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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】障害物検知センサ
(51)【国際特許分類】
   G01S 15/931 20200101AFI20220208BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
G01S15/931
G08G1/16 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017245529
(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公開番号】P2019113359
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-11-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】菅江 一平
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 栄二
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-112416(JP,A)
【文献】特開2017-166864(JP,A)
【文献】特表2015-502534(JP,A)
【文献】特開2017-146165(JP,A)
【文献】特開2010-281793(JP,A)
【文献】国際公開第2013/027273(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0180530(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102012024959(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/52 - G01S 7/64
G01S 15/00 - G01S 15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路上の障害物を検知するための閾値を選択する制御部と、
振動波を発振し、発振された振動波の反射波を受振することで距離情報を取得する距離センサ部と、
路面情報を記憶した外部記憶部を有する道路情報サーバと通信して前記路面情報を取得する通信部と、
前記距離情報を基にして前記障害物を識別するための検知関係情報を記憶した記憶部と、を備え、
前記制御部は、前記記憶部から読み出した前記検知関係情報と、前記通信部を介して前記外部記憶部から取得した前記路面情報とを対比して、前記閾値を選択し、前記距離情報を前記通信部から前記道路情報サーバに送信すると共に、当該道路情報サーバに、当該距離情報を前記外部記憶部に記録させ、当該外部記憶部に前記距離情報を記録させた後、新たに取得した前記距離情報が、その直前に前記道路情報サーバに送信した前記距離情報に対して所定以上の変化をした場合に、当該取得した前記距離情報を前記道路情報サーバに送信し、前記新たに取得した前記距離情報が、その直前に前記道路情報サーバに送信した前記距離情報に対して所定以上の変化をしない場合は、当該取得した前記距離情報を前記道路情報サーバに送信しない障害物検知センサ。
【請求項2】
環境値を取得する環境センサ部を備え、
前記制御部は、前記環境センサ部が取得した環境値を基にして前記距離情報を補正する請求項1に記載の障害物検知センサ。
【請求項3】
前記通信部は、環境値を配信する環境情報サーバと通信し、
前記制御部は、前記環境情報サーバから環境値を取得し、当該環境値を基にして前記距離情報を補正する請求項1又は2に記載の障害物検知センサ。
【請求項4】
前記道路情報サーバは、クラウドコンピューティングで提供されている請求項1から3のいずれか一項に記載の障害物検知センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TOF型の距離センサを備えた障害物検知センサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、超音波を送振し、その反射波を受振して反射物体までの距離を測定する、いわゆるタイム・オブ・フライト(Time-Of-Flight、TOF)法による超音波距離測定装置が記載されている。
【0003】
この特許文献1に記載される超音波距離測定装置は、パルス信号の周波数や位相等を変調することで識別信号(変調信号)を加えた超音波のバースト波を送振し、識別信号を情報として含む超音波の反射波等を受振し、送信した変調信号との相関をとることで、精度よく距離を求めることができる。
【0004】
特許文献2には、距離計測装置(超音波ソナー)を車両に取り付け、当該超音波ソナーから送振される超音波の反射波を受振して車両周辺に存在する障害物を検知する車両周辺監視装置が記載されている。また、このような車両周辺監視装置において、車両周辺に存在する障害物の検知性能向上のニーズが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-249770号公報
【文献】特開2011-112416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両が走行する道路には、いわゆる走行の障害となる障害物と、走行の障害とはならない路面の凹凸(例えば、路面の凹みや盛りあがり、砂利や石ころの存在)がある。
特許文献1に記載される超音波距離測定装置は、識別信号の有無により、自己の発振した超音波の反射波と、それ以外の超音波とを区別することで精度よく距離を求めることができる。しかし、発振する超音波に識別信号を付与しても、当該識別信号によっては、道路上の障害物と、路面の凹凸とを識別することは出来ない。路面の凹凸による反射波にも識別信号が含まれるためである。
そのため、精度よく距離情報をもとめるだけでは、特許文献2に例示されるような、車両周辺に存在する障害物の検知性能向上のニーズが十分に満たされていなかった。
そのため、路面の状態によらず高い精度で計測が行える障害物検知センサの提供が望まれる。
【0007】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、路面の状態によらず高い精度で計測が行える障害物検知センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る障害物検知センサの特徴構成は、
道路上の障害物を検知するための閾値を選択する制御部と、
