(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】排気浄化システム
(51)【国際特許分類】
F01N 3/08 20060101AFI20220208BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20220208BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20220208BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20220208BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20220208BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
F01N3/08 A
F01N3/24 R ZAB
F02D41/04
F01N3/20 B
F02D45/00
B01D53/94 222
B01D53/94 400
(21)【出願番号】P 2017140371
(22)【出願日】2017-07-19
【審査請求日】2020-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隆行
(72)【発明者】
【氏名】長岡 大治
(72)【発明者】
【氏名】中田 輝男
【審査官】菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-117789(JP,A)
【文献】特開2016-151197(JP,A)
【文献】特開2003-161145(JP,A)
【文献】特開2005-201061(JP,A)
【文献】特開2001-065338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00-3/38
F02D 41/00,45/00
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された内燃機関の排気系に設けられ、排気リーン状態で排気中のNOxを吸蔵すると共に、排気リッチ状態で吸蔵されていたNOxを還元浄化するNOx吸蔵還元型触媒と、
前記内燃機関に燃料を噴射する燃料噴射部と、
前記内燃機関の内燃機関回転数を取得する内燃機関回転数取得手段と、
前記車両が加速走行状態にあるか否かを示す情報、アクセル開度、及び前記アクセル開度に基づく前記燃料噴射部に噴射させる前記燃料の指示燃料噴射量を取得する加速走行取得手段と、
前記NOx吸蔵還元型触媒を通過した排気の空気過剰率を取得する空気過剰率取得手段と、
前記指示燃料噴射量を補正する噴射量学習補正手段と、
前記加速走行取得手段により前記車両が加速走行状態にあることを示す情報が取得された際に、前記噴射量学習補正手段が前記指示燃料噴射量を補正した補正燃料噴射量に対応する燃料を前記燃料噴射部に噴射させて排気をリッチ状態にすることで、前記NOx吸蔵還元型触媒に吸蔵されているNOxを還元浄化させる触媒再生処理を実施する触媒再生手段と、
前記内燃機関の排気系における前記NOx吸蔵還元型触媒よりも上流側に設けられ、前記燃料噴射部が噴射した前記燃料を酸化する酸化触媒と、
前記内燃機関の排気系における前記酸化触媒よりも上流側に設けられ、前記酸化触媒に流入する前記排気の温度を取得する排気温度取得手段と、
前記排気温度取得手段が取得した前記排気の温度、並びに前記酸化触媒及び前記NOx吸蔵還元型触媒の内部でのHC及びCOを含む可燃分の発熱量に基づいて前記NOx吸蔵還元型触媒の触媒温度を推定する触媒温度推定手段と、を備え、
前記噴射量学習補正手段は、
前記排気リーン状態のときに、前記空気過剰率取得手段が取得した空気過剰率と、前記内燃機関回転数取得手段が取得した前記内燃機関回転数及び前記加速走行取得手段が取得した前記アクセル開度に基づいて演算される推定空気過剰率との誤差に基づいて前記指示燃料噴射量の学習補正係数を演算する学習補正係数演算手段と、
前記学習補正係数演算手段が演算した前記学習補正係数に基づいて前記指示燃料噴射量を補正して前記補正燃料噴射量を算出する噴射量補正手段と、を有
し、
