(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】電気伝導度推定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/02 20060101AFI20220208BHJP
G01N 27/22 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
G01N27/02 Z
G01N27/22 C
(21)【出願番号】P 2017237788
(22)【出願日】2017-12-12
【審査請求日】2020-08-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】後藤 誠彦
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-200193(JP,A)
【文献】特開2013-200194(JP,A)
【文献】特開2005-121428(JP,A)
【文献】特開2000-046777(JP,A)
【文献】特開昭51-016994(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0219037(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出電極と、
前記検出電極に検出用入力信号を供給する信号供給手段と、
前記信号供給手段に第1周波数の前記検出用入力信号あるいは前記第1周波数と異なる第2周波数の前記検出用入力信号を生成させると共に、前記第1周波数の前記検出用入力信号が供給されたことによる前記検出電極の検出信号と、前記第2周波数の前記検出用入力信号が供給されたことによる前記検出電極の検出信号とに基づいて、検出対象物の電気伝導度を推定する演算制御手段と
を備え、
前記第2周波数は、前記第1周波数と比較して、前記検出対象物の電気伝導度の単位変化に対する前記検出信号が含む検出誤差の変化量が大きくなる周波数であり、
前記演算制御手段は、
前記第1周波数及び前記第2周波数のうち前記第2周波数を用いることなく、前記第1周波数の前記検出用入力信号が供給されたことによる前記検出電極の検出信号に基づいて、前記検出対象物の体積含水率を求め
、
前記体積含水率と、前記第2周波数の前記検出用入力信号が供給されたことによる前記検出電極の検出信号とに基づいて、前記検出対象物の電気伝導度を求める
ことを特徴とする電気伝導度推定装置。
【請求項2】
前記検出信号と前記検出用入力信号との位相差を検出する位相検出手段と、
前記検出用入力信号に応じた直流電圧を内部基準電圧として生成する基準電圧生成手段と、
前記検出信号の電圧と前記内部基準電圧とを差動増幅する増幅手段と
を備えることを特徴とする請求項
1記載の電気伝導度推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気伝導度推定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献には、検出対象物の水分量を静電容量として検出する水分検出装置及び方法(MOISTURE DETECTION APPARATUS AND METHOD)が開示されている。すなわち、この水分検出装置及び方法は、検出対象物に接触する検出電極に抵抗器を介して所定周波数のクロック信号(基準信号)を入力し、水分量に依存して変化する検出対象物の静電容量の影響によって立上りが緩慢になった検出信号を検出電極から取得し、この検出信号と基準信号との位相差を検出することによって水分量を示す直流電圧(出力電圧)を生成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、検出対象物の水分量に加えて、検出対象物の電気伝導度の取得が求められる場合がある。従来の水分検出装置では、水分量を測定することはできても、電気伝導度を簡易に測定することができない。このため、簡易に電気伝導度を測定可能な方法が求められている。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、検出対象物の電気伝導度を簡易に推定可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0007】
