(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-04
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】内側容器を有する輸送装置
(51)【国際特許分類】
B65D 25/20 20060101AFI20220207BHJP
B01L 3/00 20060101ALI20220207BHJP
B65D 81/00 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
B65D25/20 R
B01L3/00
B65D81/00
(21)【出願番号】P 2021512641
(86)(22)【出願日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 EP2019073757
(87)【国際公開番号】W WO2020049123
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-05-07
(32)【優先日】2018-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513020227
【氏名又は名称】インスプヘロ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】INSPHERO AG
【住所又は居所原語表記】Wagistrasse 27,CH-8952 Schlieren,Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】リヒテンベルク ヤン
(72)【発明者】
【氏名】フライ オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】モーリッツ ウォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】フルーリー ダーヴィッド
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-528983(JP,A)
【文献】国際公開第2015/097700(WO,A1)
【文献】特表2016-523776(JP,A)
【文献】国際公開第2011/147384(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 25/20
B65D 81/00
B01L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)
球面キャップ(12a)の形状で三次元凹形を有するシェルを含み、前記球面キャップの
開口部(13)が上方を向いている、外側容器(11)の第1セクション(11a)、
b)上側セクション(15b)と、下側セクション(15a)と、それによって画定される内部中空体積(16)とを有し、少なくとも前記下側セクションが外側に球形を有し、その外径が前記外側容器の前記球面キャップ(12a)の
内径よりも小さい、内側容器(14)
を含み、
c)前記内側容器は、前記外側容器の前記球面キャップ内に自由に枢動可能に配置されるのに適しており、
d)前記内側容器は、ペイロード(17)を収容することができる、輸送装置(10)であって、
前記内側容器の重心(22)が前記内側容器の回転中心(23)の下に偏心して配置されるように、前記内側容器が設計されるか、またはカウンターウェイトが前記内側容器内に配置され、
隙間(18)が前記外側容器の第1セクションの前記球面キャップの内径と前記内側容器の前記球形の外径との間に画定され、
液体(19)体積が前記隙間に配置され、
前記内側容器が前記液体よりも低い比重を有し、
前記内側容器が前記液体に浮かんでいる、輸送装置。
【請求項2】
前記液体が親水性である、請求項1に記載の輸送装置。
【請求項3】
前記液体が水である、請求項1または2に記載の輸送装置。
【請求項4】
前記内側容器および/または前記外側容器の表面が疎水性である、請求項1~3のいずれか1項に記載の輸送装置。
【請求項5】
前記
液体は、前記内側容器が前記外側容器内に配置されると、最大で前記内側容器の25%の高さに達する、請求項1~4のいずれか1項に記載の輸送装置。
【請求項6】
前記液体体積が適用される前記隙間の幅が≧2mmおよび≦15mmの範囲である、請求項1~5のいずれか1項に記載の輸送装置。
【請求項7】
前記内側容器および/または前記外側容器が、断熱材である材料を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の輸送装置。
【請求項8】
前記外側容器が
、球面キャップの形状で三次元凹形を有するシェルを備える第2セクション(11b)をさらに備え、
