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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】インフルエンザの治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/415 20060101AFI20220207BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20220207BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220207BHJP
   A61K 31/351 20060101ALI20220207BHJP
   A61K 31/215 20060101ALI20220207BHJP
   A61K 31/155 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
A61K31/415
A61P31/16
A61P43/00 121
A61K31/351
A61K31/215
A61K31/155
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019563650
(86)(22)【出願日】2018-02-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-27
(86)【国際出願番号】 AU2018050085
(87)【国際公開番号】W WO2018145148
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-02-01
(31)【優先権主張番号】2017900385
(32)【優先日】2017-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】519286706
【氏名又は名称】バイオトロン リミティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エワート,ゲイリー
(72)【発明者】
【氏名】ラスカム,キャロライン
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-543886(JP,A)
【文献】P. H. Jalily et al.,Mechanisms of Action of Novel Influenza A/M2 Viroporin Inhibitors Derived from Hexamethylene Amiloride,Molecular Pharmacology,2016年08月,90 (2),80-95
【文献】A. D. Balgi et al.,Inhibitors of the Influenza A Virus M2 Proton Channel Discovered Using a High-Throughput Yeast Growth Restoration Assay,PLOS One,2013年02月01日,8 (2),e55271
【文献】J. Wilkinson et al.,A Phase 1b/2a study of the safety, pharmacokinetics and antiviral activity of BIT225 in patients with HIV-1 infection,J. of Antimicrobial Chemotherapy,2016年,71,731-738
【文献】J. L. Nieva et al.,Viroporins: structure and biological functions,Nature Reviews Microbiology,2012年08月,10,563-574
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるインフルエンザウイルス感染の治療又は予防のための医薬組成物であって、有効量のN-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩を含む、医薬組成物
【請求項2】
インフルエンザウイルスの複製阻害する、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
インフルエンザウイルス感染に関連する合併症又は症状の重症度、強度、又は期間低減させる、請求項1又は請求項2に記載の医薬組成物
【請求項4】
インフルエンザウイルスの力価低減する、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項5】
インフルエンザウイルスが、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、及びC型インフルエンザウイルスから選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項6】
インフルエンザウイルスが、A型インフルエンザウイルスである、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項7】
A型インフルエンザウイルスが、H1N1、H1N2、H2N2、H3N2、H3N8、H5N1、H5N2、H5N3、H5N6、H5N8、H5N9、H7N1、H7N2、H7N3、H7N4、H7N7、H7N9、H9N2、及びH10N7亜型から選択される、請求項6に記載の医薬組成物
【請求項8】
A型インフルエンザウイルスが、H1N1、H3N2及びH5N1亜型から選択される、請求項6又は請求項7に記載の医薬組成物
【請求項9】
インフルエンザウイルスが、B型インフルエンザウイルスである、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項10】
N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩が、経口、経鼻、静脈内、腹腔内、吸入及び局所から選択される経路により投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項11】
N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩が、経口的に投与される、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項12】
N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩が、約100mg~約600mgの投与量で投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項13】
N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩が、経口的に、1日1回、約100mg~約200mgの投与量で投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項14】
N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩が、経口的に、1日2回、約100mg~約200mgの投与量で投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項15】
N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩が、1つ以上の追加の抗ウイルス剤と組み合わせて投与される、請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項16】
1つ以上の追加の抗ウイルス剤が、ザナミビル、オセルタミビル及びペラミビルから選択される、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
インフルエンザウイルス感染の治療又は予防のための医薬の製造のための、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項18】
インフルエンザウイルスの複製が阻害される、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
インフルエンザウイルス感染に関連する合併症又は症状の重症度、強度、又は期間が低減する、請求項17又は請求項18に記載の使用。
【請求項20】
インフルエンザウイルスの力価が低減する、請求項1719のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、オーストラリア仮特許出願第2017900385号(2017年2月8日出願)(その内容は、それらの全体において本明細書に組み込まれる)からの優先権を主張する。
