(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】超音波信号処理装置、超音波診断装置、超音波信号処理方法、および、超音波画像表示方法
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20220208BHJP
【FI】
A61B8/14 ZDM
(21)【出願番号】P 2017202107
(22)【出願日】2017-10-18
【審査請求日】2020-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】津島 峰生
【審査官】伊知地 和之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-185212(JP,A)
【文献】特開昭58-165827(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0278742(US,A1)
【文献】国際公開第2015/025655(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0174938(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0144170(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0004687(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブに列設された複数の振動子を選択的に駆動して被検体に超音波送信する送信イベントを複数回繰り返すとともに、各送信イベントに同期して被検体から反射超音波を受波し、受波した反射超音波に基づいて生成される複数のサブフレーム音響線信号からフレーム音響線信号を合成する超音波信号処理装置であって、
1回の送信イベントにおいて前記複数の振動子から送信振動子列を選択し、前記送信振動子列から超音波が被検体中で集束するように送信し、各送信イベントに同期して、超音波を送信する送信振動子列が列方向に順次移動するよう選択する送信部と、
各送信イベントに同期して前記複数の振動子から受信振動子列を選択し、前記受信振動子列が被検体内から受波した反射超音波に基づいて、前記受信振動子列の振動子各々に対する受信信号列を生成する受信部と、
対応するフレーム音響線信号が形成されるべき被検体内の領域として画像化主領域と、前記画像化主領域に対して列方向に隣接する追加領域とを設定する画像化領域設定部と、
前記送信イベントごとに、各観測点から得られた反射超音波に基づく前記受信信号列を整相加算して前記サブフレーム音響線信号を生成する整相加算部と、
前記整相加算部が生成した前記複数のサブフレーム音響線信号に基づき、前記フレーム音響線信号を合成する合成部と
を備え、
前記整相加算部は、前記被検体内で超音波が集束するエリアに含まれる領域を含む主対象領域と、前記主対象領域に列方向に隣接する領域の一部または全部が前記追加領域内に存在する場合に
、前記主対象領域に列方向に隣接する領域のうち前記追加領域内
に存在する部分である副対象領域とを、前記観測点を含む領域として設定し、前記画像化主領域内かつ前記主対象領域内の観測点と前記副対象領域に含まれる観測点との間で、送信された超音波が観測点に到達する送信時間の算出方法を異ならせる
ことを特徴とする超音波信号処理装置。
【請求項2】
前記整相加算部は、前
記主対象領域に含まれる観測点について、前記観測点の深さが前記フォーカス深さより深い位置の場合は、送信された超音波が前記主対象領域内であって前記フォーカス深さにある基準点に到達するまでの第1時間に、超音波が前記基準点から前記観測点に到達するまでの第2時間を加算して算出した到達時間を、前記観測点の深さが前記フォーカス深さ未満の場合は、前記第1時間から前記第2時間を減算して算出した到達時間を、前記観測点についての前記送信時間とする
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波信号処理装置。
【請求項3】
前記整相加算部は、前記副対象領域に含まれる観測点について、送信された超音波が前記フォーカス点に最近接する前記送信振動子列上の点から前記観測点に到達するまでの時間を、前記観測点についての前記送信時間とする
ことを特徴とする請求項1または2に記載の超音波信号処理装置。
【請求項4】
前記整相加算部は、前記副対象領域に含まれる観測点について、送信された超音波が前記フォーカス点に最近接する前記送信振動子列上の点から前記観測点に到達するまでの時間をT
1とし、前記観測点の深さが前記フォーカス深さより深い位置の場合は、送信された超音波が前記主対象領域に含まれ前記フォーカス深さにある基準点に到達するまでの第3時間に、超音波が前記基準点から前記観測点に到達するまでの第4時間を加算して算出した時間、前記観測点の深さが前記フォーカス深さ未満の場合は、前記第3時間から前記第4時間を減算して算出した時間をT
2としたとき、前記送信時間T
Mを、数式
T
M=αT
1+(1-α)T
2
を用いて算出し、αの値は、0より大きく1以下である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の超音波信号処理装置。
【請求項5】
前記整相加算部は、前記副対象領域に含まれる観測点について、送信された超音波が前記フォーカス点に最近接する前記送信振動子列上の点から前記観測点に到達するまでの時間をT
1とし、前記観測点の深さが前記フォーカス深さより深い位置の場合は、送信された超音波が前記主対象領域に含まれ前記フォーカス深さにある基準点に到達するまでの第3時間に、超音波が前記基準点から前記観測点に到達するまでの第4時間を加算して算出した時間、前記観測点の深さが前記フォーカス深さ未満の場合は、前記第3時間から前記第4時間を減算して算出した時間をT
2とし、送信された超音波が前記超音波振動子列の列中心から前記観測点と同じ深さで且つ前記超音波振動子列の列中心に最近接する第2基準点に到達するまでの時間とT
3としたとき、前記送信時間T
Mを、数式
T
M=αT
1+(1-α)βT
2+(1-α)(1-β)T
3
を用いて算出し、αの値は、0より大きく1以下であり、βの値は、0以上1以下である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の超音波信号処理装置。
【請求項6】
前記βの値は、対応する観測点の深さと前記フォーカス深さとの差異が大きくなるほど大きくなる
ことを特徴とする請求項5に記載の超音波信号処理装置。
【請求項7】
前記αの値は、対応する観測点の深さと前記フォーカス深さとの差異が大きくなるほど小さくなる
ことを特徴とする請求項5または6に記載の超音波信号処理装置。
【請求項8】
前記主対象領域は、前記フォーカス点に最近接する前記送信振動子列上の点と、前記フォーカス点とを結ぶ直線に対して線対称の形状を有する
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の超音波信号処理装置。
【請求項9】
前記送信振動子列が前記超音波プローブの端部の振動子を含まない送信イベントにおいて、前記主対象領域は、前記フォーカス点と前記送信振動子列の一端とを結ぶ直線と、前記フォーカス点と前記送信振動子列の他端とを結ぶ直線との間に位置する領域である
ことを特徴とする請求項8に記載の超音波信号処理装置。
【請求項10】
前記送信振動子列が前記超音波プローブの端部の振動子を含む送信イベントにおいて、前記振動子列を延長した仮想線上に、前記送信振動子列のうち前記超音波プローブの端部とは異なる端部を一方の端として、前記フォーカス点に最近接する前記送信振動子列上の点を中点とする仮想送信振動子列を仮定したとき、前記主対象領域は、前記フォーカス点と前記仮想送信振動子列の一端とを結ぶ直線と、前記フォーカス点と前記仮想送信振動子列の他端とを結ぶ直線との間に位置する領域である
ことを特徴とする請求項8または9に記載の超音波信号処理装置。
【請求項11】
前記追加領域は、列方向における前記フォーカス点の位置が前記追加領域に最も近づく送信イベントにおいて前記仮想送信振動子列のうち前記送信振動子列に含まれない部分を底辺とする領域である
ことを特徴とする請求項10に記載の超音波信号処理装置。
【請求項12】
前記追加領域と前記画像化主領域との境界線と、前記フォーカス点と前記送信振動子列の一端とを結ぶ直線との列方向の距離をmとしたとき、
第1領域は、前記追加領域を列方向に沿ってmだけシフトした領域から前記主対象領域との重複領域を除いた領域である
ことを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の超音波信号処理装置。
【請求項13】
前記整相加算部は、前記画像化主領域と前記追加領域とのそれぞれの範囲と、前記フォーカス点の位置によって定まる前記第1領域の範囲とに基づいて前記副対象領域が空領域であるか否かを判定するための情報を保持し、前記情報を用いて前記副対象領域が空領域であると判定した送信イベントにおいて、前記副対象領域を設定せず前記主対象領域のみを設定する
ことを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の超音波信号処理装置。
【請求項14】
前記合成部は、前記画像化主領域に含まれる観測点について、前記主対象領域に対応する前記サブフレーム音響線信号を観測点の位置に基づいて合成することでフレーム音響線信号を生成する
ことを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の超音波信号処理装置。
【請求項15】
超音波プローブと、
請求項1から14のいずれか1項に記載の超音波信号処理装置と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項16】
超音波プローブに列設された複数の振動子を選択的に駆動して被検体に超音波送信する送信イベントを複数回繰り返すとともに、各送信イベントに同期して被検体から反射超音波を受波し、受波した反射超音波に基づいて生成される複数のサブフレーム音響線信号からフレーム音響線信号を合成する超音波信号処理方法であって、
1回の送信イベントにおいて前記複数の振動子から送信振動子列を選択し、前記送信振動子列から超音波が被検体中で集束するように送信し、各送信イベントに同期して、超音波を送信する送信振動子列が列方向に順次移動するよう選択し、
各送信イベントに同期して前記複数の振動子から受信振動子列を選択し、前記受信振動子列が被検体内から受波した反射超音波に基づいて、前記受信振動子列の振動子各々に対する受信信号列を生成し、
対応するフレーム音響線信号が形成されるべき被検体内の領域として画像化主領域と、前記画像化主領域に対して列方向に隣接する追加領域とを設定し、
前記送信イベントごとに、各観測点から得られた反射超音波に基づく前記受信信号列を整相加算して前記サブフレーム音響線信号を生成し、
前記整相加算部が生成した前記複数のサブフレーム音響線信号に基づき、前記フレーム音響線信号を合成する
超音波信号処理方法であって、
前記サブフレーム音響線信号を生成する際に、前記被検体内で超音波が集束するエリアに含まれる領域を含む主対象領域と、前記主対象領域に列方向に隣接する領域の一部または全部が前記追加領域内に存在する場合に
、前記主対象領域に列方向に隣接する領域のうち前記追加領域内
に存在する部分である副対象領域とを、前記観測点を含む領域として設定し、前記画像化主領域内かつ前記主対象領域内の観測点と前記副対象領域に含まれる観測点との間で、送信された超音波が観測点に到達する送信時間の算出方法を異ならせる
ことを特徴とする超音波信号処理方法。
【請求項17】
表示部が接続可能であって、請求項16に記載の超音波信号処理方法を実行する超音波信号処理装置における超音波画像表示方法であって、
前記フレーム音響線信号を超音波画像に変換して前記表示部に表示する
超音波画像表示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波信号処理装置、および、それを備えた超音波診断装置に関し、特に、超音波信号処理装置における受信ビームフォーミング処理方法、および、超音波画像表示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波プローブ(以下、「プローブ」とする)により被検体内部に超音波を送信し、被検体組織の音響インピーダンスの差異により生じる超音波反射波(エコー)を受信する。さらに、この受信から得た受信信号に基づいて、被検体の内部組織の構造を示す超音波断層画像を生成し、モニタ(以下、「表示部」とする)上に表示するものである。超音波診断装置は、被検体への侵襲が少なく、リアルタイムに体内組織の状態を断層画像などで観察できるため、生体の形態診断に広く用いられている。
【0003】
従来の超音波診断装置では、受信した反射超音波に基づく信号の受信ビームフォーミング方法として、一般的に整相加算法と呼ばれる方法が使用されている(例えば、非特許文献1)。この方法では、複数の振動子によって行われる被検体への超音波送信が行われる際、被検体のある深さで超音波ビームがフォーカスを結ぶよう送信ビームフォーミングがなされる。また、この方法では、送信超音波ビームの中心軸上に観測点を設定する。そのため、1回の超音波送信イベントでは送信超音波ビームの中心軸近傍の少数本の音響線信号しか生成することができず、超音波の利用効率が悪い。また、観測点がフォーカス点から離れた位置にある場合には、音響線信号の空間分解能及び信号S/N比が低くなる課題も有している。
【0004】
