(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】クレーン
(51)【国際特許分類】
B66C 13/22 20060101AFI20220208BHJP
【FI】
B66C13/22 M
(21)【出願番号】P 2018035207
(22)【出願日】2018-02-28
【審査請求日】2020-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】特許業務法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神田 真輔
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/012155(WO,A1)
【文献】特開平06-321489(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0194498(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブームと、
前記ブームから垂下するワイヤロープと、
前記ワイヤロープの巻き入れ及び巻き出しによって昇降するフックと、を備え、
前記フックに掛けられた玉掛け具を介して荷物を吊り上げるクレーンにおいて、
前記荷物の移動に供するアクチュエータと、
前記アクチュエータの作動状態を指示できる操作具と、
前記アクチュエータと前記操作具に接続されて情報の処理を行う制御装置と、を具備し、
前記制御装置は、前記ブームの先端を支点として前記荷物を質点とする単振り子の周波数を算出するとともに前記ブームの先端を支点として前記フック及び前記荷物を質点とする二重振り子の周波数を算出し、前記操作具の操作に応じて生成される制御信号から前記単振り子の周波数及び前記二重振り子の周波数における
制御信号を減衰させたフィルタリング制御信号を生成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御
し、
前記二重振り子の周波数が閾値以上の場合、
前記制御装置は、前記二重振り子の周波数が閾値未満の場合の前記二重振り子の周波数における制御信号の減衰量よりも、小さい減衰量の前記フィルタリング制御信号を生成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御する、ことを特徴とするクレーン。
【請求項2】
前記制御装置は、前記二重振り子の周波数に応じて当該二重振り子の周波数における
制御信号の減衰量を調節した前記フィルタリング制御信号を作成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御する、ことを特徴とする
請求項1に記載のクレーン。
【請求項3】
ブームと、
前記ブームから垂下するワイヤロープと、
前記ワイヤロープの巻き入れ及び巻き出しによって昇降するフックと、を備え、
前記フックに掛けられた玉掛け具を介して荷物を吊り上げるクレーンにおいて、
前記荷物の移動に供するアクチュエータと、
前記アクチュエータの作動状態を指示できる操作具と、
前記アクチュエータと前記操作具に接続されて情報の処理を行う制御装置と、を具備し、
前記制御装置は、前記ブームの先端を支点として前記荷物を質点とする単振り子の周波数を算出するとともに前記ブームの先端を支点として前記フック及び前記荷物を質点とする二重振り子の周波数を算出し、前記操作具の操作に応じて生成される制御信号から前記単振り子の周波数及び前記二重振り子の周波数における制御信号を減衰させたフィルタリング制御信号を生成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御し、
前記制御装置は、前記二重振り子の周波数に応じて当該二重振り子の周波数における制御信号の減衰量を調節した前記フィルタリング制御信号を作成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御する、ことを特徴とするクレーン。
【請求項4】
ブームと、
前記ブームから垂下するワイヤロープと、
前記ワイヤロープの巻き入れ及び巻き出しによって昇降するフックと、を備え、
前記フックに掛けられた玉掛け具を介して荷物を吊り上げるクレーンにおいて、
前記荷物の移動に供するアクチュエータと、
前記アクチュエータの作動状態を指示できる操作具と、
前記アクチュエータと前記操作具に接続されて情報の処理を行う制御装置と、を具備し、
前記制御装置は、前記ブームの先端を支点として前記荷物を質点とする単振り子の周波数を算出するとともに前記ブームの先端を支点として前記フック及び前記荷物を質点とする二重振り子の周波数を算出し、前記操作具の操作に応じて生成される制御信号から前記単振り子の周波数及び前記二重振り子の周波数における制御信号を減衰させたフィルタリング制御信号を生成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御し、
前記ブームの先端から前記フックまでの長さに対する前記フックから前記荷物までの長さの比が閾値未満の場合、
前記制御装置は、前記ブームの先端から前記フックまでの長さに対する前記フックから前記荷物までの長さの比が閾値以上の場合の前記二重振り子の周波数における
制御信号の減衰量よりも、小さい減衰量の前記フィルタリング制御信号を生成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御する、ことを特徴とするクレーン。
【請求項5】
前記制御装置は、前記ブームの先端から前記フックまでの長さに対する前記フックから前記荷物までの長さの比に応じて前記二重振り子の周波数における
制御信号の減衰量を調節した前記フィルタリング制御信号を作成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御する、ことを特徴とする
請求項4に記載のクレーン。
【請求項6】
ブームと、
前記ブームから垂下するワイヤロープと、
前記ワイヤロープの巻き入れ及び巻き出しによって昇降するフックと、を備え、
前記フックに掛けられた玉掛け具を介して荷物を吊り上げるクレーンにおいて、
前記荷物の移動に供するアクチュエータと、
前記アクチュエータの作動状態を指示できる操作具と、
前記アクチュエータと前記操作具に接続されて情報の処理を行う制御装置と、を具備し、
前記制御装置は、前記ブームの先端を支点として前記荷物を質点とする単振り子の周波数を算出するとともに前記ブームの先端を支点として前記フック及び前記荷物を質点とする二重振り子の周波数を算出し、前記操作具の操作に応じて生成される制御信号から前記単振り子の周波数及び前記二重振り子の周波数における制御信号を減衰させたフィルタリング制御信号を生成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御し、
前記制御装置は、前記ブームの先端から前記フックまでの長さに対する前記フックから前記荷物までの長さの比に応じて前記二重振り子の周波数における制御信号の減衰量を調節した前記フィルタリング制御信号を作成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御する、ことを特徴とするクレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンに関する。詳しくは、単振り子の特性を持つ荷物の振れ及び二重振り子の特性を持つ荷物の振れを抑制できるクレーンに関する。
