(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】フーリエ変換型分光光度計
(51)【国際特許分類】
G01J 3/45 20060101AFI20220208BHJP
【FI】
G01J3/45
(21)【出願番号】P 2017226101
(22)【出願日】2017-11-24
【審査請求日】2020-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【氏名又は名称】吉本 力
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【氏名又は名称】新宅 将人
(72)【発明者】
【氏名】上掛 惟史
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-000427(JP,A)
【文献】実開平02-050649(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00- G01J 3/51
G01J 1/00- G01J 1/06
G01N 21/00- G01N 21/01
G01N 21/17- G01N 21/61
G01B 9/02- G01B 9/029
G01B 11/00- G01B 11/30
G02B 7/00
G02B 7/18- G02B 7/24
G02B 26/10- G02B 26/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動鏡が取り付けられ
、2つの傾斜面を有する三角形状の第1溝が形成された可動部と、
前記可動部をスライド可能に保持
し、2つの傾斜面を有する三角形状の第2溝が形成された保持部と、
外力が加わっていない状態で前記
第1溝及び前記
第2溝に対して遊び空間を有するように、前記
第1溝内かつ前記
第2溝内に設けられ、前記保持部に対して前記可動部がスライドする際に転動する転動体と、
前記可動部及び前記保持部の少なくとも一方に、前記可動部のスライド方向に対して交差する方向に外力を加えることにより、前記可動部と前記保持部との間で前記転動体が移動するのを阻止する外力付与部とを備え、
前記外力付与部による外力が前記可動部及び前記保持部の少なくとも一方に加わったときに、
前記第1溝を構成する2つの傾斜面および前記第2溝を構成する2つの傾斜面のいずれかに前記転動体が接していても、いずれか1つの傾斜面は前記転動体に接することなく隙間を形成することを特徴とするフーリエ変換型分光光度計。
【請求項2】
前記可動部は、待機位置から前記スライド方向に沿ってスライド可能であり、
前記外力付与部は、前記可動部に対して、前記待機位置側に向かって外力を加えることを特徴とする請求項1に記載のフーリエ変換型分光光度計。
【請求項3】
前記外力付与部により外力が加えられる前記可動部を、前記待機位置において停止させるストッパをさらに備えることを特徴とする請求項2に記載のフーリエ変換型分光光度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライド可能な移動鏡を備えるフーリエ変換型分光光度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フーリエ変換型赤外分光光度計(FTIR)では、試料室内の試料に対して赤外光が照射され、試料からの透過光又は反射光が検出器で検出される。そして、その検出信号に基づいて演算を行うことによりスペクトルを得ることができる。試料室内の試料に照射する赤外光は、移動鏡、固定鏡及びビームスプリッタからなるマイケルソン干渉計を用いて干渉光とされた上で、試料室内に出射される(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
フーリエ変換型赤外分光光度計において、移動鏡は、例えば、ガイド上にスライド移動可能な状態で設けられている。移動鏡は、ボイスコイルモータ等の駆動源から駆動力が付与されることでスライド移動する。
【0004】
移動鏡とガイドとは、組み付けの際に、移動鏡とガイドとの係合状態が調整されており、移動鏡とガイドとの係合部分に予圧がかけられている。これにより、移動鏡とガイドとの係合部分で生じる微細な隙間が調整されている。そして、移動鏡をガイドに対して移動させる際には、移動鏡とガイドとの間で抵抗力が生じることとなる。
