(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】水系インクおよび画像形成方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20220208BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220208BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20220208BHJP
C09D 11/326 20140101ALI20220208BHJP
【FI】
C09D11/322
B41J2/01 501
B41M5/00 120
C09D11/326
(21)【出願番号】P 2017160122
(22)【出願日】2017-08-23
【審査請求日】2020-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100155620
【氏名又は名称】木曽 孝
(72)【発明者】
【氏名】石渡 拓己
(72)【発明者】
【氏名】石川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】三輪 英也
(72)【発明者】
【氏名】田口 禄人
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-227736(JP,A)
【文献】特開2012-101491(JP,A)
【文献】特開2018-039206(JP,A)
【文献】特開2017-210553(JP,A)
【文献】特開2008-255148(JP,A)
【文献】特開2010-042544(JP,A)
【文献】特開2013-216864(JP,A)
【文献】特開2015-028133(JP,A)
【文献】特開2013-225515(JP,A)
【文献】特開2015-193721(JP,A)
【文献】特開2006-008734(JP,A)
【文献】特開2011-190535(JP,A)
【文献】特開2018-103616(JP,A)
【文献】特開2018-090719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/322
C09D 11/326
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子、前記金属ナノ粒子に吸着可能な高分子分散剤、アニオン性樹脂エマルション、および沸点が150℃以上330℃以下の水溶性有機溶媒を含むインクジェット法により吐出可能な水系インクにおいて、
前記水溶性有機溶媒の含有量は、前記水系インクの全質量に対して20質量%以上50質量%以下であり、
前記水溶性有機溶媒は、前記水溶性有機溶媒の全質量に対して10質量%以上50質量%以下の量の多価アルコールを含
み、
前記アニオン性樹脂エマルションの含有量は、前記金属ナノ粒子および前記高分子分散剤の含有量の合計に対して、1.0質量%以上15質量%以下である、
水系インク。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子、前記高分子分散剤および前記アニオン性樹脂エマルションの含有量の合計は、前記水系インクの全質量に対して1.0質量%以上20質量%以下である、請求項1に記載の水系インク。
【請求項3】
前記アニオン性樹脂エマルションのゼータ電位は-100mV以上-5mV以下である、請求項1
または2に記載の水系インク。
【請求項4】
前記アニオン性樹脂エマルションのゼータ電位は-90mV以上-10mV以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の水系インク。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の水系インクの液滴をインクジェットヘッドのノズルから吐出して、基材に着弾させる工程を含む、画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系インクおよび画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラベル、パッケージ、公告印刷物および写真などの記録物に金属光沢を発現させる目的で、アルミニウム顔料およびパール顔料などが用いられている。これらの顔料は、インク組成物として、オフセット印刷、グラビア印刷およびスクリーン印刷などを含むアナログ印刷技術によって基材上に付与され、記録物中の金属光沢色を発する領域を形成する。
【0003】
近年は、金属光沢色を発する領域をより高精細にした記録物を作製するため、金、銀および銅などの金属を含むナノサイズの粒子(以下、単に「金属ナノ粒子」ともいう。)を基材表面に付与して、上記金属ナノ粒子を含む金属光沢層を基材上に形成する方法が開発されている。
【0004】
金属ナノ粒子を含有する水系インクは、インクジェットヘッドのノズル先端部における水系インクの乾燥による吐出安定性の低下を防止する湿潤剤(保湿剤)として、水溶性有機溶媒を含有する。上記水溶性有機溶媒としては、多価アルコールが用いられることがある。特許文献1には、水系インクが含有する水溶性有機溶媒の全質量に対して93質量%以上100質量%以下の多価アルコール(グリセリンまたはトリエチレングリコール)を含有する水系インクが具体的に記載されている。特許文献2には、系インクが含有する水溶性有機溶媒の全質量に対して82質量%以上92質量%以下の多価アルコール(プロピレングリコールまたは1,2-ヘキサンジオール)を含有する水系インクが具体的に記載されている。
【0005】
金属ナノ粒子を含有する水系インクは、形成される画像の耐擦過性などを高めるため、定着樹脂を含有してもよい。特許文献3には、このような樹脂として、金属ナノ粒子との相互作用による形成される画像の鏡面光沢性の低下を抑制するため、ノニオン性樹脂エマルションを用いることが記載されている。特許文献4には、このような樹脂は、基材への接着性を考慮して選択されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-193721号公報
【文献】特開2012-101491号公報
【文献】特開2013-203923号公報
【文献】特開2004-161852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金属ナノ粒子を含有するインクジェットインクにおいては、特許文献1および特許文献2などにも記載のように、保湿剤として多価アルコールを用いることがある。しかし、本発明者らの検討によると、特許文献3および特許文献4などに記載のように形成される画像の耐擦過性を高めるために樹脂を含有させた水系インクにおいて、さらに多価アルコールを含有させると、吐出安定性がかえって低下したり、形成される画像の光輝性(反射率)が低下したりすることがあった。一方で、水系インクに樹脂を含有させないと、形成される画像の耐擦過性および耐水性が十分には高まらなかった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、金属ナノ粒子、樹脂および多価アルコールを含有する水系インクにおいて、水系インクの吐出安定性、ならびに形成される画像の光輝性、耐擦過性および耐水性を高め得る水系インク、および当該水系インクを用いた画像形成方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は以下の手段により解決されるものである。
[1]金属ナノ粒子、前記金属ナノ粒子に吸着可能な高分子分散剤、アニオン性樹脂エマルション、および沸点が150℃以上330℃以下の水溶性有機溶媒を含むインクジェット法により吐出可能な水系インクにおいて、前記水溶性有機溶媒の含有量は、前記水系インクの全質量に対して20質量%以上50質量%以下であり、前記水溶性有機溶媒は、前記水溶性有機溶媒の全質量に対して10質量%以上50質量%以下の量の多価アルコールを含む、水系インク。
[2]前記金属ナノ粒子、前記高分子分散剤および前記アニオン性樹脂エマルションの含有量の合計は、前記水系インクの全質量に対して1.0質量%以上20質量%以下である、[1]に記載の水系インク。