振動波を発振し、発振された振動波の反射波を受振することで距離情報を取得する距離センサ部と、
路面情報を記憶した外部記憶部を有する道路情報サーバと通信して前記路面情報を取得する通信部と、
前記距離情報を基にして前記障害物を識別するための検知関係情報を記憶した記憶部と、を備え、
前記制御部は、前記記憶部から読み出した前記検知関係情報と、前記通信部を介して前記外部記憶部から取得した前記路面情報とを対比して、前記閾値を選択し、前記距離情報を前記通信部から前記道路情報サーバに送信すると共に、当該道路情報サーバに、当該距離情報を前記外部記憶部に記録させ、当該外部記憶部に前記距離情報を記録させた後、新たに取得した前記距離情報が、その直前に前記道路情報サーバに送信した前記距離情報に対して所定以上の変化をした場合に、当該取得した前記距離情報を前記道路情報サーバに送信し、前記新たに取得した前記距離情報が、その直前に前記道路情報サーバに送信した前記距離情報に対して所定以上の変化をしない場合は、当該取得した前記距離情報を前記道路情報サーバに送信しない点にある。
【0009】
上記構成によれば、超音波や光などの振動波を発振(発信)して、当該発振した振動波の反射波を受振(受信)する、いわゆるTOF型の距離センサ部により距離情報、つまり、反射波から取得したTOF情報としての路面の凹凸や障害物の存在に係る情報の取得を継続するに際し、制御部は、自己の記憶部にあらかじめ記録されていた検知関係情報と、外部から取得した、現在計測している道路についての路面情報と、距離センサ部が障害物を検知すべく取得した距離情報を対比して、現在計測している道路上の障害物の検知条件を決定することができる。ここで、路面情報とは、道路の路面がどのような凹凸状態であるかの情報である。
【0010】
つまり制御部は、現在計測している道路の路面の凹凸の状態に応じて障害物の検知条件を決定(変更)することができる。たとえば、凹凸の少ない舗装道路の場合は、微弱な反射波を受振しても、当該反射波は、道路の凹凸によるものでは無く、障害物によるものであると判断するように検知条件を変更することが可能になる。また、凹凸の大きな砂利道であれば、多少大きな反射波を受振しても、当該反射波は、道路の凹凸であり、障害物によるものではないと判断するように検知条件を変更ことが可能になる。
したがって、上記構成によれば、適切に道路の凹凸と障害物とを識別して検知するなど、路面の状態によらず高い精度で計測が行える障害物検知センサを提供することができる。
【0012】
上記構成によれば、制御部は、外部記憶部、つまり、制御部からみて外部にある道路情報サーバの記憶装置から路面情報を取得することができる。
したがって、障害物検知センサは、自己が大容量の記憶装置を有することなく、外部から、現在計測している道路についての必要十分な情報量を取得することができる。また、障害物検知センサは、道路情報サーバ上で逐次更新されているであろう最新の道路情報を、容易に利用できるようになる。
したがって、上記構成によれば、障害物検知センサの製造後に道路の状態が変化していても、高い精度で計測が行える障害物検知センサ置を提供することができる。
【0014】
通常、距離センサ部が取得する距離情報の大部分は、確率的に路面との距離情報である。したがって、距離センサ部が取得した距離情報を蓄積すれば、当該距離情報に含まれる障害物との距離情報は相対的に希釈され、計測した道路の路面との距離の情報、つまり、路面の凹凸についての情報が支配的になる。つまり、蓄積された距離情報は、路面情報に近似する情報になる。
したがって上記構成によれば、距離センサ部が取得した距離情報、すなわち、距離センサ部が取得した最新の路面情報を道路情報サーバの記憶部に記憶し、当該道路情報サーバの路面情報をアップデートすることができる。
【0016】
たとえば距離センサ部が取得した距離情報を、常に道路情報サーバに送信することとすると、通信量が増大し、通信ネットワークの混雑を生じたりする場合があるため問題である。
そこで上記構成によれば、制御部は、距離情報を取得した場合、当該取得した距離情報が、直前、すなわち、最後に道路情報サーバに送信した距離情報に対して所定以上の変化をした場合に、当該取得した距離情報を道路情報サーバに送信するようにして、当該所定以上の変化がない場合には通信が発生しないようにして、通信量を低減することができるようになっている。
したがって、通信量の増大を回避し、通信ネットワークの混雑を回避しつつ、必要分だけ、道路情報サーバの情報をアップデートすることができる。
【0017】
本発明に係る障害物検知センサの更なる特徴構成は、
環境値を取得する環境センサ部を備え、
前記制御部は、前記環境センサ部が取得した環境値を基にして前記距離情報を補正する点にある。
【0018】
振動波の伝播速度などの特性、特に超音波の音速は、周囲の気温、湿度、気圧などの環境の情報である環境値により変動する。そのため、上記構成によれば、振動波の特性、例えば超音波の音速を、環境センサ部が取得した環境値を基にして正確に求め、補正された正確な距離情報を取得することができる。
【0019】
本発明に係る障害物検知センサの更なる特徴構成は、
前記通信部は、環境値を配信する環境情報サーバと通信し、
前記制御部は、前記環境情報サーバから環境値を取得し、当該環境値を基にして前記距離情報を補正する点にある。
【0020】
振動波の伝播速度などの特性、特に超音波の音速は、周囲の気温、湿度、気圧などの環境の情報である環境値により変動する。そのため、上記構成によれば、振動波の特性、例えば超音波の音速を、環境情報サーバから取得した環境値を基にして正確に求め、補正された正確な距離情報を取得することができる。
【0021】
本発明に係る障害物検知センサの更なる特徴構成は、
前記道路情報サーバは、クラウドコンピューティングで提供されている点にある。
【0022】
上記構成によれば、道路情報サーバの道路情報を、ネットワークで接続された多数の障害物検知センサで共有しつつ、ネットワーク上に存在する複数の道路情報サーバで共有して記憶することができる。また、道路情報サーバの道路情報を、当該多数の障害物検知センサでアップデートすることができる。
したがって、道路ネットワーク全体にわたる道路情報を、最近の状態に維持しつつ、多数の障害物検知センサで共有することができる。また、複数の道路情報サーバで共有して安全に保存およびアップデートすることができる。つまり、障害物検知センサは、最新の道路情報を取得できるようになり、距離計測性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】距離計測装置の構成の説明図
図2】制御部およびTOFセンサ部の構成の説明図
図3】位相変調方式で変調した波形の説明図
