(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】マスキングシート及び該マスキングシートの使用方法
(51)【国際特許分類】
C09J 7/20 20180101AFI20220208BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20220208BHJP
B32B 37/18 20060101ALN20220208BHJP
【FI】
C09J7/20
C09J7/38
B32B37/18
(21)【出願番号】P 2018004061
(22)【出願日】2018-01-15
【審査請求日】2020-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004020
【氏名又は名称】ニチバン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【氏名又は名称】坂本 智弘
(74)【代理人】
【識別番号】100186679
【氏名又は名称】矢田 歩
(74)【代理人】
【識別番号】100189186
【氏名又は名称】大石 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】市村 周二
(72)【発明者】
【氏名】尾澤 健治
(72)【発明者】
【氏名】中野 浩史
(72)【発明者】
【氏名】橋本 康平
(72)【発明者】
【氏名】我妻 弘規
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-011820(JP,A)
【文献】特開平10-128879(JP,A)
【文献】特開2007-314622(JP,A)
【文献】特開2002-194307(JP,A)
【文献】実開平03-094980(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/00-7/50
C09J 201/00
B32B 37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
養生用テープが複数積層されたマスキングシートであって、
マスキングシートは、平面視において、略長方形又は略正方形であり、厚み方向において、下側から順に、最下層、中間層、最上層の、少なくとも3つの領域を有し、
各養生用テープは、支持体及び前記支持体の下側表面に粘着剤層を積層した構造を有し、
前記最下層は、1枚又は2枚の養生用テープで構成されており、
前記中間層は、幅方向において、第2の中間層養生用テープの上側表面の一部に第1の中間層養生用テープが重なった構造を有しており、
前記最上層は、幅方向において、第2の最上層養生用テープの上側表面の一部に第1の最上層養生用テープが重なった構造を有しており、
前記最下層の養生用テープの幅方向の一方端部、前記第1の中間層養生用テープの幅方向の一方端部及び前記第1の最上層養生用テープの幅方向の一方端部は、それぞれマスキングシートの幅方向の一方端部において厚み方向で重複しているとともに、前記第2の中間層養生用テープの幅方向の一方端部及び前記第2の最上層養生用テープの幅方向の一方端部と厚み方向で重複しておらず、
前記最下層の養生用テープの幅方向の他方端部、前記第2の中間層養生用テープの幅方向の他方端部及び前記第2の最上層養生用テープの幅方向の他方端部は、それぞれマスキングシートの幅方向の他方端部において厚み方向で重複しているとともに、前記第1の中間層養生用テープの幅方向の他方端部及び前記第1の最上層養生用テープの幅方向の他方端部と厚み方向で重複しておらず、
前記第2の中間層養生用テープの一方端部は、前記第2の最上層養生用テープの一方端部より他方端部側に位置し、前記第1の最上層養生用テープの他方端部は、前記第1の中間層養生用テープの他方端部より一方端部側に位置し、
前記最下層の養生用テープ、前記第1の中間層養生用テープ、前記第2の中間層養生用テープ、前記第1の最上層養生用テープ及び前記第2の最上層養生用テープは、それぞれ長手方向の両端部において、マスキングシートの厚み方向で重複して
おり、
前記第2の中間層養生用テープの幅方向の寸法が、マスキングシートの幅方向の寸法に対して、30%以上70%以下であり、
前記第1の中間層養生用テープと前記第2の中間層養生用テープが重なった領域の幅方向の寸法が、3mm以上50mm以下であり、
前記第2の最上層養生用テープの幅方向の寸法が、マスキングシートの幅方向の寸法に対して、30%以上70%以下であり、
前記第1の最上層養生用テープと前記第2の最上層養生用テープが重なった領域の幅方向の寸法が、3mm以上50mm以下である、マスキングシート。
【請求項2】
