に開示されている技術は、弱め界磁の範囲を適切に認識して、小さなバッテリから最大限の出力を取り出す技術であり、充電状態が正常領域と劣化領域との間で切替わったときに運転者に違和感を与えることを防止する技術とは異なる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、バッテリの充電状態が正常領域と劣化領域との間で切替わったときに運転者に違和感を与えることを防止することが可能な電動車両、電動車両制御装置および電動車両制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る電動車両は、
充放電可能なバッテリと、
前記バッテリから供給された電力によって車輪を駆動するためのトルクを出力するモータと、
前記バッテリの充電状態が閾値より大きい正常領域から前記閾値以下の劣化領域になったか否かの判定または前記充電状態が前記劣化領域から前記正常領域に復帰したか否かの判定を行う劣化復帰判定部と、
ユーザのアクセル操作に応じて前記バッテリから前記モータに供給される電力を制御することで、前記モータから出力されるトルクを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記正常領域においては、前記正常領域における、前記トルク、前記モータの回転速度、およびアクセル操作量の対応関係を示す通常マップにしたがって前記トルクを制御し、
前記劣化領域においては、前記劣化領域における、前記トルク、前記回転速度、および前記アクセル操作量の対応関係を示す抑制マップにしたがって、前記正常領域における前記トルクよりも抑制されるように前記トルクを制御し、
前記劣化領域になったと判定された場合に、前記劣化領域になったと判定された劣化判定時から前記劣化領域になった場合における前記トルクの制御の切り替えに要する時間である劣化時切替時間をかけて、前記通常マップにしたがった前記トルクの制御から、前記抑制マップにしたがった前記トルクの制御への切り替えを行う。
【0008】
また、前記電動車両において、
前記制御部は、前記正常領域に復帰したと判定された場合に、前記正常領域に復帰したと判定された復帰判定時から前記正常領域に復帰した場合における前記トルクの制御の切り替えに要する時間である復帰時切替時間をかけて、前記抑制マップにしたがった前記トルクの制御から、前記通常マップにしたがった前記トルクの制御への切り替えを行ってもよい。
【0009】
また、前記電動車両において、
前記復帰時切替時間は、前記劣化時切替時間と異なってもよい。
【0010】
また、前記電動車両において、
前記復帰時切替時間は、前記劣化時切替時間より短くてもよい。
【0011】
また、前記電動車両において、
前記制御部は、
前記劣化領域になったと判定された場合に、前記劣化判定時の前記回転速度および前記アクセル操作量に対応する前記通常マップ上のトルクである劣化時切替元トルクと、前記劣化判定時の前記回転速度および前記アクセル操作量に対応する前記抑制マップ上のトルクである劣化時切替先トルクとの差分を算出し、
前記算出された前記劣化時切替元トルクと前記劣化時切替先トルクとの差分に応じた長さの前記劣化時切替時間を設定し、
前記設定された劣化時切替時間をかけて前記劣化時切替元トルクから前記劣化時切替先トルクに切り替える制御を行ってもよい。
【0012】
また、前記電動車両において、
前記制御部は、
前記劣化時切替元トルクと前記劣化時切替先トルクとの差分を前記劣化時切替時間で除した値を係数とした一次関数にしたがった変化量で前記トルクを変化させる制御を行うことで、前記劣化時切替時間をかけて前記劣化時切替元トルクから前記劣化時切替先トルクに切り替える制御を行ってもよい。
【0013】
また、前記電動車両において、
前記制御部は、
前記正常領域に復帰したと判定された場合に、前記復帰判定時の前記回転速度および前記アクセル操作量に対応する前記抑制マップ上のトルクである復帰時切替元トルクと、前記復帰判定時の前記回転速度および前記アクセル操作量に対応する前記通常マップ上のトルクである復帰時切替先トルクとの差分を算出し、
前記算出された前記復帰時切替元トルクと前記復帰時切替先トルクとの差分に応じた長さの前記復帰時切替時間を設定し、
前記設定された復帰時切替時間をかけて前記復帰時切替元トルクから前記復帰時切替先トルクに切り替える制御を行ってもよい。
【0014】
また、前記電動車両において、
前記制御部は、
前記復帰時切替元トルクと前記復帰時切替先トルクとの差分を前記復帰時切替時間で除した値を係数とした一次関数にしたがった変化量で前記トルクを変化させる制御を行うことで、前記復帰時切替時間をかけて前記復帰時切替元トルクから前記復帰時切替先トルクに切り替える制御を行ってもよい。
