(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】旋削方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/22 20060101AFI20220208BHJP
B23B 27/00 20060101ALI20220208BHJP
B23B 1/00 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
B23Q17/22 A
B23Q17/22 D
B23B27/00 D
B23B1/00 Z
(21)【出願番号】P 2018016279
(22)【出願日】2018-02-01
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】今井 康晴
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽亮
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-138504(JP,U)
【文献】実開昭59-028442(JP,U)
【文献】特開平08-132304(JP,A)
【文献】実開平07-015201(JP,U)
【文献】特公昭58-010163(JP,B2)
【文献】特開2005-335055(JP,A)
【文献】特開2017-220111(JP,A)
【文献】特開2003-032764(JP,A)
【文献】国際公開第2014/091884(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/00 - 17/24
B23B 27/00
B23B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具軸に沿って延び先端に台座部を有する工具本体と、
前記台座部に着脱可能に取り付けられる切削インサートと、
前記工具本体に取り付けられる測定装置と、を備え、
前記測定装置
が前記工具本体から対象物までの距離を測定する
旋削工具を用いて、
被削材を主軸周りに回転させながら前記切削インサートを前記被削材に接触させ目標位置まで前記被削材を加工して加工面を形成する旋削工程と、
前記加工面を前記測定装置の検知範囲内に位置させて前記測定装置によって前記加工面の位置を測定する測定工程と、
前記旋削工程における前記加工面の目標位置と、前記測定工程において測定した前記加工面の測定位置と、を比較して差分を算出する比較工程と、を有し、
前記旋削工程における前記加工面の目標位置と、前記測定工程において測定した前記加工面の測定位置と、前記切削インサートを用いて加工を行った前記被削材の累積加工量と、を、ネットワークを介して外部サーバに蓄積する、
旋削方法。
【請求項2】
前記測定装置は、前記工具軸の径方向外側の対象物までの距離を測定する第1の距離センサを有する、
請求項1に記載の
旋削方法。
【請求項3】
前記第1の距離センサによる測定点の軸方向の位置は、前記切削インサートの軸方向の位置と重なる、
請求項2に記載の
旋削方法。
【請求項4】
前記工具本体には、
前記工具軸の軸方向に沿って延びる第1の収容孔と、
前記第1の収容孔から前記工具軸の径方向外側に延びて前記工具本体の外周面に開口する開口孔と、が設けられ、
前記第1の距離センサは、前記第1の収容孔に収容され、
前記第1の距離センサの検出部は、前記開口孔から径方向外側に露出する、
請求項2又は3に記載の
旋削方法。
【請求項5】
前記測定装置は、前記工具軸の軸方向先端側の対象物までの距離を測定する第2の距離センサを有する、
請求項1~4の何れか一項に記載の
旋削方法。
【請求項6】
前記工具本体には、
前記工具軸の軸方向に沿って延びて前記工具本体の先端に開口する第2の収容孔が設けられ、
前記第2の距離センサは、前記第2の収容孔に収容され、
前記第2の距離センサの検出部は、前記第2の収容孔の前記工具本体の先端の開口から軸方向先端側に露出する、
請求項5に記載の
旋削方法。
【請求項7】
前記比較工程における前記差分に応じて、前記被削材を前記旋削工具によって追加工する追加工工程を有する、
請求項
1~6の何れか一項に記載の旋削方法。
【請求項8】
前記比較工程において、前記差分が閾値を超えた場合に、前記切削インサートを交換する切削インサート交換工程を有する、
請求項
1~7の何れか一項に記載の旋削方法。
【請求項9】
前記外部サーバには、交換が必要となる前記切削インサートの摩耗量の閾値データが予め記憶され、
前記外部サーバは、前記閾値データを、ネットワークを介して前記旋削工具又は前記旋削工具が取り付けられる工作機械に送信する、
請求項
1~8の何れか一項に記載の旋削方法。
【請求項10】
前記外部サーバは、前記目標位置と前記測定位置との
前記差分が、前記閾値データを超えた場合の前記累積加工量を、限界累積加工量として記憶する、
請求項
9に記載の旋削方法。
【請求項11】
前記外部サーバは、前記累積加工量が前記限界累積加工量に近づいたときにネットワークを介して前記旋削工具又は前記工作機械に前記切削インサートの交換時期が近付いていることを通知する通知信号を送信する、
請求項
10に記載の旋削方法。
【請求項12】
前記通知信号を受信したときに前記比較工程を行い、前記目標位置と前記測定位置との
前記差分が、前記閾値データより大きい場合に、前記切削インサートを交換する、
請求項
11に記載の旋削方法。
【請求項13】
