(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】KR脱硫攪拌パドル注型材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/66 20060101AFI20220207BHJP
C21C 1/02 20060101ALI20220207BHJP
C21C 7/10 20060101ALI20220207BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
C04B35/66
C21C1/02 108
C21C7/10 A
F27D1/00 N
(21)【出願番号】P 2020516629
(86)(22)【出願日】2018-09-07
(86)【国際出願番号】 CN2018104508
(87)【国際公開番号】W WO2019056952
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2020-03-19
(31)【優先権主張番号】201710861888.1
(32)【優先日】2017-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】姚 金 甫
(72)【発明者】
【氏名】甘 菲 芳
(72)【発明者】
【氏名】牟 濟 寧
(72)【発明者】
【氏名】王 濤
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106518035(CN,A)
【文献】特開2009-091204(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101857446(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104311042(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1785908(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102424878(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
C21C 1/02
C21C 7/10
F27D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注型材ベース材と添加剤からなるKR脱硫攪拌パドル注型材であって、
前記注型材ベース材は、重量百分率で、下記の原料からなる:60~80%のM70焼結ムライト、5~20%のフリントクレー、5~20%の微粉末、1~5%の純アルミン酸カルシウムセメント;
前記添加剤の各成分は、注型材ベース材の重量に占める百分率で、0.05~0.2%の減水剤、1~5%の耐熱性ステンレスファイバーであり、
M70焼結ムライトにおけるAl
2O
3含有量の割合は70%又はそれ以上であり、
前記微粉末は1μm以下の粒度を有するシリコン微粉末およ
び3μm以下の粒度を有するアルミナ微粉末であり、
純アルミン酸カルシウムセメントにおけるAl
2O
3含有量の割合は70%又はそれ以上である、KR脱硫攪拌パドル注型材。
【請求項2】
注型材ベース材におけるAl
2O
3含有量百分率は60~70%であることを特徴とする、請求項1に記載のKR脱硫攪拌パドル注型材。
【請求項3】
フリントクレーにおけるAl
2O
3含有量の割合は43%又はそれ以上であることを特徴とする、請求項1に記載のKR脱硫攪拌パドル注型材。
【請求項4】
配合に従って注型材ベース材と添加剤を秤量し、均一に混合する、請求項1から3のいずれか1項に記載のKR脱硫攪拌パドル注型材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、溶銑脱硫分野に関し、特に脱硫攪拌パドル注型材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
