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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】ゴルフクラブセット
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/00 20150101AFI20220208BHJP
   A63B 53/04 20150101ALI20220208BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20220208BHJP
【FI】
A63B53/00 A
A63B53/04 A
A63B102:32
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018055354
(22)【出願日】2018-03-22
(65)【公開番号】P2019165906
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 知孝
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5388826(US,A)
【文献】特開2005-261702(JP,A)
【文献】特開2000-116828(JP,A)
【文献】特開2006-181212(JP,A)
【文献】特開平10-244025(JP,A)
【文献】米国特許第5312105(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00-53/06
A63B 102/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロフト角が異なる複数のゴルフクラブにより構成されたゴルフクラブセットであって、
前記各ゴルフクラブは、シャフトと、ゴルフクラブヘッドと、を有し、
前記各ゴルフクラブヘッドは、
クラウン部と、
フェース部と、
ソール部と、
前記シャフトが取り付けられるホーゼル部と、を備え、
前記フェース部において、前記ソール部との境界である下縁線は、下方に向かって凸となるように湾曲しており、
前記下縁線上に、前記ゴルフクラブヘッドが基準状態にあるときの最下点である第1点、トゥ側の端部である第2点、及びトゥ-ヒール方向において前記第1点と第2点との中点である第3点を規定したとき、前記下縁線は、前記第2点から前記第3点まで延びる第1トゥ側下縁線と、前記第1点から前記第3点まで延びる第2トゥ側下縁線と、を備え、
前記複数のゴルフクラブのうち、少なくとも一組の、前記ロフト角の小さい第1ゴルフクラブと前記ロフト角の大きい第2ゴルフクラブにおいては、
前記第2ゴルフクラブの前記第1トゥ側下縁線は、前記第1ゴルフクラブの前記第1トゥ側下縁線よりも、曲率半径が小さくなるように構成されており、
前記第2ゴルフクラブの前記第2トゥ側下縁線は、前記第1ゴルフクラブの前記第2トゥ側下縁線よりも、曲率半径が大きくなるように、構成されている、ゴルフクラブセット。
【請求項2】
前記第1ゴルフクラブの前記第1トゥ側下縁線の曲率半径と、前記第2ゴルフクラブの前記第1トゥ側下縁線の曲率半径との差が、20mm以内である、請求項1に記載のゴルフクラブセット。
【請求項3】
前記第1トゥ側下縁線の曲率半径が20~40mmである前記ゴルフクラブが含まれている、請求項1または2に記載のゴルフクラブセット。
【請求項4】
前記第1ゴルフクラブの前記第2トゥ側下縁線の曲率半径と、前記第2ゴルフクラブの前記第2トゥ側下縁線の曲率半径との差が、40mm以内である、請求項1から3のいずれかに記載のゴルフクラブセット。
【請求項5】
前記第2トゥ側下縁線の曲率半径が60~120mmである前記ゴルフクラブが含まれている、請求項1から4のいずれかに記載のゴルフクラブセット。
【請求項6】