このようにして生じる抵抗力と、駆動源からの駆動力とを調整することで、移動鏡の移動速度を調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような従来のフーリエ変換型赤外分光光度計において、移動鏡の円滑な移動が阻害されるという不具合が生じることがあった。
【0007】
具体的には、移動鏡とガイドとの係合部分にかけられる予圧が大きすぎる場合には、移動鏡とガイドとの係合状態が強くなりすぎるため、移動鏡とガイドとの間で生じる抵抗力が必要以上に大きくなる。そのため、移動鏡がスライド移動しにくく、移動鏡の移動速度を所定精度以上に制御することが困難になるという不具合が生じる。
【0008】
一方、移動鏡とガイドとの係合部分にかけられる予圧を小さくすると、移動鏡とガイドとの間で生じる抵抗力が小さくなり、移動鏡を容易にスライド移動させることができる。しかしながら、この場合には、移動鏡とガイドとの係合部分で生じる隙間が大きくなり、移動鏡がガイドに対してがたつくことがある。移動鏡がガイドに対してがたつくと、移動鏡の角度が変わってしまうため、分析に悪影響を及ぼすという不具合が生じる。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、移動鏡の円滑な移動を実現できながら、移動鏡のがたつきを抑制できるフーリエ変換型分光光度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係るフーリエ変換型分光光度計は、可動部と、保持部と、転動体と、外力付与部とを備える。前記可動部には、移動鏡が取り付けられる。前記保持部は、前記可動部をスライド可能に保持する。前記転動体は、外力が加わっていない状態で前記可動部及び前記保持部に対して遊び空間を有するように、前記可動部と前記保持部との間に設けられ、前記保持部に対して前記可動部がスライドする際に転動する。前記外力付与部は、前記可動部及び前記保持部の少なくとも一方に、前記可動部のスライド方向に対して交差する方向に外力を加えることにより、前記可動部と前記保持部との間で前記転動体が移動するのを阻止する。
【0011】
このような構成によれば、フーリエ変換型分光光度計において、可動部と保持部との間には、転動体が設けられている。また、外力付与部から外力が付与されていない状態では、可動部、保持部及び転動体の間には、遊び空間が生じている。そして、フーリエ変換型分光光度計において、移動鏡をスライドさせる際には、可動部及び保持部の少なくとも一方に、外力付与部によりスライド方向に対して交差する方向に外力が付与されて、転動体が可動部と保持部との間で移動することが阻止される。
【0012】
そのため、移動鏡をスライドさせる際において、可動部、保持部及び転動体の間に微細な空間を残しながら、可動部と保持部とががたつくことを抑制できる。
その結果、移動鏡の移動速度を容易に制御することが可能となり、かつ、移動鏡のがたつきを抑制できる。
すなわち、フーリエ変換型分光光度計において、移動鏡の円滑な移動を実現できながら、移動鏡のがたつきを抑制できる。
【0013】
(2)また、前記可動部は、待機位置から前記スライド方向に沿ってスライド可能であってもよい。前記外力付与部は、前記可動部に対して、前記待機位置側に向かって外力を加えてもよい。
【0014】
このような構成によれば、外力付与部によって、可動部に対して待機位置側に向かう外力を常に付与できる。
そのため、フーリエ変換型分光光度計を搬送する際などに、可動部及び移動鏡を待機位置に留まらせることができる。
その結果、フーリエ変換型分光光度計を搬送する際などに、可動部及び移動鏡が動いて破損などすることを抑制できる。
【0015】
(3)また、前記フーリエ変換型分光光度計は、ストッパをさらに備えてもよい。前記ストッパは、前記外力付与部により外力が加えられる前記可動部を、前記待機位置において停止させる。
【0016】