前記第2セクションの球面キャップの開口部は下向きである、請求項1~7のいずれか1項に記載の輸送装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の輸送装置であって、以下からなる群から選択される少なくとも1つをさらに含む輸送装置;
a)加熱ユニット、
b)冷却ユニット
c)温度センサおよび/もしくはレコーダ、
e)加速度センサおよび/もしくはレコーダ、
f)地理定位センサおよび/もしくはレコーダ、
g)識別可能なタグもしくはラベル、ならびに/または
h)球の中心に対して重心を動かす機械的アクチュエータ。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の輸送装置であって、前記ペイロードは、以下からなる群から選択される少なくとも1つである輸送装置、
・1つ以上のマルチウェルプレートもしくはマイクロタイタープレート、または1つ以上のこのようなプレートを含む容器、
・マイクロ流体システムまたはマイクロ流体チップ、ならびに/または
・細胞培養皿およびシステム。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の輸送装置であって、前記外側容器および/または前記内側容器が、以下からなる群から選択される材料を含む輸送装置;
・押出法ポリスチレンフォーム
・発泡ポリスチレン(EPS)
・発泡ポリプロピレン(EPP)
・金属
・木材
・サーモプラスト
・テフロンのような摩擦を最小化する材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、内側容器を有する輸送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非常に多くの場合、繊細な商品は、通常の郵便サービスによって顧客に出荷される。そのような出荷の過程で、それぞれの輸送箱は、しばしば傾けられ、それは、その中で輸送される物品に影響を及ぼし得る。
【0003】
そのような繊細な物品の一例は、例えば、組織サンプルまたは微小組織のような生物学的標本である。これらは、しばしば、密封フィルムまたはカバーによって密封されるマイクロウェルプレート中に貯蔵され、出荷される。輸送中に周囲の輸送箱を傾斜させると、マイクロウェルプレートも傾斜し、培養液および生物試料はマイクロウェルの底部から落下し、プレートの上部に向かって移動する。好ましくない条件下では、生物学的標本は、密封フィルムまたはカバーと接触することがあり、密封フィルムまたはカバーに付着することがあり、または密封フィルムとマイクロウェルの上壁との間に捕捉されることがある。捕捉または封止フィルムとの接触は、微小組織に悪影響を及ぼし得る。
【0004】
周囲の輸送箱が水平位置に戻されると、生物学的標本は、培養液が戻る間に、中央溝に戻らないことがある。結果として、生物学的標本は、害を受けることがあり、または死にさえすることがある。
【0005】
生物学的標本が底部に取り付けられる場合、傾斜は、液体をウェルの上部に移動させて生物学的標本から分離させ得る。これは、生物学的標本の乾燥、栄養の枯渇、および最終的な死につながり得る。
【0006】
別の例では、物品は、生物学的標本を含むかまたは含まない、規定量の液体で満たされたマイクロプレート、マイクロ流体チップ、または細胞培養皿である。このような物品が蓋によってのみ覆われている場合、または密封が完全な液体密封でない場合(場合によっては、ガス交換を確実にするために)、傾斜は、漏出、すなわち液体がそのウェルまたはチャネルから流出することにつながる。
【0007】
出荷される他の繊細な商品についても、同様の検討事項が、輸送箱が傾けられたときに適用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の1つの目的は、輸送中に傾けられたときでも、輸送される物品を悪影響から保護する輸送装置を提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、生物学的標本、または傾斜が液体の漏出または排水につながる完全に密封されていない装置を含む繊細な物品の安全な出荷を可能にする輸送装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらおよびさらなる目的は、本発明の独立請求項による方法および手段によって満たされる。従属請求項は、特定の実施形態に関連する。
【0011】
ほとんどの図は、3次元物体である本発明による輸送装置の2次元断面を示すことを理解することが重要である。したがって、図面に関してなされた考察および議論は、3次元物体に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、マイクロウェルプレートが傾斜した場合に生じる基本的な問題を示すために提供される。
