(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】金属酸化物微粒子とその製造方法、赤外線遮蔽膜形成用分散液とその製造方法、赤外線遮蔽膜の形成方法並びに赤外線遮蔽膜付き基材
(51)【国際特許分類】
C01G 19/00 20060101AFI20220208BHJP
C01G 9/00 20060101ALI20220208BHJP
C01G 30/00 20060101ALI20220208BHJP
C03C 17/25 20060101ALI20220208BHJP
C09C 1/00 20060101ALI20220208BHJP
C09C 3/08 20060101ALI20220208BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20220208BHJP
C09D 5/33 20060101ALI20220208BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220208BHJP
B32B 5/16 20060101ALI20220208BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20220208BHJP
C07C 53/126 20060101ALN20220208BHJP
C07C 51/41 20060101ALN20220208BHJP
C07F 7/22 20060101ALN20220208BHJP
C07F 5/00 20060101ALN20220208BHJP
C07F 9/90 20060101ALN20220208BHJP
【FI】
C01G19/00 A
C01G9/00 B
C01G30/00
C03C17/25 A
C09C1/00
C09C3/08
C09D17/00
C09D5/33
C09D7/61
B32B5/16
B32B9/00 A
C07C53/126
C07C51/41
C07F7/22 J
C07F5/00 J
C07F9/90
(21)【出願番号】P 2018053819
(22)【出願日】2018-03-22
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】日向野 怜子
(72)【発明者】
【氏名】庄司 美穂
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-154654(JP,A)
【文献】特開2013-216858(JP,A)
【文献】特開2017-024932(JP,A)
【文献】特開2007-145712(JP,A)
【文献】特開2015-003941(JP,A)
【文献】特開2004-300539(JP,A)
【文献】特開2008-297414(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107162044(CN,A)
【文献】特開2015-003940(JP,A)
【文献】特開2013-089533(JP,A)
【文献】特開2013-001954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 19/00
C01G 9/00
C01G 30/00
C03C 17/25
C09C 1/00
C09C 3/08
C09D 17/00
C09D 5/33
C09D 7/61
B32B 5/16
B32B 7/027
B32B 9/00
C07C 53/126
C07C 51/41
C07F 7/22
C07F 5/00
C07F 9/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が5以上14以下でありかつ分岐鎖を有する脂肪酸により金属酸化物微粒子の表面が修飾されており、前記微粒子の金属酸化物がZn、In、Sn及びSbからなる群より選ばれた複数種類の金属酸化物であり、前記金属酸化物微粒子の平均粒径が80nm以下である金属酸化物微粒子。
【請求項2】
炭素数が5以上14以下でありかつ分岐鎖を有する脂肪酸と、Zn、In、Sn及びSbからなる群より選ばれた複数種類の金属、金属酸化物又は金属水酸化物からなる金属源とを混合して複数種類の脂肪酸金属塩の混合物を調製し、
