(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20220208BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
B41J2/14 605
B41J2/18
B41J2/14 607
B41J2/14 501
B41J2/14 613
B41J2/14 303
(21)【出願番号】P 2017114001
(22)【出願日】2017-06-09
【審査請求日】2020-03-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱野 光
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-049677(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047534(WO,A1)
【文献】特開2016-172381(JP,A)
【文献】特開2014-054844(JP,A)
【文献】特開2008-132733(JP,A)
【文献】特開2016-094014(JP,A)
【文献】特開2014-188837(JP,A)
【文献】特開2001-162795(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0098890(US,A1)
【文献】中国実用新案第205058836(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを射出する複数のノズルと、
前記複数のノズルの各々に連通し、インクが貯留された複数の圧力室と、
前記複数の圧力室の各々に対応して設けられ、前記圧力室内のインクに圧力を加える複数の圧力発生手段と、
前記複数の圧力室の各々から分岐して設けられ、当該複数の圧力室内のインクを排出可能な複数の個別インク排出路と、
前記複数の個別インク排出路が連結された共通インク排出路と、を備え、
前記個別インク排出路は、所定の圧力を加えた際の断面積の変化量が異なる第1個別インク排出路と、第2個別インク排出路とが連結されて構成されており、
前記第1個別インク排出路の方が前記第2個別インク排出路よりも前記断面積の変化量が大きく、
前記第1個別インク排出路が、前記第2個別インク排出路よりも前記圧力室側に設けられており、
前記複数のノズルが設けられたノズル基板と、
前記複数の個別インク排出路が設けられた流路スペーサー基板と、
前記複数の圧力室が設けられた圧力室基板と、
が順に積層されており、
前記流路スペーサー基板に前記第1個別インク排出路及び前記第2個別インク排出路が設けられて
おり、
前記第1個別インク排出路のインク射出方向と逆方向の流路壁よりも前記圧力室基板側の前記流路スペーサー基板に空気室を設けることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記第1個別インク排出路のインクが流れる方向とは異なる方向に、前記第2個別インク排出路が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記第1個別インク排出路を構成する流路壁のうち一つが、当該第1個別インク排出路を構成する他の流路壁よりも薄いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記第1個別インク排出路は、前記複数の圧力室の各々に少なくとも二つ設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記第1個別インク排出路を構成する流路壁のうち一つが、前記ノズル基板であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記圧力室、前記個別インク排出路及び前記共通インク排出路の流路表面に、耐インク性を有する保護膜が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記複数の圧力室は、電圧の印加によってシェアモード型の変位をする隔壁で隔てられていることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記ノズル基板が、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリアミド樹脂、又はポリサルフォン樹脂からなる基板であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記流路スペーサー基板が、シリコン、ステンレス鋼又は42アロイからなる基板であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
請求項1から請求項
9までのいずれか一項に記載のインクジェットヘッドと、
前記圧力室から前記個別インク排出路への循環流を発生させるためのインクの供給手段と、
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットヘッドに設けられた複数のノズルから、圧力室内に貯留するインクを射出して記録媒体に画像を形成するインクジェット記録装置が知られている。
このようなインクジェット記録装置では、インクジェットヘッド内に発生した気泡や混入した異物等によって、ノズルが詰まり、射出不良等の問題が生じる場合がある。また、インクの種類によっては、長時間使用しないままにしておくと、インク粒子の沈降等によってノズル付近のインク粘度が高まり、安定したインクの射出性能が得難い場合がある。
【0003】
そこで、ヘッド内に、圧力室のインクを循環可能な流路を備え、ヘッド内の気泡や異物等をインクとともにヘッドの外部に排出できるインクジェットヘッドが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
例えば、特許文献1には、ヘッド内部に、各圧力室からのインクを排出可能な個別インク排出路と、複数の個別インク排出路が合流する共通インク排出路と、を備えたインクジェットヘッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなインクジェットヘッドにおいて、気泡や異物等を排出しやすくするためには、個別インク排出路の断面積を大きくするなどして流路抵抗を小さくし、当該個別インク排出路にインクを流れやすくする必要がある。