[3]前記アニオン性樹脂エマルションの含有量は、前記金属ナノ粒子および前記高分子分散剤の含有量の合計に対して、1.0質量%以上15質量%以下である、[1]または[2]に記載の水系インク。
[4]前記アニオン性樹脂エマルションのゼータ電位は-100mV以上-5mV以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の水系インク。
[5]前記アニオン性樹脂エマルションのゼータ電位は-90mV以上-10mV以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の水系インク。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の水系インクの液滴をインクジェットヘッドのノズルから吐出して、基材に着弾させる工程を含む、画像形成方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、金属ナノ粒子、樹脂および多価アルコールを含有する水系インクにおいて、水系インクの吐出安定性、ならびに形成される画像の光輝性、耐擦過性および耐水性を高め得る水系インク、および当該水系インクを用いた画像形成方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を行い、金属ナノ粒子および樹脂を含有する水系インクが多価アルコールをさらに含有すると、多価アルコールが金属ナノ粒子の表面に吸着し、インク中の分散安定性を低下させることにより、吐出安定性および形成される画像の光輝性が低下することを見出した。
【0012】
上記現象の機構は定かでないが以下のような要因が考えられる。つまり、多価アルコールは、金属ナノ粒子の表面に吸着し、金属ナノ粒子の表面電荷同士の反発を小さくして金属ナノ粒子同士を凝集させやすくすると考えられる。
【0013】
また、多価アルコールは、分子内に有するひとつのヒドロキシ基で1つの金属ナノ粒子に吸着し、別のヒドロキシ基で別の金属ナノ粒子に吸着すると、当該多価アルコールを架橋点とする金属ナノ粒子の架橋構造を形成し得る可能性を潜在的に有することも要因として考えられる。
【0014】
多価アルコールは、これらの作用により、金属ナノ粒子同士を凝集させやすくして、インクジェットヘッドのノズルが凝集した金属ナノ粒子で詰まることによる吐出安定性(分散安定性)の低下や、形成された画像中での金属ナノ粒子の分布にかたよりが生じることによる光輝性の低下を、生じさせやすくすると考えられる。
【0015】
上記知見に基づき、本発明者らは、金属ナノ粒子および樹脂エマルションを含有する水系インクが含有する多価アルコールの量を、上記作用による吐出安定性(分散安定性)および光輝性の低下を抑制し得る程度に抑制することで、吐出安定性が十分に高く、かつ形成される画像の光輝性も高め得る水系インクとし得ることを見出し、さらに検討および研究を重ね、本発明を完成させた。
【0016】
1.水系インク
上記着想に基づく本発明の一態様は、金属ナノ粒子、前記金属ナノ粒子に吸着可能な高分子分散剤、アニオン性樹脂エマルション、および水溶性有機溶媒を含むインクジェット法により吐出可能な水系インクに関する。上記水溶性有機溶媒は、沸点が150℃以上330℃以下の水溶性有機溶媒を含む。上記水溶性有機溶媒の含有量は、上記水系インクの全質量に対して20質量%以上50質量%以下である。上記水溶性有機溶媒は、上記水溶性有機溶媒の全質量に対して10質量%以上50質量%以下の量の多価アルコールを含む。
【0017】
1-1.金属ナノ粒子
金属ナノ粒子は、ナノサイズの金属粒子である。
【0018】
金属ナノ粒子を形成する金属は、金属光沢層を形成したときに金属光沢を発現するものであればよい。
【0019】
上記金属の例には、金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、白金、アルミニウム、亜鉛、クロム、鉄、コバルト、モリブデン、ジルコニウム、ルテニウム、イリジウム、タンタル、水銀、インジウム、スズ、鉛、およびタングステンなどが含まれる。これらのうち、高い光沢を発現可能であり、かつ、安価であることから、金、銀、銅、ニッケル、コバルト、スズ、鉛、クロム、亜鉛およびアルミニウムが好ましく、金、銀、銅、スズ、クロム、鉛およびアルミニウムがより好ましく、金および銀がさらに好ましく、銀が特に好ましい。これらの金属は、1種を単独で、または2種類以上を合金または混合物として用いることができる。また、金属の種類または組成が異なる2種類以上の金属ナノ粒子を組み合わせて用いてもよい。金属ナノ粒子は、これらの金属を主成分とすればよく、不可避的に含まれる他の成分を微量に含んでいてもよいし、分散安定性を高めるためにクエン酸などで表面処理されていてもよい。また、これらの金属は、酸化物を含有してもよい。
【0020】
金属ナノ粒子の平均粒子径は特に限定されないが、金属光沢層を作製するための組成物中での分散安定性および保存安定性を高める観点からは、3nm以上100nm以下であることが好ましく、15nm以上50nm以下であることがより好ましい。金属ナノ粒子の平均粒子径は、動的光散乱法に基づく粒子径分布測定装置を使用して求めた体積平均粒子径とすることができる。
【0021】
水系インク中の上記金属ナノ粒子の含有量は特に限定されないが、水系インクの吐出安定性(分散安定性)および金属ナノ粒子の基材への密着性を十分に高める観点からは、水系インクの全質量に対して1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、2質量%以上18質量%以下であることがより好ましく、4質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
1-2.高分子分散剤
上記高分子分散剤は、上記金属ナノ粒子の表面に吸着可能な吸着基および親水性の構造を有する化合物である。
【0023】
上記高分子分散剤は、金属ナノ粒子の表面に吸着するための吸着基を有する。上記吸着基は、金属粒子の表面に対して強い吸着力を有する官能基であればよい。上記吸着基の例には、第1級~3級アミノ基、第4級アンモニウム基、塩基性窒素原子を有する複素環基、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、およびチオール基などが含まれる。高分子分散剤は、これらの吸着基を有することにより、金属ナノ粒子の保護コロイドとして十分な性能を発揮することができる。高分子分散剤は、酸価を有することが好ましい。酸価を有する高分子分散剤の例には、吸着基または官能基として、カルボキシル基、リン酸基、およびスルホン酸基などを有する高分子分散剤が含まれる。上記酸性基は、カルボキシル基またはリン酸基が好ましく、カルボキシル基がより好ましい。
【0024】
高分子分散剤を構成する樹脂は、親水性モノマーの単独重合体または共重合体が好ましい。親水性モノマーの共重合体は、親水性モノマーと疎水性モノマーとの共重合体であってもよい。
【0025】
親水性モノマーの例には、カルボキシル基または酸無水物基を含有するモノマー((メタ)アクリル酸、マレイン酸などの不飽和多価カルボン酸、ならびに無水マレイン酸など)、ならびにアルキレンオキサイド変性(メタ)アクリル酸エステルモノマー(エチレンオキサイド変性(メタ)アクリル酸アルキルエステルなど)などが含まれる。なお、本発明において、(メタ)アクリルとは、アクリルおよびメタクリルの双方またはいずれかを意味する。
【0026】
疎水性モノマーの例には、(メタ)アクリル酸メチルおよび(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、スチレン、α-メチルスチレンおよびビニルトルエンなどのスチレン系モノマー、エチレン、プロピレン、および1-ブテンなどのα-オレフィン系モノマー、ならびに、酢酸ビニルおよび酪酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル系モノマーなどが含まれる。
【0027】
高分子分散剤は、共重合体である場合、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体およびくし型共重合体などとすることができる。中でも、金属ナノ粒子の分散性をより高める観点からは、高分子分散剤は、くし型ブロック共重合体であることが好ましい。
【0028】