前記混合物を前記脂肪酸の溶融温度以上分解温度未満の温度で加熱して前駆体である金属石鹸を得た後、前記前駆体をその溶融温度以上分解温度未満の温度で加熱することにより請求項1記載の金属酸化物微粒子を製造する方法。
【請求項3】
請求項1記載の金属酸化物微粒子が疎水性溶媒に分散した赤外線遮蔽膜形成用分散液であって、波長800nm~1100nmの領域の光透過率が20%以上70%未満である赤外線遮蔽膜形成用分散液。
【請求項4】
請求項1記載の金属酸化物微粒子又は請求項2記載の方法で製造された金属酸化物微粒子と疎水性溶媒とを混合する赤外線遮蔽膜形成用分散液の製造方法であって、
前記金属酸化物微粒子の濃度が0.5質量%になるように前記分散液を希釈し、この分散液の波長800nm~1100nmの領域の光透過率
を分光光度計で測定するときに前記光透過率が20%以上70%未満である赤外線遮蔽膜形成用分散液
を製造
する方法。
【請求項5】
透明な基材上に請求項3記載の赤外線遮蔽膜形成用分散液又は請求項4記載の方法により製造された赤外線遮蔽膜形成用分散液を塗布して赤外線遮蔽膜を形成する方法。
【請求項6】
透明な基材と、この基材上に形成された赤外線遮蔽膜とを有する赤外線遮蔽膜付き基材であって、
波長380nm~780nmの領域の光透過率が70%以上であり、波長1500nm~2500nmの領域の光反射率が10%以上であり、波長240nm~2600nmの領域の光反射率を測定したときに波長1500nm~2500nmの領域に光反射率の最大値を有することを特徴とする赤外線遮蔽膜付き基材。
【請求項7】
前記赤外線遮蔽膜上に可視光に対して透明な樹脂フィルム又は可視光に対して透明なガラスを有する請求項6記載の赤外線遮蔽膜付き基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸で微粒子表面が修飾された金属酸化物微粒子及びその製造方法に関する。またこの金属酸化物微粒子を含む赤外線遮蔽膜形成用分散液及びその製造方法に関する。更にこの分散液を用いた赤外線遮蔽膜の形成方法及び赤外線遮蔽膜付き基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脂肪酸で微粒子表面が修飾された金属酸化物微粒子を得る方法として、脂肪酸の一種であるステアリン酸と金属インジウム及び金属錫とを窒素雰囲気下、260℃で3時間直接的に反応させて、インジウム錫酸化物(ITO)一次粒子の前駆体であるステアリン酸インジウム錫化合物を合成し、この前駆体を熱分解することにより、有機溶媒を付加せずに凝集のない粒径が7nm以下のITO一次粒子が得られることが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Shaojuan Luoら "Synthesis and application of non-agglomerated ITO nanocrystals via pyrolysis of indium-tin stearate without using additional organic solvents" J Nanopart Res Vol.16(8) 2014, 2561 pp 1-12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1で使用されるステアリン酸は得られたITO一次粒子の表面を修飾し、保護基として作用すると考えられている。このステアリン酸は、炭素数が18の比較的長鎖の脂肪酸であるため、保護基としてステアリン酸で包まれたITO一次粒子はその粒子間隔が広くなり易い。このため、このITO一次粒子を用いて赤外線遮蔽膜を作製した場合、赤外線遮蔽効果が十分でない問題があった。
【0005】
本発明の目的は、赤外線遮蔽性能と透明性の高い膜を形成するための金属酸化物微粒子及びその製造方法を提供することにある。本発明の別の目的は、この金属酸化物微粒子の分散液にしたときに、その長期安定性に優れ、かつこの分散液を塗布して成膜したときに、赤外線遮蔽性能の高い膜が得られる赤外線遮蔽膜形成用分散液及びその製造方法を提供することにある。本発明の更に別の目的は、この分散液を用いた赤外線遮蔽性能の高い赤外線遮蔽膜の形成方法及び赤外線遮蔽膜付き基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点は、炭素数が5以上14以下でありかつ分岐鎖を有する脂肪酸により金属酸化物微粒子の表面が修飾されており、前記微粒子の金属酸化物がZn、In、Sn及びSbからなる群より選ばれた複数種類の金属酸化物であり、前記金属酸化物微粒子の平均粒径が80nm以下である金属酸化物微粒子である。