【0002】
従来より、代表的な作業車両であるクレーンが知られている。クレーンは、主に車両とクレーン装置で構成されている。車両は、複数の車輪を備えており、走行自在に構成されている。クレーン装置は、ブームのほかにワイヤロープやフックを備えており、荷物を移動自在に構成されている。なお、荷物には、ブームの先端を支点として荷物を質点とする単振り子の特性を持つ振れが生じる。また、荷物には、ブームの先端を支点としてフック及び荷物を質点とする二重振り子の特性を持つ振れも生じる。
【0003】
ところで、特許文献1には、いわゆる天井クレーンに適用される荷物の振れを抑制する技術が開示されている。かかる技術は、二重振り子の特性を持つ荷物の振れの周期を算出し、周期に応じた速度パターンで加速又は減速させる点を特徴としたものである。しかし、かかる技術は、荷物を任意の速度で移動自在としたクレーンにおいて、単振り子の特性を持つ荷物の振れ及び二重振り子の特性を持つ荷物の振れを抑制できるものではない。そこで、単振り子の特性を持つ荷物の振れ及び二重振り子の特性を持つ荷物の振れを抑制できるクレーンが求められていたのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単振り子の特性を持つ荷物の振れ及び二重振り子の特性を持つ荷物の振れを抑制できるクレーンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の発明は、
ブームと、
前記ブームから垂下するワイヤロープと、
前記ワイヤロープの巻き入れ及び巻き出しによって昇降するフックと、を備え、
前記フックに掛けられた玉掛け具を介して荷物を吊り上げるクレーンにおいて、
前記荷物の移動に供するアクチュエータと、
前記アクチュエータの作動状態を指示できる操作具と、
前記アクチュエータと前記操作具に接続されて情報の処理を行う制御装置と、を具備し、
前記制御装置は、前記ブームの先端を支点として前記荷物を質点とする単振り子の周波数を算出するとともに前記ブームの先端を支点として前記フック及び前記荷物を質点とする二重振り子の周波数を算出し、前記操作具の操作に応じて生成される制御信号から前記単振り子の周波数及び前記二重振り子の周波数における制御信号を減衰させたフィルタリング制御信号を生成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御し、
前記二重振り子の周波数が閾値以上の場合、
前記制御装置は、前記二重振り子の周波数が閾値未満の場合の前記二重振り子の周波数における制御信号の減衰量よりも、小さい減衰量の前記フィルタリング制御信号を生成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御する、ものである。
【0008】
第二の発明は、第一の発明に係るクレーンにおいて、
前記制御装置は、前記二重振り子の周波数に応じて当該二重振り子の周波数における制御信号の減衰量を調節した前記フィルタリング制御信号を作成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御する、ものである。
第三の発明は、
ブームと、
前記ブームから垂下するワイヤロープと、
前記ワイヤロープの巻き入れ及び巻き出しによって昇降するフックと、を備え、
前記フックに掛けられた玉掛け具を介して荷物を吊り上げるクレーンにおいて、
前記荷物の移動に供するアクチュエータと、
前記アクチュエータの作動状態を指示できる操作具と、
前記アクチュエータと前記操作具に接続されて情報の処理を行う制御装置と、を具備し、
前記制御装置は、前記ブームの先端を支点として前記荷物を質点とする単振り子の周波数を算出するとともに前記ブームの先端を支点として前記フック及び前記荷物を質点とする二重振り子の周波数を算出し、前記操作具の操作に応じて生成される制御信号から前記単振り子の周波数及び前記二重振り子の周波数における制御信号を減衰させたフィルタリング制御信号を生成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御し、
前記制御装置は、前記二重振り子の周波数に応じて当該二重振り子の周波数における制御信号の減衰量を調節した前記フィルタリング制御信号を作成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御する、ものである。
【0009】
第四の発明は、
ブームと、
前記ブームから垂下するワイヤロープと、
前記ワイヤロープの巻き入れ及び巻き出しによって昇降するフックと、を備え、
前記フックに掛けられた玉掛け具を介して荷物を吊り上げるクレーンにおいて、
前記荷物の移動に供するアクチュエータと、
前記アクチュエータの作動状態を指示できる操作具と、
前記アクチュエータと前記操作具に接続されて情報の処理を行う制御装置と、を具備し、
前記制御装置は、前記ブームの先端を支点として前記荷物を質点とする単振り子の周波数を算出するとともに前記ブームの先端を支点として前記フック及び前記荷物を質点とする二重振り子の周波数を算出し、前記操作具の操作に応じて生成される制御信号から前記単振り子の周波数及び前記二重振り子の周波数における制御信号を減衰させたフィルタリング制御信号を生成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御し、
前記ブームの先端から前記フックまでの長さに対する前記フックから前記荷物までの長さの比が閾値未満の場合、
前記制御装置は、前記ブームの先端から前記フックまでの長さに対する前記フックから前記荷物までの長さの比が閾値以上の場合の前記二重振り子の周波数における制御信号の減衰量よりも、小さい減衰量の前記フィルタリング制御信号を生成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御する、ものである。
【0010】
第五の発明は、第四の発明に係るクレーンにおいて、
前記制御装置は、前記ブームの先端から前記フックまでの長さに対する前記フックから前記荷物までの長さの比に応じて前記二重振り子の周波数における制御信号の減衰量を調節した前記フィルタリング制御信号を作成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御する、ものである。
第六の発明は、
ブームと、
前記ブームから垂下するワイヤロープと、
前記ワイヤロープの巻き入れ及び巻き出しによって昇降するフックと、を備え、
前記フックに掛けられた玉掛け具を介して荷物を吊り上げるクレーンにおいて、
前記荷物の移動に供するアクチュエータと、
前記アクチュエータの作動状態を指示できる操作具と、
前記アクチュエータと前記操作具に接続されて情報の処理を行う制御装置と、を具備し、