しかし、個別インク排出路の断面積を大きくすると、インクを射出させる際の圧力波(射出エネルギー)が個別インク排出路に逃げやすくなり、これにより、インクの射出安定性が低下するという問題があった。
【0006】
また、近年、インクジェットヘッドの小型化や画像の高解像度化のため多数のノズルを高密度に設けることが求められている。多数のノズルが設けられたインクジェットヘッドでは、多数の個別インク排出路も高密度に設けることが必要となるため、個別インク排出路同士の間隔が狭くなる。また、このようなインクジェットヘッドでは、圧力室から一の個別インク排出路に逃げた圧力波が共通インク排出路に伝わった後、当該共通インク排出路から他の個別インク排出路に圧力波が伝わることがある。そして、これにより、個別インク排出路で圧力ムラが発生し、インクの射出安定性が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、インクの射出安定性に優れ、かつインクとともにヘッドチップ内の気泡や異物等を効果的に除去できるインクジェットヘッド及びインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決のために、請求項1に記載の発明は、インクジェットヘッドであって、
インクを射出する複数のノズルと、
前記複数のノズルの各々に連通し、インクが貯留された複数の圧力室と、
前記複数の圧力室の各々に対応して設けられ、前記圧力室内のインクに圧力を加える複数の圧力発生手段と、
前記複数の圧力室の各々から分岐して設けられ、当該複数の圧力室内のインクを排出可能な複数の個別インク排出路と、
前記複数の個別インク排出路が連結された共通インク排出路と、を備え、
前記個別インク排出路は、所定の圧力を加えた際の断面積の変化量が異なる第1個別インク排出路と、第2個別インク排出路とが連結されて構成されており、
前記第1個別インク排出路の方が前記第2個別インク排出路よりも前記断面積の変化量が大きく、
前記第1個別インク排出路が、前記第2個別インク排出路よりも前記圧力室側に設けられており、
前記複数のノズルが設けられたノズル基板と、
前記複数の個別インク排出路が設けられた流路スペーサー基板と、
前記複数の圧力室が設けられた圧力室基板と、
が順に積層されており、
前記流路スペーサー基板に前記第1個別インク排出路及び前記第2個別インク排出路が設けられており、
前記第1個別インク排出路のインク射出方向と逆方向の流路壁よりも前記圧力室基板側の前記流路スペーサー基板に空気室を設けることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記第1個別インク排出路のインクが流れる方向とは異なる方向に、前記第2個別インク排出路が設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記第1個別インク排出路を構成する流路壁のうち一つが、当該第1個別インク排出路を構成する他の流路壁よりも薄いことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記第1個別インク排出路は、前記複数の圧力室の各々に少なくとも二つ設けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記第1個別インク排出路を構成する流路壁のうち一つが、前記ノズル基板であることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記圧力室、前記個別インク排出路及び前記共通インク排出路の流路表面に、耐インク性を有する保護膜が設けられていることを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記複数の圧力室は、電圧の印加によってシェアモード型の変位をする隔壁で隔てられていることを特徴とする。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記ノズル基板が、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリアミド樹脂、又はポリサルフォン樹脂からなる基板であることを特徴とする。
【0018】
請求項9に記載の発明は、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のインクジェットヘッドにおいて、
前記流路スペーサー基板が、シリコン、ステンレス鋼又は42アロイからなる基板であることを特徴とする。
【0019】
請求項10に記載の発明は、インクジェット記録装置であって、
請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載のインクジェットヘッドと、
前記圧力室から前記個別インク排出路への循環流を発生させるためのインクの供給手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、インクの射出安定性に優れ、かつインクとともにヘッドチップ内の気泡や異物等を効果的に除去できるインクジェットヘッド及びインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図9A】IXA-IXAで切断したときのヘッドチップの断面図
【
図9B】IXB-IXBで切断したときのヘッドチップの断面図
【
図10A】XA-XBで切断したときのヘッドチップの断面図
【
図10B】XA-XBで切断したときのヘッドチップの断面図
【
図11】第1個別インク排出路の
図7Bに示したXI-XI部分の位置に相当する断面を含むヘッドチップの断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。ただし、発明の範囲は図示例に限定されない。なお、本明細書では、説明の便宜上、インクジェットヘッド100のノズル111の配列方向である印字幅方向を左右方向とし、ノズル111の下側で記録媒体の搬送される方向を前後方向とし、左右方向と前後方向の直交する方向を上下方向として説明する。また、図面の流路中の矢印は、インクの流れる方向を指す。
