IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許-自律移動体 図1
  • 特許-自律移動体 図2
  • 特許-自律移動体 図3
  • 特許-自律移動体 図4
  • 特許-自律移動体 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-07
(45)【発行日】2022-02-16
(54)【発明の名称】自律移動体
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20200101AFI20220208BHJP
【FI】
G05D1/02 J
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018096256
(22)【出願日】2018-05-18
(65)【公開番号】P2019200700
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】南田 将哉
(72)【発明者】
【氏名】細川 翔太郎
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-293227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体と、
前記移動体から追尾対象までの離間距離を測定するセンサと、
前記追尾対象を追尾するように前記移動体の制御を行う制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記離間距離が第1所定距離よりも長くなると前記追尾対象に近付くように前記移動体を移動させる前進モードと、前記離間距離が第2所定距離よりも短くなると前記追尾対象から離れるように前記移動体を移動させる後退モードと、を切り替え可能であり、
前記前進モードから前記後退モードへの切り替えは、前記第1所定距離から第1距離を減じた後退開始距離よりも前記離間距離が短くなったときに行われ、
前記後退モードから前記前進モードへの切り替えは、前記第2所定距離に第2距離を加えた前進開始距離よりも前記離間距離が長くなったときに行われ、
前記第2距離は、前記第1距離よりも短い距離である自律移動体。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記前進モードでは、前記離間距離が前記第1所定距離よりも長いほど移動速度が速くなるように前記移動体を制御し、
前記後退モードでは、前記離間距離が前記第2所定距離よりも短いほど移動速度が速くなるように前記移動体を制御し、
前記移動体の移動速度を前記離間距離に応じて速くするに際して、前記離間距離と前記第1所定距離の差と、前記離間距離と前記第2所定距離との差とが同一の場合、前記後退モードでの移動速度に比べて、前記前進モードでの移動速度のほうが速くなるように前記移動体を制御する請求項1に記載の自律移動体。
【請求項3】
前記前進モードでの前記移動体の加速度は、前記後退モードでの前記移動体の加速度に比べて大きい請求項1又は請求項2に記載の自律移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、追尾対象を自動で追尾する自律移動体は、移動体と、追尾対象までの離間距離を測定するためのセンサと、制御装置と、を備える。制御装置は、センサによって測定される離間距離が適正範囲か否かを判定する。制御装置は、離間距離が適正範囲より長ければ追尾対象に近付き、離間距離が適正範囲より短ければ追尾対象から離れるように移動体を制御する。これにより、移動体は追尾対象を追尾するように自律移動することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-343334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、追尾対象との離間距離に応じて移動体を後退させる場合、追尾対象と移動体との離間距離が過度に長くなるおそれがある。すると、制御装置において、追尾対象を追尾する応答性が悪くなるおそれがある。また、追尾する応答性が悪化した場合、制御装置が追尾対象を認識できなくなり、追尾対象の追尾を行えなくなる場合がある。
【0005】