前記各ゴルフクラブヘッドのトゥ-ヒール方向の長さが、60~120mmである、請求項1からのいずれかに記載のゴルフクラブセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブセットに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブセットは、一般的に、ロフト角の異なる複数のクラブが含まれている(例えば、特許文献1)。そのうち、ロフト角の小さいクラブは、飛距離を伸ばすときに用いられる。一方、ロフト角の大きいクラブは、グリーンまでの距離が短いショットに用いられ、グリーン上の狭いエリアを狙う機会が多い。そのため、ロフト角の大きいクラブでは、ボールをグリーン上に止めるためにバックスピン量を多くするのが有効である。そして、プレイ中には、ゴルフクラブセットの中から上記のような目的に応じてゴルフクラブを選択する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-29628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のようなゴルフクラブセットの中から、ゴルフクラブを選択すると、デザインは統一されているものの、ロフト角が相違するため、アドレスを行うときには、ゴルフクラブごとにゴルフクラブヘッドの見え方が相違する。そのため、ゴルフクラブを変えてプレーを行う際には、違和感を感じ、アドレスを行いづらいおそれがある。本発明は、この問題を解決するためになされたものであり、複数のゴルフクラブ間でのアドレス時の違和感を低減することができる、ゴルフクラブヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ロフト角が異なる複数のゴルフクラブにより構成されたゴルフクラブセットであって、前記各ゴルフクラブは、シャフトと、ゴルフクラブヘッドと、を有し、前記各ゴルフクラブヘッドは、クラウン部と、フェース部と、ソール部と、前記シャフトが取り付けられるホーゼル部と、を備え、前記フェース部において、前記ソール部との境界である下縁線は、下方に向かって凸となるように湾曲しており、前記下縁線上に、前記ゴルフクラブヘッドが基準状態にあるときの最下点である第1点、トゥ側の端部である第2点、及びトゥ-ヒール方向において前記第1点と第2点との中点である第3点を規定したとき、前記下縁線は、前記第2点から前記第3点まで延びる第1トゥ側下縁線と、前記第1点から前記第2点まで延びる第2トゥ側下縁線と、を備え、前記複数のゴルフクラブのうち、少なくとも一組の、前記ロフト角の小さい第1ゴルフクラブと前記ロフト角の大きい第2ゴルフクラブにおいては、前記第2ゴルフクラブの前記第1トゥ側下縁線は、前記第1ゴルフクラブの前記第1トゥ側下縁線よりも、曲率半径が小さくなるように構成されている。
【0006】
上記ゴルフクラブセットにおいては、前記第1ゴルフクラブの前記第1トゥ側下縁線の曲率半径と、前記第2ゴルフクラブの前記第1トゥ側下縁線の曲率半径との差を、20mm以内とすることができる。
【0007】
上記ゴルフクラブセットにおいては、前記第1トゥ側下縁線の曲率半径が20~40mmである前記ゴルフクラブを含むことができる。
【0008】
上記ゴルフクラブセットにおいては、前記第2ゴルフクラブの前記第2トゥ側下縁線が、前記第1ゴルフクラブの前記第2トゥ側下縁線よりも、曲率半径が大きくなるように、構成することができる。
【0009】
上記ゴルフクラブセットにおいては、前記第1ゴルフクラブの前記第2トゥ側下縁線の曲率半径と、前記第2ゴルフクラブの前記第2トゥ側下縁線の曲率半径との差を、40mm以内とすることができる。
【0010】
上記ゴルフクラブセットにおいては、前記第2トゥ側下縁線の曲率半径が60~120mmである前記ゴルフクラブを含むことができる。
【0011】
上記ゴルフクラブセットにおいては、前記各ゴルフクラブヘッドのトゥ-ヒール方向の長さを、60~120mmとすることができる。
【0012】
上記ゴルフクラブセットにおいては、前記下縁線上に、前記第1点、基準状態にある前記シャフトの中心軸線と設置面との交点を通り、トゥ-ヒール方向に垂直な平面と前記下縁線との交点を第4点、及びトゥ-ヒール方向において前記第1点と第4点との中点である第5点を規定したとき、前記下縁線は、前記第4点から前記第5点まで延びる第1ヒール側下縁線と、前記第1点から前記第5点まで延びる第2ヒール側下縁線と、を備え、前記複数のゴルフクラブのうち、少なくとも一組の、前記ロフト角の小さい第1ゴルフクラブと前記ロフト角の大きい第2ゴルフクラブにおいては、前記第2ゴルフクラブの前記第1ヒール側下縁線は、前記第1ゴルフクラブの前記第1ヒール側下縁線よりも、曲率半径が小さくなるように構成することができる。
【0013】
上記ゴルフクラフセットにおいて、前記第2ゴルフクラブの前記第2ヒール側下縁線は、前記第1ゴルフクラブの前記第2ヒール側下縁線よりも、曲率半径が大きくなるように、構成することができる。
【0014】