【0023】
[インクジェット記録装置]
インクジェット記録装置200は、
図1に示すように、給紙部210と、画像記録部220と、排紙部230と、インクの供給手段としてのインク循環系8(
図12参照)等を備える。インクジェット記録装置200は、給紙部210に格納された記録媒体Mを画像記録部220に搬送し、画像記録部220で記録媒体Mに画像を形成し、画像が形成された記録媒体Mを排紙部230に搬送する。
【0024】
給紙部210は、記録媒体Mを格納する給紙トレー211と、給紙トレー211から画像記録部220に記録媒体Mを搬送して供給する媒体供給部212とを有する。媒体供給部212は、内側が2本のローラーにより支持された輪状のベルトを備え、このベルト上に記録媒体Mを載置した状態でローラーを回転させることで記録媒体Mを給紙トレー211から画像記録部220へ搬送する。
【0025】
画像記録部220は、搬送ドラム221と、受け渡しユニット222と、加熱部223と、ヘッドユニット224と、定着部225と、デリバリー部226等を有する。
【0026】
搬送ドラム221は、円柱面をなしており、その外周面が記録媒体Mを載置させる搬送面となっている。搬送ドラム221は、その搬送面上に記録媒体Mを保持した状態で
図1中の矢印の向きに回転することによって、記録媒体Mを搬送面に沿って搬送する。また、搬送ドラム221は、爪部及び吸気部(図示省略)を備え、爪部により記録媒体Mの端部を押さえ、かつ吸気部により記録媒体Mを搬送面に吸い寄せることで、搬送面上に記録媒体Mを保持している。
【0027】
受け渡しユニット222は、給紙部210の媒体供給部212と搬送ドラム221との間の位置に設けられ、媒体供給部212から搬送された記録媒体Mの一端をスイングアーム部222aで保持して取り上げ、受け渡しドラム222bを介して搬送ドラム221に引き渡す。
【0028】
加熱部223は、受け渡しドラム222bの配置位置とヘッドユニット224の配置位置との間に設けられ、搬送ドラム221により搬送される記録媒体Mが所定の温度範囲内の温度となるように当該記録媒体Mを加熱する。加熱部223は、例えば、赤外線ヒーター等を有し、制御部(図示省略)から供給される制御信号に基づいて赤外線ヒーターに通電してヒーターを発熱させる。
【0029】
ヘッドユニット224は、画像データに基づいて、記録媒体Mが保持された搬送ドラム221の回転に応じた適切なタイミングで記録媒体Mに対してインクを射出して画像を形成する。ヘッドユニット224は、インク射出面が搬送ドラム221に対向して所定の距離を置いて配置される。本実施形態のインクジェット記録装置200では、例えば、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクにそれぞれ対応する四つのヘッドユニット224が、記録媒体Mの搬送方向上流側からY,M,C,Kの色の順に所定の間隔で並ぶように配列されている。
【0030】
ヘッドユニット224は、例えば、
図2に示すように、前後方向に隣接する一対のインクジェットヘッド100の組が、前後方向について異なる位置に千鳥状に配置されている。また、ヘッドユニット224は、画像の記録時には搬送ドラム221の回転軸に対する位置が固定されて用いられる。即ち、インクジェット記録装置200は、ラインヘッドを用いた1パス描画方式の画像記録を行うインクジェット記録装置200である。
【0031】
定着部225は、搬送ドラム221のX方向の幅に亘って配置された発光部を有し、搬送ドラム221に載置された記録媒体Mに対して当該発光部から紫外線等のエネルギー線を照射して記録媒体M上に射出されたインクを硬化させて定着させる。定着部225の発光部は、搬送方向についてヘッドユニット224の配置位置の下流側かつデリバリー部226の受け渡しドラム226aの配置位置の上流側に搬送面と対向して配置される。
【0032】
デリバリー部226は、内側が2本のローラーにより支持された輪状のベルトを有するベルトループ226bと、記録媒体Mを搬送ドラム221からベルトループ226bに受け渡す円筒状の受け渡しドラム226aとを有し、受け渡しドラム226aにより搬送ドラム221からベルトループ226b上に受け渡された記録媒体Mをベルトループ226bにより搬送して排紙部230に送出する。
【0033】
排紙部230は、デリバリー部226により画像記録部220から送り出された記録媒体Pが載置される板状の排紙トレー231を有する。
【0034】
[インクジェットヘッド]
本実施形態のインクジェットヘッド100は、
図3A、
図3B及び
図4等に示すように、ヘッドチップ1と、ヘッドチップ1が配設された配線基板2と、配線基板2とフレキシブル基板3を介して接続された駆動回路基板4と、ヘッドチップ1内の圧力室131に供給するインクを貯留するマニホールド5と、内側にマニホールド5が収納された筐体6と、筐体6の底面開口を塞ぐように取り付けられたキャップ受板7と、筐体6に取り付けられたカバー部材9等を備えている。
なお、
図3Aでは、マニホールド5の図示を省略しており、
図3B及び
図4では、カバー部材9の図示を省略している。
また、本実施形態では、ヘッドチップ1のノズル111の列数が4列である例について説明するが、ノズル111の列数や配置は適宜変更可能であり、例えば、1列から3列までのいずれかであってもよく、5列以上であってもよい。
【0035】
ヘッドチップ1は、左右方向に長尺な略四角柱状の部材であり、圧力室基板13と、流路スペーサー基板12と、ノズル基板11とが順に積層されて構成されている(
図5~11)。
【0036】
圧力室基板13には、圧力室131、空気室132及び共通インク排出路133等が設けられている(
図5、
図6A及び
図6B等参照)。
圧力室131と空気室132は左右方向に交互に配置されるように多数設けられ、前後方向に4列で設けられている。