前記触媒再生手段は、前記触媒温度推定手段により推定される前記触媒温度が前記NOx吸蔵還元型触媒の触媒活性温度以上であり、且つ、前記加速走行取得手段により前記車両が加速走行状態にあることを示す情報が取得された際に前記触媒再生処理を実施する
ことを特徴とする排気浄化システム。
【請求項2】
前記加速走行取得手段は、前記車両の車速を取得すると共に、該車速の変化量から前記車両が加速走行状態にあるか否かを示す情報を取得する
請求項
1に記載の排気浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関から排出される排気中の窒素化合物(NOx)を還元浄化する触媒として、NOx吸蔵還元型触媒が知られている。NOx吸蔵還元型触媒は、排気がリーン雰囲気のときに排気中に含まれるNOxを吸蔵すると共に、排気がリッチ雰囲気のときに排気中に含まれる炭化水素で吸蔵していたNOxを還元浄化により無害化して放出する。このため、触媒のNOx吸蔵量が所定量に達したなどの所定条件が成立した場合には、NOx吸蔵能力を回復させるべく、排気管噴射やポスト噴射によって排気をリッチ状態にする所謂NOxパージを定期的に行う必要がある(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-202425号公報
【文献】特開2007-16713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のNOxパージは、NOx吸蔵能力を回復させる目的で行われる。このため、NOxパージの実施条件には、所定量以上のNOxがNOx吸蔵還元型触媒に吸蔵されたことが含まれている。また、NOxパージの実施条件には、触媒温度が活性温度以上であることや、エンジンが所定の運転状態で出力トルクを安定させていること等も含まれるのが一般的である。このため、例え排気の空気過剰率がNOxパージの実施に適した状態になっていても、NOx吸蔵還元型触媒のNOx吸蔵量が所定量に達していない場合には、NOxパージは行われず、NOx吸蔵能力を効率よく回復できる機会を逃しているという課題がある。
【0005】
本開示の技術は、NOx吸蔵還元型触媒のNOx吸蔵能力を効率よく回復させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の技術は、車両に搭載された内燃機関の排気系に設けられ、排気リーン状態で排気中のNOxを吸蔵すると共に、排気リッチ状態で吸蔵されていたNOxを還元浄化するNOx吸蔵還元型触媒と、前記車両が加速走行状態にあるか否かを取得する加速走行取得手段と、前記加速走行取得手段により前記車両の加速走行状態が取得された際に排気をリッチ状態にすることで、前記NOx吸蔵還元型触媒に吸蔵されているNOxを還元浄化させる触媒再生処理を実施する触媒再生手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、前記NOx吸蔵還元型触媒の触媒温度を推定する触媒温度推定手段をさらに備え、前記触媒再生手段は、前記触媒温度推定手段により推定される前記触媒温度が前記NOx吸蔵還元型触の触媒活性温度以上であり、且つ、前記加速走行取得手段により前記車両の加速走行状態が取得され際に前記触媒再生処理を実施することが好ましい。
【0008】
また、前記加速走行取得手段は、前記車両の車速を取得すると共に、該車速の変化量から前記車両が加速走行状態にあるか否かを取得してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本開示の技術によれば、NOx吸蔵還元型触媒のNOx吸蔵能力を効率よく回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る排気浄化システムを示す全体構成図である。
【
図2】本実施形態に係るNOxパージ制御部を示す機能ブロック図である。
【
図3】本実施形態に係るNOxパージ制御を説明するタイミングチャート図である。
【
図4】本実施形態に係るNOxパージリーン制御に用いるMAF目標値の設定処理を示すブロック図である。
【
図5】本実施形態に係るNOxパージリッチ制御に用いる目標噴射量の設定処理を示すブロック図である。
【
図6】本実施形態に係るNOxパージ制御の実施判定処理を示すブロック図である。
【
図7】第3実施条件の成立により実施されるNOxパージ制御を説明するタイミングチャート図である。