前記最下層の養生用テープの粘着剤層の表面にセパレーターが配置されており、前記セパレーターが、長手方向及び/又は幅方向に沿って、指先又は爪先を引っかけるための切込みを有する、請求項
1に記載のマスキングシート。
【請求項3】
前記最下層の養生用テープの粘着剤層の表面にセパレーターが配置されており、前記セパレーターが、前記セパレーターの幅方向及び/又は長手方向の端部に、前記セパレーターを剥離する際に指で把持するためのタブを有する、請求項
1に記載のマスキングシート。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれかに記載のマスキングシートの使用方法であって、
少なくとも、以下の工程(A)から(G)を有するマスキングシートの使用方法。
(A)最下層の養生用テープの粘着剤層を養生領域に固定する工程
(B)第1の塗膜を形成する工程
(C)第2の最上層養生用テープと重なった領域から第1の最上層養生用テープをマスキングシートの幅方向の一方端部に向けて剥がし、その後、第1の最上層養生用テープと重なっていた領域から第2の最上層養生用テープをマスキングシートの幅方向の他方端部に向けて剥がす工程
(D)第2の塗膜を形成する工程
(E)第2の中間層養生用テープと重なった領域から第1の中間層養生用テープをマスキングシートの幅方向の一方端部に向けて剥がし、その後、第1の中間層養生用テープと重なっていた領域から第2の中間層養生用テープをマスキングシートの幅方向の他方端部に向けて剥がす工程
(F)第3の塗膜を形成する工程
(G)最下層の養生用テープを剥がす工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜形成が複数回行われる場合にも同一領域を正確に養生することができ、貼付作業及び剥離作業の負担が軽減されたマスキングシート及び該マスキングシートの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築現場においては、塗装により形成される塗膜等から養生領域を守るために養生が行われる。かかる養生の手段としては、非塗装面に養生用テープを貼付する方法が一般的に用いられている。
【0003】
ここで、塗装による塗膜形成が1回である場合には、1枚の養生用テープで養生したとしても問題ないが、建築現場においては、不陸修正等を目的として塗装が2回又は3回行われる場合も少なくなく、そのような場合に1枚の養生用テープのみで養生すると、例えば、複数回の塗装が全て完了したあとに、養生用テープを剥がす作業が発生するため、養生用テープを剥がすタイミングにおいて、1回目の塗装により形成された塗膜が完全に乾燥しており、養生用テープを剥がす際に当該塗膜にひび割れや浮き上がりが生じる場合があり、又、塗膜が重なることで養生領域と非養生用領域の境界がわかりづらくなるという問題があった。
【0004】
また、上記の事態を避けるために、建築現場においては、養生領域に、複数回、養生用テープを手作業で貼付し、各塗装が終了するごとに養生用テープを剥がす方法もあるが、そのような場合には、単に貼付する回数が増えるだけでなく、複数の養生用テープを同じ養生領域に正確に積層させながら貼付しなければならず、作業者の大きな負担となっていた。
【0005】
以上の問題点に鑑み、これまでに、複数の養生用テープが積層されたマスキングシートに関する検討がなされている。
【0006】
例えば、特許文献1には、基材層と粘着層からなるフィルムが複数積層されたマスキングシートであって、下方に位置するフィルムの粘着力が上方に位置するフィルムの粘着力よりも強くされていることを特徴とするマスキングシートが開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、塗装領域に、2層以上の下層塗膜、及び、最上層塗膜の、少なくとも合計3層の塗膜を形成する際に使用する、3段以上に粘着テープが積層されたマスキングシートであって、上から順に、該2層以上の下層塗膜が形成されないように養生領域を養生するための下層養生用粘着テープが2段以上、及び、該最上層塗膜が形成されないように該養生領域を養生するための最上層養生用粘着テープが少なくとも設けられており、該下層養生用粘着テープの幅方向には、該下層養生用粘着テープの1つ下段の粘着テープの幅よりも塗装領域側に向けて延伸した拡張部分が存在しているものであることを特徴とするマスキングシートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-194307号公報