圧力室131は、略矩形状の断面を有し上下方向に沿って形成されており、圧力室基板13の上面に入口を有し、下面に出口を有している。また、圧力室131は、上方向の端部でインク貯留部51に連通しており、圧力室131には当該インク貯留部51からインクが供給され、圧力室131内部にはノズル111から射出するためのインクを貯留する。また、圧力室131は、圧力室基板13と流路スペーサー基板12とにまたがって、同一面積の略矩形状の断面を有するように上下方向に沿って形成されており、下方向の端部でノズル111に連通している(
図9A、
図9B等参照)。
【0037】
空気室132は、圧力室131よりもやや大きい略矩形状の断面を有し上下方向に沿って圧力室131と平行になるように形成されている。また、空気室132は、圧力室131とは異なり、インク貯留部51には連通されておらず、空気室132内にインクが流れ込まないようになっている。また、空気室132は、ノズル111にも連通されていない(
図9A、
図9B等参照)。
【0038】
圧力室131と空気室132とは、圧電材料によって形成された圧力発生手段としての隔壁136により隔てられて形成されている(
図10A参照)。隔壁136には図示しない駆動電極が設けられており、当該駆動電極に電圧が印加されると、隣接する圧力室131間の隔壁136部分がシェアモード型の変位を繰り返すことで、圧力室131内のインクに圧力が加えられる。なお、
図5~10等に示す圧力室131では、片側にしか隔壁136を有しない左右方向の端部に位置する圧力室131は使用しておらず、それ以外の両側に隔壁136を有する圧力室131を使用している。
【0039】
なお、空気室132を設けずに圧力室131のみで形成してもよいが、上述したとおり、圧力室131と空気室132とを交互に設けることが好ましい。これにより、圧力室131同士が隣接しないようできるため、一の圧力室131に隣接する隔壁136が変形した際に、他の圧力室131に影響しないようにできる。
【0040】
共通インク排出路133は、第1共通インク排出路134と第2共通インク排出路135とが連結して構成されている(
図5及び
図6B等参照)。
第1共通インク排出路134は、圧力室基板13の下面側に、圧力室131及び空気室132が設けられた部分を避けるようにして、ヘッドチップ1の前側、後側、及びそれらの中央部に、3列並んで左右方向に沿って設けられている。また、第1共通インク排出路134の下面側には、流路スペーサー基板12に設けられた個別インク排出路121が複数連結しており、それら個別インク排出路121(第2個別インク排出路123)から流れてくるインクが第1共通インク排出路134で合流できるようになっている(
図6B、
図7A及び
図9A)。また、第1共通インク排出路134は、右端部付近で、ヘッドチップ1外にインクを排出可能な第2共通インク排出路135に連結している。したがって、第1共通インク排出路134は、個別インク排出路121(第2個別インク排出路123)から流れてきたインクが、当該第2共通インク排出路135に向かって流れる流路となっている。
【0041】
第2共通インク排出路135は、圧力室131と同様に、上下方向に沿って形成されている。また、第2共通インク排出路135は、圧力室基板13の下面側は第1共通インク排出路134に連通し、上面側は排出用液室57に連通しており、第1共通インク排出路134から流れてきたインクを上側(ノズル基板11側とは反対側)に向かって、ヘッドチップ1の外部に排出するための流路となっている。また、第2共通インク排出路135は、ヘッドチップ1の右端部付近に設けられ、第1共通インク排出路134に連通している。また、第2共通インク排出路135は、個々の圧力室131よりも大きな容積を有するように設けることによって、インクの排出効率を高めることができる。
【0042】
流路スペーサー基板12には、圧力室131と、当該圧力室131から分岐して設けられている個別インク排出路121とが形成されている(
図9A及び
図9B等参照)。
圧力室131は、流路スペーサー基板12と圧力室基板13とをまたがって、同一面積の略矩形状の断面を有するように上下方向に沿って形成されている。
【0043】
個別インク排出路121は、一端部が圧力室131と連結し、他端部が第1共通インク排出路134に連結しており、圧力室131のインクを第1共通インク排出路134に排出する流路となっている。
個別インク排出路121は、気泡や異物等をインクとともに排出しやすくする観点から、圧力室131の各々に少なくとも二つ設けられていることが好ましい。また、個別インク排出路121は、例えば、
図9A及び
図9Bに示すように、圧力室131の前方向と後方向にそれぞれ一つずつ、計二つ設けることが、気泡や異物等をインクとともに排出しやすくする効果を得ることができ、かつ製造効率も高いため好ましい。
【0044】
また、本発明に係る個別インク排出路121は、所定の圧力を加えた際の断面積の変化量が異なる第1個別インク排出路122と、第2個別インク排出路123とが連結されて構成されており、当該第1個別インク排出路122の方が当該第2個別インク排出路123よりも所定の圧力を加えた際の断面積の変化量が大きい。このような個別インク排出路121では、インクを射出させる際の圧力波(射出エネルギー)が個別インク排出路121に伝わってきた場合でも、第1個別インク排出路122で圧力波を吸収し、ヘッドチップ1内の各第1個別インク排出路122で圧力ムラが発生しにくくなるので、インクの射出安定性が向上しやすくなる。また、第2個別インク排出路123は変形しにくい構成になっており、圧力損失が安定しているので、複数の圧力室131毎の圧力ばらつきが抑制され、射出安定性が向上しやすくなる。さらに、本発明に係る個別インク排出路121では、流路の一部を所定の圧力を加えた際の断面積の変化量が大きくなるように設ければよいため、流路幅を狭くする必要はなく、インクとともに気泡や異物等を効果的に除去することが可能である。
【0045】
上述したとおり、第1個別インク排出路122の方が、第2個別インク排出路123よりも所定の圧力を加えた際の断面積の変化量が大きい。
ここで、本発明の「所定の圧力を加えた際の断面積の変化量」の大小の比較は、第1個別インク排出路122内及び第2個別インク排出路123内にそれぞれ任意の同一の圧力を加えた際の断面積の変化量を実測して実測値によって比較してもよいが、下記のように、流路を構成する各流路壁の弾性の和を算出して比較することもできる。