第1の発明は、電気伝導度推定装置であって、検出電極と、上記検出電極に検出用入力信号を供給する信号供給手段と、上記信号供給手段に第1周波数の上記検出用入力信号あるいは上記第1周波数と異なる第2周波数の上記検出用入力信号を生成させると共に、上記第1周波数の上記検出用入力信号が供給されたことによる上記検出電極の検出信号と、上記第2周波数の上記検出用入力信号が供給されたことによる上記検出電極の検出信号とに基づいて、検出対象物の電気伝導度を推定する演算制御手段とを備えるという構成を採用する。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、上記第2周波数が、上記第1周波数と比較して、上記検出対象物の電気伝導度の単位変化に対する上記検出信号が含む検出誤差の変化量が大きくなる周波数であるという構成を採用する。
【0009】
第3の発明は、第2の発明において、上記演算制御手段が、上記第1周波数の上記検出用入力信号が供給されたことによる上記検出電極の検出信号に基づいて、上記検出対象物の体積含水率を求めるという構成を採用する。
【0010】
第4の発明は、第1~第3いずれかの発明において、上記検出信号と上記検出用入力信号との位相差を検出する位相検出手段と、上記検出用入力信号に応じた直流電圧を内部基準電圧として生成する基準電圧生成手段と、上記検出信号の電圧と上記内部基準電圧とを差動増幅する増幅手段とを備えるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1周波数の検出用入力信号と、第2周波数の検出用入力信号とを用い、それぞれの検出用入力信号を検出電極に入力して得られる検出信号によって電気伝導度を推定する。検出対象物の電気伝導度の単位変化に対する検出信号に含まれる検出誤差の変化量は、検出用入力信号の周波数に依存して変化する。このため、異なる周波数の検出用入力信号を用いて検出信号の出力値の変化量から、検出対象物の電気伝導度を推定することが可能となる。したがって、本発明によれば、検出対象物の電気伝導度を簡易に推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態における電気伝導度推定装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態における電気伝導度推定装置が備える検出器の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】電気伝導度を変化させた場合の出力電圧と体積含水率との関係を示すグラフである。
【
図4】本発明の一実施形態における電気伝導度推定装置が備える検出器の外観構成を示す模式図である。
【
図5】本発明の一実施形態における電気伝導度推定装置が備える検出器の動作を説明する図であり、(a)波形図であり、(b)が出力特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係る電気伝導度推定装置の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部を認識可能な大きさとするために、各部の縮尺を適宜変更している。
【0014】
図1は、本実施形態の電気伝導度推定装置20の機能構成を示すブロック図である。本実施形態の電気伝導度推定装置20は、土壌等の検出対象物の電気伝導度を推定すると共に、検出対象物に含まれる水分量を算出する装置である。
図1に示すように、本実施形態の電気伝導度推定装置20は、検出器30と、検出器30の制御と検出器30の検出信号に基づいて演算を行う演算制御部40(演算制御手段)とを備えている。
【0015】
図2は、検出器30の機能構成を示すブロック図である。検出器30は、
図2に示すように、周波数可変発振器1、駆動回路2、抵抗器3、一対の検出電極4aと検出電極4b、遅延回路5、位相検出器6、ローパスフィルタ7、バッファアンプ8、差動アンプ9、駆動回路10、ローパスフィルタ11、バッファアンプ12、バッファアンプ13、5V電源回路14、3.3V電源回路15を備えている。なお、これら各構成要素のうち、一対の検出電極4aと検出電極4bを除く構成要素は検出器30の主回路Aを構成している。
【0016】
ここで、これら各構成要素のうち、周波数可変発振器1、駆動回路2及び抵抗器3は、検出電極4aに検出用入力信号を供給する信号供給手段を構成している。また、遅延回路5、位相検出器6及びローパスフィルタ7は、検出電極4aから出力される検出信号と検出用入力信号との位相差を検出する位相検出手段を構成している。また、駆動回路10、ローパスフィルタ11及びバッファアンプ12は、検出用入力信号に応じた直流電圧を内部基準電圧として生成する基準電圧生成手段を構成している。さらに、バッファアンプ8、差動アンプ9及びバッファアンプ12は、検出信号の電圧と内部基準電圧とを差動増幅する増幅手段を構成している。