【
図8】本実施形態に係る筒内インジェクタの噴射量学習補正の処理を示すブロック図である。
【
図9】本実施形態に係る学習補正係数の演算処理を説明するフロー図である。
【
図10】本実施形態に係るMAF補正係数の設定処理を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係る排気浄化システム及び、その制御方法を説明する。
【0012】
図1は、本実施形態の車両1に搭載されたディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)10の吸排気系を示す模式的な全体構成図である。エンジン10の各気筒には、図示しないコモンレールに蓄圧された高圧燃料を各気筒内に直接噴射する筒内インジェクタ11がそれぞれ設けられている。これら各筒内インジェクタ11の燃料噴射量や燃料噴射タイミングは、電子制御ユニット(以下、ECUという)50から入力される指示信号に応じてコントロールされる。
【0013】
エンジン10の吸気マニホールド10Aには新気を導入する吸気通路12が接続され、排気マニホールド10Bには排気を外部に導出する排気通路13が接続されている。吸気通路12には、吸気上流側から順にエアクリーナ14、吸入空気量センサ(以下、MAFセンサという)40、過給機20のコンプレッサ20A、インタークーラ15、吸気スロットルバルブ16等が設けられている。排気通路13には、排気上流側から順に過給機20のタービン20B、排気後処理装置30等が設けられている。
【0014】
なお、
図1中において、符号41はエンジン10の図示しないクランクシャフトからエンジン回転数Neを取得するエンジン回転数センサ、符号42は図示しないアクセルペダルの踏み込み量から筒内インジェクタ11への指示燃料噴射量Qを取得するアクセル開度センサ(加速走行取得手段の一例)、符号46はコンプレッサ20Aにより加圧された吸気圧を取得するブースト圧センサ、符号47は図示しないプロペラシャフトから車両1の車速を取得する車速センサ(加速走行取得手段の一例)をそれぞれ示している。
【0015】
EGR装置21は、排気マニホールド10Bと吸気マニホールド10Aとを接続するEGR通路22と、EGRガスを冷却するEGRクーラ23と、EGR量を調整するEGRバルブ24とを備えている。
【0016】
排気後処理装置30は、ケース30A内に排気上流側から順に酸化触媒31、NOx吸蔵還元型触媒32、パティキュレートフィルタ(以下、単にフィルタという)33を配置して構成されている。また、酸化触媒31よりも上流側の排気通路13には、ECU50から入力される指示信号に応じて、排気通路13内に未燃燃料(主にHC)を噴射する排気インジェクタ34が設けられている。
【0017】
酸化触媒31は、例えば、ハニカム構造体等のセラミック製担体表面に酸化触媒成分を担持して形成されている。酸化触媒31は、排気インジェクタ34の排気管噴射又は筒内インジェクタ11のポスト噴射によって未燃燃料が供給されると、これを酸化して排気温度を上昇させる。
【0018】
NOx吸蔵還元型触媒32は、例えば、ハニカム構造体等のセラミック製担体表面にアルカリ金属等を担持して形成されている。このNOx吸蔵還元型触媒32は、排気空燃比がリーン状態のときに排気中のNOxを吸蔵すると共に、排気空燃比がリッチ状態のときに排気中に含まれる還元剤(HC等)で吸蔵したNOxを還元浄化する。
【0019】
フィルタ33は、例えば、多孔質性の隔壁で区画された多数のセルを排気の流れ方向に沿って配置し、これらセルの上流側と下流側とを交互に目封止して形成されている。フィルタ33は、排気中のPMを隔壁の細孔や表面に捕集すると共に、PM堆積推定量が所定量に達すると、これを燃焼除去するいわゆるフィルタ強制再生が実行される。フィルタ強制再生は、排気管噴射又はポスト噴射によって上流側の酸化触媒31に未燃燃料を供給し、フィルタ33に流入する排気温度をPM燃焼温度まで昇温することで行われる。
【0020】
第1排気温度センサ43は、酸化触媒31よりも上流側に設けられており、酸化触媒31に流入する排気温度を検出する。第2排気温度センサ44は、NOx吸蔵還元型触媒32とフィルタ33との間に設けられており、フィルタ33に流入する排気温度を検出する。NOx/ラムダセンサ45は、フィルタ33よりも下流側に設けられており、NOx吸蔵還元型触媒32を通過した排気のNOx値及びラムダ値(以下、空気過剰率ともいう)を検出する。