【文献】特開2017-95651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、単純に、積層される各テープの長手方向両端部及び幅方向両端部を揃える態様で複数積層したマスキングシートの場合には、最上層に位置する養生用テープの長手方向又は幅方向の端部から剥がす際に、下層の養生用テープも同時に剥がれてしまう場合もあった。この点、特許文献1に記載のマスキングシートでは、下方に位置するフィルムの粘着力が上方に位置するフィルムの粘着力よりも強くされていることで上記の問題点について改善されているものの、上方のフィルムと下方のフィルムの長手方向及び幅方向の端部がそれぞれ厚み方向に重複しているため、指先や爪先を引っかける部位がなく剥がしづらいという問題があった。また、それぞれ粘着力の異なるテープを用意しなければならないため、生産性において十分なものではなかった。
【0010】
また、特許文献2に記載のマスキングシートでは、養生用テープを剥離した後の見切りを良くするために、下層養生用粘着テープの幅方向には、該下層養生用粘着テープの1つ下段の粘着テープの幅よりも塗装領域側に向けて延伸した拡張部分を設けている故に、複数回に分けて塗装する際に必然的に養生領域がずれてしまい同一領域を養生することができなかった。
【0011】
したがって、本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、塗膜形成が複数回行われる場合にも同一領域を正確に養生することができ、貼付作業及び剥離作業の負担が軽減されたマスキングシート及び該マスキングシートの使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を行った。その結果、養生用テープが複数積層されたマスキングシートにおいて、各養生用テープの積層の態様を工夫することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0013】
(1)本発明の第1の態様は、養生用テープが複数積層されたマスキングシートであって、マスキングシートは、平面視において、略長方形又は略正方形であり、厚み方向において、下側から順に、最下層、中間層、最上層の、少なくとも3つの領域を有し、各養生用テープは、支持体及び前記支持体の下側表面に粘着剤層を積層した構造を有し、前記最下層は、1枚又は2枚の養生用テープで構成されており、前記中間層は、幅方向において、第2の中間層養生用テープの上側表面の一部に第1の中間層養生用テープが重なった構造を有しており、前記最上層は、幅方向において、第2の最上層養生用テープの上側表面の一部に第1の最上層養生用テープが重なった構造を有しており、前記最下層の養生用テープの幅方向の一方端部、前記第1の中間層養生用テープの幅方向の一方端部及び前記第1の最上層養生用テープの幅方向の一方端部は、それぞれマスキングシートの幅方向の一方端部において厚み方向で重複しているとともに、前記第2の中間層養生用テープの幅方向の一方端部及び前記第2の最上層養生用テープの幅方向の一方端部と厚み方向で重複しておらず、前記最下層の養生用テープの幅方向の他方端部、前記第2の中間層養生用テープの幅方向の他方端部及び前記第2の最上層養生用テープの幅方向の他方端部は、それぞれマスキングシートの幅方向の他方端部において厚み方向で重複しているとともに、前記第1の中間層養生用テープの幅方向の他方端部及び前記第1の最上層養生用テープの幅方向の他方端部と厚み方向で重複しておらず、前記最下層の養生用テープ、前記第1の中間層養生用テープ、前記第2の中間層養生用テープ、前記第1の最上層養生用テープ及び前記第2の最上層養生用テープは、それぞれ長手方向の両端部において、マスキングシートの厚み方向で重複している、マスキングシートである。
【0014】
(2)本発明の第2の態様は、(1)に記載のマスキングシートであって、前記第1の中間層養生用テープの幅方向の寸法が、マスキングシートの幅方向の寸法に対して、30%以上70%以下であり、第1の中間層養生用テープと第2の中間層養生用テープが重なった領域の幅方向の寸法が、3mm以上50mm以下であり、前記第2の最上層養生用テープの幅方向の寸法が、マスキングシートの幅方向の寸法に対して、30%以上70%以下であり、第1の最上層養生用テープと第2の最上層養生用テープが重なった領域の幅方向の寸法が、3mm以上50mm以下であることを特徴とするものである。
【0015】
(3)本発明の第3の態様は、(1)又は(2)に記載のマスキングシートであって、前記最下層の養生用テープの粘着剤層の表面にセパレーターが配置されており、前記セパレーターが、長手方向及び/又は幅方向に沿って、指先又は爪先を引っかけるための切込みを有することを特徴とするものである。
【0016】