これに対して、合成開口法(Synthetic Aperture Method)により、送信フォーカス点近傍以外の領域においても空間分解能の高い、高画質な画像を得る受信ビームフォーミング方法が考案されている(例えば、非特許文献2)。この方法によれば、超音波送信波の伝播経路と、その伝播経路による反射波の振動子への到達時間の両方を加味した遅延制御を行うことで、送信フォーカス点近傍以外に位置する超音波主照射領域からの反射超音波も反映した受信ビームフォーミングを行うことができる。その結果、1回の超音波送信イベントから超音波主照射領域全体に対して音響線信号を生成することができる。なお、超音波主照射領域とは、領域内のすべての点において、送信振動子列を構成する各振動子から送波される超音波の伝搬する領域を指す。また、合成開口法では、複数の送信イベントから得た同一観測点に対する複数の受信信号をもとに仮想的に送信フォーカスを合わせることで、非特許文献1記載の受信ビームフォーミング方法と比較して、空間分解能及びS/N比の高い超音波画像を得ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】伊東正安、望月剛共著「超音波診断装置」コロナ社出版、2002年8月26日(P42-P45)
【文献】"Virtual ultrasound sources in high resolution ultrasound imaging", S.I.Nikolov and J.A.Jensen, in Proc, SPIE - Progress in biomedical optics and imaging, vol. 3, 2002, P. 395-405
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超音波画像を生成する対象となる領域(以下、「画像化領域」とする)をプローブにおける振動子の並ぶ方向(以下、「素子列方向」とする)に拡大することが検討されている。画像化領域を素子列方向に拡大する方法としては、例えば、特許文献1に開示されているように、(1)送信イベント毎に超音波ビームの送信方向を変更し、超音波ビームを放射状に送信することにより、超音波ビームの通過領域を拡大する方法、と、(2)通常の送信イベントに加えて、超音波ビームの送信方向を外側に向けた送信イベントを追加する方法、とがある。しかしながら、(1)の方法では、超音波ビームの通過領域が素子列方向に拡大する代償として、素子列方向における空間解像度の低下と、S/N比の低下を招くこととなる。また、(2)の方法では、1枚の超音波画像を生成するために必要な送信イベント回数の増加を伴うため、フレームレートの低下を招くこととなる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、一般的な送信ビームフォーミングを用いた合成開口法において、空間解像度、S/N比、および、フレームレートの低下を抑制しながら画像化領域を素子列方向に拡大できる超音波信号処理装置、超音波診断装置、超音波信号処理方法、および、超音波画像表示方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る超音波信号処理装置は、超音波プローブに列設された複数の振動子を選択的に駆動して被検体に超音波送信する送信イベントを複数回繰り返すとともに、各送信イベントに同期して被検体から反射超音波を受波し、受波した反射超音波に基づいて生成される複数のサブフレーム音響線信号からフレーム音響線信号を合成する超音波信号処理装置であって、1回の送信イベントにおいて前記複数の振動子から送信振動子列を選択し、前記送信振動子列から超音波が被検体中で集束するように送信し、各送信イベントに同期して、超音波を送信する送信振動子列が列方向に順次移動するよう選択する送信部と、各送信イベントに同期して前記複数の振動子から受信振動子列を選択し、前記受信振動子列が被検体内から受波した反射超音波に基づいて、前記受信振動子列の振動子各々に対する受信信号列を生成する受信部と、対応するフレーム音響線信号が形成されるべき被検体内の領域として画像化主領域と、前記画像化主領域に対して列方向に隣接する追加領域とを設定する画像化領域設定部と、前記送信イベントごとに、前記送信イベントごとに、各観測点から得られた反射超音波に基づく前記受信信号列を整相加算して前記サブフレーム音響線信号を生成する整相加算部と、前記整相加算部が生成した前記複数のサブフレーム音響線信号に基づき、前記フレーム音響線信号を合成する合成部とを備え、前記整相加算部は、前記被検体内で超音波が集束するエリアに含まれる領域を含む主対象領域と、前記主対象領域に列方向に隣接する領域の一部または全部が前記追加領域内に存在する場合に、前記主対象領域に列方向に隣接する領域のうち前記追加領域内に存在する部分である副対象領域とを、前記観測点を含む領域として設定し、前記画像化主領域内かつ前記主対象領域内の観測点と前記副対象領域に含まれる観測点との間で、送信された超音波が観測点に到達する送信時間の算出方法を異ならせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一形態に係る超音波信号処理装置、超音波診断装置、超音波信号処理方法、および、超音波画像表示方法によれば、フレームレートを低下させることなく、かつ、空間解像度とS/N比を低下させることなく、追加領域の面積だけ画像化領域を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に係る超音波診断装置100の構成を示すブロック図である。
【
図2】実施の形態に係る送信ビームフォーマ部103による送信超音波ビームの伝播経路を示す図である。
【
図3】実施の形態に係る受信ビームフォーマ部104の構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】実施の形態に係る整相加算部1041の構成を示す機能ブロック図である。
【
図5】実施の形態に係る主領域Bx、副領域Cxを示す図である。
【
図6】実施の形態に係る仮想受信開口Rv、受信開口Rxと仮想送信開口Tv、送信開口Txとの関係を示す模式図である。
【
図7】実施の形態に係る、送信開口Txから観測点Pijを経由して受信振動子Rkに到達する超音波の伝播経路を示す模式図である。
【
図8】実施の形態に係る、仮想送信開口Tvから観測点Qmnに到達する超音波の伝播経路を示す模式図である。
【
図9】実施の形態に係る合成部1140の構成を示す機能ブロック図である。
【
図10】実施の形態に係る、各送信イベントにおける主領域Bx、副領域Cxを示す図である。
【
図11】実施の形態に係る、各送信イベントにおける主領域Bx、副領域Cxを示す図である。
【
図12】実施の形態に係る加算処理部11401における合成音響線信号を合成する処理を示す模式図である。
【
図13】実施の形態に係る、合成音響線信号における最大重畳数と、増幅処理部11402における増幅処理の概要を示す模式図である。
【
図14】実施の形態に係る受信ビームフォーマ部104のビームフォーミング処理動作を示すフローチャートである。
【
図15】実施の形態に係る受信ビームフォーマ部104における観測点Pij、Qmnについての音響線信号生成動作を示すフローチャートである。
【
図16】実施の形態に係る受信ビームフォーマ部104における観測点Pij、Qmnについての音響線信号生成動作を説明するための模式図である。
【
図17】変形例1に係る受信開口設定部により設定された仮想受信開口Rv、受信開口Rxと仮想送信開口Tv、送信開口Txとの関係を示す模式図である。
【
図18】変形例1に係る受信ビームフォーマ部のビームフォーミング処理動作を示すフローチャートである。
【
図19】変形例1に係る受信ビームフォーマ部における観測点Pij、Qmnについての音響線信号生成動作を説明するための模式図である。
【
図20】変形例2に係る主領域Bx、副領域Cxを示す図である。
【
図21】従来の合成開口法における画像化領域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪発明を実施するための形態に至った経緯≫
発明者は、合成開口法を用いる超音波診断装置において、画像化領域を拡大させるために各種の検討を行った。
【0013】
超音波診断装置においては、一般に、複数の振動子によって行われる被検体への超音波送信が行われる際、被検体のある深さで超音波ビームがフォーカスを結ぶよう、波面を集束させる送信ビームフォーミングがなされる(以下、フォーカスが結ばれる深さを「フォーカス深さ」とする)。そのため、1度の超音波の送信(送信イベント)によって、超音波送信に用いられる複数の振動子(以下、「送信振動子列」とする)から、超音波主照射領域に主として超音波が照射される。ここで、「超音波主照射領域」とは、送信振動子列を構成する各振動子から送波される超音波の伝搬する領域のことである。送信フォーカス点が1点である場合には、超音波主照射領域は、送信振動子列を底辺とし、底辺の両端のそれぞれから送信フォーカス点を通る2つの直線で囲まれる砂時計形状の領域となり、波面は、送信フォーカス点を中心とした円弧状となる。なお、必ずしも超音波ビームが1点でフォーカスを結ぶとは限らず、例えば、1.5素子分から数素子分程度にフォーカスした領域(以下、「フォーカス領域」とする)に集束するだけの場合もあるが、この場合、超音波主照射領域はフォーカス深さまでは列方向の幅が狭まり、フォーカス深さでフォーカス領域の列方向の幅となり、フォーカス深さより深い領域では再び列方向が広がる形状となる。すなわち、超音波主照射領域は、フォーカス深さで列方向の幅が最も狭くなり、それ以外の深さでは、フォーカス深さまでの距離に応じて列方向の幅が広がる形状となる。
【0014】
合成開口法では、1回の送信イベントにおいて、超音波主照射領域のいずれの点に対しても観測点を設定できるため、超音波主照射領域全域を、音響線信号が生成される領域(以下、「対象領域」とする)とするのが好ましい。1つの送信イベントでは超音波画像を生成する領域全体を対象領域とすることができないために、1フレームの超音波画像を生成するためには、対象領域の異なる複数の送信イベントを行う。超音波の利用効率の観点からは対象領域は大きいことが好ましく、また、連続する2つの送信イベントの対象領域の重複面積が大きいほうが、空間解像度や信号S/N比の向上のために好ましい。
【0015】
したがって、砂時計形状の超音波主照射領域の全域を対象領域として送信イベントを行い、送信イベントに同期して、超音波主照射領域と対象領域とを1素子分ずつ移動させて音響線信号を生成し(以下、1回の送信イベントで生成される音響線信号を「サブフレーム音響線信号」とする)、複数のサブフレーム音響線信号を合成して1フレームの超音波画像を生成することが従来行われている。
【0016】
一方で、設定上の送信振動子列(以下、「仮想送信振動子列」とする)の一部が振動子列からはみ出る場合には、物理的に振動子が存在しない部分を送信振動子列とすることができない。したがって、素子列方向における仮想送信振動子列の中心(以下、「送信開口中心」とする)の設定可能範囲は、超音波プローブの振動子列の幅を超えることができない。さらに、対象領域の素子列方向の幅はフォーカス深さで最小となるため、画像化領域の素子列方向の幅もフォーカス深さにおいて最小となる。以上の理由により、例えば、リニアプローブの場合、超音波プローブの振動子列を底辺とする長方形状、扇形状、台形状の範囲が、画像化領域の最大範囲となる。また、例えば、コンベックスプローブの場合、略扇形上となる画像化領域において、超音波プローブの振動子列がなす円弧の中心角が、画像化領域の中心角の最大値となる。
【0017】
これに対して画像化領域を素子列方向に拡大する方法としては、上述したように、1つには、送信イベント毎に超音波ビームの送信方向を変更し、超音波ビームを放射状に送信することにより、超音波ビームの通過領域を拡大する方法がある。これは、
図21(b)に示すように、超音波プローブの振動子列の中心から送信開口中心が離れるほど、超音波ビームの進行方向を振動子列の中心から離れるようにステアリングを行う方法である。具体的には、送信開口中心がxの正の方向(図中右側)にあるほど、xの正の方向(図中右上側)に超音波ビームの進行方向を傾け、同様に、送信開口中心がxの負の方向(図中左側)にあるほど、xの負の方向(図中左上側)に超音波ビームの進行方向を傾けるというものである。これにより、画像化領域は、リニアプローブの場合、振動子列の幅を上底とする台形状となり、下底と上底の長さの差だけ、素子列方向に画像化領域を拡大することができる。しかしながら、この方法では、対象領域が放射状に広がるため、深さが大きくなるほど連続する2つの送信イベントの対象領域の重複面積が小さくなり、合成数が小さくなって空間解像度や信号S/N比が低下することとなる。
【0018】
また、もう一つの画像化領域を拡大する方法としては、上述したように、通常の送信イベントに加えて、超音波ビームの送信方向を外側に向けた送信イベントを追加する方法がある。すなわち、
図21(c)に示すように、通常の送信イベントで
図21(a)と同様の画像を生成し、通常の画像化領域の素子列方向における外側に追加領域を設けて、追加領域については
図21(b)と同様に、超音波ビームの進行方向を追加領域に向けてステアリングを行う方法である。これにより、通常の画像化領域については空間解像度や信号S/N比に影響を与えることなく、画像化領域を素子列方向に拡大することができる。しかしながら、この方法では、追加領域を画像化するための送信イベントを別途行わなければならないため、1枚の超音波画像を生成するのに必要な送信イベント数が増加し、フレームレートの向上が困難となる。
【0019】
そこで、発明者は、上記課題に鑑み、波面を集束させる送信ビームフォーミングと合成開口法の組み合わせにおいて、空間解像度や信号S/N比、フレームレートに悪影響を与えることなく画像化領域を素子列方向に拡大させる技術について検討を行い、実施の形態に係る超音波信号処理装置、超音波診断装置、および、超音波信号処理方法に想到するに至ったものである。
