(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】車両制御値決定装置、車両制御値決定方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/12 20200101AFI20220208BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20220208BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
B60W30/12
G08G1/16 C
B62D6/00
(21)【出願番号】P 2018095042
(22)【出願日】2018-05-17
【審査請求日】2020-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】502324066
【氏名又は名称】株式会社デンソーアイティーラボラトリ
(74)【代理人】
【識別番号】100113549
【氏名又は名称】鈴木 守
(74)【代理人】
【識別番号】100115808
【氏名又は名称】加藤 真司
(74)【代理人】
【識別番号】230121430
【氏名又は名称】安井 友章
(72)【発明者】
【氏名】大林 真人
(72)【発明者】
【氏名】高野 岳
【審査官】岡澤 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-062261(JP,A)
【文献】特開2012-083892(JP,A)
【文献】特開2017-165156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/12
G08G 1/16
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
始端における車両の状態量と道路の形状に関する情報に基づいて、前記始端から所定時間後までの予測ホライズンにおける車両の制御値を決定する装置であって、
一定加速度での移動を仮定した第1ステップ、第2ステップ、及び第3ステップからな
り、(a)車両加速度を一定とし、(b)3ステップの行動決定を最小の部分問題とし、(c)車両のヨー角θ、曲率κの2状態を任意の値に遷移させる制御値を得る構成を有する、車両運動の等加速3操舵モデルを生成すると共に、前記第3ステップ終了後の車両のヨー角及び曲率を道路の形状に基づいて決定し、前記始端における車両のヨー角及び曲率と前記第3ステップ終了後の車両のヨー角及び曲率を満たすように、前記第1ステップから前記第3ステップにおける車両の曲率変化率の時系列データを
車両の制御値として決定する演算部を備える車両制御値決定装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記予測ホライズンを分割し、分割された各区間について前記等加速3操舵モデルを生成し、前記各区間の第1ステップから第3ステップにおける曲率変化率の時系列データを決定する請求項1に記載の車両制御値決定装置。
【請求項3】
他車両の位置及び速度のデータを取得する他車データ取得部を備え、
前記演算部は、他車両との衝突が発生しないことを条件として、前記曲率変化率の時系列データを決定する請求項1または2に記載の車両制御値決定装置。
【請求項4】
前記演算部は、車両の走行経路が道路範囲から逸脱しないことを条件として、前記曲率変化率の時系列データを決定する請求項1乃至3のいずれかに記載の車両制御値決定装置。
【請求項5】
前記演算部は、前記第1ステップ終了後の曲率の複数の候補を生成し、当該複数の候補のそれぞれについて、前記第3ステップ終了後の車両のヨー角及び曲率を満たすように、前記第2ステップ終了後の曲率を求め、
前記複数の候補に対応する前記曲率変化率の時系列データのうち、当該曲率変化率の時系列データに含まれる最大の曲率変化率が最小である曲率変化率の時系列データを選択する請求項1乃至4のいずれかに記載の車両制御値決定装置。
【請求項6】
前記演算部は、前記第1ステップ終了後の複数の曲率の複数の候補を生成し、当該複数の候補のそれぞれについて、前記第3ステップ終了後の車両のヨー角及び曲率を満たすように、前記第2ステップ終了後の曲率を求め、