(4)本発明の第4の態様は、(1)又は(2)に記載のマスキングシートであって、前記最下層の養生用テープの粘着剤層の表面にセパレーターが配置されており、前記セパレーターが、前記セパレーターの幅方向及び/又は長手方向の端部に、前記セパレーターを剥離する際に指で把持するためのタブを有することを特徴とするものである。
【0017】
(5)本発明の第5の態様は、(1)から(4)のいずれかに記載のマスキングシートの使用方法であって、少なくとも、以下の工程(A)から(G)を有するマスキングシートの使用方法である。
(A)最下層の養生用テープの粘着剤層を養生領域に固定する工程
(B)第1の塗膜を形成する工程
(C)第2の最上層養生用テープと重なった領域から第1の最上層養生用テープをマスキングシートの幅方向の一方端部に向けて剥がし、その後、第1の最上層養生用テープと重なっていた領域から第2の最上層養生用テープをマスキングシートの幅方向の他方端部に向けて剥がす工程
(D)第2の塗膜を形成する工程
(E)第2の中間層養生用テープと重なった領域から第1の中間層養生用テープをマスキングシートの幅方向の一方端部に向けて剥がし、その後、第1の中間層養生用テープと重なっていた領域から第2の中間層養生用テープをマスキングシートの幅方向の他方端部に向けて剥がす工程
(F)第3の塗膜を形成する工程
(G)最下層の養生用テープを剥がす工程
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、塗膜形成が複数回行われる場合であっても、本発明のマスキングシートを養生領域に固定する作業は1回で済むため、貼付作業の負担を軽減することができる。
【0019】
また、本発明のマスキングシートは、厚み方向において、下側から順に、最下層、中間層、最上層の、少なくとも3つの領域を有し、最下層は、1枚又は2枚の養生用テープで構成されており、中間層は、幅方向において、第2の中間層養生用テープの上側表面の一部に第1の中間層養生用テープが重なった構造を有しており、最上層は、幅方向において、第2の最上層養生用テープの上側表面の一部に第1の最上層養生用テープが重なった構造を有しており、最下層の養生用テープの幅方向の一方端部、第1の中間層養生用テープの幅方向の一方端部及び第1の最上層養生用テープの幅方向の一方端部は、それぞれマスキングシートの幅方向の一方端部において厚み方向で重複しており、最下層の養生用テープの幅方向の他方端部、第2の中間層養生用テープの幅方向の他方端部及び第2の最上層養生用テープの幅方向の他方端部は、それぞれマスキングシートの幅方向の他方端部において厚み方向で重複しており、最下層の養生用テープ、第1の中間層養生用テープ、第2の中間層養生用テープ、第1の最上層養生用テープ及び第2の最上層養生用テープは、それぞれ長手方向の両端部において、マスキングシートの厚み方向で重複している。このため、塗膜形成が複数回行われる場合にも同一領域を正確に養生することができる。
【0020】
さらに、本発明のマスキングシートにおいて、最下層の養生用テープの幅方向の一方端部、第1の中間層養生用テープの幅方向の一方端部及び第1の最上層養生用テープの幅方向の一方端部は、第2の中間層養生用テープの幅方向の一方端部及び第2の最上層養生用テープの幅方向の一方端部と厚み方向で重複しておらず、最下層の養生用テープの幅方向の他方端部、第2の中間層養生用テープの幅方向の他方端部及び第2の最上層養生用テープの幅方向の他方端部は、第1の中間層養生用テープの幅方向の他方端部及び第1の最上層養生用テープの幅方向の他方端部と厚み方向で重複していない。したがって、各養生用テープを剥がす際に、第1の最上層養生用テープ及び第2の最上層養生用テープの厚み方向における重なった領域、又は、第1の中間層養生用テープ及び第2の中間層養生用テープの厚み方向における重なった領域から各養生用テープを剥がし始めることにより、剥がす際の起点となる指先や爪先を引っ掛けやすい段差部分が存在するため、各養生用テープを剥離する際の作業性が良好である。
【0021】
したがって、本発明によれば、塗膜形成が複数回行われる場合にも同一領域を正確に養生することができ、貼付作業及び剥離作業の負担が軽減されたマスキングシート及び該マスキングシートの使用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図3】本発明のマスキングシートがセパレーターを備える場合の、本発明のマスキングシートの幅方向断面図である。
【
図4】本発明のマスキングシートが
図3とは別の態様のセパレーターを備える場合の、本発明のマスキングシートの幅方向断面図である。
【