本発明に係る第2のゴルフクラブセットは、ロフト角が異なる複数のゴルフクラブにより構成されたゴルフクラブセットであって、前記各ゴルフクラブは、シャフトと、ゴルフクラブヘッドと、を有し、前記各ゴルフクラブヘッドは、クラウン部と、フェース部と、ソール部と、前記シャフトが取り付けられるホーゼル部と、を備え、前記フェース部において、前記ソール部との境界である下縁線は、下方に向かって凸となるように湾曲しており、前記下縁線上に、前記ゴルフクラブヘッドが基準状態にあるときの最下点である第1点、基準状態にある前記シャフトの中心軸線と設置面との交点を通り、トゥ-ヒール方向に垂直な平面と前記下縁線との交点を第4点、及びトゥ-ヒール方向において前記第1点と第4点との中点である第5点を規定したとき、前記下縁線は、前記第4点から前記第5点まで延びる第1ヒール側下縁線と、前記第1点から前記第5点まで延びる第2ヒール側下縁線と、を備え、前記複数のゴルフクラブのうち、少なくとも一組の、前記ロフト角の小さい第1ゴルフクラブと前記ロフト角の大きい第2ゴルフクラブにおいては、前記第2ゴルフクラブの前記第1ヒール側下縁線は、前記第1ゴルフクラブの前記第1ヒール側下縁線よりも、曲率半径が小さくなるように構成されている。
【0015】
上記第2のゴルフクラブセットにおいて、前記第2ゴルフクラブの前記第2ヒール側下縁線は、前記第1ゴルフクラブの前記第2ヒール側下縁線よりも、曲率半径が大きくなるように、構成されている、請求項8に記載のゴルフクラブセット。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るゴルフクラブヘッドによれば、複数のゴルフクラブ間でのアドレス時の違和感を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るゴルフクラブセットに含まれるゴルフクラブヘッドの斜視図である。
図2図1のゴルフクラブヘッドの基準状態での平面図である。
図3図2のA-A線断面図である。
図4A】フェース部の境界を説明する図である。
図4B】フェース部の境界を説明する図である。
図5】フェース部の下縁線を説明するゴルフクラブヘッドの正面図である。
図6】本発明のゴルフクラブセットに含まれるロフト角の異なるゴルフクラブヘッドの正面図である。
図7】本発明のゴルフクラブセットに含まれるロフト角の異なるゴルフクラブヘッドのフェース部を重ねた図である。
図8】従来のゴルフクラブセットに含まれるロフト角の異なるゴルフクラブヘッドの正面図である。
図9図8の平面図である。
図10】本発明のゴルフクラブセットに含まれるロフト角の異なるゴルフクラブヘッドの平面図である。
図11】フェース部の下縁線を説明するゴルフクラブヘッドの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るゴルフクラブセットの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態に係るゴルフクラブセットを構成するゴルフクラブは、ユーティリティ型(ハイブリッド型ともいう)のゴルフクラブであり、例えば、クラブ長が36~42インチ、ロフト角が15~35°の範囲にある2~8番ユーティリティである。そして、後述するように、各クラブは、主として、ロフト角などが相違している。以下では、まず、ゴルフクラブの1つを例に取り、共通の構造を概説した後、ゴルフクラブセットにおける、各ゴルフクラブの相違点について、詳細に説明する。
【0019】
<1.ゴルフクラブヘッドの概要>
まず、本実施形態に係るゴルフクラブセットのうちの1つのゴルフクラブ(例えば、ユーティリティ型ゴルフクラブ)を例に取り、そのゴルフクラブヘッドについて説明する。図1は本実施形態に係るゴルフクラブセットのうちの1つのゴルフクラブヘッドの基準状態の斜視図、図2図1の平面図、図3図2のA-A線断面図である。なお、ゴルフクラブヘッドの基準状態については、後述する。
【0020】
図1図3に示すように、このゴルフクラブヘッド(以下、単に「ヘッド」ということがある)100は、内部空間を有する中空構造であり、フェース部1、クラウン部2、ソール部3、及びホーゼル部4によって壁面が形成されたユーティリティ型のゴルフクラブヘッドである。
【0021】
フェース部1は、ボールを打球する面であるフェース面を有しており、クラウン部2はフェース部1と隣接し、ヘッド100の上面を構成する。ソール部3は、主としてヘッド100の底面を構成し、フェース部1とクラウン部2以外のヘッド100の外周面を構成する。すなわち、ヘッド100の底面のほか、フェース部1のトウ側からヘッドのバック側を通りフェース部1のヒール側へと延びる部位もソール部3の一部である。さらに、ホーゼル部4は、クラウン部2のヒール側に隣接して設けられる部位であり、ゴルフクラブのシャフト(図示省略)が挿入される挿入孔41を有している。そして、この挿入孔41の中心軸線Zは、シャフトの軸線に一致している。