【0015】
また、前記電動車両において、
前記劣化復帰判定部は、前記バッテリの状態を定期的に監視するバッテリ管理ユニットであってもよい。
【0016】
また、前記電動車両において、
前記バッテリ管理ユニットは、前記劣化領域になったと判定した場合に、前記トルクの抑制を要求する抑制フラグを前記制御部に出力し、前記正常領域に復帰したと判定した場合に、前記トルクの抑制の解除を要求する抑制解除フラグを前記制御部に出力し、
前記制御部は、前記抑制フラグに応じて、前記通常マップにしたがった前記トルクの制御から前記抑制マップにしたがった前記トルクの制御への切り替えを行い、前記抑制解除フラグに応じて、前記抑制マップにしたがった前記トルクの制御から前記通常マップにしたがった前記トルクの制御への切り替えを行ってもよい。
【0017】
また、前記電動車両において、
前記車輪と前記モータとがクラッチを介さずに機械的に接続されていてもよい。
【0018】
本発明の一態様に係る電動車両制御装置は、
充放電可能なバッテリと、
前記バッテリから供給された電力によって車輪を駆動するためのトルクを出力するモータと、
前記バッテリの充電状態が閾値より大きい正常領域から前記閾値以下の劣化領域になったか否かの判定または前記充電状態が前記劣化領域から前記正常領域に復帰したか否かの判定を行う劣化復帰判定部と、を備える電動車両を制御する電動車両制御装置であって、
ユーザのアクセル操作に応じて前記バッテリから前記モータに供給される電力を制御することで、前記モータから出力されるトルクを制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記正常領域においては、前記正常領域における、前記トルク、前記モータの回転速度、およびアクセル操作量の対応関係を示す通常マップにしたがって前記トルクを制御し、
前記劣化領域においては、前記劣化領域における、前記トルク、前記回転速度、および前記アクセル操作量の対応関係を示す抑制マップにしたがって、前記正常領域における前記トルクよりも抑制されるように前記トルクを制御し、
前記劣化領域になったと判定された場合に、前記劣化領域になったと判定された劣化判定時から前記劣化領域になった場合における前記トルクの制御の切り替えに要する時間である劣化時切替時間をかけて、前記通常マップにしたがった前記トルクの制御から、前記抑制マップにしたがった前記トルクの制御への切り替えを行う。
【0019】
本発明の一態様に係る電動車両制御方法は、
充放電可能なバッテリと、
前記バッテリから供給された電力によって車輪を駆動するためのトルクを出力するモータと、
前記バッテリの充電状態が閾値より大きい正常領域から前記閾値以下の劣化領域になったか否かの判定または前記充電状態が前記劣化領域から前記正常領域に復帰したか否かの判定を行う劣化復帰判定部と、を備える電動車両を制御する電動車両制御方法であって、
前記正常領域において、前記正常領域における、前記トルク、前記モータの回転速度、およびアクセル操作量の対応関係を示す通常マップにしたがって前記トルクを制御するステップと、
前記劣化領域において、前記劣化領域における、前記トルク、前記回転速度、および前記アクセル操作量の対応関係を示す抑制マップにしたがって、前記正常領域における前記トルクよりも抑制されるように前記トルクを制御するステップと、
前記劣化領域になったと判定された場合に、前記劣化領域になったと判定された劣化判定時から前記劣化領域になった場合における前記トルクの制御の切り替えに要する時間である劣化時切替時間をかけて、前記通常マップにしたがった前記トルクの制御から、前記抑制マップにしたがった前記トルクの制御への切り替えを行うステップと、を備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様に係る電動車両は、充放電可能なバッテリと、バッテリから供給された電力によって車輪を駆動するためのトルクを出力するモータと、バッテリの充電状態が閾値より大きい正常領域から閾値以下の劣化領域になったか否かの判定または充電状態が劣化領域から正常領域に復帰したか否かの判定を行う劣化復帰判定部と、ユーザのアクセル操作に応じてバッテリからモータに供給される電力を制御することで、モータから出力されるトルクを制御する制御部と、を備え、制御部は、正常領域においては、正常領域における、トルク、モータの回転速度、およびアクセル操作量の対応関係を示す通常マップにしたがってトルクを制御し、劣化領域においては、劣化領域における、トルク、回転速度、およびアクセル操作量の対応関係を示す抑制マップにしたがって、正常領域におけるトルクよりも抑制されるようにトルクを制御し、劣化領域になったと判定された場合に、劣化領域になったと判定された劣化判定時から劣化領域になった場合におけるトルクの制御の切り替えに要する時間である劣化時切替時間をかけて、通常マップにしたがったトルクの制御から、抑制マップにしたがったトルクの制御への切り替えを行う。