前記制御装置は、前記ブームの先端を支点として前記荷物を質点とする単振り子の周波数を算出するとともに前記ブームの先端を支点として前記フック及び前記荷物を質点とする二重振り子の周波数を算出し、前記操作具の操作に応じて生成される制御信号から前記単振り子の周波数及び前記二重振り子の周波数における制御信号を減衰させたフィルタリング制御信号を生成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御し、
前記制御装置は、前記ブームの先端から前記フックまでの長さに対する前記フックから前記荷物までの長さの比に応じて前記二重振り子の周波数における制御信号の減衰量を調節した前記フィルタリング制御信号を作成し、当該フィルタリング制御信号を用いて前記アクチュエータを制御する、ものである。
【発明の効果】
【0011】
第一の発明に係るクレーンは、荷物の移動に供するアクチュエータと、アクチュエータの作動状態を指示できる操作具と、アクチュエータと操作具に接続されて情報の処理を行う制御装置と、を具備している。そして、制御装置は、ブームの先端を支点として荷物を質点とする単振り子の周波数を算出するとともにブームの先端を支点としてフック及び荷物を質点とする二重振り子の周波数を算出し、操作具の操作に応じて生成される制御信号から単振り子の周波数及び二重振り子の周波数における制御信号を減衰させたフィルタリング制御信号を生成し、当該フィルタリング制御信号を用いてアクチュエータを制御する。二重振り子の周波数が閾値以上の場合、制御装置は、二重振り子の周波数が閾値未満の場合の二重振り子の周波数における制御信号の減衰量よりも、小さい減衰量のフィルタリング制御信号を生成し、当該フィルタリング制御信号を用いてアクチュエータを制御する。かかるクレーンによれば、単振り子の特性を持つ荷物の振れ及び二重振り子の特性を持つ荷物の振れを抑制できる。また、二重振り子の特性を持つ荷物の振れを抑制する必要性が低いときに、オペレータの操作感覚を維持できるとともに、オペレータが荷物の停止操作をしてから荷物が停止するまでの移動量を低減することができる。
【0013】
第二の発明に係るクレーンにおいて、制御装置は、二重振り子の周波数に応じて当該二重振り子の周波数における制御信号の減衰量を調節したフィルタリング制御信号を作成し、当該フィルタリング制御信号を用いてアクチュエータを制御する。かかるクレーンによれば、二重振り子の特性を持つ荷物の振れを抑制する必要性に応じて、オペレータの操作感覚を維持できるとともに、オペレータが荷物の停止操作をしてから荷物が停止するまでの移動量を低減することができる。
第三の発明に係るクレーンにおいて、荷物の移動に供するアクチュエータと、アクチュエータの作動状態を指示できる操作具と、アクチュエータと操作具に接続されて情報の処理を行う制御装置と、を具備している。そして、制御装置は、ブームの先端を支点として荷物を質点とする単振り子の周波数を算出するとともにブームの先端を支点としてフック及び荷物を質点とする二重振り子の周波数を算出し、操作具の操作に応じて生成される制御信号から単振り子の周波数及び二重振り子の周波数における制御信号を減衰させたフィルタリング制御信号を生成し、当該フィルタリング制御信号を用いてアクチュエータを制御する。そして、制御装置は、二重振り子の周波数に応じて当該二重振り子の周波数における制御信号の減衰量を調節したフィルタリング制御信号を作成し、当該フィルタリング制御信号を用いてアクチュエータを制御する。かかるクレーンによれば、単振り子の特性を持つ荷物の振れ及び二重振り子の特性を持つ荷物の振れを抑制できる。また、二重振り子の特性を持つ荷物の振れを抑制する必要性に応じて、オペレータの操作感覚を維持できるとともに、オペレータが荷物の停止操作をしてから荷物が停止するまでの移動量を低減することができる。
【0014】
第四の発明に係るクレーンにおいて、荷物の移動に供するアクチュエータと、アクチュエータの作動状態を指示できる操作具と、アクチュエータと操作具に接続されて情報の処理を行う制御装置と、を具備している。そして、制御装置は、ブームの先端を支点として荷物を質点とする単振り子の周波数を算出するとともにブームの先端を支点としてフック及び荷物を質点とする二重振り子の周波数を算出し、操作具の操作に応じて生成される制御信号から単振り子の周波数及び二重振り子の周波数における制御信号を減衰させたフィルタリング制御信号を生成し、当該フィルタリング制御信号を用いてアクチュエータを制御する。ブームの先端からフックまでの長さに対するフックから荷物までの長さの比が閾値未満の場合、制御装置は、ブームの先端からフックまでの長さに対するフックから荷物までの長さの比が閾値以上の場合の二重振り子の周波数における制御信号の減衰量よりも、小さい減衰量のフィルタリング制御信号を生成し、当該フィルタリング制御信号を用いてアクチュエータを制御する。かかるクレーンによれば、二重振り子の特性を持つ荷物の振れを抑制する必要性が低いときに、オペレータの操作感覚を維持できるとともに、オペレータが荷物の停止操作をしてから荷物が停止するまでの移動量を低減することができる。
【0015】
第五の発明に係るクレーンにおいて、制御装置は、ブームの先端からフックまでの長さに対するフックから荷物までの長さの比に応じて二重振り子の周波数における制御信号の減衰量を調節したフィルタリング制御信号を作成し、当該フィルタリング制御信号を用いてアクチュエータを制御する。かかるクレーンによれば、二重振り子の特性を持つ荷物の振れを抑制する必要性に応じて、オペレータの操作感覚を維持できるとともに、オペレータが荷物の停止操作をしてから荷物が停止するまでの移動量を低減することができる。
第六の発明に係るクレーンにおいて、荷物の移動に供するアクチュエータと、アクチュエータの作動状態を指示できる操作具と、アクチュエータと操作具に接続されて情報の処理を行う制御装置と、を具備している。そして、制御装置は、ブームの先端を支点として荷物を質点とする単振り子の周波数を算出するとともにブームの先端を支点としてフック及び荷物を質点とする二重振り子の周波数を算出し、操作具の操作に応じて生成される制御信号から単振り子の周波数及び二重振り子の周波数における制御信号を減衰させたフィルタリング制御信号を生成し、当該フィルタリング制御信号を用いてアクチュエータを制御する。そして、制御装置は、ブームの先端からフックまでの長さに対するフックから荷物までの長さの比に応じて二重振り子の周波数における制御信号の減衰量を調節したフィルタリング制御信号を作成し、当該フィルタリング制御信号を用いてアクチュエータを制御する。かかるクレーンによれば、単振り子の特性を持つ荷物の振れ及び二重振り子の特性を持つ荷物の振れを抑制できる。また、二重振り子の特性を持つ荷物の振れを抑制する必要性に応じて、オペレータの操作感覚を維持できるとともに、オペレータが荷物の停止操作をしてから荷物が停止するまでの移動量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】基本制御信号とフィルタリング制御信号を示す図。
【
図7】二重振り子周波数と各ノッチ深さ係数の関係を示す図。
【
図9】二重振り子周波数と各ノッチ深さ係数の関係を示す図。
【
図11】吊下長さに対する玉掛け具長さの比と各ノッチ深さ係数の関係を示す図。
【