前記旋削工程における加工条件をネットワークを介して前記外部サーバに蓄積する、
請求項
1~12の何れか一項に記載の旋削方法。
【請求項14】
前記加工条件には、前記切削インサートの種類、前記被削材の種類、前記被削材の直径、前記主軸の回転速度、前記旋削工具による切り込み量および前記旋削工具の送り速度のうち、少なくとも1つを含む、
請求項
13に記載の旋削方法。
【請求項15】
前記外部サーバには、交換が必要となる前記切削インサートの摩耗量の閾値データが予め記憶され、
前記外部サーバは、前記旋削工具によるn回目の前記比較工程における前記差分が、n-1回目の前記比較工程における前記差分に対して小さくなった場合に前記切削インサートが交換されたと判断し、
前記外部サーバは、前記切削インサートが交換された際の前記差分が前記閾値データを超えていない場合に、n-1回目までの前記加工条件および前記累積加工量を特殊事例として記憶する、
請求項
13又は
14に記載の旋削方法。
【請求項16】
前記外部サーバは、ネットワークを介して複数の前記旋削工具に繋がっている、
請求項
1~15の何れか一項に記載の旋削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、工程途中での被加工物の寸法測定を行うことができる多軸自動旋盤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、自動旋盤を用いた加工では、工程途中での被削材の寸法測定を行うことはしない。荒加工のような最終仕上げ寸法に現れてこない部分について、切刃の摩耗に伴う寸法調整が困難であった。また工程途中に加工面の測定を行う場合には、工具を被削材から十分に離間させたて加工面の測定を行い、さらに再度工具を被削材に近づけて追加工を行う必要があった。このため、旋削加工に要する加工時間が長くなり、加工コストが増大するという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、測定に要する時間を短くして加工コストを低減できる旋削工具を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の旋削工具は、工具軸に沿って延び先端に台座部を有する工具本体と、前記台座部に着脱可能に取り付けられる切削インサートと、前記工具本体に取り付けられる測定装置と、を備え、前記測定装置は、前記工具本体から対象物までの距離を測定する。
【0007】
上述の構成によれば、切削インサートを用いて加工した加工面を測定装置により測定することができる。このため、旋削工具が加工面を形成した後、当該加工面を測定する際に、旋削工具を被削材から一旦離間させる工程が不要となる。結果的に、旋削加工において測定工程に要する時間を短くすることができる。
【0008】
上述の旋削工具において、前記測定装置は、前記工具軸の径方向外側の対象物までの距離を測定する第1の距離センサを有する、構成としてもよい。
【0009】
上述の構成によれば、旋削工具が工具軸の径方向外側の対象物までの距離を測定する第1の距離センサを有する。すなわち、旋削工具は、切削インサートにより加工した径方向を向く加工面までの距離を測定できる。旋削工具が径方向を向く加工面を形成した後、当該加工面を測定する際に、旋削工具を被削材から一旦離間させる工程が不要となる。結果的に、旋削加工において測定工程に要する時間を短くすることができる。
なお、第1の距離センサによって、切削インサートで加工された外径、内径、真円度および径方向を向く面の面粗さなどを測定できる。
【0010】
上述の旋削工具において、前記第1の距離センサによる測定点の軸方向の位置は、前記切削インサートの軸方向の位置と重なる、構成としてもよい。
【0011】
上述の構成によれば、第1の距離センサによって切削インサートによる切削位置の近傍を測定することができる。このため、第1の距離センサによる測定工程において、旋削工具を工具軸の軸方向に移動させる移動距離を小さくすることができる。結果的に、旋削加工において測定工程に要する時間を短くすることができる。
【0012】
上述の旋削工具において、前記工具本体には、前記工具軸の軸方向に沿って延びる第1の収容孔と、前記第1の収容孔から前記工具軸の径方向外側に延びて前記工具本体の外周面に開口する開口孔と、が設けられ、前記第1の距離センサは、前記第1の収容孔に収容され、前記第1の距離センサの検出部は、前記開口孔から径方向外側に露出する、構成としてもよい。
【0013】
上述の構成によれば、第1の距離センサが工具本体の内部に埋め込まれる。このため、第1の距離センサを保護することができる。
【0014】
上述の旋削工具において、前記測定装置は、前記工具軸の軸方向先端側の対象物までの距離を測定する第2の距離センサを有する、構成としてもよい。
【0015】
上述の構成によれば、旋削工具が工具軸の軸方向先端側の対象物までの距離を測定する第2の距離センサを有する。すなわち、旋削工具は、切削インサートにより加工した軸方向を向く加工面までの距離を測定することができる。旋削工具が軸方向を向く加工面を形成した後、当該加工面を測定する際に、旋削工具を被削材から一旦離間させる工程が不要となる。結果的に、旋削加工において測定工程に要する時間を短くすることができる。
なお、第2の距離センサによって、切削インサートで段部、孔底部の軸方向位置および軸方向を向く加工面の面粗さなどを測定できる。
【0016】
