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特許7019926セルラーゼとキシラナーゼとを生産するための変異株クロストリジウム・サーモセラムおよびその調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】セルラーゼとキシラナーゼとを生産するための変異株クロストリジウム・サーモセラムおよびその調製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20220208BHJP
   C12N 15/01 20060101ALI20220208BHJP
   C12N 9/42 20060101ALI20220208BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220208BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N15/01 Z
C12N9/42
C12N15/09 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019568227
(86)(22)【出願日】2018-05-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 TH2018000028
(87)【国際公開番号】W WO2018226170
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2020-01-30
(31)【優先権主張番号】1701003165
(32)【優先日】2017-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TH
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02390
(73)【特許権者】
【識別番号】513160707
【氏名又は名称】ピーティーティー グローバル ケミカル パブリック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】タッチャーパイクーン、チャクリット
(72)【発明者】
【氏名】ラタナカノクチャイ、カノック
(72)【発明者】
【氏名】パソン、パッスラ
(72)【発明者】
【氏名】ワエオヌクル、ラッティヤ
(72)【発明者】
【氏名】ケトボト、プラッタナ
(72)【発明者】
【氏名】テチャナン、ウィカンダ
(72)【発明者】
【氏名】キッティスリヤノント、クライレアーク
(72)【発明者】
【氏名】カエウスワン、ナロン
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-051295(JP,A)
【文献】特開昭62-029974(JP,A)
【文献】国際公開第2014/007189(WO,A1)
【文献】特開2012-034690(JP,A)
【文献】特開2017-035001(JP,A)
【文献】特開2016-208852(JP,A)
【文献】Agricultural and Biological Chemistry, 1990, Vol.54, No.3, pp.825-826
【文献】Applied and Environmental Microbiology, 1989, Vol.55, No.1, pp.207-211
【文献】J. Liu, Y. Feng, Y. Yu, X. Zhou and W. He, 2011 International Conference on Consumer Electronics, Communications and Networks (CECNet), XianNing, 2011, pp. 1643-1645, doi: 10.1109/CECNET.2011.5769254.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線誘発遺伝子組換えから得られるセルラーゼとキシラナーゼとを生産するための変異株クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)であって、
前記変異株クロストリジウム・サーモセラムがクロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8であり、受託番号NITE BP-02390である、変異株クロストリジウム・サーモセラム。
【請求項2】
炭素源における請求項1に記載の変異株クロストリジウム・サーモセラムの培養工程を含む、セルラーゼとキシラナーゼとの生産方法であって、炭素源に対する細菌の比が、24~96時間、55~65℃の範囲の温度下で炭素源1gに対して細菌が0.1~1.0gの範囲である、生産方法。
【請求項3】
炭素源に対する細菌の前記比が炭素源1gに対して細菌が0.2~0.5gの範囲である、請求項2に記載のセルラーゼとキシラナーゼとの生産方法。
【請求項4】
前記炭素源がセルロース粉末、稲わら、バガスまたはそれらの混合物から選択される、請求項2に記載のセルラーゼとキシラナーゼとの生産方法。
【請求項5】
前記炭素源がバガスである、請求項4に記載のセルラーゼとキシラナーゼとの生産方法。
【請求項6】
前記生産方法が60℃の温度で行われる、請求項2に記載のセルラーゼとキシラナーゼとの生産方法。
