(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】SOCSの発現又は活性抑制を用いた高効能幹細胞の選別方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20220208BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20220208BHJP
A61K 35/51 20150101ALI20220208BHJP
A61K 35/35 20150101ALI20220208BHJP
A61K 35/34 20150101ALI20220208BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20220208BHJP
A61K 35/36 20150101ALI20220208BHJP
A61K 35/50 20150101ALI20220208BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220208BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220208BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20220208BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
G01N33/48 M
A61K35/28
A61K35/51
A61K35/35
A61K35/34
A61K35/30
A61K35/36
A61K35/50
A61P37/02
A61P37/06
A61P37/08
G01N33/53 D
G01N33/53 M
(21)【出願番号】P 2019520702
(86)(22)【出願日】2017-09-26
(86)【国際出願番号】 KR2017010591
(87)【国際公開番号】W WO2018074757
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2019-06-28
(31)【優先権主張番号】10-2016-0134082
(32)【優先日】2016-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520367452
【氏名又は名称】シェルンライフ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ユ、コン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】イ、ミョン ウ
(72)【発明者】
【氏名】キム、デ ソン
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103898050(CN,A)
【文献】特表2015-500810(JP,A)
【文献】特表2015-523083(JP,A)
【文献】Zhang, Lei,SOCS1 Regulates the Immune Modulatory Properties of Mesenchymal Stem Cells by Inhibiting Nitric Oxide Production,PLoS ONE,2014年05月,Vol.9, No.5,e97256
【文献】Francois, Moira,Human MSC Suppression Correlates with Cytokine Induction of Indoleamine 2,3-Dioxygenase and Bystander M2 Macrophage Differentiation,Molecular Therapy,2012年01月,Vol20, No.1,pp.187-195
【文献】Lee, Myoung Woo,Strategies to Improve the Immunosuppressive Properties of Human Mesenchymal Stem Cells,Stem Cell Research and Therapy,2015年,Vol.6 179,1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SOCS1(suppressor of cytokine signaling 1)又はSOCS3(suppressor of cytokine signaling 3)の発現又は活性が抑制された間葉系幹細胞で免疫抑制バイオマーカーのレベルを測定するステップであって、前記免疫抑制バイオマーカーがC-X-Cモチーフリガンド11(CXCL11)又はTNF関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)であるステップ、及び、
CXCL11又はTRAILの発現レベルが、SOCS1又はSOCS3の発現又は活性抑制剤での未処理対照群と比較して増加している場合、免疫抑制能を有する間葉系幹細胞であると判定するステップ、
を含む、
移植片対宿主病又は炎症性腸疾患である免疫疾患の治療のための