KR攪拌脱硫法は、1963年に日本新日鉄広畑製鉄所によって研究し始め、1965年に工業的生産に適用される溶銑炉外脱硫技術である。このような脱硫方法は、耐火材料で外張りされた攪拌パドルを溶銑鍋内に浸入して溶銑を回転攪拌することで、溶銑に渦巻きを発生させ、秤量された脱硫剤をフィーダーから溶銑表面へ入れると共に、渦巻きによって溶銑に巻き込み、高温溶銑と混合して反応し、脱硫の目的を果たすものである。KR脱硫方法は、脱硫効率が高く、脱硫剤の消耗が少なく、作業時間が短く、金属損失が低く、及び耐火材料の消耗が低い等の特徴を有する。多くの製鋼所はKR脱硫プロセスをますます採用するようになる。
【0003】
攪拌パドルはKR脱硫装置における重要な部品であり、回転軸と十字翼からなる。そのため、攪拌パドルは攪拌器若しくは攪拌ヘッドとも言われる。攪拌パドルのコアは金属材料から鋳造されるものであり、作業用張物は耐火注型材から一体的に注型成形されるものである。一般的に、攪拌パドルは4つの翼を有し、鋼構造も4つ有り、鋼構造の表面にアンカーが設けられる。
【0004】
KR攪拌脱硫プロセスが誕生したばかりの際に、その汎用化は遅く、その要因は、攪拌パドルの寿命が短く、該脱硫プロセスの発展を制約した。長期の応用と研究により、攪拌パドルの寿命は大いに延びた。KR脱硫攪拌プロセスの順調な実行と脱硫のコストダウンの目的で、攪拌パドルの耐用寿命を延ばし続けることは、永遠の課題である。
【0005】
従来技術であるCN101857446Aでは、26-33%の焼結ジルコニアムライト、26-35%の普通電融ムライト、5-9%のフリントクレー、4-7%のカイヤナイト、5-10%特級ボーキサイトクリンカー、3-5%のシリコン微粉末、3-5%のα-Al2O3微粉末、5-8%のρ-Al2O3、1.5-3.5%の純アルミン酸カルシウムセメント、1.5-3.5%の緻密コランダム微細粉末を含む、「脱硫攪拌パドル注型材」という発明が開示される。該発明は、焼結ジルコニアムライトと緻密コランダム微細粉末が採用されるため、コストが高く、カイヤナイトが加えられるため、注型材の膨張が大きく、耐熱衝撃性に不利である。特級ボーキサイトクリンカーと緻密コランダム微細粉末が採用されるため、耐熱衝撃性に不利である。CN200510019721.8では、「溶銑脱硫攪拌器用耐火注型材」という発明が開示され、電融ムライトとフリントクレーが採用される以外に、カイヤナイト、特級ボーキサイトと緻密コランダム微細粉末も加えられるが、後者の3種の成分による不利点は前記発明に説明された通りである。CN101337821Aでは、「KR攪拌パドル用低密度耐火注型材」という発明が開示される。その粒子は特級フリントクレー、シリカ、炭化ケイ素を主原料とし、注型材には、0.074mm未満のアルミナ粉末、炭化ケイ素、二酸化ケイ素微粉末及びアルミナセメントがさらに含まれる。該発明の主原料におけるフリントクレーとシリカは、密度が低いが、耐食性に優れておらず、炭化ケイ素を主原料にすると、コストが高いだけでなく、耐熱衝撃性にも不利である。CN104311071Aでは、30-35部のシリカ、20-25部の炭化ケイ素、30-40部のマグネシア微細粉末、40-45部のアルミナ微粉末、20-25部のマグネシアアルミナスピネルを含む、「溶銑脱硫攪拌器用耐火注型材」という発明が開示される。ただし、シリカと炭化ケイ素による不利点は前記の通りであり、マグネシア微細粉末とマグネシアアルミナスピネルの膨張が大きく、高温下でマグネシア微細粉末とアルミナ微粉末も反応してスピネルとなって膨張するため、注型材は高温下の膨張が大きく、耐熱衝撃性と耐剥離性が劣る。CN201310059252.7では、「転炉溶銑脱硫攪拌パドルの注型生産方法」という発明が開示され、原料としては電融ムライト、ホワイトアランダム、炭化ケイ素及びアンダルサイトが採用され、炭化ケイ素による不利点は前記の通りであり、ホワイトアランダムの添加は耐熱衝撃性に不利であり、且つホワイトアランダムのコストも高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の内容