上述の旋削工具において、前記工具本体には、前記工具軸の軸方向に沿って延びて前記工具本体の先端に開口する第2の収容孔が設けられ、前記第2の距離センサは、前記第2の収容孔に収容され、前記第2の距離センサの検出部は、前記第2の収容孔の前記工具本体の先端の開口から軸方向先端側に露出する、構成としてもよい。
【0017】
上述の構成によれば、第2の距離センサが工具本体の内部に埋め込まれる。このため、第2の距離センサを保護することができる。
【0018】
本発明の一態様の旋削方法は、被削材を主軸周りに回転させながら前記切削インサートを前記被削材に接触させ目標位置まで前記被削材を加工して加工面を形成する旋削工程と、前記加工面を前記測定装置の検知範囲内に位置させて前記測定装置によって前記加工面の位置を測定する測定工程と、を有する。
【0019】
上述の構成によれば、旋削工程の後に、旋削工具を被削材から一旦離間させることなく測定工程を行うことができる。結果的に、旋削加工において測定工程に要する時間を短くすることができる。
【0020】
本発明の一態様の旋削方法は、前記旋削工程における前記加工面の目標位置と、前記測定工程において測定した前記加工面の測定位置と、を比較する比較工程を有する。
【0021】
上述の構成によれば、旋削工程にける加工の目標位置と、測定工程における測定位置とを比較することで、旋削工具を用いた旋削加工の寸法精度を確認することができる。
【0022】
上述の旋削方法において、前記比較工程における前記目標位置と前記測定位置との差分に応じて、前記被削材を前記旋削工具によって追加工する追加工工程を有する、構成としてもよい。
【0023】
上述の構成によれば、比較工程における差分を基に、旋削工具を目標位置より被削材側に近づけて旋削工程を行うことで、加工面の寸法精度を高めることができる。
【0024】
上述の旋削方法において、前記比較工程において、前記目標位置と前記測定位置との差分が閾値を超えた場合に、前記切削インサートを交換する切削インサート交換工程を有する、構成としてもよい。
【0025】
上述の構成によれば、比較工程における差分が閾値を超えた場合に、切削インサートの摩耗が顕著になっていることを判断できる。これにより、切削インサートの交換のタイミングを容易に判断することができる。
【0026】
上述の旋削方法において、前記旋削工程における前記加工面の目標位置と、前記測定工程において測定した前記加工面の測定位置と、前記切削インサートを用いて加工を行った前記被削材の累積加工量と、を、ネットワークを介して外部サーバに蓄積する、構成としてもよい。
【0027】
上述の構成によれば、外部サーバが、目標位置、測定位置および累積加工量を蓄積することで、より好ましい加工条件および切削インサートの寿命設定にこれらのデータを活用することができる。
【0028】
上述の旋削方法において、前記外部サーバには、交換が必要となる前記切削インサートの摩耗量の閾値データが予め記憶され、前記外部サーバは、閾値データを、ネットワークを介して前記旋削工具又は前記旋削工具が取り付けられる工作機械に送信する、構成としてもよい。
【0029】
上述の構成によれば、外部サーバが閾値データを記憶しているため、外部サーバから得た閾値データを基に切削インサートの交換を行うことができる。
【0030】
上述の旋削方法において、前記外部サーバは、前記目標位置と前記測定位置との差分が、前記閾値データを超えた場合の前記累積加工量を、限界累積加工量として記憶する、構成としてもよい。
【0031】
上述の構成によれば、切削インサートの交換が必要になると予想される限界累積加工量を外部サーバに記憶させることができる。
【0032】
上述の旋削方法において、前記外部サーバは、前記累積加工量が前記限界累積加工量に近づいたときにネットワークを介して前記旋削工具又は前記工作機械に前記切削インサートの交換時期が近付いていることを通知する通知信号を送信する、構成としてもよい。
【0033】
上述の構成によれば、外部サーバがネットワークを介して切削インサートの交換時期を旋削工具又は工作機械に通知することができる。作業者は、通知を基に切削インサートの交換の準備を行うことができる。
【0034】
上述の旋削方法において、前記通知信号を受信したときに前記比較工程を行い、前記目標位置と前記測定位置との差分が、前記閾値データより大きい場合に、前記切削インサートを交換する、構成としてもよい。
【0035】
上述の構成によれば、旋削工具又は工作機械は、通知信号を受信したときに前記閾値データと差分との比較を行い、インサート交換を作業者に促す警告を表示することができる。また、作業者が警告表示を確認して、切削インサートの交換を行うことで、旋削工程の信頼性を高めることができる。
【0036】
上述の旋削方法において、前記旋削工程における加工条件をネットワークを介して前記外部サーバに蓄積する、構成としてもよい。
【0037】
上述の構成によれば、外部サーバが、加工条件のデータを蓄積することで、より好ましい加工条件および切削インサートの寿命設定に活用することができる。
【0038】
上述の旋削方法において、前記加工条件には、前記切削インサートの種類、前記被削材の種類、前記被削材の直径、前記主軸の回転速度、前記旋削工具による切り込み量および前記旋削工具の送り速度のうち、少なくとも1つを含む、構成としてもよい。
【0039】
上述の構成によれば、加工条件として、上述のパラメータを含むため、より好ましい加工条件および切削インサートの寿命設定にこれらを活用することができる。
【0040】