図4】振幅変調方式で変調した波形の説明図
図5】周波数変調方式で変調した波形の説明図
図6】位相変調方式と振幅変調方式とを同時に用いて変調した波形の説明図
図7】TOF法による距離計測の説明図
図8】誤検知の回避についての説明図
図9】検知条件の変更についての説明図
図10】道路情報サーバへの距離情報を送信するか否かの判断の流れ図
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1から図10に基づいて、本発明の実施形態に係る、障害物検知センサとして用いられる距離計測装置100について説明する。
【0025】
〔概略の説明〕
図1は、距離計測装置100を搭載した車両200の概略構成を説明する模式図である。
距離計測装置100は、対象物9との距離を、変調された超音波の反射波を受振して計測し、距離情報を取得する距離の計測装置である。
本実施形態において距離計測装置100は、対象物9との距離を計測することで、障害物91と道路92の凹凸93とを区別することができる障害物検知センサとして機能している。距離計測装置100は例えば、車両200に搭載されて、障害物91の存在を認識し、また、障害物91との距離を把握して、それらの情報を、制御部1が車両200の運転座席の表示部(図示せず)などを介して運転者に通知するようになっている。
【0026】
距離計測装置100は、図1に示すように、TOFセンサ部3(距離センサ部の一例)と、外部ネットワークであるインターネットNと通信する車両側通信部2(通信部の一例)と、対象物9を識別するための検知関係情報を記憶する車両側記憶部4(記憶部の一例)と、距離計測装置100および車両200の動作制御を行う制御部1など、を主要な構成要素として包含する。
【0027】
本実施形態では、車両200からみて外部のネットワークであるインターネットNには、少なくともストレージサーバ7と、道路情報サーバ61と、環境情報サーバ63とが接続されている。
【0028】
〔詳細の説明〕
〔インターネットおよびクラウドコンピューティングについて〕
インターネットNは、公共通信用アンテナ60を介して車両200が、各種サーバや他の車両300と通信可能となるネットワークである。公共通信用アンテナ60は、例えば携帯電話網の基地局である。
インターネットNには、少なくともストレージサーバ7と、道路情報サーバ61と、環境情報サーバ63とが接続されており、それぞれのサーバは、それぞれ独自に他のサーバや車両200等と通信可能になっている。
【0029】
道路情報サーバ61は、車両200や他の車両300が走行すると想定される道路の路面の情報(路面情報)や、車両200や他の車両300が取得した距離情報を管理するサーバであり、情報を演算し、解析するためのプログラムの記憶部および中央演算装置(図示せず)を備える。
【0030】
本実施形態では、道路情報サーバ61は、路面情報や距離情報を記憶(格納)する記憶部をローカルには備えず、ハードディスクなどの記憶装置(以下、外部記憶部70と称する)を有するストレージサーバ7を記憶部として利用している。本実施形態では、道路情報サーバ61は、ストレージサーバ7の外部記憶部70内に、路面情報を記憶する路面情報DB71と、距離情報DB72とを有する。つまり、道路情報サーバ61は、クラウドストレージ化されたストレージサーバ7に路面情報DB71と、距離情報DB72とを有している。
【0031】
道路情報サーバ61や、ストレージサーバ7は、インターネットN上に接続された複数の電子計算機が仮想的に一個のサーバとして機能したり、一個の電子計算機上に、複数種の仮想サーバが構築されて機能したりするなどして、いわゆるクラウド化されている。
【0032】
距離情報DB72には、道路の凹凸にかかる情報が記憶されている。例えば、車両200や他の車両300から送信されてきた距離情報が記憶されている。
【0033】
路面情報DB71には、路面情報が記憶されている。この路面情報は、距離情報DB72に記憶された大量の距離情報(いわゆる、ビックデータ)をクラウド上、たとえば、道路情報サーバ61の中央演算装置が解析し、それぞれの道路の状態を分類した情報(路面情報)が記憶されている。
路面情報DB71には、例えば、ある道路が、良く舗装された舗装道路、傷んだ舗装道路、砂利道、未舗装などである旨の路面情報が、分類して記憶されている。具体的な説明は、後述する。
【0034】
なお、路面情報は上記例示に限られず、道路の路面の物質がアスファルト、コンクリートなどである旨や、道路の路面の状態が、凍結温度以下である、凍っている、濡れているなどの路面の温度や状態などの詳細に分類したその他の情報を含みうる。
【0035】
環境情報サーバ63は、車両200や他の車両300が走行すると想定される道路周囲の気象情報を管理し、車両200などの要請に応じて気象情報を配信するサーバである。
環境情報サーバ63は、気象情報のうち、少なくとも、気温、湿度の情報などの環境値を車両200などに配信可能になっている。環境情報サーバ63は、本実施形態では、気温、湿度に加えさらに気圧の情報を環境値として配信可能になっている。
図示しないが、環境情報サーバ63も、道路情報サーバ61と同様に、ストレージサーバ7を、気象情報を記憶する記憶部として利用している。
【0036】
〔TOFセンサの構成〕
TOFセンサ部3は、図2に示すように、超音波を発振する圧電素子31と、圧電素子31が発振する超音波の基本波を発振する発振器34と、発振器34が発振した基本波(搬送波)を変調する変調器32と、圧電素子31が受振した反射波を復調して復調信号を取得する検波器35と、を備える。TOFセンサ部3は、圧電素子31から超音波を送振し、その反射波を圧電素子31で受振して反射物体までの距離を測定する、いわゆるタイム・オブ・フライト(Time-Of-Flight、TOF)法を実行するためのセンサ部である。
【0037】
圧電素子31は、超音波を発振し、また、受振するデバイスである。
圧電素子31は、印加された電圧に応じて変位し、また、振動エネルギーなどの機械的な力を加えられると、その変位に応じて起電力を生じる振動子(図示せず)を備えた、いわゆる超音波振動子のユニットである。
圧電素子31の振動子は、所定の周波数(波長)で共振するため、通常は、発振する超音波の中心となる周波数(もしくは波長)と、受振可能な超音波の中心となる周波数(もしくは波長)は同じになる。
本実施形態の圧電素子31の共振周波数は40kHzである。
【0038】
本実施形態では、圧電素子31は、変調器32から印加される電圧の変化に応じて超音波を発振するようになっている。また、圧電素子31は、外部の振動、例えば、圧電素子31が自ら発振した超音波を受振することができる。
【0039】