、免疫抑制能を有する間葉系幹細胞の選別方法。
【請求項2】
前記方法は、下記のステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載の選別方法:
(a)間葉系幹細胞を培養した後、SOCS1又はSOCS3の発現又は活性抑制剤で処理するステップであって、前記SOCS1又はSOCS3の発現抑制剤はSOCS1又はSOCS3
遺伝子に特異的な低分子干渉RNA(siRNA)、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、ペプチド核酸(PNA)及びアンチセンス核酸からなる群より選択され、前記SOCS1又はSOCS3の活性抑制剤はSOCS1又はSOCS3タンパク質に特異的な抗体、アプタマー及びアンタゴニストからなる群から選択される、ステップ;及び
(b)前記SOCS1又はSOCS3の発現又は活性が抑制された間葉系幹細胞で免疫抑制バイオマーカーの発現レベルを測定するステップ。
【請求項3】
前記方法は、ステップ(a)とステップ(b)と間に間葉系幹細胞を高密度で培養するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載の選別方法。
【請求項4】
前記間葉系幹細胞は、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、ホウォートンゼリー、神経、皮膚、羊膜、絨毛膜、脱落膜及び胎盤からなる群より選択されるものに由来することを特徴とする、請求項1に記載の選別方法。
【請求項5】
前記SOCS1又はSOCS3発現抑制剤は、SOCS1又はSOCS3遺伝子に特異的なsiRNA(small interference RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、miRNA(microRNA)、PNA(peptide nucleic acids)及びアンチセンスオリゴヌクレオチドからなる群より選択されることを特徴とする、請求項2に記載の選別方法。
【請求項6】
前記SOCS1又はSOCS3活性抑制剤は、SOCS1又はSOCS3タンパク質に特異的な抗体、アプタマー及び拮抗剤からなる群より選択されることを特徴とする、請求項2に記載の選別方法。
【請求項7】
前記ステップ(b)のバイオマーカーの発現レベルは、ウエスタンブロッティング、抗体免疫沈降法、ELISA、質量分析法、RT-PCR、競合的RT-PCR(competitive RT-PCR)、リアルタイムRT-PCR(Real-time RT-PCR)、RNase保護分析法(RPA:RNase protection assay)、ノーザンブロッティング又はDNAチップを用いて測定することを特徴とする、請求項2に記載の選別方法。
【請求項8】
SOCS1(suppressor of cytokine signaling 1)又はSOCS3(suppressor of cytokine signaling 3)の発現又は活性が抑制され、CXCL11又はTRAILの発現がSOCS1又はSOCS3の発現又は活性抑制剤での未処理対照群と比較して増加している、免疫抑制能を有する間葉系幹細胞を含有する、
移植片対宿主病又は炎症性腸疾患である免疫疾患治療用
の医薬組成物。
【請求項9】
SOCS1(suppressor of cytokine signaling 1)又はSOCS3(suppressor of cytokine signaling 3)の発現又は活性が抑制され、CXCL11又はTRAILの発現がSOCS1又はSOCS3の発現又は活性抑制剤での未処理対照群と比較して増加している、免疫抑制能を有する間葉系幹細胞を含有する、移植片対宿主疾患治療用医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SOCS(suppressor of cytokine signaling)の発現又は活性が抑制された間葉系幹細胞で特定の免疫抑制バイオマーカーのレベルを測定するステップを含む免疫疾患の治療のための高効能間葉系幹細胞の選別方法、その方法によって選別された高効能間葉系幹細胞及びその高効能間葉系幹細胞を用いた免疫疾患の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器、組織又は細胞移植は、多様な種類の疾病にかかっている患者の生命を守るのに用いられる。ヒトの腎臓、肝、心臓、腎臓、肺及び膵臓などの臓器と皮膚などの組織、骨髄など細胞同種移植(allotransplantation)は、末期臓器不全など難治性疾患を治療する方法であって、病院で既に一般的に施行されている。また、ヒト以外の哺乳動物を供与者とする異種移植(xenotransplantation)も同種移植供与者の不足を代替する方法として活発に研究されている実情である。特に、最近では、自己自身を永久に再生することができ、適切な条件で身体を構成する多様な種類の細胞に分化可能な幹細胞の移植が多様な難治性疾患の細胞代替治療法の一つとして提起されている。
【0003】
