(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】道路用路盤材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/08 20060101AFI20220208BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20220208BHJP
C04B 18/10 20060101ALI20220208BHJP
C04B 20/00 20060101ALI20220208BHJP
B09B 3/20 20220101ALI20220208BHJP
B09B 3/00 20220101ALI20220208BHJP
B09B 3/25 20220101ALI20220208BHJP
E01C 3/00 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B18/14 F
C04B18/10 A
C04B20/00 B
B09B3/00 301N
B09B3/00 ZAB
B09B3/00 301F
B09B3/00 301S
E01C3/00
(21)【出願番号】P 2018119776
(22)【出願日】2018-06-25
【審査請求日】2020-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2018062136
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】堀田 太洋
(72)【発明者】
【氏名】小林 宣裕
(72)【発明者】
【氏名】井上 健
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-241169(JP,A)
【文献】特開2005-042497(JP,A)
【文献】特開2014-196218(JP,A)
【文献】特開2011-006299(JP,A)
【文献】特開2011-173768(JP,A)
【文献】特開2013-087011(JP,A)
【文献】特開2013-006743(JP,A)
【文献】特開2013-040069(JP,A)
【文献】松元弘昭ら,鉄鋼スラグ製品の紹介と海域実証試験の現況,神戸製鋼技報,2014年04月,Vol. 64 No. 1,p.18-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02,
C04B40/00-40/06,
C04B103/00-111/94
B09B 3/00
E01C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼スラグ
(高炉水砕スラグを除く)と、石炭灰と、
高炉水砕スラグと石膏との混合物であって水和により結合する結合剤と、を配合した配合物を造粒し、造粒後にエージング処理を行って道路用路盤材を得るに際して、
前記鉄鋼スラグを粒体とするとともに、粒径75μm以下を4%以下に制限し且つ全体の粒度中で最大の粒径を12.5mm以下とし、
造粒物全体に対して、前記鉄鋼スラグを、20質量%より多く且つ75質量%以下含むようにし、前記石炭灰を、10質量%以上多く且つ75質量%以下含むようにし、前記結合剤を、1質量%以上且つ20質量%以下含むように
し、
前記鉄鋼スラグに、蒸気エージング済のスラグを用いる
ことを特徴とする道路用路盤材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼スラグを用いた道路用路盤材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、高炉スラグや転炉スラグなどの鉄鋼スラグを再利用する方法として、道路用路盤材への有効利用が行われており、鉄鋼スラグのうち多くのものが路盤材として出荷されており、路盤材にはいくつかの粒度品質が設けられている。一方、鉄鋼スラグは組成や冷却速度によっては粉化する性質を有しており、微粒分が多くなるスラグも存在する。粉化する原因は、冷却過程における2CaO-SiO2の相変態(α→γ)などが挙げられるが、上記のような微粒分が多いスラグは、路盤材の粒度品質を満足できないことがあり、路盤材の原料としては利用価値が低いものとなっていた。
【0003】
そこで、上述した粒度が小さな微粉の鉄鋼スラグを路盤材の原料に利用する技術として、以下のようなものが提案されている。