【請求項7】
前記生産方法が48~72時間の範囲で行われる、請求項2に記載のセルラーゼとキシラナーゼとの生産方法。
【請求項8】
前記生産方法が約72時間行われる、請求項7に記載のセルラーゼとキシラナーゼとの生産方法。
【請求項9】
前記生産方法が嫌気的条件下で行われる、請求項2~8のいずれか1項に記載のセルラーゼとキシラナーゼとの生産方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
バイオテクノロジーは、セルラーゼとキシラナーゼとを生産するための変異株クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)およびその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
効率的なバイオリファイナリー産業は、燃料、化学物質、材料および原料の価値を最大にする廃棄物ほぼゼロの方法でバイオマス化学成分の副生成物を含むバイオマス化学成分由来のエネルギーの集成であるため、現在、石油製品の代用であるリグノセルロース系バイオマスからのバイオ燃料および塩基性化学物質の製造により関心がより高まっている。これは、技術および経済の両面において非常に興味深いことである。したがって、適切な生物学的および化学的方法によるバイオ燃料の製造における糖化方法により関心がより高まっている。
【0003】
リグノセルロース系バイオマスは、複雑にかつ強固に配列するセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンの3つの主成分から成る。したがって、リグノセルロース系バイオマスの前処理方法では、分解可能なバイオマスを生産するためにリグニン構造を破壊することが求められる。
【0004】
バイオマスの酵素糖化は、燃料および他の生化学的物質の製造でバイオマスから糖を生産するために、多くの関心を得ている分解方法の1つである。この方法では、触媒作用を及ぼす際に補助因子または他の金属を必要としない、程度の外れた化学物質、温度またはエネルギーを必要としないためである。このように、多くの関心がバイオマスの酵素糖化に向けられてきた。
【0005】
糖化方法では、セルラーゼ群およびヘミセルラーゼ群である2つ主要な群の酵素を使用する。セルラーゼ群は、1)エンドグルカナーゼ、2)エキソグルカナーゼまたはセロビオヒドラーゼおよび3)β-グルコシダーゼの3種類の酵素から成り、これらはセルロースを分解してグルコースにする。ヘミセルラーゼ群は、エンドキシラナーゼおよびβ-キシロシダーゼから成り、これらはヘミセルロースの主成分であるキシランを分解する。さらに、α-L-アラビノフラノシダーゼ、α-グルクロニダーゼ、α-ガラクトシダーゼ、アセチルキシランエステラーゼ、フェルラ酸エステラーゼおよびβ-マンナナーゼなどのヘミセルロースを分解する他の酵素も存在する。
【0006】
セルラーゼおよびヘミセルラーゼの相乗作用は、効率的な糖化方法において重要な因子である。これらの酵素は、遊離酵素および様々な酵素を含むセルロソームの2つの主要な形状に分けることができる。セルロソームは、クロストリジウム・サーモセラム、クロストリジウム・セルロボランス(Clostridium cellulovorans)、クロストリジウム・ジョスイ(josui)およびクロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyticum)などの嫌気性微生物から生産され得る。
【0007】
現在、変異体誘発、組換えおよび遺伝子クローニングなどの微生物株を改良する様々な方法が存在する。生物において変異を誘発する紫外線(UV)照射の使用は容易かつ非常に有効であることから、株を改良する一般的な方法である。タンパク質もしくは酵素の生産性を上げるまたは微生物の性能を向上させるために、紫外線照射を使用する微生物株の改良においては、様々な特許文献および報告がある。
【0008】
CN103409347では、塩基性条件に対する耐性を有し得るプロテアーゼ酵素の生産において性能を向上させるために、改質株バチルス・アルカロフィラス(Bacillus alcalophilus)CGMCCNo.7545を開示する。得られた株は、バチルス・アルカロフィラスAp180であった。前記株は8,000単位/mLを超える塩基性条件に対する耐性を有し得るプロテアーゼを生産することができ、塩基性条件下で原株より良好な安定性を有する。
【0009】
CN104630084およびCN104630180では、UV光変更によって良好に熱に対する耐性を有し、酸や熱に対する耐性を株バチルス・ズブチルス(Bacillus subtills)CGMCC7926に備えさせるアミラーゼを生産することができ、様々な用途に適用することができるより多くの酵素を生産することができる株バチルス・ズブチルスCGMCC7926の改質を開示する。
【0010】
RU0002564127では、プロバイオティクスであり、必須アミノ酸を良好に生産し、動物飼料産業で適用される美食学系における胆汁酸中の必須アミノ酸の安定性を上昇させるバチルス・スブチリスに対して紫外線を用いる遺伝子組換えを開示する。
【0011】
さらに、CN101531972では、紫外線を使用して、原株より多くのコハク酸を生産することができ、原株より良好にナトリウムイオンに対する耐性を有し得るアクチノバチルス・サクシノゲネス(Actinobacillus succinogenes)株CGMCC2653を生産するアクチノバチルス・サクシノゲネス株CGMCC1593の改質を開示する。