【0002】
本発明は、インフルエンザウイルス感染の治療又は予防に関する。特に、本発明は、抗ウイルス化合物、並びにインフルエンザウイルス感染の治療若しくは予防におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
本明細書全体にわたる先行技術の任意の議論は、そのような先行技術が広く知られていること、又は当該分野における一般知識の一部を形成していることの承認として決して考えられるべきではない。
【0004】
インフルエンザは、現代医学では十分に制御されない数少ないよく見られる感染性疾患の1つである。インフルエンザの負荷は大きく、世界保健機関は、成人の5~10%及び小児の20~30%(世界人口における)(300~500万人)が毎年の流行にかかり、1年に250,000~500,000の死を引き起こすと推定している。
【0005】
インフルエンザ感染の症状は、軽度から重度であり得る。最も一般的な症状としては、高熱、鼻水、のどの痛み、筋肉痛、頭痛、咳、及び疲労が挙げられる。インフルエンザに関連する合併症としては、肺炎、気管支炎、副鼻腔感染、及び耳感染が挙げられる。インフルエンザによって引き起こされる他の起こり得る重篤な合併症としては、心臓、脳若しくは筋肉の炎症、並びに多臓器不全が挙げられる。気道の感染は、体内で極端な炎症反応を引き起こし、敗血症を引き起こし得る。インフルエンザはまた、慢性的医学的問題を悪化させ得る。例えば、喘息を有する人々はインフルエンザにかかっている間に喘息発作を経験し、慢性心疾患を有する人々はインフルエンザによって引き起こされるこの状態の悪化を経験し得る。
【0006】
インフルエンザは、オルトミクソウイルス科(family Orthomyxoviridae)のウイルスによって引き起こされ、A型、B型、及びC型と呼ばれる、人々にかかる3種類のインフルエンザウイルスがある。これらのインフルエンザウイルスは、一般に同様の症状を引き起こすが、ウイルス型は抗原的に無関係であり、そのため、1つの型による感染は他の型に対する免疫を付与しない。A型及びB型インフルエンザウイルスは、ほぼ毎年冬に季節的流行を引き起こす。人々に感染する新しい非常に異なるA型インフルエンザウイルスの出現は、インフルエンザのパンデミックを引き起こし得る。C型インフルエンザ感染は、一般に軽度の呼吸器疾患を引き起こし、流行を引き起こすとは考えられていない。
【0007】
A型インフルエンザウイルスは、2つの異なるウイルス表面タンパク質: 赤血球凝集素(亜型においてHA/H)及びノイラミニダーゼ(亜型においてNA/N)の遺伝的バリエーションに従って、異なる亜型に分類することができる。血清学的に区別可能な16個の異なるHA及び9個のNAがある。B型インフルエンザウイルスは、亜型に分けられないが、系統に分類することができる。現在広まっているB型インフルエンザウイルスは、2つの系統: B/山形(Yamagata)及びB/ビクトリア(Victoria)のうちの1つに属する。さらなるバリエーションが存在し、特定のインフルエンザ分離株は、ウイルスの種類、起源の宿主、地理的起源、分離の通し番号、分離年、並びにA型インフルエンザについてはHA及びNA亜型を特定する標準的命名法によって同定される。
【0008】
インフルエンザウイルスの新しい株が出現した場合、ヒト集団には生来の抵抗性がほとんどなく、既存のインフルエンザワクチンは、しばしば、限られた効力を有する。なぜならば、それらは、典型的には、新生株におけるものとは異なる特定のA型及びB型インフルエンザウイルスに対して有効であるためである。この現象は、定期的に発生する流行をもたらしている。さらに、インフルエンザウイルスは、新たな感染に対する免疫学的抵抗性のレベルを低下させる漸進的な抗原変異(抗原ドリフト)を受ける。パンデミックは数十年ごとに発生し、ウイルスのHA及びNA亜型の劇的な変化(抗原シフト)によるものである。
【0009】
現在広まっているA型及びB型ウイルスの死滅株を含有する抗インフルエンザワクチンは入手可能であるが、感染予防においてわずか50~60%の成功率を有する。ウイルスの新しいバリアントに対抗するには、標準的なインフルエンザワクチンを毎年再設計する必要がある。さらに、提供される免疫は短命である。したがって、広まっている株が大幅にドリフトし続ける場合、又は別の亜型が出現する場合、ワクチンは、パンデミックを予防又は制限しない可能性がある。代わりに、抗ウイルス剤は、新生パンデミックに対する初期の制御及び防御に不可欠である。
【0010】
抗ウイルス剤の2つのクラスが、ヒトインフルエンザに対する臨床用途について承認されている:
●ノイラミニダーゼ阻害剤-オセルタミビル(oseltamivir)、ザナミビル(zanamivir)、及びペラミビル(peramivir)を含む。
●M2イオンチャネル阻害剤-アマンタジン(amantadine)及びリマンタジン(rimantadine)を含む。これらの薬物は、構造的に異なるM2チャネルのため、A型インフルエンザウイルスに対しては有効であるが、B型インフルエンザウイルスに対しては有効ではない。
【0011】
オセルタミビル(oseltamivir)は、その経口送達のために、起こり得るインフルエンザパンデミックに備えて、政府及び組織にとってノイラミニダーゼ阻害剤の好ましい選択肢になっている。オセルタミビル(oseltamivir)の備蓄は、2009年のA型インフルエンザH1N1パンデミック中に利用された(Nguyen-Van-Tam et al., Clin Microbiol Infect, 2015. 21: 222-22)。しかし、オセルタミビル(oseltamivir)などのノイラミニダーゼ阻害剤の臨床的有効性は、まだ議論を受けている。最近の報告は、オセルタミビル(oseltamivir)が成人においてインフルエンザの症状の軽減までの時間をわずか16.8時間短縮し(Jefferson et al., Cochrane Database Syst Rev 2014;4)、肺炎、重篤な合併症、入院又は死亡の発生率を大幅に低減しなかった(Nguyen-Van-Tam et al., Clin Microbiol Infect, 2015. 21: 222-225)ことを示している。さらに、オセルタミビル(oseltamivir)の使用は、成人における吐き気、嘔吐、精神医学的影響、及び腎事象、並びに小児における嘔吐などの副作用のリスクを高めることが示されている(Jefferson et al., Cochrane Database Syst Rev 2014;4)。
【0012】
2007年以前は、インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ阻害剤に対する耐性は、一般に低く、約1%であった(Ilyushina et al., Antivir Res, 2006. 70(3): 121-131; Stiver, CMAJ, 2003. 168(1):49-57)。しかし、疾病管理予防センター(the Centres for Disease Control and Prevention)は、2007~2008年に、A型インフルエンザ(H1N1)がオセルタミビル(oseltamivir)耐性の出現及び世界的な広がりを示したと報告した。H275Y NA変異を持つオセルタミビル(oseltamivir)耐性A型インフルエンザウイルスは、遺伝的ドリフト及び薬物治療の結果として出現した。このオセルタミビル(oseltamivir)耐性インフルエンザウイルス株の出現以来、H275Y置換が将来のパンデミックを発生させ得るか、又はさらにはウイルスゲノム中に固定され得るという懸念がある。これは、ノイラミニダーゼ阻害剤の備蓄の理論的根拠に疑問を投げかけ(Nguyen-Van-Tam et al., Clin Microbiol Infect, 2015. 21: 222-225)、抗ウイルス薬の感受性を継続的に監視し、新規インフルエンザ抗ウイルス治療薬の研究を優先させる必要性を強調する(Samson, et al. Antiviral Res. 2013, 98(2):174-85)。
【0013】
ノイラミニダーゼ阻害剤とは異なり、アマンタジン(amantadine)及びリマンタジン(rimantadine)は安価で広く利用可能である。アマンタジン(amantadine)は、A型インフルエンザウイルスの複製を効率的に阻害するアダマンタン(adamantane)の誘導体である(Davies et al., Science, 1964. 144: 862-863)。この薬物は、エンベロープ膜中のインフルエンザウイルスM2タンパク質に直接結合し、ウイルス複製に不可欠なそのH+-導電性イオンチャネル活性をブロックすることにより、複製を阻害する(Sugrue & Hay, Virology, 1991. 180: 617-624; Pinto et al., Cell, 1992. 69: 517-528; Schroeder et al., J Gen Virol, 1994. 75: 3477-3484)。より高い濃度では、アマンタジン(amantadine)はまた、エンドソームのpHを間接的に上昇させ、これにより赤血球凝集素のpH感受性コンフォメーションが変化し、感染性ウイルス粒子の放出を低減する(Daniels et al., Cell, 1985. 40: 431-439; Steinhauer et al., Proc Natl Acad Sci, 1991. 88: 11525-11529)。