【0046】
流路壁の曲げ剛性(曲げ剛性=ヤング率×断面二次モーメント)が低いほど、変形しやすい流路壁(弾性の大きい流路壁)であるといえるため、流路壁の弾性を、以下の式によって算出することができる。
式:流路壁の弾性=1/EI
式中、Eはヤング率(Pa)を表し、Iは断面二次モーメント(m4)を表す。
また、断面二次モーメントIは、流路の厚さの三乗に比例するので、流路の厚さをhとしたとき、流路壁の弾性は「1/Eh3」に比例する。なお、流路の長さや幅は各流路間で差が小さく、その影響は無視できるほど小さいため計算には含めていない。
また、「所定の圧力を加えた際の断面積の変化量」は流路を構成する各流路壁の弾性の和に比例すると考えることができるため、第1個別インク排出路122と第2個別インク排出路123とについて、それぞれの各流路壁の「1/Eh3」の和を計算して比較することで、「所定の圧力を加えた際の断面積の変化量」の比較をすることができる。
【0047】
以下、第1個別インク排出路122について、上述した流路壁の弾性の和を算出した例について、具体例を挙げて説明するが、これに限定されるものではない。
図11には、
図7Bに示したXI-XI部分の位置に相当する、第1個別インク排出路122の断面を含む代表的な断面図を示す。第1個別インク排出路122を構成する流路壁を、下側の流路壁122a、左側の流路壁122b、右側の流路壁122c、上側の流路壁122dとする。
【0048】
下側の流路壁122aはノズル基板11によって形成されており、当該ノズル基板11の厚さが、流路壁122aの厚さとなる。
左側の流路壁122b及び右側の流路壁122cは、流路スペーサー基板12内に形成されており、個別インク排出路121と、当該個別インク排出路121の左右方向に隣接する他の個別インク排出路121との間の距離が、それぞれ、流路壁122b及び流路壁122cの厚さとなる。
上側の流路壁122dは、流路スペーサー基板12内に形成されており、個別インク排出路121と第1共通インク排出路134との間の距離が、流路壁122dの厚さとなる。
また、以下の計算では、ノズル基板11はポリイミド樹脂基板(ヤング率:3GPa)、流路スペーサー基板12はシリコン基板(ヤング率:130GPa)であるとする。
そして、これらの流路壁122a,122b,122c,122dの「1/Eh3」をそれぞれ算出した結果を下記表Iに示す。
【0049】
【0050】
上記表Iの例では、流路壁122a,122b,122c,122dの「1/Eh3」の和は約2.7×103(1/Pa・m3)である。なお、上記表Iの例では、流路壁122aの「1/Eh3」が他よりも100倍以上大きいため、その他の流路壁122b,122c,122dの「1/Eh3」については無視できるほど小さい。
また、上述したとおり、「1/Eh3」の和が、流路を構成する各流路壁122a,122b,122c,122dの弾性の和に比例すると考えることができる。したがって、第2個別インク排出路123についても同様の方法で各流路壁の「1/Eh3」の和を算出することで、第1個別インク排出路122と第2個別インク排出路123との「所定の圧力を加えた際の断面積の変化量」の比較をすることができる。
【0051】
また、第1個別インク排出路122の方が、第2個別インク排出路123よりも所定の圧力を加えた際の断面積の変化量が大きいこととしたが、本発明の効果を有効に得る観点から、具体的には、上述した流路を構成する各流路壁の「1/Eh3」の和が10倍以上大きいことが好ましい。
【0052】
また、本実施形態に係る個別インク排出路121では、ノズル基板11による流路壁部分が高弾性となっているので、個別インク排出路121のうち第1個別インク排出路122が圧力室131側に設けられている。このように、第1個別インク排出路122が、第2個別インク排出路123よりも圧力室131側に設けられていることが好ましい。これにより、圧力室131から伝わってきた圧力波を、個別インク排出路121の入口近くで吸収することができるので、各個別インク排出路121での圧力ムラの発生を効果的に抑制することができる。
【0053】
また、第1個別インク排出路122のインクの流れる方向とは異なる方向に、第2個別インク排出路123が設けられていることが好ましい。このような構成とすることで、例えば、一の個別インク排出路121に、当該一の個別インク排出路121に隣接する他の個別インク排出路121から、第1共通インク排出路134を介して圧力波が漏れて伝わってきた場合に、第1個別インク排出路122の流路壁に当たりやすくなるので、第1個別インク排出路122で圧力波を効率的に吸収することができる。
また、
図9A及び
図9Bに示すように、第1個別インク排出路122と第2個別インク排出路123とは、90°に交わるように形成することが、上述した圧力波を効率的に吸収する効果を有効に得ることと、製造効率の観点から好ましい。
【0054】
第1個別インク排出路122を構成する流路壁のうち一つが、当該第1個別インク排出路122を構成する他の流路壁よりも薄いことが好ましい。流路壁を薄くすれば、上述した流路壁の厚さhの値が小さくなり「1/Eh3」の値を大きくすることができ、つまり所定の圧力を加えた際の断面積の変化量を大きくすることができるため、本発明の効果を有効に得ることができる。
【0055】
流路スペーサー基板12は、個別インク排出路121の加工がし易い(精度が高い)という観点や、熱伝導度が高いためインク温度を均一に保ちやすくすることができるという観点から、シリコン、ステンレス鋼(SUS)又は42アロイからなる基板であることが好ましい。また、これらのうち、圧力室基板13を形成する材料と熱膨張係数の近い材料の基板を使用することが好ましい。
【0056】
ノズル基板11には、厚さ方向(上下方向)に貫通する孔であるノズル111が設けられている(
図8)。ノズル111は、圧力室131に連通しており、圧力室131内のインクに圧力が加えられた際に、圧力室131内に貯留されたインクを射出する射出口となっている。また、本実施形態におけるノズル111は、左右方向に配列されるとともに、前後方向に四つの列をなしている。
【0057】
また、ノズル基板11は、
図9A及び