図1Aは、1つのウェル31が示されたマイクロウェルプレート30のクローズアップを示す。ウェルは、密封フィルム32によって密封され、中央溝を有し、そこに生物学的標本34(例えば、微小組織)が配置され、そして培養液35によって覆われている。
図1Bは、マイクロウェルプレートが傾斜した場合に何が起こるかを示す。培養液および生物試料は、中央溝から落下し(矢印参照)、好ましくない条件下で、生物試料は、密封フィルムとウェルの上壁との間に捕捉され得る。このようなフィルムは、生体適合性材料から作製され得るが、微小組織は、それに接着するか、またはフィルムおよびウェルの壁によって形成される角度に詰め込まれ得る。マイクロウェルプレートが水平位置に戻されると、培養液が戻っても、生物学的標本は中央溝に戻らない。結果として、生物学的標本は、害を受けることがあり、または死にさえすることがある。このような問題は、ほとんどが、底部に付着していない生物学的標本に当てはまることに留意されたい。
図1Cは、マイクロウェルプレートが傾けられた場合に、培養物に付着または付着する生物学的標本で起こり得ることを示す。このような場合、培養液はウェルの頂部に移動し、生物学的標本をウェルの底部で乾燥させたままにする。 別の問題は、密封フィルム、またはより一般的には蓋またはカバーが選択される場合に生じ得、これは、完全に液密ではないが、単に漏出から保護するか、または酸素供給を確実にする(例えば、小さい穴を有する)。長時間の傾斜は、ウェルの完全な排液につながるであろう。結果として、生物学的標本は、害を受けることがあり、または死にさえすることがある。
【
図2-1】
図2は、外側容器の第1セクション11aを含む、本発明による輸送装置10を示す。第1セクションは、内側に、内径と開口部を有する球面キャップ12aの形状を有するシェルを含む。球面キャップの開口部13は上方を向いている。装置はさらに、上側セクション15b、下側セクション15a、およびそれによって画定される内部中空体積16を有する内側容器14を含む。下側セクションは外側に球形状を有し、その外径は球面キャップ13の内径よりも小さい。内側容器は、外側容器の球面キャップ内に自由に旋回可能に配置されるのに適している。内側容器は、ペイロード17、すなわち微小組織を収容するマイクロタイタープレートを収容することができる。ペイロードを収容しているときに内側容器の重心22が内側容器の回転中心23の下に偏心して配置されるように、内側容器が設計されるか、またはカウンターウェイトが内側容器内に配置される。また、外側容器の第1セクションの球面キャップの内直径と内側容器の球形の外直径との間には隙間18が画定されている。液体19の体積は、前記隙間に配置され、内側容器の2.3%の高さに最大限到達する。内側容器が液体の体積に浮いていることが明らかに分かる。このようにして、内側容器が浮動するのに十分な自由度が提供される。同様に、表面間の摩擦は最小限に減少する。
図2Aでは、装置は通常の位置で示されている
【
図2-2】
図2Bでは、装置は約20°の角度だけ傾斜している。外側の容器が傾いているにもかかわらず、内側の容器は直立位置を採用していることがはっきりと見える。
【
図2-3】
図2C、D、EおよびFは、さらなる実施形態を示す。
図2CおよびDは、内側容器の重心が、例えば、内側容器の中心の下方に配置されているが、垂直軸のオフセットである特定のカウンターウェイト36によって生じるように、横方向のオフセットを有する実施形態を示す。本実施形態では、内側容器は、外側容器の配向とは無関係に、静止位置にあるときに、規定された傾斜角を永久的に採用している(
図2C:水平、
図2D:傾斜)。このようにして、例えば、内側容器に含まれるマイクロウェルプレートまたはマイクロ流体チップ内の重力駆動流を確立することができる。
【
図2-4】
図2Eは、内側容器の重心が、例えば、適切なリニアアクチュエータ37によって、横方向に連続的に撹拌される特定のカウンターウェイト36によって引き起こされて、変更され得る実施形態を示す。この実施形態では、内側容器は、外側容器の配向とは無関係に揺動運動を受ける。このようにして、内側容器に含まれる液体および/または生物学的標本を撹拌することができる。
図2Fは、内側容器の重心が、例えば、適切な円形アクチュエータ38によって、円形に連続的に撹拌される特定のカウンターウェイト36によって引き起こされて、変更され得る実施形態を示す。この実施形態では、内側容器は、外側容器の配向とは無関係に、円形の揺動運動を受ける。このようにして、内側容器に含まれる液体および/または生物学的標本を撹拌することができる。
【
図3】
図3Aは、本発明による同様の輸送装置を示し、外部容器は、さらに、内径および開口部を有する球面キャップ12bの形状を有する内側にシェルを含む第2セクション11bを含み、球面キャップの開口部は、下向きに面している。