【0020】
以下、実施の形態に係る超音波画像処理方法及びそれを用いた超音波診断装置について図面を用いて詳細に説明する。
【0021】
≪実施の形態≫
<全体構成>
以下、実施の形態に係る超音波診断装置100について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、実施の形態に係る超音波診断システム1000の機能ブロック図である。
図1に示すように、超音波診断システム1000は、被検体に向けて超音波を送信しその反射波の受信する複数の振動子101aを有するプローブ101、プローブ101に超音波の送受信を行わせプローブ101からの出力信号に基づき超音波画像を生成する超音波診断装置100、超音波画像を画面上に表示する表示部106を有する。プローブ101、表示部106は、それぞれ、超音波診断装置100に各々接続可能に構成されている。
図1は超音波診断装置100に、プローブ101、表示部106が接続された状態を示している。なお、プローブ101と、表示部106とは、超音波診断装置100の内部にあってもよい。
【0023】
<超音波診断装置100の構成>
超音波診断装置100は、プローブ101の複数ある振動子101aのうち、送信又は受信の際に用いる振動子を各々に選択し、選択された振動子に対する入出力を確保するマルチプレクサ部102、超音波の送信を行うためにプローブ101の各振動子101aに対する高電圧印加のタイミングを制御する送信ビームフォーマ部103と、プローブ101で受信した超音波の反射波に基づき、複数の振動子101aで得られた電気信号を増幅し、A/D変換し、受信ビームフォーミングして音響線信号を生成する受信ビームフォーマ部104を有する。また、受信ビームフォーマ部104からの出力信号に基づいて超音波画像(Bモード画像)を生成する超音波画像生成部105、受信ビームフォーマ部104が出力する音響線信号及び超音波画像生成部105が出力する超音波画像を保存するデータ格納部107と、各構成要素を制御する制御部108を備える。
【0024】
このうち、マルチプレクサ部102、送信ビームフォーマ部103、受信ビームフォーマ部104、超音波画像生成部105は、超音波信号処理装置150を構成する。
【0025】
超音波診断装置100を構成する各要素、例えば、マルチプレクサ部102、送信ビームフォーマ部103、受信ビームフォーマ部104、超音波画像生成部105、制御部108は、それぞれ、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウエア回路により実現される。あるいは、プロセッサなどのプログラマブルデバイスとソフトウェアにより実現される構成であってもよい。プロセッサとしてはCPU(Central Processing Unit)やGPGPUを用いることができ、GPUを用いる構成はGPGPU(General-Purpose computing on Graphics Processing Unit)と呼ばれる。これらの構成要素は一個の回路部品とすることができるし、複数の回路部品の集合体にすることもできる。また、複数の構成要素を組合せて一個の回路部品とすることができるし、複数の回路部品の集合体にすることもできる。
【0026】
データ格納部107は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、MO、DVD、DVD-RAM、BD、半導体メモリ等を用いることができる。また、データ格納部107は、超音波診断装置100に外部から接続された記憶装置であってもよい。
【0027】
なお、本実施の形態に係る超音波診断装置100は、
図1で示した構成の超音波診断装置に限定されない。例えば、マルチプレクサ部102がなく、送信ビームフォーマ部103と受信ビームフォーマ部104とが直接、プローブ101の各振動子101aに接続されていてもよい。また、プローブ101に送信ビームフォーマ部103や受信ビームフォーマ部104、またその一部などが内蔵される構成であってもよい。これは、本実施の形態に係る超音波診断装置100に限られず、後に説明する他の実施の形態や変形例に係る超音波診断装置でも同様である。
【0028】
<超音波診断装置100の主要部の構成>
実施の形態1に係る超音波診断装置100は、プローブ101の各振動子101aから超音波送信を行わせる送信ビームフォーマ部103と、プローブ101での超音波反射波の受信から得た電気信号を演算して超音波画像を生成するための音響線信号を生成する受信ビームフォーマ部104に特徴を有する。そのため、本明細書では、主に、送信ビームフォーマ部103及び受信ビームフォーマ部104について、その構成及び機能を説明する。なお、送信ビームフォーマ部103及び受信ビームフォーマ部104以外の構成については、公知の超音波診断装置に使われるものと同じ構成を適用可能であり、公知の超音波診断装置のビームフォーマ部に本実施の形態に係るビームフォーマ部を置き換えて使用することが可能である。
【0029】
以下、送信ビームフォーマ部103と、受信ビームフォーマ部104の構成について説明する。
【0030】
1.送信ビームフォーマ部103
送信ビームフォーマ部103は、マルチプレクサ部102を介してプローブ101と接続され、プローブ101から超音波の送信を行うためにプローブ101に存する複数の振動子101aの全てもしくは一部に当たる送信振動子列からなる送信開口Txに含まれる複数の振動子の各々に対する高電圧印加のタイミングを制御する。送信ビームフォーマ部103は送信部1031から構成される。
【0031】
送信部1031は、制御部108からの送信制御信号に基づき、プローブ101に存する複数の振動子101a中、送信開口Txに含まれる各振動子に超音波ビームを送信させるためのパルス状の送信信号を供給する送信処理を行う。具体的には、送信部1031は、例えば、クロック発生回路、パルス発生回路、遅延回路を備えている。クロック発生回路は、超音波ビームの送信タイミングを決定するクロック信号を発生させる回路である。パルス発生回路は、各振動子を駆動するパルス信号を発生させるための回路である。遅延回路は、超音波ビームの送信タイミングを振動子毎に遅延時間を設定し、遅延時間だけ超音波ビームの送信を遅延させて超音波ビームのフォーカシングを行うための回路である。
【0032】
送信部1031は、超音波送信ごとに仮想送信開口Tvを列方向に、所定の移動ピッチMpだけ移動させながら超音波送信を繰り返し、プローブ101に存する全ての振動子101aから超音波送信を行う。ここで、仮想送信開口Tvとは、振動子の有無に関係なく設定される設定上の送信開口であり、その列長(以下、「送信開口長」と呼ぶ)は、送信イベントに関係なく一定である。仮想送信開口Tvの範囲内全域に振動子が存在する場合には、仮想送信開口Tvと送信開口Txは一致する。一方、仮想送信開口Tvの範囲内に振動子が存在しない場所が存在する場合、仮想送信開口Tvのうち、振動子の存在する部分が送信開口Txとなる。本実施の形態では、移動ピッチMpを振動子1つ分とし、超音波送信ごとに、仮想送信開口Tvが振動子1つ分ずつ移動していく。なお、移動ピッチMpは振動子1つ分に限られず、例えば、振動子0.5個分としてもよい。仮想送信開口Tvの位置を示す情報、および送信開口Txに含まれる振動子の位置を示す情報は制御部108を介してデータ格納部107に出力される。例えば、プローブ101に存する振動子101a全数を192としたとき、送信開口Txを構成する振動子列の数として、例えば20~100を選択してもよく、超音波送信毎に移動ピッチMpだけ移動させる構成としてもよい。以後、送信部1031により同一の送信開口Txから行われる超音波送信を「送信イベント」と称呼する。
【0033】
図2は、送信ビームフォーマ部103による超音波送信波の伝播経路を示す模式図である。ある送信イベントにおいて、超音波送信に寄与するアレイ状に配列された振動子101aの列(送信振動子列)を送信開口Txとして図示している。
【0034】
送信ビームフォーマ部103において、仮想送信開口Tvの中心に位置する振動子ほど送信タイミングを遅らせるように各振動子の送信タイミングを制御する。これにより、送信開口Tx内の振動子列から送信された超音波送信波は、被検体のある深度(Focal depth)において、波面がある一点、すなわち送信フォーカス点F(Focal point)で、フォーカスがあう(集束する)状態となる。送信フォーカス点Fの深さ(Focal depth)(以下、「フォーカス深さ」とする)は、任意に設定することができる。送信フォーカス点Fで合焦した波面は、再び拡散し、送信開口Txを底とし送信フォーカス点Fを節とする交差する2つの直線で区切られた砂時計型の空間内を超音波送信波が伝播する。すなわち、送信開口Txで放射された超音波は、次第にその空間上での幅(図中の横軸方向)を小さくし、送信フォーカス点Fでその幅を最小化し、それよりも深部(図中では上部)に進行するにしたがって、再び、その幅を大きくしながら拡散し、伝播することとなる。この砂時計型の領域が超音波主照射領域Axである。なお、上述したように、超音波主照射領域Axは、1点の送信フォーカス点Fに集束せず、フォーカス領域に集束してもよい。
【0035】
なお、上述したように、超音波主照射領域Axは、送信振動子列の各振動子から送波された超音波の位相が揃っている領域であり、超音波主照射領域Axの外部にも超音波送信波は伝播している。もっとも、超音波主照射領域Axの外部においては、送信振動子列の各振動子から送波された超音波の位相が揃っていないため、超音波主照射領域Ax内部と比べて超音波送信波が劣化しており、特に、超音波主照射領域Axから遠ざかるほど劣化が顕著となる。
【0036】
2.受信ビームフォーマ部104の構成
受信ビームフォーマ部104は、プローブ101で受信した超音波の反射波に基づき、複数の振動子101aで得られた電気信号から音響線信号を生成する。なお、「音響線信号」とは、ある観測点に対する、整相加算処理がされた後の信号である。整相加算処理については後述する。
図3は、受信ビームフォーマ部104の構成を示す機能ブロック図である。
図3に示すように、受信ビームフォーマ部104は、受信部1040、整相加算部1041、合成部1140を備える。
【0037】
以下、受信ビームフォーマ部104を構成する各部の構成について説明する。
【0038】
(1)受信部1040
受信部1040は、マルチプレクサ部102を介してプローブ101と接続され、送信イベントに同期してプローブ101での超音波反射波の受信から得た電気信号を増幅した後AD変換した受信信号(RF信号)を生成する回路である。送信イベントの順に時系列に受信信号を生成しデータ格納部107に出力し、データ格納部107に受信信号を保存する。
【0039】
ここで、受信信号(RF信号)とは、各振動子にて受信された反射超音波から変換された電気信号をA/D変換したデジタル信号であり、各振動子にて受信された超音波の送信方向(被検体の深さ方向)に連なった信号の列を形成している。
【0040】
送信イベントでは、上述のとおり、送信部1031は、プローブ101に存する複数の振動子101a中、送信開口Txに含まれる複数の振動子の各々に超音波ビームを送信させる。これに対し、受信部1040は、送信イベントに同期してプローブ101に存する複数の振動子101aの一部又は全部にあたる振動子の各々が得た反射超音波に基づいて、各振動子に対する受信信号の列を生成する。ここで、反射超音波を受波する振動子を「受波振動子」と称呼する。受波振動子の数は、送信開口Txに含まれる振動子の数よりも多いことが好ましい。また、受波振動子の数はプローブ101に存する振動子101aの全数としてもよい。
【0041】
送信部1031は、送信イベントに同期して送信開口Txを列方向に移動ピッチMpだけ移動させながら超音波送信を繰り返し、プローブ101に存する複数の振動子101a全体から超音波送信を行う。受信部1040は、送信イベントに同期して各受波振動子に対する受信信号の列を生成し、生成された受信信号はデータ格納部107に保存される。
【0042】
(2)整相加算部1041
整相加算部1041は、送信イベントに同期して、被検体内においてサブフレーム音響線信号の生成を行う対象領域である主領域Bx、副領域Cxを設定する。次に、主領域Bx内に存在する複数の観測点Pijと副領域Cx内に存在する複数の観測点Qmnの各々について、観測点から各受信振動子Rkが受信した受信信号列を整相加算する。そして、各観測点における音響線信号の列を算出することによりサブフレーム音響線信号を生成する回路である。
図4は、整相加算部1041の構成を示す機能ブロック図である。
図4に示すように、整相加算部1041は、対象領域設定部1042、受信開口設定部1043、送信時間算出部1044、受信時間算出部1045、遅延量算出部1046、遅延処理部1047、重み算出部1048、及び加算部1049を備える。
【0043】
以下、整相加算部1041を構成する各部の構成について説明する。
【0044】
i)対象領域設定部1042
対象領域設定部1042は、被検体内においてサブフレーム音響線信号の生成を行う対象領域である主領域Bx、副領域Cxを設定する。「対象領域」とは、送信イベントに同期して被検体内においてサブフレーム音響線信号の生成が行われるべき信号上の領域であり、主領域Bx内の観測点Pijおよび副領域Cx内の観測点Qmnについて音響線信号が生成される。主領域Bx、副領域Cxは、音響線信号の生成が行われる観測対象点の集合として、1回の送信イベントに同期して計算の便宜上設定される。
【0045】
ここで、「サブフレーム音響線信号」とは、1回の送信イベントから生成される対象領域内に存在する全ての観測点に対する音響線信号の集合である。サブフレーム音響線信号は、主領域Bx内に存在する全ての観測点Pijに対する音響線信号の集合である「主領域音響線信号」と、副領域Cx内に存在する全ての観測点Qmnに対する音響線信号の集合である「副領域音響線信号」とからなる。なお、「サブフレーム」とは、1回の送信イベントで得られ、対象領域内に存在する全ての観測点に対応するまとまった信号を形成する単位をさす。取得時間の異なる複数のサブフレームを合成したものがフレームとなる。