上述の旋削方法において、前記外部サーバには、交換が必要となる前記切削インサートの摩耗量の閾値データが予め記憶され、前記外部サーバは、前記旋削工具によるn回目の比較工程における前記差分が、n-1回目の比較工程における前記差分に対して小さくなった場合に前記切削インサートが交換されたと判断し、前記外部サーバは、前記切削インサートが交換された際の前記差分が前記閾値データを超えていない場合に、n-1回目までの前記加工条件および前記累積加工量を特殊事例として記憶する、構成としてもよい。
【0041】
上述の構成によれば、特殊事例は、切削インサートの摩耗量が小さいにも関わらず、切削インサートが交換された場合の加工条件である。特殊事例の切削インサートの交換が生じるケースとして、切削インサートの損傷が考えられる。上述の構成によれば、外部サーバは、複数の特殊事例を蓄積させることで、切削インサートの損傷が生じ得る加工条件を予測するためのデータを収集することができる。
【0042】
上述の旋削方法において、前記外部サーバは、ネットワークを介して複数の前記旋削工具に繋がっている、構成としてもよい。
【0043】
上述の構成によれば、外部サーバが複数の旋削工具に繋がっていることで、複数の旋削工具から様々なデータを収集することができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、測定に要する時間を短くして加工コストを低減できる旋削工具の提供が可能となる。また、測定結果に応じて追加工を行う場合においては、公差を外れた加工品が次工程に流出することを抑制し、結果的に製造コストの削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】
図1は、一実施形態の旋削工具の斜視図である。
【
図2】
図2は、一実施形態の旋削工具の平面図である。
【
図3】
図3は、一実施形態の旋削工具の正面図である。
【
図4A】
図4Aは、一実施形態の旋削方法の一例の手順を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、一実施形態の旋削方法の一例の手順を示す図である。
【
図4C】
図4Cは、一実施形態の旋削方法の一例の手順を示す図である。
【
図4D】
図4Dは、一実施形態の旋削方法の一例の手順を示す図である。
【
図5】
図5は、第1の測定工程のフローチャートである。
【
図6】
図6は、第2の測定工程のフローチャートである。
【
図7】
図7は、上述した旋削工程および測定工程を含む旋削方法の全容を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、IoTを実現した旋削工具の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る旋削工具1について説明する。以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせる場合がある。
【0047】
<旋削工具>
図1は、本実施形態の旋削工具1の斜視図である。
図2は、旋削工具1の平面図である。
図3は、旋削工具1の正面図である。
【0048】
本実施形態の旋削工具1は、主軸回りに回転させられる金属材料等の被削材に対して、中ぐり加工等の旋削加工を施すボーリングバーである。旋削工具1の基端部は、図示略の治具(刃物台)に着脱可能に保持される。また、旋削工具1を保持する治具は、不図示の旋盤等の工作機械(旋盤)に固定される。
【0049】
図2および
図3に示すように、旋削工具1は、工具本体10と、工具本体10に取り付けられる切削インサート20と、工具本体10に取り付けられる測定装置3と、を備える。
【0050】
工具本体10は、軸状に延びる棒体である。ここで、工具本体10の延びる方向に沿って工具軸Jを設定する。すなわち、工具本体10は、工具軸Jに沿って延びる。
なお、以下の説明において特に断りのない限り、工具軸Jに平行な方向を単に「軸方向」と呼び、工具軸Jを中心とする径方向を単に「径方向」と呼び、工具軸Jを中心とする周方向、すなわち、工具軸Jの軸周りを単に「周方向」と呼ぶ。
【0051】
図3に示すように、工具本体10は、軸方向から見て略円形である。すなわち、工具本体10は、円柱形状である。工具本体10の先端10aには、周方向に沿って略90°切り欠かれた切欠部17が設けられる。切欠部17の周方向を向く一方側の面には、切削インサート20が固定される台座部18が設けられる。すなわち、工具本体10は、先端10aに台座部18が設けられる。
【0052】
切削インサート20は、固定ネジ29によって台座部18に着脱可能に取り付けられる。切削インサート20は、固定ネジ29が挿入される取付孔21が設けられる。切削インサート20は、取付孔21の貫通方向を厚さ方向とする三角柱形状である。切削インサート20は、厚さ方向を向く平面視三角形状の一対の主面と、一対の主面同士を繋ぐ側面とを有する。切削インサート20の主面と側面との間の稜線には、切刃22が設けられる。
なお、切削インサート20の形状は、本実施形態に限定されない。
【0053】
図2に示すように、切刃22の一部は、工具本体10の先端10aに対して軸方向先端側に突出する。また、切刃22の一部は、工具本体10の径方向外側を向く外周面10cに対して径方向外側に突出する。したがって、切刃22の一部は、旋削工具1の軸方向最先端および径方向最外端に位置する。
【0054】
工具本体10には、第1の収容孔11と、第2の収容孔12と、開口孔13と、が設けられる。
【0055】