くし型ブロック共重合体とは、主鎖を形成する直鎖状のポリマーと、主鎖を構成するモノマー由来の構成単位に対してグラフト重合した別の種類のポリマーとを含むコポリマーを意味する。くし型ブロック共重合体の好ましい例には、主鎖が(メタ)アクリル酸エステル由来の構造単位を含み、かつ、側鎖がポリアルキレンオキサイド基(エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合基などを含む長鎖ポリアルキレンオキサイド基)を含む、くし型ブロック共重合体が含まれる。くし型ブロックコポリマーは、グラフト重合した側鎖が立体障害を生じるため、金属ナノ粒子同士の凝集をより高度に抑制しうる。それにより、金属ナノ粒子の分散性が高まるので、凝集した金属ナノ粒子による吐出不良をより抑制しやすい。
【0029】
また、上記高分子分散剤は、酸価が1mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることが好ましい。上記酸価が1mgKOH/g以上であると、高分子分散剤は親水性の傾向を有するため、水系インク中での金属ナノ粒子の分散性を高めることができ、水系インクの吐出安定性(分散安定性)もより高めることができる。一方で、上記酸価が100mgKOH/g以下であると、インクジェットヘッド中で上記高分子分散剤が膨潤することによる、インクジェットヘッドからの吐出安定性(分散安定性)の顕著な低下を抑制することもできる。上記観点からは、上記高分子分散剤の酸価は3mgKOH/g以上80mgKOH/g以下であることが好ましく、5mgKOH/g以上60mgKOH/g以下であることがより好ましく、7mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。
【0030】
高分子分散剤の酸価は、中和滴定法などの化学量論的手法を用いて分散剤の酸価をJIS K 0070に準じて測定すればよい。また、フーリエ変換赤外分光光法(FT-IR)、1H-NMRおよびガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC/MS)によって分散剤の種類を特定してもよい。
【0031】
上記高分子分散剤は、分子内にポリアルキレンオキサイド構造を有することが好ましく、上述した、側鎖にポリアルキレンオキサイド基を有するくし形ブロック共重合体であることがより好ましい。ポリアルキレンオキサイド構造は、立体障害により金属ナノ粒子の凝集性を適度に低下させる。これにより、水系インク(または水系インク中の金属ナノ粒子)は、基材上で適度に濡れ広がり、より平滑で光沢の高い画像を形成できると考えられる。
【0032】
上記ポリアルキレンオキサイド構造は、炭素数3以上6以下のポリアルキレンオキサイド構造(ポリエチレンオキサイド構造、ポリプロピレンオキサイド構造およびポリブチレンオキサイド構造)であることが好ましい。高分子分散剤は、ポリアルキレンオキサイド構造を1分子あたり3個以上80個以下有することが好ましい。
【0033】
高分子分散剤は、重量平均分子量が1000以上100000以下であることが好ましく、2000以上50000以下であることがより好ましい。
【0034】
市販の高分子分散剤の例には、DISPERBYK-102、DISPERBYK-187、DISPERBYK-190、DISPERBYK-191、DISPERBYK-194N、DISPERBYK-199、DISPERBYK-2015、およびDISPERBYK-2069(いずれもビックケミー社製、「DISPERBYK」は同社の登録商標)、EFKA 6220(BASF社製、「EFKA」は同社の登録商標)、ならびにソルスパース32000、ソルスパース44000、ソルスパース46000(ルーブリゾール社製)、フローレンTG-750W(共栄社化学社製)などが含まれる。
【0035】
水系インク中の上記高分子分散剤の含有量は特に限定されないが、水系インク中での金属ナノ粒子の分散性および基材への密着性を十分に高める観点からは、金属ナノ粒子の総質量に対して、1質量%以上15質量%以下であることが好ましく、2質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
1-3.アニオン性樹脂エマルション
アニオン性樹脂エマルションは、アニオン性樹脂の分散体である。アニオン性樹脂エマルションは、定着樹脂として作用して、金属ナノ粒子の基材への密着性を高め得る。
【0037】
アニオン性樹脂は、カチオン性樹脂とは異なり、金属ナノ粒子との相互作用が生じにくく、アニオン性樹脂を介在した金属ナノ粒子の凝集が生じにくい。そのため、定着樹脂としてアニオン性樹脂を用いると、金属ナノ粒子が凝集することによる水系インクの吐出安定性(分散安定性)の低下を抑制できる。
【0038】
また、アニオン性樹脂は、基材上でカチオン性の凝集剤と反応させて架橋させることで、成膜してなる塗膜の耐擦過性をより高めることができる。また、アニオン性樹脂は、金属ナノ粒子との間での凝集物をカチオン性樹脂よりも生成しにくいため、塗膜の密度をより高めて、塗膜の耐擦過性および耐水性をより高めることができる。
【0039】
また、アニオン性樹脂は、ノニオン性樹脂よりも静電反発が大きいため、ノニオン性樹脂を含む水系インクよりも、インク中での分散性が長期にわたり安定しやすい。
【0040】
また、エマルションを形成する樹脂は、水への溶解性が低い。そのため、定着樹脂としてアニオン性樹脂エマルションを用いると、形成される画像の耐水性も高めることができる。
【0041】
上記アニオン性樹脂は、高分子分散剤との親和性が高い樹脂であることが好ましく、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(例えばポリ塩化ビニル重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体)、エポキシ樹脂、ポリシロキサン樹脂、フッ素樹脂、スチレン共重合体(例えばスチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等)、および酢酸ビニル共重合体(例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体等)などから適宜選択して使用することができる。形成される画像の耐水性をより高める観点からは、上記アニオン性樹脂は、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ポリシロキサン樹脂、フッ素樹脂、スチレン共重合体、および酢酸ビニル共重合体などから選択されることが好ましく、ウレタン樹脂および(メタ)アクリル樹脂から選択されることが好ましい。
【0042】
上記水系溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)およびプロピレングリコールジメチルエーテル(DMPDG)等を含む有機溶媒と水との混合溶媒とすることができる。
【0043】
(メタ)アクリル樹脂は、高分子乳化剤(b3)を含む水溶液中で、モノマー(b1)を、水溶性開始剤(b2)を用いて重合させたものとすることができる。
【0044】
上記モノマー(b1)の例には、メチル(メタ)アクリレート、およびエチル(メタ)アクリレートなどを含む(メタ)アクリル酸アルキルエステル、メトキシブチル(メタ)アクリレートなどを含む(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、スチレンおよびα-メチルスチレンなどを含む芳香族ビニル化合物、ビニルトリエトキシシランなどを含む加水分解性シラン基含有ビニル化合物、ならびに、N-メチロールアクリルアミドなどを含む(メタ)アクリルアミド化合物などが含まれる。
【0045】
上記水溶性開始剤(b2)の例には、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、および過硫酸アンモニウム等が含まれる。
【0046】
上記高分子乳化剤(b3)は、水溶性樹脂であればよく、カルボキシル基含有ポリマーを用いることができる。上記カルボキシル基含有ポリマーは、カルボキシ基含有不飽和モノマーの単独重合体またはカルボキシ基含有不飽和モノマーと他のモノマーとの共重合体である。上記カルボキシ基含有不飽和モノマーの例には、(メタ)アクリル酸が含まれる。カルボキシ基含有不飽和モノマーと共重合可能なモノマーの例には、モノマー(b)と同様のものが含まれる。