前記複数の候補に対応する前記曲率変化率の時系列データのうち、前記第3ステップ終了後において車両が所定のラテラル位置に到達する曲率変化率の時系列データを選択する請求項1乃至4のいずれかに記載の車両制御値決定装置。
【請求項7】
前記曲率の複数の候補の一つは、道路の曲率と同じである請求項5または6に記載の車両制御値決定装置。
【請求項8】
前記演算部は、
曲率および曲率変化率に代えて
前輪舵角および舵角変化率を用いる請求項1乃至7のいずれかに記載の車両制御値決定装置。
【請求項9】
前記等加速3操舵モデルにおける前記第1ステップから前記第3ステップの少なくとも1つのステップは、前記予測ホライズンにおける離散時間制御のサンプリング時間とは異なる請求項1乃至8のいずれかに記載の車両制御値決定装置。
【請求項10】
前記演算部で求めた曲率変化率の時系列データと前記一定加速度とを初期値として、車両運動のコスト関数の非線形最適化を行い、曲率変化率および加速度の制御値を求める第2の演算部を備える請求項1乃至
7または9のいずれかに記載の車両制御値決定装置。
【請求項11】
始端における車両の状態量と道路の形状に関する情報に基づいて、前記始端から所定時間後までの予測ホライズンにおける車両の制御値を決定する方法であって、
一定加速度での移動を仮定した第1ステップ、第2ステップ、及び第3ステップからな
り、(a)車両加速度を一定とし、(b)3ステップの行動決定を最小の部分問題とし、(c)車両のヨー角θ、曲率κの2状態を任意の値に遷移させる制御値を得る構成を有する、車両運動の等加速3操舵モデルを生成するステップと、
前記第3ステップ終了後の車両のヨー角及び曲率を道路の形状に基づいて決定するステップと、
前記始端における車両のヨー角及び曲率と前記第3ステップ終了後の車両のヨー角及び曲率を満たすように、前記第1ステップから前記第3ステップにおける車両の曲率変化率の時系列データを
車両の制御値として決定するステップと、
を備える車両制御値決定方法。
【請求項12】
始端における車両の状態量と道路の形状に関する情報に基づいて、前記始端から所定時間後までの予測ホライズンにおける車両の制御値を決定するためのプログラムであって、コンピュータに、
一定加速度での移動を仮定した第1ステップ、第2ステップ、及び第3ステップからな
り、(a)車両加速度を一定とし、(b)3ステップの行動決定を最小の部分問題とし、(c)車両のヨー角θ、曲率κの2状態を任意の値に遷移させる制御値を得る構成を有する、車両運動の等加速3操舵モデルを生成するステップと、
前記第3ステップ終了後の車両のヨー角及び曲率を道路の形状に基づいて決定するステップと、
前記始端における車両のヨー角及び曲率と前記第3ステップ終了後の車両のヨー角及び曲率を満たすように、前記第1ステップから前記第3ステップにおける車両の曲率変化率の時系列データを
車両の制御値として決定するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御値決定装置、車両制御値決定方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動運転車の車両制御値を決定する行動計画として、モデル予測制御(以下、「MPC」という)による行動計画がある。MPCは、制約として車両ダイナミクスを用いることにより、車両の運動特性を考慮した意思決定と軌道計画を同時に行う手法である。MPCを用いた自動運転車両の行動計画では、予測に基づいた力学的に正確な行動計画を実現することによって、常に実現可能な行動を自律生成し、車両挙動が保守的な動きに陥ることを抑止できる。
【0003】
特許文献1は、自車両の周囲を走行する他車両の挙動を予測し、現在時刻から未来時刻までの一連の推奨動作を提示する装置を開示している。また、非特許文献1及び非特許文献2は、目標に基づいて自動運転車両が走行する最適な走行経路を自律生成する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】M. Obayashi, K. Uto, and G. Takano, 「Appropriate Overtaking Motion Generating Method using Predictive Control with Suitable Car Dynamics」IEEE 55th Conference on Decision and Control (CDC), 2016.