このような構成によれば、可動部及び移動鏡を待機位置に配置した状態を保つことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フーリエ変換型分光光度計において、移動鏡をスライドさせる際には、可動部及び保持部の少なくとも一方に、外力付与部によりスライド方向に対して交差する方向に外力が付与されて、転動体が遊び空間内で移動することが阻止される。そのため、移動鏡をスライドさせる際において、可動部、保持部及び転動体の間に微細な空間を残しながら、可動部と保持部とががたつくことを抑制できる。その結果、移動鏡の移動速度を容易に制御することが可能となり、かつ、移動鏡のがたつきを抑制できる。すなわち、フーリエ変換型分光光度計において、移動鏡の円滑な移動を実現できながら、移動鏡のがつきを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る赤外分光光度計を側面側から見た状態を示した概略的な断面図である。
【
図3】赤外分光光度計の移動鏡及びその周辺の部材を示した正面図である。
【
図6】赤外分光光度計の干渉計室の詳細な構成を示した斜視図である。
【
図7A】赤外分光光度計の干渉計室の詳細な構成を示した側面図であって、移動鏡及び可動部が待機位置に配置されている状態を示している。
【
図7B】赤外分光光度計の干渉計室の詳細な構成を示した側面図であって、
図7Aに示す状態から移動鏡及び可動部がスライド移動した状態を示している。
【
図9】赤外分光光度計のガイド部材を示した断面図であって、移動鏡が移動する際におけるガイド部材の構成を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.赤外分光光度計の全体構成
図1は、本発明の一実施形態に係る赤外分光光度計1を側面側から見た状態を示した概略的な断面図である。
図2は、
図1のA-A線に沿う断面図である。この赤外分光光度計1は、例えば、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)であり、その外形が直方体形状のハウジング2により区画されている。ハウジング2は、中空状の部材である。ハウジング2内では、サンプルホルダ3が設けられる試料室4と、試料室4に対して一方側(右方側)に形成される干渉計室5と、試料室4に対してた方側(左方側)に形成される検出器室6とが区画されている。試料室4と干渉計室5との間には、区画壁21が設けられており、試料室4と検出器室6との間には、区画壁22が設けられている。サンプルホルダ3には、試料Sが収容されている。
【0020】
干渉計室5には、マイケルソン干渉計を構成する光学部品が設けられており、検出器室6には、検出器など(図示せず)の光学部品が設けられている。
具体的には、
図1に示すように、干渉計室5には、第1ミラー7と、第2ミラー8と、ビームスプリッタ―9と、移動鏡10と、駆動機構11と、固定鏡12とが設けられている。
【0021】
第1ミラー7は、区画壁21において後方側に形成された第1開口21Aの近傍に設けられている。
第2ミラー8は、区画壁21において前方側に形成された第2開口21Bの近傍に設けられている。
【0022】
ビームスプリッタ―9は、第1ミラー7及び第2ミラー8のそれぞれと間隔を隔てて配置されている。ビームスプリッタ―9は、入射する光の一部を反射しつつ、入射する光の残りを透過する。
【0023】
移動鏡10は、第1ミラー7の下方に配置されており、かつ、ビームスプリッタ―9と間隔を隔てて配置されている。移動鏡10は、ビームスプリッタ―9との対向方向に沿ってスライド移動可能に構成されている。なお、移動鏡10の詳細な構成については、後述する。
【0024】
駆動機構11は、例えば、ボイスコイルモータなどからなり、移動鏡10に対して駆動力を付与するように構成されている。
固定鏡12は、第2ミラー8の下方に配置されており、かつ、ビームスプリッタ―9と間隔を隔てて配置されている。固定鏡12は、一定位置に固定されている。
【0025】
赤外分光光度計1を用いて試料の分析を行う際には、まず、光源(図示せず)から赤外光が出射される。そして、
図1に示すように、赤外光は、第1開口21Aから干渉計室5内に導かれ、第1ミラー7で反射して、ビームスプリッタ9に入射する。
【0026】
ビームスプリッタ9に入射した赤外光は、一部がビームスプリッタ9を透過して固定鏡12に入射し、残りがビームスプリッタ9で反射されて移動鏡10に入射する。このとき、移動鏡10は、駆動機構11から駆動力が付与されることにより、スライド移動する。
【0027】