【0047】
アニオン性樹脂エマルションの平均粒径は、10nm以上200nm以下であることが好ましく、30nm以上100nm以下であることがよりより好ましい。アニオン性樹脂エマルションの平均粒子径は、動的光散乱法に基づく粒子径分布測定装置を使用して求めた体積平均粒子径とすることができる。
【0048】
また、水系インク中のアニオン性樹脂エマルションの分散安定性をより高めて、水系インクの吐出安定性および保存安定性を高める観点からは、アニオン性樹脂エマルションのゼータ電位は-100mV以上-5mV以下であることが好ましく、-90mV以上-10mV以下であることがより好ましい。アニオン性樹脂エマルションのゼータ電位は、電気泳動光散乱法に基づくゼータ電位測定装置を使用して500個のアニオン性樹脂エマルションについて求めたゼータ電位の平均値とすることができる。アニオン性樹脂エマルションのゼータ電位は、アニオン性樹脂エマルションを調製する際の塩濃度、界面活性剤量および攪拌強度などを公知の方法により適宜変更して、所望の値に調製することができる。
【0049】
なお、水系インク中の全固形分量は、水系インクの全質量に対して1.0質量%以上20質量%以下であることが好ましい。上記固形分量が20質量%以下であると、水系インクの吐出安定性がより高まる。上記固形分量が1.0質量%以上であると、水系インク中に十分な量の金属ナノ粒子およびアニオン性樹脂エマルションが水系インクに含まれるため、形成される画像の光輝性、耐擦過性および耐水性がより高まる。上記観点から、全固形分量は、水系インクの全質量に対して3質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上13質量%以下であることがさらに好ましい。
【0050】
なお、水系インク中の全固形分量は、水系インク中の金属ナノ粒子、高分子分散剤およびアニオン性樹脂エマルション(固形分量)の含有量の合計とすることができる。
【0051】
水系インク中のアニオン性樹脂エマルションの固形分量は、金属ナノ粒子および高分子分散剤を合計した全質量に対して、1.0質量%以上15質量%以下であることが好ましい。上記固形分量が1.0質量%以上だと、形成される画像の耐擦過性および耐水性をより高めることができる。上記固形分量が15質量%以下だと、形成される画像の光輝性(反射率)をより高めることができる。上記観点から、水系インク中のアニオン性樹脂エマルションの固形分量は、金属ナノ粒子および高分子分散剤を合計した全質量に対して1.0質量%以上15質量%以下であることが好ましく、3質量%以上13質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上12質量%以下であることがさらに好ましい。
【0052】
1-4.水溶性有機溶媒
水溶性有機溶媒は、水系インクの保湿剤または粘度調整などに用いられている、沸点が150℃以上330℃以下である任意の水溶性有機溶媒とすることができる。
【0053】
上記水溶性有機溶媒の例には、多価アルコール、多価アルコール誘導体、アルコール、アミド、ケトン、ケトアルコール、エーテル、含窒素溶剤、含硫黄溶剤、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、および1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどが含まれる。
【0054】
前記多価アルコールの例には、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロプレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、および1,2,6-ヘキサントリオールなどが含まれる。
【0055】
前記多価アルコール誘導体の例には、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコール-n-プロピルエーテル、ジエチレングリコール-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコール-n-ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコール-n-プロピルエーテル、トリエチレングリコール-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール-n-プロピルエーテル、プロピレングリコール-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコール-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコール-n-プロピルエーテル、およびトリプロピレングリコール-n-ブチルエーテルなどが含まれる。
【0056】
前記アルコールの例には、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、およびベンジルアルコールなどが含まれる。
【0057】
上記アミドの例には、ジメチルホルムアミド、およびジメチルアセトアミドなどが含まれる。
【0058】
上記ケトンの例には、アセトンなどが含まれる。
【0059】
上記ケトアルコールの例には、ジアセトンアルコールなどが含まれる。
【0060】
上記エーテルの例には、テトラヒドロフラン、およびジオキサンなどが含まれる。
【0061】
上記窒素溶剤の例には、ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、およびトリエタノールアミンなどが含まれる。
【0062】
上記含硫黄溶剤の例には、チオジエタノール、チオジグリコール、チオジグリセロール、スルホラン、およびジメチルスルホキシドなどが含まれる。
【0063】
沸点が150℃以上330℃以下である水溶性有機溶媒は、インクジェットヘッドのノズルなどで揮発しにくく、インクの保湿性を高めて吐出安定性(保湿性)を高めることができる。
【0064】
水溶性有機溶媒の含有量は、水系インクの全質量に対して20質量%以上50質量%以下である。上記含有量が20質量%以上だと、多価アルコールの量が後述する範囲であったとしても、インクの吐出安定性(保湿性)を高めることができる。上記含有量が50質量%以下だと、比誘電率が水よりも低い水溶性有機溶媒によって金属ナノ粒子や高分子分散剤の表面電荷による静電反発が弱まることによる、分散安定性の低下を抑制し、水系インクの吐出安定性(分散安定性)および形成される画像の光輝性を高めることができる。上記観点から、水溶性有機溶媒の含有量は、水系インクの全質量に対して20質量%以上50質量%以下であることが好ましく、26質量%以上45質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい。
【0065】
水溶性有機溶媒は、多価アルコールを含む。多価アルコールは、特に保湿性能が高いため、水溶性有機溶媒の量を水系インクの全質量に対して50質量%以下としても、インクの吐出安定性(保湿性)をより高めることができる。
【0066】
多価アルコールの含有量は、水溶性有機溶媒の全質量に対して10質量%以上50質量%以下である。上記含有量が10質量%以上だと、水溶性有機溶媒の量が上述した範囲であったとしても、インクの吐出安定性(保湿性)を高めることができる。上記含有量が50質量%以下だと、多価アルコールが金属ナノ粒子の表面に吸着することによる、インクの吐出安定性(分散安定性)の低下および形成される画像の光輝性の低下を抑制することができる。上記観点から、多価アルコールの含有量は、水溶性有機溶媒の全質量に対して10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、25質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。
【0067】
一般的には、多価アルコールは水系インクの吐出安定性(保湿性)を向上させるために用いられる。これに対し、本実施形態では、特許文献1および特許文献2などの従来技術とは異なり、多価アルコールの量を低減してインクの吐出安定性(分散安定性)の低下および形成される画像の光輝性の低下を抑制し、一方で、水溶性有機溶媒の量を多めにしてインクの吐出安定性(保湿性)を維持している。