図3Bは、本発明による類似の輸送装置を示し、ここでは、3つのボールベアリング21が隙間18内に配置されている。隙間18の幅は、ボールベアリングが隙間内に延びる長さに依存する(矢印を参照)。
【
図4】
図4A~Cは、本発明による輸送装置の三次元レンダリングを示す図である。外側容器の2つのセクション11a、11bは、内側容器の2つのセクション15a、15bと同様に、押出ポリスチレン発泡体から作られる。
図4Aはまた、中央に箱を示しており、この箱は、本実施例で、実際に輸送された物品である。箱は、例えば、生物学的標本を含むことができる。
【
図5】
図5A~Dは、外側容器の2つのセクション11a、11bを実継ぎ(tongue-and-groove joint)21.1、21.2、21.3と、およびO-リング21.4と接続する異なる可能性を示している。 雄実部は、雌実部よりも大きくてもよいが、締め付けを確実にするために押し込まれる必要があるためである。雌実部は、また、雄実部が締め付けのために変形させなければならないように残すこともできる。
【
図6-1】
図6は、フローティングスフィア概念を用いた試作品の試験出荷から測定した加速度データを示している。
【
図6-2】
図6は、フローティングスフィア概念を用いた試作品の試験出荷から測定した加速度データを示している。
【
図7】
図7Aは、灰色の色調で示されているように、本発明による輸送装置の球面キャップを画定するために必要な寸法を示している。 本明細書で使用される「球面キャップ」という用語は、「球形ドーム」または「球形セグメント」という用語と交換可能に使用され、平面によって切り取られた球の一部分に関する。キャップの高さ(h)が球の半径(r)に等しくなるように平面が球の中心を通る場合、球面キャップを半球と呼ぶ。このような場合、角度θは90°を仮定することになる。ほとんどの場合、θは45~89°の範囲であり、その結果、内側容器は、外側容器の第1セクションの内側のシェル内に容易に配置され得るか、またはシェルから容易に除去され得る。
図7Bは、2つの選択肢を示している。すなわち、θ
2が90°未満である(したがって、内側容器は、外側容器の第1セクションの内側にあるシェルに容易に配置または取り外すことができる)ものと、θ
2が90°を超える(したがって、内側容器は、外側容器の第1セクションの内側にあるシェル内に、より安全に配置されているが、そこに容易に配置または取り外すことができない)ものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を詳細に説明する前に、そのような装置および方法は変化し得るため、本発明は、説明された装置の特定の構成部材、または説明された方法のプロセスステップに限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図していないことを理解されたい。本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されるように、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明白に別段の指示をしない限り、単数形および/または複数の言及を含むことに留意しなければならない。さらに、数値で区切られたパラメータ範囲が与えられた場合、その範囲はこれらの制限値を含むものとみなされることも理解されるべきである。
【0014】
さらに、本明細書に開示される実施形態は、互いに関連しない個々の実施形態として理解されることを意味しないことを理解されたい。一実施形態で論じられた特徴は、本明細書に示された他の実施形態に関連しても開示されることが意図される。1つの場合において、特定の特徴が1つの実施形態では開示されず、別の実施形態で開示される場合、当業者は、前記特徴が前記他の実施形態で開示されることが意図されていないことを必ずしも意味しないことを理解するであろう。当業者は、前記特徴を他の実施形態についても開示することが本出願の要旨であることを理解するであろうが、それは、単に明確化の目的のためであり、明細書を管理可能なボリュームに保つため、これは行われていない。
【0015】
さらに、本明細書で記載される先行技術文献の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。これは、特に、標準的または日常的な方法を開示する先行技術文献を指す。その場合、参照による組み込みは、主に、十分な可能な開示を提供し、冗長な繰り返しを回避する目的を有する。
【0016】
本発明の第1の態様によれば、
a)内径と開口部を有する球面キャップの形状を有するシェルを内側に含み、前記球面キャップの前記開口部が上方を向いている、外側容器の第1セクション、
b)上側セクションと、下側セクションと、それによって画定される内部中空体積とを有し、少なくとも前記下側セクションが外側に球形を有し、その外径が前記外側容器の前記球面キャップの前記内径よりも小さい、内側容器