図5】本発明のマスキングシートの使用例を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本明細書の説明において、「幅方向」とは、平面視において、最上層Aの養生用テープと中間層Bの養生用テープを剥がす方向であり、図中Xで示している。また、「長手方向」とは、平面視において、幅方向に対して直交する方向であり、図中Yで示している。また、「上側」とは、マスキングシート1の厚み方向において、第1の最上層養生用テープ10Aの支持体側(図中Zの矢印が指す方向)を指し、「下側」とは、上側とは逆の方向(最下層Cの養生用テープの粘着剤層側)を指す。なお、養生用テープには、養生ラベル、養生フィルム、マスキングテープと称されるものも含まれる。
【0024】
<マスキングシート>
図1は、本発明のマスキングシート1の平面図である。本発明のマスキングシート1は、養生用テープが複数積層されたものであり、平面視において、略長方形又は
図1に示すように略正方形の形状を有している。マスキングシート1が、平面視において、略長方形又は略正方形であることにより、建築現場等の養生作業を必要とする現場において、多様な養生箇所に対応できる汎用性が高いマスキングシート1を得ることができる。また、多様な場面で使用できる寸法として、マスキングシート1の、長手方向の寸法は50mm以上500mm以下であることが好ましく、100mm以上400mm以下であることがより好ましい、幅方向の寸法は50mm以上500mm以下であることが好ましく、100mm以上400mm以下であることがより好ましい。
【0025】
また、本発明のマスキングシート1は、厚み方向において、下側から順に、最下層C、中間層B、最上層Aの、少なくとも3つの領域を有し、各養生用テープは、支持体及び支持体の下側表面に粘着剤層を積層した構造を有している。作業者は、最下層Cの養生用テープの粘着剤層を養生領域(被着体)に固定すればよく、塗膜形成が複数回行われる場合であっても、本発明のマスキングシート1を養生領域に固定する作業は1回で済むため、作業負担を軽減することができる。なお、図中において、各養生用テープの支持体及び粘着剤層の表記は省略している。なお、本明細書及び図面においては、最上層A及び最下層Cの間に1つの中間層Bを備えた態様について説明しているが、本発明のマスキングシート1は、最上層Aと最下層Cの間に複数の中間層Bを有していてもよい。
【0026】
さらに、本発明のマスキングシート1の構造について詳細に説明する。
図2は、本発明のマスキングシート1の幅方向の断面図(
図1のX
1-X
1断面図)である。中間層Bは、幅方向において、第2の中間層養生用テープ20Bの上側表面の一部に第1の中間層養生用テープ10Bが重なった構造を有しており、最上層Aは、幅方向において、第2の最上層養生用テープ20Aの上側表面の一部に第1の最上層養生用テープ10Aが重なった構造を有しており、最下層Cの養生用テープの幅方向の一方端部、第1の中間層養生用テープ10Bの幅方向の一方端部及び第1の最上層養生用テープ10Aの幅方向の一方端部は、それぞれマスキングシート1の一方端部において厚み方向で重複しており、最下層Cの養生用テープの幅方向の他方端部、第2の中間層養生用テープ20Bの幅方向の他方端部及び第2の最上層養生用テープ20Aの幅方向の他方端部は、それぞれマスキングシート1の他方端部において厚み方向で重複しており、最下層Cの養生用テープ、第1の中間層養生用テープ10B、第2の中間層養生用テープ20B、第1の最上層養生用テープ10A及び第2の最上層養生用テープ20Aは、それぞれ長手方向の両端部において、マスキングシート1の厚み方向で重複している。このため、塗膜形成が複数回行われる場合にも同一領域を正確に養生することができる。
【0027】
さらに、本発明のマスキングシート1において、最下層Cの養生用テープの幅方向の一方端部、第1の中間層養生用テープ10Bの幅方向の一方端部及び第1の最上層養生用テープ10Aの幅方向の一方端部は、第2の中間層養生用テープ20Bの幅方向の一方端部及び第2の最上層養生用テープ20Aの幅方向の一方端部と厚み方向で重複しておらず、最下層Cの養生用テープの幅方向の他方端部、第2の中間層養生用テープ20Bの幅方向の他方端部及び第1の最上層養生用テープ10Aの幅方向の他方端部は、第1の中間層養生用テープ10Bの幅方向の他方端部及び第1の最上層養生用テープ10Aの幅方向の他方端部と厚み方向で重複していない。したがって、各養生用テープを剥がす際に、第1の最上層養生用テープ10A及び第2の最上層養生用テープ20Aの厚み方向における重なった領域、または、第1の中間層養生用テープ10B及び第2の中間層養生用テープ20Bの厚み方向における重なった領域から各養生用テープを剥がし始めることにより、剥がす際の起点となる指先や爪先を引っ掛けやすい段差部分が存在するため、各養生時テープを剥離する際の作業性が良好である。さらに、上側に位置する養生用テープから下側に位置する養生用テープにかけて各粘着力の低下傾向を設けなくても、上側の養生用テープを剥がす際に、下側に位置する養生用テープが同時に剥がれることもない。