固定鏡12で反射された赤外光は、ビームスプリッタ―9で反射されて第2ミラー8に向かう。また、移動鏡10で反射された赤外光は、ビームスプリッタ―9を透過して第2ミラー8に向かう。これにより、固定鏡12で反射された赤外光、及び、移動鏡10で反射された赤外光は、合成されて赤外干渉光となり、第2ミラー8で反射される。
【0028】
第2ミラー8で反射された赤外光(赤外干渉光)は、
図2に示すように、第2開口21Bに設けられた窓部材13を通過し、サンプルホルダ3の試料Sに照射される。そして、試料Sからの反射光又は透過光がサンプルホルダ3から出射し、区画壁22に形成される第3開口22Aを通過して、検出器室6内の検出器(図示せず)に入射する。検出器は、入射した赤外光に応じたインターフェログラムを、検出信号として出力する。制御部(図示せず)は、検出器から出力されたインターフェログラムをフーリエ変換することにより、スペクトルの強度分布データを得る。そして、そのデータに基づいて、試料Sが分析される。
【0029】
2.移動鏡及びその周辺の部材の詳細構成
図3は、赤外分光光度計1の移動鏡10及びその周辺の部材を示した正面図である。
図4は、
図3の側面図である。
図5は、
図4のB-B線に沿う断面図である。
図3及び
図4に示すように、移動鏡10は、ミラー31と、支持部32とを備えている。
【0030】
ミラー31は、正面視円形状に形成される平面鏡である。
支持部32は、ミラー31と接続されている。支持部32は、基台部321と、胴部322とを備えている。
【0031】
基台部321は、支持部32の下端部を構成しており、長尺な板状に形成されている。
胴部322は、直方体状に形成されており、基台部321の中央部から上方に向かって延びている。
【0032】
支持部32は、駆動機構11の移動部111と接続されている。移動部111は、例えば、ボイスコイルモータを構成するコイルであって、支持部32に対してミラー31と反対側に配置されている。
図4に示すように、移動部111は、筒部112と、平板部113と、当接部114を備えている。
筒部112は、円筒状に形成されている。
【0033】
平板部113は、板状に形成されており、筒部112の一端部に設けられている。平板部113は、筒部112の一端部側の内部空間を閉塞している。平板部113は、支持部32の胴部322に接続されている。
【0034】
当接部114は、平板部113の内面に設けられている。当接部114は、例えば、ゴムなどの弾性変形可能な材料により構成されている。当接部114は、平板部113の内面から、筒部112の内部空間に向かって膨らむように突出している。当接部114が、ストッパの一例である。なお、駆動機構11の他の構成については、後述する。
【0035】
図3及び
図4に示すように、移動鏡10の支持部32には、第1係合部41が取り付けられている。第1係合部41は、平面視L字状に形成されており、支持部32の胴部322の上端部に、ねじなどの固定具によって取り付けられている。具体的には、第1係合部41は、胴部322の上端部の外方側の側面(上端部の右面)に取り付けられており、外方側(右方側)に向かって突出している。
【0036】
第1係合部41には、ばね40の一端部が取り付けられている。ばね40の他端部は、側面視L字状に形成される第2係合部42に取り付けられている。ばね40は、例えば、引張コイルばねであって、引張状態で用いられる。ばね40が、外力付与部の一例である。なお、ハウジング2内での第2係合部42の固定状態については、後述する。
【0037】
また、移動鏡10の支持部32には、ガイド部材50が取り付けられている。
図4及び
図5に示すように、ガイド部材50は、可動部51と、保持部52と、複数の転動体53とを備えている。
【0038】
可動部51は、長尺な棒状に形成されており、その断面形状(長手方向と直交する方向の断面形状)が、扁平な矩形状に形成されている。可動部51の左右両側面には、溝51aが形成されている。溝51aは、その断面形状が三角形状であって、可動部51の左右両側面から内方に向かって窪んでいる。溝51aは、長手方向において、可動部51の一端縁から他端縁にわたって直線状に(前後方向において直線状に)形成されている。可動部51の上面は、支持部32の基台部321の下面に取り付けられている。
【0039】
保持部52は、可動部51の下方にわずかな間隔を隔てて配置されている。保持部52は、固定板521と、1対の保持板522とを備えている。
固定板521は、長尺かつ扁平な棒状に形成されている。