特許文献1には、製鋼スラグとして従来海洋土木埋め立て材、サンドコンパクション材料、路盤材等の土木材料として適さないとされる0.075mm以下の微粒分を含むものを用いていながら、適切な粒度を有し、かつ海洋土木埋め立て材等として施工時の海水の白濁を生じさせることがなく、経済的な造粒物を製造する路盤材の製造方法が開示されている。具体的には、特許文献1の技術は、0.075mm以下の微粒分を5質量%以上含む粉状製鋼スラグおよび高炉スラグ微粒末、水、またはこれらにさらにフライアッシュ等を混合し、ミキサを用いて造粒し造粒物を得るものとなっている。
【0004】
そして、この特許文献1には、山積みした造粒物をシート等で覆い、そこに水蒸気を吹き込み、材料の温度を高くすると、水和反応が速く進み、養生時間を短くできる点や、造粒した翌日に造粒物を重機等によりかき混ぜると造粒物の固着を効果的に抑止することができる点も記載されている。
また、特許文献2には、粉状のスラグを低い処理コストで有効に利用することができる路盤材およびその製造方法が開示されている。具体的には、特許文献2の路盤材は、粒径450μm以下の割合が95重量%以上を占め、カルシウム分を35重量%以上含有する粉状スラグ4と、最大粒径が40mm以下の塊状スラグ5とを混合して形成されるものとなっている。
【0005】
さらに、特許文献3には、製鋼スラグを原料の一部として使用するスラグ硬化体を破砕して路盤材を製造する場合に、強度の不足、遊離MgOに起因する膨張、接触水のpH上昇などの問題を一挙に解決した製鋼スラグを原料とする路盤材が開示されている。具体的には、特許文献3の路盤材は、混合物に、製鋼スラグとして粉粒状の溶銑予備処理スラグを含有し、全配合成分中における粒径1.18mm以下の溶銑予備処理スラグの含有率が15~55質量%となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-314155号公報
【文献】特開2005-042497号公報
【文献】特開2002-020156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の路盤材は、粒径が細かいスラグの使用比率が多く、大粒径のスラク゛は有効に利用できていない。つまり、特許文献1は、粒径が細かいスラグを用いて、高密度で強度のある造粒物を製造する技術を開示しているのであって、微粉のスラグだけでなく比較的大きな粒径のスラグを用いて造粒物を製造する技術を開示するものではない。そのため、比較的大きな粒径のスラグについては、特許文献1の方法では処理できない。
【0008】
また、特許文献2の路盤材も、使用されるスラグの粒径を小さく設定し過ぎており、特許文献1と同様に比較的大きな粒径のスラグについては、資源の有効活用ができないものとなっていた。
特許文献3の路盤材は、一見すると粒径40mmと粒度が粗いものが用いられているようにも見えるが、実際に実施例で用いられるスラグの粒度は細かいものを多く含む構成となっており、大粒径のスラグを多く利用できないものとなっていた。
【0009】
加えて、製鋼スラグは一般に粉砕性が悪い為、特許文献2や特許文献3に規定される粒度まで粉砕することは困難である。つまり、特許文献2や特許文献3では、現実的には製鋼スラグを篩い分けして比較的大きな粒径を除かなくては造粒物を製造することはできず、実質的には篩い分けなどの手間やコストを考えれば、路盤材の製造コストとしても高いものとなっていた。
【0010】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、従来は用いられていなかった小さい粒径のスラグを資源として有効活用することができ、粒径が小さいスラグの商品価値を向上させることができる道路用路盤材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の道路用路盤材の製造方法は以下の技術的手段を講じ
ている。
即ち、本発明の道路用路盤材の製造方法は、鉄鋼スラグ(高炉水砕スラグを除く)と、石炭灰と、高炉水砕スラグと石膏との混合物であって水和により結合する結合剤と、を配合した配合物を造粒し、造粒後にエージング処理を行って道路用路盤材を得るに際して、
前記鉄鋼スラグを粒体とするとともに、粒径75μm以下を4%以下に制限し且つ全体の粒度中で最大の粒径を12.5mm以下とし、造粒物全体に対して、前記鉄鋼スラグを、20質量%より多く且つ75質量%以下含むようにし、前記石炭灰を、10質量%以上多く且つ75質量%以下含むようにし、前記結合剤を、1質量%以上且つ20質量%以下含むようにし、前記鉄鋼スラグに、蒸気エージング済のスラグを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の道路用路盤材の製造方法によれば、従来は用いられていなかった粒径が小さいスラグを資源として有効活用することができ、粒径が小さいスラグの商品価値を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例及び比較例に用いられる製鋼スラグの粒度分布を示したグラフである。