【0021】
ECU50は、エンジン10等の各種制御を行うもので、公知のCPUやROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備えて構成されている。これら各種制御を行うため、ECU50にはセンサ類40~47のセンサ値が入力される。また、ECU50は、NOxパージ制御部60と、MAF追従制御部80と、噴射量学習補正部90と、MAF補正係数演算部95とを一部の機能要素として有する。これら各機能要素は、一体のハードウェアであるECU50に含まれるものとして説明するが、これらのいずれか一部を別体のハードウェアに設けることもできる。
【0022】
[NOxパージ制御]
NOxパージ制御部60は、本発明の触媒再生手段の一例であって、排気をリッチ状態にしてNOx吸蔵還元型触媒32に吸蔵されているNOxを還元浄化により無害化して放出することで、NOx吸蔵還元型触媒32のNOx吸蔵能力を回復させる触媒再生処理(以下、この制御をNOxパージ制御という)を実施する。NOxパージ制御は、詳細を後述するNOxパージ実施判定処理部70によりNOxパージの実施条件が成立すると判定されると、NOxパージフラグF
NPをオン(F
NP=1)にすることで開始される(
図3の時刻t
1参照)。
【0023】
図2に示すように、NOxパージ制御部60は、NOxパージリーン制御部60Aと、NOxパージリッチ制御部60Bと、NOxパージ実施判定処理部70とを一部の機能要素として備えている。本実施形態において、NOxパージ制御による排気のリッチ化は、空気系制御によって空気過剰率を定常運転時(例えば、約1.5)から理論空燃比相当値(約1.0)よりもリーン側の第1目標空気過剰率(例えば、約1.3)まで低下させるNOxパージリーン制御と、噴射系制御によって空気過剰率を第1目標空気過剰率からリッチ側の第2目標空気過剰率(例えば、約0.9)まで低下させるNOxパージリッチ制御とを併用することで実現される。以下、これらNOxパージリーン制御及び、NOxパージリッチ制御の詳細について説明する。
【0024】
[NOxパージリーン制御]
図4は、NOxパージリーン制御部60AによるMAF目標値MAF
NPL_Trgtの設定処理を示すブロック図である。第1目標空気過剰率設定マップ61は、エンジン回転数Ne及びアクセル開度Qに基づいて参照されるマップであって、これらエンジン回転数Neとアクセル開度Qとに対応したNOxパージリーン制御時の空気過剰率目標値λ
NPL_Trgt(第1目標空気過剰率)が予め実験等に基づいて設定されている。
【0025】
まず、第1目標空気過剰率設定マップ61から、エンジン回転数Ne及びアクセル開度Qを入力信号としてNOxパージリーン制御時の空気過剰率目標値λNPL_Trgtが読み取られて、MAF目標値演算部62に入力される。さらに、MAF目標値演算部62では、以下の数式(1)に基づいてNOxパージリーン制御時のMAF目標値MAFNPL_Trgtが演算される。
【0026】
MAFNPL_Trgt=λNPL_Trgt×Qfnl_corrd×RoFuel×AFRsto/Maf_corr・・・(1)
数式(1)において、Qfnl_corrdは後述する学習補正された筒内インジェクタ11の燃料噴射量(ポスト噴射を除く)、RoFuelは燃料比重、AFRstoは理論空燃比、Maf_corrは後述するMAF補正係数をそれぞれ示している。
【0027】
MAF目標値演算部62によって演算されたMAF目標値MAF
NPL_Trgtは、NOxパージフラグF
NPがオン(
図3の時刻t
1参照)になるとランプ処理部63に入力される。ランプ処理部63は、各ランプ係数マップ63A,Bからエンジン回転数Ne及びアクセル開度Qを入力信号としてランプ係数を読み取ると共に、このランプ係数を付加したMAF目標ランプ値MAF
NPL_Trgt_Rampをバルブ制御部64に入力する。
【0028】
バルブ制御部64は、MAFセンサ40から入力される実MAF値MAFActがMAF目標ランプ値MAFNPL_Trgt_Rampとなるように、吸気スロットルバルブ16を閉側に絞ると共に、EGRバルブ24を開側に開くフィードバック制御を実行する。