【文献】T. Kawabe, H. Nishira, and T. Ohtsuka, 「An optimal path generator using a receding horizon control scheme for intelligent automobiles」IEEE International Conference on Control Applications, 2004.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最適化の対象とするコスト関数が凸であれば、大域最適解を効率的に得ることが可能である。ところが、車両運動のダイナミクスは非線形であり、MPCで扱う最適化問題は非線形関数となる。コスト関数が非凸であれば、大域最適解を得る保証がなくなるだけでなく、解の質は最適化処理を開始する初期値に大きく依存することとなる。
【0007】
そこで、本発明は、車両制御値を適切に決定することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両制御値決定装置は、始端における車両の状態量と道路の形状に関する情報に基づいて、前記始端から所定時間後までの予測ホライズンにおける車両の制御値を決定する装置であって、一定加速度での移動を仮定した第1ステップ、第2ステップ、及び第3ステップからなる車両運動の等加速3操舵モデルを生成すると共に、前記第3ステップ終了後の車両のヨー角及び曲率を道路の形状に基づいて決定し、前記始端における車両のヨー角及び曲率と前記第3ステップ終了後の車両のヨー角及び曲率を満たすように、前記第1ステップから前記第3ステップにおける車両の曲率変化率の時系列データを決定する演算部を備える。このように加速度を一定とした3ステップからなる等加速3操舵モデルにより、値を決定すべき変数を減らすことにより、始端での車両のヨー角及び曲率と目標のヨー角及び曲率を満たす制御値の時系列データを容易に求めることができる。
【0009】
本発明の車両制御値決定装置において、前記演算部は、前記予測ホライズンを分割し、分割された各区間について前記等加速3操舵モデルを生成し、前記各区間の第1ステップから第3ステップにおける曲率変化率の時系列データを決定してもよい。この構成により、予測ホライズンが長い場合であっても、本発明を適用して制御値の時系列データを決定することができる。
【0010】
本発明の車両制御値決定装置は、他車両の位置及び速度のデータを取得する他車データ取得部を備え、前記演算部は、他車両との衝突が発生しないことを条件として、前記曲率変化率の時系列データを決定してもよい。また、前記演算部は、車両の走行経路が道路範囲から逸脱しないことを条件として、前記曲率変化率の時系列データを決定してもよい。これにより、他車両との衝突や道路からの逸脱のない制御値の時系列データを決定することができる。
【0011】
本発明の車両制御値決定装置において、前記演算部は、前記第1ステップ終了後の曲率の複数の候補を生成し、当該複数の候補のそれぞれについて、前記第3ステップ終了後の車両のヨー角及び曲率を満たすように、前記第2ステップ終了後の曲率を求める。そして、前記複数の候補に対応する前記曲率変化率の時系列データのうち、当該曲率変化率の時系列データに含まれる最大の曲率変化率が最小である曲率変化率の時系列データ、あるいは、前記第3ステップ終了後において車両が所定のラテラル位置に到達する曲率変化率の時系列データを選択してもよい。最大の曲率変化率が最小である時系列データを選択することにより、滑らかに進行する走行経路を求めることができる。また、所定のラテラル位置に到達する時系列データを選択することにより、例えば、車線の中央を走行する経路を求めることができる。
【0012】
本発明の車両制御値決定装置において、前記曲率の複数の候補の一つは、道路の曲率と同じであってもよい。これにより、道路に沿った走行を実現する制御値を選択肢の一つに加えることができる。
【0013】
本発明の車両制御値決定装置において、前記演算部は、曲率変化率に代えて舵角変化率を用いてもよい。舵角変化率を用いても、上記した車両制御値決定装置と同様に、制御値の時系列データを求めることができる。
【0014】