【0068】
1-5.その他
また、水系インクは、公知の界面活性剤(表面調整剤)、増粘剤、レベリング剤および防腐剤などを含んでいてもよい。
【0069】
界面活性剤の例には、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類および脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類およびポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類および第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤、ならびにシリコーン系やフッ素系の界面活性剤が含まれる。
【0070】
シリコーン系の界面活性剤の市販品の例には、KF-351A、KF-352A、KF-642およびX-22-4272、信越化学工業製、BYK307、BYK345、BYK347およびBYK348、ビッグケミー製(「BYK」は同社の登録商標)、ならびにTSF4452、東芝シリコーン社製が含まれる。
【0071】
界面活性剤、増粘剤、レベリング剤および防腐剤などの含有量は、たとえば、水系インクの全質量に対して、それぞれ0.001質量%以上1.0質量%未満とすることができる。
【0072】
ただし、金属光沢層の反射率をより高める観点からは、上系インクは、実質的に上記高分子分散剤が吸着した金属ナノ粒子、上記アニオン性樹脂のエマルションおよび溶媒、ならびに任意に必要量の界面活性剤からなることが好ましい。上記高分子分散剤が吸着した金属ナノ粒子、上記アニオン性樹脂のエマルションおよび溶媒の含有量の合計は、水系インクの全質量に対して90質量%以上100質量%以下であることが好ましく、95質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
【0073】
1-6.物性
インクジェットヘッドのノズルからの吐出安定性をより高める観点からは、上記水系インクの粘度は1cP以上100cP未満であることが好ましく、1cP以上50cP以下であることがより好ましく、1cP以上15cP以下であることがさらに好ましい。
【0074】
インクジェットヘッドのノズルからの吐出安定性を高める観点からは、上記水系インクの表面張力は20mN/m以上50mN/m以下であることが好ましい。基材に対する濡れ性を高めて、形成される画像をより高精細にする観点からは、上記水系インクの表面張力は20mN/m以上35mN/m以下であることがより好ましい。上記水系インクの表面張力は、上記有機溶媒または界面活性剤の種類または量を変更することで、上記範囲に調整することができる。
【0075】
2.画像形成方法
上記着想に基づく本発明の別の態様は、上記水系インクを用いた画像形成方法に関する。
【0076】
2-1.水系インクの付与
上記水系インクを用いる画像形成方法は、上記水系インクの液滴をインクジェットヘッドのノズルから吐出して、基材に着弾させる工程を含む。
【0077】
インクジェットヘッドからの吐出方式は、オンデマンド方式およびコンティニュアス方式のいずれでもよい。オンデマンド方式のインクジェットヘッドは、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型およびシェアードウォール型等の電気-機械変換方式、ならびにサーマルインクジェット型およびバブルジェット(バブルジェットはキヤノン社の登録商標)型等の電気-熱変換方式等のいずれでもよい。
【0078】
これらのうち、使用できるインクの種類をより多くし、かつ、画質をより精細にする観点からは、インクジェットヘッドは、30μm以下のノズル径を有するピエゾ型インクジェットヘッドであることが好ましい。
【0079】
高速で画像の記録を行う観点から、インクジェット記録方式は、ワンパス型であることが好ましい。ワンパス型のインクジェット記録方式とは、基材が一つのインクジェットヘッドユニットの下を通過した際に、一度の通過でドットの形成されるべきすべての画素に水系インクの液滴を吐出して着弾させる方式を意味する。
【0080】
ワンパス型のインクジェット記録方式で画像を記録する観点からは、インクジェットヘッドはラインヘッド型であることが好ましい。ラインヘッド型のインクジェットヘッドとは、基材の搬送方向と直交する方向に、印刷範囲の幅以上の長さを持つインクジェットヘッドを意味する。ラインヘッド型のインクジェットヘッドは、上記印刷範囲の幅以上の長さを有する一つのヘッドからなるものでもよいし、複数のヘッドを組み合わせて上記印刷範囲の幅以上の長さとなるよう構成されたものでもよい。形成される画像をより高精細にする観点からは、上記複数のヘッドは、基材の搬送方向とは直交する方向に複数の列を形成して、それぞれの列のヘッドは、基材に対するノズルの出射位置が異なるように配置されることが好ましい。
【0081】
2-2.前処理液の付与
水系インクは、基材のうち、前処理液が付与された領域に着弾させてもよい。このとき、基材に付与したときにカチオン性の前処理層を形成し得る液体組成物を上記前処理液として用いることで、着弾した水系インク中のアニオン性樹脂組成物を架橋および凝集させ、形成された画像の耐擦過性をより高めることができる。
【0082】
たとえば、上記前処理液は、カチオン性樹脂、カチオン性界面活性剤、多価金属塩または有機酸(以下、これらをまとめて「凝集剤」ともいう。)を含有する液体組成物であればよい。上記カチオン性樹脂、カチオン性界面活性剤および多価金属塩は、塩析によって上記水系インク中のアニオン性の成分(アニオン性樹脂のエマルションなど)を凝集させることができる。上記有機酸は、pH変動によって上記水系インク中のアニオン性の成分を凝集させることができる。
【0083】
上記カチオン性樹脂の例には、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、およびポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドなどが含まれる。
【0084】
上記多価金属塩の例には、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、および亜鉛塩などの水溶性の塩が含まれる。
【0085】
上記有機酸の例には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、シュウ酸、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、安息香酸、2-ピロリドン-5-カルボン酸、乳酸、アクリル酸およびその誘導体、メタクリル酸およびその誘導体、ならびにアクリルアミドおよびその誘導体などを含むカルボキシル基を有する化合物、スルホン酸誘導体、ならびに、リン酸およびその誘導体などが含まれる。
【0086】
低分子量であり水系インクに拡散しやすく、水系インクをより高速に凝集させ得ることから、凝集剤は、多価金属塩または酸であることが好ましい。さらには、安全性がより高く、かつ架橋樹脂との相溶性が高いことから、凝集剤は、酸であることがより好ましい。
【0087】
基材に付与される凝集剤の含有量(付量)の範囲は限定されず、水系インクの組成、水系インクの付量、顔料凝集剤の種類などに応じて適宜設定することができる。たとえば、形成される画像の質量に対し、凝集剤の質量が3質量%以上50質量%以下となることが好ましい。
【0088】
なお、酸を用いる場合、酸の付量は、水系インクに含まれるアニオン成分の中和当量以下に処理液のpHを調整する量であることが好ましい。また、上記アニオン成分がカルボキシル基を有する化合物である場合、画像の滲みをより生じにくくする観点からは、上記酸の第一解離定数は3.5以下であることが好ましい。
【0089】
前処理液は、樹脂を含んでいてもよい。当該樹脂は、形成される画像の耐擦過性を高めることができる。
【0090】