【0029】
このように、本実施形態では、第1目標空気過剰率設定マップ61から読み取られる空気過剰率目標値λNPL_Trgtと、各筒内インジェクタ11の燃料噴射量とに基づいてMAF目標値MAFNPL_Trgtを設定し、このMAF目標値MAFNPL_Trgtに基づいて空気系動作をフィードバック制御するようになっている。これにより、NOx吸蔵還元型触媒32の上流側にラムダセンサを設けることなく、或いは、NOx吸蔵還元型触媒32の上流側にラムダセンサを設けた場合も当該ラムダセンサのセンサ値を用いることなく、排気をNOxパージリーン制御に必要な所望の空気過剰率まで効果的に低下させることが可能になる。
【0030】
また、各筒内インジェクタ11の燃料噴射量として学習補正後の燃料噴射量Qfnl_corrdを用いることで、MAF目標値MAFNPL_Trgtをフィードフォワード制御で設定することが可能となり、各筒内インジェクタ11の経年劣化や特性変化等の影響を効果的に排除することができる。
【0031】
また、MAF目標値MAFNPL_Trgtにエンジン10の運転状態に応じて設定されるランプ係数を付加することで、吸入空気量の急激な変化によるエンジン10の失火やトルク変動によるドライバビリティーの悪化等を効果的に防止することができる。
【0032】
[NOxパージリッチ制御の燃料噴射量設定]
図5は、NOxパージリッチ制御部60Bによる排気管噴射又はポスト噴射の目標噴射量Q
NPR_Trgt(単位時間当たりの噴射量)の設定処理を示すブロック図である。第2目標空気過剰率設定マップ65は、エンジン回転数Ne及びアクセル開度Qに基づいて参照されるマップであって、これらエンジン回転数Neとアクセル開度Qとに対応したNOxパージリッチ制御時の空気過剰率目標値λ
NPR_Trgt(第2目標空気過剰率)が予め実験等に基づいて設定されている。
【0033】
まず、第2目標空気過剰率設定マップ65から、エンジン回転数Ne及びアクセル開度Qを入力信号としてNOxパージリッチ制御時の空気過剰率目標値λNPR_Trgtが読み取られて噴射量目標値演算部66に入力される。さらに、噴射量目標値演算部66では、以下の数式(2)に基づいてNOxパージリッチ制御時の目標噴射量QNPR_Trgtが演算される。
【0034】
QNPR_Trgt=MAFNPL_Trgt×Maf_corr/(λNPR_Trgt×RoFuel×AFRsto)-Qfnl_corrd・・・(2)
数式(2)において、MAFNPL_TrgtはNOxパージリーンMAF目標値であって、前述のMAF目標値演算部62から入力される。また、QfnlRaw_corrdは後述する学習補正されたMAF追従制御適用前の筒内インジェクタ11の燃料噴射量(ポスト噴射を除く)、RoFuelは燃料比重、AFRstoは理論空燃比、Maf_corrは後述するMAF補正係数をそれぞれ示している。
【0035】
噴射量目標値演算部66によって演算される目標噴射量Q
NPR_Trgtは、NOxパージフラグF
NPがオンになると、排気インジェクタ34又は各筒内インジェクタ11に噴射指示信号として送信される(
図3の時刻t
1)。この噴射指示信号の送信は、後述するNOxパージの終了条件が成立することにより、NOxパージフラグF
NPがオフ(
図3の時刻t
2)にされるまで継続される。
【0036】
このように、本実施形態では、第2目標空気過剰率設定マップ65から読み取られる空気過剰率目標値λNPR_Trgtと、各筒内インジェクタ11の燃料噴射量とに基づいて目標噴射量QNPR_Trgtを設定するようになっている。これにより、NOx吸蔵還元型触媒32の上流側にラムダセンサを設けることなく、或いは、NOx吸蔵還元型触媒32の上流側にラムダセンサを設けた場合も当該ラムダセンサのセンサ値を用いることなく、排気をNOxパージリッチ制御に必要な所望の空気過剰率まで効果的に低下させることが可能になる。
【0037】
また、各筒内インジェクタ11の燃料噴射量として学習補正後の燃料噴射量Qfnl_corrdを用いることで、目標噴射量QNPR_Trgtをフィードフォワード制御で設定することが可能となり、各筒内インジェクタ11の経年劣化や特性変化等の影響を効果的に排除することができる。
【0038】
[NOxパージ実施判定処理]