【0007】
本発明の第2の観点は、炭素数が5以上14以下でありかつ分岐鎖を有する脂肪酸と、Zn、In、Sn及びSbからなる群より選ばれた複数種類の金属、金属酸化物又は金属水酸化物からなる金属源とを混合して複数種類の脂肪酸金属塩の混合物を調製し、前記混合物を前記脂肪酸の溶融温度以上分解温度未満の温度で加熱して前駆体である金属石鹸を得た後、前記前駆体をその溶融温度以上分解温度未満の温度で加熱することにより第1の観点の金属酸化物微粒子を製造する方法である。
【0008】
本発明の第3の観点は、第1の観点の金属酸化物微粒子が疎水性溶媒に分散した赤外線遮蔽膜形成用分散液であって、波長800nm~1100nmの領域の光透過率が20%以上70%未満である赤外線遮蔽膜形成用分散液である。
【0009】
本発明の第4の観点は、第1の観点の金属酸化物微粒子又は第2の観点の方法で製造された金属酸化物微粒子と疎水性溶媒とを混合する赤外線遮蔽膜形成用分散液の製造方法であって、前記金属酸化物微粒子の濃度が0.5質量%になるように前記分散液を希釈し、この分散液の波長800nm~1100nmの領域の光透過率を分光光度計で測定するときに前記光透過率が20%以上70%未満である赤外線遮蔽膜形成用分散液を製造する方法である。
【0010】
本発明の第5の観点は、透明な基材上に第3の観点の赤外線遮蔽膜形成用分散液又は第4の観点の方法により製造された赤外線遮蔽膜形成用分散液を塗布して赤外線遮蔽膜を形成する方法である。
【0011】
本発明の第6の観点は、透明な基材と、この基材上に形成された赤外線遮蔽膜とを有する赤外線遮蔽膜付き基材であって、波長380nm~780nmの領域の光透過率が70%以上であり、波長1500nm~2500nmの領域の光反射率が10%以上であり、波長240nm~2600nmの領域の光反射率を測定したときに波長1500nm~2500nmの領域に光反射率の最大値を有することを特徴とする赤外線遮蔽膜付き基材である。
【0012】
本発明の第7の観点は、第6の観点に基づく発明であって、前記赤外線遮蔽膜上に可視光に対して透明な樹脂フィルム又は可視光に対して透明なガラスを有する赤外線遮蔽膜付き基材である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の観点の金属酸化物微粒子は、平均粒径が80nm以下の所定の組成の金属酸化物の粒子からなる。また炭素数が5以上14以下である鎖長の比較的短い脂肪酸によって表面が修飾される。このため、第一に粒子は透明であり、第二に鎖長の比較的短い脂肪酸が保護基として働き、この一次粒子である金属酸化物微粒子は凝集しにくい。第三に金属酸化物微粒子が二次粒子になったときに、粒子間の距離を短くして並ぶことができる。これらのことからこの金属酸化物微粒子間の表面プラズモン効果が発現する。この効果により、この金属酸化物微粒子が分散した分散液で膜を作ると、赤外線波長領域の反射率がより高くなり、赤外線遮蔽性能が高まる。またこの膜は可視光の透過率が高くなる。
【0014】
本発明の第2の観点の金属酸化物微粒子の製造方法では、上記脂肪酸が分岐鎖を有するため、金属源と脂肪酸の混合物を所定の温度で加熱したときに反応速度が高められる効果がある。また前駆体である金属石鹸を所定の温度で加熱することにより、前駆体が溶融し、その融液中に一次粒子である金属酸化物微粒子が生成し、分散する。ここで生成した金属酸化物微粒子の表面が脂肪酸で修飾されていて、これが保護基として働くため、凝集しにくい平均粒径が80nm以下の上記効果を有する金属酸化物微粒子が得られる。
【0015】
本発明の第3の観点の赤外線遮蔽膜形成用分散液及び第4の観点の赤外線遮蔽膜形成用分散液の製造方法では、上記金属酸化物微粒子が透明であって、その表面が脂肪酸によって表面が修飾されるため、金属酸化物微粒子が凝集することなく疎水性溶媒に一次粒子の状態で安定して分散する。このため、この分散液は透明であって、波長800nm~1100nmの領域の光透過率が20%以上70%未満である特長がある。
【0016】
本発明の第5の観点の赤外線遮蔽膜の形成方法では、透明な基材上に上記分散液を塗布して赤外線遮蔽膜を形成する。この形成された赤外線遮蔽膜は透明性の高い膜となる。