第1の収容孔11は、軸方向に沿って延びる。第1の収容孔11は、工具本体10の後端10bにおいて開口し、工具本体10の先端10aまで延びる。本実施形態において、第1の収容孔11は、工具本体10の先端10aに開口しない。しかしながら、第1の収容孔11は、工具本体10の先端10aにおいて開口していてもよい。
【0056】
第2の収容孔12は、軸方向に沿って延びる。第2の収容孔12は、工具本体10の後端10bおよび先端10aにおいて開口する。すなわち、第2の収容孔12は、軸方向に沿って工具本体10を貫通する。
【0057】
開口孔13は、第1の収容孔11から径方向外側に延びる。開口孔13は、工具本体10の外周面10cに開口する。第1の収容孔11は、工具軸Jを挟んで、切削インサート20の切刃22の反対側に位置する。
【0058】
図2に示すように、測定装置3は、第1の距離センサ31と、第2の距離センサ32と、コントローラ39と、を有する。
第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、対象物(切削インサートにより形成した加工面)までの距離を測定する。本実施形態において、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、白色同軸共焦点方式の光学距離センサである。
【0059】
なお、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、対象物までの距離を測定できるものであれば、特に限定されない。しかしながら、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、非接触式の距離センサとすることが好ましく、測定精度の観点から光学式の距離センサとすることがより好ましい。
【0060】
第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、軸方向に沿って延びる筒状のハウジング31b、32bと、検出部31a、32aと、をそれぞれ有する。ハウジング31b、32bの基端側には、ケーブル38が接続される。
【0061】
第1の距離センサ31および第2の距離センサ32において、検出部31a、32aからは、白色光が出射される。検出部31a、32aには、特殊レンズ群が設けられる。白色光は特殊レンズ群により色(波長)ごとに異なった位置で焦点を結ぶ。検出部31a、32aには、検出部31a、32aと対象物との距離に応じて焦点の一致した色(波長)の光が返ってくる。検出部31a、32aは、焦点が一致した光のみを受光する。第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、検出部31a、32aで受光した光の色情報から検出部31a、32aと対象物の距離を測定する。
【0062】
第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、各色(各波長)の光が焦点を結び得る範囲(検知範囲)内に位置する対象物までの距離の測定が可能である。検知範囲は、検出部31aから照射される光の光軸上に位置する。このため、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32の測定点31c、32cは、白色光の光軸上に位置する。旋削工具1は、検知範囲内に測定対象物を位置させることで、検出部31a、32aと測定対象との距離を測定することができる。
【0063】
第1の距離センサ31において、検出部31aは、ハウジング31bの先端近傍において外周面に設けられる。検出部31aは、工具軸Jの径方向外側を向く。検出部31aは、径方向外側に向けて白色光を照射する。検出部31aから照射される白色光の光軸は、径方向に沿って延びる。第1の距離センサ31の測定点31cは、検出部31aの径方向外側に位置する。第1の距離センサ31は、径方向外側の対象物(加工面)までの距離を測定する。
【0064】
第1の距離センサ31は、第1の収容孔11に収容される。第1の距離センサ31の検出部31aは、開口孔13から径方向外側に露出する。検出部31aは、開口孔13を介して計側対象に向けて白色光を照射する。
【0065】
第2の距離センサ32において、検出部32aは、ハウジング32bの先端に設けられる。検出部32aは、先端側を向く。検出部32aは、軸方向先端側に向けて白色光を照射する。検出部32aから照射される白色光の光軸は、軸方向に沿って延びる。第2の距離センサ32の測定点32cは、検出部32aの軸方向先端側に位置する。第2の距離センサ32は、軸方向先端側の対象物(加工面)までの距離を測定する。
【0066】
第2の距離センサ32は、第2の収容孔12に収容される。第2の距離センサ32の検出部32aは、第2の収容孔12の工具本体10の先端の開口から軸方向先端側に露出する。検出部32aは、第2の収容孔12の工具本体10の先端の開口から計側対象に向けて白色光を照射する。
【0067】
コントローラ39は、ケーブル38を介して第1の距離センサ31および第2の距離センサ32に接続される。コントローラ39は、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32を制御する。また、本実施形態のコントローラ39は、白色光源(図示略)を含む。コントローラ39は、光ファイバーからなるケーブル38を介して、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32の検出部31a、32aに白色光を供給する。