【0046】
対象領域設定部1042は、まず、画像化主領域Hxと追加領域Ha、Hbからなる画像化領域を設定する。そして、送信イベントに同期して、送信ビームフォーマ部103から取得する送信開口Txおよび仮想送信開口Tvの位置を示す情報に基づき対象領域を設定する。
【0047】
図5は、画像化領域および対象領域を示す模式図である。
図5(a)に示すように、画像化主領域Hxは、振動子列101aを底辺とする長方形状の領域として設定される。そして、追加領域Ha、追加領域Hbはそれぞれ、素子列方向において画像化主領域Hxに隣接するように設定される。本実施の形態では、追加領域Ha、追加領域Hbの深さyが0(被検体とプローブの界面)における列方向の幅は送信開口幅をTxとしたとき、その送信開口幅Txの1/2であり、深さyが追加領域Ha、Hbの最深部における列方向の幅はそれぞれWa、Wbであり、深さyが大きくなるに従って素子列方向の幅が増加する。本実施の形態では、Wa=Wb>Tx/2であるとする。
【0048】
次に、対象領域について説明する。送信開口Txが画像化主領域Hxの端から十分離れている場合には、
図5(a)に示すように、超音波主照射領域Axと画像化領域Hxの重複する領域の全域を、主領域Bxとして設定する。このとき、副領域Cxは設定されず、空領域となる。一方、送信開口Txが画像化主領域Hxの端に近い場合には、主領域Bxと副領域Cxとを設定する。具体的には、
図5(b)に示すように、仮想送信開口Tvを送信開口とみなして、超音波主照射領域Axと画像化領域Hxまたは追加領域Ha、Hbとの重複する領域の全域を主領域Bxとして設定する。すなわち、仮想送信開口Tvを底辺とし、底辺の両端のそれぞれから送信フォーカス点を通る2つの直線で囲まれる砂時計形状の領域を主領域Bxとする。さらに、以下の方法により副領域Cxを決定する。まず、仮想送信開口Tvの中心軸である送信開口中心軸Txoと追加領域Haの右端が一致するように追加領域Haを素子列方向に沿って右に平行移動した領域から主領域Bxを除く領域を第1領域Jaとする。すなわち、送信開口中心から左側にTx/2だけ離れた点と、送信開口中心軸Txo上にあり深さが画像化主領域Hxの最深部にある点Cから左側にWaだけ離れた点Jaとを結ぶ直線と、送信開口中心軸Txoとに挟まれた領域のうち、主領域Bxに重複しない領域を第1領域Jaとする。同様に、送信開口中心軸Txoと追加領域Hbの左端が一致するように追加領域Hbを素子列方向に沿って左に平行移動した領域から主領域Bxを除く領域を第2領域Jbとする。すなわち、送信開口中心から右側にTx/2だけ離れた点と、点Cから右側にWbだけ離れた点Jbとを結ぶ直線と送信開口中心軸Txoとに挟まれた領域のうち、主領域Bxに重複しない領域を第2領域Jbとする。そして、第1領域Jaと追加領域Haとの重複領域、および、第2領域Jbと追加領域Hbとの重複領域を、副領域Cxとする。なお、第1領域Jaと追加領域Haとが重複しない場合、または、第2領域Jbと追加領域Hbとが重複しない場合は、副領域Cxは設定されない。
【0049】
図10、
図11は、各送信イベントにおける主領域Bxと副領域Cxとをより詳細に示す模式図である。仮想送信開口Tvが左端、すなわち送信開口中心が振動子列101aの左端の振動子である場合には、
図10(a)に示すように、仮想送信開口Tvを底辺とし、底辺の両端のそれぞれから送信フォーカス点を通る2つの直線で囲まれる砂時計形状の領域を主領域Bxとする。このとき、送信開口中心軸Txoと追加領域Haの右端は一致しているので、追加領域Haから主領域Bxを除いた領域が第1領域Jaとなる。したがって、第1領域Jaと追加領域Haの重複領域である副領域Cxは、必然的に第1領域Jaの全域、すなわち、追加領域Haから主領域Bxを除いた領域である。これに対し、仮想送信開口Tvが右に移動したが左端が振動子列101aの外にある場合には、
図10(b)に示すように、仮想送信開口Tvを底辺とし、底辺の両端のそれぞれから送信フォーカス点を通る2つの直線で囲まれる砂時計形状の領域を主領域Bxとする。このとき、送信開口中心軸Txoは追加領域Haの右端より右側にあるので、追加領域Haを右にシフトした領域から主領域Bxを除いた領域が第1領域Jaとなる。したがって、第1領域Jaと追加領域Haの重複領域である副領域Cxは、
図10(a)で示す場合と比べ、右にシフトし、かつ、画像化主領域Hxとの重複部分がなくなった形状となる。一方、送信開口中心が振動子列101aの略中心にある場合は、
図10(c)に示すように、送信開口Txが仮想送信開口Tvと一致し、送信開口Txを底辺とし、底辺の両端のそれぞれから送信フォーカス点を通る2つの直線で囲まれる砂時計形状の領域を主領域Bxとする。このとき、第1領域Ja、第2領域Jbはともに全域が画像化主領域Hx内に存在することとなるため、副領域Cxは存在しない。また、仮想送信開口Tvが右に移動し右端が振動子列101aの外にある場合には、
図11(a)に示すように、仮想送信開口Tvを底辺とし、底辺の両端のそれぞれから送信フォーカス点を通る2つの直線で囲まれる砂時計形状の領域を主領域Bxとする。このとき、送信開口中心軸Txoは追加領域Hbの左端より左側にあるので、追加領域Hbを左にシフトした領域から主領域Bxを除いた領域が第1領域Jaとなる。したがって、第2領域Jbと追加領域Hbの重複領域である副領域Cxは、
図10(b)で示す場合と比べて、左右反転したような形状となる。さらに、仮想送信開口Tvが右端、すなわち送信開口中心が振動子列101aの右端の振動子である場合には、
図11(b)に示すように、仮想送信開口Tvを底辺とし、底辺の両端のそれぞれから送信フォーカス点を通る2つの直線で囲まれる砂時計形状の領域を主領域Bxとする。このとき、送信開口中心軸Txoと追加領域Hbの左端は一致しているので、追加領域Hbから主領域Bxを除いた領域が第2領域Jbとなる。したがって、第2領域Jbと追加領域Hbの重複領域である副領域Cxは、必然的に第2領域Jbの全域、すなわち、追加領域Hbから主領域Bxを除いた領域である。
【0050】
なお、第1領域Jaと第2領域Jbの範囲は、追加領域Ha、Hbそれぞれの形状と、送信開口中心の位置により一意に定まるので、画像化主領域Hxと追加領域Ha、Hbそれぞれの位置及び大きさが既知である場合、送信開口中心の位置に基づいて副領域Cxが存在するか否かを判定することができる。例えば、上述のように追加領域Ha、Hbを定める場合、点Cと画像化主領域Hxの左端との距離がWa未満の場合、または、点Cと画像化主領域Hxの右端との距離がWb未満の場合、副領域Cxが存在し、それ以外の場合には副領域Cxは存在しない。したがって、対象領域設定部1042は、画像化主領域Hxと追加領域Ha、Hbそれぞれの位置及び大きさに対して、副領域Cxが存在する送信開口中心の位置の範囲を保持していてもよい。このようにすることで、副領域Cxが空領域であるか否かを第1領域Ja、第2領域Jbの位置を算出しなくても判定することができるため、副領域Cxが空領域である場合には主領域Bxの設定のみを行えばよく、演算量の低減に奏功する。なお、対象領域設定部1042は、副領域Cxが存在する送信開口中心の位置の範囲に替えて、副領域Cxが存在する仮想送信開口Tvの位置の範囲、または、副領域Cxが存在する送信フォーカス点Fの位置の範囲を保持してもよい。
【0051】
設定された対象領域は送信時間算出部1044、受信時間算出部1045、遅延処理部1047に出力される。
【0052】
ii)受信開口設定部1043
受信開口設定部1043は、制御部108からの制御信号と、送信ビームフォーマ部103からの送信開口Txの位置を示す情報とに基づき、プローブ101に存する複数の振動子の一部に当たり、列中心が観測点に最も空間的に近接する振動子と合致する振動子列(受信振動子列)を受信振動子として選択して受信開口Rxを設定する回路である。
【0053】
受信開口設定部1043は、列中心が観測点PijまたはQmnに最も空間的に近接する振動子Xkと合致するよう仮想受信開口Rvを選択する。仮想送信開口Rvに含まれる各振動子は、受信開口Rxを構成する。送信開口と同様、仮想受信開口Rvの範囲内全域に振動子101aが存在する場合には、受信開口Rxは仮想受信開口Rvと一致する。一方、仮想受信開口Rvの範囲内に振動子101aが存在しない部分が存在する場合には、仮想受信開口Rvのうち振動子101aが存在している範囲が受信開口Rxとなる。
図6は、受信開口設定部1043により設定された仮想受信開口Rv、受信開口Rxと仮想送信開口Tv、送信開口Txとの関係を示す模式図である。
図6に示すように、仮想受信開口Rvの中心が、観測点Pijに最も空間的に近接する振動子Xkと合致するように仮想受信開口Rvが選択される。そのため、仮想受信開口Rvおよび受信開口Rxの位置は、観測点Pij、Qmnの位置によって定まり、送信イベントに同期して変動する送信開口Txの位置に基づいては変化しない。すなわち、異なる送信イベントであっても、同一位置にある観測点Pij、Qmnについての音響線信号を生成する処理においては、同一の受信開口Rx内の受信振動子Rkによって取得された受信信号に基づき整相加算が行われる。
【0054】
また、超音波主照射領域全体からの反射波を受信するために、受信開口Rxに含まれる振動子の数は、対応する送信イベントにおける送信開口Txに含まれる振動子の数以上に設定することが好ましい。受信開口Rxを構成する振動子列の数は、例えば32、64、96、128、192等としてもよい。
【0055】
仮想受信開口Rvおよび受信開口Rxの設定は、少なくとも列方向における観測点PijおよびQmnの最大数と同じ回数だけ行われる。また、仮想受信開口Rvおよび受信開口Rxの設定は、送信イベントに同期して漸次行われる構成であってもよく、あるいは、全ての送信イベントが終了した後に、各送信イベントに対応した仮想受信開口Rvおよび受信開口Rxの設定が送信イベントの回数分まとめて行われる構成であってもよい。
【0056】
選択された受信開口Rxの位置を示す情報は制御部108を介してデータ格納部107に出力される。
【0057】
データ格納部107は、受信開口Rxの位置を示す情報と受信振動子に対応する受信信号とを、送信時間算出部1044、受信時間算出部1045、遅延処理部1047、重み算出部1048に出力する。
【0058】
iii)送信時間算出部1044
送信時間算出部1044は、送信された超音波が被検体中の観測点Pに到達する送信時間を算出する回路である。送信イベントに対応して、データ格納部107から取得した送信開口Txに含まれる振動子の位置を示す情報と、対象領域設定部1042から取得した対象領域の位置を示す情報とに基づき、対象領域内に存在する任意の観測点PijおよびQmnについて、送信された超音波が被検体中の観測点Pij、Qmnに到達する送信時間を算出する。
【0059】
図7は、送信開口Txから放射され主領域Bx内の任意の位置にある観測点Pijにおいて反射され受信開口Rx内に位置する受信振動子Rkに到達する超音波の伝播経路を説明するための模式図である。なお、
図7(a)は観測点Pijがフォーカス深さより深い場合、
図7(b)は観測点Pijの深さがフォーカス深さ以下である場合を示している。
【0060】
送信開口Txから放射された送信波は、経路401を通って送信フォーカス点Fにて波面が集束し、再び、拡散する。送信波が集束または拡散する途中で観測点Pijに到達し、観測点Pijで音響インピーダンスに変化があれば反射波を生成し、その反射波がプローブ101における受信開口Rx内の受信振動子Rkに戻っていく。送信フォーカス点Fは送信ビームフォーマ部103の設計値として規定されているので、送信フォーカス点Fと任意の観測点Pijとの間の経路402の長さは幾何学的に算出することができる。
【0061】
送信時間の算出方法を、以下、さらに詳細に説明する。
【0062】
まず、観測点Pijがフォーカス深さより深い場合について、
図7(a)を用いて説明する。観測点Pijがフォーカス深さより深い場合は、送信開口Txから放射された送信波が、経路401を通って送信フォーカス点Fに到達し、送信フォーカス点Fから経路402を通って観測点Pijに到達したものとして算出する。したがって、送信波が経路401を通過する時間と、経路402を通過する時間を合算した値が、送信時間となる。具体的な算出方法としては、例えば、経路401の長さと経路402の長さとを加算した全経路長を、被検体内における超音波の伝搬速度で除算することで求められる。
【0063】
一方、観測点Pijが観測点Pijの深さがフォーカス深さ以下である場合について、
図7(b)を用いて説明する。観測点Pijの深さがフォーカス深さ以下である場合は、送信開口Txから放射された送信波が、経路401を通って送信フォーカス点Fに到達する時刻と、経路404を通って観測点Pijに到達した後、観測点Pijから経路402を通って送信フォーカス点Fに到達する時刻とが同一であるものとして算出する。つまり、送信波が経路401を通過する時間から、経路402を通過する時間を差し引いた値が、送信時間となる。具体的な算出方法としては、例えば、経路401の長さから経路402の長さを減算した経路長差を、被検体内における超音波の伝搬速度で除算することで求められる。
【0064】
図8(a)は、送信開口Txから放射され副領域Cx内の任意の位置にある観測点Qmnにおいて反射され受信開口Rx内に位置する受信振動子Rkに到達する超音波の伝播経路を説明するための模式図である。なお、