また第6の観点の赤外線遮蔽膜付き基材は、こうした赤外線遮蔽膜を基材上に有するため、波長380nm~780nmの領域の光透過率が70%以上であり、波長1500nm~2500nmの領域の光反射率が10%以上であり、波長240nm~2600nmの領域の光反射率を測定したときに波長1500nm~2500nmの領域に光反射率の最大値を有する。
【0017】
本発明の第7の観点の赤外線遮蔽膜付き基材では、上記赤外線遮蔽膜上に可視光に対して透明な樹脂フィルム又は可視光に対して透明なガラスを有するため、目視では透明でありながら、赤外線遮蔽膜を傷や環境による劣化などから保護することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施例1と比較例1で得られた金属酸化物微粒子分散液を用いて赤外線遮蔽膜を形成した赤外線遮蔽膜付き基材の光反射率を示す分光曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0020】
<金属酸化物微粒子>
本実施形態の金属酸化物微粒子は、炭素数が5以上14以下でありかつ分岐鎖を有する脂肪酸によりその表面が修飾されており、この微粒子の金属酸化物がZn、In、Sn及びSbからなる群より選ばれた複数種類の金属酸化物であり、その平均粒径が80nm以下である。金属酸化物微粒子の平均粒径が80mを超えると、最終分散用溶媒中での金属酸化物微粒子の分散安定性が損なわれ、微粒子が短期間に沈殿したり、分散液に透明性がなくなり、分散液が白濁化する。好ましい金属酸化物微粒子の平均粒径は、5nm~50nmである。金属酸化物微粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社 型式名:JEM-2010F)を用いて、倍率100,000倍で撮影した像を、ソフトウェア(品名:Image J)により、300個の粒子を測定し、それぞれの平均を算出することで求められる。
【0021】
〔脂肪酸〕
金属酸化物微粒子の表面を修飾する脂肪酸は、炭素数が5以上14以下(CnH2nO2、n=5~14)でありかつ分岐鎖を有する。脂肪酸が分岐鎖を有するため、後述する金属酸化物微粒子を製造するために、金属源と脂肪酸の混合物を所定の温度で加熱したときに反応速度が高まる。炭素数のnが4以下では、最終的に得られる金属酸化物微粒子を分散液にしたときにその分散安定性が悪くなる。また炭素数のnが15を超えると、保護基として炭素数が15を超えた脂肪酸で包まれた金属酸化物微粒子は粒子が並んだときに粒子間隔が広くなり、この金属酸化物微粒子を用いて赤外線遮蔽膜を作製した場合、赤外線遮蔽効果が劣る。好ましい炭素数は、n=6~10である。具体的な脂肪酸の例を表1に示す。
【0022】
【0023】
〔複数種類の金属酸化物〕
金属酸化物を構成する金属には、Zn、In、Sn及びSbからなる群より複数種類が選ばれる。赤外線遮蔽性能の高い膜を形成するために、上記金属は、複数種類、即ち異種の2種以上のものを用いる必要がある。好ましくは異種の2種類である。例えば、InとSnの2種類の場合、In:Snは80~95:20~5の質量比で用いられる。SbとSnの2種類の場合、Sb:Snは85~98:15~2の質量比で用いられる。ZnとSbの2種類の場合、Zn:Sbは85~98:15~2の質量比で用いられる。この金属酸化物としては、インジウム錫酸化物(ITO:Indium doped Tin Oxide)、アンチモン錫酸化物(ATO:Antimony doped Tin Oxide)、アンチモン亜鉛酸化物(AZO:Antimony doped Zinc Oxide)等が例示される。
【0024】
<金属酸化物微粒子の製造方法>
本実施形態の金属酸化物微粒子は、上記脂肪酸と、Zn、In、Sn及びSbからなる群より選ばれた複数種類の金属、金属酸化物又は金属水酸化物からなる金属源とを混合して複数種類の脂肪酸金属塩の混合物を調製し、前記混合物を前記脂肪酸の溶融温度以上分解温度未満の温度で加熱して前駆体である金属石鹸を得た後、前記前駆体をその溶融温度以上分解温度未満の温度で加熱することにより、製造する。
【0025】
〔出発原料の金属源〕
本実施形態の金属源は、Zn、In、Sn及びSbからなる群より選ばれた複数種類の金属、金属酸化物又は金属水酸化物である。
【0026】
〔前駆体の合成〕