研究によると、攪拌パドルは間欠的に使用されるもので、注型材に良好な耐熱衝撃性が要求される;攪拌パドルは高温溶銑中で高速に回転し、溶銑による浸食・摩耗を受け、注型材に良好な耐浸食性が要求される;脱硫剤は所定量の蛍石を含有する石灰であり、注型材に腐食作用があり、注型材に良好な耐食性が要求される。
【0007】
使用で分かるように、攪拌パドルのダメージ形態は主に3つある:
1)攪拌パドルが割れ、クラックが拡大し、局所的に剥離する;
2)高温溶銑とスラグによる浸食・摩耗・腐食を受け、翼が小さくなる;
3)鋼構造が膨張して攪拌パドルを縦に伸ばさせ、竹節状の凹みが生じ、翼の中部に横クラックがよく形成し、溶銑に浸透されやすい部分になる。
【0008】
攪拌パドルが生産ラインから撤去されるのは、主に2つの場合に該当する:その一つは、翼の割れ・剥離が多く、使用し続けると鋼構造が焼き切れる恐れがある;その二つは、翼の摩耗・腐食が多く、注型材の残厚が薄く、攪拌脱硫効果を良好に奏することができない。
【0009】
よって、攪拌パドルの使用特徴により、注型材は、耐熱衝撃性、耐浸食性及び耐食性を並立させなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記技術的目的を果たすために、本発明は、攪拌パドル注型材の総合的性能を改良・向上し、優れた耐熱衝撃性を有しながら、良好な耐溶銑浸食性及び耐脱硫剤腐食性も有し、攪拌パドルの耐用寿命を延ばすKR脱硫攪拌パドル注型材及びその製造方法を提供する。
【0011】
本発明の技術方案は:
注型材ベース材と添加剤からなるKR脱硫攪拌パドル注型材であって、
前記注型材ベース材は、重量百分率で、下記の原料からなる:60~80%のM70焼結ムライト、5~20%のフリントクレー、5~20%の微粉末、1~5%の純アルミン酸カルシウムセメント;
前記添加剤の各成分は、注型材ベース材の重量に占める百分率で、0.05~0.2%の減水剤、1~5%の耐熱性ステンレスファイバーである、
KR脱硫攪拌パドル注型材である。
【0012】
好ましくは、本発明にかかる注型材ベース材におけるAl2O3含有量百分率は60~70%である。
【0013】
本発明において、
主原料としてM70焼結ムライトを採用し(M70焼結ムライトにおけるAl2O3含有量の割合が70%又はそれ以上)、その重量百分率を注型材ベース材の60%以上にすることで、良好な耐熱衝撃性を確保し、中温強度と高温強度をいずれも100-180MPaに制御することで、良好な耐溶銑浸食性能を確保し、注型材のAl2O3含有量を60-70%にすることで、良好な耐食性を確保する。高温強度と中温強度の比を1-1.2に制御することで、注型材の耐熱衝撃性をさらに向上させる。
【0014】
フリントクレーとしては、Al2O3含有量の割合が43%又はそれ以上のフリントクレーが好ましい。
【0015】
微粉末としては、シリコン微粉末(SiO2含有量百分率が92%又はそれ以上、粒度≦1μm)及び/又はアルミナ微粉末(Al2O3含有量百分率が99%又はそれ以上、粒度≦3μm)を採用する。
【0016】
純アルミン酸カルシウムセメントとしては、Al2O3含有量の割合が70%又はそれ以上の純アルミン酸カルシウムセメントが好ましい。
【0017】
耐熱性ステンレスファイバーとしては、446#耐熱性ステンレスファイバー等であってもよい。
【0018】
従来技術において、ムライトの他に、ボーキサイト、アンダルサイト、カイヤナイト及びSiCも加える場合が多い。本発明では、ボーキサイトを加えると、攪拌パドルのAl2O3含有量が高いが、ボーキサイト含有注型材の耐熱衝撃性が劣ると考えられる。耐熱性ステンレスファイバーが加えられる場合、注型材は高温下で膨張特徴を示し、さらにカイヤナイト、アンダルサイトが加えられると、注型材の膨張はさらに大きくなり、耐熱衝撃性に不利である。炭化ケイ素が加えられると、SiCの耐摩耗性が良好で、耐浸食性に有利であるが、試験と研究によると、炭化ケイ素の添加によって、注型材の耐熱衝撃性は顕著に劣る。しかも、SiCの熱伝導率がとても高く、使用の際に、溶銑の温度は奥の鋼構造まで伝導しやすく、鋼構造の温度を高め、鋼構造を大きく膨張させる。特に、攪拌パドルの使用が中後期になると、翼が腐食で小さくなり、奥の鋼構造の温度はさらに高まる。鋼構造が大きく膨張すると、注型材の割れを招きやすい。また、炭化ケイ素は注型材の焼結に不利であり、且つ原料コストも高い。