【0014】
しかし、アマンタジン(amantadine)及びリマンタジン(rimantadine)は、A型インフルエンザに対してのみ有効であり、これらの薬剤の存在下でウイルスを培養することにより、薬物耐性バリアントを容易に得ることができる(Cochran et al., Ann NY Acad Sci, 1965. 130(1): 432-439; Appleyard, J Gen Virol, 1977. 36: 249-255)。アマンタジン(amantadine)及びリマンタジン(rimantadine)耐性は、薬物のウイルス複製を阻害する能力を低減しながら、イオンチャネル活性を維持する、M2の膜貫通領域における変異の結果として生じる。ヒト集団で広まっていることが見出されたアマンタジン(amantadine)耐性A型インフルエンザウイルス株の頻度は、1995年の0.4%から2003~2004年の12.3%に上昇した(Bright et al., Lancet. 2005. 366, 1175-1181)。アジアからの分離株では、株の61%が、アマンタジン(amantadine)耐性を付与する変異を保有していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
インフルエンザの複数の亜型及び株、特に現在の療法に耐性のあるインフルエンザの亜型及び株の治療に有効な新しい抗ウイルス療法に対する必要性がある。
【0016】
本発明の目的は、先行技術の欠点の少なくとも1つを克服若しくは改善すること、又は有用な代替物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明の概要
以前は、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド(BIT225)は、A型インフルエンザのM2ビロポリンに対して限られた活性しか有しないことが示されており、インフルエンザを治療するのに適切であるとは考えられていなかった(Jalily et al., MolPharm, 2016. 90: 80-95)。しかし、本出願は、驚くべきことに、BIT225が、インフルエンザウイルスの複数の亜型及び株に対して活性を有することを示す。重要なことに、BIT225は、アマンタジン(amantadine)に耐性のある亜型及び株に対して活性を有することが見出されている。
【0018】
BIT225の化学構造を以下に示す:
【0019】
【化1】
【0020】
BIT225は、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチルピラゾール-4-イル)ナフタレン-2-カルボキサミド又は5-(1-メチルピラゾール-4-イル)2-ナフトイルグアニジンとも呼ばれ得る。
【0021】
本発明は、概して、インフルエンザを治療又は予防するための、インフルエンザウイルスの複製を阻害するための、インフルエンザに関連する合併症若しくは症状の重症度、強度、若しくは期間を低減するための、又はインフルエンザウイルスの力価を低減するための、BIT225又はその薬学的に許容される塩の使用に関する。
【0022】
一態様では、本発明は、対象におけるインフルエンザウイルス感染の治療又は予防方法であって、対象に、有効量のN-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩を投与するステップを含む、方法を提供する。
【0023】
別の態様では、本発明は、対象においてインフルエンザウイルスの複製を阻害する方法であって、対象に、有効量のN-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩を投与するステップを含む、方法を提供する。
【0024】
別の態様では、本発明は、対象においてインフルエンザウイルス感染に関連する合併症又は症状の重症度、強度、又は期間を低減する方法であって、対象に、有効量のN-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩を投与するステップを含む、方法を提供する。
【0025】
別の態様では、本発明は、対象においてインフルエンザウイルスの力価を低減する方法であって、対象に、有効量のN-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩を投与するステップを含む、方法を提供する。
【0026】
別の態様では、本発明は、インフルエンザウイルス感染の治療又は予防のための医薬の製造のための、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0027】
別の態様では、本発明は、インフルエンザウイルスの複製を阻害するための医薬の製造のための、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0028】
別の態様では、本発明は、インフルエンザウイルス感染に関連する合併症又は症状の重症度、強度、又は期間を低減するための医薬の製造のための、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0029】
別の態様では、本発明は、インフルエンザウイルスの力価を低減するための医薬の製造のための、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0030】
別の態様では、本発明は、対象においてインフルエンザウイルス感染を治療又は予防する方法に使用するための、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩を含む組成物を提供する。
【0031】
別の態様では、本発明は、対象においてインフルエンザウイルスの複製を阻害する方法に使用するための、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩を含む組成物を提供する。
【0032】
別の態様では、本発明は、対象においてインフルエンザウイルス感染に関連する合併症又は症状の重症度、強度、又は期間を低減する方法に使用するための、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩を含む組成物を提供する。
【0033】
別の態様では、本発明は、対象においてインフルエンザウイルスの力価を低減する方法に使用するための、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩を含む組成物を提供する。
【0034】
特定の実施形態では、インフルエンザウイルスは、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、及びC型インフルエンザウイルスから選択される。
【0035】
特定の実施形態では、インフルエンザウイルスは、任意の宿主起源(ヒト、ブタ、ニワトリ、ウマなど)のA型インフルエンザウイルスである。
【0036】
特定の実施形態では、A型インフルエンザウイルスは、H1N1、H1N2、H2N2、H3N2、H3N8、H5N1、H5N2、H5N3、H5N6、H5N8、H5N9、H7N1、H7N2、H7N3、H7N4、H7N7、H7N9、H9N2、及びH10N7亜型から選択される。
【0037】
特定の実施形態では、A型インフルエンザウイルスは、H1N1、H3N2及びH5N1亜型から選択される。
【0038】
特定の実施形態では、インフルエンザウイルスは、任意の系統のB型インフルエンザウイルスである。
【0039】
特定の実施形態では、B型インフルエンザウイルスは、B/山形及びB/ビクトリア系統から選択される。
【0040】
特定の実施形態では、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩は、経口、経鼻、静脈内、腹腔内、吸入及び局所から選択される経路により投与される。
【0041】
特定の実施形態では、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩は、経口的に投与される。
【0042】
特定の実施形態では、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩は、毎日投与される。
【0043】
特定の実施形態では、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩は、1日2回投与される。