【
図2】実施例及び比較例に用いられる製鋼スラグの累積粒度分布を示したグラフである。
【
図3】実施例及び比較例の蒸気エージング時間と圧潰強度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る道路用路盤材の製造方法の実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。
図1に示すように、本実施形態の道路用路盤材の製造方法は、鉄鋼スラグの中でも、粒径が小さなものを、塊成化してより粒径が大きな造粒物に加工し、路盤材として有効利用するものとなっている。
【0015】
具体的には、本実施形態の道路用路盤材の製造方法は、高炉水砕スラグを除く鉄鋼スラグに、石炭灰と、高炉水砕スラグと石膏との混合物である結合剤とを配合して配合物を形成し、配合物を造粒し、さらにエージングを行って道路用路盤材を製造するものとなっている。ここで、配合物を形成するのに用いる鉄鋼スラグは、粒径75μm以下を4%以下に制限し、且つ、全体の粒度が最大でも12.5mm以下とされたものであり、先に示した従来技術に用いられていたものより粒度が大きいものを多量に含むものとなっている。
【0016】
また、この鉄鋼スラグは、造粒物全体に対して、20質量%より多く、且つ、75質量%以下となるように含まれている。また、上述した石炭灰は、10質量%以上、且つ、75質量%以下となるように含まれており、さらに高炉水砕スラグと石膏との混合物である結合剤は、1質量%以上、且つ、20質量%以下となるように含まれている。
以降では、道路用路盤材を製造する際に用いられる鉄鋼スラグ(高炉水砕スラグを除く)、石炭灰、高炉水砕スラグと石膏との混合物である結合剤、及びこれらを配合した配合物について行われる各処理を詳しく説明する。
【0017】
本実施形態の製造方法で用いられる鉄鋼スラグは、鉄鋼生産により生産されるスラグである。この鉄鋼スラグには、高炉転炉法で副産物として生産される高炉スラグ(高炉水砕スラグを除く)や製鋼スラグなどが含まれる。また、鉄鋼スラグには、電炉法で副産物として生産される電炉スラグも含まれる。これらの鉄鋼スラグは、いずれも路盤材等に利用されることがあるが、粒径が小さな粒子(微粒分の粒子)を含み、路盤剤の粒度品質の制限から利用が困難であり、使い道が乏しいとされている。
【0018】
具体的には、鉄鋼生産の副産物である鉄鋼スラグは、多くの量が路盤材として出荷されている。路盤材には含んでよい微粒成分の割合(粒径が小さな粒子の配合比率)には制限がある。例えば、鉄鋼スラグの粒子の中で、粒径が概ね20mm以下の粒子は路盤材としては細かい粒子と言え、これらを微粒と呼ぶことにする。このような微粒が多く配合されすぎると路盤材として製品にできなくなる。
【0019】
この為、微粒の鉄鋼スラク゛を塊成化して粒径が大きな粒子に加工し、利用先を拡大する技術が様々に開発されている。このようなスラグを塊成化して利用する技術としてはいくつかのものが知られている。しかしながら、いずれの従来技術も、粒径が概ね20mm以下の粒子であればどのような粒子でも選定するというよりは、粒径75μm以下となるような極微粒のスラグを多く含有するよう選定する、あるいは多量の労力をかけて粒径75μm以下を多量に含む超微粒に粉砕し原料として使用するものであり、極微粒のスラグが持つ結合力に頼って塊成化するものとなっていた。そのため、従来の技術では、粒径が20mm以下の中でも粗めの鉄鋼スラグは塊成化できずに、資源が無駄となるという問題や、あるいは極微粒まで粉砕するのに手間がかかりすぎて路盤材の製造コストが上昇してしまうという問題が指摘されていた。
【0020】
そこで、本実施形態の道路用路盤材の製造方法では、従来の方法では用いられなかった粒径が20mm以下となるものの中でも粗めの鉄鋼スラグ、すなわち粒径75μm以下の配合割合が4%以下であって、かつ、鉄鋼スラグ全体の中で最大の粒径が12.5mm以下とされた鉄鋼スラグ(細粒の鉄鋼スラグ)に対して、この鉄鋼スラグを塊成化できる方法を発明した。つまり、上述したような「粒径75μm以下の配合割合が4%以下であって、かつ、鉄鋼スラグ全体の中で最大の粒径が12.5mm以下」という粒径、端的に言えば、上述した細粒を多く含む鉄鋼スラグを使用する点に、本発明の製造方法の特徴がある。
【0021】