本発明の車両制御値決定装置において、前記等加速3操舵モデルにおける前記第1ステップから前記第3ステップの少なくとも1つのステップは、前記予測ホライズンにおける車両の離散時間制御のサンプリング時間とは異なってもよい。これにより、等加速3操舵モデル生成の自由度を高めることができる。
【0015】
本発明の車両制御値決定装置は、前記演算部で求めた曲率変化率の時系列データと前記一定加速度とを初期値として、車両運動のコスト関数の非線形最適化を行い、曲率変化率および加速度の制御値を求める第2の演算部を備えてもよい。このように等加速3操舵モデルで求めた制御値の時系列データを初期値として用いることにより、計算時間を一定の時間内に抑えつつ、大域最適解に到達できる可能性が高まる。
【0016】
本発明の車両制御値決定方法は、始端における車両の状態量と道路の形状に関する情報に基づいて、前記始端から所定時間後までの予測ホライズンにおける車両の制御値を決定する方法であって、一定加速度での移動を仮定した第1ステップ、第2ステップ、及び第3ステップからなる車両運動の等加速3操舵モデルを生成するステップと、前記第3ステップ終了後の車両のヨー角及び曲率を道路の形状に基づいて決定するステップと、前記始端における車両のヨー角及び曲率と前記第3ステップ終了後の車両のヨー角及び曲率を満たすように、前記第1ステップから前記第3ステップにおける車両の曲率変化率の時系列データを決定するステップとを備える。
【0017】
本発明のプログラムは、始端における車両の状態量と道路の形状に関する情報に基づいて、前記始端から所定時間後までの予測ホライズンにおける車両の制御値を決定するためのプログラムであって、コンピュータに、一定加速度での移動を仮定した第1ステップ、第2ステップ、及び第3ステップからなる車両運動の等加速3操舵モデルを生成するステップと、前記第3ステップ終了後の車両のヨー角及び曲率を道路の形状に基づいて決定するステップと、前記始端における車両のヨー角及び曲率と前記第3ステップ終了後の車両のヨー角及び曲率を満たすように、前記第1ステップから前記第3ステップにおける車両の曲率変化率の時系列データを決定するステップとを実行させる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、自動車の予測ホライズンにわたる行動の実行可能解または実行可能解に近い値を効率的に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図4】等加速3操舵モデルにおいて、ヨー角θ、曲率κの制御値を求める例を示す図である。
【
図5】予測ホライズンH
pが3サンプリング時間より長い場合の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態の車両制御値決定装置について図面を参照しながら説明する。本実施の形態の車両制御値決定装置の説明に先立って、車両制御値決定装置で扱う車両運動モデル(等式制約)、コスト関数、不等式制約について説明する。
【0021】
(車両運動モデル)
図1は、車両運動ダイナミクスを示す図である。車両運動ダイナミクスは、後輪軸中心を運動原点とするBicycleモデルであり、制御入力値を加速度u
α[m/sec
2]と曲率変化率u
κ[m
-1sec
-1]の時系列信号とする。車両の状態量として位置X[m]、Y[m]、ヨー角θ[rad]、速度V[m/sec]、曲率κ[m
-1]を扱う。以下では、ある時刻kにおける車両状態ベクトルを、z(k)=[u
α(k),u
κ(k),X(k),Y(k),θ(k),V(k),κ(k)]と定義する。本実施の形態では、前輪舵角δ[rad]及び舵角変化率 u
δ[rad/sec]を扱う代わりに、車両運動の曲率κと曲率変化率u
κを用いている。これにより、最適化の等式制約となる運動方程式から非線形項を減らすことができる。なお,曲率κと前輪舵角δの間には、κ=tan(δ)/ホイールベースの関係を仮定する。車両の各状態に関する離散時間運動方程式を以下に示す。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【0022】
図2は、本実施の形態で用いる道路座標系を示す図である。車両制御値決定装置は、道路情報として、道路基準線を構成する点群の情報P