【0044】
特定の実施形態では、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩は、約100mg~約600mgの投与量で投与される。
【0045】
特定の実施形態では、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩は、経口的に投与され、約600mgの投与量で投与される。
【0046】
特定の実施形態では、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩は、経口的に投与され、約200mgの投与量で投与される。
【0047】
特定の実施形態では、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩は、経口的に投与され、約100mgの投与量で投与される。
【0048】
特定の実施形態では、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩は、経口的に投与され、毎日投与される。
【0049】
特定の実施形態では、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩は、経口的に投与され、1日2回投与される。
【0050】
特定の実施形態では、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩は、経口的に、1日1回、約200mgの投与量で投与される。
【0051】
特定の実施形態では、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩は、経口的に、1日2回、約200mgの投与量で投与される。
【0052】
特定の実施形態では、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩は、経口的に、1日1回、約100mgの投与量で投与される。
【0053】
特定の実施形態では、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩は、経口的に、1日2回、約100mgの投与量で投与される。
【0054】
特定の実施形態では、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩は、1つ以上の追加の抗ウイルス剤と組み合わせて投与される。
【0055】
特定の実施形態では、追加の抗ウイルス剤は、ザナミビル(zanamivir)、オセルタミビル(oseltamivir)、及びペラミビル(peramivir)から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】この図はBIT225についてのEC50を示し、EC50は、野生型及びA30T変異体ウイルスの両方に対して約10μMであり、12μM及び18μMのそれぞれのEC90値を有した。これは、M2におけるA30T変異によって引き起こされるアマンタジン(amantadine)に対する薬物感受性の大きなシフトとは全く対照的である。
図2】この図は、それぞれA型インフルエンザM2又はHIV-1 Vpuのイオンチャネル配列を発現するキメラウイルスSHIV-1M2及びSHIV-1SCVpuのT細胞株(C8166)中での複製のBIT225による阻害を示す。10μM BIT225で処理すると、ウイルスp27タンパク質によって測定される培養上清に放出されるウイルスが低減した。担体溶媒単独(DMSO)で処理した対照を比較のために示す。
図3】この図は、非機能性Vpuイオンチャネルを有する変異体SHIV-1PND2ウイルスを10μM BIT225で処理することにより、ウイルスの複製は大幅に低減しないことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
定義
本発明の説明及び特許請求の範囲において、以下の用語は、以下に記載される定義に従って使用されている。また、本明細書で使用される用語は、本発明の特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図するものではないことも理解されたい。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が関係する当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0058】
本発明の文脈において、「含む(comprise)」、「含むこと(comprising)」などの単語は、それらの排他的な意味とは対照的に、それらの包括的な意味で解釈されるべきであり、「~を含むが、これに限定されない」という意味である。
【0059】
用語「好ましい」及び「好ましくは」は、特定の状況下で特定の恩恵をもたらし得る本発明の実施形態を指す。しかし、同じ又は他の状況下で、他の実施形態も好ましい可能性がある。さらに、1つ以上の好ましい実施形態の記載は、他の実施形態が有用ではないことを意味せず、他の実施形態を本発明の範囲から除外することを意図しない。
【0060】
用語「インフルエンザウイルス」は、本明細書で使用される場合、A型インフルエンザ、B型インフルエンザ、及びC型インフルエンザ、並びにそれらの変異体を含めた、オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae family)のRNAウイルスを指す。本明細書で企図されるA型インフルエンザウイルスとしては、その表面に2つの抗原性グリコシル化酵素: ノイラミニダーゼ及び赤血球凝集素を有するウイルスが挙げられる。本発明の材料及び方法を使用して治療することができるA型インフルエンザウイルスの様々な亜型としては、以下に限定されないが、H1N1、H1N2、H2N2、H3N2、H3N8、H5N1、H5N2、H5N3、H5N6、H5N8、H5N9、H7N1、H7N2、H7N3、H7N4、H7N7、H7N9、H9N2、及びH10N7が挙げられる。B型インフルエンザウイルスとしては、以下に限定されないが、B/山形及びB/ビクトリア系統が挙げられる。
【0061】
本明細書で使用される場合、用語「インフルエンザ(influenza)」又は「インフルエンザ(flu)」は、インフルエンザウイルスによって引き起こされる感染性疾患を指す。
【0062】
用語「症状」は、本明細書で使用される場合、対象が特定の状態又は疾患に罹患している徴候又は兆しを指す。例えば、インフルエンザ感染に関連する症状は、本明細書で使用される場合、対象がインフルエンザウイルスに感染している徴候又は兆しを指す。本明細書で企図されるインフルエンザ関連症状としては、以下に限定されないが、発熱、頭痛、疲労困憊/疲労、筋肉痛、関節痛、ひりひりする涙目、倦怠感、吐き気及び/又は嘔吐、震え、悪寒、胸痛、くしゃみ及び呼吸器症状(すなわち、炎症を起こした呼吸器粘膜、胸骨下の灼熱感、鼻汁、ひりひりする/痛む喉、乾いた咳、においの喪失)が挙げられる。
【0063】
インフルエンザ感染に関連する症状は、感染後24~48時間以内に始まる可能性があり、また、突然開始する可能性がある。悪寒又は寒気がする感覚は、しばしば、インフルエンザの最初の兆しである。発熱は最初の数日間はよく見られ、体温は39℃まで上昇し得る。多くの場合、対象は数日間ベッドにとどまるほど十分に具合が悪い; 対象はしばしば体全体にうずき及び痛みを経験し、背中及び脚で最も顕著である。
【0064】
本明細書で使用される場合、用語「合併症」は、疾患又は状態の本質的な部分ではない疾患又は状態の間に発生する病理学的プロセス又は事象を指す; それは疾患/状態から又は独立した原因から生じ得る。したがって、合併症という用語は、インフルエンザ感染と診断された対象に観察される医学的/臨床的問題を指す。インフルエンザ感染の1つの合併症は、インフルエンザ感染が慢性的な健康問題を悪化させ得ることである。例えば、インフルエンザ感染に関連する合併症としては、限定されないが、脳炎、気管支炎、気管炎、筋炎、鼻炎、副鼻腔炎、喘息、細菌感染(すなわち、ストレプトコッカス・アウレウス(streptococcus aureus)細菌感染、インフルエンザ菌(haemophilus influenzae)細菌感染、ブドウ球菌肺炎細菌感染)、心臓合併症(すなわち、心房細動、心筋炎、心膜炎)、ライ症候群、神経学的合併症(すなわち、錯乱、痙攣、精神病、神経炎、ギランバレー症候群、昏睡、横断性脊髄炎、脳炎、脳脊髄炎)、毒性ショック症候群、筋炎、ミオグロビン尿症、及び腎不全、クループ、中耳炎、ウイルス感染(すなわち、ウイルス性肺炎)、肺線維症、閉塞性細気管支炎、気管支拡張症、喘息の悪化、慢性閉塞性肺疾患の悪化、肺膿瘍、蓄膿症、肺アスペルギルス症、筋炎及びミオグロビン血症、心不全、妊婦における初期及び後期胎児死亡、妊婦における周産期死亡率の増加、及び出生時の先天性異常が挙げられる。
【0065】