を含み、
c)前記内側容器は、前記外側容器の前記球面キャップ内に自由に枢動可能に配置されるのに適しており、
d)前記内側容器は、ペイロードを収容することができる、
輸送装置が提供される。
【0017】
外側容器の第1セクションの内側にあるシェルは、その球面キャップ状の形状で、三次元凹形(すなわち、内側に湾曲)を有し、内側容器の下側セクションは、その球面が外側にある状態で、三次元凸形(すなわち、外側に湾曲)を有する。
【0018】
本明細書で使用される「球面キャップ」という用語は、「球形ドーム」または「球形セグメント」という用語と交換可能に使用され、平面によって切り取られた球の一部分に関する。キャップの高さ(h)が球の半径(r)に等しくなるように平面が球の中心を通る場合、球面キャップを半球と呼ぶ。このような場合、角度θは90°を仮定することになる。説明については、
図7Aを参照されたい。
【0019】
球面特性を考えると、高い許容誤差が認められることに言及しなければならない。シェルは、「超厳密に」球形である必要はない。一般的な形状は、球形である必要があるが、球体を保持することを可能にするか、または製造プロセスによって導入され得る、ノッチまたは凹部のような不規則性が存在し得る。それらの大きさは、内側容器の自由回転と直立配向の一般的機能が常に与えられる程度に小さいものであるべきである。
【0020】
したがって、外側容器の第1セクションの内側のシェルは、その球形を有する内側容器のためのベッドとして働く。ほとんどの場合、θは45~89°の範囲であり、その結果、内側容器は、外側容器の第1セクションの内側のシェル内に容易に配置され得るか、またはシェルから容易に除去され得る。
【0021】
一態様では、外側容器の第1セクションの内側のシェルは、ボール・ソケット継手のソケットのように作用し、一方、内側容器は、その球形を外側にして、前記ソケット内に置かれるボールのように作用する。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、ペイロードを収容しているときに内側容器の重心(22)が内側容器の回転中心(23)の下に偏心して配置されるように、内側容器が設計されるか、またはカウンターウェイトが内側容器内に配置される。
【0023】
内側容器の重心は偏心して配置され、内側容器の回転中心の下に配置される。このようにして、内側容器は、外側容器の内側のシェル内で自由に移動可能であるので、重力によって、外側容器が傾けられたときでさえ、直立位置を維持または再確立することができる。
【0024】
この点に関して、
図2C~Eを参照されたい。これらは、(a)内側容器の重心が横方向オフセットを有し、その結果、内側容器が、外側容器の向きとは無関係に、静止位置にあるときに、規定された傾斜角度を採用するか、または(b)内側容器の重心が、適切なアクチュエータを用いて、横方向または円形に周期的に移動され、その結果、ペイロードが連続的に撹拌される、実施形態の変形を示す
【0025】
本発明のさらなる実施形態によれば、外側容器の第1セクションの球面キャップの内径と内側容器の球形の外径との間に隙間が画定される。
【0026】
本発明のさらなる実施形態によれば、液体体積が前記隙間に配置される。好ましくは、前記液体は親水性であり、より好ましくは、前記液体は水である。
【0027】
用語「親水性」は、本明細書中で使用される場合、水分子に引き付けられ、水によって溶解される傾向がある分子または他の分子実体に関する。それらは、典型的には、電荷分極され、水素結合することができる。親水性液体は、このような極性分子を含み、したがって、水素結合も可能である。これは特に水に適用されるが、(低)アルコールにも適用される。水(H2O)は、室温で無味無臭の液体である極性無機化合物である。水分子は、互いに水素結合を形成し、強い極性を有する。アルコールは、極性であるヒドロキシル基を含み、故に親水性であるが、非極性、すなわち疎水性の炭素鎖部分も含む。アルコール分子は、炭素鎖が長くなるにつれて、全体的により疎水性になる。親水性液体の例としては、水、アルコール、アンモニア、いくつかのアミド(例えば、尿素)およびいくつかのカルボン酸(例えば、酢酸)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明のさらなる実施形態によれば、内側容器および/または外側容器の表面は疎水性である。
【0029】
本明細書で使用される「疎水性」という用語は、水分子からはじかれる分子または他の分子実体に関する。それらは非極性であり、従って、水に溶解しない傾向があるが、他の中性分子および非極性溶媒を好む。疎水性表面は、水をはじく能力を有する。一般に、表面の疎水性は、水滴と表面自体との間の接触角によって測定することができる。疎水性表面上の水滴は、非常に容易に流れ、90度を超える接触角でその球形を保持し[8]、一方、超疎水性材料は、150度を超える大きな接触角を有し、濡らすのが困難である。疎水性分子の例には、一般にアルカン類、油、脂肪、および脂性物質が含まれる。