一般に、正常に機能する受恵者の免疫体系は、移植された臓器、組織や細胞を「非自己(non-self)」と認識して移植片(graft)に対して免疫拒否反応を誘発する。このような免疫拒否反応は、供与者の組織の同種抗原(alloantigens)又は異種抗原(xenoantigens)を認識する受恵者の免疫システムに存在する同種反応性(alloreactive)又は異種反応性(xenoreactive)T細胞により一般的に媒介される。したがって、同種又は異種移植片が長期間生存するためには、外部抗原を認知する受恵者の免疫体系を避けたり、免疫反応を抑制しなければならない。
【0004】
移植片対宿主病は、宿主の抗原提示細胞により活性化された供与者のT-細胞によって誘発され、前記細胞は、ターゲット組織(皮膚、腸及び肝)に移動して標的機関の機能異常を誘発する。移植片対宿主病の1次的標準治療は、高い濃度のステロイドを処方することである。しかし、前記患者の50%は前記1次治療法に反応せず、一旦ステロイド抵抗性が誘発されると、死亡率が増加することが知られているにもかかわらず、ステロイド抵抗性移植片対宿主病に対する2次的治療法がなく、追加的な治療代案が必要な実情である。
【0005】
また、移植片に対する受恵者の免疫反応を避けるために、一般的に受恵者に免疫抑制剤を投与する。シクロスポリン(cyclosporin)及びタクロリムス(tacrolimus、FK-506)などのようなカルシニューリン(calcineurin)抑制剤やアザチオプリン(azathioprine)、ラパマイシン(rapamycin)、ミコフェノール酸モフェチル(mycophenolate mofetil)及びシクロホスファミド(cyclophosphamide)などのような抗増殖性薬剤(antiproliferative drug)などが代表的な免疫抑制剤として、現在、同種腎臓、肝、膵臓、心臓移植などに頻繁に用いられている。
【0006】
これらの免疫抑制剤は、一日を基準として投与しなければならず、万一、投与を中断する場合、通常的に免疫拒否反応がもたらされる。したがって、長期間にわたって投与しなければならないが、そのため、腎臓や肝毒性、高血圧などを誘発し得る。それだけでなく、これらの薬物は、移植片の同種抗原にのみ反応する免疫細胞にのみ選択的に作用する特異的免疫抑制剤ではないので、非特異的免疫抑制による日和見感染やリンパ腫のような腫瘍形成などの副作用を誘発し得る。また他の免疫抑制方法として、OKT3、ダクリズマブ(Daclizumab)又はバシリキシマブ(Basiliximab)などの単クローン抗体を投与する方法があるが、これらもやはり非特異的な免疫抑制剤であって、日和見感染や腫瘍形成の問題点を有している。したがって、薬物毒性や日和見感染などの問題点がない新しい免疫抑制法の開発が要求される。
【0007】
一方、ヒト間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells、MSCs)は、多様な組織に由来し、細胞基盤移植又は再生医薬治療において強力な候補者である。損傷した組織への移動、免疫抑制機能、自家再生及び多分化能のようなMSCsの特徴は、その治療的適用の可能性を提示する。現在、MSCsの注入又は移植を含む500個余りの臨床がclinicaltrials.govに登録されている。また、これらのうち約20%がMSCの免疫抑制能に関連する。MSCsの免疫抑制特性が明らかにされており、多くの臨床1相は、生物学的安定性の問題を示さないにもかかわらず、それ以上の臨床段階では、不備な結果が導き出されている。
【0008】
さらに、MSCの標準化のための培養方法又はプロトコルが不在して、同じ授与者の同じ組織から分離したMSCsの場合にも表現型的及び機能的多様性が観察されている。したがって、特定の条件を付与してMSCの機能を促進又は抑制する方法が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
さて、本発明者らは、免疫抑制能に優れた間葉系幹細胞を選別することができる方案を開発するために鋭意努力した結果、SOCS(suppressor of cytokine signaling)の発現/活性が抑制された間葉系幹細胞で特定の免疫抑制バイオマーカーと免疫抑制能との相関関係を見つけ、これらバイオマーカーの発現が増加する場合、間葉系幹細胞の免疫抑制能がSOCSのみ単独抑制された場合より一層向上することを確認し、本発明を完成するに至った。
【0010】
したがって、本発明は、SOCS(suppressor of cytokine signaling)の発現又は活性が抑制された間葉系幹細胞で特定の免疫抑制バイオマーカー(IDO、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、PTGES、CXCR4、CXCR7、VCAM1、ICAM1、ICAM2、TNF-alpha、B7-H1、TRAIL、Fas Ligand)のレベルを測定するステップを含む免疫疾患の治療のための高効能間葉系幹細胞の選別方法及びそれによって選別された高効能間葉系幹細胞を提供することを目的とする。
【0011】