圧電素子31は、本実施形態では所定時間の連続的な振動(電圧を印加された振動)と停止を繰り返している。圧電素子31は振動を停止している場合に、外部の振動(超音波)を受振することができる。言い換えると、外部の振動を受振する際には、電圧の印加が停止される。
圧電素子31が受振した振動は、圧電素子31により電圧の信号に変換されて検波器35に送信される。
【0040】
つまり本実施形態では、圧電素子31としてひとつの超音波振動子のユニットを用い、変調波に対応する超音波を発振する際に、圧電素子31が発振素子として用いられ、周囲の超音波を受振する際に、同じ圧電素子31が受振素子として用いられている。
【0041】
発振器34は、圧電素子31を振動させるための基本波を発振する、周波数ジェネレーターである。発振器34が発振した基本波が、本実施形態では搬送波として用いられる。
本実施形態では、発振器34は、所定の振動数で振動する水晶振動子(図示せず)の基本振動を基にして、所定の周波数を生成し、搬送波として変調器32へ供給している。
【0042】
変調器32は、発振器34が発振する基本波を変調(以下、単に変調、と称する場合がある)し、圧電素子31に変調波を送信する変調回路(図示せず)であって、圧電素子31を駆動するための電圧を生じさせる回路(図示せず)を有するものである。
【0043】
変調器32は、本実施形態では、発振器34が発振する基本波を搬送波とし、パルス発生器15が発振する信号に応じて当該基本波を変調し、信号情報を含む変調波を生成している。そして変調器32は、圧電素子31に対し、当該変調波を電圧の波として、すなわち、位相や振幅の強弱を変化させた電圧を印加し、圧電素子31を駆動している。圧電素子31は、変調器32から印加された電圧に応じて振動し、変調された超音波、すなわち、信号情報を含む超音波を発振する。
【0044】
変調器32は、制御部1の指示に応じた変調方式で変調することができる。
本実施形態では、変調器32は制御部1の指示に応じて、位相変調方式、振幅変調方式、周波数変調方式のいずれかもしくはこれらを組み合わせて変調波を発振するようになっている。
変調器32は、位相変調方式、振幅変調方式、および周波数変調方式、およびこれらを組み合わせた方式に対応する変調回路(図示せず)を変調器32の内部に包含している。
【0045】
なお、本実施形態に言う位相変調方式とは、デジタル信号を、搬送波の位相を変化させて表して変調する、すなわち位相変調して伝送する方式の事をいい、PSK(phase-shift keying)とも呼ばれる。
【0046】
図3に、位相変調方式で変調した場合の波形の一例を示す。
本実施形態では、図3に示すように、搬送波と同じ位相が二進数の1を表し、搬送波とπだけずれた位相が二進数のゼロを表している。
【0047】
また、本実施形態に言う振幅変調方式とは、デジタル信号を搬送波の振幅の違いで表して変調する、すなわち振幅変調するする方式をいい、ASK(amplitude shift keying)とも呼ばれる。
本実施形態では、連続する波のうち、相対的に大きな振幅が二進数の1を表し、相対的に小さな振幅が二進数のゼロを表している。
【0048】
図4に、振幅変調方式で変調した場合の波形の一例を示す。
図4では、二進数の1を表す相対的に大きな振幅に対して、当該振幅を100パーセントとした場合に、50パーセントの振幅を二進数のゼロを表す場合の目標振幅として変調制御し、100パーセントと50パーセントの平均値である75パーセント以下の振幅である場合に、二進数のゼロを表しているものとする場合を図示している。
【0049】
また、本実施形態に言う周波数変調方式とは、デジタル信号を搬送波の周波数の違いで表して変調する、すなわち周波数変調するする方式をいい、FSK(frequency shift keying)とも呼ばれる。
【0050】
図5に、周波数変調方式で変調した場合の波形の一例を示す。
本実施形態では、搬送波と同じ周波数が二進数の1を表し、搬送波よりも所定の大きさだけ周波数変化した場合に二進数のゼロを表すことができる。たとえば、図5の場合には、搬送波と同じ周波数が二進数の1を表し、搬送波よりも周波数が所定の大きさだけ小さい場合が二進数のゼロを表している。
【0051】
本実施形態では、以下、変調器32が、位相変調方式と振幅変調方式との二つの変調方式を同時に用いて変調する方式で変調して変調波を出力し、圧電素子31が当該変調波に対応する超音波を発振している場合を例示して説明する。
【0052】
図6の波形Wは、圧電素子31が、位相変調方式と振幅変調方式とを同時に用いて変調した超音波を発振する場合の、当該超音波の波形の一例を図示している。
図6の場合、パルス発生器15は、最上位ビットから順に、[11111000]の8ビットの符号を含むパルス信号(図6の上段の表に図示)を発信している。そして変調器32は、上位ビットから下位ビットの順に、ビットごとに交互に振幅変調方式と位相変調方式とに振り分けて変調して表している。さらに、圧電素子31(図1参照)は、当該変調された変調波に対応する超音波として、波形Wの超音波を発振している。
なお、図6には、変調器32が、振幅変調方式でゼロを表す場合に、当該部分のバースト長を、振幅変調方式で1を表す部分の半分のバースト長で変調している場合を例示している。
【0053】
図2に示す検波器35は、圧電素子31が受振した振動を復調して復調信号を取得するための復調機能を有する機能部である。なお、本実施形態において、圧電素子31が受振した振動とは、超音波であり、特に圧電素子31が発振した超音波の反射波である。
【0054】
検波器35は、本実施形態では、位相変調方式、振幅変調方式、および周波数変調方式に対応する復調部として機能する復調回路を有している。
検波器35は、復調した復調信号を、制御部1の比較器17へ送信する。復調信号を受信した制御部1は、復調信号の方式を判断し、また、当該復調信号に含まれる信号を認識する。
【0055】
〔車両側通信部の構成〕
車両側通信部2は、図1に示すように、車両200および距離計測装置100が外部ネットワークと通信するための機能部である。車両側通信部2は、本実施形態では、車載アンテナ20と、いわゆるインターネットNに接続されている公共通信用アンテナ60とを介して、インターネットNと接続されるようになっている。車両側通信部2は、このインターネットNを介して、インターネットNに接続された道路情報サーバ61や、環境情報サーバ63と通信することができる。
【0056】
〔記憶部の構成〕
車両側記憶部4は、図1に示すように、車両200および距離計測装置100が利用する各種の情報を記憶し、また読み出すための記憶装置である。