図8(a)は観測点Qmnがフォーカス深さより深い場合について記載している。送信された超音波が被検体中の観測点Qmnに到達する送信時間としては、以下の3つの算出方法がある。1つは、上述したように、送信開口Txから放射された送信波が、経路401を通って送信フォーカス点Fに到達し、送信フォーカス点Fから経路402を通って観測点Qmnに到達したものとして算出する方法である。すなわち、送信波が経路401を通過する時間と、経路402を通過する時間を合算した値が、送信時間となる。具体的な算出方法としては、例えば、経路401の長さと経路402の長さとを加算した全経路長を、被検体内における超音波の伝搬速度で除算することで求められる。この送信時間を、以下、送信時間T
2とする。もう1つは、送信開口Txから放射された送信波が、送信フォーカス点Fを経由せず、直接、経路411を通って観測点Qmnに到達したものとして算出する方法である。すなわち、送信波が経路411を通過する時間が、送信時間となる。具体的な算出方法としては、例えば、経路411の長さを、被検体内における超音波の伝搬速度で除算することで求められる。この送信時間を、以下、送信時間T
1とする。最後の1つは、送信開口Txから放射された送信波が観測点Qmnと同じ深さにある参照点Rに到達した時刻と同時刻に、観測点Qmnにも到達したとみなして算出する方法である。すなわち、送信波が経路412を通過する時間が、送信時間となる。具体的な算出方法としては、例えば、経路412の長さを、被検体内における超音波の伝搬速度で除算することで求められる。この送信時間を、以下、送信時間T
3とする。
【0065】
上述した3つの送信時間T
1、T
2、T
3のそれぞれについて、観測点Qmnの深さを横軸に、送信時間を縦軸に示した図が
図8(b)である。
図8(b)において、系統501は送信時間T
2を示し、系統502は送信時間T
1を示し、系統503は送信時間T
3を示す。送信時間T
2はフォーカス深さにおいて不連続となる。これは、経路402の長さの最小値がゼロではなく観測点Qmnと送信フォーカス点Fとの素子列方向における距離となるため、当該距離をd、被検体内の超音波速度をcsとすると、フォーカス深さを挟んで隣接する2つの観測点Qの送信時間差が2d/csとなるためである。したがって、フォーカス深さ近傍については、送信時間T
1またはT
3を採用することが好ましい。また、観測点Qmnの深さが浅い場合には、送信開口Tx内の各振動子から直接観測点Qmnに超音波が伝搬していると考えられるため、送信時間T
1を採用することが好ましい。一方、主領域Bxと副領域Cxとの界面付近では、主領域Bxと副領域Cxとで送信時間の算出方法を変えると不整合が目立つため、送信時間T
2を採用することが好ましい。以上を総合すると、(1)フォーカス深さ近傍では、送信時間T
1またはT
3、(2)フォーカス深さより浅い領域では送信時間T
1、(3)領域Bxと副領域Cxとの界面付近では、送信時間T
2が、それぞれ好ましいこととなる。したがって、送信時間T
Mの算出方法として、例えば、以下のように算出することができる。
T
M=αT
1+(1-α)βT
2+(1-α)(1-β)T
3
ここで、α、βは、それぞれ、0<α≦1、0≦β≦1であり、α、βともに観測点Qmnの深さに対する関数であることが好ましい。具体的には、αはフォーカス深さ近傍において1であることが好ましく、主領域Bxとの界面近傍においては小さいことが好ましい。また、βは、観測点Qmnの深さが大きいほど増加する値であることが好ましい。例えば、
図8(b)における系統511となるように、α、βを定めることができる。なお、送信時間T
Mは、上述した条件を満たし、且つ、深さの増加に対して単調増加するものであれば、ここで例示した場合に限られない。
【0066】
送信時間算出部1044は、1回の送信イベントに対し、対象領域内の全ての観測点Pij、Qmnについて、送信された超音波が被検体中の観測点Pij、Qmnに到達する送信時間を算出して遅延量算出部1046に出力する。
【0067】
iv)受信時間算出部1045
受信時間算出部1045は、観測点P、Qからの反射波が、受信開口Rxに含まれる受信振動子Rkの各々に到達する受信時間を算出する回路である。送信イベントに対応して、データ格納部107から取得した受信振動子Rkの位置を示す情報と、対象領域設定部1042から取得した対象領域の位置を示す情報とに基づき対象領域内に存在する任意の観測点Pij、Qmnについて、送信された超音波が被検体中の観測点Pij、Qmnで反射され受信開口Rxの各受信振動子Rkに到達する受信時間を算出する。
【0068】
上述のとおり、観測点Pij、Qmnに到達した送信波は、観測点Pij、Qmnで音響インピーダンスに変化があれば反射波を生成し、その反射波がプローブ101における受信開口Rx内の各受信振動子Rkに戻っていく。受信開口Rx内の各受信振動子Rkの位置情報はデータ格納部107から取得されるので、任意の観測点Pij、Qmnから各受信振動子Rkまでの経路403の長さは幾何学的に算出することができる。
【0069】
受信時間算出部1045は、1回の送信イベントに対し、対象領域内に存在する全ての観測点Pij、Qmnについて、送信された超音波が観測点Pij、Qmnで反射して各受信振動子Rkに到達する受信時間を算出して遅延量算出部1046に出力する。
【0070】
v)遅延量算出部1046
遅延量算出部1046は、送信時間と受信時間とから受信開口Rx内の各受信振動子Rkへの総伝播時間を算出し、当該総伝播時間に基づいて、各受信振動子Rkに対する受信信号の列に適用する遅延量を算出する回路である。遅延量算出部1046は、送信時間算出部1044から送信された超音波が観測点Pij、Qmnに到達する送信時間と、観測点Pij、Qmnで反射して各受信振動子Rkに到達する受信時間を取得する。そして、送信された超音波が各受信振動子Rkへ到達するまでの総伝播時間を算出し、各受信振動子Rkに対する総伝播時間の差異により、各受信振動子Rkに対する遅延量を算出する。遅延量算出部1046は、対象領域内に存在する全ての観測点Pij、Qmnについて、各受信振動子Rkに対する受信信号の列に適用する遅延量を算出して遅延処理部1047に出力する。
【0071】
vi)遅延処理部1047
遅延処理部1047は、受信開口Rx内の受信振動子Rkに対する受信信号の列から、各受信振動子Rkに対する遅延量に相当する受信信号を、観測点Pij、Qmnからの反射超音波に基づく各受信振動子Rkに対応する受信信号として同定する回路である。
【0072】
遅延処理部1047は、送信イベントに対応して、受信開口設定部1043から受信振動子Rkの位置を示す情報、データ格納部107から受信振動子Rkに対応する受信信号、対象領域設定部1042から取得した対象領域の位置を示す情報、遅延量算出部1046から各受信振動子Rkに対する受信信号の列に適用する遅延量を入力として取得する。そして、各受信振動子Rkに対応する受信信号の列から、各受信振動子Rkに対する遅延量を差引いた時間に対応する受信信号を観測点Pij、Qmnからの反射波に基づく受信信号として同定し、加算部1049に出力する。
【0073】
vii)重み算出部1048
重み算出部1048は、受信開口Rxの列方向の中心に位置する振動子に対する重みが最大となるよう各受信振動子Rkに対する重み数列(受信アポダイゼーション)を算出する回路である。
【0074】
図6に示すように、重み数列は受信開口Rx内の各振動子に対応する受信信号に適用される重み係数の数列である。重み数列は、送信フォーカス点Fを中心として対称な分布をなす。重み数列の分布の形状は、ハミング窓、ハニング窓、矩形窓などを用いることができ、分布の形状は特に限定されない。重み数列は、受信開口Rxの列方向の中心に位置する振動子に対する重みが最大となるように設定され、重みの分布の中心軸は、受信開口中心軸Rxoと一致する。重み算出部1048は、受信開口設定部1043から出力される受信振動子Rkの位置を示す情報を入力として、各受信振動子Rkに対する重み数列を算出し加算部1049に出力する。
【0075】
viii)加算部1049
加算部1049は、遅延処理部1047から出力される各受信振動子Rkに対応して同定された受信信号を入力として、それらを加算して、観測点Pij、Qmnに対する整相加算された音響線信号を生成する回路である。あるいは、さらに、重み算出部1048から出力される各受信振動子Rkに対する重み数列を入力として、各受信振動子Rkに対応して同定された受信信号に、各受信振動子Rkに対する重みを乗じて加算して、観測点Pij、Qmnに対する音響線信号を生成する構成としてもよい。遅延処理部1047において受信開口Rx内に位置する各受信振動子Rkが検出した受信信号の位相を整えて加算部1049にて加算処理をすることにより、観測点Pij、Qmnからの反射波に基づいて各受信振動子Rkで受信した受信信号を重ね合わせてその信号S/N比を増加し、観測点Pij、Qmnからの受信信号を抽出することができる。
【0076】
1回の送信イベントとそれに伴う処理から、対象領域内の全ての観測点Pij、Qmnについて音響線信号を生成することができる。そして、
図10、
図11に示すように、送信イベントに同期して送信開口Txを列方向に移動ピッチMpだけ移動させながら超音波送信を繰り返し、プローブ101に存する全ての振動子101aから超音波送信を行うことにより1フレームの合成された音響線信号であるフレーム音響線信号を生成する。
【0077】
また、フレーム音響線信号を構成する観測点ごとの合成された音響線信号を、以後、「合成音響線信号」と称呼する。
【0078】
加算部1049により、送信イベントに同期して対象領域内に存在する全ての観測点Pij、Qmnに対するサブフレーム音響線信号が生成される。以下、観測点Pijに対するサブフレーム音響線信号を「主領域音響線信号」、観測点Qmnに対するサブフレーム音響線信号を「副領域音響線信号」と呼ぶ。生成されたサブフレーム音響線信号は、データ格納部107に出力され保存される。
【0079】
(3)合成部1140
合成部1140は、送信イベントに同期して生成されるサブフレーム音響線信号からフレーム音響線信号を合成する回路である。
図9は、合成部1140の構成を示す機能ブロック図である。
図9に示すように、合成部1140は、加算処理部11401-1、11401-2と、増幅処理部11402-1、11402-2、結合部11403を備える。加算処理部11401-1、11401-2は、それぞれ、フレーム音響線信号を合成するための一連のサブフレーム音響線信号の生成が終了したのち、データ格納部107に保持されている複数のサブフレーム音響線信号を読み出す。そして、各サブフレーム音響線信号に含まれる音響線信号が取得された観測点Pij、Qmnの位置を指標として複数のサブフレーム音響線信号を加算する。本実施の形態では、加算処理部11401-1は複数の主領域音響線信号を加算対象として主合成音響線信号を合成し、また、加算処理部11401-2は複数の副領域音響線信号を加算対象として副合成音響線信号を合成する。つまり、合成音響線信号は、主合成音響線信号と副合成音響線信号とで構成される。なお、観測点Pij、Qmnに対して主領域音響線信号と副領域音響線信号とが存在した場合においても、主領域音響線信号と副領域音響線信号との間の加算は行わない。
【0080】
以下、合成部1140を構成する各部の構成について説明する。
【0081】
i)加算処理部11401-1、11401-2
加算処理部11401-1は、フレーム音響線信号を合成するための一連のサブフレーム音響線信号の生成が終了したのち、データ格納部107に保持されている複数のサブフレーム音響線信号を読み出す。そして、各主領域音響線信号に含まれる音響線信号が取得された観測点Pijの位置を指標として複数のサブフレーム音響線信号を加算することにより、各観測点に対する合成音響線信号を生成して主部分音響線信号を合成する。同様に、加算処理部11401-2は、各副領域音響線信号に含まれる音響線信号が取得された観測点Qmnの位置を指標として複数のサブフレーム音響線信号を加算することにより、各観測点に対する合成音響線信号を生成して副部分音響線信号を合成する。そのため、複数のサブフレーム音響線信号に含まれる同一位置の観測点に対する音響線信号は加算されて合成音響線信号が生成される。なお、以下、加算処理部11401-1と加算処理部11401-2とを区別しないときは、加算処理部11401と表記する。
【0082】
図12は、加算処理部11401における合成音響線信号を合成する処理を示す模式図である。上述のとおり、送信イベントに同期して送信振動子列(送信開口Tx)に用いる振動子を振動子列方向に振動子1つ分だけ異ならせて超音波送信が順次行われる。そのため、異なる送信イベントに基づく対象領域Bx、Cxも送信イベントごとに同一方向に振動子1つ分だけ位置が異なる。複数のサブフレーム音響線信号を、各サブフレーム音響線信号に含まれる音響線信号が取得された観測点PijおよびQmnの位置を指標として加算することにより、全ての対象領域を網羅したフレーム音響線信号が合成される。
【0083】
また、位置の異なる複数の対象領域にまたがって存在する観測点Pij、Qmnについては、各サブフレーム音響線信号における音響線信号の値が加算されるので、合成音響線信号は、跨りの程度に応じて大きな値を示す。以後、観測点Pij、Qmnが異なる対象領域に含まれる回数を「重畳数」、振動子列方向における重畳数の最大値を「最大重畳数」と称する。
【0084】
また、本実施の形態では、主領域Bxは砂時計形状の領域内に存在する。そのため、
図13(a)に示すように、重畳数及び最大重畳数は被検体の深さ方向において変化するので、合成音響線信号の値も同様に深さ方向において変化する。なお、図示はしないが、副領域Cxにおいても、重畳数及び最大重畳数は被検体の深さ方向において変化する。
【0085】
なお、各サブフレーム音響線信号に含まれる音響線信号が取得された観測点Pij、Qmnの位置を指標として加算する際に、観測点Pij、Qmnの位置を指標として重みづけしながら加算してもよい。
【0086】