図13】吊下長さに対する玉掛け具長さの比と各ノッチ深さ係数の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願に開示する技術的思想は、以下に説明するクレーン1のほか、他のクレーンにも適用できる。
【0018】
【0019】
クレーン1は、主に車両2とクレーン装置3で構成されている。
【0020】
車両2は、左右一対の前輪4と後輪5を備えている。また、車両2は、荷物Wの移動作業を行なう際に接地させて安定を図るアウトリガ6を備えている。なお、車両2は、アクチュエータによって、その上部に支持するクレーン装置3を旋回自在としている。
【0021】
クレーン装置3は、その後部から前方へ突き出すようにブーム7を備えている。そのため、ブーム7は、アクチュエータによって旋回自在となっている(矢印A参照)。また、ブーム7は、アクチュエータによって伸縮自在となっている(矢印B参照)。更に、ブーム7は、アクチュエータによって起伏自在となっている(矢印C参照)。加えて、ブーム7には、ワイヤロープ8が架け渡されている。ブーム7の基端側には、ワイヤロープ8を巻き付けたウインチ9が配置され、ブーム7の先端側には、ワイヤロープ8によってフック10が垂下されている。ウインチ9は、アクチュエータと一体的に構成されており、ワイヤロープ8の巻き入れ及び巻き出しを可能としている。そのため、フック10は、アクチュエータによって昇降自在となっている(矢印D参照)。
【0022】
次に、
図2を用いて、振れ抑制システム11について説明する。
【0023】
振れ抑制システム11は、主に制御装置20で構成されている。制御装置20には、各種操作具21~24が接続されている。また、制御装置20には、各種バルブ31~34が接続されている。更に、制御装置20には、重量センサ40のほか、各種センサ41~44が接続されている。なお、重量センサ40は、荷物Wを吊り上げていないときにフック10の重量m1を検出することができる。また、重量センサ40は、荷物Wを吊り上げているときにフック10の重量m1に加えて荷物Wの重量m2を検出することができる。そのため、制御装置20は、フック10の重量m1と荷物Wの重量m2を認識できる。
【0024】
上述したように、ブーム7は、アクチュエータによって旋回自在となっている(
図1における矢印A参照)。本願においては、かかるアクチュエータを旋回用油圧モータ51(
図1参照)と定義する。旋回用油圧モータ51は、方向制御弁である旋回用バルブ31によって適宜に稼動される。つまり、旋回用油圧モータ51は、旋回用バルブ31が作動油の流動方向を切り替えることで適宜に稼動される。なお、旋回用バルブ31は、オペレータによる旋回操作具21の操作に基づいて稼動される。また、ブーム7の旋回角度や旋回速度は、旋回用センサ41によって検出される。そのため、制御装置20は、ブーム7の旋回角度や旋回速度を認識することができる。
【0025】
また、上述したように、ブーム7は、アクチュエータによって伸縮自在となっている(
図1における矢印B参照)。本願においては、かかるアクチュエータを伸縮用油圧シリンダ52(
図1参照)と定義する。伸縮用油圧シリンダ52は、方向制御弁である伸縮用バルブ32によって適宜に稼動される。つまり、伸縮用油圧シリンダ52は、伸縮用バルブ32が作動油の流動方向を切り替えることで適宜に稼動される。なお、伸縮用バルブ32は、オペレータによる伸縮操作具22の操作に基づいて稼動される。また、ブーム7の伸縮長さや伸縮速度は、伸縮用センサ42によって検出される。そのため、制御装置20は、ブーム7の伸縮長さや伸縮速度を認識することができる。
【0026】
更に、上述したように、ブーム7は、アクチュエータによって起伏自在となっている(
図1における矢印C参照)。本願においては、かかるアクチュエータを起伏用油圧シリンダ53(
図1参照)と定義する。起伏用油圧シリンダ53は、方向制御弁である起伏用バルブ33によって適宜に稼動される。つまり、起伏用油圧シリンダ53は、起伏用バルブ33が作動油の流動方向を切り替えることで適宜に稼動される。なお、起伏用バルブ33は、オペレータによる起伏操作具23の操作に基づいて稼動される。また、ブーム7の起伏角度や起伏速度は、起伏用センサ43によって検出される。そのため、制御装置20は、ブーム7の起伏角度や起伏速度を認識することができる。
【0027】
加えて、上述したように、フック10は、アクチュエータによって昇降自在となっている(
図1における矢印D参照)。本願においては、かかるアクチュエータを巻回用油圧モータ54(
図1参照)と定義する。巻回用油圧モータ54は、方向制御弁である巻回用バルブ34によって適宜に稼動される。つまり、巻回用油圧モータ54は、巻回用バルブ34が作動油の流動方向を切り替えることで適宜に稼動される。なお、巻回用バルブ34は、オペレータによる巻回操作具24の操作に基づいて稼動される。また、フック10の吊下長さl
1(
図1参照)や昇降速度は、巻回用センサ44によって検出される。そのため、制御装置20は、フック10の吊下長さl
1や昇降速度を認識することができる。
【0028】
ここで、玉掛け具12について説明しておく。玉掛け具12とは、フック10に荷物Wを引っ掛けるためのものである。玉掛け具12は、スリング等の両端に掛け輪が設けられたものであり、このスリング等が荷物Wの下に回された状態で掛け輪がフック10に掛けられる。こうして、フック10に荷物Wがつながれるのである。なお、玉掛け具長さl2は、フック10から荷物Wまでの長さである。制御装置20は、オペレータが入力した値から玉掛け具長さl2を認識することができる。但し、玉掛け具12を撮影した画像から認識するとしてもよい。
【0029】
ところで、制御装置20は、各種バルブ31~34を介して各アクチュエータ(51・52・53・54)を制御するものである。制御装置20は、基本制御信号作成部20aと単振り子周波数算出部20bと二重振り子周波数算出部20cとフィルタ係数算出部20dとフィルタリング制御信号作成部20eを有している。
【0030】
基本制御信号作成部20aは、各アクチュエータ(51・52・53・54)の速度指令である基本制御信号S(n)を作成するものである。基本制御信号作成部20aは、オペレータによる各種操作具21~24の操作量を認識し、状況毎に基本制御信号S(n)を作成する。具体的に説明すると、基本制御信号作成部20aは、旋回操作具21の操作量に応じた基本制御信号S(1)、伸縮操作具22の操作量に応じた基本制御信号S(2)、起伏操作具23の操作量に応じた基本制御信号S(3)、巻回操作具24の操作量に応じた基本制御信号S(4)を作成する。
【0031】
単振り子周波数算出部20bは、ブーム7の先端を支点として荷物Wを質点とする単振り子の周波数である単振り子周波数ω(n)を算出するものである。単振り子周波数算出部20bは、吊下長さl
1及び玉掛け具長さl
2を認識し、状況毎に単振り子周波数ω(n)を算出する。具体的に説明すると、単振り子周波数算出部20bは、吊下長さl
1、玉掛け具長さl
2、重力加速度gを用いた下記の数1に基づいて単振り子周波数ω(n)を算出する。
【数1】
【0032】
二重振り子周波数算出部20cは、ブーム7の先端を支点としてフック10及び荷物Wを質点とする二重振り子の周波数である二重振り子周波数Ω(n)を算出するものである。二重振り子周波数算出部20cは、吊下長さl