【0019】
本発明によれば、M70焼結ムライトの含有量が60%を下回ると、耐熱衝撃性に不利である。強度が100MPaを下回ると、注型材の耐浸食性が十分ではなく、180MPaを上回ると、強度が高すぎて、耐熱衝撃性に不利である。注型材のAl2O3含有量が60%を下回ると、耐食性が十分ではなく、70%を上回ると、焼結ムライト含有量が不足で、耐熱衝撃性に不利である。高温強度と中温強度の比が1を下回ると、注型材の高温焼結強度が十分ではないことが分かり、耐浸食性に不利であり、1.2を上回ると、高温強度と中温強度の差が広がり、耐熱衝撃性及び耐剥離性に不利である。
【0020】
本発明はさらに、前記KR脱硫攪拌パドル注型材の製造方法、即ち、配合に従って注型材ベース材と添加剤を秤量し、均一に混合する方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
有益な効果
本発明は、攪拌パドル注型材の総合的性能を改善し、優れた耐熱衝撃性を有しながら、良好な耐溶銑浸食性及び耐脱硫剤腐食性も有し、攪拌パドルの耐用寿命を延ばすことに有利である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
具体的な実施形態
表1に記載の配合に従って各原料を秤量し、実施例1-3及び比較例1-5の注型材ベース材を得た;さらに、実施例1-3及び比較例1-5のそれぞれに、注型材ベース材の重量に占める割合で、0.12%の減水剤(トリポリリン酸ナトリウム)と3%の446#耐熱性ステンレスファイバーを加え、均一に混合し、実施例1-3及び比較例1-5のKR脱硫攪拌パドル注型材をそれぞれ得た。
【0023】
【0024】
表1において、
M70焼結ムライトにおけるAl2O3含有量は約70%である。
【0025】
フリントクレーにおけるAl2O3含有量は約43%である。
微粉末はシリコン微粉末(SiO2含有量が約92%、粒度≦1μm)とアルミナ微粉末(Al2O3含有量が約99%、粒度≦3μm)の質量比1:1の混合物である。
【0026】
純アルミン酸カルシウムセメントにおけるAl2O3含有量は約70%である。
耐熱性ステンレスファイバーとしては、446#耐熱性ステンレスファイバー等であってもよい。
【0027】
本発明におけるAl2O3含有量とは、Al2O3が占める重量百分率を指す。
実施例1-3及び比較例1-5のKR脱硫攪拌パドル注型材について性能テストを行い、テスト結果は表2に示す。
【0028】
【0029】
表2には、実施例と比較例の性能が示され、中温強度と高温強度はそれぞれ、1000℃で3h焼いた後の圧縮強度(検査規格GB/T 5072.1-1998)と1400℃で3h焼いた後の圧縮強度である。強度比は、1400℃で3h焼いた後の圧縮強度と1000℃で3h焼いた後の圧縮強度の比である。耐熱衝撃性(検査規格YB/T 2206.2-1998)は、1100℃→35回水冷した後、試料のクラック状況を観察する。耐食性指数は、実施例2を基準として、その数値が大きいほど、耐食性が劣る。
【0030】
実施例のほうは総合的性能が優れたことは分かった。比較例において、比較例1は、中温強度と高温強度が低く、比較例2は、加えられたフリントクレーが多かったので、耐食性が劣り、比較例3は、多くの特級ボーキサイトを含有したので、耐熱衝撃性が劣り、比較例4は、多くのSiCを含有したので、耐熱衝撃性が劣り、比較例5は、強度比が大きすぎたので、耐熱衝撃性も劣った。
【0031】
本発明の実施例1-3は、攪拌パドル注型材の総合的性能を改善し、優れた耐熱衝撃性を有しながら、良好な耐溶銑浸食性及び耐脱硫剤腐食性も有し、攪拌パドルの耐用寿命を延ばすことに有利である。
【0032】
実施例2と比較例2の使用効果を比較し、結果は表3に示す。
【0033】
【0034】
比較例2より、実施例2の注型材コストは8%低減し、攪拌パドルの寿命は12%向上した。