上述した脂肪酸と上記複数種類の金属源を直接混合反応して、最終的な製造物である金属酸化物微粒子の前駆体である金属石鹸を合成する。脂肪酸と金属源との混合は、溶融状態にした脂肪酸に金属源を添加して撹拌し混合することが好ましい。この混合割合は、脂肪酸100質量%に金属源中の金属成分5質量%~40質量%、好ましくは10質量%~30質量%の割合で添加する。金属成分が5質量%未満では、未反応の脂肪酸が多く残る等の不具合があり、40質量%を超えると反応に寄与しない金属分が副生成物として生じる等の不具合がある。
【0027】
脂肪酸と金属源とを混合した混合物は、金属源が金属である場合には、窒素、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で、金属源が金属以外の金属酸化物又は金属水酸化物である場合には、窒素、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気又は大気雰囲気下で、脂肪酸の溶融温度以上分解温度未満の130℃~250℃、好ましくは150℃~230℃の温度で加熱し、この温度で1時間~5時間保持する。130℃未満では脂肪酸の流動性が不十分で溶融せず、金属源と十分に混合されない。250℃を超えると脂肪酸が分解し上記前駆体である金属石鹸が合成されない。上記加熱時間及び加熱保持時間は、金属源の種類や脂肪酸との混合割合等に応じて、上記範囲内で適宜変更することができる。上記加熱により最終的な製造物である金属酸化物微粒子の前駆体である金属石鹸が合成される。
【0028】
〔金属酸化物微粒子の製造〕
得られた前駆体をその溶融温度以上分解温度未満の200℃~350℃、好ましくは230℃~310℃の温度で加熱し、この温度で0.5時間~8時間保持する。200℃未満では前駆体が溶融せず、粒子の発生が起こらず、金属酸化物微粒子が製造されない。350℃を超えると前駆体の分解と同時に脂肪酸の分解及び炭化が起こり、金属酸化物微粒子が製造されない等の不具合がある。上記加熱時間及び加熱保持時間は、前駆体の種類や金属源の種類等に応じて、上記範囲内で適宜変更することができる。上記加熱により最終的な製造物である金属酸化物微粒子が得られる。この金属酸化物微粒子は、上述した平均粒径を有し、有機保護基で粒子表面が修飾されている。
【0029】
<金属酸化物微粒子の分散液>
本実施形態の金属酸化物微粒子の分散液は、得られた金属酸化物微粒子が疎水性溶媒に分散している。この分散液は、波長800nm~1100nmの領域の光透過率が20%以上70%未満である。この光透過率は、この分散液を光路長1mmのガラスセルに入れ、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製U-4100)により、JIS規格(JIS R 3216)に従って測定される。上記光透過率は、25%以上65%以下であることが好ましい。20%未満では、分散液を用いて得られる赤外線遮蔽膜において、可視光領域での吸収による着色が生じる不具合があり、70%以上であると、分散液を用いて得られる赤外線遮蔽膜において、十分な遮熱効果が得られない不具合がある。
【0030】
<金属酸化物微粒子の分散液の製造方法>
得られた金属酸化物微粒子を疎水性溶媒に添加し撹拌して混合することにより、分散液を製造する。疎水性溶媒としては、ベンゼン、シクロプロパン、シクロヘキサン、オクタデカン、ヘキサデカン、n-テトラデカン、n-ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、p-キシレン、トルエン、ケロシン等が例示される。金属酸化物微粒子はその表面が脂肪酸で修飾されているため、疎水性溶媒に安定して分散する。疎水性溶媒100質量%に対して、分散液の塗布方法に応じて、金属酸化物微粒子を5質量%~60質量%添加混合することが好ましい。
【0031】
<赤外線遮蔽膜の形成方法と赤外線遮蔽膜付き基材>
得られた分散液を、例えば透明な基材である透明なガラス基板表面又は透明な樹脂フィルム表面に塗布し、所定の温度で乾燥した後、加熱処理することにより、ガラス基板表面又は樹脂フィルム表面に膜厚が0.1μm~2.0μm、好ましくは0.2μm~1.5μmの赤外線遮蔽膜が形成され、赤外線遮蔽膜付き基材が得られる。基材が透明なガラス基板である場合には、加熱処理を酸化雰囲気下、50℃~300℃の温度で5分~60分間保持することにより行う。この温度と保持時間は膜に要求される密着強度に応じて決められる。また基材が透明な樹脂フィルムである場合には、加熱処理を酸化雰囲気下、40℃~120℃の温度で5℃~120分間保持することにより行う。この温度と保持時間は膜に要求される密着強度と下地フィルムの耐熱性に応じて決められる。