【0068】
コントローラ39は、工作機械に接続されていてもよい。この場合には、工作機械から得た工具本体10の位置情報と、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32による測定結果を基に、加工面の位置精度などを出力することができる。
【0069】
本実施形態によれば、旋削工具1が工具軸Jの径方向外側の距離を測定する第1の距離センサ31を有する。旋削工具1は、切削インサート20により加工した径方向を向く加工面までの距離を測定できる。このため、旋削工具1が径方向を向く加工面を形成した後、当該加工面を測定する際に、旋削工具を被削材から一旦離間させる工程が不要となる。結果的に、旋削加工において測定工程に要する時間を短くすることができ、旋削加工に要する加工コストを低減できる。
なお、第1の距離センサ31によって、切削インサート20で加工された外径、内径、真円度および径方向を向く加工面の面粗さなどを測定できる。
【0070】
図2に示すように、第1の距離センサ31による測定点31cの軸方向の位置は、切削インサート20の軸方向の位置と重なる。本実施形態によれば、第1の距離センサ31によって切削インサート20の切刃22による被削材の切削位置の近傍を測定することができる。このため、第1の距離センサ31による測定工程において、旋削工具1を工具軸Jの軸方向に移動させる移動距離を小さくすることができる。結果的に、旋削加工において測定工程に要する時間を短くすることができる。
【0071】
本実施形態によれば、旋削工具1が工具軸Jの軸方向先端側の距離を測定する第2の距離センサ32を有する。旋削工具1は、切削インサート20により加工した軸方向を向く加工面までの距離を測定することができる。旋削工具1が軸方向を向く加工面を形成した後、当該加工面を測定する際に、旋削工具を被削材から一旦離間させる工程が不要となる。結果的に、旋削加工において測定工程に要する時間を短くすることができ、旋削加工に要する加工コストを低減できる。
なお、第2の距離センサ32によって、切削インサート20で段部、孔底部の軸方向位置および軸方向を向く加工面の面粗さなどを測定できる。
【0072】
本実施形態によれば、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32は、工具本体10の内部に埋め込まれる。このため、第1の距離センサ31および第2の距離センサ32を旋削加工時の振動や切屑から保護することができる。
また、
図2に示すように、第1の距離センサ31の検出部31aは、工具本体10の外周面10cに対して径方向内側に奥まって配置される。同様に、第2の距離センサ32の検出部32aは、工具本体10の先端面に対して軸方向基端側に奥まって配置される。このため、検出部31a、32aを切屑から保護することができる。
【0073】
<旋削方法>
次に、本実施形態の旋削工具1を用いた旋削方法について説明する。
図4A~
図4Dは、本実施形態の旋削方法の一例の手順を示す図である。
図4A~
図4Dに示すように、本実施形態の旋削方法における被削材Wは、段差付きの貫通孔40を有する。貫通孔40は、段差面43と、段差面43に対して軸方向一方側の大径部41と、段差面43に対して軸方向他方側の小径部42とを有する。本実施形態の旋削方法は、貫通孔40の大径部41および段差面43の内周面の仕上げ加工を行う加工方法である。
【0074】
まず、
図4Aに示すように、大径部41の内周面を加工する第1の旋削工程を行う。
第1の旋削工程では、被削材Wを主軸O周りに回転させながら行う。第1の旋削工程では、まず、旋削工具1の工具軸Jを主軸Oと平行とした状態で、切刃22の径方向外端を、大径部41の内周面の径方向の目標寸法(目標位置)に位置合わせする。さらに、旋削工具1を軸方向先端に沿って移動させ、大径部41の内周面に切削インサート20の切刃22に接触させる。次いで、切刃22を大径部41の内周面に接触させた状態で、旋削工具1を軸方向先端に移動させる。これにより、大径部41の内周面を切刃22により旋削加工することができる。
【0075】
次に、
図4Bに示すように、段差面43を加工する第2の旋削工程を行う。
第2の旋削工程では、第1の旋削工程に引き続き、被削材Wを主軸O周りに回転させながら行う。第2の旋削工程では、まず、切刃22の軸方向最先端を、段差面43の軸方向の目標寸法(目標位置)に位置合わせする。次いで、切削インサート20の切刃22を大径部41と段差面43との角部に接触した状態から、段差面43に接触した状態を維持しつつ径方向内側に移動させる。これにより、段差面43を切刃22により旋削加工することができる。
【0076】
このように、第1の旋削工程および第2の旋削工程は、被削材Wを主軸O周りに回転させながら切削インサートを前記被削材に接触させ目標位置まで前記被削材を加工して加工面を形成する工程である。
なお、本実施形態では、第1の旋削工程の後に第2の旋削工程を実施する場合について説明したが、この順序は逆でもよい。また、第1の旋削工程および第2の旋削工程において、切刃22の移動方向は逆向きであってもよい。
【0077】
次に、
図4Cに示すように、大径部41の内周面(加工面、対象物)を測定する第1の測定工程を行う。