本発明の目的は、制御装置が追尾対象の認識を行いやすい自律移動体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する自律移動体は、移動体と、前記移動体から追尾対象までの離間距離を測定するセンサと、前記追尾対象を追尾するように前記移動体の制御を行う制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記離間距離が第1所定距離よりも長くなると前記追尾対象に近付くように前記移動体を移動させる前進モードと、前記離間距離が第2所定距離よりも短くなると前記追尾対象から離れるように前記移動体を移動させる後退モードと、を切り替え可能であり、前記前進モードから前記後退モードへの切り替えは、前記第1所定距離から第1距離を減じた後退開始距離よりも前記離間距離が短くなったときに行われ、前記後退モードから前記前進モードへの切り替えは、前記第2所定距離に第2距離を加えた前進開始距離よりも前記離間距離が長くなったときに行われ、前記第2距離は、前記第1距離よりも短い距離である。
【0007】
これによれば、前進モードでは、離間距離が第1所定距離よりも長くなると移動体を移動させる制御が行われる一方で、離間距離が第1所定距離と後退開始距離との間であれば、移動体を移動させる制御が行われない。同様に、後退モードでは、離間距離が第2所定距離と前進開始距離との間であれば、移動体を移動させる制御が行われない。したがって、前進モードでの第1所定距離と後退開始距離との間、及び、後退モードでの第2所定距離と前進開始距離との間は、移動体を移動させる制御が行われない不感帯となる。第2距離が第1距離よりも短いため、後退モードの不感帯は、前進モードの不感帯よりも短くなる。前進モードの不感帯は、前進モードから後退モードへの切り替えをするために必要となる距離であり、後退モードの不感帯は、後退モードから前進モードへの切り替えをするために必要となる距離である。後退モードの不感帯を前進モードの不感帯よりも短くすることで、後退モードから前進モードへの切り替えに必要となる距離を短くすることができる。即ち、前進モードから後退モードへの切り替えに比べて、後退モードから前進モードへの切り替えが行われやすい。したがって、第2距離を第1距離と同一の距離にした場合に比べて、移動体と追尾対象との離間距離が長くなりにくく、制御装置が追尾対象の認識を行いやすい。
【0008】
上記自律移動体について、前記制御装置は、前記前進モードでは、前記離間距離が前記第1所定距離よりも長いほど移動速度が速くなるように前記移動体を制御し、前記後退モードでは、前記離間距離が前記第2所定距離よりも短いほど移動速度が速くなるように前記移動体を制御し、前記移動体の移動速度を前記離間距離に応じて速くするに際して、前記離間距離と前記第1所定距離の差と、前記離間距離と前記第2所定距離との差とが同一の場合、前記後退モードでの移動速度に比べて、前記前進モードでの移動速度のほうが速くなるように前記移動体を制御してもよい。
【0009】
これによれば、前進モードでは、後退モードの場合に比べて、移動体の移動速度が速くなりやすい。前進モードでは、後退モードの場合に比べて、車両が停止するのに必要となる移動距離が長くなるといえる。不感帯は、車両を停止させるのに必要となる移動距離によって意図せずモードが切り替わることを抑制するために設定されている。後退モードで移動体の移動速度が速くなることを抑制することで、第2距離を短くしても、不感帯の範囲内で車両が停止しやすい。
【0010】
上記自律移動体について、前記前進モードでの前記移動体の加速度は、前記後退モードでの前記移動体の加速度に比べて大きくしてもよい。
これによれば、後退モードでは、前進モードに比べて移動速度が速くなりにくく、車両が停止するのに必要となる移動距離が短くなる。したがって、第2距離を短くしても、不感帯の範囲内で車両が停止しやすい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、制御装置が追尾対象の認識を行いやすい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】自律移動体、及び、追尾対象である人を示す概略図。
図2】自律移動体、及び、駆動機構を示すブロック図。
図3】後退モード時の自律移動体を示す概略図。
図4】離間距離と速度指令値との関係を示す図。
図5】離間距離と速度指令値との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、自律移動体の一実施形態について説明する。
図1に示すように、自律移動体10は、車両20と、車両20に搭載されたセンサ31と、車両20に搭載された制御装置32と、を備える。車両20は、車体21と、複数の車輪22と、車両20を走行させるための駆動機構23と、を備える。車両20は、制御装置32に制御されることで、登録された追尾対象Tを追尾するように自律移動する移動体である。車両20は、例えば、荷を搬送する搬送台車である。