本明細書で使用される場合、対象に療法を施すという文脈における用語「有効量」は、予防及び/又は治療効果(複数可)を有する療法の量を指す。特定の実施形態では、対象への療法の施行の文脈における「有効量」は、以下の効果のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、又はそれを超えるものを達成するのに十分な療法の量を指す: (i)インフルエンザウイルス感染、それに関連する疾患又は症状の重症度を低減又は改善する; (ii)インフルエンザウイルス感染、それに関連する疾患又は症状の期間を短縮する; (iii)インフルエンザウイルス感染、それに関連する疾患又は症状の進行を防止する; (iv)インフルエンザウイルス感染、それに関連する疾患又は症状の退行を引き起こす; (v)インフルエンザウイルス感染、それに関連する疾患又は症状の発展又は発症を防止する; (vi)インフルエンザウイルス感染、それに関連する疾患又は症状の再発を防止する; (vii)1つの細胞から別の細胞へ、1つの組織から別の組織へ、又は1つの臓器から別の臓器へのインフルエンザウイルスの広がりを低減又は防止する; (ix)1つの対象から別の対象へのインフルエンザウイルスの広がりを防止又は低減する; (x)インフルエンザウイルス感染に関連する臓器不全を低減する; (xi)対象の入院を低減する; (xii)入院期間を短縮する; (xiii)インフルエンザウイルス感染又はそれに関連する疾患を有する対象の生存率を増加させる; (xiv)インフルエンザウイルス感染又はそれに関連する疾患を排除する; (xv)インフルエンザウイルス複製を阻害又は低減する; (xvi)インフルエンザウイルスの宿主細胞(複数可)への侵入を阻害又は低減する; (xviii)インフルエンザウイルスゲノムの複製を阻害又は低減する; (xix)インフルエンザウイルスタンパク質の合成を阻害又は低減する; (xx)インフルエンザウイルス粒子の集合を阻害又は低減する; (xxi)宿主細胞(複数可)からのインフルエンザウイルス粒子の放出を阻害又は低減する; (xxii)インフルエンザウイルス力価を低減する; 及び/又は(xxiii)別の療法の予防又は治療効果(複数可)を増強又は改善する。
【0066】
特定の実施形態では、有効量は、インフルエンザウイルス疾患からの完全な防御をもたらさないが、未治療の対象と比較してインフルエンザウイルスの力価の低下又は数の低減をもたらす。特定の実施形態では、有効量は、未治療の対象と比較して、0.5倍、1倍、2倍、4倍、6倍、8倍、10倍、15倍、20倍、25倍、50倍、75倍、100倍、125倍、150倍、175倍、200倍、300倍、400倍、500倍、750倍、若しくは1,000倍又はそれを超えるインフルエンザウイルスの力価の低減をもたらす。いくつかの実施形態では、有効量は、未治療の対象と比較して、約1log以上、約2log以上、約3log以上、約4log以上、約5log以上、約6log以上、約7log以上、約8log以上、約9log以上、約10log以上、1~3log、1~5log、1~8log、1~9log、2~10log、2~5log、2~7log、2log~8log、2~9log、2~10log、3~5log、3~7log、3~8log、3~9log、4~6log、4~8log、4~9log、5~6log、5~7log、5~8log、5~9log、6~7log、6~8log、6~9log、7~8log、7~9log、又は8~9logのインフルエンザウイルスの力価/サンプルの体積又は重量における低減をもたらす。インフルエンザウイルスの力価、数、又は総負荷における低減の利点としては、以下に限定されないが、感染の症状が軽減すること、感染の症状が少なくなること、及び感染に関連する疾患の期間が短縮することが挙げられる。
【0067】
「同時投与」、「同時に投与すること」、「共投与」、「共投与される」などは、本明細書で使用される場合、インフルエンザ感染の治療又はインフルエンザ感染関連の症状/合併症の治療に適した様式で、BIT225若しくはその薬学的に許容される塩、並びに1つ以上の追加のウイルス治療薬を一緒に投与することを含む。本明細書で企図されるように、同時投与は、対象にBIT225若しくはその薬学的に許容される塩、並びに1つ以上の追加のウイルス治療薬を別個の化合物として、例えば、連続して、同時に、又は異なる時間に投与される別個の医薬組成物として提供することを含む。好ましくは、BIT225若しくはその薬学的に許容される塩、並びに1つ以上の追加のウイルス治療薬が別々に投与される場合、それらは、BIT225若しくはその薬学的に許容される塩、並びに1つ以上の追加のウイルス治療薬が相互作用できないほど、互いに時間的に離れて投与されない。BIT225若しくはその薬学的に許容される塩、並びに1つ以上の追加のウイルス治療薬は、任意の順序で投与してもよい。一実施形態では、BIT225又はその薬学的に許容される塩は、対象への1つ以上の追加のウイルス治療薬の投与の前(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、16時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、又は12週間前)に、それと同時に、又はその後(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、16時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、又は12週間後)に投与することができる。本発明によれば、同時投与はまた、例えば医薬組成物中で、BIT225又はその薬学的に許容される塩と混合した1つ以上の追加のウイルス治療薬を提供することを包含する。
【0068】
本発明の追加のウイルス治療薬は、ワクチン接種又は抗ウイルス薬物、例えばノイラミニダーゼ若しくは赤血球凝集素阻害剤、又は免疫系若しくは宿主細胞因子を調節する薬物を含む。本発明に従って使用するために企図されるウイルス治療薬としては、以下に限定されないが、アマンタジン(amantadine)、リマンタジン(rimantadine)、リバビリン(ribavirin)、イドクスウリジン(idoxuridine)、トリフルリジン(trifluridine)、ビダラビン(vidarabine)、アシクロビル(acyclovir)、ガンシクロビル(ganciclovir)、ホスカルネット(foscarnet)、ジドブジン(zidovudine)、ジダノシン(didanosine)、ペラミビル(peramivir)、ザルシタビン(zalcitabine)、スタブジン(stavudine)、ファムシクロビル(famciclovir)、オセルタミビル(oseltamivir)、ザナミビル(zanamivir)、及びバラシクロビル(valaciclovir)が挙げられる。
【0069】
関連する実施形態では、インフルエンザ感染と診断された対象に、BIT225又はその薬学的に許容される塩を、インフルエンザ感染に関連する症状の治療に有用な他の治療薬と同時に投与してもよい。例えば、鎮咳薬、粘液溶解薬、去痰薬、解熱薬、鎮痛薬、又は鼻充血除去薬を、インフルエンザ感染と診断された対象に、BIT225又はその薬学的に許容される塩と同時に投与することができる。
【0070】
本明細書で使用される場合、用語「感染」は、細胞又は対象におけるウイルスの増殖及び/又は存在による侵入を意味する。一実施形態では、感染は、「活動的な」感染、すなわち、ウイルスが細胞又は対象中で複製している感染である。そのような感染は、ウイルスが最初に感染した細胞、組織、及び/又は臓器から、ウイルスが他の細胞、組織、及び/又は臓器に広がることを特徴とする。感染は潜伏性感染、すなわち、ウイルスが休眠状態である感染でもよい。
【0071】
本明細書で使用される場合、表現「インフルエンザウイルス感染を治療すること」は、対象におけるインフルエンザウイルス感染の少なくとも1つの症状若しくは生物学的結果を改善、低減、若しくは軽減すること、並びに/又はインフルエンザウイルスへの曝露後の対象におけるインフルエンザウイルス力価、ロード、複製若しくは増殖を低減する若しくは減少させることを意味する。表現「インフルエンザウイルス感染を治療すること」はまた、インフルエンザウイルスが感染した後、対象がインフルエンザウイルス感染の少なくとも1つの症状又は生物学的結果を示す期間を短縮することを含む。本発明によるインフルエンザウイルス感染を治療する方法は、対象がインフルエンザウイルスに感染した後、並びに/又は対象がインフルエンザウイルス感染の1つ以上の症状若しくは生物学的結果を示すか又はそれと診断された後に、本発明の医薬組成物を対象に投与することを含む。
【0072】