【0017】
周波数可変発振器1は、例えば所定周波数かつ所定ディーティ比の方形波信号(クロック信号)を発生する発振器である。この周波数可変発振器1は、演算制御部40の制御の下、異なる周波数の方形波信号を発生可能とする発振器であり、水分量を正確に測定可能な第1周波数の方形波信号と、電気伝導度を推定するために用いられる第2周波数の方形波信号とを出力可能としている。
【0018】
ここで、第1周波数と第2周波数とについてより詳しく説明する。検出電極4aから出力される検出信号に基づく検出器30の出力電圧は、検出対象物に含まれる水分量(体積含水率)によって変化する。このとき、検出信号に僅かなら誤差が含まれており、検出器30の出力電圧(出力信号)にも僅かなら誤差が含まれる。この誤差量は検出電極4aに入力される検出用入力信号の周波数によって異なり、さらには検出対象物の電気伝導度によって誤差量の変化状態が周波数によって大きく異なる。つまり、検出用入力信号の周波数を変更すると、検出対象物の電気伝導度の単位変化に対する出力信号が含む検出誤差の変化量(誤差量)が変化する。第1周波数は、第1周波数の検出用入力信号が検出電極4aに入力された場合に、検出対象物の電気伝導度の変化に対して、出力信号に含まれる誤差が少ない周波数である。この第1周波数は、検出対象物の水分量を最も正確に検出することが可能な周波数である。一方、第2周波数は、第2周波数の検出用信号が検出電極4aに入力された場合に、第1周波数の検出用信号の場合よりも出力信号に含まれる誤差が大きな周波数である。つまり、第2周波数は、第1周波数と比較して、検出対象物の電気伝導度の単位変化に対する出力信号が含む検出誤差の変化量が大きくなる周波数である。例えば、第1周波数は50MHzであり、第2周波数は5MHzとすることができる。ただし、第1周波数及び第2周波数は、検出対象物に応じて最適値が適宜設定される。なお、デューティ比は、例えば50%であるが、これについても検出対象物に応じて最適値が適宜設定される。
【0019】
図3は、電気伝導度が変化した場合の検出誤差の変化量が大きくなる周波数(第2周波数)の検出用入力信号とした場合の検出器30の出力電圧の変化を示すグラフである。
図3において、横軸が出力電圧であり、縦軸が検出対象物の体積含水率を示している。また、
図3においては、4つの電気伝導度で出力電圧を測定した結果を示しており、電気伝導度ごとに線種を変更したグラフとなっている。この図に示すように、同一の体積含水率であっても、電気伝導度が異なると出力電圧が大きく変化し、この変化量が電気伝導度ごとに異なることが分かる。
【0020】
このような周波数可変発振器1は、方形波信号を駆動回路2、遅延回路5及び駆動回路10に出力する。駆動回路2は、一種の電流増幅回路であり、方形波信号を電流増幅して抵抗器3に出力する。なお、周波数可変発振器1は、3.3V電源回路15から供給される3.3V電源によって作動するので、方形波信号(クロック信号)の波高値(振幅)は3.3Vである。
【0021】
抵抗器3は、所定の抵抗値を有する2端子の電子素子であり、駆動回路2と一方の検出電極4aとの間に設けられている。すなわち、抵抗器3は、一端が駆動回路2の出力端に接続され、他端が一方の検出電極4aに接続されている。このような抵抗器3は、一対の検出電極4a及び検出電極4b共に駆動回路2に対する負荷を構成している。また、この抵抗器3は検出器30の検出ダイナミックレンジを支配する構成要素であり、抵抗値は、この検出ダイナミックレンジが最大となるよう最適設定されている。
【0022】
一対の検出電極4a及び検出電極4bは、土壌等の検出対象物に接触される導電性部材であり、所定距離を隔てて対向配置されている。ここで、検出対象物は、水分量に応じた大きさの静電容量を有する誘電体である。すなわち、一対の検出電極4a及び検出電極4bは、検出対象物と共に静電容量を有するコンデンサ(電子素子)を構成する。
【0023】
また、このような一対の検出電極4a及び検出電極4bは、コンデンサとして回路的に機能するので、上述した抵抗器3と共に電子回路におけるCR回路J、つまりコンデンサの静電容量Cと抵抗器3の抵抗値Rとに基づく時定数τを有する受動回路を構成している。すなわち、CR回路Jにおける一方の検出電極4aと抵抗器3との接点Pの電圧波形は、検出用入力信号として駆動回路2から入力された方形波信号が時定数τに基づいて積分処理されたものとなる。このようなCR回路Jは、接点Pつまり一方の検出電極4aから検出用入力信号(方形波信号)が積分処理された信号を検出信号として位相検出器6に出力する。