図6は、NOxパージ実施判定処理部70による判定処理を示すブロック図である。NOxパージ実施判定処理部70は、実施判定部71と、NOx吸蔵量推定部72と、吸蔵量閾値マップ73と、触媒温度推定部(触媒温度推定手段の一例)74と、吸蔵量閾値補正部75と、浄化率演算部76と、劣化度合推定部77とを一部の機能要素として有する。
【0039】
実施判定部71は、次の条件(1)~(3)の何れかが成立した場合に、NOxパージ制御を実施すると判定し、NOxパージフラグFNPをオン(FNP=1)に設定する。
【0040】
実施判定部71で判定される実施条件は、(1)NOx吸蔵還元型触媒32の触媒温度が所定の活性温度以上で、NOx吸蔵還元型触媒32のNOx吸蔵量推定値m_NOxが所定の吸蔵量閾値STR_thr_NOx以上に達した第1実施条件、(2)NOx吸蔵還元型触媒32の触媒温度が所定の活性温度以上で、NOx吸蔵還元型触媒32によるNOx浄化率NOx_pur%が所定の浄化率閾値以下に低下した第2実施条件、(3)NOx吸蔵還元型触媒32の触媒温度が所定の活性温度以上で、車両1が加速走行状態である第3実施条件の3つである。これら3つの実施条件の何れかが成立すると、実施判定部71は、NOxパージフラグFNPをオン(FNP=1)にしてNOxパージ制御を開始させる。
【0041】
第1実施条件の判定に用いるNOx吸蔵量推定値m_NOxは、NOx吸蔵量推定部72によって推定される。NOx吸蔵量推定値m_NOxは、例えば、エンジン10の運転状態やNOx/ラムダセンサ45のセンサ値等を入力信号として含むマップやモデル式等に基づいて演算すればよい。NOx吸蔵量閾値STR_thr_NOxは、NOx吸蔵還元型触媒32の触媒推定温度Temp_LNTに基づいて参照される吸蔵量閾値マップ73で設定される。触媒推定温度Temp_LNTは、触媒温度推定部74によって推定される。触媒推定温度Temp_LNTは、例えば、第1排気温度センサ43で検出される酸化触媒31の入口温度、酸化触媒31及びNOx吸蔵還元型触媒32の内部でのHC・CO発熱量等に基づいて推定すればよい。第1実施条件の成立によりオンにされたNOxパージフラグFNPは、NOx吸蔵量推定値m_NOxがNOx除去成功を示す所定値まで低下するとオフ(FNP=0)にされる。
【0042】
なお、吸蔵量閾値マップ73に基づいて設定されたNOx吸蔵量閾値STR_thr_NOxは、吸蔵量閾値補正部75によって補正されるようになっている。吸蔵量閾値補正部75は、NOx吸蔵量閾値STR_thr_NOxに、劣化度合推定部77によって求められる劣化補正係数(劣化度合)を乗算することで行われる。劣化補正係数は、例えば、NOx吸蔵還元型触媒32内部でのHC・CO発熱量低下、NOx吸蔵還元型触媒32の熱履歴、NOx吸蔵還元型触媒32のNOx浄化率低下、車両走行距離等に基づいて求められる。
【0043】
第2実施条件の判定に用いるNOx浄化率NOx_pur%は、浄化率演算部76によって演算される。NOx浄化率NOx_pur%は、例えば、NOx/ラムダセンサ45で検出される触媒下流側のNOx量を、エンジン10の運転状態等から推定される触媒上流側のNOx排出量で除算することで求められる。第2実施条件の成立によりオンにされたNOxパージフラグFNPは、NOx浄化率NOx_pur%が浄化率回復を示す所定値まで上昇するとオフ(FNP=0)にされる。
【0044】
第3実施条件は、運転者のアクセルペダルの踏み込み操作により筒内インジェクタ11の燃料噴射量が増加し、これに伴い車両1が加速走行している状態にあるか否かで判定される。具体的には、NOx吸蔵還元型触媒32の触媒温度が所定の活性温度以上の状態で、車速センサ47のセンサ値を微分して得られる車両1の加速度が車両1の加速走行を示す所定の加速度閾値以上であり、且つ、アクセル開度センサ42のセンサ値に基づいた筒内インジェクタ11への指示燃料噴射量がエンジン10の負荷運転状態を示す所定の噴射量閾値以上の場合に、実施判定部71は、車両1が所定の加速走行状態(停車状態からの発進加速及び、減速状態からの再加速を含む)にあると判定し、NOxパージフラグFNPをオン(FNP=1)にする。第3実施条件の成立により実施されるNOxパージ制御は、空気系制御と噴射系制御とを併用するものでもよく、或は、エンジン10の負荷状態に応じ、噴射系制御のみを用いるものであってもよい。
【0045】