本明細書で使用される場合、表現「インフルエンザウイルス感染を予防すること」は、対象におけるインフルエンザウイルス感染の少なくとも1つの症状若しくは生物学的結果を予防すること、並びに/又はインフルエンザウイルスが動物の体の細胞内/細胞間で侵入、拡大、及び/若しくは増殖することができる程度を阻害する若しくは弱めることを意味する。表現「インフルエンザウイルス感染を予防すること」はまた、インフルエンザウイルス感染の少なくとも1つの症状又は生物学的結果に対する対象の感受性を減少させることを含む。インフルエンザウイルス感染を予防する方法(すなわち、予防)は、対象がインフルエンザウイルスに感染する前、並びに/又は対象がインフルエンザウイルス感染の1つ以上の症状若しくは生物学的結果を示す前に、本発明の医薬組成物を対象に投与することを含む。インフルエンザウイルス感染を予防する方法は、1年のうちの特定の期間又は季節(例えば、個体のピーク数がインフルエンザウイルス感染を経験することが典型的に見出される時の直前の1~2ヶ月の期間中)に、又は対象がインフルエンザウイルス感染の頻度が高い環境に移動するか若しくはその環境に曝される前に、並びに/又は対象がインフルエンザウイルスに感染した他の対象に曝される前に、本発明の医薬組成物を対象に投与することを含んでもよい。
【0073】
本明細書で使用される場合、ウイルスの文脈における用語「複製」、「ウイルスの複製」及び「ウイルス複製」は、ウイルスの増殖をもたらすウイルスライフサイクルの段階の1つ以上又は全てを指す。ウイルスライフサイクルのステップは、以下に限定されないが、宿主細胞表面へのウイルス付着、宿主細胞の浸透又は侵入(例えば、受容体媒介エンドサイトーシス又は膜融合による)、脱殻(ウイルスカプシドがウイルス酵素又は宿主酵素により除去及び分解され、こうして、ウイルスゲノム核酸を放出するプロセス)、ゲノム複製、ウイルスメッセンジャーRNA(mRNA)の合成、ウイルスタンパク質合成、及びゲノム複製のためのウイルスリボ核タンパク質複合体の集合、ウイルス粒子の集合、ウイルスタンパク質の翻訳後修飾、及び溶解若しくは出芽による宿主細胞からの放出、及び埋め込まれたウイルス糖タンパク質を含有するリン脂質エンベロープの獲得を含む。いくつかの実施形態では、用語「複製」、「ウイルスの複製」及び「ウイルス複製」は、ウイルスゲノムの複製を指す。他の実施形態では、用語「複製」、「ウイルスの複製」及び「ウイルス複製」は、ウイルスタンパク質の合成を指す。
【0074】
本明細書で使用される場合、ウイルスの文脈における用語「力価」は、所定体積の血液若しくは他の生物学的液体又は組織若しくは臓器重量中に存在するウイルス粒子の数を指す。用語「ウイルスロード」及び「ウイルス負荷」を使用してもよい。
【0075】
本明細書で使用される場合、用語「対象」は、動物(例えば、鳥、爬虫類、及び哺乳動物)を指すために使用される。特定の実施形態では、対象は、鳥である。別の実施形態では、対象は、哺乳動物、例えば非霊長類(例えば、ラクダ、ロバ、シマウマ、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ラット、及びマウス)及び霊長類(例えば、サル、チンパンジー、及びヒト)である。特定の実施形態では、対象は、非ヒト動物である。いくつかの実施形態では、対象は、家畜又はペットである。別の実施形態では、対象は、ヒトである。別の実施形態では、対象は、ヒト幼児である。別の実施形態では、対象は、ヒト小児である。別の実施形態では、対象は、ヒト成人である。別の実施形態では、対象は、高齢のヒトである。別の実施形態では、対象は、早産のヒト幼児である。
【0076】
投与経路としては、以下に限定されないが、静脈内、腹腔内、皮下、頭蓋内、皮内、筋肉内、眼内、髄腔内、脳内、鼻腔内、経粘膜、又は注入による、経口的、直腸的、iv点滴による、パッチ、及びインプラントが挙げられる。経口経路が特に好ましい。
【0077】
注射用途に適した組成物としては、滅菌水溶液(水溶性の場合)及び滅菌注射溶液の即時調製用の滅菌粉末が挙げられる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、及び植物油を含有する溶媒又は分散媒であってもよい。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらすことができる。多くの場合、等張剤、例えば糖又は塩化ナトリウムを含めることが好ましい。注射用組成物の長期吸収は、吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの組成物中での使用によりもたらすことができる。
【0078】
滅菌注射溶液は、必要な量の活性化合物を、必要に応じて上に列挙した他の様々な成分とともに適切な溶媒に組み込み、その後、例えば、フィルター滅菌又は他の適切な手段による滅菌を行うことによって調製される。分散液も企図され、これらは、基本的な分散媒及び上に列挙したものからの必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに様々な滅菌活性成分を組み込むことにより調製してもよい。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥及び凍結乾燥技術を含み、これらは、前もって滅菌ろ過された溶液から活性成分及び任意の追加の所望の成分の粉末を生じる。
【0079】
活性成分が適切に保護されている場合、それらは、例えば不活性希釈剤又は同化可能な食用担体とともに経口的に投与されてもよく、又はハード若しくはソフトシェルゼラチンカプセルに封入されてもよく、又は錠剤に圧縮されてもよい。経口治療投与の場合、活性化合物は、賦形剤とともに組み込まれ、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウエハー(wafer)などの形態で使用され得る。そのような組成物及び調製物は、少なくとも0.01重量%、より好ましくは0.1重量%、さらにより好ましくは1重量%の活性化合物を含有するべきである。組成物及び調製物の割合は、当然ながら変動してもよく、好都合には、単位の重量の約1~約99%、より好ましくは約2~約90%、さらにより好ましくは約5~約80%であってよい。そのような治療上有用な組成物中の活性化合物の量は、適切な投与量が得られるようなものである。本発明による好ましい組成物又は調製物は、経口投与単位形態が約0.1ng~2000mgの活性化合物を含有するように調製される。
【0080】
錠剤、トローチ、丸剤、カプセルなどはまた、以下に列挙される成分を含有してもよい: 結合剤、例えば、ガム、アカシア、コーンスターチ、又はゼラチン; 賦形剤、例えば、リン酸二カルシウム; 崩壊剤、例えば、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸など; 滑沢剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム; 及び甘味剤、例えば、スクロース、ラクトース又はサッカリンを添加してもよく、又は香味剤、例えば、ペパーミント、冬緑油、又はチェリー香味剤を添加してもよい。投与単位形態がカプセルである場合、それは、上記の種類の材料に加えて、液体担体を含有してもよい。コーティングとして、又は投与単位の物理的形態を他の方法で変更するために、様々な他の材料が存在してもよい。例えば、錠剤、丸剤、又はカプセルは、シェラック、糖、又はその両方でコーティングしてもよい。シロップ又はエリキシルは、活性化合物、甘味剤としてのスクロース、防腐剤としてのメチル及びプロピルパラベン、色素、並びに香味剤、例えば、チェリー若しくはオレンジフレーバーを含有してもよい。任意の投与単位形態の調製に使用される任意の材料は、医薬的に純粋であり、使用される量で実質的に無毒であるべきである。さらに、活性化合物(複数可)は、徐放性調製物及び製剤に組み込まれてもよい。
【0081】
本発明はまた、局所適用に適した形態、例えば、クリーム、ローション及びゲルにまで及ぶ。そのような形態では、表面障壁の貫通を支援するために、成分を添加又は改変してもよい。
【0082】
投与単位形態及び局所調製物の調製手順は、Pharmaceutical Handbook, 19th edition (Edited by Ainley Wade), The Pharmaceutical Press London; CRC Handbook of Chemistry and Physics (edited by Robert C. Weast), CRC Press Inc.; Goodman and Gilman's The Pharmacological basis of Therapeutics, 9th edition, McGraw Hill; Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 19th edition (edited by Joseph P. Remington and Alfonso R. Gennaro), Mack Publishing Co.などの教科書から当業者に容易に利用可能である。
【0083】