言い換えれば、本発明で用いられる「粗めの粒径の鉄鋼スラグ」は、高密度な塊成物とするための極微粒を多少含むが、高密度化を阻害する細粒(小粒)も含んだものであり、この細粒のものの粒度の上限を規定したものとなっている。
なお、上述した鉄鋼スラグには、蒸気エージングを予め行っているものでも、未エージング品(未蒸気エージング品)でも、どちらを用いても良い。しかし、好ましくは、蒸気エージングを予め行った鉄鋼スラグを用いるのが良い。というのも、造粒前に蒸気エージングを実施していない未エージング品は、事前工程が無い為、材料準備費は安くなる。しかし、未蒸気エージング転炉スラグなどのような未エージング品の鉄鋼スラグを使うと、膨張余力が残りすぎているため、後述する造粒後の蒸気エージングで亀裂が入りやすく、この為造粒品の強度が出にくくなるためである。
【0022】
石炭灰は、石炭火力発電において、石炭燃焼時に発生する灰を指している。なお、この石炭灰は、石炭を燃焼させる炉の形式、例えば微粉炭燃焼の炉であるか流動床で石炭を燃焼させる炉であるかといった炉の形式にはとらわれず、どのような炉の石炭灰も用いることができる。また、石炭灰は、飛灰や炉底灰などのように灰が炉のどの場所で発生したかといった発生場所の違い等にもとらわれず、発生場所が異なるものを用いても良い。なお、上述した石炭灰を配合して路盤材を製造すれば、配合された石炭灰により路盤材の流体中で水和物ができやすくなり、路盤材としての強度を向上させることが可能になると、本発明者らは推測している。
【0023】
上述した結合剤は、高炉水砕スラグと石膏との混合微粉末を有しており、これらを合計で1質量%以上、且つ、20質量%以下含む配合とされている。つまり、これらの結合剤は、一般的に良く知られ一般的に流通している高炉スラグを使った製品である。
具体的には、結合剤としては、溶融状態の高炉スラグに水を作用させて粉砕した高炉水砕スラグ(例えば、神戸製鋼所製の「ケイメント」など)に、さらに石膏を添加したものを用いても良い。
【0024】
これらの結合剤は、配合物を造粒して形成される路盤材(造粒物)の強度(圧潰強度)を向上させるために配合物に配合される。
配合物は、上述した鉄鋼スラグ(高炉水砕スラグを除く)、石炭灰、及び高炉水砕スラグと石膏との混合物である結合剤を配合したものであり、配合物を造粒することで造粒物が形成され、造粒物をエージング処理することで本実施形態の道路用路盤材が製造される。
【0025】
なお、配合物を配合する際には、上述した鉄鋼スラグ、石炭灰、及び高炉水砕スラグと石膏との混合物である結合剤を、以下の配合比率で配合する。
すなわち、造粒物全体に対して、
高炉水砕スラグを除く鉄鋼スラグについては、「20質量%より多く、且つ、75質量%以下」、石炭灰については、「10質量%以上、且つ、75質量%以下」、高炉水砕スラグと石膏との混合物である結合剤については、「1質量%以上、且つ、20質量%以下」、の配合割合で配合する。
【0026】
なお、上述した鉄鋼スラグ、石炭灰、及び結合材の配合割合の総和は、100質量%になるものして規定されている。
上述した配合割合の例としては、例えば、鉄鋼スラグを75質量%配合した場合であれば、石炭灰を10質量%以上24質量%以下、高炉水砕スラグと石膏との混合物である結合剤を1質量%以上15質量%以下配合し、3つの原料を総和で100質量%となるように配合する例を挙げることができる。
【0027】
また、鉄鋼スラグを20質量%配合した場合であれば、石炭灰を60質量%より多く75質量%以下、高炉水砕スラグと石膏との混合物である結合剤を5質量%より多く20質量%以下配合し、3つの原料を総和で100質量%となるように配合する例を挙げることもできる。
上述した配合物については、所定量だけ水分を添加し、混練機などを用いて混練して造粒物を形成する。このようにして形成された造粒物を、造粒機を用いて造粒する。このとき、造粒に用いられる造粒機には、パンペレタイザー型の造粒機を用いるのが好ましい。これは、パンペレタイザー型の造粒機は造粒機の角度や回転速度など、造粒の制御因子が多い為、また投資費用が安いうえに生産能力が高い、すなわち投資対効果が高い為である。また、パンペレタイザー型の造粒機を用いて造粒を行う際には、造粒中の配合物に水を噴霧するなどして、水分を間欠的に加えるのが好ましい。
【0028】
なお、好ましくはパンペレタイザー型を用いるのが良いが、造粒方法はパンペレタイザー型に特に限定されるものではない。
上述した造粒により配合物が造粒されて造粒物が形成される。このようにして得られた造粒物について、後述するようなエージング処理が行われる。
エージング処理は、造粒物中での水和反応を促進させるものであり、水和反応によって硬化された造粒物を、道路用路盤材として用いるために行われる。このエージング処理には、大気エージング、蒸気エージング、または大気エージングに続いて蒸気エージングを行う2段エージングのいずれかを行うことができる。