【0012】
WO2012/088467A2では、キシロースを生産するために、組換え方法を使用する株クロストリジウム・サーモセラムの改良を開示する。
【0013】
にもかかわらず、微生物から酵素を生産するコストが高いことが酵素糖化方法の問題である。大量の酵素を生産することができる微生物を研究し、開発するという試みがある。上述した理由から、酵素を適用して、農業素材から糖を生産するための大規模産業において、セルラーゼとキシラナーゼとを大量に生産することができる微生物を使用することができる。
【0014】
上記で開示された情報から、より多くセルラーゼとキシラナーゼとを生産するためのクロストリジウム・サーモセラムと共に、遺伝子組換えは実施されていなかった。したがって、本発明は変異株クロストリジウム・サーモセラムに大量のセルラーゼとキシラナーゼとを生産させることを可能にする紫外線誘発から変異株クロストリジウム・サーモセラムを調製することを目的とする。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、新規な変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8および前記細菌の遺伝子組換え方法に関し、新規な変異株は受託番号NITE BP-02390でNITE特許微生物寄託センター(NPMD)(日本)に保存される。
【0016】
効率的に糖を更に生産するために、前記変異株クロストリジウム・サーモセラムは、前処理されたバガスを分解するために使用することができるセルラーゼとキシラナーゼとを生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】微生物の成長特徴ならびに野性型クロストリジウム・サーモセラムKK8.3株および遺伝子が組み換えられた株の培地チューブ中の残存するセルロース粉末を示す。
【0018】
図2】10世代までの種菌後の改質株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8からのセルラーゼおよびキシラナーゼの生産の安定性を示す。
【0019】
図3】微生物の成長特徴ならびに野性型クロストリジウム・サーモセラム株および遺伝子が組み換えられたM2_15-C8株の培地チューブ中の残存するセルロース粉末を示す。
【0020】
図4】野性型クロストリジウム・サーモセラム株および遺伝子が組み換えられたM2_15-C8株によって生産されたタンパク質および酵素の特徴として、A)ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)技術によって試験されたタンパク質特性、B)酵素電気泳動像技術によって試験されたセルラーゼ特性およびC)酵素電気泳動像技術によって試験されたキシラナーゼ特性を示し、図中、Mは既知の分子量を有する標準タンパク質を意味し、kDaはキロダルトンを意味する。
【0021】
図5】変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8由来の酵素を用いる様々な方法で処理されたバガスの分解から得られるグルコース含有量を示す。
【0022】
明記しない限り、本明細書に使用される専門用語または科学的用語は、当業者による定義を有する。
【0023】
本明細書で命名される任意のツール、機器、方法または化学物質は、本発明にのみ特有のツール、機器、方法または化学物質であると明記しない限り、当業者によって通常使用されているツール、機器、方法または化学物質を意味する。
【0024】
特許請求の範囲または明細書中で「含む(comprising)」と単数名詞または単数代名詞の併用は、「1」を意味し、「1以上」、「少なくとも1」および「1または1より大きい」を含む。
【0025】
本出願に開示されたすべての成分および/または方法ならびに特許請求の範囲は、本発明と著しく異なるいかなる実験も無しに任意の作用、性能、変更または調整からの実施形態を網羅し、特許請求の範囲に具体的に記載されていないけれども、有用性と共に当業者により本実施形態と同じ結果を得ることを目的としている。したがって、当業者によって明確に理解される任意の若干の変更または調整を含む本実施形態に代用可能なまたは同様の目的は、添付の特許請求の範囲で見られるように、発明の精神、範囲および概念に存続すると解釈すべきである。
【0026】
本出願を通して、用語「約」は機器、方法または前記機器もしくは方法を使用する人の任意の誤差から変わるまたは逸脱し得ることを本明細書に見られたまたは示された任意の数字を意味する。
【0027】
以下に、本発明の任意の範囲を制限するいかなる目的も無しに、本発明の実施形態が示される。
【0028】
本発明は、大量のセルラーゼとキシラナーゼとを生産することができる新規な株を生産するために、紫外線照射誘発によって遺伝子が組み換えられるクロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8株に関し、遺伝子組換えの方法およびバイオマスの糖化における得られた酵素の使用を含む。
【0029】
本発明によるクロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8は、ブダペスト条約の規則に従いNITE特許微生物寄託センター(NPMD)(日本)に保存され、前記株は受託番号NITE BP-02390で2016年12月19日に寄託された。