用語「薬学的に許容される塩」は、本明細書で使用される場合、薬学的に許容され、BIT225の活性を大きく低減又は阻害しないBIT225の任意の塩を指す。適切な例としては、有機酸又は無機酸との酸付加塩、例えば、酢酸塩、酒石酸塩、トリフルオロ酢酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、又は塩化物が挙げられる。
【0084】
薬学的に許容される担体及び/又は希釈剤は、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを含む。薬学的に活性な物質についてのそのような媒体及び薬剤の使用は、当技術分野で周知である。任意の従来の媒体又は薬剤が活性成分と不適合である場合を除いて、治療組成物におけるその使用が企図される。補助的な活性成分も組成物に組み込むことができる。
【0085】
投与の容易さ及び投与量の均一性のために、投与単位形態で非経口組成物を製剤化することが特に有利である。投与単位形態は、本明細書で使用される場合、治療すべき対象について単位投与量として適した物理的に別個の単位を指す; 各単位は、必要な医薬担体に関連して所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性物質を含有する。本発明の新規な投与単位形態の特定は、(a)活性物質の固有の特徴及び達成すべき特定の治療効果、並びに(b)調合の技術に内在する制限によって規定され、かつそれに直接依存する。
【0086】
本発明によって企図される有効量は、状態の重症度、並びにレシピエントの健康及び年齢に応じて変動する。一般的に、有効量は、0.01ng/kg体重から約100mg/kg体重まで変動し得る。有効量は、約100mg~約600mg、特に約100mg、約150mg、約200mg、約250mg、約300mg、約350mg、約400mg、約450mg、約500mg、約550mg、又は約600mgを含む。
【0087】
実施例、又は他に示されている場合以外、本明細書で使用される成分の量又は反応条件を表す全ての数は、全ての場合に用語「約」によって修飾されると理解すべきである。
【0088】
エンドポイントを使用した数値範囲の記載は、その範囲内に包含される全ての数を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。
【0089】
本発明の好ましい実施形態
本明細書に詳述される特定の実施形態を参照して本発明を説明しているが、他の実施形態は同じ又は同様の結果を達成することができる。本発明のバリエーション及び変更は当業者には明らかであり、本発明は全てのそのような変更及び均等物に及ぶことが意図される。
【0090】
本出願は、BIT225が、インフルエンザウイルスの複数の亜型及び株に対して活性を有するという驚くべき知見に基づく。重要なことに、BIT225は、アマンタジン(amantadine)に耐性のある亜型及び株に対して活性を有することが見出されている。
【0091】
本発明は、インフルエンザを治療又は予防するための方法及び組成物(例えば、医薬組成物)を提供する。
【0092】
本発明は、ウイルス感染を予防及び/又は治療するための材料及び方法を提供する。具体的には、本発明は、インフルエンザ感染を予防する; インフルエンザ感染に関連する症状を治療する/改善する; 及び/又はインフルエンザ感染に関連する合併症の発症を予防する/遅延させるための材料及び方法を提供する。
【0093】
本発明は、対象におけるインフルエンザウイルス感染の治療又は予防方法であって、対象に、有効量のBIT225又はその薬学的に許容される塩を投与するステップを含む、方法を提供する。
【0094】
本発明はまた、対象においてインフルエンザウイルスの複製を阻害する方法であって、対象に、有効量のBIT225又はその薬学的に許容される塩を投与するステップを含む、方法を提供する。
【0095】
本発明は、対象においてインフルエンザウイルス感染に関連する合併症又は症状の重症度、強度、又は期間を低減する方法であって、対象に、有効量のBIT225又はその薬学的に許容される塩を投与するステップを含む、方法をさらに提供する。
【0096】
本発明は、対象においてインフルエンザウイルスの力価を低減する方法であって、対象に、有効量のBIT225又はその薬学的に許容される塩を投与するステップを含む、方法をさらに提供する。
【実施例
【0097】
本発明は、以下の非限定的な実施例によりさらに説明される。
【0098】
BIT225の生成
250mLの丸底フラスコ中の5-ブロモ-2-ナフトエ酸(2.12g、8.44mmol)、1-メチル-4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-1H-ピラゾール(1.84g、8.86mmol)、及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(502mg、0.435mmol)の混合物を、排気し、窒素でパージした(3回のサイクルにおいて)。アセトニトリル(40mL)及び2M炭酸ナトリウム水溶液(10mL)をシリンジにより混合物に添加し、混合物を還流下で窒素下で22時間加熱した。反応混合物を冷まし、その後、1M塩酸水溶液(30mL)を添加し、次いで、それを酢酸エチル(3×50mL)で抽出した。合わせた有機層を乾燥させ(MgSO4)、ろ過し、真空中で濃縮し、粗生成物(空気乾燥後2.98g)を得た。この粗材料を熱エタノール(150mL)に溶解し、熱いうちにろ過して、黄色不純物(120mg)を除去した。ろ液を真空中で濃縮し、残渣をジクロロメタン(30mL)から再結晶化し、5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトエ酸を白色固体(724mg、34%)として得た。2回目の収穫の5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトエ酸(527mg、25%)は、ジクロロメタン(20mL)からの再結晶化により濃縮母液から得られた。
【0099】
塩化オキサリル(1.1mL、13mmol)を、ジメチルホルムアミド(2滴)を含有する無水ジクロロメタン(200mL(溶解をもたらすために反応中に小分けにして添加した))中の5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトエ酸(1.19g、4.71mmol)の溶液に窒素下で添加し、混合物を室温で4.25時間攪拌した。次いで、反応混合物を40℃で1時間加熱し、その後、減圧下で濃縮した。得られた粗酸塩化物を無水テトラヒドロフラン(50mL)に懸濁し、この混合物を2M水酸化ナトリウム水溶液(15mL、30mmol)中のグアニジン塩酸塩(2.09g、21.9mmol)の溶液に滴下して添加し、次いで、反応混合物を30分間攪拌した。有機相を分離し、水相をクロロホルム(3×30mL)、その後、酢酸エチル(3×30mL)で抽出した。合わせた有機抽出物を1M水酸化ナトリウム水溶液(60mL)及び水(40mL)で連続して洗浄し、次いで、乾燥させ(Na2SO4)、真空中で濃縮して、ガラス状の固体(高真空下で乾燥後1.45g)を得た。この固体をジクロロメタンに溶解し、次いで、これをゆっくりと蒸発させて、BIT225を黄色固体(1.15g、83%)として得た。
【0100】
ウイルス株
BIT225の活性は、次のウイルス株に対して測定した:
●A型インフルエンザ/ニューカレドニア(New Caledonia)/20/99(H1N1)。最新のワクチン(CDC)に使用される最近の臨床分離株;
●A型インフルエンザ/パナマ(Panama)/2007/99(H3N2)。最新のワクチン(CDC)に使用される最近の臨床分離株;
●B型インフルエンザ/香港(Hong Kong)/330/02。最新のワクチン(CDC)に使用される最近の臨床分離株;
●A型インフルエンザ/NWS/33(H1N1)。よく認識されている実験室株(KW. Cochran, Univ. Michigan)。
【0101】
特定の研究ではA/NWS/33ウイルスはトリプシンなしで使用したが、全てのウイルス株はトリプシンの存在下で試験した。
【0102】
抗ウイルス活性のアッセイ:
迅速スクリーニングアッセイ
標準的な細胞変性効果(CPE)アッセイは、適切な細胞の18時間単層(80~100%コンフルエント)を使用し、培地を除去し、各濃度の試験化合物又はプラセボを添加し、その後15分以内にウイルス又はウイルス希釈液を添加する。抗ウイルス試験及び細胞毒性試験の両方について、化合物の各濃度について2つのウェルを使用する。プレートを密封し、ほぼ最大のウイルスCPEを誘導するのに必要な標準時間インキュベートする。次いで、以下に説明する方法でプレートをニュートラルレッドで染色し、生細胞を示す取り込みの割合を405及び540nmの二重波長でマイクロプレートオートリーダーで読み取り、バックグラウンドを除去するために差を取る。おおよそのウイルス阻害濃度、50%エンドポイント(EC50)及び細胞阻害濃度、50%エンドポイント(CC50)を決定し、これらから一般的な選択性指数を計算する: SI=(CC50)/(EC50)。3以上のSIは、確認試験を誘発する。