【0028】
さらに、上記の条件を満たしたうえで、第2の中間層養生用テープ20Bの幅方向の寸法が、マスキングシート1の幅方向の寸法に対して、30%以上70%以下であり、第1の中間層養生用テープ10Bと第2の中間層養生用テープ20Bが重なった領域の幅方向の寸法が、3mm以上50mm以下であり、第2の最上層養生用テープ20Aの幅方向の寸法が、マスキングシート1の幅方向の寸法に対して、30%以上70%以下であり、第1の最上層養生用テープ10Aと第2の最上層養生用テープ20Aが重なった領域の幅方向の寸法が、3mm以上50mm以下であることが好ましい。
【0029】
上記の重なった位置がマスキングシート1の幅方向の端部に近すぎると、作業現場で本発明のマスキングシート1を長手方向にカットする場合において、カットする大きさによっては、上記の重なった領域までもカットしてしまい、各養生用テープを剥がしやすくするために、上記の重なった領域を設けた意味がなくなってしまう。また、上記の重なった領域の幅方向の寸法が50mmを超えると、必要以上に原材料コストが高くなり、上記の重なった領域の3mmより小さくなると、製造機器の精度によっては、安定して上記の重なった領域を設けることが難しくなるため好ましくない。
【0030】
そのため、本発明においては、第1の中間層養生用テープ10Bの幅方向の寸法(%)と、第1の中間層養生用テープ10Bと第2の中間層養生用テープ20Bが重なった領域の幅方向の寸法、及び、第2の最上層養生用テープ20Aの幅方向の寸法(%)と、第1の最上層養生用テープ10Aと第2の最上層養生用テープ20Aが重なった領域の幅方向の寸法を上記の範囲に調整することにより、原材料コストを抑えつつ安定的に製造でき、作業現場で本発明のマスキングシート1を長手方向にカットする場合においても、上記の重なった領域を残しつつ、必要な大きさにカットすることができる。さらに、上側に位置する養生用テープから下側に位置する養生用テープにかけて各粘着力の低下傾向を設けなくても、上側の養生用テープを剥がす際に、下側に位置する養生用テープが同時に剥がれることもない。
【0031】
同様の観点から、第2の中間層養生用テープ20Bの幅方向の寸法が、マスキングシート1の幅方向の寸法に対して、40%以上60%以下であり、第1の中間層養生用テープ10Bと第2の中間層養生用テープ20Bが重なった領域の幅方向の寸法が、5mm以上30mm以下であることがより好ましく、5mm以上15mm以下であることが更に好ましい。また、第2の最上層養生用テープ20Aの幅方向の寸法が、マスキングシート1の幅方向の寸法に対して、40%以上60%以下であり、第1の最上層養生用テープ10Aと第2の最上層養生用テープ20Aが重なった領域の幅方向の寸法が、5mm以上30mm以下であることがより好ましく、5mm以上15mm以下であることが更に好ましい。
【0032】
また、最下層Cは1枚又は2枚の養生用テープで構成されている。最下層Cが2枚の養生用テープで構成されている場合には、同時に2枚の養生用テープを剥がしやすくするために、下側の下側(被着体側)に位置する最下層Cの養生用テープの長手方向又は幅方向の端部に、把持するためのタブを設けることが好ましい。
【0033】
また、各層を構成する養生用テープの色は特に限定されないが、作業者が塗膜形成の回数と養生シートを剥がす回数を把握しやすいように、最上層A、中間層B、最下層Cにおいて、層ごとに、養生用テープの色がそれぞれ異なることが好ましい。
【0034】
(各養生用テープ)
上記のとおり、本発明のマスキングシート1を構成する各養生用テープは、支持体及び支持体の下側表面に粘着剤層を積層する構造を有している。なお、各養生用テープの厚みは50μm以上500μm以下であることが好ましい。支持体としては、特に限定されず、例えば、プラスチックフィルム、編布、織布、不織布、紙、金属箔等及びその複合体等を使用することができる。素材としては、特に限定されず、例えばポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系材料、ポリビニルアルコール系材料、ポリアクリロニトリル等のアクリル系材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系材料、ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド系材料、構造内に亜鉛、ナトリウム等の金属イオンをもつ各種アイオノマー系材料、ポリスチレン、スチレンイソプレン共重合体、スチレンブタジエン共重合体等のスチレン系材料、ポリウレタン系材料、塩ビ系材料、フッ素系材料、アセテート、セロファン等のセルロース系材料、レーヨン、綿等、アルミ、銅、銀、金、スズ、ステンレス等の金属等、各種材料の1種または2種以上を組み合わせて用いることができ、編布又は織布で構成するか、2軸延伸のポリオレフィンフィルムや2軸延伸ポリエステルフィルムであることが好ましい。