【0024】
遅延回路5は、位相検出器6の前段に設けられ、周波数可変発振器1から入力される方形波信号を駆動回路2における方形波信号の遅延時間に相当する時間(遅延時間τ)だけ遅延させる回路であり、当該遅延時間τだけ遅延させた方形波信号を位相検出器6に出力する。この遅延回路5は、例えば駆動回路2と全く同様な回路構成を備える。
【0025】
位相検出器6は、このような遅延回路5から入力される方形波信号とCR回路Jから入力される検出信号との位相差を比較する位相比較器である。位相比較器には、周知のように各種形式の回路が存在するが、位相検出器6は、検出信号と方形波信号とをデジタル信号として位相比較処理するデジタル型比較器である。このような位相検出器6は、検出信号と方形波信号との位相差を示す信号(位相差信号)をローパスフィルタ7に出力する。
【0026】
ローパスフィルタ7は、所定の遮断周波数を有する受動フィルタ回路であり、位相差信号から直流成分を抽出することにより検出信号と方形波信号との位相差を示す直流電圧(検出電圧)をバッファアンプ8に出力する。バッファアンプ8は、一種のインピーダンス変換器であり、検出電圧を低インピーダンス化して差動アンプ9に出力する。
【0027】
差動アンプ9は、バッファアンプ8から入力される検出電圧と後述するバッファアンプ12から入力される内部基準電圧とを所定の増幅度で差動増幅する差動増幅器である。検出電圧は、比較的低い電圧値、例えば数100mVオーダーなので、外部に出力するためには十分なS/N比を確保するために増幅する必要がある。この差動アンプ9は、このような検出電圧を内部基準電圧により差動増幅し、当該差動増幅によって得られた信号(出力電圧)をバッファアンプ13に出力する。
【0028】
一方、駆動回路10は、一種の電流増幅回路であり、周波数可変発振器1から入力された方形波信号(クロック信号)を電流増幅してローパスフィルタ11に出力する。ローパスフィルタ11は、所定の遮断周波数を有する受動フィルタ回路であり、方形波信号を直流電圧である内部基準電圧に変換してバッファアンプ12に出力する。なお、方形波信号の波高値は3.3Vに設定されているので、内部基準電圧は、方形波信号の平均的な電圧(直流電圧)つまり1.65Vとなる。
【0029】
バッファアンプ12は、一種のインピーダンス変換器であり、内部基準電圧を低インピーダンス化して差動アンプ9に出力する。バッファアンプ13は、一種の電流増幅回路であり、差動アンプ9から入力された出力電圧を電流増幅して外部に出力する。5V電源回路14は、外部から供給された外部電源(例えば12V電源)を5V電源に電圧変換してバッファアンプ8、バッファアンプ12、バッファアンプ13及び差動アンプ9、また3.3V電源回路15に供給する。3.3V電源回路15は、5V電源回路14から入力された5V電源を3.3V電源に電圧変換して周波数可変発振器1、駆動回路2、駆動回路10及び位相検出器6に供給する。
【0030】
図4は、検出器30の外観構成を示す模式図である。上述のような電気的構成を備える検出器30は、
図4に示すような機械的構成を備える。すなわち、この検出器30は、プリント基板B、接続ケーブルD及び樹脂モールドEを備える。プリント基板Bは、図示するように並行対峙する2本の櫛歯部b1及び櫛歯部b2を有する形状であり、これらの櫛歯部b1及び櫛歯部b2のうち、一方の櫛歯部b1の表面もしくは内部には上述した一方の検出電極4aが配線パターンの一部として形成され、他方の検出電極4bの表面もしくは内部には他方の検出電極4bが形成されている。また、上述した主回路Aは、プリント基板Bにおいて櫛歯部b1及び櫛歯部b2以外の領域、つまりボディ部b3に形成されている。ここで、プリント基板Bが一層の場合は、検出電極4a及び検出電極4bが表面に形成され得る。ただし、プリント基板Bが多層プリント基板である場合は、その表面以外の内層部に検出電極4a及び検出電極4bが形成されることがある。
【0031】
接続ケーブルDは、上述した外部電源及び出力電圧を伝送するための電線であり、複数の芯線と当該芯線を覆うシース(被覆部材)から構成されている。このような接続ケーブルDは、半田付け等によってプリント基板Bに接続されている。この検出器30は、人がボディ部b3を把持して一対の櫛歯部b1及び櫛歯部b2を土壌等の検出対象物内に挿入することにより使用される。樹脂モールドEは、主回路Aが形成されたボディ部b3を電気的かつ機械的に保護するためにボディ部b3に被覆された絶縁性の樹脂材料である。