合成されたフレーム音響線信号は増幅処理部11402に出力される。
【0087】
ii)増幅処理部11402-1、11402-2
上述のとおり、合成音響線信号の値は被検体の深さ方向において変化する。これを補うために、増幅処理部11402は、フレーム音響線信号に含まれる合成音響線信号の合成において、加算が行われた回数に応じて決定した増幅率を各合成音響線信号に乗じる増幅処理を行う。
【0088】
図13(b)は、増幅処理部11402における増幅処理の概要を示す模式図である。
図13(b)に示すように、最大重畳数は被検体の深さ方向において変化するので、この変化を補うように、最大重畳数に応じて決定された被検体深さ方向において変化する増幅率が合成音響線信号に乗じられる。これにより、深さ方向における重畳数の変化に伴う合成音響線信号の変動要因は解消され、増幅処理後の合成音響線信号の値は深さ方向において均一化が図られる。
【0089】
また、重畳数に応じて決定された振動子列方向において変化する増幅率を合成音響線信号に乗じる処理を行ってもよい。振動子列方向において重畳数が変化する場合に、その変動要因を解消し、振動子列方向において増幅処理後の合成音響線信号の値の均一化が図られる。
【0090】
なお、生成した各観測点に対する合成音響線信号に増幅処理を施した信号をフレーム音響線信号としてもよい。
【0091】
iii)結合部11403
結合部11403は、フレーム音響線信号を合成するための主部分音響線信号と副部分音響線信号とを結合してフレーム音響線信号を生成する。
【0092】
結合部11403は、画像化主領域Hx内の観測点Pについては、主部分音響線信号の値を、観測点Pにおけるフレーム音響線信号の値とする。一方、追加領域Ha、Hb内の観測点Qについては、以下のようにフレーム音響線信号を作成する。観測点Qについて、対応する主部分音響線信号が存在しない場合、副部分音響線信号の値を、観測点Qにおいけるフレーム音響線信号の値とする。一方、対応する主部分音響線信号と副部分音響線信号のいずれも存在する場合には、主部分音響線信号および副部分音響線信号のいずれか一方、または両方を用いて観測点Qにおけるフレーム音響線信号の値を算出する。本実施の形態においては、主部分音響線信号の値を、観測点Qにおけるフレーム音響線信号の値とする。このようにすることで、主領域Bx内の観測点Pとして取得された主領域音響線信号のみに基づいてフレーム音響線信号の値を算出することができ、空間分解能や信号S/N比を向上させることができる。ただし、フレーム音響線信号の値の算出方法は、主部分音響線信号と副部分音響線信号とに基づく値、例えば、相加平均、相乗平均や一次結合であってもよい。このようにすることで、フレーム音響線信号の値が急激に変化し、領域の界面において画質の向上が十分とならないことを避けることができる。
【0093】
生成されたフレーム音響線信号は、データ格納部107に出力され保存される。
【0094】
<動作>
以上の構成からなる超音波診断装置100の動作について説明する。
【0095】
図14は、受信ビームフォーマ部104のビームフォーミング処理動作を示すフローチャートである。
【0096】
先ず、ステップS101において、送信部1031は、プローブ101に存する複数の振動子101a中送信開口Txに含まれる各振動子に超音波ビームを送信させるための送信信号を供給する送信処理(送信イベント)を行う。
【0097】
次に、ステップS102において、受信部1040は、プローブ101での超音波反射波の受信から得た電気信号に基づき受信信号を生成しデータ格納部107に出力し、データ格納部107に受信信号を保存する。プローブ101に存する全ての振動子101aから超音波送信が完了したか否かを判定する(ステップS103)。そして、完了していない場合にはステップS101に戻り、送信開口Txを列方向に移動ピッチMpだけ移動させながら送信イベントを行い、完了している場合にはステップS201に進む。
【0098】
次に、ステップS210において、対象領域設定部1042は、送信イベントに同期して、仮想送信開口Tvの位置を示す情報に基づき主領域Bx、副領域Cxを設定する。1回目のループでは、
図10(a)に示されるように、初回の送信イベントにおける仮想送信開口Tvから求められる主領域Bx、副領域Cxが設定される。
【0099】
次に、観測点同期型ビームフォーミング処理(ステップS220(S221~S228))に進む。ステップS220では、まず、観測点Pij、Qmnの位置を示す座標ij、mnを主領域Bx、副領域Cx内の最小値に初期化し(ステップS221、S222)、受信開口設定部1043は、列中心が観測点Pij、Qmnに最も空間的に近接する振動子Xkと合致するよう受信開口Rx振動子列を選択する(ステップS223)。
【0100】
次に、観測点Pijについて音響線信号を生成する(ステップS224)。
【0101】
ここで、ステップS224における、観測点Pijについて音響線信号を生成する動作について説明する。
図15は、受信ビームフォーマ部104における観測点Pij、Qmnについての音響線信号生成動作を示すフローチャートである。
図16は、受信ビームフォーマ部104における観測点Pij、Qmnについての音響線信号生成動作を説明するための模式図である。
【0102】
まず、ステップS2241において、送信時間算出部1044は、主領域Bx内に存在する任意の観測点Pijおよび副領域Cx内に存在する任意の観測点Qmnについて、送信された超音波が被検体中の観測点PijまたはQmnに到達する送信時間を算出する。送信時間は、上述したように、観測点Pijについては、(1)観測点Pijがフォーカス深さより深い場合は、幾何学的に定まる仮想送信開口Tvの中心から送信フォーカス点Fを経由して観測点Pijに至る経路(401+402)の長さを超音波の音速csで除することにより、(2)観測点Pijがフォーカス深さより浅い場合には、幾何学的に定まる、幾何学的に定まる仮想送信開口Tvの中心から送信フォーカス点Fに至る経路と観測点Pijからフォーカス点に至る経路との差分(401-402)の長さを、超音波の音速csで除することにより、算出できる。観測点Qmnについては、(a)幾何学的に定まる仮想送信開口Tvの中心から観測点Qmnに至る経路(411)の長さを超音波の音速csで除することにより算出した時間、(b)上述の(1)または(2)で算出した送信時間、(c)幾何学的に定まる仮想送信開口Tvの中心から観測点Qmnと同じ深さの参照点Rに至る経路(412)の長さを超音波の音速csで除することにより算出した時間、のうち、(a)と、(b)と(c)のうち少なくとも一方を用いた一次結合により算出できる。
【0103】
次に受信開口Rxから求められる受信開口Rx内の受信振動子Rkの位置を示す座標kを受信開口Rx内の最小値に初期化し(ステップS2242)、送信された超音波が被検体中の観測点Pijで反射され受信開口Rxの受信振動子Rkに到達する受信時間を算出する(ステップS2243)。受信時間は、幾何学的に定まる観測点Pij、Qmnから受信振動子Rkまでの経路403の長さを超音波の音速csで除することにより算出できる。さらに、送信時間と受信時間の合計から、送信開口Txから送信された超音波が観測点Pij、Qmnで反射して受信振動子Rkに到達するまでの総伝播時間を算出し(ステップS2244)、受信開口Rx内の各受信振動子Rkに対する総伝播時間の差異により、各受信振動子Rkに対する遅延量を算出する(ステップS2245)。
【0104】
受信開口Rx内に存在する全ての受信振動子Rkについて遅延量の算出を完了したか否かを判定し(ステップS2246)、完了していない場合には座標kをインクリメント(ステップS2247)して、更に受信振動子Rkについて遅延量の算出を行い(ステップS2243)、完了している場合にはステップS2248に進む。この段階では、受信開口Rx内に存在する全ての受信振動子Rkについて観測点Pij、Qmnからの反射波到達の遅延量が算出されている。
【0105】
ステップS2248において、遅延処理部1047は、受信開口Rx内の受信振動子Rkに対応する受信信号の列から、各受信振動子Rkに対する遅延量を差引いた時間に対応する受信信号を観測点Pij、Qmnからの反射波に基づく受信信号として同定する。
【0106】
次に、重み算出部1048は、受信開口Rxの列方向の中心に位置する振動子に対する重みが最大となるよう各受信振動子Rkに対する重み数列を算出する(ステップS2249)。加算部1049は、各受信振動子Rkに対応して同定された受信信号に、各受信振動子Rkに対する重みを乗じて加算して、観測点Pij、Qmnに対する音響線信号を生成し(ステップS2250)、生成された観測点Pij、Qmnに対する音響線信号はデータ格納部107に出力され保存される(ステップS2251)。
【0107】
次に、
図14に戻り、座標ij、mnをインクリメントしてステップS223、S224を繰り返すことにより、主領域Bx内の座標ijに位置する全ての観測点Pij(
図15中の「・」)、副領域Cx内の座標mnに位置する全ての観測点Qmnについて音響線信号が生成される。対象領域内に存在する全ての観測点について音響線信号の生成を完了したか否かを判定し(ステップS225、S227)、完了していない場合には座標ij、mnをインクリメント(ステップS226、S228)して、観測点Pij、Qmnについて音響線信号を生成し(ステップS224)、完了した場合にはステップS230に進む。この段階では、1回の送信イベントに伴う対象領域に存在する全ての観測点Pij、Qmnについてのサブフレームの音響線信号が生成され、データ格納部107に出力され保存されている。
【0108】
次に、全ての送信イベントについて、サブフレームの音響線信号の生成が終了したか否かを判定し(ステップS230)、終了していない場合には、ステップS210に戻り、観測点Pij、Qmnの位置を示す座標ij、mnを、次の送信イベントでの仮想送信開口Tvから求められる対象領域内の最小値に初期化し(ステップS221、S222)、受信開口Rxを設定(ステップS223)、音響線信号の作成(ステップS224)を行い、終了している場合にはステップS301に進む。
【0109】
次に、ステップS301において、加算処理部11401は、データ格納部107に保持されている複数のサブフレーム音響線信号を読み出し、観測点Pij、Qmnの位置を指標として複数のサブフレーム音響線信号を加算して各観測点Pij、Qmnに対する合成音響線信号を生成して主部分音響線信号、副部分音響線信号を合成する。次に、増幅処理部11402は、主部分音響線信号、副部分音響線信号のそれぞれに含まれる各合成音響線信号の加算回数に応じて決定された増幅率を各合成音響線信号に乗じ(ステップS302)、増幅された主部分音響線信号、副部分音響線信号を結合部11403に出力する。次に、結合部11403は、主部分音響線信号と副部分音響線信号とを結合してフレーム音響線信号を生成し(ステップS303)、超音波画像生成部105及びデータ格納部107に出力して(ステップS304)、処理を終了する。
【0110】
<まとめ>
以上、説明したように本実施の形態に係る超音波診断装置100によれば、合成開口法により、異なる送信イベントにより生成された同一位置にある観測点についての音響線信号に重ね合わせて合成する。これにより、複数の送信イベントに対して送信フォーカス点F以外の深度にある観測点においても、仮想的に送信フォーカスを行った効果が得られ空間分解能と信号S/N比を向上することができる。
【0111】
また、超音波診断装置100では、追加領域においては、少なくとも幾何学的に定まる仮想送信開口Tvの中心から観測点Qmnに至る経路(411)の長さを超音波の音速csで除することにより算出した時間に基づいて送信時間を算出する。これにより、フォーカス深さ近傍の観測点や画像化主領域Hxから素子列方向に離れた観測点において遅延処理における誤差を低減し信号S/N比を向上させた音響線信号を得ることができる。一方で、主領域Bxに近接する観測点においては主領域Bxと同様の方法で算出した送信時間に基づいて送信時間を算出することにより、主領域Bxと副領域Cxとの境界が顕在化することを避けることができる。したがって、画像化主領域Hxのみを画像化する場合と比べて送信イベント数を追加することなく、かつ、画像化主領域Hxと追加領域Ha、Hbとの境界ならびに追加領域Ha内、Hb内における画質の急激な変化を抑制しながら、画像化領域を素子列方向に拡大することができる。
【0112】
また、超音波診断装置100では、受信開口設定部1043は、列中心が観測点に最も空間的に近接する振動子と合致するよう受信開口Rx振動子列を選択し、送信イベントに依存せず観測点の位置に基づいて、観測点を中心として対称な受信開口を用いて受信ビームフォーミングを行う。そのため、送信フォーカス点Fを横軸方向に変化(移動)させる送信イベントに同期せず、受信開口の位置が一定となり、異なる送信イベントにおいても同一の観測点に対して同一の受信開口にて整相加算を行うことができる。併せて、観測点からの反射波を、観測点から距離が小さい振動子ほど大きな重み数列が適用されることができるので、超音波が伝播距離に依存して減衰することを鑑みても、観測点に対して最も感度よく反射波を受信することができる。その結果、局所的に高い空間分解能と信号S/N比を実現できる。
【0113】
≪変形例1≫
実施の形態1に係る超音波診断装置100では、受信開口設定部1043は、列中心が観測点に最も空間的に近接する振動子と合致するよう受信開口Rxを選択する構成とした。しかしながら、受信開口Rxの構成は、送信開口Txから送信された超音波が送信フォーカス点Fを経由して対象領域内の観測点で反射され受信開口Rxの受信振動子Rkに到達するまでの総伝播時間を算出して総伝播経路に基づく遅延制御を行なうことで、対象領域内の全ての観測点についての音響線信号を生成するものであればよく、受信開口Rxの構成は適宜変更することができる。