【0014】
本実施形態の車輪22は、オムニホイール、メカナムホイール、オムニボールなどの全方向移動車輪である。車輪22は、3つ以上設けられている。車輪22の回転数、及び、回転方向が制御されることで、車両20は、車体21の向きを維持した状態での全方向への移動、車体21の向きを変更しながらの移動、移動しない状態での車体21の向きの変更が可能である。なお、上記した「全方向」とは、車両20が走行する路面上や床面上での移動方向を示す。
【0015】
図2に示すように、駆動機構23は、車輪22を回転させるためのモータ24と、モータ24を駆動させるモータドライバ25と、走行制御装置26と、速度センサ29と、を備える。なお、図示は省略するが、モータ24、及び、モータドライバ25は、車輪22の数と同数設けられる。
【0016】
走行制御装置26は、CPU27と、種々の制御を行うためのプログラムなどが記憶された記憶部28と、を備える。走行制御装置26には、制御装置32からの指令が入力される。走行制御装置26は、車両20の速度を指示する指令である速度指令値や、車両20の進行方向を指示する指令である進行方向指令に基づき指令回転数を演算する。
【0017】
速度センサ29は、モータ24に搭載された回転数センサである。速度センサ29は、モータ24の回転数を検出して、検出結果をモータドライバ25に出力する。モータドライバ25は、モータ24の回転数と指令回転数とが一致するようにフィードバック制御を行う。これにより、車両20は、速度指令値に応じた速度で、進行方向指令に応じた進行方向へ移動することになる。
【0018】
次に、センサ31、及び、制御装置32について詳細に説明する。
センサ31としては、制御装置32に追尾対象Tを認識させることができ、かつ、車両20から追尾対象Tまでの離間距離Lを測定できるものが用いられる。なお、本実施形態において、車両20から追尾対象Tまでの離間距離Lとは、車体21の中心から追尾対象Tまでの距離である。
【0019】
センサ31としては、LIDAR:Laser Imaging Detection and Rangingが用いられる。LIDARは、レーザーを周辺に照射し、レーザーが当たった部分から反射された反射光を受信することで周辺環境を認識可能な距離計である。LIDARとしては、水平方向の照射角度を変更しながらレーザーを照射する二次元距離計、及び、水平方向に加えて鉛直方向の照射角度を変更しながらレーザーを照射する三次元距離計のいずれを用いてもよい。レーザーが当たった部分を測定点とすると、LIDARは測定点までの距離を照射角度に対応付けて測定する。即ち、LIDARは、車両20と測定点との相対座標を測定できる。制御装置32は、測定点の集合である点群から車両20の周辺に存在する物体の寸法などの情報を認識することができる。
【0020】
制御装置32は、CPU33と、RAM及びROM等からなる記憶部34と、を備える。記憶部34には、車両20を制御するための種々のプログラムが記憶されている。制御装置32は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェア、例えば、特定用途向け集積回路:ASICを備えていてもよい。制御装置32は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、ASIC等の1つ以上の専用のハードウェア回路、あるいは、それらの組み合わせを含む回路として構成し得る。プロセッサは、CPU、並びに、RAM及びROM等のメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ、即ち、コンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆるものを含む。
【0021】
制御装置32は、センサ31の検出結果から追尾対象Tを認識する。制御装置32には、追尾対象Tに関する情報が登録されており、この情報に適合する物体を追尾対象Tとして認識する。本実施形態の追尾対象Tは、人である。人を追尾対象Tとする場合、追尾対象Tに関する情報とは、例えば、足の幅である。追尾対象Tの登録は、人がセンサ31の正面に直立した状態で、車両20に設けられた操作部や外部機器を操作して、制御装置32を登録モードにすることで行われる。
【0022】