しかし、本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及しなかったまた他の課題は、下の記載から当業者に明確に理解されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、SOCS(suppressor of cytokine signaling)の発現又は活性が抑制された間葉系幹細胞で免疫抑制バイオマーカーのレベルを測定するステップを含む免疫疾患の治療のための高効能間葉系幹細胞の選別方法を提供する。
【0013】
本発明の一具現例によると、前記方法は、下記のステップを含むことを特徴とする。
【0014】
(a)間葉系幹細胞を培養した後SOCSの発現又は活性抑制剤を処理するステップ;
(b)前記SOCSの発現又は活性が抑制された間葉系幹細胞で免疫抑制バイオマーカーの発現レベルを測定するステップ;及び
(c)前記発現レベルがSOCSの発現又は活性抑制剤の未処理対照群と比較して抑制されている場合、免疫疾患の治療のための高効能間葉系幹細胞であると判定するステップ。
【0015】
本発明の他の具現例によると、前記方法は、前記ステップ(a)とステップ(b)の間に間葉系幹細胞を高密度で培養するステップをさらに含むことを特徴とする。
【0016】
本発明のまた他の具現例によると、前記免疫抑制バイオマーカーは、IDO(indoleamine 2,3-dioxygenase)、CXCL9(C-X-C motif ligand 9)、CXCL10(C-X-C motif ligand 10)、CXCL11(C-X-C motif ligand 11)、CXCL12(C-X-C motif ligand 12)、PTGES(Prostaglandin E synthase)、CXCR4(C-X-C chemokine receptor type 4)、CXCR7(C-X-C chemokine receptor type 7)、VCAM1(Vascular Cell Adhesion Molecule 1)、ICAM1(Inter Cellular Adhesion Molecule 1)、ICAM2(Inter Cellular Adhesion Molecule 2)、TNF-alpha、B7-H1(B7-homolog 1)、TRAIL(TNF-Related Apoptosis-Inducing Ligand)、Fas Ligandからなる群より選択される一つ以上であることを特徴とする。
【0017】
本発明のまた他の具現例によると、前記高効能は、免疫抑制能であることを特徴とする。
【0018】
本発明のまた他の具現例によると、前記間葉系幹細胞は、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、ホウォートンゼリー、神経、皮膚、羊膜、絨毛膜、脱落膜及び胎盤からなる群より選択されるものに由来することを特徴とする。
【0019】
本発明のまた他の具現例によると、前記免疫疾患は、移植片対宿主疾患、臓器移植時の拒絶反応、体液性拒絶反応、自己免疫疾患又はアレルギー性疾患であることを特徴とする。
【0020】
本発明のまた他の具現例によると、前記自己免疫疾患は、クローン病、紅斑病、アトピー、関節リウマチ、橋本甲状腺炎、悪性貧血、アディソン病、第1型糖尿、ルプス、慢性疲労症候群、繊維筋肉痛、甲状腺機能低下症と亢進症、硬皮症、ベーチェット病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、重症筋無力症、メニエール症候群(Meniere’s syndrome)、ギラン・バレー症候群(Guilian-Barre syndrome)、シェーグレン症候群(Sjogren’s syndrome)、白斑症、子宮内膜症、乾癬、全身性硬皮症、喘息又は潰瘍性大腸炎であることを特徴とする。
【0021】
本発明のまた他の具現例によると、前記SOCS発現抑制剤は、SOCS遺伝子に特異的なsiRNA(small interference RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、miRNA(microRNA)、PNA(peptide nucleic acids)及びアンチセンスオリゴヌクレオチドからなる群より選択されることを特徴とする。
【0022】
本発明のまた他の具現例によると、前記SOCS活性抑制剤は、SOCSタンパク質に特異的な抗体、アプタマー及び拮抗剤からなる群より選択されることを特徴とする。
【0023】
本発明のまた他の具現例によると、前記ステップ(b)のバイオマーカーの発現レベルは、ウエスタンブロッティング、抗体免疫沈降法、ELISA、質量分析法、RT-PCR、競合的RT-PCR(competitive RT-PCR)、リアルタイムRT-PCR(Real-time RT-PCR)、RNase保護分析法(RPA:RNase protection assay)、ノーザンブロッティング又はDNAチップを用いて測定することを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、前記方法によって選別された免疫疾患の治療のための高効能間葉系幹細胞を提供する。
【0025】
本発明の一具現例によると、前記免疫疾患は、移植片対宿主疾患、臓器移植時の拒絶反応、体液性拒絶反応、自己免疫疾患又はアレルギー性疾患であることを特徴とする。
【0026】