第1の測定工程では、まず、旋削工具1を径方向に移動して、第1の距離センサ31の検出部31aを、大径部41の内周面に対向させる。このとき、大径部41の内周面を検出部31aの検知範囲内に位置させる。この状態で、被削材Wを主軸O周りに低速で回転させながら、第1の距離センサ31によって、大径部41の内周面の寸法又は面粗さなどを、周方向に沿う複数点において測定する。なお、第1の測定工程における被削材の回転速度は、第1の距離センサ31の応答速度に応じて、適宜設定される。一例として、第1の測定工程における被削材の回転速度は、10°/分である。
なお、第1の距離センサ31による大径部41の内周面の測定時に、旋削工具1を工具軸Jの基端側に移動させてもよい。この場合は、内周面において軸方向に並ぶ複数点の位置を測定できる。
【0078】
図5は、第1の測定工程のフローチャートである。このフローチャートに示す手順では、大径部41の内径および真円度を測定する。
第1の測定工程では、測定開始前に予めコントローラ39が工作機械から第1の距離センサ31の位置情報を入手する。
次いで、コントローラ39は、大径部41の内径の測定を行うか否かを判断し、測定が不要であれば第1の測定工程を終了する。
次いで、コントローラ39は、工作機械に旋削工具1を移動させる指令を出す。これにより、第1の距離センサ31の検知範囲内に加工面を位置させるように、旋削工具1を移動させる。
次いで、コントローラ39は、第1の距離センサ31を起動して、第1の距離センサ31による測定を開始する。
次いで、コントローラ39は、第1の距離センサ31の位置情報と測定結果から大径部41の内径を演算し記憶する作業を開始する。
次いで、コントローラ39は、被削材Wを主軸O周りに低速回転させるように工作機械に指令を出す。
さらに、被削材Wの回転角度の合計が360°となったと判定した後に、大径部41の平均の内径および真円度を演算して出力する。
【0079】
次に、
図4Dに示すように、段差面(加工面、対象物)43を測定する第2の測定工程を行う。
第2の測定工程では、まず、旋削工具1を軸方向に移動して、第2の距離センサ32の検出部32aを段差面43に対向させる。このとき、段差面43を検出部32aの測定点32cの検知範囲内に位置させる。第2の距離センサ32によって、段差面43の位置又は面粗さなどを測定する。
なお、第2の距離センサ32による段差面43の測定時に、被削材Wを主軸O周りに低速で回転させてもよい。この場合は、段差面43内の複数点の位置を測定できる。
【0080】
図6は、第2の測定工程のフローチャートである。このフローチャートに示す手順では、段差面43の深さを測定する。
第2の測定工程では、測定開始前に予めコントローラ39が工作機械から第2の距離センサ32の位置情報を入手する。
次いで、コントローラ39は、段差面43の深さの測定を行うか否かを判断し、測定が不要であれば第2の測定工程を終了する。
次いで、コントローラ39は、工作機械に旋削工具1を移動させる指令を出す。これにより、第2の距離センサ32の検知範囲内に加工面を位置させるように、旋削工具1を移動させる。
次いで、コントローラ39は、第2の距離センサ32を起動して、第2の距離センサ32による測定を開始する。
次いで、コントローラ39は、第2の距離センサ32の位置情報と測定結果から段差面43の深さを演算し記憶する。
さらに、記憶した段差面43の深さを出力する。
【0081】
このように、第1および第2の測定工程は、加工面を測定装置3の検知範囲内に位置させた後に、測定装置3によって加工面の位置を測定する工程である。
【0082】
図7は、上述した旋削工程および測定工程を含む旋削方法の全容を示すフローチャートである。
旋削工程(第1および第2の旋削工程)並びに測定工程(第1および第2の測定工程)の後には、比較工程が行われる。
比較工程では、コントローラ39は、旋削工程における加工面の目標位置と、測定工程において測定した加工面の測定位置と、を比較して差分を算出する。
【0083】
さらに、コントローラ39は、比較工程での比較を根拠として、目標位置と測定位置との差分が公差より大きい場合に、追加工が必要であると判断し、追加工工程を行う。すなわち、本実施形態の旋削方法は、比較工程における目標位置と測定位置との差分に応じて、被削材Wを旋削工具1によって追加工する追加工工程を有する。
【0084】
また、コントローラ39は、比較工程での比較を根拠として、目標位置と測定位置との差分が予め設定した閾値より大きい場合に、切削インサート20の交換が必要であると判断する。この場合、例えば、コントローラ39は、切削インサート20の交換が必要な旨を示す警告を表示する。これは、目標位置と測定位置との差分が大きい場合に、切削インサート20の摩耗が顕著であると考えられるためである。作業者は、コントローラ39による警告の表示を確認して、切削インサート20を交換する。すなわち、本実施形態の旋削方法は、比較工程における目標位置と測定位置との差分が閾値を超えた場合に、切削インサート20を交換する切削インサート交換工程を有する。
【0085】
旋削工具1をインターネットに繋いで測定データを活用してIoT(Internet of Things、もののインターネット)を実現する構成について説明する。
図8は、IoTを実現した旋削工具1の構成例を示す模式図である。
【0086】
図8に示すように、旋削工具1のコントローラ39は、被削材Wを保持する工作機械2に接続されている。旋削工具1のコントローラ39は、工作機械を介して目標位置の値を取得することができる。また、工作機械2は、ネットワーク4を介して外部サーバ5に接続されている。すなわち、旋削工具1は、工作機械2を介して外部サーバに接続されている。1つの外部サーバ5は、ネットワーク4を介して複数の工作機械2に接続されている。