【0030】
本発明において使用される用語「培養」は、液体培養または固体培養を含むことを意味するが、本発明による株を培養することができる限り前記方法に限定されない。
【0031】
用語「糖化」は、バイオマスにおけるセルロースおよび/またはヘミセルロースのオリゴ糖、二糖、単糖またはそれらの混合物への糖化を意味する。同様に、バイオマスの糖化はセルラーゼおよび/またはヘミセルラーゼによる多糖とのグリコシド結合の加水分解を含む。
【0032】
一実施形態では、変異株クロストリジウム・サーモセラムが野性型クロストリジウム・サーモセラムの紫外線で誘発した遺伝子組換えから生産され、記変異株はクロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8である。
【0033】
本発明の一態様では、野性型クロストリジウム・サーモセラムに対する持続時間10~120分間、炭素源あたり0.1~1.0グラムの濃度で40~100マイクロワット/平方センチメートルの強度の紫外線照射によって、変異株クロストリジウム・サーモセラムを得るための遺伝子組換え方法を実施することができる。
【0034】
好ましくは、野性型クロストリジウム・サーモセラムに対する持続時間15~60分間、40~80マイクロワット/平方センチメートルの強度の紫外線照射によって、上記遺伝子組換え方法を行ってもよい。
【0035】
本発明の一態様では、変異株クロストリジウム・サーモセラムを得るために、遺伝子組換え方法を嫌気的条件下で行う。
【0036】
本発明の一態様では、変異株クロストリジウム・サーモセラムを得るために、遺伝子組換え方法を2回行う。
【0037】
本発明の一態様では、方法から得られた変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8は、セルラーゼおよびキシラナーゼ群ならびに現株と異なる細胞の外側への輸送タンパク質および酵素に関連したタンパク質の生産に関連した適切な遺伝子のヌクレオチド配列を遺伝子コード111、220、419、427、442、453、850、1252、1257、1305、1456、1529、1884、1902、2246、2479、2611、2654、2701、2854および2875として有する。
【0038】
本発明の一態様では、遺伝子組換え方法のための細菌の培養は24~96時間、55~65℃の範囲、好ましくは60℃の温度で嫌気的条件下で0.5~1.0%(w/v)の範囲の炭素源濃度を有する基礎培地で細菌を培養することによって実行され得る。
【0039】
本発明の一態様では、炭素源はセルロース粉末、稲わら、バガスまたはそれらの混合物から選択されるが、これらに限定されない。炭素源はセルロース粉末であることが好ましい。
【0040】
本発明の一態様では、二酸化炭素ガスを添加し、接種前に15~20分間、約110~130℃の温度、10~20psiの圧力で滅菌されることによって、調製された培養培地中の空気が除去される。
【0041】
本発明の一態様では、1)上記の条件で基礎培地で遺伝子が組み換えられた細菌を培養することと、2)培養された遺伝子が組み換えられた細菌を希釈することと、3)希釈された遺伝子が組み換えられた細菌を炭素源としてセルロース粉末を含有する基礎寒天培地に移植した後、ロールチューブ法を適用し、約24~48時間、約60℃の温度でインキュベートすることと、4)標的コロニーを単離することとによって、遺伝子が組み換えられた細菌の単離を実行することができ、さらなる酵素生産のために上記の培養方法に従って、単離された変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8がさらに培養される。
【0042】
本発明の一態様では、炭素源を含有する培養培地で変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8を培養することによって、変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8からのセルラーゼおよびキシラナーゼの生産方法を実行することができる。炭素源に対する細菌の比は24~96時間、55~65℃の範囲の温度下で炭素源1gに対して細菌が0.1~1.0gの範囲である。
【0043】
炭素源に対する細菌の比は炭素源1gに対して細菌が0.2~0.5gの範囲であることが好ましい。
【0044】
酵素生産のための変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8の培養実施温度は60℃であることが好ましい。
【0045】
酵素生産のための変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8の適切な培養期間は48~72時間の範囲であることが好ましい。適切な培養期間は72時間であることが最も好ましい。
【0046】
本発明の一態様では、培養培地中の炭素源濃度は1~3%(w/v)の範囲である。
【0047】
本発明の一態様では、酵素生産のための変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8の培養プロセスを嫌気的条件下で行う。
【0048】
本発明の一態様では、酵素生産のための変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8の培養プロセスは稲わら、バガスおよび稲わらとバガスとの混合物から選択されるが、これらに限定されない。使用される炭素源はバガスであることが好ましい。