本発明の他の具現例によると、前記高効能は、免疫抑制能であることを特徴とする。
【0027】
本発明のまた他の具現例によると、前記間葉系幹細胞は、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、ホウォートンゼリー、神経、皮膚、羊膜又は胎盤に由来することを特徴とする。
【0028】
本発明のまた他の具現例によると、前記間葉系幹細胞は、自家、他家又は同種異系来由であることを特徴とする。
【0029】
また、本発明は、前記高効能間葉系幹細胞を含有する免疫疾患治療用医薬組成物を提供する。
【0030】
また、本発明は、前記高効能間葉系幹細胞を含有する移植片対宿主疾患治療用医薬製剤を提供する。
【0031】
また、本発明は、前記高効能間葉系幹細胞を個体に投与するステップを含む移植片対宿主疾患などの免疫疾患の治療方法を提供する。
【0032】
また、本発明は、前記高効能間葉系幹細胞を用いた移植片対宿主疾患などの免疫疾患の治療用途を提供する。
【発明の効果】
【0033】
本発明によると、SOCS(suppressor of cytokine signaling)の発現又は活性が抑制された間葉系幹細胞で特定の免疫抑制バイオマーカー(IDO、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、PTGES、CXCR4、CXCR7、VCAM1、ICAM1、ICAM2、TNF-alpha、B7-H1、TRAIL、Fas Ligand)の組合せが移植片対宿主病を含む免疫関連疾患において優れた免疫抑制能を有する間葉系幹細胞を選別するためのバイオマーカーとして用いられ得ることを提示する。
【0034】
したがって、本発明は、移植片対宿主病、自己免疫疾患を含む多様な免疫疾患の臨床的治療のための免疫反応の調節能力を有する機能的に優れた間葉系幹細胞が得られる有用な方法を提供することで、免疫疾患の治療法で有用に用いられ得る。
【0035】
また、本発明によって選別された間葉系幹細胞を用いた移植片対宿主病の予防及び治療は、同種異系幹細胞の移植のより高い治療的可能性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1a】
図1の(a)は、SOCSをターゲットとするshRNAをMSCに処理してSOCSタンパク質の発現が抑制されたことを確認した赤色蛍光染色の結果である。
【
図1b】の(b)は、SOCSをターゲットとするshRNAをMSCに処理してSOCSタンパク質の発現が抑制されたことを確認したウエスタンブロッティングの結果である。
【
図2】
図2は、SOCSが下向き調節されたMSCの免疫抑制能の特性をin vivo移植片対宿主病の動物モデルで確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、SOCS(suppressor of cytokine signaling)の発現又は活性が抑制された間葉系幹細胞で免疫抑制バイオマーカーのレベルを測定するステップを含む免疫疾患の治療のための高効能間葉系幹細胞の選別方法を提供する。
【0038】
本発明で、SOCSタンパク質は、サイトカイン(cytokine)信号伝逹の陰性的フィードバック調節因子(negative feedback regulator)グループに属し、ヤーヌスキナーゼ/信号伝達因子(Janus kinase/signal transducer)及び転写(JAK/STAT)経路の活性因子を含んでいるものとして知られている。
【0039】
前記SOCSは、その種類に制限がなく、例えば、CISH(Cytokineinducible SH2-containing protein)、SOCS1、SOCS2、SOCS3、SOCS4、SOCS5、SOCS6、SOCS7であってもよく、最も好ましくは、SOCS1又はSOCS3であってもよい。
【0040】
本発明で、免疫抑制バイオマーカーに制限はないが、例えば、IDO(indoleamine 2,3-dioxygenase)、CXCL9(C-X-C motif ligand 9)、CXCL10(C-X-C motif ligand 10)、CXCL11(C-X-C motif ligand 11)、CXCL12(C-X-C motif ligand 12)、PTGES(Prostaglandin E synthase)、CXCR4(C-X-C chemokine receptor type 4)、CXCR7(C-X-C chemokine receptor type 7)、VCAM1(Vascular Cell Adhesion Molecule 1)、ICAM1(Inter Cellular Adhesion Molecule 1)、ICAM2(Inter Cellular Adhesion Molecule 2)、TNF-alpha、B7-H1(B7-homolog 1)、TRAIL(TNF-Related Apoptosis-Inducing Ligand)、Fas Ligandからなる群より選択される一つ以上であってもよい。
【0041】