支持体が編布又は織布、2軸延伸のポリオレフィンフィルムや2軸延伸ポリエステルフィルムであることにより、支持体が伸びづらい構造となり、各養生用テープを剥がす際の塗料飛散を抑えることができる。また、編布や織布を用いることにより、テープをカットしやすくなる。好ましくは、このフィルムの片面に、アクリル樹脂、ビニル共重合体、変性ポリオレフィン樹脂、ゴム系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂からなるプライマーを塗布し、乾燥させた後、プライマーの表面に粘着剤を塗布する。
【0035】
また、粘着剤としては、特に限定されず、例えば、ゴム系、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、ポリオレフィン系、エチレン・酢酸ビニル共重合体系等の各種粘着剤を使用することができるが、補修材に対する再剥離性の点からはゴム系粘着剤を含むことが好ましく、生産性の点からも、ホットメルト方式による塗布に適したスチレン系エラストマーを含むことがより好ましい。本発明の粘着剤に使用するスチレン系エラストマーとしては、特に限定されず、例えば、スチレンイソプレン系共重合体、スチレンブタジエン系共重合体、またはそれらの水素添加物等の各種スチレン系エラストマーを使用することができる。
【0036】
(セパレーター)
図3及び
図4は、本発明のマスキングシート1がセパレーター30を備える場合の、本発明のマスキングシート1の幅方向断面図である。本発明のマスキングシート1は、
図3及び
図4に示すように、最下層Cの養生用テープの粘着剤層の表面にセパレーター30が配置されていることが好ましい。なお、最下層Cの養生用テープが2枚で構成されている場合には、最下層Cの養生用テープのうち、最も下側に位置する養生用テープの粘着剤層の表面にセパレーター30が配置される。セパレーター30の主な役割は、最下層Cの養生用テープの粘着剤層の表面の保護であるため、セパレーター30の幅方向及び長手方向の両端部は、それぞれ、後述するタブ30Bを設けた領域を除いて、マスキングシート1の幅方向及び長手方向の両端部と厚み方向において重複していることが好ましい。なお、セパレーター30の厚みは20μm以上500μm以下であることが好ましく、50μm以上300μm以下であることがより好ましい。
【0037】
さらに、セパレーター30を剥がしやすくするために、セパレーター30が、長手方向及び/又は幅方向に沿って、指先又は爪先を引っかけるための切込み30Aを有することが好ましい。セパレーター30が切込み30Aを有することにより、セパレーター30を最下層Cの養生用テープの粘着剤層の表面から剥がしやすくすることができる。
図3は、セパレーター30の長手方向に沿って、切込み30Aが1本設けられている場合のマスキングシート1の幅方向断面図を示している。この場合、切込み30Aの幅は、最下層Cの養生用テープの粘着剤層表面を保護しつつ、指先や爪先を引っかけやすくするために、5mm以上50mm以下であることが好ましく、10mm以上30mm以下であることがより好ましい。
【0038】
また、セパレーター30の別の態様としては、セパレーター30の幅方向又は長手方向の端部にセパレーター30を剥離する際に指で把持するためのタブ30Bを有する態様も好ましい。セパレーター30の幅方向及び/又は長手方向の端部にタブ30Bを有することにより、セパレーター30を最下層Cの養生用テープの粘着剤層の表面から剥がしやすくすることができる。タブ30Bの形状は特に限定されず、略正方形状、略長方形状、略円形状、略楕円形上のいずれかであってもよく、タブ30Bの最下層Cの養生用テープの幅方向及び長手方向を超えた部分の面積は、コストを抑えつつ、指で把持しやすいように、1cm2以上10cm2以下であることが好ましく、2cm2以上5cm2以下であることがより好ましい。
【0039】
セパレーター30の素材としては特に限定されず、公知のセパレーターの素材を用いることができる。例えばクラフト紙、ポリエチレンラミネート紙、グラシン紙等の加工紙や各種フィルムなどが挙げられる。セパレーター30の離型機能は、特に限定されないが、例えば、「シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系等の剥離性付与剤をベース基材表面に塗布、皮膜形成すること」、「ベース基材の材料と該剥離性付与剤の混合物をベース基材上に塗布、皮膜成形すること」、「該混合物のみを成形してセパレーターとし、自体に離型機能をもたせること」等により付与することができる。