1、玉掛け具長さl
2、フック10の重量m
1、荷物Wの重量m
2を認識し、状況毎に二重振り子周波数Ω(n)を算出する。具体的に説明すると、二重振り子周波数算出部20cは、吊下長さl
1、玉掛け具長さl
2、フック10の重量m
1、荷物Wの重量m
2、重力加速度gを用いた下記の数2に基づいて二重振り子周波数Ω(n)を算出する。
【数2】
【0033】
フィルタ係数算出部20dは、後述するノッチフィルタF(n)が有している伝達係数H(s)の各種係数ω
n・ζ
1・δ
1・Ω
n・ζ
2・δ
2を算出するものである。具体的に説明すると、フィルタ係数算出部20dは、単振り子の伝達係数H(s)である単振り子伝達係数H
1(s)の単振り子中心周波数係数ω
nのほか、それぞれの基本制御信号S(n)に対応する単振り子ノッチ幅係数ζ
1、単振り子ノッチ深さ係数δ
1を算出する。なお、単振り子伝達係数H
1(s)は、単振り子中心周波数係数ω
n、単振り子ノッチ幅係数ζ
1、単振り子ノッチ深さ係数δ
1を用いた下記の数3で表される。また、フィルタ係数算出部20dは、二重振り子の伝達係数H(s)である二重振り子伝達係数H
2(s)の二重振り子中心周波数係数Ω
nのほか、それぞれの基本制御信号S(n)に対応する二重振り子ノッチ幅係数ζ
2、二重振り子ノッチ深さ係数δ
2を算出する。なお、二重振り子伝達係数H
2(s)は、二重振り子中心周波数係数Ω
n、二重振り子ノッチ幅係数ζ
2、二重振り子ノッチ深さ係数δ
2を用いた下記の数4で表される。
【数3】
【数4】
【0034】
フィルタリング制御信号作成部20eは、ノッチフィルタF(n)を作成するとともに、基本制御信号S(n)に対してノッチフィルタF(n)をかけてフィルタリング制御信号Sf(n)を作成するものである(
図4参照)。フィルタリング制御信号作成部20eは、フィルタ係数算出部20dから各種係数ω
n・ζ
1・δ
1・Ω
n・ζ
2・δ
2を取得してノッチフィルタF(n)を作成する。ノッチフィルタF(n)は、単振り子ノッチ幅係数ζ
1と単振り子ノッチ深さ係数δ
1から決定される単振り子荷振れ低減率Pnf
1、及び二重振り子ノッチ幅係数ζ
2と二重振り子ノッチ深さ係数δ
2から決定される二重振り子荷振れ低減率Pnf
2によってその特性が表される。そして、フィルタリング制御信号作成部20eは、基本制御信号作成部20aから基本制御信号S(n)を取得し、この基本制御信号S(n)に対してノッチフィルタF(n)をかけてフィルタリング制御信号Sf(n)を作成する。具体的に説明すると、フィルタリング制御信号作成部20eは、旋回操作具21の操作量に応じた基本制御信号S(1)とノッチフィルタF(1)からフィルタリング制御信号Sf(1)、伸縮操作具22の操作量に応じた基本制御信号S(2)とノッチフィルタF(2)からフィルタリング制御信号Sf(2)、起伏操作具23の操作量に応じた基本制御信号S(3)とノッチフィルタF(3)からフィルタリング制御信号Sf(3)、巻回操作具24の操作量に応じた基本制御信号S(4)とノッチフィルタF(4)からフィルタリング制御信号Sf(4)等を作成する。
【0035】
このような構成により、制御装置20は、フィルタリング制御信号Sf(n)に基づいて各種バルブ31~34を制御できる。ひいては、フィルタリング制御信号Sf(n)に基づいて各アクチュエータ(51・52・53・54)を制御できる。
【0036】
次に、
図3及び
図4を用いて、ノッチフィルタF(n)とフィルタリング制御信号Sf(n)について説明する。
【0037】
ノッチフィルタF(n)は、単振り子周波数ω(n)を中心とする任意の範囲で単振り子周波数ω(n)に近づく程に減衰率が高くなった特徴を有している。単振り子周波数ω(n)を中心とする任意の範囲は、単振り子ノッチ幅Bn1として表され、単振り子ノッチ幅Bn1における減衰量の差異は、単振り子ノッチ深さDn1として表される。なお、単振り子ノッチ幅Bn1は、単振り子ノッチ幅係数ζ1に基づいて定まるものである。また、単振り子ノッチ深さDn1は、単振り子ノッチ深さ係数δ1に基づいて定まるものである。従って、単振り子ノッチ深さ係数δ1=0の場合は、単振り子周波数ω(n)におけるゲイン特性が-∞dBとなり、単振り子ノッチ深さ係数δ1=1の場合は、単振り子周波数ω(n)におけるゲイン特性が0dBとなる。
【0038】
また、ノッチフィルタF(n)は、二重振り子周波数Ω(n)を中心とする任意の範囲で二重振り子周波数Ω(n)に近づく程に減衰率が高くなった特徴を有している。二重振り子周波数Ω(n)を中心とする任意の範囲は、二重振り子ノッチ幅Bn2として表され、二重振り子ノッチ幅Bn2における減衰量の差異は、二重振り子ノッチ深さDn2として表される。なお、二重振り子ノッチ幅Bn2は、二重振り子ノッチ幅係数ζ2に基づいて定まるものである。また、二重振り子ノッチ深さDn2は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2に基づいて定まるものである。従って、二重振り子ノッチ深さ係数δ2=0の場合は、二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性が-∞dBとなり、二重振り子ノッチ深さ係数δ2=1の場合は、二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性が0dBとなる。
【0039】
フィルタリング制御信号Sf(n)は、各アクチュエータ(51・52・53・54)に伝達される速度指令である。荷物Wの加速に係るフィルタリング制御信号Sf(n)は、基本制御信号S(n)よりも加速が穏やかであり、一時的に減速させてから再び加速していくような特徴を有している(
図4におけるX部参照)。ここで、一時的に減速させることにより、加速時における荷物Wの振れを抑制することができる。また、荷物Wの減速に係るフィルタリング制御信号Sf(n)は、基本制御信号S(n)よりも減速が穏やかであり、一時的に増速させてから再び減速していくような特徴を有している(
図4におけるY部参照)。ここで、一時的に増速させことにより、減速時における荷物Wの振れを抑制することができる。
【0040】
以下に、
図5を用いて、第一実施形態に係る制御態様について説明する。なお、単振り子ノッチ幅係数ζ
1及び二重振り子ノッチ幅係数ζ
2は、予め定められた固定値に設定されているものとするが、クレーン1の作動状態に基づいて設定する構成でもよい。
【0041】
ステップS11において、制御装置20は、各アクチュエータ(51・52・53・54)の基本制御信号S(n)を作成する。
【0042】
ステップS12において、制御装置20は、単振り子周波数ω(n)及び二重振り子周波数Ω(n)を算出する。
【0043】
ステップS13において、制御装置20は、単振り子ノッチ深さ係数δ1を所定の数値に設定する。具体的に説明すると、制御装置20は、単振り子ノッチ深さ係数δ1を0に設定する。これにより、単振り子周波数ω(n)におけるゲイン特性は-∞dBとなる。なお、単振り子ノッチ深さ係数δ1は、0から1であればよい。この場合、単振り子周波数ω(n)におけるゲイン特性は-∞dBから0dBとなる。
【0044】