【0040】
各保持板522は、その断面形状が矩形状であって、固定板521の幅方向(長手方向と直交する方向)の両端部から上方に向かって突出している。各保持板522の左右方向(幅方向)の内側の側面には、溝522aが形成されている。溝522aは、その断面形状が三角形状であって、各保持板522の内側の側面から内方に向かって窪んでいる。各溝522aは、長手方向において、保持板522の一端縁から他端縁にわたって直線状に(前後方向において直線状に)形成されている。各保持板522は、左右方向(幅方向)において、可動部51とわずかな間隔を隔てて対向している。
【0041】
具体的には、可動部51の溝51aと、保持板522の溝522aとは、間隔を隔てるように配置されている。なお、ハウジング2内での保持部52の固定状態については、後述する。
転動体53は、可動部51の溝51aと、保持板522の溝522aとの間の領域に、遊びの空間を有する状態で配置されている。
【0042】
図5では、ばね40の付勢力が第1係合部41に加わっていない状態におけるガイド部材50の構成を示している。この状態では、溝51aにおける可動部51の端面(傾斜面)と、溝522aにおける保持板522の端面(傾斜面)と、各転動体53との間には、遊び空間A1が存在している。遊び空間A1が存在する状態では、各転動体53は、可動部51及び保持部52に対して、2点で当接している。
【0043】
具体的には、遊び空間A1が存在する状態では、各転動体53は、溝51aにおける可動部51の端面(下側の傾斜面)と、溝522aにおける保持板522の端面(下側の傾斜面)とに当接している。すなわち、ばね40の付勢力が第1係合部41に加わっていない状態では、各転動体53の上面と、溝51aにおける可動部51の端面(上側の傾斜面)と、溝522aにおける保持板522の端面(上側の傾斜面)との間の領域が、遊び空間A1として形成される。
【0044】
このように、可動部51、保持部52及び各転動体53の間で、適度な空間が形成されることで、可動部51が保持部52に対して円滑にスライド移動する。
【0045】
3.移動鏡及びその周辺の部材のハウジング内における配置
図6は、赤外分光光度計1の干渉計室5の詳細な構成を示した斜視図である。
図7Aは、赤外分光光度計1の干渉計室5の詳細な構成を示した側面図である。
図8Aは、
図7Aに示す赤外分光光度計の断面図である。なお、
図6、
図7A及び
図8Aでは、ハウジング2の側方部分(一部)のみを示しており、かつ、側端面を取り外した状態を示している。また、
図6では、内部の部品を一部省略して示している。
【0046】
ハウジング2には、干渉計室5を区画するハウジング2の壁面として、傾斜面23が設けられている。傾斜面23は、第1開口21A(
図1参照)の下方に配置されている。傾斜面23は、前方に向かうにつれて上方に向かうように傾斜している。
【0047】
移動鏡10は、傾斜面23上に設けられている。具体的には、干渉計室5内において、傾斜面23には、ガイド部材50の保持部52、及び、第2係合部42のそれぞれが、ねじなどの固定具により取り付けられている。
【0048】
この状態において、ガイド部材50の可動部51は、傾斜面23に沿って延びている。ばね40は、第1係合部41と第2係合部42との間で、引張状態で保持されている。
【0049】
また、駆動機構11は、ハウジング2内で一定位置に固定される固定部115を備えている。固定部115は、ハウジング2内(干渉計室5内)において、移動鏡10の後方に配置されている。固定部115は、例えば、ボイスコイルモータを構成する磁石である。移動部111は、固定部115に覆われている。また、固定部115の中央部分は、移動部111の内方に収容されている。なお、この例では、駆動機構11は、コイルが移動する、いわゆるムービングコイル式であるが、磁石が移動する、いわゆるムービングマグネット式であってもよい。
【0050】
4.移動鏡の動作
図7A及び
図8Aに示す状態では、移動鏡10及び可動部51が待機位置に位置している。赤外分光光度計1では、電源スイッチがオフの場合など、待機状態にある場合には、移動鏡10及び可動部51は、
図7A及び
図8Aに示すように、待機位置に配置される。
【0051】