制御装置32は、離間距離Lに応じて走行制御装置26に各種指令を出力する。これにより、車輪22の回転数や、車輪22の回転方向が制御され、車両20は追尾対象Tを追尾することになる。制御装置32は、駆動機構23を制御することで、車両20を自律移動させているといえる。
【0023】
制御装置32は、走行用のモードとして、前進モードと、後退モードと、を備える。制御装置32は、前進モードと後退モードとを切り替え可能であり、各モードに応じた制御を行う。
【0024】
図1に示すように、前進モードとは、離間距離Lが第1所定距離よりも長くなると追尾対象Tに近づくように車両20を移動させるモードである。
図3に示すように、後退モードとは、離間距離Lが第2所定距離よりも短くなると追尾対象Tから離れるように車両20を移動させるモードである。なお、本実施形態では、第1所定距離と第2所定距離とは同一の距離である。以下、両者を所定距離と総称して説明を行う。
【0025】
所定距離は、追尾対象Tや、車体21の大きさ、車両20の種類などに基づき予め定められた距離である。所定距離は、例えば、追尾対象Tである人の足と車体21との接触を抑止することができ、かつ、センサ31による追尾対象Tの認識が阻害されない距離に設定される。更に、所定距離は、追尾対象Tである人が車体21に向けて腕を伸ばしたときに車体21に触れることが可能と想定される距離に設定される。腕の長さとしては、例えば、成人の腕の平均長よりも短い長さを用いる。上記した要素を加味した上で、所定距離は、例えば、0.6m~0.9mの間で設定される。
【0026】
図4は、制御装置32から出力される速度指令値と、離間距離Lとの関係を示している。図4において、横軸は離間距離Lであり、縦軸は速度指令値である。太線M1は前進モードにおける速度指令値と離間距離Lとの関係を示し、一点鎖線の太線M2は、後退モードにおける速度指令値と離間距離Lとの関係を示す。横軸の中心は、所定距離d0であり、縦軸の中心は速度指令値0である。速度指令値0とは、速度指令値が出力されていない状態である。横軸は、右に位置するほど離間距離Lが長く、左に位置するほど離間距離Lが短い。縦軸は、中心よりも上が前進の場合の速度指令値であり、中心よりも下が後退の場合の速度指令値である。縦軸は、中心を境として、前進と後退が分かれているが、中心から上下へのずれ量が同一であれば、速度指令値の絶対値は同一である。
【0027】
図4示すように、前進モードでは、離間距離Lが長いほど出力される速度指令値は大きな値になる。また、前進モードでは、予め定められた前進速度抑制距離d11で速度指令値が上限値となる。前進速度抑制距離d11までは、離間距離Lが長くなるのに比例して速度指令値は大きくなり、前進速度抑制距離d11よりも離間距離Lが長くなると速度指令値は上限値で一定となる。前進モードでは、離間距離Lが所定距離d0から後退開始距離d12までの範囲内の場合、制御装置32は速度指令値を出力しない。後退開始距離d12とは、所定距離d0から第1距離L1を減じた距離である。モードが前進モードの場合、所定距離d0から後退開始距離d12の範囲は速度指令値が出力されない第1不感帯A1といえる。第1不感帯A1は、車両20を移動させる制御が行われない範囲となる。
【0028】
モードが前進モードで、離間距離Lが後退開始距離d12よりも短くなると、制御装置32は、モードを前進モードから後退モードに遷移させる。後退モードでは、離間距離Lが短いほど出力される速度指令値は大きな値になる。また、後退モードでは、予め定められた後退速度抑制距離d21で速度指令値が上限値となる。後退速度抑制距離d21までは、離間距離Lが短くなるのに比例して速度指令値は大きくなり、後退速度抑制距離d21よりも離間距離Lが短くなると速度指令値は上限値で一定となる。後退モードでは、離間距離Lが所定距離d0から前進開始距離d22までの範囲内の場合、制御装置32は速度指令値を出力しない。前進開始距離d22とは、所定距離d0に第2距離L2を加えた距離である。モードが後退モードの場合、所定距離d0から前進開始距離d22の範囲は速度指令値が出力されない第2不感帯A2といえる。第2不感帯A2は、車両20を移動させる制御が行われない範囲となる。モードが後退モードで、離間距離Lが前進開始距離d22よりも長くなると、制御装置32は、モードを後退モードから前進モードに遷移させる。
【0029】
上記したように、前進モード及び後退モードでは、ともに速度指令値が上限値に達するまでは、所定距離d0と離間距離Lの差に比例して速度指令値が大きくなる。前進モードでの比例定数は、後退モードでの比例定数よりも大きい。したがって、所定距離d0から離間距離Lまでの差が同一の場合、後退モードに比べて、前進モードのほうが車両20の速度が速くなるように制御が行われることになる。車両20の移動速度を離間距離Lに応じて速くするに際して、離間距離Lと所定距離d0の差が前進モードと後退モードで同一の場合、後退モードでの移動速度に比べて、前進モードでの移動速度のほうが速くなるように制御が行われる。また、前進モードでの速度指令値の上限値は、後退モードでの速度指令値の上限値よりも高い。