iを持つ。これらの点群から構成される線分(aX+bY+c=0)を用いて、自車の道路進行方向の位置S、道路横断方向の位置Tを得る。道路横断方向の位置を「ラテラル位置」という。
【0023】
(コスト関数)
コスト関数は、車両の望ましい動きや状態を表現する関数である。コスト関数は、一般に以下の形式で表現される。
【数6】
【0024】
φは予測ホライズン終端におけるコストである。本実施の形態では終端状態に大きなコストを設定しないものとする。L*(z,k)は複数のコスト関数による重み付き線形和によって構成される。本実施の形態で用いるコスト関数の例を以下に示す。
【0025】
車線内走行位置コスト関数は、複数車線の中央付近の走行を促すコスト関数である。以下の式により表される。
【数7】
【0026】
上式におけるCgおよびlgは、関数の形状を決定する係数である。例えば、本実施の形態ではCg=1.0、lg=0.5とする。εiはi番目の車線中央における道路横断方向位置を表す。
【0027】
車間評価コスト関数は、各車両間のTTC(Time To Collision)とTHW(Time Headway)に基づいて車間評価関数L
ttcとL
thwを構築する。
【数8】
【0028】
上式において、S
l、V
lは、前方を走行する車両の道路進行方向位置および速度である。また、S
f、V
fは、後方を走行する車両の位置および速度を表す。なお、他車両が隣のレーンを走行する場合など、一定以上の道路横断方向の相対距離がある場合には、車両間隔のコストを考慮する必要はない。このコスト変化はシグモイド関数に基づく係数を乗じることによって表現する。
【数9】
【0029】
上式におけるT
relは,評価対象の他車と自車のラテラル位置の相対距離、W
egoは自車の車幅、s
aはシグモイド関数の形状を決定するゲインであり、例えば、s
a=8としてもよい。上記より、考慮すべき他車両の台数をN
othとするとき,車両間隔に関するコスト関数L
distは、以下の形で表現される。
【数10】
【0030】
車両巡航速度に関するコストは、以下の式で表現する。
【数11】
【0031】
また、道路構造に沿って滑らかに走行させることを目的として、道路構造の曲率と車両進行方向に関数するコストを以下のように設定する。
【数12】
なお、理想曲率κ
ref及び理想車両進行方向θ
refは、車両制御値決定装置が有する道路構造情報から得られる。
【0032】
また、急激な加減速および曲率変化に対するコストは以下の式で表現する。
【数13】
【0033】
(不等式制約)
自車両が陥るべきでない状態を不等式によって定式化し、非線形最適化における不等式制約として扱う。自車両の速度および制御入力値(加速度、曲率変化率)の上下限設定、車間距離制限、道路からの逸脱防止を実現する。
【0034】
車間距離制約はZieglerらによる手法(「Trajectory planning for Bertha ― A local, continuous method」Intelligent Vehicles Symposium Proceedings、2014)と同様に、自車の形状を複数の円で近似することで実現する。直交座標系において、自車の位置と他車の位置とのL2ノルムが常に一定値よりも大きいことを制約とする。本実施の形態の車両制御値決定装置において、MPCのサンプリング周期は比較的長いため(ΔT=0.5[sec])、より細かい時間間隔で衝突制約を反映させる。時間補間のための正の整数T
pを導入し、Δτ=ΔT/T
pの時間間隔による車両状態の時間発展を用いる。
【数14】
p
othi、p
egojは,それぞれ他車両および自車両の形状を近似する円の中心座標を表す。最小車間距離Mは、車幅/2+0.2[m]とした。
【0035】
道路制約の定式化は、道路座標系における基準線からの道路横断方向距離Tを用いる。
図2に示されるように、自車両の道路横断方向距離が道路の最大最小幅の範囲となるように不等式を設定する。
【数15】
【0036】
また、極端な動きを抑制するために、制御入力とする加速度uαと曲率変化率uκには上下限を不等式制約として設定する。
【0037】
(車両制御値決定装置)