【0040】
[その他]
その他、本発明のマスキングシート1を構成する各養生用テープ及びセパレーター30に対し、目的を損なわない範囲で必要に応じて、各種添加剤を追加で配合することができる。特に限定はされないが、例えば、ヒンダードアミン系、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、トリアジン系、ラクトン系、リン系等の紫外線吸収剤や紫外線安定剤、ヒンダート系、セミヒンダート系、ホスファイト系、ホスホナイト系、チオエーテル系等の酸化防止剤、金属石鹸系、有機スズ系、鉛系等の加工安定剤、界面活性剤系、カチオン系、非イオン系等の帯電防止剤、合成シリカ系、シリカ系等のアンチブロッキング剤、ステアリン酸、ステアリン酸アミド、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛等の滑剤等の添加剤を加えてもよい。シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系等の剥離性付与剤を適宜添加することができる。
【0041】
[マスキングシートの使用方法]
本発明のマスキングシート1の使用方法は特に限定されないが、少なくとも、以下の工程(A)から(G)を有するマスキングシート1の使用方法が挙げられる。
(A)最下層Cの養生用テープの粘着剤層を養生領域に固定する工程
(B)第1の塗膜を形成する工程
(C)第2の最上層養生用テープ20Aと重なった領域から第1の最上層養生用テープ10Aをマスキングシート1の幅方向の一方端部に向けて剥がし、その後、第1の最上層養生用テープ10Aと重なっていた領域から第2の最上層養生用テープ20Aをマスキングシート1の幅方向の他方端部に向けて剥がす工程
(D)第2の塗膜を形成する工程
(E)第2の中間層養生用テープ20Bと重なった領域から第1の中間層養生用テープ10Bをマスキングシート1の幅方向の一方端部に向けて剥がし、その後、第1の中間層養生用テープ10Bと重なっていた領域から第2の中間層養生用テープ20Bをマスキングシート1の幅方向の他方端部に向けて剥がす工程
(F)第3の塗膜を形成する工程
(G)最下層Cの養生用テープを剥がす工程
なお、塗膜のひび割れや浮き上がりを防止するために、工程(C)、工程(E)、工程(G)は、前工程において形成した塗膜が完全に乾く前に行うことが好ましい。また、上記において、塗膜を形成する工程が更に増える場合には、中間層Bを複数にすることで、対応することができる。
【0042】
なお、上記の工程(B)、工程(D)、工程(F)の各工程において、各工程における塗膜の形成については、異なる塗料を重ね塗りする場合も含まれるものとする。また、例えば、エポキシ樹脂を塗布した後に補強用シートを固定し、更にエポキシ樹脂を塗布して塗膜を形成するような態様も、上記の工程(B)、工程(D)、工程(F)のいずれかに含まれる。例えば、
図5に示すように、本発明のテープを一定の間隔を持たせながら配置することにより、非マスキング領域を格子状に形成する態様で、本発明のマスキングシート1を用いることもできる。例えば、
図5に示すように本発明のマスキングシート1を配置し、工程(B)において、プライマー用及び不陸修正用の塗料を重ね塗りし、工程(D)において、エポキシ樹脂塗料を長手方向(
図5のY方向)に塗布し、補強用シートを、エポキシ樹脂塗料を塗布した面に貼付し、さらにエポキシ樹脂塗料を補強用シートに上塗りして補強用シートを固定し、工程(F)において、エポキシ樹脂塗料を幅方向(
図5のX方向)に塗布し、補強用シートを、エポキシ樹脂を塗布した面に貼付し、更にエポキシ樹脂塗料を幅方向に塗布し、さらにエポキシ樹脂塗料を補強用シートに上塗りして補強用シートを固定するような態様も本発明のマスキングシート1の使用に含まれる。なお、この場合、工程(D)と工程(F)の順序が入れ替わってもよい。
【0043】
以上、本発明を、実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記の実施形態に記載の発明の範囲には限定されないことは言うまでもなく、上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0044】
1 マスキングシート
A 最上層
10A 第1の最上層養生用テープ
20A 第2の最上層養生用テープ
B 中間層
10B 第1の中間層養生用テープ
20B 第2の中間層養生用テープ
C 最下層
30 セパレーター
30A 切込み
30B タブ