このとき、PTGES(Prostaglandin E synthase)は、PGE2を合成する機能を、VCAM1(Vascular Cell Adhesion Molecule 1)は、細胞結合機能を、CXCR7(C-X-C chemokine receptor type 7)は、ケモカイン(chemokine)受容体として幹細胞を炎症部位に募集する機能を、ICAM1(Inter Cellular Adhesion Molecule 1)は、炎症細胞の付着、移動に関連する機能を行うものとして知られている。
【0042】
また、本発明の選別方法は、(a)間葉系幹細胞を培養した後SOCSの発現又は活性抑制剤を処理するステップ;(b)前記SOCSの発現又は活性が抑制された間葉系幹細胞で免疫抑制バイオマーカーの発現レベルを測定するステップ;及び(c)前記発現レベルがSOCSの発現又は活性抑制剤の未処理対照群と比較して抑制されている場合、免疫疾患の治療のための高効能間葉系幹細胞であると判定するステップを含むことができる。
【0043】
本発明で、前記ステップ(a)と(b)との間に間葉系幹細胞を高密度で培養するステップをさらに含むことができ、このとき、高密度培養は、5,000~20,000cells/cm2の密度で培養するものであってもよい。
【0044】
本発明で「高効能」とは、間葉系幹細胞の免疫反応抑制能力に優れて免疫関連疾患の治療に効果的な効能を有することを意味する。
【0045】
本発明で「間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell、MSC)」は、骨、軟骨、脂肪、筋肉細胞を含む多様な中胚葉細胞又は神経細胞のような外胚葉細胞にも分化する能力を有する多分化能幹細胞(multipotent stem cell)である。前記間葉系幹細胞は、好ましくは、臍帯、臍帯血、骨髄、脂肪、筋肉、神経、皮膚、羊膜、絨毛膜、脱落膜及び胎盤で構成された群から選択されるものに由来し得る。また、前記間葉系幹細胞は、ヒト、胎児又はヒトを除いた哺乳動物に由来し得る。前記ヒトを除いた哺乳動物は、より好ましくは、イヌ科動物、ネコ科動物、サル科動物、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ラット、マウス又はギニアピッグなどであってもよく、その由来を制限しない。
【0046】
本発明で「免疫疾患」は、免疫調節の異常により発生する疾患であれば、制限がないが、例えば、移植片対宿主疾患、臓器移植時の拒絶反応、体液性拒絶反応、自己免疫疾患又はアレルギー性疾患であってもよい。
【0047】
このとき、自己免疫疾患は、その種類に制限はないが、クローン病、紅斑病、アトピー、関節リウマチ、橋本甲状腺炎、悪性貧血、アディソン病、第1型糖尿、ルプス、慢性疲労症候群、繊維筋肉痛、甲状腺機能低下症と亢進症、硬皮症、ベーチェット病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、重症筋無力症、メニエール症候群(Meniere’s syndrome)、ギラン・バレー症候群(Guilian-Barre syndrome)、シェーグレン症候群(Sjogren’s syndrome)、白斑症、子宮内膜症、乾癬、全身性硬皮症、喘息又は潰瘍性大腸炎であってもよい。
【0048】
このとき、アレルギー性疾患は、その種類に制限はないが、過敏症(anaphylaxis)、アレルギー性鼻炎(allergic rhinitis)、喘息(asthma)、アレルギー性結膜炎(allergic conjunctivitis)、アレルギー性皮膚炎(allergic dermatitis)、アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)、接触性皮膚炎、じんましん、掻痒症、昆虫アレルギー、食品アレルギー又は薬品アレルギーであってもよい。
【0049】
本発明で、SOCS発現抑制剤は、SOCS遺伝子/mRNAに特異的に結合して発現を阻害するものであれば、制限がなく、例えば、SOCS遺伝子/mRNAに特異的なsiRNA(small interference RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、miRNA(microRNA)、PNA(peptide nucleic acids)又はアンチセンスオリゴヌクレオチドであってもよい。
【0050】
本発明で、SOCS活性抑制剤は、SOCSタンパク質に結合/競争してその活性を阻害するものであれば、制限がなく、例えば、SOCSタンパク質に特異的な抗体、アプタマー又は拮抗剤であってもよい。
【0051】
本発明で、バイオマーカーの発現レベルを測定する方法に制限はないが、例えば、タンパク質の発現に対しては、ウエスタンブロッティング、抗体免疫沈降法、ELISA、質量分析法を用いて測定し、mRNAの発現に対しては、RT-PCR、競合的RT-PCR(competitive RT-PCR)、リアルタイムRT-PCR(Real-time RT-PCR)、RNase保護分析法(RPA:RNase protection assay)、ノーザンブロッティング又はDNAチップを用いて測定し得る。
【0052】
また、本発明は、上記方法によって選別された免疫疾患の治療のための高効能間葉系幹細胞を提供し、前記間葉系幹細胞の由来に制限はないが、例えば、自家、他家又は同種異系由来であってもよい。