ステップS14において、制御装置20は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2を所定の数値に設定する。具体的に説明すると、制御装置20は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2を0に設定する。これにより、二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性は-∞dBとなる。なお、二重振り子ノッチ深さ係数δ2は、0から1であればよい。この場合、二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性は-∞dBから0dBとなる。
【0045】
ステップS15において、制御装置20は、基本制御信号S(n)に対してノッチフィルタF(n)をかけてフィルタリング制御信号Sf(n)を作成する。そして、制御装置20は、フィルタリング制御信号Sf(n)に基づいて各アクチュエータ(51・52・53・54)を制御する。制御装置20は、単振り子ノッチ深さ係数δ1を0に設定しており、単振り子の特性を持つ荷物Wの振れを抑制することができる。また、制御装置20は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2を0に設定しており、二重振り子の特性を持つ荷物Wの振れを抑制することができる。
【0046】
以上のように、本クレーン1は、荷物Wの移動に供するアクチュエータ(51・52・53・54)と、アクチュエータ(51・52・53・54)の作動状態を指示できる操作具(21・22・23・24)と、アクチュエータ(51・52・53・54)と操作具(21・22・23・24)に接続されて情報の処理を行う制御装置20と、を具備している。そして、制御装置20は、ブーム7の先端を支点として荷物Wを質点とする単振り子の周波数(単振り子周波数ω(n))を算出するとともにブーム7の先端を支点としてフック10及び荷物Wを質点とする二重振り子の周波数(二重振り子周波数Ω(n))を算出し、操作具(21・22・23・24)の操作に応じて生成される制御信号(基本制御信号s(n))から単振り子の周波数(ω(n))及び二重振り子の周波数(Ω(n))におけるゲイン特性を減衰させたフィルタリング制御信号Sf(n)を生成し、当該フィルタリング制御信号Sf(n)を用いてアクチュエータ(51・52・53・54)を制御する。かかるクレーン1によれば、単振り子の特性を持つ荷物Wの振れ及び二重振り子の特性を持つ荷物Wの振れを抑制できる。
【0047】
次に、
図6及び
図7を用いて、第二実施形態に係る制御態様について説明する。ここでは、相違する部分を中心に説明する。なお、
図7の(A)は、二重振り子周波数Ω(n)と単振り子ノッチ深さ係数δ
1の関係を表したものである。また、
図7の(B)は、二重振り子周波数Ω(n)と二重振り子ノッチ深さ係数δ
2の関係を表したものである。
【0048】
ステップS24において、制御装置20は、二重振り子周波数Ω(n)が閾値T未満か以上かを判断する。二重振り子周波数Ω(n)が閾値T未満と判断した場合は、ステップS25へ移行する。他方で、二重振り子周波数Ω(n)が閾値T以上と判断した場合は、ステップS26へ移行する。なお、閾値Tは、二重振り子の特性を持つ荷物Wの振れを抑制する必要があるか否かの判断に用いられる。これは、二重振り子周波数Ω(n)が小さいときは振れの変位量が大きく、ひいては振れを抑制する必要性が高いが、二重振り子周波数Ω(n)が大きいときは振れの変位量が小さく、ひいては振れを抑制する必要性が低いからである。
【0049】
ステップS25において、制御装置20は、二重振り子ノッチ深さ係数δ
2を所定の数値に設定する。具体的に説明すると、制御装置20は、二重振り子ノッチ深さ係数δ
2を0に設定する(
図7の(B)参照)。これにより、二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性は-∞dBとなる。なお、二重振り子ノッチ深さ係数δ
2は、0から1であればよい。この場合、二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性は-∞dBから0dBとなる。
【0050】
ステップS26において、制御装置20は、二重振り子ノッチ深さ係数δ
2を所定の数値に設定する。具体的に説明すると、制御装置20は、二重振り子ノッチ深さ係数δ
2を1に設定する(
図7の(B)参照)。これにより、二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性は0dBとなる。なお、二重振り子ノッチ深さ係数δ
2は、1ではなく1に近い数値としてもよい。この場合、二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性は0dBに近い値となる。但し、この場合、制御装置20は、二重振り子周波数Ω(n)が閾値T未満の場合よりも、二重振り子ノッチ深さ係数δ
2を大きい値に設定する。これにより、二重振り子周波数Ω(n)が閾値T以上の場合、二重振り子周波数Ω(n)が閾値T未満の場合の二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性の減衰量よりも、ゲイン特性の減衰量が小さくなる。
【0051】
ステップS27において、制御装置20は、基本制御信号S(n)に対してノッチフィルタF(n)をかけてフィルタリング制御信号Sf(n)を作成する。そして、制御装置20は、フィルタリング制御信号Sf(n)に基づいて各アクチュエータ(51・52・53・54)を制御する。二重振り子ノッチ深さ係数δ2を0に設定した場合は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2を1に設定にした場合と比べて反応が緩慢となり、二重振り子ノッチ深さ係数δ2を1に設定した場合は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2を0に設定にした場合と比べて反応が急峻となる。従って、二重振り子周波数Ω(n)が閾値T未満の場合は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2が0に設定されるため、二重振り子の特性を持つ荷物Wの振れを抑制することができる。一方、二重振り子周波数Ω(n)が閾値T以上の場合は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2が1に設定されるため、オペレータの操作感覚を維持できるとともに、オペレータが荷物Wの停止操作をしてから荷物Wが停止するまでの移動量を低減することができる。
【0052】
このように、本クレーン1において、二重振り子の周波数(二重振り子周波数Ω(n))が閾値T以上の場合、制御装置20は、二重振り子の周波数(Ω(n))が閾値T未満の場合の二重振り子の周波数(Ω(n))におけるゲイン特性の減衰量よりも、小さい減衰量のフィルタリング制御信号Sf(n)を生成し、当該フィルタリング制御信号Sf(n)を用いてアクチュエータ(51・52・53・54)を制御する。かかるクレーン1によれば、二重振り子の特性を持つ荷物Wの振れを抑制する必要性が低いときに、オペレータの操作感覚を維持できるとともに、オペレータが荷物Wの停止操作をしてから荷物Wが停止するまでの移動量を低減することができる。