【0022】
ここで、ゴルフクラブヘッド100を地面に設置するときの基準状態について説明する。まず、図2に示すように、上記中心軸線Zが地面に対して垂直な平面P1に含まれ、且つ所定のライ角及びリアルロフト角で地面上にヘッドが載置された状態を基準状態と規定する。そして、上記平面P1を基準垂直面と称する。また、図2に示すように、上記基準垂直面P1と地面との交線の方向をトゥ-ヒール方向と称し、このトゥ-ヒール方向に対して垂直であり且つ地面に対して平行な方向をフェース-バック方向と称することとする。また、トゥ-ヒール方向及びフェース-バック方向に直交する方向を上下方向と称することがある。
【0023】
本実施形態において、フェース部1とクラウン部2、及びフェース部1とソール部3との境界は、次のように定義することができる。すなわち、両者の間に稜線が形成されている場合には、これが境界となる。一方、明確な稜線が形成されていない場合には、図4Aに示されるように、ヘッド重心GとスイートスポットSSとを結ぶ直線Nを含む各断面E1、E2、E3…において、図4Bに示されるように、フェース外面輪郭線Lfの曲率半径rがスイートスポット側からフェース外側に向かって初めて200mmとなる位置Peがフェース部1の周縁となり、これがクラウン部2またはソール部3との境界として定義される。なお、スイートスポットSSとは、ヘッド重心Gを通るフェース面の法線(直線N)とこのフェース面との交点である。また、上述した境界Peのうち、フェース部1とソール部3との境界を、本明細書中では、フェース部1の下縁線7と称することとする。
【0024】
本実施形態において、クラウン部2とソール部3との境界は次のように定義することができる。すなわち、クラウン部2とソール部3との間に稜線が形成されている場合には、これが境界となる。一方、これらの間に明確な稜線が形成されていない場合には、ヘッドを基準状態に設置し、これをヘッド100の重心の真上から見たときの輪郭が境界となる。
【0025】
ヘッド100は、例えば、比重がほぼ4.3~4.5程度のチタン合金(Ti-6Al-4V、Ti-8Al-1Mo-1V等)で形成することができる。また、チタン合金以外にも、例えばステンレス鋼、マレージング鋼、アルミニウム合金、マグネシウム合金、またはアモルファス合金などの中から1種または2種以上を用いて形成することもできる。
【0026】
このゴルフクラブヘッド100の体積は、例えば、90cm3以上、200cm3以下が望ましい。また、各ゴルフクラブヘッドのトゥ-ヒール方向の長さYは、60~120mmであることが好ましい。ここでいうトゥ-ヒール方向の長さとは、図5に示すように、シャフトの中心軸Zを延長し、設置面T(地面)と接する位置を基準点Qとすると、基準状態のヘッドを正面から見たときの最もトゥ側の点と、基準点Qとのトゥ-ヒール方向の長さYをいう。
【0027】
<2.ゴルフクラブヘッドの組立構造>
本実施形態に係るゴルフクラブヘッド100は、図3に示すように、クラウン部2及びソール部3を有するヘッド本体101と、フェース部1及びその周縁から延びる周縁部15を有するカップ状に形成されたフェース用部材102と、を組み立てることで構成される。このヘッド本体101は、クラウン部2及びソール部3で囲まれた開口18を有し、この開口18を塞ぐようにフェース用部材102が取り付けられる。すなわち、フェース用部材102の周縁部15の端面が、ヘッド本体101の開口18の端面と突き合わされ、これらが、溶接によって接合される(いわゆるカップフェース構造)。そして、フェース用部材102は、ヘッド本体101の開口18の縁部に取付けられることで、ヘッド本体101と一体化され、これによって、フェース用部材102の周縁部15は、ヘッド100のクラウン部2及びソール部3の一部として機能する。
【0028】
したがって、フェース用部材102の周縁部15がヘッド本体101に取付けられることで一体的に形成される面が、ヘッド100のクラウン部2及びソール部3を構成する。そのため、厳密には、ヘッド本体101のクラウン部2及びソール部3は、ヘッド100のクラウン部2及びソール部3の一部ではあるが、本明細書では、これらを区別することなく、ヘッド本体101の各部も、単にクラウン部2、ソール部3と称することがある。
【0029】
<3.クラウン部の構造>