本実施形態では、車両側記憶部4には、車両200が走行することが想定される道路網の情報を記憶した地図情報DB41と、制御部1が対象物9との距離情報から障害物91を検知するための検知関係情報が記憶された計測条件DB42と、道路情報サーバ61から取得した路面情報やTOFセンサ部3が取得した距離情報を一時的に記憶する一時記憶DB49と、制御部1が各種の動作を実行するための基本プログラムが格納されているプログラムDBを有している。
【0057】
地図情報DB41には、少なくとも緯度経度から、道路90を特定できる道路地図の情報が記録されている。
【0058】
計測条件DB42には、距離情報を基にして障害物91と道路92の凹凸93とを識別するための検知関係情報が、道路の路面の状態に応じて記憶されている。例えば、ある道路90が、良く舗装された舗装道路、傷んだ舗装道路、砂利道、もしくは未舗装の道路である場合のそれぞれに応じた検知関係情報を記憶しておくことができる。
【0059】
〔制御部の構成〕
制御部1は、図1に示すように、車両200のECU(エンジンコントロールユニット)であり、本実施形態では距離計測装置100全体を制御する機能を有している。
制御部1は、図2に示すように、中央演算装置であるCPU10を中核機構として有する。制御部1はさらに、パルス発生器15と、比較器17と、を備える。
【0060】
パルス発生器15は、所定の符号を含む信号を生成する信号発生器である。パルス発生器15は、識別信号として、距離計測装置100に固有の所定の符号(固有の符号列、もしくは識別IDとなる符号列)を含む信号を生成するようになっている。
パルス発生器15は、本実施形態では、生成した識別信号を、制御部1として変調器32へ供給(伝送)している。
パルス発生器15は、CPU10から送信される動作指令に従って、所定の符号を含む信号を生成する動作する。
【0061】
パルス発生器15は、所定のビット長で、所定のビット配列の、二進数の符号を含む信号を生成する。
所定のビット長としては例えば、8ビットのビット長を選択できる。
所定のビット配列としては任意の配列を選択してよい。
【0062】
パルス発生器15は、所定のビット長における各ビットを、パルス信号(パルスのオンオフ)で出力している。パルス発生器15が所定のタイミングでパルスを発した場合(パルスオン)、当該所定のタイミングにおけるパルスは二進数の1を意味し、所定のタイミングでパルスを発しない場合(パルスオフ)、当該所定のタイミングはゼロを意味する。
パルス発生器15は、ビット長が8ビットの場合は、8回のパルスのオンないしオフの組み合わせの信号を出力するようになっている。
【0063】
以下では、パルス発生器15が所定のタイミングでパルスを発した状態を符号1とする。また、パルス発生器15が所定のタイミングでパルスを発しない状態を符号ゼロとする。
また、単に、パルス、と称する場合は、符号1もしくは符号ゼロのいずれかを意味する。
また、パルス信号、と称する場合は、複数のパルスの組み合わせを意味する。
【0064】
なお、パルス発生器15がパルスを発する所定のタイミングとしては、たとえば発振器34が発振する基本波のタイミング(たとえば、周期)に同期させることができる。
本実施形態では、発振器34が発振する基本波の周期に同期させており、具体的には、原則、八波発振されるタイミング(八周期)ごとに、一回のパルスを発するようになっている。
【0065】
比較器17は、TOFセンサ部3の検波器35から取得した信号(復調信号)に含まれる符号とパルス発生器15の符号とを比較して一致もしくは不一致を判定するための演算ユニットである。
比較器17は、当該判定した結果(以下、判定結果と称する)をCPU10に送信する。
【0066】
CPU10は、制御部1における、パルス発生器15および比較器17以外の機能を実行する機能部であり、車両側記憶部4のプログラムDB43(図1参照)に格納されたプログラムに従って動作する演算ユニットである。
【0067】
CPU10は制御部1として、比較器17から取得した判定結果と、当該判定結果を取得したタイミングをもとにして対象物9との距離を算出するようになっている。
また、CPU10は制御部1として、計測条件DB42にあらかじめ記録されていた検知関係情報と、道路情報サーバ61を介して路面情報DB71から取得した、現在計測している道路についての路面情報と、TOFセンサ部3が障害物91を検知すべく取得した距離情報を対比して、現在計測している道路上の障害物91の検知条件を決定することができる。
【0068】
検知条件としては例えば、所定の閾値を超えるピークを有する反射波を受振した場合に、当該反射波を障害物91からの反射波であると定義することができる。
そして、例えば未舗装の道路の場合の所定の閾値を、良く舗装された道路の場合の所定の閾値よりも大きな閾値とすることができる。
反射波の受振と距離計測、および障害物91の検知については後述する。
【0069】
なお、本実施形態において、現在計測している道路(現在走行している道路)は、例えばいわゆるGPS(全地球測位システム、Global Positioning System)を有するカーナビゲーション装置であるナビゲーション部5が取得することができる、緯度および経度の情報を含むGPS情報を制御部1がナビゲーション部5から取得し、地図情報DB41に記憶された地図情報を制御部1が読み出して、制御部1がGPS情報と地図情報とを対比することで特定することができる。
【0070】
〔動作の説明〕
〔障害物の検知動作の基本的な説明〕
以下では、距離計測装置100による、障害物91の検知と距離の計測動作について説明する。
本実施形態では、距離計測装置100は、いわゆるタイム・オブ・フライト(Time-Of-Flight、TOF)法により、距離を計測する。
【0071】
図7には、TOF法による距離情報、および距離情報を基にした距離計測の基本的な概念を説明するグラフを図示している。
図7のグラフの横軸は時間の経過を意味している。
図7のグラフの縦軸は振幅の大きさを意味している。
ラインE1は、圧電素子31の振動の振幅の包絡線(エンベロープ)であり、本実施形態における距離情報の一例である。
本実施形態において、圧電素子31は、上述のように、変調された超音波を発振している。
【0072】
圧電素子31は、所定の間隔毎に変調器32に発振時間T1だけ駆動される。
図7には、圧電素子31が、発振時間T1だけ変調器32に駆動されて振動(強制振動)した後、慣性による振動を残響時間T2だけ継続(いわゆる残響)し、その後、外部からの振動を受振している場合を図示している。
【0073】
図7の図示の場合、圧電素子31は、圧電素子31の駆動が開始されてから時間Tp後に、所定の閾値Th1を超える大きさの振動ピークP1を受振している。この振動ピークP1が、通常、障害物91(図1参照)からの反射波のピークである。