【0053】
更に、
図8及び
図9を用いて、第三実施形態に係る制御態様について説明する。ここでも、相違する部分を中心に説明する。なお、
図9の(A)は、二重振り子周波数Ω(n)と単振り子ノッチ深さ係数δ
1の関係を表したものである。また、
図9の(B)は、二重振り子周波数Ω(n)と二重振り子ノッチ深さ係数δ
2の関係を表したものである。
【0054】
ステップS34において、制御装置20は、二重振り子周波数Ω(n)に応じて二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性の減衰量を調節する。具体的に説明すると、制御装置20は、二重振り子周波数Ω(n)が閾値tから閾値Tまで大きくなるに応じて二重振り子ノッチ深さ係数δ
2を徐々に0から1まで大きくする(
図9の(B)参照)。これにより、二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性が徐々に-∞dBから0dBまで大きくなる。なお、二重振り子ノッチ深さ係数δ
2は、1ではなく1に近い数値としてもよい。この場合、二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性は0dBに近い値となる。
【0055】
ステップS35において、制御装置20は、基本制御信号S(n)に対してノッチフィルタF(n)をかけてフィルタリング制御信号Sf(n)を作成する。そして、制御装置20は、フィルタリング制御信号Sf(n)に基づいて各アクチュエータ(51・52・53・54)を制御する。二重振り子ノッチ深さ係数δ2を0に設定した場合は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2を1に設定にした場合と比べて反応が緩慢となり、二重振り子ノッチ深さ係数δ2を1に設定した場合は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2を0に設定にした場合と比べて反応が急峻となる。従って、二重振り子周波数Ω(n)が閾値t未満の場合は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2が0に設定されるため、二重振り子の特性を持つ荷物Wの振れを抑制することができる。一方、二重振り子周波数Ω(n)が閾値T以上の場合は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2が1に設定されるため、オペレータの操作感覚を維持できるとともに、オペレータが荷物Wの停止操作をしてから荷物Wが停止するまでの移動量を低減することができる。なお、二重振り子周波数Ω(n)が閾値t以上で閾値T未満の場合は、二重振り子周波数Ω(n)に応じた二重振り子ノッチ深さ係数δ2が設定されるため、二重振り子の特性を持つ荷物Wの振れを抑制する必要性に応じて、オペレータの操作感覚を維持するとともにオペレータが荷物Wの停止操作をしてから荷物Wが停止するまでの移動量を低減することができる。
【0056】
このように、本クレーン1において、制御装置20は、二重振り子の周波数(二重振り子周波数Ω(n))に応じて当該二重振り子の周波数(Ω(n))の減衰量を調節したフィルタリング制御信号Sf(n)を作成し、当該フィルタリング制御信号Sf(n)を用いてアクチュエータ(51・52・53・54)を制御する。かかるクレーン1によれば、二重振り子の特性を持つ荷物Wの振れを抑制する必要性に応じて、オペレータの操作感覚を維持するとともに、オペレータが荷物Wの停止操作をしてから荷物Wが停止するまでの移動量を低減することができる。
【0057】
次に、
図10及び
図11を用いて、第四実施形態に係るクレーン1について説明する。ここでも、相違する部分を中心に説明する。なお、
図11の(A)は、吊下長さl
1に対する玉掛け具長さl
2の比と単振り子ノッチ深さ係数δ
1の関係を表したものである。また、
図11の(B)は、吊下長さl
1に対する玉掛け具長さl
2の比と二重振り子ノッチ深さ係数δ
2の関係を表したものである。
【0058】
ステップS44において、制御装置20は、吊下長さl1に対する玉掛け具長さl2の比を算出する。
【0059】
ステップS45において、制御装置20は、吊下長さl1に対する玉掛け具長さl2の比が閾値R未満か以上かを判断する。吊下長さl1に対する玉掛け具長さl2の比が閾値R未満と判断した場合は、ステップS47へ移行する。他方で、吊下長さl1に対する玉掛け具長さl2の比が閾値R以上と判断した場合は、ステップS46へ移行する。なお、閾値Rは、二重振り子の特性を持つ荷物Wの振れを抑制する必要があるか否かの判断に用いられる。これは、吊下長さl1に対する玉掛け具長さl2の比が1に近いときは二重振り子の特性が強く、ひいては振れを抑制する必要性が高いが、吊下長さl1に対する玉掛け具長さl2の比が0に近いときは二重振り子の特性が弱く、ひいては振れを抑制する必要性が低いからである。
【0060】
ステップS46において、制御装置20は、二重振り子ノッチ深さ係数δ
2を所定の数値に設定する。具体的に説明すると、制御装置20は、二重振り子ノッチ深さ係数δ
2を0に設定する(
図11の(B)参照)。これにより、二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性は-∞dBとなる。なお、二重振り子ノッチ深さ係数δ
2は、0から1であればよい。この場合、二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性は-∞dBから0dBとなる。
【0061】
ステップS47において、制御装置20は、二重振り子ノッチ深さ係数δ
2を所定の数値に設定する。具体的に説明すると、制御装置20は、二重振り子ノッチ深さ係数δ
2を1に設定する(
図11の(B)参照)。これにより、二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性は0dBとなる。なお、二重振り子ノッチ深さ係数δ
2は、1ではなく1に近い数値としてもよい。この場合、二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性は0dBに近い値となる。但し、この場合、制御装置20は、吊下長さl
1に対する玉掛け具長さl
2の比が閾値R以上の場合よりも、二重振り子ノッチ深さ係数δ
2を大きい値に設定する。これにより、吊下長さl
1に対する玉掛け具長さl
2の比が閾値R未満の場合、吊下長さl
1に対する玉掛け具長さl
2の比が閾値R以上の場合の二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性の減衰量よりも、ゲイン特性の減衰量が小さくなる。
【0062】