【0021】
このように、本発明によれば、バッテリの充電状態が正常領域から劣化領域になったと判定された場合に、劣化領域になったと判定された劣化判定時から劣化時切替時間をかけて、通常マップにしたがったトルクの制御から抑制マップにしたがったトルクの制御への切り替えを行うことができる。
【0022】
これにより、バッテリの充電状態が正常領域と劣化領域との間で切替わったときに運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態に係る電動二輪車100を示す図である。
図2】実施形態に係る電動二輪車100において、電力変換部30およびモータ3を示す図である。
図3】実施形態に係る電動二輪車100において、モータ3のロータに設けられた磁石、およびアングルセンサ4を示す図である。
図4】実施形態に係る電動二輪車100において、ロータアングルと、アングルセンサ4の出力との関係を示す図である。
図5】実施形態に係る電動二輪車100の制御方法を示すフローチャートである。
図6】実施形態に係る電動二輪車100の制御方法において、トルクマップの切替を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明を限定するものではない。また、実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0025】
まず、図1を参照して、電動車両の一例としての実施形態に係る電動二輪車100について説明する。電動二輪車100は、バッテリから供給される電力を用いてモータを駆動することで走行する電動バイク等の電動二輪車である。より詳しくは、電動二輪車100は、エンジン車やハイブリッド車両とは異なりモータのみを動力とし、モータと車輪がクラッチを介さずに機械的に接続されたクラッチレスの電動二輪車である。なお、本発明に係る電動車両は、これに限定されるものではなく、例えば四輪の車両であってもよい。
【0026】
電動二輪車100は、図1に示すように、電動車両制御装置1と、電源部2と、モータ3と、アングルセンサ4と、アクセルポジションセンサ5と、メータ7と、車輪8とを備える。電源部2は、バッテリ21(すなわち、セル)と、劣化復帰判定部の一例であるバッテリ管理ユニット(BMU)22とを有する。
【0027】
以下、電動二輪車100の各構成要素について詳しく説明する。
【0028】
電動車両制御装置1は、電動二輪車100を制御する装置であり、制御部10と、記憶部20と、電力変換部30とを有している。なお、電動車両制御装置1は、電動二輪車100全体を統御するECU(Electronic Control Unit)として構成されてもよい。次に、電動車両制御装置1の各構成要素について詳しく説明する。
【0029】
制御部10は、電動車両制御装置1に接続された各種装置から情報を入力するとともに、電力変換部30を介してモータ3を駆動制御する。制御部10の詳細については後述する。
【0030】
記憶部20は、制御部10が用いる情報や、制御部10が動作するためのプログラムを記憶する。この記憶部20は、例えば不揮発性の半導体メモリであるが、これに限定されない。
【0031】
電力変換部30は、バッテリ21の直流電力を交流電力に変換してモータ3に供給する。この電力変換部30は、図2に示すように、3相のフルブリッジ回路で構成されている。半導体スイッチQ1,Q3,Q5はハイサイドスイッチであり、半導体スイッチQ2,Q4,Q6はローサイドスイッチである。半導体スイッチQ1~Q6の制御端子は、制御部10に電気的に接続されている。電源端子30aと電源端子30bとの間には平滑コンデンサCが設けられている。半導体スイッチQ1~Q6は、例えばMOSFETまたはIGBT等である。
【0032】
半導体スイッチQ1は、図2に示すように、バッテリ21の正極が接続された電源端子30aと、モータ3の入力端子3aとの間に接続されている。同様に、半導体スイッチQ3は、電源端子30aと、モータ3の入力端子3bとの間に接続されている。半導体スイッチQ5は、電源端子30aと、モータ3の入力端子3cとの間に接続されている。
【0033】