【0114】
変形例1では、列中心が送信開口中心と合致する受信開口Rx振動子列を選択する送信同期型受信開口設定部(以後、「Tx受信開口設定部」)を備えた点で実施の形態1と相違する。Tx受信開口設定部以外の構成については、実施の形態1に示した各要素と同じであり、同じ部分については説明を省略する。
【0115】
図17は、Tx受信開口設定部により設定された仮想受信開口Rv、受信開口Rxと仮想送信開口Tv、送信開口Txとの関係を示す模式図である。変形例1では、仮想受信開口Rvの列中心が送信開口中心と合致するように仮想受信開口Rvが選択される。仮想受信開口Rvの中心軸Rxoの位置は、仮想送信開口Tvの中心軸Txoの位置と同一であり、仮想受信開口Rvは、送信フォーカス点Fを中心として対称な開口である。したがって、送信イベントにごとに列方向に移動する仮想送信開口Tvの位置変化に同期して、仮想受信開口Rvの位置も移動する。仮想送信開口Rvのうち、振動子列101a上の振動子の存在する範囲が、受信開口Rxとなる。
【0116】
また、仮想受信開口Rvの中心軸Rxo及び仮想送信開口Tvの中心軸Txo上に位置する振動子に対する重みが最大となるよう受信開口Rxの各受信振動子Rkに対する重み数列(受信アポダイゼーション)は算出される。重み数列は、送信開口中心を中心として対称な分布をなす。重み数列の分布の形状は、ハミング窓、ハニング窓、矩形窓などを用いることができ、分布の形状は特に限定されない。
【0117】
<動作>
図18は、変形例1に係る超音波診断装置の受信ビームフォーマ部のビームフォーミング処理動作を示すフローチャートである。本フローチャートでは、
図14における観測点同期型ビームフォーミング処理(ステップS220(S221~S228))に替えて送信同期型ビームフォーミング処理(ステップS420(S421~S428))を行う点にて相違する。ステップS420以外の処理については、
図14と同じであり、同じ部分については説明を省略する。
【0118】
ステップS420の処理において、先ず、ステップS421では、Tx受信開口設定部は、送信イベントに対応して列中心が送信開口中心の列中心と合致する振動子列を仮想受信振動子Rvとして選択して受信開口Rxを設定する。
【0119】
次に、ステップS210で算出した対象領域内の観測点Pij、Qmnの位置を示す座標ij、mnを対象領域内の最小値に初期化し(ステップS422、S423)、観測点Pij、Qmnについて音響線信号を生成する(ステップS424)。
図18は、変形例1に係る受信ビームフォーマ部における観測点Pij、Qmnについての音響線信号生成動作を説明するための模式図である。実施の形態1に関する
図16とは、送信開口Txと受信開口Rxとの位置関係が異なる。ステップS424における処理方法については、
図11におけるステップS224(
図14におけるステップS2241~ステップS2251)と同じである。
【0120】
座標ij、mnをインクリメントしてステップS424を繰り返すことにより、対象領域内の座標ij、mnに位置する全ての観測点Pij(
図16中の「・」)、Qmnについて音響線信号が生成される。対象領域内に存在する全ての観測点Pij、Qmnについて音響線信号の生成を完了したか否かを判定し(ステップS425、S427)、完了していない場合には座標ij、mnをインクリメント(ステップS426、S428)して、観測点Pij、Qmnについて音響線信号を生成し(ステップS424)、完了している場合にはステップS230に進む。この段階で、1回の送信イベントに伴う対象領域内に存在する全ての観測点Pij、Qmnのサブフレームの音響線信号が生成されデータ格納部107に出力され保存されている。
【0121】
<効果>
以上説明した、変形例1に係る超音波診断装置では、実施の形態1において示した効果のうち観測点同期型の受信開口に関する部分を除いた効果に変えて、以下の効果を奏する。すなわち、変形例1では、Tx受信開口設定部は送信イベントに対応して列中心が送信開口中心と合致する振動子列を仮想受信開口Rvとして選択して受信開口Rxを設定する。そのため、仮想受信開口Rvの中心軸Rxoの位置は、仮想送信開口Tvの中心軸Txoの位置と同一であり、送信イベントごとに列方向に移動する送信開口中心の位置変化に同期して、受信開口Rxの位置も変化(移動)する。よって、送信イベントに同期してそれぞれ異なる受信開口にて整相加算を行うことができ、複数の送信イベントにわたって受信時刻は異なるものの、結果としてより一層広い受信開口を用いた受信処理の効果が得られ、広い観測領域で空間分解能を均一にすることができる。また、観測点Qmnについては、仮想受信開口Rvの中心軸Rxoの位置が振動子列101a上に存在することとなるため、最も大きな重み数列が適用される振動子が必ず存在することとなり、受信感度を向上させることができる。
【0122】
≪変形例2≫
実施の形態および変形例では、超音波プローブがリニアプローブである場合について説明した。
【0123】
しかしながら、本開示の内容は超音波プローブがリニアプローブである場合に限らず、任意の種類のプローブであってよい。
【0124】
変形例2に係る超音波診断装置は、超音波プローブとして、振動子が円弧上に配置された、いわゆるコンベックスプローブを用いることを特徴とする。
【0125】
変形例2に係る超音波診断装置では、
図20に示すように、画像化主領域Hxは、振動子列の表面たる円弧と、振動子列の一端を通り円弧と直交する直線と、振動子列の他端を通り円弧と直交する直線とで3方向を囲まれた、扇形から中心を同じくする小さな扇形を除いた形状の領域となる。また、追加領域Ha、Hbは、振動子の表面の円弧を延長した仮想的な円弧を一辺とする領域となる。送信イベントごとの、主領域Bx、副領域Cxについては、実施の形態と同様の方法により設定することができる。
【0126】
これにより、コンベックスプローブを用いる場合においても、画像化領域を素子列方向に拡大することができる。
【0127】
≪実施の形態に係るその他の変形例≫
(1)実施の形態および各変形例では、主領域Bx内の観測点Pについては、(a)観測点Pijがフォーカス深さより深い場合は、仮想送信開口Tvの中心から送信フォーカス点Fを経由して観測点Pijに至る経路の長さを超音波の音速csで除することにより、(b)観測点Pijがフォーカス深さより浅い場合には、仮想送信開口Tvの中心から送信フォーカス点Fに至る経路と観測点Pijからフォーカス点に至る経路との差分の長さを、超音波の音速csで除することにより、算出するとした。しかしながら、例えば、主領域Bx内の観測点Pのうち、追加領域Ha内または追加領域Hb内に存在し、かつ、フォーカス深さより浅い観測点については、副領域Cx内の観測点Qと同様の手法により算出するとしてもよい。また、この場合において、副領域Cxと主領域Bxとの境界のうちフォーカス深さより浅い領域については、境界近傍であっても送信時間T2の重み付け係数(1-α)を小さいまま、としてもよい。
【0128】
あるいは、副領域Cx内の観測点Qについては、受信時間T1をそのまま送信時間として適用してもよい。これにより、特にフォーカス点から遠い領域、深さの浅い領域について、遅延処理の精度を向上させることができる。
【0129】
(2)実施の形態および各変形例では、超音波プローブの振動子の配列を直線状(リニアプローブ)、円弧状(コンベックスプローブ)としたが、これに限られず、任意の配列であってよい。
【0130】
(3)実施の形態および各変形例では、画像化主領域と追加領域とからなる領域について超音波画像を生成するものとしたが、本発明はこの場合に限られない。例えば、素子列方向において追加領域よりさらに外側となる領域について、超音波ビームの出射方向を外側に変更して(ステアリング)画像化を行う、としてもよい。この場合においても、追加領域をステアリングにより画像化する場合と比べて送信イベントの回数を削減することが可能となるため、従来技術と比べて1フレームあたりの送信イベント回数を削減することができ、フレームレートの向上に奏功する。
【0131】
(4)なお、本発明を上記実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は、上記の実施の形態に限定されず、以下のような場合も本発明に含まれる。
【0132】
例えば、本発明は、マイクロプロセッサとメモリを備えたコンピュータシステムであって、上記メモリは、上記コンピュータプログラムを記憶しており、上記マイクロプロセッサは、上記コンピュータプログラムにしたがって動作するとしてもよい。例えば、本発明の超音波信号処理方法のコンピュータプログラムを有しており、このプログラムに従って動作する(又は接続された各部位に動作を指示する)コンピュータシステムであってもよい。
【0133】
また、上記超音波診断装置の全部、もしくは一部、また超音波信号処理装置の全部又は一部を、マイクロプロセッサ、ROM、RAM等の記録媒体、ハードディスクユニットなどから構成されるコンピュータシステムで構成した場合も本発明に含まれる。上記RAM又はハードディスクユニットには、上記各装置と同様の動作を達成するコンピュータプログラムが記憶されている。上記マイクロプロセッサが、上記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、各装置はその機能を達成する。
【0134】
また、上記の各装置を構成する構成要素の一部又は全部は、1つのシステムLSI(Large Scale Integration(大規模集積回路))から構成されているとしてもよい。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。これらは個別に1チップ化されてもよいし、一部又は全てを含むように1チップ化されてもよい。なお、LSIは、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。上記RAMには、上記各装置と同様の動作を達成するコンピュータプログラムが記憶されている。上記マイクロプロセッサが、上記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。例えば、本発明のビームフォーミング方法がLSIのプログラムとして格納されており、このLSIがコンピュータ内に挿入され、所定のプログラム(ビームフォーミング方法)を実施する場合も本発明に含まれる。
【0135】
なお、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサー(Reconfigurable Processor)を利用してもよい。
【0136】
さらには、半導体技術の進歩または派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。
【0137】
また、各実施の形態に係る、超音波診断装置の機能の一部又は全てを、CPU等のプロセッサがプログラムを実行することにより実現してもよい。上記超音波診断装置の診断方法や、ビームフォーミング方法を実施させるプログラムが記録された非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体であってもよい。プログラムや信号を記録媒体に記録して移送することにより、プログラムを独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしてもよい、また、上記プログラムは、インターネット等の伝送媒体を介して流通させることができるのは言うまでもない。
【0138】
上記実施形態に係る超音波診断装置では、記憶装置であるデータ格納部を超音波診断装置内に含む構成としたが、記憶装置はこれに限定されず、半導体メモリ、ハードディスクドライブ、光ディスクドライブ、磁気記憶装置、等が、超音波診断装置に外部から接続される構成であってもよい。
【0139】
また、ブロック図における機能ブロックの分割は一例であり、複数の機能ブロックを一つの機能ブロックとして実現したり、一つの機能ブロックを複数に分割したり、一部の機能を他の機能ブロックに移してもよい。また、類似する機能を有する複数の機能ブロックの機能を単一のハードウエア又はソフトウェアが並列又は時分割に処理してもよい。
【0140】
また、上記のステップが実行される順序は、本発明を具体的に説明するために例示するためのものであり、上記以外の順序であってもよい。また、上記ステップの一部が、他のステップと同時(並列)に実行されてもよい。
【0141】
また、超音波診断装置には、プローブ及び表示部が外部から接続される構成としたが、これらは、超音波診断装置内に一体的に具備されている構成としてもよい。
【0142】
また、上記実施の形態においては、プローブは、複数の圧電素子が一次元方向に配列されたプローブ構成を示した。しかしながら、プローブの構成は、これに限定されるものではなく、例えば、複数の圧電変換素子を二次元方向に配列した二次元配列振動子や、一次元方向に配列された複数の振動子を機械的に揺動させて三次元の断層画像を取得する揺動型プローブを用いてもよく、測定に応じて適宜使い分けることができる。例えば、2次元に配列されたプローブを用いた場合、圧電変換素子に電圧を与えるタイミングや電圧の値を個々に変化させることによって、送信する超音波ビームの照射位置や方向を制御することができる。
【0143】
また、プローブは、送受信部の一部の機能をプローブに含んでいてもよい。例えば、送受信部から出力された送信電気信号を生成するための制御信号に基づき、プローブ内で送信電気信号を生成し、この送信電気信号を超音波に変換する。併せて、受信した反射超音波を受信電気信号に変換し、プローブ内で受信電気信号に基づき受信信号を生成する構成を採ることができる。
【0144】
また、各実施の形態に係る超音波診断装置、及びその変形例の機能のうち少なくとも一部を組み合わせてもよい。更に上記で用いた数字は、全て本発明を具体的に説明するために例示するものであり、本発明は例示された数字に制限されない。