図9B等に示すように、第1個別インク排出路122の流路壁のうち一つを構成していることが好ましい。また、ノズル基板11は厚さが薄いため、圧力によりわずかに弾性変形して流路の容積を変更可能なダンパーとして機能することができる。
【0058】
ノズル基板11は、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリサルフォン樹脂等からなる基板を用いることが好ましい。これにより、樹脂基板をレーザー加工により高精度に加工してノズル基板11を製造することができ、優れたインク耐性も有することとなるため好ましい。また、これらの樹脂基板は高弾性であるので、第1個別インク供給路の流路壁として好適に用いることができる。
また、ノズル基板11は、シリコン基板に対してエッチング加工することよって製造することもできる。
【0059】
また、ヘッドチップ1内でインクの流路となる圧力室131、個別インク排出路121及び共通インク排出路133の流路表面には、流路保護の観点から、耐インク性を有する保護膜が設けられていることが好ましい。
保護膜は、端インク性を有するものであれば特に限られないが、例えば、ポリパラキシリレン又はその誘導体を含有する膜(以下、パリレン膜ともいう。)を用いることが好ましい。パリレン膜は、パラキシリレン樹脂又はその誘導体樹脂からなる樹脂被膜であり、例えば、固体のジパラキシリレンダイマー又はその誘導体を蒸着源とする気相合成法(Chemical Vaper Deposition:CVD法)により形成することができる。すなわち、ジパラキシリレンダイマーが気化、熱分解して発生したパラキシリレンラジカルが、流路部材や金属層の表面に吸着して重合反応し、被膜を形成する。
【0060】
パリレン膜には、種々の性能を有するパリレン膜があるが、必要な性能等に応じて、各種のパリレン膜やそれら種々のパリレン膜を複数積層した多層構成のパリレン膜等を所望のパリレン膜として適用することもできる。パリレン膜の層厚は、優れた絶縁性及び耐インク性の効果を得る観点から、5~20μmの範囲内とすることが好ましい。
【0061】
ポリパラキシリレンは分子量が50万にも及ぶ結晶性ポリマーであり、原料のパラキシリレン二量体を昇華し熱分解してパラキシリレンラジカルを発生させる。パラキシリレンラジカルはスペーサー基板40に付着すると同時に重合してポリパラキシリレンを生成し、保護膜を形成する。
【0062】
ポリパラキシリレンとしては、パリレンN(日本パリレン株式会社製の商品名)が挙げられる。
ポリパラキシリレン誘導体としては、ベンゼン環に塩素原子が一つ置換したパリレンC(日本パリレン株式会社製の商品名)、ベンゼン環の2位と5位に塩素原子が置換したパリレンD(日本パリレン株式会社製の商品名)、ベンゼン環を結ぶメチレン基の水素原子をフッ素原子で置換したパリレンHT(日本パリレン株式会社製の商品名)が挙げられる。
本実施形態のポリパラキシリレン及びポリパラキシリレンの誘導体としては、これらの中でも、上述した層厚で優れた絶縁性及び耐インク性の効果を得る観点から、パリレンN又はパリレンCを用いることが好ましい。
【0063】
なお、本実施形態の第1個別インク排出路122は、流路スペーサー基板12の下面側部分に設けられていることとしたが、これに限られない。例えば、第1個別インク排出路122を、ノズル基板11と流路スペーサー基板12の両方に跨るように設けてもよいし、ノズル基板11にのみ設けてもよいし、流路スペーサー基板12の底面よりも少し上側に設けてノズル基板11に隣接しないように設けてもよい。
【0064】
ヘッドチップ1の上面には、
図4に示すように、配線基板2が配設され、配線基板2の前後方向に沿った両縁部に、駆動回路基板4と接続された二つのフレキシブル基板3が配設されている。
【0065】
配線基板2は、左右方向に長尺な略矩形板状に形成されており、その略中央部に開口部22を有している。配線基板2の左右方向及び前後方向の各幅は、ヘッドチップ1よりもそれぞれ大きく形成されている。
【0066】
開口部22は、左右方向に長尺な略矩形状に形成されており、配線基板2にヘッドチップ1が取り付けられた状態においては、ヘッドチップ1における各圧力室131の入口と、第2共通インク排出路135の出口とを上側に露出させるようになっている。
【0067】
フレキシブル基板3は、駆動回路基板4と配線基板2の電極部とを電気的に接続させており、駆動回路基板4からの信号をフレキシブル基板3を介してヘッドチップ1内の隔壁136に設けられた駆動電極に印加できるようになっている。
【0068】
また、配線基板2の外縁部には、マニホールド5の下端部が接着により取り付け固定されている。すなわち、マニホールド5は、ヘッドチップ1の圧力室131の入口側(上側)に配置され、配線基板2を介してヘッドチップ1と連結されている。
【0069】
マニホールド5は、樹脂により成形されてなる部材であり、ヘッドチップ1の圧力室131の上部に設けられ、圧力室131に導入されるインクを貯留するものである。具体的には、
図3B等に示すように、マニホールド5は、左右方向に長尺に形成されており、インク貯留部51を構成する中空状の本体部52と、インク流路を構成する第1~第4インクポート53~56とを備えている。また、インク貯留部51は、インク中のゴミを除去するためのフィルターFによって、上側の第1液室51aと下側の第2液室51bの二つ区画されている。
【0070】
第1インクポート53は、第1液室51aの右側上端部に連通されており、インク貯留部51へのインクの導入に用いられる。また、第1インクポート53の先端部には、第1ジョイント81aが外挿されている。
第2インクポート54は、第1液室51aの左側上端部に連通されており、第1液室51a内の気泡を除去するために用いられる。また、第2インクポート54の先端部には、第2ジョイント81bが外挿されている。
第3インクポート55は、第2液室51bの左側上端部に連通されており、第2液室51b内の気泡を除去するために用いられる。また、第3インクポート55の先端部には、第3ジョイント82aが外挿されている。
第4インクポート56は、ヘッドチップ1の第2共通インク排出路135に連通する排出用液室57に連通されており、ヘッドチップ1から排出されたインクが、第4インクポート56を通して、インクジェットヘッド100の外部に排出される。