【0049】
本発明の一態様では、遠心分離、濾過または関連方法などの当業者に既知の一般的な単離方法よって、細菌によって生産された酵素を含有する培養培地から細菌を単離することができる。粗酵素としてセルラーゼおよびキシラナーゼを含有する培養液を直接使用することができる。
【0050】
本発明の一態様では、当業者に既知の任意の方法によってセルラーゼおよびキシラナーゼを含有する培養液をさらに精製してもよく、2つ以上の精製方法を共に使用してもよい。
【0051】
本発明の一態様では、変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8から生産された酵素は、1)カルボキシメチルセルラーゼ、アビセラーゼ、セロビオヒドラーゼおよびβ-グルコシダーゼなどのセルロース分解酵素ならびに2)キシラナーゼ、β-キシロシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、アラビノフラノシダーゼおよびアセチルキシランエステラーゼなどのキシラン分解酵素を含む。
【0052】
本発明の一態様では、バイオマスの糖化において変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8から生産された酵素を使用することができ、バイオマスはバガスであることが好ましい。
【0053】
本発明の一態様では、糖化のためのバイオマスは湿った形状および乾燥形状であってもよい。
【0054】
本発明の一態様では、塩基触媒方法を用いる水蒸気爆発(STEX)、有機溶媒分離法(FR)、アセトン中の水酸化ナトリウムによる方法(AC)およびメタノール中のナトリウムメトキシドによる方法(MM)から選択される前処理方法を糖化用バイオマスに対して行ってもよく、酵素糖化前に2つ以上の前処理方法を用いてもよい。
【0055】
本発明の一態様では、バイオマスの糖化性能を向上するために、変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8から生産された酵素を混合酵素として他の酵素と共に使用することができる。
【0056】
以下の部分は、本発明の範囲を決して限定するためではなく、本発明の実施形態を説明することだけを目的とする。実施例1:紫外線誘発によるクロストリジウム・サーモセラムの遺伝子組換えおよび大量のセルラーゼおよびキシラナーゼを生産する変異株の選択
【0057】
0.045%(w/v)のリン酸カリウム(KHPO)および0.045%(w/v)のリン酸二水素カリウム(KHPO)、0.09%(w/v)の硫酸アンモニウム((NHSO)、0.09%(w/v)の塩化ナトリウム(NaCl)、0.018%(w/v)の硫酸マグネシウム七水和物(MgSO.7HO)、0.012%(w/v)の塩化カルシウム水和物(CaCl.2HO)、0.4%(w/v)の炭酸ナトリウム(NaCO)ならびに0.4%(w/v)の酵母エキスを含有する基礎培地を、炭素源として約0.5~1.0%(w/v)のセルロース粉末を含有するハンゲートチューブに調製した。次に、二酸化炭素を添加し、約15~20分間、約120~125℃の温度、15psiの圧力での滅菌によって、培養培地中の空気を除去した。野性型クロストリジウム・サーモセラムKK8.3を調製された培養培地で培養し、セルロース粉末が90%(w/v)より多く分解されるまで24~72時間、60℃の温度でインキュベートした。さらなる変異のため、得られた細胞を保持した。
【0058】
40~100マイクロワット/平方センチメートルの強度で紫外線ランプの下に様々な持続時間10~120分間、紫外線ランプから10~30cmの距離に得られた細菌細胞を配置した。次に、炭素源として0.5~1.0%(w/v)のセルロース粉末を含有する基礎培地チューブに照射された細菌細胞を移植し、24~48時間、60℃でインキュベートした。セルラーゼ活性およびキシラナーゼ活性について得られた上澄みを試験し、野性型と比較して、上昇した酵素活性について算出した。
【0059】
表1から、変異株クロストリジウム・サーモセラムM1_60がセルラーゼおよびキシラナーゼを野性型株よりそれぞれ約2および2.5倍多く生産することができることが分かった。さらに、変異株クロストリジウム・サーモセラムM1_60は安定性を有し、10世代後のセルラーゼおよびキシラナーゼの生産に対する有効性を保持することできた。
【0060】
その後、炭素源としてセルロース粉末を含有する液体基礎培地で変異株クロストリジウム・サーモセラムM1_60を培養し、再び上記の条件に応じて紫外線で遺伝子を組み換えた。図1に微生物の成長およびセルロース粉末の減少比が示された。セルラーゼ活性およびキシラナーゼ活性について得られた上澄みを試験し、野性型およびM1_60株と比較して、上昇した酵素活性について算出した。表1から、変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15がセルラーゼおよびキシラナーゼを野性型株よりそれぞれ2倍および2.5倍多く生産することが依然可能であり、10世代後のセルラーゼおよびキシラナーゼの生産に対する有効性を保持することが可能であることが分かった。
[表1]野性型および様々な条件のUV光で遺伝子が組み換えられたクロストリジウム・サーモセラムKK8.3のセルラーゼ活性とキシラナーゼ活性との比較