【0053】
また、本発明は、前記高効能間葉系細胞を含有する免疫疾患の治療用医薬組成物/医薬製剤を提供する。
【0054】
本発明で「医薬組成物」は、既存の治療活性成分、その他補助剤、薬剤学的に許容可能な担体などの成分をさらに含み得る。前記薬剤学的に許容可能な担体は、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール及びエタノールなどを含む。
【0055】
前記組成物は、それぞれ通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾルなどの経口剤型、外用剤、坐剤及び滅菌注射溶液の形態に剤形化して用いられてもよい。
【0056】
本発明で「投与量」は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与回数、投与方法、排泄率及び疾患の程度などによってその範囲が多様に調節され得ることは当業者に明白である。
【0057】
本発明で「個体」とは、疾病の治療を必要とする対象を意味し、より具体的には、ヒト又は非ヒトである霊長類、マウス(mouse)、ラット(rat)、イヌ、ネコ、ウマ及びウシなどの哺乳類を意味する。
【0058】
本発明で「薬学的有効量」は、投与される疾患の種類及び程度、患者の年齢及び性別、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出割合、治療期間、同時に用いられる薬物を含む要素及びその他医学分野によく知られた要素によって決定され、前記要素を全て考慮して副作用なしに最大効果が得られる量で、当業者により容易に決定され得る。
【0059】
本発明の組成物は、目的組織に到逹できる限り、「投与方法」には制限がない。例えば、経口投与、動脈注射、静脈注射、経皮注射、鼻腔内投与、経気管支投与又は筋肉内投与などが含まれる。一日投与量は、約0.0001~100mg/kgであり、好ましくは、0.001~10mg/kgであり、一日一回~数回に分けて投与することが好ましい。
【0060】
以下、本発明の理解を助けるために実施例を提示する。しかし、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、実施例よって本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例】
【0061】
実施例1:実験方法
1-1.ヒト組織由来間葉系幹細胞の分離及び培養
本実験は、サムスン医療院の研究審査委員会(Institutional Review Board;IRB)の承認(IRB No.2011-10-134)を受け、全てのサンプルは、事前同意を得て収集した。間葉系幹細胞の分離は、従来知られている方法で分離した。分離された細胞は、10%のFBS(fetal bovine serum、Invitrogen-Gibco)及び100U/mLのペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen-Gibco)が含まれているDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium、Invitrogen-Gibco、Rockville、MD)培地を用いて2×103cells/cm2の密度でシーディングして、37℃及び5%のCO2条件下で培養した。
【0062】
1-2.shRNA形質感染
SOCS1の発現を阻害するために、脂肪組織由来間葉系幹細胞(AT-MSC)にSOCS1 shRNA(short hairpin RNA)及び赤色蛍光タンパク質(RFP)を発現するアデノウイルスを処理した。具体的に、SOCS1をターゲットとするshRNA配列は、ヒトU6プロモーターとTagRFPマーカー遺伝子含有シャトルベクター(pO6A5-U6-mPGK-TagRFP)にクローニングされてpO6A5-U6-shSOCS1-mPGK-TagRFP発現ベクターで準備し、シャトルベクターのU6-shRNA-SV40-pA領域は、BACベクターに組換えしてトランスファーした。回収した組換えアデノウイルス(Ad5-U6-shSOCS1-mPGK-TagRFP)は、HEK-293細胞で増殖させ、PTD(protein transduction domain)であるHP4は、ペプトロン社から購入した。間葉系幹細胞にアデノウイルスパーティクルをトランスフェクションするために、HP4(100nM)とともにアデノウイルスパーティクルをMOI(multiplicity of infection)100で処理し、室温で30分間無血清培地に培養した。以後、培養された細胞をPBSで洗い、Ad-RFP-shSOCS1及びHP4 preparationで培養し、2時間後に細胞をPBSで洗って、血清含有培地で培養した。選別された間葉系幹細胞は、RFP(red fluorescent protein)を用いた蛍光観察及びウエスタンブロッティングを通じて確認した。
【0063】
1-3.免疫ブロッティング