【0030】
第1不感帯A1、及び、第2不感帯A2は、速度指令値が出力されなくなってから車両20が停止するまでに必要となる移動距離を考慮して定められている。仮に、両不感帯A1,A2が設定されていない場合、所定距離d0を閾として、前進モードと後退モードとが切り替わることになる。車両20が移動している状態で速度指令値が出力されなくなったとしても、車両20は慣性により移動を継続するため、前進モードと後退モードとが小刻みに切り替わりことになる。これに対し両不感帯A1,A2を設定することで、前進モードと後退モードが小刻みに切り替わることを抑制できる。本実施形態では、第2距離L2は、第1距離L1に比べて短い。したがって、第2不感帯A2は、第1不感帯A1よりも短くなっている。
【0031】
本実施形態の作用について説明する。
まず、モードの切り替えが行われない場合について説明を行う。
モードが前進モードの場合、制御装置32は、離間距離Lが長いほど速度指令値を大きくする。走行制御装置26は、速度指令値に追従するように制御を行うため、車両20の実車速は速度指令値に略一致することになる。同様に、モードが後退モードの場合も、車両20の実車速は速度指令値に略一致することになる。
【0032】
所定距離d0から離間距離Lまでの差が同一の場合、後退モードに比べて、前進モードのほうが大きい速度指令値が出力される。結果として、前進モードでは後退モードよりも加速度が大きくなる。例えば、図4に示すように、前進モード時に離間距離Lが所定距離d0よりも距離L10長いとする。このときの速度指令値は、後退モード時に離間距離Lが所定距離d0よりも距離L10短いときの速度指令値よりも大きくなる。即ち、所定距離d0からの距離差に対する速度指令値の増加量は、後退モードより前進モードの方が多く、結果的に、前進モードでは後退モードよりも加速度が大きくなる。
【0033】
次に、モードの切り替えが行われる場合について説明する。
モードが前進モードの状態で離間距離Lが後退開始距離d12より短くなると、前進モードが後退モードに遷移する。第1不感帯A1の間は、速度指令値が出力されていないため、モードの切り替えが行われない場合に比べて、出力される速度指令値が急激に上昇することになる。すると、図4に二点鎖線で示すように、モードの切り替えが行われない場合に比べて、車両20の実車速も急激に上昇することになる。即ち、モードの切り替えが行われない場合に比べて、加速度が速くなる。これは、急激に速度指令値が上昇すると、これに合わせて指令回転数と速度センサ29により検出される回転数の偏差が大きくなることに起因する。時間経過に伴い偏差は解消されていき、車両20の実速度は速度指令値に追従することになる。同様に、モードが後退モードから前進モードに切り替わる場合も、図4に二点鎖線で示すように、離間距離Lが前進開始距離d22よりも長くなると、車両20の実車速は急激に上昇する。
【0034】
本実施形態では、第2距離L2を第1距離L1よりも短くしていることで、第2不感帯A2は、第1不感帯A1よりも短い。即ち、後退モードから前進モードに切り替わるために必要となる距離が、前進モードから後退モードに切り替わるために必要となる距離に比べて短くなっている。
【0035】
本実施形態のように、センサ31により追尾対象Tを認識して、認識した追尾対象Tを追尾する自律移動体10では、追尾対象Tとセンサ31との距離が離れるほど、追尾対象Tの認識が困難になる。これは、自律移動体10とセンサ31との距離が離れるほど、自律移動体10と追尾対象Tとの間に追尾対象T以外の物体が入りやすくなること、追尾対象Tとセンサ31との距離が離れることで測定点同士の間隔が長くなることに起因する。
【0036】
本実施形態のように、第2不感帯A2を第1不感帯A1よりも短くすることで、後退モードから前進モードへの切り替えが行われやすく、第2不感帯A2と第1不感帯A1とを同一とした場合に比べて、車両20が追尾対象Tから離れにくい。
【0037】
また、追尾対象Tが人であれば、モードが後退モードの場合、人は車両20に向けて移動することになる。人は、車両20との接触を回避するため、車両20に向けて移動する場合には、車両20から離れるように移動する場合に比べて緩やかに移動する傾向にある。このため、モードが後退モードの場合、前進モードに比べて車両20の速度が緩やかになる。すると、速度指令値が出力されなくなった場合に車両20の停止に必要となる移動距離は、前進モードの場合に比べて後退モードの場合のほうが短くなる。したがって、第2不感帯A2は、第1不感帯A1よりも短くできる。