半導体スイッチQ2は、モータ3の入力端子3aと、バッテリ21の負極が接続された電源端子30bとの間に接続されている。同様に、半導体スイッチQ4は、モータ3の入力端子3bと、電源端子30bとの間に接続されている。半導体スイッチQ6は、モータ3の入力端子3cと、電源端子30bとの間に接続されている。なお、入力端子3aはU相の入力端子であり、入力端子3bはV相の入力端子であり、入力端子3cはW相の入力端子である。
【0034】
バッテリ21は、充放電可能である。具体的には、バッテリ21は、放電時に電力変換部30に直流電力を供給する。また、バッテリ21は、商用電源等の図示しない外部電源から供給された交流電力による充電時に、外部電源から供給された電力で充電される。
【0035】
また、バッテリ21は、モータ3が出力する交流電力(すなわち、起電力)による回生充電時に、モータ3が出力した交流電力を電力変換部30で変換した直流電圧によって充電される。
【0036】
バッテリ21の数は一つに限らず、複数であってもよい。バッテリ21は、例えばリチウムイオン電池であるが、他の種類のバッテリであってもよい。バッテリ21は、異なる種類(例えば、リチウムイオン電池と鉛電池)のバッテリから構成されてもよい。
【0037】
バッテリ管理ユニット22は、バッテリ21の電圧やバッテリ21の充電状態などのバッテリ21の状態を定期的に監視し、バッテリ21の状態関する情報を制御部10に送信する。
【0038】
また、バッテリ管理ユニット22は、バッテリ21の充電状態が予め設定された閾値より大きい正常領域から閾値以下の劣化領域になったか否かの判定(以下、劣化判定とも呼ぶ)を行う。
【0039】
また、バッテリ管理ユニット22は、バッテリ21の充電状態が劣化領域から正常領域に復帰したか否かの判定(以下、復帰判定とも呼ぶ)を行う。
【0040】
モータ3は、バッテリ21から供給された電力によって車輪8を駆動するためのトルクを出力する。
【0041】
具体的には、モータ3は、電力変換部30から供給される交流電力により駆動されることで、車輪8を駆動するためのトルクを出力する。トルクは、制御部10が電力変換部30の半導体スイッチQ1~Q6に目標トルクに基づいて算出された通電タイミングとデューティ比を有するPWM信号を出力することで制御されてもよい。このモータ3は、車輪8に機械的に接続されており、トルクによって所望の方向に車輪8を回転させる。本実施形態では、モータ3は、クラッチを介さずに車輪8に機械的に接続されている。なお、モータ3の種類は特に限定されない。
【0042】
また、モータ3は、モータ3の回転速度の減少時または外力によるモータ3の回転時に、交流電力を出力する。
【0043】
例えば、モータ3は、車両の走行中にブレーキがかけられることで車輪8とともにモータ3の回転が減速されたときに、交流電力を出力する。また、モータ3は、バッテリ21からモータ3に電力が供給されていない状態において車両が慣性によって走行する場合や坂道(下り坂)を走行する場合に、車輪8の回転にしたがって回転することで交流電力を出力する。
【0044】
モータ3が出力した交流電力は、電力変換部30によって直流電力に変換され、変換された直流電力でバッテリ21が回生充電される。
【0045】
アングルセンサ4は、モータ3のロータの回転角度を検出するセンサである。言い換えれば、アングルセンサ4は、モータ3の回転速度を検出するためのセンサである。図3に示すように、モータ3のロータの周面には、N極とS極の磁石(センサマグネット)が交互に取り付けられている。アングルセンサ4は、例えばホール素子により構成されており、モータ3の回転に伴う磁場の変化を検出する。なお、磁石は、フライホイール(図示せず)の内側に設けられてもよい。
【0046】
図3に示すように、アングルセンサ4は、U相アングルセンサ4uと、V相アングルセンサ4vと、W相アングルセンサ4wとを有している。本実施形態では、U相アングルセンサ4uとV相アングルセンサ4vとはモータ3のロータに対して30°の角度をなすように配置されている。同様に、V相アングルセンサ4vとW相アングルセンサ4wとはモータ3のロータに対して30°の角度をなすように配置されている。
【0047】
図4に示すように、U相アングルセンサ4u、V相アングルセンサ4vおよびW相アングルセンサ4wは、ロータアングル(角度位置)に応じた位相のパルス信号を出力する。
【0048】