なお、閾値Th1は、道路90からの、道路の凹凸に伴う小さな反射波と、障害物91からの反射波を識別するための値である。閾値Th1は、道路90が良く舗装された舗装道路である場合の検知関係情報の一例であり、本実施形態では計測条件DB42に予め記憶された値である。
【0074】
本実施形態では、閾値Th1を超えるピークを有する反射波が、障害物91からの反射波であると定義している。一方、閾値Th1を超えないピークを有する反射波は、一般に道路90の凹凸により生じる反射波であると定義している。
【0075】
TOF法で障害物91との距離を計測する場合、振動ピークP1の開始点を、反射波の受振の開始点と認識すればよい。
振動ピークP1の開始点は、図7では、時間Tpから、時間ΔTだけさかのぼったポイントで図示している。通常、時間ΔTの長さは、発振時間T1に等しい。言い換えると、圧電素子31が発振した超音波の反射波の受振に要した時間Tfは、時間Tpから発振時間T1を差分して求めることができる。
【0076】
たとえば図7の場合には、圧電素子3の駆動が開始された時点(ゼロ)から、振動ピークP1を示す時間Tpに達した時点より時間ΔTだけさかのぼった時点までの時間が時間Tfに対応する。もしくは、発振時間T1に達した時点から、振動ピークP1を示す時間Tpに達した時点までの時間も時間Tfと同じ時間長さである。
【0077】
このように、本実施形態では、ラインE1(圧電素子31の振動の振幅の包絡線)が距離情報の一例である。ラインE1は、本実施形態では、圧電素子31の振動の振幅から取得された数値データとして、制御部1により、一時記憶DB49に記憶される。
【0078】
圧電素子31が受振した反射波は、検波器35で復調され、取り出された復調信号は、制御部1の比較器17に送信される。
ここで、圧電素子31が発振する超音波の反射波は、所定の符号を含む情報を有している。したがって、検波器35で復調され、取り出された信号は、パルス発生器15が生成した所定の符号を含んでいる。そこで、制御部1は、比較器17の判定結果が一致であれば、当該反射波が、圧電素子31が発振した超音波の反射波であると認識し、障害物91の存在を検知することができる。そして、制御部1は、時間Tfを求め、時間Tfの半分の時間に、音速を乗ずることで、障害物91との距離を求めることができる。
【0079】
なお、ここで音速は、車両200の周囲の気温、湿度、気圧などにより変動する特性であるため、本実施形態では、制御部1が、車両200が備える環境センサ部8が取得した気温、湿度、気圧などの環境の情報である環境値を基にして、車両200が走行している環境下における音速を正確に求めるようになっている。これにより、制御部1は、環境値の変動を補正した正確な距離情報を取得することができる。
【0080】
また、環境センサ部8に障害が発生して環境値を取得できない場合には、制御部1が、車両側通信部2に環境情報サーバ63と通信させて、環境情報サーバ63から周囲の環境値を取得して、車両200が走行している環境下における音速を正確に求めるようになっている。これにより、制御部1は、環境センサ部8に障害が発生した場合にも、環境値の変動を補正した正確な距離情報を取得することができる。
【0081】
〔誤検知の回避について〕
比較器17の判定結果が不一致である場合について補足する。
図8は、図7に示したラインE1に加えて、振動ピークP2を有する超音波の入射が、ラインEfとして、重畳して図示されている。このラインEfは、例えば他の車両300(図1参照)などに搭載された、別の距離計測機が発した超音波もしくはその反射波を、圧電素子31が受振したものである。
【0082】
図8に示す場合、振動ピークP2を有する超音波には、所定の符号を含む信号が含まれていない。したがって、振動ピークP2が閾値Th1を超える場合にも、比較器17が不一致の判定をするため、制御部1は、圧電素子31が受振した振動ピークP2を有する超音波は、圧電素子31が発振した超音波の反射波ではないと認識することができる。
このように、所定の符号を含む超音波を発振し、また受振するようにすることで、制御部1は、誤検知を回避することができ、距離計測装置100の計測性能を向上させることができる。
【0083】
〔路面情報についての補足説明〕
路面情報DB71に記憶される路面情報について、図7を基にして補足する。
例えば良く舗装された道路は平坦である。したがって、図7に例示したように、小さくない反射波が認められず、小さい反射波が継続的に検出されるような距離情報を得ることができる道路は、良く舗装された舗装道路であるとして路面情報DB71に記憶される。
【0084】
また、傷んだ舗装道路にはしばしば大きくない凹凸が見受けられる。したがって、小さくない反射波が時々認められ、通常は小さい反射波が継続的に検出されるような道路は、例えば傷んだ舗装道路であるとして路面情報DB71に記憶される。
【0085】
砂利道であれば、連続して大きくない凹凸が存在する。したがって、小さくない反射波が継続的に検出されるような道路は、例えば砂利道であるとして路面情報DB71に記憶される。
【0086】
未舗装の道路の場合は、大きな凹凸が存在する。したがって、小さくない反射波や、やや大きい反射波が不定期に検出されるような道路は、例えば未舗装の道路であるとして路面情報DB71に記憶される。
【0087】
〔検知条件の変更について〕
検知条件の変更について説明する。
図9に示すラインE2は、図7に示したラインE1と同様に、圧電素子31の振動の振幅の包絡線(エンベロープ)であるが、図7に示したラインE1とは異なり、障害物91からの反射波の振動ピークP1と共に、振動ピークP3と振動ピークP4とを有している。なお、振動ピークP1、振動ピークP3、および振動ピークP4を有する反射波はそれぞれ、所定の符号を含む情報を有している。
【0088】
また、図9には閾値Th1と、閾値Th1よりも大きな閾値Th2とを併せて示している。
ここで、上述のごとく閾値Th1は、良く舗装された舗装道路の場合の閾値である。
また、閾値Th2は、未舗装の道路の場合の閾値である。
閾値Th2も閾値Th1と同様に、本実施形態では計測条件DB42に予め記憶された値であり、本実施形態における検知関係情報の一例である。
【0089】
図9において、振動ピークP1は、閾値Th2および閾値Th1よりも大きい位置にある。振動ピークP3は、閾値Th1よりも大きい位置にあり、閾値Th2よりも小さい位置にある。振動ピークP4は、閾値Th1よりも小さい位置にある。
【0090】