【0038】
更に、後退モードは、追尾対象Tが目的地を僅かに過ぎてしまった場合や、追尾対象Tが車両20よりも後方にある荷を取ろうとする場合に、車両20を後方へ移動させることで追尾対象Tとの接触を回避するために用いられることが多い。したがって、後退モードで車両20が移動する距離は、僅かであることが多く、後退モードでは車両20の速度が上がりにくい。
【0039】
上記したように、第1距離L1は、車両20の停止に必要となる移動距離を考慮した上で設定されている。第1距離L1としては、例えば、0.10m~0.25mの範囲で設定される。また、第2距離L2は、車両20の停止に必要となる移動距離に加えて、追尾対象Tの種類、追尾対象Tの認識しやすさ、前進モードと後退モードでの速度差・加速度差・最高速度差、などを加味して設定される。第2距離L2としては、例えば、0.05m~0.20mの範囲で設定される。
【0040】
本実施形態の効果について説明する。
(1)第2距離L2は、第1距離L1よりも短い。自律移動体10が追尾対象Tから離れにくくなることで、制御装置32が追尾対象Tの認識を行いやすい。
【0041】
(2)後退モードは、前進モードに比べて車両20の速度が速くなりにくい。このため、第2距離L2を短くしても、第2不感帯A2の範囲内で車両20が停止しやすい。
(3)後退モードでの車両20の加速度は、前進モードでの車両20の加速度よりも小さい。車両20の停止に必要となる移動距離は、前進モードに比べて後退モードのほうが短くなる。このため、第2距離L2を短くしても、第2不感帯A2の範囲内で車両20が停止しやすい。
【0042】
(4)後退モードでの速度指令値の上限値は、前進モードでの速度指令値の上限値よりも低い。後退モードの場合に車両20が到達し得る最高速度は、前進モードの場合に車両20が到達し得る最高速度に比べて低くなる。車両20の停止に必要となる移動距離は、前進モードに比べて後退モードのほうが短くなる。このため、第2距離L2を短くしても、第2不感帯A2の範囲内で車両20が停止しやすい。
【0043】
(5)制御装置32は、車両20を後退させることができる。追尾対象Tは、目的地を若干過ぎてしまった場合などに、車両20を後退させることができる。車両20が前進のみしか行えない場合、車両20を後退させるためには追尾対象Tの登録を解除した上で車両20を押す、外部機器を用いて車両20を移動させる、あるいは、追尾対象Tが車体21の向きを変更させるなど、作業効率の低下を招く。これに対し、車両20の後退を可能とすることで、作業効率の低下を抑制できる。
【0044】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
図5に示すように、第1所定距離d01と、第2所定距離d02とは、異なる距離であってもよい。図5に示す例では、第2所定距離d02は、第1所定距離d01よりも長い。
【0045】
また、図5に示すように、モードが前進モードから後退モードに切り替わった場合に、速度指令値の上限値が出力されるようにしてもよい。
○車両20の加速度は、前進モードの場合に比べて、後退モードのほうが速くてもよい。また、車両20の加速度は、前進モードと後退モードで同一にしてもよい。
【0046】
○前進モードと後退モードとで、所定距離d0と離間距離Lとの距離差に対する速度指令値の増加量が同一であってもよい。この場合、駆動機構23により、後退モードの加速度が前進モードより遅くなるようにされてもよい。
【0047】
○速度指令値は、線形に変化しなくてもよい。例えば、速度指令値は、段階的に上昇するように変化してもよい。
○離間距離Lとの距離差に応じて、出力される速度指令値は増減しなくてもよい。具体的にいえば、前進モード時に、離間距離Lが前進開始距離d22よりも長くなったときに出力される速度指令値は、一定であってもよい。同様に、後退モード時に、離間距離Lが後退開始距離d12よりも短くなったときに出力される速度指令値は、一定であってもよい。
【0048】