この状態において、ばね40は、引張状態で、第1係合部41及び第2係合部42に係合しており、傾斜面23と直交する平面(傾斜面23から垂直に延びる平面)に対して、傾斜している。これにより、移動鏡10の支持部32(胴部322)には、第1係合部41を介して、傾斜面23の下方側に向かう方向に、ばね40の付勢力が付与されている。換言すれば、移動鏡10の支持部32(胴部322)には、第1係合部41を介して、常に、待機位置側に向かってばね40からの外力が加えられている。
また、この状態において、当接部114は、固定部115の端面に当接している。
【0052】
これにより、輸送の際などにおいて、赤外分光光度計1がふらつくような場合でも、ばね40の付勢力によって、移動鏡10及び可動部51を待機位置に留まらせることができる。
【0053】
そして、赤外分光光度計1において、電源スイッチがオンされると、駆動機構11からの駆動力が移動鏡10(支持部32)に付与される。これにより、移動鏡10が可動部51とともに、保持部52に対してスライド移動する。
【0054】
図7Bは、赤外分光光度計1の干渉計室5の詳細な構成を示した側面図であって、
図7Aに示す状態から移動鏡10及び可動部51がスライド移動した状態を示している。
図8Bは、
図7Bに示す赤外分光光度計1の断面図である。
【0055】
移動鏡10及び可動部51は、駆動機構11からの駆動力が支持部32に付与されることにより、
図7B及び
図8Bに示すように、ばね40の付勢力に抗して、保持部52に対してスライド移動し、傾斜面23に沿って中央側に移動する。このとき、ガイド部材50において、各転動体53が転動することで、可動部51が保持部52に対して移動する。このようにして、移動鏡10のミラー31は、ビームスプリッタ―9に向かって近づく。
【0056】
また、この状態から、駆動機構11から支持部32に付与される駆動力が調整されることにより、移動鏡10及び可動部51は、保持部52に対して逆方向にスライド移動し、傾斜面23に沿って下方側(待機位置側)に移動する。このとき、移動鏡10のミラー31は、ビームスプリッタ―9から遠ざかる。
【0057】
このように、赤外分光光度計1では、電源スイッチがオンされると、移動鏡10及び可動部51が、傾斜面23に沿って往復するように、スライド移動を繰り返す。
【0058】
そして、赤外分光光度計1において、電源スイッチがオフされると、
図7A及び
図8Aに示すように、移動鏡10及び可動部51が待機位置に配置される。このとき、当接部114は、固定部115の端面に当接し、移動鏡10及び可動部51のさらなる移動が規制される(移動鏡10及び可動部51が待機位置で停止する)。
【0059】
5.ガイド部材の詳細な動作
図9は、赤外分光光度計1のガイド部材50を示した断面図であって、移動鏡10が移動する際におけるガイド部材50の構成を示している。
上記したように、移動鏡10がスライド移動する際において、移動鏡10の支持部32には、ばね40からの付勢力(外力)が付与されている。
【0060】
図3及び
図6に示すように、この付勢力(外力)によって、第1係合部41に対して下方側に向かう力が加えられる。また、第1係合部41は、前後方向に見たときに、重心から外れるように、支持部32の胴部322の上端部の外方側の側面(右面)に取り付けられている。そのため、移動鏡10(支持部32)に対して、下方側に向かう力が加わる。その結果、
図3において矢印Cで示すように、移動鏡10(支持部32)に対して、正面視時計回りの方向(一方向)に向かう力(回転力)が生じる。
【0061】
すると、
図9に示すように、支持部32に固定されている可動部51にも正面視時計回りの方向に向かう力が加わり、可動部51がわずかに正面視時計回り(一方向)に動く(傾く)。
【0062】
これにより、各転動体53は、可動部51及び保持部52に対して、3点で当接する。また、ガイド部材50において、遊び空間A1に代えて、微細な隙間A2が形成される。
具体的には、可動部51の内方側(左方側)において、各転動体53は、溝522aにおける保持板522の端面(上側及び下側の傾斜面)に2点で当接するとともに、溝51aにおける可動部51の端面(下側の傾斜面)に1点で当接する。このとき、各転動体53と、溝51aにおける可動部51の端面(上側の傾斜面)との間に、微細な隙間A2が形成される。
【0063】