【0103】
ウイルス細胞変性効果(CPE)の阻害
このアッセイは、96ウェルの平底マイクロプレートで実行され、全ての新しい試験化合物の最初の抗ウイルス評価に使用される。このCPE阻害試験では、各試験化合物の4個のlog10希釈液(例えば、1000、100、10、1μg/mL)を、細胞単層を含有する3個のウェルに添加し、5分以内にウイルスを添加し、プレートを密封し、37℃でインキュベートする。CPEは、未処理の感染対照が3~4+のCPEを生じるとき(約72~120時間)に顕微鏡で読み取る。公知の陽性対照薬物を、各アッセイ実行で試験薬物と並行して評価する。最初のスクリーニング試験で有効であることが見出された化合物を使用したフォローアップ試験を、各化合物の8個の1/2log10希釈液を、1つの希釈液あたり細胞単層を含有する4個のウェルに使用することを除いて、同じ方法で実行する。
【0104】
データを、50%有効濃度(EC50)として表す。
【0105】
ニュートラルレッド色素の取り込みの増加
このアッセイは、最初の試験で観察されたCPE阻害を検証するために実行され、CPEが評価された後に同じ96ウェルマイクロプレートを利用する。ニュートラルレッドを培地に添加する; ウイルスによって損傷を受けていない細胞は、より大量の色素を取り込み、これをコンピュータ化されたマイクロプレートオートリーダーで読み取る。McManus(McManus, App Environ Microbiol, 1976. 31(1): 35-38)によって記載された方法を使用する。EC50を色素取り込みから決定する。
【0106】
BIT225は、アマンタジン(amantadine)感受性ウイルス及びアマンタジン(amantadine)耐性ウイルスの両方に対する抗ウイルス活性を有する。その広いスペクトル活性及び特にB型インフルエンザに対するその活性により、それは、重要な抗ウイルス化合物となる。メイディン・ダービー(Madin Darby)イヌ腎臓(MDCK)細胞におけるBIT225のA型及びB型インフルエンザに対する抗ウイルスデータを表1にまとめる。市販の抗ウイルス剤は、一般に、B型インフルエンザに対する抗ウイルス活性を有しない。
【0107】
【表1】
【0108】
用量反応プラーク低減アッセイ
BIT225の抗A型インフルエンザウイルス活性を、メイディン・ダービー(Madin Darby)イヌ腎臓(MDCK)細胞におけるin vitro用量反応プラーク低減アッセイによって確認した。実験室株PR8をこれらの実験で使用し、アマンタジン(amantadine)耐性バリアントウイルスを、アラニンの代わりに30位の配列トレオニンをコードするようにM2遺伝子を変異させることによって作成した。[A30T]変異体ウイルスはPR8 4Cとして公知である。
【0109】
プラークアッセイを、MDCK細胞の単層に感染させるために150μLの培地中に1×103pfuのPR8組換えウイルスを利用して、Haydenら(Hayden et al., Antimicrob Agents Chemother, 1980. 17(5): 865-870)によって記載されたように実施した。
【0110】
ウイルスのこの希釈により、未処理の対照ウェルに約100個のプラークが得られる。BIT225をDMSOに溶解し、示された最終濃度で培地に添加した。毒性対照は、MDCK細胞において100μMまでBIT225の毒性効果を示さなかった。
【0111】
図1は、BIT225がアマンタジン(amantadine)感受性PR8ウイルス及びアマンタジン(amantadine)耐性PR8ウイルスの両方のウイルス複製を低減することができたことを示す。BIT225についてのEC50は、野生型及びA30T変異体ウイルスの両方に対して約10μMであり、12μM及び18μMのそれぞれのEC90値を有した。これは、M2におけるA30T変異によって引き起こされるアマンタジン(amantadine)に対する薬物感受性の大きなシフトとは全く対照的である。
【0112】
キメラウイルス研究
それぞれA型インフルエンザM2又はHIV-1 Vpuのイオンチャネル配列を発現するキメラウイルスSHIV-1M2及びSHIV-1SCVpuのT細胞株(C8166)中での複製に対するBIT225の効果を調べるために、実験を行った。10μM BIT225で処理すると、ウイルスp27タンパク質によって測定される培養上清に放出されるウイルスが低減した(図2)。担体溶媒単独(DMSO)で処理した対照を比較のために示す。
【0113】
しかし、非機能性Vpuイオンチャネルを有する変異体SHIV-1PND2ウイルスを10μM BIT225で処理することにより、ウイルスの複製は大幅に低減しない(図3)。
【0114】
まとめると、これらの結果は、Vpu又はM2イオンチャネルの阻害が、BIT225のインフルエンザに対する作用の起こり得るメカニズムであることを示す。
(付記)
(付記1)
対象におけるインフルエンザウイルス感染の治療又は予防方法であって、対象に、有効量のN-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩を投与するステップを含む、方法。
(付記2)
インフルエンザウイルスの複製が阻害される、付記1に記載の方法。
(付記3)
インフルエンザウイルス感染に関連する合併症又は症状の重症度、強度、又は期間が低減する、付記1又は付記2に記載の方法。
(付記4)
インフルエンザウイルスの力価が低減する、付記1~3のいずれか一つに記載の方法。
(付記5)
インフルエンザウイルスが、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、及びC型インフルエンザウイルスから選択される、付記1~4のいずれか一つに記載の方法。
(付記6)
インフルエンザウイルスが、A型インフルエンザウイルスである、付記1~5のいずれか一つに記載の方法。
(付記7)
A型インフルエンザウイルスが、H1N1、H1N2、H2N2、H3N2、H3N8、H5N1、H5N2、H5N3、H5N6、H5N8、H5N9、H7N1、H7N2、H7N3、H7N4、H7N7、H7N9、H9N2、及びH10N7亜型から選択される、付記6に記載の方法。
(付記8)
A型インフルエンザウイルスが、H1N1、H3N2及びH5N1亜型から選択される、付記6又は付記7に記載の方法。
(付記9)
インフルエンザウイルスが、B型インフルエンザウイルスである、付記1~5のいずれか一つに記載の方法。
(付記10)
N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩が、経口、経鼻、静脈内、腹腔内、吸入及び局所から選択される経路により投与される、付記1~9のいずれか一つに記載の方法。
(付記11)
N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩が、経口的に投与される、付記1~10のいずれか一つに記載の方法。
(付記12)
N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩が、約100mg~約600mgの投与量で投与される、付記1~11のいずれか一つに記載の方法。
(付記13)
N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩が、経口的に、1日1回、約100mg~約200mgの投与量で投与される、付記1~12のいずれか一つに記載の方法。
(付記14)
N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩が、経口的に、1日2回、約100mg~約200mgの投与量で投与される、付記1~12のいずれか一つに記載の方法。
(付記15)
N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩が、好ましくはザナミビル、オセルタミビル及びペラミビルから選択される、1つ以上の追加の抗ウイルス剤と組み合わせて投与される、付記1~14のいずれか一つに記載の方法。
(付記16)
インフルエンザウイルス感染の治療又は予防のための医薬の製造のための、N-カルバムイミドイル-5-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-2-ナフトアミド又はその薬学的に許容される塩の使用。
(付記17)
インフルエンザウイルスの複製が阻害される、付記16に記載の使用。
(付記18)
インフルエンザウイルス感染に関連する合併症又は症状の重症度、強度、又は期間が低減する、付記16又は付記17に記載の使用。
(付記19)
インフルエンザウイルスの力価が低減する、付記16~18のいずれか一つに記載の使用。
図1
図2
図3