【表1】
【0061】
変異株の単離のために、変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15を嫌気的条件下で希釈した。炭素源としてセルロース粉末を含有し、上記の方法に従って空気除去を行い、ロールチューブ法を行い、チューブの至る所で薄膜を形成した基礎培地寒天に希釈された細菌を移植した。次に、得られた培養チューブを約24~48時間、60℃の温度でインキュベートした。その後、単一コロニーを単離し、上記の条件下で液体基礎培地に培養し、セルロースを速く分解することを可能であり、同じ培養時間で野性型よりもセルロースが少なくなるコロニーを選択した。
【0062】
表2から、コロニーM2_15-C8が野性型よりも速くセルロース粉末を分解し、セルラーゼおよびキシラナーゼを野性型よりそれぞれ約2倍および約4倍多く生産することができることが分かった。さらに、図2に示すようにクロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8は安定し、10世代後のセルラーゼおよびキシラナーゼのそれらの生産性を保持することができた。
[表2]クロストリジウム・サーモセラムKK8.3野性型および変異株のセルラーゼおよびキシラナーゼ活性の比較
【表2】
実施例2:変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8の物性
【0063】
変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8の物性をクロストリジウム・サーモセラム野性型の物性と比較した。図3に示すように、変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8の色はクリームイエローであるが、野性型細菌は濃い黄色であることが分かった。さらに、変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8のセルロース分解率は、野性型のものより速かった。変異株は48時間以内に基礎培地で1%(w/v)のセルロース粉末を90%より多く分解することができるが、野性型は同じ条件下で分解に48時間より長い時間がかかった。実施例3:野性型および変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8から生産されたタンパク質ならびにセルラーゼおよびキシラナーゼの特性の調査
【0064】
上記のような嫌気的条件下で炭素源として1~3%(w/v)のバガスを含有す液体基礎培地に野性型および変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8を培養することによって、セルラーゼおよびキシラナーゼを生産した後、24~72時間、60℃の温度でインキュベートした。得られた上澄みを10~20分間、4~10℃の温度で8,000rpmより速い速度で遠心分離した。更なる調査のための濃縮酵素を得るために、3~10キロダルトンの膜(Quix Stand Systems、GE life sciences)での濾過によって透明な上澄みだけを濃縮した。
【0065】
表3から、野性型および変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8から生産された酵素が10.21単位/mLのカルボキシメチルセルラーゼ、2.55単位/mLのアビセラーゼ、4.34単位/mLのセロビオヒドラーゼおよび2.30単位/mLのβ-グルコシダーゼなどのセルロース分解酵素ならびに36.85単位/mLのキシラナーゼ、0.17単位/mLのβ-キシロシダーゼ、0.31単位/mLのβ-ガラクトシダーゼ、0.36単位/mLのアラビノフラノシダーゼおよび0.31単位/mLのアセチルキシランエステラーゼなどのキシロース分解酵素を含有することが分かった。さらに、変異株のすべてが酵素すべてを野性型よりも多く生産したことが分かった。特に、キシラナーゼが少なくとも4倍より多く生産され、カルボキシメチルセルラーゼおよびアビセラーゼが少なくとも2倍より多く生産され得る。
【0066】
図4は、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)方法を用いて、野性型および変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8によって生産されたタンパク質の特性の比較を示す。20~250kDaで両方の株によって生産された酵素は同様の特性を有し、これは20、22、30、35、45、50、60、70、75、80、100、125、150および250kDaでの14のタンパク質を含むことが分かった。しかし、両方の株によって生産されたタンパク質の強度は異なり、これはタンパク質量が異なることを示した。図4のaは、変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8が30、35、45、50、60、70、100および125kDaでより多くのタンパク質を生産することを示す。
【0067】