【0029】
大気エージングは、造粒物中での水和反応を促進させるための養生工程の一つであり、大気中の水分を用いて水和反応を行う処理である。なお、大気エージングを行う環境については特に限定はしないが、可能であれば湿潤な環境の方が水和反応に必要な水分が多い状態となる為好ましい。このような湿潤な環境としては、造粒物全体を全て湿った布で覆ったりシャワーで水を補給したりする環境が考えられる。また、大気エージングを行う時間については、特に規定はないが、一般的に良く行われる10~72時間、例えば24時間程度行うと良い。
【0030】
蒸気エージングは、造粒物中の水和反応を促進させるための養生工程の一つであり、蒸気によって水分と熱エネルギとを双方付与することで、大気エージングよりも早く水和反応を進行させて強度を向上させるものとなっている。なお、蒸気エージングを実施する条件について特に限定はないが、山積みした造粒物をシート等で覆い、そこに水蒸気を吹き込み、また必要に応じて造粒物の温度を上げる事で、水和反応を早めることができる。このような蒸気エージングを実施する条件については、例えば特開2005-314155に記載のもの(蒸気エージングの実施条件として一般的な条件)を参考にすることができる。また、蒸気エージングを行う時間についても、特に規定はないが、例えば実機よりも処理時間が長くなる実験装置の場合でも、蒸気量80kg/hで、3~24時間程度エージングすれば十分に水和反応を促進することができる。
【0031】
上述した処理条件に従って造粒及びエージング処理を行った造粒物は、造粒物の圧潰強度が≧30kgf/造粒物、より望ましくは≧100kgf/造粒物となるため、道路用路盤材として十分に強度を得ることができる。このようにして得られた道路用路盤材は、海域でも用いられることがあるが、好ましくは陸域用で用いることができる。
【実施例】
【0032】
次に、比較例及び実施例を用いて、本発明の道路用路盤材の製造方法が有する作用効果について詳しく説明する。
実施例及び比較例は、転炉スラグ及び脱りん炉スラグに、石炭灰、結合剤を配合、造粒、エージングし、造粒物に対して圧潰強度を計測したものである。なお、脱りん炉スラグは、粒度Cのもので、蒸気エージング済みのものである。これに対して、転炉スラグの粒度は粒度Aと粒度Bの2種類を用意し、また蒸気エージングについてはエージング済みのものと未エージングのものを用意した。
【0033】
なお、粒度分布が異なる転炉スラグには、表1に示すように粒径3.35mm以下の粒子が多く含まれる「粒度A」と、粒径3.35mm以下の粒子が7.9%以下とされた「粒度B」と、のいずれかを用いた。
【0034】
【0035】
また、結合剤には、神戸製鋼製の「ケイメント(高炉水砕スラグを微粉砕することにより製造されたもの)」に、石膏を添加したものを用いた。
このようにして得られた造粒物に対して圧潰強度を計測した結果を、実験例1として表2に示す。
【0036】
【0037】
「実施例1及び比較例1」
表2に示すように、実施例1は、配合前に蒸気エージングを行った粒度Aの鉄鋼スラグを70質量%、石炭灰を29質量%、結合剤としてケイメントに石膏を添加したものを1%配合したものである。この実施例1に比して、比較例1は、実施例1と同様に配合前に蒸気エージングを行ったものではあるが、粒径3.35mm以下の粒子が7.9%以下とされた粒度Bの鉄鋼スラグを70質量%、石炭灰を29質量%、ケイメントに石膏を添加した結合剤を1%配合したものである。これらについて圧潰強度を計測すると、実施例1が97kgf/造粒物という圧潰強度となり、「圧潰強度が30kgf/造粒物より大きい」を満足したのに対し、比較例1は15 kgf/造粒物となり、「圧潰強度が30kgf/造粒物より大きい」を満足できなかった。さらに、「圧潰強度が30kgf/造粒物より大きい」を満足した粒度Aについては、粒径75μm以下の配合割合を3.31%と4%以下に制限されており、全体の中で最大の粒径が12.5mmを超える粒子がないことも分かった。
【0038】
このことから、比較例1は12.5mm以上の粒径のスラグ粒子を含むため、大粒径の製品ができにくく、かつできたとしても強度が出ないと考えられる。また、粒径75μm以下を4%以下に制限し且つ全体の粒度中で最大の粒径を12.5mm以下とすることで、「圧潰強度が30kgf/造粒物より大きい」を満足する道路用路盤材が得られるものと考えられる。
「実施例2~4及び比較例2」