細胞を冷たいPBS(Gibco-Invitrogen)で洗浄し、300μLの冷たいRIPAバッファー[1%Triton X-100、150mMのNaCl、0.1%のSDS(sodium dodecyl sulfate)及び1%のデオキシコール酸ナトリウムを含む50mMのTris-HCl、pH7.5]でプロテアーゼ抑制剤カクテル(Thermo Fisher Scientific、Rockford、IL、USA)で溶出した。細胞の溶出液を4℃で10分間3000gで遠心分離した後、上澄み液を収集し、タンパク質の濃度をBCAタンパク質アッセイキット(Thermo Fisher Scientific)を用いて決定した。電気泳動のために、30μgのタンパク質をサンプルバッファー(14.4mMのβ-メルカプトエタノール、25%のグリセロール、2%のSDS及び0.1%のブロモフェノールブルーを含む60mMのTris-HCl、pH6.8)内に溶解させ、5分間沸かした後、10%のSDSリデューシングジェル上で分離した。分離されたタンパク質をa trans-blot system(Gibco-Invitrogen)を用いてPVDF(polyvinylidene difluoride)膜(Amersham Biosciences、Little Chalfont、Buckinghamshire、UK)上に移動させた。前記PVDF膜を1時間の間室温で5%の脱脂粉乳(BD Sciences、CA、USA)を含むTBS(150mMのNaClを含む10mMのTris-HCl、pH7.5)でブロッティングした後、TBSで3回洗浄し、3%の脱脂粉乳を含むTBST(150mMのNaCl及び0.02%のTween-20を含む10mMのTris、pH7.5)内の1次抗体(全ての抗体を1:1000で希釈)と4℃で一晩中インキュベーションした。翌日、ブロットをTBSTで3回洗浄し、1時間の間3%の脱脂粉乳を含むTBST内のHRP-融合した2次抗体(1:2000又は1:5000希釈)と室温でインキュベーションした。これをTBSTで3回洗浄した後、タンパク質をECL検出システム(Amersham Biosciences)で視覚化した。
【0064】
1-4.移植片対宿主病(GVHD)の動物モデル
8~9週齢のNOD/SCID免疫欠乏マウス(Jackson Laboratories、Bar Harbor、ME)に300cGyの全身照射法を行い、24時間後にヒト末梢血液単球細胞を静脈投与した。具体的に、各マウスに2×107個のヒト末梢血液単球細胞を1×106個の間葉系幹細胞とともに投与した。以後、同じ個数の間葉系幹細胞を投与7日目に反復投与した。
【0065】
実施例2:実験結果
2-1.SOCSの発現抑制
SOCS1をターゲットとするshRNA発現アデノウイルスを脂肪組織由来間葉系幹細胞(AT-MSC)に形質感染させることで、MSCでSOCSの発現抑制を確認した。その結果、
図1の(a)及び
図1の(b)に示したように、赤色蛍光タンパク質(RFP)の標識(
図1の(a))及びウエスタンブロッティング(
図1の(b))結果においてMSC内のSOCS1タンパク質の発現が有意的に抑制されることを確認することができた。
【0066】
2-2.SOCS下向き調節されたMSCのin vivo免疫抑制能の評価
前記実施例2-1で獲得したSOCS下向き調節されたMSCが実際に移植片対宿主病(GVHD)の動物モデルで免疫抑制能を発揮するかを確認した。
【0067】
その結果、
図2に示したように、shRNAによりSOCSが下向き調節されたMSC(赤色ライン)処理群は、対照群に比べて生存率(免疫抑制能)を顕著に増加させることが分かった。
【0068】
2-3.SOCS下向き調節されたMSCで追加の免疫抑制バイオマーカーの発掘
間葉系幹細胞の遺伝子発現にSOCS発現抑制が及ぼす影響を確認するために、SOCS発現抑制剤(shRNA)を処理した前後の間葉系幹細胞の遺伝子発現プロファイルを比較した。その結果、処理前後の形態変化には著しい差がなかったが、遺伝子発現プロファイルには多くの差が現われたことを確認した。
【0069】
実際に、SOCS発現抑制剤(shRNA)で処理された間葉系幹細胞で多様な遺伝子発現が増加し、これらのうちIDO、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、PTGES、CXCR4、CXCR7、VCAM1、ICAM1、ICAM2、TNF-alpha、B7-H1、TRAIL、Fas Ligand遺伝子は、間葉系幹細胞の免疫抑制機能に関連していることが分かった。
【0070】
上述した本発明の説明は例示のためのもので、本発明が属する技術分野において通常の知識を有した者は、本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更しなくても他の具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解できる。したがって、以上で記述した実施例は、全ての面で例示的なものであり、限定的ではないものとして理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、移植片対宿主病、自己免疫疾患を含む多様な免疫疾患の臨床的治療のための免疫反応の調節能力を有する機能的に優れた間葉系幹細胞が得られる有用な方法を提供することで、免疫疾患の治療法で有用に用いられ得る。