【0030】
本発明のさらなる実施形態によれば、内側容器は、前記液体よりも低い比重を有する。
【0031】
本明細書で使用される「比重」という用語は、材料の単位体積当たりの重量として定義される。比重の記号はγ(ギリシャ文字ガンマ)である。比重のSI単位は[N/m3]である。比重は以下のように表すことができる。
γ=ρag
γ = 比重(N/m3)
ρ = 濃度[kg/m3]
ag= 引力加速度(通常の条件下では9.81[m/s2])
【0032】
以下の表は、いくつかの一般的な材料の比重を示す。
【表1】
【0033】
本発明のさらなる実施形態によれば、内側容器のより低い比重は、内側容器の浮力を作り出す。
【0034】
アルキメデスの原理は、流体に浸漬された物体に及ぼされる上向きの浮力は、完全に浸漬されていようと部分的に浸漬されていようと、物体が変位し、変位した流体の質量中心で上向きの方向に作用する流体の重量に等しいと述べている。したがって、ある物体の比重が水の比重よりも小さい場合、当該物体は水面上に浮くことになる。
【0035】
この実施形態では、内側容器は、前記液体上に浮いており、したがって、内側容器と、外側容器の第1セクションの内側のシェルの内面との間の摩擦を回避する。これにより、内側容器は、外側容器が傾いていても、直立した位置を常に維持、または再安定させることができる。
【0036】
本発明のさらなる実施形態によれば、外側容器は、最大限前記液体で半分まで満たされている。
【0037】
この実施形態では、前記液体の充填レベルは、内側容器が前記液体内で浮くことを確実にする。したがって、前記液体は、浮力を及ぼす役割を果たし、潤滑剤としての役割を果たさない。内側容器の表面と外側容器の第2セクションの内側のシェルの表面との間には直接の接触がないので、前記区域での摩擦もない。これにより、内側容器は、外側容器が傾いていても、直立した位置を常に維持、または再安定させることができる。
【0038】
用語「液体で半分満たされている」は、内側容器が外側容器内に配置されると、液体が内側容器の赤道までのみに到達することを意味する。
【0039】
好ましくは、外側容器は、最大で25%、好ましくは最大で15%、より好ましくは最大で10%、より好ましくは最大で5%、より好ましくは最大で2%が水で満たされる。すべての場合において、液体は、内側容器が外側容器内に配置されると、最大で内側容器の25%、15%、10%、5%、または2%の高さに達する。
【0040】
本発明のさらなる実施形態によれば、潤滑剤が前記隙間に配置される。前記潤滑剤は、同様に、前記内側容器と前記外側容器の第1セクションの内側における前記シェルの内面との間の摩擦を減少させる。これにより、内側容器は、外側容器が傾いていても、直立した位置を常に維持、または再安定させることができる。
【0041】
本発明のさらなる実施形態によれば、少なくとも2つのボールまたはボールベアリングが、前記隙間に配置される。ボールは、同様に、内側容器と外側容器の第1セクションの内側における前記シェルの内面との間の摩擦を減少させる。これにより、内側容器は、外側容器が傾いていても、直立した位置を常に維持、または再安定させることができる。
【0042】
本発明のさらなる実施形態によれば、少なくとも、
a)外側容器の第1セクションの内側のシェルの内面、および
b)内側容器の下側セクションの外面は
互いに作用するとき、低い摩擦係数を確立する材料を含む。
【0043】
「低摩擦係数」という用語は、静摩擦(μs)に関する。好ましくは、使用されるコーティングは、互いに作用する場合、<0.2μs以下の摩擦係数を確立する。前記条件は、例えば、以下の材料対に適用される:
【0044】
【0045】
このようにして、内側容器と外側容器の第1セクションの内側におけるシェルの内面との間の摩擦が低減される。これにより、内側容器は、外側容器が傾いていても、直立した位置を常に維持、または再安定させることができる。
【0046】
隙間の幅は、外側容器の第1セクションの内側にあるシェルの表面と内側容器の下側セクションとの間に配置される材料に依存し得る。
【0047】
一実施形態によれば、液体の体積が適用される隙間の幅は、内側容器の浮遊を可能にするように、≧2mmおよび≦15mmの範囲である。このようにして、内側容器が浮動するのに十分な自由度が提供される。同様に、表面間の摩擦は最小限に減少する。更に、このような比較的広い隙間は、より高い許容誤差が許容されるので、内側容器および外側容器の生産をより容易にする。
【0048】
この実施形態では、隙間の幅が大きいため、内側容器の表面と外側容器の第1および第2セクションの内側にあるシェルの表面との間に直接的な接触がなく、故に、内側容器と外側容器との間に摩擦が生じない。これにより、内側容器は、外側容器が傾いていても、直立した位置を常に維持、または再安定させることができる。