また、図4に示すように、所定のロータアングルごとに、ロータステージを示す番号(ロータステージ番号)が割り振られている。ロータステージはモータ3のロータの角度位置を示しており、本実施形態では、電気角で60°ごとにロータステージ番号1,2,3,4,5,6が割り振られている。ロータステージは、U相アングルセンサ4u、V相アングルセンサ4vおよびW相アングルセンサ4wの出力信号のレベル(HレベルまたはLレベル)の組合せにより定義されている。例えば、ロータステージ番号1は(U相、V相、W相)=(H,L,H)であり、ロータステージ番号2は(U相、V相、W相)=(H,L,L)である。
【0049】
アクセルポジションセンサ5は、ユーザのアクセル操作により設定されたアクセル操作量を検知し、検知されたアクセル操作量を電気信号として制御部10に送信する。ユーザが加速したい場合に、アクセル操作量は大きくなる。アクセル操作量は、例えば、車両のアクセルグリップの回転操作量〔°〕であってもよいが、これに限定されない。
【0050】
メータ7は、電動二輪車100に設けられたディスプレイ(例えば液晶パネル)であり、各種情報を表示する。具体的には、電動二輪車100の走行速度、バッテリ21の残量、現在時刻、走行距離などの情報がメータ7に表示される。本実施形態では、メータ7は、電動二輪車100のハンドル(図示せず)に設けられる。
【0051】
なお、バッテリ管理ユニット22は、モータ3が出力した電力によるバッテリ21の回生充電を制御してもよい。
【0052】
例えば、バッテリ管理ユニット22は、アングルセンサ4のパルス信号に基づいて算出されたモータ3の回転速度が減速を示す場合、モータ3から出力された電力でバッテリ21を回生充電する制御を行ってもよい。また、バッテリ管理ユニット22は、例えば、アングルセンサ4のパルス信号が閾値以上且つアクセルポジションセンサ5の操作量が閾値以下であることに基づいて、車両の坂道走行状態または慣性走行状態を検出してもよい。そして、バッテリ管理ユニット22は、車両の坂道走行状態または慣性走行状態が検出された場合に、モータ3から出力された電力でバッテリ21を回生充電する制御を行ってもよい。なお、バッテリ管理ユニット22に代わり、または、バッテリ管理ユニット22とともに、制御部10が回生充電を制御してもよい。
【0053】
次に、制御部10について詳しく説明する。
【0054】
制御部10は、ユーザのアクセル操作に応じてバッテリ21からモータ3に供給される電力を制御することで、モータ3から出力されるトルクを制御する。
【0055】
例えば、制御部10は、目標トルクに基づいて算出された通電タイミングおよびデューティ比を有するPWM信号を生成し、生成されたPWM信号を半導体スイッチQ1~Q6に出力する。これにより、モータ3は、目標トルクを出力するように駆動される。
【0056】
本実施形態において、制御部10は、正常領域においては、正常領域における、トルク、モータ3の回転速度、およびアクセル操作量の対応関係を示す通常マップにしたがって、トルクを制御する。
【0057】
例えば、制御部10は、アングルセンサ4のパルス信号に基づいて検出されたモータ3の回転速度と、アクセルポジションセンサ5で検出されたアクセル操作量とに対応するトルクを通常マップから特定する。そして、制御部10は、特定されたトルクを目標トルクとしたPWM信号を半導体スイッチQ1~Q6に出力することで、通常マップにしたがったトルクの制御を行う。
【0058】
また、制御部10は、劣化領域においては、劣化領域における、トルク、回転速度、およびアクセル操作量の対応関係を示す抑制マップにしたがって、正常領域におけるトルクよりも抑制されるようにトルクを制御する。
【0059】
例えば、制御部10は、アングルセンサ4のパルス信号に基づいて検出されたモータ3の回転速度と、アクセルポジションセンサ5で検出されたアクセル操作量とに対応するトルクを抑制マップから特定する。そして、制御部10は、特定されたトルクを目標トルクとしたPWM信号を半導体スイッチQ1~Q6に出力することで、抑制マップにしたがったトルクの制御を行う。
【0060】
より具体的には、制御部10は、バッテリ管理ユニット22の劣化判定によって充電状態が劣化領域になったと判定された場合に、劣化領域になったと判定された劣化判定時から劣化領域になった場合におけるトルクの制御の切り替えに要する時間である劣化時切替時間をかけて、通常マップにしたがったトルクの制御から、抑制マップにしたがったトルクの制御への切り替えを行う。
【0061】
例えば、バッテリ管理ユニット22は、劣化領域になったと判定した場合に、トルクの抑制を要求する抑制フラグを制御部10に出力する。そして、制御部10は、抑制フラグに応じて、通常マップにしたがったトルクの制御から抑制マップにしたがったトルクの制御への切り替えを行う。
【0062】