【0032】
図1に戻り、演算制御部40は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置、入力装置及び出力表示等を備えるコンピュータ等からなり、これらのハードウェアによって具現化される機能部として、周波数選択部41、水分量算出部42、水分量算出テーブル記憶部43、電気伝導度推定部44及び電気伝導度推定テーブル記憶部45を備えている。
【0033】
周波数選択部41は、外部から入力される指令等に基づいて、周波数可変発振器1に発生させる方形波信号の周波数を選択すると共に、選択した周波数を発生する旨の指令信号を周波数可変発振器1に向けて出力する。ここで、周波数選択部41が選択する周波数は、上述の第1周波数及び第2周波数である。つまり、周波数選択部41は、検出対象物の電気伝導度の変化に対して検出信号に含まれる誤差が少ない周波数と、検出対象物の電気伝導度の変化に対して検出信号に含まれる誤差が大きな周波数とを選択する。
【0034】
水分量算出部42は、第1周波数の検出用入力信号が検出電極4aに入力され、その結果得られた検出信号に基づいて検出対象物に含まれる水分量を算出する。この水分量算出部42は、検出器30の出力電圧と、水分量算出テーブル記憶部43に記憶された水分量算出テーブルとに基づいて、検出対象物に含まれる水分量を算出する。水分量算出テーブル記憶部43は、検出対象物の水分量を算出するためのテーブル(水分量算出テーブル)を記憶している。この水分量算出テーブルは、検出器30の出力電圧と、検出対象物の体積含水率との関係を示すテーブルであり、実験やシミュレーションによって予め求められたものである。
【0035】
電気伝導度推定部44は、第2周波数の検出用入力信号が検出電極4aに入力され、その結果得られた検出信号に基づいて検出対象物の電気伝導度を算出する。この電気伝導度推定部44は、検出器30の出力電圧と、電気伝導度推定テーブル記憶部45に記憶された電気伝導度推定テーブルとに基づいて、検出対象物の電気伝導度を推定する。電気伝導度推定テーブル記憶部45は、電気伝導度ごとに、検出器30の出力電圧と、体積含水率との関係を示すテーブル(電気伝導度推定テーブル)を記憶している。これらの電気伝導度推定テーブルは、実験やシミュレーションによって予め求められたものである。例えば、検査対象物が土壌である場合には、土壌を採取して一度乾燥させた後、電気伝導度及び体積含水率を調整したサンプルを電気伝導度及び体積含水率を変化させて複数用意する。その後、サンプルごとに第2周波数の検出用入力信号を用いて検出器30の出力電圧を取得し、その取得結果に基づいて電気伝導度推定テーブルを作成する。
【0036】
電気伝導度推定部44は、水分量算出部42で算出された体積含水率(すなわち第1周波数の検出用入力信号で得られた体積含水率)を取得する。続いて、電気伝導度推定部44は、第2周波数の検出用入力信号で得られた検出器30の出力電圧と、上述の水分量算出部42で算出された体積含水率との関係が、電気伝導度ごとに記憶された電気伝導度推定テーブルのいずれに該当するかを判定する。その結果、電気伝導度推定部44は、例えば出力電圧と体積含水率との関係と最も相関性が高い電気伝導度推定テーブルが示す電気伝導度を、検出対象物の電気伝導度と推定する。
【0037】
なお、本実施形態では、水分量算出テーブルを用いて水分量を求め、電気伝導度推定テーブルを用いて電気伝導度を求めている。しかしながら、例えば、これらのテーブルに換えて近似式を記憶し、近似式を用いて水分量や電気伝導度を求めるようにすることも可能である。
【0038】
次に、このように構成された本実施形態の電気伝導度推定装置20の動作について、詳しく説明する。なお、以下の説明においては、水分量算出テーブルが予め水分量算出テーブル記憶部43に記憶され、電気伝導度推定テーブルが予め電気伝導度推定テーブル記憶部45に記憶されているものとする。
【0039】
まず、検出器30の一対の櫛歯部b1及び櫛歯部b2が土壌等の検出対象物内に挿入され、一対の櫛歯部b1及び櫛歯部b2に形成された一対の検出電極4a及び検出電極4bが土壌等の検出対象物に接触する。この状態にて、演算制御部40は、外部からの開始指令が入力されると、周波数選択部41によって第1周波数を選択し、第1周波数を発生する旨の指令信号を周波数可変発振器1に向けて出力する。この結果、一対の検出電極4a及び検出電極4bは、検出対象物の水分量に応じた静電容量Cを有するコンデンサとして機能する。そして、このような一対の検出電極4a及び検出電極4bと抵抗値Rを有する抵抗器3とは、静電容量Cと抵抗値Rとによって規定される時定数τを有するCR回路Jを形成する。