【0049】
一実施形態では、潤滑剤が塗布される隙間の幅は、通常の許容誤差で、ほぼ無限に小さく、したがって、2つの表面は、薄い潤滑剤膜によって互いに分離されるだけである。一般に、潤滑剤を使用するためには、隙間の幅が、液体体積が適用される場合よりも小さいことを必要とする。これはまた、製造プロセスをより厳しくする。一実施形態では、隙間は2mm以下である。
【0050】
ボールまたはボールベアリングを含む一実施形態では、隙間の幅は、ボールまたはボールベアリングが隙間内に延びる長さ(例えば
図3B参照)に、適用可能であれば許容誤差を加えた長さに依存する。
【0051】
低い摩擦係数を確立する表面を含む一実施形態では、隙間の幅は、無限に小さくすることができ(通常の許容誤差で)、その結果、2つの表面は、互いに直接接触する。一般に、このような実施形態は、製造プロセスを非常に厳しくする。
【0052】
一実施形態では、隙間の幅は、2mm以下、好ましくは1.5mm以下、最も好ましくは1mm以下である。
【0053】
本発明のさらなる実施形態によれば、内側容器および/または外側容器は、断熱材である材料を含む。
【0054】
本明細書で使用される「断熱材」という用語は、熱伝達の低減、すなわち、異なる温度の物体間、熱接触している物体間、または放射影響範囲内の熱エネルギーの伝達の低減を提供する物体または材料を指す。断熱は、特別に設計された方法またはプロセス、ならびに適切な物体の形状および材料を用いて達成することができる。
【0055】
材料の絶縁能力は、熱伝導率(k)の逆数として測定される。低い熱伝導率は高い絶縁能力(Resistance value)と同じ意味である。
熱伝導率kは、ワット/メートル/ケルビン(Wm-1K-1またはW/m/K)で測定される。
熱伝導率は、材料および流体について、その温度と圧力とに依存する。比較のために、標準的な条件(20℃、1気圧)下での伝導が一般に使用される。材料によっては、熱伝導率が熱伝達の方向にも依存する場合がある。
【0056】
以下の表は、大気圧および293K(20℃)付近の、幾つかの材料の熱伝導率を示している。
【0057】
【0058】
本発明のさらなる実施形態によれば、外側容器は、内径および開口部を有する球面キャップの形状を有するシェルを内側に含み、前記球面キャップの前記開口部は下向きに面している第2セクションをさらに含む。このセクションは、前記容器の蓋として機能し、断熱と保護を提供する。
【0059】
前記球面キャップは、外側容器の第1セクションに含まれる球面キャップと本質的に同じ半径を有する。外側容器の第2セクションが第1セクションの上部に配置されると、2つの半球状キャップが球体を形成する。このような実施形態では、内側容器は、外側容器が単に数度傾けられたときだけではなく、90°または180°傾けられ最終的に内側セクションが360°回転することができ、常に直立していることが必要されるときでも、完全に保護される。
【0060】
本発明のさらなる実施形態によれば、装置は、以下からなる群から選択される少なくとも1つをさらに含む。
a) 加熱ユニット、
b) 冷却ユニット、
c)温度センサおよび/またはレコーダ、
d) 加速度センサおよび/またはレコーダ、
f) 地理定位センサおよび/またはレコーダ、
g) 識別可能なタグまたはラベル
h) 球の中心に対して重心を移動させるための機械的アクチュエータ。
【0061】
加熱ユニットおよび/または冷却ユニットは、例えば、氷もしくはドライアイス、またはデルタT GmbH, Fernwaldによって製造されたような、いわゆる流体要素を含むサーマルパックを含むことができる。加熱ユニットおよび/または冷却ユニットはまた、熱電素子、例えばペルチェ素子を含むことができる。
【0062】
温度センサおよび/またはレコーダは、当技術分野で入手可能な任意の適切なセンサおよび/またはレコーダ(「ロガー」とも呼ばれる)とすることができる。それは、好ましくは、バッテリ駆動され、-50~+50℃の温度域をカバーする。
【0063】
加速度センサおよび/またはレコーダは、当技術分野で入手可能な任意の適切なセンサおよび/またはレコーダ(「ロガー」とも呼ばれる)とすることができる。このような加速度センサおよび/またはレコーダは、例えば、当該技術分野で利用可能な大部分の移動通信装置に内蔵されている。
【0064】
地理定位センサおよび/またはレコーダは、当技術分野で入手可能な任意の適切なセンサおよび/またはレコーダ(「ロガー」とも呼ばれる)とすることができる。このような地理位置確認センサおよび/またはレコーダは、例えば、当該技術分野で利用可能なほとんどの移動通信装置に内蔵されている。
【0065】