上記樹脂は、定着樹脂として用いられる樹脂とすることができ、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(例えばポリ塩化ビニル重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体)、および酢酸ビニル共重合体(例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体等)などから適宜選択して使用することができる。水系インクを凝集しやすくする観点からは、上記樹脂は、カチオン性樹脂またはノニオン性樹脂であることが好ましく、カチオン性樹脂であることがより好ましい。なお、ポリオレフィン樹脂にはハロゲン原子(塩素など)およびカルボキシル基などの極性基が導入されていてもよい。
【0091】
上記樹脂は、たとえば画像の耐水性をより高めたいときはポリウレタン樹脂とすることができ、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどの疎水的な基材に対する画像の密着性をより高めたいときはポリオレフィン系樹脂とすることができる。
【0092】
上記樹脂がエマルションであるとき、樹脂微粒子の平均粒子径は、10nm以上10μm以下であることが好ましく、10nm以上1μm以下であることがより好ましく、10nm以上500nm以下であることがさらに好ましく、10nm以上300nm以下であることがさらに好ましく、10nm以上200nm以下であることがさらに好ましい。平均粒子径の測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができるが、動的光散乱法による測定が簡便で、且つ該粒子径領域を精度よく測定できる。
【0093】
前処理液中の上記樹脂の含有量は、前処理液の全質量に対して5質量%以上40質量%以下であることが好ましく、10質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。
【0094】
前処理液の溶媒は、水であることが好ましいが、付与方法などに応じて、水系インクについて上述した水溶性有機溶媒を任意に含んでいてもよい。
【0095】
前処理液の付与方法は特に限定されず、ロールコーターやスピンコーターなどを用いて前処理液を基材の表面に塗布してもよいし、スプレー塗布、浸漬法、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷などの方法で前処理液を基材の表面に付与してもよいし、インクジェット法で前処理液を基材の表面に着弾させてもよい。これらのうち、より精細な記録物を形成する観点からは、インクジェット法が好ましい。
【0096】
前処理液の付量は特に限定されず、適宜調整することができる。たとえば、凝集剤が多価金属塩である場合は、多価金属塩の付量が0.1g/m2以上、20g/m2以下となることが好ましい。また、凝集剤が酸である場合は、酸の付量が水系インク中のアニオン成分の中和当量以下となることが好ましい。
【0097】
凝集剤の付量は、公知の方法で測定することができる。例えば、顔料凝集剤が多価金属塩であるときはICP発光分析で、顔料凝集剤が酸であるときは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で含有量を測定することができる。
【0098】
前処理液または水系インクの付与後には、基材を乾燥させてもよい。乾燥は、赤外線ランプ乾燥、熱風乾燥、バックヒート乾燥、および減圧乾燥などの公知の方法で行うことができる。乾燥の効率をより高める観点からは、これらの乾燥方法のうち2種以上を組み合わせて基材を乾燥させることが好ましい。
【0099】
乾燥は、前処理液の付与後および水系インクの付与後の双方に行ってもよいが、前処理液によって水系インクをより十分に凝集させる観点からは、前処理液の付与後には乾燥を行わず、または不十分(水分が残存する程度)に乾燥させ、水系インクを付与した後に完全に乾燥させることが好ましい。
【0100】
2-3.基材
基材は特に限定されず、吸水性の高い紙基材でもよいし、グラビアまたはオフセット印刷用のコート紙など吸水性の低い基材でもよいし、フィルム、プラスチックボード(軟質塩化ビニル、硬質塩化ビニル、アクリル板、ポリオレフィン系など)、ガラス、タイルおよびゴムなどの非吸水性の基材であってもよい。これらのうち、吸水性の低い基材および非吸水性の基材、特に好ましくはフィルム、は水系インクを用いての画像形成が難しいが、このような基材において、本発明は、水系インクを十分にピニングさせて、液よりなどの少ない画像を形成できる。
【0101】
上記フィルムの例には、公知のプラスチックフィルムが含まれる。上記プラスチックフィルムの具体例には、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルム、高密度ポリエチレンフィルムおよび低密度ポリエチレンフィルムなどを含むポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ナイロンなどのポリアミド系フィルム、ポリスチレンフィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)フィルム、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルム、ポリビニルアルコール(PVA)フィルム、ポリアクリル酸(PAA)フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、およびポリ乳酸フィルムなどの生分解性フィルムなどが含まれる。ガスバリヤー性、防湿性、および保香性などを付与するために、フィルムの片面または両面にポリ塩化ビニリデンがコートされていてもよいし、金属酸化物が蒸着されていてもよい。また、フィルムには防曇加工が施されていてもよい。また、フィルムにはコロナ放電およびオゾン処理などが施されていてもよい。
【0102】
上記フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよい。
【0103】
上記フィルムは、紙などの吸収性の基材の表面にPVAコートなどの層を設けて、記録をすべき領域を非吸収性とした、多層性の基材でもよい。
【0104】
上記フィルムの厚みは、0.25mm未満であることが好ましい。
【実施例】
【0105】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0106】
1.材料
1-1.溶剤
溶剤は、以下のものを使用した。
H2O: 水
TEGMME: トリエチレングリコールモノメチルエーテル (沸点:248℃)
EGMME: エチレングリコールモノメチルエーテル (沸点:124℃)
EGMMEAc: エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート (沸点:152℃)
tEGMBE: テトラエチレングリコールモノブチルエーテル (沸点:304℃)
(以下、多価アルコール)
Gly: グリセリン
EG: エチレングリコール
PG: プロピレングリコール
【0107】
1-2.金属ナノ粒子分散液
<銀ナノ粒子分散液1>
平板状の撹拌翼と邪魔板を有する1Lのセパラブルフラスコに、分散剤としての7.2gのDISPERBYK-190(ビックケミー社製、酸価10mgKOH/g)、および252gのイオン交換水を投入し、撹拌を行ってDISPERBYK-190を溶解させた。続いて、上記セパラブルフラスコに、252gのイオン交換水に溶解させた、62gの硝酸銀(東洋化学工業社製)を攪拌しながら投入した。その後、上記セパラブルフラスコをウォーターバスに入れ、溶液の温度が70℃に安定するまで加熱撹拌した。その後、シリンジポンプを使用して、157gの還元剤としてのジメチルアミノエタノール(和光純薬社製)を48分掛けてセパラブルフラスコに滴下し、更に70℃に保ちながら1時間攪拌を続け、銀ナノ粒子を含む反応液を得た。
【0108】
得られた反応液をステンレスカップに入れて、さらに2Lのイオン交換水を加えてから、ポンプを稼働して限外濾過を行った。ステンレスカップ内の溶液が減少した後、再びイオン交換水を入れて、ろ液の伝導度が100μS/cmになるまで精製を繰り返し行った。その後、ろ液を濃縮して、固形分30wt%の銀ナノ粒子分散液1を得た。
【0109】
なお、限外濾過装置は、限外濾過モジュールAHP1010(旭化成株式会社製、分画分子量:50000、使用膜本数:400本)、チューブポンプ(Masterflex社製)をタイゴンチューブでつないだものを使用した。動的光散乱法に基づく粒子径分布測定装置を使用して、得られた銀ナノ粒子分散液1における銀ナノ粒子の平均粒子径を測定したところ、55nmであった。