【0040】
この検出器30では、周波数可変発振器1で発振した方形波信号が駆動回路2を介してCR回路Jに印加される。すなわち、CR回路Jにおいて、方形波信号は、抵抗器3を介して一方の検出電極4aに検出用入力信号として入力される。そして、CR回路Jは、
図5(a)に示すように、自身の時定数τ(つまり静電容量C)に応じて方形波信号の立ち上がりを遅延させた検出信号を位相検出器6に出力する。この検出信号の方形波信号に対する遅延時間、つまり方形波信号と検出信号との位相差θは、検出対象物の体積含水率を示している。
【0041】
位相検出器6では、このようなCR回路J(つまり一方の検出電極4a)から入力された検出信号と遅延回路5から入力された方形波信号との位相差θに応じた位相差信号が生成される。この位相差信号は、デューティ比が位相差θに応じて変化するパルス信号である。このような位相差信号は、ローパスフィルタ7によって高周波成分が除去されることにより、検出対象物の水分量を示す検出電圧(直流電圧)としてバッファアンプ8に入力される。そして、この検出電圧は、バッファアンプ8によって低インピーダンス化されて差動アンプ9の+入力端(非反転入力端)に入力される。
【0042】
この差動アンプ9で検出電圧を正常に増幅するためには、差動アンプ9の-入力端(反転入力端)に差動増幅の動作点を規定する内部基準電圧を入力する必要があるが、この検出器30では、周波数可変発振器1から入力された方形波信号を駆動回路10及びローパスフィルタ7で信号処理することによって内部基準電圧が生成される。
【0043】
すなわち、内部基準電圧は、方形波信号が駆動回路10で電流増幅された後にローパスフィルタ7で高周波成分が除去されることにより、方形波信号の波高値(3.3V)の平均直流電圧(1.65V)として生成される。そして、このようにして生成された内部基準電圧は、電圧調整した後、バッファアンプ12によって低インピーダンス化されて差動アンプ9の-入力端(反転入力端)に入力される。
【0044】
ここで、差動アンプ9に入力される検出電圧及び内部基準電圧は何れも周波数可変発振器1が出力する方形波信号に基づいて生成された直流電圧であり、よって温度特性として同一傾向を有する。すなわち、検出電圧及び内部基準電圧は、周囲温度の変化に対して同一傾向の変化を呈する。例えば、検出電圧が周囲温度が上昇すると上昇する温度特性を有している場合、内部基準電圧も、周囲温度が上昇すると上昇する温度特性を有する。
【0045】
したがって、この検出器30によれば、検出電圧の温度特性と内部基準電圧の温度特性とが同一傾向を示すので、差動アンプ9による検出電圧の増幅処理において、従来よりも温度特性を改善することが出来る。
【0046】
そして、検出電圧は、内部基準電圧を用いて差動アンプ9で電圧増幅され、さらにバッファアンプ13で電流増幅され、検出器30の出力電圧として外部に出力される。この出力電圧は、
図5(b)に示すように、検出対象物の水分量(体積含水率)の変化に対して直線的に変化する特性を有する。なお、このような出力電圧は、上述した接続ケーブルDによって演算制御部40に入力される。
【0047】
また、この検出器30では、遅延回路5が設けられているので、位相検出器6における位相比較の誤差要因を解消することが可能である。すなわち、遅延回路5が設けられていない場合、位相検出器6に入力される方形波信号と検出信号とは駆動回路2が本来的に有する遅延時間だけズレた時間関係になるが、遅延回路5が設けられている場合には時間関係のズレが解消されるので、方形波信号と検出信号とをより精度よく位相比較することが可能となる。したがって、このような検出器30によれば、水分量をより精度よく検出することが可能である。
【0048】
演算制御部40に検出器30からの出力電圧が入力されると、水分量算出部42が、水分量算出テーブル記憶部43に記憶された水分量算出テーブルに照らし合わせ、出力電圧に基づいて検出対象物に含まれる水分量を算出する。
【0049】
続いて、演算制御部40は、周波数選択部41によって第2周波数を選択し、第2周波数を発生する旨の指令信号を周波数可変発振器1に向けて出力する。そして、同様に検出器30の出力電圧が演算制御部40に入力されると、電気伝導度推定部44が、電気伝導度推定テーブル記憶部45に記憶された電気伝導度推定テーブルに照らし合わせ、出力電圧に基づいて検出対象物の電気伝導度を推定する。