【0087】
外部サーバ5は、旋削工具1とネットワーク4を介してデータの送受信を行う。外部サーバ5には、複数の旋削工具1が繋がっているため、外部サーバ5には、複数の旋削工具1による旋削加工時のデータが集積される。
【0088】
外部サーバ5には、第1および第2の旋削工程における加工面の目標位置と、第1および第2の測定工程において測定した前記加工面の測定位置と、切削インサート20を用いて加工を行った被削材Wの累積加工量と、第1および第2の旋削工程における加工条件と、がネットワーク4を介して旋削工具1から送信され蓄積される。
【0089】
本実施形態によれば、外部サーバ5が、目標位置、測定位置、累積加工量および加工条件を蓄積することで、より好ましい加工条件および切削インサート20の寿命設定にこれらのデータを活用することができる。
【0090】
外部サーバ5に蓄積される累積加工量とは、1つの切削インサート20の1つの切刃22において加工された被削材Wの加工量の累積値である。
【0091】
外部サーバ5に蓄積される加工条件は、切削インサート20の種類、被削材Wの種類、被削材Wの加工面の直径、主軸Oの回転速度、旋削工具1による切り込み量および旋削工具1の送り速度のうち、少なくとも1つを含む。また、加工条件には、旋削工程を行った際の気温、被削材の温度、切削インサートの温度が含まれていてもよい。
【0092】
また、外部サーバ5には、交換が必要となる切削インサート20の摩耗量の閾値データが予め記憶されている。外部サーバ5に記憶された閾値データは、旋削工具1のコントローラ39に送信され、切削インサート交換工程において目標位置と測定位置との差分との比較の際の閾値として用いることができる。なお、閾値データは、旋削工具1ではなく工作機械2に送信され、工作機械2において差分と比較してもよい。すなわち、外部サーバ5は、閾値データを、ネットワーク4を介して旋削工具1又は旋削工具1が取り付けられる工作機械2に送信する。
【0093】
外部サーバ5は、目標位置と測定位置との差分が、閾値データを超えた場合の累積加工量を、限界累積加工量として記憶する。記憶された限界累積加工量は、次回以降の第1および第2の旋削工程の後に用いられる。具体的には、外部サーバ5は、次回以降の旋削工程の終了時点での累積加工量を、外部サーバ5に記憶された限界累積加工量と比較する。外部サーバ5は、旋削工程の終了時点での累積加工量が限界累積加工量に近づいたときに、ネットワーク4を介して旋削工具1のコントローラ39又は工作機械2に切削インサート20の交換時期が近付いていることを通知する通知信号を送信する。また、通知信号を受信したコントローラ39又は工作機械2は、切削インサート20の交換時期が近付いていること作業者に表示する。これにより、作業者は、通知を基に切削インサート20の在庫の確認を行うなど、切削インサート20の交換の準備を行うことができる。
【0094】
旋削工具1のコントローラ39又は工作機械2は、外部サーバ5から送信された通知信号を受信したときに比較工程を行う。コントローラ39又は工作機械2は、比較工程における目標位置と測定位置との差分が、閾値データより大きい場合に、切削インサート20の交換が必要な旨を示す警告を表示する。作業者は、コントローラ39による警告の表示を確認して、切削インサート20を交換する。これにより、切削インサート20の摩耗が過剰に進んだ状態で、旋削工程が行われる懸念を軽減し、旋削工程の信頼性を高めることができる。
【0095】
また、外部サーバ5は、切削インサート20に損傷が生じるケースの加工条件についても収集を行う。外部サーバ2は、旋削工具1によるn回目の比較工程における差分が、n-1回目の比較工程における差分に対して小さくなった場合に切削インサート20が交換されたと判断する。比較工程における差分は、被削材Wの累積加工量が大きくなるに従い、切削インサート20の摩耗量に応じて理論上は徐々に大きくなる。したがって、差分が大きくなった場合、切削インサート20の交換が行われたと判断できる。
【0096】
切削インサート20が交換された際の差分が閾値データを超えていない場合、切削インサート20の摩耗量が小さいにも関わらず、切削インサート20が交換されたこととなる。したがって、切削インサート20に損傷等が生じたことが推定される。
【0097】
外部サーバ5は、切削インサート20が交換された際の差分が閾値データを超えていない場合に、n-1回目までの加工条件および累積加工量を特殊事例として記憶する。外部サーバ5は、複数の特殊事例を蓄積させることで、切削インサート20の損傷が生じ得る加工条件を予測するためのデータを収集することができる。
【0098】
以上に、本発明の実施形態を説明したが、実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
例えば、上述の実施形態では、旋削工具としてボーリングバーを例示した。しかしながら、旋削工具は、旋盤を用いた加工に用いるものであればよく、例えば外径加工用の工具であってもよい。
【符号の説明】
【0099】
1…旋削工具
2…工作機械
4…ネットワーク
3…測定装置
5…外部サーバ
10…工具本体
10a…先端
10c…外周面
11…第1の収容孔
12…第2の収容孔
13…開口孔
18…台座部
20…切削インサート
31…第1の距離センサ
32…第2の距離センサ
31a,32a…検出部
31c,32c…測定点
43…段差面(加工面)
J…工具軸
O…主軸
W…被削材