図3は、車両制御値決定装置10の構成を示す図である。車両制御値決定装置10は、フィードバックコントローラ(以下、「FBC」という)20と接続されている。車両制御値決定装置10にて決定された制御値の信号に基づいて、FBC20が自車両21を制御する。車両制御値決定装置10は、車両の加速度及び曲率変化率の予測ホライズン長にわたる時系列信号を、FBC20に出力する。この時系列信号は、車両運動を空間的に連続で表現するので、グラフ探索に代表される離散空間的なアプローチと比較してより滑らかな解を期待できる。本実施の形態において、例えば、車両制御値決定装置10の予測ホライズンH
pは10[step]、動作周期ΔTは0.5[sec]とする。FBC20の制御周期は、8[msec]である。
【0038】
また、車両制御値決定装置10は、周辺監視部22および環境データベース(以下、「環境DB」という)23と接続されている。周辺監視部22は、自車両21の周辺にあるオブジェクト(静的な物体および他車両などの動的な物体)を監視し、そのデータを取得する。例えば、他車両の位置や移動方向、移動速度などのデータである。環境DB23は、地図や道路のデータを記憶している。道路のデータは、例えば、車線数、道路幅、道路のカーブの形状などである。車両制御値決定装置10は、周辺監視部22から周辺のオブジェクトのデータを取得すると共に、環境DB23から走行環境の地図データや道路データを取得する。
【0039】
また、車両制御値決定装置10は、自車両21とも接続されており、自車両21の状態に関するデータを取得する。自車両21の状態には、上述した位置X[m]、Y[m]、ヨー角θ[rad]、速度V[m/sec]、曲率κ[m-1]が含まれる。
【0040】
車両制御値決定装置10は、等加速3操舵モデル演算部11と、非線形最適化演算部12とを有している。本実施の形態の車両制御値決定装置10が求めたい解は、予測ホライズン長にわたる自車両21の制御入力値u=[uα、uκ]Tの時系列データである。最適化問題として、目的変数は予測ホライズンHpにわたる制御入力値および自車両21と他車両の状態変数から構成されるベクトルとなる。この最適化問題は、上述した等式制約、コスト関数、不等式制約を含むことから、非線形最適化問題である。したがって、解の質や局所最適解に到達するまでの計算量は、初期探索点の場所に大きく依存する。
【0041】
そこで、本実施の形態の車両制御値決定装置10は、等加速3操舵モデル演算部11にて、モーションプランニングの問題構造を利用した近似問題を解く。本実施の形態の等加速3操舵モデル演算部11にて扱う等加速3操舵モデルは、次の構成(a)~(c)を有する。
【0042】
(a)車両加速度を一定とする。
この仮定を導入することにより、近似問題中では全ホライズンにわたる加速度uαを一定値に固定する。これにより、求める制御入力値の時系列は曲率変化率uκ,k=0,・・・Hpのみとなる。自車両21の他の状態変数は、上述した式(1)~(5)の車両運動モデルに基づいて、現在値x(0)と制御入力から自動的に決定される。
【0043】
(b)3ステップの行動決定を最小の部分問題とする。
ある任意の車両状態から、任意のヨー角θ、曲率κに車両状態を合わせるためには、3つの制御入力uκで実現できる。部分問題の最小構成は、MPCのサンプリング周期ΔTによる3ステップ(3ΔT)の時間長における制御入力の決定問題である。ただし、ステップの時間長とサンプリング周期ΔTは必ずしも一致しなくてもよく、例えば、2つのサンプリング周期2ΔTを1ステップとしてもよい。
【0044】
(c)車両のヨー角θ、曲率κの2状態を任意の値に遷移させる制御値を得る。
道路をスムーズに走行するためには、道路の進行方向と車両向き、道路曲率と車両運動の曲率がほぼ等しくなることが望ましい。3ステップのモデルにおいて、第1ステップの開始時点の自車両21のヨー角及び曲率は観測可能である。第3ステップ終了時の自車両21のヨー角と曲率の目標値を道路の進行向きと道路曲率に等しくなるように決定する。すると残りは、第1ステップ終了時と第2ステップ終了時の自車両21のヨー角θと曲率κの状態である。この2状態を任意の値に遷移させる制御値の時系列データを得る。
【0045】