第3実施条件の成立によりオンにされたNOxパージフラグFNPは、車速センサ47のセンサ値から得られる車両1の加速度が所定値まで低下した場合、アクセル開度センサ42のセンサ値に基づいた筒内インジェクタ11の燃料指示噴射量が所定の閾値以下に低下した場合、或いは、NOxパージフラグFNPのオンから所定の上限閾値時間が経過するとオフ(FNP=0)にされる。
【0046】
このように、NOx吸蔵還元型触媒32のNOx吸蔵量に関係なく、触媒温度が活性温度以上の状態で車両1が加速走行する都度、NOxパージ制御を実施することにより、
図7のT
1~T
nに示すように、NOxパージの実行頻度が効果的に確保されるようになる。これにより、NOx吸蔵還元型触媒32のNOx吸蔵能力を効率よく回復させることが可能になる。
【0047】
また、筒内インジェクタ11の燃料噴射量増加により排気ラムダが下がりやすい(リッチ雰囲気になりやすい)車両加速時にNOxパージを実施することで、NOxパージに用いられる燃料の消費量が効果的に抑えられるようになり、燃費性能を確実に向上することができる。
【0048】
また、振動や騒音の少ないエンジン10の出力トルクが安定した状態でNOxパージを行う従前の技術では、排気のリッチ化に伴うエンジン回転数(出力トルク)の変動等により運転者に違和感を与える虞があるが、本実施形態のように、エンジン10の出力トルクが変動する車両1の加速走行時にNOxパージ制御を行うことにより、トルク変動等を起因とする運転者の違和感が効果的に低減されるようになり、ドライバビリティーの悪化を確実に防止することができる。
【0049】
[MAF追従制御]
図1に戻り、MAF追従制御部80は、(1)通常運転のリーン状態からNOxパージ制御によるリッチ状態への切り替え期間及び、(2)NOxパージ制御によるリッチ状態から通常運転のリーン状態への切り替え期間に、各筒内インジェクタ11の燃料噴射タイミング及び燃料噴射量をMAF変化に応じて補正するMAF追従制御を実行する。
【0050】
[噴射量学習補正]
図8に示すように、噴射量学習補正部90は、学習補正係数演算部91と、噴射量補正部92とを有する。
【0051】
学習補正係数演算部91は、エンジン10のリーン運転時にNOx/ラムダセンサ45で検出される実ラムダ値λ
Actと、推定ラムダ値λ
Estとの誤差Δλに基づいて燃料噴射量の学習補正係数F
Corrを演算する。排気がリーン状態のときは、排気中のHC濃度が非常に低いので、酸化触媒31でHCの酸化反応による排気ラムダ値の変化は無視できるほど小さい。このため、酸化触媒31を通過して下流側のNOx/ラムダセンサ45で検出される排気中の実ラムダ値λ
Actと、エンジン10から排出された排気中の推定ラムダ値λ
Estとは一致すると考えられる。すなわち、これら実ラムダ値λ
Actと推定ラムダ値λ
Estとに誤差Δλが生じた場合は、各筒内インジェクタ11に対する指示噴射量と実噴射量との差によるものと仮定することができる。以下、この誤差Δλを用いた学習補正係数演算部91による学習補正係数の演算処理を
図9のフローに基づいて説明する。
【0052】
ステップS300では、エンジン回転数Ne及びアクセル開度Qに基づいて、エンジン10がリーン運転状態にあるか否かが判定される。リーン運転状態にあれば、学習補正係数の演算を開始すべく、ステップS310に進む。
【0053】
ステップS310では、推定ラムダ値λ
EstからNOx/ラムダセンサ45で検出される実ラムダ値λ
Actを減算した誤差Δλに、学習値ゲインK
1及び補正感度係数K
2を乗じることで、学習値F
CorrAdptが演算される(F
CorrAdpt=(λ
Est-λ
Act)×K
1×K
2)。推定ラムダ値λ
Estは、エンジン回転数Neやアクセル開度Qに応じたエンジン10の運転状態から推定演算される。また、補正感度係数K
2は、
図7に示す補正感度係数マップ91AからNOx/ラムダセンサ45で検出される実ラムダ値λ
Actを入力信号として読み取られる。
【0054】
ステップS320では、学習値FCorrAdptの絶対値|FCorrAdpt|が所定の補正限界値Aの範囲内にあるか否かが判定される。絶対値|FCorrAdpt|が補正限界値Aを超えている場合、本制御はリターンされて今回の学習を中止する。
【0055】