続いて、クラウン部2について説明する。図1図3に示すように、クラウン部2は、フェース部1側に配置される隆起部21と、隆起部21よりもバック側に配置される基部22とを備えている。隆起部21は、主として、フェース部1に沿ってトゥ-ヒール方向に延びる帯状の領域である。一方、基部22は、隆起部21よりも低い位置でクラウン部2の大半を占める領域であり、その周縁はソール部3と接している。そして、隆起部21と基部22との境界には段差を構成する傾斜面23が形成されている。これにより、隆起部21と基部22との段差の分だけ、フェース部1の上下方向の高さが高くなっている。
【0030】
この傾斜面23は、バック側ににいくにしたがって、下方に延びるように構成されている。これにより、ゴルフクラブヘッド100を基準状態で設置したとき、上方から傾斜面23を視認することができる。すなわち、アドレスに入ったゴルファーから視認可能となっている。そして、傾斜面23は、隆起部21に沿って形成されているため、隆起部21と同様に、平面視において帯状に形成されている。
【0031】
図3に示すように、隆起部21のフェース-バック方向の幅Dは、例えば、平面視において、5~25mmとすることが好ましく、7~20mmとすることがさらに好ましい。
【0032】
また、傾斜面23の平面視におけるフェース-バック方向の幅Wは、例えば、1~9mmとすることが好ましく、2~7mmであることがさらに好ましい。さらに、傾斜面23の高さHは、例えば、0.5~8mmとすることが好ましく、0.5~6mmとすることがさらに好ましく、0.5~5mmとすることが特に好ましい。
【0033】
<4.ゴルフクラブヘッドの製造方法>
次に、上記のゴルフクラブヘッドの製造方法の一例について説明する。まず、上述したヘッド本体101とフェース用部材102とを準備する。このようなヘッド本体101及びフェース用部材102は、種々の方法で作製することができる。例えば、ヘッド本体101は、公知のロストワックス精密鋳造法などの鋳造によって製造することができる。また、フェース用部材102は、例えば、鍛造製法や、平板のプレス加工、鋳造等により製造することができる。また、フェース用部材102を圧延材で形成する場合、加工前の平板は、圧延方向が、フェース部1のトゥ側の上部からヒール側の下部に向かう方向とほぼ一致するように加工される。
【0034】
そして、これらを、例えば、溶接(TIG(タングステン-不活性ガス)溶接、プラズマ溶接、レーザー溶接、ロウ付けなど)により接合した後、所定の塗装を施すと、ゴルフクラブヘッドが完成する。
【0035】
<5.ゴルフクラブセットにおけるゴルフクラブ間の相違点>
まず、図5を参照しつつ、フェース部1の下縁線7の規定を行う。図5は、基準状態にあるゴルフクラブヘッドの正面図である。上述したように、下縁線7は、フェース部1とソール部3との境界であり、下方に凸となるように湾曲している。そして、ゴルフクラブヘッドが基準状態にあるときの、下縁線7上の最下点をF1(第1点)、トゥ側の端部をF2(第2点)とする。また、トゥ-ヒール方向において、F1とF2との中点(第3点)をF3とする。そして、下縁線のうち、F2とF3との間で延びる部分を第1トゥ側下縁線711、F1とF2との間で延びる部分を第2トゥ側下縁線712と規定する。
【0036】
次に、ゴルフクラブセットにおけるロフト角の異なるクラブの相違点について、図6を参照しつつ説明する。図6は、基準状態にある複数のゴルフクラブヘッドをフェース側から見た正面図である。なお、図6では、一例として、本実施形態に係るゴルフクラブセットのうち、番手が隣接する3つのゴルフクラブのヘッドを示しており、ロフト角が小さい順に、3番ユーティリティ(U#3)、4番ユーティリティ(U#4)、及び5番ユーティリティ(U#5)、が、上から下にこの順で並んでいる。なお、図6においては、これらゴルフクラブ間の相違について、発明の特徴を明確にするため、各ヘッドをやや誇張して記載している。したがって、図6は、後述する実際の寸法などとは相違するが、これによって発明の本質が変わるものではない。なお、以下の説明でヘッドの寸法の説明をするときには、特に断りのない限り、基準状態での寸法を指すこととする。また、本実施形態におけるゴルフクラブ(U#3,U#4,U#5)のうちのいずれか2つにおいて、ロフト角が小さいクラブが本発明の第1ゴルフクラブに相当し、ロフト角が大きいクラブが本発明の第2ゴルフクラブに相当する。
【0037】