図4は、3ステップからなる等加速3操舵モデルにおいて、ヨー角θ、曲率κの制御値を求める例を示す図である。第1ステップの開始時点kにおけるヨー角θ(k)、曲率κ(k)は、自車両21の状態データより取得することができる。等加速3操舵モデル演算部11は、第3ステップの終了時点(k+3)におけるヨー角θ(k+3)、曲率κ(k+3)を目標値として決定する。具体的には、ヨー角θ(k+3)は道路の進行方向に等しく、曲率κ(k+3)は道路の曲率と等しくなるように設定する。
【0046】
等加速3操舵モデル演算部11は、時刻k+1におけるヨー角θ(k+1)、曲率κ(k+1)として、複数の候補を設定する。例えば、時刻kにおけるヨー角θ(k)と曲率κ(k)を基準として、プラスとマイナスの方向に複数ずつの候補を設定してもよい。ただし、候補の1つが道路の進行方向及び曲率と一致していることが望ましい。
【0047】
時刻k、k+1、k+3におけるヨー角θと曲率κが定まると、時刻k+2におけるヨー角θ(k+2)と曲率κ(k+2)は一意に定まる。すなわち、次式に示すように、関数κ(t)の積分値がθ(k+3)に一致するからである。
【数16】
【0048】
上述したとおり、目標のヨー角θ(k+3)は、道路形状から一意に設定されるので、以下の式により、κ(k+2)が求まる。
【数17】
以上、3ステップからなる等加速3操舵モデルでの計算について説明した。
【0049】
等加速3操舵モデル演算部11は、時刻k+1における曲率κ(k+1)として複数の候補(例えば、21通り)を生成する。そして、複数の候補に対応する時刻k+2における曲率κ(k+2)を求め、第1ステップ~第3ステップにおける曲率変化率uκを求める。これにより、制御値の時系列データの複数の候補を生成する。
【0050】
等加速3操舵モデル演算部11は、この時系列データの候補のうち、不等式制約を満たさない候補を除外する。すなわち、他の車両と衝突する、あるいは道路から逸脱する制御値を除外する。ここで、考慮する制約式は、式(17)、式(18)と同じである。等加速3操舵モデル演算部11は、残った時系列データの候補の中から、最大の曲率変化率uκが最小の時系列データを選択する。選択された時系列データが、等加速3操舵モデルを用いた制御値の解である。
【0051】
図5は、予測ホライズンH
pが3サンプリング時間より長い場合の例を示す図である。
図5に示すように、予測ホライズンH
pが10サンプリング時間ΔTである場合、等加速3操舵モデル演算部11は、予測ホライズンH
pを3ΔT、3ΔT、4ΔTの3つの区間に分割し、各区間について等加速3操舵モデルを生成する。3つめの区間は4ΔTの長さを有するので、3ステップの等加速3操舵モデルにする際には、例えば、ΔT-2ΔT-ΔTというようにステップ2の長さを2サンプリング時間とする。
【0052】
次に、等加速3操舵モデル演算部11は、時間分割された各部分近似問題を順に計算し、制御入力値と状態遷移を求める。各等加速3操舵モデルにおける解の集合をp
i,(i=0・・・Np)とする。すべての等加速3操舵モデルは、前時刻の等加速3操舵モデルにおける各解を初期状態として個別に計算を行う。各等加速3操舵モデルの計算については、
図4を用いて説明したとおりである。各区間について制御入力値と状態遷移の複数の候補を求め、各区間の時系列データの候補をマージして、10サンプリング時間における制御値の時系列データの複数の候補を生成する。
【0053】
そして、等加速3操舵モデル演算部11は、複数の候補の中から、最大の曲率変化率が最小の候補を選択し、選択された時系列データを10サンプリング時間の予測ホライズンHpにおける制御値の時系列データとする。
【0054】
非線形最適化演算部12は、等加速3操舵モデル演算部11にて求めた制御値の時系列データを初期値として用いて、制約条件を満たしつつ、上述した式(6)~式(16)で示されるコスト関数のコストを最小にするような制御値の時系列データを計算する。非線形最適化部は、例えば、ニュートン法を繰り返し用いて計算する。
【0055】