【0145】
さらに、本実施の形態に対して当業者が思いつく範囲内の変更を施した各種変形例も本発明に含まれる。
【0146】
≪まとめ≫
(1)実施の形態に係る超音波信号処理装置は、超音波プローブに列設された複数の振動子を選択的に駆動して被検体に超音波送信する送信イベントを複数回繰り返すとともに、各送信イベントに同期して被検体から反射超音波を受波し、受波した反射超音波に基づいて生成される複数のサブフレーム音響線信号からフレーム音響線信号を合成する超音波信号処理装置であって、1回の送信イベントにおいて前記複数の振動子から送信振動子列を選択し、前記送信振動子列から超音波が被検体中で集束するように送信し、各送信イベントに同期して、超音波を送信する送信振動子列が列方向に順次移動するよう選択する送信部と、各送信イベントに同期して前記複数の振動子から受信振動子列を選択し、前記受信振動子列が被検体内から受波した反射超音波に基づいて、前記受信振動子列の振動子各々に対する受信信号列を生成する受信部と、対応するフレーム音響線信号が形成されるべき被検体内の領域として画像化主領域と、前記画像化主領域に対して列方向に隣接する追加領域とを設定する画像化領域設定部と、前記送信イベントごとに、各観測点から得られた反射超音波に基づく前記受信信号列を整相加算して前記サブフレーム音響線信号を生成する整相加算部と、前記整相加算部が生成した前記複数のサブフレーム音響線信号に基づき、前記フレーム音響線信号を合成する合成部とを備え、前記整相加算部は、前記被検体内で超音波が集束するエリアに含まれる領域を含む主対象領域と、前記主対象領域に列方向に隣接する領域の一部または全部が前記追加領域内に存在する場合に前記追加領域内の当該部分である副対象領域とを、前記観測点を含む領域として設定し、前記画像化主領域内かつ前記主対象領域内の観測点と前記副対象領域に含まれる観測点との間で、送信された超音波が観測点に到達する送信時間の算出方法を異ならせることを特徴とする。
【0147】
また、実施の形態に係る超音波信号処理方法は、超音波プローブに列設された複数の振動子を選択的に駆動して被検体に超音波送信する送信イベントを複数回繰り返すとともに、各送信イベントに同期して被検体から反射超音波を受波し、受波した反射超音波に基づいて生成される複数のサブフレーム音響線信号からフレーム音響線信号を合成する超音波信号処理方法であって、1回の送信イベントにおいて前記複数の振動子から送信振動子列を選択し、前記送信振動子列から超音波が被検体中で集束するように送信し、各送信イベントに同期して、超音波を送信する送信振動子列が列方向に順次移動するよう選択し、各送信イベントに同期して前記複数の振動子から受信振動子列を選択し、前記受信振動子列が被検体内から受波した反射超音波に基づいて、前記受信振動子列の振動子各々に対する受信信号列を生成し、前記送信イベントごとに、各観測点から得られた反射超音波に基づく前記受信信号列を整相加算して前記サブフレーム音響線信号を生成し、前記整相加算部が生成した前記複数のサブフレーム音響線信号に基づき、前記フレーム音響線信号を合成する超音波信号処理方法であって、前記サブフレーム音響線信号を生成する際に、前記被検体内で超音波が集束するエリアに含まれる領域を含む主対象領域と、前記主対象領域に列方向に隣接する領域の一部または全部が前記追加領域内に存在する場合に前記追加領域内の当該部分である副対象領域とを、前記観測点を含む領域として設定し、前記画像化主領域内かつ前記主対象領域内の観測点と前記副対象領域に含まれる観測点との間で、送信された超音波が観測点に到達する送信時間の算出方法を異ならせることを特徴とする。
【0148】
上記構成又は方法によれば、フレームレートを低下させることなく、かつ、空間解像度とS/N比を低下させることなく、追加領域の面積だけ画像化領域を拡大することができる。
【0149】
(2)また、上記(1)の超音波信号処理装置は、前記整相加算部は、前記主対象領域に含まれる観測点について、前記観測点の深さが前記フォーカス深さより深い位置の場合は、送信された超音波が前記主対象領域内であって前記フォーカス深さにある基準点に到達するまでの第1時間に、超音波が前記基準点から前記観測点に到達するまでの第2時間を加算して算出した到達時間を、前記観測点の深さが前記フォーカス深さ未満の場合は、前記第1時間から前記第2時間を減算して算出した到達時間を、前記観測点についての前記送信時間とする、としてもよい。
【0150】
上記構成によれば、主対象領域内の観測点について、誤差の小さい遅延処理を行うことにより、音響線信号のS/N比を向上させることができる。
【0151】
(3)また、上記(1)または(2)の超音波信号処理装置は、前記整相加算部は、前記副対象領域に含まれる観測点について、送信された超音波が前記フォーカス点に最近接する前記送信振動子列上の点から前記観測点に到達するまでの時間を、前記観測点についての前記送信時間とする、としてもよい。
【0152】
上記構成によれば、副対象領域内の観測点について、特にフォーカス点から遠い領域において誤差の小さい遅延処理を行うことにより、音響線信号のS/N比を向上させることができる。
【0153】
(4)また、上記(1)または(2)の超音波信号処理装置は、前記整相加算部は、前記副対象領域に含まれる観測点について、送信された超音波が前記フォーカス点に最近接する前記送信振動子列上の点から前記観測点に到達するまでの時間をT1とし、前記観測点の深さが前記フォーカス深さより深い位置の場合は、送信された超音波が前記主対象領域に含まれ前記フォーカス深さにある基準点に到達するまでの第3時間に、超音波が前記基準点から前記観測点に到達するまでの第4時間を加算して算出した時間、前記観測点の深さが前記フォーカス深さ未満の場合は、前記第3時間から前記第4時間を減算して算出した時間をT2としたとき、前記送信時間TMを、数式TM=αT1+(1-α)T2を用いて算出し、αの値は、0より大きく1以下である、としてもよい。
【0154】
上記構成によれば、副対象領域内の観測点について、特にフォーカス点から遠い領域において誤差の小さい遅延処理を行うことにより音響線信号のS/N比を向上させることができるとともに、主対象領域と副対象領域との境界で送信時間が大きく変化することを抑止し、画質向上が不十分となることを抑止することができる。
【0155】
(5)また、上記(1)または(2)の超音波信号処理装置は、前記整相加算部は、前記副対象領域に含まれる観測点について、送信された超音波が前記フォーカス点に最近接する前記送信振動子列上の点から前記観測点に到達するまでの時間をT1とし、前記観測点の深さが前記フォーカス深さより深い位置の場合は、送信された超音波が前記主対象領域に含まれ前記フォーカス深さにある基準点に到達するまでの第3時間に、超音波が前記基準点から前記観測点に到達するまでの第4時間を加算して算出した時間、前記観測点の深さが前記フォーカス深さ未満の場合は、前記第3時間から前記第4時間を減算して算出した時間をT2とし、送信された超音波が前記超音波振動子列の列中心から前記観測点と同じ深さで且つ前記超音波振動子列の列中心に最近接する第2基準点に到達するまでの時間とT3としたとき、前記送信時間TMを、数式TM=αT1+(1-α)βT2+(1-α)(1-β)T3を用いて算出し、αの値は、0より大きく1以下であり、βの値は、0以上1以下である、としてもよい。
【0156】
上記構成によれば、副対象領域内の観測点について、特にフォーカス点から遠い領域において誤差の小さい遅延処理を行うことにより音響線信号のS/N比を向上させることができるとともに、フォーカス深さ近傍、及び、主対象領域と副対象領域との境界で送信時間が大きく変化することを抑止し、画質向上が不十分となることを抑止することができる。
【0157】
(6)また、上記(5)の超音波信号処理装置は、前記βの値は、対応する観測点の深さと前記フォーカス深さとの差異が大きくなるほど大きくなる、としてもよい。
【0158】
上記構成により、フォーカス深さ近傍において送信時間が大きく変化することを抑止し、画質向上が不十分となることを抑止することができる。
【0159】
(7)また、上記(5)または(6)の超音波信号処理装置は、前記αの値は、対応する観測点の深さと前記フォーカス深さとの差異が大きくなるほど小さくなる、としてもよい。
【0160】
上記構成により、主対象領域と副対象領域との境界で送信時間が大きく変化することを抑止し、画質向上が不十分となることを抑止することができる。
【0161】
(8)また、上記(1)~(7)の超音波信号処理装置は、前記主対象領域は、前記フォーカス点に最近接する前記送信振動子列上の点と、前記フォーカス点とを結ぶ直線に対して線対称の形状を有する、としてもよい。
【0162】
上記構成により、合成部における合成回数が素子列方向においてほぼ均等となるため、音響線信号のS/N比および空間解像度のばらつきを抑止することができる。
【0163】
(9)また、上記(8)の超音波信号処理装置は、前記送信振動子列が前記超音波プローブの端部の振動子を含まない送信イベントにおいて、前記主対象領域は、前記フォーカス点と前記送信振動子列の一端とを結ぶ直線と、前記フォーカス点と前記送信振動子列の他端とを結ぶ直線との間に位置する領域である、としてもよい。
【0164】
上記構成により、主対象領域における超音波の利用効率を向上させるとともに、合成部における合成回数を最大化させることで、音響線信号のS/N比および空間解像度を向上させることができる。
【0165】
(10)また、上記(8)または(9)の超音波信号処理装置は、前記送信振動子列が前記超音波プローブの端部の振動子を含む送信イベントにおいて、前記振動子列を延長した仮想線上に、前記送信振動子列のうち前記超音波プローブの端部とは異なる端部を一方の端として、前記フォーカス点に最近接する前記送信振動子列上の点を中点とする仮想送信振動子列を仮定したとき、前記主対象領域は、前記フォーカス点と前記仮想送信振動子列の一端とを結ぶ直線と、前記フォーカス点と前記仮想送信振動子列の他端とを結ぶ直線との間に位置する領域である、としてもよい。
【0166】
上記構成により、追加領域内に設定される主対象領域において、超音波の利用効率を向上させるとともに、合成部における合成回数を最大化させることで、音響線信号のS/N比および空間解像度を向上させることができる。
【0167】
(11)また、上記(10)の超音波信号処理装置は、前記追加領域は、列方向における前記フォーカス点の位置が前記追加領域に最も近づく送信イベントにおいて前記仮想送信振動子列のうち前記送信振動子列に含まれない部分を底辺とする領域である、としてもよい。
【0168】
上記構成により、追加領域内に副対象領域のみならず主対象領域も設定されるため、音響線信号のS/N比および空間解像度を向上させることができる。
【0169】
(12)また、上記(1)~(11)の超音波信号処理装置は、前記追加領域と前記画像化主領域との境界線と、前記フォーカス点と前記送信振動子列の一端とを結ぶ直線との列方向の距離をmとしたとき、前記第1領域は、前記追加領域を列方向に沿ってmだけシフトした領域から前記主対象領域との重複領域を除いた領域である、としてもよい。
【0170】
上記構成により、追加領域内においても、合成開口法による音響線信号のS/N比および空間解像度の向上効果を最大限享受することができる。
【0171】
(13)また、上記(1)~(12)の超音波信号処理装置は、前記整相加算部は、前記画像化主領域と前記追加領域とのそれぞれの範囲と、前記フォーカス点の位置によって定まる前記第1領域の範囲とに基づいて前記副対象領域が空領域であるか否かを判定するための情報を保持し、前記情報を用いて前記副対象領域が空領域であると判定した送信イベントにおいて、前記副対象領域を設定せず前記主対象領域のみを設定する、としてもよい。
【0172】
上記構成により、副対象領域が空領域となる場合には第1領域を仮定する必要がなくなり、演算量の低減に奏功する。
【0173】
(14)また、上記(1)~(13)の超音波信号処理装置は、前記合成部は、前記画像化主領域に含まれる観測点について、前記主対象領域に対応する前記サブフレーム音響線信号を観測点の位置に基づいて合成することでフレーム音響線信号を生成する、としてもよい。
【0174】
上記構成により、主対象領域内については、S/N比の高い主対象領域に係る音響線信号に基づいてフレーム音響線信号を生成することができる。
【0175】
(15)実施の形態に係る超音波画像表示方法は、表示部が接続可能であって、上記(1)の超音波信号処理方法を実行する超音波信号処理装置における超音波画像表示方法であって、前記フレーム音響線信号を超音波画像に変換して前記表示部に表示する。
【0176】
上記方法により、ユーザに対し視野角の広い超音波診断装置を提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本開示にかかる超音波信号処理装置、超音波診断装置、超音波信号処理方法、プログラム、及びコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体は、従来の超音波診断装置の画像化領域の拡大による使用上の視野拡大に有用である。
【符号の説明】
【0178】
1000 超音波診断システム
100 超音波診断装置
150 超音波信号処理装置
101 プローブ
102 マルチプレクサ部
103 送信ビームフォーマ部
1031 送信部
104 受信ビームフォーマ部
1040 受信部
1041 整相加算部
1042 対象領域設定部
1043 受信開口設定部
1044 送信時間算出部
1045 受信時間算出部
1046 遅延量算出部
1047 遅延処理部
1048 重み算出部
1049 加算部
1140 合成部
11401 加算処理部
11402 増幅処理部
11403 結合部
105 超音波画像生成部
106 表示部
107 データ格納部
108 制御部