図6では、3つのゴルフクラブを基準状態で、設置面Tに設置しており、上述した下縁線7上の3つの点F1,F2,F3、及び第1トゥ側下縁線711、第2トゥ側下縁線712を示している。そして、本実施形態に係るゴルフクラブでは、ロフト角が大きいほど、第1トゥ側下縁線711の曲率半径が小さくなり、且つロフト角が大きいほど、第2トゥ側下縁線712の曲率半径が大きくなるようにフェース部1が形成されている。ここで、U#3,U#4,U#5の第1トゥ側下縁線711の曲率半径をM1,M2,M3とし、U#3,U#4,U#5の第2トゥ側下縁線712の曲率半径をN1,N2,N3とすると、M1>M2>M3、N1<N2<N3の関係を充足する。
【0038】
この点を、図7を用いて詳細に説明する。図7は、図6に示す各クラブ(U#3,U#4,U#5)のフェース部1を、F1を一致させた上で、重ねて表示したものである。同図に示すように、例えば、ロフト角が最も大きいU#5の第1トゥ側下縁線711は、他のクラブよりも下向きに大きく湾曲しており、曲率半径が小さくなっている。一方、U#5の第2トゥ側下縁線712は、U#3,U#4に比べ直線に近い形状となっており、曲率半径が大きくなっている。各曲率半径は、具体的には、例えば、以下のように設定することができるが、これに限定されるものではない。
【0039】
【表1】
【0040】
また、第1トゥ側下縁線711の曲率半径は、20~40mmであることが好ましい。そして、番手の隣接するクラブ間(例えば、U#3とU#4)での第1トゥ側下縁線711の曲率半径の差は、1~20mmであることが好ましい。本実施形態によれば後述するように番手間のアドレス時の違和感を小さくすることができるが、特に、曲率半径の差が大きすぎると、逆に、番手間のアドレス時の違和感が大きくなってきてしまうからである。
【0041】
一方、第2トゥ側下縁線712の曲率半径は、60~120mmであることが好ましい。そして、番手の隣接するクラブ間(例えば、U#3とU#4)での第2トゥ側下縁線712の曲率半径の差は、1~40mmであることが好ましい。本実施形態によれば、後述するように番手間のアドレス時の違和感を小さくすることができるが、特に、曲率半径の差が大きすぎると、逆に、番手間のアドレス時の違和感が大きくなってきてしまうからである。
【0042】
<6.特徴>
以上の実施形態によれば、次の効果を得ることができる。
【0043】
(1) ロフト角が大きくなるほど、第1トゥ側下縁線711の曲率半径が小さくなるように構成されている。そのため、次のような効果を得ることができる。まず、図8に示すように、従来のゴルフクラブセットでは、各ゴルフクラブのフェース部1の下縁線7は、番手が変ってもほぼ同じ形状に形成されている。そのため、図9に示すように、ロフト角が大きいゴルフクラブほど、アドレス時には、ゴルファーから見ると、第1トゥ側下縁線711が、トゥ側に向かうにつれて、よりバック側に向かって傾斜しているように見える。これにより、番手毎に下縁線7の湾曲の度合いが違って見えるため、クラブが変ったときに、アドレス時に違和感を覚え、アドレスがし難く感じるおそれがある。また、第1トゥ側下縁線711がバック側に傾斜しているように見えると、アドレス時にヘッドをターゲット方向に合わせにくく感じるおそれもあり、特に、右利きのゴルファーの場合、意図した打ち出し方向よりも右に打ち出されるように感じるおそれもある。
【0044】
そこで、本実施形態では、図6で説明したように、各ゴルフクラブヘッド(U#3,U#4,U#5)における、フェース部1の第1トゥ側下縁線711の曲率半径が、ロフト角が大きいほど、小さくなるように構成されている。そのため、図10に示すように、ロフト角が大きくなっても第1トゥ側下縁線711がより前方に膨らんで見えるため、番手間で、第1トゥ側下縁線711の見え方の相違を小さくすることができる。その結果、番手間のアドレス時の違和感を小さくすることができ、クラブが変ったときのアドレスをし易くすることができる。
【0045】
(2) また、本実施形態に係るゴルフクラブセットでは、第1トゥ側下縁線711の構成に加え、ロフト角が大きくなるほど、第2トゥ側下縁線712の曲率半径が大きくなるように構成されている。これにより、ロフト角が大きくなっても第2トゥ側下縁線712が従来よりも直線的に見える。すなわち、すべてのゴルフクラブヘッド(U#3,U#4,U#5)の第2トゥ側下縁線712が、同様に直線的に見えるため、番手間のアドレス時の違和感を小さくすることができる。その結果、クラブが変ったときのアドレスをし易くすることができる。
【0046】
なお、ロフト角が大きくなっても各ゴルフクラブの第2トゥ側下縁線712の曲率半径が同じである場合、アドレス時にはゴルファーから見ると、ロフト角が大きいゴルフクラブほど、第2トゥ側下縁線712がトゥ側に向かうにつれて、よりバック側に傾斜しているように見える。そのため、アドレス時にヘッドをターゲット方向に合わせにくく感じるおそれがあり、特に、右利きのゴルファーの場合、意図した打ち出し方向よりも右に打ち出されるように感じるおそれもある。これに対し、上記のように、ロフト角が大きくなるほど、第2トゥ側下縁線712の曲率半径を大きくすることで、このようなアドレス時の違和感を小さくすることができる。