【0071】
筐体6は、例えば、アルミニウムを材料としてダイキャスト法により成形されてなる部材であり、左右方向に長尺に形成されている。また、筐体6は、その内側にヘッドチップ1、配線基板2及びフレキシブル基板3が取り付けられたマニホールド5を収納可能に形成されてなり、当該筐体6の底面が開放されている。また、筐体6の左右方向の両端部には、当該筐体6をプリンタ本体側に取り付けるための取付用孔68がそれぞれ形成されている。
【0072】
キャップ受板7は、その略中央部に左右方向に長尺なノズル用開口部71が形成されており、ノズル基板11がノズル用開口部71を介して露出するようにして、筐体6の底面開口を塞ぐように取り付けられている。
【0073】
[インク循環系]
インク循環系8は、インクジェットヘッド100内の圧力室131から個別インク排出路121へのインクの循環流を発生させるためのインクの供給手段である。インク循環系8は、供給用サブタンク81、循環用サブタンク82及びメインタンク83等によって構成されている(
図12)。
【0074】
供給用サブタンク81は、マニホールド5のインク貯留部51に供給するためのインクが充填されており、インク流路84によって第1インクポート53に接続されている。
循環用サブタンク82は、マニホールド5の排出用液室57から排出されたインクが充填されており、インク流路85によって第4インクポート56に接続されている。
また、供給用サブタンク81と循環用サブタンク82は、ヘッドチップ1のノズル面(以下、「位置基準面」ともいう。)に対して、上下方向(重力方向)に異なる位置に設けられている。これによって、当該位置基準面と供給用サブタンク81の水頭差による圧力P1と、当該位置基準面と循環用サブタンク82との水頭差による圧力P2が生じている。
また、供給用サブタンク81と循環用サブタンク82は、インク流路86で接続されている。そして、ポンプ88によって加えられた圧力によって、循環用サブタンク82から供給用サブタンク81にインクを戻すことができる。
【0075】
メインタンク83は、供給用サブタンク81に供給するためのインクが充填されており、インク流路87によって供給用サブタンク81に接続されている。そして、ポンプ89によって加えられた圧力によって、メインタンク83から供給用サブタンク81にインクを供給することができる。
【0076】
また、各サブタンク内のインク充填量と、各サブタンクの上下方向(重力方向)の位置とを適宜変更することによって、圧力P1及び圧力P2を調整することができる。そして、圧力P1及び圧力P2の圧力差によって、適宜の循環流速で、インクジェットヘッド100内のインクを循環できる。これにより、ヘッドチップ1内に発生した気泡や異物等を除去し、ノズル111の詰まりや、射出不良等を抑制することができる。
【0077】
なお、インク循環系8の一例として、水頭差によってインクの循環を制御する方法を説明したが、インクの循環流を発生できる構成であれば、当然適宜変更可能である。
【0078】
[本発明の技術的効果]
以上説明したように、本発明のインクジェット記録装置200は、インクを射出する複数のノズル111と、複数のノズル111の各々に連通し、インクが貯留された複数の圧力室131と、複数の圧力室131の各々に対応して設けられ、圧力室131内のインクに圧力を加える複数の圧力発生手段(隔壁136)と、圧力室131から分岐して設けられ、複数の圧力室131内のインクを排出可能な複数の個別インク排出路121と、複数の個別インク排出路121が連結された共通インク排出路133と、を備える。また、個別インク排出路121は、所定の圧力を加えた際の断面積の変化量が異なる第1個別インク排出路122と、第2個別インク排出路123とが連結されて構成されており、第1個別インク排出路122の方が第2個別インク排出路123よりも所定の圧力を加えた際の断面積の変化量が大きくなるように構成されている。これにより、本発明に係る個別インク排出路121では、インクを射出させる際の圧力波(射出エネルギー)が個別インク排出路121に伝わってきた場合でも、第1個別インク排出路122で圧力波を吸収し、ヘッドチップ1内の各第1個別インク排出路122で圧力ムラが発生しにくくなるので、インクの射出安定性が向上しやすくなる。また、第2個別インク排出路123は変形しにくい構成になっており、圧力損失が安定しているので、複数の圧力室131毎の圧力ばらつきが抑制され、射出安定性が向上しやすくなる。
さらに、本発明に係る個別インク排出路121では、流路の一部を所定の圧力を加えた際の断面積の変化量が大きくなるように設ければよいため、流路幅を狭くする必要はなく、インクとともに気泡や異物等を効果的に除去することが可能である。
【0079】
また、本実施形態のインクジェットヘッド100は、第1個別インク排出路122が、第2個別インク排出路123よりも圧力室131側に設けられていることが好ましい。これにより、圧力室131から伝わってきた圧力波を、個別インク排出路121の入口近くの第1個別インク排出路122を構成する流路壁で吸収することができるので、各個別インク排出路121での圧力ムラの発生を効果的に抑制することができる。
【0080】
また、本実施形態のインクジェットヘッド100は、第1個別インク排出路122におけるインクの流れる方向と異なる方向に、第2個別インク排出路123が設けられていることが好ましい。このような構成とすることで、例えば、隣の個別インク排出路121から伝わってきた圧力波が、第1個別インク排出路122の流路壁に当たりやすくなるので、第1個別インク排出路122で圧力波を効率的に吸収することができる。
【0081】
また、本実施形態のインクジェットヘッド100は、第1個別インク排出路122を構成する流路壁のうち一つが、当該第1個別インク排出路122を構成する他の流路壁よりも薄いことが好ましい。流路壁を薄くすれば、所定の圧力を加えた際の断面積の変化量を大きくすることができるため、本発明の効果を有効に得ることができる。
【0082】
また、本実施形態のインクジェットヘッド100は、気泡や異物等をインクとともに排出しやすくする観点から、第1個別インク排出路は、複数の圧力室の各々に少なくとも二つ設けられていることが好ましい。