ステップS48において、制御装置20は、基本制御信号S(n)に対してノッチフィルタF(n)をかけてフィルタリング制御信号Sf(n)を作成する。そして、制御装置20は、フィルタリング制御信号Sf(n)に基づいて各アクチュエータ(51・52・53・54)を制御する。二重振り子ノッチ深さ係数δ2を0に設定した場合は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2を1に設定にした場合と比べて反応が緩慢となり、二重振り子ノッチ深さ係数δ2を1に設定した場合は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2を0に設定にした場合と比べて反応が急峻となる。従って、吊下長さl1に対する玉掛け具長さl2の比が閾値R以上の場合は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2が0に設定されるため、二重振り子の特性を持つ荷物Wの振れを抑制することができる。一方、吊下長さl1に対する玉掛け具長さl2の比が閾値R未満の場合は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2が1に設定されるため、オペレータの操作感覚を維持できるとともに、オペレータが荷物Wの停止操作をしてから荷物Wが停止するまでの移動量を低減することができる。
【0063】
このように、本クレーン1において、ブーム7の先端からフック10までの長さ(吊下長さl1)に対するフック10から荷物Wまでの長さ(玉掛け具長さl2)の比が閾値R未満の場合、制御装置20は、ブーム7の先端からフック10までの長さ(l1)に対するフック10から荷物Wまでの長さ(l2)の比が閾値R未満の場合の二重振り子の周波数Ω(n)におけるゲイン特性の減衰量よりも、小さい減衰量のフィルタリング制御信号Sf(n)を生成し、当該フィルタリング制御信号Sf(n)を用いてアクチュエータ(51・52・53・54)を制御する。かかるクレーン1によれば、二重振り子の特性を持つ荷物Wの振れを抑制する必要性が低いときに、オペレータの操作感覚を維持できるとともに、オペレータが荷物Wの停止操作をしてから荷物Wが停止するまでの移動量を低減することができる。
【0064】
更に、
図12及び
図13を用いて、第五実施形態に係る制御態様について説明する。ここでも、相違する部分を中心に説明する。なお、
図13の(A)は、吊下長さl
1に対する玉掛け具長さl
2の比と単振り子ノッチ深さ係数δ
1の関係を表したものである。また、
図13の(B)は、吊下長さl
1に対する玉掛け具長さl
2の比と二重振り子ノッチ深さ係数δ
2の関係を表したものである。
【0065】
ステップS54において、制御装置20は、吊下長さl1に対する玉掛け具長さl2の比を算出する。
【0066】
ステップS55において、制御装置20は、吊下長さl
1に対する玉掛け具長さl
2の比に応じて二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性の減衰量を調節する。具体的に説明すると、制御装置20は、吊下長さl
1に対する玉掛け具長さl
2の比が閾値rから閾値Rまで小さくなるに応じて二重振り子ノッチ深さ係数δ
2を徐々に0から1まで大きくする(
図13の(B)参照)。これにより、二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性が徐々に-∞dBから0dBまで大きくなる。なお、二重振り子ノッチ深さ係数δ
2は、1ではなく1に近い数値としてもよい。この場合、二重振り子周波数Ω(n)におけるゲイン特性は0dBに近い値となる。
【0067】
ステップS55において、制御装置20は、基本制御信号S(n)に対してノッチフィルタF(n)をかけてフィルタリング制御信号Sf(n)を作成する。そして、制御装置20は、フィルタリング制御信号Sf(n)に基づいて各アクチュエータ(51・52・53・54)を制御する。二重振り子ノッチ深さ係数δ2を0に設定した場合は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2を1に設定にした場合と比べて反応が緩慢となり、二重振り子ノッチ深さ係数δ2を1に設定した場合は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2を0に設定にした場合と比べて反応が急峻となる。従って、吊下長さl1に対する玉掛け具長さl2の比が閾値r以上の場合は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2が0に設定されるため、二重振り子の特性を持つ荷物Wの振れを抑制することができる。一方、吊下長さl1に対する玉掛け具長さl2の比が閾値R未満の場合は、二重振り子ノッチ深さ係数δ2が1に設定されるため、オペレータの操作感覚を維持できるとともに、オペレータが荷物Wの停止操作をしてから荷物Wが停止するまでの移動量を低減することができる。なお、吊下長さl1に対する玉掛け具長さl2の比が閾値r未満で閾値R以上の場合は、吊下長さl1に対する玉掛け具長さl2の比に応じた二重振り子ノッチ深さ係数δ2が設定されるため、二重振り子の特性を持つ荷物Wの振れを抑制する必要性に応じて、オペレータの操作感覚を維持するとともにオペレータが荷物Wの停止操作をしてから荷物Wが停止するまでの移動量を低減することができる。
【0068】
このように、クレーン1において、制御装置20は、ブーム7の先端からフック10までの長さ(吊下長さl1)に対するフック10から荷物Wまでの長さ(玉掛け具長さl2)の比に応じて二重振り子の周波数(二重振り子周波数Ω(n))におけるゲイン特性の減衰量を調節したフィルタリング制御信号Sf(n)を作成し、当該フィルタリング制御信号Sf(n)を用いてアクチュエータ(51・52・53・54)を制御する。かかるクレーン1によれば、二重振り子の特性を持つ荷物Wの振れを抑制する必要性に応じて、オペレータの操作感覚を維持できるとともに、オペレータが荷物Wの停止操作をしてから荷物Wが停止するまでの移動量を低減することができる。
【0069】
ところで、フック10の重量と荷物Wの重量の関係によっては、荷物Wには、3つ以上の質点がある多重振り子の特性を持つ振れが生じることもある。この多重振り子の特性を持つ荷物Wの振れを抑制するべく、制御装置20は、多重振り子の周波数を算出し、多重振り子の周波数におけるゲイン特性を減衰させてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 クレーン
2 車両
3 クレーン装置
7 ブーム
8 ワイヤロープ
9 ウインチ
10 フック
12 玉掛け具
20 制御装置
21 旋回操作具(操作具)
22 伸縮操作具(操作具)
23 起伏操作具(操作具)
24 巻回操作具(操作具)
51 旋回用油圧モータ(アクチュエータ)
52 伸縮用油圧シリンダ(アクチュエータ)
53 起伏用油圧シリンダ(アクチュエータ)
54 巻回用油圧モータ(アクチュエータ)
l1 吊下長さ(ブームの先端からフックまでの長さ)
l2 玉掛け具長さ(ブームの先端からフックまでの長さ)
r 閾値
R 閾値
S(n) 基本制御信号(制御信号)
Sf(n) フィルタリング制御信号
t 閾値
T 閾値
W 荷物
ω(n) 単振り子周波数(単振り子の周波数)
Ω(n) 二重振り子周波数(二重振り子の周波数)