【0047】
(3) クラウン部2において、隆起部21が基部22よりも、傾斜面23を介して高く形成されているため、隆起部21が高くなった分だけ、フェース部1の高さを高くすることができる。そのため、フェース部1における反発性能を向上することができる。また、クラウン部2においては、隆起部21のみが高く形成され、クラウン部2の大半を占める基部22は隆起部21よりも低い位置に形成されているため、ヘッドの重心を低くすることができる。
【0048】
<7.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。また、以下の変形例は、適宜組み合わせることができる。例えば、以下の変更が可能である。
【0049】
<7.1>
上記実施形態では、ロフト角が大きいほど、第1トゥ側下縁線711の曲率半径が小さくなり、且つ第2トゥ側下縁線712の曲率半径が大きくなっているが、少なくとも第1トゥ側下縁線711の曲率半径が小さくなっていればよい。すなわち、ロフト角が大きいほど、第1トゥ側下縁線711の曲率半径が小さくなっていれば、上述したアドレス時の違和感を小さくすることができる。但し、第1トゥ側下縁線711及び第2トゥ側下縁線712の両方の曲率半径が上記のように調整されていれば、アドレス時の違和感をより低減することができる。
【0050】
<7.2>
上記実施形態では、フェース部の下縁線のうち、トゥ側について説明したが、ヒール側についても同様に設定することができる。例えば、図11に示すように、ゴルフクラブヘッドが基準状態にあるときの、上述した点Qを通り、トゥ-ヒール方向に対して垂直な平面と下縁線7との交点をF4とする。また、トゥ-ヒール方向において、F1とF4との中点をF5とする。そして、下縁線7のうち、F5とF4との間で延びる部分を第1ヒール側下縁線721、F1とF5との間で延びる部分を第2ヒール側下縁線722と規定する。
【0051】
以上のように規定したとき、ロフト角が大きいほど、第1ヒール側下縁線721の曲率半径を小さくすることができる。すなわち、U#3,U#4,U#5の第1ヒール側下縁線721の曲率半径をC1,C2,C3とすると、C1>C2>C3の関係を充足する。これにより、第1トゥ側下縁線711と同様に、ロフト角が大きくなっても第1ヒール側下縁線721がより前方に膨らんで見えるため、番手間で、第1ヒール側下縁線721の形状の相違を小さくすることができる。その結果、番手間のアドレス時の違和感を小さくすることができ、クラブが変ったときのアドレスをし易くすることができる。
【0052】
なお、ロフト角が大きくなっても各ゴルフクラブの第1ヒール側下縁線721の曲率半径が同じである場合、アドレス時にはゴルファーから見ると、ロフト角が大きいゴルフクラブほど、第1ヒール側下縁線721がヒール側に向かうにつれてよりバック側に傾斜しているように見える。そのため、アドレス時にヘッドをターゲット方向に合わせにくく感じるおそれがあり、特に、右利きのゴルファーの場合、意図した打ち出し方向よりも左に打ち出されるように感じるおそれもある。これに対し、上記のように、ロフト角が大きいほど、第1ヒール側下縁線721の曲率半径を小さくすることで、このようなアドレス時の違和感を小さくすることができる。
【0053】
一方、ロフト角が大きいほど、第2ヒール側下縁線722の曲率半径を大きくすることができる。すなわち、U#3,U#4,U#5の第2ヒール側下縁線722の曲率半径をJ1,J2,J3とすると、J1<J2<J3の関係を充足する。これにより、すべてのゴルフクラブヘッド(U#3,U#4,U#5)の第2ヒール側下縁線722が、同様に直線的に見えるため、番手間のアドレス時の違和感を小さくすることができる。その結果、クラブが変ったときのアドレスをし易くすることができる。
【0054】
なお、ロフト角が大きくなっても各ゴルフクラブの第2ヒール側下縁線722の曲率半径が同じである場合、アドレス時にはゴルファーから見ると、ロフト角が大きいゴルフクラブほど、第2ヒール側下縁線722がヒール側に向かうにつれてよりバック側に傾斜しているように見える。そのため、アドレス時にヘッドをターゲット方向に合わせにくく感じるおそれがあり、特に、右利きのゴルファーの場合、意図した打ち出し方向よりも左に打ち出されるように感じるおそれもある。これに対し、上記のように、ロフト角が大きいほど、第2ヒール側下縁線722の曲率半径を大きくすることで、このようなアドレス時の違和感を小さくすることができる。