識別可能なタグまたはラベルは、適切な装置によって読み取り可能なデジタル署名を提供する任意のタグまたはラベルとすることができる。このようなタグまたはラベルは、適切な光学リーダで識別することができるバーコードまたはQRコードとすることができるが、無線周波数識別(RFID)または近接場通信(NFC)によって読み取ることができるタグまたはラベルとすることもできる。
【0066】
機械的アクチュエータは、バッテリ駆動が可能であり、また、連続的な予めプログラムされた方法で、または遠隔制御で、ロードを前後に移動させる、偏心ロードまたはリニアモータを備えた機械的ローターとすることができる。
【0067】
本発明のさらなる実施形態によれば、ペイロードは、カウンターウェイトとしても機能する。これにより、生産プロセス全体を容易にすることができる。
【0068】
本発明のさらなる実施形態によれば、ペイロードは、以下からなる群から選択される少なくとも1つである。
・1つ以上のマルチウェルプレートもしくはマイクロタイタープレート、または1つ以上のこのようなプレートを含む容器
・マイクロ流体システムまたはマイクロ流体チップ、および/または
・細胞培養皿およびシステム
【0069】
一般に、ペイロードは、直立または安定した出荷を必要とする任意のペイロードとすることができる。
【0070】
好ましくは、マルチウェルプレートまたはマイクロタイタープレートまたはマイクロ流体チップまたは細胞および組織培養皿は、液体/培地を含み、1つ以上の細胞、細胞培養物、微小組織、3D組織、回転楕円体組織、複合組織、組織サンプル、組織スライスなどを含むプレートである。
【0071】
本発明のさらなる実施形態によれば、外側容器および/または内側容器は、以下からなる群から選択される材料を含む。
・押出法ポリスチレンフォーム
・発泡ポリスチレン(EPS)
・発泡ポリプロピレン(EPP)
・金属
・木材
・サーモプラスト
・テフロンのような摩擦を最小化する材料
【実施例】
【0072】
本発明は、図面および前述の説明において詳細に図示および説明されてきたが、そのような図示および説明は、理解の助けのためまたは例示的であり、限定的ではないと考えられるべきであり、本発明は、開示された実施形態に限定されない。開示された実施形態に対する他の変形は、図面、開示、および添付の特許請求の範囲の研究から、特許請求された発明を実施する際に当業者によって理解され、実施されることができる。特許請求の範囲において、単語「含む」は、他の要素またはステップを排除するものではなく、不定冠詞「a」または「an」は、複数を排除するものではない。特定の手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組合せが有利に使用されることができないことを示すものではない。特許請求の範囲におけるいかなる引用符号も、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0073】
例1:
輸送装置のプロトタイプを開発し、試験した。この装置を、常に開いていないままの通常の輸送箱に詰めた。
【0074】
外側および内側容器の両方のセクションを閉じ、シリコーンで水密に密封した。2つのシェルの間に水を充填して外側シェルに対して内側シェルの自由回転を可能にした。シェルの配向を記録するために、1つの加速度計を、出荷された商品と一緒に箱の内側に配置し、1つの加速度計を箱の外側に配置した。直立配向は、z方向に-1gの値、xおよびy方向に0の値に等しい。
【0075】
図6Aおよび6Bは、スイスから米国への大西洋横断飛行貨物のデータを示す。箱の加速度データは、箱が約30時間の移動後にひっくり返され、逆さまに置かれたことを明らかにする。内側の浮遊球体は上側のままであった。
図6Bのデータは、z方向の加速度に対する-1の一定値を示す。
【0076】
図6Cは、25時間にわたる地上出荷シミュレーションからのデータを示す。商品の区画内のZ加速度データを示した。グラフの上には、外側の箱の配向と箱の輸送が示されている。箱の傾斜と反転は良好に補償され、内球は外箱の運搬と配向とは無関係に直立位置に留まった。
【符号の説明】
【0077】
10 輸送装置
11 外側容器
11a 外側容器の第1セクション
11b 外側容器の第2セクション
12a 球面キャップの形状を有する外側容器の内側のシェル
13 シェル12aの開口部
14 内側容器
15b 内側容器の上側セクション
15a 内側容器の下側セクション
16 内側容器の内部中空体積
17 ペイロード
18 隙間
19 隙間に配置された液体
20 ボールベアリング
21.1、21.2、21.3 実継ぎ
21.4 O-リング
22 内側容器の重心
23 内側容器の回転中心
30 マイクロウェルプレート
31 ウェル
32 封止フィルム
33 中央溝
34 生物学的標本
35 培養液
36 カウンターウェイト
37 リニアアクチュエータ
38 円形アクチュエータ