また、制御部10は、バッテリ管理ユニット22の復帰判定によって正常領域に復帰したと判定された場合に、正常領域に復帰したと判定された復帰判定時から正常領域に復帰した場合におけるトルクの制御の切り替えに要する時間である復帰時切替時間をかけて、抑制マップにしたがったトルクの制御から、通常マップにしたがったトルクの制御への切り替えを行う。
【0063】
例えば、バッテリ管理ユニット22は、正常領域に復帰したと判定した場合に、トルクの抑制の解除を要求する抑制解除フラグを制御部10に出力する。そして、制御部10は、抑制解除フラグに応じて、抑制マップにしたがったトルクの制御から通常マップにしたがったトルクの制御への切り替えを行う。
【0064】
より具体的には、復帰時切替時間は、劣化時切替時間と異なる。より詳しくは、復帰時切替時間は、劣化時切替時間より短い。
【0065】
また、制御部10は、劣化領域になったと判定された場合に、劣化判定時のモータ3の回転速度およびアクセル操作量に対応する通常マップ上のトルクである劣化時切替元トルクと、劣化判定時のモータ3の回転速度およびアクセル操作量に対応する抑制マップ上のトルクである劣化時切替先トルクとの差分を算出してもよい。
【0066】
この場合、制御部10は、算出された劣化時切替元トルクと劣化時切替先トルクとの差分に応じた長さの劣化時切替時間を設定してもよい。そして、制御部10は、設定された劣化時切替時間をかけて劣化時切替元トルクから劣化時切替先トルクに切り替える制御を行ってもよい。
【0067】
この場合、制御部10は、劣化時切替元トルクと劣化時切替先トルクとの差分を劣化時切替時間で除した値を係数とした一次関数にしたがった変化量でトルクを変化させる制御を行うことで、劣化時切替時間をかけて劣化時切替元トルクから劣化時切替先トルクに切り替える制御を行ってもよい。
【0068】
なお、制御部10は、一次関数以外の関数(例えば、二次関数等)にしたがった変化量でトルクを変化させる制御を行うことで、劣化時切替時間をかけて劣化時切替元トルクから劣化時切替先トルクに切り替える制御を行ってもよい。また、関数にしたがったトルクの変化は、階段状の変化であってもよい。
【0069】
また、制御部10は、正常領域に復帰したと判定された場合に、復帰判定時のモータ3の回転速度およびアクセル操作量に対応する抑制マップ上のトルクである復帰時切替元トルクと、復帰判定時のモータ3の回転速度およびアクセル操作量に対応する通常マップ上のトルクである復帰時切替先トルクとの差分を算出してもよい。
【0070】
この場合、制御部10は、算出された復帰時切替元トルクと復帰時切替先トルクとの差分に応じた長さの復帰時切替時間を設定してもよい。そして、制御部10は、設定された復帰時切替時間をかけて復帰時切替元トルクから復帰時切替先トルクに切り替える制御を行ってもよい。
【0071】
この場合、制御部10は、復帰時切替元トルクと復帰時切替先トルクとの差分を復帰時切替時間で除した値を係数とした一次関数にしたがった変化量でトルクを変化させる制御を行うことで、復帰時切替時間をかけて復帰時切替元トルクから復帰時切替先トルクに切り替える制御を行ってもよい。
【0072】
なお、制御部10は、一次関数以外の関数(例えば、二次関数等)にしたがった変化量でトルクを変化させる制御を行うことで、復帰時切替時間をかけて復帰時切替元トルクから復帰時切替先トルクに切り替える制御を行ってもよい。
【0073】
(電動二輪車100の制御方法)
以下、図5のフローチャートおよび図6の説明図を参照して、電動車両制御方法の一例として、電動二輪車100の制御方法について説明する。なお、図5のフローチャートは、必要に応じて繰り返される。
【0074】
図5の例において、先ず、制御部10は、通常マップにしたがったモータ3のトルク制御を開始する(ステップS1)。
【0075】
通常マップにしたがったトルク制御を開始した後、バッテリ管理ユニット22は、バッテリ21の充電状態の取得を開始する(ステップS2)。
【0076】
充電状態の取得を開始した後、バッテリ管理ユニット22は、劣化領域になったか否かの判定(劣化判定)を行う(ステップS3)。
【0077】
そして、劣化領域になった場合(ステップS3:Yes)、バッテリ管理ユニット22は、制御部10に抑制フラグを出力する(ステップS4)。一方、劣化領域にならなかった場合(ステップS3:No)、バッテリ管理ユニット22は、通常マップにしたがったモータ3のトルク制御を繰り返す(ステップS1)。
【0078】
抑制フラグの出力に応じて、制御部10は、通常マップ上の劣化時切替元トルクT1と、抑制マップ上の劣化時切替先トルクT2との差分を算出する(ステップS5)。なお、図6には、通常マップ上の劣化時切替元トルクT1および抑制マップ上の劣化時切替先トルクT2が模式的に示されている。