以上、本実施の形態の車両制御値決定装置10の構成について説明したが、上記した車両制御値決定装置10のハードウェアの例は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク、ディスプレイ、キーボード、マウス、通信インターフェース等を備えたコンピュータである。上記した各機能を実現するモジュールを有するプログラムをRAMまたはROMに格納しておき、CPUによって当該プログラムを実行することによって、上記した車両制御値決定装置10が実現される。このようなプログラムも本発明の範囲に含まれる。
【0056】
図6は、車両制御値決定装置10の動作を示す図である。車両制御値決定装置10は、自車両21から自車状態データを取得し、周辺監視部22から周辺にあるオブジェクトのデータを取得し、環境DB23から走行中の道路等の環境データを取得する(S10)。車両制御値決定装置10は、予測ホライズンH
pを分割し、分割した各区間について等加速3操舵モデルを生成する(S11)。上述したとおり、等加速3操舵モデルは、一定加速度で移動することを仮定した3ステップからなるモデルである。加速度としては、自車両21の現在の加速度を用いてもよいし、予測ホライズンの終端で目標の速度に到達する加速度を用いてもよい。
【0057】
車両制御値決定装置10は、目標位置における道路の曲率と一致するように、車両の曲率κを決定する(S12)。車両制御値決定装置10は、現在の車両のヨー角θ(k)、曲率κ(k)と、目標位置のヨー角θ(k+3)、曲率κ(k+3)とを条件として、等加速3操舵モデルの各ステップにおける曲率κ(k+1)、κ(k+2)の候補を生成する(S13)。具体的には、等加速3操舵モデルの第1ステップ終了時の曲率κ(k+1)として複数の候補を設定し、複数の候補のそれぞれについて、第2ステップ終了時の曲率κ(k+2)を計算する。
【0058】
車両制御値決定装置10は、生成した複数の時系列データの候補のうち、他車両と衝突しない、あるいは道路から逸脱しないといった不等式制約を満たす候補を絞り込む(S14)。続いて、車両制御値決定装置10は、絞り込まれた複数の時系列データの候補のうちから1つの時系列データを選択する。本実施の形態では、最大の曲率変化率が最小となるような経路を与える制御値の時系列データを選択する(S15)。
【0059】
続いて、車両制御値決定装置10は、選択された制御値の時系列データを初期値として用いて、コスト関数を最小にする制御値の時系列データを計算する(S16)。以上、本実施の形態の車両制御値決定装置10の構成および動作について説明した。
【0060】
本実施の形態の車両制御値決定装置10は、等加速3操舵モデルで求めた制御値の時系列データを初期値として、非線形最適化の計算を行う。等加速3操舵モデルで得られた解は車両運動の方程式を満たすため、後段の非線形最適化における等式制約と矛盾無く機能し、大域最適解に到達できる可能性が高まる。等加速3操舵モデルでは、収束条件に基づく繰り返しは発生しないため、一定の計算時間で解を得ることが可能である。
【0061】
以上、本発明の車両制御値決定装置について実施の形態を挙げて詳細に説明したが、本発明の車両制御値決定装置は、上記した実施の形態に限定されるものではない。
【0062】
上記した本実施の形態では、車両運動の曲率κと曲率変化率uκを用いる例を挙げたが、前輪舵角δ[rad]及び舵角変化率uδ[rad/sec]を扱ってもよい。
【0063】
また、上記した実施の形態では、複数の時系列データの候補から1つの時系列データを選択する方法として、最大の曲率変化率が最小である時系列データを選択する例を挙げたが、時系列データを選択する方法として、別の方法を採用することもできる。例えば、自車両のラテラル位置が所望の位置に到達する時系列データを選択することとしてもよい。
【0064】
さらに、上記した実施の形態では、等加速3操舵モデル演算部11にて求めた制御値の時系列データを、非線形最適化演算部12による非線形最適化演算の初期値として用いたが、等加速3操舵モデル演算部11にて求めた制御値の時系列データを車両制御値決定装置10の解とすることも可能である。これにより、極めて高速に車両制御値を決定することができる。
【符号の説明】
【0065】
10 車両制御値決定装置
11 等加速3操舵モデル演算部
12 非線形最適化演算部
20 フィードバックコントローラ
21 自車両
22 周辺監視部
23 環境データベース