【0055】
なお、各曲率半径は、具体的には、例えば、以下のように設定することができるが、これに限定されるものではない。
【0056】
【表2】
【0057】
また、第1ヒール側下縁線721の曲率半径は、75~95mmであることが好ましい。そして、番手の隣接するクラブ間(例えば、U#3とU#4)での第1ヒール側下縁線721の曲率半径の差は、1~20mmであることが好ましい。本実施形態によれば、前述したように番手間のアドレス時の違和感を小さくすることができるが、特に、曲率半径の差が大きすぎると、逆に、番手間のアドレス時の違和感が大きくなってきてしまうからである。
【0058】
一方、第2ヒール側下縁線722の曲率半径は、70~100mmであることが好ましい。そして、番手の隣接するクラブ間(例えば、U#3とU#4)での第2ヒール側下縁線722の曲率半径の差は、1~20mmであることが好ましい。本実施形態によれば、前述したように番手間のアドレス時の違和感を小さくすることができるが、特に、曲率半径の差が大きすぎると、逆に、番手間のアドレス時の違和感が大きくなってきてしまうからである。
【0059】
なお、ヒール側下縁線721,722の曲率半径を調整する場合には、第1ヒール側下縁線721と第2ヒール側下縁線722のうち、少なくとも第1ヒール側下縁線721の曲率半径が調整されていればよい。また、上述した第1及び第2トゥ側下縁線711,712を上記実施形態のように調整するのではなく、ヒール側下縁線721,722のみを調整することもできる。
【0060】
<7.3>
上記実施形態では、ロフト角が大きいクラブほど、第1トゥ側下縁線711の曲率半径が小さくなるように設定されているが、ゴルフクラブセットの中で、必ずしもすべての隣接する番手のゴルフクラブで、このような関係を充足していなくてもよい。すなわち、ゴルフクラブセットの中の、少なくとも、いずれか2つのロフト角の大きいクラブとロフト角の小さいクラブにおいて、このような関係が充足されていればよい。したがって、例えば、U#3~U#6のクラブの第1トゥ側下縁線711の曲率半径をそれぞれM1,M2,M3,M4とすると、これらの関係を(M1>M2=M3>M4)としたり、あるいは(M1>M2>M3=M4)とすることができる。この点は、第2トゥ側下縁線712、第1ヒール側下縁線721、第2ヒール側下縁線722においても同じである。また、ゴルフクラブセットの中のいずれか2つにおいて、ロフト角が小さいクラブが本発明の第1ゴルフクラブに相当し、ロフト角が大きいクラブが本発明の第2ゴルフクラブに相当する。
【0061】
<7.4>
上述した第1トゥ側下縁線711、第2トゥ側下縁線712、第1ヒール側下縁線721、第2ヒール側下縁線722が1つの曲率半径を有する円弧で形成されているときは、その曲率半径により、上述した関係を設定することができる。一方、各下縁線711、712,721,722が曲率半径の異なる円弧を組み合わせて形成されている場合には、各下縁線の両端と、中心(トゥ-ヒール方向の中心ではなく、線分の中心)とを通過する円弧を設定し、その円弧の曲率半径を採用することができる。
【0062】
<7.5>
上記実施形態では、すべてのクラブで、ヘッド幅、ヘッド厚が一定であるが、必ずしも一定にしなくてもよく、異なるようにすることもできる。
【0063】
<7.6>
上記実施形態に係るヘッドのクラウン部2は、隆起部21を有しているが、隆起部21の形状は特には限定されない。また、隆起部21のないクラウン部2であってもよい。また、ソール部3の形状も特には限定されない。
【0064】
<7.7>
また、本発明に係るゴルフクラブセットとは、同種のゴルフクラブを含むゴルフクラブセットを意味し、1つのゴルフクラブセットには、上記のようなユーティリティ型のゴルフクラブのみが含まれる。そして、本発明に係るゴルフクラブセットは、ユーティリティ型のゴルフクラブのほか、例えば、フェアウェイウッドなどのウッド型のヘッドを有するゴルフクラブや、アイアン型ヘッドを有するゴルフクラブによって構成することもできる。
【符号の説明】
【0065】
1 フェース部
2 クラウン部
3 ソール部
4 ホーゼル部
7 下縁線
711 第1トゥ側下縁線
712 第2トゥ側下縁線
721 第1ヒール側下縁線
722 第2ヒール側下縁線
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11