【0079】
劣化時切替元トルクT1と劣化時切替先トルクT2との差分を算出した後、制御部10は、算出された差分に応じた長さの劣化時切替時間t1を設定する(ステップS6)。例えば、劣化時切替時間t1は、劣化時切替元トルクT1と劣化時切替先トルクT2との差分に比例する時間である。
【0080】
劣化時切替時間t1を設定した後、制御部10は、設定された劣化時切替時間t1をかけた劣化時切替元トルクT1から劣化時切替先トルクT2への切替を行う(ステップS7、図6)。
【0081】
このとき、制御部10は、以下の数式(1)に示す1次関数にしたがった変化量で、劣化時切替時間t1をかけて劣化時切替元トルクT1から劣化時切替先トルクT2までトルクを変化させる制御を行ってもよい。
T12=T1+(D1/t1)×t (1)
但し、T12は、劣化時切替元トルクT1から劣化時切替先トルクT2に切り替えるまでのトルクである。D1は、劣化時切替元トルクT1と劣化時切替先トルクT2との差分(T2-T1)である。tは、劣化判定時からの経過時間であり、最大値は、劣化時切替時間t1である。
【0082】
劣化時切替時間t1をかけて劣化時切替元トルクT1から劣化時切替先トルクT2への切替を行った後、制御部10は、抑制マップにしたがったトルク制御を開始する(ステップS8)。
【0083】
抑制マップにしたがったトルク制御を開始した後、バッテリ管理ユニット22は、正常領域に復帰したか否かの判定(復帰判定)を行う(ステップS9)。走行中に劣化領域から正常領域に復帰する場合としては、例えば、回生充電が行われた場合や、バッテリ21からモータ3への電力供給が一時的に停止された場合等が挙げられる。
【0084】
そして、正常領域に復帰した場合(ステップS9:Yes)、バッテリ管理ユニット22は、制御部10に抑制解除フラグを出力する(ステップS10)。一方、正常領域に復帰しなかった場合(ステップS9:No)、バッテリ管理ユニット22は、抑制マップにしたがったトルク制御を繰り返す(ステップS8)。
【0085】
抑制解除フラグの出力に応じて、制御部10は、抑制マップ上の復帰時切替元トルクT3と、通常マップ上の復帰時切替先トルクT4との差分を算出する(ステップS11)。なお、図6には、復帰時切替元トルクT3および復帰時切替先トルクT4が模式的に示されている。
【0086】
復帰時切替元トルクT3と復帰時切替先トルクT4との差分を算出した後、制御部10は、算出された差分に応じた長さの復帰時切替時間t2を設定する(ステップS12)。例えば、復帰時切替時間t2は、復帰時切替元トルクT3と復帰時切替先トルクT4との差分に比例する時間である。
【0087】
復帰時切替時間t2を設定した後、制御部10は、設定された復帰時切替時間t2をかけた復帰時切替元トルクT3から復帰時切替先トルクT4への切替を行う(ステップS13、図6)。
【0088】
このとき、制御部10は、以下の数式(2)に示す1次関数にしたがった変化量で、復帰時切替時間t2をかけて復帰時切替元トルクT3から復帰時切替先トルクT4までトルクを変化させる制御を行ってもよい。
T34=T3+(D2/t2)×t (2)
但し、T34は、復帰時切替元トルクT3から復帰時切替先トルクT4に切り替えるまでのトルクである。D2は、復帰時切替元トルクT3と復帰時切替先トルクT4との差分(T4-T3)である。tは、復帰判定時からの経過時間であり、最大値は、復帰時切替時間t2である。
【0089】
以下、実施形態によってもたらされる作用について説明する。
【0090】
エンジン車やハイブリット車両と異なり、モータ3のみを動力とした電動二輪車100は、バッテリ21の充電状態が車両の走行性能に与える影響が大きく、バッテリ21の充電状態が劣化領域と正常領域との間で切替わった場合の違和感が大きくなり得る。
【0091】
しかるに、本実施形態によれば、上述したように、劣化領域になったと判定された場合に、制御部10が、劣化判定時から劣化時切替時間t1をかけて、通常マップにしたがったトルクの制御から、抑制マップにしたがったトルクの制御への切り替えを行う。
【0092】
これにより、電動二輪車100において、バッテリの充電状態が正常領域と劣化領域との間で切替わったときに運転者に違和感を与えることを防止することができる。具体的には、充電状態が正常領域から劣化領域に切り替わったときに、運転者に加速感の低下による違和感を与えることを防止することができる。
【0093】