実施例2~4は、配合前に蒸気エージングを行った粒度Aの鉄鋼スラグ82質量%、70質量%、55質量%に対し、石炭灰を15質量%、27質量%、42質量%配合し、結合剤としてケイメントに石膏を添加したものをいずれも3%配合したものである。この実施例2~実施例4に比して、比較例2は、石炭灰の配合率が0質量%と15質量%以下となるものである。これらについて圧潰強度を計測すると、実施例2~実施例4が、110kgf/造粒物、128 kgf/造粒物、115 kgf/造粒物となり、30kgf/造粒物という圧潰強度、より好適には100kgf/造粒物という圧潰強度を満足した。これに対し、比較例2は19 kgf/造粒物となり、30kgf/造粒物という圧潰強度でさえも満足できなかった。このことから、比較例2は実施例2~4に比べ、石炭灰が入っていない為、強度が出ないものと考えられる。また、石炭灰を10質量%より多く、75質量%以下配合することで、30kgf/造粒物という圧潰強度、より好適には100kgf/造粒物より大きいという圧潰強度を満足する道路用路盤材が得られるものと考えられる。
「実施例1及び比較例3」
さらに、実施例1は、上述したように配合前に蒸気エージングを行った粒度Aの鉄鋼スラグ70質量%に対し、石炭灰を29質量%配合し、結合剤としてケイメントに石膏を添加したものを1%配合したものである。この実施例1に比して、比較例3は、結合剤(ケイメントに石膏を添加したもの)の配合率が0.5質量%と1質量%以下となるものである。これらについて圧潰強度を計測すると、実施例1が97kgf/造粒物となり、30kgf/造粒物より大きい状態を満足した。これに対し、比較例3は11 kgf/造粒物となり、「圧潰強度が30kgf/造粒物より大きい」を満足できなかった。このことから、比較例3は実施例1に比べて結合材(ケイメント)の量が少ないため、強度が出ないものと考えられる。また、結合剤を、1質量%より多く且つ20質量%以下配合することで、「圧潰強度が30kgf/造粒物より大きい」を満足する道路用路盤材が得られるものと考えられる。
「実施例5及び実施例3」
さらにまた、実施例5は、蒸気エージングを行っていない未エージング品の粒度Aの鉄鋼スラグ70質量%に対し、石炭灰を27質量%配合し、結合剤としてケイメントに石膏を添加したものをいずれも3%配合したものである。この実施例5に比して、実施例3は、予め蒸気エージングを行った粒度Aの鉄鋼スラグを用いたものである。これらについて圧潰強度を計測すると、実施例3が100kgf/造粒物より大きい128 kgf/造粒物となり、30kgf/造粒物という圧潰強度より大きい、より好適には100kgf/造粒物より大きいという圧潰強度を満足した。これに対し、実施例3は62 kgf/造粒物となり、30kgf/造粒物という圧潰強度は満足したが、100kgf/造粒物は満足できなかった。このことから、実施例5のように未エージング品を原料にすると、実施例3に比べて強度は落ちるものの目標以上の強度の製品は製造できることがわかる。つまり、路盤材には、蒸気エージングを予め行った鉄鋼スラグを用いるのが良いものと考えられる。
「実施例6~8」
実験例6~8は、予め蒸気エージングを行った粒度Cの脱りん炉スラグを70質量%配合して試験を行ったものである。これらについて圧潰強度を計測すると、いずれも圧潰強度は100kgf/pを超えており、脱りん炉スラグを原料に用いても路盤材として十分な強度が得られたことが分かる。
【0039】
また、実験例6~8は、結合剤としてケイメントと石膏との混合物を、実施例1~5よりも5%~20%に増配し、その代わりに石炭灰を10%まで低減したものとなっている。このことから、高炉水砕スラグと石膏の混合物を5%~20%配合しても、また石炭灰を10%まで低減しても、十分な圧潰強度が得られるものと考えられる。
次に、実験例2として、蒸気エージング時間が圧潰強度に及ぼす影響を検討した。
【0040】
具体的には、上述した表1に示す粒度Aの転炉スラグに対して、石炭灰とケイメントとを配合した。この実験例2に用いた転炉スラグはエージング済みの転炉スラグである。また、石炭灰とケイメントとの配合率は、エージング済みの転炉スラグを70%、石炭灰を27%、ケイメントを3%配合するものとなっている。
これらの原料を、混合後に、蒸気量80kg/hで0~30時間に亘って蒸気エージングし、蒸気エージングの時間に対する圧潰強度の変化を求めた。
【0041】
図3に示すように、原料の圧潰強度はエージング時間と共に急激に上昇する傾向があり、3時間もエージングすれば30kgf/p以上と路盤材として十分な圧潰強度、さらには100kgf/p以上と余裕がある圧潰強度を実現可能なことが分かった。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。