【0110】
1-3.樹脂エマルション
樹脂エマルションは、以下のものを使用した。
<アニオン性樹脂エマルション1>
(ポリエステルグリコール1の合成)
脱水装置を備えたフラスコ中に酸成分としての10gのテレフタル酸、190gのイソフタル酸および170gのアジピン酸と、グリコール成分としての32gのエチレングリコールおよび510gのネオペンチルグリコールと、を仕込み、反応触媒として0.2gのテトライソプロピルチタネートを添加した後、酸価が1.0以下となり、水分量が0.05%以下となるまで220℃で縮合反応を行い、ポリエステルグリコール1を得た。
【0111】
(アニオン性樹脂エマルション1の調製)
攪拌機、還流冷却管、温度計および窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに488gのポリエステルグリコール1、13gのトリメチロールプロパン、88gのジメチロールプロピオン酸、252gのイソホロンジイソシアネート、および670gのメチルエチルケトンを加え、75℃ で4時間反応させ、ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を40℃まで冷却し、40gのトリエチルアミンを加えて中和した後、1850gのイオン交換水を徐々に加えながらホモジナイザーを使用して乳化分散させ、さらに1時間攪拌した。その後、減圧、50℃の環境下で、脱溶剤を行い、さらにイオン交換水を加えて、固形分が約20%のポリウレタンからなるアニオン性樹脂のエマルション1を得た。動的光散乱法に基づく粒子径分布測定装置を使用して、エマルション1の樹脂粒子の平均粒子径を測定したところ、40nmであった。ゼータ電位測定装置(大塚電子株式会社製、ELSZ1000)を使用してエマルション1の樹脂粒子の電気泳動光散乱法に基づくゼータ電位を測定したところ、-25mVであった。
【0112】
<アニオン性樹脂エマルション2>
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、および温度計を備えた反応容器に、990gのイオン交換水および4.4gのラウリル硫酸ナトリウムを仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として2.2gの過硫酸カリウムを添加し、溶解後、予め500gのイオン交換水に、3.3gのラウリル硫酸ナトリウム、22gのアクリルアミド、480gのスチレン、520gのブチルアクリレート、33gのメタクリル酸を攪拌下で加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で3時間の熟成を行った。得られた樹脂粒子のエマルションを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニア水とを添加して固形分20%の樹脂粒子エマルション2を得た。動的光散乱法に基づく粒子径分布測定装置を使用して、エマルション2の樹脂粒子の平均粒子径を測定したところ、70nmであった。ゼータ電位測定装置(大塚電子株式会社製、ELSZ1000)を使用してエマルション2の樹脂粒子の電気泳動光散乱法に基づくゼータ電位を測定したところ、―5.5mVであった。
【0113】
<アニオン性樹脂エマルション3>
攪拌機および保温ジャケットを備えた重合器に、1000gのイオン交換水を添加し、窒素を導入しながら激しく攪拌した。次いで、器内の空気を窒素に完全に置換した後、溶液温度を60℃に昇温し、重合開始剤として0.1gの過硫酸アンモニウム、塩としての5gのNa2CO3、界面活性剤としての0.1gのスルホ琥珀酸ジ(2-エチルヘキシル)ナトリウム塩を加えた。次いで、モノマーとして、50gのn-ブチルアクリレート、50gのメチルメタクリレート、および2gのアクリル酸を滴下し、終了後に3gのアクリル酸をさらに加えた。その後、2時間攪拌を行った後に重合を終了し、中和、遠心分離および限外濾過を行って、残存している界面活性剤等を除いて、アニオン性樹脂エマルション3を調製した。動的光散乱法に基づく粒子径分布測定装置を使用して、エマルション3の樹脂粒子の平均粒子径を測定したところ、60nmであった。ゼータ電位測定装置(大塚電子株式会社製、ELSZ1000)を使用してエマルション3の樹脂粒子の電気泳動光散乱法に基づくゼータ電位を測定したところ、―38mVであった。
【0114】
<アニオン性樹脂エマルション4>
モノマーとして50gのn-ブチルアクリレート、50gのメチルメタクリレート、2gのアクリル酸および5gのスチレンスルホン酸ナトリウムを用いた以外はアニオン性樹脂エマルション3の調製と同様にして、塩および界面活性剤の量ならびに撹拌速度などを適宜調整して、アニオン性樹脂エマルション4を調整した。動的光散乱法に基づく粒子径分布測定装置を使用して、エマルション4の樹脂粒子の平均粒子径を測定したところ、60nmであった。ゼータ電位測定装置(大塚電子株式会社製、ELSZ1000)を使用してエマルション4の樹脂粒子の電気泳動光散乱法に基づくゼータ電位を測定したところ、―53mVであった。
【0115】
<アニオン性樹脂エマルション5>
モノマーとして50gのn-ブチルアクリレート、50gのメチルメタクリレート、2gのアクリル酸および5gのアクアロンHS-10(第1工業製薬社製)を用いた以外はアニオン性樹脂エマルション3の調製と同様にして、塩および界面活性剤の量ならびに撹拌速度などを適宜調整して、アニオン性樹脂エマルション5を調整した。動的光散乱法に基づく粒子径分布測定装置を使用して、エマルション5の樹脂粒子の平均粒子径を測定したところ、60nmであった。ゼータ電位測定装置(大塚電子株式会社製、ELSZ1000)を使用してエマルション5の樹脂粒子の電気泳動光散乱法に基づくゼータ電位を測定したところ、―68mVであった。
【0116】
<カチオン性樹脂エマルション>
オーバーヘッドスターラー、熱電対、コンデンサーならびにモノマーおよび開始剤の添加用入口を備えた1リットルの丸底フラスコに、230gの脱イオン水、5.0gの50%Cavasol W7 M TL(ワッカー ケミー社、「Cavasol」は同社の登録商標)、0.83gの0.15%硫酸鉄溶液、および20gの50%[3-(メタクリロールアミノ)プロピル]-トリメチルアンモニウムクロリド溶液を添加し、撹拌を開始した。フラスコを82℃に加熱した後、85gの脱イオン水、および界面活性剤としての9.4gの70%Tergitol 15-S-40(ユニオン・カーバイド社、「Tergitol」は同社の登録商標)を適切な容器に添加してモノマーエマルションを調製し、撹拌した。界面活性剤が水中に溶解した後、30gのスチレンを撹拌混合物にゆっくりと添加した。その後、100gのメタクリル酸メチル(MMA)および70gのアクリル酸2-エチルヘキシルを混合物に添加した。ラジカル重合開始剤としての1.1gのVazo 56および50gの脱イオン水を添加することにより触媒溶液も調製した。
【0117】
82℃の反応温度で、27gのモノマーエマルションを10gの脱イオン水ですすいで釜に入れ、続いて5gの50%Cavasol W7 M TLを5gの水ですすいで入れ、続いて0.25gのVazo 56および10gの水の開始剤溶液を添加した。温度を77℃以上に保持して、20分間反応させた。その後、温度を82℃に上昇させつつ、3.4g/分の速度で90分間モノマーエマルションを供給し、同時に、0.46g/分の速度で110分間触媒を供給した。モノマーエマルションの供給終了時に、8.0gの脱イオン水をすすぎ水として添加した。触媒の供給終了時に、2.0gのすすぎ水を添加した。その後、82℃で30分間保持してさらに反応させた。保持中に、界面活性剤としての2gのTergitol 15-S-40および10gの水を混合し、0.1gのVazo 56および10gの水に添加して混合物を得た。30分の保持が完了した後、上記混合物を釜に1.1g/分の速度で20分間添加した。このとき、1.0gのMMAもさらに釜に添加した。混合物の添加が終了した後、30分間保持してさらに反応させた。その後、反応液を室温に冷却し、100メッシュバッグおよび325メッシュバッグをこの順に通して濾過した後、脱イオン水で二倍希釈して、固形分が20%のカチオン性樹脂エマルションを得た。
【0118】