【0032】
本実施形態の赤外線遮蔽膜付き基材は、例えば、上述した分散液を透明な基材上に塗布して作られるため、波長380nm~780nmの領域の光透過率が70%以上であり、波長1500nm~2500nmの領域の光反射率が10%以上であり、波長240nm~2600nmの領域の光反射率を測定したときに波長1500nm~2500nmの領域に光反射率の最大値を有する特徴がある。これは、作製された赤外線遮蔽膜を構成する金属酸化物微粒子がその平均粒径が80nm以下の光透過率の高いナノ粒子であり、鎖長の比較的短い脂肪酸で表面が修飾され、粒子間の距離を短くして並ぶため、金属酸化物微粒子間の表面プラズモン効果により、上記特徴ある赤外線遮蔽性能があり、可視光の光透過性がある光学特性を有する。上記波長380nm~780nmの領域の光透過率は、75%以上であることが好ましい。70%未満では透過性が低く視認性が悪くなる等の不具合がある。上記波長1500nm~2500nmの領域の光反射率は、15%以上65%以下であることが好ましい。10%未満では赤外線遮蔽の効果が十分とならない等の不具合がある。
【0033】
本実施形態の赤外線遮蔽膜付き基材は、基材上に形成された赤外線遮蔽膜の上に、可視光に対して透明な樹脂フィルム又は可視光に対して透明なガラスを設けて、赤外線遮蔽膜を基材と樹脂フィルム又はガラスで挟持してもよい。こうすることにより、目視では透明でありながら、赤外線遮蔽膜を傷や環境による劣化などから保護することが可能となる。上記効果を損なわないように、樹脂フィルムを設ける場合には、厚さを50μm~500μmとするとよい。ガラスを設ける場合には、厚さを0.7mm~5mmとするとよい。
【実施例】
【0034】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0035】
<実施例1>
脂肪酸としての分岐鎖を有する2-エチルヘキサン酸(オクチル酸:n=8)と、金属源としての金属インジウム及び金属スズを、金属成分が質量比でインジウム:スズ=90:10になるように秤量添加混合し、この混合物を窒素雰囲気中にて210℃まで加熱し、撹拌しながら3時間保持した。金属源は脂肪酸に対して、金属成分換算で25質量%の割合で添加した。その後、270℃に加熱し、撹拌しながら更に3時間保持した。加熱することでITO微粒子が有機保護基で修飾された粒子を得た。室温まで冷却した後、平均粒径が10nmのITO微粒子を製造した。
【0036】
<実施例2~10、比較例1~3>
実施例2~10及び比較例1~3の出発原料である脂肪酸、金属源として、以下の表2に示す種類を選定し、表2に示す加熱温度で、実施例1と同様にして、表2に示す平均粒径を有する金属酸化物微粒子を製造した。
【0037】
【0038】
<比較例4>
脂肪酸原料として、ステアリン酸(n=18)を70℃に加温し、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、撹拌することによりステアリン酸ナトリウム水溶液を得た。このステアリン酸ナトリウム水溶液に、金属源となる塩化インジウム水溶液を添加し、撹拌して、ステアリン酸インジウムを得た。同様に、ステアリン酸ナトリウム水溶液に、塩化スズ水溶液を添加して、ステアリン酸スズを得た。得られたステアリン酸インジウムとステアリン酸スズを、インジウム:スズ=9:1になるように秤量混合しトルエンに溶解した。このトルエン溶液を減圧乾燥したのち、350℃で3時間加熱して、表2に示す平均粒径を有する金属酸化物微粒子を製造した。
【0039】
実施例1~10及び比較例1~4で得られた14種類の金属酸化物微粒子をそれぞれエタノール及びアセトンにて洗浄し、50℃で乾燥した後に、各微粒子2gを20gのトルエンに添加し、超音波ホモジェナイザーを用いて分散して、金属酸化物微粒子の分散液を得た。
【0040】
<比較試験及び評価>
実施例1~10及び比較例1~4で得られた14種類の分散液を50×50mm□の厚さ0.7mmの透明なソーダライムガラス基板表面に500rpmの回転速度で60秒間それぞれスピンコートして塗膜を形成した後、更に、エポキシ系樹脂コーティング剤(グラスカ、JSR社製)を上記塗膜上に、2000rpmの回転速度で60秒間スピンコートした後、この膜を120℃で20分間乾燥して、厚さ0.3μmのITO微粒子含有層と、厚さ2μmのオーバーコート層を持つ14種類の赤外線遮蔽膜を形成した。