さらに、図4のbに示すように酵素電気泳動像法を使用するセルラーゼおよびキシラナーゼの特性の比較から、20~250kDaのセルラーゼ特性は両方の株において類似していたが、変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8によって生産されたいくつかのセルラーゼはより高い分解活性、例えば、60、70、75および80kDaでのセルロースを示した。図4のcから、20~250kDaでのキシラナーゼにおいて、両方の株によって生産された酵素は類似していたが、変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8によって生産されたいくつかのキシラナーゼはより高い分解活性、例えば、35、45、60、70および75kDaのキシラナーゼを示すことが分かった。
[表3]野性型および変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8によって生産されたセルロース分解酵素およびキシロース分解酵素における酵素活性
【表3】
実施例4:野性型および変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8の遺伝物質のヌクレオチド配列の比較
【0068】
野性型および変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8の遺伝物質のヌクレオチド配列の比較は、改質CTAB方法によって行われた。次に、イオンパーソナルゲノムマシーン(PGM)を用いるion torrentシーケンシング法によって、DNAシーケンシングについて、抽出した遺伝物質約5gを探索した。野性型および変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8の得られたDNAシーケンシングを、両者の差について参照遺伝物質としてクロストリジウム・サーモセラムATCC27504株の情報を用いるバイオインフォマティクス法によって分析した。
【0069】
野性型および変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8の遺伝物質の比較から、表4に示すように、それらの細胞の外側へのタンパク質および酵素の輸送に関連した遺伝子とタンパク質とを生産するセルロース分解酵素およびキシロース分解酵素が少なくとも21の遺伝子について変異していることが分かった。2つの変異領域は、CDS前の500塩基およびコード配列(CDS)であった。
【0070】
表4から、CDS前の500塩基での変異によれば、遺伝子コード220、427、453、850、1252、1257、1305、1884および1902のヌクレオチド配列が欠失していた一方、遺伝子コード2701のヌクレオチド配列が増加した。これはCDS前の500塩基がレギュレーター遺伝子、プロモーター遺伝子およびオペレーター遺伝子を含有していたためである。したがって、この領域の変異はタンパク質および酵素の様々な発現に影響を及ぼした。
【0071】
さらに、CDSでの変異によれば、遺伝子コード111、419、442、1456、1529、2246、2479、2611、2654、2854および2875のヌクレオチド配列は欠失していた。CDSがタンパク質または酵素の生産に応答した領域であるため、この領域の変異はタンパク質および酵素の様々な発現に影響を及ぼした。
【0072】
したがって、実施例3に示すように、細胞の外側へのタンパク質および酵素の輸送に関連したタンパク質を含む、セルロース分解酵素およびキシロース分解酵素の生産に応答した遺伝子における変異は、セルロース分解酵素およびキシロース分解酵素の様々な発現、活性および特性に影響を及ぼした。
[表4]野性型および変異株クロストリジウム・サーモセラムの細胞の外側へのタンパク質および酵素の輸送に関連したセルロース分解酵素およびキシロース分解酵素ならびにタンパク質の生産に関連した遺伝子
【表4】
[表4(続き)]
【表5】
実施例5:バガスの糖化における変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8によって生産された酵素の使用
【0073】
1)塩基触媒方法を用いる水蒸気爆発(STEX)、2)有機溶媒分離法(FR)、3)アセトン中の水酸化ナトリウムによる方法(AC)および4)メタノール中のナトリウムメトキシドによる方法(MM)などのいくつかの方法で前処理されたバガスを5.0~10.0%(w/v)の濃度、約6.0~7.0のpHで糖化し、実施例3による変異株クロストリジウム・サーモセラムM2_15-C8によって生産された酵素と共に添加した。酵素の濃度は約10~20mg/gバガスであった。組換え型β-グルコシダーゼも約10~30単位/gバガスの濃度で混合物に添加した。12~48時間、50~60℃の温度で混合物をインキュベートした。次に、得られたグルコースの定量分析を行った。変異株によって生産された酵素は、組換え型β-グルコシダーゼと共に水蒸気爆発によって前処理されたバガスを糖化することができ、590mg/g基質よりも多くグルコースを生産し、有機溶媒法で成分分離によって前処理されたバガスを糖化することができ、600mg/g基質よりも多くグルコースを生産し、アセトン中の水酸化ナトリウムによる方法によって前処理されたバガスを糖化することができ、500mg/g基質よりも多くグルコースを生産したことが分かった。さらに、図5に示すように、上記酵素はメタノール中のナトリウムメトキシドによる方法によって前処理されたバガスを糖化し、530mg/g基質より多くグルコースを生産した。発明の好ましい実施形態
【0074】
本発明の好ましい実施形態は、本発明の概要に提供したとおりである。
図1
図2
図3
図4
図5