上述のように、振動ピークP1、振動ピークP3、および振動ピークP4を有する反射波はそれぞれ、所定の符号を含む情報を有していることから、振動ピークP1、振動ピークP3、および振動ピークP4を有する反射波はそれぞれ、圧電素子31が発振した超音波の反射波であると考えられる。そのため、図9の例では、振動ピークP3、および振動ピークP4が、障害物91の反射波であるか、道路92の凹凸93に起因する反射波であるかが問題となる。
【0091】
そこで、本実施形態では、制御部1は、現在計測している道路90に対応する閾値を以下のようにして選択することで、路面の状態によらず高い精度で計測が行える。
制御部1は、計測に際し、まず、現在計測(走行)している道路についての路面情報を、道路情報サーバ61から取得する。
【0092】
制御部1が、路面情報として、例えば道路92が良く舗装された道路であるとの情報を取得すると、制御部1は、当該路面情報と、計測条件DB42から読み出した検知関係情報とを対比して、閾値Th1を選択する。
次に、制御部1は、当該閾値Th1と、距離情報としてのラインE2とを対比する。
図9の場合は、振動ピークP3は、閾値Th1よりも大きいため、障害物91の反射波であると判定される。一方振動ピークP3は、閾値Th1よりも小さいため、道路92の表面の凹凸93であると判定される。
【0093】
一方、制御部1が、路面情報として、道路92が未舗装の道路であるとの情報を取得すると、制御部1は、当該路面情報と、計測条件DB42から読み出した検知関係情報とを対比して、閾値Th2を選択する。
次に、制御部1は、当該閾値Th2と、距離情報としてのラインE2とを対比する。
図9の場合は、振動ピークP3および振動ピークP4は、閾値Th2よりも小さいため、道路92の表面の凹凸93であると判定される。
【0094】
このように、現在計測している道路92についての路面情報を道路情報サーバ61から取得し、当該路面情報と、検知関係情報および距離情報とを対比し、適切な閾値を設定(選択)することで、道路92の路面の状態にかかわらず、道路92の凹凸93と障害物91とを識別して検知するなど、路面の状態によらず高い精度で計測が行える、距離計測装置100の計測性能を向上させることができる。
【0095】
〔距離情報の送信について〕
本実施形態において、制御部1は、距離情報を道路情報サーバ61に送信し、当該距離情報を距離情報DB72に記憶する。具体的には、道路情報サーバ61は、制御部1からの要請に基づいて、受信した当該距離情報をストレージサーバ7の距離情報DB72に記憶するようになっている。
さらに本実施形態では、制御部1は、取得した距離情報が、その直前に道路情報サーバ61に送信した前記距離情報に対して所定以上の変化をした場合に、当該直前に取得した距離情報を道路情報サーバ61に送信すると共に、一時記憶DB49に記憶するようになっている。
【0096】
本実施形態では、制御部1は、距離情報(以下、最新情報と称する)を取得すると、一時記憶DB49から、直前に道路情報サーバ61に送信された距離情報(以下、直前情報)を読み出す。そして、制御部1は、当該最新情報と当該直前情報とを比較して、当該最新情報が、当該直前情報から所定以上の変化をしていれば道路情報サーバ61に、当該最新情報を送信する。一方、制御部1は、当該最新情報と当該直前情報とを比較して、当該最新情報が、当該直前情報から所定以上の変化をしていなければ道路情報サーバ61に、当該最新情報を送信しないようになっている。
【0097】
ここで、直前情報から所定以上の変化としては例えば、検出される振動のピークの数の増加や減少、検出される振幅の平均値の増大減少、などが挙げられる。
【0098】
このように、最新情報が直前情報に対して変化する場合に限り、道路情報サーバ61に、当該最新情報を送信するようにすることで、通信量を低減することができるようになっている。また、通信量の増大を回避し、通信ネットワークの混雑を回避しつつ、必要分だけ、道路情報サーバの情報をアップデートすることができるようになっている。
【0099】
以下、制御部1が最新情報を道路情報サーバ61に送信するか否かの判断手順について、図10の流れ図に従って説明していく。
距離計測装置100の圧電素子31が発振をすると(ステップ#01)、制御部1は最新情報を取得する(ステップ#02)。
【0100】
ステップ#01の発振が、車両200の走行開始後の初回の発振であれば(ステップ#03:Yes)、制御部1は、車両側通信部2に、当該最新情報を、道路情報サーバ61に送信させ(ステップ#06)、また、一時記憶DB49に、当該最新情報を記憶し(ステップ#07)、判断を終了する(ステップ#08)。
【0101】
ステップ#01の発振が、初回の発振でなければ(ステップ#03:No)、ステップ#04へ移行し、一時記憶DB49から、直前情報を読み出す(ステップ#04)。
そして最新情報が直前情報より所定以上異なる場合は、ステップ#06へ移行する。
【0102】
最新情報が直前情報より所定以上異ならない場合は、ステップ#08へ移行して判断を終了する(ステップ#08)。
【0103】
以上のようにして、距離計測の計測性能を向上させた距離計測装置を提供することができる。
【0104】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、圧電素子31の共振周波数を40kHzとしたが、圧電素子31の共振周波数はこれに限られず、人の可聴域を超える音域(周波数帯)で任意に設定可能である。なお、人の可聴域を超える音域とは、たとえば20kHz以上の周波数帯の超音波の音域を言う。
【0105】
(2)上記実施形態では、変調器32が、位相変調方式と振幅変調方式との二つの変調方式を同時に用いて変調する場合を説明した。
しかしながら、変調器32が、位相変調方式と振幅変調方式との二つの変調方式に加えて、さらに、周波数変調方式を同時に用いて変調してもよい。
もしくは、変調器32が、位相変調方式、振幅変調方式もしくは周波数変調方式のうち、何れかひとつを用いて変調してもよい。
【0106】
(3)上記実施形態では、制御部1は、距離情報を道路情報サーバ61に送信し、道路情報サーバ61は、制御部1からの要請に基づいて、当該距離情報をストレージサーバ7の距離情報DB72に記憶する場合を説明した。
しかしながら、制御部1が距離情報を道路情報サーバ61に送信すれば、道路情報サーバ61は自発的に(制御部1からの要請が無くとも)当該距離情報をストレージサーバ7の距離情報DB72に記憶することもできる。
【0107】
(4)上記実施形態では、所定のビット長として、8ビットのビット長である場合を例示して説明した。
しかしながら、ビット長の設定は任意であり、混信防止に必要なビット長を選択することができる。例えばビット長を16ビットとしてもよい。
【0108】