14種類の分散液の光透過率と分散液の長期安定性をそれぞれ評価した。また14種類の基材での赤外線遮蔽膜の光透過率と光反射率をそれぞれ評価した。これらの結果を表3に示す。
【0041】
(1) 分散液での赤外線の光透過率
14種類の金属酸化物微粒子を粒子濃度0.5質量%にそれぞれ希釈して分散液を調製した。これらの分散液について、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製U-4100)を用いて、上述した方法で波長600nm及び波長1400nmでの光透過率を測定した。
【0042】
(2) 分散液の長期安定性
14種類の金属酸化物微粒子の分散液をガラス瓶に密閉して、温度が25℃で、相対湿度が50%である環境下に静置し、1カ月後と、3カ月後の溶液の状態で液の色を確認した。3カ月後まで液の色が全体に同色で上澄みに透明な液が全く確認されない場合を「優」とし、1カ月後までは変化が無かったものの、3カ月時点で液の上澄みに透明な液が確認された場合を「良」とし、1カ月後の時点で液の上澄みに透明な液が確認された場合を「不良」とした。
【0043】
(3) 基材での赤外線の光透過率と光反射率
14種類の赤外線遮蔽膜を分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製U-4100)を用いて、波長380nm、波長550nm及び波長780nmでの光透過率を測定した。また同様に波長1500nm、波長2000nm及び波長2500nmでの光反射率を測定した。
【0044】
(4) 基材での波長1500nm~2500nmの領域における最大の光反射率
14種類の赤外線遮蔽膜を上記(3)と同様にして、波長240nm~2600nmの領域で光反射率を測定し、最大の反射率が波長1500nm~2500nmの領域に存在するか否かを調べた。波長1500nm~2500nmの領域に存在するときを「有り」とし、存在しないときを「無し」とした。
【0045】
【0046】
表3から明らかなように、炭素数が5から14の範囲になく、かつ分岐鎖を持たない脂肪酸を用いて製造された比較例1~4の酸化物微粒子の分散液は波長800nmの透過率が70%を超え、近赤外線領域における吸収が不十分であった。また、赤外線遮蔽膜付き基材とした際の光反射率は、特に1500nmにおいて10%を超えず低かった。また、比較例3では金属酸化物微粒子の粒径が大きく、赤外線遮蔽膜付き基材とした際の光透過率は、380nm及び780nmにおいて、それぞれ67.5%及び68.1%であり、70%未満の低い光透過率であった。
【0047】
これに対して、炭素数が5から14までの分岐鎖を有する脂肪酸を用いて製造された実施例1~10の金属酸化物微粒子の分散液は、波長800nm、波長950nm及び波長1100nmでの光透過率が20.4%~69.5%の範囲にあり、近赤外領域からの透過率の変化が大きく、近赤外領域における光の遮蔽性に優れていた。またこれらの金属酸化物微粒子の分散液の長期安定性は「良」又は「優」であった。
【0048】
更に実施例1~11の金属酸化物微粒子の分散液を塗布して作製された赤外線遮蔽膜は、波長380nm、550nm及び780nmでの光透過率が72.6%~88.7%の範囲にあり、光透過性に優れ、かつ波長1500nm、2000nm及び2500nmでの光反射率が11.5%~57.1%の範囲にあり、波長240nm~2600nmの領域で光反射率を測定したときに波長1500nm~2500nmの領域に最大の光反射率がすべて存在していた。これにより波長1500nm~2500nmの領域における赤外線遮蔽効果が高いことが確認された。
更に
図1から明らかなように、波長1500nm~2500nmの領域において、比較例1の分散液を用いた赤外線遮蔽膜付き基材の光反射率が7.8%~23.4%の範囲にあったのに対して、実施例1の分散液を用いた赤外線遮蔽膜付き基材の光反射率は14.9%~46.2%の範囲にあり、実施例1の赤外線遮蔽膜付き基材の光反射率の方が比較例1の光反射率よりも高く、かつ波長1500nm~2500nmの領域で最大の光反射率がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の金属酸化物微粒子の分散液は、これをガラス、フィルムなどの透明な基材に塗布して赤外線遮蔽膜を形成することにより、赤外線遮蔽性能の高い赤外線遮蔽膜を得ることができる。