【0050】
以上のような本実施形態の電気伝導度推定装置20によれば、第1周波数の検出用入力信号と、第2周波数の検出用入力信号とを用い、それぞれの検出用入力信号を検出電極4aに入力して得られる検出信号によって電気伝導度を推定する。つまり、本実施形態の電気伝導度推定装置20によれば、周波数可変発振器1で生成する方形波信号の周波数を変更するのみで、検出対象物の電気伝導度を推定することが可能となる。したがって、本実施形態の電気伝導度推定装置20によれば、検出対象物の電気伝導度を簡易に推定することが可能となる。
【0051】
また、本実施形態の電気伝導度推定装置20においては、第2周波数が、第1周波数と比較して、検出対象物の電気伝導度の単位変化に対する検出信号が含む検出誤差の変化量が大きくなる周波数とされている。さらに、本実施形態の電気伝導度推定装置20においては、第1周波数の検出用入力信号が供給されたことによる検出電極の検出信号に基づいて、検出対象物の体積含水率を求めている。このため、電気伝導度に依存せずに、正確に検出対象物の水分量(体積含水率)を算出することができる。
【0052】
また、本実施形態の電気伝導度推定装置20においては、検出信号と検出用入力信号との位相差を検出する位相検出手段(遅延回路5、位相検出器6及びローパスフィルタ7)と、検出用入力信号に応じた直流電圧を内部基準電圧として生成する基準電圧生成手段(駆動回路10、ローパスフィルタ11及びバッファアンプ12)と、検出信号の電圧と内部基準電圧とを差動増幅する増幅手段(バッファアンプ8、差動アンプ9及びバッファアンプ12)とを備えている。このため、検出電圧の温度特性と内部基準電圧の温度特性とが同一傾向を示し、温度の測定結果に対する影響を低減することができる。
【0053】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0054】
例えば、上記実施形態においては、2つの周波数のみを用いて電気伝導度を推定する構成について説明した。しかしながら、3つ以上の周波数を用いて電気伝導度をより正確に推定することも可能である。つまり、少なくとも第1周波数と第2周波数の2つの周波数を用いることで電気伝導度の推定は可能であるが、第1周波数と第2周波数に加えて他の周波数を用いることも可能である。また、周波数を所定の範囲で掃引し、掃引途中で得られた検出信号の各々にて電気伝導度を求め、これらの平均値を検出対象物の電気伝導度とすることも可能である。
【0055】
また、上記実施形態においては、第1周波数が検出対象物の水分量を正確に算出可能な周波数であるとした。しかしながら、検出対象物の水分量を求める必要がなく、検出対象物の電気伝導度のみを求めれば良い場合には、第1周波数として誤差が大きくなる周波数を用いることも可能である。
【0056】
また、上記実施形態においては、検出信号と検出用入力信号との位相差を検出する位相検出手段(遅延回路5、位相検出器6及びローパスフィルタ7)と、検出用入力信号に応じた直流電圧を内部基準電圧として生成する基準電圧生成手段(駆動回路10、ローパスフィルタ11及びバッファアンプ12)と、検出信号の電圧と内部基準電圧とを差動増幅する増幅手段(バッファアンプ8、差動アンプ9及びバッファアンプ12)とを備える構成を採用した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。特に、検出対象物の水分量を算出する必要がないような場合には、位相検出手段、基準電圧生成手段、増幅手段を備えず、検出信号から直接的に電気伝導度を求める構成を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 周波数可変発振器
2 駆動回路
3 抵抗器
4a 検出電極
4b 検出電極
5 遅延回路
6 位相検出器
7 ローパスフィルタ
8 バッファアンプ
9 差動アンプ
10 駆動回路
11 ローパスフィルタ
12 バッファアンプ
13 バッファアンプ
14 5V電源回路
15 3.3V電源回路
20 電気伝導度推定装置
30 検出器
40 演算制御部(演算制御手段)
41 周波数選択部
42 水分量算出部
43 水分量算出テーブル記憶部
44 電気伝導度推定部
45 電気伝導度推定テーブル記憶部
A 主回路
B プリント基板
b1 櫛歯部
b2 櫛歯部
b3 ボディ部
D 接続ケーブル
E 樹脂モールド
J 回路
P 接点