(5)上記実施形態では、制御部1は、取得した距離情報が、その直前に道路情報サーバ61に送信した前記距離情報に対して所定以上の変化をした場合に、当該直前に取得した距離情報を道路情報サーバ61に送信する場合を例示した。
しかしながら、制御部1は、取得した距離情報を、取得する毎に道路情報サーバ61に送信することもできる。また、制御部1は、取得した距離情報を。複数回の取得毎に、複数回分をまとめて道路情報サーバ61に送信することもできる。
【0109】
(6)上記実施形態では、TOFセンサ部3が、超音波を発振する圧電素子31を備える場合を例示した。
しかしながら、圧電素子31の代わりに、光を発するLEDなどの発光装置や、たとえばテラヘルツ波などの電磁波を発振するデバイスを備えることもできる。
【0110】
(7)上記実施形態では、検知条件の変更についての説明において、制御部1が、路面情報として、道路92が良く舗装された道路であるとの情報を取得する場合に閾値Th1を選択し、道路92が未舗装の道路であるとの情報を取得する場合に閾値Th2を選択する例を説明した。
しかしながら、制御部1は、路面情報として、良く舗装された道路であるとの情報や未舗装の道路であるとの情報以外にも、傷んだ舗装道路であるとの情報や砂利道であるとのなど、より詳細な路面情報を取得することもできる。この場合、これらそれぞれの詳細な路面情報に対応して個別の閾値を設定し、計測条件DB42に予め記憶しておくことができる。そして、取得した詳細な路面情報に対応させて、これら閾値を切り替えて選択することができる。
【0111】
(8)上記実施形態では、CPU10は制御部1として、計測条件DB42にあらかじめ記録されていた検知関係情報と、道路情報サーバ61を介して路面情報DB71から取得した、現在計測している道路についての路面情報と、TOFセンサ部3が障害物91を検知すべく取得した距離情報を対比して、現在計測している道路上の障害物91の検知条件を決定する場合を例示した。また、当該路面情報は、道路の状態を分類した情報である旨を例示した。
しかしながら、制御部1は、道路の状態を分類した情報である路面情報を道路情報サーバ61を介して路面情報DB71から取得する代わりに、現在計測している道路を計測すれば取得することが想定される理想的な距離情報(圧電素子31が受振することが想定される反射波の情報)を路面情報として取得することもできる。
【0112】
(9)上記実施形態では、符号を表す場合に、たとえば位相変調方式の場合に搬送波と同じ位相が二進数の1を表し、搬送波とπだけずれた位相が二進数のゼロを表し、符号の最小単位が2値である場合を例示した。
しかしながら、符号の表し方は上記例示に限られない。符号は二進数以外にも他の位取り記数法、たとえば十進数を用いることができる。また、各変調方式において二値を超える変調を行うこともできる。
【0113】
具体的にはたとえば、位相変調方式の場合、搬送波と同じ位相で十進数のゼロ(0)を表し、以後、搬送波とπ/4だけずれた位相が十進数の1を、π/2だけずれた位相が十進数の2を、3π/4だけずれた位相が十進数の3を表すようにして、四値で表してもよい。この場合、十進数ではなく、上記実施形態と同様に、二進数で表してもよい。例えば、搬送波と同じ位相で二進数の00を表し、以後、搬送波とπ/4だけずれた位相が二進数の01を、π/2だけずれた位相が二進数の10を、3π/4だけずれた位相が二進数の11を表すようにすることができる。
【0114】
同様に、振幅変調方式や周波数変調方式の場合も、二進数以外の他の位取り記数法を採用し、また、二値を超える変調を行うこともできる。例えば振幅変調方式の場合には、振幅の階調として四段階設定し、二進数の00、01、10、11の四値、ないし、十進数の0、1、2、3の四値を表すこともできる。また、さらに多段階を設定し、4値を超えて表すこともできる。同様に周波数変調方式の場合にも、搬送波に対して多段階の大きさの周波数変化を設定し、多値を表すこともできる。
【0115】
(10)上記実施形態では、振幅変調方式で変調した場合に、二進数の1を表す相対的に大きな振幅に対して、当該振幅を100パーセントとした場合に、50パーセントの振幅を二進数のゼロを表す場合の目標振幅として変調制御し、100パーセントと50パーセントの平均値である75パーセント以下の振幅である場合に、二進数のゼロを表しているものとする場合を例示した。
しかしながら、振幅変調方式のみで変調する場合においては、二進数のゼロを表す場合に、ゼロパーセントの振幅を二進数のゼロを表す場合の目標振幅として変調制御してもよい。この場合、例えば100パーセントとゼロパーセントの平均値である50パーセント以下の振幅である場合に、二進数のゼロを表しているものとすることができる。
【0116】
(11)上記実施形態では、TOFセンサ部3は、超音波を発振する圧電素子31と、圧電素子31が発振する超音波の基本波を発振する発振器34と、発振器34が発振した基本波を変調する変調器32とを備え、変調器32は、制御部1の指示に応じた変調方式で変調することができ、変調器32は制御部1の指示に応じて、位相変調方式、振幅変調方式、周波数変調方式のいずれかもしくはこれらを組み合わせて変調波を発振するようになっている場合を例示した。
しかしながら、TOFセンサ部3は必ずしも変調器32を備える必要は無く、また、変調器32は必ずしも変調波を発振する必要は無い。例えば、TOFセンサ部3は、圧電素子31から基本波に対応する超音波を発振することもできる。
【0117】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明は、距離計測装置に適用できる。
【符号の説明】
【0119】
1 :制御部
2 :車両側通信部
3 :TOFセンサ部(距離センサ部)
4 :車両側記憶部
5 :ナビゲーション部
7 :ストレージサーバ
8 :環境センサ部
9 :対象物
10 :CPU
15 :パルス発生器
17 :比較器
20 :車載アンテナ
31 :圧電素子
32 :変調器
34 :発振器
35 :検波器
60 :公共通信用アンテナ
61 :道路情報サーバ
63 :環境情報サーバ
70 :外部記憶部
90 :道路
91 :障害物
92 :道路
93 :凹凸
100 :距離計測装置
200 :車両
300 :車両
DB41 :地図情報
DB42 :計測条件
DB43 :一時記憶
DB71 :路面情報
DB72 :距離情報
E1 :ライン
E2 :ライン
Ef :ライン
N :インターネット
P1 :振動ピーク
P2 :振動ピーク
P3 :振動ピーク
P4 :振動ピーク
T1 :発振時間
T2 :残響時間
Th1 :閾値
Th2 :閾値
W :波形
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10