【0083】
また、本実施形態のインクジェットヘッド100は、複数のノズルが設けられたノズル基板11と、複数の個別インク排出路121が設けられた流路スペーサー基板12と、複数の圧力室が設けられた圧力室基板13と、が順に積層されていることが好ましい。個別インク排出路121を形成する基板を別に設けることで、本発明の個別インク排出路の121を形成しやすくすることができる。
【0084】
また、本実施形態のインクジェットヘッド100は、第1個別インク排出路122を構成する流路壁のうち一つが、ノズル基板11であることが、本発明の効果を有効に得る観点から好ましい。
【0085】
また、本実施形態のインクジェットヘッド100は、圧力室131、個別インク排出路121及び共通インク排出路133の流路表面は、流路保護の観点から、耐インク性を有する保護膜が設けられていることが好ましい。
【0086】
また、本実施形態のインクジェットヘッド100は、電圧の印加によってシェアモード型の変位をする隔壁136で隔てられた圧力室131を備えたシェアモード型のインクジェットヘッド100に、好適に適用することができる。シェアモード型のインクジェットヘッド100では、隔壁136が駆動して個別インク排出路121に圧力ムラが発生しやすくなるので、本発明の効果を有効に得ることができる。
【0087】
また、本実施形態のインクジェットヘッド100は、ノズル基板が、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリアミド樹脂、又はポリサルフォン樹脂からなる基板であることが好ましい。これにより、樹脂基板をレーザー加工により高精度に加工してノズル基板11を製造することができ、優れたインク耐性も有することとなるため好ましい。また、これらの樹脂基板は高弾性であるので、第1個別インク供給路の流路壁として好適に用いることができる。
【0088】
また、本実施形態のインクジェットヘッド100は、流路スペーサー基板12は、個別インク排出路121の加工がし易い(精度が高い)という観点や、熱伝導度が高いためインク温度を均一に保ちやすくすることができるという観点から、シリコン、ステンレス鋼(SUS)又は42アロイからなる基板であることが好ましい。
【0089】
また、本実施形態のインクジェットヘッド100は、圧力室131から個別インク排出路121への循環流を発生させるためのインクの供給手段としてのインク循環系8を備えるインクジェット記録装置200に搭載して好適に利用することができる。
【0090】
[その他]
以上で説明した本発明の実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。すなわち、本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0091】
例えば、本実施形態の第1個別インク排出路122として、流路壁の一つをノズル基板11によって形成した例を示したが、第1個別インク排出路122の方が第2個別インク排出路123よりも所定の圧力を加えた際の断面積の変化量が大きくなるように構成されていれば、これに限られない。例えば、第1個別インク排出路122の上面に空気室124を設けることで(
図13参照)、当該上面側の流路壁の厚さが薄くなるように形成して、所定の圧力を加えた際の断面積の変化量が大きくなるようにすればよい。
【0092】
また、本実施形態のヘッドチップ1として、ノズル基板11、流路スペーサー基板12及び圧力室基板13が順に積層された例を示したが、これに限られず、ノズル基板11及び圧力室基板13の二層構成であってもよい。この場合は、ノズル基板11及び圧力室基板13の少なくとも一方に、個別インク排出路121を設けることとすればよい。
【0093】
また、本実施形態の第1共通インク排出路134として、圧力室基板13の下面側に、ヘッドチップ1の左右方向に沿って3列並んで設けられた例を示したが、個別インク排出路121のインクが合流でき、かつインクをヘッドチップ1の外部に排出することができれば流路構成は適宜変更可能である。
【0094】
また、本実施形態の個別インク排出路121として、第1個別インク排出路122におけるインクの流れる方向と異なる方向に、第2個別インク排出路123を設けた例を示したが、これに限られない。例えば、第1個別インク排出路122を直方体の流路とし、インクの流れが一方向のみとなるような流路としてもよい。この場合は、第1個別インク排出路122の流路の一部の壁を薄くすることや、第1個別インク排出路122の流路壁の一部をヤング率の高い材料で形成することによって、個別インク排出路121を形成することができる。
【0095】
また、本実施形態のインクジェットヘッド100として、シェアモード型の例を示したが、圧力室131内のインクに圧力が加えられる手段が設けられていればよく、これに限られない。
【0096】
また、本実施形態のインクジェット記録装置200の描画方式として、ラインヘッドを用いた1パス描画方式の例を示したが、これに限られず、例えば、スキャン方式であってもよい。
【0097】
また、本実施形態のインク循環系8として、ヘッドチップ1内部のインクを循環させる例を示したが、第2共通インク排出路135のインクを循環させずに吐き捨てる構成としてもよく、循環又は吐き捨てかを選択できる構成としてもよい。
【0098】
また、本実施形態のヘッドチップ1として、圧力室131及び第2共通インク排出路135がヘッドチップ1の上下面で開口するストレートタイプである例を示したが、これに限られない。例えば、ヘッドチップ1の前後左右方向のいずれかの側面で開口する構成でもよく、流路の途中でインクの流れる方向が変わる屈曲部を有する構成でもよい。
【符号の説明】
【0099】
1 ヘッドチップ
8 インク循環系(インクの供給手段)
11 ノズル基板
111 ノズル
12 流路スペーサー基板
121 個別インク排出路
122 第1個別インク排出路
123 第2個別インク排出路
13 圧力室基板
131 圧力室
132 空気室
133 共通インク排出路
134 第1共通インク排出路
135 第2共通インク排出路
136 隔壁(圧力発生手段)
100 インクジェットヘッド
200 インクジェット記録装置