○第2距離L2は、車両20の停止に必要となる距離よりも短い距離に設定されていてもよい。実施形態で記載したように、第1不感帯A1及び第2不感帯A2は、慣性による車両20の移動により、意図しないモード切り替えが生じることを抑制するために設定されている。第1距離L1を実施形態の第2距離L2と同一とした場合、車両20の停止に際して前進モードから後退モードへの切り替えが意図せずに行われるおそれがある。意図せず前進モードから後退モードへの切り替えが行われると、離間距離Lが長くなり追尾対象Tを認識できなくなる原因となる。一方で、第2距離L2を第1距離L1よりも短くすることで、後退モードから前進モードへ意図せず切り替えが行われたとしても、車両20は追尾対象Tに近付くため、離間距離Lは短くなる。このため、追尾対象Tを認識しやすい。
【0049】
○車輪22は、全方向移動車輪以外の車輪、即ち、車輪22の回転軸線方向への移動を許容しない車輪であってもよい。この場合、車輪毎に個別の操舵機構を設けて、車輪毎に個別の操舵を行うことで車両20は全方向への移動が可能となる。また、車輪22として全方向移動車輪以外の車輪を用いる場合、車輪22を回転させるためのモータ24、及び、モータドライバ25は1つであってもよい。具体的にいえば、駆動輪となる車輪22と、車輪22に連結させる車軸と、モータ24の駆動力を車軸に伝達するためのギヤと、を備える構成であれば、モータ24、及び、モータドライバ25を車輪22毎に設けなくてもよい。
【0050】
○車両20としては、少なくとも前進と後退を行えるものであればよく、横方向への移動は行えないものでもよい。
○移動体は、車両20に限られず、二足歩行ロボットなどでもよい。
【0051】
○駆動機構23としては、速度指令値に追従するように車両20の速度を制御することができれば、どのような構成のものでもよい。
○追尾対象Tは、人以外であってもよい。例えば、車両20とは別の車両であってもよい。
【0052】
○センサ31として、ステレオカメラを用いてもよい。ステレオカメラは、複数のカメラによって周辺環境を撮像することで得られた視差画像から周辺環境を制御装置32に認識させる。視差画像は、同一の特徴点について複数のカメラによって撮像を行った場合に、カメラ間で生じる画素差を示すものである。特徴点は、物体のエッジなど視差が得られる部分である。制御装置32は、視差画像から対象物までの距離を測定できる。制御装置32は、特徴点の集合である点群から車両20の周辺に存在する物体の寸法などの情報を認識できる。なお、センサ31としては、電波を用いるものなどを用いることもできる。自律移動体10は、複数種類のセンサ31を備えていてもよいし、1種類のセンサ31を備えていてもよい。
【0053】
○車両20から追尾対象Tまでの離間距離Lは、車体21の中心位置から追尾対象Tまでの距離ではなくてもよい。例えば、センサ31が取り付けられる取付位置から追尾対象Tまでの距離を離間距離Lとしてもよい。この場合であっても、取付位置を基準として所定距離d0などを設定することで、実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0054】
○制御装置32は、離間距離Lが不感帯A1,A2の範囲内の場合に、車両20の移動速度が0となるような指令を出力してもよい。即ち、車両20を停止させるような指令が出力されるようにしてもよい。
【0055】
○制御装置32が、走行制御装置26の機能を備えるようにしてもよい。制御装置32がモータドライバ25に指令回転数を出力し、モータドライバ25はこの指令回転数に合わせてモータ24を駆動するようにしてもよい。
【0056】
上記実施形態及び変形例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)移動体に搭載されており、移動体から追尾対象までの離間距離を測定するセンサの検出結果に基づき、追尾対象を追尾するように移動体の制御を行う制御装置であって、離間距離が第1所定距離よりも長くなると追尾対象に近付くように移動体を移動させる前進モードと、離間距離が第2所定距離よりも短くなると追尾対象から離れるように移動体を移動させる後退モードと、を切り替え可能であり、前進モードから後退モードへの切り替えは、第1所定距離から第1距離を減じた後退開始距離よりも離間距離が短くなったときに行われ、後退モードから前進モードへの切り替えは、第2所定距離に第2距離を加えた前進開始距離よりも離間距離が長くなったときに行われ、第2距離は、第1距離よりも短い距離である。
【符号の説明】
【0057】
L…離間距離、T…追尾対象、d0…所定距離(第1所定距離、及び、第2所定距離)、L1…第1距離、L2…第2距離、d12…後退開始距離、d22…前進開始距離、10…自律移動体、20…車両、31…センサ、32…制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5