また、上述したように、制御部10は、正常領域に復帰したと判定された場合に、復帰判定時から復帰時切替時間t2をかけて、抑制マップにしたがったトルクの制御から、通常マップにしたがったトルクの制御への切り替えを行う。
【0094】
これにより、バッテリの充電状態が劣化領域から正常領域に切替わったときに運転者に違和感を与えることを防止することができる。
【0095】
また、上述したように、復帰時切替時間t2は、劣化時切替時間t1より短い。トルクが低下するときに運転者に与える違和感よりも、トルクが増加するときに運転者に与える違和感の方が小さい。このため、復帰時切替時間t2を劣化時切替時間t1より短くすることで、違和感を抑制しつつ、アクセル操作に応じたユーザの所望する速度まで迅速に車両を加速させることができる。
【0096】
また、上述したように、制御部10は、劣化領域になったと判定された場合に、劣化時切替元トルクT1と劣化時切替先トルクT2との差分に応じた長さの劣化時切替時間t1を設定し、設定された劣化時切替時間t1をかけて劣化時切替元トルクT1から劣化時切替先トルクT2に切り替える制御を行う。
【0097】
これにより、劣化時切替元トルクT1と劣化時切替先トルクT2との差分に応じた十分な長さの劣化時切替時間t1をかけて、劣化時切替元トルクT1から劣化時切替先トルクT2に切り替えることができるので、正常領域から劣化領域に切り替わったときに運転者に違和感を与えることを更に有効に防止することができる。
【0098】
また、上述したように、制御部10は、劣化時切替元トルクT1と劣化時切替先トルクT2との差分D1を劣化時切替時間t1で除した値を係数とした一次関数にしたがった変化量でトルクを変化させる制御を行ってもよい。
【0099】
これにより、劣化時切替時間t1をかけて劣化時切替元トルクT1から劣化時切替先トルクT2に切り替える制御を、一次関数にしたがって簡便に行うことができる。
【0100】
また、上述したように、制御部10は、正常領域に復帰したと判定された場合に、復帰時切替元トルクT3と復帰時切替先トルクT4との差分に応じた長さの復帰時切替時間t2を設定し、設定された復帰時切替時間t2をかけて復帰時切替元トルクT3から復帰時切替先トルクT4に切り替える制御を行う。
【0101】
これにより、復帰時切替元トルクT3と復帰時切替先トルクT4との差分に応じた十分な長さの復帰時切替時間t2をかけて、復帰時切替元トルクT3から復帰時切替先トルクT4に切り替えることができるので、劣化領域から正常領域に切り替わったときに運転者に違和感を与えることを更に有効に防止することができる。
【0102】
また、上述したように、制御部10は、復帰時切替元トルクT3と復帰時切替先トルクT4との差分D2を復帰時切替時間t2で除した値を係数とした一次関数にしたがった変化量でトルクを変化させる制御を行ってもよい。
【0103】
これにより、復帰時切替時間t2をかけて復帰時切替元トルクT3から復帰時切替先トルクT4に切り替える制御を、一次関数にしたがって簡便に行うことができる。
【0104】
また、上述したように、バッテリ管理ユニット22は、劣化領域になったと判定した場合に、制御部10に抑制フラグを出力し、正常領域に復帰したと判定した場合に、制御部10に抑制解除フラグを出力する。制御部10は、抑制フラグに応じて、通常マップにしたがったトルクの制御から抑制マップにしたがったトルクの制御への切り替えを行い、抑制解除フラグに応じて、抑制マップにしたがったトルクの制御から通常マップにしたがったトルクの制御への切り替えを行う。
【0105】
これにより、制御部10は、フラグに基づいて、トルクの制御に用いるマップを簡便に判断することができるので、制御部10の処理負荷を軽減することができる。
【0106】
上述した実施形態で説明した電動車両制御装置1(制御部10)の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、制御部10の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0107】
また、制御部10の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0108】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではない。異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0109】
1 電動車両制御装置
3 モータ
10 制御部
21 バッテリ
22 バッテリ管理ユニット
100 電動二輪車
図1
図2
図3
図4
図5
図6