ステップS330では、学習禁止フラグFProがオフか否かが判定される。学習禁止フラグFProとしては、例えば、エンジン10の過渡運転時、NOxパージ制御時(FNP=1)等が該当する。これらの条件が成立する状態では、実ラムダ値λActの変化によって誤差Δλが大きくなり、正確な学習を行えないためである。エンジン10が過渡運転状態にあるか否かは、例えば、NOx/ラムダセンサ45で検出される実ラムダ値λActの時間変化量に基づいて、当該時間変化量が所定の閾値よりも大きい場合に過渡運転状態と判定すればよい。
【0056】
ステップS340では、エンジン回転数Ne及びアクセル開度Qに基づいて参照される学習値マップ91B(
図8参照)が、ステップS310で演算された学習値F
CorrAdptに更新される。より詳しくは、この学習値マップ91B上には、エンジン回転数Ne及びアクセル開度Qに応じて区画された複数の学習領域が設定されている。これら学習領域は、好ましくは、使用頻度が多い領域ほどその範囲が狭く設定され、使用頻度が少ない領域ほどその範囲が広く設定されている。これにより、使用頻度が多い領域では学習精度が向上され、使用頻度が少ない領域では未学習を効果的に防止することが可能になる。
【0057】
ステップS350では、エンジン回転数Ne及びアクセル開度Qを入力信号として学習値マップ91Bから読み取った学習値に「1」を加算することで、学習補正係数F
Corrが演算される(F
Corr=1+F
CorrAdpt)。この学習補正係数F
Corrは、
図7に示す噴射量補正部92に入力される。
【0058】
噴射量補正部92は、パイロット噴射QPilot、プレ噴射QPre、メイン噴射QMain、アフタ噴射QAfter、ポスト噴射QPostの各基本噴射量に学習補正係数FCorrを乗算することで、これら燃料噴射量の補正を実行する。
【0059】
このように、推定ラムダ値λEstと実ラムダ値λActとの誤差Δλに応じた学習値で各筒内インジェクタ11に燃料噴射量を補正することで、各筒内インジェクタ11の経年劣化や特性変化、個体差等のバラツキを効果的に排除することが可能になる。
【0060】
[MAF補正係数]
図1に戻り、MAF補正係数演算部95は、NOxパージ制御時のMAF目標値MAF
NPL_Trgtや目標噴射量Q
NPR_Trgtの設定に用いられるMAF補正係数Maf
_corrを演算する。
【0061】
本実施形態において、各筒内インジェクタ11の燃料噴射量は、NOx/ラムダセンサ45で検出される実ラムダ値λActと推定ラムダ値λEstとの誤差Δλに基づいて補正される。しかしながら、ラムダは空気と燃料の比であるため、誤差Δλの要因が必ずしも各筒内インジェクタ11に対する指示噴射量と実噴射量との差の影響のみとは限らない。すなわち、ラムダの誤差Δλには、各筒内インジェクタ11のみならずMAFセンサ40の誤差も影響している可能性がある。
【0062】
図10は、MAF補正係数演算部95によるMAF補正係数Maf
_corrの設定処理を示すブロック図である。補正係数設定マップ96は、エンジン回転数Ne及びアクセル開度Qに基づいて参照されるマップであって、これらエンジン回転数Neとアクセル開度Qとに対応したMAFセンサ40のセンサ特性を示すMAF補正係数Maf
_corrが予め実験等に基づいて設定されている。
【0063】
MAF補正係数演算部95は、エンジン回転数Ne及びアクセル開度Qを入力信号として補正係数設定マップ96からMAF補正係数Maf_corrを読み取ると共に、このMAF補正係数Maf_corrをMAF目標値演算部62及び噴射量目標値演算部66に送信する。これにより、NOxパージ制御時のMAF目標値MAFNPL_Trgtや目標噴射量QNPR_Trgtの設定に、MAFセンサ40のセンサ特性を効果的に反映することが可能になる。
【0064】
[その他]
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
10 エンジン
11 筒内インジェクタ
12 吸気通路
13 排気通路
16 吸気スロットルバルブ
24 EGRバルブ
31 酸化触媒
32 NOx吸蔵還元型触媒
33 フィルタ
34 排気インジェクタ
40 MAFセンサ
42 アクセル開度センサ
45 NOx/ラムダセンサ
47 車速センサ
50 ECU
60 NOxパージ制御部