また、可動部51の外方側(右方側)において、各転動体53は、溝522aにおける保持板522の端面(上側及び下側の傾斜面)に2点で当接するとともに、溝51aにおける可動部51の端面(上側の傾斜面)に1点で当接する。このとき、各転動体53と、溝51aにおける可動部51の端面(下側の傾斜面)との間に、微細な隙間A2が形成される。
【0064】
このように可動部51がわずかに正面視時計回りに傾いた状態で、上記したように、移動鏡10及び可動部51が、保持部52に対してスライド移動する。すなわち、各転動体53と可動部51との間に微細な隙間A2を形成しながら、可動部51がわずかに傾いた状態を保つようにして、移動鏡10及び可動部51がスライド移動する。これにより、可動部51と保持部52との間において、各転動体53の移動が阻止される。その結果、移動鏡10及び可動部51の円滑な移動を実現しながら、移動鏡10及び可動部51のがたつき(正面視における周方向のがたつき)を抑制できる。
【0065】
また、固定鏡12(
図1参照)には、アクチュエータや、調整用のねじが設けられている。そして、これらを調整することで、固定鏡12の反射面の角度を微調整することが可能である。そのため、移動鏡10のミラー31の角度がわずかに変化した場合には、その変化量に対応するように(その変化量を補正するように)、固定鏡12の反射面を変化させることが可能である。
【0066】
7.作用効果
(1)本実施形態によれば、赤外分光光度計1において、可動部51と保持部52との間には、複数の転動体53が設けられている。
図5に示すように、ばね40から外力が付与されていない状態では、可動部51、保持部52及び各転動体53の間には、遊び空間A1が生じている。そして、赤外分光光度計1において、移動鏡10及び可動部51をスライドさせる際には、可動部51に対してばね40により下方側に向かう外力が加えられ、各転動体53が可動部51と保持部52との間で移動することが阻止される。
【0067】
そのため、移動鏡10及び可動部51をスライドさせる際において、可動部51、保持部52及び各転動体53の間に微細な隙間A2を残しながら、可動部51と保持部52とががたつくことを抑制できる。
その結果、移動鏡10及び可動部51の移動速度を容易に制御することが可能となり、かつ、移動鏡10及び可動部51のがたつきを抑制できる。
すなわち、赤外分光光度計1において、移動鏡10及び可動部51の円滑な移動を実現できながら、移動鏡10及び可動部51のがたつきを抑制できる。
【0068】
(2)また、本実施形態によれば、
図7Bに示すように、赤外分光光度計1において、ばね40は、移動鏡10及び可動部51に対して、待機位置側に向かって外力を加えている。
【0069】
そのため、ばね40によって、移動鏡10及び可動部51に対して、待機位置側に向かう外力を常に付与できる。
その結果、赤外分光光度計1を搬送する際などに、移動鏡10及び可動部51を待機位置に留まらせることができる。
よって、赤外分光光度計1を搬送する際などに、移動鏡10及び可動部51が動いて破損などすることを抑制できる。
【0070】
(3)また、本実施形態によれば、赤外分光光度計1において、移動鏡10及び可動部51が待機位置側に移動した際には、当接部114が固定部115の端面に当接し、移動鏡10及び可動部51のさらなる移動が規制される。
そのため、移動鏡10及び可動部51を待機位置に配置した状態を保つことができる。
【0071】
8.変形例
以上の実施形態では、外力付与部としてのばね40は、可動部51に対して下方側に向かう外力が加えるとして説明した。しかし、外力付与部としてのばね40は、可動部51に対して、スライド方向との交差する方向に外力を加える構成であればよい。例えば、ばね40は、可動部51に対して上方側に向かう外力を加えてもよい。
【0072】
また、以上の実施形態では、外力付与部としてのばね40は、可動部51に対して外力を加えるとして説明した。しかし、外力付与部からの外力が、保持部52に加えられる構成であってもよい。
【0073】
また、以上の実施形態では、ばね40が外力付与部であるとして説明したが、第1係合部41におもりを取り付け、このおもりを外力付与部としてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 赤外分光光度計
10 移動鏡
40 ばね
50 ガイド部材
51 可動部
52 保持部
53 転動体
114 当接部
A1 遊び空間
A2 隙間