1-4.添加剤
添加剤は、以下のものを使用した。
PVA: 関東化学社製ポリビニルアルコール2000 (増粘剤)
メガファック: DIC株式会社製、メガファック F410(レベリング剤)
プロキセル: アーチ ケミカル社製、プロキセルGXL (防腐剤)
【0119】
2.水系インクの調製
表1~表3に記載の組成(各成分の単位は質量%)に従い、上記各成分を混合した後、ADVATEC社製テフロン(「テフロン」はデュポン社の登録商標)3μmメンブランフィルターで濾過し、水系インク1~水系インク30を調製した。なお、表1~表3の「金属ナノ粒子」および各種樹脂の欄に記載の数値は、固形分換算した値を示す。また、「水溶性有機溶媒の含有量」に記載の数値は水系インクの全質量に対する水溶性有機溶媒の量(単位:質量%)を、「水溶性有機溶媒の沸点」に記載の数値は水溶性有機溶媒の沸点(単位:℃)を、「多価アルコールの割合」に記載の数値は水溶性有機溶媒の全質量に対する多価アルコールの量(単位:質量%)を、「固形分濃度」に記載の数値は水系インクの全質量に対する固形分(金属ナノ粒子、高分子分散剤および樹脂エマルション)の量(単位:質量%)を、「PB比」に記載の数値は金属ナノ粒子および高分子分散剤の含有量の合計に対する樹脂エマルションの量(単位:質量%)を、それぞれ示す。
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
3.画像の形成
3-1.基材
水系インク1~水系インク30を用いて、以下の基材に画像を形成した。
PET:ラミーコーポレーション、WPG2-24
コート紙:ラミーコーポレーション、WRG3-36
【0124】
3-2.画像の形成条件
ピエゾ型インクジェットノズルを有するインクジェット画像形成装置を用いて、上記それぞれの基材に画像を形成した。
【0125】
上記インクジェット記録装置は、インクタンク、インク供給配管、インクジェットヘッド直前のインク供給タンク、フィルター、およびピエゾ型のインクジェットヘッドを、インクが流通する上流側から下流側に向けて、この順で有していた。
【0126】
上記インクジェットヘッドは、液滴量14pl、印字速度0.5m/sec、射出周波数10.5kHz、印字率100%となる条件で駆動して、水系インク1~水系インク30のいずれかの液滴を処理剤上に吐出して着弾させ、80℃で5分ほど乾燥することで、画像1~画像30を作製した。
【0127】
4.評価
以下の基準で、画像1~画像30を評価した。
【0128】
4-1.光輝性
日立ハイテクノロジーズ社製の分光光度計(U-4100)を用いて画像1~画像38の反射率を380nm~780nmの範囲で測定し、550nmにおける反射率をもとに、以下の基準で画像1~画像38の光輝性を評価した。
◎:反射率は45%以上である
〇:反射率は35%以上45%未満である
△:反射率は25%以上35%未満である
×:反射率は25%未満である
【0129】
4-2.耐擦過性
記録後、記録物を常温で1日放置した。その後、JIS K5701(ISO 11628)に準じて、学振型摩擦堅牢試験機AB-301(テスター産業社製)を用いて、荷重450g,摩擦回数90回の条件で、摩擦用白綿布(カナキン3号)を取り付けた摩擦子とパターン部分とを擦り合わせた。擦り合わせ後の画像(パターン)の表面状態を目視にて観察し、下記評価基準により耐擦過性を評価した。
(評価基準)
◎:画像の表面に全く傷が付いていなかった。
〇 :画像の表面に1~4箇所の傷が付いていた。
△ :画像の表面に5~10箇所の傷が付いていた。
× :画像の表面の11箇所以上に傷が付いていた。
【0130】
4-3.耐水性
上記インクジェット画像形成装置のインク供給タンクに水系インク1~水系インク30を充填して、常温で、液滴量42pl、印字速度0.5m/sec、射出周波数10.5kHz、印字率100%となる条件で画像を形成した。得られた塗膜を水中に24時間浸漬し、反射率(550nm)の低下を評価した。
◎:反射率低下が5%以内である
〇:反射率低下が5%以上15%未満である
△:反射率低下が15%以上20%未満である
×:反射率低下が25%以上である
【0131】
4-4.吐出安定性
上記インクジェット画像形成装置のインク供給タンクに水系インク1~水系インク30を充填して、常温で、液滴量42pl、印字速度0.5m/sec、射出周波数10.5kHz、印字率100%となる条件で、インク組成物の液滴を8時間連続して吐出して基材に着弾させた。
8時間の連続吐出中、基材にドット抜け、飛行曲がりおよびインクの飛散が発生した回数を目視で観察し、その合計回数をもとに、以下の基準でインク組成物の吐出安定性を評価した。
◎ ドット抜け、飛行曲がりおよびインクの飛散の回数は10回未満だった
○ ドット抜け、飛行曲がりおよびインクの飛散の回数は10回以上15回未満だった
△ ドット抜け、飛行曲がりおよびインクの飛散の回数は15回以上20回未満だった
× ドット抜け、飛行曲がりおよびインクの飛散の回数は20回以上だった
【0132】
評価の結果を表4に示す。なお、PETおよびコート紙のいずれに画像を形成しても、同様の評価となった。
【0133】
【0134】
金属ナノ粒子、前記金属ナノ粒子に吸着可能な高分子分散剤、アニオン性樹脂エマルション、および沸点が150℃以上330℃以下の水溶性有機溶媒を含み、水溶性有機溶媒の含有量が水系インクの全質量に対して20質量%以上50質量%以下であり、水溶性有機溶媒が水溶性有機溶媒の全質量に対して20質量%以上50質量%以下の量の多価アルコールを含む水系インク1~水系インク21は、吐出安定性が高く、これらの水系インクを用いて形成した画像1~画像21は、光輝性、耐擦過性および耐水性も高かった。
【0135】
特に、固形分量が水系インクの全質量に対して1.0質量%以上20質量%以下である水系インク11~水系インク21は、形成される画像11~画像21の耐擦過性および耐水性を高めつつ、吐出安定性をより高めることができた。
【0136】
また、アニオン性樹脂エマルションの含有量が、金属ナノ粒子および高分子分散剤の含有量の合計に対して、1.0質量%以上15質量%以下である水系インク15~水系インク21は、形成される画像15~画像21の耐擦過性および耐水性、ならびに吐出安定性を高めつつ、形成される画像の光輝性をより高めることができた。
【0137】
一方で、金属ナノ粒子を含まない水系インク22を用いて形成した画像22は、光輝性がより低かった。
【0138】
また、アニオン性樹脂エマルションを含有しない水系インク23を用いて形成した画像23、およびアニオン性樹脂エマルションの代わりにカチオン性樹脂エマルションを含有する水系インク24を用いて形成した画像24は、耐擦過性および耐水性がより低かった。
【0139】
また、水溶性有機溶媒を含まない水系インク25、沸点が150℃以下の水溶性有機溶媒を含有する水系インク26、および水溶性有機溶媒の含有量が水系インクの全質量に対して20質量%未満である水系インク27は、吐出安定性が低く、インクジェットヘッドのノズルの詰まりが発生しやすかった。
【0140】
また、水溶性有機溶媒の含有量が水系インクの全質量に対して50質量%より多い水系インク28は、吐出安定性が低くてインクジェットヘッドのノズルの詰まりが発生しやすく、かつ、形成された画像の光輝性も低かった。これは、水溶性有機溶媒によって金属ナノ粒子や高分子分散剤の表面電荷による静電反発が弱まり、水系インクの分散安定性が低下したためと考えられる。
【0141】
また、多価アルコールの含有量が水溶性有機溶媒の全質量に対して10質量%未満である水系インク29は、吐出安定性が低く、インクジェットヘッドのノズルの詰まりが発生しやすかった。
【0142】
また、多価アルコールの含有量が水溶性有機溶媒の全質量に対して50質量%より多い水系インク30は、吐出安定性が低くてインクジェットヘッドのノズルの詰まりが発生しやすく、かつ、形成された画像の光輝性も低かった。これは、多価アルコールによって金属ナノ粒子の凝集が生じ、水系インクの分散安定性が低下したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の水系インクは、吐出安定性に優れ、かつ、光輝性、耐擦過性および耐水性に優れた画像を形成することができる。そのため、本発明は、光輝性を有する記録物の適用の幅を広げ、同分野の技術の進展および普及に貢献することが期待される。